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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-27
(45)【発行日】2024-01-11
(54)【発明の名称】セラミックコンデンサ及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01G 4/30 20060101AFI20231228BHJP
   H01G 4/33 20060101ALI20231228BHJP
   H01G 13/00 20130101ALI20231228BHJP
   C01B 32/194 20170101ALI20231228BHJP
   C04B 35/468 20060101ALI20231228BHJP
   C04B 35/472 20060101ALI20231228BHJP
   C04B 35/491 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
H01G4/30 541
H01G4/30 544
H01G4/30 547
H01G4/33 102
H01G13/00 391C
H01G13/00 391Z
C01B32/194
C04B35/468
C04B35/472
C04B35/491
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020115499
(22)【出願日】2020-07-03
(65)【公開番号】P2022013138
(43)【公開日】2022-01-18
【審査請求日】2023-05-11
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100147267
【弁理士】
【氏名又は名称】大槻 真紀子
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(72)【発明者】
【氏名】板坂 浩樹
(72)【発明者】
【氏名】三村 憲一
(72)【発明者】
【氏名】劉 崢
(72)【発明者】
【氏名】加藤 一実
【審査官】清水 稔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/060042(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/150670(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2014/0185187(US,A1)
【文献】特開2019-083315(JP,A)
【文献】特開2007-042903(JP,A)
【文献】特開2016-219788(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01G 4/30
H01G 4/33
H01G 13/00
C01B 32/194
C04B 35/468
C04B 35/472
C04B 35/491
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体ナノ結晶配列層と、前記誘電体ナノ結晶配列層を間に挟んで互いに対向するように配置される下部電極及び上部電極と、前記上部電極と前記誘電体ナノ結晶配列層との間に無機二次元材料層と、を有する、セラミックコンデンサ。
【請求項2】
前記誘電体ナノ結晶配列層は、大きさが5nm以上100nm以下の誘電体ナノ結晶から構成され、5nm以上100nm以下の厚みを有する、請求項1に記載のセラミックコンデンサ。
【請求項3】
前記誘電体ナノ結晶配列層を構成する誘電体ナノ結晶は、チタン酸鉛PbTiO、チタン酸ジルコン酸鉛Pb(ZrTi1-X)O(0<x<1)、チタン酸バリウムBaTiO、チタン酸ストロンチウムSrTiO、チタン酸ジルコン酸バリウムBa(ZrTi1-X)O(0<x<1)、ジルコン酸鉛PbZrO、及び、チタン酸バリウムストロンチウム(BaSr1-X)TiOからなる群から選択された材料からなる、請求項1または2のいずれかに記載のセラミックコンデンサ。
【請求項4】
