(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-28
(45)【発行日】2024-01-12
(54)【発明の名称】標的タンパク質に作用するポリペプチドのスクリーニング方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/02 20060101AFI20240104BHJP
C40B 40/06 20060101ALI20240104BHJP
C40B 40/08 20060101ALI20240104BHJP
C12N 15/70 20060101ALI20240104BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240104BHJP
C12P 21/00 20060101ALI20240104BHJP
G01N 33/15 20060101ALI20240104BHJP
C07K 14/435 20060101ALI20240104BHJP
【FI】
C12Q1/02
C40B40/06 ZNA
C40B40/08
C12N15/70 Z
C12N1/21
C12P21/00 C
G01N33/15 Z
C07K14/435
(21)【出願番号】P 2022541588
(86)(22)【出願日】2021-08-04
(86)【国際出願番号】 JP2021028940
(87)【国際公開番号】W WO2022030539
(87)【国際公開日】2022-02-10
【審査請求日】2022-11-25
(31)【優先権主張番号】P 2020132823
(32)【優先日】2020-08-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業 大学発新産業創出プログラム「タランチュラ毒由来のペプチドライブラリーと新規ペプチドディスプレイ技術を用いたイオンチャネル作用薬の創製技術」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】230104019
【氏名又は名称】大野 聖二
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【氏名又は名称】森田 裕
(72)【発明者】
【氏名】木村 忠史
【審査官】吉門 沙央里
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-207905(JP,A)
【文献】特開2008-11(JP,A)
【文献】KIKUCHI, Kyoko et al.,The application of the Escherichia coli giant spheroplast for drug screening with automated planar p,Biotechnology Reports,2015年,7,17-23
【文献】FERNANDEZ-RECIO, Juan et al.,Optimal Docking Area: A New Method for Predicting Protein-Protein Interaction Sites,PROTEINS,2005年,58,134-143
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00-3/00
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的タンパク質に対する作用するポリペプチドをスクリーニングする方法であって、
(1)グラム陰性細菌で発現可能な複数の発現ベクターから構成されるポリヌクレオチドライブラリーを提供する工程であって、
前記複数の発現ベクターは、それぞれ、互いに異なるポリペプチドをコードする第1のポリヌクレオチド、第1のポリヌクレオチドの上流に配置された分泌シグナル配列、及び、標的タンパク質をコードする第2のポリヌクレオチドを含む、工程;
(2)前記発現ベクターでグラム陰性細菌を形質転換し、前記ポリペプチドをペリプラズム間隙内に、前記標的タンパク質を内膜表面に、それぞれ発現させる工程;
(3)ペリプラズム間隙内において、前記ポリペプチドを前記標的タンパク質と接触させる工程;
(4)グラム陰性細菌にスフェロプラストを形成させ、パッチクランプ法により標的タンパク質に対する前記ポリペプチドの活性を測定する工程;
(5)測定された活性に基づいて、標的タンパク質に作用するポリペプチドを同定する工程;
を含み、前記標的タンパク質が膜タンパク質である、方法。
【請求項2】
グラム陰性細菌が大腸菌である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
工程(1)のポリヌクレオチドライブラリーが下記の工程によって作製される、請求項1又は2に記載の方法:
(a)既知の膜タンパク質のリガンドについて、前記リガンドの立体構造にODA法を適用して他のタンパク質と相互作用する可能性が高い部位を予測する工程;
(b)前記リガンドのアミノ酸配列において、予測された部位をランダム化した複数のポリペプチドをそれぞれコードする複数のポリヌクレオチドを作製する工程;
(c)前記複数のポリヌクレオチドを含む、ライブラリーを作製する工程。
【請求項4】
膜タンパク質が膜受容体、イオンチャネル、又はトランスポーターである、請求項1~3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
工程(1)のポリヌクレオチドライブラリーが、下記のアミノ酸配列を有する互いに異なるポリペプチドをコードする複数のポリヌクレオチドを含む、ライブラリーである、請求項1~4のいずれか1項に記載の方法。
DCLGXXRKCIPDNDKCCRPXLVCSRTHKXCXXXX(配列番号1)
【請求項6】
ポリヌクレオチドライブラリーを、あらかじめ標的タンパク質に結合するポリペプチドをコードする第1のポリヌクレオチドについて濃縮する工程を含む、請求項1~5のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
標的タンパク質に作用するポリペプチドの製造方法であって、
請求項1~6のいずれか1項に記載の方法により、標的タンパク質に作用するポリペプチドを同定し、同定したポリペプチドを、遺伝子組換え、又は化学合成により製造する工程を含む、製造方法。
【請求項8】
ライブラリーの作製方法であって、
(1)既知の膜タンパク質のリガンドについて、前記リガンドの立体構造にODA法を適用して他のタンパク質と相互作用する可能性が高い部位を予測する工程;
(2)前記リガンドのアミノ酸配列において、予測された部位をランダム化した複数のポリペプチドを作製するか、又は前記ポリペプチドをそれぞれコードする複数のポリヌクレオチドを作製する工程;
(3)前記複数のポリペプチド、又は前記複数のポリヌクレオチドを含む、ライブラリーを作製する工程;
を含む、ライブラリーの作製方法。
【請求項9】
リガンドがICKポリペプチドである、請求項8に記載の作製方法。
【請求項10】
膜タンパク質が膜受容体、イオンチャネル、又はトランスポーターである、請求項8又は9に記載の作製方法。
【請求項11】
膜タンパク質に対する作用するポリペプチドをスクリーニングする方法であって、
(1)大腸菌で発現可能な複数の発現ベクターから構成されるポリヌクレオチドライブラリーを提供する工程であって、
前記複数の発現ベクターは、それぞれ、互いに異なるポリペプチドをコードする第1のポリヌクレオチド、第1のポリヌクレオチドの上流に配置された分泌シグナル配列、及び、膜タンパク質をコードする第2のポリヌクレオチドを含む、工程;
(2)前記発現ベクターで大腸菌を形質転換し、前記ポリペプチドをペリプラズム間隙内に、前記膜タンパク質を内膜表面に、それぞれ発現させる工程;
(3)ペリプラズム間隙内において、前記ポリペプチドを前記標的タンパク質と接触させる工程;
(4)大腸菌にスフェロプラストを形成させ、パッチクランプ法により膜タンパク質に対する前記ポリペプチドの活性を測定する工程;
