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特許7412081偏光膜製造用ポリビニルアルコール系フィルム、及びそれを用いて得られる偏光膜、ならびにポリビニルアルコール系樹脂水溶液
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-28
(45)【発行日】2024-01-12
(54)【発明の名称】偏光膜製造用ポリビニルアルコール系フィルム、及びそれを用いて得られる偏光膜、ならびにポリビニルアルコール系樹脂水溶液
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20240104BHJP
   B29C 55/06 20060101ALI20240104BHJP
   C08L 29/04 20060101ALI20240104BHJP
【FI】
G02B5/30
B29C55/06
C08L29/04 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018568448
(86)(22)【出願日】2018-12-26
(86)【国際出願番号】 JP2018047745
(87)【国際公開番号】W WO2019131716
(87)【国際公開日】2019-07-04
【審査請求日】2021-06-29
【審判番号】
【審判請求日】2022-12-08
(31)【優先権主張番号】P 2017251855
(32)【優先日】2017-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079382
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 征彦
(74)【代理人】
【識別番号】100123928
【弁理士】
【氏名又は名称】井▲崎▼ 愛佳
(74)【代理人】
【識別番号】100136308
【弁理士】
【氏名又は名称】西藤 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100207295
【弁理士】
【氏名又は名称】寺尾 茂泰
(72)【発明者】
【氏名】矢部 俊和
(72)【発明者】
【氏名】北村 秀一
(72)【発明者】
【氏名】可児 昭一
【合議体】
【審判長】里村 利光
【審判官】井口 猶二
【審判官】清水 康司
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-32789(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第105440533(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
G02F 1/1335-1/13363
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚み5~75μm、幅2m以上、長さ2km以上であるポリビニルアルコール系フィルムであって、
可塑剤含有量が0.5~5重量%であり、
23.5℃の水中に5分間浸漬後の幅方向の膨潤度X(%)が120≦X≦140であり、かつ、
下記条件で偏光膜製造試験を行うことによって求められるフィルム幅得率W(%)がW≧43であることを特徴とする偏光膜製造用ポリビニルアルコール系フィルム。
(偏光膜製造試験)
120mm(長さ方向)×50mm(幅方向)の試験片を切り出し、温度60℃、ホウ酸濃度40g/L、ヨウ化カリウム濃度35g/Lの水溶液中において、チャック間距離を40mmとして、長さ方向に延伸速度0.09m/分で延伸倍率6倍まで湿式一軸延伸 後に80℃で40秒間乾燥を行い、下式(1)の通り計算される値をフィルム幅得率W(%)とする。
フィルム幅得率W(%)=(β)/(α)×100 ・・・(1)
(ただし、式中(α)は試験前のチャック間中央部における試験片幅であり、(β)は試験後のチャック間中央部における試験片幅である。)
