(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-28
(45)【発行日】2024-01-12
(54)【発明の名称】乳汁中のIgA抗体含有量の増加剤
(51)【国際特許分類】
C12N 1/20 20060101AFI20240104BHJP
A23L 33/135 20160101ALN20240104BHJP
C12N 15/11 20060101ALN20240104BHJP
【FI】
C12N1/20 A ZNA
C12N1/20 E
A23L33/135
C12N15/11 Z
(21)【出願番号】P 2022546228
(86)(22)【出願日】2021-08-20
(86)【国際出願番号】 JP2021030571
(87)【国際公開番号】W WO2022050082
(87)【国際公開日】2022-03-10
【審査請求日】2022-11-09
(31)【優先権主張番号】P 2020146884
(32)【優先日】2020-09-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504157024
【氏名又は名称】国立大学法人東北大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100107984
【氏名又は名称】廣田 雅紀
(74)【代理人】
【識別番号】100182305
【氏名又は名称】廣田 鉄平
(74)【代理人】
【識別番号】100096482
【氏名又は名称】東海 裕作
(74)【代理人】
【識別番号】100131093
【氏名又は名称】堀内 真
(74)【代理人】
【識別番号】100150902
【氏名又は名称】山内 正子
(74)【代理人】
【識別番号】100141391
【氏名又は名称】園元 修一
(74)【代理人】
【識別番号】100221958
【氏名又は名称】篠田 真希恵
(74)【代理人】
【識別番号】100192441
【氏名又は名称】渡辺 仁
(72)【発明者】
【氏名】野地 智法
(72)【発明者】
【氏名】宇佐美 克紀
(72)【発明者】
【氏名】麻生 久
(72)【発明者】
【氏名】清野 宏
(72)【発明者】
【氏名】藤橋 浩太郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 慎太郎
【審査官】牧野 晃久
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-227043(JP,A)
【文献】特開2011-177155(JP,A)
【文献】Database Genbank [オンライン],2008年04月30日,Accession No.EU136694Internet, <URL:https:// www.ncbi.nlm.gov/nuccore/eu136694>,
【文献】Database Genbank [オンライン],2012年11月09日,Accession No.AB547676, <URL:https:// www.ncbi.nlm.gov/nuccore/ab547676>
【文献】細野朗,バクテロイデスと免疫,腸内細菌額雑誌,第27巻,2013年,pp.203-209
【文献】YANAGIBASHI, Tsutomu et al.,Bacteroides Induce Higher IgA Production Than Lactobacillus by Increasing Activation-Induced Cytidine Deaminase Expression in B Cells in Murine Peyer's Patches.,Biosci. Biotechnol. Biochem.,2009年,Vol.73, No.2,pp.372-377
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00- 1/38
C12N 15/00- 15/90
A23L 33/00- 33/29
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1に示されるヌクレオチド配列と少なくとも90%の同一性を有する16S rRNA遺伝子を有し、かつ、乳汁中のIgA抗体含有量を増加する作用を有するバクテロイデス属細菌株;並びに
配列番号2に示されるヌクレオチド配列と少なくとも90%の同一性を有する16S rRNA遺伝子を有し、かつ、乳汁中のIgA抗体含有量を増加する作用を有するプレボテラ属細菌株;
から選択される細菌株を、1又は2種以上含むことを特徴とする乳汁中のIgA抗体含有量の増加剤。
【請求項2】
細菌株が、パイエル板における免疫機能を活性化し、IgA抗体産生形質細胞数を増加させる作用を有することを特徴とする請求項1に記載の増加剤。
【請求項3】
腸内細菌叢に占める、配列番号1に示されるヌクレオチド配列と少なくとも90%の同一性を有する16S rRNA遺伝子を有するバクテロイデス属細菌株、及び配列番号2に示されるヌクレオチド配列と少なくとも90%の同一性を有する16S rRNA遺伝子を有するプレボテラ属細菌株の割合が低下した哺乳動物母体に接種することを特徴とする請求項1又は2に記載の増加剤。
【請求項4】
経口接種することを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の増
加剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、乳汁中のIgA抗体(以下、単に「IgA」ということがある)含有量を増加する作用を有する腸内共生菌を有効成分として含有する、乳汁中のIgA含有量の増加剤に関する。
【背景技術】
【0002】
微生物は、本来宿主生体にとっては異物であることから、免疫システムにより排除される対象となり得るが、腸内共生菌は腸管免疫システムによる積極的な排除を受けずに腸管内に共生する特徴を有する。ヒトをはじめとする哺乳動物は、無菌状態で誕生後、外界と接触することにより様々な細菌に感染し、腸内細菌叢が構成されていく。ヒト腸管内には、約1000種類以上の腸内共生菌が、約百兆個以上存在し、腸管内環境に大きな影響を及ぼしていると考えられている。
【0003】
バクテロイデス属細菌は、従来、有用性の少ない日和見菌であると考えられてきた。また、嫌気性菌であるため、培養が困難であり、増殖メカニズムをはじめ、不明な点が多かった。近年のバクテロイデス属細菌に関する研究により、例えば、腸管リンパ組織であるパイエル板細胞を、バクテロイデス属細菌の加熱死滅細菌の存在下で培養すると、乳酸菌であるラクトバシラス属(Lactobacillus)細菌の加熱死滅細菌の存在下で培養した場合と比べ、培養上清中に分泌されるIgA量が多いことが報告されている(非特許文献1、2)。また、Bacteroides acidifaciensが、糖・脂質代謝異常を原因とする代謝性疾患に対して治療効果を有することが報告されている(特許文献1)。しかしながら、腸内共生菌(すなわち、腸内細菌叢を構成する細菌)と、乳汁中のIgA抗体含有量との関連性については、これまで知られていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】腸内細菌学雑誌 27:203-209,2013
【文献】Biosci Biotechnol Biochem. 2009 Feb;73(2):372-7.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、乳汁中のIgA含有量を増加する作用を有する腸内共生菌を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究を続けている。その過程において、まず、授乳期の哺乳動物母体において、パイエル板(Peyer’s patches、以下、「PP」ということがある)における免疫機能が活性化することにより、PPより乳腺にIgA産生形質細胞が遊走した結果、乳汁中のIgA含有量が増加することを見いだした。また、授乳期の哺乳動物母体の腸内細菌叢全体に占めるバクテロイデス属細菌株(Bacteroides acidifaciens)及びプレボテラ属細菌株(Prevotella buccalis)の割合が低下すると、乳腺におけるIgA産生形質細胞数及び乳汁中のIgA含有量が減少することを確認した。さらに、腸内細菌叢全体に占めるこれら細菌種の割合が低下した授乳期の哺乳動物母体が、株化されたこれらの細菌種を経口接種すると、乳腺に存在するIgA産生形質細胞数及び乳汁中のIgA含有量が増加することを見いだした。本発明は、これら知見に基づき、完成するに至ったものである。
【0008】
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
〔1〕配列番号1に示されるヌクレオチド配列と少なくとも90%の同一性を有する16S rRNA遺伝子を有し、かつ、乳汁中のIgA抗体含有量を増加する作用を有するバクテロイデス属細菌株;並びに
配列番号2に示されるヌクレオチド配列と少なくとも90%の同一性を有する16S rRNA遺伝子を有し、かつ、乳汁中のIgA抗体含有量を増加する作用を有するプレボテラ属細菌株;
から選択される細菌株を、1又は2種以上含むことを特徴とする乳汁中のIgA抗体含有量の増加剤。
〔2〕細菌株が、パイエル板における免疫機能を活性化し、IgA抗体産生形質細胞数を増加させる作用を有することを特徴とする上記〔1〕に記載の増加剤。
〔3〕腸内細菌叢に占める、配列番号1に示されるヌクレオチド配列と少なくとも90%の同一性を有する16S rRNA遺伝子を有するバクテロイデス属細菌株、及び配列番号2に示されるヌクレオチド配列と少なくとも90%の同一性を有する16S rRNA遺伝子を有するプレボテラ属細菌株の割合が低下した哺乳動物母体に接種することを特徴とする上記〔1〕又は〔2〕に記載の増加剤。
〔4〕経口接種することを特徴とする上記〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の増強剤。
【0009】
また本発明の実施の他の形態として、