(5)測定された活性に基づいて、膜タンパク質に作用するポリペプチドを同定する工程;
を含み、
工程(1)のライブラリーが、下記の工程によって作製される、方法:
(a)ICKポリペプチドの立体構造にODA法を適用して他のタンパク質と相互作用する可能性が高い部位を予測する工程;
(b)前記ICKポリペプチドのアミノ酸配列において、予測された部位をランダム化した複数のポリペプチドをそれぞれコードする複数のポリヌクレオチドを作製する工程;
(c)前記複数のポリヌクレオチドを含む、ライブラリーを作製する工程。
【請求項12】
下記のアミノ酸配列を有する互いに異なるポリペプチド、又は前記ポリペプチドをコードする複数のポリヌクレオチドを含む、ライブラリー。
DCLGXXRKCIPDNDKCCRPXLVCSRTHKXCXXXX(配列番号1)
【請求項13】
前記複数のポリヌクレオチドが、それぞれグラム陰性菌で発現可能な発現ベクターに挿入されている、請求項12に記載のライブラリー。
【請求項14】
前記発現ベクターが、前記ポリヌクレオチド、その上流に配置された分泌シグナル配列、及び、標的タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む、請求項13に記載のライブラリー。
【請求項15】
配列番号4~9のいずれかに示されるアミノ酸配列を有するポリペプチド。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
本出願は、日本特許出願2020-132823号(2020年8月5日出願)に基づく優先権を主張しており、この内容は本明細書に参照として取り込まれる。
技術分野
本発明は、標的タンパク質に作用するポリペプチドをスクリーニングする方法、前記方法のためのライブラリー、前記ライブラリーの新規な作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
毒蜘蛛などの毒液に含まれるICKペプチドは、3つのジスルフィド結合を持つポリペプチドである。ICKペプチドは消化酵素で分解されず、ラットへの静脈内投与により数時間にわたり血中に検出することができる(非特許文献1)。
【0003】
ICKペプチドはイオンチャネルに作用しその毒性を発揮することが知られている。発明者はイオンチャネルに作用するICKペプチドをクローニングし、その特性を解析している(非特許文献2及び3)。ICKペプチドをライブラリー化すれば、イオンチャネルに焦点を当てたペプチドライブラリーが構築でき、様々なイオンチャネルに作用するペプチドの創製が可能になる。
【0004】
イオンチャネルは様々な疾患に関わっていることが知られている(非特許文献2)が、イオンチャネルが開閉する刺激は主に膜電位の変化や温度変化、機械的刺激などであるため、化合物ライブラリーにおけるヒット化合物を合成展開する方法は取れず、イオンチャネル創薬を推進することは一般に困難を伴う。
【0005】
発明者は、大腸菌の内膜とペリプラズム空間を利用し、イオンチャネルや受容体に作用するペプチドを探索する技術として、PERISS(intra Periplasm Secretion and Selection)法を考案し、研究開発を進めている(特許文献1)。この方法では、大腸菌のペリプラズム空間にイオンチャネル焦点化ペプチドライブラリーを発現させ、内膜に発現させた標的分子とペリプラズム空間で相互作用させることにより、候補ペプチドを探索する。
【0006】
PERISS法を用いてイオンチャネル創薬を推進するためには、大腸菌内膜にイオンチャネルが活性のある状態で発現されていることの確認が必要である。ウエスタンブロットなどの従来技術では、イオンチャネルの発現は確認できるが、正しい立体構造で活性のある状態で発現しているかどうかは評価できない。そこで、発明者らは大腸菌内膜に強制発現させたイオンチャネルの活性をパッチクランプ法で電気生理学的に測定する技術開発に成功している(非特許文献4)。
【0007】
大腸菌ペリプラズムに分子を提示する方法としてAnchored periplasmic expression法が知られている(特許文献2、非特許文献5)。この技術では(1)大腸菌ペリプラズムに標的分子を発現させる、(2)大腸菌外膜に微小な穴を開ける、(3)培養液中に蛍光ラベルしたリガンドライブラリーを添加する、(4)標的分子と結合したリガンドをその蛍光を指標にセルソーターで回収する、という工程を経て標的分子と結合するリガンドを同定する。大腸菌ペリプラズムを反応場として利用する点はPERISS法と共通しているが、その他の点では異なった技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2014-207905
【文献】WO2005/019409(特表2006-515514)
【非特許文献】
【0009】
【文献】Kikuchi et al., “High Proteolytic Resistance of Spider-Derived Inhibitor Cystine Knots” International Journal of Peptides (2015) Vol.2015, Article ID 537508
【文献】Kimura et al., “Molecular Cloning and Sequence Analysis of the cDNAs Encoding Toxin-Like Peptides from the Venom Glands of Tarantula Grammostola rosea” International Journal of Peptides” (2012) Vol.2012, Article ID 731293
【文献】Ono et al., “Characterization of voltage-dependent calcium channel blocking peptides from the venom of the tarantula Grammostola rosea” (2011) Toxicon 58 265-276.
【文献】Kikuchi et al., “The application of the Escherichia coli giant spheroplast for drug screening with automated planar patch clamp system” (2015) Biotechnology Reports 7, p17-23
【文献】Harvey et al., “Anchored periplasmic expression, a versatile technology for the isolation of high-affinity antibodies from Escherichia coli-expressed libraries” (2004) Proc Natl Acad Sci Vol.101, No.25, p9193-9198.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来のPERISS法では磁気ビーズで標的分子に結合するペプチドを選択し、ライブラリー部分を次世代シーケンサー等で解析する。得られたペプチドがどのような活性を持つかは、DNA配列決定後、コードされているペプチドを生産し、その活性を評価しなければならない。しかし、ICKペプチドのように分子内に複数のジスルフィド結合を持つペプチドの場合、その化学的合成は時間とコストを要し、また大腸菌による組換え生産も困難を伴う。
【0011】
本発明の課題は、PERISS法で得られた候補ペプチドの活性を簡便に評価し、より効率的に目的ペプチドを探索する方法やそのためのツールを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、発明者らは鋭意検討し、PERISS法において、大腸菌内膜に発現させた標的タンパク質と、ペリプラズム間隙内に発現させたペプチドとの相互作用を、パッチクランプ法により電気生理学的に測定することで、当該ペプチドの標的タンパク質に対する作用を決定できることを見出した。
