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特許7411966二次電池用負極、二次電池、および二次電池用負極の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-28
(45)【発行日】2024-01-12
(54)【発明の名称】二次電池用負極、二次電池、および二次電池用負極の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/134 20100101AFI20240104BHJP
   H01M 4/1395 20100101ALI20240104BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20240104BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240104BHJP
   H01M 4/66 20060101ALI20240104BHJP
   H01M 4/80 20060101ALI20240104BHJP
   H01M 10/052 20100101ALI20240104BHJP
【FI】
H01M4/134
H01M4/1395
H01M4/38 Z
H01M4/36 C
H01M4/66 A
H01M4/80 C
H01M10/052
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2021502280
(86)(22)【出願日】2020-02-25
(86)【国際出願番号】 JP2020007518
(87)【国際公開番号】W WO2020175488
(87)【国際公開日】2020-09-03
【審査請求日】2022-12-20
(31)【優先権主張番号】P 2019033081
(32)【優先日】2019-02-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】899000068
【氏名又は名称】学校法人早稲田大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002675
【氏名又は名称】弁理士法人ドライト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】野田 優
(72)【発明者】
【氏名】堀 圭佑
(72)【発明者】
【氏名】前 智太郎
(72)【発明者】
【氏名】橋爪 裕太
【審査官】小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-113108(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2013-0008870(KR,A)
【文献】国際公開第2009/110591(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2018/0287195(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2010/0159331(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/134
H01M 4/1395
H01M 4/38
H01M 4/36
H01M 4/66
H01M 4/80
H01M 10/052
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーボンナノチューブの自立したスポンジ状構造体からなる三次元集電体と、
前記三次元集電体の内部に包含された金属活物質と、
前記三次元集電体の内部に包含され、前記金属活物質とは異なる物質で構成された複数のシード粒子とを備え、
前記金属活物質は、Li、Na、Mg、Ca、K、Al、Znからなる群より選択される少なくとも1種以上からなり、
前記シード粒子は、C、Mg、Al、Zn、Cu、Ag、Au、Ptからなる群より選択される少なくとも1種以上からなり、
前記金属活物質は、前記シード粒子のまわりに前記金属活物質が析出した構造を有する
ことを特徴とする二次電池用負極。
【請求項2】
前記カーボンナノチューブの直径は前記シード粒子の直径より小さいことを特徴とする請求項1記載の二次電池用負極。
【請求項3】
前記カーボンナノチューブは、直径が20nm以下であり、比表面積が200m/g以上であることを特徴とする請求項1または2記載の二次電池用負極。
【請求項4】
前記カーボンナノチューブは、平均層数が1層以上5層以下のカーボンナノチューブであることを特徴とする請求項記載の二次電池用負極。
【請求項5】
前記シード粒子は、電極面積当たりの個数が1×10個/cm以上であることを特徴とする請求項1~のいずれか1項記載の二次電池用負極。
【請求項6】
充放電により厚みが可逆的に変化し、充電に厚みが増加し放電に厚みが減少し、充電の厚みを放電の厚みで除した値が1.15以上であることを特徴とする請求項1~のいずれか1項記載の二次電池用負極。
【請求項7】
請求項記載の二次電池用負極と、
充放電により厚みが可逆的に変化し、充電に厚みが減少し放電に厚みが増加する二次電池用正極とを備えることを特徴とする二次電池。
【請求項8】
カーボンナノチューブと金属活物質とシード粒子とを複合化し、
前記金属活物質は、Li、Na、Mg、Ca、K、Al、Znからなる群より選択される少なくとも1種以上からなり、
前記シード粒子は、C、Mg、Al、Zn、Cu、Ag、Au、Ptからなる群より選択される少なくとも1種以上からなる
ことを特徴とする二次電池用負極の製造方法。
【請求項9】
前記カーボンナノチューブの自立したスポンジ状構造体からなる三次元集電体に前記シード粒子が包含された複合膜を形成する複合膜形成工程と、
前記複合膜に前記金属活物質を保持させる金属活物質保持工程とを有することを特徴とする請求項記載の二次電池用負極の製造方法。
【請求項10】
前記金属活物質保持工程では、前記複合膜に前記金属活物質を構成する金属の箔を積層した負極前駆体を作製し、電解液中に前記負極前駆体と対極を設置し充放電を行い、前記金属活物質を前記シード粒子のまわりに析出させることを特徴とする請求項9記載の二次電池用負極の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二次電池用負極、二次電池、および二次電池用負極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属リチウム(Li)等の金属活物質を用いた金属負極は、高い理論容量を有し、かつ負極電位が低いため、高エネルギー密度の二次電池の負極として注目されている。しかしながら、金属負極を用いた二次電池は、充放電に伴う金属の溶解/析出により金属負極の表面に金属のデンドライトが成長し、成長したデンドライトがセパレータを貫通して正極と接触することにより、正極と負極とがショートするという問題がある。そこで、デンドライトの生成を抑制した金属負極が提案されている(例えば、非特許文献1)。
