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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-27
(45)【発行日】2024-01-11
(54)【発明の名称】XVII型コラーゲン維持強化剤
(51)【国際特許分類】
   A61K 8/9789 20170101AFI20231228BHJP
   A61K 36/484 20060101ALI20231228BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20231228BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231228BHJP
   A61Q 19/08 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
A61K8/9789
A61K36/484
A61P17/00
A61P43/00 111
A61Q19/08
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018015358
(22)【出願日】2018-01-31
(65)【公開番号】P2019131509
(43)【公開日】2019-08-08
【審査請求日】2021-01-22
【審判番号】
【審判請求日】2022-07-11
(73)【特許権者】
【識別番号】591082421
【氏名又は名称】丸善製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【弁理士】
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【弁理士】
【氏名又は名称】村雨 圭介
(74)【代理人】
【識別番号】100201606
【弁理士】
【氏名又は名称】田岡 洋
(72)【発明者】
【氏名】川嶋 善仁
(72)【発明者】
【氏名】木曽 昭典
【合議体】
【審判長】木村 敏康
【審判官】野田 定文
【審判官】冨永 保
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-191498(JP,A)
【文献】特開2001-206835(JP,A)
【文献】特開2017-206448(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/00- 8/99
A61Q 1/00-90/00
A61K36/00-36/9068
A61P17/00-17/18
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
甘草からの抽出物を有効成分とする、XVII型コラーゲン産生促進作用および好中球エラスターゼ活性阻害作用に基づくXVII型コラーゲン維持強化剤。
【請求項2】
甘草からの抽出物を有効成分とすることを特徴とするXVII型コラーゲン産生促進剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、XVII型コラーゲン産生促進作用および好中球エラスターゼ活性阻害作用に基づくXVII型コラーゲン維持強化剤に関するものである。さらに、本発明は、XVII型コラーゲン産生促進剤および好中球エラスターゼ活性阻害剤にも関する。
【背景技術】
【0002】
皮膚は角層、表皮、基底膜及び真皮から構成されている。このうち、表皮および真皮は、表皮細胞、線維芽細胞ならびにこれらの細胞の外にあって皮膚構造を支持するコラーゲン、エラスチン、ヒアルロン酸等の細胞外マトリックスにより構成されている。一方、基底膜は、表皮と真皮との境界部に存在する細胞外マトリックスの一種であり、表皮と真皮とを繋ぎ止めるだけでなく、皮膚機能の維持に重要な役割を果たしている(非特許文献1参照)。基底膜の主要骨格は、IV型コラーゲンからなる網目構造をしている。基底膜と表皮細胞との接着にはヘミデスモソームと呼ばれる構造が寄与しており、XVII型コラーゲン、インテグリンα6β4、ラミニン332等の細胞接着分子により、基底膜と表皮細胞とが接着されている。若い皮膚においては、基底膜の働きにより表皮、真皮の相互作用が恒常性を保つことで水分保持、柔軟性、弾力性等が確保され、肌は外見的にも張りや艶があってみずみずしい状態に維持される。
