(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-28
(45)【発行日】2024-01-12
(54)【発明の名称】スパッタリングターゲット材
(51)【国際特許分類】
C23C 14/34 20060101AFI20240104BHJP
C22C 21/00 20060101ALI20240104BHJP
C22C 27/04 20060101ALI20240104BHJP
C22C 27/02 20060101ALI20240104BHJP
C22C 1/04 20230101ALN20240104BHJP
B22F 3/10 20060101ALN20240104BHJP
【FI】
C23C14/34 A
C22C21/00 N
C22C27/04 101
C22C27/04 102
C22C27/02 103
C22C27/02 102Z
C22C1/04 C
C22C1/04 D
C22C1/04 E
B22F3/10 F
(21)【出願番号】P 2020002713
(22)【出願日】2020-01-10
【審査請求日】2022-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000180070
【氏名又は名称】山陽特殊製鋼株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】弁理士法人有古特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松原 慶明
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 浩之
【審査官】西田 彩乃
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-097697(JP,A)
【文献】特開2010-061770(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0165016(US,A1)
【文献】特開2016-166392(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/34
C22C 21/00
C22C 27/04
C22C 27/02
C22C 1/04
B22F 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
その材質が、高融点金属MとAlとを含み残部が不可避的不純物である合金であり、
上記高融点金属Mが、Ta、W、Nb及びMoからなる群から選択される1種又は2種以上であり、
上記合金におけるAlの含有量が1at.%以上70at.%以下であり、
その相対密度が98%以上であり、
X線回折測定により得られる回折パターンにおいて
、高融点金属Mに由来するM相の回折ピークが検出さ
れ、
高融点金属Mに由来するM相の(2,0,0)面の回折ピーク強度I
M
に対する、Al相の(2,0,0)面の回折ピーク強度I
Al
の比I
Al
/I
M
が、0~0.01である、スパッタリングターゲット材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属薄膜を形成するためのスパッタリングに用いられるターゲット材に関する。
【背景技術】
【0002】
アークイオンプレーティング、スパッタリング等による薄膜形成に、高融点金属及びアルミニウム(Al)を含む合金からなるターゲット材が用いられている。
【0003】
従来、ターゲット材の製造方法としては、原料である金属粉末を溶解して鋳造する溶解法と、複数の金属粉末又は合金粉末を加圧焼成する粉末冶金法とが知られている。融点が大きく異なる2種以上の金属粉末を原料としてターゲット材を製造する場合、溶解法では、原料粉末の融点の差に起因して凝固時に偏析が生じる。このため、ターゲット材の部位によって組成が不均一になるという問題があった。
【0004】
特許文献1には、金属間化合物が微細でかつマクロな偏析を低減したAl系スパッタリングターゲット材及びその製造方法が開示されている。このターゲット材の製造方法は、粉末冶金法に関し、Al合金の急冷凝固粉末又は純Al粉末との混合粉末を、400~600℃で加圧焼結することを特徴としている。
【0005】
特許文献2には、アークイオンプレーティング時にドロップレットの原因となる単体の金属Ti及び金属Alが残存しない、Ti-Al系合金ターゲットが開示されている。このターゲットの製造方法は、Ti粉末及びAl粉末の混合粉を含む成形体を、アルミニウムの融点未満の温度で加熱する熱処理工程と、アルミニウムの融点より高くチタンの融点より低い温度で加圧焼結する加圧焼結工程と、を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平11-293454号公報
【文献】特開2010-95770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