【0003】
非特許文献1には、金属Liの箔の表面に、LiをドープしたMWCNT(multiwall carbon nanotubes)の層を形成した金属負極が記載されている。非特許文献1記載の金属負極は、MWCNTの層によりLiイオンの出入りが調整されるので、デンドライトの生成が抑制される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Rodrigo V. Salvatierra et al., Advanced Materials, 30, 1803869 (2018)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非特許文献1の金属負極では、厚さ130μm~230μmの金属Liの箔に厚さ25μmのMWCNTの層が設けられている。非特許文献1の金属負極は、金属Liの箔が集電体と活物質とを兼ねており、充放電に寄与する金属Li量の数十倍もの過剰量の金属Liを含んでいる。したがって、非特許文献1の金属負極では、質量容量密度および体積容量密度が低くなり、高エネルギー密度の要請を十分に満たせない。
【0006】
本発明は、デンドライトの生成を抑制し、質量容量密度および体積容量密度が高い二次電池用負極、二次電池、および二次電池用負極の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る二次電池用負極は、カーボンナノチューブの自立したスポンジ状構造体からなる三次元集電体と、前記三次元集電体の内部に包含された金属活物質と、前記三次元集電体の内部に包含され、前記金属活物質とは異なる物質で構成された複数のシード粒子とを備え、前記金属活物質の箔を含まないことを特徴とする。
【0008】
本発明に係る二次電池は、上記の二次電池用負極と、充放電により厚みが可逆的に変化し、充電時に厚みが減少し放電時に厚みが増加する二次電池用正極とを備えることを特徴とする。
【0009】
本発明に係る二次電池用負極の製造方法は、カーボンナノチューブと金属活物質とシード粒子とを複合化することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、充電時のLiの析出核となるシード粒子を複数設けることにより、正極と負極とのショートを発生させるような大きいデンドライトの生成が抑制される。また、三次元集電体の内部に金属活物質が包含され、金属活物質の箔を含まないことにより、質量容量密度および体積容量密度を高めることができる。さらに、三次元集電体がスポンジ状構造体からなることにより、充放電時に厚みが可逆的に変化し、二次電池内の空間を有効に活用して体積容量密度を高めることができる。
【0011】
カーボンナノチューブの自立したスポンジ状構造体からなる三次元集電体の内部に金属活物質と複数のシード粒子とが包含され、金属活物質の箔を含まないことにより、デンドライトの生成を抑制し、質量容量密度および体積容量密度が高い二次電池用負極、二次電池、および二次電池用負極の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態に係る二次電池の充電時と放電時の構成を表す模式図である。
図2】本実施形態に係る二次電池用負極の製造方法における複合膜形成工程の第1の例を説明するフローチャートである。
図3】複合膜形成工程の第2の例を説明するフローチャートである。
図4】複合膜形成工程の第3の例を説明するフローチャートである。
図5】本実施形態に係る二次電池用負極の別の製造方法を説明するフローチャートである。
図6】実施例11に係る積層体の模式図である。
図7】実施例11に係る積層体の上面を撮影した写真である。
図8】実施例11の試験セルにおいて電気化学的に第1の電極に金属活物質を保持させた後の積層体の模式図である。
図9】実施例11の試験セルにおいて電気化学的に第1の電極に金属活物質を保持させた後の第1の電極の上面を撮影した写真である。
図10】実施例11の試験セルにおいて電気化学的に第1の電極に金属活物質を保持させた後の第2の電極の下面を撮影した写真である。
図11】実施例11の試験セルにおいて電気化学的に第1の電極に金属活物質を保持させた後の第2の電極の上面を撮影した写真である。
図12】実施例12に係る積層体の上面を撮影した写真である。
図13】実施例12の試験セルにおいて電気化学的に第1の電極に金属活物質を保持させた後の第1の電極の上面を撮影した写真である。
図14】実施例12の試験セルにおいて電気化学的に第1の電極に金属活物質を保持させた後の第2の電極の下面を撮影した写真である。
図15】実施例13の試験セルのサイクル試験の結果を示すグラフである。
図16】比較例1の試験セルのサイクル試験の結果を示すグラフである。
図17】比較例2の試験セルのサイクル試験の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照して本実施形態について詳細に説明する。
【0014】
1.全体構成
図1において、本実施形態に係る二次電池10(10A,10B)は、セパレータ11と、二次電池用正極(以下、正極と称する)12(12A,12B)と、二次電池用負極(以下、負極と称する)13(13A,13B)と、電解液(図示なし)と、容器(図示なし)とを備える。
【0015】
充電時の二次電池10Aは、セパレータ11を介して設けられた収縮した正極12Aと膨張した負極13Aとを含む。放電時の二次電池10Bは、セパレータ11を介して設けられた膨張した正極12Bと収縮した負極13Bとを含む。本実施形態の二次電池10は、充放電によりリチウム(Li)イオンがセパレータ11を介して正極12と負極13との間を移動するリチウムイオン二次電池である。
【0016】
二次電池10は、セパレータ11の一表面に正極12が設けられ、セパレータ11の他表面に負極13が設けられている。二次電池10は、セパレータ11、正極12、負極13、および電解液を容器に収容して構成される。
【0017】
電解液は、特に限定されず、非水電解液、イオン液体、およびゲル電解液等の一般的に用いられている電解液を用いることができる。例えば非水電解液は、エチレンカーボネート(EC)とジメチルカーボネート(DMC)との混合液に、1.0モル/リットルのLiPF6を溶解して調製することができる。ECとDMCとの体積比は、一般的には1:2程度である。
【0018】
容器は、特に限定されず、電池缶として一般的に用いられている鉄、ステンレススチール、アルミニウム等の金属缶を用いることができる。質量当たりのエネルギー密度の観点から、金属箔と樹脂フィルムとを積層した金属樹脂複合材が好ましい。
【0019】
セパレータ11は、微多孔性高分子フィルムで構成することができる。微多孔性高分子フィルムとしては、ポリオレフィン系、ポリエステル系、ポリアクリロニトリル系、ポリフェニレンサルファイド系、ポリイミド系またはフッ素樹脂系の微孔膜や不織布が挙げられる。セパレータ11は、絶縁性繊維の自立したスポンジ状構造体から構成されるものでもよい。スポンジ状構造体は、内部に複数の隙間を有する膜である。スポンジ状構造体としては、例えば不織布が挙げられる。絶縁性繊維は、窒化ホウ素ナノチューブ(BNNT)または有機系ナノファイバーである。有機系ナノファイバーとしては、セルロースナノファイバー(CNF)、キチンナノファイバー等が挙げられる。