【0003】
ところが、紫外線の照射、空気の著しい乾燥、過度の皮膚洗浄等、ある種の外的因子の影響があったり、加齢が進んだりすると、上記細胞接着分子は分解・変質を起こし、基底膜構造が破壊される(非特許文献2,3参照)。その結果、皮膚は保湿機能や弾力性が低下し、角質は異常剥離を始めるから、肌は張りや艶を失い、荒れ、シワ等の老化症状を呈するようになる。このように、皮膚の老化に伴う変化、即ち、シワの形成、きめの消失、弾力性の低下等には、基底膜成分の減少、基底膜の構造変化が関与しており、XVII型コラーゲンの産生を促進することにより、皮膚の老化症状を予防・改善することができると考えられる。
【0004】
また、近年、毛包幹細胞に発現するXVII型コラーゲンが毛包幹細胞の維持に必須であり、さらに毛包幹細胞が色素幹細胞を維持しており、XVII型コラーゲンが幹細胞の維持を介して白髪と脱毛を抑制すること(非特許文献4参照)、さらに加齢等でのDNA損傷応答により毛包にて好中球エラスターゼの発現が誘導され、その好中球エラスターゼによってXVII型コラーゲンが分解されると、毛包幹細胞が幹細胞性を失って表皮角化細胞へと分化してしまい、毛包が矮小化して薄毛脱毛の原因になること(非特許文献5参照)などが明らかにされ、XVII型コラーゲンと白髪、薄毛等との関係が注目されている。このような中、XVII型コラーゲンまたはその変異体を含む、脱毛抑制剤、毛髪の脱色素化抑制剤等が提案されている(特許文献1参照)。
【0005】
また、前述した外的因子の中でも、特に紫外線の照射により、好中球が真皮に浸潤することが知られている。近年、真皮への好中球の浸潤とともに好中球エラスターゼの活性が増加すること、好中球エラスターゼはマトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)であるMMP-1およびMMP-2の前駆体を切断して活性化すること等が報告された(非特許文献6参照)。また、好中球エラスターゼは基質特異性が低く、エラスチン以外にもコラーゲン等の細胞外マトリックス構成成分を分解することが知られている。
そのため、好中球エラスターゼの活性を阻害することができれば、それ自体の活性阻害に加えてMMP-1およびMMP-2の活性化も阻害することができ、これらにより、エラスチンやコラーゲン等の細胞外マトリックス構成成分の分解を抑制し、皮膚の老化症状、とりわけシワ形成を予防・改善することができると考えられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2009-161509号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Marinkovich MP et al.,J. Cell Biol.,1992年,vol.199,pp.695-703
【文献】Lavker et al.,J. Invest. Dermatol.,1979年,vol.73,pp.59‐66
【文献】Langton AK et al.,Mech. Ageing Dev.,2016年,vol.156,pp.14-6
【文献】Tanimura S et al.,Cell Stem Cell,2011年,vol.8,pp.177-87
【文献】Matsumura H et al.,Science,2016年,vol.351,aad4395
【文献】Takeuchi H et al., J Dermatol Sci. 2010年,vol.60,pp.151-8
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、安全性に優れた天然物由来成分の中から、XVII型コラーゲンの産生を促進する作用および好中球エラスターゼの活性を阻害する作用を有するものを見出し、それを有効成分とするXVII型コラーゲン維持強化剤を提供することを目的とする。さらに本発明は、当該天然物由来成分を有効成分とするXVII型コラーゲン産生促進剤および好中球エラスターゼ活性阻害剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明に係るXVII型コラーゲン維持強化剤、XVII型コラーゲン産生促進剤および好中球エラスターゼ活性阻害剤は、甘草からの抽出物を有効成分とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、甘草からの抽出物を有効成分とすることにより、作用効果に優れ、かつ安全性の高いXVII型コラーゲン維持強化剤、XVII型コラーゲン産生促進剤および好中球エラスターゼ活性阻害剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本実施形態のXVII型コラーゲン維持強化剤、XVII型コラーゲン発現促進剤および好中球エラスターゼ活性阻害剤は、甘草からの抽出物を有効成分とするものである。
