(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-27
(45)【発行日】2024-01-11
(54)【発明の名称】フライ調理方法及びシリコーンオイル含有油脂の劣化抑制方法
(51)【国際特許分類】
A23L 5/10 20160101AFI20231228BHJP
A23D 9/00 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
A23L5/10 D
A23D9/00 506
(21)【出願番号】P 2018025002
(22)【出願日】2018-02-15
【審査請求日】2020-12-18
【審判番号】
【審判請求日】2022-07-13
(31)【優先権主張番号】P 2017237391
(32)【優先日】2017-12-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 隆英
(72)【発明者】
【氏名】青柳 寛司
【合議体】
【審判長】淺野 美奈
【審判官】天野 宏樹
【審判官】植前 充司
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2008/0063768(US,A1)
【文献】米国特許第6173791号明細書(US,B1)
【文献】特開2003-310448(JP,A)
【文献】特開平5-31035号公報(JP,A)
【文献】特開平9-135779号公報(JP,A)
【文献】太田静行ほか,揚げ油におけるシリコーンオイルの機能について(第10報),油化学,1990年,第39巻,第1号,p.23-28,ISSN 1884-2003
【文献】佐藤恭子ほか,食品添加物シリコーン樹脂の純度試験に関する検討,国立医薬品食品衛生研究所報告,2012年,第130号,p.71-74
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
JSTPlus/JMEDplus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フライ油脂としてシリコーンオイル含有油脂を用い、フライ油脂表面に接触する気体を空気で置換して、フライ油脂表面を強制冷却する、フライ調理方法。
【請求項2】
前記強制冷却を、フライ時及び/又はフライ前後のフライ油脂の加熱時に行う、請求項1に記載のフライ調理方法。
【請求項3】
前記強制冷却が、気体中の水微粒子がフライ油脂と接触して気化することによるものである、請求項1又は2に記載のフライ調理用法。
【請求項4】
前記強制冷却が、強制空冷である、請求項1~3のいずれか一項に記載のフライ調理方法。
【請求項5】
前記シリコーンオイル含有油脂が、シリコーンオイルを0.1ppm以上含む、ことを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のフライ調理方法。
【請求項6】
フライ油脂の温度が、120℃以上である、請求項1~5のいずれか一項に記載のフライ調理方法。
【請求項7】
前記強制冷却が、フライ油脂表面の風速が0.3m/s以上となるように行う、請求項1~6のいずれか一項に記載のフライ調理方法。
【請求項8】
シリコーンオイル含有油脂の加熱時において、シリコーンオイル含有油脂表面に接触する気体を空気で置換して、シリコーンオイル含有油脂の表面を強制冷却する、
フライ調理におけるシリコーンオイル含有油脂の劣化抑制方法。
【請求項9】
前記シリコーンオイル含有油脂が、シリコーンオイルを0.1ppm以上含む、請求項8に記載のシリコーンオイル含有油脂の劣化抑制方法。
【請求項10】
シリコーンオイル含有油脂の温度が、120℃以上である、請求項8又は9に記載のシリコーンオイル含有油脂の劣化抑制方法。
【請求項11】