【0013】
また、既知の膜タンパク質のリガンドの立体構造に、ODA法を適用することで、他のタンパク質と相互作用する可能性が高い部位を予測し、当該部位の配列をランダム化することで、さまざまな標的タンパク質に作用(あるいは相互作用)するポリペプチドを探索するためのライブラリーが作製できることを見出した。
【0014】
本発明は、上記の知見に基づくものであり、以下の[1]~[15]を提供する。
[1]標的タンパク質に対する作用するポリペプチドをスクリーニングする方法であって、
(1)グラム陰性細菌で発現可能な複数の発現ベクターから構成されるポリヌクレオチドライブラリーを提供する工程であって、
前記複数の発現ベクターは、それぞれ、互いに異なるポリペプチドをコードする第1のポリヌクレオチド、第1のポリヌクレオチドの上流に配置された分泌シグナル配列、及び、標的タンパク質をコードする第2のポリヌクレオチドを含む、工程;
(2)前記発現ベクターでグラム陰性細菌を形質転換し、前記ポリペプチドをペリプラズム間隙内に、前記標的タンパク質を内膜表面に、それぞれ発現させる工程;
(3)ペリプラズム間隙内において、前記ポリペプチドを前記標的タンパク質と接触させる工程;
(4)グラム陰性細菌にスフェロプラストを形成させ、電気生理学的手法により標的タンパク質に対する前記ポリペプチドの活性を測定する工程;
(5)測定された活性に基づいて、標的タンパク質に作用するポリペプチドを同定する工程;
を含む、方法。
[2]グラム陰性細菌が大腸菌である、[1]に記載の方法。
[3]標的タンパク質が膜タンパク質である、[1]又は[2]に記載の方法。
[4]膜タンパク質が膜受容体、イオンチャネル、又はトランスポーターである、[3]に記載の方法。
[5]電気生理学的手法がパッチクランプ法である、[1]~[4]のいずれかに記載の方法。
[6]ポリヌクレオチドライブラリーが、あらかじめ標的タンパク質に結合するポリペプチドをコードする第1のポリヌクレオチドについて濃縮する工程、好ましくは5ラウンド以上の濃縮工程を含む、[1]~[5]のいずれかに記載の方法。
[7]標的タンパク質に作用するポリペプチドの製造方法であって、
[1]~[6]のいずれかに記載の方法により、標的タンパク質に作用するポリペプチドを同定し、同定したポリペプチドを、遺伝子組換え、又は化学合成により製造する工程を含む、製造方法。
[8]ライブラリーの作製方法であって、
(1)既知の膜タンパク質のリガンドについて、前記リガンドの立体構造にODA法を適用して他のタンパク質と相互作用する可能性が高い部位を予測する工程;
(2)前記リガンドのアミノ酸配列において、予測された部位をランダム化した複数のポリペプチドを作製するか、又は前記ポリペプチドをそれぞれコードする複数のポリヌクレオチドを作製する工程;
(3)前記複数のポリペプチド、又は前記複数のポリヌクレオチドを含む、ライブラリーを作製する工程;
を含む、ライブラリーの作製方法。
[9]リガンドがICKポリペプチド、例えばGTx1-15である、[8]に記載の作製方法。
[10]膜タンパク質が膜受容体、イオンチャネル、又はトランスポーターである、[8]又は[9]に記載の作製方法。
[11]ポリヌクレオチドライブラリーが、[8]~[10]のいずれかに記載の方法で作製される、[1]~[7]のいずれかに記載の方法。
[12]下記のアミノ酸配列を有する互いに異なるポリペプチド、又は前記ポリペプチドをコードする複数のポリヌクレオチドを含む、ライブラリー。
DCLGXXRKCIPDNDKCCRPXLVCSRTHKXCXXXX(配列番号1)
[13]前記複数のポリヌクレオチドが、それぞれグラム陰性菌で発現可能な発現ベクターに挿入されている、[12]に記載のライブラリー。
[14]前記発現ベクターが、前記ポリヌクレオチド、その上流に配置された分泌シグナル配列、及び、標的タンパク質をコードするポリヌクレオチドを含む、[13]に記載のライブラリー。
[15]配列番号4~9のいずれかに示されるアミノ酸配列を有するポリペプチド。
【発明の効果】
【0015】
本発明の方法によれば、標的タンパク質に対するポリペプチドの結合と、阻害活性等の相互作用の有無の判定を一連の工程で行うことができる。選択されたポリペプチドのアミノ酸配列は、当該ポリペプチドを発現する細胞から、プラスミド(発現ベクター)を回収し、DNA配列を解析することにより決定することができる。すなわち、簡便かつ迅速に標的タンパク質に作用するポリペプチドとその活性、及び配列情報を得ることができる。
【0016】
ICKペプチドのように、分子内に複数の結び目状のジスルフィド結合を持つペプチドは、基本的に無細胞系で合成することは困難である。分子シャペロン等を共発現させることで、無細胞系においてジスルフィド結合を形成させる技術も知られているが、どのシステイン残基を結合させるかなどジスルフィド結合の制御はできない。また、無細胞系を利用したスクリーニング方法では、ペプチドライブラリーと標的分子は別々の系で発現され、イオンチャネルを標的分子とする場合には、正確な評価を実施するためには熟練した高度な技術が必要となる。
【0017】
これに対し、本発明の方法では、グラム陰性菌(大腸菌など)のペリプラズム空間を発現の場とすることで、複雑な構造を有するペプチドを正しい立体構造で発現させることが可能である。本発明の方法は、様々な標的分子に対し、ペプチドライブラリーと標的分子を同一の系で発現させ、同時に活性に基づくスクリーニングができる。本発明の方法は、創薬ターゲットとして重要な、膜受容体やイオンチャネル等の膜タンパク質を標的とする分子のスクリーニングに有用である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図2】
図2は、ODA法によりタンパク質間相互作用に関与する領域を予測した立体構造の模式図を示す。
【
図3】
図3は、ヒトKv2.1をコードするDNA及びODAライブラリーを含むプラスミドの構成を示す。
【
図4】
図4-1は、クローン4のKv2.1(control)に対する阻害活性をパッチクランプ法により測定した結果を示すグラフである。
図4-2は、クローン9のKv2.1(control)に対する阻害活性をパッチクランプ法により測定した結果を示すグラフである。
図4-3は、クローン16のKv2.1(control)に対する阻害活性をパッチクランプ法により測定した結果を示すグラフである。
図4-4は、クローン30のKv2.1(control)に対する阻害活性をパッチクランプ法により測定した結果を示すグラフである。
図4-5は、クローン32のKv2.1(control)に対する阻害活性をパッチクランプ法により測定した結果を示すグラフである。
図4-6は、クローン46のKv2.1(control)に対する阻害活性をパッチクランプ法により測定した結果を示すグラフである。
【
図5】
図5は、従来のPERISS法にしたがい5回濃縮を行ったプラスミドDNA配列を次世代シーケンサーで解析した結果を示す。
【
図6】
図6は、ヒト単球細胞株(THP-1)に対するGTx1-15の細胞障害活性を示すグラフである。
【
図7】
図7は、ヒト単球細胞株(THP-1)に対するGTx1-15の免疫原性を示すグラフである。
【
図8】
図8は、GTx1-15の温度安定性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
1.標的タンパク質に作用するペプチドのスクリーニング方法
1.1 標的タンパク質
本発明は、標的タンパク質に作用するペプチドのスクリーニング方法に関する。
本発明の方法において、「標的タンパク質」は膜タンパク質であることが好ましく、膜タンパク質としては、膜受容体、イオンチャネル、トランスポーター(膜輸送体)等を挙げることができる。特にリガンドが不明のイオンチャネルやトランスポーターに作用するペプチドのスクリーニングに、本発明の方法は好適に利用できる。
【0020】
「膜受容体」としては、例えば、以下のものを挙げることができる。
