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特許7412485金属複合水酸化物粒子及びリチウム二次電池用正極活物質の製造方法
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  • 特許-金属複合水酸化物粒子及びリチウム二次電池用正極活物質の製造方法 図1
  • 特許-金属複合水酸化物粒子及びリチウム二次電池用正極活物質の製造方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-28
(45)【発行日】2024-01-12
(54)【発明の名称】金属複合水酸化物粒子及びリチウム二次電池用正極活物質の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20240104BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20240104BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20240104BHJP
【FI】
H01M4/525
C01G53/00 A
H01M4/505
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2022114297
(22)【出願日】2022-07-15
【審査請求日】2023-04-17
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】592197418
【氏名又は名称】株式会社田中化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100196058
【弁理士】
【氏名又は名称】佐藤 彰雄
(74)【代理人】
【識別番号】100153763
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 広之
(74)【代理人】
【識別番号】100214215
【弁理士】
【氏名又は名称】▲高▼梨 航
(72)【発明者】
【氏名】高森 健二
(72)【発明者】
【氏名】片桐 一貴
【審査官】小森 重樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/152883(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/198351(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00-62
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム二次電池用正極活物質の前駆体として用いられる金属複合水酸化物粒子であって、
Ni、Co、及びMnからなる群から選択される少なくとも1種の金属元素を含み、
下記要件(1)~(3)をすべて満たす金属複合水酸化物粒子
(1)平均粒子強度が、45MPa以上200MPa以下である。
(2)平均粒子径D50が、4μm超20μm以下である。
(3)BET比表面積が5m/g以上60m/g以下である。
【請求項2】
下記組成式(I)で表される、請求項1に記載の金属複合水酸化物粒子
Ni(1-x-y-w)CoMn(OH)2-α ・・・式(I)
(前記組成式(I)は、0≦x≦0.5、0≦y≦0.5、0≦w≦0.5、0≦x+y+w<1、0≦z≦3、-0.5≦α<2、及びα-z<2を満たし、MはFe、Cu、Ti、Mg、Al、Zn、Sn、Zr、Nb、Ga、W、Mo、B、及びSiからなる群より選ばれる1種以上の元素である。)
【請求項3】
粒子強度の標準偏差が9MPa以上20MPa以下である、請求項1又は2に記載の金属複合水酸化物粒子
【請求項4】
タップ密度が1.0g/cm以上3.7g/cm以下である、請求項1又は2に記載の金属複合水酸化物粒子
【請求項5】
請求項1又は2に記載の金属複合水酸化物粒子と、リチウム化合物と、を混合する混合工程と、得られた混合物を酸素含有雰囲気下、500℃以上1000℃以下の温度で焼成する焼成工程を有する、リチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属複合化合物及びリチウム二次電池用正極活物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウム二次電池用正極活物質の製造方法としては、例えば、リチウム化合物と、Li以外の金属元素を含む金属複合化合物とを混合して焼成する方法がある。
【0003】
リチウム二次電池の性能向上を目的として、前記金属複合化合物の検討が行われている。例えば、特許文献1には、リチウムイオン二次電池用正極活物質の前駆体であって、複数の板状一次粒子および前記板状一次粒子よりも小さな微細一次粒子が凝集して形成された二次粒子からなる、ニッケルマンガンコバルト含有複合水酸化物が開示されている。前記ニッケルマンガンコバルト含有複合水酸化物を前駆体とするリチウムイオン二次電池用正極活物質を用いて製造されたリチウムイオン二次電池は、耐久性が高く、出力特性に優れることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】JP-A-2020-177860
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
リチウム二次電池の応用分野が進む中、リチウム二次電池には、さらなるサイクル維持率の向上が求められる。
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであって、サイクル維持率が高いリチウム二次電池が得られる、リチウム二次電池用正極活物質の前駆体として用いられる金属複合化合物、及び前記金属複合化合物を用いたリチウム二次電池用正極活物質の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、下記[1]~[5]である。
[1] リチウム二次電池用正極活物質の前駆体として用いられる金属複合化合物であって、Ni、Co、及びMnからなる群から選択される少なくとも1種の金属元素を含み、下記要件(1)~(3)をすべて満たす金属複合化合物。
(1)平均粒子強度が、45MPa以上200MPa以下である。
(2)平均粒子径D50が、4μm超20μm以下である。
(3)BET比表面積が5m/g以上60m/g以下である。
[2] 下記組成式(I)で表される、[1]に記載の金属複合化合物。
Ni(1-x-y-w)CoMn(OH)2-α ・・・式(I)
(前記組成式(I)中は、0≦x≦0.5、0≦y≦0.5、0≦w≦0.5、0≦x+y+w<1、0≦z≦3、-0.5≦α≦2、及びα-z<2を満たし、MはFe、Cu、Ti、Mg、Al、Zn、Sn、Zr、Nb、Ga、W、Mo、B、及びSiからなる群より選ばれる1種以上の元素である。)
[3] 粒子強度の標準偏差が9以上20以下である、[1]又は[2]に記載の金属複合化合物。
[4] タップ密度が1.0g/cm以上3.7g/cm以下である、[1]~[3]のいずれかに記載の金属複合化合物。
[5] [1]~[4]のいずれかに記載の金属複合化合物と、リチウム化合物と、を混合する混合工程と、得られた混合物を酸素含有雰囲気下、500℃以上1000℃以下の温度で焼成する焼成工程を有する、リチウム二次電池用正極活物質の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、サイクル維持率が高いリチウム二次電池が得られる、リチウム二次電池用正極活物質の前駆体として用いられる金属複合化合物、及び前記金属複合化合物を用いたリチウム二次電池用正極活物質の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】リチウム二次電池の一例を示す概略構成図である。
図2】全固体リチウム二次電池の全体構成を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本明細書における用語の定義は以下の通りである。
金属複合化合物(Metal Composite Compound)を以下「MCC」ともいう。
リチウム二次電池用正極活物質(Cathode Active Material
for lithium secondary batteries)を以下「CAM」ともいう。
「Ni」とは、ニッケル金属単体ではなく、Ni元素であることを示す。Co、Mn等の他の元素の表記も同様である。
「一次粒子」とは、走査型電子顕微鏡などを用いて5000倍以上30000倍以下の視野にて観察した際に、外観上に粒界が存在しない粒子を意味する。
「二次粒子」とは、前記一次粒子が凝集している粒子である。即ち、二次粒子は一次粒子の凝集体である。
