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特許7411500光硬化性シリコーン組成物、接着剤、シリコーン硬化物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-27
(45)【発行日】2024-01-11
(54)【発明の名称】光硬化性シリコーン組成物、接着剤、シリコーン硬化物
(51)【国際特許分類】
   C08L 83/07 20060101AFI20231228BHJP
   C08L 83/05 20060101ALI20231228BHJP
   C09J 183/05 20060101ALI20231228BHJP
   C09J 183/07 20060101ALI20231228BHJP
   C09J 11/06 20060101ALI20231228BHJP
   C09J 11/04 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
C08L83/07
C08L83/05
C09J183/05
C09J183/07
C09J11/06
C09J11/04
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020083043
(22)【出願日】2020-05-11
(65)【公開番号】P2021178883
(43)【公開日】2021-11-18
【審査請求日】2022-05-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】木村 真司
(72)【発明者】
【氏名】小材 利之
【審査官】尾立 信広
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0092951(US,A1)
【文献】特開2013-203794(JP,A)
【文献】特表2016-529342(JP,A)
【文献】特開2018-076415(JP,A)
【文献】特表2019-507205(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00-13/08
C09J 1/00-5/10
C09J 9/00-201/10
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光硬化性シリコーン組成物であって、
(A)下記一般式(1)で示される構造を分子中に少なくとも1つ有するオルガノポリシロキサン、
【化1】
(式中、mは0、1、2のいずれかであり、Rは、それぞれ同一又は異なっていてもよい、水素原子またはメチル基であり、Rは、それぞれ同一又は異なっていてもよい、置換または非置換の炭素原子数1~12の1価炭化水素基であり、Zは、それぞれ同一又は異なっていてもよい、鎖中に酸素原子を介していてもよい炭素原子数1~10の2価炭化水素基であり、Zは、酸素原子または置換若しくは非置換の炭素原子数1~10の2価炭化水素基であり、破線は結合手を表す。)
(B)一分子中にケイ素原子に結合した水素原子を少なくとも2個含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、
(C)光ラジカル重合開始剤、及び、
(D)波長200~500nmの光によって活性化される白金族金属触媒、
を含有するものであって、
前記(A)成分が下記一般式(2)で示されるオルガノポリシロキサンを含むものであることを特徴とする光硬化性シリコーン組成物。
【化2】
(式中、pは10以上の整数であり、qおよびrは0~3の整数であり、q+rは1~6の整数であり、Z は、それぞれ同一又は異なっていてもよい、置換若しくは非置換の炭素原子数1~10の2価炭化水素基であり、R は、それぞれ同一又は異なっていてもよい、置換または非置換の炭素原子数1~12の1価炭化水素基であり、R は前記一般式(1)で表される構造である。)
【請求項2】
前記Zが炭素原子数1~6のアルキレン基であり、前記Zが酸素原子であることを特徴とする請求項1または請求項に記載の光硬化性シリコーン組成物。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の光硬化性シリコーン組成物からなるものであることを特徴とする接着剤。
【請求項4】