(1)Gタンパク質結合型受容体
7回膜貫通型の構造を有し、リガンドが結合するとGタンパク質が活性化され、特定のセカンドメッセンジャーを合成する酵素が活性化あるいは不活性化されることで、細胞応答を生じさせる。ムスカリン性アセチルコリン受容体、アドレナリン受容体、アデノシン受容体、GABA受容体(B型)、アンギオテンシン受容体、カンナビノイド受容体、コレシストキニン受容体、ドーパミン受容体、グルカゴン受容体、ヒスタミン受容体、嗅覚受容体、オピオイド受容体、ロドプシン受容体、セクレチン受容体、セロトニン受容体、ソマトスタチン受容体、ガストリン受容体、P2Y受容体などが挙げられる。
(2)イオンチャネル型受容体
リガンドの結合によって受容体の構造が変化し、特定のイオンの透過が可能になり、膜電位が変化する。ニコチン性アセチルコリン受容体、グリシン受容体、GABA受容体(A型、C型)、グルタミン酸受容体、セロトニン受容体3型、P2X受容体、その他細胞の膜電位に反応して作動する電位依存性イオンチャネルが挙げられる。
(3)サイトカイン受容体スーパーファミリー
リガンドが結合すると受容体は2量体となり、チロシンキナーゼと相互作用することにより活性化する。各種サイトカイン受容体、プロラクチン受容体等が挙げられる。
(4)酵素活性を有する受容体
リガンドの結合により、細胞質側のチロシンキナーゼ活性やグアニル酸シクラーゼ活性が高まる。チロシンキナーゼ受容体、グアニル酸シクラーゼ受容体、インスリン受容体など、多くの成長因子の受容体が包含される。
【0021】
「イオンチャネル」とは、細胞の生体膜に存在する膜貫通タンパク質で、受動的にイオンを透過させるタンパク質である。イオンチャネルは、神経回路の活動、筋収縮、間隔など、イオンが関与するさまざまな生理機能に関与している。イオンチャネルは、イオン選択性(カリウムチャネル、ナトリウムチャネル、カルシウムチャネル、陽イオンチャネルなど)や、ゲートの開閉制御(電位依存性、リガンド依存性、機械刺激依存性、温度依存性、リン酸化依存性)によって分類される。
【0022】
イオンチャネルとしては、例えば、以下のものを挙げることができる。
(1)電位依存性チャネル
電位依存性チャネルとしては、電位依存性カリウムチャネル、電位依存性ナトリウムチャネル、電位依存性カルシウムチャネル、カルシウム活性型カリウムチャネル、HCNチャネル、CNGチャネル、TRPチャネル、電位依存性プロトンチャネルなどが挙げられる。
(2)内向き整流性カリウムチャネル
古典的チャネルであるKir1, 2, 4, 5, 7、GTP結合タンパク質で活性化されるKir3、ATP感受性カリウムチャネルを構成するKir6に大別される。神経細胞や心筋における静止膜電位の維持等に重要な役割を果たしている。
(3)リガンド依存性チャネル
リガンド依存性チャネルとしては、Cys-loop受容体(グリシン受容体、GABA受容体(A型、C型))、グルタミン酸受容体、P2X受容体が挙げられる。これらは、膜受容体でもある。
(4)細胞内膜系イオンチャネル
細胞内膜に存在する受容体型イオンチャネルで、リアノジン受容体、IP3受容体、TRICチャネルが挙げられる。
(5)その他
Two poreチャネル、酸感受性イオンチャネル、上皮型ナトリウムチャネル、塩素チャネル、コネキシン。
【0023】
「トランスポーター(膜輸送体)」は、生体膜を貫通し、膜を通して物質の輸送をするタンパク質である。ヒトのトランスポーターには、SLC(Solute carrier)トランスポーター、ABC(ATP-binding cassette)トランスポーターの2つのスーパーファミリーと、いくつかのファミリーが存在する。
【0024】
膜受容体、イオンチャネル、トランスポーターは、相互に重複しうる。これらの膜タンパク質は、その活性化が細胞(細胞膜)の電気生理学的手法により検出可能な限り、その呼び名に関わらず、本発明の「標的タンパク質」に包含される。
【0025】
1.2 スクリーニングの各工程
本発明のスクリーニング方法は、以下の工程を含む:
工程1:グラム陰性細菌で発現可能な複数の発現ベクターから構成されるポリヌクレオチドライブラリーを提供する工程であって、
前記複数の発現ベクターは、それぞれ、互いに異なるポリペプチドをコードする第1のポリヌクレオチド、第1のポリヌクレオチドの上流に配置された分泌シグナル配列、及び、標的タンパク質をコードする第2のポリヌクレオチドを含む、工程;
工程2:前記発現ベクターでグラム陰性細菌を形質転換し、前記ポリペプチドをペリプラズム間隙内に、前記標的タンパク質を内膜表面に、それぞれ発現させる工程;
工程3:ペリプラズム間隙内において、前記ポリペプチドを前記標的タンパク質と接触させる工程;
工程4:グラム陰性細菌にスフェロプラストを形成させ、電気生理学的手法により標的タンパク質に対する前記ポリペプチドの活性を測定する工程;
工程5:測定された活性に基づいて、標的タンパク質に作用するポリペプチドを同定する工程。
以下、本発明の各工程について詳述する。これらの工程のうち、工程1~工程3は、PERISS法を利用したものであり、その概要を
図1に示す。
【0026】
(工程1)ポリヌクレオチドライブラリーの提供
まず、グラム陰性細菌で発現可能な複数の発現ベクターから構成されるポリヌクレオチドライブラリーを提供する。
【0027】
本発明において、「発現ベクター」は、グラム陰性菌で発現可能なものであれば、特に限定されず、他の微生物や無細胞系において発現可能なベクターであってもよい。各発現ベクターは、互いに異なるポリペプチドをコードする第1のポリヌクレオチドと、分泌シグナル配列、及び、標的タンパク質をコードする第2のポリヌクレオチドを含む。発現ベクターは、好適には、第1のポリヌクレオチドの発現カセットと第2のポリヌクレオチドの発現カセットを含む、プラスミドである。
【0028】
「第1のポリヌクレオチド」は、ライブラリーを構成するランダム化された配列部分を含み、発現ベクター毎に異なるポリペプチドをコードする。
【0029】
「分泌シグナル配列」は、第1のポリヌクレオチドの上流に作動可能に連結され、菌体内で発現した第1のポリヌクレオチドがコードするポリペプチドが内膜外(ペリプラズム間隙内)に分泌されることを可能にする。ペリプラズムとは、グラム陰性菌において、内膜と外膜の2つの生体膜に囲まれた空間である。分泌シグナル配列は、すべての発現ベクターにおいて共通である。
【0030】
「第2のポリヌクレオチド」は、標的タンパク質をコードし、すべての発現ベクターにおいて共通である。第2のポリヌクレオチドは、標的タンパク質がグラム陰性菌の内膜上に発現されるように、発現ベクターに組み込まれる。標的タンパク質が、膜タンパク質以外の可溶性タンパク質(酵素など)の場合には、一回膜貫通型タンパク質のペリプラズム側に連結して発現させる。
【0031】
発現ベクターは、上記第1のポリヌクレオチドがペリプラズム間隙内に、第2のポリヌクレオチドが内膜上に発現されるように設計される。そのような発現ベクターの設計は、当該分野で周知であり、例えば、第1のポリヌクレオチドの上流(5’側)には、前記分泌シグナルに加えて、後の工程におけるポリヌクレオチドの回収、精製を容易にするためのタグ配列、SD配列及びプロモーター配列が付加され、下流(3’側)には、停止コドンが付加される。また、第2のポリヌクレオチドの上流(5’側)には、SD配列及びプロモーター配列が付加され、下流(3’側)には停止コドンが付加される。
【0032】
本発明において、「グラム陰性菌」は特に限定されない。例えば、大腸菌、プロテオバクテリア門のサルモネラ、シュードモナス、及び酢酸菌;シアノバクテリア、緑色硫黄細菌等を使用することができるが、典型的には大腸菌を使用する。各ポリヌクレオチドのコドンは、宿主であるグラム陰性菌において、当該ポリペプチドがコードするポリペプチドが効率よく発現されるように最適化され得る。
【0033】
