(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-27
(45)【発行日】2024-01-11
(54)【発明の名称】ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物及び成形体
(51)【国際特許分類】
C08L 67/03 20060101AFI20231228BHJP
C08L 69/00 20060101ALI20231228BHJP
C08L 27/18 20060101ALI20231228BHJP
C08L 51/04 20060101ALI20231228BHJP
C08K 3/20 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
C08L67/03
C08L69/00
C08L27/18
C08L51/04
C08K3/20
(21)【出願番号】P 2020549364
(86)(22)【出願日】2019-09-26
(86)【国際出願番号】 JP2019037906
(87)【国際公開番号】W WO2020067309
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2022-06-15
(31)【優先権主張番号】P 2018182288
(32)【優先日】2018-09-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003524
【氏名又は名称】弁理士法人愛宕綜合特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山中 康史
(72)【発明者】
【氏名】吉田 創貴
【審査官】松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】特開昭62-000543(JP,A)
【文献】特開2011-132313(JP,A)
【文献】特開2002-275366(JP,A)
【文献】国際公開第2014/109352(WO,A1)
【文献】特開2003-049085(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 - 101/16
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂及び(B)ポリカーボネート樹脂を、(A)と(B)の合計100質量部基準で、(A)を50~80質量部、(B)を20~50質量部含有し、さらに、(C)フルオロポリマー-エラストマー複合化物を、(A)と(B)の合計100質量部に対し、3~30質量部含有することを特徴とするポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項2】
(C)フルオロポリマー-エラストマー複合化物のエラストマーがアクリル系エラストマーである請求項1に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項3】
前記アクリル系エラストマーが、エポキシ基含有成分またはそれに由来する成分を含まないか、もしくは含む場合はその含有量が、(C)成分中、0~10質量%である請求項
2に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項4】
前記アクリル系エラストマーが、アクリル酸エステルとポリオルガノシロキサンのグラフト共重合体である請求項2に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項5】
さらに、難燃剤(D)を、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂と(B)ポリカーボネート樹脂の合計100質量部に対し、3~30質量部含有する請求項1~4のいずれかに記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項6】
難燃剤(D)が臭素化ポリカーボネートである請求項5に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項7】
さらに、酸化チタンを、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂と(B)ポリカーボネート樹脂の合計100質量部に対し、0.05~10質量部含有する請求項1~6のいずれかに記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなる成形体。
【請求項9】
筐体である請求項8に記載の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物及び成形体に関し、詳しくは、耐衝撃性、靱性、難燃性、流動性、表面外観性、耐加水分解性に優れたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物及びその成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリブチレンテレフタレート樹脂は、優れた耐熱性、成形性、耐薬品性及び電気絶縁性等エンジニアリングプラスチックとして好適な性質を有していることから、電気電子部品、自動車部品その他の電装部品、機械部品等に好適に使用されている。
【0003】
ポリブチレンテレフタレート樹脂は、結晶特性に優れるため、衝撃強度に代表される靭性が不十分であるという課題を有しており、この課題を解決するためにポリマーアロイの研究が従来から行われ、その難燃処方についても各種の提案がなされている。
例えば、特許文献1では、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、ハロゲン系難燃剤、難燃助剤およびエステル交換防止剤を構成成分とする難燃性ポリエステル樹脂組成物が開示され、また、特許文献2には、ポリブチレンテレフタレート樹脂、ポリカーボネート樹脂、エラストマー、難燃剤及び難燃助剤からなる難燃性ポリエステル樹脂組成物が開示されている。さらに、特許文献3には、ポリエステル樹脂、ポリスチレン系ゴム及び難燃剤からなるポリエステル樹脂組成物が開示されている。
【0004】
また、ポリブチレンテレフタレート樹脂は、高温では水や水蒸気によって加水分解が起きやすく、電気部品や電子部品、自動車部品、機械部品などの工業用材料として使用するためには、一般の化学的および物理的諸特性のバランスに加えて、優れた耐加水分解性を有することが求められている。
また、近年では、電気電子機器分野における要求物性は、益々高度化してきており、耐衝撃性、靱性、難燃性、流動性、表面外観性、耐加水分解性等に優れた材料が求められている。さらには、例えば-30℃というような低温環境下での耐衝撃性が求められるニーズも出てきている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-314664号公報
【文献】特開平6-100713号公報
【文献】特開2005-112994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題(目的)は、上記問題点を解決し、耐衝撃性、靱性、難燃性、流動性、表面外観性、耐加水分解性に優れたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物及びその成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねてきた結果、ポリブチレンテレフタレート樹脂にポリカーボネート樹脂を配合したアロイに、フルオロポリマー-エラストマー複合化物を特定量配合することにより、耐衝撃性、靱性、難燃性、流動性、表面外観性、耐加水分解性が向上することを見出し、本発明に到達した。
本発明は、以下のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物及び成形体に関する。
【0008】
[1](A)ポリブチレンテレフタレート樹脂及び(B)ポリカーボネート樹脂を、(A)と(B)の合計100質量部基準で、(A)を50~80質量部、(B)を20~50質量部含有し、さらに、(C)フルオロポリマー-エラストマー複合化物を、(A)と(B)の合計100質量部に対し、3~30質量部含有することを特徴とするポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
[2](C)フルオロポリマー-エラストマー複合化物のエラストマーがアクリル系エラストマーである上記[1]に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
[3]前記アクリル系エラストマーが、エポキシ基含有成分またはそれに由来する成分を含まないか、もしくは含む場合はその含有量が、(C)成分中、0~10質量%である上記[1]または[2]に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