【請求項2】
23.5℃の水中に5分間浸漬後の長さ方向の膨潤度Y(%)が110≦Y≦140であることを特徴とする請求項1記載の偏光膜製造用ポリビニルアルコール系フィルム。
【請求項3】
30℃の水中に30秒間浸漬し膨潤させる際の面積膨潤速度S(%/秒)が、0.2~ 1.6%/秒であることを特徴とする請求項1または2記載の偏光膜製造用ポリビニルアルコール系フィルム。
【請求項4】
水分量が1~9重量%であることを特徴とする請求項1~3いずれか一項に記載の偏光膜製造用ポリビニルアルコール系フィルム。
【請求項5】
請求項1~いずれか一項に記載の偏光膜製造用ポリビニルアルコール系フィルムを用いて得られることを特徴とする偏光膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、偏光膜を製造する際の原反フィルムとして有用なポリビニルアルコール系フィルムに関する。更に詳しくは、高い幅得率を有し偏光膜を製造するのに好適なポリビニルアルコール系フィルム、および該ポリビニルアルコール系フィルムを用いて得られる偏光膜に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示装置の発展はめざましく、スマートフォン、タブレット、パーソナルコンピューター、液晶テレビ、プロジェクター、車載パネル等に幅広く使用されている。
かかる液晶表示装置には偏光膜が使用されており、偏光膜としては、主として、ポリビニルアルコール系フィルムにヨウ素又は二色性染料を吸着配向させたものが使用されている。近年、画面の高精細化、高輝度化、大型化、薄型化にともない、従来品より一段と表示欠点が少なく、かつ幅広長尺薄型の偏光膜が必要とされている。
【0003】
偏光膜は、例えば、ポリビニルアルコール系フィルムを、水(温水を含む)で膨潤させた後、ヨウ素で染色し、ヨウ素分子を配列させるために長さ方向に延伸し、延伸した状態を保持するためにホウ酸等の架橋剤で架橋し、乾燥させて製造されている。
【0004】
幅広の偏光膜製造用ポリビニルアルコール系フィルムに関しては、例えば、幅が3m以上であり、フィルム面内のリタデーション値が30nm以下、かつ、フィルム幅方向における、フィルム面内のリタデーション値のふれが15nm以下であるポリビニルアルコール系フィルムが提案されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-137042号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1に開示の技術では、幅3m以上の幅広フィルムで偏光度の面内均一性に優れた偏光膜が得られるが、偏光膜の製造工程において、長さ方向への延伸を行う前後で、フィルムは幅方向の収縮(ネックイン)が起こりやすい。そのため、収縮率が高く、幅広の偏光膜を製造すること、即ち高いレベルで偏光膜製造時の幅方向への収縮を抑えることについてさらなる改善が求められている。
【0007】
そこで、本発明ではこのような背景下において、偏光膜製造時の幅方向への収縮を低減することができる、即ち高い幅得率で偏光膜を製造することが可能な偏光膜製造用ポリビニルアルコール系フィルム、かかるポリビニルアルコール系フィルムを用いた偏光膜及びポリビニルアルコール系樹脂水溶液を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
しかるに、本発明者等はかかる事情に鑑み鋭意研究を重ねた結果、厚み5~75μm、幅2m以上、長さ2km以上のポリビニルアルコール系フィルムであって、その膨潤度が特定範囲である場合に高い幅得率で偏光膜を製造することが可能であることを見出した。
【0009】
即ち、本発明は、厚み5~75μm、幅2m以上、長さ2km以上であるポリビニルアルコール系フィルムであって、23.5℃の水中に5分間浸漬後の幅方向(TD)の膨潤度X(%)が120≦X≦140であり、かつ、下記条件で偏光膜製造試験を行うことによって求められるフィルム幅得率W(%)がW≧43である偏光膜製造用ポリビニルアルコール系フィルムを第1の要旨とする。
