(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-27
(45)【発行日】2024-01-11
(54)【発明の名称】ポリビニルアルコール系架橋共重合体
(51)【国際特許分類】
C08F 8/28 20060101AFI20231228BHJP
C08F 216/06 20060101ALI20231228BHJP
C08L 29/04 20060101ALI20231228BHJP
A01G 24/35 20180101ALI20231228BHJP
【FI】
C08F8/28
C08F216/06
C08L29/04 Z
A01G24/35
(21)【出願番号】P 2020562449
(86)(22)【出願日】2019-12-26
(86)【国際出願番号】 JP2019051283
(87)【国際公開番号】W WO2020138356
(87)【国際公開日】2020-07-02
【審査請求日】2022-05-24
(31)【優先権主張番号】P 2018248012
(32)【優先日】2018-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【氏名又は名称】森住 憲一
(72)【発明者】
【氏名】三枝 裕典
(72)【発明者】
【氏名】馬場 正博
(72)【発明者】
【氏名】加藤 利典
【審査官】山口 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】特開昭52-014689(JP,A)
【文献】特開昭63-043930(JP,A)
【文献】特開昭56-157434(JP,A)
【文献】特開昭58-180233(JP,A)
【文献】国際公開第2020/075725(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F、C08G、C08K、C08L
A01G24/00-24/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不飽和モノカルボン酸系構成単位を含むポリビニルアルコール系架橋共重合体であって、当該架橋共重合体中のカルボン酸塩を形成している構成単位の量は、当該架橋共重合体を構成する全構成単位に対して
1.5モル%以上
15モル%以下であり、水への溶解度は90%以下である、ポリビニルアルコール系架橋共重合体。
【請求項2】
前記ポリビニルアルコール系架橋共重合体中のビニルアルコール単位の量は、当該架橋共重合体を構成する全構成単位に対して20モル%以上99モル%以下である、請求項1に記載のポリビニルアルコール系架橋共重合体。
【請求項3】
前記カルボン酸塩のカウンターカチオンとしてカリウムイオンを含む、請求項1または2に記載のポリビニルアルコール系架橋共重合体。
【請求項4】
前記ポリビニルアルコール系架橋共重合体1g当たりの植物が吸収可能な水の量は10g以上100g以下である、請求項1~
3のいずれかに記載のポリビニルアルコール系架橋共重合体。
【請求項5】
前記ポリビニルアルコール系架橋共重合体は、架橋構造としてアセタール構造を有する、請求項1~
4のいずれかに記載のポリビニルアルコール系架橋共重合体。
【請求項6】
前記アセタール構造は、少なくとも炭素数2~20の多官能性アルデヒドに由来する、請求項
5に記載のポリビニルアルコール系架橋共重合体。
【請求項7】
前記炭素数2~20の多官能性アルデヒドは、グリオキサール、マロンアルデヒド、スクシンアルデヒド、グルタルアルデヒド、アジプアルデヒド、マレアルデヒド、フマルアルデヒド、タルタルアルデヒド、シトルアルデヒド、テレフタルアルデヒド、イソフタルアルデヒド、フタルアルデヒド、1,9-ノナンジアールおよびエチレンジアミンテトラアセトアルデヒドからなる群から選択される1種以上の多官能性アルデヒドである、請求項
6に記載のポリビニルアルコール系架橋共重合体。
【請求項8】
前記不飽和モノカルボン酸系構成単位は、アクリル酸若しくはその誘導体またはメタクリル酸若しくはその誘導体に由来する、請求項1~
7のいずれかに記載のポリビニルアルコール系架橋共重合体。
【請求項9】
不飽和モノカルボン酸系構成単位を含むポリビニルアルコール系共重合体と架橋剤とを反応させる工程を含む、ポリビニルアルコール系架橋共重合体の製造方法であって、当該架橋共重合体中のカルボン酸塩を形成している構成単位の量は、当該架橋共重合体を構成する全構成単位に対して
1.5モル%以上
15モル%以下である、方法。
【請求項10】
前記ポリビニルアルコール系共重合体を膨潤させることが可能な溶媒の存在下、当該溶媒で膨潤したポリビニルアルコール系共重合体粒子と架橋剤とを反応させる工程を含む、請求項
9に記載の方法。
【請求項11】
請求項1~
8のいずれかに記載のポリビニルアルコール系架橋共重合体を含む、保水材。
【請求項12】
農業用である、請求項
11に記載の保水材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリビニルアルコール系架橋共重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
昨今、慢性的な水資源の枯渇に伴い、農業用水をより有効にかつ適切に利用する試み、または従来よりも少量の灌漑水量でも農産物の収穫量を維持若しくは増大させる試みが、いわゆる農業用保水材を用いて検討されている(例えば、特許文献1を参照)。これらの農業用保水材は高吸水性樹脂(SAP)を主要構成成分としており、例えば土壌全体の保水性の改善に用いられるピートモス等と比べると、極めて少量で効果を発揮することから、農家が用いる際の負担が少ないという利点がある。
【0003】
特許文献1には、ポリアクリル酸系重合体のハイドロゲルを主成分とする吸水性樹脂を農業用保水材として用いることが開示されている。しかし、ポリアクリル酸系重合体のハイドロゲルは生分解性を有さないため、環境中で消滅しにくいという課題があった。
【0004】
このような課題を解決する手段として、特許文献2には、カルボキシル基および/またはカルボキシレート基を有する変性ポリビニルアルコール共重合体からなる吸水性樹脂が開示されており、特許文献3には、マレイン酸系単量体-酢酸ビニル共重合体を鹸化した後に乾燥して得られる変性ポリビニルアルコールを保水材として使用することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開第1998/005196号パンフレット