Alの融点は約660℃(1気圧下)である。Al粉末と、その融点がAlより高い高融点金属粉末と、の混合粉末からなる成形体を焼結する場合、特許文献1及び2が開示するように、Alの融点未満の温度では、高融点金属粉末の焼結が進行しないため、高密度のターゲット材が得られない。密度の低いターゲット材は、強度に劣る。このターゲット材は、スパッタリング時に割れる場合がある。このターゲット材は、使用効率に劣る。
【0008】
特許文献2では、Alの融点以上でさらに焼結処理することで、Alの融点未満での加熱処理後に残存する単体の金属Tiを反応させている。特許文献2のターゲットの製造には、複数の工程が必要であり、製造効率上、好ましくない。
【0009】
本発明の目的は、高融点金属とAlとを含む合金からなり、使用効率の高くかつ製造容易なスパッタリングターゲット材の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係るスパッタリングターゲットの材質は、高融点金属MとAlとを含み残部が不可避的不純物である合金である。この高融点金属Mは、Ta、W、Nb及びMoからなる群から、1種又は2種以上が選択される。この合金におけるAlの含有量は、1at.%以上70at.%以下である。このスパッタリングターゲット材の相対密度は98%以上である。
【0011】
好ましくは、このスパッタリングターゲット材の回折パターンでは、高融点金属Mに由来するM相の回折ピークが検出される。
【0012】
好ましくは、このスパッタリングターゲット材では、高融点金属Mに由来するM相の(2,0,0)面の回折ピーク強度IMに対する、Al相の(2,0,0)の回折ピーク強度IAlの比IAl/IMが、0~0.01である。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るターゲット材は高密度である。このターゲット材は、強度に優れる。このターゲット材によれば、スパッタリング時の割れが生じにくい。このターゲット材を用いたスパッタリングでは、パーティクルの発生が抑制される。さらに、このターゲット材は、複雑な工程を要することなく製造されうる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係るスパッタリングターゲット材について得られたX線回折パターンである。
【
図2】
図2は、比較例1のスパッタリングターゲット材について得られたX線回折パターンである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。なお、本願明細書において、特に記載がない限り、融点Tmは、1気圧下における融点(℃)である。この融点Tmが2000℃以上の金属を、特に「高融点金属M」と称する。範囲を示す「X~Y」は「X以上Y以下」を意味する。
【0016】
本発明に係るスパッタリングターゲット材の材質は、高融点金属M及びAlを含み、その残部が不可避的不純物である合金である。本発明において、高融点金属Mは、Ta(Tm2985℃)、W(Tm3407℃)、Nb(Tm2477℃)及びMo(Tm2623℃)からなる群から選択される1種又は2種以上である。高融点金属Mは、スパッタリングにより得られる薄膜の耐熱性向上に寄与しうる。
【0017】
この合金におけるAlの含有量は、1at.%以上70at.%以下である。Alの含有量が1at.%以上であれば、高融点金属Mとの金属間化合物の形成により、得られる薄膜に、合金としての特性が付与されうる。この観点から好ましいAlの含有量は、5at.%以上である。Alの含有量が70at.%以下であれば、未反応のAlが残留することによる密度の低下が回避される。このターゲット材は、高密度である。このターゲット材によれば、スパッタリング時の割れが生じない。この観点から、Alの含有量は、50at.%以下が好ましく、30at.%以下がより好ましい。なお、本願明細書において、Alの含有量は、高融点金属MとAlとの合計量に対する比率である。
【0018】
本発明の効果が得られる限り、この合金における高融点金属Mの含有量は特に限定されない。好ましくは、高融点金属Mの含有量は、30at.%以上99at.%以下である。この合金が、高融点金属Mとして、Ta、W、Nb及びMoからなる群から選択される2種以上を含む場合、その合計含有量が30at.%以上99at.%以下とされる。高融点金属Mの合計含有量が30at.%以上であれば、Alとの反応が十分に促進され、ターゲット材の高密度化が達成される。このターゲット材は強度に優れる。高融点金属Mの合計含有量が99at.%以下であれば、Alとの金属間化合物の形成により、得られる薄膜に合金特性が付与されうる。なお、本願明細書において、高融点金属Mの含有量は、高融点金属MとAlとの合計量に対する比率である。
【0019】
不可避的不純物としては、O、S、C及びNが例示される。好ましくは、Oの含有量は5000ppm以下であり、Sの含有量は200ppm以下であり、Cの含有量は300ppm以下であり、Nの含有量は300ppm以下である。
【0020】
