(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-27
(45)【発行日】2024-01-11
(54)【発明の名称】生体電極組成物、生体電極、及び生体電極の製造方法
(51)【国際特許分類】
A61B 5/268 20210101AFI20231228BHJP
C08F 220/38 20060101ALI20231228BHJP
C08L 83/06 20060101ALI20231228BHJP
C08L 83/05 20060101ALI20231228BHJP
C08L 83/07 20060101ALI20231228BHJP
C08K 3/04 20060101ALI20231228BHJP
C08K 3/08 20060101ALI20231228BHJP
C08K 3/34 20060101ALI20231228BHJP
C08K 3/24 20060101ALI20231228BHJP
C08L 33/16 20060101ALI20231228BHJP
【FI】
A61B5/268
C08F220/38
C08L83/06
C08L83/05
C08L83/07
C08K3/04
C08K3/08
C08K3/34
C08K3/24
C08L33/16
(21)【出願番号】P 2020126495
(22)【出願日】2020-07-27
【審査請求日】2022-07-28
(31)【優先権主張番号】P 2019211263
(32)【優先日】2019-11-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】畠山 潤
(72)【発明者】
【氏名】岩淵 元亮
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 修
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 幸士
(72)【発明者】
【氏名】黒田 泰嘉
【審査官】佐々木 創太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-011454(JP,A)
【文献】特開2018-110845(JP,A)
【文献】特開2018-099504(JP,A)
【文献】特開2019-141412(JP,A)
【文献】特開2019-180467(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0197653(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/05 - 5/0538
A61B 5/24 - 5/398
C08C 19/00 - 19/44
C08F 6/00 - 246/00
C08F 301/00
C08K 3/00 - 13/08
C08L 1/00 - 101/14
H01B 1/00 - 1/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン性材料(A)を含有する生体電極組成物であって、
前記イオン性材料(A)が、
フルオロスルホン酸、フルオロスルホンイミド、及びN-カルボニルフルオロスルホンアミドのうちのいずれかのアンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、及び銀塩から選ばれる構造を有する繰り返し単位aと、
前記繰り返し単位aとは異なる、フッ素原子を有する繰り返し単位bと
を含有する高分子化合物(A-1)と、
フルオロスルホン酸、フルオロスルホンイミド、及びN-カルボニルフルオロスルホンアミドのうちのいずれかのアンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、及び銀塩から選ばれる構造を有する繰り返し単位a’と、珪素原子を有する繰り返し単位gとを含有する高分子化合物(A-2)と
の混合物を含むものであることを特徴とする生体電極組成物。
【請求項2】
前記繰り返し単位aが、下記一般式(1)-1~(1)-4のいずれかで示される構造を有するものであることを特徴とする請求項1に記載の生体電極組成物。
【化1】
(式(1)-1中、Rf
1及びRf
2は、水素原子、フッ素原子、酸素原子、メチル基、又はトリフルオロメチル基であり、Rf
1及びRf
2が酸素原子である場合、Rf
1及びRf
2は、1つの炭素原子に結合してカルボニル基を形成する1つの酸素原子であり、Rf
3及びRf
4は、水素原子、フッ素原子、又はトリフルオロメチル基であり、Rf
1~Rf
4のうち1つ以上はフッ素原子又はトリフルオロメチル基である。
式(1)-2、式(1)-3及び式(1)-4中、Rf
5、Rf
6及びRf
7は、それぞれ、フッ素原子、炭素数1~4の直鎖状又は分岐状のアルキル基であり、少なくとも1つ以上のフッ素原子を有する。
式(1)-1~式(1)-4中、M
+は、アンモニウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、及び銀イオンから選択されるイオンである。
式(1)-2中、mは、1~4の整数である)。
【請求項3】
前記繰り返し単位aが、下記一般式(2)に示される繰り返し単位a1~a7から選ばれる1種以上を有する繰り返し単位であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の生体電極組成物。
【化2】
(式(2)中、R
1、R
3、R
5、R
8、R
10、R
11、及びR
13は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、R
2、R
4、R
6、R
9、及びR
12は、それぞれ独立に単結合、エステル基、又は炭素数が1~12の直鎖状、分岐状もしくは環状の炭化水素基である。前記炭化水素基は、エーテル基、エステル基又はこれらの両方を有していてもよい。R
7は、炭素数が1~4の直鎖状又は分岐状のアルキレン基であり、R
7中の水素原子のうち、1個又は2個がフッ素原子で置換されていてもよい。X
1、X
2、X
3、X
4、X
6、及びX
7は、それぞれ独立に単結合、フェニレン基、ナフチレン基、エーテル基、エステル基、及びアミド基のいずれかであり、X
5は、単結合、エーテル基、及びエステル基のいずれかである。Yは、酸素原子又は-NR
19-基であり、R
19は、水素原子、又は炭素数が1~4の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基であり、mは1~4の整数である。a1、a2、a3、a4、a5、a6、a7は、0≦a1≦1.0、0≦a2≦1.0、0≦a3≦1.0、0≦a4≦1.0、0≦a5≦1.0、0≦a6≦1.0、0≦a7≦1.0であり、0<a1+a2+a3+a4+a5+a6+a7≦1.0である。M
+はアンモニウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、及び銀イオンから選択されるイオンである。Rf
1’はフッ素原子又はトリフルオロメチル基である。)。
【請求項4】
前記高分子化合物(A-1)が、前記M
+として、下記一般式(3)で示されるアンモニウムイオンを含有するものであることを特徴とする
請求項2又は請求項3に記載の生体電極組成物。
【化3】
(式中、R
101d、R
101e、R
101f、及びR
101gは、それぞれ、水素原子、炭素数が1~12の直鎖状、分岐状、もしくは環状のアルキル基、炭素数が2~12の直鎖状、分岐状、もしくは環状のアルケニル基もしくはアルキニル基、又は炭素数が4~20の芳香族基であり、エーテル基、カルボニル基、エステル基、ヒドロキシ基、アミノ基、ニトロ基、スルホニル基、スルフィニル基、ハロゲン原子、及び硫黄原子から選ばれる1種以上を有していてもよい。R
101d及びR
101e、又はR
101d、R
101e及びR
101fは、これらが結合する窒素原子とともに環を形成してもよく、環を形成する場合には、R
101d及びR
101e、又はR
101d、R
101e及びR
101fは、炭素数が3~10のアルキレン基であるか、又は式(3)中の窒素原子を環の中に有する複素芳香族環を形成する。)。
【請求項5】
前記繰り返し単位bが下記一般式(4)で示されるものであることを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の生体電極組成物。
【化4】
(式中、R
20は水素原子又はメチル基であり、Yはフェニレン基、エステル基、又はアミド基であり、R
21はフッ素原子、炭素数が1~12の直鎖状、分岐状、もしくは環状のアルキル基、炭素数が2~12の直鎖状、分岐状、もしくは環状のアルケニル基もしくはアルキニル基、又は炭素数4~20の芳香族基であり、エーテル基、カルボニル基、エステル基、ヒドロキシ基、アミノ基、ニトロ基、スルホニル基、スルフィニル基、スルホンアミド基、ハロゲン原子、及び硫黄原子から選ばれる1種以上を有していてもよく、少なくとも1つ以上のフッ素原子を有する。pは1~5の整数である。)。
【請求項6】
前記高分子化合物(A-1)と前記高分子化合物(A-2)との混合割合(A-1)/((A-1)+(A-2))が、0.01~0.5の範囲であることを特徴とする請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の生体電極組成物。
【請求項7】
前記生体電極組成物が、前記イオン性材料(A)とは異なる樹脂成分(B)を更に含有するものであることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の生体電極組成物。
【請求項8】
前記樹脂成分(B)は、R
xSiO
(4-x)/2単位(Rは炭素数1~10の置換又は非置換の一価炭化水素基であり、xは2.5~3.5の範囲である。)及びSiO
2単位を有するシリコーン樹脂、アルケニル基を有するジオルガノシロキサン、並びにSiH基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンのいずれかを含有するものであることを特徴とする請求項7に記載の生体電極組成物。
【請求項9】
前記生体電極組成物が、更に有機溶剤を含有するものであることを特徴とする請求項1から請求項8のいずれか一項に記載の生体電極組成物。
【請求項10】
カーボン粉、銀粉、珪素粉、及び/又はチタン酸リチウム粉を更に含有するものであることを特徴とする請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の生体電極組成物。
【請求項11】
前記カーボン粉が、カーボンブラック及びカーボンナノチューブのいずれか又は両方であることを特徴とする請求項10に記載の生体電極組成物。
【請求項12】
導電性基材と、
該導電性基材上に形成された生体接触層と
を有する生体電極であって、
前記生体接触層が、請求項1から請求項11のいずれか一項に記載の生体電極組成物の硬化物を含むものであることを特徴とする生体電極。
【請求項13】
硬化後の前記生体接触層表面に、前記高分子化合物(A-1)が配向しているものであることを特徴とする請求項12に記載の生体電極。
【請求項14】
前記導電性基材が、金、銀、塩化銀、白金、アルミニウム、マグネシウム、スズ、タングステン、鉄、銅、ニッケル、ステンレス、クロム、チタン、及び炭素から選ばれる1種以上を含むものであることを特徴とする請求項12又は請求項13に記載の生体電極。
【請求項15】
導電性基材と該導電性基材上に形成された生体接触層とを有する生体電極の製造方法であって、
前記導電性基材上に、請求項1から請求項11のいずれか一項に記載の生体電極組成物を塗布して塗膜を得ることと、
前記塗膜を硬化させることで前記生体接触層を形成することと
を特徴とする生体電極の製造方法。
【請求項16】
前記導電性基材として、金、銀、塩化銀、白金、アルミニウム、マグネシウム、スズ、タングステン、鉄、銅、ニッケル、ステンレス、クロム、チタン、及び炭素から選ばれる1種以上を含むものを用いることを特徴とする請求項15に記載の生体電極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体電極組成物、生体電極、該生体電極の製造方法及び高分子化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、IoT(Internet of Things)の普及と共にウェアラブルデバイスの開発が進んでいる。インターネットに接続できる時計や眼鏡がその代表例である。また、医療分野やスポーツ分野においても、体の状態を常時モニタリングできるウェアラブルデバイスが必要とされており、今後の成長分野である。
【0003】
医療分野では、例えば電気信号によって心臓の動きを感知する心電図測定のように、微弱電流のセンシングによって体の臓器の状態をモニタリングするウェアラブルデバイスが検討されている。心電図の測定では、導電ペーストを塗った電極を体に装着して測定を行うが、これは1回だけの短時間の測定である。これに対し、上記のような医療用のウェアラブルデバイスの開発が目指すのは、数週間連続して常時健康状態をモニターするデバイスの開発である。従って、医療用ウェアラブルデバイスに使用される生体電極には、長時間使用した場合にも導電性の変化がないことや肌アレルギーがないことが求められる。また、これらに加えて、軽量であること、低コストで製造できることも求められている。
【0004】
医療用ウェアラブルデバイスとしては、体に貼り付けるタイプと、衣服に組み込むタイプがあり、体に貼り付けるタイプとしては、上記の導電ペーストの材料である水と電解質を含む水溶性ゲルを用いた生体電極が提案されている(特許文献1)。水溶性ゲルは、水を保持するための水溶性ポリマー中に、電解質としてナトリウム、カリウム、カルシウムを含んでおり、肌からのイオン濃度の変化を電気に変換する。一方、衣服に組み込むタイプとしては、PEDOT-PSS(Poly-3,4-ethylenedioxythiophene-Polystyrenesulfonate)のような導電性ポリマーや銀ペーストを繊維に組み込んだ布を電極に使う方法が提案されている(特許文献2)。
【0005】
しかしながら、上記の水と電解質を含む水溶性ゲルを使用した場合には、乾燥によって水がなくなると導電性がなくなってしまうという問題があった。一方、銅等のイオン化傾向の高い金属を使用した場合には、人によっては肌アレルギーを引き起こすリスクがあるという問題があり、PEDOT-PSSのような導電性ポリマーを使用した場合にも、導電性ポリマーの酸性が強いために肌アレルギーを引き起こすリスクがあるという問題、洗濯中に繊維から導電ポリマーが剥がれ落ちる問題があった。
【0006】