【文献】特開昭63-43930号公報
【文献】特開昭52-88168号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、本発明者らの検討によれば、特許文献2に記載の吸水性樹脂は、吸水能が高い(即ち、多量の水を吸収できる)一方で吸収した水の放出能が低いため、放出水量〔即ち、植物が吸収可能な(その生育に利用可能な)水の量〕が少ないという課題がある。また、特許文献3に記載の吸水性樹脂は、製造時の乾燥工程においてマレイン酸に由来するカルボキシル基とポリビニルアルコールに由来する水酸基との架橋反応が不規則に進行するため、吸水量が安定せず、その結果、吸水性樹脂としての品質が安定しないという課題がある。
これらに鑑み、発明が解決しようとする課題は、より高い品質安定性を有し、植物がその生育に利用可能な水をより多く吸収できるように水の放出能が高い、架橋共重合体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定のポリビニルアルコール系架橋共重合体が前記課題を解決できることを見出し、本発明に達した。
即ち、本発明は、以下の好適な態様を包含する。
〔1〕不飽和モノカルボン酸系構成単位を含むポリビニルアルコール系架橋共重合体であって、当該架橋共重合体中のカルボン酸塩を形成している構成単位の量は、当該架橋共重合体を構成する全構成単位に対して1モル%以上35モル%以下であり、水への溶解度は90%以下である、ポリビニルアルコール系架橋共重合体。
〔2〕前記ポリビニルアルコール系架橋共重合体中のビニルアルコール単位の量は、当該架橋共重合体を構成する全構成単位に対して20モル%以上99モル%以下である、前記〔1〕に記載のポリビニルアルコール系架橋共重合体。
〔3〕前記カルボン酸塩のカウンターカチオンとしてカリウムイオンを含む、前記〔1〕または〔2〕に記載のポリビニルアルコール系架橋共重合体。
〔4〕前記ポリビニルアルコール系架橋共重合体中のカルボン酸塩を形成している構成単位の量は、当該架橋共重合体を構成する全構成単位に対して1.5モル%以上15モル%以下である、前記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載のポリビニルアルコール系架橋共重合体。
〔5〕前記ポリビニルアルコール系架橋共重合体1g当たりの植物が吸収可能な水の量は10g以上100g以下である、前記〔1〕~〔4〕のいずれかに記載のポリビニルアルコール系架橋共重合体。
〔6〕前記ポリビニルアルコール系架橋共重合体は、架橋構造としてアセタール構造を有する、前記〔1〕~〔5〕のいずれかに記載のポリビニルアルコール系架橋共重合体。
〔7〕前記アセタール構造は、少なくとも炭素数2~20の多官能性アルデヒドに由来する、前記〔6〕に記載のポリビニルアルコール系架橋共重合体。
〔8〕前記炭素数2~20の多官能性アルデヒドは、グリオキサール、マロンアルデヒド、スクシンアルデヒド、グルタルアルデヒド、アジプアルデヒド、マレアルデヒド、フマルアルデヒド、タルタルアルデヒド、シトルアルデヒド、テレフタルアルデヒド、イソフタルアルデヒド、フタルアルデヒド、1,9-ノナンジアールおよびエチレンジアミンテトラアセトアルデヒドからなる群から選択される1種以上の多官能性アルデヒドである、前記〔7〕に記載のポリビニルアルコール系架橋共重合体。
〔9〕前記不飽和モノカルボン酸系構成単位は、アクリル酸若しくはその誘導体またはメタクリル酸若しくはその誘導体に由来する、前記〔1〕~〔8〕のいずれかに記載のポリビニルアルコール系架橋共重合体。
〔10〕不飽和モノカルボン酸系構成単位を含むポリビニルアルコール系共重合体と架橋剤とを反応させる工程を含む、ポリビニルアルコール系架橋共重合体の製造方法であって、当該架橋共重合体中のカルボン酸塩を形成している構成単位の量は、当該架橋共重合体を構成する全構成単位に対して1モル%以上35モル%以下である、方法。
〔11〕前記ポリビニルアルコール系共重合体を膨潤させることが可能な溶媒の存在下、当該溶媒で膨潤したポリビニルアルコール系共重合体粒子と架橋剤とを反応させる工程を含む、前記〔10〕に記載の方法。
〔12〕前記〔1〕~〔9〕のいずれかに記載のポリビニルアルコール系架橋共重合体を含む、保水材。
〔13〕農業用である、前記〔12〕に記載の保水材。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、より高い品質安定性を有し、植物がその生育に利用可能な水をより多く吸収できるように水の放出能が高い、架橋共重合体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施態様について説明するが、本発明は、本実施態様に限定されない。
【0010】
本発明のポリビニルアルコール系架橋共重合体は、不飽和モノカルボン酸系構成単位を含む。当該架橋共重合体中のカルボン酸塩を形成している構成単位の量は、当該架橋共重合体を構成する全構成単位に対して1モル%以上35モル%以下であり、水への溶解度は90%以下である。
【0011】
[ポリビニルアルコール系架橋共重合体]
本発明のポリビニルアルコール系架橋共重合体に含まれる不飽和モノカルボン酸系構成単位は、1種若しくは複数種の不飽和モノカルボン酸若しくはその誘導体に由来する。そのような不飽和モノカルボン酸およびその誘導体は、本発明における特定の前記構成単位量および特定の上記溶解度をもたらす限り特に限定されない。不飽和モノカルボン酸の誘導体の例は、不飽和モノカルボン酸の無水物、エステル化物および中和物等を包含する。
【0012】
本発明の架橋共重合体は吸水性樹脂として使用できる。植物がその生育に利用可能な水をより多く吸収できるように、吸水性樹脂は吸水能に加えて、水の放出能が高いことが求められる。吸水性樹脂の水の放出能の観点からは、上述の不飽和モノカルボン酸若しくはその誘導体は、好ましくは、アクリル酸、アクリル酸の誘導体、メタクリル酸およびメタクリル酸の誘導体からなる群から選択される1以上の化合物である。従って、本発明の架橋共重合体に含まれる不飽和モノカルボン酸系構成単位は、好ましくは、アクリル酸若しくはその誘導体またはメタクリル酸若しくはその誘導体に由来する。アクリル酸の誘導体の例は、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸i-プロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸i-ブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸2-エチルへキシル、アクリル酸ドデシルおよびアクリル酸オクタデシル等のアクリル酸エステルを包含し、メタクリル酸の誘導体の例は、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸i-プロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸i-ブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸2-エチルへキシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸オクタデシル等のメタクリル酸エステルを包含する。
