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特許7411160液体を吐出する装置、ヘッド駆動制御方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-27
(45)【発行日】2024-01-11
(54)【発明の名称】液体を吐出する装置、ヘッド駆動制御方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/015 20060101AFI20231228BHJP
   B41J 2/045 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
B41J2/015 101
B41J2/045
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019230870
(22)【出願日】2019-12-20
(65)【公開番号】P2021098296
(43)【公開日】2021-07-01
【審査請求日】2022-10-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000006747
【氏名又は名称】株式会社リコー
(74)【代理人】
【識別番号】230100631
【弁護士】
【氏名又は名称】稲元 富保
(72)【発明者】
【氏名】西 七津紀
【審査官】亀田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-110730(JP,A)
【文献】特開2005-059440(JP,A)
【文献】特開2003-034025(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体を吐出する複数のノズルにそれぞれ通じる複数の圧力室と、
前記複数の圧力室に通じる共通流路と、
前記複数の圧力室にそれぞれ対応する複数の圧力発生素子と、を備える液体吐出ヘッドと、
前記共通流路の共振周期の1/N(Nは1以上の整数)だけ位相がずれた複数の駆動波形を生成出力する手段と、
異なる前記圧力発生素子に対して異なる前記駆動波形を与える手段と、を備えている
ことを特徴とする液体を吐出する装置。
【請求項2】
液体を吐出する複数のノズルにそれぞれ通じる複数の圧力室と、
前記複数の圧力室に通じる共通流路と、
前記複数の圧力室にそれぞれ対応する複数の圧力発生素子と、を備える液体吐出ヘッドと、
位相がずれた複数の駆動波形を生成出力する手段と、
少なくとも、駆動周波数が前記共通流路の共振周波数の約数であるとき、異なる前記圧力発生素子に対して異なる前記駆動波形を与える手段と、を備え
前記複数の駆動波形は、前記共通流路の共振周期の1/N(Nは1以上の整数)だけ位相がずれている
ことを特徴とする液体を吐出する装置。
【請求項3】
前記複数の駆動波形は、1/N(Nは1以上の整数)ずつ位相がずれた3つ以上の前記駆動波形を含み、
前記複数の圧力発生素子に対して、前記3つ以上の駆動波形を順次割り当てて与える
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の液体を吐出する装置。
【請求項4】
前記複数の駆動波形は、1/N(Nは1以上の整数)だけ位相がずれた2つの駆動波形であり、
前記複数の圧力発生素子に対して、前記2つの駆動波形を交互に割り当てて与える
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の液体を吐出する装置。
【請求項5】
前記複数の駆動波形は、1/N(Nは1以上の整数)だけ位相がずれた2つの駆動波形であり、
前記複数の圧力発生素子の内、前記液体を吐出させる前記ノズルに対応する2以上の前記圧力発生素子に対し、前記2つの駆動波形を交互に割り当てて与える
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の液体を吐出する装置。
【請求項6】
液体を吐出する複数のノズルにそれぞれ通じる複数の圧力室と、
前記複数の圧力室に通じる共通流路と、
前記複数の圧力室にそれぞれ対応する複数の圧力発生素子と、を備える液体吐出ヘッドを駆動制御するヘッド駆動制御方法であって、
異なる前記圧力発生素子に対して、前記共通流路の共振周期の1/N(Nは1以上の整数)だけ位相がずれた異なる駆動波形を与える
ことを特徴とするヘッド駆動制御方法。
【請求項7】
液体を吐出する複数のノズルにそれぞれ通じる複数の圧力室と、
前記複数の圧力室に通じる共通流路と、