前記無機二次元材料層は、グラフェン、六方晶窒化ホウ素、遷移金属ダイカルコゲナイド、金属酸化物、金属窒化物、金属酸窒化物、及び、金属からなる群から選択された材料のうち少なくとも一つを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のセラミックコンデンサ。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載のセラミックコンデンサの製造方法であって、
前記下部電極の上に前記誘電体ナノ結晶配列層を形成する誘電体ナノ結晶配列層形成工程と、
前記誘電体ナノ結晶配列層の上に前記無機二次元材料層を形成する無機二次元材料層形成工程と、
前記無機二次元材料層の上に前記上部電極を形成する上部電極形成工程と、を有する、セラミックコンデンサの製造方法。
【請求項6】
前記無機二次元材料形成工程において、前記無機二次元材料をウェット転写法またはドライ転写法により前記誘電体ナノ結晶配列層上に転写する、請求項4に記載のセラミックコンデンサの製造方法。
【請求項7】
前記上部電極形成工程において、蒸着法により前記上部電極を形成する、請求項5または6のいずれかに記載のセラミックコンデンサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、セラミックコンデンサ及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
チタン酸バリウム(BaTiO)やチタン酸ストロンチウム(SrTiO)などの誘電体のナノ結晶(ナノクリスタル)は、サイズに起因した特徴的な物性を発現し、新規材料としての応用が期待されている。こうしたナノ結晶を電子デバイス等に応用するために、基板上にナノ結晶を整列(配列)させる技術の確立が望まれている。例えば、特許文献1や特許文献2には、基板上にナノ結晶を配列させたナノ結晶配列構造体を形成(固定化)する方法が開示されている。
【0003】
誘電体セラミックスの主要な用途の一つである積層セラミックコンデンサ(MLCC)は様々な電子機器に利用されているが、近年では、スマートフォンに代表されるモバイルコミュニケーション機器が自動車や産業機器と共に3大市場となっている。電子機器の多機能化、高性能化と共に、積層セラミックコンデンサにおける誘電体厚の薄層化とその大容量化に向けた開発が進められている中、上記特許文献に示されたナノ結晶配列構造体(ナノ結晶集積膜)はセラミックコンデンサの誘電層の飛躍的な薄層化を実現する可能性が秘められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2016/060042号
【文献】国際公開第2019/150670号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、コンデンサ構造に不可欠な上部電極を金属蒸着により形成する際に、ナノ結晶間のわずかな隙間に電極材料が入り込み、リークパスを形成してしまうことが、コンデンサ構造を作製する上で問題となる。
【0006】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、ナノ結晶間の隙間に電極材料が侵入することが防止されたセラミックコンデンサ及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するため、以下の手段を提供する。
【0008】
(1)本発明の一態様に係るセラミックコンデンサは、誘電体ナノ結晶配列層と、前記誘電体ナノ結晶配列層を間に挟んで互いに対向するように配置される下部電極及び上部電極と、前記上部電極と前記誘電体ナノ結晶配列層との間に無機二次元材料層と、を有する。
【0009】
(2)上記態様に係るセラミックコンデンサにおいて、前記誘電体ナノ結晶配列層は、大きさが5nm以上100nm以下の誘電体ナノ結晶から構成され、5nm以上100nm以下の厚みを有してもよい。
【0010】
(3)上記態様に係るセラミックコンデンサにおいて、前記無機二次元材料層は、グラフェン、六方晶窒化ホウ素、遷移金属ダイカルコゲナイド、金属酸化物、金属窒化物、金属酸窒化物、及び、金属からなる群から選択された材料のうち少なくとも一つを含んでもよい。
【0011】