一例として、典型的な大腸菌用の発現ベクター(プラスミド)の調製法について説明する。第1のポリヌクレオチドの5’側に、大腸菌のペリプラズム間隙に輸送するためのシグナル配列(OmpAなど)に続いて精製用のタグ配列(Strept-tag(登録商標)など)を配し、かつ大腸菌のペリプラズム間隙内酵素(DsbCなど)との融合タンパク質として発現するように、プロモーター配列を含む制御配列を付加し、3’側には停止コドンを付加する。ペリプラズム間隙内酵素との融合は、ポリペプチドの可溶性を高め、ペリプラズム間隙間内での安定した発現を可能にする。
【0034】
(工程2)グラム陰性菌の形質転換とポリペプチドの発現
上記発現ベクターを用いてグラム陰性細菌を形質転換し、第1及び第2のポリヌクレオチドにコードされるポリペプチドを発現させる。グラム陰性菌の形質転換は、エレクトロポレーション、塩化カルシウム法など、当該分野で公知の方法を用いて実施することができる。
【0035】
第1のポリヌクレオチドにコードされるポリペプチドは、転写・翻訳後、分泌シグナルによって、ペリプラズム間隙内に分泌される。1つの細胞には1つの発現ベクターに含まれる1種類の第1のポリヌクレオチドが導入され、それゆえ、1種類のポリペプチドがペリプラズム間隙内に分泌される。一方、第2のポリヌクレオチドにコードされる標的タンパク質はすべての細胞で共通であり、内膜上に発現される。
【0036】
(工程3)ポリペプチドと標的タンパク質の接触
ペリプラズム間隙内において、第1のポリヌクレオチドにコードされるポリペプチドは、内膜上に発現している標的タンパク質と接触可能な状態になる(
図1)。PERISS法と同様の原理で、標的タンパク質に対して親和性を有するポリペプチドは、内膜上の標的タンパク質に結合し、複合体を形成する。
【0037】
(工程4)標的タンパク質に対するポリペプチドの活性の測定
グラム陰性菌をスフェロプラスト化し、電気生理学的手法により、標的タンパク質に対するポリペプチドの活性を測定する。
【0038】
「スフェロプラスト」とは、グラム陰性菌の細胞壁が部分的に失われ、球状になった細胞である。スフェロプラスト化は、リゾチームやペニシリンなどでグラム陰性菌を処理することで実施できる。スフェロプラスト化したグラム陰性菌は、部分的に細胞膜が失われているため、電気生理学的手法により標的タンパク質とポリペプチドの相互作用に関する情報(電気生理学的変化)を解析することができる。また、1つの細胞のスフェロプラスト内には同一のポリペプチドが高濃度に存在し、当該ポリペプチドの標的タンパク質に対する活性を測定するのに好条件となっている。
【0039】
「電気生理学的手法」としては、パッチクランプ法(Patch clamp technique)を利用することができる。パッチクランプ法は、イオンチャネルやトランプポーターを介したイオンの挙動を記録することで、細胞膜上のイオンチャネルやトランスポーターの活動を直接的に測定する方法である。パッチクランプ法では、ガラス電極と細胞膜の間に抵抗の高いシールを形成させることにより、電極先端と同程度の大きさである小さな細胞からの電位測定が可能であり、細胞膜上のイオンチャネルなどの微小電流を測定することが可能できる。パッチクランプ法には、セルアタッチ法、ホールセル法など、さまざまな方法が知られており、当業者は、目的に応じてこれらの方法を適宜選択して、使用することができる。
【0040】
「電気生理学的手法」としては、アフリカツメガエルなどの卵母細胞やCHO等の培養細胞を用いた二本電極電位固定法を利用することもできる。例えば、一回膜貫通型タンパク質のペリプラズム側にペプチドを結合して発現させることで、細胞膜にアンカリングした状態で当該ペプチドを発現させることができる。この方法で、アフリカツメガエル卵母細胞にイオンチャネルを発現させ、同時に卵母細胞の細胞膜にアンカリングした形でペプチドを発現させ、二本電極電位固定法により活性を測定することができる。この方法によれば、フリーのペプチドで測定するよりも測定効果が良くなると考えられる。この手法は、一般にはmembrane-tethered toxin法と呼ばれる(Ibanez-Tallon et al. Neuron, 43, 305-311, 2004)。
【0041】
活性測定は標的タンパク質等の特性によるが、例えば静止膜電位変化-80mV→+20mVで得られる測定電流値変化や-80mVから+10mVステップで+60mVまで膜電位を変化させたときの測定電流値変化を、ポリペプチドを発現していないネガティブコントロールと比較することで測定できる。
【0042】
従来のPERISS法では、ペリプラズム間隙内での標的タンパク質とポリペプチドの結合は評価することができたが、標的タンパク質に対するポリペプチドの活性(アゴニスト活性又はアンタゴニスト活性)を評価することはできなかった。本発明の方法では、ポリペプチドが標的タンパク質に相互作用することで生じる細胞の電気生理学的変化を、グラム陰性菌をスフェロプラスト化して測定することで、標的タンパク質に対するポリペプチドの活性を直接評価することが可能になる。
【0043】
(工程5)標的タンパク質に作用するポリペプチドの同定
最後に、電気生理学的手法により測定された活性に基づいて、標的タンパク質に作用するポリペプチドを同定する。
【0044】
例えば、標的タンパク質がイオンチャネルの場合、ポリペプチドの結合によりイオンチャネルを介した電流が有意に阻害された場合、当該ポリペプチドは標的タンパク質に対するアンタゴニスト活性を有するとポリペプチドと同定することができる。一方、ポリペプチドの結合によりイオンチャネルを介した電流が有意に促進された場合、当該ポリペプチドは標的タンパク質に対するアゴニスト活性を有するとポリペプチドと同定することができる。測定した活性は、上記のとおり、ポリペプチド及びこれをコードするポリヌクレオチド配列と一対一で対応している。したがって、所望の活性を有する細胞から発現ベクター(プラスミド)精製し、その配列をサンガー法等で決定することにより、目的とするポリペプチドのアミノ酸配列を同定することができる。トランスポーターも微小電流を流すことが知られており、その電流の阻害を介して、活性を測定することができる。GPCRなどの膜受容体については、KirなどのイオンチャネルをC末端側に連結することで受容体の構造変化をイオンチャネルの活性として測定できることができる。
【0045】
1.3 ライブラリーの濃縮
本発明で使用するライブラリーは、標的タンパク質への結合について、あらかじめ濃縮されていることが好ましい。ライブラリーの濃縮は、既報(WO2010/104114、特開2014-207905)にしたがい、工程1~工程3を実施して、標的タンパク質に結合したポリペプチドをコードするポリヌクレオチドを選択・増幅することを繰り返すことにより実施することができる。
【0046】
具体的には、標的タンパク質に結合したポリペプチドを含む細胞を選択した後、細胞内に含まれる当該ポリペプチドをコードするポリヌクレオチドをminiprep法などを利用して回収して、増幅し、第2のライブラリーを作製する。
【0047】
標的タンパク質に結合したポリペプチドの回収は、グラム陰性菌をスフェロプラスト化した後、ポリペプチドに予め導入したタグ(例えば、Strept-tag(登録商標))を利用し、このタグに結合するビーズ(Strep-Tactin(登録商標)ビーズなど)により選択する方法が典型的である。タグとしては、ストレプトアビジンやその改良タンパク(Strept-tag(登録商標))のほか、T7、ヒスチジン、FLAGタグ等が利用でき、磁気ビーズ、セファロースビーズ、アガロースビーズ、多孔性等のビーズ、プレート又はメンブレンを用いて選択することができる。
【0048】
選択された、ビーズに固定された状態の「ポリペプチド-膜タンパク質-スフェロプラスト複合体」のスフェロプラスト細胞内部から、プラスミドDNAを単離し、当該プラスミドDNA中でポリヌクレオチドライブラリーを構成するポリヌクレオチド配列をPCRで増幅して、第2のライブラリーを作製する。第2のライブラリーは、元のライブラリーと同じランダム化領域及びフレームワーク領域を有するが、ライブラリー全体として標的タンパク質との親和性が増加しており、ランダム化領域の配列の多様性が減少している(「濃縮されている」)はずである。この工程を繰り返し、多数ラウンドの選択及びライブラリーの生成を行うことにより、標的との親和性がより高いポリペプチドをコードするポリヌクレオチドの集合(濃縮されたライブラリー)を得ることができる(