【0013】
本発明の架橋共重合体は、不飽和モノカルボン酸系構成単位を含む。すなわち、多官能性でなく単官能性の不飽和カルボン酸またはその誘導体に由来する構成単位を有する。そのような構成単位のカルボキシル基は、架橋共重合体の製造時において、ビニルアルコール単位の水酸基と架橋しにくいため、本発明の架橋共重合体は、より高い品質安定性を有することができる。
【0014】
本発明のポリビニルアルコール系架橋共重合体中のカルボン酸塩を形成している構成単位の量は、当該架橋共重合体を構成する全構成単位に対して1モル%以上35モル%以下である。前記構成単位量が1モル%未満であると、架橋共重合体は少量の水しか吸収できず、所望の吸水能を有することはできない。また、前記構成単位量が35モル%より大きいと、架橋共重合体は、吸収した水を少ない割合でしか放出できず、所望の水の放出能を有することはできない。前記構成単位量は、好ましくは1.5モル%以上、より好ましくは2モル%以上、特に好ましくは4モル%以上であり、好ましくは30モル%以下、より好ましくは25モル%以下、より好ましくは25モル%未満、より好ましくは20モル%以下、さらに好ましくは15モル%以下、特に好ましくは10モル%以下である。前記構成単位量が前記下限値以上であり前記上限値以下(または前記上限値未満)であると、架橋共重合体はより高い放出水量を有しやすい。また、前記構成単位量が前記下限値以上で15モル%以下であると肥料や土壌に含まれる二価金属イオンの存在下で高い吸水量を有しやすい。前記構成単位量は、例えば、酢酸ビニルと不飽和モノカルボン酸若しくはその誘導体との配合比、反応時のそれらの消費率若しくは反応性比、反応温度、またはアルカリ量等の調整によって、前記下限値以上および前記上限値以下の量に調整することができる。
前記構成単位量の量、後述のアセタール化度および後述のビニルアルコール単位の量は、従来公知の方法で測定できる。そのような方法の例は、固体NMR(核磁気共鳴分光法)、FTIR(フーリエ変換赤外分光法)および酸塩基滴定(一定量の無水酢酸と反応させた際の無水酢酸の消費量から算出する方法)を包含する。架橋共重合体が未知の構成単位を含む場合は、測定方法として固体NMRを採用することが好ましい。なお、本発明において「構成単位」とは重合体を構成する繰り返し単位のことを意味し、例えばビニルアルコール単位は「1単位」、2単位のビニルアルコール単位がアセタール化された構造は「2単位」と数えることとする。
【0015】
前記カルボン酸塩のカウンターカチオンの例は、リチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、ルビジウムイオンおよびセシウムイオン等のアルカリ金属イオン;マグネシウムイオン、カルシウムイオン、ストロンチウムイオンおよびバリウムイオン等のアルカリ土類金属イオン;アルミニウムイオンおよび亜鉛イオン等のその他金属イオン;アンモニウムイオン、イミダゾリウム類、ピリジニウム類およびホスホニウムイオン類等のオニウムカチオン;およびこれらカウンターカチオンの2以上の組み合わせを包含する。中でも、本発明の架橋共重合体を農業用保水材として用いる場合には、カリウムイオン、カルシウムイオンおよびアンモニウムイオンが好ましく、土壌中に含まれる二価イオンとの接触時の吸水性を維持しやすい観点からはカルシウムイオンがより好ましく、植物の生育の観点からはカリウムイオンがより好ましい。従って、本発明の好ましい一実施態様では、本発明の架橋共重合体は、カルボン酸塩のカウンターカチオンとしてカリウムイオンを含む。
【0016】
本発明のポリビニルアルコール系架橋共重合体の水への溶解度は90%以下である。この溶解度は架橋共重合体の架橋度の指標であって、溶解度が90%より大きいことは、共重合体が十分または全く架橋されていないことを表す。前記溶解度が90%より大きいと、架橋共重合体に水を吸収させた際に水に溶解する架橋共重合体の割合が高く、ゲル構造が崩壊し保水性を担保できないおそれがある。しかし、溶解度が90%より僅かでも小さければ(例えば溶解度が87%である場合)、そのような崩壊は起こりにくく、また、水に溶解せずに残留した架橋共重合体が十分な吸水能を有する結果、本発明の架橋共重合体は十分な吸水能を発揮することができる。前記溶解度は好ましくは80%以下、より好ましくは70%以下である。溶解度が前記上限値以下であると、水を吸収した際に架橋共重合体のゲル構造が崩壊しにくく、所望の吸水能を有することができる。また、前記溶解度が高い程、架橋共重合体の生分解性が向上しやすいため、好ましい。前記溶解度は、例えば、架橋剤の量および/またはカルボン酸塩の量の調整によって、前記上限値以下の値に調整することができる。前記溶解度の下限値は特に限定されない。前記溶解度は通常は5%以上である。前記溶解度は、後述の実施例に記載の方法で測定できる。
【0017】
本発明の架橋共重合体の架橋構造の形態は特に限定されない。その例は、エステル結合、エーテル結合、アセタール結合、炭素-炭素結合またはこれら結合の2以上の組み合わせによる架橋構造を包含する。製造容易性の観点からは、エステル結合またはアセタール結合による架橋構造が好ましく、より高い吸水能および耐紫外線性の観点からは、アセタール結合による架橋構造が好ましい。従って、本発明の好ましい一態様では、本発明の架橋共重合体は、架橋構造としてアセタール構造を有する。
【0018】