前記複数の圧力室にそれぞれ対応する複数の圧力発生素子と、を備える液体吐出ヘッドを駆動制御するヘッド駆動制御方法であって、
少なくとも、駆動周波数が前記共通流路の共振周波数の約数であるとき、異なる前記圧力発生素子に対して位相がずれた異なる駆動波形を与え
前記位相がずれた異なる駆動波形は、前記共通流路の共振周期の1/N(Nは1以上の整数)だけ位相がずれている
ことを特徴とするヘッド駆動制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は液体を吐出する装置、ヘッド駆動制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体を吐出する複数のノズルを有する液体吐出ヘッドを駆動するとき、圧力室から共通流路に伝搬する圧力波によって共通流路で音響波共振が発生することがある。
【0003】
従来、ヘッドの共振周波数と異なる駆動周波数の駆動波形でヘッドを駆動することが知られている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-330514号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に開示の構成にあっては、ヘッドの駆動周波数が制約を受けるという課題がある。
【0006】
本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであり、駆動周波数を制約しないで吐出特性の変動を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、本発明に係る液体を吐出する装置は、
液体を吐出する複数のノズルにそれぞれ通じる複数の圧力室と、
前記複数の圧力室に通じる共通流路と、
前記複数の圧力室にそれぞれ対応する複数の圧力発生素子と、を備える液体吐出ヘッドと、
前記共通流路の共振周期の1/N(Nは1以上の整数)だけ位相がずれた複数の駆動波形を生成出力する手段と、
異なる前記圧力発生素子に対して異なる前記駆動波形を与える手段と、を備えている
構成とした。
【0008】
本発明によれば、駆動周波数を制約しないで吐出特性の変動を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の第1実施形態に係る液体を吐出する装置としての印刷装置の概略説明図である。
図2】同印刷装置の吐出ユニットの平面説明図である。
図3】ヘッドの一例のノズル配列方向と直交する方向の断面説明図である。
図4】同じくノズル配列方向に沿う断面説明図である。
図5】同印刷装置のヘッド駆動制御に係る部分のブロック説明図である。
図6】共通流路の共振周期の説明に供する説明図である。
図7】同実施形態の作用説明に供する説明図である。
図8】比較例の説明に供する説明図である。
図9】本発明の第2実施形態の説明に供する説明図である。
図10】本発明の第3実施形態の説明に供する説明図である。
図11】本発明の第4実施形態の説明に供する説明図である。
図12】本発明の第5実施形態におけるヘッドの一例のノズル面側から見た外観斜視説明図である。
図13】同じくノズル面と反対側から見た外観斜視説明図である。
図14】同じく分解斜視説明図である。
図15】同じく流路構成部材の分解斜視説明図である。
図16図15の要部拡大斜視説明図である。
図17】同じく流路部分の断面斜視説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して説明する。本発明の第1実施形態に係る液体を吐出する装置としての印刷装置について図1及び図2を参照して説明する。図1は同印刷装置の概略説明図、図2は同印刷装置の吐出ユニットの平面説明図である。
【0011】
印刷装置500は、シート材Pを搬入する搬入部510と、前処理部520と、印刷部530と、乾燥部540と、搬出部550とを備えている。印刷装置500は、搬入部510から搬入(供給)されるシート材Pに対し、前処理手段である前処理部520で必要に応じて前処理液を付与(塗布)し、印刷部530で液体を付与して所要の印刷を行い、乾燥部540でシート材Pに付着した液体を乾燥させた後、シート材Pを搬出部550に排出する。
【0012】
搬入部510は、複数のシート材Pを収容する搬入トレイ511(下段搬入トレイ511A、上段搬入トレイ511B)と、搬入トレイ511からシート材Pを1枚ずつ分離して送り出す給送装置512(512A、512B)とを備え、シート材Pを前処理部520に供給する。
【0013】