【0020】
正極12には、一般的な二次電池に用いられる各種正極を用いることができる。特に、充放電により厚みが可逆的に変化し、充電時(12A)に厚みが減少し放電時(12B)に厚みが増加する正極を用いると、二次電池内の空間を有効活用できて好適である。正極12は、充放電により体積変化する際は、セパレータ11に接する面の面積が実質的に変化せず、厚みが変化することで収縮または膨張する。すなわち、正極12の体積は、厚みに応じて変化する。
【0021】
正極活物質16(16A,16B)は、コバルト酸リチウム(LiCoO)、マンガン酸リチウム(LiMn)、リン酸鉄リチウム(LiFePO)、二種以上の遷移金属を複合化したNMC(LiNiMnCo)やNCA(LiNiCoAl)等のリチウム遷移金属複合酸化物、および硫黄等のリチウムと反応して化合物を形成し、体積が変化する活物質が用いられる。正極活物質16として、硫黄等のリチウムと反応して体積が変化する活物質を用いた場合には、充放電時の正極12の厚みの変化が大きくなり、充放電時の正極12と後述する金属活物質を用いた負極13とで膨張収縮が相殺され、二次電池10としての厚みの変化が抑制される。したがって、正極活物質16としては、硫黄等のリチウムと反応して体積が変化する活物質を用いることが望ましい。体積変化が大きい活物質ほど体積容量密度を高くすることができ、体積が、1.15倍以上変化する活物質が好ましく、1.3倍以上変化する活物質がより好ましく、1.6倍以上変化する活物質が特に好ましい。体積が1.15倍以上変化する活物質を用いる際には、体積変化を可逆的にするために、第1のカーボンナノチューブ(CNT)14の自立したスポンジ状構造体からなる第1の三次元集電体15の内部に正極活物質16を包含することが好ましい。
【0022】
以下、本実施形態に係る負極(二次電池用負極)13について説明する。負極13は、充放電により厚みが可逆的に変化し、充電時(13A)に厚みが増加し放電時(13B)に厚みが減少する。負極13は、充放電により体積変化する際は、セパレータ11に接する面の面積が実質的に変化せず、厚みが変化することで膨張または収縮する。すなわち、負極13の体積は、厚みに応じて変化する。
【0023】
負極13は、第2のカーボンナノチューブ(CNT)17の自立したスポンジ状構造体からなる第2の三次元集電体18と、第2の三次元集電体18の内部に包含された金属活物質としての負極活物質19(19A,19B)と、第2の三次元集電体18の内部に包含され、負極活物質19とは異なる物質で構成された複数のシード粒子20とを備える。なお、負極活物質19は、図1では放電時(19B)に残っているが、放電時に残らない場合もある。
【0024】
第2の三次元集電体18のスポンジ状構造体は、複数の第2のCNT17が互いに絡まり合うことにより形成される。第2のCNT17は、長さが1μm以上であることが好ましい。第2のCNT17の長さが1μm以上であることにより、複数の第2のCNT17が互いに絡まり合って、スポンジ状構造体としての自立性が確保される。
【0025】
第2のCNT17の直径は、シード粒子20の直径より小さい。第2のCNT17の直径は、20nm以下であることが好ましく、15nm以下であることがより好ましく、10nm以下であることが最も好ましい。第2のCNT17の直径が小さいほど、スポンジ状構造体としての柔軟性が向上する。また、第2のCNT17の直径が小さいほど、第2のCNT17の比表面積が大きくなるので、後述するLiの析出核としてのシード粒子20の個数が増える。
【0026】
第2のCNT17の比表面積は、200m/g以上である。第2のCNT17の比表面積が200m/g以上であることにより、Liの析出核としてのシード粒子20の個数が増えるので、デンドライトの生成がより抑制される。第2のCNT17の比表面積は、300m/g以上であることが好ましく、400m/g以上であることが特に好ましい。また、第2のCNT17の比表面積が大きすぎると電解液の分解反応などの副反応を生じるおそれがあるため、第2のCNT17の比表面積は1200m/g以下であることが好ましく、800m/g以下であることが特に好ましい。
【0027】
第2のCNT17の平均層数は、1層以上10層以下のカーボンナノチューブである。第2のCNT17の平均層数が少ないほど、第2のCNT17の直径が小さくなり、複数の第2のCNT17が互いに絡まり合いやすくなるので、スポンジ状構造体としての自立性がより確実に確保される。また、第2のCNT17の平均層数が少ないほど、第2のCNT17の比表面積が大きくなるので、Liの析出核としてのシード粒子20の個数が増える。しかしながら、第2のCNT17の平均層数が小さすぎると第2のCNT17の比表面積が大きくなりすぎる。第2のCNT17の平均層数は、1層以上5層以下であることが好ましく、2層以上5層以下であることが特に好ましい。
【0028】
負極活物質19は、Li、Na、Mg、Ca、K、Al、Znからなる群より選択される少なくとも1種以上からなることが好ましい。負極活物質19の材料は、本実施形態ではLiである。負極活物質19は、本実施形態ではシード粒子20のまわりにLiが析出した粒子状の構造を有する。負極活物質19は、複数のシード粒子20のまわりに析出したLi同士が結合して第2の三次元集電体18のスポンジ状構造体の空隙を埋めるように構成されていてもよい。
【0029】
充電時の負極活物質19の質量を、第2の三次元集電体18のスポンジ状構造体を構成する複数の第2のCNT17の質量で除した値は、1以上であることが好ましい。この値を1以上とすることにより、二次電池10の質量に対する第2の三次元集電体18の質量割合および体積割合を低減することができ、質量容量密度および体積容量密度を高めることが可能である。上記の値は、2以上であることがより好ましく、4以上であることが特に好ましい。
【0030】
充電時の負極活物質19の質量に負極活物質の質量基準容量を乗じた値は、二次電池10における正負極一対の設計容量に対して、5倍以下であることが好ましい。すなわち、充電時の負極活物質19の質量に負極活物質の質量基準容量を乗じた値を二次電池10における正負極一対の設計容量で除したこの値([充電時の負極活物質19の質量]×[負極活物質の質量基準容量]/[二次電池10における正負極一対の設計容量])を5倍以下とすることにより、第2の三次元集電体18中の負極活物質19(Li)が過剰にならず、質量容量密度および体積容量密度を高めることが可能である。上記の値は、3倍以下であることがより好ましく、2倍以下であることが特に好ましい。例えば二次電池の設計容量を正負極一対の電極面積当たり4mAh/cmとした場合、負極に電極面積当たり金属Liを2mg/cm用いると、電極面積当たりの金属Liの質量に金属Liの質量基準容量3861mAh/gを乗じると7.72mAh/cmとなるため、上記の値は1.93となる。