[4]前記アクリル系エラストマーが、アクリル酸エステルとポリオルガノシロキサンのグラフト共重合体である上記[2]に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
[5]さらに、難燃剤(D)を、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂と(B)ポリカーボネート樹脂の合計100質量部に対し、3~30質量部含有する上記[1]~[4]のいずれかに記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
[6]難燃剤(D)が臭素化ポリカーボネートである上記[5]に記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
[7]さらに、酸化チタン(E)を、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂と(B)ポリカーボネート樹脂の合計100質量部に対し、0.05~10質量部含有する上記[1]~[6]のいずれかに記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物。
[8]上記[1]~[7]のいずれかに記載のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物からなる成形体。
[9]筐体である上記[8]に記載の成形体。
【発明の効果】
【0009】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、シャルピー衝撃値が-30℃等の極低温での衝撃値を含めて極めて高く、かつ靱性にも優れ、かつ、優れた流動性、表面外観性、耐加水分解性、難燃性を有する。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下において、本発明の内容について詳細に説明する。尚、本明細書において「~」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0011】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂及び(B)ポリカーボネート樹脂を、(A)と(B)の合計100質量部基準で、(A)を50~80質量部、(B)を20~50質量部含有し、さらに、(C)フルオロポリマー-エラストマー複合化物を、(A)と(B)の合計100質量部に対し、3~30質量部含有することを特徴とする。
【0012】
[(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂]
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂を含有する。
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂は、テレフタル酸単位及び1,4-ブタンジオール単位がエステル結合した構造を有するポリエステル樹脂であって、ポリブチレンテレフタレート樹脂(ホモポリマー)の他に、テレフタル酸単位及び1,4-ブタンジオール単位以外の、他の共重合成分を含むポリブチレンテレフタレート共重合体や、ホモポリマーと当該共重合体との混合物を含む。
【0013】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂は、テレフタル酸以外のジカルボン酸単位を含んでいてもよく、他のジカルボン酸の具体例としては、イソフタル酸、オルトフタル酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、ビフェニル-2,2’-ジカルボン酸、ビフェニル-3,3’-ジカルボン酸、ビフェニル-4,4’-ジカルボン酸、ビス(4,4’-カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸類、1,4-シクロへキサンジカルボン酸、4,4’-ジシクロヘキシルジカルボン酸等の脂環族ジカルボン酸類、および、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ダイマー酸等の脂肪族ジカルボン酸類等が挙げられる。
【0014】
ジオール単位としては、1,4-ブタンジオールの外に他のジオール単位を含んでいてもよく、他のジオール単位の具体例としては、炭素原子数2~20の脂肪族又は脂環族ジオール類、ビスフェノール誘導体類等が挙げられる。具体例としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,5-ペンタンジオール、1,6-へキサンジオール、ネオペンチルグリコール、デカメチレングリコール、シクロヘキサンジメタノール、4,4’-ジシクロヘキシルヒドロキシメタン、4,4’-ジシクロヘキシルヒドロキシプロパン、ビスフェノールAのエチレンオキシド付加ジオール等が挙げられる。また、上記のような二官能性モノマー以外に、分岐構造を導入するためトリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、ペンタエリスリトール、トリメチロールプロパン等の三官能性モノマーや分子量調節のため脂肪酸等の単官能性化合物を少量併用することもできる。
【0015】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂は、上記した通り、テレフタル酸と1,4-ブタンジオールとを重縮合させたポリブチレンテレフタレート単独重合体が好ましいが、また、カルボン酸単位として、前記のテレフタル酸以外のジカルボン酸1種以上及び/又はジオール単位として、前記1,4-ブタンジオール以外のジオール1種以上を含むポリブチレンテレフタレート共重合体であってもよく、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂が、共重合により変性したポリブチレンテレフタレート樹脂である場合、その具体的な好ましい共重合体としては、ポリアルキレングリコール類、特にはポリテトラメチレングリコールを共重合したポリエステルエーテル樹脂や、ダイマー酸共重合ポリブチレンテレフタレート樹脂、イソフタル酸共重合ポリブチレンテレフタレート樹脂が挙げられる。中でも、ポリテトラメチレングリコールを共重合したポリエステルエーテル樹脂を用いることが好ましい。
なお、これらの共重合体は、共重合量が、ポリブチレンテレフタレート樹脂全セグメント中の1モル%以上、50モル%未満のものをいう。中でも、共重合量が好ましくは2モル%以上50モル%未満、より好ましくは3~40モル%、特に好ましくは5~20モル%である。このような共重合割合とすることにより、流動性、靱性、耐トラッキング性が向上しやすい傾向にあり、好ましい。
【0016】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の固有粘度は、0.5~2dl/gであるのが好ましい。固有粘度が0.5dl/gより低いものを用いると、得られるポリブチレンテレフタレート樹脂材料が機械強度の低いものとなりやすい。また2dl/gより高いものでは、ポリブチレンテレフタレート樹脂材料の流動性が悪くなり成形性が悪化する場合がある。固有粘度は0.8dl/g以上であるものがより好ましく、また1.8dl/g以下であることが好ましい。
なお、固有粘度は、テトラクロロエタンとフェノールとの1:1(質量比)の混合溶媒中、30℃で測定するものとする。
【0017】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂は、末端カルボキシル基量は、適宜選択して決定すればよいが、通常、60eq/ton以下であり、50eq/ton以下であることが好ましく、30eq/ton以下であることがさらに好ましい。60eq/tonを超えると、耐アルカリ性及び耐加水分解性が低下し、また樹脂組成物の溶融成形時にガスが発生しやすくなる。末端カルボキシル基量の下限値は特に定めるものではないが、ポリブチレンテレフタレート樹脂の製造の生産性を考慮し、通常、10eq/tonである。
【0018】
なお、ポリブチレンテレフタレート樹脂の末端カルボキシル基量は、ベンジルアルコール25mLにポリアルキレンテレフタレート樹脂0.5gを溶解し、水酸化ナトリウムの0.01モル/lベンジルアルコール溶液を用いて滴定により測定する値である。末端カルボキシル基量を調整する方法としては、重合時の原料仕込み比、重合温度、減圧方法などの重合条件を調整する方法や、末端封鎖剤を反応させる方法等、従来公知の任意の方法により行えばよい。
【0019】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂は、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分又はこれらのエステル誘導体と、1,4-ブタンジオールを主成分とするジオール成分を、回分式又は連続式で溶融重合させて製造することができる。また、溶融重合で低分子量のポリブチレンテレクタレート樹脂を製造した後、さらに窒素気流下又は減圧下固相重合させることにより、重合度(又は分子量)を所望の値まで高めることもできる。