また、優れた導電性を有することから、金属ナノワイヤー、カーボンブラック、及びカーボンナノチューブ等を電極材料として使用することも検討されている(特許文献3、4、5)。金属ナノワイヤーはワイヤー同士の接触確率が高くなるため、少ない添加量で通電することができる。しかしながら、金属ナノワイヤーは先端が尖った細い材料であるため、肌アレルギー発生の原因となる。また、カーボンナノチューブも同様の理由で生体への刺激性がある。カーボンブラックはカーボンナノチューブほどの毒性はないものの、肌に対する刺激性が若干ある。このように、そのもの自体がアレルギー反応を起こさなくても、材料の形状や刺激性によって生体適合性が悪化する場合があり、導電性と生体適合性を両立させることは困難であった。
【0007】
金属膜は導電性が非常に高いために優れた生体電極として機能すると思われるが、必ずしもそうではない。心臓の鼓動によって肌から放出されるのは微弱電流だけではなく、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオンである。このためイオンの濃度変化を電流に変える必要があるが、イオン化しづらい貴金属は肌からのイオンを電流に変える効率が悪い。よって貴金属を使った生体電極はインピーダンスが高く、肌との通電は高抵抗である。
【0008】
イオン性のポリマーを添加した生体電極が提案されている(特許文献6、7、8)。シリコーン粘着剤にイオンポリマーとカーボン粉を添加して混合した生体電極は粘着性を有し、撥水性が高いためにシャワーを浴びたり汗をかいた状態で長時間肌に貼り付けても安定的に生体信号を採取することが可能である。イオンポリマーは肌を通過しないために肌への刺激性がなく生体適合性が高く、これによっても長時間の装着を可能とする生体電極である。
【0009】
シリコーンは本来絶縁物であるが、イオンポリマーとカーボン粉との組み合わせによってイオン導電性が向上し、生体電極として機能するのである。しかしながら、更なるイオン導電性の向上による性能の向上が求められている。
【0010】
肌に接触する生体電極の表面側のイオンポリマーの濃度が低いと、イオン導電性が十分ではなく、生体信号の強度が低い問題が生じる。生体電極膜表面のイオン濃度を高めるための材料設計が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】国際公開第WO2013-039151号パンフレット
【文献】特開2015-100673号公報
【文献】特開平5-095924号公報
【文献】特開2003-225217号公報
【文献】特開2015-019806号公報
【文献】特開2018-99504号公報
【文献】特開2018-126496号公報
【文献】特開2018-130533号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、導電性に優れ、水に濡れた場合及び乾燥した場合に導電性が大幅に低下することを防ぐことができる生体電極用の生体接触層を形成できる生体電極組成物、該生体電極組成物で形成した生体接触層を含んだ生体電極、該生体電極の製造方法、及び導電性に優れ、水に濡れた場合及び乾燥した場合に導電性が大幅に低下することを防ぐことができる生体電極用の生体接触層を形成できる高分子化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を達成するために、本発明では、イオン性材料(A)を含有する生体電極組成物であって、前記イオン性材料(A)が、フルオロスルホン酸、フルオロスルホンイミド、及びN-カルボニルフルオロスルホンアミドのうちのいずれかのアンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、及び銀塩から選ばれる構造を有する繰り返し単位aと、前記繰り返し単位aとは異なる、フッ素原子を有する繰り返し単位bとを含有する高分子化合物(A-1)を含むものであることを特徴とする生体電極組成物を提供する。
【0014】
このような生体電極組成物であれば、導電性及び生体適合性に優れ、軽量であり、かつ低コストで製造することができ、水に濡れた場合及び乾燥した場合に導電性が大幅に低下することを防ぐことができる生体電極用の生体接触層を形成できる。
【0015】
前記繰り返し単位aが、下記一般式(1)-1~(1)-4のいずれかで示される構造を有するものであることが好ましい。
【化1】
【0016】
式(1)-1中、Rf1及びRf2は、水素原子、フッ素原子、酸素原子、メチル基、又はトリフルオロメチル基であり、Rf1及びRf2が酸素原子である場合、Rf1及びRf2は、1つの炭素原子に結合してカルボニル基を形成する1つの酸素原子であり、Rf3及びRf4は、水素原子、フッ素原子、又はトリフルオロメチル基であり、Rf1~Rf4のうち1つ以上はフッ素原子又はトリフルオロメチル基である。
式(1)-2、式(1)-3及び式(1)-4中、Rf5、Rf6及びRf7は、それぞれ、フッ素原子、炭素数1~4の直鎖状又は分岐状のアルキル基であり、少なくとも1つ以上のフッ素原子を有する。
式(1)-1~式(1)-4中、M+は、アンモニウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、及び銀イオンから選択されるイオンである。
式(1)-2中、mは、1~4の整数である。
【0017】
繰り返し単位aがこのような構造を有するものであれば、導電性及び生体適合性により優れ、軽量であり、かつ低コストで製造することができ、水に濡れた場合及び乾燥した場合に導電性が大幅に低下することを防ぐことができる生体電極用の生体接触層を形成できる生体電極組成物とすることができる。
【0018】
前記繰り返し単位aが、下記一般式(2)に示される繰り返し単位a1~a7から選ばれる1種以上を有する繰り返し単位であることがより好ましい。
【化2】
【0019】
式(2)中、R1、R3、R5、R8、R10、R11、及びR13は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、R2、R4、R6、R9、及びR12は、それぞれ独立に単結合、エステル基、又は炭素数が1~12の直鎖状、分岐状もしくは環状の炭化水素基である。前記炭化水素基は、エーテル基、エステル基又はこれらの両方を有していてもよい。R7は、炭素数が1~4の直鎖状又は分岐状のアルキレン基であり、R7中の水素原子のうち、1個又は2個がフッ素原子で置換されていてもよい。X1、X2、X3、X4、X6、及びX7は、それぞれ独立に単結合、フェニレン基、ナフチレン基、エーテル基、エステル基、及びアミド基のいずれかであり、X5は、単結合、エーテル基、及びエステル基のいずれかである。Yは、酸素原子又は-NR19-基であり、R19は、水素原子、又は炭素数が1~4の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基であり、mは1~4の整数である。a1、a2、a3、a4、a5、a6、a7は、0≦a1≦1.0、0≦a2≦1.0、0≦a3≦1.0、0≦a4≦1.0、0≦a5≦1.0、0≦a6≦1.0、0≦a7≦1.0であり、0<a1+a2+a3+a4+a5+a6+a7≦1.0である。M+はアンモニウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、及び銀イオンから選択されるイオンである。Rf1’はフッ素原子又はトリフルオロメチル基である。
【0020】
繰り返し単位aがこのような構造を有するものであれば、導電性及び生体適合性に更に優れ、軽量であり、かつ低コストで製造することができ、水に濡れた場合及び乾燥した場合に導電性が大幅に低下することを防ぐことができる生体電極用の生体接触層を形成できる生体電極組成物とすることができる。
【0021】
前記高分子化合物(A-1)が、前記M
+として、下記一般式(3)で示されるアンモニウムイオンを含有するものであることが好ましい。
【化3】
【0022】
式中、R101d、R101e、R101f、及びR101gは、それぞれ、水素原子、炭素数が1~12の直鎖状、分岐状、もしくは環状のアルキル基、炭素数が2~12の直鎖状、分岐状、もしくは環状のアルケニル基もしくはアルキニル基、又は炭素数が4~20の芳香族基であり、エーテル基、カルボニル基、エステル基、ヒドロキシ基、アミノ基、ニトロ基、スルホニル基、スルフィニル基、ハロゲン原子、及び硫黄原子から選ばれる1種以上を有していてもよい。R101d及びR101e、又はR101d、R101e及びR101fは、これらが結合する窒素原子とともに環を形成してもよく、環を形成する場合には、R101d及びR101e、又はR101d、R101e及びR101fは、炭素数が3~10のアルキレン基であるか、又は式(3)中の窒素原子を環の中に有する複素芳香族環を形成する。
【0023】
このようなアンモニウムイオンを含有する高分子化合物(A-1)を含むものであれば、導電性及び生体適合性に更に優れ、軽量であり、かつ低コストで製造することができ、水に濡れた場合及び乾燥した場合に導電性が大幅に低下することを防ぐことができる生体電極用の生体接触層を形成できる生体電極組成物とすることができる。
【0024】
前記繰り返し単位bが下記一般式(4)で示されるものであることが好ましい。
【化4】
【0025】
式中、R20は水素原子又はメチル基であり、Yはフェニレン基、エステル基、又はアミド基であり、R21はフッ素原子、炭素数が1~12の直鎖状、分岐状、もしくは環状のアルキル基、炭素数が2~12の直鎖状、分岐状、もしくは環状のアルケニル基もしくはアルキニル基、又は炭素数4~20の芳香族基であり、エーテル基、カルボニル基、エステル基、ヒドロキシ基、アミノ基、ニトロ基、スルホニル基、スルフィニル基、スルホンアミド基、ハロゲン原子、及び硫黄原子から選ばれる1種以上を有していてもよく、少なくとも1つ以上のフッ素原子を有する。pは1~5の整数である。
【0026】
このような繰り返し単位bを含有する高分子化合物(A-1)を含むものであれば、水に濡れた場合及び乾燥した場合に導電性が大幅に低下することをさらに防ぐことができる生体電極を提供できる。
【0027】
本発明の生体電極組成物は、上述の高分子化合物(A-1)と、高分子化合物(A-2)との混合物を含むものであることが好ましい。高分子化合物(A-2)は、フルオロスルホン酸、フルオロスルホンイミド、及びN-カルボニルフルオロスルホンアミドのうちのいずれかのアンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、及び銀塩から選ばれる構造を有する繰り返し単位a’と、珪素原子を有する繰り返し単位gとを含有する。
【0028】
このような生体電極組成物から形成した生体接触層(生体電極膜)を含んだ生体電極では、生体接触層の表面に加え、生体接触層の内部においても高いイオン導電性を発現することができる。
【0029】
前記高分子化合物(A-1)と前記高分子化合物(A-2)との混合割合(A-1)/((A-1)+(A-2))は、0.01~0.5の範囲であることがより好ましい。
【0030】
このようなイオン性材料(A)を含む生体電極組成物を用いることにより、より高いイオン導電性を発現することができる生体電極を提供できる。
【0031】
前記生体電極組成物は、前記イオン性材料(A)とは異なる樹脂成分(B)を更に含有するものであってもよい。
【0032】
生体接触層に付与しようとする特性に合わせて、生体電極組成物に含ませる樹脂成分(B)を選択することができる。
【0033】
前記樹脂成分(B)は、例えば、RxSiO(4-x)/2単位(Rは炭素数1~10の置換又は非置換の一価炭化水素基であり、xは2.5~3.5の範囲である。)及びSiO2単位を有するシリコーン樹脂、アルケニル基を有するジオルガノシロキサン、並びにSiH基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンのいずれかを含有するものである。
【0034】
このような樹脂成分(B)は、イオン性材料(A)と相溶して塩の溶出を防ぐことができるとともに、生体電極組成物により高い粘着性を付与できる。
【0035】
前記生体電極組成物は、更に有機溶剤を含有してもよい。
【0036】
有機溶剤を含む生体電極組成物は、高い塗布性を示すことができる。
【0037】
生体電極組成物は、カーボン粉、銀粉、珪素粉、及び/又はチタン酸リチウム粉を更に含有してもよい。
【0038】
カーボン粉及び銀粉は、導電性向上剤として働き、生体電極組成物から形成される生体接触層に、より優れた導電性を付与できる。ケイ素粉及びチタン酸リチウム粉は、生体電極組成物から形成される生体接触層のイオン受容の感度を高めることができる。
【0039】
前記カーボン粉は、例えば、カーボンブラック及びカーボンナノチューブのいずれか又は両方である。
【0040】
このようなカーボン粉を含ませることにより、より高い導電性を提供できる。
【0041】
また、本発明では、導電性基材と、該導電性基材上に形成された生体接触層とを有する生体電極であって、前記生体接触層が、上述の生体電極組成物の硬化物を含むものである生体電極を提供する。
【0042】
本発明の生体電極は、上述の生体電極組成物の硬化物を含む生体接触層を有するので、優れた導電性及び生体適合性導電性を示すことができ、軽量であり、かつ低コストで製造することができ、水に濡れた場合及び乾燥した場合に導電性が大幅に低下することを防ぐことができる。
【0043】
上記生体電極では、硬化後の前記生体接触層表面に、前記高分子化合物(A-1)が配向しているものであることが好ましい。
【0044】
このような生体電極は、生体からの電気信号に対するより高い感度を示すことができる。
【0045】
前記導電性基材は、例えば、金、銀、塩化銀、白金、アルミニウム、マグネシウム、スズ、タングステン、鉄、銅、ニッケル、ステンレス、クロム、チタン、及び炭素から選ばれる1種以上を含むものとすることができる。
【0046】
このように、本発明の生体電極では、様々な導電性基材を用いることができる。
【0047】
また、本発明では、導電性基材と該導電性基材上に形成された生体接触層とを有する生体電極の製造方法であって、前記導電性基材上に、上述の生体電極組成物を塗布して塗膜を得ることと、前記塗膜を硬化させることで前記生体接触層を形成することとを特徴とする生体電極の製造方法を提供する。
【0048】
このような製造方法によれば、優れた導電性及び生体適合性を示すことができ、軽量であり、水に濡れた場合及び乾燥した場合に導電性が大幅に低下することを防ぐことができる生体電極を、低コストで容易に製造できる。
【0049】
前記導電性基材として、例えば、金、銀、塩化銀、白金、アルミニウム、マグネシウム、スズ、タングステン、鉄、銅、ニッケル、ステンレス、クロム、チタン、及び炭素から選ばれる1種以上を含むものを用いることができる。
【0050】
このように、本発明の生体電極の製造方法では、様々な導電性基材を用いることができる。
【0051】
また、本発明では、下記一般式(5)で示される繰り返し単位を含むものであることを特徴とする高分子化合物を提供する。
【化5】
【0052】