本発明に係るスパッタリングターゲット材のアルキメデス法による相対密度は、98%以上である。この相対密度が98%以上であるターゲット材は、強度に優れる。このターゲット材によれば、スパッタリング時に割れが生じにくい。さらに、このターゲット材では、スパッタリング時のパーティクル発生が低減される。この観点から、ターゲット材の相対密度は98.5%以上が好ましく、99%以上がより好ましい。理想的な相対密度は、100%である。
【0021】
相対密度は、スパッタリングターゲット材の各成分の含有量と密度とから算出される理論密度に対する、スパッタリングターゲット材の真密度の比率である。この真密度は、アルキメデス法によって測定される。測定に供される試験片は、母材からワイヤーカットにて切り出される。この試験片の表面は、研磨によって平滑にされる。試験片のサイズは、幅10mm、長さ20mm、厚さ5mmである。
【0022】
このスパッタリングターゲット材は、粉末冶金法によって製造されうる。このターゲット材の製造方法では、その材質がAlである粉末と、その材質が高融点金属Mである1種又は2種以上の粉末とが混合されて、混合粉末が得られる。この混合粉末は、多数の粒子からなる。この混合粉末が、所定の形状に成形され、液相加圧焼結されて、スパッタリングターゲット材が得られる。液相加圧焼結では、一部の粒子が溶融して液相となり、固体粒子間に浸透することにより、ターゲット材の高密度化が進行する。この観点から、焼結温度は、ターゲット材をなす合金を構成する複数の金属の内、少なくとも1つの金属が溶融し、他の金属が溶融しない温度が好ましい。焼結時の圧力及び時間は、選択される原料粉末の種類及び組成により、適宜調整されうる。
【0023】
このスパッタリングターゲット材をX線回折測定(XRD測定)して得られる回折パターンでは、通常、金属間化合物相の回折ピークが検出される。この金属間化合物は、焼結中に、Alと高融点金属Mとが反応することによって生じる。
【0024】
好ましくは、このターゲット材について得られる回折パターンでは、Al相の回折ピークが検出されない。Al相は、その材質がAlである粒子に由来する。詳細には、Al相は、焼結後未反応で残存しているAlに由来する。このAl相が検出されないターゲット材とは、換言すれば、原料粉末として供されたAlのほとんどが、焼結時に溶融して、高融点金属Mの粒子間に浸透し、高融点金属Mとの反応に消費されたターゲット材を意味する。このターゲット材は、高密度である。このターゲット材では、スパッタリング時に割れが生じにくい。さらに、このターゲット材によれば、Al相に起因するパーティクルの発生が抑制される。
【0025】
好ましくは、このターゲット材について得られる回折パターンでは、M相の回折ピークが検出される。M相は、その材質が高融点金属Mである粒子に由来する。詳細には、M相は、焼結後未反応で残存している高融点金属Mに由来する。前述した通り、高融点金属Mの融点は、2000℃以上である。このM相に起因してパーティクルが発生する可能性は、小さい。このターゲット材では、未反応の高融点金属Mに由来するM相の残存が許容される。従って、このターゲット材の製造には、二段階加熱等の工程を要さない。
【0026】
このターゲット材について得られる回折パターンにおいて、高融点金属Mに由来するM相の(2,0,0)面の回折ピーク強度をIMとし、Al相の(2,0,0)面の回折ピーク強度をIAlとするとき、強度比IAl/IMが0~0.01であることが好ましい。理想的には、強度比IAl/IMは0である。
【0027】
スパッタリングターゲット材のXRD測定には、既知の方法及び装置が使用されうる。例えば、株式会社リガクの全自動多目的X線回折装置「SmartLab SE」を用いて得られる回折パターンが、既知の標準データと照合されて、相組成分析がおこなわれる。XRD測定に用いる試験片のサイズは、幅10mm、長さ20mm、厚さ5mmである。この試験片は、母材からワイヤーカットにて切り出される。この試験片の表面は、研磨によって平滑にされる。XRDの条件は、以下の通りである。
線源:CuKα
2θ:20-80°
【0028】
本発明の一実施形態に係るスパッタリングターゲット材(後述する実施例1)について得られた回折パターン(スペクトル)が、
図1に示されている。このターゲット材の材質は、Alと、高融点金属であるTaを含み、その残部が不可避的である合金であり、その相対密度は98%以上である。その材質が、Alと、高融点金属であるTaを含み、その残部が不可避的である合金であり、その相対密度が98%未満であるスパッタリングターゲット材(後述する比較例1)について得られた回折パターンが、
図2に示されている。
【0029】
図1及び
図2において、横軸は回折角度(Two-Theta;2θ)であり、縦軸は回折強度(SQR)である。
図1及び
図2中、Ta相による回折ピークが黒三角印で示されており、金属間化合物相(AlTa
2相)による回折ピークが黒四角印で示されており、Al相による回折ピークが白三角印で示されている。図示される通り、本発明の一実施形態に係るターゲット材の回折パターンでは、Ta相の回折ピークは検出されるが、Al相の回折ピークは検出されていない。