配列番号1に示されるヌクレオチド配列と少なくとも90%の同一性を有する16S rRNA遺伝子を有し、かつ、乳汁中のIgA抗体含有量を増加する作用を有するバクテロイデス属細菌株(以下、「本件バクテロイデス属細菌株」ということがある);並びに、配列番号2に示されるヌクレオチド配列と少なくとも90%の同一性を有する16S rRNA遺伝子を有し、かつ、乳汁中のIgA抗体含有量を増加する作用を有するプレボテラ属細菌株(以下、「本件プレボテラ属細菌株」ということがある);から選択される細菌株(以下、これらを総称して「本件細菌株」ということがある)の1又は2種以上を、乳汁中のIgA抗体含有量の増加を必要とする哺乳動物母体に接種するステップを含む、乳汁中のIgA抗体含有量を増加する方法;や、
乳汁中のIgA抗体含有量の増加における使用のための、1又は2種以上の本件細菌株;や、
乳汁中のIgA抗体含有量の増加剤を製造するための、1又は2種以上の本件細菌株の使用;
を挙げることができる。
【発明の効果】
【0010】
本件細菌株は、乳汁中のIgA含有量を増加する作用を有する。特に、ストレスや抗生物質の投与等の腸内細菌叢を乱す要因により、腸内細菌叢全体に占める本件細菌株の割合が低下した結果、乳汁中のIgA含有量が低下した授乳期の哺乳動物母体に、本件細菌株を接種すると、本件細菌株による効果により、乳汁中のIgA含有量が増加するため、かかる乳汁を摂取した乳児期(具体的には、自力でIgAを産生する能力がない又は低い時期)の仔の病原性細菌感染やウイルス感染を効果的に予防することができ、畜産業の生産性向上に資するものである。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1A及び1Bは、乳腺における細胞について、IgA抗体産生レベル及び形質細胞マーカーの一つであるCD93の発現レベルを解析した結果を示す図である。
図1A中の数値は、細胞全体に対する、四角で囲った領域に含まれる細胞の割合(%)を示す。
図1Bの「IgA high」は、
図1A中の四角で囲った領域のうち、「high」の領域に含まれる細胞(すなわち、IgA抗体を高レベルで産生する形質細胞)を示す。また、
図1Bの「IgA lоw」は、
図1A中の四角で囲った領域のうち、「lоw」の領域に含まれる細胞(すなわち、IgA抗体を低レベルで産生する細胞)を示す。
図1Cは、乳腺における細胞について、IgA抗体産生レベル及び4種類の細胞表面マーカー(B220、Ly6C、I-Ad、及びCD11b)の発現レベルを解析した結果を示す図である。
図1C中の四角で囲った領域は、IgA抗体を高レベルで産生する形質細胞を示す。また、
図1C中の数値は、細胞全体に対するIgA抗体を高レベルで産生する形質細胞の割合(%)を示す。
【
図2】
図2Aは、3種類の近交系(BALB/c)母マウス(BALB/cマウス[図中の「非欠損」]、鼠径リンパ節(以下、「ILN」ということがある)欠損マウス[図中の「ILN欠損」]、及びPP欠損マウス[図中の「PP欠損」])の乳腺における形質細胞の存在割合について、IgAとB220をマーカーとして解析した結果を示す図である。
図2Bは、
図2Aの結果を基に、乳腺に存在するIgA産生形質細胞(
図2Aにおける各図の右下の領域に含まれる細胞)数を測定した結果(平均値+標準偏差)を示す図である。
図2Cは、上記3種類の近交系(BALB/c)母マウスの乳汁を摂取した仔マウスの胃内容物中のIgA抗体濃度を測定した結果(平均値+標準偏差)を示す図である。図中の「**」及び「****」は、それぞれ統計学的に有意差があること(p<0.01及びp<0.0001)を示す(以下、同じ)。また、図中の白丸(○)は、各サンプルを示す(以下、同じ)。
【
図3】
図3Aは、3種類の免疫不全(C.B-17/Icr-scid/scidJcl)母マウス(野生型C.B-17/Icr-+/+Jclマウス[以下、「野生型(Icr
+/+)マウス」ということがある]のILN由来単核細胞を移入した免疫不全マウス[図中の「ILN由来単核細胞移入」];野生型マウスのPP由来単核細胞を移入した免疫不全マウス[図中の「PP由来単核細胞移入」];及びこれら細胞未移入の免疫不全マウス[図中の「未移入」])の乳腺における形質細胞について、IgAとB220をマーカーとして解析した結果を示す図である。
図3Bは、
図3Aの結果を基に、IgA産生形質細胞(
図3Aにおける各図の右下の領域に含まれる細胞)数を測定した結果(平均値+標準偏差)を示す図である。
図3Cは、上記3種類の免疫不全(C.B-17/Icr-scid/scidJcl)母マウスの乳汁を摂取した仔マウスの胃内容物中のIgA抗体濃度を測定した結果(平均値+標準偏差)を示す図である。図中の「***」は、統計学的に有意差があること(p<0.001)を示す(以下、同じ)。なお、本実施例において、統計処理は、Prism 7ソフトウェアを用いた多重比較検定を用いて行った。
【
図4】
図4Aは、2種類の近交系(C57BL/6)母マウス(Spib
flox/floxマウス[図中の「Spib
flox/flox」];及び、Spib
flox/floxマウスを基に作製した、腸管上皮特異的にSpiB遺伝子が欠損したマウス[以下、「SpiB cKOマウス」ということがある][図中の「SpiB cKO」])の乳腺における形質細胞について、IgAとB220をマーカーとして解析した結果を示す図である。
図4Bは、
図4Aの結果を基に、IgA産生形質細胞(
図4Aにおける各図の右下の領域に含まれる細胞)数を測定した結果(平均値+標準偏差)を示す図である。
図4Cは、上記2種類の近交系(C57BL/6)母マウスの乳汁を摂取した仔マウスの胃内容物中のIgA抗体濃度を測定した結果(平均値+標準偏差)を示す図である。
【
図5】近交系(BALB/c)母マウスに、3種類の抗生物質(アンピシリン[図中の「Amp」、ネオマイシン[図中の「Neо」]、及びバンコマイシン[図中の「Van」]])又はこれらの混合物(図中の「Mix」)を含む水、あるいは抗生物質不含の水(図中の「DW」)を自由飲水させた後、細菌由来tuf遺伝子を指標として腸内細菌の総数(
図5A)と、腸内細菌叢を構成する各種細菌の割合(
図5B及び5C)を解析した結果を示す図である。
図5Aにおいて、縦軸は、糞便1mg当たりの各種細菌由来tuf遺伝子のコピー数を示す。
図5B及び5Cにおける数値(1~7)は、各個体マウスを示す。
【
図6】近交系(BALB/c)母マウスに、3種類の抗生物質(アンピシリン[図中の「Amp」、ネオマイシン[図中の「Neо」]、及びバンコマイシン[図中の「Van」]])又はこれらの混合物(図中の「Mix」)を含む水、あるいは抗生物質不含の水(図中の「DW」)を自由飲水させた後、腸内細菌叢に占める割合が特に大きく変化した4種類の細菌株(Parabacteroides goldsteinii[
図6A]、Bacteroides acidifaciens[
図6B]、Prevotella buccalis[
図6C]、及びEscherichia albertii[
図6D])の割合を測定した結果(平均値+標準偏差)を示す図である。図中の「*」は、統計学的に有意差があること(p<0.05)を示す(以下、同じ)。
【
図7】
図7Aは、近交系(BALB/c)母マウスに、5種類の水(アンピシリン[図中の「Amp」]を含む水;ネオマイシン[図中の「Neо」]を含む水;バンコマイシン[図中の「Van」]を含む水;これら3種類の抗生物質の混合物[図中の「Mix」]を含む水;又は抗生物質不含の水[図中の「DW」])を自由飲水させた後、乳腺における形質細胞について、IgAとB220をマーカーとして解析した結果を示す図である。
図7Bは、
図7Aの結果を基に、IgA産生形質細胞(
図7Aにおける各図の右下の領域に含まれる細胞)数を測定した結果(平均値+標準偏差)を示す図である。
図7Cは、各種水を自由飲水した上記近交系(BALB/c)母マウスの乳汁を摂取した仔マウスの胃内容物中のIgA抗体濃度を測定した結果(平均値+標準偏差)を示す図である。
【
図8】近交系(BALB/c)母マウスに、3種類の抗生物質(アンピシリン、ネオマイシン、及びバンコマイシン)の混合物(以下、単に「抗生物質混合物」ということがある)を含む水を自由飲水させた後、授乳期の健常近交系(BALB/c)母マウスの糞便を用いた便微生物移植(FMT;fecal microbiota transplantation)を行うか(図中の「FMT +」)、あるいはFMTを行わずに(図中の「FMT -」)、細菌由来tuf遺伝子を指標として腸内細菌の総数(
図8A)と、腸内細菌叢を構成する各種細菌の割合(
図8B及び8C)を解析した結果を示す図である。
図8Aにおいて、縦軸は、糞便1mg当たりの各種細菌由来tuf遺伝子のコピー数を示す。
図8B及び8Cにおける数値各(1~7)は、各個体マウスを示す。
【
図9】近交系(BALB/c)母マウスに、3種類の抗生物質(アンピシリン、ネオマイシン、及びバンコマイシン)の混合物(以下、単に「抗生物質混合物」ということがある)を含む水を自由飲水させた後、授乳期の健常近交系(BALB/c)母マウスの糞便を用いたFMTを行うか(図中の「FMT +」)、あるいはFMTを行わなずに(図中の「FMT -」)、腸内細菌叢に占める4種類の細菌株(Parabacteroides goldsteinii[
図9A]、Bacteroides acidifaciens[
図9B]、Prevotella buccalis[
図9C]、及びEscherichia albertii[
図9D])の割合を測定した結果(平均値+標準偏差)を示す図である。
【
図10】
図10Aは、近交系(BALB/c)母マウスに、上記3種類の抗生物質の混合物を含む水を自由飲水させた後、授乳期の健常近交系(BALB/c)母マウスの糞便を用いたFMTを行うか(図中の「FMT +」)、あるいはFMTを行わなずに(図中の「FMT -」)、乳腺における形質細胞について、IgAとB220をマーカーとして解析した結果を示す図である。
図10Bは、
図10Aの結果を基に、IgA産生形質細胞(
図10Aにおける各図の右下の領域に含まれる細胞)数を測定した結果(平均値+標準偏差)を示す図である。