式中、R13は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基である。X7は、フェニレン基、ナフチレン基、エーテル基、エステル基、及びアミド基のいずれかである。M+はアンモニウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、及び銀イオンから選択されるイオンである。Rf1’は、フッ素原子、又はトリフルオロメチル基である。R20は、水素原子、メチル基である。Yは、フェニレン基、エステル基、アミド基である。R21は、フッ素原子、炭素数が1~12の直鎖状、分岐状、もしくは環状のアルキル基、炭素数が2~12の直鎖状、分岐状、もしくは環状のアルケニル基もしくはアルキニル基、又は炭素数4~20の芳香族基であり、エーテル基、カルボニル基、エステル基、ヒドロキシ基、アミノ基、ニトロ基、スルホニル基、スルフィニル基、スルホンアミド基、ハロゲン原子、及び硫黄原子から選ばれる1種以上を有していてもよく、少なくとも1つ以上のフッ素原子を有する。pは1~5の整数である。M+は、アンモニウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、及び銀イオンから選択されるイオンである。0<a7<1.0、0<b<1.0である。
【0053】
このような高分子化合物を用いることにより、導電性及び生体適合性に優れ、軽量であり、かつ低コストで製造することができ、水に濡れた場合及び乾燥した場合に導電性が大幅に低下することを防ぐことができる生体電極用の生体接触層を形成できる。
【0054】
本発明の高分子化合物は、例えば、下記一般式(6)で示される繰り返し単位を含むものであることができる。
【化6】
【0055】
式中、R22は、水素原子又はメチル基である。Zは、フェニレン基、エステル基、又はアミド基である。R23は、炭素数3~30の直鎖状又は分岐状のアルキル基であり、少なくとも1つ以上のエーテル基又はラクトン環を有する。R13、X7、M+、Rf1’、R20、R21、Y、及びpは前述の通りである。0<a7<1.0、0<b<1.0、0<c<1.0である。
【0056】
このような繰り返し単位cを含む高分子化合物は、肌から放出されたイオンが生体接触膜内で移動するのを促進することができ、かくして生体電極の感度を高めることができる。
【発明の効果】
【0057】
以上のように、本発明の生体電極組成物であれば、導電性及び生体適合性に優れ、軽量であり、低コストで製造することができ、水に濡れた場合及び乾燥した場合に導電性が大幅に低下することを防ぐことができる生体電極用の生体接触層を形成することができる。このような生体接触層を含んだ生体電極は、導電性に優れるため、生体、例えば肌からの電気信号を効率良くデバイスに伝えることができる。
【0058】
また、本発明の生体電極であれば、上述の本発明の生体電極組成物の硬化物で生体接触層が形成されるため、導電性及び生体適合性に優れ、軽量であり、低コストで製造することができ、水に濡れた場合及び乾燥した場合に導電性が大幅に低下することを防ぐことができる生体電極とすることができる。このような生体電極は、導電性に優れるため、生体、例えば肌からの電気信号を効率良くデバイスに伝えることができる。
【0059】
また、本発明の生体電極の製造方法であれば、導電性及び生体適合性に優れ、軽量であり、水に濡れた場合及び乾燥した場合に導電性が大幅に低下することを防ぐことができる本発明の生体電極を、低コストで容易に製造することができる。
【0060】
また、本発明の高分子化合物であれば、導電性及び生体適合性に優れ、軽量であり、低コストで製造することができ、水に濡れた場合及び乾燥した場合に導電性が大幅に低下することを防ぐことができる生体電極用の生体接触層を形成することができる。このような生体接触層を含んだ生体電極は、導電性に優れるため、生体、例えば肌からの電気信号を効率良くデバイスに伝えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【
図1】本発明の生体電極組成物の硬化物を含む生体電極の一例を示す概略断面図である。
【
図2】
図1の生体電極を生体に装着した場合の一例を示す概略断面図である。
【
図3】本発明の実施例で作製した生体電極を(a)生体接触層側から見た概略図及び(b)導電性基材側から見た概略図である。
【
図4】本発明の実施例及び比較例で作製した生体電極を用いて、肌表面でのインピーダンスを測定している写真である。
【発明を実施するための形態】
【0062】
上述のように、導電性及び生体適合性に優れ、軽量であり、かつ低コストで製造することができ、水に濡れた場合及び乾燥した場合に導電性が大幅に低下することを防ぐことができる生体電極用の生体接触層を形成できる生体電極組成物、該生体電極組成物で生体接触層を形成した生体電極、及び該生体電極の製造方法の開発が求められていた。
【0063】
心臓の鼓動に連動して肌表面からナトリウム、カリウム、及び/又はカルシウムイオンが放出される。生体電極は、肌から放出されたこれらのイオンの増減を電気信号に変換する必要がある。そのため、生体電極を作製するには、イオンの増減を伝達するためのイオン導電性に優れた材料が必要である。
【0064】
本発明者らは、高イオン導電性の材料としてイオン性液体に着目した。イオン性液体は熱的安定性及び化学的安定性が高く、導電性に優れるという特徴を有しており、バッテリー用途への応用が広がっている。また、イオン性液体としては、スルホニウム、ホスホニウム、アンモニウム、モルホリニウム、ピリジニウム、ピロリジニウム、及びイミダゾリウムの塩酸塩、臭化水素塩、ヨウ化水素塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩、ノナフルオロブタンスルホン酸塩、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸塩、ヘキサフルオロホスファート塩、及びテトラフルオロボラート塩等が知られている。しかしながら、一般的にこれらの塩(特に分子量の小さいもの)は水和性が高いため、これらの塩を添加した生体電極組成物を用いて形成した生体接触層を含んだ生体電極は、汗や洗濯によって塩が抽出され、導電性が低下する欠点があった。また、テトラフルオロボラート塩は毒性が高く、他の塩は水溶性が高いために肌の中に容易に浸透してしまい肌荒れが生じる(つまり、肌に対する刺激性が強い)という問題があった。
【0065】
中和塩を形成する酸の酸性度が高いとイオンが強く分極し、イオン導電性が向上する。リチウムイオン電池の電解質として、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド酸やトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチド酸のリチウム塩が高いイオン導電性を示すのはこのためである。一方、中和塩になる前の酸の状態での酸強度が高くなればなるほど、この酸から形成される塩はより高い生体刺激性を示すという問題がある。つまり、イオン導電性と生体刺激性とはトレードオフの関係である。しかしながら、生体電極に適用する塩では、高イオン導電特性と低生体刺激性とが両立されなければならない。
【0066】
イオン性化合物は、分子量が大きくなればなるほど肌への浸透性が低下し、肌への刺激性が低下するという特性を有する。低刺激性を達成するには、イオン性化合物は、高分子量のポリマー型が好ましい。このことを踏まえて鋭意研究した結果、本発明者らは、このイオン性化合物を重合性二重結合を有する形態にしてポリマーとして重合すること、更にはフッ素を含有するモノマーと共重合したポリマーを合成し、これを添加することによって膜形成後に表面エネルギーが低いフッ素含有イオンポリマーが膜表面を覆い、肌から放出されるイオンの増減に対して敏感な生体電極を構成することが可能になることに想到した。
【0067】
前述の特許文献6、7及び8には、強酸性のイオン性の繰り返し単位と、シリコーン鎖を有する繰り返し単位と、ポリエーテルなどの親水性の繰り返し単位との共重合ポリマーが示されている。イオン性の繰り返し単位と親水性の繰り返し単位とは、これらの組み合わせによってイオン導電性を発現させることができるので、イオン導電性を高めるのに必要な単位である。しかしながら、これらの単位だけだと親水性が高すぎて生体電極膜が水や汗に接触したときにイオン性ポリマーが水に溶解して生体信号が取れなくなる場合がある。このため、イオン性ポリマーを非水溶性にする必要がある。イオン性ポリマーを非水溶性にするため、シリコーン鎖を有する繰り返し単位を共重合している。
【0068】
イオン性の繰り返し単位と、親水性の繰り返し単位と、疎水性のシリコーンを有する繰り返し単位とを有するイオン性ポリマーをシリコーン粘着剤に添加して得られた組成物を用いることによって、イオン導電性を発現し、それにより生体信号を得ることが出来る生体接触層を得ることができる。本来絶縁体であるシリコーン粘着剤中でイオン導電が起こるメカニズムは、イオン性ポリマーのミクロ相分離構造に基づくと考えられる。イオン導電性に優れるナフィオンは、親水性のスルホン酸部分と疎水性のフッ素ポリマー部分とがミクロ相分離することによって高いイオン導電性を発現すると言われている。
【0069】
本発明者らは、生体電極用のイオン性ポリマーにおいても、より顕著なミクロ相分離を形成することが出来れば、より高いイオン導電性が得られ、より高感度な生体信号を得ることが出来るドライ電極(生体電極)を形成することが出来ると考え、この考えに基づいて鋭意研究を行った。
【0070】
その結果、本発明者らは、シリコーン鎖よりもフルオロアルキル基の方が高撥水性であり且つ非極性であり、フルオロアルキル基をイオン性の繰り返し単位と親水性の繰り返し単位と共重合することによって、高極性部分と低極性部分との極性差を大きくすることができ、それによってミクロ相分離が形成しやすくなることを見出した。また、本発明者らは、フルオロアルキル基を有するイオン性ポリマーが、ドライ電極の膜表面に配向しやすいことを見出した。そして、本発明者らは、肌と接触する膜表面のイオンポリマーの濃度が増加することによって、肌からのイオンの放出をより検知しやすくなることを見出した。
【0071】
また、本発明者らは、フッ素を含有する繰り返し単位と共重合したイオン性ポリマー(イオン性材料)は、従来型のシリコーンを有するモノマーと共重合したイオン性ポリマーとブレンドすることも出来、これによって生体電極膜(生体接触層)表面だけでなく、生体電極膜内部の高いイオン導電性を発現できることを見出した。
【0072】
更に、本発明者らは、この塩(イオン性材料)を、例えばシリコーン系、アクリル系、ウレタン系の粘着剤(樹脂)に混合したものを用いることによって、肌への密着性を高め、長時間安定的な電気信号を得ることができることを見出した。
【0073】
また、本発明者らは、より高感度な生体電極を構成する場合、高いイオン導電性に加え、高い電子導電性も必要であることに着目した。そして、本発明者らは、電子導電性を高めるには、カーボン粉、金属粉、珪素粉、又はチタン酸リチウム粉を添加することが効果的であることを見出した。
【0074】
本発明者らは、上記知見に基づいて、本発明を完成させた。
即ち、本発明は、イオン性材料(A)を含有する生体電極組成物であって、前記イオン性材料(A)が、フルオロスルホン酸、フルオロスルホンイミド、及びN-カルボニルフルオロスルホンアミドのうちのいずれかのアンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、及び銀塩から選ばれる構造を有する繰り返し単位aと、前記繰り返し単位aとは異なる、フッ素原子を有する繰り返し単位bとを含有する高分子化合物(A-1)を含むものであることを特徴とする生体電極組成物である。
【0075】
本発明者の生体電極組成物は、導電性に優れ、水に濡れた場合及び乾燥した場合に導電性が大幅に低下することを防ぐことができる生体電極用の生体接触層を形成できる。理論により縛られることを望まないが、その理由は、以下のとおりであると考えられる。
【0076】
本発明の生体電極組成物のイオン性材料(A)が含む高分子化合物(A-1)は、イオン性である繰り返し単位aと、極性が繰り返し単位aのそれより十分に低い繰り返し単位bとを含有する。そのため、高分子化合物(A-1)は、極性差の大きな高極性部分と低極性部分とを含むことができ、それによりミクロ相分離を容易に発現させることができる。その結果、高分子化合物(A-1)を含む本発明の生体電極組成物は、より高いイオン導電性を示すことができる。
【0077】
本発明の生体電極組成物が含むイオン性材料(A)は、イオン伝導により、電気を通すことができる。すなわち、本発明の生体電極組成物は、高いイオン伝導性を示すことができるので、優れた導電性を示すことができる。
【0078】
また、本発明の生体電極組成物のイオン性材料(A)は、イオン伝導により電気を通すことができるので、乾燥しても優れた導電性を維持することができる。また、本発明の生体電極組成物のイオン性材料(A)は、高撥水性の繰り返し単位bを含んでいるので、水にぬれても、優れた導電性を維持することができる。
【0079】
以上の理由により、本発明者の生体電極組成物は、導電性に優れ、水に濡れた場合及び乾燥した場合に導電性が大幅に低下することを防ぐことができる生体電極用の生体接触層を形成できる。
【0080】
加えて、本発明の生体電極組成物のイオン性材料(A)は、低生体刺激性を達成するのに十分に低い酸性度を示すことができる。
【0081】
更に、本発明の生体電極組成物を用いることにより、軽量な生体電極用の生体接触層を低コストで形成できる。
【0082】
すなわち、本発明者の生体電極組成物は、導電性及び生体適合性に優れ、軽量であり、かつ低コストで製造することができ、水に濡れた場合及び乾燥した場合に導電性が大幅に低下することを防ぐことができる生体電極用の生体接触層を形成できる。
【0083】
以下、本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0084】
<生体電極組成物>
本発明の生体電極組成物は、イオン性材料(A)を含有する生体電極組成物であって、前記イオン性材料(A)が、フルオロスルホン酸、フルオロスルホンイミド、及びN-カルボニルフルオロスルホンアミドのうちのいずれかのアンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、及び銀塩から選ばれる構造を有する繰り返し単位aと、前記繰り返し単位aとは異なる、フッ素原子を有する繰り返し単位bとを含有する高分子化合物(A-1)を含むものである。
【0085】
本発明の生体電極組成物は、イオン性材料(A)に加え、イオン性材料(A)とは異なる成分を更に含むこともできる。例えば、本発明の生体電極組成物は、イオン性材料(A)とは異なる樹脂成分(B)、金属粉、カーボン粉、珪素粉、チタン酸リチウム粉、架橋剤、架橋触媒及び/又は有機溶剤を更に含むことができる。