(4)上記態様に係るセラミックコンデンサにおいて、前記誘電体ナノ結晶配列層の構成する誘電体ナノ結晶は、チタン酸鉛PbTiO、チタン酸ジルコン酸鉛Pb(ZrTi1-X)O(0<x<1)、チタン酸バリウムBaTiO、チタン酸ストロンチウムSrTiO、チタン酸ジルコン酸バリウムBa(ZrTi1-X)O(0<x<1)、ジルコン酸鉛PbZrO、及び、チタン酸バリウムストロンチウム(BaSr1-X)TiOからなる群から選択された材料からなってもよい。
【0012】
(5)本発明の他の態様に係るセラミックコンデンサの製造方法は、上記態様に係るセラミックコンデンサの製造方法であって、前記下部電極の上に前記誘電体ナノ結晶配列層を形成する誘電体ナノ結晶配列層形成工程と、前記誘電体ナノ結晶配列層の上に前記無機二次元材料層を形成する無機二次元材料層形成工程と、前記無機二次元材料層の上に前記上部電極を形成する上部電極形成工程と、を有する。
【0013】
(6)上記態様に係るセラミックコンデンサの製造方法は、前記無機二次元材料形成工程において、前記無機二次元材料をウェット転写法またはドライ転写法により前記誘電体ナノ結晶配列層上に転写するものでもよい。
【0014】
(7)上記態様に係るセラミックコンデンサの製造方法は、前記上部電極形成工程において、蒸着法により前記上部電極を形成してもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ナノ結晶間の隙間に電極材料が侵入することが防止されたセラミックコンデンサを提供する
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態に係るセラミックコンデンサの模式図であり、(a)は斜視分解図であり、(b)は、断面模式図である。
図2】誘電体ナノ結晶配列層を形成する工程を段階的に示した模式図であり、(a)は第1溶媒準備工程、(b)は配列媒体液調製工程、(c)は分散液調製工程、(d)は分散液滴下工程、(e)は配列構造体形成工程、(f)は転写工程、を示す図である。
図3】第1溶媒に界面活性剤を展開させてなる配列媒体液に対して、分散液を滴下した後の作用を示す説明図である。
図4】実施例1のセラミックコンデンサを上方から観察した光学顕微鏡像を示す
図5】(a)は、8層グラフェンを有する実施例1のTEM像であり、(b)は、8層グラフェンを有さない以外は実施例1と同様に作製したセラミックコンデンサのTEM像である。
図6】(a)の右側は8層グラフェンを有する実施例1のEDSの結果であり、左側は対応するTEM像であり、(b)の右側は8層グラフェンを有さない以外は実施例1と同様に作製したセラミックコンデンサのEDSの結果であり、左側は対応するTEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本実施形態について、図を適宜参照しながら詳細に説明する。以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などは実際とは異なっていることがある。以下の説明において例示される材料、寸法等は一例であって、本発明はそれらに限定されるものではなく、本発明の効果を奏する範囲で適宜変更して実施することが可能である。
【0018】
[セラミックコンデンサ]
図1は、本発明の一実施形態に係るセラミックコンデンサの模式図であり、(a)は斜視分解図であり、(b)は、断面模式図である。図1(a)の斜視分解図においては、上部電極3及び誘電体ナノ結晶配列層1がセラミックコンデンサから分離、離隔されて描かれている。
【0019】
図1に示すセラミックコンデンサ100は、誘電体ナノ結晶配列層1と、誘電体ナノ結晶配列層1を間に挟んで互いに対向するように配置される下部電極2及び上部電極3と、上部電極3と誘電体ナノ結晶配列層1との間に無機二次元材料層4と、を有する。
図1に示すセラミックコンデンサ100は、基板5上に形成されている。
【0020】
本発明において「ナノ結晶」とは、例えば、六面体状の結晶である、いわゆるナノキューブの他、ナノキューブの合成若しくは作製工程において同時に生成される、六面体の頂点が面取りされた不完全な六面体状の結晶をも含む。なお、この六面体の頂点が面取りされた不完全な六面体状の結晶は六面体状の結晶になる途上のものである。
六面体形状の結晶である場合、高密度で集積することが可能となる。
【0021】
<誘電体ナノ結晶配列層>
