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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-27
(45)【発行日】2024-01-11
(54)【発明の名称】AGEs形成抑制剤及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A61K 36/8994 20060101AFI20231228BHJP
   A23L 33/105 20160101ALI20231228BHJP
   A61P 9/14 20060101ALI20231228BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20231228BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20231228BHJP
   A61Q 19/08 20060101ALI20231228BHJP
   C12P 1/00 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
A61K36/8994
A23L33/105
A61P9/14
A61P17/00
A61P43/00 105
A61Q19/08
C12P1/00 A
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019179924
(22)【出願日】2019-09-30
(65)【公開番号】P2021054750
(43)【公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】591082421
【氏名又は名称】丸善製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中村 冬馬
(72)【発明者】
【氏名】岩橋 弘恭
(72)【発明者】
【氏名】林 祥太
(72)【発明者】
【氏名】大野 裕和
【審査官】愛清 哲
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-296255(JP,A)
【文献】特表2003-531376(JP,A)
【文献】特開2013-253071(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2011-0053051(KR,A)
【文献】Biochim. Biophys. Acta,,2001年,Vol.1535, No.2,pp.110-119
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/00-36/9068
A23L 33/00-33/29
C12P 1/00- 1/06
A61P 9/00- 9/14
A61P 17/00-17/18
A61P 43/00
A61K 8/00- 8/99
A61Q 19/00-19/10
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ハトムギに、アミラーゼ及びプロテアーゼを加え、圧力40~200MP、温度40~80℃で1~36時間反応させたハトムギの加圧酵素分解物を含有する、AGEs形成抑制剤。
【請求項2】
ハトムギに、アミラーゼ及びプロテアーゼを加え、圧力40~200MP、温度40~80℃で1~36時間反応させ、酵素分解する工程を含む、ハトムギの加圧酵素分解物を含有するAGEs形成抑制剤の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、AGEs形成抑制剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
「糖化」とは、タンパク質に糖が結合する現象で、糖化による最終生成物をAGEs(Advanced Glycation End Products)という。体内のAGEsは、細胞に様々な悪影響を及ぼし、老化の原因の一つと考えられている。例えば、血管で糖化が起こると、AGEsの蓄積により毛細血管障害が起こり、肌の真皮ではコラーゲンの糖化により線維が固くなり、ハリ弾力の低下の原因となり、肌の表皮ではくすみの原因となることが知られている。
【0003】
しかしながら、糖はヒトのエネルギー源として不可欠な存在であり、一方、加齢によりAGEsが蓄積されることも知られている。以上のことから、安全で効果の高いAGEs形成抑制剤が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-296255号公報