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂は、テレフタル酸を主成分とするジカルボン酸成分と1,4-ブタンジオールを主成分とするジオール成分とを、連続式で溶融重縮合する製造法で得られたものが好ましい。
【0020】
エステル化反応を遂行する際に使用される触媒は、従来から知られているものであってよく、例えば、チタン化合物、錫化合物、マグネシウム化合物、カルシウム化合物等を挙げることができる。これらの中で特に好適なものは、チタン化合物である。エステル化触媒としてのチタン化合物の具体例としては、例えば、テトラメチルチタネート、テトライソプロピルチタネート、テトラブチルチタネート等のチタンアルコラート、テトラフェニルチタネート等のチタンフェノラート等を挙げることができる。
【0021】
[(B)ポリカーボネート樹脂]
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂と共に(B)ポリカーボネート樹脂を含有する。
ポリカーボネート樹脂は、ジヒドロキシ化合物又はこれと少量のポリヒドロキシ化合物を、ホスゲン又は炭酸ジエステルと反応させることによって得られる、分岐していてもよい熱可塑性重合体又は共重合体である。ポリカーボネート樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、従来公知のホスゲン法(界面重合法)や溶融法(エステル交換法)により製造したものを使用することができる。
【0022】
原料のジヒドロキシ化合物は、実質的に臭素原子を含まないものであり、芳香族ジヒドロキシ化合物が好ましい。具体的には、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(即ち、ビスフェノールA)、テトラメチルビスフェノールA、ビス(4-ヒドロキシフェニル)-p-ジイソプロピルベンゼン、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4-ジヒドロキシジフェニル等が挙げられ、好ましくはビスフェノールAが挙げられる。また、上記の芳香族ジヒドロキシ化合物にスルホン酸テトラアルキルホスホニウムが1個以上結合した化合物を使用することもできる。
【0023】
ポリカーボネート樹脂としては、上述した中でも、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンから誘導される芳香族ポリカーボネート樹脂、又は、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンと他の芳香族ジヒドロキシ化合物とから誘導される芳香族ポリカーボネート共重合体が好ましい。また、シロキサン構造を有するポリマー又はオリゴマーとの共重合体等の、芳香族ポリカーボネート樹脂を主体とする共重合体であってもよい。更には、上述したポリカーボネート樹脂の2種以上を混合して用いてもよい。
【0024】
ポリカーボネート樹脂の分子量を調節するには、一価の芳香族ヒドロキシ化合物を用いればよく、例えば、m-及びp-メチルフェノール、m-及びp-プロピルフェノール、p-tert-ブチルフェノール、p-長鎖アルキル置換フェノール等が挙げられる。
【0025】
ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(Mv)は、15000以上であることが好ましく、20000以上であることがより好ましく、さらに好ましくは23000以上、特に好ましくは25000以上、特に28000を超えるものであることが最も好ましい。粘度平均分子量が20000より低いものを用いると、得られる樹脂組成物が耐衝撃性等の機械的強度の低いものとなりやすい。またMvは60000以下であることが好ましく、40000以下であることがより好ましく、35000以下であることがさらに好ましい。60000より高いものでは、樹脂組成物の流動性が悪くなり成形性が悪化する場合がある。
【0026】
なお、本発明において、ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量(Mv)は、ウベローデ粘度計を用いて、25℃にて、ポリカーボネート樹脂のメチレンクロライド溶液の粘度を測定し極限粘度([η])を求め、次のSchnellの粘度式から算出される値を示す。
[η]=1.23×10-4Mv0.83
【0027】
ポリカーボネート樹脂の製造方法は、特に限定されるものではなく、ホスゲン法(界面重合法)及び溶融法(エステル交換法)のいずれの方法で製造したポリカーボネート樹脂も使用することができる。また、溶融法で製造したポリカーボネート樹脂に、末端のOH基量を調整する後処理を施したポリカーボネート樹脂も好ましい。
【0028】
(B)ポリカーボネート樹脂の含有量は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂及び(B)ポリカーボネート樹脂の合計100質量部基準で、(B)ポリカーボネート樹脂が20~50質量部であり、好ましくは25質量部以上、より好ましくは30質量部以上であり、好ましくは50質量部未満であり、より好ましくは48質量部以下、さらに好ましくは46質量部以下、特に好ましくは45質量部以下である。上記下限値を下回ると、本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の耐衝撃性や靭性の改良効果が小さく、さらに、寸法安定性が低下する。また、上記上限値を上回ると流動性が悪くなり成形性が悪化する。
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の含有量は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂及び(B)ポリカーボネート樹脂の合計100質量部基準で、50~80質量部であり、好ましくは75質量部以下、より好ましくは70質量部以下であり、好ましくは50質量部超であり、より好ましくは52質量部以上、さらに好ましくは54質量部以上、特に好ましくは55質量部以上である。
【0029】
[(C)フルオロポリマー-エラストマー複合化物]
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、(C)フルオロポリマー-エラストマー複合化物を含有する。(B)フルオロポリマー-エラストマー複合化物は、フルオロポリマーとエラストマーを含有し、その形態としてはこれらの混合物、あるいはグラフト化物等が好ましいが、その形態に制限はない。
本発明において、(C)フルオロポリマー-エラストマー複合化物を含有することで、樹脂組成物の耐衝撃性を改良することができる。
【0030】
本発明に使用する(C)フルオロポリマー-エラストマー複合化物に用いるエラストマーは、ゴム成分にこれと共重合可能な単量体成分とをグラフト共重合したグラフト共重合体が好ましい。グラフト共重合体の製造方法としては、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、乳化重合などのいずれの製造方法であってもよく、共重合の方式は一段グラフトでも多段グラフトであってもよい。
【0031】
ゴム成分は、ガラス転移温度が通常0℃以下、中でも-20℃以下が好ましく、さらには-30℃以下が好ましい。ゴム成分の具体例としては、ポリブタジエンゴム、ポリイソプレンゴム、ポリブチルアクリレート、ポリ(2-エチルヘキシルアクリレート)、ブチルアクリレート・2-エチルヘキシルアクリレート共重合体などのポリアルキルアクリレートゴム、ポリオルガノシロキサンゴムなどのシリコーン系ゴム、ブタジエン-アクリル複合ゴム、ポリオルガノシロキサンゴムとポリアルキルアクリレートゴムとからなるIPN(Interpenetrating Polymer Network)型複合ゴム、スチレン-ブタジエンゴム、エチレン-プロピレンゴムやエチレン-ブテンゴム、エチレン-オクテンゴムなどのエチレン-α-オレフィン系ゴム、エチレン-アクリルゴム、フッ素ゴムなど挙げることができる。これらは、単独でも2種以上を混合して使用してもよい。これらの中でも、機械的特性や表面外観の面から、ポリブタジエンゴム、ポリアルキルアクリレートゴム、ポリオルガノシロキサンゴム、ポリオルガノシロキサンゴムとポリアルキルアクリレートゴムとからなるIPN型複合ゴム、スチレン-ブタジエンゴムが好ましい。
【0032】
ゴム成分とグラフト共重合可能な単量体成分の具体例としては、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物、(メタ)アクリル酸化合物、グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有(メタ)アクリル酸エステル化合物;マレイミド、N-メチルマレイミド、N-フェニルマレイミド等のマレイミド化合物;マレイン酸、フタル酸、イタコン酸等のα,β-不飽和カルボン酸化合物やそれらの無水物(例えば無水マレイン酸等)などが挙げられる。これらの単量体成分は1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。これらの中でも、機械的特性や表面外観の面から、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、(メタ)アクリル酸エステル化合物、(メタ)アクリル酸化合物が好ましく、より好ましくは(メタ)アクリル酸エステル化合物である。(メタ)アクリル酸エステル化合物の具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸オクチル等を挙げることができる。