架橋共重合体の耐加水分解性の観点から、前記アセタール構造は、好ましくは、少なくとも炭素数2~20の多官能性アルデヒドに由来する。吸水能を担保しやすい観点から、炭素数2~20の多官能性アルデヒドは、好ましくは、グリオキサール、マロンアルデヒド、スクシンアルデヒド、グルタルアルデヒド、アジプアルデヒド、マレアルデヒド、フマルアルデヒド、タルタルアルデヒド、シトルアルデヒド、テレフタルアルデヒド、イソフタルアルデヒド、フタルアルデヒド、1,9-ノナンジアールおよびエチレンジアミンテトラアセトアルデヒドからなる群から選択される1種以上の多官能性アルデヒドである。
【0019】
本発明のポリビニルアルコール系架橋共重合体のアセタール化度は、好ましくは0.01モル%以上50モル%以下である。アセタール化度が前記範囲内であると、ポリビニルアルコール系架橋共重合体の吸水能を向上させやすい。前記観点からアセタール化度は、好ましくは0.02モル%以上、より好ましくは0.05モル%以上、さらに好ましくは0.1モル%以上、そして、好ましくは40モル%以下、より好ましくは30モル%以下、さらに好ましくは20モル%以下である。アセタール化度は、架橋反応におけるアセタール化剤の使用量を調整することにより調整できる。アセタール化度は、ポリビニルアルコール系架橋共重合体中において、アセタール化反応をする前のビニルアルコール単位の量に対する、アセタール化反応後のアセタール化されたビニルアルコール単位の量の割合を意味する。
【0020】
本発明のポリビニルアルコール系架橋共重合体中のビニルアルコール単位の量は、当該架橋共重合体を構成する全構成単位に対して、好ましくは20モル%以上、より好ましくは30モル%以上、より好ましくは40モル%以上、より好ましくは50モル%以上、より好ましくは65モル%以上、より好ましくは70モル%以上、より好ましくは75モル%以上、より好ましくは75モル%超、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは85モル%以上、特に好ましくは90モル%以上であり、好ましくは99モル%以下、より好ましくは98.5モル%以下、さらに好ましくは98モル%以下、特に好ましくは96モル%以下である。前記ビニルアルコール単位量が前記下限値以上(または前記下限値超)であり前記上限値以下であると、架橋共重合体はより高い吸水能を有しやすい。前記ビニルアルコール単位量は、例えば、酢酸ビニルと不飽和モノカルボン酸若しくはその誘導体との配合比、反応時のそれらの消費率若しくは反応性比、または反応温度等の調整によって、前記下限値以上および前記上限値以下の量に調整することができる。
【0021】
本発明のポリビニルアルコール系架橋共重合体は、不飽和モノカルボン酸系構成単位およびビニルアルコール単位以外の他の構成単位を含んでいてもよい。前記他の構成単位の例としては、酢酸ビニルおよびピバル酸ビニル等のカルボン酸ビニル由来の構成単位;エチレン、1-ブテンおよびイソブチレン等のオレフィン由来の構成単位;アクリルアミドおよびその誘導体、メタクリルアミドおよびその誘導体、並びにマレイミド誘導体等に由来する構成単位;無水マレイン酸等の多官能性不飽和カルボン酸およびその誘導体に由来する構成単位;等が挙げられる。本発明の架橋共重合体が前記他の構成単位を含む場合、本発明の架橋共重合体は前記他の構成単位を1種含んでいても複数種含んでいてもよい。前記他の構成単位の含有量は、本発明の架橋共重合体を構成する全構成単位に対して、好ましくは50モル%以下、より好ましくは30モル%以下、さらに好ましくは15モル%以下であり、0モル%であってもよい。前記他の構成単位の含有量が前記上限値以下であると、本発明の架橋共重合体のより優れた吸水能を得やすい。
特に、多官能性不飽和カルボン酸およびその誘導体に由来する構成単位の含有量は、好ましくは10モル%以下、より好ましくは5モル%以下、さらに好ましくは1モル%以下、さらにより好ましくは0モル%である。これは、そのような構成単位のカルボキシル基の含有量が多い場合、架橋共重合体の製造時において、ビニルアルコール単位の水酸基との架橋反応が生じやすくなり、その結果、品質安定性が低下する可能性があるためである。
【0022】
本発明の架橋共重合体の粘度平均重合度は特に限定されない。製造容易性の観点から、前記粘度平均重合度は、好ましくは20,000以下、より好ましくは10,000以下、さらに好ましくは4000以下、特に好ましくは3000以下である。一方、架橋共重合体の力学特性および水への溶解度の観点からは、前記粘度平均重合度は、好ましくは100以上、より好ましくは200以上、さらに好ましくは400以上である。前記粘度平均重合度は、例えば、重合条件の調整によって、前記下限値以上および前記上限値以下の量に調整することができる。本発明の架橋共重合体の粘度平均重合度は、例えばJIS K 6726に準拠した方法により測定できる。
【0023】
本発明の架橋共重合体は粒子であることが好ましい。本発明の架橋共重合体が粒子であるとき、該粒子の平均粒子径は好ましくは10μm以上、より好ましくは50μm以上、特に好ましくは80μm以上であり、好ましくは1000μm以下、より好ましくは500μm以下、特に好ましくは300μm以下である。前記平均粒子径が前記下限値以上であると優れた取扱い性を得やすく、前記上限値以下であると優れた吸水速度を得やすい。前記平均粒子径は、例えば、鹸化条件および/または粉砕条件の調整によって、前記下限値以上および前記上限値以下の量に調整することができる。前記平均粒子径は、レーザー回折/散乱で測定できる。
【0024】
[ポリビニルアルコール系架橋共重合体の製造方法]
本発明はまた、不飽和モノカルボン酸系構成単位を含むポリビニルアルコール系共重合体と架橋剤とを反応させる工程を含む、ポリビニルアルコール系架橋共重合体の製造方法であって、当該架橋共重合体中のカルボン酸塩を形成している構成単位の量は、当該架橋共重合体を構成する全構成単位に対して1モル%以上35モル%以下である、方法も対象とする。
【0025】
前記製造方法における、不飽和モノカルボン酸系構成単位を含むポリビニルアルコール系共重合体は、例えば、(i)不飽和モノカルボン酸およびその誘導体からなる群から選択される1以上の化合物とビニルエステルとを、公知の重合開始剤の存在下で公知の方法により重合させ、得られた重合体を、公知の方法で鹸化する方法、または(ii)ポリビニルアルコール系重合体と、不飽和モノカルボン酸およびその誘導体からなる群から選択される1以上の化合物とを、公知の重合開始剤の存在下で公知の方法により重合させ、得られた重合体を、公知の方法で鹸化する方法により調製できる。
【0026】