前記強制冷却が、シリコーンオイル含有油脂表面の風速が0.3m/s以上となるように行う、請求項8~10のいずれか一項に記載のシリコーンオイル含有油脂の劣化抑制方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フライ調理方法及びシリコーンオイル含有油脂の劣化抑制方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、食品の品質に対する関心がますます高まりつつあり、揚げ物等の加工食品に活用されている食用油脂についても例外ではない。食用油脂は、一般的に熱と光により劣化する。この時、水分の存在により加水分解劣化が、また、酸素の存在により酸化劣化が起こり、風味や色調も劣化する。特に、フライ、天ぷら、から揚げ等のフライ調理では180℃前後の油で加熱調理を行うので、劣化を抑えることが重要となる。例えば、「食品、添加物等の規格基準(昭和34年厚生省告示第370号)」には、即席めん類は、めんに含まれる油脂の酸価が3を超え、又は過酸化物価が30を超えるものであってはならない、とある。また、フライ油脂の劣化により、フライ油脂が着色したり、重合物量あるいは極性物質量が増加したりする。フライ油脂が着色すると、それに伴いフライ調理品も着色し、外観がよくなくなる。フライ油脂中の重合物量あるいは極性物質量が増加すると、フライ時の泡立ちに影響を及ぼす。そのため、フライ油脂の酸価、着色、重合物量等はフライ油脂の交換時期の指標となる。
【0003】
スーパー、飲食店、レストラン等で使用される業務用のフライ油脂は、家庭で用いられるフライ油脂に比べて、長時間にわたって大量のフライ調理品を高温でフライ調理することに使用されることが多いため、劣化が速く進行する。このため短期間で廃棄・交換しなければならないが、経済面、環境面でも負担が大きいため、フライ油脂の劣化抑制技術が必要とされてきた。
【0004】
そのため、特許文献1には、フライ油脂に浮き蓋を浮かべ、フライ油脂と空気との接触を妨げ、フライ油脂の酸化を防止する方法が提案されている。同様に、フライ油脂と空気との接触を妨げる方法として、特許文献2には遠赤外線加熱真空フライ装置が提案されている。また、特許文献3には、揚げ油の油面に向けてpH10以上のアルカリイオン水を噴霧するフライ油脂の酸化防止方法が提案されている。特許文献4には、プリフライした食品素材を、低圧高温過熱蒸気装置において油表面の温度低下を防ぎ、低酸素状態の過熱蒸気雰囲気で、過熱蒸気の蒸気噴射により、油の加熱劣化および酸化による品質劣化を抑える方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-6213号公報
【文献】特開昭62-277921号公報
【文献】特開2010-193737号公報
【文献】特開平8-252177号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1の方法では、フライ操作時には浮き蓋を外す必要があり、常時フライを行う場合には、効果が見込めない問題があり、特許文献2の方法でも、蓋を外す必要があり、連続的にフライを行うことができず、多量にフライを行う場合は、装置を大きくする必要があった。また、特許文献3の方法では、pH10以上は、強アルカリであり、失明を防ぐために目を保護する必要があり、さらに、大きな水滴が油に落下した場合に突沸が発生する危険があるなど、作業上の安全性に問題があった。また、特許文献4の方法は、フライ後の処理に特徴があり、フライ油脂の劣化を抑えることはできなかった。
そのため、フライ調理において、連続的にフライ調理を行うことができるとともに、安全性の高いフライ油脂の劣化を抑えるフライ調理方法が求められてきた。
【0007】
そこで、本発明は、フライ油脂の劣化を防止するフライ調理方法及びシリコーンオイル含有油脂の劣化抑制方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のフライ調理方法は、フライ油脂としてシリコーンオイル含有油脂を用い、フライ油脂表面を強制冷却する、ことを特徴とする。
前記強制冷却を、フライ時及び/又はフライ前後のフライ油脂の加熱時に行う、ことが好ましい。
前記強制冷却が、フライ油脂表面に接触する気体を置換するものであり、フライ油脂表面に接触する気体を置換する気体が、空気、窒素、炭酸ガス、水蒸気から選ばれる1種のガス、又は1種以上の混合ガスである、ことが好ましい。
前記強制冷却が、気体中の水微粒子がフライ油脂と接触して気化することによるものである、ことが好ましい
前記強制冷却が、強制空冷である、ことが好ましい。
前記シリコーンオイル含有油脂が、シリコーンオイルを0.1ppm以上含む、ことが好ましい。
フライ油脂の温度が、120℃以上である、ことが好ましい。
前記強制冷却が、フライ油脂表面の風速が0.3m/s以上となるように行う、ことが好ましい。