【0033】
ゴム成分を共重合したグラフト共重合体は、耐衝撃性や表面外観の点からコア/シェル型グラフト共重合体タイプのものが好ましい。なかでもポリブタジエン含有ゴム、ポリブチルアクリレート含有ゴム、ポリオルガノシロキサンゴム、ポリオルガノシロキサンゴムとポリアルキルアクリレートゴムとからなるIPN型複合ゴムから選ばれる少なくとも1種のゴム成分をコア層とし、その周囲に(メタ)アクリル酸エステルを共重合して形成されたシェル層からなる、コア/シェル型グラフト共重合体が特に好ましい。上記コア/シェル型グラフト共重合体において、ゴム成分を40質量%以上含有するものが好ましく、60質量%以上含有するものがさらに好ましい。また、(メタ)アクリル酸は、10質量%以上含有するものが好ましい。なお、本発明におけるコア/シェル型とは必ずしもコア層とシェル層が明確に区別できるものでなくてもよく、コアとなる部分の周囲にゴム成分をグラフト重合して得られる化合物を広く含む趣旨である。
【0034】
これらコア/シェル型グラフト共重合体の好ましい具体例としては、メチルメタクリレート-ブタジエン-スチレン共重合体(MBS)、メチルメタクリレート-アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体(MABS)、メチルメタクリレート-ブタジエン共重合体(MB)、メチルメタクリレート-アクリルゴム共重合体(MA)、メチルメタクリレート-アクリルゴム-スチレン共重合体(MAS)、メチルメタクリレート-アクリル・ブタジエンゴム共重合体、メチルメタクリレート-アクリル・ブタジエンゴム-スチレン共重合体、メチルメタクリレート-(アクリル・シリコーンIPNゴム)共重合体等が挙げられる。このようなゴム性重合体は、1種を単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0035】
(B)フルオロポリマー-エラストマー複合化物のエラストマーとしては、アクリル成分を含有するエラストマーが好ましく、アクリル系ゴム性重合体にアクリル成分を共重合させたものが好ましい。これらの中でも、コア、シェルともにアクリル酸エステルであるアクリル系コア/シェル型のアクリル系エラストマーが、耐衝撃性の点から好ましい。
【0036】
コア/シェル型グラフト共重合体中のアクリル成分の含有量は、好ましくは50~95質量%、より好ましくは60~90質量%、さらに好ましくは70~85質量%ある。アクリル成分の含有量が50質量%未満であると、耐衝撃性に劣る傾向となり、95質量%を超えると、耐加水分解性が悪化する傾向となるため好ましくない。
【0037】
アクリル系エラストマーは、アクリル系エラストマーが、エポキシ基含有成分またはそれに由来する成分を含まないか、もしくは含む場合はその含有量が、(C)成分中、0~10質量%であることが好ましい。特にエポキシ基を含有しないことが好ましい。エポキシ基を含有しないことにより、ポリブチレンテレフタレート樹脂相ではなく、ポリカーボネート樹脂相にアクリル系エラストマーが選択的にポジショニングされ、ポリカーボネート樹脂相が肥大化するため衝撃強度が向上する傾向となり好ましい。また、エポキシ基を含有する際には、エポキシ基含有ビニル系単量体としては、特にグリシジルメタクリレートが好ましい。
【0038】
また、(B)フルオロポリマー-エラストマー複合化物のエラストマーとしては、アクリル酸エステルとポリオルガノシロキサンのグラフト共重合体が-30℃等の低温での耐衝撃性の点から好ましく、特にコアにブチルアクリレート等の(メタ)アルキルアクリレートからなるアクリル成分とポリオルガノシロキサンとを含有し、シェルがポリ(メタ)アルキルアクリレート等のアクリレート成分から構成されたコア/シェル型グラフト共重合体も好ましく使用することができる。
【0039】
(C)フルオロポリマー-エラストマー複合化物のフルオロポリマーとしては、フルオロオレフィン樹脂が好ましい。フルオロオレフィン樹脂は、通常フルオロエチレン構造を含む重合体あるいは共重合体であり、具体例としては、ジフルオロエチレン樹脂、テトラフルオロエチレン樹脂、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合樹脂等が挙げられるが、なかでもテトラフルオロエチレン樹脂が好ましい。
また、フルオロポリマーとしては、フィブリル形成能を有するものが好ましく、具体的には、フィブリル形成能を有するフルオロオレフィン樹脂が挙げられる。フィブリル形成能を有することで、分散が樹脂組成物中に広く浸透しやすく、耐加水分解性をより向上させることができ、耐衝撃性も向上する。
【0040】
また、フルオロポリマーとしては、有機重合体被覆フルオロオレフィン樹脂も好適に使用することができる。フルオロオレフィン樹脂を被覆する有機系重合体としては、特に制限されるものではなく、このような有機系重合体を生成するための単量体の具体例としては、スチレン等の芳香族ビニル系単量体;アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル等の(メタ)アクリル酸エステル系単量体;アクリロニトリル等のシアン化ビニル系単量体;無水マレイン酸等のα,β-不飽和カルボン酸;N-フェニルマレイミド等のマレイミド系単量体;グリシジルメタクリレート等のグリシジル基含有単量体;酢酸ビニル等のカルボン酸ビニル系単量体;エチレン、プロピレン等のオレフィン系単量体;ブタジエン等のジエン系単量体等を挙げることができる。なお、これらの単量体は、単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
【0041】
本発明に用いる(C)フルオロポリマー-エラストマー複合化物は、上記したフルオロポリマーとエラストマーとからなる。(B)フルオロポリマー-エラストマー複合化物を製造する方法としては、各種の方法が採用できるが、フルオロポリマー水性分散液と有機系重合体水性分散液(ラテックス)とを混合して、凝固またはスプレードライにより粉体化して製造する方法、あるいは、フルオロポリマー水性分散液と有機系重合体水性分散液(ラテックス)を混合した分散液中で、エチレン性不飽和結合を有する単量体を乳化重合した後、凝固またはスプレードライにより粉体化して製造する方法等が好ましく挙げられる。
【0042】
(C)フルオロポリマー-エラストマー複合化物におけるフルオロポリマーの含有割合は、0.1~90質量%であることが好ましく、より好ましくは0.1~50質量%、さらに好ましくは0.5~30質量%、特に好ましくは0.8~25質量%、最も好ましくは1.0~20質量%である。
【0043】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物における(C)フルオロポリマー-エラストマー複合化物の含有量は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂と(B)ポリカーボネート樹脂の合計100質量部に対し、3~30質量部である。含有量がこのような範囲にあることで、耐衝撃性、靱性、耐加水分解性、滞留熱安定性を優れたものとすることができる。含有量は、好ましくは5質量部以上、より好ましくは7質量部以上、さらに好ましくは9質量部以上であり、好ましくは25質量部以下、より好ましくは20質量部以下、さらに好ましくは15質量部以下である。
【0044】
[難燃剤(D)]
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、難燃剤(D)を含有することが好ましい。
難燃剤としては、既知のプラスチック用難燃剤が使用可能であり、具体的には、ハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤(ポリリン酸メラミン等)、窒素系難燃剤(シアヌル酸メラミン等)、金属水酸化物(水酸化マグネシウム等)である。
ハロゲン系難燃剤としては、臭素系難燃剤がより好ましい。
【0045】
臭素系難燃剤としては、従来公知の任意の、熱可塑性樹脂に使用される臭素系難燃剤を用いることが出来る。このような臭素系難燃性としては、芳香族系化合物が挙げられ、具体的には例えば、ペンタブロモベンジルポリアクリレート等のポリ臭素化ベンジル(メタ)アクリレート、ポリブロモフェニレンエーテル、臭素化ポリスチレン、テトラブロモビスフェノールAのエポキシオリゴマー等の臭素化エポキシ化合物、N,N’-エチレンビス(テトラブロモフタルイミド)(EBTPI)等の臭素化イミド化合物、臭素化ポリカーボネート等が挙げられる。
【0046】