数値範囲について、「A以上B以下」を「A~B」と表記する。数値範囲が例えば「1~10MPa」と記載されている場合、1MPaから10MPaまでの範囲を意味し、下限値である1MPaと上限値である10MPaを含む数値範囲を意味する。
【0010】
本明細書におけるMCCの各パラメータの測定方法は以下の通りである。
【0011】
(平均粒子強度)
MCCの平均粒子強度(単位:MPa)は、以下のように測定及び算出することができる。まず、MCCから無作為に20個の二次粒子を選択する。微小圧縮試験機(例えば島津製作所社製、MCT-510)を用いて、選択された二次粒子それぞれについて粒子径及び粒子強度を測定する。ここで、粒子強度Cs(単位:MPa)は、下記式(A)により求められる。下記式(A)中、Pは試験力(単位:N)であり、dは粒子径(単位:mm)である。Pは、試験圧力を徐々にあげて行った際、試験圧力がほぼ一定のまま変位量が最大となる圧力値である。dは、微小圧縮試験機の観察画像におけるX方向とY方向の径を測定し、その平均値を算出した値である。
Cs=2.8P/πd・・・(A)
得られた20個の二次粒子のCsの平均値が平均粒子強度である。
粒子強度は、粒子径で規格化されているため、各粒子の構造が同じであれば粒子径が異なる粒子であっても同等(平均粒子強度±5%)の粒子強度となる。一方で、粒子間で粒子強度が異なれば、それぞれの粒子の構造が異なるといえる。
【0012】
(粒子強度の標準偏差)
MCCの粒子強度の標準偏差は、上記(平均粒子強度)で求めた平均粒子強度及び20個の二次粒子のCsにより算出することができる。
【0013】
(平均粒子径D50
MCCの平均粒子径D50(単位:μm)は、レーザー回折散乱法によって測定されるMCCの粒度分布から求めることができる。具体的には、測定対象、例えばMCCの粉末0.1gを、0.2質量%ヘキサメタりん酸ナトリウム水溶液50mLに投入し、前記粉末を分散させた分散液を得る。次に、得られた分散液についてレーザー回折散乱粒度分布測定装置(例えば、マイクロトラック・ベル株式会社製、マイクロトラックMT3300EXII)を用いて、粒度分布を測定し、体積基準の累積粒度分布曲線を得る。得られた累積粒度分布曲線において、微小粒子側から50%累積時の粒子径の値が50%累積体積粒度であり、本明細書における平均粒子径(以下、D50と記載することがある)である。
【0014】
(BET比表面積)
MCCのBET比表面積(単位:m/g)は、BET(Brunauer,Emmett,Teller)法によって測定することができる。BET比表面積の測定では、吸着ガスとして窒素ガスを用いる。例えば、MCC粉末1gを窒素雰囲気中、105℃で30分間乾燥させた後、BET比表面積計(例えば、マウンテック社製、Macsorb(登録商標))を用いて測定することができる。
【0015】
(組成)
MCCの各元素の組成は、誘導結合プラズマ発光分析法(ICP)により測定することができる。例えば、MCCを塩酸に溶解させた後、誘導結合プラズマ発光分析装置(例えば、エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製、SPS3000)を用いて、各元素量の測定を行うことができる。
【0016】
(タップ密度)
MCCのタップ密度(単位:g/cm)は、JIS R 1628-1997に準拠して測定することができる。
【0017】
本明細書におけるCAMの評価方法は以下の通りである。
【0018】
(サイクル維持率)
<リチウム二次電池用正極の作製>
後述する製造方法で得られるCAMと導電材(アセチレンブラック)とバインダー(PVdF)とを、CAM:導電材:バインダー=92:5:3(質量比)の組成となるように加えて混練することにより、ペースト状の正極合剤を調製する。正極合剤の調製時には、N-メチル-2-ピロリドンを有機溶媒として用いる。
【0019】
得られた正極合剤を、集電体となる厚さ40μmのAl箔に塗布して150℃で8時間真空乾燥を行い、リチウム二次電池用正極を得る。このリチウム二次電池用正極の電極面積は1.65cmとする。
【0020】
<リチウム二次電池(コイン型ハーフセル)の作製>
以下の操作を、アルゴン雰囲気のグローブボックス内で行う。
上述のリチウム二次電池用正極を、コイン型電池R2032用のパーツ(宝泉株式会社製)の下蓋にアルミ箔面を下に向けて置き、その上にポリエチレン製多孔質フィルムの上に耐熱多孔層を積層した積層フィルムセパレータ(厚み16μm)を置く。ここに電解液を300μl注入する。電解液は、エチレンカーボネートとジメチルカーボネートとエチルメチルカーボネートを30:35:35(体積比)で混合した混合液にLiPFを1mol/lとなるように溶解した液体を用いる。
次に、負極として金属リチウムを用いて、セパレータの上側に置き、ガスケットを介して上蓋をし、かしめ機でかしめてリチウム二次電池を作製する。
【0021】
作製したリチウム二次電池を用いて以下の方法で充放電サイクルの繰り返し試験を実施し、サイクル維持率を算出する。
【0022】
・充放電サイクルの繰り返し試験
リチウム二次電池を室温で12時間静置することでセパレータ及び正極合剤層に充分電解液を含浸させる。
次に、試験温度25℃において、充電及び放電ともに電流設定値0.2CAとし、それぞれ定電流定電圧充電と定電流放電を行う。充電最大電圧は、4.3V、放電最小電圧は2.5Vとする。充電時間は6時間、放電時間は5時間とする。
次いで、試験温度25℃において、以下の条件で定電流定電圧充電と定電流放電を繰り返す。充放電サイクルの繰り返し回数は50回である。
充電:電流設定値1CA、最大電圧4.3V、定電圧定電流充電
放電:電池設定値1CA、最小電圧2.5V、定電流放電
1サイクル目の放電容量と50サイクル目の放電容量から、下記の式でサイクル維持率を算出する。サイクル維持率が高いほど、充電と放電を繰り返した後の電池の容量低下が抑制されているため、電池性能として望ましいことを意味する。
サイクル維持率(%)=50サイクル目の放電容量(mAh/g)/1サイクル目の放電容量(mAh/g)×100
【0023】
≪金属複合化合物≫
本実施形態のMCCは、CAMの前駆体として用いることができる。MCCは、Ni、Co、及びMnからなる群から選択される少なくとも1種の金属元素を含み、下記要件(1)~(3)をすべて満たす。
(1)平均粒子強度が、45MPa以上200MPa以下である。
(2)平均粒子径D50が、4μm超20μm以下である。
(3)BET比表面積が5m/g以上60m/g以下である。
【0024】
本実施形態のMCCは、複数の粒子の集合体である。言い換えれば、本実施形態のMCCは、粉末状である。本実施形態において、複数の粒子の集合体は、二次粒子のみを含んでいてもよく、一次粒子と二次粒子の混合物であってもよい。
【0025】
<要件(1)>
MCCの平均粒子強度は、45MPa以上200MPa以下であり、45.5~180MPaであることが好ましく、46~150MPaであることがより好ましく、47~80MPaであることがさらに好ましい。平均粒子強度が前記範囲の下限値以上であると、リチウム二次電池作製時のプレス加工や、充放電に伴う体積膨張、収縮により、CAMの粒子が崩壊しにくい。したがって、崩壊による新しい面が生じにくいため、劣化が抑制され、容量が低下しにくくなり、結果としてサイクル維持率が向上する。平均粒子強度が前記範囲の上限値以下であると、CAMやリチウム二次電池を製造する過程における設備からの異物混入が起きにくく、電池としたときの安全性が高まりやすい。
【0026】
要件(1)を充足するMCCは、粒子強度が高いMCCである。粒子強度は、二次粒子中の一次粒子の密度、一次粒子同士の配向、一次粒子間の接触面積、一次粒子間の接着の強さ等の一次粒子の凝集状態に関する複数の因子により決定されると考えられる。また、前記因子は、一次粒子の大きさ、形状等の一次粒子由来の特性にも影響される。例えば、二次粒子中の一次粒子の密度が高いMCCでも、前記その他の因子によっては、MCCの平均粒子強度は45MPa未満となり、前記要件(1)を充足しなくなると考えられる。
【0027】
要件(1)を充足するMCCの二次粒子を構成する一次粒子、及び二次粒子中の一次粒子の凝集状態の好ましい一例を以下に説明する。
一次粒子としては、適度に成長した一次粒子が好ましい。「適度に成長した一次粒子」とは、目的とした結晶構造を有しつつ、過度に成長したことで極端な配向性を有するものではないことを意味する。目的とした結晶構造を有するとは、XRD測定によって帰属される晶系が目的とする結晶構造が属する晶系に合致するかで判断できる。また、過度に成長したことで極端な配向性を有するとは、一次粒子の短軸に対する長軸の比であるアスペクト比が10.0を超える形状を意味する。一次粒子が適度に成長していると、一次粒子が極端に大きくはならず、1μm以下の適度な大きさとなる。適度な大きさの一次粒子は、極端に大きい一次粒子に比べ、単位体積当たりの外表面積が大きくなる。したがって、適度な大きさの一次粒子は極端に大きい一次粒子に比べ、一次粒子が凝集する際に、一次粒子同士の接触面積が大きくなりやすいと考えられる。また、一次粒子が極端な配向性を有すると、二次粒子中の一次粒子の密度が低くなると考えられる。一方、極端な配向性を有さない場合は二次粒子中の一次粒子の密度が高くなると考えられる。