図1参照)。
【0049】
第2ラウンド以降の選択のラウンドにおいては、ポリペプチド-膜タンパク質-スフェロプラスト複合体のインキュベーション時間を減少させたり、洗浄の回数を増加させたり、温度を上げることにより、 選択圧を順次高くして、より結合親和性の高いポリペプチドを濃縮することができる。
【0050】
濃縮工程の回数は、使用するライブラリーの構造やサイズにもよるが、通常2~10ラウンド、好ましくは3ラウンド以上(例えば、3~8ラウンド)、より好ましくは5ラウンド以上(例えば5~7ラウンド)行うことが好ましい。
【0051】
2. 標的タンパク質に作用するポリペプチドの製造方法
上記のようにして同定された標的タンパク質に作用するポリペプチドは、その構造に応じて、遺伝子組換え、又は化学合成により製造することができる。こうした標的タンパク質に作用するポリペプチドの製造方法も、本発明の範囲内である。
【0052】
3. ODA法を利用したライブラリーの作製方法
本発明は、ODA(Optimal Docking Area)法を利用したライブラリーの作製方法も提供する。
【0053】
「ODA法」とは、特定のタンパク質において、脱溶媒和エネルギーに基づき、タンパク質相互作用領域を予測する方法である(Juan Fernandes-Recio et al. “Optimal Docking Area: A New Method for Predicting Protein-Protein Interaction Sites” POTEINS: Structure, Function, and Bioinformatics 58: 134-143 (2005))。本発明においては、ODA法により特定のタンパク質表面における脱溶媒和エネルギー値が小さい領域を、タンパク質相互作用が予測される部位(他のタンパク質と相互作用する可能性が高い部位)として、当該部位をランダム化した複数のポリペプチドから構成されるポリペプチドライブラリーを作製する。また、前記ポリペプチドをコードする複数のポリヌクレオチドからなるポリヌクレオチドライブラリーを作製する。
【0054】
具体的に言えば、本発明のポリペプチドライブラリーの作製方法は、以下の工程を含む:
(1)既知の膜タンパク質のリガンドについて、前記リガンドの立体構造にODA法を適用して、他のタンパク質と相互作用する可能性が高い部位を予測する工程;
(2)前記リガンドのアミノ酸配列において、予測された部位をランダム化した複数のポリペプチドを作製する工程;
(3)前記複数のポリペプチドからなるポリペプチドライブラリーを作製する工程。
【0055】
また、本発明のポリヌクレオチドライブラリーの作製方法は、以下の工程を含む:
(1)既知の膜タンパク質のリガンドについて、前記リガンドの立体構造にODA法を適用して、他のタンパク質と相互作用する可能性が高い部位を予測する工程;
(2)前記リガンドのアミノ酸配列において、予測された部位をランダム化した複数のポリペプチドを設計し、前記ポリペプチドをそれぞれコードする複数のポリヌクレオチドを作製する工程;
(3)前記複数のポリヌクレオチドを含む、ポリヌクレオチドライブラリーを作製する工程。
【0056】
膜タンパク質としては、1.1に記載した膜受容体、イオンチャネル、トランスポーターを利用できる。好ましくは、膜タンパク質は膜受容体又はイオンチャネルである。
【0057】
既知の膜タンパク質のリガンドとしては、上記膜タンパク質のリガンドとして、その構造が公知のポリペプチドであれば、特に限定されない。そのようなリガンドの好適な一例として、ICKポリペプチドを挙げることができる。
【0058】
ICKポリペプチドは、クモ毒液成分に含まれる、Inhibitor Cystine Knots(ICK)とよばれる、特有の構造モチーフを持つ一連のポリペプチドである。この構造モチーフは、6個のシステイン残基 (Cys-1-Cys-6)を含み、Cys-1とCys-4、Cys-2とCys-5、及びCys-3とCys-6がS-S結合することにより形成される結び目状のシステイン結合を含む。ICKポリペプチドでは、この構造モチーフはは厳密に保存されているが、それ以外の配列は多様である。前述のとおり、ICKポリペプチドのように複雑な構造を有するペプチドは、無細胞系で発現させることは困難であるため、本発明のスクリーニング系に好適である。公知のICKペプチドの例は、例えば、下表に示すものを挙げることができるがこれらに限定されない。
【0059】
【0060】
GTxシリーズも好適に利用できる(前掲Kimura, et al, 2012)。GTxシリーズのうち、GTx1とGTx2はICKペプチドである。GTx3はMIT1やProkineticinなどが代表例であり、GTx4、GTx5及びGTx 6は分子内に複数のSS結合を持つジスルフィド・リッチ・ペプチドであり、GTx7は環状ペプチドである。その他、イモ貝のConotoxin類も使用できる。
【0061】
リガンドの立体構造は、公知の情報を利用してもよいし、NMRを用いて決定してもよいし、ホモロジーモデリングを用いて予測してもよい。いずれの方法により立体構造に関する情報を得るかは、リガンドのサイズや構造により適宜選択する。
【0062】
本発明の方法では、ODA法により、リガンドの立体構造から他のタンパク質と相互作用する可能性が高い部位を予測し、その部位をランダム化したライブラリーを作製することで、本来の標的分子(既知の膜タンパク質)のみならず、それ以外の標的タンパク質に作用するポリペプチドの効率的なスクリーニングも可能になる。したがって、オーファン受容体のリガンド探索にも利用できる。
【0063】
本発明の方法で作製されるライブラリーは、本発明のスクリーニング方法に好適に利用することができるが、無細胞系を利用した系など、それ以外のスクリーニング方法にも利用できる。
【0064】
作製したライブラリーは、目的に応じて、当該分野で公知の方法により、ライブラリーの濃縮を行ってもよい。濃縮工程は、例えば、PERISS法を適用する場合には、通常2~10ラウンド、好ましくは3ラウンド以上(例えば、3~8ラウンド)、より好ましくは5回以上(例えば、5~7ラウンド)行う。また、試験管内分子進化を適用して、スクリーニングで選択されたポリペプチドの配列について、その配列の一部をさらにランダム化した子孫ライブラリーを作製してもよい。
【0065】
4. 本発明のポリペプチドライブラリー及びポリヌクレオチドライブラリー
発明者らは、本発明の方法により、ICKペプチドの一種であるGTx1-15の構造に基づく、ポリペプチドライブラリーとポリヌクレオチドライブラリーを作製した。本発明は、これらのライブラリーも提供する。
【0066】
GTx1-15の構造に基づくポリペプチドライブラリーは、下記のアミノ酸配列を有する互いに異なる複数のポリペプチドを含む。
DCLGXXRKCIPDNDKCCRPXLVCSRTHKXCXXXX(配列番号1)
【0067】
GTx1-15の構造に基づくポリヌクレオチドライブラリーは、上記アミノ酸配列(配列番号1)を有する互いに異なるポリペプチドをコードする複数のポリヌクレオチドを含む。
【0068】
本発明のポリヌクレオチドライブラリーは、適当な発現ベクターに導入し、宿主細胞を形質転換することで、ポリペプチドとして発現させることができる。上記したとおり、本発明のライブラリーは、無細胞系を利用した系など、それ以外のスクリーニング方法にも利用できる。
【0069】
本発明のポリヌクレオチドライブラリーを、PERISS法や本発明のスクリーニング方法において使用する場合には、ライブラリーのメンバーである複数のポリヌクレオチドは、それぞれグラム陰性菌で発現可能な発現ベクターに挿入される。この場合、発現ベクターには、上記ポリヌクレオチドのほか、分泌シグナル配列、及び、標的タンパク質をコードするポリヌクレオチドが包含される。発現ベクターは、当該分野の技術常識及び上記1.2の記載に基づいて設計することができる。