図10Cは、FMTを行った(図中の「FMT +」)又はFMTを行わなかった(図中の「FMT -」)上記近交系(BALB/c)母マウスの乳汁を摂取した仔マウスの胃内容物中のIgA抗体濃度を測定した結果(平均値+標準偏差)を示す図である。
【
図11】
図11Aは、3種類の母マウス(SPFマウス[図中の「SPF」]、GFマウス[図中の「GF」]、及び免疫不全マウス[図中の「SCID」])の乳汁を摂取した仔マウスの胃内容物中のIgA抗体濃度を測定した結果(平均値+標準偏差)を示す図である。
図11Bは、SPFマウスの乳汁を摂取した仔マウスの胃内容物中のIgA抗体について、3種類の母マウス(SPFマウス[図中の「SPF」]、GFマウス[図中の「GF」]、及び免疫不全マウス[図中の「SCID」])の糞便中に含まれる微生物に対する反応性を解析した結果(平均値+標準偏差)を示す図である。
【
図12】
図12Aは、3種類の母マウス(野生型マウス[図中の「野生型」];野生型マウスの骨髄由来単核球を移植[BMT;bone marrow transplantation]した免疫不全マウス[図中の「免疫不全 BMT+」];及びBMTを行わなかった免疫不全マウス[図中の「免疫不全 BMT-」])の小腸組織を、ヘマトキシリン・エオシン染色により解析した結果を示す図である。中段及び下段における各図(1~5)は、上段の図中の四角で囲った領域(1~5)の拡大図である。図中のスケールバーは、500μmを示す。
図12Bは、上記3種類の母マウスの小腸組織を、T細胞を検出する抗CD3抗体とB細胞を検出する抗B220抗体を用いた免疫組織染色法により解析した結果を示す図である。図中の矢印が示す白線で囲った領域は、B細胞(B220陽性細胞)が存在することを示し、矢頭が示す白線で囲った領域は、T細胞(CD3陽性細胞)が存在することを示す。
【
図13】3種類の母マウス(野生型マウス[図中の「野生型」];野生型マウスの骨髄由来単核球をBMTした免疫不全マウス[図中の「免疫不全 BMT+」];及びBMTを行わなかった免疫不全マウス[図中の「免疫不全 BMT-」])について、細菌由来tuf遺伝子を指標として腸内細菌の総数(
図13A)と、腸内細菌叢を構成する各種細菌の割合(
図13B及び13C)を解析した結果を示す図である。
図13Aにおいて、縦軸は、糞便1mg当たりの各種細菌由来tuf遺伝子のコピー数を示す。
図13B及び13Cにおける数値各(1~6)は、各個体マウスを示す。
【
図14】2種類の母マウス(野生型マウス[
図14A]及び免疫不全マウス[
図14B])の乳汁を摂取した仔マウスの胃内容物中のIgA抗体について、3種類の母マウス(野生型マウス[図中の「野生型」];野生型マウス由来の骨髄単核球をBMTした免疫不全マウス[図中の「免疫不全 BMT+」];及びBMTを行わなかった免疫不全マウス[図中の「免疫不全 BMT-」])の糞便中に含まれる微生物に対する反応性を解析した結果(平均値+標準偏差)を示す図である。図中の「#」及び「##」は、t-testにより統計学的に有意差があること(それぞれ、p<0.05及びp<0.01)を示す。
【
図15】3種類の母マウス(野生型マウス[図中の「野生型」];野生型マウス由来の骨髄単核球をBMTした免疫不全マウス[図中の「免疫不全 BMT+」];及びBMTを行わなかった免疫不全マウス[図中の「免疫不全 BMT-」])について、腸内細菌叢に占める4種類の細菌株(Parabacteroides goldsteinii[
図15A]、Bacteroides acidifaciens[
図15B]、Prevotella buccalis[
図15C]、及びEscherichia albertii[
図15D])の割合を測定した結果(平均値+標準偏差)を示す図である。
【
図16】近交系(BALB/c)母マウスに、3種類の抗生物質(アンピシリン、ネオマイシン、及びバンコマイシン)の混合物を含む水を自由飲水させた後、2種類のマウス(野生型C.B-17/Icr-+/+Jclマウス、及び免疫不全[C.B-17/Icr-scid/scidJcl]マウス)由来の糞便を用いたFMTを行い(図中の「野生型 FMT」及び「免疫不全 FMT」)、細菌由来tuf遺伝子を指標として腸内細菌の総数(
図16A)と、腸内細菌叢を構成する各種細菌の割合(
図16B及び16C)を解析した結果を示す図である。
図16Aにおいて、縦軸は、糞便1mg当たりの各種細菌由来tuf遺伝子のコピー数を示す。
図16B及び16Cにおける数値各(1~5)は、各個体マウスを示す。
【
図17】近交系(BALB/c)母マウスに、上記3種類の抗生物質の混合物を含む水を自由飲水させた後、2種類のマウス(野生型マウス及び免疫不全マウス)由来の糞便を用いたFMTを行い(図中の「野生型 FMT」及び「免疫不全 FMT」)、腸内細菌叢に占める4種類の細菌株(Parabacteroides goldsteinii[
図17A]、Bacteroides acidifaciens[
図17B]、Prevotella buccalis[
図17C]、及びEscherichia albertii[
図17D])の割合を測定した結果(平均値+標準偏差)を示す図である。
【
図18】
図18Aは、近交系(BALB/c)母マウスに、上記3種類の抗生物質の混合物を含む水を自由飲水させた後、2種類のマウス(野生型マウス及び免疫不全マウス)由来の糞便を用いたFMTを行い(図中の「野生型 FMT」及び「免疫不全 FMT」)、乳腺における形質細胞のIgA抗体産生レベル及びB220発現レベルを解析した結果を示す図である。
図18Bは、
図18Aの結果を基に、IgA産生形質細胞(
図18Aにおける各図の右下の領域に含まれる細胞)数を測定した結果(平均値+標準偏差)を示す図である。
図18Cは、FMTを行った上記2種類の近交系(BALB/c)母マウスの乳汁を摂取した仔マウスの胃内容物中のIgA抗体濃度を測定した結果(平均値+標準偏差)を示す図である。
【
図19】2種類の細菌株(Bacteroides acidifaciens[
図19A]及びPrevotella buccalis[
図19B])について、BALB/c母マウスの乳汁由来IgA抗体に結合するもの(図中の「IgA
+」)と、結合しないもの(図中の「IgA
-」)の割合を、かかる細菌由来tuf遺伝子を指標として解析した結果を示す図である。縦軸は、糞便1mg当たりの各種細菌由来tuf遺伝子のコピー数を示す。
【
図20】近交系(BALB/c)母マウスに、抗生物質混合物を含む水を自由飲水させ、3種類の細菌株(Parabacteroides goldsteinii、Bacteroides acidifaciens、及びPrevotella buccalis)を接種するか(図中の「P. Goldsteinii接種」、「B. Acidifaciens接種」、及び「P. Buccalis接種」)、あるいは、これら細菌株未接種後(図中の「未接種」)、細菌由来tuf遺伝子を指標として腸内細菌の総数(
図20A)と、腸内細菌叢を構成する各種細菌の割合(
図20B及び20C)を解析した結果を示す図である。
図20Aにおいて、縦軸は、糞便1mg当たりの各種細菌由来tuf遺伝子のコピー数を示す。
図20B及び20Cにおける数値各(1~8)は、各個体マウスを示す。
【
図21】
図21Aは、近交系(BALB/c)母マウスに、抗生物質混合物を含む水を自由飲水させ、3種類の細菌株(Parabacteroides goldsteinii、Bacteroides acidifaciens、及びPrevotella buccalis)を接種するか(図中の「P. Goldsteinii接種」、「B. Acidifaciens接種」、及び「P. Buccalis接種」)、あるいは、これら細菌株未接種後(図中の「未接種」)、乳腺における形質細胞について、IgAとB220をマーカーとして解析した結果を示す図である。
図21Bは、
図21Aの結果を基に、IgA産生形質細胞(
図21Aにおける各図の右下の領域に含まれる細胞)数を測定した結果(平均値+標準偏差)を示す図である。
図21Cは、上記3種類の細菌株を接種した又は未接種の近交系(BALB/c)母マウスの乳汁を摂取した仔マウスの胃内容物中のIgA抗体濃度を測定した結果(平均値+標準偏差)を示す図である。
【
図22】BALB/c母マウスに、抗生物質混合物を含む水を自由飲水させ、3種類の細菌株(Parabacteroides goldsteinii、Bacteroides acidifaciens、及びPrevotella buccalis)を接種するか(図中の「P. Goldsteinii接種」、「B. Acidifaciens接種」、及び「P. Buccalis接種」)、あるいは、これら細菌株未接種後(図中の「未接種」)、Parabacteroides goldsteiniiに対するIgA抗体の力価(
図22A)、Bacteroides acidifaciensに対するIgA抗体の力価(
図22B)、及びPrevotella buccalisに対するIgA抗体の力価(
図22C)を測定した結果を示す図である。
【
図23】2種類の近交系(BALB/c)母マウス(BALB/cマウス[図中の「非欠損」]及びPP欠損マウス[図中の「PP欠損」])に、抗生物質混合物を含む水を自由飲水させ、3種類の細菌株(Parabacteroides goldsteinii、Bacteroides acidifaciens、及びPrevotella buccalis)を接種するか(図中の「P. Goldsteinii接種」、「B. Acidifaciens接種」、及び「P. Buccalis接種」)、あるいは、これら細菌株未接種後(図中の「未接種」)、細菌由来tuf遺伝子を指標として腸内細菌の総数(
図23A)と、腸内細菌叢を構成する各種細菌の割合(
図23B及び23C)を解析した結果を示す図である。
図23Aにおいて、縦軸は、糞便1mg当たりの各種細菌由来tuf遺伝子のコピー数を示す。
図23B及び23Cにおける数値各(1~8)は、各個体マウスを示す。
【