前処理部520は、例えばインクを凝集させ、裏写りを防止する作用効果を有する処理液をシート材Pの印刷面に付与する処理液付与手段である塗布部521などを備えている。
【0014】
印刷部530は、シート材Pを周面に担持して回転する担持部材(回転部材)であるドラム531と、ドラム531に担持されたシート材Pに向けて液体を吐出する液体吐出部532を備えている。
【0015】
また、印刷部530は、前処理部520から送り込まれたシート材Pを受け取ってドラム531との間でシート材Pを渡す渡し胴534と、ドラム531によって搬送されたシート材Pを受け取って反転機構部560に渡す受け渡し胴535を備えている。
【0016】
前処理部520から印刷部530へ搬送されてきたシート材Pは、渡し胴534に設けられた把持手段(シートグリッパ)によって先端が把持され、渡し胴534の回転に伴って搬送される。渡し胴534により搬送されたシート材Pは、ドラム531との対向位置でドラム531へ受け渡される。
【0017】
ドラム531の表面にも把持手段(シートグリッパ)が設けられており、シート材Pの先端が把持手段(シートグリッパ)によって把持される。ドラム531の表面には、複数の吸引穴が分散して形成され、吸引手段によってドラム531の所要の吸引穴から内側へ向かう吸い込み気流を発生させる。
【0018】
そして、渡し胴534からドラム531へ受け渡されたシート材Pは、シートグリッパによって先端が把持されるとともに、吸引手段による吸い込み気流によってドラム531上に吸着担持され、ドラム531の回転に伴って搬送される。
【0019】
液体吐出部532は、液体吐出手段である吐出ユニット533(533A~533D)を備えている。例えば、吐出ユニット533Aはシアン(C)の液体を、吐出ユニット533Bはマゼンタ(M)の液体を、吐出ユニット533Cはイエロー(Y)の液体を、吐出ユニット533Dはブラック(K)の液体を、それぞれ吐出する。また、その他、白色、金色(銀色)などの特殊な液体の吐出を行う吐出ユニットを使用することもできる。
【0020】
吐出ユニット533は、例えば、図2に示すように、複数のノズル11を配列したノズル列を複数列有する複数の液体吐出ヘッド(以下、単に「ヘッド」という。)1をベース部材103に千鳥状に配置したフルライン型ヘッドを含むヘッドモジュール100を有している。
【0021】
液体吐出部532の各吐出ユニット533は、印刷情報に応じた駆動信号によりそれぞれ吐出動作が制御される。ドラム531に担持されたシート材Pが液体吐出部532との対向領域を通過するときに、吐出ユニット533から各色の液体が吐出され、当該印刷情報に応じた画像が印刷される。
【0022】
反転機構部560は、受け渡し胴535から渡されたシート材Pに対して両面印刷をおこなうときに、スイッチバック方式で、シート材Pを反転する機構であり、反転されたシート材Pは印刷部530の搬送経路561を通じて渡し胴534よりも上流側に逆送される。
【0023】
乾燥部540は、印刷部530でシート材P上に付着した液体を乾燥させる。これにより液体中の水分等の液分が蒸発し、シート材P上に液体中に含まれる着色剤が定着し、また、シート材Pのカールが抑制される。
【0024】
搬出部550は、複数のシート材Pが積載される搬出トレイ551を備えている。乾燥部540から搬送されてくるシート材Pは、搬出トレイ551上に順次積み重ねられて保持される。
【0025】
なお、本実施形態では、シート材がカットシート材である例で説明しているが、連帳紙、ロール紙などの連続体(ウェブ)を使用する装置、壁紙などのシート材を使用する装置などにも本発明を適用することができる。
【0026】
次に、ヘッドの一例について図3及び図4を参照して説明する。図3は同ヘッドのノズル配列方向と直交する方向の断面説明図、図4は同じくノズル配列方向に沿う断面説明図である。
【0027】
本実施形態のヘッド1は、ノズル板10と、流路板20と、壁面部材としての振動板部材30とを積層接合している。そして、振動板部材30の振動領域(ダイアフラム領域、振動板)31を変位させる圧電アクチュエータ40と、ヘッド1のフレーム部材を兼ねている共通流路部材50とを備えている。
【0028】
ノズル板10は、複数のノズル11を配列したノズル列を有している。
【0029】
流路板20は、複数のノズル11に通じる複数の圧力室21、各圧力室21にそれぞれ通じる流体抵抗部を兼ねる個別供給流路22、1又は複数の個別供給流路22に通じる1又は複数の中間供給流路24を形成している。隣り合う圧力室21、21は隔壁28にて隔てられている。