【0070】
5.本発明のスクリーニングで得られた標的タンパク質と作用するポリペプチドの用途
本発明のスクリーニング方法で得られたポリペプチドは、標的タンパク質をターゲットとする創薬のほか、試料中の標的タンパク質を検出するための検出試薬、標的タンパク質精製用のアフィニティー担体などとして用いることができる。
【0071】
本発明における好ましい標的タンパク質は、生体膜表面で各種情報伝達に関わっている膜タンパク質である。したがって、標的タンパク質である、各種膜受容体、薬物トランスポーター、イオンチャネルなどのアゴニスト、アンタゴニストの探索ほか、オーファン受容体のリガンド物質の探索にも有用である。本発明のスクリーニングで得られたポリペプチドは、それ自体に治療剤や診断薬などの薬理作用が期待できるほか、将来の創薬開発のリード化合物を提供できる。
【0072】
本発明のスクリーニング方法で得られたポリペプチドの一例として、配列番号4~9に示されるポリペプチドを挙げることができる。これらのポリペプチドのうち、配列番号4~7及び9は、GTx1-15の骨格に基づいて設計されたライブラリーから、カリウムチャネルであるヒトKv2.1に対するアゴニスト又はアンタゴニスト活性を有するものとして選択、同定されたものである。また配列番号8に示されるポリペプチドは、いずれの活性も示さないものとして選択、同定されたものである。膵臓のβ細胞にあるカリウムチャネルであるKv2.1は細胞膜の興奮状態を元の静止膜電位に戻す遅延整流性チャネルであり、これを阻害すると細胞の興奮状態が延長されβ細胞からのインスリン放出を増大できることが知られている。よって、アンタゴニスト活性のあるペプチドは、糖尿病治療薬として期待できる。また、胃癌や子宮癌でKv2.1の発現が増大していることが知られているため、アンタゴニスト活性のあるペプチドは、胃癌や子宮癌の治療薬としても期待できる。一方、髄芽腫medulloblastomaのKv2.1を活性化することでApoptosisを誘導するなど、アゴニスト活性のあるペプチドは、ガンの増殖を抑える治療薬として期待できる。いずれの活性も示さないペプチドもバインダーとして利用可能である。
【実施例】
【0073】
以下、実施例により本発明について詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0074】
実施例1:ペプチドライブラリーの作製
標的膜タンパク質に対して特異的に結合するポリペプチドを探索するためのペプチドライブラリーを、ICKペプチドであるGTx1-15(配列番号2)にODA法を利用して作製した。ODA法はペプチド又はタンパク質分子の脱溶媒和に基づいてその分子が他の分子と相互作用する部位を予測する手法である(Proteins. 2005 Jan 1;58(1):134-43)。本手法で得られる画像において、「球体」の大きさはそのエネルギー値に従う。大きなサイズの「球体」は小さいエネルギー値を示し、高度にタンパク質-タンパク質相互作用に関係している部位と考えられる。
【0075】
発明者は、ホモロジーモデリングにより予測したGTx1-15の立体構造にODA法を適用し、GTx1-15において、高度にタンパク質-タンパク質相互作用に関係している部位を特定している(
図2、前掲Ono et al. 2011)。この部位は、標的分子以外のタンパク質とも相互作用する可能性が予想され、したがって、この部位をライブラリー化すれば、ペプチド本来の標的分子とは異なった標的分子に対するペプチドをスクリーニングすることが可能になると考えられる。
【0076】
そこで、特定された部位をランダム化して、ポリペプチドを探索するためのペプチドライブラリーを作製した。
得られたペプチドライブラリーのアミノ酸配列は、下記のとおりである。
DCLGXXRKCIPDNDKCCRPXLVCSRTHKXCXXXX(配列番号1)
【0077】
実施例2:PERISS法を用いた標的タンパク質へ結合するペプチドのスクリーニング
標的タンパク質であるヒトKv2.1をコードするDNA(配列番号3)をプラスミドに組み込んだ。このプラスミドを大腸菌C43(DE3)株にトランスフォームし、LB寒天培地に展開してコロニーを得た。単一コロニーを用いて巨大スフェロプラストを作製し、既報にしたがい、パッチクランプ法で発現電流を測定し、Kv2.1の電流が測定できることを確認した(前掲Kikuchi et al. Biotechnology Reports, 2015)。
【0078】
前記プラスミドに、実施例1で作製したペプチドライブラリーをタンデムに組み込み、単一のプラスミドから標的膜タンパク質とペプチドライブラリーが同時に発現するコンストラクト(ペプチドライブラリープラスミドDNA)を作製した(
図3)。
図3に示すとおり、ODAペプチドライブラリーをコードするDNA配列の5’側には、シグナル配列であるOmpAに続いて精製用Strept-tag(登録商標)を配し、大腸菌のペリプラズム間隙内酵素であるDsbCをコードする配列をリンカーを介して付加した。
【0079】
以下のとおり、作製したペプチドライブラリープラスミドDNAにPERRIS法を適用し、標的タンパク質(ヒトKv2.1)に結合するペプチドを探索した。
E. coli C43(DE3)株のコンピテントセル100μLにペプチドライブラリープラスミドDNAを加え、氷上で3分放置した。次いで、その細胞懸濁液をエレクトロポレーション用キュベットに移し、エレクトロポレーションを行い、細胞株へプラスミドDNAを導入した。エレクトロポーレーション処理した細胞を含む細胞懸濁液を100μLあたり1mLのSOC培地へ懸濁し、15mLチューブに移し37℃、200rpm、1時間回復培養を行った。回復培養液全量をLBプレート(50μg/mlアンピシリン含有)に塗抹した。その後、37℃で約16時間培養を行った。培養後、LBプレート培地表面に一枚あたり3mLのLB培地(50μg/mlアンピシリン含有)を滴下し、菌体と良く懸濁した。菌体懸濁液を100ml LB培地(50μg/mlアンピシリン含有)入りの500ml三角フラスコに接種、37℃、200rpmで培養した。培養開始から1時間後、100μlのIPTGを添加(最終濃度1mM)し、培養温度を25℃に変更し、200rpmで培養を継続した。培養開始から約3.5時間後に培養物を遠心用チューブに移し、室温、2000gの条件で5分間遠心分離処理を行った。遠心処理後、常法によりスフェロプラスト化した。1mLの0.6Mショ糖緩衝液(750μL 0.8M Sucrose, 20μL 1M Tris-HCl, 230μL H2O, 5mg BSA)でスフェロプラストを懸濁した。スフェロプラスト懸濁液にストレプトアビジン磁気ビーズを加えた。ビーズ懸濁スフェロプラスト溶液を室温で20分間緩やかに振とうした。磁気スタンドを用いて、1mLの0.6Mショ糖緩衝洗浄液(15mL 0.8M Sucrose, 0.6mL 5M NaCl, 0.4mL 1M Tris-HCl, 2mL H2O)で2回磁気ビーズを洗浄した。洗浄後、回収したスフェロプラスト菌体からプラスミドを精製した。
【0080】
標的タンパク質へ結合するペプチドを濃縮するため、精製したプラスミドをE. coli C43(DE3)株のコンピテントセル100μL中に加え、上記の方法と同様にPERISS法(すなわち、標的タンパク質へ結合するペプチドを発現するプラスミドの濃縮工程)を4回繰り返し、合計5回PERISS法を適用した。
【0081】
実施例3:濃縮されたライブラリーに含まれるペプチドの活性の決定
PERISS法を5回実施し、標的タンパク質へ結合するペプチドが濃縮されたライブラリーに含まれるペプチドの活性を、パッチクランプ法を用いて決定した。
【0082】