【0012】
また、本実施形態において「抽出物」には、上記植物を抽出原料として得られる抽出液、当該抽出液の希釈液若しくは濃縮液、当該抽出液を乾燥して得られる乾燥物、又はこれらの粗精製物若しくは精製物のいずれもが含まれる。
【0013】
本実施形態において使用する抽出原料は、甘草(生薬名)である。
甘草は、マメ科グリチルリーザ(Glycyrrhiza)属に属する多年生草本であるカンゾウの根部および/または根茎部であり、古代より薬用又は甘味料の原料として利用され、グリチルリチンその他の有用成分を含有することが知られている。
植物としてのカンゾウには、グリチルリーザ・グラブラ(Glychyrrhiza glabra)、グリチルリーザ・インフラータ(Glychyrrhiza inflata)、グリチルリーザ・ウラレンシス(Glychyrrhiza uralensis)、グリチルリーザ・アスペラ(Glychyrrhiza aspera)、グリチルリーザ・ユーリカルパ(Glychyrrhiza eurycarpa)、グリチルリーザ・パリディフロラ(Glychyrrhiza pallidiflora)、グリチルリーザ・ユンナネンシス(Glychyrrhiza yunnanensis)、グリチルリーザ・レピドタ(Glychyrrhiza lepidota)、グリチルリーザ・エキナタ(Glychyrrhiza echinata)、グリチルリーザ・アカンソカルパ(Glychyrrhiza acanthocarpa)等、様々な種類のものがあり、これらのうち、いずれの種類のカンゾウを抽出原料として使用してもよいが、特にグリチルリーザ・グラブラ(Glychyrrhiza glabra)、グリチルリーザ・ウラレンシス(Glychyrrhiza uralensis)、及びグリチルリーザ・インフラータ(Glychyrrhiza inflata)を抽出原料として使用することが好ましい。
【0014】
上記甘草からの抽出物は、抽出原料を乾燥した後、そのまままたは粗砕機を用いて粉砕し、抽出溶媒による抽出に供することにより得ることができる。乾燥は天日で行ってもよいし、通常使用される乾燥機を用いて行ってもよい。また、ヘキサン等の非極性溶媒によって脱脂等の前処理を施してから抽出原料として使用してもよい。脱脂等の前処理を行うことにより、上記抽出原料の極性溶媒による抽出処理を効率よく行うことができる。
【0015】
抽出溶媒としては、極性溶媒を使用することが好ましく、例えば、水、親水性有機溶媒等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて、室温又は溶媒の沸点以下の温度で使用することが好ましい。
【0016】
抽出溶媒として使用し得る水としては、純水、水道水、井戸水、鉱泉水、鉱水、温泉水、湧水、淡水等のほか、これらに各種処理を施したものが含まれる。水に施す処理としては、例えば、精製、加熱、殺菌、濾過、イオン交換、浸透圧調整、緩衝化等が含まれる。したがって、本実施形態において抽出溶媒として使用し得る水には、精製水、熱水、イオン交換水、生理食塩水、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水等も含まれる。
【0017】
抽出溶媒として使用し得る親水性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の炭素数1~5の低級脂肪族アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等の低級脂肪族ケトン;1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の炭素数2~5の多価アルコール等が挙げられる。
【0018】