請求項1又は請求項2に記載の光硬化性シリコーン組成物の硬化物であることを特徴とするシリコーン硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光硬化性シリコーン組成物、該光硬化性シリコーン組成物からなる接着剤、および該光硬化性シリコーン組成物の硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
製造プロセスにおける簡略化と低コスト化は、環境に配慮した低エネルギー化志向と重なり、様々な分野で積極的に進められている。特に、光・電気電子デバイス、ディスプレイの製造プロセスは、接着・封止・埋め込み材料などの硬化のため、膨大なエネルギー・時間・設備を要する高温加熱工程を伴ったものが多く、改善が求められている。また、この加熱工程の改善は、エネルギーやコストのみならず、他の部材を傷めないという製造技術的な点でも、大きな意味を持つ。
【0003】
近年、これらの課題を解決するため、紫外線硬化型組成物が注目を集めている。紫外線硬化型組成物は、紫外線照射により活性化する光開始剤を含み、これにより重合あるいは架橋反応が進行し、通常数十秒から十数分という短時間で硬化する。このため、他の部材を傷めにくく、また大きな設備も必要としない。最近では、LEDを利用した紫外線照射装置なども開発され、優れた製造プロセスとなっている。
【0004】
これまで紫外線硬化型シリコーン組成物について、光カチオン重合を用いる方法(特許文献1)、ラジカル重合を用いる方法(特許文献2)などが提案されている。前者の方法では、組成物中に紫外線照射により酸を発生させるオニウム塩が含まれているため、上記組成物が例えば電気電子基板で用いられる場合には、基板の腐食が懸念される。後者の方法では、その高い反応活性により反応速度が速く、短い時間で硬化するという特徴があるが、その反面、ラジカルの寿命が非常に短く、酸素などで容易に失活してしまう。この結果、空気と触れる組成物表面の硬化性が著しく低下することがある。
【0005】
上述した硬化阻害の問題に対し、各種増感剤がしばしば添加剤として検討されている(例えば特許文献3、特許文献4、特許文献5)。しかしながら、これらの方法は、それぞれ反応性が向上する反面、保存安定性が悪くなり、冷暗所保存においても、次第に硬化が進んでしまう問題がある。
【0006】
一方、表面の硬化性を上げるために、付加硬化によって解決する方法が提案されているが、保存安定性を確保するには室温での付加反応性を落とさざるを得ず、UV硬化と熱硬化の双方が必要となってしまう(特許文献6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2008-195931号公報
【文献】特許第3894873号公報
【文献】特開2001-064593号公報
【文献】特開2005-040749号公報
【文献】特開2013-253166号公報
【文献】特許第5735446号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、保存性、空気中における表面硬化性および深部硬化性が良好な光硬化性シリコーン組成物、該光硬化性シリコーン組成物からなる接着剤、および該光硬化性シリコーン組成物の硬化物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明では、
(A)下記一般式(1)で示される構造を分子中に少なくとも1つ有するオルガノポリシロキサン、
【化1】
(式中、mは0、1、2のいずれかであり、Rは、それぞれ同一又は異なっていてもよい、水素原子またはメチル基であり、Rは、それぞれ同一又は異なっていてもよい、置換または非置換の炭素原子数1~12の1価炭化水素基であり、Zは、それぞれ同一又は異なっていてもよい、鎖中に酸素原子を介していてもよい炭素原子数1~10の2価炭化水素基であり、Zは、酸素原子または置換若しくは非置換の炭素原子数1~10の2価炭化水素基であり、破線は結合手を表す。)
(B)一分子中にケイ素原子に結合した水素原子を少なくとも2個含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、
(C)光ラジカル重合開始剤、及び、
(D)波長200~500nmの光によって活性化される白金族金属触媒、
を含有する光硬化性シリコーン組成物を提供する。
【0010】
本発明の光硬化性シリコーン組成物であれば、保存性、空気中における表面硬化性および深部硬化性に優れる。
【0011】
また、前記(A)成分が下記一般式(2)で示されるオルガノポリシロキサンを含むことが好ましい。
【化2】