二次粒子中の一次粒子の凝集状態としては、一次粒子の密度が高く、一次粒子同士の配向が適度に分散しており、一次粒子間の接触面積が大きく、一次粒子間の接着の強さが大きいことが好ましい。このような二次粒子は、粒子強度が高くなりやすく、前記要件(1)を充足しやすい。
一次粒子、及び二次粒子中の一次粒子の凝集状態は、走査型電子顕微鏡による観察により確認することができる。
【0028】
二次粒子中の一次粒子のアスペクト比の平均値は、1.0~10.0であることが好ましく、1.1~9.0であることがより好ましく、1.2~8.0であることがさらに好ましい。アスペクト比は一次粒子に外接し、かつ面積が最も小さい矩形の短辺に対する長径の比を意味する。一つの二次粒子の中から任意の20個の一次粒子のアスペクト比を測定し、それらの平均をアスペクト比の平均値とすることができる。
二次粒子から無作為に100個の一次粒子を走査型電子顕微鏡により観察したときに、アスペクト比が8.0未満である一次粒子の個数の割合は、50%~100%であることが好ましく、65%~100%であることがより好ましく、80%~100%であることがさらに好ましい。
また、無作為に抽出した100個の二次粒子のうち、上記のようなアスペクト比の低い一次粒子の割合を持つ二次粒子の個数が、50%~100%であることが好ましく、65%~100%であることがより好ましく、80%~100%であることがさらに好ましい。
二次粒子中の一次粒子の平均粒子径は、50~2000nmであることが好ましく、100~1500nmであることが好ましく、150~1000nmであることがさらに好ましい。一次粒子の粒子径は、一次粒子を走査型電子顕微鏡で観察したときの一次粒子の短軸と長軸の平均を意味する。一つの二次粒子の中から無作為に選択した20個の一次粒子の粒子径の平均を一次粒子の平均粒子径とすることができる。
【0029】
<要件(2)>
MCCのD50は、4μm超20μm以下であり、4.5~16.0μmであることが好ましく、5.0~14.0μmであることがより好ましい。D50が前記範囲の下限値以上であると、得られる電池のエネルギー密度が高まりやすい。D50が前記範囲の上限値以下であると、得られる電池の出力特性が高まりやすい。
【0030】
<要件(3)>
【0031】
MCCのBET比表面積は、5~60m/gであり、6~42m/gであることが好ましく、7~30m/gであることがよりに好ましい。BET比表面積が前記範囲の下限値以上であると、CAMを製造する際にLiとの反応が充分に進行する。BET比表面積が前記範囲の上限値以下であると、CAMを製造する際にLiとの反応制御を行うことが可能となる。具体的には、得られるCAM中に余剰のLiが含まれることを抑制することができ、充放電サイクル中に余剰のLiと電解液との副反応を抑制することができる。結果として、得られるリチウム二次電池のサイクル維持率が向上する。
【0032】
本実施形態のMCCは、前記要件(1)~(3)の他、以下の物性を満たすことが好ましい。
【0033】
MCCの粒子強度の標準偏差は9~20であることが好ましく、10~19であることがより好ましく、11~18であることがさらに好ましい。粒子強度の標準偏差が前記範囲の下限値以上であると、粒子同士の接触による粒子割れが生じにくくハンドリング性が高くなる。粒子強度の標準偏差が前記範囲の上限値以下であると、粒子強度の低い粒子の割合が減り、得られるCAMにおいても粒子強度の低い粒子の割合が減る。結果として、得られるリチウム二次電池を用いて上述の充放電サイクルの繰り返し試験を行う際に、CAMの粒子の割れが抑制され、サイクル維持率が向上する。
【0034】
MCCのタップ密度は、1.0~3.7g/cmであることが好ましく、1.2~3.0g/cmであることがより好ましく、1.4~2.8g/cmであることがさらに好ましい。タップ密度が前記範囲の下限値以上であると、生産性が向上する。タップ密度が前記範囲の上限値以下であると、BET比表面積が上述の範囲の下限値以上となりやすくなる。
【0035】
本実施形態において、MCCの結晶構造は、CAMを製造する際に反応が容易に進行する観点から、層状構造を有し、六方晶、斜方晶、単斜晶のいずれかの結晶系に属することが好ましく、六方晶に属することが特に好ましい。
【0036】
<組成>
MCCは、Ni、Co、及びMnからなる群から選択される少なくとも1種の金属元素を含む。MCCはNiを含むことが好ましく、Ni及びCoを含むことがより好ましい。MCCは、Liを実質的に含まない。Liを実質的に含まないとは、MCCのNi、Co、及びMnの合計のモル数に対するLiのモル数の比が0.1以下であることを意味する。
【0037】
≪組成式≫
MCCは、下記組成式(I)で表される化合物であることが好ましい。
Ni(1-x-y-w)CoMn(OH)2-α ・・・式(I)
前記組成式(I)中、0≦x≦0.5、0≦y≦0.5、0≦w≦0.5、0≦x+y+w<1、0≦z≦3、-0.5≦α≦2、及びα-z<2を満たし、MはFe、Cu、Ti、Mg、Al、Zn、Sn、Zr、Nb、Ga、W、Mo、B、及びSiからなる群より選ばれる1種以上の元素である。
【0038】
MCCは、下記組成式(I)-1で表される水酸化物であることが好ましい。
Ni(1-x-y-w)CoMn(OH)2-α ・・・式(I)-1
前記組成式(I)-1中、0≦x≦0.5、0≦y≦0.5、0≦w≦0.5、0≦x+y+w<1、及び-0.5≦α<2を満たし、MはFe、Cu、Ti、Mg、Al、Zn、Sn、Zr、Nb、Ga、W、Mo、B、及びSiからなる群より選ばれる1種以上の元素である。
【0039】
wが0超の場合、得られるCAMを用いた電池のサイクル特性が高くなりやすい観点からMはTi、Mg、Al、Zr、Nb、W、Mo、B、及びSiからなる群より選ばれる1種以上の元素であることが好ましく、Al、Zr、Nb、W及びBからなる群より選ばれる1種以上の元素であることがより好ましい。
【0040】
xは、0.01以上が好ましく、0.02以上がより好ましく、0.03以上が特に好ましい。また、本発明の一実施形態としては、xが0であることが好ましい。
またxは、0.44以下が好ましく、0.42以下がより好ましく、0.40以下が特に好ましい。
また、MがAl、Zr、Nb、W、およびBからなる群より選ばれる1種以上の元素であり、wが0を超える場合は、xが0又はyが0であっても得られるCAMを用いた電池のサイクル特性が高くなりやすいため好ましい。
【0041】
xの上記上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。
上記組成式(I)又は上記組成式(I)-1は、0.01≦x≦0.44を満たすことが好ましく、0.02≦x≦0.42を満たすことがより好ましく、0.03≦x≦0.40を満たすことが特に好ましい。
【0042】
yは、0.01以上が好ましく、0.02以上がより好ましく、0.03以上が特に好ましい。
またyは、0.44以下が好ましく、0.42以下がより好ましく、0.40以下が特に好ましい。また、本発明の一実施形態としては、yが0であることが好ましい。
【0043】
yの上記上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。
上記組成式(I)又は上記組成式(I)-1は、0.01≦y≦0.44を満たすことが好ましく、0.02≦y≦0.42を満たすことがより好ましく、0.03≦y≦0.40を満たすことが特に好ましい。
【0044】
wは、0.01以上が好ましく、0.02以上がより好ましく、0.03以上が特に好ましい。
またwは、0.44以下が好ましく、0.42以下がより好ましく、0.40以下が特に好ましい。また、本発明の一実施形態としては、wが0であることが好ましい。
【0045】
wの上記上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。
上記組成式(I)又は上記組成式(I)-1は、0.01≦w≦0.44を満たすことが好ましく、0.02≦w≦0.42を満たすことがより好ましく、0.03≦w≦0.40を満たすことが特に好ましい。
【0046】
x+y+wは、0.03以上が好ましく、0.05以上がより好ましく、0.10以上が特に好ましい。
また、x+y+wは、0.60以下が好ましく、0.40以下がより好ましく、0.20以下が特に好ましい。
【0047】
x+y+wの上記上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。
上記組成式(I)又は上記組成式(I)-1は、0.03≦x+y+w≦0.60を満たすことが好ましく、0.05≦x+y+w≦0.40を満たすことがより好ましく、0.10≦x+y+w≦0.20を満たすことが特に好ましい。
【0048】
zは、0.02以上が好ましく、0.03以上がより好ましく、0.05以上が特に好ましい。