(偏光膜製造試験)
120mm(長さ方向)×50mm(幅方向)の試験片を切り出し、温度60℃、ホウ酸濃度40g/L、ヨウ化カリウム濃度35g/Lの水溶液中において、チャック間距離を40mmとして、長さ方向に延伸速度0.09m/分で延伸倍率6倍まで湿式一軸延伸後に80℃で40秒間乾燥を行い、下式(1)の通り計算される値をフィルム幅得率W(%)とする。
フィルム幅得率W(%)=(β)/(α)×100 ・・・(1)
(ただし、式中(α)は試験前のチャック間中央部における試験片幅であり、(β)は試験後のチャック間中央部における試験片幅である。)
【0010】
また、本発明は、上記第1の要旨の偏光膜製造用ポリビニルアルコール系フィルムを用いて得られる偏光膜を第2の要旨とする。
更に、本発明は、ポリビニルアルコール系樹脂と可塑剤とを含有するポリビニルアルコール系樹脂水溶液であって、ポリビニルアルコール系樹脂100重量部に対する可塑剤の含有量が0.5~5重量部であるポリビニルアルコール系樹脂水溶液を第3の要旨とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明は、厚み5~75μm、幅2m以上、長さ2km以上であるポリビニルアルコール系フィルムであって、23.5℃の水中に5分間浸漬後の幅方向の膨潤度X(%)が120≦X≦140であり、かつ、特定の条件で偏光膜製造試験を行うことによって求められるフィルム幅得率W(%)がW≧43である偏光膜製造用ポリビニルアルコール系フィルムである。そのため、この偏光膜製造用ポリビニルアルコール系フィルムは、高い幅得率で偏光膜を製造することができる。
【0012】
また、23.5℃の水中に5分間浸漬後の長さ方向の膨潤度Y(%)が110≦Y≦140であると、より高い幅得率で偏光膜を製造することができる。
【0013】
更に、30℃の水中に30秒間浸漬し膨潤させる際の面積膨潤速度S(%/秒)が、0.2~1.6%/秒であると、より高い幅得率で偏光膜を製造することができる。
【0014】
そして、水分量が1~9重量%であると、より高い幅得率で偏光膜を製造することができる。
【0015】
また、可塑剤含有量が0.5~5重量%であると、より高い幅得率で偏光膜を製造することができる。
【0016】
そして、上記のような本発明の偏光膜製造用ポリビニルアルコール系フィルムを用いて得られる偏光膜は、高い幅得率を有する偏光膜とすることができる。
【0017】
また、本発明は、ポリビニルアルコール系樹脂と可塑剤とを含有するポリビニルアルコール系樹脂水溶液であって、ポリビニルアルコール系樹脂100重量部に対する可塑剤の含有量が0.5~5重量部であるポリビニルアルコール系樹脂水溶液である。そのため、これを用いて製造する偏光膜製造用ポリビニルアルコール系フィルムは、高い幅得率で偏光膜を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に、本発明を詳細に説明する。
本発明の偏光膜製造用ポリビニルアルコール系フィルムは、原料となるポリビニルアルコール系樹脂水溶液を製膜することで製造される。
【0019】
上記ポリビニルアルコール系樹脂水溶液に含まれるポリビニルアルコール系樹脂としては、通常、酢酸ビニルを重合したポリ酢酸ビニルをケン化して得られる樹脂が用いられる。しかし、本発明のポリビニルアルコール系フィルムにおいては、必ずしもこれに限定されるものではなく、酢酸ビニルと、少量の酢酸ビニルと共重合可能な成分との共重合体をケン化して得られる変性ポリビニルアルコール系樹脂を用いることもできる。
ポリビニルアルコール系樹脂の重量平均分子量は、光学性能の点で、10万~30万であることが好ましく、特に好ましくは延伸性の点で11万~28万、更に好ましくは水中での表面の硬さの点で12万~26万である。
ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度は、光学性能の点で、97~100モル%であることが好ましく、特に好ましくは98~100モル%、更に好ましくは99~100モル%である。