2種以上の極性溶媒の混合液を抽出溶媒として使用する場合、その混合比は適宜調整することができる。例えば、水と低級脂肪族アルコールとの混合液を抽出溶媒として使用する場合には、水と低級脂肪族アルコールとの混合比が9:1~1:9(容量比)であることが好ましく、7:3~2:8(容量比)であることがさらに好ましい。また、水と低級脂肪族ケトンとの混合液を使用する場合には、水と低級脂肪族ケトンとの混合比が9:1~2:8(容量比)であることが好ましく、水と多価アルコールとの混合液を使用する場合には、水と多価アルコールとの混合比が8:2~1:9(容量比)であることが好ましい。
【0019】
抽出処理は、抽出原料に含まれる可溶性成分を抽出溶媒に溶出させ得る限り特に限定はされず、常法に従って行うことができる。例えば、抽出原料の5~15倍量(質量比)の抽出溶媒に、抽出原料を浸漬し、常温または還流加熱下で可溶性成分を抽出させた後、濾過して抽出残渣を除去することにより抽出液を得ることができる。得られた抽出液から溶媒を留去するとペースト状の濃縮物が得られ、この濃縮物をさらに乾燥すると乾燥物が得られる。
【0020】
以上のようにして得られる甘草からの抽出物(以下、単に「甘草抽出物」ということがある。)は、優れたXVII型コラーゲン産生促進作用および好中球エラスターゼ活性阻害作用を有しているため、XVII型コラーゲン維持強化剤、XVII型コラーゲン産生促進剤または好中球エラスターゼ活性阻害剤の有効成分として用いることができる。本実施形態に係るXVII型コラーゲン維持強化剤、XVII型コラーゲン産生促進剤および好中球エラスターゼ活性阻害剤は、医薬品、医薬部外品、化粧品等の幅広い用途に使用することができる。
【0021】
ここで、本実施形態のXVII型コラーゲン維持強化剤は、XVII型コラーゲン発現促進作用および好中球エラスターゼ活性阻害作用の両作用に基づくものであり、甘草抽出物がこれら両作用を有することを利用している。
【0022】
本実施形態に係るXVII型コラーゲン維持強化剤、XVII型コラーゲン産生促進剤および好中球エラスターゼ活性阻害剤は、甘草抽出物のみからなるものでもよいし、甘草抽出物を製剤化したものでもよい。
【0023】
本実施形態に係るXVII型コラーゲン維持強化剤、XVII型コラーゲン産生促進剤および好中球エラスターゼ活性阻害剤は、デキストリン、シクロデキストリン等の薬学的に許容し得るキャリアーその他任意の助剤を用いて、常法に従い、粉末状、顆粒状、錠剤状、液状等の任意の剤形に製剤化することができる。この際、助剤としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯味・矯臭剤等を用いることができる。XVII型コラーゲン維持強化剤、XVII型コラーゲン産生促進剤および好中球エラスターゼ活性阻害剤は、他の組成物(例えば、皮膚化粧料等)に配合して使用することができるほか、錠剤、カプセル剤等として使用することができる。
【0024】
本実施形態に係るXVII型コラーゲン維持強化剤、XVII型コラーゲン産生促進剤および好中球エラスターゼ活性阻害剤を製剤化した場合、甘草抽出物の含有量は、特に限定されるものではなく、目的に応じて適宜設定することができる。
【0025】
なお、本実施形態に係るXVII型コラーゲン維持強化剤、XVII型コラーゲン産生促進剤および好中球エラスターゼ活性阻害剤は、必要に応じて、XVII型コラーゲン産生促進作用または好中球エラスターゼ活性阻害作用を有する他の天然抽出物等を、甘草抽出物とともに配合して有効成分として用いることができる。
【0026】
本実施形態に係るXVII型コラーゲン維持強化剤、XVII型コラーゲン産生促進剤および好中球エラスターゼ活性阻害剤の患者に対する投与方法としては、経口投与、静脈内投与等が挙げられるが、疾患の種類に応じて、その予防または治療等に好適な方法を適宜選択すればよい。また、本実施形態に係るXVII型コラーゲン維持強化剤、XVII型コラーゲン産生促進剤および好中球エラスターゼ活性阻害剤の投与量も、疾患の種類、重症度、患者の個人差、投与方法、投与期間等によって適宜増減すればよい。
【0027】
本実施形態に係るXVII型コラーゲン維持強化剤は、有効成分である甘草抽出物がXVII型コラーゲン産生促進作用および好中球エラスターゼ活性阻害作用の両作用を有するため、甘草抽出物のこれら両作用を通じて、XVII型コラーゲンの産生を促進しXVII型コラーゲンの機能を強化することができるとともに、XVII型コラーゲンの分解を抑制しXVII型コラーゲンの機能を維持することができる。これらの作用により、本実施形態のXVII型コラーゲン維持強化剤は、毛包幹細胞や色素幹細胞を維持することができ、毛髪の脱色素化(白髪)や脱毛を予防または改善することができる。