zは、2.8以下が好ましく、2.6以下がより好ましく、2.4以下が特に好ましい。
【0049】
上記上限値及び下限値は任意に組み合わせることができる。
上記組成式(I)は0≦z≦2.8を満たすことが好ましく、0.02≦z≦2.8を満たすことがより好ましく、0.03≦z≦2.6を満たすことがさらに好ましく、0.05≦z≦2.4を満たすことが特に好ましい。
本発明の一つの側面としては、組成式(I)は0≦z≦0.5を満たすことが好ましく、0.02≦z≦0.4を満たすことがより好ましく、0.03≦z≦0.3を満たすことがさらに好ましく、0.05≦z≦0.2を満たすことが特に好ましい。
【0050】
αは、-0.45以上が好ましく、-0.40以上がより好ましく、-0.35以上が特に好ましい。
αは、1.8以下が好ましく、1.6以下がより好ましく、1.4以下が特に好ましい。上記上限値及び下限値は任意に組みわせることができる。
【0051】
上記組成式(I)又は上記組成式(I)-1は-0.45≦α≦1.8を満たすことが好ましく、-0.40≦α≦1.6を満たすことがより好ましく、-0.35≦α≦1.4を満たすことが特に好ましい。
【0052】
本実施形態において、上記組成式(I)又は上記組成式(I)-1において、0.01≦x≦0.44、0.01≦y≦0.44、0.01≦w≦0.44、0.03≦x+y+w≦0.60、0≦z≦2.8、及び-0.45≦α≦1.8を満たすことが好ましい。
【0053】
<金属複合化合物の製造方法>
本実施形態のMCCの製造方法は、Ni、Co、及びMnからなる群から選択される少なくとも1種の元素の金属塩の溶液と、錯化剤と、アルカリ溶液と、を反応させることを含む。この場合、得られるMCCは金属複合水酸化物となる。金属複合水酸化物は、公知のバッチ式共沈殿法又は連続式共沈殿法により製造することが可能である。MCCとして金属複合酸化物を製造する場合、前記金属複合水酸化物を酸化すればよい。
【0054】
以下、Ni、Co、及びMnを含むMCCの製造方法を一例として説明する。具体的には、JP-A-2002-201028に記載された連続式共沈殿法により、ニッケル塩溶液、コバルト塩溶液、マンガン塩溶液、錯化剤、アルカリ溶液を反応させ、Ni(1-x’-y’)Cox’Mny’(OH)で表される金属複合水酸化物を製造する。例えば、前記組成式(I)及び前記組成式(I)-1で表されるMCCを製造する場合、x’、y’は前記組成式(I)及び前記組成式(I)-1におけるx、yにそれぞれ対応させる。
【0055】
ニッケル塩溶液の溶質であるニッケル塩としては、特に限定されないが、例えば硫酸ニッケル、硝酸ニッケル、塩化ニッケル及び酢酸ニッケルのうちの少なくとも1種を使用することができる。
【0056】
コバルト塩溶液の溶質であるコバルト塩としては、例えば硫酸コバルト、硝酸コバルト、塩化コバルト及び酢酸コバルトのうちの少なくとも1種を使用することができる。
【0057】
マンガン塩溶液の溶質であるマンガン塩としては、例えば硫酸マンガン、硝酸マンガン、塩化マンガン及び酢酸マンガンのうちの少なくとも1種を使用することができる。
【0058】
なお、Ni、Co、及びMn以外の金属元素を含むMCCを製造する場合も、前記金属元素の硫酸塩、硝酸塩、塩化物、又は酢酸塩を溶質として使用することができる。
【0059】
以上の金属塩は、前記Ni(1-x’-y’)Cox’Mny’(OH)の組成比に対応する割合で用いられる。すなわち、上記金属塩を含む混合溶液中におけるNi、Co及びMnのモル比が、前記の組成式の(1-x’-y’):x’:y’と対応するように各金属塩の量を規定する。また、溶媒として水が使用される。
【0060】
錯化剤としては、水溶液中で、ニッケルイオン、コバルトイオン及びマンガンイオンと錯体を形成可能なものであり、例えば、水酸化アンモニウム、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、炭酸アンモニウム、又は弗化アンモニウム等のアンモニウムイオン供給体、ヒドラジン、エチレンジアミン四酢酸、ニトリロ三酢酸及びウラシル二酢酸及びグリシンが挙げられ、アンモニウムイオン供給体が好ましい。
【0061】
ニッケル塩溶液、コバルト塩溶液、マンガン塩溶液及び錯化剤を含む反応槽内の溶液に含まれる錯化剤の量は、例えば金属塩(ニッケル塩、コバルト塩、及びマンガン塩)のモル数の合計に対するモル比が0より大きく2.0以下である。
【0062】
錯化剤として、アンモニウムイオン供給体を使用する場合、反応槽内の溶液の総体積に対するアンモニア濃度は、0.5~15.0g/Lであることが好ましく、1.0~10.0g/Lであることがより好ましく、2.0~8.0g/Lであることがさらに好ましい。アンモニア濃度が前記範囲の下限値以上であると、錯化剤によるMCCの粒子成長が起こりやすく、前記要件(2)のD50の下限値超となりやすい。また、前記要件(1)を充足するMCCが得られやすくなる。アンモニア濃度が前記範囲の上限値以下であると、MCCの粒子の過剰な成長が抑制され、前記要件(2)のD50の上限値以下となりやすい。
【0063】
共沈殿法に際しては、ニッケル塩溶液、コバルト塩溶液、マンガン塩溶液、及び錯化剤を含む反応槽内の溶液のpH値を調整するため、溶液のpHがアルカリ性から中性になる前に、溶液にアルカリ溶液を添加する。アルカリ溶液としては、例えば、アルカリ金属水酸化物の水溶液が例として挙げられる。また、アルカリ金属水酸化物とは、例えば水酸化ナトリウム又は水酸化カリウムが例として挙げられる。
【0064】
なお、本明細書におけるpHの値は、溶液の温度が40℃の時に測定された値であると定義する。溶液のpHは、反応槽からサンプリングした溶液の温度が、40℃になったときに測定する。サンプリングした溶液が40℃未満である場合には、溶液を40℃まで加温してpHを測定する。サンプリングした溶液が40℃を超える場合には、溶液を40℃まで冷却してpHを測定する。
【0065】
上記ニッケル塩溶液、コバルト塩溶液、及びマンガン塩溶液のほか、錯化剤を反応槽に連続して供給すると、Ni、Co及びMnが反応し、Ni(1-x’-y’)Cox’Mny’(OH)が生成する。本実施形態においては、金属塩の溶液と、錯化剤は、混合液として反応槽に滴下するのではなく、別々に滴下することが好ましい。金属塩の溶液と、錯化剤を別々に反応槽に滴下することにより、前記要件(3)を充足しやすくなる。
【0066】
反応温度は、30~80℃であることが好ましく、40~75℃であることがより好ましい。
【0067】
反応槽内のpH値は、pH10~12.5であることが好ましく、pH10.5~12.0であることがより好ましい。pHが前記範囲の下限値以上であると、中和反応が充分に進行し、前記要件(2)のD50の下限値超となりやすい。pHが前記範囲の上限値以下であると、反応槽内のMCCの粒子の数が多くなりすぎないため、一つの粒子あたりの成長が促進し、前記要件(2)のD50の下限値超となりやすい。
【0068】
反応槽内で形成された反応沈殿物を撹拌しながら中和する。反応沈殿物の中和の時間は、例えば1~20時間である。
【0069】
連続式共沈殿法で用いる反応槽は、形成された反応沈殿物を分離するためオーバーフローさせるタイプの反応槽を用いることができる。
【0070】
バッチ式共沈殿法により金属複合水酸化物を製造する場合、反応槽としては、オーバーフローパイプを備えない反応槽、及びオーバーフローパイプに連結された濃縮槽を備え、オーバーフローした反応沈殿物を濃縮槽で濃縮し、再び反応槽へ循環させる機構を有する装置等が挙げられる。
【0071】
各種気体、例えば、窒素、アルゴン又は二酸化炭素等の不活性ガス、空気又は酸素等の酸化性ガス、又はそれらの混合ガスを反応槽内に供給してもよく、不活性ガスを反応槽内に供給することが好ましい。
不活性ガスの反応槽への供給量としては、0.1~50.0L/minであることが好ましく、0.5~45.0L/minであることがより好ましく、1.0~40.0L/minであることがさらに好ましい。
【0072】
本実施形態においては不活性ガスの供給量(L/min)に対する、金属塩溶液に含まれる全金属元素の供給量(mol/min)の割合(以下、「Me/Gas」ともいう)が0.1~7.0mol/Lであることが好ましく、0.5~6.8mol/Lであることがより好ましく、0.9~5.0mol/Lであることがさらに好ましい。
金属塩溶液としては、ニッケル塩溶液、コバルト塩溶液、マンガン塩溶液の混合溶液などが用いられる。
本実施形態においては、Me/Gasを制御することにより、粒子強度の調整を行うことができる。Me/Gasが前記範囲の下限値以上であると、粒子強度の低下が抑制され、前記要件(1)の下限値以上となりやすい。Me/Gasが前記範囲の上限値以下であると、アンモニアの揮散を所定の範囲に抑えることができ、所望の条件での制御が行いやすく、前記要件(1)の上限値以下となりやすい。
【0073】
上述した反応槽内の温度やpH、反応槽内の溶液のアンモニア濃度、Me/Gasは、得られるMCCの平均粒子強度、平均粒子径、BET比表面積に大きく影響する。このため、前記要件(1)~(3)を充足するために、各種条件を適宜調整することが好ましい。