(式中、pは10以上の整数であり、qおよびrは0~3の整数であり、q+rは1~6の整数であり、Zは、それぞれ同一又は異なっていてもよい、酸素原子または置換若しくは非置換の炭素原子数1~10の2価炭化水素基であり、Rは、それぞれ同一又は異なっていてもよい、置換または非置換の炭素原子数1~12の1価炭化水素基であり、Rは前記一般式(1)で表される構造である。)
【0012】
このような直鎖シロキサンを含む(A)成分であれば、より柔軟性の高い硬化物が得られるため、接着剤などに有用な組成物となる。
【0013】
更に、前記Zが炭素原子数1~6のアルキレン基であり、前記Zが酸素原子であることが好ましい。
【0014】
このような(A)成分を含む光硬化性シリコーン組成物であれば、(C)成分が分解する際に発生するフリーラジカルと(A)成分が効果的に反応するだけでなく、活性化した(D)成分が(A)成分と(B)成分を効果的に付加反応できるため、接着強度および作業性に優れ、かつ表面硬化性に優れる。
【0015】
また、本発明では、上記の光硬化性シリコーン組成物からなる接着剤を提供する。
【0016】
このような接着剤であれば、光の照射によって、ラジカル重合による硬化と(メタ)アクリル基とSi-Hの付加反応による硬化の両方により硬化できる。そのため、光ラジカル重合反応による秒単位の硬化が可能となるだけでなく、加熱無しに付加反応が進行して表面部分も良好に硬化する。
【0017】
また、本発明では、上記の光硬化性シリコーン組成物の硬化物を提供する。
【0018】
このような硬化物であれば、表面の硬化性に優れるためタック感が無いものとなる。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように、本発明の光硬化性シリコーン組成物であれば光の照射をきっかけとして、ラジカル重合反応と、(メタ)アクリル基とSi-Hの付加反応の両反応による硬化が進行する。これにより、保存性に優れ、光ラジカル重合反応による秒単位の硬化が可能となるだけでなく、加熱無しに付加反応が進行して酸素阻害による表面部分の未硬化を克服することができる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
上述のように、保存性、空気中における表面硬化性および深部硬化性が良好な光硬化性シリコーン組成物が求められていた。
【0021】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、(メタ)アクリル基を有するオルガノポリシロキサンを光ラジカル重合開始剤によるラジカル重合反応によって硬化させるとともに、光により活性化される白金族金属触媒を用いて(メタ)アクリル基とSi-Hの付加反応を行うことによって、保存性、空気中における表面硬化性および深部硬化性が良好な光硬化性シリコーン組成物が得られることを見出し、本発明に至った。
【0022】
即ち、本発明は、
(A)下記一般式(1)で示される構造を分子中に少なくとも1つ有するオルガノポリシロキサン、
【化3】
(式中、mは0、1、2のいずれかであり、Rは、それぞれ同一又は異なっていてもよい、水素原子またはメチル基であり、Rは、それぞれ同一又は異なっていてもよい、置換または非置換の炭素原子数1~12の1価炭化水素基であり、Zは、それぞれ同一又は異なっていてもよい、鎖中に酸素原子を介していてもよい炭素原子数1~10の2価炭化水素基であり、Zは、酸素原子または置換若しくは非置換の炭素原子数1~10の2価炭化水素基であり、破線は結合手を表す。)
(B)一分子中にケイ素原子に結合した水素原子を少なくとも2個含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、
(C)光ラジカル重合開始剤、及び、
(D)波長200~500nmの光によって活性化される白金族金属触媒、
を含有する光硬化性シリコーン組成物である。
【0023】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0024】
[光硬化性シリコーン組成物]
本発明の光硬化性シリコーン組成物は、後述する(A)~(D)成分を含有するものである。以下、各成分について詳細に説明する。
【0025】
<(A)成分>
(A)成分は、下記一般式(1)で示される構造を分子中に少なくとも1つ有するオルガノポリシロキサンであり、25℃での粘度が10mPa・s以上の液状、または固体のオルガノポリシロキサンであることが好ましい。
【化4】
(式中、mは0、1、2のいずれかであり、Rは、それぞれ同一又は異なっていてもよい、水素原子またはメチル基であり、Rは、それぞれ同一又は異なっていてもよい、置換または非置換の炭素原子数1~12の1価炭化水素基であり、Zは、それぞれ同一又は異なっていてもよい、鎖中に酸素原子を介していてもよい炭素原子数1~10の2価炭化水素基であり、Zは、酸素原子または置換若しくは非置換の炭素原子数1~10の2価炭化水素基であり、破線は結合手を表す。)