【0020】
本発明で用いられるポリビニルアルコール系フィルムは、キャスト法により製造することができる。具体的な製造方法としては、例えば、上記ポリビニルアルコール系樹脂に可塑剤や界面活性剤を添加してポリビニルアルコール系樹脂水溶液(製膜原液)を調液し、かかる水溶液をキャストドラム、キャストベルト、キャスト樹脂フィルム等のキャスト型に吐出及び流延して製膜した後、乾燥し、両端部をスリットしてロールに巻き取る方法が挙げられる。
【0021】
ここで、かかるポリビニルアルコール系樹脂水溶液は、ポリビニルアルコール系樹脂と可塑剤とを含有するポリビニルアルコール系樹脂水溶液であって、ポリビニルアルコール系樹脂100重量部に対する可塑剤の含有量が0.5~5重量部であることが好ましい。
かかる可塑剤としては、例えば、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、エチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、トリメチロールプロパン等が挙げられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いることができる。なかでも、好ましくはグリセリンである。
【0022】
本発明のポリビニルアルコール系フィルムの厚みは、偏光膜の薄型化の点から、5~75μmである。好ましくは、破断回避の点から、20~75μm、特に好ましくは20~60μmである。
また、本発明のポリビニルアルコール系フィルムの幅は2m以上であり、好ましくは4m以上、大面積化の点から特に好ましくは4.5m以上、破断回避の点から更に好ましくは4.5~6mであり、本発明のポリビニルアルコール系フィルムの長さは2km以上であり好ましくは4km以上、大面積化の点から特に好ましくは4.5km以上、輸送重量の点から更に好ましくは4.5~30kmである。
【0023】
本発明の偏光膜製造用ポリビニルアルコール系フィルムは、23.5℃の水中に5分間浸漬後の幅方向の膨潤度X(%)が120≦X≦140であること、および偏光膜製造試験を行った際にフィルム幅得率W(%)がW≧43であることを最大の特徴とする。
【0024】
まず、本発明のポリビニルアルコール系フィルムの23.5℃の水中に5分間浸漬後の幅方向の膨潤度X(%)については、120≦X≦140であることが必要であり、好ましくは122≦X≦138、特に好ましくは124≦X≦136である。かかる膨潤度X(%)が上限値よりも大きいとフィルムに皺が発生してしまい、下限値よりも小さすぎると偏光膜製造時のフィルムの幅得率が低下してしまい本発明の目的を達成することができない。なお、上記膨潤度X(%)は、下記式により算出することができる。
膨潤度X(%)=(浸漬後の幅方向の寸法/浸漬前の幅方向の寸法)×100
【0025】
次に、上記偏光膜製造試験時の幅得率について説明する。
前述のように、偏光膜の製造工程において、長さ方向への延伸を行う際は、フィルムの幅方向の収縮が起こりやすいため、通常、幅方向に対し、収縮を抑制することが好ましい。
本発明における偏光膜製造試験は、長さ方向へ延伸した際の幅方向への収縮を評価する試験であり、具体的には、本発明のポリビニルアルコール系フィルムから120mm(長さ方向)×50mm(幅方向)の試験片を切り出し、温度60℃、ホウ酸濃度40g/L、ヨウ化カリウム濃度35g/Lの水溶液中において、チャック間距離を40mmとして、長さ方向に延伸速度0.09m/分で延伸倍率6倍まで湿式一軸延伸後に80℃で40秒間乾燥する試験である。
そして、下式(1)の通り計算される値をフィルム幅得率W(%)とする。
フィルム幅得率W(%)=(β)/(α)×100 ・・・(1)
(ただし、式中(α)は試験前のチャック間中央部における試験片幅であり、(β)は試験後のチャック間中央部における試験片幅である。)
【0026】
本発明のポリビニルアルコール系フィルムは、上述した偏光膜製造試験を行うことによって求められるフィルム幅得率W(%)がW≧43であることが必要であり、好ましくはW≧43.5、特に好ましくはW≧44である。また幅得率Wの上限については、通常W≦50である。