【0030】
振動板部材30は、流路板20の圧力室21の壁面を形成する変位可能な複数の振動領域31を有する。ここでは、振動板部材30は2層構造(限定されない)とし、流路板20側から薄肉部を形成する第1層30aと、厚肉部を形成する第2層30bで構成されている。
【0031】
そして、薄肉部である第1層30aで圧力室21に対応する部分に変形可能な振動領域31を形成している。振動領域31内には、第2層30bで圧電アクチュエータ40と接合する厚肉部である島状の凸部31aを形成している。また、振動板部材30の圧力室間隔壁28に対応する部位に第2層30bで厚肉部である接合部38を形成している。
【0032】
そして、振動板部材30の圧力室21とは反対側に、振動板部材30の振動領域31を変形させる圧力発生素子(駆動手段、アクチュエータ手段)としての電気機械変換素子を含む圧電アクチュエータ40を配置している。
【0033】
この圧電アクチュエータ40は、ベース部材44上に接合した圧電部材41にハーフカットダイシングによって溝加工をして、ノズル配列方向において、所要数の柱状の圧電素子42と支柱部43を所定の間隔で櫛歯状に形成している。
【0034】
そして、圧電素子42は、駆動電圧を与えることで振動領域31を変位させる圧電素子である。支柱部43は、駆動電圧を与えないで圧力室21,21間の隔壁28を支える圧電素子である。
【0035】
そして、圧電素子42は、振動板部材30の振動領域31に形成した厚肉部である島状の凸部31aに接着剤で接合している。一方、支柱部43は、振動板部材30の隔壁28に対応する部位に設けた厚肉部である接合部38に接着剤で接合している。
【0036】
圧電部材41は、圧電層と内部電極とを交互に積層したものであり、内部電極がそれぞれ端面に引き出されて外部電極(端面電極)に接続され、外部電極にフレキシブル配線部材45が接続される。
【0037】
共通流路部材50は共通供給流路51を形成している。共通供給流路51は、振動板部材30に設けたフィルタ部39を介して中間供給流路24に通じている。
【0038】
このヘッド1においては、例えば圧電素子42を基準電位(中間電位)から下げることによって圧電素子42が収縮し、振動板部材30の振動領域31が引かれて圧力室21の容積が膨張することで、圧力室21内に液体が流入する。
【0039】
その後、圧電素子42に印加する電圧を上げて圧電素子42を積層方向に伸長させ、振動板部材30の振動領域31をノズル11に向かう方向に変形させて圧力室21の容積を収縮させることにより、圧力室21内の液体が加圧され、ノズル11から液体が吐出される。
【0040】
次に、ヘッドを駆動制御に係る部分について図5のブロック説明図を参照して説明する。
【0041】
画像データ処理手段401は、入力された画像データを処理して、吐出タイミングとノズル11毎の吐出/非吐出を判別して、吐出データをヘッドドライバ410の選択手段412に与える。
【0042】
駆動波形格納手段402には、互いに位相の異なる複数の駆動波形が格納されている。本実施形態では、ヘッド1の共通供給流路51の共振周期の1/N(N=1以上の整数)だけ位相がずれた2つの駆動波形A、Bが格納されている。本実施形態では、駆動波形Aと駆動波形Bとは共通供給流路51の共振周期の1/2だけ位相がずれている。
【0043】
駆動周波数判断手段403は、ヘッド1の駆動周波数が共通供給流路51の共振周波数の約数に該当するか否かを判断する。
【0044】
駆動波形選択手段404は、駆動周波数判断手段403の判断結果に応じて駆動波形格納手段402に格納されている駆動波形A、Bを読み出させる。駆動波形選択手段404は、駆動周波数判断手段403によってヘッド1の駆動周波数が共通供給流路51の共振周波数の約数に該当すると判断されたときには、駆動波形格納手段402から互いに位相が異なる駆動波形A及び駆動波形Bを出力させる。
【0045】
増幅手段405A及び増幅手段405Bは、駆動波形格納手段402から出力される駆動波形A、Bをそれぞれ増幅してヘッドドライバ410に出力する。駆動波形格納手段402と、駆動波形選択手段404と、増幅手段405A、405Bとによって、位相が異なる複数の駆動波形を生成出力する手段を構成している。
【0046】
ヘッドドライバ410は、圧電素子42に接続された2つのアナログスイッチ411A、411Bの群と、選択手段412とを備えている。
【0047】
選択手段412は、液体を吐出させるノズル11に対応するアナログスイッチ411A又は411Bを選択的にON状態にして、圧電素子42に対して駆動波形A又はBを与える。