【0026】
は、水素原子、またはメチル基であり、Si-Hとの反応において、末端炭素原子とSi-C結合を作りやすいメチル基が、硬化後の耐久性の観点から好ましい。
【0027】
で表される置換または非置換の炭素原子数1~12の1価炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、ペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、ノニル基、またはデシル基等のアルキル基、フェニル基、トリル基、キシリル基、またはナフチル基等のアリール基、ベンジル基、フェニルエチル基、またはフェニルプロピル基等のアラルキル基、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基、シクロヘキセニル基、またはオクテニル基等のアルケニル基や、これらの基の水素原子の一部または全部をフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子、シアノ基等で置換したもの、例えばクロロメチル基、クロロプロピル基、ブロモエチル基、トリフロロプロピル基等のハロゲン置換アルキル基やシアノエチル基等が挙げられる。好ましくは炭素原子数1~8のものであり、メチル基、フェニル基がより好ましい。
【0028】
は鎖中に酸素原子を介していてもよい炭素原子数1~10の2価炭化水素基であり、硬化後の耐久性の観点から炭素数1~6のアルキレン基が好ましく、特に炭素数1~3のアルキレン基が好ましい。このようなアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基等が挙げられ、これらの炭化水素基の水素原子の一部または全部はフッ素、臭素、塩素等のハロゲン原子、シアノ基等で置換されていてもよい。
【0029】
は、酸素原子または置換若しくは非置換の炭素原子数1~10の2価炭化水素基であり、酸素原子であることが好ましい。
【0030】
mは0、1または2であり、好ましくは1または2である。
【0031】
(A)成分のオルガノポリシロキサンは上記一般式(1)で示される構造を分子内に有するものであれば特に限定されないが、下記一般式(2)で示されるオルガノポリシロキサンを含むことが好ましく、(A)成分中の50質量%以上が下記一般式(2)で示されるオルガノポリシロキサンであることがより好ましい。
【化5】
(式中、pは10以上の整数であり、qおよびrは0~3の整数であり、q+rは1~6の整数であり、Zは、それぞれ同一又は異なっていてもよい、酸素原子または置換若しくは非置換の炭素原子数1~10の2価炭化水素基であり、Rは、それぞれ同一又は異なっていてもよい、置換または非置換の炭素原子数1~12の1価炭化水素基であり、Rは上記一般式(1)で表される構造である。)
【0032】
は酸素原子または置換若しくは非置換の炭素原子数1~10の2価炭化水素基であり、炭素原子数1~10の2価炭化水素基としては上記Zと同様のものが例示できる。これらの中でも硬化後の耐久性の観点から炭素数1~6のアルキレン基が好ましく、特に炭素数1~3のアルキレン基が好ましい。Rは、それぞれ同一又は異なっていてもよい、置換または非置換の炭素原子数1~12の1価炭化水素基であり、Rは上記一般式(1)で表される構造である。
【0033】
pは10以上の整数であり、10~2,000の範囲であることが好ましく、100~1,000の範囲であることがより好ましい。この範囲であれば、硬化前の作業性、および硬化後の柔軟性が良好な組成物となる。
【0034】
qおよびrは0~3の整数であり、q+rは1~6の整数である。q+rは2~6の範囲であることが、硬化性の観点から好ましい。
【0035】
以下に(A)成分の具体例を示す。
【化6】
【化7】
【化8】
(式中、シロキサン単位の配列順は任意であってよい。)
【0036】
また、(A)成分として、下記式に示すMA単位、M単位、Q単位からなる分岐状のオルガノポリシロキサンも例示される。
【化9】
【化10】
【化11】
【0037】
(A)成分は、単一でも、2種以上を併用しても良い。
【0038】
<(B)成分>
(B)成分は、一分子中にケイ素原子に結合した水素原子を少なくとも2個含有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンであり、(D)成分の触媒の存在下で、(A)成分とヒドロシリル化反応(Si-Hの付加反応)を起こし、架橋剤として作用する成分である。