【0009】
本発明のシリコーンオイル含有油脂の劣化抑制方法は、シリコーンオイル含有油脂の加熱時において、シリコーンオイル含有油脂の表面を強制冷却することを特徴とする。
前記強制冷却が、フライ油脂表面に接触する気体を置換するものであり、フライ油脂表面に接触する気体を置換する気体が、空気、窒素、炭酸ガス、水蒸気から選ばれる1種のガス、又は1種以上の混合ガスである、ことが好ましい。
前記シリコーンオイル含有油脂が、シリコーンオイルを0.1ppm以上含むものである、ことが好ましい。
シリコーンオイル含有油脂の温度が、120℃以上である、ことが好ましい。
前記強制冷却が、シリコーンオイル含有油脂表面の風速が0.3m/s以上となるように行う、ことが好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、フライ油脂の劣化を防止するフライ調理方法を提供することができ、シリコーンオイル含有油脂の加熱時における、劣化抑制方法を提供することができる。また、本発明によれば、特許文献1や2のように、シリコーンオイル含有油脂を加熱した時に、劣化を抑えるためにフライ油脂を密閉にする必要がないため、連続的に、あるいはいつでもフライ調理を行うことができ、また、安全性も高いフライ調理方法及シリコーンオイル含有油脂の劣化抑制方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】シリコーンオイル未含有油脂とシリコーンオイル含有油脂を加熱した時に送風した場合の風速と酸価の関係を示すグラフである。
【
図2】シリコーンオイル未含有油脂とシリコーンオイル含有油脂を加熱した時に送風した場合の風速と重合物の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者らは、加熱したシリコーンオイル含有油脂の表面を強制冷却させることで、油脂の劣化が抑制されることを見出した。この知見に基づき、本願発明のフライ調理方法及びシリコーンオイル含有油脂の劣化抑制方法を完成するに至った。なお、本発明の実施の形態において、A(数値)~B(数値)は、A以上B以下を意味する。
【0013】
<フライ調理方法>
本発明のフライ調理方法は、フライ油脂としてシリコーンオイル含有油脂を用い、フライ油脂表面を強制冷却する。以下、フライ調理方法について、詳説する。
【0014】
(フライ油脂)
本発明で用いるフライ油脂は、シリコーンオイル含有油脂である。シリコーンオイル含有油脂は、通常使用される食用油にシリコーンオイルを含有したものである。
【0015】
本発明では、フライ油脂表面を強制冷却するが、その際に、シリコーンオイル含有油脂を用いることで、フライ油脂の劣化を抑えることができる。これは、フライ油脂表面の温度が低下することによる酸化劣化、熱劣化が抑えられることによると考えらえる。
シリコーンオイルを含有しないフライ油脂を用いて、フライ油脂表面を強制冷却しても、フライ油脂表面の温度は、あまり低下せず、空気で冷却した場合はかえって劣化が促進する。
この効果の違いは、シリコーンオイルを含まないフライ油脂の場合、フライ油脂の対流が起り、フライ油脂表面温度は下がらず、空気中の酸素がフライ油脂表面に供給され、劣化が促進すると考えらえる。一方、シリコーンオイル含有油脂の場合は、シリコーンオイルが油脂の表面に薄い層を作ると考えられており、その層によりフライ油脂の対流が阻害される。対流が起らないので、フライ油脂表面温度が低下し、仮に空気中の酸素がフライ油脂表面に供給されても劣化の反応速度が低下すると考えられる。
【0016】
通常のフライ油脂にシリコーンオイルを含有する目的は、フライ油脂の表面にシリコーンオイルの層を作り、フライ時の消泡、あるいは酸化防止であるため、本発明で用いるシリコーンオイル含有油脂中のシリコーンオイル含有量は、通常のフライ油脂として用いる範囲で十分効果が見込める。例えば、シリコーンオイル含有油脂中のシリコーンオイル含有量(質量割合)は、0.1ppm以上であることが好ましい。シリコーンオイル含有油脂中のシリコーンオイル含有量(質量割合)は、0.5~10ppmであることがより好ましく、0.5~5ppmであることがさらに好ましく、1~4ppmであることが最も好ましい。
【0017】