【0030】
前述の通り、スパッタリングターゲット材の材料として、Alの粉末が用いられる。この粉末は、一般的には、粉砕法によって製造されうる。Alの粉末の平均粒子径D50は、10μm以上300μm以下が好ましい。
【0031】
前述の通り、スパッタリングターゲット材の材料として、高融点金属Mの粉末が用いられる。この粉末は、一般的には、化学還元法によって製造されうる。高融点金属Mの粉末の平均粒子径D50は、1μm以上100μm以下が好ましい。
【0032】
Alの粉末と高融点金属Mの粉末とが混合されて、混合粉末が得られる。この粉末を、高圧下で加熱して固化成形することにより、焼結体が形成される。この焼結体を、機械的手段等で適正な形状に加工することにより、スパッタリングターゲット材が得られる。
【0033】
本発明の効果が阻害されない限り、混合粉末を固化成形する方法及び条件は、特に限定されず、例えば、熱間等方圧プレス法(HIP法)、ホットプレス法、放電プラズマ焼結法(SPS法)、熱間押出法等が適宜選択される。また、固化成形して得られた焼結体を加工する方法も、特に限定されず、既知の機械的加工手段が用いられ得る。
【0034】
固化成形において、典型的には、熱間等方圧プレス法(HIP法)が用いられる。成形時の好ましい圧力は、50MPa以上300MPa以下である。焼結時の温度は、800℃以上1250℃以下が好ましい。800℃以上の温度で加圧されることにより、大きな相対密度を有するスパッタリングターゲット材が得られうる。この観点から、温度は900℃以上がより好ましく、1000℃以上が特に好ましい。1250℃以下の温度で加圧されることにより、ターゲット材の変形が抑制されうる。この観点から、温度は1200℃以下がより好ましく、1150℃以下が特に好ましい。
【0035】
このターゲット材は、高融点金属及びAlを含む合金からなる薄膜を形成するためのスパッタリングに好適に使用される。このターゲット材によれば、スパッタリング時の割れやパーティクルの発生等の不具合が生じない。このターゲット材を用いることにより、得られる薄膜の品質が向上する。
【実施例】
【0036】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0037】
[スパッタリングターゲット材の製造]
表1-2に示される組成となるように、各原料粉末を秤量し、V型混合機にて混合することにより、混合粉末を得た。得られた混合粉末を、炭素鋼で形成された缶(外径220mm、内径210mm、長さ200mm)に充填して真空脱気した後、HIP装置を用いて、表1-2に示された加圧焼結温度にて液相加圧焼結することにより、焼結体を作製した。HIPの条件は、以下の通りである。
圧力:120MPa
保持時間:2時間
【0038】
得られた焼結体を、ワイヤーカット、旋盤加工及び平面研磨により、直径180mm、厚さ7mmの円盤状に加工することにより、実施例1-10のターゲット材及び比較例1-6のターゲット材を製造した。各スパッタリングターゲット材は、全て同形であり、円盤形状(直径95mm、厚さ2mm)であった。
【0039】
[相対密度測定]
実施例1-10のターゲット材及び比較例1-6のターゲット材から、それぞれ試験片を採取して、前述の方法により相対密度を測定した。得られた結果が、表1-2に示されている。
【0040】
【0041】
【0042】
[X線回折測定]
実施例1-10のターゲット材及び比較例1-6のターゲット材から、それぞれ試験片を採取して、前述の方法によりXRD測定をおこなった。各ターゲット材について得られた回折パターンを、既知の標準データと照合することにより、各相組成を分析した。また、得られた回折パターンから、高融点金属Mに由来するM相の(2,0,0)面の回折ピーク強度IMに対する、Al相の(2,0,0)面の回折ピーク強度IAlの比IAl/IMを算出した。得られた表1-2に示されている。
【0043】
実施例1のターゲット材について得られた回折パターンが、
図1に示されている。
図1中、黒三角印及び黒四角印は、それぞれ、Ta相及び金属間化合物AlTa
2相による回折ピークである。実施例1のターゲット材では、Al相による回折ピークが検出されず、Ta相による回折ピークが検出された。
【0044】
比較例1のターゲット材について得られた回折パターンが、
図2に示されている。
図2中、黒三角印及び白三角印は、それぞれ、Ta相及びAl相による回折ピークである。比較例2のターゲット材では、Al相による回折ピークが検出された。
【0045】
表1-2に示される通り、実施例のターゲット材は、比較例のターゲット材に比べて高密度である。実施例のターゲット材は強度に優れるため、スパッタリングにおける使用効率が高い。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0046】
以上説明されたスパッタリングターゲット材は、液晶配線膜等種々の分野における薄膜形成に利用されうる。