[ポリビニルアルコール系架橋共重合体]の項において述べたように、前記(i)および(ii)で用いる不飽和モノカルボン酸およびその誘導体は、特に限定されない。また、所望の吸水能を有する架橋共重合体を得やすい観点からは、不飽和モノカルボン酸およびその誘導体は、好ましくは、アクリル酸、アクリル酸の誘導体、メタクリル酸およびメタクリル酸の誘導体からなる群から選択される1以上の化合物である。
【0027】
前記(i)で用いるビニルエステルは特に限定されない。その例は、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、吉草酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、トリフルオロ酢酸ビニルおよびピバル酸ビニルを包含し、工業的入手性の観点からは、酢酸ビニルが好ましい。
【0028】
前記(ii)で用いるポリビニルアルコール系重合体は特に限定されない。ビニルアルコール単位のみを有するポリビニルアルコールでもよいし、ビニルアルコール単位に加えて他の構成単位を有する重合体でもよい。例えば、エチレンビニルアルコールコポリマーでもよい。
【0029】
不飽和モノカルボン酸系構成単位およびビニルアルコール単位に加えて他の構成単位も有するポリビニルアルコール系架橋共重合体を製造する場合は、前記(i)の重合工程において、他の構成単位をもたらす化合物をさらに添加することができる。そのような化合物としては、[ポリビニルアルコール系架橋共重合体]の項において例示した他の構成単位をもたらす化合物を使用できる。
【0030】
ポリビニルアルコール系共重合体の鹸化度は特に限定されない。本発明のポリビニルアルコール系架橋共重合体の吸水能は、当該架橋共重合体中のカルボン酸塩を形成している構成単位の量および架橋構造の量に大きな影響を受けており、前記鹸化度が当該吸水能に及ぼす影響は極めて小さい。従って、前記鹸化度は、例えば、30モル%以上または60モル%以上(例えば70モル%以上)であってよく、99モル%以上(例えば100モル%)であってもよい。
【0031】
ポリビニルアルコール系共重合体と架橋剤との反応は、公知の方法により実施すればよい。架橋剤は特に限定されず、[ポリビニルアルコール系架橋共重合体]の項において例示した架橋構造をもたらす架橋剤を使用できる。所望の吸水能を得やすい観点から、架橋剤は、ポリビニルアルコール系架橋共重合体中の架橋構造の量が、好ましくは0.005モル%以上、より好ましくは0.01モル%以上、さらに好ましくは0.05モル%以上、特に好ましくは0.1モル%以上であり、好ましくは0.5モル%以下、より好ましくは0.4モル%以下、特に好ましくは0.35モル%以下となるような量で使用すればよい。架橋構造の量は、ポリビニルアルコール系架橋共重合体を構成する全構成単位に対して、架橋構造を構成する構成単位の量を意味する。
【0032】
好ましい一態様では、前記した本発明の製造方法は、前記ポリビニルアルコール系共重合体を膨潤させることが可能な溶媒の存在下、当該溶媒で膨潤したポリビニルアルコール系共重合体粒子と架橋剤とを反応させる工程を含む。
【0033】
本発明において、「ポリビニルアルコール系共重合体を膨潤させることが可能な溶媒」としては、原料として用いるポリビニルアルコール系重合体粒子を膨潤させることが可能であり、かつ反応時の温度にて溶解させない限り特に制限されない。そのような溶媒の例としては、アセトン、2-ブタノン等のジアルキルケトン;アセトニトリル等のニトリル;メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、2-ブタノール、アミルアルコール、イソアミルアルコール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、オクタノール、tert-ブタノール等のアルコール;1,4-ジオキサン、テトラヒドロフラン、1,2-ジメトキシエタン、ジグライム等のエーテル;エチレングリコール、トリエチレングリコール等のジオール化合物;アセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドン等のカルボン酸アミド;ジメチルスルホキシド、フェノールなどの有機溶媒および水が挙げられる。中でも、不均一反応後に得られた変性ポリビニルアルコール樹脂からの溶媒の除去の容易さ、溶媒に対するカルボニル化合物および酸触媒の溶解性、および溶媒の工業的入手性を考慮すると、上記溶媒は、ジアルキルケトン、ニトリル、アルコール、エーテルおよび水からなる群から選択される少なくとも1つであることが好ましく、アセトン、2-ブタノン、アセトニトリル、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、tert-ブタノール、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフランおよび水からなる群から選択される少なくとも1つであることがより好ましく、アセトン、2-ブタノン、アセトニトリル、メタノール、2-プロパノール、1,4-ジオキサン、テトラヒドロフランおよび水からなる群から選択される少なくとも1つであることがさらに好ましい。これらの有機溶媒は一種を単独で用いてもよく、二種以上混合して用いてもよい。
【0034】
本発明の製造方法は、前記ポリビニルアルコール系共重合体を膨潤させることが可能な溶媒の存在下、当該溶媒で膨潤したポリビニルアルコール系共重合体粒子と架橋剤とを反応させるため、析出工程を必要とせずにポリビニルアルコール系架橋共重合体の粒子を容易に取り出すことができる。
【0035】
膨潤前のポリビニルアルコール系共重合体粒子の平均粒子径は、好ましくは10μm以上、より好ましくは50μm以上、特に好ましくは80μm以上であり、好ましくは1000μm以下、より好ましくは500μm以下、特に好ましくは300μm以下である。前記平均粒子径が前記下限値以上であると優れた取扱い性を得やすく、前記上限値以下であると優れた溶媒吸収速度を得やすい。前記平均粒子径は、例えば、鹸化条件および/または粉砕条件の調整によって、前記下限値以上および前記上限値以下の量に調整することができる。前記平均粒子径は、レーザー回折/散乱で測定できる。
【0036】
本発明のポリビニルアルコール系架橋共重合体は、カルボン酸塩を形成している構成単位を含む。カルボン酸塩を形成している構成単位が導入されたポリビニルアルコール系架橋共重合体の製造方法としては、例えば、前記(i)または(ii)において不飽和モノカルボン酸の中和物を用いる方法;および上述の架橋剤との反応後に得た架橋共重合体を中和する方法;等が挙げられる。