【0048】
このとき、選択手段412は、駆動周波数判断手段403の判断結果に応じてアナログスイッチ411A又は411BをON状態にする。選択手段412は、駆動周波数判断手段403によってヘッド1の駆動周波数が共通供給流路51の共振周波数の約数に該当すると判断されたときには、液体を吐出するノズル11に対応する圧電素子42に与えられる駆動波形に、駆動波形A及び駆動波形Bが混在するようにアナログスイッチ411A又は411BをON状態にする。
【0049】
次に、本実施形態の作用について図6ないし図8を参照して説明する。図6は共通流路の共振の説明に供する説明図である。図7は本実施形態における共通供給流路の振動の説明に供する説明図、図8は比較例における共通供給流路の振動の説明に供する説明図である。
【0050】
液体吐出ヘッドの共振としては、一般的に、圧力室の共振が知られているが、共通流路の共振は、圧力室の共振と異なる共振周波数を持つ全く別の共振である。図6に示すように、吐出速度の異常が発生する駆動周波数で、観測ノズルを非吐出(非駆動)とし、観測ノズルの隣り(周り)のノズルを駆動させたときの回り込みのメニスカス振動のフーリエ変換結果を示している。
【0051】
この図6の例で使用したヘッドは、圧力室の共振周期Tc=3.1μs、すなわち、周波数は320kHzである。したがって、図6で現れる300kHzの振動は、圧力室の共振とは異なり、他の実験事実から共通流路の共振であることが分かっている。共通流路の共振周波数が300kHzである場合、駆動周波数60kHzでヘッドを駆動させると、駆動波形は高調波を含むため、60kHzの倍数である300kHzの共通流路の共振を励起する。この共通流路の共振によって励起された圧力波が圧力室に伝わると吐出速度の変動を引き起こす。
【0052】
ここで、図8に示す比較例では、図8(a)に示す1つの駆動波形Aを使用してヘッド1を駆動する。このとき、駆動周波数が共通供給流路51の共振周波数の約数であると、図8(b)及び(c)に示すように、2つの圧力室21から共通供給流路51に伝搬する振動が、図8(d)に示すように、足し合わされて大きな振幅の振動となる。この共通供給流路51内の共振で励起される大きな振動が圧力室21に伝搬することで吐出速度が変動する。
【0053】
これに対して、本実施形態では、図7(a)に示すように、共通供給流路51の共振周期Teとするとき、駆動波形Aと、駆動波形Aに対してTe/2だけ位相のずれた駆動波形Bとを使用する。そして、駆動周波数が共通供給流路51の共振周波数の約数であるときには、駆動波形Aと駆動波形Bとが混在するように異なる圧電素子42に与える。
【0054】
これにより、図7(b)及び(c)に示すように、駆動波形Aによる振動と駆動波形Bによる振動とはTe/2だけ位相がずれた逆位相となるので、図7(d)に示すように、駆動波形Aによる振動と駆動波形Bによる振動が打ち消しあって、共通供給流路51に大きな振幅の振動が励起されない。
【0055】
したがって、駆動周波数に対する制約なく吐出速度の変動などの吐出特性の変動が抑制される。
【0056】
ここで、複数のノズル11(圧電素子42)に対する駆動波形Aと駆動波形Bの割り当てについて説明する。
【0057】
本実施形態では、複数のノズル11の内の半数に駆動波形Aを、残りの半数に駆動波形Bを割り当てている。このとき、上述したように、駆動波形Aによって生じる振動と駆動波形Bによって生じる振動は互いに逆位相となるため、打ち消し合う。
【0058】
したがって、複数のノズル11、例えば、共通供給流路51につながる1列のノズル列を構成する複数のノズル11に駆動波形Aと駆動波形Bを半数ずつ混在させて駆動させることで、圧電素子42から共通供給流路51へ伝わる圧力が互いに打ち消し合う。
【0059】
これにより、共通供給流路51に入力される振動が抑制されるため、共通供給流路51の振動も小さくなり、共通供給流路51から圧力室21に伝わる振動も小さくなるため、吐出速度の変動を抑えることができる。
【0060】
また、複数のノズル11に対する駆動波形Aと駆動波形Bの割り当ては、複数のノズル11を全駆動するとき(ベタパターン)と、非吐出のノズルがあるとき(ベタパターンでないとき)とで異ならせることができる。
【0061】
例えば、ベタパターンを印刷する場合には、ノズル列内のすべてのノズル11を駆動させる(吐出させる)。そこで、ノズル列内の奇数番目のノズル11に駆動波形Aを、偶数番目のノズル11に駆動波形Bを割り当てる。
【0062】