【0028】
本実施形態に係るXVII型コラーゲン産生促進剤は、有効成分である甘草抽出物が有するXVII型コラーゲン産生促進作用を通じて、XVII型コラーゲンの産生を促進することができる。これにより、基底膜構造の再構築を誘導し、シワの形成、きめの消失、弾力性の低下等の皮膚の老化症状を予防または改善することができるとともに、皮膚の損傷を治療または改善することができる。また、本実施形態に係るXVII型コラーゲン産生促進剤は、甘草抽出物のXVII型コラーゲン産生促進作用を通じて、毛包幹細胞や色素幹細胞を維持することができ、これにより毛髪の脱色素化(白髪)や脱毛を予防または改善することができる。ただし、本実施形態に係るXVII型コラーゲン産生促進剤は、これらの用途以外にも、XVII型コラーゲン産生促進作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0029】
本実施形態に係る好中球エラスターゼ活性阻害剤は、有効成分である甘草抽出物が有する好中球エラスターゼ活性阻害作用を通じて、XVII型コラーゲンの分解を抑制することができ、これにより、毛包幹細胞や色素幹細胞を維持することができ、毛髪の脱色素化(白髪)や脱毛を予防または改善することができる。また、本実施形態に係る好中球エラスターゼ活性阻害剤は、甘草抽出物の好中球エラスターゼ活性阻害作用を通じて、エラスチンやコラーゲン等の細胞外マトリックス構成成分の分解を抑制し、これにより皮膚の老化症状、とりわけシワ形成を予防または改善することができる。ただし、本実施形態に係る好中球エラスターゼ活性阻害剤は、これらの用途以外にも、好中球エラスターゼ活性阻害作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0030】
本実施形態のXVII型コラーゲン維持強化剤、XVII型コラーゲン産生促進剤および好中球エラスターゼ活性阻害剤は、優れたXVII型コラーゲン産生促進作用または好中球エラスターゼ活性阻害作用を有するため、例えば、皮膚外用剤や飲食品に配合するのに好適である。この場合に、甘草抽出物をそのまま配合してもよいし、甘草抽出物から製剤化したXVII型コラーゲン維持強化剤、XVII型コラーゲン産生促進剤または好中球エラスターゼ活性阻害剤を配合してもよい。
【0031】
ここで、皮膚外用剤としては、その区分に制限はなく、経皮的に使用される皮膚化粧料、医薬部外品、医薬品等を幅広く含むものであり、具体的には、例えば、軟膏、クリーム、乳液、化粧水、美容液、ローション、ジェル、美容オイル、パック、ファンデーション、リップクリーム、入浴剤、ヘアートニック、ヘアーローション、石鹸、ボディシャンプー等が挙げられる。
【0032】
飲食品とは、人の健康に危害を加えるおそれが少なく、通常の社会生活において、経口又は消化管投与により摂取されるものをいい、行政区分上の食品、医薬品、医薬部外品等の区分に制限されるものではない。したがって、本実施形態における「飲食品」は、経口的に摂取される一般食品、健康食品(機能性飲食品)、保健機能食品(特定保健用食品,栄養機能食品)、医薬部外品、医薬品等を幅広く含むものである。本実施形態に係る飲食品は、当該飲食品またはその包装に、甘草抽出物が有する好ましい作用を表示することのできる飲食品であることが好ましく、保健機能食品(特定保健用食品,機能性表示食品,栄養機能食品)、医薬部外品および医薬品であることが特に好ましい。
【0033】
また、本実施形態に係るXVII型コラーゲン維持強化剤、XVII型コラーゲン産生促進剤および好中球エラスターゼ活性阻害剤は、優れたXVII型コラーゲン産生促進作用および好中球エラスターゼ活性阻害作用を有するので、これらの作用機構に関する研究のための試薬としても好適に利用することができる。
【0034】
なお、本実施形態に係るXVII型コラーゲン維持強化剤、XVII型コラーゲン産生促進剤および好中球エラスターゼ活性阻害剤は、ヒトに対して好適に適用されるものであるが、それぞれの作用効果が奏される限り、ヒト以外の動物(例えば,マウス,ラット,イヌ,ネコ,ウシ,ブタ,サル等)に対して適用することもできる。
【実施例
【0035】
以下、試験例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の各例に何ら制限されるものではない。なお、本試験例においては、甘草抽出物としてカンゾウ抽出末(丸善製薬社製,試料1)を使用した。