図24】2種類の近交系(BALB/c)母マウス(BALB/cマウス[図中の「非欠損」]及びPP欠損マウス[図中の「PP欠損」])に、抗生物質混合物を含む水を自由飲水させ、3種類の細菌株(Parabacteroides goldsteinii、Bacteroides acidifaciens、及びPrevotella buccalis)を接種するか(図中の「P. Goldsteinii接種」、「B. Acidifaciens接種」、及び「P. Buccalis接種」)、あるいは、これら細菌株未接種後(図中の「未接種」)、腸内細菌叢に占める4種類の細菌株(Parabacteroides goldsteinii[
図24A]、Bacteroides acidifaciens[
図24B]、Prevotella buccalis[
図24C]、及びEscherichia albertii[
図24D])の割合を測定した結果(平均値+標準偏差)を示す図である。図中の「*」、「***」、及び「****」は、統計学的に有意差があること(それぞれ、p<0.05、p<0.001、及びp<0.0001)を示す。
【
図25】
図25Aは、2種類の近交系(BALB/c)母マウス(BALB/cマウス[図中の「非欠損」]及びPP欠損マウス[図中の「PP欠損」])に、抗生物質混合物を含む水を自由飲水させ、3種類の細菌株(Parabacteroides goldsteinii、Bacteroides acidifaciens、及びPrevotella buccalis)を接種するか(図中の「P. Goldsteinii接種」、「B. Acidifaciens接種」、及び「P. Buccalis接種」)、あるいは、これら細菌株未接種後(図中の「未接種」)、乳腺における形質細胞について、IgAとB220をマーカーとして解析した結果を示す図である。
図25Bは、
図25Aの結果を基に、IgA産生形質細胞(
図25Aにおける各図の右下の領域に含まれる細胞)数を測定した結果(平均値+標準偏差)を示す図である。
図25Cは、上記3種類の細菌株を接種した又は未接種の上記2種類の近交系(BALB/c)母マウスの乳汁を摂取した仔マウスの胃内容物中のIgA抗体濃度を測定した結果(平均値+標準偏差)を示す図である。図中の「**」、「***」、及び「****」は、統計学的に有意差があること(それぞれ、p<0.01、p<0.001、及びp<0.0001)を示す。
【
図26】2種類の近交系(BALB/c)母マウス(BALB/cマウス[図中の「非欠損」]及びPP欠損マウス[図中の「PP欠損」])に、抗生物質混合物を含む水を自由飲水させ、3種類の細菌株(Parabacteroides goldsteinii、Bacteroides acidifaciens、及びPrevotella buccalis)を接種するか(図中の「P. Goldsteinii接種」、「B. Acidifaciens接種」、及び「P. Buccalis接種」)、あるいは、これら細菌株未接種後(図中の「未接種」)、Parabacteroides goldsteiniiに対するIgA抗体の力価(
図26A)、Bacteroides acidifaciensに対するIgA抗体の力価(
図26B)、及びPrevotella buccalisに対するIgA抗体の力価(
図26C)を測定した結果を示す図である。図中の「***」及び「****」は、統計学的に有意差があること(それぞれ、p<0.001及びp<0.0001)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の乳汁中のIgA抗体含有量の増加剤は、「乳汁中のIgA抗体含有量を増加するため」という用途に特定された、本件細菌株(すなわち、配列番号1のヌクレオチド配列と少なくとも90%の同一性を有する16S rRNA遺伝子を有し、かつ、乳汁中のIgA抗体含有量を増加する作用を有するバクテロイデス属細菌株;並びに、配列番号2のヌクレオチド配列と少なくとも90%の同一性を有する16S rRNA遺伝子を有し、かつ、乳汁中のIgA抗体含有量を増加する作用を有するプレボテラ属細菌株;から選択される細菌株)を1又は2種以上含有する剤(以下、「本件増加剤」ということがある)である。ここで、16S rRNA遺伝子は、通常、本件細菌株のゲノムDNA中に含まれる。
【0013】
本件増加剤は、乳汁中のIgA抗体含有量を増加する作用を有するプロバイオティクスである本件細菌株を、単独で家畜用飼料や、飲食品又は医薬品(製剤)として使用してもよいし、さらに添加剤を混合し、組成物の形態(家畜用飼料組成物や、飲食品組成物又は医薬組成物)として使用してもよい。上記飲食品としては、例えば、健康食品(機能性食品、栄養補助食品、健康補助食品、栄養強化食品、栄養調整食品、サプリメント等)、保健機能食品(特定保健用食品、栄養機能食品、機能性表示食品等)を挙げることができる。本件増加剤としては、家畜用飼料や飲食品が好ましい。
【0014】
本件バクテロイデス属細菌株は、配列番号1のヌクレオチド配列全体と少なくとも90%の同一性を有する16S rRNA遺伝子を有し、かつ、乳汁中のIgA抗体含有量を増加する作用を有するバクテロイデス属細菌株であれば、生きた状態の細菌株であっても死滅した状態の細菌株であってもよい。本件バクテロイデス属細菌株は、後述する本実施例でその効果が実証されているBacteroides acidifaciensとは種が異なるものの、配列番号1のヌクレオチド配列と少なくとも90%の同一性を有する16S rRNA遺伝子を有し、かつ、乳汁中のIgA抗体含有量を増加する作用を有するバクテロイデス属細菌株も包含する。本件バクテロイデス属細菌株としては、例えば、Bacteroides acidifaciens(例えば、JCM10556株[GenBankアクセッション番号:EU136694]、NM70_E10株[GenBankアクセッション番号:MK929079]、A40株[GenBankアクセッション番号:NR_028607]、JJM0207-2株[GenBankアクセッション番号:KR364740])、Bacteroides caecimuris(例えば、I48株[GenBankアクセッション番号:CP015401]、NM63_1-25株[GenBankアクセッション番号:MK929076])、Bacteroides thetaiotaomicron(例えば、BCRC10624株[GenBankアクセッション番号:EU136679]、7330株[GenBankアクセッション番号:CP012937])、Bacteroides ovatus(例えば、ATCC 8483株[GenBankアクセッション番号:CP012938]、V975株[GenBankアクセッション番号:LT622246])等を挙げることができる。
【0015】
本件プレボテラ属細菌株は、配列番号2に示されるヌクレオチド配列全体と少なくとも90%の同一性を有する16S rRNA遺伝子を有し、かつ、乳汁中のIgA抗体含有量を増加する作用を有するプレボテラ属細菌株であれば、生きた状態の細菌株であっても死滅した状態の細菌株であってもよい。本件プレボテラ属細菌株は、後述する本実施例でその効果が実証されているPrevotella buccalisとは種が異なるものの、配列番号2のヌクレオチド配列と少なくとも90%の同一性を有する16S rRNA遺伝子を有し、かつ、乳汁中のIgA抗体含有量を増加する作用を有するプレボテラ属細菌株も包含する。本件プレボテラ属細菌株としては、例えば、Prevotella buccalis(例えば、JCM12246株[GenBankアクセッション番号:NR_113098]、DCW_SL_32A株[GenBankアクセッション番号:MK424033]、ATCC 35310株[GenBankアクセッション番号:NR_044630]、SEQ186株[GenBankアクセッション番号:JN867261])、BV3C7株(GenBankアクセッション番号:JN809774)、BV3P1株(GenBankアクセッション番号:JN809764)等を挙げることができる。
【0016】
本件バクテロイデス属細菌株及び本件プレボテラ属細菌株は、より具体的には、腸管リンパ組織であるパイエル板における免疫機能を活性化し、IgA抗体産生形質細胞数を増加させる作用を有するものである。
【0017】
本件細菌株としては、天然に存在する本件バクテロイデス属細菌株及び本件プレボテラ属細菌株であってもよいし、遺伝子組み換え技術等を用いて、天然に存在する本件バクテロイデス属細菌株及び本件プレボテラ属細菌株を改変したものであってもよい。かかる改変株としては、例えば、幼若期の仔が引き起こす感染症(例えば、下痢症)の原因となる細菌やウイルスの抗原に対する特異的IgA抗体を乳汁中に産生させるために、かかる抗原を発現する改変株や、哺乳動物母体の乳腺において、乳腺で引き起こされる感染症(例えば、乳腺炎/乳房炎)の原因となる抗原に対するIgA抗体の産生を誘導するために、かかる抗原を発現する改変株を挙げることができる。これら改変株を含む本件増加剤は、母体接種型母子移行ワクチンや母体の乳腺(乳房)を標的としたワクチンとしても有用である。
【0018】
本明細書において、「乳汁中のIgA抗体含有量の増加」とは、授乳期の哺乳動物母体における乳汁中のIgA抗体含有量が、比較対照である授乳期の哺乳動物母体(以下、「比較対照母体」ということがある)における乳汁中のIgA抗体含有量と比べ、増加することを意味する。比較対照母体としては特に制限されず、ストレスや抗生物質の投与等の腸内細菌叢が乱れる要因のない授乳期の哺乳動物母体であってもよいが、後述する本実施例でその効果が実証されているため、ストレスや抗生物質の投与等の腸内細菌叢が乱れる要因のない授乳期の哺乳動物母体(換言すると、正常な腸内細菌叢を有する哺乳動物母体)と比べ、腸内細菌叢全体に占める本件バクテロイデス属細菌株及び/又は本件プレボテラ属細菌株の割合が低下した授乳期の哺乳動物母体を好適に例示することができる。乳汁中のIgA抗体含有量が増加したかどうかは、閾値(カットオフ値)は任意のものを設定することができ、かかる閾値としては、例えば、比較対照母体における、乳汁中のIgA抗体含有量の平均値;平均値+標準偏差(SD);平均値+2SD;平均値+3SD;中央値;四分位範囲等を挙げることができる。また、閾値は、感度(本件細菌株を接種した、授乳期の哺乳動物母体を、正しく陽性と判定できる割合)及び特異度(本件細菌株を接種しなかった、授乳期の哺乳動物母体を、正しく陰性と判定できる割合)が高くなるように、本件細菌株を接種した、授乳期の哺乳動物母体における乳汁中のIgA抗体含有量のデータと、本件細菌株を接種しなかった、授乳期の哺乳動物母体における乳汁中のIgA抗体含有量のデータを基に、統計解析ソフトウェアを用いたROC(Receiver Operating Characteristic)曲線を用いて算出することもできる。