【0037】
本発明の製造方法により製造されるポリビニルアルコール系架橋共重合体中のカルボン酸塩を形成している構成単位の量は、当該架橋共重合体を構成する全構成単位に対して1モル%以上35モル%以下である。
本発明の製造方法により製造されるポリビニルアルコール系架橋共重合体の詳細および好ましい態様等については、[ポリビニルアルコール系架橋共重合体]の項において既述したものを適用できる。
【0038】
本発明のポリビニルアルコール系架橋共重合体が吸収可能な水の量(W1[g/g])および植物が吸収可能な水の割合(W2[%])は、架橋共重合体中の架橋構造の量およびカルボン酸塩を形成している構成単位の量により調整可能である。W1はポリビニルアルコール系架橋共重合体において架橋構造の量を少なくしたり、カルボン酸塩を形成している構成単位の量を多くしたりすることで、大きくすることができ、W2は架橋共重合体において架橋構造の量を多くしたり、カルボン酸塩を形成している構成単位の量を少なくしたりすることで、大きくすることができる。架橋共重合体1g当たりの植物が吸収可能な水の量(W3[g/g])は、W3=W1×W2/100で表され、その値は10以上が好ましく、20以上がより好ましく、30以上がさらに好ましく、45以上が最も好ましい。また、架橋共重合体1g当たりの植物が吸収可能な水の量は、通常は100g/g以下、好ましくは80g/g以下、さらに好ましくは60g/g以下である。W1、W2およびW3は、実施例に記載の方法で測定できる。
【0039】
架橋共重合体1g当たりの純水吸収量W1の標準偏差は、好ましくは0以上30以下、より好ましくは20以下、さらに好ましくは15以下である。上記標準偏差は、架橋共重合体を構成するモノマーの種類により調整可能であり、標準偏差が上記範囲内であることは、W1について架橋共重合体の品質安定性が高いことを表し得る。
【0040】
本発明はまた、本発明のポリビニルアルコール系架橋共重合体を含む保水材も対象とする。本発明はさらに、農業用である前記保水材も対象とする。
保水材に含まれる本発明のポリビニルアルコール系架橋共重合体は、1種であってもよく、2種以上の混合物であってもよい。
【0041】
保水材は、任意成分として添加剤を含有してよい。そのような添加剤の例としては、例えば、デンプン、変性デンプン、アルギン酸ナトリウム、キチン、キトサン、セルロースおよびその誘導体等の多糖類;ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、ポリスチレン、アクリロニトリル-スチレン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、ポリ塩化ビニル、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ポリコハク酸、ポリアミド6、ポリアミド6・6、ポリアミド6・10、ポリアミド11、ポリアミド12、ポリアミド6・12、ポリヘキサメチレンジアミンテレフタルアミド、ポリヘキサメチレンジアミンイソフタルアミド、ポリノナメチレンジアミンテレフタルアミド、ポリフェニレンエーテル、ポリオキシメチレン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリトリメチレングリコール、ポリテトラメチレングリコール、ポリウレタン、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリ酢酸ビニル、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリアクリル酸、ポリアクリル酸エステル、ポリアクリル酸塩、ポリメタクリル酸、ポリメタクリル酸エステル、ポリメタクリル酸塩、エチレン-アクリル酸共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、エチレン-アクリル酸塩共重合体、エチレン-メタクリル酸共重合体、エチレン-メタクリル酸エステル共重合体、およびエチレン-メタクリル酸塩共重合体等の樹脂類;天然ゴム、合成イソプレンゴム、クロロプレンゴム、シリコーンゴム、フッ素ゴム、ウレタンゴム、アクリルゴム、スチレン系熱可塑性エラストマー、オレフィン系熱可塑性エラストマー、エステル系熱可塑性エラストマー、ウレタン系熱可塑性エラストマー、およびアミド系熱可塑性エラストマー等のゴム・エラストマー類;紫外線吸収剤、酸化防止剤、光安定剤、可塑剤、有機溶媒、消泡剤、増粘剤、界面活性剤、滑剤、防カビ剤および帯電防止剤等が挙げられる。これらの添加剤は、1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて使用できる。保水材が添加剤を含有する場合、その合計質量は本発明の効果を損なわない範囲であればよく、保水材の総質量に対して通常は30質量%以下、好ましくは20質量%以下である。
【0042】
本発明のポリビニルアルコール系架橋共重合体は高い吸水特性と優れた品質安定性を示すことから、保水材以外にも、一般的に知られている吸水性樹脂の用途、例えば薬物送達系におけるキャリア;流出および排出水性液の吸収材;塗料、インクまたは着色剤組成物用の吸収性コーティング;殺虫剤、除草剤、芳香剤、および薬物を制御放出するためのキャリア;難燃性ゲル;創傷被覆材;医療用廃物固化材;食料品用の吸収パッドおよび包装材料;化粧品のゲル化剤;シーリング複合材;濾過用途;航空機および自動車用の燃料監視システム;かご飼育動物用の給水体;水中で大きくなる玩具;掘削液の添加剤;人工雪;ポリマーサンドなどに用いることもできる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はかかる実施例により何ら限定されない。
【0044】
[測定項目および測定方法]
(1)カルボン酸塩を形成している構成単位の量およびビニルアルコール単位の量
実施例および比較例で製造した吸水性樹脂(ポリビニルアルコール系架橋共重合体)について、Thermo SCIENCE社製の赤外分光光度計「Nicolet iS10」を用いてIR測定を行った。得られたIRスペクトルにおいて、ビニルアルコール単位およびカルボン酸系構成単位のメチレン基およびメチン基に由来するピーク(2990~2560cm
-1)の面積とカルボン酸塩を形成している構成単位のカルボキシレート基に由来するピーク(1625~1510cm
-1)の面積とを求めた。