【0039】
(B)成分は、一分子中に少なくとも2個のケイ素原子結合水素原子(即ち、SiH基)を有し、好ましくは3~500個、より好ましくは3~200個、特に好ましくは3~100個有する。一分子中のケイ素原子数(または重合度)は、好ましくは2~1,000個、より好ましくは3~300個、特に好ましくは4~150個のものが使用される。上記のSiH基は、分子鎖末端および分子鎖非末端のいずれに位置していてもよく、この両方に位置するものであってもよい。
【0040】
このようなオルガノハイドロジェンポリシロキサンとしては、好ましくは、下記平均式(3)で表されるものが用いられる。
SiO(4-e-f)/2 (3)
【0041】
で表されるケイ素原子に結合している有機基の具体例としては、(A)成分においてRとして例示したもののうち、脂肪族不飽和結合を有しない1価炭化水素基等が挙げられ、好ましくは炭素原子数1~8のアルキル基およびアリール基であり、特に好ましくは、メチル基およびフェニル基である。
【0042】
e、fは、0.7≦e≦2.1、0.001≦f≦1.0、0.8≦e+f≦3.0を満たす正数であり、好ましくは、1.0≦e≦2.0、0.01≦f≦1.0、1.5≦e+f≦2.5を満たす正数である。
【0043】
(B)成分の25℃における粘度は、0.5~100,000mPa・sであることが好ましく、特に、10~5,000mPa・sであることが好ましい。このようなオルガノハイドロジェンポリシロキサンの分子構造は限定されず、例えば、直鎖状、分岐鎖状、一部分岐を有する直鎖状、環状、三次元網状等が挙げられる。
【0044】
(B)成分としては、例えば、1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1,3,5,7-テトラメチルシクロテトラシロキサン、メチルハイドロジェンシロキサン環状重合体、メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン環状共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルポリシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンポリシロキサン、分子鎖両末端トリメチルシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、分子鎖両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖ジメチルシロキサン・メチルハイドロジェンシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、両末端トリメチルシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジフェニルシロキサン・ジメチルシロキサン共重合体、両末端ジメチルハイドロジェンシロキシ基封鎖メチルハイドロジェンシロキサン・ジメチルシロキサン・ジフェニルシロキサン共重合体、(CHHSiO1/2単位と(CHSiO1/2単位とSiO4/2単位とからなる共重合体、(CHHSiO1/2単位とSiO4/2単位とからなる共重合体、(CHHSiO1/2単位とSiO4/2単位と(CSiO1/2単位とからなる共重合体等が挙げられる。
【0045】
以下に(B)成分の具体例を示す。
【化12】
【化13】
(式中、シロキサン単位の配列順は任意であってよい。)
【0046】
(B)成分の配合量は、(A)成分100質量部に対して0.1~20質量部が好ましく、より好ましくは0.5~20質量部、特に好ましくは1~10質量部である。
【0047】
このような範囲であれば、組成物の硬化不良による表面タックを抑制することができ、また、光ラジカル重合開始剤による硬化を阻害しない。
【0048】
なお、(A)成分以外の成分がアルケニル基等のヒドロシリル化可能な付加反応性炭素-炭素二重結合を有する場合には、本発明の組成物中の付加反応性炭素-炭素二重結合の合計数に対する(B)成分中のケイ素原子結合水素原子(即ち、SiH基)の合計数のモル比が、0.01~5.0倍、好ましくは0.1~4.0倍、特に好ましくは0.5~3.0倍となるように配合することが好ましい。
【0049】
(B)成分のオルガノハイドロジェンポリシロキサンは、一種単独で用いても二種以上を併用してもよい。
【0050】
<(C)成分>