濃縮後のプラスミドを用いて、C43(DE3)大腸菌株を形質転換した。E. coli C43(DE3) ライブラリープラスミド導入株を50μg/mlアンピシリン含有LB培地の2%寒天プレートに画線塗抹し、37℃、24時間静置培養した。静置培養後、培養プレートの1コロニーを10ml LB培地(50μg/mlアンピシリン含有)入りの100ml三角フラスコに接種し、37℃、200rpmで18時間震とう前培養した。前培養後、100μlの50μg/mlアンピシリンと600μlの10mg/ml Cephalexinを添加した100ml LB培地を分注した500ml三角フラスコに、1mlの前培養液を植菌し、37℃、200rpmで震とう本培養した。本培養開始から1時間後、100μlの1M IPTGを添加(最終濃度1mM)し、培養温度を30℃に変更して200rpmで培養を継続した。O.D.600が0.2~0.4に達した時点で培養物を遠心用チューブに移し、スフェロプラスト調製用サンプルに供した。遠心用チューブへの移動は、50ml tube に培養液45mlを移すことで行った。伸長した大腸菌を集菌、上清を除去した。常法により大腸菌をスフェロプラスト化し、巨大スフェロプラストを得た。作製した巨大スフェロプラストを用いて電気生理学的測定をNanion社Port-a-patch装置により行った。静止膜電位を-80mVに固定し+20mVへの電位変化刺激を与え、内膜に発現しているヒトKv2.1電流を測定した。21個のクローンの電流を測定し、ペプチドを発現せずヒトKv2.1のみを発現しているクローンの電流をコントロールとして解析した。
【0083】
その結果、クローン4、9、16、及び46がアンタゴニスト活性を示し、クローン30がアゴニスト活性を示した(
図4)。32は両活性を示さずバインダー活性を示していると考えられる。
【0084】
クローン4、9、16、30、32、及び46のDNA配列を決定し、ペプチドのアミノ酸配列を明らかにした。
クローン4:DCLGRRRKCIPDNDKCCRPLLVCSRTHKGCWVMG(配列番号4)
クローン9:DCLGSSRKCIPDNDKCCRPPLVCSRTHKSCTLFL(配列番号5)
クローン16:DCLGRWRKCIPDNDKCCRPILVLCTPSG(配列番号6)
クローン30:DCLGPLRKCIPDTTNAVVQILYAVERTKKCWSAK(配列番号7)
クローン32:DCLGSVRKCIPDNDKCCRPVLVCSRTHKFCFLVM(配列番号8)
クローン46:DCLGYWRKCIPTTTNAVVQVLYAVERHKECIMAK(配列番号9)
【0085】
クローン16と30、46は元のライブラリーの配列と異なっているが、このような新規の配列が得られた場合、これらの配列を基礎として新たな研究に進むことが可能であることも本法の有利な点である。
【0086】
PERISS法を5回実施したプラスミドDNA配列を次世代シーケンサーにて解析したところ、上記クローン4、9、30、32、及び46が含まれていることがわかった(
図5)。
【0087】
従来法では、次世代シーケンサーの結果が出てから活性測定に供する候補ペプチドを決める。その後、NEB社のpMalシステム(高可溶性MBP(マルトース結合性タンパク質)タグによる高収量タンパク質発現システム)などを用いて当該ペプチドをペリプラズ間隙間内に発現させ、MBPタグを用いて精製するが、その工程にはペプチドのオリゴDNAの合成、組み換え、配列確認、発現、精製などが含まれ、最低でも1か月はかかる。、そのため、次世代シーケンサーのためのサンプル調製も含めると電気生理学的測定結果が出るまでに2か月近くかかることとなる。
【0088】
本実施例では、5回目のPERISS法が終わってから電気生理学的測定結果が出るまでに2日しかかからず、その後のサンガー法によるDNAは配列の決定も含め一週間で済むことから、従来のPERISS法と比較して圧倒的な速さで候補ペプチドの活性を決定することができる。
【0089】
参考例1:GTx1-15のTHP-1細胞に対する影響
THP-1細胞を、L-グルタミンおよびペニシリン、ストレプトマイシンを補充した10%ウシ胎児血清を含有するRPMI-1640中で培養した。細胞毒性アッセイのために、3×104 THP-1細胞を、80μlのRPMI-1640培地を含む96ウェルプレートの単一ウェルに接種した。接種直後に、20μlのGTx1-15溶液をウェルに添加した。GTx1-15の最終濃度は1、3、10及び30μg/mLであった。対照として、GTx1-15溶液の代わりにRPMI1640培地をウェルに添加した。24時間のインキュベーション後、細胞毒性を試験した。10μlのWST-1溶液を各ウェルに簡単に加え、37℃で2時間インキュベートした。インキュベーション後、450nm/620nmでマイクロプレートリーダーを用いて吸収を測定した。
【0090】
免疫原性アッセイのために、2.4×106のTHP-1細胞を、1.2mlのRPMI-1640培地を含む12ウェルプレートの単一ウェルに接種した。接種直後に、GTx1-15溶液またはDNCB溶液を各ウェルに添加した。GTx1-15の最終濃度は1、3及び10μg/mLであり、陽性対照としてのDNCB濃度は4μg/mLであった。24時間のインキュベーションの後、THP1細胞を1000gで5分間遠心分離によって収集し、次いで、全RNAを、RNeasy Mini Kit(QIAGEN)を用いて細胞から抽出した。全RNAを鋳型にcDNAを合成した。ヒトCD80、CD86、CD54およびGAPDHの発現量をそれぞれに特異的プライマーを用いた定量PCRにて定量した。
【0091】
GTx1-15は、THP-1細胞に対して、1-30μg/mlの濃度において、細胞傷害性を示さなかった(
図6)。また、CD86、CD80、CD54の有意な発現は認められず、免疫原性もないことが確認された(
図7)。
【0092】
参考例2:GTx1-15の温度安定性
GTx1-15(24.7μM、10μg/100μl)を様々な温度(20、37、50、75及び95℃)で24時間インキュベートすることにより、熱安定性を検討した。24時間後、100μlの試料を400μlの0.05%TFA溶液で希釈し、その後、Superiorex ODSカラム(4.6×250mm、Shiseido)を用いて分離、1ml/分の流速で0.05%TFAを含む0%~30%アセトニトリルの直線勾配で溶出させた。GTx1-15量を表すピーク面積をUnicornソフトウェアバージョン7.1の評価関数を用いて計算した。
【0093】
GTx1-15は、20℃~75℃でほとんど分解されずに維持され、95℃においても70%が分解されずに維持されていた(
図8)。
【0094】
発明者らは、GTx1-15などのICKペプチドが消化酵素で分解されず、ラット血漿中で37℃、24時間インキュベートしても分解は認められず、静脈内投与により数時間にわたり血中に検出できることを確認している(前掲Kikuchi et al. International Journal of Peptides, 2015)。さらに、GTx1-15は細胞傷害性や免疫原性を示さず、高温安定性を有し、医薬品としての基本的な特性を備えたペプチドと言える。このことは、GTx1-15を鋳型として構築したペプチドライブラリーから得られるペプチドも同様の特性を有することを示唆する。この特性は、GTx1-15のみならず、他のICKペプチドにも共通のものであることが期待される。
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明は、膜受容体、薬物トランスポーター、イオンチャネルなどのアゴニスト、アンタゴニストの探索、オーファン受容体のリガンド物質の探索、及び創薬開発において有用である。
【0096】
本明細書中で引用した全ての刊行物、特許及び特許出願をそのまま参考として本明細書中にとり入れるものとする。
【配列表フリーテキスト】
【0097】
配列番号1:合成ペプチド(GTx1-15に基づくライブラリー)
配列番号4:合成ペプチド(クローン4)
配列番号5:合成ペプチド(クローン9)
配列番号6:合成ペプチド(クローン16)
配列番号7:合成ペプチド(クローン30)
配列番号8:合成ペプチド(クローン32)
配列番号9:合成ペプチド(クローン46)
配列番号10~27:合成ペプチド(濃縮後(5 rounds)プラスミドDNA配列)
【配列表】