【0031】
シード粒子20は、C、Mg、Al、Si、Sn、Zn、Cu、Ag、Au、Ptからなる群より選択される少なくとも1種以上からなることが好ましい。これらの材料は、Li(負極活物質19)と反応して合金を形成する材料、Liと化合物を形成する材料、または、Liの析出核となる材料である。例えば、上記の材料のうちのMg、Al、Si、Sn、Ag、Au、Ptは、Liと合金を形成する。Cは、Liと化合物を形成する。ZnとCuは、Liと合金を形成しないが、Liの析出核となる。シード粒子20は、本実施形態ではCuからなる。
【0032】
シード粒子20は、電極面積当たりの個数が1×10個/cm以上であることが好ましい。シード粒子20のまわりにLiが析出するので、シード粒子20の電極面積当たりの個数が多いほど、個々のシード粒子20のまわりに析出したLiが大きく成長せず、デンドライトの生成が抑制される。正負極一対の電極面積当たり4mAh/cmを充電した場合、負極には電極面積当たり金属Liが質量1.04mg/cm、体積1.94×10-3cm/cm析出するため、シード粒子1個当たりの金属Liの析出量を1.94×10-11cm、すなわち19.4μm以下と小さくすることができる。シード粒子20は、電極面積当たりの個数が1×1010個/cm以上であることがより好ましく、1×1012個/cm以上であることがさらに好ましい。シード粒子1個当たりの金属Liの析出量を、0.194μm以下とより小さく、0.00194μm以下とさらに小さくすることができ、デンドライトの生成をさらに効果的に抑制できるとともに、金属Liの表面積を増やし過電圧を低減できるためである。
【0033】
充電時の負極活物質19の質量を、シード粒子20の質量で除した値は、3以上であることが好ましい。この値を3以上とすることにより、二次電池10の質量に対する負極13の質量割合および体積割合を低減することができ、質量容量密度および体積容量密度を高めることが可能である。上記の値は、10以上であることがより好ましく、30以上であることが特に好ましい。
【0034】
負極13は、充電時の厚みを放電時の厚みで除した値が、1.15以上であることが好ましく、1.5以上であることがより好ましく、2.0以上であることが特に好ましい。後述の実施例に示すように、充放電時の活物質の体積変化は電池の設計容量で決まるため、充電時の厚みを放電時の厚みで除した値が大きいほど負極の厚みが放電時および充電時ともに小さくなり、二次電池の体積を小さくできるためである。また、負極13は、充電時の質量を放電時の質量で除した値が、1.15以上であることが好ましく、1.5以上であることがより好ましく、2.0以上であることが特に好ましい。後述の実施例に示すように、充放電時の活物質の質量変化は電池の設計容量で決まるため、充電時の質量を放電時の質量で除した値が大きいほど負極の質量が放電時および充電時ともに小さくなり、二次電池を軽量にできるためである。
【0035】
負極13は、電気伝導率の高い第2の三次元集電体18を備えるので、金属活物質の箔を含まない。金属活物質の箔を含むと負極の質量および体積が大きくなり、質量容量密度および体積容量密度の低下につながる。また、負極と全面で接する金属活物質の箔を含むと、箔が負極の体積変化を阻害し、また箔と負極との間で応力が発生し電池特性劣化の原因となる。負極13は、金属活物質とは異なる材料からなる別途の集電箔も含まないことが好ましい。また、正極12も集電箔を含まないことが好ましい。
【0036】
2.製造方法
本実施形態に係る負極(二次電池用負極)13の製造方法について説明する。負極13は、第2のCNT17と負極活物質19とシード粒子20とを複合化することにより得られる。以下、負極13の製造方法の一例を説明する。
【0037】
負極13の製造方法は、第2のCNT17の自立したスポンジ状構造体からなる第2の三次元集電体18にシード粒子20が包含された複合膜を形成する複合膜形成工程と、複合膜に金属活物質としての負極活物質19を保持させる金属活物質保持工程とを有する。
【0038】
複合膜形成工程の第1の例を説明する。図2に示すように、複合膜形成工程は、第2のCNT17とシード粒子20と分散媒32とを用いて分散液34を調製し、この分散液34を用いて第2の三次元集電体18にシード粒子20が包含された複合膜36を形成する。
【0039】
第2のCNT17は、CVD法により合成することができる。例えば、特許第5447367号公報、特許第5862559号公報、D.Y. Kim, H. Sugime, K. Hasegawa, T. Osawa, and S. Noda, Carbon 49(6), 1972-1979 (2011).、Z. Chen, D.Y. Kim, K. Hasegawa, T. Osawa, and S. Noda, Carbon 80, 339-350 (2014).などに記載されている流動層CVD法が挙げられる。第2のCNT17は、浮遊触媒CVD法、基板担持触媒CVD法により合成してもよい。これにより、長尺(直径20nm以下、長さ1μm以上)の第2のCNT17が得られる。
【0040】
シード粒子20としては、例えば銅粒子が用いられる。銅粒子は、コロイド化学的に湿式法で合成したものでも、ガス中蒸発法などの乾式法で合成したものでも良い。分散媒32としては、水や有機溶媒等が用いられる。有機溶媒は、エタノール、イソプロパノール等である。分散液34は、第2のCNT17とシード粒子20とを分散媒32に共分散させることにより調製する。複合膜36は、分散液34から分散媒32を除去することにより形成する。分散媒32は、例えばフィルタを用いて分散液34をろ過することにより、分散液34から除去される。分散液34から分散媒32を除去する過程で、第2のCNT17は、シード粒子20を取り込みながらファンデルワールス力によりネットワークを構成し、フィルタの表面で集積される。こうして、シード粒子20が、第2のCNT17の自立したスポンジ状構造体からなる第2の三次元集電体18(図1参照)の隙間に取り込まれ、第2の三次元集電体18にシード粒子20が包含された複合膜36が形成される。複合膜36は、フィルタから分離して自立膜として回収する。また、複合膜36は、必要に応じて、フィルタからの分離前または分離後に乾燥機を用いて乾燥させる。複合膜36は、乾燥後にアニール処理する。なお、分散液34をフィルタでろ過して乾燥させることに代えて、分散液34を塗布して乾燥させてもよい。
【0041】
複合膜形成工程の第2の例を説明する。シード粒子20を用いる場合に限られない。図3に示すように、複合膜形成工程では、シード粒子材38を用いて第2のCNT17上にシード粒子20を析出させた後、シード粒子20が析出した第2のCNT17を用いて複合膜36を形成してもよい。具体的には、複合膜形成工程では、まず、第2のCNT17とシード粒子材38とを溶媒40に入れ、第2のCNT17を溶媒40に分散させ、シード粒子材38を溶媒40に溶解させる。シード粒子材38としては、例えば硫酸銅、水酸化銅、酢酸銅が用いられる。その後、第2のCNT17とシード粒子材38とを含む溶媒40に還元剤(例えばヒドラジン、水素化ホウ素ナトリウム、ポリビニルピロリドン)を加えて、化学還元法または光還元法により、第2のCNT17上にシード粒子20を析出させる。そして、第2のCNT17とシード粒子材38とを含む溶媒40を例えばフィルタでろ過することにより、複合膜36を形成する。