誘電体ナノ結晶配列層1を構成するナノ結晶としては、チタン酸化合物例えば、チタン酸鉛PbTiO(PT)、チタン酸ジルコン酸鉛Pb(ZrTi1-X)O(0<x<1)(PZT)、チタン酸バリウムBaTiO(BT)、チタン酸ストロンチウムSrTiO(ST)、チタン酸ジルコン酸バリウムBa(ZrTi1-X)O(0<x<1)(BZT)や、ジルコン酸鉛PbZrO(PZ)、チタン酸バリウムストロンチウム(BaSr1-X)TiO(BST)などが挙げられる。
【0022】
ナノ結晶の大きさ(サイズ)は典型的には、5nm以上1000nm未満であるが、合成条件によって調整可能であり、5nm以上500nm以下としたり、5nm以上200nm以下としたり、5nm以上100nm以下とすることができる。また、下限として10nm以上、20nm以上、30nm以上等とすることができる。
ここで、ナノ結晶の大きさとは、ナノ結晶が六面体あるいは略六面体であるときは最大の1辺を意味する。一方、六面体あるいは略六面体ではないときは、ナノ結晶の電子顕微鏡像(SEM像やTEM像等)の外周において、離間する2点を結んだ距離が最も大きい距離(長さ)を意味するものとする。言い換えると、ナノ結晶の電子顕微鏡像(SEM像やTEM像等)において最長の長さを意味する。
【0023】
また、合成した多数のナノ結晶から、誘電体ナノ結晶配列層1を構成するナノ結晶用に、所定範囲の大きさのナノ結晶を選別してもよい。ナノ結晶の選別は、遠心分離機を用いた分級によって行うことができる。
【0024】
誘電体ナノ結晶配列層1は、大きさが5nm以上100nm以下の誘電体ナノ結晶から構成されていることが好ましい。後述するような、好ましい厚みを満たす誘電体ナノ結晶配列層1を形成しやすいからである。
この場合、「大きさが5nm以上100nm以下の誘電体ナノ結晶から構成されている」とは、全体のうち、数にして80%以上の誘電体ナノ結晶の大きさが5nm以上100nm以下であることを意味する。
【0025】
誘電体ナノ結晶配列層1は、その厚みが5nm以上100nm以下であることが好ましい。これにより、コンデンサ構造の薄層化が可能となる。
【0026】
誘電体ナノ結晶配列層1は、1種類のナノ結晶からなるものでも、2種類以上のナノ結晶からなるものでもよい。複数種類のナノ結晶を有する領域が種類ごとに分散していてもよい。
【0027】
誘電体ナノ結晶配列層1は、ナノ結晶が二次元的に配列されたものだけからなる構成でも(すなわち、ナノ結晶の単層膜)、ナノ結晶が3次元的にボトムアップされたナノ結晶構造体からなる構成でも、また、ナノ結晶が二次元的に配列された部分と三次元的に配列された部分とが混在した構成でもよい。
【0028】
誘電体ナノ結晶配列層1は、ナノ結晶同士がほぼ隙間がなく緻密に形成された構造だけでなく、一部に隙間を有するものも含む。またナノ結晶同士が連結されたナノ結晶連結体を含むものでもよい。
【0029】
ナノ結晶の合成(製造)については後で詳述する。
【0030】
<下部電極>
下部電極2の材料としては、電極として機能する程度の導電性を有する材料であれば特に制限はないが、その上に誘電体ナノ結晶が配列してなる誘電体ナノ結晶配列層1が形成されるため、平坦な面が形成されやすい材料が好ましい。
例えば、蒸着法でより形成されたルテニウム酸ストロンチウムSrRuO(SRO)や白金(Pt)のように平坦な面を形成できることが可能で、酸素雰囲気下での熱処理による酸化等の反応が起こらない材料が好ましい。
【0031】
図1に示す例のように、基板を用いる場合には、下部電極2を薄膜とすることができる。
この薄膜の下部電極の膜厚としては電極として機能すれば特に制限はないが、例えば、コンデンサの薄膜化の観点では、膜厚は1000nm以下とすることが好ましく、700nm以下とすることがより好ましく、500nm以下とすることがさらに好ましい。一方、導電性を確保する観点では、20nm以上とすることが好ましいが、さらに均一な膜形成の観点も考慮すると30nm以上とすることがより好ましく、40nm以上とすることがさらに好ましい。
【0032】
<無機二次元材料層>
無機二次元材料層4は、コンデンサ構造に不可欠な上部電極を金属蒸着により形成する際に、ナノ結晶間のわずかな隙間に電極材料が入り込み、リークパスが形成されるのを防止する。
【0033】
無機二次元材料層4が導電性材料からなる場合には、上部電極3と共に電極としても機能するが、無機二次元材料層4を構成する材料としては導電性材料に限られない。
【0034】
無機二次元材料層4は、1種類の材料からなる構成に限らず、異なる材料からなる部分を有してもよい。