【0019】
本明細書において、哺乳動物としては、ヒトや、非ヒト哺乳動物(例えば、サル、マウス、ラット、イヌ、ネコ、家畜[例えば、ウサギ、ブタ、ウマ、ウシ、ヒツジ、ヤギ、シカ])等を挙げることができ、ヒトや家畜を好適に例示することができる。
【0020】
本件増加剤を接種する(本件増加剤の態様によっては、「投与する」又は「適用する」ともいう)対象としては、乳汁中のIgA抗体含有量の増加を必要とする哺乳動物母体(好ましくは、授乳期の哺乳動物母体)であればよく、後述する本実施例でその効果が実証されているため、腸内細菌叢全体に占める本件バクテロイデス属細菌株及び本件プレボテラ属細菌株の割合が低下した哺乳動物母体を好適に例示することができる。
【0021】
本発明において、「配列番号1(又は2)に示されるヌクレオチド配列と少なくとも90%の同一性」とは、配列番号1(又は2)のヌクレオチド配列における1若しくは数個のヌクレオチドが置換、欠失、挿入、付加又は逆位され、配列番号1(又は2)のヌクレオチド配列全体の90%以上の配列が同一であることを意味する。ここで、「1若しくは数個のヌクレオチドが置換、欠失、挿入、付加又は逆位されたヌクレオチド配列」とは、例えば1~149個の範囲内、好ましくは1~100個の範囲内、より好ましくは1~75個の範囲内、さらに好ましくは1~50個の範囲内、より好ましくは1~40個の範囲内、さらに好ましくは1~30個の範囲内、より好ましくは1~15個の範囲内の数のヌクレオチドが置換、欠失、挿入、付加又は逆位されたヌクレオチド配列を意味する。
【0022】
本発明において、「少なくとも90%の同一性」としては、好ましくは91%以上、より好ましくは92%以上、さらに好ましくは93%以上、さらにより好ましくは94%以上、特に好ましくは95%以上、特により好ましくは96%以上、特にさらに好ましくは97%以上、特にさらにより好ましくは98%以上、最も好ましくは99%以上(例えば、99.1%以上、99.2%以上、99.3%以上、99.4%以上、99.5%以上、99.6%以上、99.7%以上、99.8%以上、99.9%以上、100%)の同一性である。ヌクレオチド配列の同一性は、カーリン及びアルチュールによるアルゴリズムBLAST(Proc. Natl. Acad. Sci. USA 87:2264-2268, 1990、Proc Natl Acad Sci USA 90: 5873, 1993)に基づくBLASTX又はBLASTPと呼ばれるプログラム(Altschul SF, et al: J Mol Biol 215: 403,1990)に基づくBLASTNと呼ばれるプログラム(Altschul SF, et al: J Mol Biol 215: 403, 1990)を利用して決定することができる。BLASTNを用いてヌクレオチド配列を解析する場合は、パラメーターは、例えば、score=100、word length=12とする。
【0023】
本件増加剤は、液体タイプと非液体タイプとに大別される。液体タイプの本件増加剤は、本件細菌株の培養液から本件細菌株を精製し、これに必要に応じて適当な生理食塩水若しくは補液又は医薬添加物を加えてアンプル又はバイアル瓶などに充填することにより製造することができる。一方、非液体タイプの本件増加剤は、液体タイプの本件増加剤に、適当な凍結保護剤(例えば、グリセロール、ジメチルスルホキシド[DMSO]、トレハロース、デキストラン)を添加してアンプルやバイアル瓶などに充填した後、凍結するか、あるいは、凍結乾燥することにより製造することができる。
【0024】
本件増加剤を接種する方法としては、経口接種する方法であっても、非経口接種する方法(例えば、静脈内投与、局所投与)であってもよいが、後述する本実施例においてその効果が実証されているため、経口接種する方法を好適に例示することができる。
【0025】
本明細書において、添加剤としては、薬学的に許容される通常の担体、結合剤、安定化剤、賦形剤、希釈剤、pH緩衝剤、崩壊剤、等張剤、添加剤、被覆剤、可溶化剤、潤滑剤、滑走剤、溶解補助剤、滑沢剤、風味剤、甘味剤、溶剤、ゲル化剤、栄養剤等の配合成分を例示することができる。かかる配合成分としては、具体的に、水、生理食塩水、動物性脂肪及び油、植物油、乳糖、デンプン、ゼラチン、結晶性セルロース、ガム、タルク、ステアリン酸マグネシウム、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリアルキレングリコール、ポリビニルアルコール、グリセリンを例示することができる。
【0026】
本件増加剤に含まれる本件細菌株の接種量としては、接種する対象(哺乳動物母体)の生物種、年齢、体重、体調等により異なるため、一概に特定できないが、例えば、1日あたり、体重1kg当たり104~1012cfu(Colony Forming Unit)、好ましくは106~1010cfuである。なお、かかる量を1回で接種してもよく、数回に分けて接種してもよい。また、本件増加剤が家畜用飼料組成物の場合、家畜用飼料組成物に含まれる本件細菌株の量は、例えば、家畜用飼料組成物1g当たり104~1012cfu/g、好ましくは106~1010cfuである。
【0027】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例】
【0028】
1.材料及び方法
[細菌株]
理研バイオリソース研究センターの微生物材料開発室から、3種類の細菌株(Parabacteroides goldsteinii[JCM13446]、Bacteroides acidifaciens[JCM10556]、及びPrevotella buccalis[JCM12246])を入手した。これらの細菌を細菌培養ガス濃度調節剤(アネロパック[登録商標])(スギヤマゲン社製)を用いた嫌気性条件下で、GAM液体培地中に一晩培養した後、細菌数をカウントした。
【0029】
[モデル動物]
6種類のマウス(BALB/c[BALB/cCrSlc]マウス;C57BL/6[C57BL/6NCrSlc]マウス;ICR[C.B-17/Icr-+/+Jcl]マウス;重症複合免疫不全症[C.B-17/Icr-scid/scidJcl]を有するICRマウス(すなわち、免疫不全マウス);及びB6N.Cg-Tg[Vil-cre]997Gum/Jマウス)は、日本エスエルシー社、日本クレア社、The Jackson Laboratory、又は三協ラボサービス社から購入し、東北大学大学院農学研究科又は東京大学医科学研究所の動物施設で飼育した。また、B6-Tg(CAG-FLPe)36マウスは、理研バイオリソース研究から分与された。
図2及び
図23~26の実験に用いたPP欠損マウスは、胎生14日目のBALB/cマウスに、1mgの抗IL-7Rα抗体(A7R34)を子宮内投与することにより作製した(文献「Yoshida et al., International Immunology, 11, 643-655. 1999」参照)。また、
図2の実験に用いたILN欠損マウスは、鼠径リンパ節を外科的に除去することにより作製した。また、
図3の実験に用いたマウスは、免疫不全マウスの交配開始時に、以下の[細胞の単離]の項目に記載の方法に従って得られたPP由来単核細胞及びILN由来単核細胞を、野生型(Icr
+/+)マウスへ尾静脈内投与することにより調製した。また、
図5~7の実験に用いたマウスは、交配前から出産14日後までの間、抗生物質(1g/Lのアンピシリン、1g/Lのネオマイシン、500mg/Lのバンコマイシン、又はこれらの混合物)を含む水を、BALB/c母マウスに自由飲水させることにより調製した。また、
図8~10及び16~18の実験に用いたマウスは、交配前から出産7日後までの間、抗生物質混合物を含む水を、BALB/c母マウスに自由飲水させた後、健常BALB/cマウスから採取した糞便(
図8~10及び16~18)や、免疫不全マウスから採取した糞便(
図16~18)を、出産8~14日の間、1日1回、計7回FMTを行うことにより調製した。また、
図12~15の実験に用いたマウスにおいて、骨髄移植(BMT)は、免疫不全マウスにおける交配開始時に、野生型(Icr
+/+)マウスから得た10
6の骨髄単核球を用いて行った。また、
図20~22の実験に用いたマウスは、交配前から出産7日後までの間、抗生物質混合物を含む水を、BALB/c母マウスに自由飲水させた後、約10
10cfuの3種類の細菌株(Parabacteroides goldsteinii、Bacteroides acidifaciens、及びPrevotella buccalis)を含むPBS500μLを経口投与することにより調製した。すべての動物実験は、東北大学及び東京大学の両方の所内動物実験委員会により承認されたプロトコルにしたがって設計された。
【0030】
[SpiB cKOマウスの作製]
Spib遺伝子のエクソン2~5をloxP部位で両側をはさみ、エクソン5及び6の間のイントロンにFrt-flanked neo耐性カセットを挿入するようにターゲティングベクターを設計した。ターゲティングベクター30μgを線状化した後、JM8A1.N3胚性幹細胞(KOMP Repositoryより入手)へ形質転換した。ネオマイシン耐性及びガンシクロビル耐性胚性幹細胞のコロニーを選択した後、以下の表1に示すプライマーセットを用いたPCR法や、以下の表1に示すプローブを用いたサザンブロット解析により、Spib遺伝子ターゲティングされた相同組換え体をスクリーニングした。スクリーニングした相同組換え体をC57BL/6マウスの胚盤胞にマイクロインジェクションし、キメラマウスを作製した。Neo耐性カセットを欠失させてfloxed Spibマウスを得るため、ヘテロ型のF1マウスをB6-Tg(CAG-FLPe)36マウスと交配した。次に、得られたfloxed SpibマウスをB6N.Cg-Tg(Vil-cre)997Gum/Jマウスと交配し、Spibflox/floxマウスを作製した。作製したSpibflox/floxマウスと、腸管上皮細胞特異的にCreリコンビナーゼを発現するマウス(Villin-Creトランスジェニックマウス)とを交配することにより、SpiBコンディショナルノックアウトマウス(すなわち、SpiB cKOマウス)を作製した。