(C)成分は、ラジカル重合反応による本発明の光硬化性シリコーン組成物の硬化を促進するための光ラジカル重合開始剤である。
【0051】
このような(C)成分としては、ベンゾインおよび置換ベンゾイン(例えば、アルキルエステル置換ベンゾイン)、ミカエル(Michler’s)ケトン、ベンゾフェノンおよび置換ベンゾフェノン、アセトフェノンおよび置換アセトフェノン、キサントンおよび置換キサントン等が挙げられる。
【0052】
(C)成分は、市販品を使用してもよく、2,2-ジエトキシアセトフェノン、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン(IGM Resins B.V.社製Omnirad 651)、1-ヒドロキシ-シクロヘキシル-フェニル-ケトン(IGM Resins B.V.社製Omnirad 184)、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン(IGM Resins B.V.社製Omnirad 1173)、2-ヒドロキシ-1-{4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチループロピオニル)-ベンジル]-フェニル}-2-メチループロパン-1-オン(BASF製IGM Resins B.V.社製Omnirad 127)、フェニルグリオキシリックアシッドメチルエステル(IGM Resins B.V.社製Omnirad MBF)、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン(IGM Resins B.V.社製Omnirad 907)、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-1-ブタノン(IGM Resins B.V.社製Omnirad 369)、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド(IGM Resins B.V.社製Omnirad 819)、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド(IGM Resins B.V.社製Omnirad TPO H)およびこれらの混合物等が挙げられる。
【0053】
これらのうち、(A)成分との相溶性の観点から好ましくは、2,2-ジエトキシアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン(IGM Resins B.V.社製Omnirad 1173)、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド(IGM Resins B.V.社製Omnirad 819)、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイド(IGM Resins B.V.社製Omnirad TPO H)である。
【0054】
(C)成分の配合量はラジカル重合を促進する量であれば限定されないが、(A)成分100質量部に対して好ましくは0.1~10質量部、より好ましくは0.2~8質量部、特に好ましくは0.5~6質量部である。
【0055】
<(D)成分>
(D)成分の波長200~500nmの光によって活性化される白金族金属触媒は、遮光下で不活性であり、かつ波長200~500nmの光を照射することにより活性な白金触媒に変化し、(A)成分中の付加反応性炭素-炭素二重結合と(B)成分中のSi-H基とのヒドロシリル化反応を促進する触媒である。
【0056】
このような(D)成分の具体例として、(η-シクロペンタジエニル)三脂肪族白金化合物、その誘導体等が挙げられる。これらのうち特に好適なものは、シクロペンタジエニルトリメチル白金錯体、メチルシクロペンタジエニルトリメチル白金錯体およびそれらのシクロペンタジエニル基が修飾された誘導体である。
【0057】
また、ビス(β-ジケトナト)白金化合物も好適な(D)成分の例として挙げられ、このうち特に好適なものは、ビス(アセチルアセトナト)白金化合物およびそのアセチルアセトナト基が修飾された誘導体である。
【0058】
(D)成分の配合量は、本発明の光硬化性シリコーン組成物の硬化(ヒドロシリル化反応)を促進する量であれば限定されず、(A)成分と(B)成分の質量の合計に対して、本(D)成分中の白金族金属原子が質量単位で0.01~1,000ppmの範囲となる量であることが好ましく、より好ましくは0.05~500ppm、特に好ましくは0.05~100ppmの範囲である。
【0059】