シリコーンオイル含有油脂に含有されるシリコーンオイルとしては、食品用途で市販されているものを用いることができ、特に限定されないが、例えば、ジメチルポリシロキサン構造を持ち、動粘度が25℃で800~5000mm2/sのものが挙げられる。シリコーンオイルの動粘度は、特に800~2000mm2/s、さらに900~1100mm2/sであることが好ましい。ここで、「動粘度」とは、JIS K 2283(2000)に準拠して測定される値を指すものとする。シリコーンオイルは、シリコーンオイル以外に微粒子シリカを含んでいてもよい。
【0018】
シリコーンオイル含有油脂に含有される油脂として、動植物油脂や加工した油脂を単独、あるいはブレンドして用いることができる。動植物油脂としては、パーム油、大豆油、菜種油、米油、ひまわり油、コーン油、紅花油、綿実油、ゴマ油、グレープシード油、落花生油、オリーブ油、ヤシ油、これらの分別油が挙げられる。また加工した油脂としては、水素添加油脂、エステル交換油脂、エステル化油脂などが挙げられる。なお、グリセリドの構成脂肪酸に飽和脂肪酸又は一価不飽和脂肪酸が多い油脂は、酸化安定性に優れるため、好ましい。高オレイン酸菜種油、高オレイン酸ヒマワリ油、高オレイン酸紅花油、オリーブ油、高オレイン酸大豆油等は、グリセリドを構成する脂肪酸中のオレイン酸含有率が高い油脂であり、好ましい。また、室温で固形化するものは、使用時に加熱により溶解させる必要があるので、20℃で液状の態様のものが好ましい。
【0019】
(フライ調理)
本発明はフライ調理において、以下に述べる強制冷却を実施するが、フライ油脂は、加熱時に劣化するため、実際にフライを揚げている間だけでなく、フライ前後の加熱時にも強制冷却を行うことが好ましい。また、フライを揚げている間のみ、もしくは、フライ前後の加熱時だけに強制冷却を行うこともできる。なお、フライ調理としては、ディープフライ、シャローフライに関わらず利用することができる。
【0020】
(強制冷却)
本発明のフライ調理方法は、フライ油脂表面を強制冷却する。なお、本発明において、強制冷却とは、何の処理を施すことなく自然冷却される場合を除くことを意味し、何らかの処理を行なって冷却することを意味する。フライ調理において、フライ油脂は、高温で空気と接触しているため、表面に接触する気体を置換する、及び/又は、気体中の水微粒子(ミスト)がフライ油脂と接触して気化する(水の気化熱の利用)、ことで、フライ油脂の表面温度を低下させる。従って、フライ油脂の温度は、高いほど、本発明の効果が高い。フライ油脂の温度は、120℃以上が好ましく、150~220℃がより好ましく、160~200℃がさらに好ましい。本発明において、フライ油脂内部は、これらの温度を有するが、フライ油脂表面を強制冷却することで、表面温度は内部温度より低下する。
【0021】
本発明において、フライ油脂表面を強制冷却するが、フライ油脂表面に接触する気体を置換することで強制冷却することができる。フライ油脂表面に接触する気体を置換する手段としては、特に限定するものではないが、フライ油脂表面に気体を吹き付ける手段、及び/又は、フライ油脂表面の気体を排気する手段を用いることができる。
【0022】
フライ油脂表面に気体を吹き付ける手段の例としては、ファンを用いてフライ油脂表面に向けて気体を吹き付けることができる。また、ファン付きの送風ダクト、圧縮空気の噴出口などをフライ油脂表面に向けて気体を吹き付けることもできる。簡便には、扇風機をフライ油脂表面に向けて送風することで本願発明の効果を得ることができる。なお、フライ油脂表面に気体を吹き付ける角度について、特に制限するものではない。本発明は、フライ油脂表面の気体を置換することで達成できるので、例えば、フライ油脂表面に平行に送風してもよく、フライ油脂表面に対して90°(垂直)であってもよいが、フライ油脂表面に対して送風される角度(以下、入射角(θ)という)が10~90°であることが効率の点で好ましく、入射角(θ)が10~80°であることがより好ましく、入射角(θ)が20~60°であることがさらに好ましい。
【0023】
フライ油脂表面の気体を排気する手段の例としては、ファン付きの排気ダクトをフライ油脂表面付近に設置することが挙げられる。なお、通常、フライ装置の上部に換気扇等の排気設備が備わっているが、フライ調理にともなう屋内の臭気を除去することが目的であり、また、フライ装置のかなり上部であるため、フライ油脂表面の気体を排除することはほとんどできないために、本願発明の効果を有することは期待できない。