【0042】
複合膜形成工程の第3の例を説明する。図4に示すように、複合膜形成工程では、第2の三次元集電体18を形成した後、この第2の三次元集電体18の第2のCNT17上にシード粒子20を析出させてもよい。具体的には、複合膜形成工程では、まず、第2のCNT17を分散媒32に分散させた分散液42を調製し、この分散液42を用いて第2の三次元集電体18を形成する。第2の三次元集電体18は、分散液42から分散媒32を除去することにより形成する。分散媒32は、例えばフィルタを用いて分散液42をろ過することにより、分散液42から除去される。分散媒32の除去により、第2のCNT17がフィルタの表面で集積され、第2のCNT17の自立したスポンジ状構造体からなる第2の三次元集電体18が得られる。第2の三次元集電体18は、フィルタから分離して自立膜として回収する。また、複合膜形成工程では、シード粒子材38を溶媒40に溶解させた溶液44を調製する。溶液44としては、例えば硫酸銅水溶液や硝酸銅エタノール溶液を用いることができる。溶液44に第2の三次元集電体18を浸漬し、溶液44から第2の三次元集電体18を取り出した後、乾燥させると第2の三次元集電体18にシード粒子材38(例えば硫酸銅や硝酸銅)を保持することができる。シード粒子材38を保持した第2の三次元集電体18を還元性雰囲気(例えば水素・アルゴン混合ガス)中でアニール処理(例えば800℃、5分)し、第2の三次元集電体18の第2のCNT17上にシード粒子20を析出させることにより、複合膜36を形成する。また、溶液44中に第2の三次元集電体18を浸漬し、第2の三次元集電体18を電極として電解メッキにより第2の三次元集電体18の第2のCNT17上にシード粒子20を析出させてもよい。そして、溶液44からシード粒子20が析出した第2の三次元集電体18を取り出して乾燥させることにより、複合膜36を形成する。
【0043】
金属活物質保持工程の第1の例を説明する。金属活物質保持工程では、まず、複合膜36に、負極活物質19(Li)を構成する金属の箔を積層した負極前駆体(図示なし)を作製する。次に、電解液(図示なし)を準備し、この電解液中に、負極前駆体と、負極前駆体の対極となる電極(図示なし)とを設置する。そして、負極前駆体と電極とを用いて充放電を行う。充放電により、負極前駆体では、負極活物質19が複合膜36のシード粒子20のまわりに析出する。すなわち、複合膜36に金属活物質としての負極活物質19が保持される。この結果、第2のCNT17、負極活物質19、およびシード粒子20が複合化した負極13が得られる。
【0044】
金属活物質保持工程の第2の例を説明する。この例では、負極前駆体(図示なし)を用いた充放電を行う代わりに、負極前駆体を加熱し、負極活物質19(Li)を構成する金属の箔を溶融させる。加熱温度は、例えば200℃である。溶融した金属は、負極前駆体の第2の三次元集電体18の空隙に入り込み、負極活物質19となる。この結果、第2のCNT17、負極活物質19、およびシード粒子20が複合化した負極13が得られる。
【0045】
金属活物質保持工程の第3の例を説明する。この例では、負極活物質19を構成する金属の箔を用いる代わりに、負極活物質19を構成する金属イオンを含む正極活物質を備えた正極(図示なし)を用いる。金属活物質保持工程では、まず、電解液(図示なし)を準備し、この電解液中に、複合膜36と正極とを設置する。そして、複合膜36と正極とを用いて充電することにより、負極活物質19が複合膜36のシード粒子20のまわりに析出する。この結果、第2のCNT17、負極活物質19、およびシード粒子20が複合化した負極13が得られる。負極活物質19を構成する金属イオンを含む正極活物質を備えた正極として、金属活物質保持工程の第1の例に記載した、複合膜36に負極活物質19(Li)を構成する金属の箔を積層した負極前駆体を用いてもよい。
【0046】
負極13の別の製造方法を説明する。この例では、複合膜形成工程と金属活物質保持工程とを実施せずに、図5に示すように、第2のCNT17と負極活物質19の粒子とシード粒子20と分散媒32とを用いて分散液46を調製し、この分散液46から分散媒32を除去することで負極13を形成する。分散液46は、第2のCNT17と負極活物質19の粒子とシード粒子20とを分散媒32に共分散させることにより調製する。分散媒32は、例えばフィルタを用いて分散液46をろ過することにより、分散液46から除去される。分散液46から分散媒32を除去する過程で、第2のCNT17は、負極活物質19の粒子とシード粒子20を取り込みながらファンデルワールス力によりネットワークを構成し、フィルタの表面で集積される。負極活物質19の粒子とシード粒子20とが、第2のCNT17の自立したスポンジ状構造体からなる第2の三次元集電体18(図1参照)の隙間に取り込まれ、第2の三次元集電体18の内部に負極活物質19の粒子とシード粒子20とが包含された負極13が形成される。負極13は、フィルタから分離して自立膜として回収する。
【0047】
負極13の別の製造方法を説明する。この例では、図示しないが、シード粒子20が析出した第2のCNT17を準備し、シード粒子20が析出した第2のCNT17と負極活物質19の粒子と分散媒とを用いて分散液を調製し、この分散液から分散媒を除去することで負極13を形成する。第2のCNT17上にシード粒子20を析出させる方法については説明を省略する。分散媒を除去する際は、例えばフィルタを用いて分散液をろ過する。これにより、フィルタの表面に、第2の三次元集電体18の内部に負極活物質19の粒子とシード粒子20とが包含された負極13が形成される。負極13は、フィルタから分離して自立膜として回収する。
【0048】
3.作用および効果
本実施形態に係る負極13は、充電時のLiの析出核となるシード粒子20を複数備えることにより、正極と負極とのショートを発生させるような大きいデンドライトの生成が抑制される。また、負極13は、第2の三次元集電体18の内部に金属活物質としての負極活物質19が包含され、金属活物質の箔を含まないことにより、質量容量密度および体積容量密度を高めることができる。さらに、負極13は、第2の三次元集電体18がスポンジ状構造体からなることにより、充放電時に厚みが可逆的に変化し、二次電池10内の空間を有効に活用して体積容量密度を高めることができる。
【0049】
負極13は、複数のシード粒子20が第2の三次元集電体18の内部に包含されていることにより、二次電池10の過電圧を低減することができる。充電時に、複数のシード粒子20が析出核となりLiが析出するので、Liイオンの還元電位付近でLiが負極13に導入され、過電圧が低減される。また、複数のシード粒子20のまわりにLiが析出するのでLiの表面積が大きくなるため、Liの表面積当たりのLiの還元速度を小さくすることができ、反応過電圧が低減される。過電圧を低く抑えることで、シード粒子以外からのLiの析出を抑制でき、デンドライトの発生を防ぐことができる。