<その他の成分>
本発明の光硬化性シリコーン組成物は、特定の用途において所望されるような硬化または未硬化特性を改変させる他の成分も含むことができる。例えば、(メタ)アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、トリアルキル-またはトリアリル-イソシアヌレート、グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン等のような接着促進剤を、本発明の光硬化性シリコーン組成物の5質量%以下で使用することができる。他の任意成分として、粘度を調整したり、硬化物の硬さを調整したりする目的で、(メタ)アクリル基を有する化合物を、本発明の光硬化性シリコーン組成物の30質量%以下で添加することができる。そのような化合物としては、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、イソボルニルメタクリレートなどが挙げられる。さらに、非(メタ)アクリルシリコーン希釈剤または可塑剤を本発明の光硬化性シリコーン組成物の30質量%以下で使用することができる。非(メタ)アクリルシリコーン類としては、100~500Pa・sの粘度を有するトリメチルシリル末端化オイル、およびシリコーンゴムが例示される。非(メタ)アクリルシリコーン類は、ビニル基のような共硬化性基を含むことができる。
【0060】
また、本発明の光硬化性シリコーン組成物には、無機充填剤を添加しても良い。このような無機充填剤としては、ヒュームドシリカや結晶性シリカのような補強用シリカ類を例示することができ、未処理のまま(親水性)または処理して疎水性にしたものを用いることができる。実際には、任意の補強用ヒュームドシリカを使用できる。
【0061】
[調製方法]
本発明の光硬化性シリコーン組成物の調製方法は特に制限されず、上述の各成分を混合、撹拌、分散等を行うことにより調製することができる。混合、撹拌、分散等の装置としては、特に限定されるものではないが、撹拌、加熱装置を備えたライカイ機、3本ロール、ボールミル、プラネタリーミキサー、ビーズミル等を用いることができる。またこれら装置を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0062】
[硬化方法]
以上説明したように、本発明の光硬化性シリコーン組成物は、光の照射によって、ラジカル重合による硬化と(メタ)アクリル基とSi-Hの付加反応による硬化の両方により硬化できる。そのため、光ラジカル重合反応による秒単位の硬化が可能となるだけでなく、加熱無しに付加反応が進行して表面部分も良好に硬化するので、接着剤等に好適に用いることができる。
【0063】
本発明の光硬化性シリコーン組成物の硬化に用いる光源としては、特に制限されないが、UV線源が有用であり、特に、種々の紫外線波長帯域において紫外線エネルギーを発出するように設計された通常の水銀蒸気ランプが例示される。例えば、有用なUV線波長範囲として、220~400nmのものを好適に用いることができる。これらの光源は、(D)成分の白金触媒を活性化するのにも有効である。
【0064】
本発明の光硬化性シリコーン組成物の硬化に際し、使用される光源の照射強度は、30~2,000mW/cmが好ましく、照射線量は150~10,000mJ/cmが好ましい。照射時の温度は10~60℃が好ましく、より好ましくは20~40℃である。
【0065】
光により活性化した(D)成分によるヒドロシリル化は、通常、光ラジカル重合反応よりやや遅く、室温で数分~数日で進行する。ただし、光による活性化の後に、時間短縮のために最大200℃程度まで加温してヒドロシリル化反応を進行させても構わない。
【0066】
[用途]
本発明の光硬化性シリコーン組成物を各種基材に適用し、コーティング剤や接着剤として用いることができる。基材としては、複合材料、金属部材、プラスチック部材、セラミック部材、電気用途、電子用途、光学用途等のケーシングあるいは部材の被覆、注型、接着および封止の分野で使用されるもの等が使用可能である。
【0067】
本発明では、上述の光硬化性シリコーン組成物からなる接着剤を提供する。
【0068】
このような接着剤であれば、光の照射によって、ラジカル重合による硬化と(メタ)アクリル基とSi-Hの付加反応による硬化の両方により硬化できる。そのため、光ラジカル重合反応による秒単位の硬化が可能となるだけでなく、加熱無しに付加反応が進行して表面部分も良好に硬化する。従って、接着剤として優れた機能を発揮できる。
【0069】