【0024】
本発明において、フライ油脂表面に接触する気体を置換する気体が、空気、窒素、炭酸ガス、水蒸気から選ばれる1種のガス、又は1種以上の混合ガスを用いることができる。本発明において、前述の通り、通常の空気で十分な劣化抑制効果を有するが、窒素、炭酸ガス、水蒸気であれば、フライ油脂表面上の酸素を低減することができるので、好ましい。しかし、窒素、炭酸ガスを用いた場合、酸欠になる可能性があるため、充分な換気を行うか、空気との混合ガスを用いることが好ましい。
本発明において、空気をフライ油脂表面へ送風して冷却する「強制空冷」が、最も好ましい。
【0025】
本発明において、気体中の水微粒子(ミスト)がフライ油脂と接触することによる水の気化熱で、フライ油脂の表面温度を低下させることができる。ミストは、気体中に浮遊する必要があり、小さいほうが好ましく、例えば、直径が10μm以下の微粒子であることが好ましい。また、前述の表面に接触する気体を置換する手段と併用することができる。例えば、気体を吹き付ける手段の前、及び/又は後に設置することが好ましい。また、ミスト発生器は、通常使用されるものを用いることができ、例えば、加圧された水が極めて口径の小さなミストノズルから押し出され発生するもの、あるいは、超音波を用いるものを用いてもよい。
【0026】
本発明において、フライ油脂としてシリコーンオイル含有油脂を用い、フライ油脂表面を強制冷却することで、フライ油脂表面の全体あるいは、部分的にフライ油脂表面の温度が低下する。フライ油脂表面を強制冷却することで、フライ油脂表面の最も低い表面温度が、フライ油脂内部の温度に比べて、10℃以上低くなることが好ましい。フライ油脂表面を強制冷却することで、フライ油脂表面の最も低い表面温度が、フライ油脂内部の温度に比べて、15℃以上低いことがより好ましく、20℃以上低いことがさらに好ましく、25℃以上低いことが最も好ましい。
【0027】
また、フライ油脂としてシリコーンオイル含有油脂を用い、フライ油脂表面を強制冷却することで、フライ油脂表面の最も低い表面温度が、フライ油脂表面を強制冷却しない場合の表面温度に比べて、5℃以上低くなることが好ましい。フライ油脂表面を強制冷却することで、フライ油脂表面の最も低い表面温度が、フライ油脂表面を強制冷却しない場合の表面温度に比べて、6℃以上低いことがより好ましく、10℃以上低いことがさらに好ましく、12℃以上低いことが最も好ましい。
【0028】
本発明において、フライ油脂としてシリコーンオイル含有油脂を用い、フライ油脂表面を強制冷却することで、フライ油脂表面を強制冷却しない場合に比べて、フライ油脂表面の中心部が2℃以上低くなることが好ましい。フライ油脂表面を強制冷却することで、フライ油脂表面を強制冷却しない場合に比べて、フライ油脂表面の中心部が3℃以上低いことがより好ましく、5℃以上低いことがさらに好ましい。なお、油脂表面の中心部とは、フライ油脂表面を囲う淵(フライヤーの内壁)の最も離れている2点間の中央付近(例えば、当該中央を中心に、各淵方向に中央から各淵までの距離の1/4の距離以内の範囲)を意味する。
【0029】
また、フライ油脂表面の風速が0.3m/s以上となるように、フライ油脂表面に気体を吹き付ける、及び/又は、フライ油脂表面の気体を排気することで、フライ油脂表面に接触する気体を置換させることがフライ油脂表面を強制冷却する方法として好ましい。フライ油脂表面の風速は、強いほどフライ油脂表面の温度低下が期待できるが、強すぎるとフライ油脂表面が波立ち作業性が悪化するため、フライ油脂表面の風速は0.5~5.0m/sであることがより好ましく、1.0~4.0m/sであることがさらに好ましく、1.5~2.5m/sであることが最も好ましい。
【0030】
本発明において、フライ油脂表面に接触する気体を置換させることは、フライ油脂表面の温度を低下させるためである。そのため、置換する気体は、フライ油脂より低温である必要がある。フライ調理は120~200℃程度(好ましくは150~200℃程度)で行われることがあるので、置換する気体の温度は、100℃以下が好ましく、60℃以下がより好ましく、40℃以下がさらに好ましく、最も好ましいのは室温(例えば、5~30℃)である。
【0031】
<シリコーンオイル含有油脂の劣化抑制方法>