かかるフィルムの幅得率Wが下限値未満であると偏光膜の取得率が悪化し、本発明の目的を達成することができない。
【0027】
上記膨潤度X(%)および幅得率W(%)を制御する手法としては、ポリビニルアルコール系フィルムの含有する可塑剤量を比較的少なくする手法、ポリビニルアルコール系フィルムの含有水分量を比較的高くする方法、フィルム幅方向(TD)への配向を抑制する方法等が挙げられ、これらを単独でまたは2種以上組み合わせることにより、膨潤度X(%)および幅得率W(%)を制御することができる。これらのなかでも、ポリビニルアルコール系フィルムの含有する可塑剤量を調節する手法がとりわけ効果的である。
【0028】
上記ポリビニルアルコール系フィルム中の可塑剤含有量により膨潤度X(%)および幅得率W(%)を制御する場合、かかる可塑剤の含有割合は、0.5~5重量%であることが好ましく、特に好ましくは1~4.5重量%、更に好ましくは2~4重量%である。
かかる可塑剤の含有割合が多すぎると偏光膜製造時のフィルムの幅得率が低下する傾向があり、少なすぎると膨潤速度が低下し皺が発生しやすい傾向がある。
【0029】
上記ポリビニルアルコール系フィルム中の水の含有量により膨潤度X(%)および幅得率W(%)を制御する場合、かかる水の含有割合は、1~9重量%であることが好ましく、特に好ましくは2~8重量%、更に好ましくは3~7重量%である。
かかる水の含有割合が多すぎると偏光膜製造時のフィルムの幅得率が低下する傾向があり、少なすぎると膨潤速度が低下し皺が発生しやすい傾向がある。
【0030】
また、本発明のポリビニルアルコール系フィルムは、23.5℃の水中に5分間浸漬後の長さ方向の膨潤度Y(%)が110≦Y≦140であることが好ましく、特に好ましくは115≦Y≦135、更に好ましくは120≦Y≦130である。
かかる膨潤度Y(%)が大きすぎる光学特性が低下しやすい傾向があり、低すぎるとフィルムに皺が発生しやすい傾向がある。上記膨潤度Y(%)は、下記式により算出することができる。
膨潤度Y(%)=(浸漬後の長さ方向の寸法/浸漬前の長さ方向の寸法)×100
【0031】
また、本発明のポリビニルアルコール系フィルムは、30℃の水中に30秒間浸漬し膨潤させる際の面積膨潤速度S(%/秒)が0.2~1.6%/秒であることが好ましく、特に好ましくは0.4~1.4%/秒、更に好ましくは0.6~1.2%/秒である。
かかる面積膨潤速度が速すぎる場合には、フィルムに皺が発生しやすい傾向がある。かかる面積膨潤速度が遅すぎる場合は、偏光膜製造時の膨潤不足により偏光膜の取得率が悪化する傾向がある。なお、上記面積膨潤速度S(%/秒)は、下式により算出することができる。
面積膨潤速度S(%/秒)=〔浸漬後のフィルム面積(mm2)-浸漬前のフィルム面積(mm2)〕/〔浸漬前のフィルム面積(mm2)×30(秒)〕×100
【0032】
次に、本発明の偏光膜について説明する。
【0033】
本発明の偏光膜は、上記ポリビニルアルコール系フィルムを、ロールから巻き出して水平方向に移送し、膨潤、染色、ホウ酸架橋、延伸、洗浄、乾燥等の工程を経て製造される。
【0034】
膨潤工程は、染色工程の前に施される。膨潤工程により、ポリビニルアルコール系フィルム表面の汚れを洗浄することができるほかに、ポリビニルアルコール系フィルムを膨潤させることで染色ムラ等を防止する効果もある。膨潤工程において、処理液としては、通常、水が用いられる。当該処理液は、主成分が水であれば、ヨウ化化合物、界面活性剤等の添加物、アルコール等が少量入っていてもよい。膨潤浴の温度は、通常10~45℃程度であり、膨潤浴への浸漬時間は、通常0.1~10分間程度である。また、必要に応じて処理中に延伸操作を行ってもよい。
【0035】