無機二次元材料層4の材料としては、グラフェン、六方晶窒化ホウ素、遷移金属ダイカルコゲナイド、金属酸化物、金属窒化物、金属酸窒化物、金属のいずれかであることが好ましい。二次元異方性が高い形態を得ることが可能であり、薄膜化の要請に沿っているからである。
ナノ結晶間の隙間に電極材料が侵入するのを防止する機能を発揮すれば、これらの材料を単層で用いても複層で用いてもよい。
【0035】
無機二次元材料層4の厚みとしてはナノ結晶間の隙間に電極材料が侵入するのを防止する機能を発揮すれば特に制限はないが、例えば、0.1nm以上5nm以下とすることができる。
【0036】
<上部電極>
上部電極3としては、電子部品に用いられる公知の材料のものを用いることができる。たとえば、金(Au)、銀(Ag)、アルミニウム(Al)等の金属や、合金、ITOなどの透明導電体を用いることができる。
【0037】
上部電極3の厚みとしては電極として機能すれば特に制限はないが、例えば、コンデンサの薄膜化の観点では、膜厚は1000nm以下とすることが好ましく、700nm以下とすることがより好ましく、500nm以下とすることがさらに好ましい。一方、導電性を確保する観点では、20nm以上とすることが好ましいが、さらに均一な膜形成の観点も考慮すると30nm以上とすることがより好ましく、40nm以上とすることがさらに好ましい。
【0038】
<基板>
基板5は、本発明に必須ではないが、本発明に係るセラミックコンデンサの支持材として用いることができる。
溶媒(非極性溶媒及び極性溶媒)に対して安定でかつ吸湿性がないものであれば適用可能であり、平坦な表面を有するものが好ましい。例えば、FTO、ITO、ガラス、半導体、金属、セラミックス、ポリマー、紙、プラスチック、ゴム、及びその他のポリマーの群から選択されたものを用いることができる。
【0039】
[セラミックコンデンサの製造方法]
本発明のセラミックコンデンサの製造方法は、下部電極の上に誘電体ナノ結晶配列層を形成する誘電体ナノ結晶配列層形成工程と、誘電体ナノ結晶配列層の上に無機二次元材料層を転写する無機二次元材料層転写工程と、無機二次元材料層の上に上部電極を形成する上部電極形成工程と、を有する。
無機二次元材料転写工程では、無機二次元材料をウェット転写法またはドライ転写法によりナノ結晶配列層上に転写してもよい。
上部電極形成工程において、蒸着法により上部電極を形成してもよい。
【0040】
以下に各工程について詳細に説明する。
【0041】
<誘電体ナノ結晶の合成(製造)>
本発明のセラミックコンデンサを製造するのに用いる誘電体ナノ結晶について、その合成(製造)方法に限定はないが、例えば、特許文献1や特許文献2に記載された方法を用いることができる。
【0042】
チタン酸バリウムナノ結晶を例に挙げて説明すると、水酸化バリウム水溶液と、水溶性チタン錯体の水溶液と、水酸化ナトリウム水溶液と、アミン化合物と、有機カルボン酸とを混合して溶液を得て、得られた溶液を加熱することにより合成できる。合成は、容器を密閉する等により加圧した状態で行うことが好ましい。
【0043】
水酸化バリウム水溶液に含まれるバリウムと、水溶性チタン錯体の水溶液に含まれるチタンとのモル比(バリウム:チタン)は1:2~2:1の範囲であることが好ましい。
【0044】
本発明の水溶性チタン錯体としては、水に溶解された後チタン原子から配位子がはずれてチタン原子と酸素原子との結合が形成されるような化合物を用いることができる。そのような化合物としては、例えばチタニウムビス(アンモニウムラクテート)ジヒドロキシド(Titanium bis(ammonium lactate) dihydroxide、「TALH」)、配位子がグリコール酸(HOCH2COOH)である(NH4)6[Ti4(C2H2O3)4(C2H3O3)2(O2)4O2]・6H2O、配位子がクエン酸((CH2COOH)2C(OH)COOH)である(NH4)8[Ti4(C6H4O7)4(O2)4]・8H2O、又は配位子がリンゴ酸(CH2CHOH(COOH)2)若しくは酒石酸((CHOH)2(COOH)2)であるチタン錯体などが挙げられる。
【0045】