本発明のシリコーンオイル含有油脂の劣化抑制方法は、シリコーンオイル含有油脂の加熱時において、シリコーンオイル含有油脂の表面を強制冷却する。
【0032】
(シリコーンオイル含有油脂)
本発明で用いるシリコーンオイル含有油脂は、通常使用される油脂にシリコーンオイルが含有されたものである。本発明で用いるシリコーンオイル含有油脂中のシリコーンオイル含有量は、通常のシリコーンオイル含有油脂として用いる範囲で十分効果が見込める。例えば、シリコーンオイル含有油脂中のシリコーンオイル含有量(質量割合)は、0.1ppm以上であることが好ましい。シリコーンオイル含有油脂中のシリコーンオイル含有量(質量割合)は、0.5~10ppmであることがより好ましく、0.5~5ppmであることがさらに好ましく、1~4ppmであることが最も好ましい。
【0033】
シリコーンオイル含有油脂に含有されるシリコーンオイルとしては、食品用途で市販されているものを用いることができ、特に限定されないが、例えば、ジメチルポリシロキサン構造を持ち、動粘度が25℃で800~5000mm2/sのものが挙げられる。シリコーンオイルの動粘度は、特に800~2000mm2/s、さらに900~1100mm2/sであることが好ましい。ここで、「動粘度」とは、JIS K 2283(2000)に準拠して測定される値を指すものとする。シリコーンオイルは、シリコーンオイル以外に微粒子シリカを含んでいてもよい。
【0034】
シリコーンオイル含有油脂に含有される油脂として、動植物油脂や加工した油脂を単独、あるいはブレンドして用いることができる。動植物油脂としては、パーム油、大豆油、菜種油、米油、ひまわり油、コーン油、紅花油、綿実油、ゴマ油、グレープシード油、落花生油、オリーブ油、ヤシ油、これらの分別油が挙げらえる。また加工した油脂としては、水素添加油脂、エステル交換油脂、エステル化油脂などが挙げられる。なお、グリセリドの構成脂肪酸に飽和脂肪酸又は一価不飽和脂肪酸が多い油脂は、酸化安定性に優れるため、好ましい。高オレイン酸菜種油、高オレイン酸ヒマワリ油、高オレイン酸紅花油、オリーブ油、高オレイン酸大豆油等は、グリセリドを構成する脂肪酸中のオレイン酸含有率が高い油脂であり、好ましい。また、室温で固形化するものは、使用時に加熱により溶解させる必要があるので、20℃で液状の態様のものが好ましい。
【0035】
(強制冷却)
本発明において、シリコーンオイル含有油脂は、高温で空気と接触する時に、表面を強制冷却することで、シリコーンオイル含有油脂の表面温度を低下させる。従って、シリコーンオイル含有油脂の温度は、高いほど、本発明の効果が高い。シリコーンオイル含有油脂の温度は、120℃以上が好ましく、150~220℃がより好ましく、160~200℃がさらに好ましい。本発明において、シリコーンオイル含有油脂内部は、これらの温度を有するが、シリコーンオイル含有油脂表面を強制冷却することで、表面温度は内部温度より低下する。
【0036】
本発明において、シリコーンオイル含有油脂表面を強制冷却するが、シリコーンオイル含有油脂表面に接触する気体を置換する、及び/又は、気体中の水微粒子(ミスト)がフライ油脂と接触して気化する(水の気化熱の利用)、ことで強制冷却することができる。シリコーンオイル含有油脂表面に接触する気体を置換する手段としては、特に限定するものではないが、シリコーンオイル含有油脂表面に気体を吹き付ける手段、及び/又は、シリコーンオイル含有油脂表面の気体を排気する手段を用いることができる。
【0037】
シリコーンオイル含有油脂表面に気体を吹き付ける手段の例としては、ファンを用いてシリコーンオイル含有油脂表面に向けて気体を吹き付けることができる。また、ファン付きの送風ダクト、圧縮空気の噴出口などをシリコーンオイル含有油脂表面に向けて気体を吹き付けることもできる。簡便には、扇風機をシリコーンオイル含有油脂表面に向けて送風することで本願発明の効果を得ることができる。なお、シリコーンオイル含有油脂表面に気体を吹き付ける角度について、特に制限するものではない。本発明は、シリコーンオイル含有油脂表面の気体を置換することで達成できるので、例えば、シリコーンオイル含有油脂表面に平行に送風してもよく、シリコーンオイル含有油脂表面に対して90°(垂直)であってもよいが、入射角(θ)が10~90°であることが効率の点で好ましく、入射角(θ)が10~80°であることがより好ましく、入射角(θ)が20~60°であることがさらに好ましい。