次いで、実施例および比較例で製造した吸水性樹脂に関して、下記式に基づいて、架橋共重合体中のカルボン酸塩を形成している構成単位の量(単位:モル%)およびビニルアルコール単位の量(単位:モル%)を算出した。
【数1】
前記式における13.07は、実施例および比較例で製造した吸水性樹脂に関して、前記式を用いてカルボン酸塩を形成している構成単位の量を計算するための係数である。当該係数は事前に作成した検量線から求めた。
【0045】
(2)水への溶解度
25℃の純水100mLに実施例および比較例で製造した架橋共重合体0.1gを加え、6時間静置した。静置後の混合物をテトロンメッシュ(280メッシュ)により自然濾過し、濾取したゲルを40℃で12時間減圧乾燥し、下記式に基づいて、架橋共重合体の水への溶解度S(単位:%)を算出した。
【数2】
【0046】
(3)植物が吸収可能な水の量
まず、JIS K 7223に準じて、実施例および比較例で製造した架橋共重合体の純水吸収量を測定し(試料数:n=3)、下記式に基づいて、架橋共重合体1g当たりの純水吸収量W
1(単位:g/g)の平均値および標準偏差を算出した。
【数3】
本発明において「植物が吸収可能な水の割合」〔W
2(単位:%)〕とは、架橋共重合体の飽和吸水量に対する植物が吸収可能な水の割合を意味する。この割合W
2は、遠心分離法により簡易的に求めることができる。本発明では、下記方法によりW
2を求めた。
試料としての、架橋共重合体の質量に対して50質量倍の水を吸水させた架橋共重合体2.4gをシリンジに導入し、このシリンジを、株式会社コクサン製小型遠心分離機「H-36」の中心から10.2cmの位置になるように遠心管内部に固定した。遠心分離機を2200rpmで60分間回転させ、下記式に基づいて植物が吸収可能な水の割合W
2および架橋共重合体1g当たりの植物が吸収可能な水の量W
3(単位:g/g)を算出した。ただし、架橋共重合体が50質量倍の水を吸収できない場合は、飽和吸水させた樹脂2.4gをシリンジに導入した。
【数4】
【0047】
(4)架橋共重合体1g当たりのCaCl
2溶液吸収量W
4
JIS K 7223の試料設置方法に準じて、実施例および比較例で得られた架橋共重合体を1.44g/L塩化カルシウム溶液に6時間浸漬した。テトロン280メッシュを用い、塩化カルシウム溶液を吸収させた架橋共重合体と、架橋共重合体に吸収されなかった塩化カルシウム溶液とを濾別し、下記式を用いて架橋共重合体1g当たりのCaCl
2溶液吸収量W
4(単位:g/g)を算出した。
【数5】
【0048】
(4)平均粒子径
レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置(株式会社堀場製作所製 LA-950V2)により、調製例で製造したポリビニルアルコール系共重合体並びに実施例および比較例で製造した架橋共重合体の平均粒子径を測定した。
【0049】
調製例1:不飽和モノカルボン酸系構成単位(アクリル酸メチルに由来する構成単位)を含むポリビニルアルコール系共重合体の調製
撹拌機、還流冷却管、窒素導入管、および開始剤の添加口を備えた反応器に、酢酸ビニル(VAc)602g、アクリル酸メチル(MA)1.21g、メタノール255gを導入し、窒素バブリングをしながら30分間反応器内を不活性ガス置換した。水浴の加熱により反応器内の温度を上昇させ、当該温度が60℃になったところで、開始剤としてのアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.16gを添加し、重合を開始した。適宜サンプリングを行い、その固形分濃度から重合の進行を確認し、導入した酢酸ビニルとアクリル酸メチルとの合計質量に対する、重合により消費された酢酸ビニルとアクリル酸メチルとの合計質量である、消費率(Conv.)を求めた。消費率が4%に到達したところで、反応器内の温度を30℃に冷却して重合を停止した。反応器を真空ラインに接続し、残留する酢酸ビニルをメタノールとともに30℃で減圧留去した。反応器内を目視で確認しながら、粘度が上昇したところで適宜メタノールを添加しながら留去を続け、5.2モル%のアクリル酸メチルに由来する構成単位を含むポリ酢酸ビニル(PVAc-PMA)を得た。ここで、アクリル酸メチルに由来する構成単位の量(MA変性量)は、固体NMRにより測定した。
次に、前記反応器と同様の反応器に、得られたPVAc-PMA1gおよびメタノール18.2gを導入し、PVAc-PMAをメタノールに溶解させた。水浴の加熱により、反応器内の温度が70℃になるまで反応器内容物を撹拌しながら加熱した。次いで、水酸化ナトリウムのメタノール溶液(濃度:15質量%)0.78gを添加し、70℃で2時間鹸化を行った。得られた溶液を濾過し、5.2モル%のアクリル酸メチルに由来する構成単位を含むポリビニルアルコール系共重合体を得た。得られたポリビニルアルコール系共重合体は粒子状であった。
【0050】
調製例2~7:不飽和モノカルボン酸系構成単位を含むポリビニルアルコール系共重合体の調製
各成分量、消費率およびMA変性量について、調製例1に記載のものに代えて表1に記載のものを採用したこと以外は調製例1と同様にして、アクリル酸メチルに由来する構成単位を含むポリビニルアルコール系共重合体を得た。得られたポリビニルアルコール系共重合体はいずれも粒子状であった。
【0051】
調製例8:不飽和ジカルボン酸系構成単位(マレイン酸ジメチルに由来する構成単位)を含むポリビニルアルコール系共重合体の調製
アクリル酸メチル(MA)に代えてマレイン酸ジメチル(MM)を用いたこと以外は調製例1と同様にして重合を行い、マレイン酸ジメチルに由来する構成単位を含むポリ酢酸ビニル(PVAc-PMM)を得た。次いで、PVAc-PMAに代えてPVAc-PMMを用いたこと以外は調製例1と同様にして、マレイン酸ジメチルに由来する構成単位を含むポリビニルアルコール系共重合体を得た。各成分量、消費率およびMM変性量については表1に記載の通りになるようにした。得られたポリビニルアルコール系共重合体は粒子状であった。
【0052】
【0053】
実施例1