水酸化ナトリウム(Na(OH))水溶液はpH調整剤として添加している。水熱合成においてpH調整剤としてよく用いられるアンモニアは合成が進みやすい十分な強塩基条件になりにくい。これは、pH14の条件にさらにアンモニアを加えてもより強塩基にはならないためである。これに対し、水酸化ナトリウム(Na(OH))を用いると、十分な強塩基条件になり、チタン酸バリウムナノ結晶の合成が進みやすい。
【0046】
有機カルボン酸は、デカン酸(カプリン酸)CH(CHCOOH等の炭素鎖が長いカルボン酸であれば、二重結合を含まなくても用いることができる。
【0047】
<下部電極形成工程>
基板を用いる場合には、例えば、蒸着法によって基板上に下部電極を構成する材料を成膜し、下部電極を形成する。
【0048】
<誘電体ナノ結晶配列層形成工程>
次に、下部電極上に誘電体ナノ結晶配列層を形成する工程の一例について図2を用いて説明する。
【0049】
図2は、誘電体ナノ結晶配列層を形成する工程を段階的に示した模式図である。
まず、最初に、液槽10に第1溶媒11を入れる(図2(a)参照)。第1溶媒としては、極性媒体または非極性媒体のいずれかを用いる。第1溶媒11として極性媒体を用いる際には、後述する第2溶媒12には非極性媒体を用いる。また、第1溶媒11として非極性媒体を用いる際には、後述する第2溶媒12には極性媒体を用いる。本実施形態では、第1溶媒11として水を用いている。
【0050】
次に、この第1溶媒11の液面に界面活性剤13を展開させる(図2(b)参照)。これにより、第1溶媒11に界面活性剤13を展開させた配列媒体液14を得る(配列媒体液調製工程)。
【0051】
配列媒体液14を構成する界面活性剤13としては、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、両性界面活性剤、非イオン界面活性剤の何れも用いることができる。界面活性剤13の具体例としては、カルボン酸系の界面活性剤、例えばオレイン酸が好ましく挙げられる。
【0052】
なお、配列媒体液調製工程においては、第1溶媒11よりも極めて少量の界面活性剤13を第1溶媒11の液面にムラなく展開させるために、界面活性剤13を揮発性の展開溶媒、例えばトルエンなどで希釈してこれを第1溶媒11の液面に滴下し、トルエンを全て揮発させることで、界面活性剤13を展開することが好ましい。
【0053】
次に、予め製造した誘電体ナノ結晶15を第2溶媒12に分散させ、分散液16を形成する(分散液調製工程:図2(c)参照)。第2溶媒12としては、極性媒体または非極性媒体のいずれかを用いる。具体的には、例えば、揮発性の有機溶媒を用いる。本実施形態では、第2溶媒12としてメシチレン(1,3,5-trimethylbenzene)を用いている。また、本実施形態では、誘電体ナノ結晶15として、チタン酸バリウムからなるナノ結晶を用いている。
【0054】
分散液16に含まれる誘電体ナノ結晶15の濃度(第2溶媒12の質量にする誘電体ナノ結晶15の質量)は、任意に設定可能であるが、こうした誘電体ナノ結晶15の濃度を高めて、ナノ結晶配列構造体を2層以上に積層することができる。
【0055】
次に、分散液調製工程で得られた分散液16を、配列媒体液調製工程で得られた配列媒体液14に滴下する(分散液滴下工程:図2(d)参照)。分散液16は、滴下直前に良く撹拌し、誘電体ナノ結晶15を第2溶媒12中に均一に分散させておく。なお、分散液16の滴下量は、後ほど用いる基板の一面の面積などに応じて調整すればよい。
【0056】
図3は、第1溶媒に界面活性剤を展開させてなる配列媒体液に対して、分散液を滴下した後の作用を示す説明図である。
配列媒体液14に分散液16を滴下させると、水からなる第1溶媒11よりも比重の軽いメシチレン(比重0.83)からなる第2溶媒12を含む分散液16は、配列媒体液14の液面に広がる。この時、配列媒体液14を構成する、第1溶媒11の表面の界面活性剤13は、分散液16によって押し広げられ、分散液16が第1溶媒11の表面に直接接するように広がり、その周囲を界面活性剤13が取り囲む状態になる。
【0057】
そして、この状態で暫く静置させると、分散液16に分散していた誘電体ナノ結晶15が第2溶媒の底部、即ち第1溶媒11の表面まで沈み、同時に第2溶媒12であるメシチレンが揮発する(配列構造体形成工程:図2(e)参照)。
【0058】