上記染色工程は、フィルムにヨウ素または二色性染料を含有する液体を接触させることによって行われる。通常は、ヨウ素-ヨウ化カリウムの水溶液が用いられ、ヨウ素の濃度は0.1~2g/L、ヨウ化カリウムの濃度は1~100g/Lが適当である。染色時間は30~500秒程度が実用的である。処理浴の温度は5~50℃が好ましい。水溶液には、水溶媒以外に水と相溶性のある有機溶媒を少量含有させてもよい。また、必要に応じて処理中に延伸操作を行ってもよい。
【0036】
上記ホウ酸架橋工程は、ホウ酸やホウ砂等のホウ素化合物を使用して行われる。ホウ素化合物は水溶液または水-有機溶媒混合液の形で濃度10~100g/L程度で用いられ、液中にはヨウ化カリウムを共存させるのが、偏光性能の安定化の点で好ましい。処理時の温度は30~70℃程度、処理時間は0.1~20分間程度が好ましく、また必要に応じて処理中に延伸操作を行ってもよい。
【0037】
上記延伸工程は、フィルムを一軸方向に3~10倍、好ましくは3.5~6倍延伸することが好ましい。この際、延伸方向の直角方向にも若干の延伸(幅方向の収縮を防止する程度、またはそれ以上の延伸)を行っても差し支えない。延伸時の温度は、30~170℃が好ましい。更に、延伸倍率は最終的に上記範囲に設定されればよく、延伸操作は一段階のみならず、製造工程の任意の範囲の段階に実施すればよい。
【0038】
上記洗浄工程は、例えば、水やヨウ化カリウム等のヨウ化物水溶液にポリビニルアルコール系フィルムを浸漬することにより行われ、フィルムの表面に発生する析出物を除去することができる。ヨウ化カリウム水溶液を用いる場合のヨウ化カリウム濃度は1~80g/L程度でよい。洗浄処理時の温度は、通常、5~50℃、好ましくは10~45℃である。処理時間は、通常、1~300秒間、好ましくは10~240秒間である。なお、水洗浄とヨウ化カリウム水溶液による洗浄は、適宜組み合わせて行ってもよい。
【0039】
上記乾燥工程は、大気中で40~80℃で1~10分間行えばよい。
【0040】
上記の一連の製造工程により製造される偏光膜の偏光度は、好ましくは99.5%以上、より好ましくは99.8%以上である。偏光度が低すぎると液晶ディスプレイにおけるコントラストを確保することができなくなる傾向がある。
なお、偏光度は、一般的に2枚の偏光膜を、その配向方向が同一方向になるように重ね合わせた状態で、波長λにおいて測定した光線透過率(H11)と、2枚の偏光膜を、配向方向が互いに直交する方向になる様に重ね合わせた状態で、波長λにおいて測定した光線透過率(H1)とを用い、下式にしたがって算出される。
偏光度=〔(H11-H1)/(H11+H1)〕1/2
【0041】
更に、本発明の偏光膜の単体透過率は、好ましくは42%以上である。かかる単体透過率が低すぎると液晶ディスプレイの高輝度化を達成できなくなる傾向がある。
単体透過率は、分光光度計を用いて偏光膜単体の光線透過率を測定して得られる値である。
【0042】
かくして、本発明の偏光膜が得られるが、本発明の偏光膜は、偏光ムラの少ない偏光板を製造するのに好適である。
以下、本発明の偏光板の製造方法について説明する。
【0043】
本発明の偏光膜は、その片面または両面に、接着剤を介して、光学的に等方性な樹脂フィルムを保護フィルムとして貼合されて偏光板となる。保護フィルムとしては、例えば、セルローストリアセテート、セルロースジアセテート、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、シクロオレフィンポリマー、シクロオレフィンコポリマー、ポリスチレン、ポリエーテルスルホン、ポリアリーレンエステル、ポリ-4-メチルペンテン、ポリフェニレンオキサイド等のフィルムまたはシートが挙げられる。
【0044】
貼合方法は、公知の手法で行われ、例えば、液状の接着剤組成物を、偏光膜、保護フィルム、あるいはその両方に均一に塗布した後、両者を貼り合わせて圧着し、加熱や活性エネルギー線を照射すればよい。
【0045】
また、偏光膜には、薄膜化を目的として、上記保護フィルムの代わりに、その片面または両面にウレタン系樹脂、アクリル系樹脂、ウレア樹脂等の硬化性樹脂を塗布し、硬化させることにより偏光板とすることもできる。
【0046】
