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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-27
(45)【発行日】2024-01-11
(54)【発明の名称】微粒子吸着材及び微粒子除去方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 15/04 20060101AFI20231228BHJP
   B01D 15/00 20060101ALI20231228BHJP
   B01J 39/05 20170101ALI20231228BHJP
   B01J 39/20 20060101ALI20231228BHJP
   B01J 47/12 20170101ALI20231228BHJP
   B01J 47/127 20170101ALI20231228BHJP
【FI】
B01D15/04
B01D15/00 J
B01J39/05
B01J39/20
B01J47/12
B01J47/127
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2022025819
(22)【出願日】2022-02-22
(65)【公開番号】P2022186588
(43)【公開日】2022-12-15
【審査請求日】2022-03-16
【審判番号】
【審判請求日】2022-11-16
(31)【優先権主張番号】P 2021093721
(32)【優先日】2021-06-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504160781
【氏名又は名称】国立大学法人金沢大学
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(72)【発明者】
【氏名】川勝 孝博
(72)【発明者】
【氏名】藤村 侑
(72)【発明者】
【氏名】淺川 雅
(72)【発明者】
【氏名】森本 将行
【合議体】
【審判長】原 賢一
【審判官】松井 裕典
【審判官】増山 淳子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-27863(JP,A)
【文献】特開2013-61426(JP,A)
【文献】特開2003-251118(JP,A)
【文献】特開2020-157249(JP,A)
【文献】特開2013-146660(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J20/00-20/34
B01D15/00-15/42
B01D39/00-41/04
B01J39/00-49/90
C02F1/28
C02F1/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子吸着材とイソプロピルアルコールとを接触させ、イソプロピルアルコール中の粒径30nm以下のシリカ微粒子を該微粒子吸着材に吸着させてイソプロピルアルコール中から除去するイソプロピルアルコールからのシリカ微粒子の除去方法であって、
該微粒子吸着材は、吸着材表面にH型、Na型、又はK型のスルホン酸基のグラフト鎖を有する高分子材料よりなり、
該高分子材料が脂肪族炭化水素、またはフッ素もしくは塩素を含む脂肪族炭化水素である、イソプロピルアルコールからの微粒子の除去方法。
【請求項2】
前記微粒子吸着材は、膜、フィルター又は繊維の形状を有している請求項1のイソプロピルアルコールからの微粒子の除去方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は微粒子吸着材及び微粒子除去方法に係り、好適には機械部品、電子部品の製造及び洗浄工程、あるいは化学合成工程等に用いられる溶媒中の微粒子を除去する微粒子吸着材及び除去方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体製造プロセス等において使用される超純水の製造・供給システムは、サブシステムの末端に微粒子除去用のクロスフロー型の限外濾過膜(UF膜)装置を設置し、水回収率90~99%で運転することで、ナノメートルサイズの微粒子の除去を行っている。また、半導体・電子材料洗浄用の洗浄機直前に、ユースポイントポリッシャーとして、ミニサブシステムを設置し、最終段に微粒子除去用のUF膜装置を設置したり、ユースポイントにおける洗浄機内のノズル直前に微粒子除去用のUF膜を設置し、より小さいサイズの微粒子を高度に除去することも検討されている。
【0003】
溶媒中の微粒子除去については、上記超純水のように、明確な微粒子管理は設定されていない。しかし半導体構造の微細化に伴って、パターン倒壊を防ぐために、表面張力の小さな溶媒がウエハ洗浄時に用いられるようになってきており、その結果として、溶媒中の微粒子等の除去ニーズは高まってきている。
【0004】
電子部品の製造及び洗浄用途以外においても、例えば、機械部品の製造及び洗浄工程、あるいは化学合成工程においても、製品の歩留まり向上や不純物の影響の排除するために、溶媒中に含まれる不純物、特に微粒子を除去することが求められている。
【0005】
従来、半導体・電子部品製造用等の濾過フィルターとして、1級アミノ基、2級アミノ基、3級アミノ基、及び4級アンモニウム塩からなる群から選ばれる1つ以上の官能基を有するポリケトン多孔膜が提案されている(特許文献1)。
【0006】
また、超純水製造プロセスで水中の微粒子を除去する装置として、弱カチオン性官能基を有する精密濾過膜(MF膜)もしくは限外濾過膜(UF膜)を有する膜濾過手段を設けたものが提案されている(特許文献2)。
【0007】
特許文献3には、モノリス状有機多孔質イオン交換体により有機溶媒や水中から微粒子を除去する方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2014-173013号公報
【文献】特開2016-155052号公報