【0086】
以下、本発明の生体電極組成物の各成分について、更に詳細に説明する。
【0087】
[イオン性材料(塩)(A)]
本発明の生体電極組成物にイオン性材料(導電性材料)(A)として配合される塩は、高分子化合物(A-1)である。イオン性材料が含む高分子化合物(A-1)として、フルオロスルホン酸、フルオロスルホンイミド、N-カルボニルフルオロスルホンアミドのうちのいずれかのアンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、及び銀塩から選ばれる構造を有するイオンの繰り返し単位aと、繰り返し単位aとは異なる、フッ素原子を有する繰り返し単位b、例えばフルオロアルキル基の繰り返し単位bとを共重合したポリマーであるということができる。このような高分子化合物(A-1)は、イオン性ポリマー(A-1)と呼ぶこともできる。
【0088】
本発明の生体電極組成物のイオン性材料(A)は、高分子化合物(A-1)に加え、高分子化合物(A-1)とは異なる、高分子化合物(A-2)を含むこともできる。すなわち、本発明の生体電極組成物は、上記高分子化合物(A-1)と、高分子化合物(A-1)とは異なる高分子化合物(A-2)との混合物を含むものでもよい。このような高分子化合物(A-2)は、イオン性ポリマー(A-2)と呼ぶこともできる。
【0089】
[高分子化合物(A-1)]
先に述べたように、高分子化合物(A-1)は、繰り返し単位aと、繰り返し単位bとを含有する。
【0090】
(繰り返し単位a)
繰り返し単位aは、下記一般式(1)-1~(1)-4のいずれかで示される構造を有するものであることが好ましい。
【化7】
【0091】
式(1)-1中、Rf1及びRf2は、水素原子、フッ素原子、酸素原子、メチル基、又はトリフルオロメチル基であり、Rf1及びRf2が酸素原子である場合、Rf1及びRf2は、1つの炭素原子に結合してカルボニル基を形成する1つの酸素原子であり、Rf3及びRf4は、水素原子、フッ素原子、又はトリフルオロメチル基であり、Rf1~Rf4のうち1つ以上はフッ素原子又はトリフルオロメチル基である。
式(1)-2、式(1)-3及び式(1)-4中、Rf5、Rf6及びRf7は、それぞれ、フッ素原子、炭素数1~4の直鎖状又は分岐状のアルキル基であり、少なくとも1つ以上のフッ素原子を有する。
式(1)-1~式(1)-4中、M+は、アンモニウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、及び銀イオンから選択されるイオンである。
式(1)-2中、mは、1~4の整数である。
【0092】
前記繰り返し単位aが、下記一般式(2)に示される繰り返し単位a1~a7から選ばれる1種以上を有する繰り返し単位であることがより好ましい。
【化8】
【0093】
式(2)中、R1、R3、R5、R8、R10、R11、及びR13は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、R2、R4、R6、R9、及びR12は、それぞれ独立に単結合、エステル基、又は炭素数が1~12の直鎖状、分岐状もしくは環状の炭化水素基である。前記炭化水素基は、エーテル基、エステル基又はこれらの両方を有していてもよい。R7は、炭素数が1~4の直鎖状又は分岐状のアルキレン基であり、R7中の水素原子のうち、1個又は2個がフッ素原子で置換されていてもよい。X1、X2、X3、X4、X6、及びX7は、それぞれ独立に単結合、フェニレン基、ナフチレン基、エーテル基、エステル基、及びアミド基のいずれかであり、X5は、単結合、エーテル基、及びエステル基のいずれかである。Yは、酸素原子又は-NR19-基であり、R19は、水素原子、又は炭素数が1~4の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基であり、mは1~4の整数である。a1、a2、a3、a4、a5、a6、a7は、0≦a1≦1.0、0≦a2≦1.0、0≦a3≦1.0、0≦a4≦1.0、0≦a5≦1.0、0≦a6≦1.0、0≦a7≦1.0であり、0<a1+a2+a3+a4+a5+a6+a7≦1.0である。M+はアンモニウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、及び銀イオンから選択されるイオンである。Rf1’はフッ素原子又はトリフルオロメチル基である。
【0094】
なお、a1、a2、a3、a4、a5、a6及びa7は、各繰り返し単位の識別のための記号であると共に、各繰り返し単位の繰り返し数に対応する。すなわち、上記式(2)では、上段左から右に向かって、繰り返し単位a1、a2、a3、a4及びa5を順に示しており、下段左から右に向かって、繰り返し単位a6及びa7を順に示している。
【0095】
上記一般式(2)で示される繰り返し単位a1~a7のうち、繰り返し単位a1~a5を得るためのフルオロスルホン酸塩モノマーとしては、具体的には下記のものを例示することができる。
【0096】
【0097】
【0098】
【0099】
【0100】
【0101】
【0102】
【0103】
【0104】
【0105】
【0106】
【0107】
【0108】
【0109】
【0110】
【0111】
【0112】
【0113】
【0114】
【0115】
【0116】
【0117】
上記一般式(2)で示される繰り返し単位a6を得るためのスルホンイミド塩モノマーは、具体的には下記に例示することができる。
【0118】
【0119】
【0120】
【0121】
【0122】
【0123】
上記一般式(2)で示される繰り返し単位a7を得るためのN-カルボニルスルホンアミド塩モノマーは、具体的には下記に例示することができる。
【化35】
【0124】
【化36】
(式中、R
1、R
3、R
5、R
8、R
10、R
11、及びR
13は前述の通り。)
【0125】
また、高分子化合物(A)は、繰り返し単位a(繰り返し単位a1~a7)中のM
+として、下記一般式(3)で示されるアンモニウムイオン(アンモニウムカチオン)を含有するものであることが好ましい。
【化37】
(式中、R
101d、R
101e、R
101f、及びR
101gは、それぞれ、水素原子、炭素数が1~12の直鎖状、分岐状、もしくは環状のアルキル基、炭素数が2~12の直鎖状、分岐状、もしくは環状のアルケニル基もしくはアルキニル基、又は炭素数が4~20の芳香族基であり、エーテル基、カルボニル基、エステル基、ヒドロキシ基、アミノ基、ニトロ基、スルホニル基、スルフィニル基、ハロゲン原子、及び硫黄原子から選ばれる1種以上を有していてもよい。R
101d及びR
101e、又はR
101d、R
101e及びR
101fは、これらが結合する窒素原子とともに環を形成してもよく、環を形成する場合には、R
101d及びR
101e、又はR
101d、R
101e及びR
101fは、炭素数が3~10のアルキレン基であるか、又は式(3)中の窒素原子を環の中に有する複素芳香族環を形成する。)。
【0126】
上記一般式(3)で示されるアンモニウムイオンとしては、具体的には、以下のものを例示することができる。
【0127】
【0128】
【0129】
【0130】
【0131】
【0132】
【0133】
【0134】
【0135】
【0136】
【0137】
【0138】
【0139】
【0140】
【0141】
【0142】
【0143】
上記一般式(3)で示されるアンモニウムイオンとしては、3級又は4級のアンモニウムイオンが特に好ましい。
【0144】
(繰り返し単位b)
本発明の生体電極組成物の高分子化合物(A-1)は、上記の繰り返し単位a(例えば上記繰り返し単位a1~a7から選ばれる)に加えて、繰り返し単位aとは異なる、フッ素を有する繰り返し単位bを有する。繰り返し単位bは、例えば、下記一般式(4)記載のフッ素を有する繰り返し単位bであり得る。
【化54】
(式中、R
20は水素原子又はメチル基であり、Yはフェニレン基、エステル基、又はアミド基であり、R
21はフッ素原子、炭素数が1~12の直鎖状、分岐状、もしくは環状のアルキル基、炭素数が2~12の直鎖状、分岐状、もしくは環状のアルケニル基もしくはアルキニル基、又は炭素数4~20の芳香族基であり、エーテル基、カルボニル基、エステル基、ヒドロキシ基、アミノ基、ニトロ基、スルホニル基、スルフィニル基、スルホンアミド基、ハロゲン原子、及び硫黄原子から選ばれる1種以上を有していてもよく、少なくとも1つ以上のフッ素原子を有する。pは1~5の整数である。)。
【0145】
一般式(4)の繰り返し単位を得るためのモノマーとしては、具体的には、以下のものを例示することができる。
【0146】
【0147】
【0148】
【0149】
【0150】
【0151】
【0152】
【0153】
(繰り返し単位c)
本発明の生体電極組成物の高分子化合物(A-1)には、上記の繰り返し単位a(例えば、繰り返し単位a1~a7)及び繰り返し単位bに加えて、導電性を向上させるために、繰り返し単位a及びbに共重合した、グライム鎖を有する繰り返し単位cを含ませることも出来る。グライム鎖を有する繰り返し単位cを得るためのモノマーは、具体的には下記に例示することが出来る。グライム鎖を有する繰り返し単位cを共重合することによって、肌から放出されるイオンのドライ電極膜(生体接触膜)内での移動を助長し、ドライ電極(生体電極)の感度を高めることが出来る。
【0154】
【0155】
【化63】
上記式において、Rは、水素原子、又はメチル基である。
【0156】
【0157】
【0158】
(繰り返し単位d)
本発明の生体電極組成物の高分子化合物(A-1)には、上記の繰り返し単位a(例えば、a1~a7)、繰り返し単位b、及び繰り返し単位cに加えて、導電性を向上させるために、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アンモニウム塩、ベタイン、アミド基、ピロリドン、ラクトン環、ラクタム環、スルトン環、及び/又はスルホン酸のナトリウム塩、スルホン酸のカリウム塩を有する親水性の繰り返し単位dを含ませることも出来る。繰り返し単位dは、繰り返し単位a、b及びcに共重合させることが出来る。親水性の繰り返し単位dを得るためのモノマーとしては、具体的には下記に例示することが出来る。これらの親水性基を含有する繰り返し単位を共重合することによって、肌から放出されるイオンの感受性を高めて、ドライ電極(生体電極)の感度を高めることが出来る。
【0159】
【0160】
【0161】
ここで、Rは、メチル基又は水素原子である。
【0162】
(繰り返し単位e)
本発明の生体電極組成物における高分子化合物(A-1)は、粘着能を付与させる繰り返し単位eを更に有することが出来る。繰り返し単位eを得るためのモノマーとしては、具体的には下記のものを例示することができる。
【0163】
【0164】
【0165】
【0166】
【0167】
【0168】
(繰り返し単位f)
本発明の生体電極組成物における高分子化合物(A-1)は、更には、他の繰り返し単位に共重合した、架橋性の繰り返し単位fを有することも出来る。架橋性の繰り返し単位fとしては、オキシラン環又はオキセタン環を有する繰り返し単位を挙げることが出来る。
【0169】
オキシラン環又はオキセタン環を有する繰り返し単位fを得るためのモノマーとしては、具体的には下記に挙げることができる。
【化73】
【0170】
【0171】
ここで、Rは、メチル基又は水素原子である。
【0172】
[高分子化合物(A-2)]
本発明の生体電極組成物のイオン性材料(A)が含むことができる高分子化合物(A-2)は、フルオロスルホン酸、フルオロスルホンイミド、及びN-カルボニルフルオロスルホンアミドのうちのいずれかのアンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、及び銀塩から選ばれる構造を有する繰り返し単位a’と、珪素原子を有する繰り返し単位gとを含有する。
【0173】
(繰り返し単位a’)
高分子化合物(A-2)の繰り返し単位a’は、高分子化合物(A-1)の繰り返し単位aの例と同じものである。すなわち、繰り返し単位a’は、例えば、上記の繰り返し単位a1~a7から選ぶことができる。
【0174】
(繰り返し単位g)
高分子化合物(A-2)の繰り返し単位gを得るためのモノマーとしては、具体的には、以下のものを例示することができる。
【化75】
(上記式において、nは、1~100の整数である)
【0175】
【0176】
(繰り返し単位c~f)
本発明の生体電極組成物のイオン性成分(A)が含むことができる高分子化合物(A-2)は、上記の繰り返し単位a’(例えば、繰り返し単位a1~a7から選ばれる)と、珪素を有する繰り返し単位fに加えて、高分子化合物(A-1)のセクションで説明した繰り返し単位c、d、e及びfの1つ以上を有することも出来る。
【0177】
[合成方法]
本発明の生体電極組成物のイオン性成分(A)に含まれる高分子化合物(A-1)を合成する方法の1つとして、繰り返し単位a(例えば、繰り返し単位a1~a7)及びbを与えるそれぞれのモノマーと、繰り返し単位c、d、e及びfをそれぞれ与えるモノマーのうち所望のモノマーとを、有機溶剤中、ラジカル重合開始剤を加えて加熱重合して、共重合体の高分子化合物(A-1)を得る方法を挙げることができる。
【0178】
同様に、本発明の生体電極組成物のイオン性成分(A)に含まれる高分子化合物(A-2)を合成する方法の1つとして、繰り返し単位a’(例えば、繰り返し単位a1~a7)及びgを与えるそれぞれのモノマーと、繰り返し単位c、d、e及びfをそれぞれ与えるモノマーのうち所望のモノマーとを、有機溶剤中、ラジカル重合開始剤を加えて加熱重合して、共重合体の高分子化合物(A-2)を得る方法を挙げることができる。
【0179】
重合時に使用する有機溶剤としては、トルエン、ベンゼン、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジオキサン等が例示できる。重合開始剤としては、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、ジメチル2,2-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、ベンゾイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド等が例示できる。加熱温度は、好ましくは50~80℃であり、反応時間は、好ましくは2~100時間、より好ましくは5~20時間である。
【0180】