【0038】
シリコーンオイル含有油脂表面の気体を排気する手段の例としては、ファン付きの排気ダクトをシリコーンオイル含有油脂表面付近に設置することが挙げられる。
【0039】
本発明において、シリコーンオイル含有油脂表面に接触する気体を置換する気体が、空気、窒素、炭酸ガス、水蒸気から選ばれる1種のガス、又は1種以上の混合ガスを用いることができる。本発明において、前述の通り、通常の空気で十分な劣化抑制効果を有するが、窒素、炭酸ガス、水蒸気であれば、シリコーンオイル含有油脂表面上の酸素を低減することができるので、好ましい。しかし、窒素、炭酸ガスを用いた場合、酸欠になる可能性があるため、充分な換気を行うか、空気との混合ガスを用いることが好ましい。
本発明において、空気をシリコーンオイル含有油脂表面へ送風して冷却する「強制空冷」が、最も好ましい。
【0040】
本発明において、気体中の水微粒子(ミスト)がシリコーンオイル含有油脂と接触することによる水の気化熱で、シリコーンオイル含有油脂の表面温度を低下させることができる。ミストは、気体中に浮遊する必要があり、小さいほうが好ましく、例えば、直径が10μm以下の微粒子であることが好ましい。また、前述のシリコーンオイル含有油脂表面に接触する気体を置換する手段と併用することができる。例えば、気体を吹き付ける手段の前、及び/又は後に設置することが好ましい。また、ミスト発生器は、通常使用されるものを用いることができ、例えば、加圧された水が極めて口径の小さなミストノズルから押し出され発生するもの、あるいは、超音波を用いるものを用いてもよい。
【0041】
本発明において、シリコーンオイル含有油脂表面を強制冷却することで、シリコーンオイル含有油脂表面の最も低い表面温度が、シリコーンオイル含有油脂内部の温度に比べて、10℃以上低くなることが好ましい。シリコーンオイル含有油脂表面を強制冷却することで、シリコーンオイル含有油脂表面の最も低い表面温度が、シリコーンオイル含有油脂内部の温度に比べて、15℃以上低いことがより好ましく、20℃以上低いことがさらに好ましく、25℃以上低いことが最も好ましい。
【0042】
また、シリコーンオイル含有油脂表面を強制冷却することで、シリコーンオイル含有油脂表面の最も低い表面温度が、シリコーンオイル含有油脂表面を強制冷却しない場合の表面温度に比べて、5℃以上低くなることが好ましい。シリコーンオイル含有油脂表面を強制冷却することで、シリコーンオイル含有油脂表面の最も低い表面温度が、シリコーンオイル含有油脂表面を強制冷却しない場合の表面温度に比べて、6℃以上低いことがより好ましく、10℃以上低いことがさらに好ましく、12℃以上低いことが最も好ましい。
【0043】
本発明において、シリコーンオイル含有油脂表面を強制冷却することで、シリコーンオイル含有油脂表面を強制冷却しない場合に比べて、シリコーンオイル含有油脂表面の中心部が2℃以上低くなることが好ましい。シリコーンオイル含有油脂表面を強制冷却することで、シリコーンオイル含有油脂表面を強制冷却しない場合に比べて、シリコーンオイル含有油脂表面の中心部が3℃以上低いことがより好ましく、5℃以上低いことがさらに好ましい。なお、シリコーンオイル含有油脂表面の中心部とは、フライ油脂表面を囲う淵(フライヤーの内壁)の最も離れている2点間の中央付近(例えば、当該中央を中心に、各淵方向に中央から各淵までの距離の1/4の距離以内の範囲)を意味する。
【0044】
また、シリコーンオイル含有油脂表面の風速が0.3m/s以上となるように、シリコーンオイル含有油脂表面に気体を吹き付ける、及び/又は、シリコーンオイル含有油脂表面の気体を排気することで、シリコーンオイル含有油脂表面に接触する気体を置換させることが、シリコーンオイル含有油脂表面を強制冷却する方法として好ましい。シリコーンオイル含有油脂表面の風速は、強いほどシリコーンオイル含有油脂表面の温度低下が期待できるが、強すぎるとシリコーンオイル含有油脂表面が波立ち作業性が悪化するため、シリコーンオイル含有油脂表面の風速は0.5~5.0m/sであることがより好ましく、1.0~4.0m/sであることがさらに好ましく、1.5~2.5m/sであることが最も好ましい。
【0045】
本発明において、シリコーンオイル含有油脂表面に接触する気体を置換させることは、シリコーンオイル含有油脂表面の温度を低下させるためである。そのため、置換する気体は、シリコーンオイル含有油脂より低温である必要がある。シリコーンオイル含有油脂が120~200℃程度の場合、置換する気体の温度は、100℃以下が好ましく、60℃以下がより好ましく、40℃以下がさらに好ましく、最も好ましいのは室温(例えば、5~30℃)である。
【実施例】
【0046】
以下、本発明について、実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0047】
<加熱試験>
(参考例1、比較例1-1~1-2)
3つの200mlのビーカーに、精製菜種油(日清オイリオグループ株式会社製:シリコーン未含有)を各50g入れ、ヒーターで各ビーカーを油温180℃になるように12時間加熱した(参考例1、比較例1-1~1-2)。なお、油温は棒状温度計(赤液棒状温度計 東京硝子器機株式会社製)で確認した。参考例1は、無風状態で加熱を行った。比較例1-1及び1-2は、油面に対して空気(室温)を送風して加熱したが、風の油面上における風量と空気の入射角を表1に示した。12時間加熱後の、油表面の中心部の表面温度及び最も低い表面温度、酸価、色値(Y+10R)、重合物を測定し、表1に示した。
【0048】
(参考例2、実施例1-1~1-3)
3つの200mlのビーカーに、シリコーンオイルKF-96(信越化学工業株式会社製)を3ppm(質量)含有する精製菜種油(日清オイリオグループ株式会社製)を各50g入れ、ヒーターで各ビーカーを油温180℃になるように24時間加熱した(参考例2、実施例1-1~1-3)。参考例2は、無風状態で加熱を行った。実施例1-1~1-3は、油面に対して空気を送風して加熱したが、風の油面上における風量と空気の入射角を表2に示した。24時間加熱後の、油表面の中心部の表面温度及び最も低い表面温度、酸価、色値(Y+10R)、重合物を測定し、表2に示した。
【0049】
図1は、表1及び表2の風速と酸価の関係を示すグラフである。
図2は、表1及び表2の風速と重合物の関係を示すグラフである。
【0050】
<分析方法>
(フライ油脂の表面温度)
フライ油脂の表面温度は、サーモグラフィー 型式InfReC R300(NEC Avio赤外線テクノロジー株式会社製)を用いて測定を行った。中心部表面温度は、フライ油表面の中心部(ビーカーの中心部)の表面温度であり、最低表面温度は、油表面全体のうち最も低い表面温度である。
【0051】
(フライ油脂の表面の風速)
フライ油脂表面の風速は、デジタル温度・風速計 Testo425(株式会社テスト―)を用いて測定した。
【0052】
(酸価)
加熱したサンプル油の酸価を、基準油脂分析試験法「2.3.1-2013 酸価」(日本油化学会制定)に従って測定した。酸価は、油脂中に含まれる遊離脂肪酸の量を示すもので、サンプル油1gを中和するのに必要な水酸化カリウムのmg数で表わす。酸価の数値が小さいほど、酸価の上昇が抑制されていることを意味する。
【0053】
(色値 Y+10R)
加熱したサンプル油の着色度合いを、ロビボンド比色計(The Tintometer Limited社製Lovibond PFX995)で1インチセルを使用して、黄の色度(Y)、赤の色度(R)を測定し、色値(Y+10R)を算出して評価した。色値の数値が小さい程、見た目の着色度合いが薄く、着色が抑制されていることを意味する。
【0054】
(重合物)
加熱したサンプル油に含まれる重合物の量を、基準油脂分析試験法「2.5.7-2013 油脂重合物(ゲル浸透クロマトグラフ法)」(日本油化学会制定)に従って測定した。数値が小さい程、重合物の生成が抑制されていることを意味する。
【0055】
【0056】
【0057】
表1のシリコーンオイルを含有しない油脂では、強制冷却することで、参考例1に比べて、表面温度が1度も低下していない。また、酸価、色値、重合物とも増えており、シリコーンオイルを含有しない油脂では、劣化が進むことが確認された。
一方、表2のシリコーンオイルを含有した油脂では、シリコーンオイル含有しない油脂よりも長時間でも劣化が抑えられているが、強制冷却することで、参考例2に比べて、表面温度が2℃以上低下し、酸価、色値、重合物とも低く抑えられていた。シリコーンオイルを含有した油脂では、強制冷却することで、劣化が抑制されていることが確認された。