【0031】
【0032】
[細胞の単離]
各種マウスの乳腺、PP、及びILNから単核細胞を単離した。具体的には、乳腺及びPPを、0.5mg/mLのコラゲナーゼで60分間、37℃で消化し、乳腺由来単核細胞及びPP由来単核細胞を単離した。また、ILN由来単核細胞については、ILNを物理的に処理することにより調製した。得られた単核細胞の一部を、チュルク液(Turk's solution)で染色し、細胞数カウントした後、フローサイトメトリーや尾静脈内投与に用いた。
【0033】
[フローサイトメトリー]
各々の組織から単離した単核細胞を、10μg/mLの抗マウスCD16/32(2.4G2)により15分間4℃でブロックし、蛍光物質で標識した5種類の細胞表面マーカー(B220、Ly6C、CD93、I-Ad、及びCD11b)に対する5種類の抗体(2μg/mLのBV421標識抗CD45R[B220]抗体[RA3-6B2、BD Bioscience社製]、2μg/mLのPE標識抗Ly6C抗体[HK1.4、Biolegend社製]、2μg/mLのPE-Cy7標識抗CD93抗体[AA4.1、Biolegend社製]、5μg/mLのAlexa647標識抗I-Ad抗体[39-10-8、Biolegend社製]、及び2μg/mLのBV510標識抗CD11b抗体[M1/70、BD Bioscience社製])の存在下で、30分間4℃で抗原抗体反応処理を行った。なお、アイソタイプ・コントロール抗体として、4種類の抗体(5μg/mLのAlexa647標識マウスIgG3抗体[MG3-35、Biolegend社製]、2μg/mLのBV421標識ラットIgG2a[R35-95、BD Bioscience社製]、2μg/mLのPE-Cy7標識ラットIgG2b[RTK4530、Biolegend社製]、及び2μg/mLのPE標識ラットIgG2c[RTK4174、Biolegend社製])を用いた。また、フローサイトメトリー解析における死細胞を除去するために、10μg/テストの細胞生存溶液(Cell Viability Solution)(BD Bioscience社製)を添加した。また、細胞内におけるIgA抗体を検出するために、各々の組織から単離した単核細胞を、4%(w/v)パラホルムアルデヒド溶液中に20分間室温で固定化処理し、界面活性剤(0.1%[w/v]サポニン)により15分間室温で処理した後、5μg/mLのFITC標識抗IgA抗体(C10-3、BD Bioscience社製)の存在下で、30分間室温で抗原・抗体反応処理を行った。なお、アイソタイプ・コントロール抗体として、2種類の抗体(5μg/mLのFITCラットIgG1[R3-34、BD Bioscience社製]、及び2μg/mLのBV421ラットIgG1[R3-34、BD Bioscience社製])を用いた。Attune NxT Acoustic Focusing Cytometer(Thermo Fisher Science社製)又はAccuri C6 flow cytometer(BD Bioscience社製)を用いてフローサイトメトリーを行った。
【0034】
[ELISA法]
母マウスにおける乳汁中のIgA抗体の濃度を測定するために、乳汁を摂取した仔マウスから採取した胃内容物におけるIgA抗体(以下、「乳汁由来IgA抗体」ということがある)の濃度を、ELISA法を用いて測定した。具体的には、乳汁を摂取した仔マウスの胃内容物を、1mg当たり10μLのPBSに懸濁し、遠心分離により上清(以下、「乳汁由来試料」という)を回収した。次に、96ウェルELISAプレートの各ウェルに、100μg/mLの抗IgA抗体(Bethyl Laboratries社製)を添加し、4℃で一晩インキュベートすることにより固相化処理を行った。1%(w/v)BSAの存在下で、1時間室温でブロッキング処理を行った後、2階段希釈した乳汁由来試料を各ウェルに添加し、2時間室温でインキュベートした。PBSで洗浄後、各ウェルに、100ng/mLのHRP標識IgA抗体(上記固相化した抗IgA抗体とはエピトープが異なる抗IgA抗体)(Bethyl Laboratries社製)を添加し、1時間室温でインキュベートし、TMB(Tetramethylbenzidine)マイクロウェルペルオキシダーゼ基質システム(SeraCare Life Sciences社製)を用いて、HRP由来のシグナルを生成させた。IgA抗体の検量線を、既知の濃度のIgA抗体を含むマウス血清を用いて作成し、かかる検量線を基に、乳汁を摂取した仔マウスの胃内容物中のIgA抗体濃度を測定した。
【0035】
乳汁由来IgA抗体について、(腸内微生物を含む)糞便や、3種類の細菌株(Parabacteroides goldsteinii、Bacteroides acidifaciens、及びPrevotella buccalis)に対する反応性を、ELISA法を用いて解析した。具体的には、100μg/mLの糞便を含むPBSと、10μg/mLの上記3種類の細菌株を含むPBSを、それぞれ、100μm孔のセルストレーナー(Cell Strainer)で濾過し、96ウェルELISAプレートの各ウェルに添加し、4℃で一晩インキュベートすることにより固相化処理を行った。糞便を固相化したプレートについては、1%(w/v)BSA及び1μg/mLの抗IgA抗体の存在下で、1時間室温でブロッキング処理を行い、上記3種類の細菌株を固相化したプレートについては、1%(w/v)BSAの存在下で、1時間室温でブロッキング処理を行った。その後、1:64に希釈した乳汁由来試料、及び希釈していない乳汁由来試料を、各ウェルに添加し、2時間室温でインキュベートした。PBSで洗浄後、100ng/mLのHRP標識IgA抗体(Bethyl Laboratries社製)を添加し、1時間室温でインキュベートし、TMBマイクロウェルペルオキシダーゼ基質システム(SeraCare Life Sciences社製)を用いて、HRP由来のシグナルを生成させた。(腸内微生物を含む)糞便や上記3種類の細菌株に対する乳IgAの力価を、OD450値として算出した。
【0036】
[IgA-Seq]
乳汁中のIgA抗体が結合する腸内細菌種を同定するために、文献「Palmet al., Cell 158, 1000-1010. 2014」に記載のIgA-Seqを一部修正した方法を行った。具体的には、健常BALB/cマウスから採取した糞便を含むPBS(100μg/μL)を、40μm孔のセルストレーナーを用いてデブリを除去することにより、腸内微生物を含む糞便懸濁液を調製した。500μg/mLの抗IgA抗体、20%(v/v)の正常ラット血清、及び1%(w/v)BSAの存在下で、30分間、4℃でブロッキング処理を行った後、乳汁由来試料と1:1の比率で混合し、30分間、4℃でインキュベートした。洗浄後、懸濁液を2μg/mLのPE標識抗IgA抗体(mA-6E1、Invitrogen社製)及び500nMの細胞核染色試薬(SYTO 9)の存在下で30分間、4℃でインキュベートした後、30μL/テストのAnti-PE MicroBeads UltraPure(Miltenyi Biotec社製)の存在下で30分間、4℃でインキュベートした。IgA抗体が結合した細菌を、磁気細胞ソーターAutoMACS(Miltenyi Biotec社製)を用いて回収し、糞便DNA単離キット(Stool DNA Isolation Kit)(チヨダサイエンス社製)を用いて、細菌由来のゲノムDNAを抽出した。かかるゲノムDNAを鋳型とし、以下の[メタゲノム解析]の項目に記載の方法に従って、乳汁中のIgA抗体が結合する腸内細菌種を同定した。
【0037】
[メタゲノム解析]
各種マウスの糞便から、QIAamp DNA Stool Mini Kit(Qiagen社製)を用いて細菌由来のゲノムDNAを抽出し、メタゲノム解析を行った。具体的には、抽出した細菌由来のゲノムDNAを鋳型とし、PrimeSTAR HS DNAポリメラーゼ(タカラバイオ社製)及び以下の表2に示すプライマーを用いたPCR法を行い、各種細菌の16S rRNA遺伝子のV3及びV4領域を増幅した。
【0038】
【表2】
表中の一重下線部分は、アダプタータグ配列を示し、二重下線部分は、スペーサー配列を示す。
【0039】
1回目のPCRで得られたPCR増副産物について、文献「Palmet al., Cell 158, 1000-1010. 2014」に記載のとおり、各々の試料を識別するために、「xxxxxx」で示される6塩基インデックスを含む2回目PCR用フォワードプライマー(5’-CAAGCAGAAGACGGCATACGAGATxxxxxxGTGACTGGAGTTCAGACGTGTGCTCTTCCGATCTGAC-3’)及び2回目PCR用リバースプライマー(5’-AATGATACGGCGACCACCGAGATCTACACTCTTTCCCTACACGACGCTCTTCCGATCTCTG-3’)を用いた2回目のPCRを行った。得られたPCR増幅産物を、MiSeqプラットフォーム及びMiSeq試薬キットv. 2(Illumina社製)を用いてシークエンシングを行った。得られたデータを、BaseSpace(Illumina社製)を用いて解析し、細菌種を同定した。
【0040】
[定量PCR]
上記[IgA-Seq]や[メタゲノム解析]の項目に記載の方法に従って抽出した細菌由来のゲノムDNAを鋳型とし、TB Green Premix Ex Taq II(タカラバイオ社製)を用いた定量PCRを行い、細菌特異的tuf遺伝子のコピー数を定量した。プライマーはすべて、Perfect Real-timeサポートシステム(タカラバイオ社製)により設計した。
【0041】
[組織染色]