一方、ベタパターンでないパターンを印刷する場合には、ノズル列内の複数のノズル11に液体を吐出しないノズル11が含まれる。そこで、液体を吐出するノズル11のうちの半数に駆動波形Aを、残りの半数に駆動波形Bを割り当てる。
【0063】
このように、本実施形態では、異なる圧電素子42に対して、共通供給流路51の共振周期の1/N(Nは1以上の整数)だけ位相がずれた異なる駆動波形A、Bを与えるヘッド駆動制御方法でヘッド1を駆動制御している。
【0064】
また、少なくとも、駆動周波数が共通供給流路51の共振周期の約数であるとき、異なる圧電素子42に対して位相がずれた異なる駆動波形A、Bを与えるヘッド駆動制御方法でヘッド1を駆動制御している。
【0065】
次に、本発明の第2実施形態について図9を参照して説明する。図9は同実施形態における駆動波形の一例とノズルに対する割り当ての説明に供する説明図である。
【0066】
本実施形態では、N個(Nは2つ以上の整数)の異なる駆動波形を使用する。N個の駆動波形は、互いに共通供給流路51の共振周期Teの1/Nだけ位相をずらしている。例えば、ある1つの駆動波形に対して、残り(N-1)個の駆動波形は、1/N、2/N、・・・、(N-1)/Nだけ位相をずらしている。
【0067】
そして、ヘッドの駆動周波数が共通供給流路51の共振周波数の約数に該当すると判断された場合には、複数のノズル11に対して、ある1つの駆動波形に対して1/N、2/N、・・・、(N-1)/Nだけ位相をずらした駆動波形を順番に選択して与える。
【0068】
例えば、図9に示すように、3つ(N=3)の駆動波形を使用する場合、駆動波形Aと、駆動波形Aに対して共通供給流路51の共振周期Teの1/3だけ位相のずれた駆動波形Bと、駆動波形Aに対して共通供給流路51の共振周期Teの2/3だけ位相のずれた駆動波形Cとする。
【0069】
そして、m個のノズル11の配列を例えばノズル11-1、11-2、11-3,11-4・・・11-mとするとき、ノズル11-1には駆動波形A、ノズル11-2には駆動波形B、ノズル11-3には駆動波形Cを割り当てる。以後は駆動波形A~Cの割り当てを繰り返す。
【0070】
これにより、各ノズルで生じる振動が互いに打ち消し合うため、共通流路に入力される振動を抑制することができる。
【0071】
次に、本発明の第3実施形態について図10を参照して説明する。図10は同実施形態における2つ駆動波形のノズルに対する割り当ての説明に供する説明図である。
説明する。
【0072】
本実施形態では、前記第1実施形態における2つの駆動波形Aと駆動波形Bとを、ノズル列を構成する複数のノズル11に対して所定ノズル数毎に交互に割り当てている。
【0073】
図10に示すように、m個のノズル11の配列を例えばノズル11-1、11-2、11-3,11-4・・・11-mとする。
【0074】
このとき、図10(a)に示す例では、ノズル11-1には駆動波形A、ノズル11-2には駆動波形B、ノズル11-3には駆動波形A、というように1ノズル毎に交互に割り当てている。
【0075】
また、図10(b)示す例では、ノズル11-1、11-2にはいずれも駆動波形A、ノズル11-3、11-4には駆動波形B、というように2ノズル毎に交互に割り当てている。
【0076】
これにより、各ノズルで生じる振動が互いに打ち消し合うため、共通流路に入力される振動を抑制することができる。
【0077】
次に、本発明の第4実施形態について図11を参照して説明する。図11は同実施形態における2つ駆動波形のノズルに対する割り当ての説明に供する説明図である。
【0078】
本実施形態では、前記第1実施形態における2つの駆動波形Aと駆動波形Bとを、ノズル列を構成する複数のノズル11のうちの液体を吐出するノズルに対して所定ノズル数毎に交互に割り当てている。
【0079】
図11に示すように、m個のノズル11の配列を例えばノズル11-1、11-2、11-3,11-4・・・11-mとする。また、液体を吐出するノズル11は、ノズル11-1、11-3~11-5、11-8、11-mとする。
【0080】
このとき、図11(a)に示す例では、ノズル11-1には駆動波形A、ノズル11-3には駆動波形B、ノズル11-4には駆動波形A、というように1ノズル毎に交互に割り当てている。
【0081】
また、図11(b)示す例では、ノズル11-1、11-3にはいずれも駆動波形A、ノズル11-4、11-5には駆動波形B、というように2ノズル毎に交互に割り当てている。
【0082】
これにより、非吐出のノズルが含まれる場合でも、各ノズルで生じる振動が互いに打ち消し合うため、共通流路に入力される振動をより効果的に抑制することができる。