本発明により得られる偏光膜や偏光板は、携帯情報端末機、パソコン、テレビ、プロジェクター、サイネージ、電子卓上計算機、電子時計、ワープロ、電子ペーパー、ゲーム機、ビデオ、カメラ、フォトアルバム、温度計、オーディオ、自動車や機械類の計器類等の液晶表示装置、サングラス、防眩メガネ、立体メガネ、ウェアラブルディスプレイ、表示素子(CRT、LCD、有機EL、電子ペーパー等)用反射防止層、光通信機器、医療機器、建築材料、玩具等に好ましく用いられる。
【実施例
【0047】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り以下の実施例に限定されるものではない。
尚、例中「部」とあるのは、重量基準を意味する。
各物性について、次のようにして測定を行った。
【0048】
<測定条件>
(1)フィルム中の水分量(重量%)
得られたポリビニルアルコール系フィルムから幅100mm×長さ100mmの試験片を切り出し、乾燥前の重量A(g)と、雰囲気温度を105℃とした乾燥機で16時間乾燥後の重量B(g)から、下式により水分量(重量%)を算出した。
水分量(重量%)=(A-B)/A×100
【0049】
(2)フィルム中の可塑剤量(重量%)
得られたポリビニルアルコール系フィルムから幅100mm×長さ100mmの試験片を切り出し雰囲気温度を105℃とした乾燥機で16時間乾燥させた後、更にそこから試験片1gを切り出し、溶媒としてメタノール40mLを用いて、高速溶媒抽出装置で可塑剤を抽出した。得られた抽出液をエバポレータで濃縮後、メスフラスコで10mLに定容し、定容液10μLを、バイアルビン中でトリメチルシリル化試薬N-methyl-N-trimethylsilyl trifluoroacetamide(MSTFA)400μLと混合および加温(60℃)することで、可塑剤をトリメチルシリル誘導体化した。誘導体化した液1μLを、ガスクロマトグラフ/質量分析測定(GC/MS)することにより、可塑剤を定量し、得られた重量から、フィルム1gに対する可塑剤量(重量%)を算出した。
【0050】
(3)幅方向の膨潤度X(%)、長さ方向の膨潤度Y(%)
得られたポリビニルアルコール系フィルムから、幅100mm×長さ100mmのフィルムを1枚切り出し、23.5℃の水中で5分間浸漬して膨潤させた。浸漬前後のフィルムの寸法から、下記式に従い、幅方向の膨潤度X(%)、長さ方向の膨潤度Y(%)を算出した。
膨潤度X(%)=浸漬後の幅方向の寸法(mm)/浸漬前の幅方向の寸法(mm)×100
膨潤度Y(%)=浸漬後の長さ方向の寸法(mm)/浸漬前の長さ方向の寸法(mm)×100
【0051】
(4)水中浸漬初期の面積膨潤速度(%/秒)
得られたポリビニルアルコール系フィルムから、幅100mm×長さ100mmのフィルムを1枚切り出し、30℃の水中で30秒間浸漬して膨潤させた際の浸漬前後の面積から、下記式に従い、水中浸漬初期の面積膨潤速度S(%/秒)を算出した。
面積膨潤速度S(%/秒)=〔浸漬後のフィルム面積(mm2)-浸漬前のフィルム面積(mm2)〕/〔浸漬前のフィルム面積(mm2)×30(秒)〕×100
【0052】
(5)フィルム幅得率W(%)
得られたポリビニルアルコール系フィルムから、120mm(長さ方向)×50mm(幅方向)の試験片を切り出し、温度60℃、ホウ酸濃度40g/L、ヨウ化カリウム濃度35g/Lの水溶液中において、チャック間距離を40mmとして、長さ方向に延伸速度0.09m/分で延伸倍率6倍まで湿式一軸延伸後に80℃で40秒間乾燥を行った。そして、下式(1)の通り計算される値をフィルム幅得率W(%)とした。
フィルム幅得率W(%)=(β)/(α)×100 ・・・(1)
(ただし、式中(α)は試験前のチャック間中央部における試験片幅であり、(β)は試験後のチャック間中央部における試験片幅である。)
【0053】
なお上記試験(1)~(5)は、いずれも温度23±1℃、相対湿度50±5%の環境下において実施した。
【0054】
<実施例1>
(ポリビニルアルコール系フィルムの作製)