中でも熱安定性の良好な点より、ペンタブロモベンジルポリアクリレート等のポリブロモ化ベンジル(メタ)アクリレート、テトラブロモビスフェノールAのエポキシオリゴマー等の臭素化エポキシ化合物、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリカーボネートが好ましく、特に臭素化ポリカーボネートが耐衝撃性、難燃性の点から好ましい。
【0047】
臭素化ポリカーボネート系難燃剤としては、具体的には例えば、臭素化ビスフェノールA、特にテトラブロモビスフェノールAから得られる、臭素化ポリカーボネートであることが好ましい。その末端構造は、フェニル基、4-t-ブチルフェニル基や2,4,6-トリブロモフェニル基等が挙げられ、特に、末端基構造に2,4,6-トリブロモフェニル基を有するものが好ましい。
【0048】
臭素化ポリカーボネート系難燃剤における、カーボネート繰り返し単位数の平均は適宜選択して決定すればよいが、通常、2~30である。カーボネート繰り返し単位数の平均が小さいと、溶融時に(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂の分子量低下を引き起こす場合がある。逆に大きすぎても(B)ポリカーボネート樹脂の溶融粘度が高くなり、成形体内の分散不良を引き起こし、成形体外観、特に光沢性が低下する場合がある。よってこの繰り返し単位数の平均は、中でも3~15、特に3~10であることが好ましい。
【0049】
臭素化ポリカーボネート系難燃剤の分子量は任意であり、適宜選択して決定すればよいが、好ましくは、粘度平均分子量で1000~20000、中でも2000~10000であることが好ましい。なお、臭素化ポリカーボネート系難燃剤の粘度平均分子量は、(B)ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量の測定と同様の方法で求めることができる。
【0050】
上記臭素化ビスフェノールAから得られる臭素化ポリカーボネート系難燃剤は、例えば、臭素化ビスフェノールとホスゲンとを反応させる通常の方法で得ることができる。末端封鎖剤としては芳香族モノヒドロキシ化合物が挙げられ、これはハロゲン又は有機基で置換されていてもよい。
【0051】
ポリ臭素化ベンジル(メタ)アクリレートとしては、臭素原子を含有するベンジル(メタ)アクリレートを単独で重合、又は2種以上を共重合、もしくは他のビニル系モノマーと共重合させることによって得られる重合体であることが好ましく、該臭素原子は、ベンゼン環に付加しており、付加数はベンゼン環1個あたり1~5個、中でも4~5個付加したものであることが好ましい。
【0052】
該臭素原子を含有するベンジルアクリレートとしては、ペンタブロムベンジルアクリレート、テトラブロムベンジルアクリレート、トリブロムベンジルアクリレート、又はそれらの混合物等が挙げられる。また、臭素原子を含有するベンジルメタクリレートとしては、上記したアクリレートに対応するメタクリレートが挙げられる。
【0053】
臭素原子を含有するベンジル(メタ)アクリレートと共重合させるために使用される他のビニル系モノマーとしては、具体的には例えば、アクリル酸、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、ベンジルアクリレートのようなアクリル酸エステル類;メタクリル酸、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ベンジルメタクリレートのようなメタクリル酸エステル類;スチレン、アクリロニトリル、フマル酸、マレイン酸のような不飽和カルボン酸又はその無水物;酢酸ビニル、塩化ビニル、等が挙げられる。
【0054】
これらは通常、臭素原子を含有するベンジル(メタ)アクリレートに対して等モル量以下、中でも0.5倍モル量以下が用いることが好ましい。
【0055】
また、ビニル系モノマーとしては、キシレンジアクリレート、キシレンジメタクリレート、テトラブロムキシレンジアクリレート、テトラブロムキシレンジメタクリレート、ブタジエン、イソプレン、ジビニルベンゼン等を使用することもでき、これらは通常、臭素原子を含有するベンジルアクリレート又はベンジルメタクリレートに対し、0.5倍モル量以下が使用できる。
【0056】
該ポリブロム化ベンジル(メタ)アクリレートとしては、ペンタブロモベンジルポリアクリレートが、高臭素含有量であること、電気絶縁特性(耐トラッキング特性)が高い観点で好ましい。
【0057】
臭素化エポキシ化合物としては、具体的には、テトラブロモビスフェノールAエポキシ化合物に代表されるビスフェノールA型ブロモ化エポキシ化合物が挙げられる。
【0058】
臭素化エポキシ化合物の分子量は任意であり、適宜選択して決定すればよいが、好ましくは、質量平均分子量(Mw)で3000~100000であり、中でも分子量が高い方が好ましく、具体的にはMwとして15000~80000、中でも18000~78000(Mw)、更には20000~75000(Mw)、特に22000~70000であることが好ましく、この範囲内に於いても分子量の高いものが好ましい。
臭素化エポキシ化合物は、そのエポキシ当量が3000~40000g/eqであることが好ましく、中でも4000~35000g/eqが好ましく、特に10000~30000g/eqであることが好ましい。
【0059】
また、臭素化エポキシ化合物系難燃剤として臭素化エポキシオリゴマーを併用することもできる。この際、例えばMwが5000以下のオリゴマーを0~50質量%程度用いることで、難燃性、離型性および流動性を適宜調整することができる。臭素化エポキシ化合物における臭素原子含有量は任意だが、十分な難燃性を付与する上で、通常10質量%以上であり、中でも20質量%以上、特に30質量%以上であることが好ましく、その上限は60質量%、中でも55質量%以下であることが好ましい。
【0060】
難燃剤の含有量は、(A)ポリブチレンテレフタレート系樹脂及び(B)ポリカーボネート樹脂の合計100質量部に対し、好ましくは3~30質量部であり、より好ましくは7質量部以上であり、さらに好ましくは10質量部以上であり、より好ましくは25質量部以下であり、さらに好ましくは20質量部以下であり、特に好ましくは20質量部以下である。難燃剤の含有量が少なすぎると本発明に用いる樹脂組成物の難燃性が不十分となり、逆に多すぎても機械的特性、離型性の低下や難燃剤のブリードアウトの問題が生ずる。
【0061】
[アンチモン化合物]
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、難燃剤助剤であるアンチモン化合物を含有することも好ましい。
アンチモン化合物としては、三酸化アンチモン(Sb2O3)、五酸化アンチモン(Sb2O5)およびアンチモン酸ナトリウムが好ましい例として挙げられる。これらの中でも、耐衝撃性の点から三酸化アンチモンが好ましい。
【0062】
アンチモン化合物は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂とのマスターバッチとして配合することが好ましい。これにより、アンチモン化合物が(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂相に存在しやすくなり、(B)ポリカーボネート樹脂に対する悪影響が抑制でき、耐衝撃性の低下が抑えられる傾向となる。
マスターバッチ中のアンチモン化合物の含有量は20~90質量%であることが好ましい。アンチモン化合物が20質量%未満の場合は、難燃剤マスターバッチ中のアンチモン化合物の割合が少なく、これを配合するポリブチレンテレフタレート樹脂への難燃性向上効果が小さい。一方、アンチモン化合物が90質量%を超える場合は、アンチモン化合物の分散性が低下しやすく、これをポリブチレンテレフタレート樹脂に配合すると樹脂組成物の難燃性が不安定になり、また難燃剤マスターバッチ製造時の作業性も著しく低下する、例えば、押出機を使用して製造する際に、ストランドが安定せず、切れやすい等の問題が発生しやすいため好ましくない。
マスターバッチ中のアンチモン化合物の含有量は、好ましくは30~85質量%であり、より好ましくは40~80質量%、さらに好ましくは50~75質量%である。
【0063】
アンチモン化合物の含有量は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂及び(B)ポリカーボネート樹脂の合計100質量部に対し、好ましくは1~15質量部であり、より好ましくは2質量部以上、さらに好ましくは2.5質量部以上であり、より好ましくは10質量部以下、さらに好ましくは7質量部以下、なかでも6質量部以下、特に好ましくは5質量部以下である。上記下限値を下回ると難燃性が低下しやすく、上記上限値を上回ると、結晶化温度が低下し離型性が悪化したり、耐衝撃性等の機械的物性が低下する。
【0064】
[顔料]