BMTを行ったマウスから定法に従って小腸組織を単離し、4%(w/v)パラホルムアルデヒド液中に固定した後、パラフィンに包埋した。組織切片(5μm)をTNB溶液中で、室温で30分間ブロッキング処理した後、PE標識抗CD45R(B220)抗体(RA3-6B2)と、マウスCD3と交差反応する抗ヒトCD3(SP2)抗体の存在下で、一晩4℃で抗原抗体反応処理を行った。洗浄後、組織切片を、HRP標識IgG抗体の存在下で、1時間室温でインキュベートし、10分間室温でTSA Plus fluorescein System(PerkinElmer社製)を用いて、CD3由来のシグナルを増幅した。また、1μg/mLのDAPIを用いて細胞核を染色した。また、組織病理学的分析のため、組織切片を、ヘマトキシリン・エオシン染色し、BZ-9000(Keyence社製)又はBX63(Olympus社製)のいずれかで画像を取得した。
【0042】
2.結果
[IgA抗体産生形質細胞における細胞表面マーカーの発現解析]
乳腺においてIgAが産生されるためには、IgA抗体産生形質細胞が、乳腺へ遊走することが不可欠であることが報告されている(文献「Halsey et al., Ann N Y Acad Sci 409, 452-460. 1983」及び「Niimi et al., Mucosal Immunol 11, 643-653. 2018」参照)。そこで、母マウスの乳腺におけるIgA産生形質細胞を同定するために、6種類の形質細胞関連マーカー(IgA抗体、及び5種類の細胞表面マーカー[B220、Ly6C、I-Ad、CD11b、及びCD93])を用いたフローサイトメトリーを行った。その結果、IgA抗体を高レベルで産生する形質細胞は、3種類の細胞表面マーカー(Ly6C、I-Ad、及びCD93)が陽性でかつ、2種類の細胞表面マーカー(B220及びCD11b)が陰性であることが示された(
図1参照)。このため、以降の実験においては、B220陰性でかつIgA陽性の形質細胞をIgA産生形質細胞の指標とした。
【0043】
[パイエル板は、乳腺における母体IgA抗体産生に主要な役割を果たす]
鼠径リンパ節(ILN)は、乳腺の所属リンパ節(draining lymph node)としての役割を果たしていることが知られている(文献「Leonhardt,Gene 94, 121-124. 1990」参照)また、パイエル板(PP)は、特にIgA抗体が最も豊富に産生される胃腸管で、粘膜免疫系において極めて重要な役割を果たしていることが知られている(文献「Lindner et al., Nat Immunol 16, 880-888. 2015」及び「Moro-Sibilot et al., Gastroenterology 151, 311-323. 2016」参照)。そこで、2種類のモデル母マウス(ILN欠損マウス及びPP欠損マウス)を用いて、乳腺中の母体IgA抗体産生に与える影響を解析した。その結果、ILN欠損マウスの乳腺におけるIgA産生形質細胞の割合及び数は、非欠損マウスの乳腺におけるIgA産生形質細胞の割合及び数と比べ、ほとんど変わらなかったのに対して、PP欠損マウスの乳腺におけるIgA産生形質細胞の割合及び数値は、非欠損マウスの乳腺におけるIgA産生形質細胞の割合及び数値と比べ、有意に低いことが示された(
図2A及びB参照)。また、ILN欠損マウスにおける乳汁由来IgA抗体の濃度は、非欠損マウスにおける乳汁由来IgA抗体の濃度とほとんど変わらなかったのに対して、PP欠損マウスにおける乳汁由来IgA抗体の濃度は、非欠損マウスにおける乳汁由来IgA抗体の濃度と比べ、有意に低いことが示された(
図2C参照)。
【0044】
さらに、T細胞やB細胞が欠損した免疫不全(C.B-17/Icr-scid/scidJcl)母マウスに、野生型(Icr
+/+)マウスのILN由来単核細胞を移入しても、未移入の免疫不全母マウスと比べ、乳腺におけるIgA産生形質細胞の割合及び数や、乳汁由来IgA抗体濃度はほとんど変わらなかったのに対して、免疫不全母マウスに、野生型マウスのPP由来単核細胞を移入すると、未移入の免疫不全母マウスと比べ、乳腺におけるIgA産生形質細胞の割合及び数値や、乳汁由来IgA抗体濃度は有意に高いことが示された(
図3参照)。
【0045】
これらの結果は、IgA産生形質細胞が乳腺に遊走するためには、(ILNではなく)PPが必須であることを示している。
【0046】
[乳腺における母体IgA抗体産生には、PPにおけるM細胞による抗原取込みが必要である]
Spibは、濾胞関連上皮(follicle-associated epithelium:FAE)を含む腸管上皮において、FAE中に存在する抗原を取り込むM細胞から、IgA抗体を産生する成熟B細胞への分化に関与する転写因子であることが知られている(文献「Kanayaet al., Nat Immunol 13, 729-736. 2012」及び「Satoet al., Mucosal Immunol 6, 838-846. 2013」参照)。一方、Spib遺伝子のコンディショナルノックアウトモデルマウス(すなわち、SpiB cKOマウス)は、パイエル板(PP)におけるM細胞を欠損したマウスである。そこで、Spibと、乳腺におけるIgA産生との関連性を、SpiB cKOマウスを用いて解析した。その結果、SpiB cKOマウスの乳腺におけるIgA産生形質細胞の割合及び数値は、Spib
flox/floxマウス(すなわち、SpiB遺伝子が欠損していないマウス)の乳腺におけるIgA産生形質細胞の割合及び数値と比べ、有意に低いことが示された(
図4A及びB参照)。また、SpiB cKOマウスにおける乳汁由来IgA抗体の濃度は、Spib
flox/floxマウスにおける乳汁由来IgA抗体の濃度と比べ、有意に低いことが示された(
図4C参照)。
【0047】
この結果は、Spibが乳腺におけるIgA産生に関与していることを示している。また、
図2及び3の結果も合わせて考慮すると、M細胞により取り込まれた腸管内の抗原が、PPにおける免疫機能が活性化されることにより、IgA産生形質細胞数が増加し、増加したIgA産生形質細胞が乳腺へ遊走した結果、乳汁中のIgA抗体含有量が増加したことを示している。
【0048】
[腸内微生物は乳汁中のIgA抗体産生を促進する]
腸内細菌叢が、PPを含む胃腸管における宿主の免疫細胞とともに、ホメオスタシスを確立していることを考慮し、様々な種類の抗生物質、具体的には、アンピシリン、ネオマイシン、若しくはバンコマイシン、又はこれらの混合物を、妊娠期間~授乳期間中のBALB/c母マウスに投与することにより腸内細菌叢を乱し、母体IgA抗体産生に与える影響を調べた。初めに、各種抗生物質処理が腸内細菌叢に与える影響を調べるために、メタゲノム解析を行った。その結果、腸内細菌の総数は、各種抗生物質処理と未処理の間でほとんど変化は認められなかったものの(
図5A参照)、腸内細菌叢の構成は、両者間で大幅に変動し(
図5B及び5C参照)、特に、4種類の細菌株(Parabacteroides goldsteinii、Bacteroides acidifaciens、Prevotella buccalis、及びEscherichia albertii)の腸内細菌叢に対する割合が、大きく変動した(
図6参照)。具体的には、バンコマイシンや、3種類の抗生物質(アンピシリン、ネオマイシン、及びバンコマイシン)からなる混合物を母マウスに自由飲水により投与すると、抗生物質未投与の母マウスと比べ、腸内細菌叢に占める3種類の細菌株(Parabacteroides goldsteinii[
図6A]、Bacteroides acidifaciens[
図6B]、及びPrevotella buccalis[
図6C])の割合は、大幅に低下したのに対して、1種類の細菌株(Escherichia albertii[
図6D])の割合は高かった。また、バンコマイシンや、上記3種類の抗生物質からなる混合物を母マウスに自由飲水により投与すると、抗生物質未投与の母マウスと比べ、母マウスの乳腺におけるIgA産生形質細胞の割合や数値が有意に低くなるとともに(
図7A及びB参照)、乳汁由来IgA抗体の濃度も有意に低いことが示された(
図7C参照)。
【0049】
これらの結果は、哺乳動物母体の腸内細菌叢に含まれる3種類の細菌株(Parabacteroides goldsteinii、Bacteroides acidifaciens、及びPrevotella buccalis)のいずれかが、乳腺におけるIgA抗体産生に関与していること示している。
【0050】
腸内細菌叢における上記3種類の細菌株と、乳腺におけるIgA抗体産生との関連性をより詳細に検証するために、上記3種類の抗生物質からなる混合物を母マウスに投与し、腸内細菌叢を乱した後、(上記3種類の細菌株が共生する)健常BALB/cマウスから採取した糞便を用いたFMTを行った。その結果、FMTを行った母マウスにおける腸内細菌の総数は、FMTを行わなかった母マウスと比べ、わずかな増加が認められたものの(
図8A参照)、腸内細菌叢を構成する細菌の割合は、両者間で大幅に変動し(
図8B及び8C参照)、腸内細菌叢に占める4種類の細菌株(Parabacteroides goldsteinii、Bacteroides acidifaciens、Prevotella buccalis、及びEscherichia albertii)、特に、2種類の細菌株(Bacteroides acidifaciens、及びPrevotella buccalis)の割合は、FMTを行わなかった母マウスと比べ、FMTを行った母マウスの方が有意に高いことが示された(
図9参照)。また、FMTを行った母マウスにおいて、乳腺におけるIgA産生形質細胞の割合や数値は、FMTを行わなかった母マウスと比べ、有意に高くなるとともに(
図10A及びB参照)、乳汁由来IgA抗体濃度も有意に高いことが示された(
図10C参照)。
【0051】
乳汁中のIgA抗体産生と、腸内細菌叢との関連性を解析するため、腸内細菌叢が存在しないGF(Germ free)マウスと、生理的な腸内細菌叢が存在するSPF(special pathogen-free)マウスについて、乳汁由来IgA抗体濃度を解析した。