ここで、高分子化合物(A-1)中における繰り返し単位a1~a7、b、c、d、e、及びfの割合は、0≦a1<1.0、0≦a2<1.0、0≦a3<1.0、0≦a4<1.0、0≦a5<1.0、0≦a6<1.0、0≦a7<1.0、0<a1+a2+a3+a4+a5+a6+a7<1.0、0<b<1.0、0≦c<1.0、0≦d<1.0、0≦e<0.5、0≦f<0.5とすることができ、好ましくは、0≦a1≦0.9、0≦a2≦0.9、0≦a3≦0.9、0≦a4≦0.9、0≦a5≦0.9、0≦a6≦0.9、0≦a7≦0.9、0.01≦a1+a2+a3+a4+a5+a6+a7≦0.9、0.05≦b≦0.9、0≦c≦0.8、0≦d≦0.6、0≦e<0.4、0≦f<0.4であり、より好ましくは0≦a1≦0.8、0≦a2≦0.8、0≦a3≦0.8、0≦a4≦0.8、0≦a5≦0.8、0≦a6≦0.8、0≦a7≦0.8、0.02≦a1+a2+a3+a4+a5+a6+a7≦0.8、0.1≦b≦0.9、0≦c≦0.7、0≦d≦0.5、0≦e<0.3、0≦f<0.3である。
【0181】
なお、例えば、a1+a2+a3+a4+a5+a6+a7+b+c+d+e+f=1とは、繰り返し単位a1、a2、a3、a4、a5、a6、a7、b、c、d、e及びfを含む高分子化合物(A-1)において、繰り返し単位a1、a2、a3、a4、a5、a6、a7、b、c、d、e及びfの合計量が全繰り返し単位の合計量に対して100モル%であることを示す。また、a1+a2+a3+a4+a5+a6+a7+b+c+d+e+f<1とは、繰り返し単位a1、a2、a3、a4、a5、a6、a7、b、c、d、e及びfの合計量が全繰り返し単位の合計量に対して100モル%未満であり、繰り返し単位a1、a2、a3、a4、a5、a6、a7、b、c、d、e及びf以外に他の繰り返し単位を有していることを示す。すなわち、高分子化合物(A-1)は、繰り返し単位a、b、c、d、e及びf以外の繰り返し単位(特に限定されない)を含むこともできる。
【0182】
また、高分子化合物(A-2)中における繰り返し単位a1~a7、c、d、e、f及びgの割合は、0≦a1<1.0、0≦a2<1.0、0≦a3<1.0、0≦a4<1.0、0≦a5<1.0、0≦a6<1.0、0≦a7<1.0、0<a1+a2+a3+a4+a5+a6+a7<1.0、0≦c<1.0、0≦d<1.0、0≦e<0.5、0≦f<0.5、0<g<1.0とすることができ、好ましくは0≦a1≦0.9、0≦a2≦0.9、0≦a3≦0.9、0≦a4≦0.9、0≦a5≦0.9、0≦a6≦0.9、0≦a7≦0.9、0.01≦a1+a2+a3+a4+a5+a6+a7≦0.9、0≦c≦0.8、0≦d≦0.6、0≦e<0.4、0≦f<0.4、0.05≦g≦0.9であり、より好ましくは0≦a1≦0.8、0≦a2≦0.8、0≦a3≦0.8、0≦a4≦0.8、0≦a5≦0.8、0≦a6≦0.8、0≦a7≦0.8、0.02≦a1+a2+a3+a4+a5+a6+a7≦0.8、0≦c≦0.7、0≦d≦0.5、0≦e<0.3、0≦f<0.3、0.1≦g≦0.9、である。
【0183】
なお、例えば、a1+a2+a3+a4+a5+a6+a7+c+d+e+f+g=1とは、繰り返し単位a1、a2、a3、a4、a5、a6、a7、c、d、e、f、gを含む高分子化合物(A-2)において、繰り返し単位a1、a2、a3、a4、a5、a6、a7、c、d,e、f及びgの合計量が全繰り返し単位の合計量に対して100モル%であることを示し、a1+a2+a3+a4+a5+a6+a7+c+d+e+f+g<1とは、繰り返し単位a1、a2、a3、a4、a5、a6、a7、c、d、e、f及びgの合計量が全繰り返し単位の合計量に対して100モル%未満で繰り返し単位a1、a2、a3、a4、a5、a6、a7、c、d、e、f、g以外に他の繰り返し単位を有していることを示す。すなわち、高分子化合物(A-2)は、繰り返し単位a’、c、d、e、f及びg以外の繰り返し単位(特に限定されない)を含むこともできる。
【0184】
(分子量)
高分子化合物(A-1)及び(A-2)の分子量は、それぞれ、重量平均分子量として500以上が好ましく、より好ましくは1,000以上、1,000,000以下であり、更に好ましくは2,000以上、500,000以下である。また、重合後に高分子化合物(A-1)及び(A-2)のそれぞれに組み込まれていない(未重合の)イオン性モノマー(残存モノマー)が少量であれば、生体適合試験でこれが肌に染みこんでアレルギーを引き起こすことを抑えることができるため、残存モノマーの量は減らすのが好ましい。残存モノマーの量は、高分子化合物(A-1)及び(A-2)のそれぞれの全体100質量部に対し、10質量部以下であることが好ましい。また、高分子化合物(A-1)及び(A-2)のそれぞれは、1種の高分子化合物からなっていてもよいし、又は分子量や分散度、重合モノマーの異なる2種以上の高分子化合物の混合物でもよい。
【0185】
(混合比)
イオン性材料(A)が高分子化合物(A-1)と高分子化合物(A-2)との混合物を含んでいる場合、高分子化合物(A-1)と高分子化合物(A-2)との混合割合(A-1)/((A-1)+(A-2))は、0.01~0.5の範囲であることがより好ましい。
【0186】
このようなイオン性材料(A)を含む生体電極組成物を用いることにより、より高いイオン導電性を発現することができる生体電極を提供できる。
【0187】
[樹脂成分(B)]
本発明の生体電極組成物に配合することができる樹脂成分(B)は、上記のイオン性材料(塩)(A)と相溶して塩の溶出を防ぎ、粘着性を発現させるための成分とすることができる。生体電極組成物が後述の金属粉、カーボン粉、珪素粉、チタン酸リチウム粉等を含んでいる場合には、樹脂成分(B)は、これらの粉末を保持することができる。なお、イオン性材料(A)が粘着性を有している場合は、樹脂成分(B)は必ずしも必要ではない。なお、樹脂成分(B)は、上述のイオン性材料(A)以外の樹脂であればよく、特に限定されない。樹脂成分(B)は、熱硬化性樹脂及び光硬化性樹脂のいずれか、又はこれらの両方であることが好ましく、特には、シリコーン系、アクリル系、及びウレタン系の樹脂から選ばれる1種以上であることが好ましい。シリコーン系、アクリル系、及びウレタン系の樹脂から選ばれる1種以上の樹脂を含ませることにより、伸縮性に優れた生体接触層を含む生体電極を提供できる。
【0188】
本発明の生体電極組成物における樹脂成分(B)の配合量は、イオン性材料(A)100質量部(例えば、高分子化合物(A-1)の質量、又は高分子化合物(A-1)及び高分子化合物(A-2)の総量)に対して0~2000質量部とすることが好ましい。樹脂成分(B)の配合量は、イオン性材料(A)100質量部に対して、0.1~300質量部又は10~1000質量部とすることが好ましく、1~200質量部とすることがより好ましい。また、樹脂成分(B)は、1種の樹脂からなっていても良いし、又は2種以上の樹脂の混合物であっても良い。
【0189】
粘着性のシリコーン系の樹脂としては、付加反応硬化型又はラジカル架橋反応硬化型のものが挙げられる。付加反応硬化型としては、例えば、特開2015-193803号公報に記載の、アルケニル基を有するジオルガノシロキサン、R3SiO0.5及びSiO2単位を有するMQレジン、SiH基を複数有するオルガノハイドロジェンポリシロキサン、白金触媒、付加反応制御剤、及び有機溶剤を含有するものを用いることができる。また、ラジカル架橋反応硬化型としては、例えば、特開2015-193803号公報に記載の、アルケニル基を有していてもいなくてもよいジオルガノポリシロキサン、R3SiO0.5及びSiO2単位を有するMQレジン、有機過酸化物、及び有機溶剤を含有するものを用いることができる。ここでRは炭素数1~10の置換又は非置換の一価の炭化水素基である。
【0190】
また、ポリマー末端や側鎖にシラノールを有するポリシロキサンと、MQレジンを縮合反応させて形成したポリシロキサン・レジン一体型化合物を用いることもできる。MQレジンはシラノールを多く含有するためにこれを添加することによって粘着力が向上するが、架橋性がないためにポリシロキサンと分子的に結合していない。上記のようにポリシロキサンとレジンを一体型とすることによって、粘着力を増大させることができる。
【0191】
また、シリコーン系の樹脂には、アミノ基、オキシラン基、オキセタン基、ポリエーテル基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、メルカプト基、メタクリル基、アクリル基、フェノール基、シラノール基、カルボン酸無水物基、アリール基、アラルキル基、アミド基、エステル基、及びラクトン環から選ばれる基を有する変性シロキサンを添加することもできる。変性シロキサンを添加することによって、(A)成分のシリコーン樹脂中での分散性が向上する。変性シロキサンはシロキサンの片末端、両末端、側鎖のいずれが変性されたものでも構わない。
【0192】
粘着性のアクリル系の樹脂としては、例えば、特開2016-011338号公報に記載の、親水性(メタ)アクリル酸エステル、長鎖疎水性(メタ)アクリル酸エステルを繰り返し単位として有するものを用いることができる。場合によっては、官能基を有する(メタ)アクリル酸エステルやシロキサン結合を有する(メタ)アクリル酸エステルを共重合してもよい。
【0193】
粘着性のウレタン系の樹脂としては、例えば、特開2016-065238号公報に記載の、ウレタン結合と、ポリエーテルやポリエステル結合、ポリカーボネート結合、シロキサン結合を有するものを用いることができる。
【0194】
また、生体接触層からイオン性材料(A)が溶出することによる導電性の低下を防止するために、本発明の生体電極組成物において、樹脂成分(B)は上述のイオン性材料(A)との相溶性が高いものであることが好ましい。また、導電性基材からの生体接触層の剥離を防止するために、本発明の生体電極組成物において、樹脂成分(B)は導電性基材に対する接着性が高いものであることが好ましい。樹脂成分(B)を、導電性基材や塩との相溶性が高いものとするためには、極性が高い樹脂を用いることが効果的である。このような樹脂としては、エーテル結合、エステル結合、アミド結合、イミド結合、ウレタン結合、チオウレタン結合、及びチオール基から選ばれる1つ以上を有する樹脂、並びにポリアクリル樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリウレタン樹脂、及びポリチオウレタン樹脂等が挙げられる。また、一方で、生体接触層は生体に接触するため、生体からの汗の影響を受けやすい。従って、本発明の生体電極組成物において、樹脂成分(B)は撥水性が高く、加水分解しづらいものであることが好ましい。樹脂成分(B)を、撥水性が高く、加水分解しづらいものとするためには、珪素を含有する樹脂を用いることが効果的である。
【0195】
珪素原子を含有するポリアクリル樹脂としては、シリコーンを主鎖に有するポリマーと珪素原子を側鎖に有するポリマーとがあるが、どちらも好適に用いることができる。シリコーンを主鎖に有するポリマーとしては、(メタ)アクリルプロピル基を有するシロキサンあるいはシルセスキオキサン等を用いることができる。この場合は、光ラジカル発生剤を添加することで(メタ)アクリル部分を重合させて硬化させることができる。
【0196】
珪素原子を含有するポリアミド樹脂としては、例えば、特開2011-079946号公報、米国特許5981680号公報に記載のポリアミドシリコーン樹脂等を好適に用いることができる。このようなポリアミドシリコーン樹脂は、例えば、両末端にアミノ基を有するシリコーン又は両末端にアミノ基を有する非シリコーン化合物と、両末端にカルボキシル基を有する非シリコーン又は両末端にカルボキシル基を有するシリコーンを組み合わせて合成することができる。
【0197】
また、カルボン酸無水物とアミンを反応させて得られる、環化する前のポリアミド酸を用いてもよい。ポリアミド酸のカルボキシル基の架橋には、エポキシ系やオキセタン系の架橋剤を用いてもよいし、カルボキシル基とヒドロキシエチル(メタ)アクリレートとのエステル化反応を行って、(メタ)アクリレート部分の光ラジカル架橋を行ってもよい。
【0198】
珪素原子を含有するポリイミド樹脂としては、例えば、特開2002-332305号公報に記載のポリイミドシリコーン樹脂等を好適に用いることができる。ポリイミド樹脂は粘性が非常に高いが、(メタ)アクリル系モノマーを溶剤かつ架橋剤として配合することによって低粘性にすることができる。
【0199】
珪素原子を含有するポリウレタン樹脂としては、ポリウレタンシリコーン樹脂を挙げることができ、このようなポリウレタンシリコーン樹脂では、両末端にイソシアネート基を有する化合物と末端にヒドロキシ基を有する化合物をブレンドして加熱することによってウレタン結合による架橋を行うことができる。なお、この場合、両末端にイソシアネート基を有する化合物か、末端にヒドロキシ基を有する化合物のいずれかあるいは両方に珪素原子(シロキサン結合)を含有する必要がある。あるいは、特開2005-320418号公報に記載されるように、ポリシロキサンにウレタン(メタ)アクリレートモノマーをブレンドして光架橋させることもできる。また、シロキサン結合とウレタン結合の両方を有し、末端に(メタ)アクリレート基を有するポリマーを光架橋させることもできる。
【0200】
珪素原子を含有するポリチオウレタン樹脂は、チオール基を有する化合物とイソシアネート基を有する化合物の反応によって得ることができ、これらのうちいずれかが珪素原子を含有していればよい。また、末端に(メタ)アクリレート基を有していれば、光硬化させることも可能である。
【0201】
シリコーン系の樹脂において、上述のアルケニル基を有するジオルガノシロキサン、R3SiO0.5及びSiO2単位を有するMQレジン、SiH基を複数有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンに加えて、アミノ基、オキシラン基、オキセタン基、ポリエーテル基、ヒドロキシ基、カルボキシル基、メルカプト基、メタクリル基、アクリル基、フェノール基、シラノール基、カルボン酸無水物基、アリール基、アラルキル基、アミド基、エステル基、ラクトン環から選ばれる基を有する変性シロキサンを添加することによって、上述の塩との相溶性を高めることができる。
【0202】
なお、後述のように、生体接触層は生体電極組成物の硬化物である。硬化させることによって、肌と導電性基材の両方に対する生体接触層の接着性が良好なものとなる。なお、硬化手段としては、特に限定されず、一般的な手段を用いることができ、例えば、熱及び光のいずれか、又はその両方、あるいは酸又は塩基触媒による架橋反応等を用いることができる。架橋反応については、例えば、架橋反応ハンドブック 中山雍晴 丸善出版(2013年)第二章p51~p371に記載の方法を適宜選択して行うことができる。
【0203】
アルケニル基を有するジオルガノシロキサンと、SiH基を複数有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンとは、白金触媒による付加反応によって架橋させることができる。
【0204】