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、着色性、耐候性改良のために、さらに顔料を含有することも好ましい。顔料としては、例えば、無機顔料(カーボンブラック、例えば、アセチレンブラック、ランプブラック、サーマルブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック、ケッチェンブラック等)等の黒色顔料、酸化チタン等の白色顔料、酸化鉄赤等の赤色顔料、モリブデートオレンジ等の橙色顔料、有機顔料(黄色顔料、橙色顔料、赤色顔料、青色顔料、緑色顔料等)等が挙げられる。なかでも、着色性、耐候性の点から、カーボンブラックが好ましく、耐衝撃性、難燃性、耐加水分解性の点から酸化チタンを配合することが好ましい。
酸化チタンを含有することにより、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂の結晶化が適度に遅延し、より高い耐衝撃性を達成でき、また難燃性もより向上する。
【0065】
用いられる酸化チタンは、製造方法、結晶形態および平均粒子径などは、特に限定されるものではない。酸化チタンの製造方法には硫酸法および塩素法があるが、硫酸法で製造された酸化チタンは、これを添加した組成物の白度が劣る傾向があるため、本発明の目的を効果的に達成するには、塩素法で製造されたものが好適である。
【0066】
また、酸化チタンの結晶形態には、ルチル型とアナターゼ型があるが、耐光性の観点からルチル型の結晶形態のものが好適である。酸化チタンの平均粒子径は、0.01~3μmであることが好ましく、0.05~1μmであることがより好ましく、0.1~0.7μmであることがさらに好ましく、特に好ましくは0.1~0.4μmである。平均粒子径が0.01μm未満では樹脂組成物製造時の作業性に劣り、3μmを超える場合は、成形品表面に肌荒れを起こしたり、成形品の機械的強度が低下したりしやすい。なお、平均粒子径の異なる酸化チタンを2種類以上混合して使用してもよい。
【0067】
酸化チタンは、オルガノシロキサン系の表面処理剤で表面処理することが好ましい。
【0068】
顔料の含有量は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂及び(B)ポリカーボネート樹脂の合計100質量部に対して、好ましくは、0.05~10質量部である。0.05質量部未満であると、所望の色が得られなかったり、耐候性改良効果が十分でない場合があり、10質量部を超えると機械的物性が低下する場合がある。顔料の含有量は、より好ましくは0.05~7質量部、さらに好ましくは0.1~5質量部である。
酸化チタンの好ましい含有量は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂と(B)ポリカーボネート樹脂の合計100質量部に対し、0.05~10質量部であり、より好ましくは0.05~7質量部、さらに好ましくは0.1~5質量部である。
【0069】
[安定剤]
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、安定剤を含有することが、熱安定性改良や、機械的強度、透明性や色相の悪化を防止する効果を有するという点で好ましい。安定剤は、1種が含有されていてもよく、2種以上が任意の組み合わせ及び比率で含有されていても良い。
【0070】
安定剤の含有量は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂及び(B)ポリカーボネート樹脂の合計100質量部に対し、好ましくは0.001~2質量部である。安定剤の含有量が0.001質量部未満であると、樹脂組成物の熱安定性や相溶性の改良が期待しにくく、成形時の分子量の低下や色相悪化が起こりやすく、1質量部を超えると、過剰量となりシルバーの発生や、色相悪化が更に起こりやすくなる傾向がある。安定剤の含有量は、より好ましくは0.001~1.5質量部であり、更に好ましくは、0.005~1.0質量部である。
【0071】
安定剤としては、リン系安定剤およびフェノール系安定剤が好ましい。特に、両者を併用するのが、耐衝撃性等の機械的特性が良好となる傾向にあり好ましい。
【0072】
リン系安定剤としては、亜リン酸、リン酸、亜リン酸エステル、リン酸エステル等が挙げられ、中でも有機リン酸エステル化合物が好ましい。
【0073】
有機リン酸エステル化合物は、リン原子にアルコキシ基又はアリールオキシ基が1~3個結合した部分構造を有するものである。なお、これらのアルコキシ基やアリールオキシ基には、さらに置換基が結合していてもよい。好ましくは、下記一般式(1)~(5)のいずれかで表される有機リン酸エステル化合物を用いる。有機リン酸エステル化合物は二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0074】
【化1】
一般式(1)中、R
1~R
4は、それぞれ独立して、アルキル基又はアリール基を表す。Mはアルカリ土類金属又は亜鉛を表す。
【0075】
【化2】
一般式(2)中、R
5はアルキル基又はアリール基を表し、Mはアルカリ土類金属又は亜鉛を表す。
【0076】
【化3】
一般式(3)中、R
6~R
11は、それぞれ独立して、アルキル基又はアリール基を表す。M’は3価の金属イオンとなる金属原子を表す。
【0077】
【化4】
一般式(4)中、R
12~R
14は、それぞれ独立して、アルキル基又はアリール基を表す。M’は3価の金属イオンとなる金属原子を表し、2つのM’それぞれ同一であっても異なっていてもよい。
【0078】
【化5】
一般式(5)中、R
15はアルキル基又はアリール基を表す。nは0~2の整数を表す。なお、nが0のとき3つのR
15は同一でも異なっていてもよく、nが1のとき2つのR
15は同一でも異なっていてもよい。
【0079】
一般式(1)~(5)中、R1~R15は、通常は炭素数1~30のアルキル基又は炭素数6~30のアリール基である。滞留熱安定性、耐薬品性、耐湿熱性等の観点からは、炭素数2~25のアルキル基であるのが好ましく、更には炭素数6~23のアルキル基であるのが最も好ましい。アルキル基としては、オクチル基、2-エチルヘキシル基、イソオクチル基、ノニル基、イソノニル基、デシル基、イソデシル基、ドデシル基、トリデシル基、イソトリデシル基、テトラデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基等が挙げられる。また、一般式(1)、(2)のMは亜鉛であるのが好ましく、一般式(3)、(4)のM’はアルミニウムであるのが好ましい。
【0080】
有機リン酸エステル化合物の好ましい具体例としては一般式(1)の化合物としてはビス(ジステアリルアシッドホスフェート)亜鉛塩、一般式(2)の化合物としてはモノステアリルアシッドホスフェート亜鉛塩、一般式(3)の化合物としてはトリス(ジステアリルアッシドホスフェート)アルミニウム塩、一般式(4)の化合物としては1個のモノステアリルアッシドホスフェートと2個のモノステアリルアッシドホスフェートアルミニウム塩との塩、一般式(5)の化合物としてはモノステアリルアシッドホスフェートやジステアリルアシッドホスフェート等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、また混合物として用いてもよい。
【0081】
有機リン酸エステル化合物としては、エステル交換抑制効果が非常に高く、成形加工時の熱安定性がよく成形性に優れ、射出成形機での計量部の設定温度を高めに設定することが可能となって成形が安定すること、また耐加水分解性、耐衝撃性が優れる観点から、前記一般式(1)で表される有機リン酸エステル化合物の亜鉛塩であるビス(ジステアリルアシッドホスフェート)亜鉛塩、前記一般式(2)で表される有機リン酸エステル化合物の亜鉛塩であるモノステアリルアシッドホスフェート亜鉛塩等のステアリルアシッドホスフェートの亜鉛塩を用いるのが好ましい。これらの市販のものとしては、城北化学工業製「JP-518Zn」等がある。
【0082】
有機リン酸エステル化合物の含有量は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂及び(B)ポリカーボネート樹脂の合計100質量部に対し、好ましくは0.001~1質量部である。含有量が0.001質量部未満であると、樹脂組成物の熱安定性や相溶性の改良が期待しにくく、成形時の分子量の低下や色相悪化が起こりやすく、1質量部を超えると、過剰量となりシルバーの発生や、色相悪化が更に起こりやすくなる傾向がある。有機リン酸エステル化合物の含有量は、より好ましくは0.01~0.8質量部であり、更に好ましくは、0.05~0.7質量部、特に好ましくは0.1~0.5質量部である。
【0083】
フェノール系安定剤としては、例えば、ペンタエリスリトールテトラキス(3-(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、チオジエチレンビス(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラキス(3-(3,5-ジ-ネオペンチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)等が挙げられる。これらの中でも、ペンタエリスリト-ルテトラキス(3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート)、オクタデシル-3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネートが好ましい。