【0050】
負極13は、第2のCNT17の直径がシード粒子20の直径より小さいので、スポンジ状構造体としての柔軟性に優れ、充放電の際に厚みが可逆的に変化する。負極13は、金属活物質の箔を含まないことにより、充放電の際の厚みの変化(体積の変化)が制限されることがない。
【0051】
負極13は、第2のCNT17の直径が20nm以下であり、比表面積が200m/g以上であることにより、スポンジ状構造体としての柔軟性により優れるとともに、Liの析出核としてのシード粒子20の個数が多くなるのでデンドライトの生成が確実に抑制される。
【0052】
負極13は、第2のCNT17の平均層数が1層以上10層以下であることにより、複数の第2のCNT17が互いに絡まり合いやすくなるので、スポンジ状構造体としての自立性が確実に確保される。
【0053】
負極13は、電極面積当たりの個数が1×10個/cm以上であることにより、個々のシード粒子20のまわりに析出したLiが大きく成長しないので、デンドライトの生成がより確実に抑制される。
【0054】
負極13は、充放電により厚みが可逆的に変化し、充電時に厚みが増加し放電時に厚みが減少し、充電時の厚みを放電時の厚みで除した値が1.15以上であることにより、二次電池10内の空間を有効に活用して体積容量密度を高めることができる。
【0055】
4.変形例
本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨の範囲内で適宜変更することが可能である。
【0056】
例えば、負極13は、有機系電解液の代わりに水系高濃度電解液を用いた二次電池、電解液の代わりに固体電解質を用いる全固体電池や、正極活物質として空気中の酸素を用いる空気-金属二次電池に適用できる。特に、負極13を全固体電池に適用した場合、負極13はLiの析出核となるシード粒子20を複数備えるため、固体電解質との界面を増やすことができ、負極13にLiが導入され易く、かつデンドライトの生成が確実に抑制される。
【0057】
5.実施例
5-1.質量基準容量密度および体積基準容量密度の計算
下記表1および表2に、実施例の負極の構成をまとめる。表中の数値は、後述するように条件を設定して所定の計算式により求めた。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【0060】
実施例1~10の負極は、負極活物質19の材料をLiとし、シード粒子20の材料をCuとした。実施例1~10の負極は、電極面積当たりの負極設計容量を4mAh/cmとすることを前提にした。この設計容量をn倍にする場合は、用いる材料や電極の質量および厚みをn倍にすればよい。実施例1~4は、Li金属質量とCNT質量との比(Li金属質量/CNT質量)を変化させた負極である。実施例5、6、3、7は、負極設計容量に対する負極容量の比率(負極容量/負極設計容量)を変化させた負極である。実施例8、9、3、10は、Li金属質量とCuシード粒子質量との比(Li金属質量/Cuシード質量)を変化させた負極である。
【0061】
表1に、実施例1~10の負極の、充電時/放電時質量比(j)と、質量基準容量密度(k)とを算出した結果を示す。
【0062】
表1中の、Li金属質量/CNT質量(a)は、充電時のLi金属質量を、三次元集電体を構成するCNTの質量で除した値であり、実施例1~4では1~8まで変化させ、実施例5~10では4に設定した。負極容量/負極設計容量(b)は、充電時の負極容量を、前提とした負極設計容量(4mAh/cm)で除した値であり、実施例5、6、3、7では5~1まで変化させ、実施例1~4、8~10では2に設定した。Li金属質量/Cuシード質量(c)は、充電時のLi金属質量をCuシード粒子質量で除した値であり、実施例8、9、3、10では1~30まで変化させ、実施例1、2、4~7では10に設定した。
【0063】
充電時/放電時質量比(j)と質量基準容量密度(k)の計算の方法を以下に説明する。
【0064】
充電時Li金属質量(d)は、電極面積当たりの負極設計容量(4mAh/cm)から求めた電荷量と、Liの原子量とを用いて算出したLi金属の質量である。放電時Li金属質量(e)は、充電時Li金属質量(d)のうち、(負極容量/負極設計容量(b)-1)/(負極容量/負極設計容量(b))の比率分が、放電時も負極に残ると仮定して計算したものである。CNT質量(f)は、充電時Li金属質量(d)をLi金属質量/CNT質量(a)で除して算出した。Cuシード質量(g)は、充電時Li金属質量(d)をLi金属質量/Cuシード質量(c)で除して算出した。充電時合計質量(h)は、充電時Li金属質量(d)とCNT質量(f)とCuシード質量(g)を合計した値である。放電時合計質量(i)は、放電時Li金属質量(e)とCNT質量(f)とCuシード質量(g)を合計した値である。
【0065】
充電時/放電時質量比(j)は、充電時合計質量(h)を放電時合計質量(i)で除して算出した。質量基準容量密度(k)は、電極面積当たりの負極設計容量(4mAh/cm)を充電時合計質量(h)で除して算出した。
【0066】
表1より、充電時/放電時質量比(j)と質量基準容量密度(k)は、Li金属質量/CNT質量(a)を1~8まで変化させた実施例1~4を比べると、Li金属質量/CNT質量(a)が大きいほど、大きくなることがわかる。また、充電時/放電時質量比(j)と質量基準容量密度(k)は、負極容量/負極設計容量(b)を5~1まで変化させた実施例5、6、3、7を比べると、負極容量/負極設計容量(b)が小さいほど、大きくなることがわかる。また、充電時/放電時質量比(j)と質量基準容量密度(k)は、Li金属質量/Cuシード質量(c)を1~30まで変化させた実施例8、9、3、10を比べると、Li金属質量/Cuシード質量(c)が大きいほど、大きくなることがわかる。さらに、充電時/放電時質量比(j)が大きいほど、負極の質量は充電時および放電時とも小さくなり、質量基準容量密度が向上することが分かる。充電時/放電時質量比(j)は、1.15以上であることが好ましく、1.5以上であることがより好ましく、2.0以上であることが特に好ましい。
【0067】
表2に、実施例1~10の負極の、充電時/放電時厚み比(o)と、体積基準容量密度(p)とを算出した結果を示す。
【0068】
充電時/放電時厚み比(o)と体積基準容量密度(p)の計算の方法を以下に説明する。
【0069】