【文献】特開2014-218481号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、安全で効果の高いAGEs形成抑制剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、ハトムギを加圧下酵素分解させた「ハトムギの加圧酵素分解物」が、顕著なAGEs形成抑制効果を有することを知見し、本発明をなすに至ったものである。後述する実施例、比較例の結果からも明らかであるように、ハトムギ熱抽出物ではAGEs形成抑制効果は不十分であり、「ハトムギの加圧酵素分解物」にこのような顕著な効果があることは、本発明者らの新知見である。
【0007】
従って、本発明は下記AGEs形成抑制剤及びその製造方法を提供する。
1.ハトムギの加圧酵素分解物を含有するAGEs形成抑制剤。
2.ハトムギに酵素を加え、加圧下で酵素分解する工程を含む、ハトムギの加圧酵素分解物を含有するAGEs形成抑制剤の製造方法。
3.加圧下で酵素分解する工程が、圧力40~200MP、温度は40~80℃で1~36時間反応させる工程である2記載のAGEs形成抑制剤の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、安全で効果の高いAGEs形成抑制剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明について詳細に説明する。
[ハトムギの加圧酵素分解物]
ハトムギは、イネ科ジュズダマ属の植物である。使用部位としては特に限定されないが、例えば、種子、葉、根、ヌカ等が挙げられ、種子が特に好ましい。ハトムギは、採取後ただちに乾燥し粉砕したものが好適である。内服の場合、利尿・消炎・鎮痛作用等の効能が知られている。ハトムギ抽出物は外用剤として知られており、肌荒れ改善、いぼ取り等の効能が知られている。
【0010】
加圧酵素分解とは、ハトムギ(原料)を加圧下で酵素分解した酵素分解物をいう。ハトムギの加圧酵素分解物の製造方法としては、ハトムギ(原料)に酵素を加え、加圧下で酵素分解する工程を含むものである。ハトムギ(原料)はそのままでもよいが、水を加えてもよい。水を加える場合は特に限定されず、質量比でハトムギ(原料)1に対して、2~5の範囲がよい。
【0011】
[酵素]
酵素は限定がなく、酵素活性を有すれば特に制限はなく、精製された酵素だけではなく、粗酵素であってもよい。酵素としては、糖質分解酵素、蛋白質分解酵素が挙げられ、1種単独で又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。糖質分解酵素としては、例えば、アミラーゼ、グルコシダーゼ(マルターゼ)、リゾチーム、β-ガラクトシダーゼ等が挙げられ、アミラーゼ、グルコシダーゼが好ましい。蛋白質分解酵素としては、パパイン、ペプシン、トリプシン、キモトリプシン等の公知のプロテアーゼ、各種微生物が産生するプロテアーゼ等が挙げられる。酵素としては、糖質分解酵素と蛋白質分解酵素とを組み合わせて用いることが好ましく、具体的には、アミラーゼとプロテアーゼとの組み合わせが好ましい。
【0012】
[酵素分解条件]
加圧条件としては、加圧40~200MPaが好ましく、加圧50~150MPaがより好ましい。温度は加温下、例えば、40~80℃が好ましく、50~70℃がより好ましい。酵素分解温度は1~36時間が好ましく、3~24時間がより好ましい。このような分解条件範囲内であれば、酵素の失活を起こすことなく酵素反応が速やかに進む温度を保つことができる。また、有害微生物の増殖を阻止できるので、腐敗の心配がなく、防腐剤等の添加やその他の腐敗防止措置を取る必要がない。なお、上記加圧加温条件は、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、後述する酵素発酵促進装置を用いて行うことが好ましい。
【0013】
酵素分解の後、必要に応じて酵素失活工程、ろ過工程、濃縮工程、噴霧乾燥工程等を用いることもできる。
【0014】
本発明の製造方法に用いる装置としては、加圧加温条件を満足することができるものであるならば特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、公知のものを使用することができ、例えば、特開2006-296255号公報に記載された酵素発酵促進装置等を用いることができる。
【0015】