重量平均分子量142,000、ケン化度99.8モル%のポリビニルアルコール系樹脂2,000kg、水5,000kg、可塑剤としてグリセリン80kg(ポリビニルアルコール系樹脂100重量部に対する配合量は合計で4重量部)を入れ、撹拌しながら140℃まで昇温して、樹脂濃度25重量%に濃度調整を行い、均一に溶解してポリビニルアルコール系樹脂水溶液を調製した。次に、上記ポリビニルアルコール系樹脂水溶液を、ベントを有する2軸押出機に供給して脱泡した後、水溶液温度を95℃にし、T型スリットダイ吐出口より、回転するキャストドラムに吐出(吐出速度1.9m/分)および流延して製膜した。その製膜したフィルムをキャストドラムから剥離し、そのフィルムの表面と裏面とを20本の金属製加熱ロールに交互に接触させながら乾燥させた後に水分調整を行った。その後、幅方向の両端部をスリットし、厚さ60μm、幅5m、長さ10kmのポリビニルアルコール系フィルム(水分量2.5重量%)を得た。最後に、そのポリビニルアルコール系フィルムを芯管にロール状に巻き取り、フィルム巻装体を得た。得られたポリビニルアルコール系フィルムの特性を後記の表1に示す。
【0055】
(偏光膜の製造)
上記フィルム巻装体の幅方向の中央部から、120mm(長さ方向),50mm(幅方向)の長方形状にフィルムを切り出して、長さ方向が延伸方向となるように延伸治具(チャック間距離:40mm)に取り付け、水温27℃の水槽に100秒間浸漬したあと、温度27℃、ヨウ素0.7g/L、ヨウ化カリウム25g/Lの水溶液中に35秒間浸漬してヨウ素染色を行った。続いて、温度60℃、ホウ酸濃度40g/L、ヨウ化カリウム濃度35g/Lの水溶液中に浸漬して、ホウ酸架橋しながら長さ方向に延伸速度0.09m/分で延伸倍率6倍まで湿式一軸延伸した。最後に、温度30℃、ヨウ化カリウム50g/Lの水溶液中に6秒間浸漬して洗浄を行い、80℃で40秒間乾燥して総延伸倍率6倍の偏光膜を得た。得られた偏光膜の特性を後記の表1に示す。
【0056】
<実施例2>
実施例1において、ポリビニルアルコール系フィルムの水分量を5.3重量%に変えた以外は同様にして、ポリビニルアルコール系フィルム、および偏光膜を得た。得られたポリビニルアルコール系フィルムの特性、偏光膜の特性を後記の表1に示す。
【0057】
<実施例3>
実施例1において、ポリビニルアルコール系樹脂水溶液の吐出速度を1.4m/分にすることでポリビニルアルコール系フィルムの厚さを45μm、水分量を6.1重量%に変えた以外は同様にして、ポリビニルアルコール系フィルム、および偏光膜を得た。得られた偏光膜の特性を後記の表1に示す。
【0058】
<比較例1>
実施例1において、可塑剤の配合量をグリセリン240kg(ポリビニルアルコール系樹脂100重量部に対する配合量は合計で12重量部)にして、ポリビニルアルコール系フィルムの水分量を2.8重量%に変えた以外は同様にして、ポリビニルアルコール系フィルム、および偏光膜を得た。得られたポリビニルアルコール系フィルムの特性、偏光膜の特性を下記の表1に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
実施例1~3のポリビニルアルコール系フィルムでは、偏光膜製造時に高い幅得率で偏光膜が得られるのに対し、幅方向の膨潤度(X)が本発明の特定の範囲外である比較例1のポリビニルアルコール系フィルムは、偏光膜製造時の幅得率が低いものであることがわかる。
【0061】
上記実施例においては、本発明における具体的な形態について示したが、上記実施例は単なる例示にすぎず、限定的に解釈されるものではない。当業者に明らかな様々な変形は、本発明の範囲内であることが企図されている。
【産業上の利用可能性】
【0062】
本発明の偏光膜製造用光学用ポリビニルアルコール系フィルムから得られる偏光膜は、電子卓上計算機、電子時計、ワープロ、パソコン、携帯情報端末機、液晶テレビ、プロジェクター、サイネージ、ゲーム機、自動車や機械類の計器類等の液晶表示装置、サングラス、防目メガネ、立体メガネ、表示素子(CRT、LCD、有機EL、電子ペーパー等)用反射低減層、医療機器、光通信機器、建築材料、玩具等に好ましく用いられる。