還流冷却管および撹拌翼を備え付けた三つ口セパラブルフラスコに、アセトニトリル58.9g、イオン交換水6.28g、25質量%グルタルアルデヒド水溶液0.171g、調製例1で得たポリビニルアルコール系共重合体20gを導入し、23℃で撹拌し、ポリビニルアルコール系共重合体を分散させた。16.9質量%硫酸水溶液12.38gを15分かけて滴加し、混合物を65℃に昇温して6時間反応させた。反応後のポリビニルアルコール系共重合体を濾過により取り出し、160gのメタノールで6回洗浄した。次いで、洗浄後の共重合体を還流冷却管および撹拌翼を備え付けた三つ口セパラブルフラスコに導入し、メタノール71g、イオン交換水13.3g、および水酸化カリウム5.7gを添加し、65℃で2時間反応させた。反応後の共重合体を濾過により取り出し、160gのメタノールで6回洗浄し、40℃で12時間真空乾燥を行うことにより、目的のアクリル酸系構成単位を含むポリビニルアルコール系架橋共重合体を得た。得られた架橋共重合体について、上述の(1)~(3)の測定を行った。結果を表2に示す。
【0054】
実施例2
25質量%グルタルアルデヒド水溶液の添加量を0.171gから0.341gに変更したこと以外は実施例1と同様にして、目的のアクリル酸系構成単位を含むポリビニルアルコール系架橋共重合体の製造および測定を行った。結果を表2に示す。
【0055】
実施例3
25質量%グルタルアルデヒド水溶液の添加量を0.171gから0.512gに変更したこと以外は実施例1と同様にして、目的のアクリル酸系構成単位を含むポリビニルアルコール系架橋共重合体の製造および測定を行った。結果を表2に示す。
【0056】
実施例4
調製例1で得たポリビニルアルコール系共重合体に代えて調製例2で得たポリビニルアルコール系共重合体を用い、16.9質量%硫酸水溶液12.38gに代えて17.2質量%硫酸水溶液12.42gを用い、25質量%グルタルアルデヒド水溶液および水酸化カリウムの添加量をそれぞれ0.171gおよび5.7gから0.174gおよび2.4gに変更したこと以外は実施例1と同様にして、目的のアクリル酸系構成単位を含むポリビニルアルコール系架橋共重合体の製造および測定を行った。結果を表2に示す。
【0057】
実施例5
調製例1で得たポリビニルアルコール系共重合体に代えて調製例3で得たポリビニルアルコール系共重合体を用い、16.9質量%硫酸水溶液12.38gに代えて13.5質量%硫酸水溶液11.92gを用い、25質量%グルタルアルデヒド水溶液および水酸化カリウムの添加量をそれぞれ0.171gおよび5.7gから0.131gおよび15gに変更したこと以外は実施例1と同様にして、目的のアクリル酸系構成単位を含むポリビニルアルコール系架橋共重合体の製造および測定を行った。結果を表2に示す。
【0058】
実施例6
調製例1で得たポリビニルアルコール系共重合体に代えて調製例4で得たポリビニルアルコール系共重合体を用い、16.9質量%硫酸水溶液12.38gに代えて12.1質量%硫酸水溶液11.67gを用い、25質量%グルタルアルデヒド水溶液および水酸化カリウムの添加量をそれぞれ0.171gおよび5.7gから0.31gおよび24gに変更したこと以外は実施例1と同様にして、目的のアクリル酸系構成単位を含むポリビニルアルコール系架橋共重合体の製造および測定を行った。結果を表2に示す。
【0059】
実施例7
調製例1で得たポリビニルアルコール系共重合体に代えて調製例5で得たポリビニルアルコール系共重合体を用い、16.9質量%硫酸水溶液12.38gに代えて10.0質量%硫酸水溶液11.35gを用い、25質量%グルタルアルデヒド水溶液および水酸化カリウムの添加量をそれぞれ0.171gおよび5.7gから0.375gおよび26.2gに変更したこと以外は実施例1と同様にして、目的のアクリル酸系構成単位を含むポリビニルアルコール系架橋共重合体の製造および測定を行った。結果を表2に示す。
【0060】
比較例1
調製例1で得たポリビニルアルコール系共重合体に代えて調製例6で得たポリビニルアルコール系共重合体を用い、16.9質量%硫酸水溶液12.38gに代えて17.7質量%硫酸水溶液12.48gを用い、25質量%グルタルアルデヒド水溶液および水酸化カリウムの添加量をそれぞれ0.171gおよび5.7gから0.18gおよび0.6gに変更したこと以外は実施例1と同様にして、アクリル酸系構成単位を含むポリビニルアルコール系架橋共重合体の製造および測定を行った。結果を表2に示す。
【0061】
比較例2
調製例1で得たポリビニルアルコール系共重合体に代えて調製例7で得たポリビニルアルコール系共重合体を用い、16.9質量%硫酸水溶液12.38gに代えて8.0質量%硫酸水溶液11.15gを用い、25質量%グルタルアルデヒド水溶液および水酸化カリウムの添加量をそれぞれ0.171gおよび5.7gから0.37gおよび32.2gに変更したこと以外は実施例1と同様にして、アクリル酸系構成単位を含むポリビニルアルコール系架橋共重合体の製造および測定を行った。結果を表2に示す。
【0062】
比較例3
調製例1で得たポリビニルアルコール系共重合体に代えて調製例8で得たポリビニルアルコール系共重合体を用い、16.9質量%硫酸水溶液12.38gに代えて5.3質量%硫酸水溶液10.96gを用い、25質量%グルタルアルデヒド水溶液の量を0.171gから0.343gに変更し、水酸化カリウムの量を5.7gから14.2gに変更したこと以外は実施例1と同様にして、マレイン酸系構成単位を含むポリビニルアルコール系架橋共重合体の製造および測定を行った。結果を表2に示す。
【0063】
【0064】
表2から分かるように、本発明の架橋共重合体はいずれも、植物が吸収可能な水をより多量に吸収できる吸水性樹脂であった。一方、比較例の架橋共重合体は、純水吸収量が著しく小さい(比較例1)か若しくは植物が吸収可能な水の割合が著しく小さい(比較例2)ことに起因して、植物が吸収可能な水をより少量でしか吸収できなかった。また、比較例3の架橋共重合体は、架橋共重合体1g当たりの純水吸収量W1の標準偏差の値が大きく、品質安定性に劣っていた。
また、本発明の架橋共重合体は、不飽和モノカルボン酸またはその誘導体により変性されたものである。よって、変性後の乾燥工程において、多官能性不飽和カルボン酸またはその誘導体により変性された架橋共重合体では生じやすくなる、カルボン酸由来カルボキシル基とビニルアルコール単位の水酸基との架橋反応は生じにくく、本発明の架橋共重合体は、より高い品質安定性を有するものであった。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明のポリビニルアルコール系架橋共重合体は、より高い品質安定性を有する。また、吸水能に加えて水の放出能も高い。そのため、架橋共重合体は吸水性樹脂として使用できる。また、植物はその生育に利用可能な水を本発明のポリビニルアルコール系架橋共重合体からより多く吸収できるため、例えば農業用の保水材として好適に利用できる。