【0084】
フェノール系安定剤の含有量は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂及び(B)ポリカーボネート樹脂の合計100質量部に対し、好ましくは0.001~1質量部である。含有量が0.001質量部未満であると、樹脂組成物の熱安定性や相溶性の改良が期待しにくく、成形時の分子量の低下や色相悪化が起こりやすく、1質量部を超えると、過剰量となりシルバーの発生や、色相悪化が更に起こりやすくなる傾向がある。フェノール系安定剤の含有量は、より好ましくは0.001~0.7質量部であり、更に好ましくは、0.005~0.5質量部である。
【0085】
[離型剤]
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、離型剤を含有することが好ましい。離型剤としては、ポリエステル樹脂に通常使用される既知の離型剤が利用可能であるが、中でも、耐アルカリ性が良好な点で、ポリオレフィン系化合物、脂肪酸エステル系化合物が好ましく、特に、ポリオレフィン系化合物が好ましい。
【0086】
ポリオレフィン系化合物としては、パラフィンワックス及びポリエチレンワックスから選ばれる化合物が挙げられ、中でも、重量平均分子量が、700~10000、更には900~8000のものが好ましい。
【0087】
脂肪酸エステル系化合物としては、飽和又は不飽和の1価又は2価の脂肪族カルボン酸エステル類、グリセリン脂肪酸エステル類、ソルビタン脂肪酸エステル類等の脂肪酸エステル類やその部分鹸化物等が挙げられる。中でも、炭素数11~28、好ましくは炭素数17~21の脂肪酸とアルコールで構成されるモノ又はジ脂肪酸エステルが好ましい。
【0088】
脂肪酸としては、パルミチン酸、ステアリン酸、カプロン酸、カプリン酸、ラウリン酸、アラキン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、セロチン酸、メリシン酸、テトラリアコンタン酸、モンタン酸、アジピン酸、アゼライン酸等が挙げられる。また、脂肪酸は、脂環式であってもよい。
【0089】
アルコールとしては、飽和又は不飽和の1価又は多価アルコールを挙げることができる。これらのアルコールは、フッ素原子、アリール基などの置換基を有していてもよい。これらの中では、炭素数30以下の1価又は多価の飽和アルコールが好ましく、炭素数30以下の脂肪族飽和1価アルコール又は多価アルコールが更に好ましい。ここで脂肪族とは、脂環式化合物も含有する。
かかるアルコールの具体例としては、オクタノール、デカノール、ドデカノール、ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、2,2-ジヒドロキシペルフルオロプロパノール、ネオペンチレングリコール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0090】
なお、上記のエステル化合物は、不純物として脂肪族カルボン酸及び/又はアルコールを含有していてもよく、複数の化合物の混合物であってもよい。
【0091】
脂肪酸エステル系化合物の具体例としては、グリセリンモノステアレート、グリセリンモノベヘネート、グリセリンジベヘネート、グリセリン-12-ヒドロキシモノステアレート、ソルビタンモノベヘネート、ペンタエリスリトールモノステアレート、ペンタエリストールジステアレート、ステアリルステアレート、エチレングリコールモンタン酸エステル等が挙げられる。
【0092】
離型剤の含有量は、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂と(B)ポリカーボネート樹脂の合計100質量部に対して、好ましくは0.1~3質量部であるが、0.2~2.5質量部であることがより好ましく、更に好ましくは0.5~2質量部である。0.1質量部未満であると、溶融成形時の離型不良により表面性が低下しやすく、一方、3質量部を超えると、樹脂組成物の練り込み作業性が低下しやすく、また成形体の外観が悪化しやすい。
【0093】
[その他成分]
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物には、必要に応じて本発明の効果を阻害しない範囲内で、上記した以外の他の樹脂添加剤を含有することもできる。他の樹脂添加剤としては、強化充填材、滴下防止剤、紫外線吸収剤、耐候安定剤、滑剤、触媒失活剤、帯電防止剤、発泡剤、可塑剤、結晶核剤、結晶化促進剤等が挙げられる。
【0094】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物には、必要に応じて本発明の効果を阻害しない範囲内で、前記した必須成分の樹脂以外の、他の熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂等を含有することができる。他の熱可塑性樹脂としては、ポリアミド樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、液晶ポリエステル樹脂、アクリル系樹脂等が挙げられ、熱硬化性樹脂としては、フェノール樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。これらは、1種でも2種類以上であってもよい。
【0095】
ただし、前記した必須成分の樹脂以外の、他の樹脂を含有する場合の含有量は、ポリブチレンテレフタレート樹脂及び(B)ポリカーボネート樹脂の合計100質量部に対し、40質量部以下とすることが好ましく、より好ましくは30質量部以下、さらには20質量部以下、中でも10質量部以下、特には5質量部以下、2質量部以下とすることが最も好ましい。
【0096】
ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を製造する方法は、特定の方法に限定されるものではないが、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂、(B)ポリカーボネート樹脂及び(C)フルオロポリマー-エラストマー複合化物、並び必要に応じて配合されるその他成分を混合し、次いで溶融・混練する方法が挙げられる。
【0097】
溶融・混練方法としては、例えば、前記した必須成分、並びに、必要に応じて配合されるその他の成分をヘンシェルミキサー、リボンブレンダー、V型ブレンダー、タンブラー等により均一に混合した後、一軸又は多軸混練押出機、ロール、バンバリーミキサー、ラボプラストミル(ブラベンダー)等で溶融・混練する方法が挙げられる。要すれば、強化充填材等の他の成分を混錬押出機のサイドフィーダーより供給することもできる。溶融・混練する際の温度と混練時間は、樹脂成分を構成する成分の種類、成分の割合、溶融・混練機の種類等により選ぶことができるが、溶融・混練する際の温度は200~300℃の範囲が好ましい。300℃を超えると、各成分の熱劣化が問題となり、成形体の物性が低下したり、外観が悪化したりすることがある。
【0098】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物から、目的の成形体を製造する方法は、特に限定されるものではなく、熱可塑性樹脂について従来から採用されている成形法、すなわち射出成形法、インサート成形法、中空成形法、押出成形法、圧縮成形法等によることができ、中でも射出成形法が好ましい。
【0099】
成形体としては、電気電子部品、自動車部品その他の電装部品、機械部品、調理器具等の家電製品の部品として、例えば、電気自動車用充電器コネクター、電池キャパシタ用ホルダー、電池キャパシタ用筐体あるいは電気自動車用充電スタンド用筺体、電子電気機器部品の筐体、コネクター、リレー、スィッチ、センサー、アクチュエーター、ターミナルスイッチ、炊飯器関連部品、グリル調理機器部品等に好適に使用でき、特には電気自動車用充電器コネクター、電池キャパシタ用ホルダー、電池キャパシタ用筐体あるいは電気自動車用充電スタンド用筺体として好適に使用できる。
これら成形体の形状、大きさ、厚み等は任意である。
【実施例】
【0100】
以下、本発明を実施例及び比較例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明は以下の記載例に限定して解釈されるものではない。
実施例及び比較例で使用した原料成分は、下記の表1の通りである。
【0101】
【0102】
なお、上記表1中のエラストマー(CX1)は、以下の製造例1により製造し、フルオロポリマー-エラストマー複合化物(C1~C5)は以下の製造例2~6により製造した。
【0103】
(製造例1)アクリル系エラストマー(CX1)の製造