本実施形態においては、pHを10~12.5とし、金属塩の溶液と、錯化剤を別々に反応槽に滴下し、反応槽内の溶液の総体積に対するアンモニア濃度を0.5~15g/Lとし、Me/Gasを0.1~7.0mol/Lとすることが好ましく、pHを10.5~12.0とし、金属塩の溶液と、錯化剤を別々に反応槽に滴下し、反応槽内の溶液の総体積に対するアンモニア濃度を2.0~8.0g/Lとし、Me/Gasを0.5~6.8mol/Lとすることがより好ましい。
このような反応条件とすることで、前記要件(1)~(3)を充足するMCCが得られやすくなる。
【0074】
以上の反応後、中和された反応沈殿物を水で洗浄した後に、単離する。単離には、例えば反応沈殿物を含むスラリー(つまり、共沈物スラリー)を遠心分離や吸引ろ過などで脱水する方法が用いられる。
【0075】
単離された反応沈殿物を洗浄、脱水、乾燥及び篩別し、Ni、Co及びMnを含む金属複合水酸化物が得られる。
【0076】
反応沈殿物の洗浄は、水、弱酸水、アルカリ性洗浄液で行うことが好ましい。本実施形態においては、アルカリ性洗浄液で洗浄することが好ましく、水酸化ナトリウム水溶液又は水酸化カリウム水溶液で洗浄することがより好ましい。
反応沈殿物の質量に対して3質量倍以上の水、弱酸水、アルカリ性洗浄液で洗浄することが好ましい。また、使用する水、弱酸水、アルカリ性洗浄液の温度は30℃以上とすることが好ましい。さらに、洗浄は2回以上行うことが好ましい。
なお、水以外の溶液で洗浄を行った後は、さらに水で洗浄を行い、前記溶液由来の化合物が反応沈殿物に残存しないようにすることが好ましい。
【0077】
乾燥温度は、60~300℃であることが好ましく、80~250℃であることがより好ましい。乾燥時間は0.5~3.0時間であることが好ましく、1.0~2.5時間であることが好ましい。乾燥圧力は、常圧、減圧でもよい。
【0078】
MCCとして金属複合酸化物を製造する場合、金属複合水酸化物を加熱して金属複合酸化物とすればよい。具体的には、金属複合水酸化物を400~700℃で加熱する。必要ならば複数の加熱工程を実施してもよい。本明細書における加熱温度とは、加熱装置の設定温度を意味する。複数の加熱工程を有する場合、各加熱工程のうち、最高保持温度で加熱した際の温度を意味する。
【0079】
加熱温度は、400~700℃であることが好ましく、450~680℃であることがより好ましい。加熱温度が400~700℃であると、金属複合水酸化物が十分に酸化され、かつ適切な範囲のBET比表面積を有する金属複合酸化物が得られる。加熱温度が前記範囲の下限値以上であると、金属複合水酸化物が充分に酸化される。加熱温度が前記範囲の上限値以下であると、金属複合水酸化物の過剰な酸化が抑制され、金属複合酸化物のBET比表面積の低下が抑制される。
【0080】
前記加熱温度で保持する時間は、0.1~20時間が挙げられ、0.5~10時間が好ましい。前記加熱温度までの昇温速度は、例えば、50~400℃/時間である。また、加熱雰囲気としては、大気、酸素、窒素、アルゴン又はこれらの混合ガスを用いることができる。
【0081】
加熱装置内は、適度な酸素含有雰囲気であってもよい。酸素含有雰囲気は、不活性ガスと酸化性ガスとの混合ガス雰囲気であってもよく、不活性ガス雰囲気下で酸化剤を存在させた状態であってもよい。加熱装置内が適度な酸素含有雰囲気であることにより、金属複合水酸化物に含まれる遷移金属が適度に酸化され、金属複合酸化物の形態を制御しやすくなる。
【0082】
酸素含有雰囲気中の酸素や酸化剤は、遷移金属を酸化させるために十分な酸素原子が存在すればよい。
【0083】
酸素含有雰囲気が不活性ガスと酸化性ガスとの混合ガス雰囲気である場合、加熱装置内の雰囲気の制御は、加熱装置内に酸化性ガスを通気させる又は混合液に酸化性ガスをバブリングするなどの方法で行うことができる。
【0084】
酸化剤として、過酸化水素などの過酸化物、過マンガン酸塩などの過酸化物塩、過塩素酸塩、次亜塩素酸塩、硝酸、ハロゲン又はオゾンなどを使用できる。
【0085】
以上の工程により、MCCを製造することができる。
【0086】
≪リチウム二次電池用正極活物質の製造方法≫
CAMの製造方法は、MCCと、リチウム化合物と、を混合する混合工程と、得られた混合物を酸素含有雰囲気下、500℃以上1000℃以下の温度で焼成する焼成工程を有する。前記方法によってCAMを製造することができる。
【0087】
CAMの製造方法には、上述した本実施形態のMCCを用いる。
【0088】
[混合工程]
MCCと、リチウム化合物と、を混合する。
本実施形態に用いるリチウム化合物は、炭酸リチウム、硝酸リチウム、酢酸リチウム、水酸化リチウム(水和物を含む)、酸化リチウム、塩化リチウム及びフッ化リチウムの少なくとも何れか一つを使用することができる。これらの中では、水酸化リチウム及び炭酸リチウムのいずれか一方又はその混合物が好ましい。また、水酸化リチウムを含む原料(試薬等)が炭酸リチウムを含む場合には、水酸化リチウムを含む原料中の炭酸リチウムの含有量は、5質量%以下であることが好ましい。
【0089】
リチウム化合物とMCCとを、最終目的物の組成比を勘案して混合し、リチウム化合物とMCCとの混合物を得る。MCCに含まれる金属の合計量1に対するLiの量(モル比)は、0.98~1.20が好ましく、1.04~1.10がより好ましく、1.05~1.10が特に好ましい。
【0090】
[焼成工程]
得られた混合物を酸素含有雰囲気下、500℃以上1000℃以下の焼成温度で焼成する。混合物を焼成することにより、CAMの結晶が成長する。
【0091】
本明細書における焼成温度とは、焼成炉内の雰囲気の温度であって、保持温度の最高温度(最高保持温度)を意味する。
焼成工程が、複数の焼成段階を有する場合、焼成温度とは、各焼成段階のうち最高保持温度で加熱した際の温度を意味する。
【0092】
焼成温度は、例えば650~900℃であることが好ましく、680~850℃であることがより好ましく、700℃~820℃であることが特に好ましい。焼成温度が前記範囲の下限値以上であると、強固な結晶構造を有するCAMを得ることができる。また、焼成温度が前記範囲の上限値以下であると、CAMの粒子表面のリチウムイオンの揮発を低減できる。
【0093】
焼成における保持時間は、3~50時間が好ましく、4~20時間がより好ましい。焼成における保持時間が前記範囲の上限値以下であると、リチウムイオンの揮発が抑制され、電池性能の低下が抑制される。焼成における保持時間が前記範囲の下限値以上であると、結晶の発達が促進され、電池性能の低下が抑制される。
【0094】
本実施形態において、最高保持温度に達する焼成工程の昇温速度は80℃/時間以上が好ましく、100℃/時間以上がより好ましく、150℃/時間以上が特に好ましい。最高保持温度に達する加熱工程の昇温速度は、焼成装置において、昇温を開始した時間から保持温度に到達するまでの時間から算出される。
【0095】
焼成工程は、焼成温度が異なる複数の焼成段階を有することが好ましい。例えば、第1の焼成段階と、第1の焼成段階よりも高温で焼成する第2の焼成段階を有することが好ましい。さらに焼成温度及び焼成時間が異なる焼成段階を有していてもよい。
【0096】
焼成雰囲気として、所望の組成に応じて大気、酸素、窒素、アルゴン又はこれらの混合ガス等が用いられ、必要ならば複数の焼成工程が実施される。焼成雰囲気は、酸素含有雰囲気が好ましい。
【0097】
MCCとリチウム化合物との混合物は、不活性溶融剤の存在下で焼成されてもよい。不活性溶融剤は、CAMを使用した電池の初期容量が損なわれない程度に添加され、焼成物に残留してもよい。不活性溶融剤としては、例えばWO2019/177032A1に記載のものを使用することができる。
【0098】
焼成時に用いる焼成装置は、特に限定されず、例えば、連続焼成炉又は流動式焼成炉の何れを用いて行ってもよい。連続焼成炉としては、トンネル炉又はローラーハースキルンが挙げられる。流動式焼成炉としては、ロータリーキルンを用いてもよい。
【0099】
以上のようにMCCとリチウム化合物との混合物を焼成することによりCAMが得られる。
【0100】
<リチウム二次電池>
本実施形態の製造方法により製造されるCAMを用いる場合に好適なリチウム二次電池用正極について説明する。以下、リチウム二次電池用正極を正極と称することがある。
さらに、正極の用途として好適なリチウム二次電池について説明する。
【0101】
本実施形態の製造方法により製造されるCAMを用いる場合の好適なリチウム二次電池の一例は、正極及び負極、正極と負極との間に挟持されるセパレータ、正極と負極との間に配置される電解液を有する。
【0102】
図1は、リチウム二次電池の一例を示す模式図である。例えば円筒型のリチウム二次電池10は、次のようにして製造する。
【0103】
まず、図1の部分拡大図に示すように、帯状を呈する一対のセパレータ1、一端に正極リード21を有する帯状の正極2、及び一端に負極リード31を有する帯状の負極3を、セパレータ1、正極2、セパレータ1、負極3の順に積層し、巻回することにより電極群4とする。