白金触媒としては、塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール溶液、塩化白金酸とアルコールとの反応物、塩化白金酸とオレフィン化合物との反応物、塩化白金酸とビニル基含有シロキサンとの反応物、白金-オレフィン錯体、白金-ビニル基含有シロキサン錯体等の白金系触媒、ロジウム錯体及びルテニウム錯体等の白金族金属系触媒などが挙げられる。また、これらの触媒をアルコール系、炭化水素系、シロキサン系溶剤に溶解・分散させたものを用いてもよい。
【0205】
なお、白金触媒の添加量は、イオン性材料(A)と樹脂成分(B)とを合わせた樹脂100質量部に対して5~2,000ppm、特には10~500ppmの範囲とすることが好ましい。
【0206】
また、付加硬化型のシリコーン樹脂を用いる場合には、付加反応制御剤を添加してもよい。この付加反応制御剤は、溶液中及び塗膜形成後の加熱硬化前の低温環境下で、白金触媒が作用しないようにするためのクエンチャーとして添加するものである。具体例としては、3-メチル-1-ブチン-3-オール、3-メチル-1-ペンチン-3-オール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール、1-エチニルシクロヘキサノール、3-メチル-3-トリメチルシロキシ-1-ブチン、3-メチル-3-トリメチルシロキシ-1-ペンチン、3,5-ジメチル-3-トリメチルシロキシ-1-ヘキシン、1-エチニル-1-トリメチルシロキシシクロヘキサン、ビス(2,2-ジメチル-3-ブチノキシ)ジメチルシラン、1,3,5,7-テトラメチル-1,3,5,7-テトラビニルシクロテトラシロキサン、1,1,3,3-テトラメチル-1,3-ジビニルジシロキサン等が挙げられる。
【0207】
付加反応制御剤の添加量は、樹脂100質量部に対して0~10質量部、特に0.05~3質量部の範囲とすることが好ましい。
【0208】
光硬化を行う方法としては、(メタ)アクリレート末端やオレフィン末端を有している樹脂を用いるか、末端が(メタ)アクリレート、オレフィンやチオール基になっている架橋剤を添加するとともに、光によってラジカルを発生させる光ラジカル発生剤を添加する方法や、オキシラン基、オキセタン基、又はビニルエーテル基を有している樹脂や架橋剤を用い、光によって酸を発生させる光酸発生剤を添加する方法が挙げられる。
【0209】
光ラジカル発生剤としては、例えば、アセトフェノン、4,4’-ジメトキシベンジル、ベンジル、ベンゾイン、ベンゾフェノン、2-ベンゾイル安息香酸、4,4’-ビス(ジメチルアミノ)ベンゾフェノン、4,4’-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾインブチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、4-ベンゾイル安息香酸、2,2’-ビス(2-クロロフェニル)-4,4’,5,5’-テトラフェニル-1,2’-ビイミダゾール、2-ベンゾイル安息香酸メチル、2-(1,3-ベンゾジオキソール-5-イル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-1,3,5-トリアジン、2-ベンジル-2-(ジメチルアミノ)-4’-モルホリノブチロフェノン、4,4’-ジクロロベンゾフェノン、2,2-ジエトキシアセトフェノン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、2,4-ジエチルチオキサンテン-9-オン、ジフェニル(2,4,6-トリメチルベンゾイル)ホスフィンオキシド(BAPO)、1,4-ジベンゾイルベンゼン、2-エチルアントラキノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン、2-ヒドロキシ-4’-(2-ヒドロキシエトキシ)-2-メチルプロピオフェノン、2-イソニトロソプロピオフェノン、2-フェニル-2-(p-トルエンスルホニルオキシ)アセトフェノン、及び2-フェニル-2-(p-トルエンスルホニルオキシ)アセトフェノンを挙げることができる。
【0210】
熱分解型のラジカル発生剤を添加することによって硬化させることもできる。熱ラジカル発生剤としては、例えば、2,2’-アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(メチルプロピオンアミジン)塩酸、2,2’-アゾビス[2-(2-イミダゾリン-2-イル)プロパン]塩酸、2,2’-アゾビス(4-メトキシ-2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、2,2’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)、1[(1-シアノ-1-メチルエチル)アゾ]ホルムアミド、2,2’-アゾビス[2-メチル-N-(2-ヒドロキシエチル)プロピオンアミド]、2,2’-アゾビス[N-(2-プロペニル)-2-メチルプロピオンアミド]、2,2’-アゾビス(N-ブチル-2-メチルプロピオンアミド)、ジメチル-2,2’-アゾビス(イソブチレート)、4,4’-アゾビス(4-シアノペンタン酸)、ジメチル-2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、ベンゾイルパーオキシド、tert-ブチルヒドロパーオキシド、クメンヒドロパーオキシド、ジ-tert-ブチルパーオキシド、ジ-tert-アミルパーオキシド、ジ-n-ブチルパーオキシド、及びジクミルパーオキシド等を挙げることができる。
【0211】
光酸発生剤としては、例えば、スルホニウム塩、ヨードニウム塩、スルホニルジアゾメタン、N-スルホニルオキシイミド、及びオキシム-O-スルホネート型酸発生剤等を挙げることができる。光酸発生剤の具体例としては、例えば、特開2008-111103号公報の段落[0122]~[0142]、特開2009-080474号公報に記載されているものが挙げられる。
【0212】
なお、ラジカル発生剤や光酸発生剤の添加量は、樹脂100質量部に対して0.1~50質量部の範囲とすることが好ましい。
【0213】
以上に説明した例の中でも、樹脂成分(B)の樹脂としては、RxSiO(4-x)/2単位(Rは炭素数1~10の置換又は非置換の一価炭化水素基、xは2.5~3.5の範囲である。)及びSiO2単位を有するシリコーン樹脂、アルケニル基を有するジオルガノシロキサン、並びにSiH基を有するオルガノハイドロジェンポリシロキサンのいずれか、又はこれらの2種以上を含有するものが特に好ましい。
【0214】
[金属粉]
本発明の生体電極組成物には、電子導電性を高めるために、金、銀、白金、銅、錫、チタン、ニッケル、アルミニウム、タングステン、モリブデン、ルテニウム、クロム及びインジウムから選ばれる金属粉を添加することもできる。金属粉や炭素分の添加量は、樹脂100質量部に対して1~50質量部の範囲とすることが好ましい。
【0215】
金属粉の種類として、導電性の観点では金、銀及び白金が好ましく、価格の観点では銀、銅、銅、錫、チタン、ニッケル、アルミニウム、タングステン、モリブデン、ルテニウム、及びクロムが好ましい。生体適合性の観点では貴金属が好ましい。これらの観点で総合的には、銀が最も好ましい。
【0216】
金属粉の形状としては、球状、円盤状、フレーク状、針状を挙げることが出来るが、フレーク状の粉末を添加したときの導電性が最も高くて好ましい。金属粉は、サイズが100μm以下、タップ密度が5g/cm3以下、比表面積が0.5m2/g以上の、比較的低密度で比表面積が大きいフレークが好ましい。
【0217】
[カーボン粉]
導電性向上剤として、カーボン粉を添加することができる。カーボン粉(カーボン材料)としては、例えば、カーボンブラック、黒鉛、カーボンナノチューブ、炭素繊維等を挙げることができる。カーボンナノチューブは単層及び多層のいずれであってもよく、表面が有機基で修飾されていても構わない。カーボン材料の添加量は、樹脂100質量部に対して1~50質量部の範囲とすることが好ましい。
【0218】
[珪素粉]
本発明の生体電極組成物には、イオン受容の感度を高めるために、珪素粉を添加することが出来る。珪素粉としては、例えば、珪素、一酸化珪素、又は炭化珪素からなる粉体を挙げることが出来る。粉体の粒子径は100μmよりも小さい方が好ましく、より好ましくは1μm以下である。より細かい粒子の方が表面積が大きいために、たくさんのイオンを受け取ることが出来、高感度な生体電極となる。珪素粉の添加量は、樹脂100質量部に対して1~50質量部の範囲とすることが好ましい。
【0219】
[チタン酸リチウム粉]
本発明の生体電極組成物には、イオン受容の感度を高めるために、チタン酸リチウム粉を添加することが出来る。チタン酸リチウム粉としては、Li2TiO3、LiTiO2、又はスピネル構造のLi4Ti5O12の分子式で示される材料を含んだ粉末を挙げることが出来、スピネル構造のチタン酸リチウム粉が好ましい。又、カーボンと複合化したチタン酸リチウム粒子を用いることも出来る。粉体の粒子径は100μmよりも小さい方が好ましく、より好ましくは1μm以下である。より細かい粒子の方が表面積が大きいために、たくさんのイオンを受け取ることが出来、高感度な生体電極となる。これらは炭素との複合粉であっても良い。チタン酸リチウム粉の添加量は、樹脂100質量部に対して1~50質量部の範囲とすることが好ましい。
【0220】
[粘着性付与剤]
また、本発明の生体電極組成物には、生体に対する粘着性を付与するために、粘着性付与剤を添加してもよい。このような粘着性付与剤としては、例えば、シリコーンレジンや非架橋性のシロキサン、非架橋性のポリ(メタ)アクリレート、非架橋性のポリエーテル等を挙げることができる。
【0221】
[架橋剤]
本発明の生体電極組成物にはエポキシ系の架橋剤を添加することも出来る。この場合の架橋剤は、エポキシ基やオキセタン基を1分子内に複数有する化合物である。添加量としては、樹脂100質量部に対して1~30質量部である。
【0222】
[架橋触媒]
本発明の生体電極組成物には、上記エポキシ基やオキセタン基を架橋するための触媒を添加することも出来る。この場合の触媒としては、例えば、特表2019-503406号中、段落0027~0029に記載されているものを用いることが出来る。添加量としては、樹脂100質量部に対して0.01~10質量部である。
【0223】
[有機溶剤]
また、本発明の生体電極組成物には、有機溶剤を添加することができる。有機溶剤としては、具体的には、トルエン、キシレン、クメン、1,2,3-トリメチルベンゼン、1,2,4-トリメチルベンゼン、1,3,5-トリメチルベンゼン、スチレン、αメチルスチレン、ブチルベンゼン、sec-ブチルベンゼン、イソブチルベンゼン、シメン、ジエチルベンゼン、2-エチル-p-キシレン、2-プロピルトルエン、3-プロピルトルエン、4-プロピルトルエン、1,2,3,5-テトラメチルトルエン、1,2,4,5-テトラメチルトルエン、テトラヒドロナフタレン、4-フェニル-1-ブテン、tert-アミルベンゼン、アミルベンゼン、2-tert-ブチルトルエン、3-tert-ブチルトルエン、4-tert-ブチルトルエン、5-イソプロピル-m-キシレン、3-メチルエチルベンゼン、tert-ブチル-3-エチルベンゼン、4-tert-ブチル-o-キシレン、5-tert-ブチル-m-キシレン、tert-ブチル-p-キシレン、1,2-ジイソプロピルベンゼン、1,3-ジイソプロピルベンゼン、1,4-ジイソプロピルベンゼン、ジプロピルベンゼン、ペンタメチルベンゼン、ヘキサメチルベンゼン、ヘキシルベンゼン、及び1,3,5-トリエチルベンゼン等の芳香族系炭化水素系溶剤、n-ヘプタン、イソヘプタン、3-メチルヘキサン、2,3-ジメチルペンタン、3-エチルペンタン、1,6-ヘプタジエン、5-メチル-1-ヘキシン、ノルボルナン、ノルボルネン、ジシクロペンタジエン、1-メチル-1,4-シクロヘキサジエン、1-ヘプチン、2-ヘプチン、シクロヘプタン、シクロヘプテン、1,3-ジメチルシクロペンタン、エチルシクロペンタン、メチルシクロヘキサン、1-メチル-1-シクロヘキセン、3-メチル-1-シクロヘキセン、メチレンシクロヘキサン、4-メチル-1-シクロヘキセン、2-メチル-1-ヘキセン、2-メチル-2-ヘキセン、1-ヘプテン、2-ヘプテン、3-ヘプテン、n-オクタン、2,2-ジメチルヘキサン、2,3-ジメチルヘキサン、2,4-ジメチルヘキサン、2,5-ジメチルヘキサン、3,3-ジメチルヘキサン、3,4-ジメチルヘキサン、3-エチル-2-メチルペンタン、3-エチル-3-メチルペンタン、2-メチルヘプタン、3-メチルヘプタン、4-メチルヘプタン、2,2,3-トリメチルペンタン、2,2,4-トリメチルペンタン、シクロオクタン、シクロオクテン、1,2-ジメチルシクロヘキサン、1,3-ジメチルシクロヘキサン、1,4-ジメチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ビニルシクロヘキサン、イソプロピルシクロペンタン、2,2-ジメチル-3-ヘキセン、2,4-ジメチル-1-ヘキセン、2,5-ジメチル-1-ヘキセン、2,5-ジメチル-2-ヘキセン、3,3-ジメチル-1-ヘキセン、3,4-ジメチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ヘキセン、2-エチル-1-ヘキセン、2-メチル-1-ヘプテン、1-オクテン、2-オクテン、3-オクテン、4-オクテン、1,7-オクタジエン、1-オクチン、2-オクチン、3-オクチン、4-オクチン、n-ノナン、2,3-ジメチルヘプタン、2,4-ジメチルヘプタン、2,5-ジメチルヘプタン、3,3-ジメチルヘプタン、3,4-ジメチルヘプタン、3,5-ジメチルヘプタン、4-エチルヘプタン、2-メチルオクタン、3-メチルオクタン、4-メチルオクタン、2,2,4,4-テトラメチルペンタン、2,2,4-トリメチルヘキサン、2,2,5-トリメチルヘキサン、2,2-ジメチル-3-ヘプテン、2,3-ジメチル-3-ヘプテン、2,4-ジメチル-1-ヘプテン、2,6-ジメチル-1-ヘプテン、2,6-ジメチル-3-ヘプテン、3,5-ジメチル-3-ヘプテン、2,4,4-トリメチル-1-ヘキセン、3,5,5-トリメチル-1-ヘキセン、1-エチル-2-メチルシクロヘキサン、1-エチル-3-メチルシクロヘキサン、1-エチル-4-メチルシクロヘキサン、プロピルシクロヘキサン、イソプロピルシクロヘキサン、1,1,3-トリメチルシクロヘキサン、1,1,4-トリメチルシクロヘキサン、1,2,3-トリメチルシクロヘキサン、1,2,4-トリメチルシクロヘキサン、1,3,5-トリメチルシクロヘキサン、アリルシクロヘキサン、ヒドリンダン、1,8-ノナジエン、1-ノニン、2-ノニン、3-ノニン、4-ノニン、1-ノネン、2-ノネン、3-ノネン、4―ノネン、n-デカン、3,3-ジメチルオクタン、3,5-ジメチルオクタン、4,4-ジメチルオクタン、3-エチル-3-メチルヘプタン、2-メチルノナン、3-メチルノナン、4-メチルノナン、tert-ブチルシクロヘキサン、ブチルシクロヘキサン、イソブチルシクロヘキサン、4-イソプロピル-1-メチルシクロヘキサン、ペンチルシクロペンタン、1,1,3,5-テトラメチルシクロヘキサン、シクロドデカン、1-デセン、2-デセン、3-デセン、4-デセン、5-デセン、1,9-デカジエン、デカヒドロナフタレン、1-デシン、2-デシン、3-デシン、4-デシン、5-デシン、1,5,9-デカトリエン、2,6-ジメチル-2,4,6-オクタトリエン、リモネン、ミルセン、1,2,3,4,5-ペンタメチルシクロペンタジエン、α-フェランドレン、ピネン、テルピネン、テトラヒドロジシクロペンタジエン、5,6-ジヒドロジシクロペンタジエン、ジシクロペンタジエン、1,4-デカジイン、1,5-デカジイン、1,9-デカジイン、2,8-デカジイン、4,6-デカジイン、n-ウンデカン、アミルシクロヘキサン、1-ウンデセン、1,10-ウンデカジエン、1-ウンデシン、3-ウンデシン、5-ウンデシン、トリシクロ[6.2.1.02,7]ウンデカ-4-エン、n-ドデカン、2-メチルウンデカン、3-メチルウンデカン、4-メチルウンデカン、5-メチルウンデカン、2,2,4,6,6-ペンタメチルヘプタン、1,3-ジメチルアダマンタン、1-エチルアダマンタン、1,5,9-シクロドデカトリエン、1,2,4-トリビニルシクロヘキサン、及びイソパラフィン等の脂肪族炭化水素系溶剤、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、2-オクタノン、2-ノナノン、2-ヘプタノン、3-ヘプタノン、4-ヘプタノン、2-ヘキサノン、3-ヘキサノン、ジイソブチルケトン、メチルシクロヘキサノン、及びメチルn-ペンチルケトン等のケトン系溶剤、3-メトキシブタノール、3-メチル-3-メトキシブタノール、1-メトキシ-2-プロパノール、及び1-エトキシ-2-プロパノール等のアルコール系溶剤、プロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジイソブチルエーテル、ジイソペンチルエーテル、ジ-n-ペンチルエーテル、メチルシクロペンチルエーテル、メチルシクロヘキシルエーテル、ジ-n-ブチルエーテル、ジ-secブチルエーテル、ジ-sec-ペンチルエーテル、ジ-tert-アミルエーテル、ジ-n-ヘキシルエーテル、及びアニソール等のエーテル系溶剤、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、乳酸エチル、ピルビン酸エチル、酢酸ブチル、3-メトキシプロピオン酸メチル、3-エトキシプロピオン酸エチル、酢酸tert-ブチル、プロピオン酸tert-ブチル、及びプロピレングリコールモノtert-ブチルエーテルアセテート等のエステル系溶剤、並びにγ-ブチロラクトン等のラクトン系溶剤などを挙げることができる。
【0224】
なお、有機溶剤の添加量は、樹脂100質量部に対して10~50,000質量部の範囲とすることが好ましい。
【0225】
以上のように、本発明の生体電極組成物であれば、導電性及び生体適合性に優れ、軽量であり、かつ低コストで製造することができ、水に濡れた場合及び乾燥した場合に導電性が大幅に低下することを防ぐことができる生体電極用の生体接触層を形成できる生体電極組成物となる。本発明の生体電極組成物を用いて形成した生体電極用の生体接触層は、優れた導電性を示すことができるため、生体、例えば肌からの電気信号を効率良くデバイスに伝えることができる。また、この生体接触層は、優れた生体適合性を示すことができるため、長期間肌に装着した場合にも、アレルギーを起こすのを防ぐことができる。また、本発明の生体電極組成物は、例えば、カーボン材料などの導電性向上剤を添加することによって、一層導電性を向上させることができる。また、本発明の生体電極組成物は、粘着性と伸縮性とを有する樹脂を組み込むことによって、特に高粘着力で伸縮性が高い生体電極を製造することができる。更に、本発明の生体電極組成物は、添加剤等を添加することにより、肌に対する伸縮性や粘着性を向上させることができる。また、本発明の生体電極組成物のイオン性材料(A)及び/又は樹脂成分(B)の組成や生体接触層の厚さを適宜調節することで、伸縮性や粘着性を調整することもできる。
【0226】
<生体電極>
また、本発明では、導電性基材と、該導電性基材上に形成された生体接触層とを有する生体電極であって、前記生体接触層が、上述の本発明の生体電極組成物の硬化物を含むものである生体電極を提供する。
【0227】
以下、本発明の生体電極組成物から形成された生体接触層を有する生体電極について、図面を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0228】
図1は、本発明の生体電極組成物の硬化物を含む生体電極の一例を示す概略断面図である。
図1の生体電極1は、導電性基材2と該導電性基材2上に形成された生体接触層3とを有するものである。生体接触層3は、イオン性ポリマー(イオン性材料)(A)とカーボン粉(カーボンナノチューブ)4とが樹脂成分(B)に分散された層である。イオン性材料は、高分子化合物(A-1)と高分子化合物(A-2)とを含んでいる。すなわち、この生体接触層3は、本発明の一例の生体電極組成物の硬化物である。
【0229】
生体接触層3の表面に位置する層5-1には、イオン性材料(A)のうち高分子化合物(A-1)が配向している。一方、生体接触層3の高分子化合物(A-1)配向層5-1以外の部分5-2には、高分子化合物(A-2)が配向している。なお、
図1では、生体接触層3のイオン性材料(A)が配向している部分5-1を他の部分5-2と区別するために、境界を設け且つ模様を変えている。しかしながら、実際は、生体接触層3は、視認可能な境界を含んでいなくてもよい。また、イオン性材料(A)は、生体接触層3の表面に位置している層5-1に配向している、すなわち偏在していることが好ましいが、イオン性材料(A)は、生体接触層3の内部や導電性基材2と接する部分にも存在していても良い。
【0230】
このような
図1の生体電極1を使用する場合には、
図2に示されるように、生体接触層3(即ち、イオン性ポリマー(A)とカーボンナノチューブ4とが樹脂成分(B)中に分散された層)を生体6と接触させ、イオン性ポリマーとカーボンナノチューブ4とによって生体6から電気信号を取り出し、これを導電性基材2を介して、センサーデバイス等の生体デバイス(不図示)まで伝導させる。このように、本発明の生体電極であれば、上述のイオン性ポリマー(イオン性材料(A))によって導電性及び生体適合性を両立でき、肌からの電気信号を安定的に高感度で得ることができる。
【0231】
また、イオン性材料(A)の高分子化合物(A-1)が粘着性を有している場合、又は樹脂成分(B)が粘着性の樹脂を含む場合、生体接触層3は高い粘着性を示すことができ、それにより、肌との接触面積を一定に保つことができ、肌からの電気信号をより安定的に得ることができる。
【0232】
以下、本発明の生体電極の各構成材料について、更に詳しく説明する。
【0233】
[導電性基材]
本発明の生体電極は、導電性基材を有するものである。この導電性基材は、通常、センサーデバイス等と電気的に接続されており、生体から生体接触層を介して取り出した電気信号をセンサーデバイス等まで伝導させる。
【0234】
導電性基材としては、導電性を有するものであれば特に限定されないが、例えば、金、銀、塩化銀、白金、アルミニウム、マグネシウム、スズ、タングステン、鉄、銅、ニッケル、ステンレス、クロム、チタン、及び炭素から選ばれる1種以上を含むものとすることが好ましい。
【0235】
また、導電性基材は、特に限定されず、硬質な導電性基板等であってもよいし、フレキシブル性を有する導電性フィルムや導電性ペーストを表面にコーティングした布地や導電性ポリマーを練り込んだ布地であってもよい。導電性基材は平坦でも凹凸があっても金属線を織ったメッシュ状であってもよく、生体電極の用途等に応じて適宜選択すればよい。
【0236】
[生体接触層]
本発明の生体電極は、導電性基材上に形成された生体接触層を有するものである。この生体接触層は、生体電極を使用する際に、実際に生体と接触する部分であり、導電性を有する。生体接触層は、上述の本発明の生体電極組成物の硬化物であり、即ち、上述のイオン性材料(塩)(A)を含有する層である。
【0237】
また、イオン性材料(A)の高分子化合物(A-1)が粘着性を有している場合、又は樹脂成分(B)が粘着性の樹脂を含む場合、生体接触層3は、粘着性を有する、すなわち粘着性の樹脂層である。
【0238】
なお、生体接触層の粘着力としては、0.5N/25mm以上20N/25mm以下の範囲が好ましい。粘着力の測定方法は、JIS Z 0237に示される方法が一般的であり、基材としてはSUS(ステンレス鋼)のような金属基板やPET(ポリエチレンテレフタラート)基板を用いることができるが、人の肌を用いて測定することもできる。人の肌の表面エネルギーは、金属や各種プラスチックより低く、テフロン(登録商標)に近い低エネルギーである。そのため、人の肌は粘着しにくい性質を有する。
【0239】
生体電極の生体接触層の厚さは、1μm以上5mm以下が好ましく、2μm以上3mm以下がより好ましい。生体接触層が薄くなるほど粘着力は低下するが、フレキシブル性は向上し、軽くなって肌へのなじみが良くなる。粘着性や肌への風合いとの兼ね合いで生体接触層の厚さを選択することができる。
【0240】
また、本発明の生体電極では、従来の生体電極(例えば、特開2004-033468号公報に記載の生体電極)と同様、使用時に生体から生体電極が剥がれるのを防止するために、生体接触層上に別途粘着膜を設けてもよい。別途粘着膜を設ける場合には、アクリル型、ウレタン型、シリコーン型等の粘着膜材料を用いて粘着膜を形成すればよく、特にシリコーン型は酸素透過性が高いためこれを貼り付けたままの皮膚呼吸が可能であり、撥水性も高いため汗による粘着性の低下が少なく、更に、肌への刺激性が低いことから好適である。なお、本発明の生体電極では、上記のように、生体電極組成物に粘着性付与剤を添加したり、生体への粘着性が良好な樹脂を用いたりすることで、生体からの剥がれを防止することができるため、上記の別途設ける粘着膜は必ずしも設ける必要はない。
【0241】
本発明の生体電極をウェアラブルデバイスとして使用する際の、生体電極とセンサーデバイスの配線や、その他の部材については、特に限定されるものではなく、例えば、特開2004-033468号公報に記載のものを適用することができる。
【0242】
以上のように、本発明の生体電極であれば、上述の本発明の生体電極組成物の硬化物で生体接触層が形成されるため、導電性及び生体適合性に優れ、軽量であり、低コストで製造することができ、水に濡れた場合及び乾燥した場合に導電性が大幅に低下することを防ぐことができる生体電極とすることができる。本発明の生体電極の生体接触層は、優れた導電性を示すことができるため、生体、例えば肌からの電気信号を効率良くデバイスに伝えることができる。また、この生体接触層は、優れた生体適合性を示すことができるため、長期間肌に装着した場合にも、アレルギーを起こすのを防ぐことができる。また、本発明の生体電極の生体接触層は、金属粉を添加することによって一層導電性を向上させることができる。また、本発明の生体電極組成物に粘着性と伸縮性を有する樹脂を組み込むことによって特に高粘着力で伸縮性が高い生体電極を製造することができる。更に、生体接触層に添加剤等を添加するにより、該生体接触層の肌に対する伸縮性や粘着性を向上させることができる。また、また、本発明の生体電極組成物のイオン性材料(A)及び/又は樹脂成分(B)の組成や生体接触層の厚さを適宜調節することで、伸縮性や粘着性を調整することもできる。従って、このような本発明の生体電極であれば、医療用ウェアラブルデバイスに用いられる生体電極として、特に好適である。
【0243】
<生体電極の製造方法>
本発明では、導電性基材と該導電性基材上に形成された生体接触層とを有する生体電極の製造方法であって、前記導電性基材上に、上述の生体電極組成物を塗布して塗膜を得ることと、前記塗膜を硬化させることで前記生体接触層を形成することとを特徴とする生体電極の製造方法を提供する。
【0244】
なお、本発明の生体電極の製造方法に使用される導電性基材、生体電極組成物等は、上述のものと同様でよい。
【0245】
導電性基材上に生体電極組成物を塗布する方法は、特に限定されないが、例えばディップコート、スプレーコート、スピンコート、ロールコート、フローコート、ドクターコート、スクリーン印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、ステンシル印刷、インクジェット印刷等の方法が好適である。
【0246】
樹脂の硬化方法は、特に限定されず、生体電極組成物に含まれる成分の種類によって適宜選択すればよいが、例えば、熱及び光のいずれか、又はこれらの両方で硬化させることが好ましい。また、上記の生体電極組成物に酸や塩基を発生させる触媒を添加しておいて、これによって架橋反応を発生させ、硬化させることもできる。
【0247】
なお、加熱する場合の温度は、特に限定されず、生体電極組成物に含まれる成分の種類によって適宜選択すればよいが、例えば50~250℃程度が好ましい。
【0248】
また、塗膜の表面を上向きにしながら加熱することにより、比較的分子量の小さい高分子化合物(A-1)が表面側に移動しやすくなる。これによって、硬化後の表面に、高分子化合物(A-1)が配向されている生体接触膜を得ることができる。
【0249】
また、加熱と光照射を組み合わせる場合は、加熱と光照射を同時に行ってもよいし、光照射後に加熱を行ってもよいし、加熱後に光照射を行ってもよい。また、塗膜後の加熱の前に溶剤を蒸発させる目的で風乾を行ってもよい。
【0250】
以上のように、本発明の生体電極の製造方法であれば、導電性及び生体適合性に優れ、軽量であり、水に濡れた場合及び乾燥した場合に導電性が大幅に低下することを防ぐことができる本発明の生体電極を、低コストで容易に製造することができる。
【0251】
<高分子化合物>
また、本発明では、下記一般式(5)で示される繰り返し単位を含むものであることを特徴とする高分子化合物を提供する。
【化77】
【0252】
式中、R13は、それぞれ独立に水素原子又はメチル基である。X7は、フェニレン基、ナフチレン基、エーテル基、エステル基、及びアミド基のいずれかである。M+はアンモニウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、及び銀イオンから選択されるイオンである。Rf1’は、フッ素原子、又はトリフルオロメチル基である。R20は、水素原子、メチル基である。Yは、フェニレン基、エステル基、アミド基である。R21は、フッ素原子、炭素数が1~12の直鎖状、分岐状、もしくは環状のアルキル基、炭素数が2~12の直鎖状、分岐状、もしくは環状のアルケニル基もしくはアルキニル基、又は炭素数4~20の芳香族基であり、エーテル基、カルボニル基、エステル基、ヒドロキシ基、アミノ基、ニトロ基、スルホニル基、スルフィニル基、スルホンアミド基、ハロゲン原子、及び硫黄原子から選ばれる1種以上を有していてもよく、少なくとも1つ以上のフッ素原子を有する。pは1~5の整数である。0<a7<1.0、0<b<1.0である。M+は、アンモニウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、及び銀イオンから選択されるイオンである。