表2中の、充電時Li金属体積(d´)は、充電時Li金属質量(d)をLiの密度で換算したものである。放電時Li金属体積(e´)は、充電時Li金属体積(d´)のうち、(負極容量/負極設計容量(b)-1)/(負極容量/負極設計容量(b))の比率分が、放電時も負極に残ると仮定して計算したものである。CNT体積(f´)は、CNT質量(f)をCNTの密度で換算したものである。Cuシード体積(g´)は、Cuシード質量(g)をCuの密度で換算したものである。空隙率(l)は、負極の空隙率であり、実施例1~10の負極で0.3に設定した。充電時合計体積(m)は、充電時Li金属体積(d´)とCNT体積(f´)とCuシード体積(g´)を合計した値を、(1-空隙率(l))で除して算出した。放電時合計体積(n)は、放電時Li金属体積(e´)とCNT体積(f´)とCuシード体積(g´)を合計した値を、(1-空隙率(l))で除して算出した。
【0070】
充電時/放電時厚み比(o)は、充電時合計体積(m)を放電時合計体積(n)で除して算出した。体積基準容量密度(p)は、電極面積当たりの負極設計容量(4mAh/cm)を充電時Li金属体積(d´)で除して算出した。
【0071】
表2より、充電時/放電時厚み比(o)と体積基準容量密度(p)は、Li金属質量/CNT質量(a)を1~8まで変化させた実施例1~4を比べると、Li金属質量/CNT質量(a)が大きいほど、大きくなることがわかる。また、充電時/放電時厚み比(o)と体積基準容量密度(p)は、負極容量/負極設計容量(b)を5~1まで変化させた実施例5、6、3、7を比べると、負極容量/負極設計容量(b)が小さいほど、大きくなることがわかる。また、充電時/放電時厚み比(o)と体積基準容量密度(p)は、Li金属質量/Cuシード質量(c)を1~30まで変化させた実施例8、9、3、10を比べると、Li金属質量/Cuシード質量(c)が大きいほど、大きくなることがわかる。さらに、充電時/放電時厚み比(o)が大きいほど、負極の体積は充電時および放電時とも小さくなり、体積基準容量密度が向上することがわかる。充電時/放電時厚み比(o)は、1.15以上であることが好ましく、1.5以上であることがより好ましく、2.0以上であることが特に好ましい。
【0072】
5-2.負極が金属活物質の箔を含まないことを確認する実験
金属活物質保持工程の第1の例、金属活物質保持工程の第3の例で説明した、複合膜36に負極活物質19(Li)を構成する金属の箔を積層した負極前駆体を用いて負極13を製造した場合に、金属の箔を含まない負極が得られることを確認した。本実験を行うために2種の試験セルを作製し、各試験セルを実施例11,12とした。
【0073】
以下、実施例11について説明する。まず、複合膜形成工程の第1の例で説明した方法により複合膜を形成した。第2のCNT17は、直径20nm以下、長さ1μm以上、平均層数が1層以上5層以下のCNTである。シード粒子20は、直径が約25nmの銅粒子である。分散媒32は、イソプロパノールを用いた。複合膜は、393Kの真空乾燥機で2時間乾燥させて形成した。複合膜は、直径が12mm、単位面積当たりのCuの質量密度が約0.12mg/cm、単位面積当たりのCNTの質量密度が約0.78mg/cmであった。本実験では、複合膜を2つ作製し、後述する積層体の電極に用いる。
【0074】
次に、図6に示す積層体50を準備した。積層体50は、第1の電極51と、セパレータ11と、第2の電極52とを順に積層して作製した。第1の電極51は、複合膜53から構成される。第2の電極52は、複合膜54と、この複合膜54に積層された、負極活物質19(Li)を構成する金属の箔55(金属活物質の箔)とから構成される。第1の電極51および第2の電極52は、図6では省略しているが、第2のCNT17の自立したスポンジ状構造体からなる第2の三次元集電体18と、第2の三次元集電体18の内部に包含された複数のシード粒子20とを備えるものである。金属の箔55は、厚さ50μm、直径12mmの箔である。セパレータ11は、ポリプロピレン製である。積層体50の上面(金属の箔55)を撮影した写真を図7に示す。図7より、金属の箔55の金属光沢が確認できた。積層体50と電解液とを容器に収容して、実施例11の試験セルを作製した。
【0075】
次に、実施例11の試験セルにおいて、第1の電極にLiを析出(Plating)させることで金属活物質の保持を行った。Liの析出は、電流密度0.4mA/cmの定電流で行い、カットオフ電圧を0.1Vとした。なお、以下の説明では、第1の電極にLiを析出させLiを導入することを充電と呼び、第1の電極のLiを溶出(Stripping)させ第1の電極からLiを放出することを放電と呼ぶ。充電により第2の電極52に含まれる金属の箔55のLiが溶解し、第1の電極51へLiイオンが移動し、複合膜53の内部に包含されたシード粒子20のまわりにLiが析出した。本実施例では、第1の電極には8.86mAh/cmの容量に相当するLiが導入された。充電後の積層体50には、図8に示すように、金属の箔55が残存していない。図8において、符号50Aは充電後の積層体を示し、符号51Aは充電後の第1の電極を示し、符号52Aは充電後の第2の電極を示す。
【0076】
実際に試験セルを解体し、金属の箔55が残っていないことを目視で確認した。充電後の第1の電極51Aの上面(セパレータ11に接していた面)を撮影した写真を図9に示す。充電後の第2の電極52Aの下面(セパレータ11に接していた面)を撮影した写真を図10に示す。充電後の第2の電極52Aの上面(金属の箔55に接していた面)を撮影した写真を図11に示す。図9より、充電前は黒色であった複合膜53が、金属光沢の無い白色になっていることが確認できた。負極活物質19であるLiが、複合膜53の内部に包含されたシード粒子20のまわりに析出することにより、第1の電極51Aが金属光沢の無い白色に観察されている。図10より、第2の電極52Aの下面はほとんど黒色であり、Liはほぼ存在していないことが確認された。図11より、第2の電極52Aの上面はほとんど黒色であり、Liの箔が残存しておらず、Liもほぼ存在していないことが確認された。以上のように、第1の電極51Aと第2の電極52Aとのいずれにも、金属活物質の箔や金属光沢を有する膜等が存在しないことが確認できた。したがって、金属活物質の箔を含まない電極を得ることができた。
【0077】
以下、実施例12について説明する。まず、実施例11と同様の方法、すなわち複合膜形成工程の第1の例で説明した方法により実施例12に係る複合膜を形成した。実施例12に係る複合膜は、単位面積当たりのCNTの質量密度が約0.28mg/cmであることが、実施例11に係る複合膜と異なる。次に、実施例11と同様の方法により実施例12に係る積層体を作製した。実施例12に係る積層体の上面(金属の箔)を撮影した写真を図12に示す。図12より、金属の箔の金属光沢が確認できた。積層体と電解液とを容器に収容して、実施例12の試験セルを作製した。
【0078】
次に、実施例12の試験セルにおいて、第1の電極にLiを析出(Plating)させることで金属活物質の保持を行った。Liの析出は、実施例11と同様に、電流密度0.4mA/cmの定電流で行い、カットオフ電圧を0.1Vとした。充電により第2の電極に含まれる金属の箔のLiが溶解し、第1の電極へLiイオンが移動し、複合膜の内部に包含されたシード粒子のまわりにLiが析出した。本実施例では、第1の電極には9.13mAh/cmの容量に相当するLiが導入された。
【0079】