【0036】
〔試験例1〕XVII型コラーゲン産生促進作用試験
甘草抽出物(試料1)について、以下のようにしてXVII型コラーゲン産生促進作用を試験した。
【0037】
正常ヒト新生児表皮角化細胞(NHEK)を、正常ヒト表皮角化細胞用増殖培地(KGM)を用いて培養した後、トリプシン処理により細胞を回収した。回収した細胞を2×105 cells/mLの細胞密度になるように、KGMで希釈した後、96ウェルプレートに1ウェル当たり100μLずつ播種し、6時間培養した。培養終了後、培地を除去し、正常ヒト表皮角化細胞増殖用基礎培地(Humedia-KB2,以下「KBM」と記載,上記KGMに増殖因子(hEGF,BPE,インスリン)を添加していないもの)を各ウェルに100μL添加し、一晩培養した。
【0038】
培養終了後、KBMで溶解した被験試料(試料1,試料濃度は下記表1を参照)を各ウェルに100μL添加し、48時間培養した。なお、コントロールとして、試料無添加のKBMを用いて同様に培養した。培養終了後、培地を除去し、細胞をプレートに固定させ、細胞表面に発現したXVII型コラーゲンの量を、抗ヒトXVII型コラーゲンα1鎖ポリクローナル抗体(FLAREBIO BIOTECH社製)を用いたELISA法により測定した。測定結果から、下記式によりXVII型コラーゲン産生促進率(%)を算出した。
【0039】
XVII型コラーゲン産生促進率(%)=A/B×100
式中の各項はそれぞれ以下を表す。
A:被験試料添加でのXVII型コラーゲン量
B:試料無添加でのXVII型コラーゲン量
結果を表1に示す。
【0040】
【表1】
【0041】
表1に示すように、甘草抽出物(試料1)は、優れたXVII型コラーゲン産生促進作用を有することが確認された。
【0042】
〔試験例2〕ヒト好中球エラスターゼ活性阻害作用試験
甘草抽出物(試料1)について、以下のようにしてヒト好中球エラスターゼ活性阻害作用を試験した。
【0043】
96ウェルプレートにて、0.1mol/L HEPES緩衝液(pH7.5)にて調製した被験試料(試料1,試料濃度は下記表2を参照)50μLと、6μg/mL ヒト好中球エラスターゼ(ELASTIN PRODUCTS社製)溶液25μLとを混合した。その後、上記緩衝液にて2mmol/Lとなるよう調製した基質(SIGMA社製,N-methoxysuccinyl-Ala-Ala-Pro-Val-p-nitroanilide)の溶液25μLを添加し、25℃にて15分間反応させた。反応終了後、波長415nmにおける吸光度を測定した。また、同様にして酵素無添加の空試験を行い補正した。得られた結果から、下記式によりヒト好中球エラスターゼ活性阻害率(%)を算出した。
【0044】
ヒト好中球エラスターゼ活性阻害率(%)={1-(C-D)/(A-B)}×100
式中の各項はそれぞれ以下を表す。
A:試料無添加・酵素添加での波長415nmにおける吸光度
B:試料無添加・酵素無添加での波長415nmにおける吸光度
C:被験試料添加・酵素添加での波長415nmにおける吸光度
D:被験試料添加・酵素無添加での波長415nmにおける吸光度
結果を表2に示す。
【0045】
【表2】
【0046】
表2に示すように、甘草抽出物(試料1)は、優れたヒト好中球エラスターゼ活性阻害作用を有していると認められた。また、ヒト好中球エラスターゼ活性阻害作用の程度は、甘草抽出物の濃度によって調節できることが確認された。
【0047】
以上の試験例1および試験例2の結果より、甘草抽出物(試料1)は、XVII型コラーゲンの産生を促進できるとともにその分解を抑制することができ、2つのアプローチからXVII型コラーゲンの機能を維持しかつ強化できることが確認された。
前述したとおり、毛包の矮小化には好中球エラスターゼによるXVII型コラーゲンの分解が大きく寄与していることが知られており(上述した非特許文献4,5)、甘草抽出物は白髪や脱毛の予防用途に特に好適であるものと認められる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明に係るXVII型コラーゲン産生促進剤および好中球エラスターゼ活性阻害剤は、白髪の予防;脱毛予防;基底膜構造の再構築;シワ改善をはじめとする皮膚の老化症状の予防または改善;皮膚損傷の治療または改善;などに大きく貢献できる。