また、本発明の光硬化性シリコーン組成物に光を当てることで、該光硬化性シリコーン組成物の硬化物を与えることができる。この硬化物は表面及び深部を問わず、全体が硬化したものである。
【0070】
このような硬化物であれば、表面の硬化性に優れるためタック感が無いものとなる。
【実施例
【0071】
以下に実施例と比較例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に限定されるものではない。なお、分子量はゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)における標準ポリスチレン換算の重量平均分子量である。25℃における粘度は回転粘度計による測定値である。
【0072】
また、各シロキサン単位の略号の意味は下記のとおりである。
【化14】
【化15】
【化16】
【化17】
【化18】
【化19】
【化20】
【0073】
[実施例1~4、比較例1~4]
下記成分を用意し、表1に示す組成のシリコーン組成物を調製した。
【0074】
(A)成分:
(A-1)
構成単位数の比が3MA単位:D単位=2:300であり、25℃における粘度が1.9Pa・sのオルガノポリシロキサン
(A-2)
構成単位数の比が3MA単位:D単位:D2Φ単位=2:390:43であり、25℃における粘度が10.0Pa・sのオルガノポリシロキサン
(A-3)
構成単位数の比がMA単位:M単位:Q単位=1:4:6であり、重量平均分子量が5,000であり、25℃において固体のオルガノポリシロキサン
【0075】
(B)成分
構成単位数の比がM単位:D単位:D単位=2:17:45であり、25℃における粘度が50mPa・sのオルガノハイドロジェンポリシロキサン。
【0076】
(C)成分
2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン(IGM Resins B.V.社製Omnirad 1173)
【0077】
(D)成分:
(D-1)
白金元素の含有量が0.5質量%である、メチルシクロペンタジエニルトリメチル白金錯体のトルエン溶液
(D-2)
白金元素の含有量が0.5質量%である、ビス(アセチルアセトナート)白金(II)の酢酸2-(ブトキシエトキシ)エチル溶液
(D-3)
白金元素の含有量が0.5質量%である、白金1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体のトルエン溶液
【0078】
(E)成分
付加反応制御剤:1-エチニルシクロヘキサノール
【0079】
【表1】
【0080】
実施例1~4、比較例1~4で得られた光硬化性シリコーン組成物について、下記の評価を行い、結果を表2に示した。なお、組成物の硬化には、アイグラフィックス株式会社製のランプH(M)06-L-61を用いて、空気中で3,000mJ/cmの紫外線照射を行った。また、硬化物の厚みは6.0mmとなるように調整した。
【0081】
[保存性]
組成物を25℃、遮光、密閉の環境下で静置し、翌日の流動性を確認した。流動性があるものを保存性あり、硬化していたものを保存性なしとした。
【0082】
[硬化性]
組成物に光照射を行った直後の性状を確認した。固化していたものを良好、液状を維持していたものを不良とした。
【0083】
[硬さ]
組成物に光照射を行った後、25℃の環境下で24時間静置し、その直後の25℃環境下での硬さを、デュロメータータイプA硬度計を用いて測定した。
【0084】
[タック感]
組成物に光照射を行った後、25℃の環境下で24時間静置し、その直後の25℃環境下での表面タックを指触にて評価した。
【0085】
【表2】
【0086】
表2に示すように、実施例1~4の光硬化性シリコーン組成物は、遮光環境下、室温における保存性が良好であり、適当な光照射を行うと、照射中に固化するほど硬化性が良く、得られた硬化物は室温で付加反応が進行するため表面のタック感が無くなるといった特徴を示すことが分かる。
【0087】
一方、本発明の(D)成分を使用しなかった比較例1は表面の硬化性が悪いためタック感が消えず、本発明の(C)成分を使用しなかった比較例2では、光照射直後に固化していなかった。また、本発明の(D)成分を熱によって活性化する白金成分に変えた比較例3では、室温で硬化性をコントロールできないため保存性に劣り、比較例3から保存性を改善するため(E)成分の付加反応制御剤を増量した比較例4では、(メタ)アクリル基とSi-Hの付加反応が進まず表面硬化性の悪いものとなった。
【0088】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。