本発明のハトムギの加圧酵素分解物は、優れたAGEs形成抑制効果を有するため、AGEs形成抑制剤の有効成分として用いることができる。本発明のAGEs形成抑制剤は、ハトムギの加圧酵素分解物を含有するものであり、ハトムギの加圧酵素分解物を配合し、製剤化した組成物でもよい。本発明のAGEs形成抑制剤は、医薬品、医薬部外品、食品、機能性食品、化粧品等に配合でき、広い用途に使用することができる。食品としては、飲料を含む全ての食品が例示される。化粧品としては、例えば、乳液、ローション、クリーム、パック等の基礎化粧品、ファンデーション、リップクリーム、口紅等のメイクアップ化粧料、及び入浴剤等の皮膚化粧料;シャンプー、リンス、トリートメント、ヘアトニック、ヘアクリーム、ヘアリキッド、ポマード等の頭皮化粧料等が例示される。
【0016】
医薬品、医薬部外品、食品、機能性食品、化粧品等の剤型は特に限定されず、常法に従い、粉末、顆粒、錠剤、カプセル、固形、液状、クリーム、ゲル、フォーム、スプレー等の任意の剤形に製剤化することができ、それぞれの剤型の任意成分を適量用いることができる。
【0017】
本発明のAGEs形成抑制剤は、内服剤でも外用剤でもよいが、内服剤の場合、ハトムギの加圧酵素分解物(固形分として)の摂取量は、成人1日当たり約1~1,000mgが好適である。ハトムギの加圧酵素分解物の配合量は製剤の形態により適宜選定されるが、通常、内服剤中0.001~50質量%が好ましく、0.01~20質量%がより好ましい。また、顆粒、錠剤又はカプセル形態の場合は、通常0.01~100質量%が好ましく、5~100質量%がより好ましい。外用剤の場合は、外用剤中0.0001~10質量%が好ましい。
【実施例
【0018】
以下、実施例及び比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0019】
[実施例1](ハトムギの加圧酵素分解物)
ハトムギ粉末100gに水200mL、プロテアーゼ1g、及びアミラーゼ0.3gを加え、50℃、60MPaで24時間、酵素発酵促進装置(ヤンマー株式会社)を用い、反応させた。得られた反応液に500mLの水を加え、珪藻土でろ過を行った。得られたろ液を減圧濃縮し、48.7gのハトムギの加圧酵素分解物を得た。
【0020】
[比較例1](ハトムギの熱水抽出物)
ハトムギ粉末100gに水200mLを加え、熱水抽出した。得られた抽出液を遠心分離機で固液分離し、噴霧乾燥して、20gのハトムギの熱水抽出物を得た。
【0021】
上記で得られた「実施例1:ハトムギの加圧酵素分解物」と「比較例1:ハトムギの熱水抽出物」について、下記方法でAGEs形成抑制効果を評価した。
【0022】
<AGEs形成抑制効果試験方法>
96wellのI型コラーゲンコートプレートにPBS(-)にて調製した0.2mol/LのD(-)-リボース及び表中の濃度になるように調整した各濃度の被験試料の混合液100μLを添加し、37℃で20日静置した。陰性対照としてPBS(-)のみを添加したもの、陽性対照として、D(-)-リボースのみを添加したものを同様に静置した。抗AGEs抗体を用いたELISA法によりAGEs量を測定し、AGEs形成抑制作用を評価した。
AGEs形成抑制率の計算方法は以下のとおりである。
AGEs形成抑制率(%)={(B-C)/(B-A)}×100
A:陰性対照(PBS(-)のみ)の波長405nmにおける吸光度
B:陽性対照(D(-)-リボースのみ)の波長405nmにおける吸光度
C:被験試料添加時の波長405nmにおける吸光度
【0023】
【表1】
【0024】
【表2】
【0025】
ハトムギの加圧酵素分解物は、ハトムギ熱水抽出物に比べ、強いAGEs形成抑制効果が認められた。
【0026】
[実施例2]
下記の混合物を打錠して、錠剤状の栄養補助食品を製造した。
ハトムギ加圧酵素分解物(実施例1) 50g
粉糖(ショ糖) 188g
グリセリン脂肪酸エステル 12g
【0027】
[実施例3]
下記の混合物を打錠して、錠剤状の栄養補助食品を製造した。
ハトムギ加圧酵素分解物(実施例1) 50g
粉糖(ショ糖) 188g
グリセリン脂肪酸エステル 12g
【0028】
[実施例4]
下記の混合物を顆粒状に形成して、顆粒状栄養補助食品を製造した。
ハトムギ加圧酵素分解物(実施例1) 34g
ビートオリゴ糖 1000g
ビタミンC 167g
ステビア抽出物 10g
【0029】
[実施例5]
下記の混合物を顆粒状に形成して、顆粒状栄養補助食品を製造した。
ハトムギ加圧酵素分解物(実施例1) 34g
ビートオリゴ糖 1000g
ビタミンC 167g
ステビア抽出物 10g
【0030】
[実施例6]
下記処方に従い、常法によりドリンクを製造した。
ハトムギ加圧酵素分解物(実施例1) 3g
ブドウ糖ショ糖果糖 10g
クエン酸 1g
クエン酸ソーダ 0.5g
香料 0.01g
色素 0.01g
精製水 残部
全量 100g