【0052】
SPF施設又は無菌施設のいずれかにおいて維持されていた授乳中のマウスから乳試料を採取した。GFマウスの乳汁由来IgA抗体濃度は、SPFマウスの乳汁由来IgA抗体濃度と比べ、有意に低く、むしろ、抗体のすべてのサブクラスを欠如する免疫不全マウスの乳汁由来IgA抗体濃度に近いことが示された(
図11A参照)。また、SPFマウスの乳汁由来IgA抗体は、SPFマウスの糞便中に含まれる微生物に対しては、反応性を示したものの、免疫不全マウスの糞便中に含まれる微生物に対しては、ほとんど反応性を示さなかった(
図11B参照)。なお、コントロールとして使用した微生物を含まないGFマウスの糞便に対するSPFマウスの乳汁由来IgA抗体の反応は認められなかった。これら結果から、宿主の免疫細胞、特にリンパ球が、乳汁中のIgA抗体産生に関与する腸内微生物環境を作り出している可能性を考え、免疫不全マウスを用いて解析を行った。
【0053】
免疫不全マウスにおいて、パイエル板はほとんど観察されなかったのに対して、野生型マウスの骨髄由来単核球を、免疫不全マウスへ移植(BMT)すると、十分なB細胞及びT細胞を含むPP様リンパ構造が認められた(
図12参照)。
【0054】
この結果は、PPの器官形成は、出生前に始まっていることが報告されているものの(文献「Honda et al., J Exp Med 193, 621-630. 2001」参照)、出生後に、野生型マウスの骨髄由来単核球を免疫不全マウスへ移植することにより、免疫系が再構築された結果、PP様の腸管リンパ組織が形成されたことを示している。
【0055】
また、免疫不全マウスにおける腸内細菌の総数は、野生型マウスの骨髄由来単核球を移植した場合と、移植しなかった場合とでほとんど変わらなかったものの(
図13A参照)、腸内細菌叢の構成は、野生型マウスの骨髄由来単核球を移植することにより大幅に変動した(
図13B及び13C参照)。また、野生型マウスの乳汁由来IgA抗体は、野生型マウスの糞便中に含まれる微生物のみならず、野生型マウスの骨髄由来単核球を移植した免疫不全マウスの糞便中に含まれる微生物に対しても反応性を示した(
図14A参照)。一方、IgA抗体を含まない免疫不全マウスの乳汁が有する野生型マウスの糞便中に含まれる微生物に対する反応性や、野生型マウスの骨髄由来単核球を移植した免疫不全マウスの糞便中に含まれる微生物に対する反応性はバックグラウンドレベルであった(
図14B参照)。さらに、免疫不全マウスの腸内細菌叢に占める2種類の細菌株(Bacteroides acidifaciens及びPrevotella buccalis)の割合は、野生型マウスの骨髄由来単核球を移植することにより、有意に増加した(
図15参照)。
【0056】
これらの結果は、2種類の細菌株(Bacteroides acidifaciens及びPrevotella buccalis)が、授乳期の母マウスの腸内に定着し、乳汁中のIgA抗体含有量が増加するためには、授乳期の母マウスの免疫システムが必要であることを示している。
【0057】
さらに、上記3種類の抗生物質からなる混合物を母マウスに投与し、上記3種類の細菌株が共生する健常マウスから採取した糞便や、共生しない免疫不全マウスから採取した糞便を用いたFMTを行った。その結果、腸内細菌の総数は、健常マウスから採取した糞便を用いたFMTを行った場合と、免疫不全マウスから採取した糞便を用いたFMTを行った場合との間でほとんど変化は認められなかったものの(
図16A参照)、腸内細菌叢の構成は、両者間で変動し(
図16B及び16C参照)、特に、腸内細菌叢に占める2種類の細菌株(Bacteroides acidifaciens、及びPrevotella buccalis)の割合は、免疫不全マウスの糞便を用いてFMTを行った場合と比べ、野生型マウスの糞便を用いてFMTを行った場合の方が、有意に高いことが示された(
図17参照)。また、乳腺におけるIgA産生形質細胞の割合及び数値や、乳汁由来IgA抗体濃度は、免疫不全マウスの糞便を用いてFMTを行った場合と比べ、野生型マウスの糞便を用いてFMTを行った場合の方が、有意に高かった(
図18参照)。
【0058】
これらの結果は、哺乳動物母体の免疫系が、2種類の細菌株(Bacteroides acidifaciens及びPrevotella buccalis)による腸内環境を整え、乳腺におけるIgA抗体を産生させることを示している。
【0059】
Bacteroides acidifaciensは、配列番号1のヌクレオチド配列からなる16S rRNA遺伝子を有するバクテロイデス属細菌株である。また、Prevotella buccalisは、配列番号2のヌクレオチド配列からなる16S rRNA遺伝子を有するプレボテラ属細菌株である。
【0060】
[乳汁中のIgA抗体の特異性は腸内微生物環境に依存する]
次に、2種類の細菌株(Bacteroides acidifaciens及びPrevotella buccalis)に対する乳汁中のIgA抗体の特異性を解析するために、健常BALB/cマウスから採取した糞便と、BALB/c母マウスの乳汁を摂取した仔マウスの胃内容物とを用いて、IgA-Seqを行った。その結果、上記2種類の細菌株は、乳汁中のIgA抗体に結合しないものの割合よりも、乳汁中のIgA抗体に結合するものの割合の方が多いことが示された(
図19参照)。
【0061】
この結果は、上記2種類の細菌株(Bacteroides acidifaciens及びPrevotella buccalis)は、乳腺における母体IgA抗体全体の産生を促進するだけでなく、PPにおける免疫細胞を刺激し、これら細菌株に対するIgA抗体の産生も促進する作用を有することを示している。
【0062】
[B. acidifaciens及びP. buccalisの経口接種により、乳汁中のIgA抗体産生が増加する]
抗生物質混合物を投与したBALB/c母マウスに、上記2種類の細菌株(Bacteroides acidifaciens及びPrevotella buccalis)を接種し、乳汁中のIgA抗体産生が増加するかどうか検証した。なお、コントロールとしてParabacteroides goldsteiniiを用いた。その結果、これら細菌株の接種を行った場合、細菌株未接種の場合と比べ、腸内細菌の総数はほとんど変わらず(
図20A参照)、腸内細菌叢の構成に変動が認められたものの(
図20B及び20C参照)、2種類の細菌株(Bacteroides acidifaciens及びPrevotella buccalis)の接種を行った場合、細菌株未接種の場合と比べ、乳腺におけるIgA産生形質細胞の割合及び数や、乳汁由来IgA抗体濃度は、有意に増加した(
図21参照)。一方、コントロールのParabacteroides goldsteiniiの接種を行った場合、細菌株未接種の場合と比べ、乳腺におけるIgA産生形質細胞の割合及び数や、乳汁由来IgA抗体濃度は、ほとんど変わらなかった(
図21参照)。また、2種類の細菌株(Bacteroides acidifaciens及びPrevotella buccalis)の接種を行った場合、これら細菌株特異的な乳汁由来IgA抗体量が有意に増加することが示された(
図22参照)。
【0063】
これらの結果は、腸内細菌叢が乱され、乳腺におけるIgA抗体産生量が低下した状態の哺乳動物母体に、2種類の細菌株(Bacteroides acidifaciens及びPrevotella buccalis)を接種すると、PPにおける免疫機能が活性化され、乳腺におけるIgA抗体産生量が増加することを示している。
【0064】
[B. acidifaciens及びP. buccalisの経口接種による、乳汁中のIgA抗体産生の増加には、PPが必須である]
腸内細菌叢が乱され、乳腺におけるIgA抗体産生量が低下した状態の哺乳動物母体に、2種類の細菌株(Bacteroides acidifaciens及びPrevotella buccalis)を接種したときに認められた、乳腺におけるIgA抗体産生量の増加には、PPが必須かどうかを、PP欠損マウスを用いて検証した。なお、コントロールとしてParabacteroides goldsteiniiを用いた。その結果、これら細菌株の接種により、PP非欠損マウス(BALB/c母マウス)及びPP欠損マウスのそれぞれに、上記2種類の細菌株(Bacteroides acidifaciens及びPrevotella buccalis)を接種すると、両者ともに、腸内細菌の総数はほとんど変わらなかったものの(
図23A参照)、B. acidifaciensを接種した場合、両マウスともに、腸内細菌叢に占めるB. acidifaciensの割合が有意に増加した(
図23B及びC、並びに
図24参照)。また、PP非欠損マウスに、上記2種類の細菌株を接種すると、細菌株未接種の場合と比べ、乳腺におけるIgA産生形質細胞の割合及び数や、乳汁由来IgA抗体濃度は、有意に増加したのに対して、PP欠損マウスに、上記2種類の細菌株を接種しても、乳腺におけるIgA産生形質細胞の割合及び数の増加や、乳汁由来IgA抗体濃度の増加は認められず、PP非欠損マウスに、コントロールのParabacteroides goldsteiniiを接種した場合と同レベルであった(
図25参照)。また、PP非欠損マウスに、上記2種類の細菌株を接種すると、これら細菌株特異的な乳汁由来IgA抗体量が有意に増加したのに対して、PP欠損マウスに、上記2種類の細菌株を接種しても、これら細菌株特異的な乳汁由来IgA抗体量の増加は認められなかった(
図26参照)。
【0065】
これらの結果は、腸内細菌叢が乱され、乳腺におけるIgA抗体産生量が低下した状態の哺乳動物母体に、2種類の細菌株(Bacteroides acidifaciens及びPrevotella buccalis)を接種したときに認められた、乳腺におけるIgA抗体産生量の増加には、PP(具体的には、PPにおける免疫機能の活性化)が必須であることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本発明は、畜産業の生産性向上や、乳児の病原性細菌感染やウイルス感染の予防に資するものである。
【配列表】