【0083】
次に、本発明の第5実施形態について図12ないし図17も参照して説明する。図12は同実施形態で駆動制御するヘッドをノズル面側から見た外観斜視説明図、図13は同じくノズル面と反対側から見た外観斜視説明図、図14は同じく分解斜視説明図、図15は同じく流路構成部材の分解斜視説明図、図16図15の要部拡大斜視説明図、図17は同じく流路部分の断面斜視説明図である。
【0084】
ヘッド1は、ノズル板10と、流路板(個別流路部材)20と、振動板部材30と、共通流路部材50と、ダンパ部材60と、共通流路部材70と、フレーム部材80と、配線部材(フレキシブル配線基板)45などを備えている。配線部材45にはヘッドドライバ(ドライバIC)410が実装されている。
【0085】
ノズル板10には、液体を吐出する複数のノズル11を有している。複数のノズル11は、二次元状にマトリクス配置されている。
【0086】
個別流路部材20は、複数のノズル11に各々連通する複数の圧力室(個別液室)21と、複数の圧力室21に各々通じる複数の個別供給流路22と、複数の圧力室21に各々通じる複数の個別回収流路23とを形成している。1つの圧力室21及びこれに通じる個別供給流路22と個別回収流路23を併せて個別流路25と称する。
【0087】
振動板部材30は、圧力室21の変形な可能な壁面である振動領域31を形成し、振動領域31には圧電素子42が一体に設けられている。また、振動板部材30には、個別供給流路22に通じる供給側開口32と、個別回収流路23に通じる回収側開口33とが形成されている。圧電素子42は、振動領域31を変形させて圧力室21内の液体を加圧する圧力発生素子である。
【0088】
なお、個別流路部材20と振動板部材30とは、部材として別部材であることに限定さるものではない。振動板部材30は個別流路部材20の表面に成膜された材料で構成されるものを含む。
【0089】
共通流路部材50は、共通流路支流部材であり、2以上の個別供給流路22に通じる複数の共通供給流路支流52と、2以上の個別回収流路23に通じる複数の共通回収流路支流53とを交互に隣接して形成している。
【0090】
共通流路部材50には、個別供給流路22の供給側開口32と共通供給流路支流52を通じる供給口54となる貫通孔と、個別回収流路23の回収側開口33と共通回収流路支流53を通じる回収口55となる貫通孔が形成されている。
【0091】
また、共通流路部材50は、複数の共通供給流路支流52に通じる1又は複数の共通供給流路本流56の一部56aと、複数の共通回収流路支流53に通じる1又は複数の共通回収流路本流57の一部57aを形成している。
【0092】
ダンパ部材60は、共通供給流路支流52の供給口54と対面する(対向する)供給側ダンパ62と、共通回収流路支流53の回収口55と対面する(対向する)回収側ダンパ63を有している。
【0093】
ここで、共通供給流路支流52及び共通回収流路支流53は、同じ部材である共通流路部材50に交互に並べて配列された溝部を、変形可能な壁面を形成するダンパ部材60で封止することで構成している。
【0094】
共通流路部材70は、共通流路本流部材であり、複数の共通供給流路支流52に通じる共通供給流路本流56と、複数の共通回収流路支流53に通じる共通回収流路本流57を形成する。
【0095】
フレーム部材80には、通供給流路本流56の一部56bと、共通回収流路本流57の一部57bが形成されている。共通供給流路本流56の一部56bはフレーム部材80に設けた供給ポート81に通じ、共通回収流路本流57の一部57bはフレーム部材80に設けた回収ポート82に通じている。
【0096】
このヘッド1においては、液体は共通供給流路本流56から共通供給流路支流52を通り、供給口54から圧力室21へ供給され、ノズル11から液体が吐出される。ノズル11から吐出されない液体は、回収口55から共通回収流路支流53を通り、共通回収流路本流57に流れ、回収ポート82から外部の循環装置を経て供給ポート81を通じて、再度、共通供給流路本流56に供給される。
【0097】
このように、ノズル11が2次元マトリクス配置されたヘッド1を備える場合にも、共通供給流路支流52の共振周期及び共通回収流路支流53の少なくともいずれかの共振周期に基づいて前記第1ないし第4実施形態で説明したようなヘッド駆動制御を行うことができる。
【0098】
なお、上記各実施形態においては、共通流路の共振周期の1/N(Nは1以上の整数)だけ位相がずれた複数の駆動波形を生成出力し、駆動周波数が共通流路の共振周期の約数であるとき、異なる圧力発生素子に対して異なる駆動波形を与える構成としているが、これに限るものではない。