この時、誘電体ナノ結晶15は、第2溶媒12の揮発によって生じる毛管現象によって、第1溶媒11の表面に整列する。また、第1溶媒11の表面にある誘電体ナノ結晶15の周囲を取り囲むように広がる界面活性剤13の凝集力(外圧)によって、誘電体ナノ結晶15が第2溶媒12の周囲に集められる。これにより、第1溶媒11の表面に、誘電体ナノ結晶15が配列(整列)した誘電体ナノ結晶配列層21が得られる。
【0059】
こうした誘電体ナノ結晶配列層21は、分散液16に分散させた誘電体ナノ結晶15の濃度に応じて、ナノ結晶1つ分の厚みで広がる単層のナノ結晶配列層や、鉛直方向にナノ結晶が積み重なった複層のナノ結晶配列層などを作り分けることができる。
【0060】
この後、誘電体ナノ結晶配列層21が表面に形成されている配列媒体液14に、下部電極を備えた基板22を対面させ、下部電極を備えた基板22の一面(表面)22aに誘電体ナノ結晶配列層21を転写させる(転写工程:図2(f)参照)。
なお、分散液滴下工程から転写工程までを、1つの下部電極を備えた基板22に対して繰り返し実行することによっても、鉛直方向に誘電体ナノ結晶が積み重なった複層の誘電体ナノ結晶配列層21を形成することができる。
以上のような工程によって、下部電極を備えた基板22の一面(表面)22aに誘電体ナノ結晶配列層21が固定化(形成)された誘電体ナノ結晶配列層固定化基板20が得られる。
【0061】
こうして得られた誘電体ナノ結晶配列層固定化基板20は、下部電極を備えた基板22の一面22aに対する誘電体ナノ結晶配列層21の被覆率が85%以上、100%以下であり、かつ下部電極を備えた基板22の一面22aに沿った誘電体ナノ結晶配列層21の形成面積が10000μm以上である。そして、幅100nm以上の大きさの亀裂やボイドが存在しない。なお、誘電体ナノ結晶配列層21の形成面積の上限は、基板の面積に依存する。
【0062】
以上、詳細に説明したように、この方法によれば、界面活性剤13を展開させた第1溶媒11に、誘電体ナノ結晶15を含む分散液16を広げることで、界面活性剤13が第1溶媒11上で誘電体ナノ結晶15を集めて配列させる役割を果たす。これによって、誘電体ナノ結晶15を大きな面積で均一に配列(整列)させた誘電体ナノ結晶配列層21を得ることができる。
【0063】
また、こうして形成した誘電体ナノ結晶配列層21を、下部電極を備えた基板22の一面(表面)22aに転写させることによって、ヒビや傷のない大きな面積の誘電体ナノ結晶配列層21を有する、誘電体ナノ結晶配列層固定化基板20を得ることができる。
【0064】
得られた誘電体ナノ結晶配列層固定化基板について、乾燥工程を行ってもよい。
【0065】
<無機二次元材料層形成工程>
次に、得られた誘電体ナノ結晶配列層固定化基板の誘電体ナノ結晶配列層上に無機二次元材料層を形成する。
【0066】
無機二次元材料層が単層または複層のグラフェンからなる場合は、ウェット転写法またはドライ転写法によって無機二次元材料層を誘電体ナノ結晶配列層上に転写することができる。
無機二次元材料層が単層または複層の六方晶窒化ホウ素からなる場合は、ドライ転写法によって無機二次元材料層を誘電体ナノ結晶配列層上に転写することができる。
無機二次元材料層が単層または複層の遷移金属ダイカルコゲナイドからなる場合は、ウェット転写法またはドライ転写法によって無機二次元材料層を誘電体ナノ結晶配列層上に転写することができる。
無機二次元材料層が単層または複層の金属酸化物からなる場合は、ウェット転写法またはドライ転写法によって無機二次元材料層を誘電体ナノ結晶配列層上に転写することができる。
無機二次元材料層が単層または複層の金属窒化物からなる場合は、ウェット転写法またはドライ転写法によって無機二次元材料層を誘電体ナノ結晶配列層上に転写することができる。
無機二次元材料層が単層または複層の金属酸窒化物からなる場合は、ウェット転写法またはドライ転写法によって無機二次元材料層を誘電体ナノ結晶配列層上に転写することができる。
無機二次元材料層が単層または複層の金属からなる場合は、ウェット転写法またはドライ転写法によって無機二次元材料層を誘電体ナノ結晶配列層上に転写することができる。
【0067】
<上部電極形成工程>
次に、無機二次元材料層上に上部電極を形成する。
上部電極の形成は公知の成膜方法を用いて行うことができる。
例えば、蒸着法を用いることができる。
【実施例
【0068】
次に、本発明の実施例について説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではなく、本発明の効果を奏する範囲での変形及び改良は本発明に含まれる。