実際に実施例12の試験セルを解体し、金属の箔が残っていないことを目視で確認した。充電後の第1の電極の上面(セパレータに接していた面)を撮影した写真を図13に示す。充電後の第2の電極の下面(セパレータに接していた面)を撮影した写真を図14に示す。図13より、充電前は黒色であった複合膜が、金属光沢の無い白色になっていることが確認できた。負極活物質であるLiが、複合膜の内部に包含されたシード粒子のまわりに析出することにより、第1の電極が金属光沢の無い白色に観察されている。図14より、第2の電極の下面はほとんど黒色であり、Liはほぼ存在していないことが確認された。充電後の第2の電極の上面(金属の箔に接していた面)にもLiはほぼ存在していなかった。以上のように、第1の電極と第2の電極とのいずれにも、金属活物質の箔や金属光沢を有する膜等が存在しないことが確認できた。したがって、金属活物質の箔を含まない電極を得ることができた。
【0080】
5-3.サイクル試験
実施例12と同様の方法で試験セルを作製し、作製した試験セルを実施例13とした。実施例13の試験セルは、実施例12の試験セルと同じ構成である。1サイクル目の充電は、実施例11,12と同様に、電流密度0.4mA/cmの定電流で行い、カットオフ電圧を0.1Vとした。厚さ50μm、直径12mmの金属Liは、約10mAh/cmの容量に相当する。初回充電時のSEI(solid electrolyte interface)被膜の形成等に一部のLiが消費されるため、第1の電極には約8.8mAh/cmの容量に相当するLiが導入された。1サイクル目の放電も電流密度0.4mA/cmの定電流で行った。当該1サイクル目の放電は、約2.4mAh/cmの容量に相当するLiを第1の電極に残した状態で中止した。これにより、第2の電極には約6.4mAh/cmの容量に相当するLiが導入された。2サイクル目以降の充放電は、第1の電極と第2の電極との間で移動するLiの量が約4mAh/cmの容量に相当するように、2~4サイクルは電流密度0.4mA/cm、カットオフ電圧を0.1V、5サイクル目以降は1.0mA/cm、カットオフ電圧を0.3Vの定電流条件で繰り返し行った。
【0081】
第1のCu箔(第1の電極に対応)、セパレータ、金属の箔、第2のCu箔を順に積層した積層体を有する試験セルを作製し、作製した試験セルを比較例1とした。比較例1の試験セルに用いた第1のCu箔及び第2のCu箔は、厚さ20μm、直径12mmの箔である。比較例1の試験セルに用いた金属の箔は、実施例13の試験セルに用いた金属の箔と同じ構成を有する。CNTの自立したスポンジ状構造体から構成される第1の電極、セパレータ、CNTの自立したスポンジ状構造体と金属の箔とから構成される第2の電極を順に積層した積層体を有する試験セルを作製し、作製した試験セルを比較例2とした。比較例2の試験セルは、第1の電極および第2の電極にシード粒子が含まれていないことが、実施例13の試験セルと異なる。複合膜から構成される第1の電極、セパレータ、複合膜と厚さ500μmの金属の箔とから構成される第2の電極を順に積層した積層体を有する試験セルを作製し、作製した試験セルを比較例3とした。比較例3の試験セルは、金属の箔の厚みが、実施例13の試験セルと異なる。比較例1,2の各試験セルについて、サイクル試験を行った。比較例1の試験セルのサイクル試験は、実施例13の試験セルと一部異なる条件で行い、比較例2の試験セルのサイクル試験は、実施例13の試験セルと同じ条件で行った。比較例1の試験セルのサイクル試験について以下に説明する。1サイクル目の充電は、電流密度0.4mA/cmの定電流で行い、カットオフ電圧を0.15Vとした。充電により、第1のCu箔上に、約8.6mAh/cmの容量に相当するLiが析出した。1サイクル目の放電も電流密度0.4mA/cmの定電流で行った。放電は、約2.3mAh/cmの容量に相当するLiを第1のCu箔上に残した状態で中止した。これにより、第2のCu箔上に、約6.3mAh/cmの容量に相当するLiが析出した。2サイクル目以降の充放電は、第1のCu箔と第2のCu箔との間で移動するLiの量が約4mAh/cmの容量に相当するように、2~4サイクルは電流密度0.4mA/cm、カットオフ電圧を0.15V、5サイクル目以降は1.0mA/cm、カットオフ電圧を0.3Vの定電流条件で繰り返し行った。
【0082】
実施例13の試験セルのサイクル試験の結果を図15に示す。比較例1の試験セルのサイクル試験の結果を図16に示す。比較例2の試験セルのサイクル試験の結果を図17に示す。図15~17は、縦軸が電圧、横軸が時間を示す。
【0083】
実施例13の試験セルでは、図15より、94サイクルの動作が可能であることが確認できた。厚さ50μmのLiの箔1枚の質量(2.67mg/cm)と、第1の電極と第2の電極とを構成する2枚の複合膜の質量(複合膜1枚当たり、Cuの質量が0.12mg/cm、CNTの質量が0.28mg/cm)との合計質量が3.47mg/cmであり、設計容量が4mAh/cmの電極を2枚有するため、電極1枚あたりの質量基準容量密度は2305mAh/gとなる。比較例1の試験セルは、図16に示されるように、24サイクルで電圧の絶対値が急激に増大する現象が確認された。Cu箔上のLiの核発生密度が低くLi核の体積が大きく変化するため、充放電によるSEIの破壊と再形成が繰り返し起きる際にLiが消費され、また大きく成長したデンドライトが溶解時にCu箔から電気的に孤立して充放電に寄与できなくなり、活性なLiが枯渇したためと考えられる。比較例2の試験セルは、図17に示されるように、22サイクルで電圧の絶対値が急激に増大する現象が確認された。電極にスポンジ状構造体を用いているものの、シード粒子が無いため、大きいデンドライトの生成が十分に抑制されず、実施例13よりもサイクル特性が劣る結果になったと考えられる。比較例3の試験セルでは、厚さ500μmのLiの箔1枚の質量(26.7mg/cm)と、第1の電極と第2の電極とを構成する2枚の複合膜の質量(複合膜1枚当たり、Cuの質量が0.12mg/cm、CNTの質量が0.28mg/cm)との合計質量が31.1mg/cmであり、設計容量が4mAh/cmの電極を2枚有するため、質量基準容量密度は257mAh/gとなる。比較例3の試験セルは、充放電に寄与しないLiが厚さ450μm程度の箔の状態で残存しているため、実施例13の試験セルよりも質量容量密度および体積容量密度が低い。以上より、実施例13の試験セルでは、充電時のLiの析出核となるシード粒子を複数備えることにより、大きいデンドライトの生成が抑制され、Liの消費が抑えられ、優れたサイクル特性が得られることが確認できた。
【符号の説明】
【0084】
10,10A,10B 二次電池
11 セパレータ
12,12A,12B 二次電池用正極
13,13A,13B 二次電池用負極
14 第1のカーボンナノチューブ
15 第1の三次元集電体
16,16A,16B 正極活物質
17 第2のカーボンナノチューブ
18 第2の三次元集電体
19,19A,19B 負極活物質
20 シード粒子
図1
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