【0104】
正極2は、一例として、CAMを含む正極活物質層2aと、正極活物質層2aが一面に形成された正極集電体2bとを有する。このような正極2は、まずCAM、導電材及びバインダーを含む正極合剤を調製し、正極合剤を正極集電体2bの一面に担持させて正極活物質層2aを形成することで製造できる。
【0105】
負極3は、一例として、不図示の負極活物質を含む負極合剤が負極集電体に担持されてなる電極、及び負極活物質単独からなる電極を挙げることができ、正極2と同様の方法で製造できる。
【0106】
次いで、電池缶5に電極群4及び不図示のインシュレーターを収容した後、缶底を封止し、電極群4に電解液6を含浸させ、正極2と負極3との間に電解質を配置する。さらに、電池缶5の上部をトップインシュレーター7及び封口体8で封止することで、リチウム二次電池10を製造することができる。
【0107】
電極群4の形状としては、例えば、電極群4を巻回の軸に対して垂直方向に切断したときの断面形状が、円、楕円、長方形又は角を丸めた長方形となるような柱状の形状を挙げることができる。
【0108】
また、このような電極群4を有するリチウム二次電池の形状としては、国際電気標準会議(IEC)が定めた電池に対する規格であるIEC60086、又はJIS C 8500で定められる形状を採用することができる。例えば、円筒型又は角型などの形状を挙げることができる。
【0109】
さらに、リチウム二次電池は、上記巻回型の構成に限らず、正極、セパレータ、負極、セパレータの積層構造を繰り返し重ねた積層型の構成であってもよい。積層型のリチウム二次電池としては、いわゆるコイン型電池、ボタン型電池、又はペーパー型(又はシート型)電池を例示することができる。
【0110】
リチウム二次電池を構成する正極、セパレータ、負極及び電解液については、例えば、WO2022/113904A1の[0113]~[0140]に記載の構成、材料及び製造方法を用いることが出来る。
【0111】
<全固体リチウム二次電池>
本実施形態の製造方法により製造されるCAMは、全固体リチウム二次電池に用いることができる。
【0112】
図2は、全固体リチウム二次電池の一例を示す模式図である。図2に示す全固体リチウム二次電池1000は、正極110と、負極120と、固体電解質層130とを有する積層体100と、積層体100を収容する外装体200と、を有する。また、全固体リチウム二次電池1000は、集電体の両側にCAMと負極活物質とを配置したバイポーラ構造であってもよい。バイポーラ構造の具体例として、例えば、JP-A-2004-95400に記載される構造が挙げられる。
【0113】
正極110は、正極活物質層111と正極集電体112とを有している。正極活物質層111は、上述したCAM及び固体電解質を含む。また、正極活物質層111は、導電材及びバインダーを含んでいてもよい。
【0114】
負極120は、負極活物質層121と負極集電体122とを有している。負極活物質層121は、負極活物質を含む。また、負極活物質層121は、固体電解質及び導電材を含んでいてもよい。
【0115】
積層体100は、正極集電体112に接続される外部端子113と、負極集電体122に接続される外部端子123と、を有していてもよい。その他、全固体リチウム二次電池1000は、正極110と負極120との間にセパレータを有していてもよい。
【0116】
全固体リチウム二次電池1000は、さらに積層体100と外装体200とを絶縁する不図示のインシュレーター及び外装体200の開口部200aを封止する不図示の封止体を有する。
【0117】
外装体200は、アルミニウム、ステンレス鋼又はニッケルメッキ鋼などの耐食性の高い金属材料を成形した容器を用いることができる。また、外装体200として、少なくとも一方の面に耐食加工を施したラミネートフィルムを袋状に加工した容器を用いることもできる。
【0118】
全固体リチウム二次電池1000の形状としては、例えば、コイン型、ボタン型、ペーパー型(またはシート型)、円筒型、角型、又はラミネート型(パウチ型)などの形状を挙げることができる。
【0119】
全固体リチウム二次電池1000は、一例として積層体100を1つ有する形態が図示されているが、本実施形態はこれに限らない。全固体リチウム二次電池1000は、積層体100を単位セルとし、外装体200の内部に複数の単位セル(積層体100)を封じた構成であってもよい。
【0120】
全固体リチウム二次電池については、例えば、WO2022/113904A1の[0141]~[0181]に記載の構成、材料及び製造方法を用いることができる。
【0121】
また、本発明のもう一つの側面は、以下の態様を包含する。
[11] CAMの前駆体として用いられるMCCであって、Ni、Co、及びMnからなる群から選択される少なくとも1種の金属元素を含み、下記要件(1)~(3)をすべて満たすMCC。
(1)平均粒子強度が、47~80MPaである。
(2)平均粒子径D50が、5.0~14.0μmである。
(3)BET比表面積が7~30m/gである。
[12] 上記組成式(I)で表される、[11]に記載のMCC。
[13] 上記組成式(I)-1で表される、[11]又は[12]に記載のMCC。
[14] 粒子強度の標準偏差が11~18である、[11]~[13]のいずれか一項に記載のMCC。
[15] タップ密度が1.4~2.8g/cmである、[11]~[14]のいずれか一項に記載のMCC。
[16] [11]~[15]のいずれか一項に記載のMCCと、リチウム化合物と、を混合する混合工程と、得られた混合物を酸素含有雰囲気下、500℃以上1000℃以下の温度で焼成する焼成工程を有する、CAMの製造方法。
【実施例
【0122】
以下、実施例により、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0123】
<MCCの各種パラメータの測定>
後述の方法で製造されるMCCの各種パラメータの測定は、上述の(平均粒子強度)、(粒子強度の標準偏差)、(平均粒子径D50)、(組成)、(BET比表面積)、(タップ密度)で説明した測定方法等により行った。
【0124】
<サイクル維持率の測定>
リチウム二次電池のサイクル維持率は、上述の(サイクル維持率)で説明した作製方法及び測定方法等により行った。サイクル維持率が81%以上の場合、サイクル維持率が高いと評価する。
【0125】
[実施例1]
撹拌器及びオーバーフローパイプを備えた反応槽内に水を入れた後、水酸化ナトリウム水溶液を添加し、液温を50℃(反応温度)に保持した。
【0126】
硫酸ニッケル水溶液、硫酸コバルト水溶液、及び硫酸アルミニウム水溶液をNi:Co:Alのモル比が0.880:0.090:0.030になるように混合して、混合原料液1を調製した。
【0127】
窒素流通下、反応槽内に、撹拌下、混合原料液1及び硫酸アンモニウム水溶液を錯化剤として連続的に添加した。反応槽内の溶液のpHが11.6(測定温度:40℃)になるように水酸化ナトリウム水溶液を適時滴下し、槽内アンモニア濃度が7.6g/Lとなるように硫酸アンモニウム水溶液の滴下速度を調整し、反応沈殿物1を得た。なお、Me/Gasは4.18mol/Lとした。
【0128】
反応沈殿物1の質量に対して、3.0倍の質量の水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム濃度:6.4質量%)を用いて、反応沈殿物1の洗浄を2回行った。洗浄後、遠心分離機で脱水し、水で洗浄、脱水、単離して、105℃で20時間乾燥することにより、Ni、Co、及びAlを含む金属複合水酸化物1を得た。金属複合水酸化物1の各種パラメータについて表1に示す(以下、実施例2~5、比較例1~5も同様に示す。)。なお、表1の組成の1-x-y-w、x、y、wは前記組成式(I)-1に対応する値である。
【0129】
金属複合水酸化物1に含まれるNi、Co及びAlの合計量1に対するLiの量(モル比)が1.02となるように水酸化リチウム一水和物を秤量した。金属複合酸化物1と水酸化リチウム一水和物を混合して混合物1を得た。
【0130】
次いで、得られた混合物1を、酸素雰囲気下、720℃、10時間で焼成し、粉末1を得た。得られた粉末1と液温を5℃に調整した純水とを、全体量に対して上記粉末質量の割合が0.3になるように混合し作製したスラリーを20分間撹拌させた後、脱水し、さらに上記粉末1の2倍の質量の液温を5℃に調整した純水でリンス後、単離し、150℃で乾燥することでCAM1を得た。
【0131】
得られたCAM1を用いて、リチウム二次電池を作製し、サイクル維持率の測定を行った。結果を表1に示す(以下、実施例2~5、比較例1~5も同様に示す。同様に示す。)。
【0132】
[実施例2]
撹拌器及びオーバーフローパイプを備えた反応槽内に水を入れた後、水酸化ナトリウム水溶液を添加し、液温を70℃(反応温度)に保持した。
【0133】