【0069】
(実施例1)
<下部電極の形成>
スパッタ法によって、SrTiO基板上に、下部電極として膜厚200nmのSrRuO膜を成膜した。
【0070】
<誘電体ナノ結晶配列層の形成>
次に、SrRuO膜上に誘電体ナノ結晶配列層を形成する。
まず、内径約7cmのガラス製のシャーレに数センチの高さまで第1溶媒として水を張る。次に、その水面に、界面活性剤としてオレイン酸を体積比1000倍のトルエン(非極性溶媒)で希釈した溶液40μlをマイクロシリンジで滴下した。トルエンを完全に蒸発させて、水の表面に界面活性剤を展開させた配列媒体液を形成した。
【0071】
また、第2溶媒としてメシチレンに、前述した方法で合成したBaTiOナノ結晶(結晶サイズ15~20nm)を分散させて分散液を形成した。
そして、シャーレ中の配列媒体液に、分散液40μlを滴下し、シャーレに蓋をしてメシチレンが完全に蒸発するまで静置した。メシチレンが完全に蒸発した後、水面には、BaTiOナノ結晶配列層が浮遊した状態で得られた。
【0072】
こうして得られたチタン酸バリウムナノ結晶配列層を、水平付着法によってSrTiO基板上のSrRuO膜表面に転写した。水平付着法とは、基板表面が液面に対して水平になるような角度で、液面に基板表面を付着させ、そのまま基板を引き上げて乾燥させることで、液面の浮遊物を基板表面に転写する手法である。SrRuO膜付きSrTiO基板は、転写を行う前にエタノール中で超音波洗浄をして大気乾燥させた。
以上の手順で、SrRuO膜上にBaTiOナノ結晶配列層を形成した。
【0073】
<無機二次元材料層の形成>
次に、UVライトの照射と200℃での乾燥を行った後、400℃の電気炉で熱処理をしたナノ結晶配列層上に8層のグラフェンをウェットプロセスにより転写した。
【0074】
<上部電極の形成>
次に、SrTiO基板上のSrRuO膜上に8層のグラフェンが形成された積層体を、真空下で充分に乾燥した後、基板上をマスクで覆い、電子ビーム蒸着法によりAuドット電極(直径100μm、膜厚200nm)を形成した。
【0075】
<セラミックコンデンサの作製>
プラズマエッチングによりAuドット電極形成部以外の8層グラフェンを除去することで、BaTiOナノ結晶配列層を誘電層とするセラミックコンデンサを作製した。
得られたセラミックコンデンサは、SrRuO膜を下部電極、8層グラフェンとAuドット電極を上部電極として動作する。
【0076】
図4に実施例1のセラミックコンデンサを上部から観察した光学顕微鏡像を示す。
【0077】
また、上部電極に8層グラフェンを用いる効果を確認するため透過電子顕微鏡(TEM)での断面観察を行った。図5にTEM像を示す。図5(a)は、8層グラフェンを有する実施例1のTEM像であり、図5(b)は、8層グラフェンを有さない以外は実施例1と同様に作製したセラミックコンデンサのTEM像である。
【0078】
図5(b)に示すように、8層グラフェンを用いずAuドット電極を形成した場合ではナノ結晶配列層内にAu粒子が形成しているのに対して、8層グラフェンを用いた図5(a)では、ナノ結晶配列層内にAuの侵入が見られないことが確認された。
【0079】
エネルギー分散型X線分析(EDS)による元素分析も行った。図6(a)の右側は8層グラフェンを有する実施例1のEDSの結果であり、左側は対応するTEM像であり、図6(b)の右側は8層グラフェンを有さない以外は実施例1と同様に作製したセラミックコンデンサのEDSの結果であり、左側は対応するTEM像である。
【0080】
また、図6に示すようにエネルギー分散型X線分析(EDS)による元素分析からも、8層グラフェンを用いない場合にはナノ結晶配列層内からAuに由来するシグナルが観測されたのに対し、8層グラフェンを用いた場合にナノ結晶配列層内からAuに由来するシグナルが観測されないことが確認された。このことから、無機二次元材料層を上部電極に用いることにより、リークパスの原因となるナノ結晶配列層内への金属の侵入を防ぎ、ナノ結晶配列層からなる誘電層の絶縁性を確保できることが示された。
【符号の説明】
【0081】
1 誘電体ナノ結晶配列層
2 下部電極
3 上部電極
4 無機二次元材料層
100 セラミックコンデンサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6