【0099】
例えば、共通流路の共振周期の1/N(Nは1以上の整数)だけ位相がずれた複数の駆動波形を生成出力し、駆動周波数が共通流路の共振周期の約数でないときを含めて、異なる圧力発生素子に対して異なる駆動波形を与える構成としても、上記実施形態の作用効果をえることができる。
【0100】
また、共通流路の共振周期の1/Nの位相のずれに限らず、位相がずれた複数の駆動波形を生成出力し、少なくとも、駆動周波数が共通流路の共振周期の約数であるとき、異なる圧力発生素子に対して異なる駆動波形を与える構成としても、上記実施形態の作用効果をえることができる。
【0101】
本願において、吐出される液体は、ヘッドから吐出可能な粘度や表面張力を有するものであればよく、特に限定されないが、常温、常圧下において、または加熱、冷却により粘度が30mPa・s以下となるものであることが好ましい。より具体的には、水や有機溶媒等の溶媒、染料や顔料等の着色剤、重合性化合物、樹脂、界面活性剤等の機能性付与材料、DNA、アミノ酸やたんぱく質、カルシウム等の生体適合材料、天然色素等の可食材料、などを含む溶液、懸濁液、エマルジョンなどであり、これらは例えば、インクジェット用インク、表面処理液、電子素子や発光素子の構成要素や電子回路レジストパターンの形成用液、3次元造形用材料液等の用途で用いることができる。
【0102】
液体を吐出するエネルギー発生源として、圧電アクチュエータ(積層型圧電素子及び薄膜型圧電素子)、発熱抵抗体などの電気熱変換素子を用いるサーマルアクチュエータ、振動板と対向電極からなる静電アクチュエータなどを使用するものが含まれる。
【0103】
また、「液体を吐出する装置」には、液体が付着可能なものに対して液体を吐出することが可能な装置だけでなく、液体を気中や液中に向けて吐出する装置も含まれる。
【0104】
この「液体を吐出する装置」は、液体が付着可能なものの給送、搬送、排紙に係わる手段、その他、前処理装置、後処理装置なども含むことができる。
【0105】
例えば、「液体を吐出する装置」として、インクを吐出させて用紙に画像を形成する装置である画像形成装置、立体造形物(三次元造形物)を造形するために、粉体を層状に形成した粉体層に造形液を吐出させる立体造形装置(三次元造形装置)がある。
【0106】
また、「液体を吐出する装置」は、吐出された液体によって文字、図形等の有意な画像が可視化されるものに限定されるものではない。例えば、それ自体意味を持たないパターン等を形成するもの、三次元像を造形するものも含まれる。
【0107】
上記「液体が付着可能なもの」とは、液体が少なくとも一時的に付着可能なものであって、付着して固着するもの、付着して浸透するものなどを意味する。具体例としては、用紙、記録紙、記録用紙、フィルム、布などの被記録媒体、電子基板、圧電素子などの電子部品、粉体層(粉末層)、臓器モデル、検査用セルなどの媒体であり、特に限定しない限り、液体が付着するすべてのものが含まれる。
【0108】
上記「液体が付着可能なもの」の材質は、紙、糸、繊維、布帛、皮革、金属、プラスチック、ガラス、木材、セラミックスなど液体が一時的でも付着可能であればよい。
【0109】
また、「液体を吐出する装置」は、液体吐出ヘッドと液体が付着可能なものとが相対的に移動する装置があるが、これに限定するものではない。具体例としては、液体吐出ヘッドを移動させるシリアル型装置、液体吐出ヘッドを移動させないライン型装置などが含まれる。
【0110】
また、「液体を吐出する装置」としては、他にも、用紙の表面を改質するなどの目的で用紙の表面に処理液を塗布するために処理液を用紙に吐出する処理液塗布装置、原材料を溶液中に分散した組成液を、ノズルを介して噴射させて原材料の微粒子を造粒する噴射造粒装置などがある。
【0111】
なお、本願の用語における、画像形成、記録、印字、印写、印刷、造形等はいずれも同義語とする。
【符号の説明】
【0112】
1 液体吐出ヘッド(ヘッド)
21 圧力室
42 圧電素子
51 共通供給流路(共通流路)
52 共通供給流路支流(共通流路)
53 共通回収流路支流(共通流路)
401 画像データ処理手段
402 駆動波形格納手段
403 駆動周波数判断手段
404 駆動波形選択手段
410 ヘッドドライバ
411A、411B アナログスイッチ
500 印刷装置
510 搬入部
520 前処理部
530 印刷部
540 乾燥部
550 搬出部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17