2-エチルヘキシルアクリレート99質量部、アリルメタクリレート1質量部を混合し、(メタ)アクリレート単量体混合物100質量部を得た。アルケニル琥珀酸ジカリウム塩を1質量部溶解した蒸留水300質量部に上記(メタ)アクリレート単量体混合物100質量部を加え、ホモミキサーにて10,000rpmで予備撹枠した後、ホモジナイザーにより300kg/cm2の圧力で乳化、分散させ、(メタ)アクリレートエマルジョンを得た。この混合液をコンデンサーおよび撹搾翼を備えたセパラブルフラスコに移し、窒素置換および混合撹梓しながら加熱し70℃になった時に少量の水に溶解した過硫酸カリウム1質量部を添加した後70℃で5時間放置し、重合を完結しアクリルゴム(A-1)のラテックス(ALx-1)を得た。
得られたアクリルゴム(A-1)のラテックス(ALx-1)の重合率は98.5%であり、平均粒子径は0.19μmであった。また、このラテックスをエタノールで凝固乾燥し固形物を得、トルエンで90℃、12時間抽出し、ゲル含量を測定したところ91.4質量%であった。
【0104】
上記アクリルゴム(A-1)のラテックス(ALx-1)を120質量部採取し撹枠機を備えたセパラブルフラスコにいれ、蒸留水205質量部を加え、窒素置換をしてから50℃に昇温し、n-ブチルアクリレート53.9質量部、アリルメタクリレート1.1質量部およびtert-ブチルヒドロペルオキシド0.22質量部の混合液を仕込み30分間撹枠し、この混合液をアクリルゴム(A-1)のラテックス(ALx-1)粒子に浸透させた。次いで、硫酸第1鉄0.002質量部、エチレンジアミン四酢酸二ナトリウム塩0.006質量部、ロンガリット0.26質量部および蒸留水5質量部の混合液を仕込みラジカル重合を開始させ、その後内温70℃で2時間保持し重合を完了してポリアルキル(メタ)アクリレート系ゴム(AB-1)のラテックス(ABLx-1)を得た。このラテックスを一部採取し、ポリアルキル(メタ)アクリレート系ゴムの平均粒子径を測定したところ0.24μmであった。また、このラテックスを乾燥し固形物を得、トルエンで90℃、12時間抽出し、ゲル含量を測定したところ97.3質量%であった。
【0105】
(GMA変性)
このポリアルキル(メタ)アクリレート系ゴムラテックスに、tert-ブチルヒドロペルオキシド0.06質量部とメチルメタクリレート12質量部、グリシジルメタクリレート(GMA)3質量部との混合液を70℃にて15分間にわたり滴下し、その後70℃で4時間保持し、ポリアルキル(メタ)アクリレート系ゴムへのグラフト重合を完了した。メチルメタクリレートの重合率は、96.4%であった。
得られたGMA変性グラフト共重合体ラテックスを酢酸カルシウム8質量%の熱水200質量部中に滴下し、凝固、分離し洗浄した後75℃で16時間乾燥し、粉末状のアクリル系エラストマー(CX1)を98.9質量部得た。
【0106】
(製造例2)フルオロポリマー-エラストマー複合化物(C1)の製造
製造例1で得られたGMA変性グラフト共重合体ラテックスに、ポリテトラフルオロエチレン水性分散液(AGC社製、「フルオンAD939E」)4.17質量部を追加して撹枠混合する以外は製造例1と同様にして、粉末状のフルオロポリマーを2.5質量%含有するGMA変性アクリル系エラストマー(フルオロポリマー-エラストマー複合化物C1)を100.9質量部得た。
【0107】
(製造例3)フルオロポリマー-エラストマー複合化物(C2)の製造
製造例1で得られたGMA変性グラフト共重合体ラテックスに、ポリテトラフルオロエチレン水性分散液(「フルオンAD939E」)2.08質量部を追加して撹枠混合する以外は製造例1と同様にして、粉末状のフルオロポリマーを1.3質量%含有するGMA変性アクリル系エラストマー(フルオロポリマー-エラストマー複合化物C2)を99.8質量部得た。
【0108】
(製造例4)フルオロポリマー-エラストマー複合化物(C3)の製造
ポリアルキル(メタ)アクリレート系ゴムラテックス(ABLx-1)に滴下する単量体成分をメチルメタクリレート15質量部にする以外は製造例2と同様にして、粉末状のフルオロポリマーを2.5質量%含有するGMA未変性アクリル系エラストマー(フルオロポリマー-エラストマー複合化物C3)を101.0質量部得た。
【0109】
(製造例5)フルオロポリマー-エラストマー複合化物(C4)の製造
Si含有量9.5質量%、数平均粒子径200nmのメタクリル酸メチル/アクリル酸ブチル/ジメチルシロキサン共重合体を100質量部含むラテックスに、ポリテトラフルオロエチレンを2.5質量部含むAGC社製ポリテトラフルオロエチレン水性分散液「フルオンAD939E」を撹拌混合し、その混合ラテックスを酢酸カルシウム8質量%の熱水200部中に滴下し、凝固、分離し洗浄した後75℃で16時間乾燥し、粉末状のフルオロポリマー-エラストマー複合化物(C4)を得た。
【0110】
(製造例6)フルオロポリマー-エラストマー複合化物(C5)の製造
Si含有量10.1質量%、数平均粒子径200nmのメタクリル酸メチル/アクリル酸ブチル/ジメチルシロキサン共重合体を100質量部含むラテックスに、ポリテトラフルオロエチレンを2.5質量部含むAGC社製ポリテトラフルオロエチレン水性分散液「フルオンAD939E」を撹拌混合し、その混合ラテックスを酢酸カルシウム8質量%の熱水200部中に滴下し、凝固、分離し洗浄した後75℃で16時間乾燥し、粉末状のフルオロポリマー-エラストマー複合化物(C5)を得た。
【0111】
〔実施例1~7及び比較例1~4〕
<ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物の製造>
表1に記載の各成分を、下記の表2に示される割合(全て質量部)にて、ブレンドし、これを30mmのベントタイプ二軸押出機(日本製鋼所社製、二軸押出機TEX30α)を使用して、バレル温度270℃にて溶融混練し、ストランドに押し出した後、ストランドカッターによりペレット化し、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物のペレットを得た。
【0112】
<測定評価方法>
実施例及び比較例における各種の物性・性能の測定評価は、以下の方法により実施した。
【0113】
(a)耐衝撃性 ノッチ付シャルピー衝撃強度(単位:kJ/m2):
得られたペレットを120℃で6時間乾燥後、日精樹脂工業社製射出成形機「NEX80-9E」を使用して、シリンダー温度250℃、金型温度80℃の条件で、シャルピー衝撃強度測定用ISO試験片を成形し、ISO179に準拠して、常温23℃と、低温-30℃でのノッチ付シャルピー衝撃強度を測定した。
【0114】
(b)燃焼性 UL94(1.5mmt):
得られたペレットを、射出成形機(日精樹脂工業社製「NEX80」)にて、シリンダー温度250℃、金型温度80℃の条件で、12.5mm×125mm×1.5mm厚みの燃焼試験片を射出成形した。
難燃性の評価を、以下のようにして行った。
アンダーライターズ・ラボラトリーズのサブジェクト94(UL94)の方法に準じ、上記で得られた燃焼試験片(厚み1.5mm)5本を用いて、燃焼性を試験し、V-0、V-1、V-2及び不適合に分類した。
【0115】
(c)流動性:
(c-1)MVR(単位:cm3/10min):
得られたポリブチレンテレフタレート樹脂組成物のペレットのMVR(メルトボリュームレート)を、JIS K7210に準拠し、温度250℃、荷重5kgfで測定した。
(c-2)ISO試験片成形ピーク圧(単位:MPa):
前記したシャルピー衝撃強度測定用にISO試験片を射出成形した際の成形ピーク圧を測定した。
【0116】
(d)表面外観評価:
日精樹脂工業社製射出成形機「NEX80-9E」を使用し、シリンダー温度250℃、金型温度80℃にて、縦100mm×横100mm×厚み3mmの平板を成形し、表面外観評価を目視で下記のとおり振り分けた。
A:良好
B:少し悪い
C:著しく悪い
【0117】
(e)耐加水分解性評価:
日精樹脂工業社製射出成形機「NEX80-9E」を使用し、シリンダー温度250℃、金型温度80℃にて、ISO試験片を作製し、ISO527に準拠し引張試験を行った。
さらに、上述のISO試験片を、温度121℃の飽和水蒸気中、圧力2atmにて、50時間、75時間湿熱処理(PCT処理)した。PCT処理前後のISO試験片につき、ISO527に準拠し引張強度・引張呼び歪みの測定を行った。
引張強度保持率(単位:%)を、以下の式から求めた。
引張強度保持率(%)=(PCT後の引張強度/PCT前の引張強度)×100
【0118】
(f)総合評価
以上の結果を基に、以下の基準により、総合評価を行った。
総合評価 A:以下の3つをすべて満たす
総合評価 B:以下の3つの内2つを満たす
総合評価 C:以下の3つの内1つを満たす、もしくはすべて満たさない
23℃時のシャルピー衝撃強度が60kJ/m2以上
-30℃時のシャルピー衝撃強度が10kJ/m2以上
PCT75時間後の強度保持率が30%以上
結果を以下の表2~3に示す。
【0119】
【0120】
【産業上の利用可能性】
【0121】
本発明のポリブチレンテレフタレート樹脂組成物は、耐衝撃性、靱性、流動性、表面外観性、耐加水分解性、難燃性に優れるので、各種の電気電子機器部品、自動車用部品、その他の電装部品、機械部品、調理器具等の家電製品用として、特に、電気自動車用充電器コネクター、電池キャパシタ用ホルダー、電池キャパシタ用筐体あるいは電気自動車用充電スタンド用筺体に、特にこれらが-30℃のような低温環境で使用される場合にも好適であり、産業上の利用性は非常に高いものがある。