【文献】特開2019-195763号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来の微粒子除去は、微粒子とは逆の荷電を有する官能基で除去することが基本であった。本発明者は、非水溶媒中の微粒子の除去について、逆荷電基での除去を実施したが、除去率は低いことが認められた。
【0010】
本発明は、含水率の低い溶媒中の微粒子を十分に除去することができる微粒子吸着材及
び除去方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の微粒子吸着材は、微粒子を含む溶媒中の微粒子を吸着して除去するための微粒子吸着材であって、負の荷電基を有し、かつグラフト鎖を有する高分子材料よりなる。
【0012】
本発明の微粒子除去方法は、かかる本発明の微粒子吸着材と溶媒とを接触させ、溶媒中の微粒子を該微粒子吸着材に吸着させて溶媒中から除去する。
【0013】
本発明の一態様では、基材となる高分子材料がポリオレフィンである。このポリオレフィンは炭化水素以外の分子を有していても良い。また、前記負の荷電基がスルホン酸基である。
【0014】
本発明の一態様では、前記荷電基は、H型、Na型、又はK型である。
【0015】
本発明の一態様では、微粒子吸着材は、膜、フィルター又は繊維の形状を有している。
【0016】
本発明の一態様では、溶媒の含水率は50wt%以下である。また、溶媒はイソプロピルアルコール、もしくはイソプロピルアルコールと水との混合溶媒である。
【発明の効果】
【0017】
含水率の低い溶媒中における微粒子除去において、基材となる負の荷電基を有する高分子材料にグラフト鎖を有する高分子材料を用いることで、基材及びグラフト鎖の分子構造から生じる極性の相互作用とグラフト鎖の多点効果による除去能によって、微粒子を十分に吸着除去することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の微粒子吸着材及び微粒子除去方法は、水分含水率の低い溶媒中の微粒子を吸着して除去するためのものである。
【0019】
水分含水率の低い溶媒としては、好ましくは水分含水率が50重量%以下、特に30重量%以下である、イソプロピルアルコール、アセトン、ベンゼンなどが例示されるが、これらに限定されない。この溶媒中の微粒子としては、シリカ、金属酸化物などが例示されるが、これらに限定されない。溶媒中の微粒子濃度は、通常50ppm以下、特に1ppm以下が例示されるが、これに限定されない。
【0020】
本発明の微粒子吸着材は、負の荷電基を有するグラフト鎖と基材ポリマー(有機高分子材料)よりなる。ポリマーとしては、PVA(ポリビニルアルコール)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PE(ポリエチレン)、PVDF(ポリビニリデンフロライド)などが挙げられる。本発明ではグラフト鎖の長いものが微粒子除去には好適である。
【0021】
荷電性の官能基としては、スルホン酸基、リン酸基、ホスホン酸基、ホスフィン酸基、カルボキシル基などの1種又は2種以上が好適であり、特にスルホン酸基が好適であるが、この限りではない。これらの官能基はH型だけではなく、Na型、K型などの塩型であってもよい。基材表面の単位面積当たりの荷電性の官能基の量は2.0~3.0mmol/g-Dryなどが例示されるがこれらに限定されない。
【0022】
本発明で用いる吸着材の形状としては、多孔質の平膜、中空糸膜、粒子状の樹脂、繊維状の糸や不織布が上げられる。平膜や不織布は折り畳んでプリーツ形状にしても良く、糸は巻き回して糸巻きフィルターにしても良い。
【実施例
【0023】
[実施例1~7、比較例1~8]
<有機溶媒、微粒子及び超純水>
有機溶媒、微粒子及び超純水として以下のものを用いた。
有機溶媒:イソプロピルアルコール(関東化学社製電子工業用ELグレードIPA)
溶媒含水率:73ppm≒0.01wt%(カールフィッシャー法により測定、n=3の平均値)
微粒子:コアフロント社製sicastar(粒径30、50、100、300、1000nmシリカ微粒子)
純水:超純水(比抵抗18.2MΩ・cm以上)
【0024】
<吸着材>
吸着材として表1のものを用いた。
【0025】
【表1】
【0026】
なお、具体的には、吸着材Aのポリマーは基材にフッ素を含む脂肪族炭化水素で構成された高分子であり、グラフト鎖を有し、その荷電基はNa型のスルホン酸基である。吸着材Bのポリマーは基材にフッ素を含む脂肪族炭化水素で構成された高分子であり、グラフト鎖を有し、その荷電基はCl型の4級アンモニウム基である。吸着材Cのポリマーは、スチレンージビニルベンゼン共重合体であり、その荷電基は、Na型のスルホン酸基である。吸着材Dのポリマーは、スチレンージビニルベンゼン共重合体であり、その荷電基は、Cl型の4級アンモニウム基である。吸着材Eのポリマーは、ゲル状スチレンージビニルベンゼン共重合体であり、その荷電基は、Na型のスルホン酸基である。
【0027】
<実験方法>
上記微粒子50ppmを含む溶媒100mLを125mLポリエチレン瓶に収容し、この溶媒に吸着材600cmを浸漬させ、常温にて30分間振盪撹拌し、微粒子の吸着材への吸着操作を行った。その後、溶媒をサンプリングし、モリブデン青吸光光度法によって溶媒中のシリカ濃度を測定し、微粒子除去率を算出した。結果を表2に示す。
【0028】
【表2】
【0029】
<考察>
表2の通り、実施例1は比較例1~4に比べて、溶媒中の微粒子除去率が高いことが分かる。吸着材Aのグラフト鎖長は不明であるが、実施例2~7の結果より、30~50nmの間であると推定され、粒子径30nmの時に最も高い除去率を示している。また実施例2の粒子径50nmにおいても、比較例5よりも高い除去率を示している。実施例3~5、比較例6~8の粒子径が100nm以上では、除去率が低くなることから、除去対象粒子の粒子径は50nm以下であることが望ましい。比較例1において、グラフト鎖を有し、炭化水素を基材とするアニオン交換膜は除去能を示さなかった。このことより、本発明では、負の荷電基を有し、かつグラフト鎖を有する高分子材料を除去材とすることが重要である。
【0030】
なお、ここでの膜面積や溶媒種、微粒子濃度などの設定値は、本発明の効果を示すために実施した例であり、本発明の実施は、この方法に限らない。