硫酸ニッケル水溶液、硫酸コバルト水溶液、及び硫酸マンガン水溶液をNi:Co:Mnのモル比が0.830:0.121:0.049になるように混合して、混合原料液2を調製した。
【0134】
窒素流通下、反応槽内に、撹拌下、混合原料液2及び硫酸アンモニウム水溶液を錯化剤として連続的に添加した。反応槽内の溶液のpHが11.2(測定温度:40℃)になるように水酸化ナトリウム水溶液を適時滴下し、槽内アンモニア濃度が2.2g/Lとなるように硫酸アンモニウム水溶液の滴下速度を調整し、反応沈殿物2を得た。なお、Me/Gasは0.93mol/Lとした。
【0135】
反応沈殿物2の質量に対して、7.9倍の質量の水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム濃度:3.2質量%)を用いて、反応沈殿物2の洗浄を行った。洗浄後、遠心分離機で脱水し、水で洗浄、脱水、単離して、105℃で20時間乾燥することにより、Ni、Co、及びMnを含む金属複合水酸化物2を得た。
【0136】
金属複合水酸化物2に含まれるNi、Co及びMnの合計量1に対するLiの量(モル比)が1.02となるように水酸化リチウム一水和物を秤量した。金属複合酸化物2と水酸化リチウム一水和物を混合して混合物2を得た。
【0137】
次いで、得られた混合物2を、酸素雰囲気下、720℃、10時間で焼成し、粉末2を得た。得られた粉末2と液温を5℃に調整した純水とを、全体量に対して上記粉末質量の割合が0.3になるように混合し作製したスラリーを20分間撹拌させた後、脱水し、さらに上記粉末2の2倍の質量の液温を5℃に調整した純水でリンス後、単離し、150℃で乾燥することでCAM2を得た。
【0138】
得られたCAM2を用いて、リチウム二次電池を作製し、サイクル維持率の測定を行った。
【0139】
[実施例3]
撹拌器及びオーバーフローパイプを備えた反応槽内に水を入れた後、水酸化ナトリウム水溶液を添加し、液温を70℃(反応温度)に保持した。
【0140】
硫酸ニッケル水溶液、硫酸コバルト水溶液、及び硫酸マンガン水溶液をNi:Co:Mnのモル比が0.830:0.121:0.049になるように混合して、混合原料液3を調製した。
【0141】
窒素流通下、反応槽内に、撹拌下、混合原料液3及び硫酸アンモニウム水溶液を錯化剤として連続的に添加した。反応槽内の溶液のpHが11.2(測定温度:40℃)になるように水酸化ナトリウム水溶液を適時滴下し、槽内アンモニア濃度が2.2g/Lとなるように硫酸アンモニウム水溶液の滴下速度を調整し、反応沈殿物3を得た。なお、Me/Gasは1.11mol/Lとした。
【0142】
反応沈殿物3の質量に対して、6.3倍の質量の水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム濃度:3.2質量%)を用いて、反応沈殿物3の洗浄を行った。洗浄後、遠心分離機で脱水し、水で洗浄、脱水、単離して、105℃で20時間乾燥することにより、Ni、Co、及びMnを含む金属複合水酸化物3を得た。
【0143】
金属複合水酸化物3に含まれるNi、Co及びMnの合計量1に対するLiの量(モル比)が1.02となるように水酸化リチウム一水和物を秤量した。金属複合酸化物3と水酸化リチウム一水和物を混合して混合物3を得た。
【0144】
次いで、得られた混合物3を、酸素雰囲気下、720℃、10時間で焼成し、粉末3を得た。得られた粉末3と液温を5℃に調整した純水とを、全体量に対して上記粉末質量の割合が0.3になるように混合し作製したスラリーを20分間撹拌させた後、脱水し、さらに上記粉末3の2倍の質量の液温を5℃に調整した純水でリンス後、単離し、150℃で乾燥することでCAM3を得た。
【0145】
得られたCAM3を用いて、リチウム二次電池を作製し、サイクル維持率の測定を行った。
【0146】
[実施例4]
撹拌器及びオーバーフローパイプを備えた反応槽内に水を入れた後、水酸化ナトリウム水溶液を添加し、液温を70℃(反応温度)に保持した。
【0147】
硫酸ニッケル水溶液と硫酸コバルト水溶液を混合して、混合原料液4を調製した。
【0148】
窒素流通下、反応槽内に、撹拌下、混合原料液4、硫酸マンガン水溶液、及び硫酸アンモニウム水溶液を錯化剤として連続的に添加した。反応槽内の溶液のpHが10.9(測定温度:40℃)になるように水酸化ナトリウム水溶液を適時滴下し、槽内アンモニア濃度が4.7g/Lとなるように硫酸アンモニウム水溶液の滴下速度を調整し、反応沈殿物4を得た。なお、Me/Gasは6.60mol/Lとした。
【0149】
反応沈殿物4の質量に対して、4.6倍の質量の水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム濃度:3.2質量%)を用いて、反応沈殿物4の洗浄を行った。洗浄後、遠心分離機で脱水し、水で洗浄、脱水、単離して、105℃で20時間乾燥することにより、Ni、Co、及びMnを含む金属複合水酸化物4を得た。
【0150】
金属複合水酸化物4に含まれるNi、Co及びMnの合計量1に対するLiの量(モル比)が1.02となるように水酸化リチウム一水和物を秤量した。金属複合酸化物4と水酸化リチウム一水和物を混合して混合物4を得た。
【0151】
次いで、得られた混合物4を、酸素雰囲気下、720℃、10時間で焼成し、粉末4を得た。得られた粉末4と液温を5℃に調整した純水とを、全体量に対して上記粉末質量の割合が0.3になるように混合し作製したスラリーを20分間撹拌させた後、脱水し、さらに上記粉末4の2倍の質量の液温を5℃に調整した純水でリンス後、単離し、150℃で乾燥することでCAM4を得た。
【0152】
得られたCAM4を用いて、リチウム二次電池を作製し、サイクル維持率の測定を行った。
【0153】
[実施例5]
撹拌器及びオーバーフローパイプを備えた反応槽内に水を入れた後、水酸化ナトリウム水溶液を添加し、液温を50℃(反応温度)に保持した。
【0154】
硫酸ニッケル水溶液、硫酸コバルト水溶液、及び硫酸マンガン水溶液をNi:Co:Mnのモル比が0.600:0.200:0.200になるように混合して、混合原料液5を調製した。
【0155】
窒素流通下、反応槽内に、撹拌下、混合原料液5及び硫酸アンモニウム水溶液を錯化剤として連続的に添加した。反応槽内の溶液のpHが12.0(測定温度:40℃)になるように水酸化ナトリウム水溶液を適時滴下し、槽内アンモニア濃度が4.0g/Lとなるように硫酸アンモニウム水溶液の滴下速度を調整し、反応沈殿物5を得た。なお、Me/Gasは5.20mol/Lとした。
【0156】
反応沈殿物5の質量に対して、13倍の質量の水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム濃度:8.0質量%)を用いて、反応沈殿物5の洗浄を行った。洗浄後、遠心分離機で脱水し、水で洗浄、脱水、単離して、105℃で20時間乾燥することにより、Ni、Co、及びMnを含む金属複合水酸化物5を得た。
【0157】
金属複合水酸化物5に含まれるNi、Co及びMnの合計量1に対するLiの量(モル比)が1.05となるように水酸化リチウム一水和物を秤量した。金属複合酸化物5と水酸化リチウム一水和物を混合して混合物5を得た。
【0158】
次いで、得られた混合物5を、酸素雰囲気下、800℃、10時間で焼成し、CAM5を得た。
【0159】
得られたCAM5を用いて、リチウム二次電池を作製し、サイクル維持率の測定を行った。
【0160】
[比較例1]
撹拌器及びオーバーフローパイプを備えた反応槽内に水を入れた後、水酸化ナトリウム水溶液を添加し、液温を70℃(反応温度)に保持した。
【0161】
硫酸ニッケル水溶液と硫酸マンガン水溶液を混合して、混合原料液6を調製した。
【0162】
窒素流通下、反応槽内に、撹拌下、混合原料液6、硫酸コバルト水溶液、及び硫酸アンモニウム水溶液を錯化剤として連続的に添加した。反応槽内の溶液のpHが11.6(測定温度:40℃)になるように水酸化ナトリウム水溶液を適時滴下し、槽内アンモニア濃度が4.7g/Lとなるように硫酸アンモニウム水溶液の滴下速度を調整し、反応沈殿物6を得た。なお、Me/Gasは7.23mol/Lとした。
【0163】
反応沈殿物6の質量に対して、5.0倍の質量の水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム濃度:3.2質量%)を用いて、反応沈殿物6の洗浄を行った。洗浄後、遠心分離機で脱水し、水で洗浄、脱水、単離して、105℃で20時間乾燥することにより、Ni、Co、及びMnを含む金属複合水酸化物6を得た。
【0164】
金属複合水酸化物6に含まれるNi、Co及びMnの合計量1に対するLiの量(モル比)が1.02となるように水酸化リチウム一水和物を秤量した。金属複合酸化物6と水酸化リチウム一水和物を混合して混合物6を得た。
【0165】
次いで、得られた混合物6を、酸素雰囲気下、720℃、10時間で焼成し、粉末6を得た。得られた粉末6と液温を5℃に調整した純水とを、全体量に対して上記粉末質量の割合が0.3になるように混合し作製したスラリーを20分間撹拌させた後、脱水し、さらに上記粉末6の2倍の質量の液温を5℃に調整した純水でリンス後、単離し、150℃で乾燥することでCAM6を得た。