【0253】
すなわち、本発明の高分子化合物は、高分子化合物(A-1)に関する説明で述べた、式(2)に示した繰り返し単位a7と、式(4)で表される繰り返し単位bとを含む。したがって、本願の高分子化合物は、導電性及び生体適合性に優れ、軽量であり、かつ低コストで製造することができ、水に濡れた場合及び乾燥した場合に導電性が大幅に低下することを防ぐことができる生体電極用の生体接触層を形成できる生体電極組成物を提供できる。
【0254】
また、本発明の高分子化合物は、例えば、下記一般式(6)で示される繰り返し単位を含むものであることができる。
【化78】
【0255】
式中、R22は、水素原子又はメチル基である。Zは、フェニレン基、エステル基、又はアミド基である。R23は、炭素数3~30の直鎖状又は分岐状のアルキル基であり、少なくとも1つ以上のエーテル基又はラクトン環を有する。R13、X7、M+、Rf1’、R20、R21、Y、及びpは前述の通りである。0<a7<1.0、0<b<1.0、0<c<1.0である。
【0256】
すなわち、本発明の高分子化合物は、上述の繰り返し単位a7及び繰り返し単位bに加え、繰り返し単位cを有することができる。繰り返し単位cは、高分子化合物(A-1)に関する説明で述べた、グライム鎖を有する繰り返し単位cであることが好ましい。
【0257】
このような繰り返し単位cを含む高分子化合物は、肌から放出されたイオンが生体接触膜内で移動するのを促進することができ、かくして生体電極の感度を高めることができる。
【実施例】
【0258】
以下、実施例及び比較例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、以下において、「Me」はメチル基、「Vi」はビニル基を示す。
【0259】
生体電極組成物溶液にイオン性材料(A)(導電性材料)として配合したイオン性ポリマー1-1~1-24、イオン性ポリマー2-1~2-7、及び比較イオン性ポリマー1を、以下のようにして合成した。各モノマーの30質量%シクロペンタノン溶液を反応容器に入れて混合し、反応容器を窒素雰囲気下-70℃まで冷却し、減圧脱気、窒素ブローを3回繰り返した。室温まで昇温後、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)をモノマー全体1モルに対して0.01モル加え、60℃まで昇温後、15時間反応させた。得られたポリマーの組成は、溶剤を乾燥後、1H-NMRにより確認した。また、得られたポリマーの分子量(Mw)及び分散度(Mw/Mn)は、溶剤としてテトラヒドロフラン(THF)を用いたゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により確認した。このようにして合成したA-1型のイオン性ポリマー1-1~1-21、A-2型のイオン性ポリマー2-1~2-7、及び比較イオン性ポリマー1を以下に示す。
【0260】
イオン性ポリマー1-1
Mw=36,400
Mw/Mn=2.11
【化79】
【0261】
イオン性ポリマー1-2
Mw=24,800
Mw/Mn=1.99
【化80】
【0262】
イオン性ポリマー1-3
Mw=150,600
Mw/Mn=1.85
【化81】
(式中の繰り返し数は平均値を示す。)
【0263】
イオン性ポリマー1-4
Mw=43,600
Mw/Mn=1.91
【化82】
【0264】
イオン性ポリマー1-5
Mw=43,600
Mw/Mn=1.91
【化83】
【0265】
イオン性ポリマー1-6
Mw=39,100
Mw/Mn=1.79
【化84】
【0266】
イオン性ポリマー1-7
Mw=43,600
Mw/Mn=1.91
【化85】
【0267】
イオン性ポリマー1-8
Mw=43,600
Mw/Mn=1.91
【化86】
【0268】
イオン性ポリマー1-9
Mw=49,900
Mw/Mn=1.99
【化87】
【0269】
イオン性ポリマー1-10
Mw=43,600
Mw/Mn=1.91
【化88】
【0270】
イオン性ポリマー1-11
Mw=43,600
Mw/Mn=1.91
【化89】
【0271】
イオン性ポリマー1-12
Mw=48,800
Mw/Mn=1.88
【化90】
【0272】
イオン性ポリマー1-13
Mw=48,800
Mw/Mn=1.88
【化91】
【0273】
イオン性ポリマー1-14
Mw=35,800
Mw/Mn=1.83
【化92】
【0274】
イオン性ポリマー1-15
Mw=33,300
Mw/Mn=1.77
【化93】
【0275】
イオン性ポリマー1-16
Mw=58,500
Mw/Mn=2.11
【化94】
【0276】
イオン性ポリマー1-17
Mw=51,100
Mw/Mn=1.93
【化95】
【0277】
イオン性ポリマー1-18
Mw=33,800
Mw/Mn=1.76
【化96】
【0278】
イオン性ポリマー1-19
Mw=31,300
Mw/Mn=1.66
【化97】
【0279】
イオン性ポリマー1-20
Mw=29,300
Mw/Mn=1.68
【化98】
【0280】
イオン性ポリマー1-21
Mw=46,800
Mw/Mn=1.73
【化99】
【0281】
イオン性ポリマー1-22
Mw=46,800
Mw/Mn=1.78
【化100】
【0282】
イオン性ポリマー1-23
Mw=46,800
Mw/Mn=1.78
【化101】
【0283】
イオン性ポリマー1-24
Mw=46,800
Mw/Mn=1.78
【化102】
【0284】
イオン性ポリマー2-1
Mw=31,600
Mw/Mn=2.10
【化103】
(式中の繰り返し数は平均値を示す。)
【0285】
イオン性ポリマー2-2
Mw=55,100
Mw/Mn=2.02
【化104】
(式中の繰り返し数は平均値を示す。)
【0286】
イオン性ポリマー2-3
Mw=87,500
Mw/Mn=2.01
【化105】
【0287】
イオン性ポリマー2-4
Mw=43,600
Mw/Mn=1.91
【化106】
【0288】
イオン性ポリマー2-5
Mw=43,600
Mw/Mn=1.91
【化107】
【0289】
イオン性ポリマー2-6
Mw=97,100
Mw/Mn=2.20
【化108】
【0290】
イオン性ポリマー2-7
Mw=98,300
Mw/Mn=2.05
【化109】
【0291】
比較例の生体電極組成物溶液にイオン性材料として配合した比較塩1~4を以下に示す。
【化110】
【0292】
比較イオン性ポリマー1
Mw=44,900
Mw/Mn=2.59
【化111】
【0293】
生体電極組成物溶液にシリコーン系の樹脂として配合したシロキサン化合物1~4を以下に示す。
(シロキサン化合物1)
30%トルエン溶液での粘度が27,000mPa・sであり、アルケニル基含有量が0.007モル/100gであり、分子鎖末端がSiMe2Vi基で封鎖されたビニル基含有ポリジメチルシロキサンをシロキサン化合物1とした。
(シロキサン化合物2)
Me3SiO0.5単位及びSiO2単位からなるMQレジンのポリシロキサン(Me3SiO0.5単位/SiO2単位=0.8)の60%トルエン溶液をシロキサン化合物2とした。
(シロキサン化合物3)
30%トルエン溶液での粘度が42,000mPa・sであり、アルケニル基含有量が0.007モル/100gであり、分子鎖末端がOHで封鎖されたビニル基含有ポリジメチルシロキサン40質量部、Me3SiO0.5単位及びSiO2単位からなるMQレジンのポリシロキサン(Me3SiO0.5単位/SiO2単位=0.8)の60%トルエン溶液100質量部、及びトルエン26.7質量部からなる溶液を乾留させながら4時間加熱後、冷却して、MQレジンにポリジメチルシロキサンを結合させたものをシロキサン化合物3とした。
(シロキサン化合物4)
メチルハイドロジェンシリコーンオイルとして、信越化学工業製 KF-99を用いた。
【0294】
また、シリコーン系の樹脂として、ポリエーテル型シリコーンオイルである側鎖ポリエーテル変性の信越化学工業製 KF-353を用いた。
【0295】
生体電極組成物溶液にアクリル系の樹脂として配合したアクリルポリマーを以下に示す。
アクリルポリマー1
Mw=108,000
Mw/Mn=2.32
【化112】
(式中の繰り返し数は平均値を示す。)
【0296】
生体電極組成物溶液にシリコーン系、アクリル系、あるいはウレタン系の樹脂として配合したシリコーンウレタンアクリレート1及び2を以下に示す。
【化113】
(式中の繰り返し数は平均値を示す。)
【0297】
生体電極組成物溶液に配合した有機溶剤を以下に示す。
PGMEA:プロピレングリコール-1-モノメチルエーテル-2-アセテート
アイソパーG(エクソンモービル社製):イソパラフィン
【0298】
生体電極組成物溶液に添加剤として配合したチタン酸リチウム粉、銀フレーク、ラジカル発生剤、白金触媒、及び導電性向上剤(カーボンブラック、カーボンナノチューブ)を以下に示す。
チタン酸リチウム粉、スピネル:Sigma-Aldrich社製 サイズ200nm以下
銀フレーク:Sigma-Aldrich社製 平均サイズ10μm
ラジカル発生剤:BASF社製 イルガキュアTPO
白金触媒:信越化学工業製 CAT-PL-50T
カーボンブラック:デンカ社製 デンカブラックHS-100
多層カーボンナノチューブ:Sigma-Aldrich社製 直径110~170nm、長さ5~9μm
【0299】
[実施例1~34、比較例1~7]
表1乃至表4に記載の組成で、イオン性材料(塩)、樹脂、有機溶剤、及び添加剤(ラジカル発生剤、白金触媒、導電性向上剤)をブレンドし、生体電極組成物溶液(生体電極組成物溶液1~34、比較生体電極組成物溶液1~7)を調製した。
【0300】
【0301】
【0302】
【0303】
【0304】
(導電性評価)
直径3cm、厚さ0.2mmのアルミニウム製の円板の上にアプリケーターを用いて各生体電極組成物溶液を塗布した。得られた塗膜を、室温で10分風乾した後、オーブンを用いて窒素雰囲気下125℃で10分間ベークして硬化させた。この作業を繰り返して行い、1つの生体電極組成物溶液につき生体電極を4枚作製した。このようにして得られた生体電極は、
図3(a)及び(b)に示されるように、一方の面には生体接触層3を有し、他方の面には導電性基材としてアルミニウム製の円板2を有するものであった。次に、
図3(b)に示されるように、生体接触層で覆われていない側のアルミニウム製の円板8の表面に銅配線9を粘着テープで貼り付けて引き出し電極とし、これをインピーダンス測定装置に接続した。
図4に示されるように、人の腕の肌と生体接触層側が接触するように生体電極1’を2枚貼り付けて、その間隔を15cmとした。ソーラトロン社製の交流インピーダンス測定装置SI1260を用い、周波数を変えながら初期インピーダンスを測定した。次に、残りの2枚の生体電極を純水中に1時間浸漬し、水を乾燥させた後、上記と同様の方法で肌上のインピーダンスを測定した。周波数1,000Hzにおけるインピーダンスを表5及び6に示す。
【0305】
(生体接触層の厚さ測定)
上記の導電性評価試験で作製した生体電極において、生体接触層の厚さをマイクロメーターを用いて測定した。結果を表5及び6に示す。
【0306】
【0307】
【0308】
表1~6に示されるように、特定の構造を有する塩(すなわち、上記繰り返し単位a及び上記繰り返し単位bを含んだ上記高分子化合物(A-1)を含んだイオン性材料(A))を配合した本発明の例の生体電極組成物を用いて生体接触層を形成した実施例1~34では、初期インピーダンスが低く、水に浸漬し乾燥させた後も、大幅なインピーダンスの変化は起こらなかった。つまり、実施例1~34では、初期の導電性が高く、水に濡れたり乾燥した場合にも導電性の大幅な低下を防ぐことができる生体電極が得られた。また、このような実施例1~34の生体電極は、従来の塩及び樹脂を配合した比較例1~4の生体電極と同程度の良好な粘着力を有し、軽量であり、生体適合性に優れ、低コストで製造可能であった。
【0309】
一方、比較例1~4で用いたイオン性材料は、高分子化合物を含んでいなかった。つまり、比較例1~4のイオン性材料は、上記繰り返し単位a及び上記繰り返し単位bを含んだ高分子化合物を含んでいなかった。従来の塩及び樹脂を配合した生体電極組成物を用いて生体接触層を形成したこれらの比較例1~4では、初期インピーダンスは比較的低いものの、水に浸漬し乾燥させた後は、桁が変わるほどの大幅なインピーダンスの増加が起こっていた。つまり、比較例1~4では、初期の導電性は比較的高いものの、水に濡れたり乾燥した場合には導電性が大幅に低下してしまう生体電極しか得られなかった。
【0310】
また、塩(イオン性材料)を配合せず樹脂を配合した生体電極組成物を用いて生体接触層を形成した比較例5では、塩を含まないため、水に浸漬し乾燥させた後も、桁が変わるほどの大幅なインピーダンスの増加は起こらなかったが、初期インピーダンスが大幅に高かった。つまり、比較例5では、初期の導電性の低い生体電極しか得られなかった。
【0311】
また、比較例6で用いたイオン性材料(イオン性ポリマー2-1)は、上記繰り返し単位aを含んでいたが、上記繰り返し単位bを含んでおらず、代わりに上記繰り返し単位gを含んでいた。このようなイオン性のポリマーを添加した比較例6では、比較的低いインピーダンスであったが、繰り返し単位aとともにフッ素を含有する繰り返し単位bを含んだイオン性のポリマーを添加した実施例1~34の方が低インピーダンスであった。
【0312】
そして、比較例7で用いたイオン性材料(比較イオン性ポリマー1)は、上記繰り返し単位bを含んでいたが、上記繰り返し単位aを含んでおらず、代わりにカルボン酸の弱酸塩を含んでいた。このようなイオン性のポリマーを添加した比較例7では、初期の導電性の低い生体電極しか得られなかった。
【0313】
以上のことから、本発明の例の生体電極組成物を用いて形成した生体接触層を含んだ生体電極であれば、導電性、生体適合性、導電性基材に対する接着性に優れ、イオン性材料の保持力に優れるため水に濡れても乾燥しても導電性が大幅に低下することがなく、軽量であり、また低コストで製造できることが明らかとなった。
【0314】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0315】
1及び1’…生体電極、 2…導電性基材、 3…生体接触層、 4…カーボン粉(カーボンナノチューブ)、 5-1…高分子材料(A-1)配向層、 5-2…高分子材料(A-2)配向層、 6…生体、 9…銅配線。