【0166】
得られたCAM6を用いて、リチウム二次電池を作製し、サイクル維持率の測定を行った。
【0167】
[比較例2]
撹拌器及びオーバーフローパイプを備えた反応槽内に水を入れた後、水酸化ナトリウム水溶液を添加し、液温を70℃(反応温度)に保持した。
【0168】
硫酸ニッケル水溶液、硫酸コバルト水溶液、及び硫酸マンガン水溶液をNi:Co:Mnのモル比が0.880:0.080:0.040になるように混合して、混合原料液7を調製した。
【0169】
窒素流通下、反応槽内に、撹拌下、混合原料液7を連続的に添加した。反応槽内の溶液のpHが10.4(測定温度:40℃)になるように水酸化ナトリウム水溶液を適時滴下し、反応沈殿物7を得た。なお、Me/Gasは5.87mol/Lとした。
【0170】
反応沈殿物7の質量に対して、5.3倍の質量の水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム濃度:3.2質量%)を用いて、反応沈殿物7の洗浄を2回行った。洗浄後、遠心分離機で脱水し、水で洗浄、脱水、単離して、105℃で20時間乾燥することにより、Ni、Co、及びMnを含む金属複合水酸化物7を得た。
【0171】
金属複合水酸化物7に含まれるNi、Co及びMnの合計量1に対するLiの量(モル比)が1.02となるように水酸化リチウム一水和物を秤量した。金属複合酸化物7と水酸化リチウム一水和物を混合して混合物7を得た。
【0172】
次いで、得られた混合物7を、酸素雰囲気下、720℃、10時間で焼成し、粉末7を得た。得られた粉末7と液温を5℃に調整した純水とを、全体量に対して上記粉末質量の割合が0.3になるように混合し作製したスラリーを20分間撹拌させた後、脱水し、さらに上記粉末7の2倍の質量の液温を5℃に調整した純水でリンス後、単離し、150℃で乾燥することでCAM7を得た。
【0173】
得られたCAM7を用いて、リチウム二次電池を作製し、サイクル維持率の測定を行った。
【0174】
[比較例3]
撹拌器及びオーバーフローパイプを備えた反応槽内に水を入れた後、水酸化ナトリウム水溶液を添加し、液温を70℃(反応温度)に保持した。
【0175】
硫酸ニッケル水溶液、硫酸コバルト水溶液、硫酸マンガン水溶液、及び硫酸ジルコニウム水溶液をNi:Co:Mn:Zrのモル比が0.597:0.199:0.199:0.005になるように混合して、混合原料液8を調製した。
【0176】
窒素流通下、反応槽内に、撹拌下、混合原料液8を連続的に添加した。反応槽内の溶液のpHが10.6(測定温度:40℃)になるように水酸化ナトリウム水溶液を適時滴下し、反応沈殿物8を得た。なお、Me/Gasは5.90mol/Lとした。
【0177】
反応沈殿物8の質量に対して、6.2倍の質量の水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム濃度:3.2質量%)を用いて、反応沈殿物8の洗浄を2回行った。洗浄後、遠心分離機で脱水し、水で洗浄、脱水、単離して、105℃で20時間乾燥することにより、Ni、Co、Mn、及びZrを含む金属複合水酸化物8を得た。
【0178】
金属複合水酸化物8に含まれるNi、Co、Mn、及びZrの合計量1に対するLiの量(モル比)が1.02となるように水酸化リチウム一水和物を秤量した。金属複合酸化物8と水酸化リチウム一水和物を混合して混合物8を得た。
【0179】
次いで、得られた混合物8を、酸素雰囲気下、720℃、10時間で焼成し、粉末8を得た。得られた粉末8と液温を5℃に調整した純水とを、全体量に対して上記粉末質量の割合が0.3になるように混合し作製したスラリーを20分間撹拌させた後、脱水し、さらに上記粉末8の2倍の質量の液温を5℃に調整した純水でリンス後、単離し、150℃で乾燥することでCAM8を得た。
【0180】
得られたCAM8を用いて、リチウム二次電池を作製し、サイクル維持率の測定を行った。
【0181】
[比較例4]
撹拌器及びオーバーフローパイプを備えた反応槽内に水を入れた後、水酸化ナトリウム水溶液を添加し、液温を50℃(反応温度)に保持した。
【0182】
硫酸ニッケル水溶液、硫酸コバルト水溶液、及び硫酸マンガン水溶液をNi:Co:Mnのモル比が0.600:0.200:0.200になるように混合して、混合原料液9を調製した。
【0183】
窒素流通下、反応槽内に、撹拌下、混合原料液9及び硫酸アンモニウム水溶液を錯化剤として連続的に添加した。反応槽内の溶液のpHが12.0(測定温度:40℃)になるように水酸化ナトリウム水溶液を適時滴下し、槽内アンモニア濃度が4.2g/Lとなるように硫酸アンモニウム水溶液の滴下速度を調整し、反応沈殿物9を得た。なお、Me/Gasは0.40mol/Lとした。
【0184】
反応沈殿物9の質量に対して、13倍の質量の水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム濃度:8.0質量%)を用いて、反応沈殿物9の洗浄を行った。洗浄後、遠心分離機で脱水し、水で洗浄、脱水、単離して、105℃で20時間乾燥することにより、Ni、Co、及びMnを含む金属複合水酸化物9を得た。
【0185】
金属複合水酸化物9に含まれるNi、Co及びMnの合計量1に対するLiの量(モル比)が1.02となるように水酸化リチウム一水和物を秤量した。金属複合酸化物9と水酸化リチウム一水和物を混合して混合物9を得た。
【0186】
次いで、得られた混合物9を、酸素雰囲気下、850℃、10時間で焼成し、CAM9を得た。
【0187】
得られたCAM9を用いて、リチウム二次電池を作製し、サイクル維持率の測定を行った。
【0188】
[比較例5]
撹拌器及びオーバーフローパイプを備えた反応槽内に水を入れた後、水酸化ナトリウム水溶液を添加し、液温を50℃(反応温度)に保持した。
【0189】
硫酸ニッケル水溶液、硫酸コバルト水溶液、硫酸マンガン水溶液及び硫酸アンモニウム水溶液をNi:Co:Mnのモル比が0.496:0.209:0.295になるように混合して、混合原料液10を調製した。
【0190】
窒素流通下、反応槽内に、撹拌下、混合原料液10を連続的に添加した。反応槽内の溶液のpHが11.0(測定温度:40℃)になるように水酸化ナトリウム水溶液を適時滴下し、槽内アンモニア濃度が2.5g/Lとなるようにし、反応沈殿物10を得た。なお、Me/Gasは1.75mol/Lとした。
【0191】
反応沈殿物10の質量に対して、8.4倍の質量の水酸化ナトリウム水溶液(水酸化ナトリウム濃度:3.2質量%)を用いて、反応沈殿物10の洗浄を行った。洗浄後、遠心分離機で脱水し、水で洗浄、脱水、単離して、105℃で20時間乾燥することにより、Ni、Co、及びMnを含む金属複合水酸化物10を得た。
【0192】
金属複合水酸化物10に含まれるNi、Co及びMnの合計量1に対するLiの量(モル比)が1.02となるように水酸化リチウム一水和物を秤量した。金属複合酸化物10と水酸化リチウム一水和物を混合して混合物10を得た。
【0193】
次いで、得られた混合物10を、酸素雰囲気下、720℃、10時間で焼成し、粉末10を得た。得られた粉末10と液温を5℃に調整した純水とを、全体量に対して上記粉末質量の割合が0.3になるように混合し作製したスラリーを20分間撹拌させた後、脱水し、さらに上記粉末10の2倍の質量の液温を5℃に調整した純水でリンス後、単離し、150℃で乾燥することでCAM10を得た。
【0194】
得られたCAM10を用いて、リチウム二次電池を作製し、サイクル維持率の測定を行った。
【表1】
【0195】
要件(1)~(3)を充足する実施例1~5のMCCが前駆体であるリチウム二次電池用正極活物質を用いたリチウム二次電池では、サイクル維持率が高くなることがわかった。
【符号の説明】
【0196】
1…セパレータ、2…正極、2a…正極活物質層、2b…正極集電体、3…負極、4…電極群、5…電池缶、6…電解液、7…トップインシュレーター、8…封口体、10…リチウム二次電池、21…正極リード、31…負極リード、100…積層体、110…正極、111…正極活物質層、112…正極集電体、113…外部端子、120…負極、121…負極活物質層、122…負極集電体、123…外部端子、130…固体電解質層、200…外装体、200a…開口部、1000…全固体リチウム二次電池
【要約】
【課題】サイクル維持率が高いリチウム二次電池が得られる、リチウム二次電池用正極活物質の前駆体として用いられる金属複合化合物、及び前記金属複合化合物を用いたリチウム二次電池用正極活物質の製造方法の提供。
【解決手段】リチウム二次電池用正極活物質の前駆体として用いられる金属複合化合物であって、Ni、Co、及びMnからなる群から選択される少なくとも1種の金属元素を含み、下記要件(1)~(3)をすべて満たす金属複合化合物。
(1)平均粒子強度が、45MPa以上200MPa以下である。
(2)平均粒子径D50が、4μm超20μm以下である。
(3)BET比表面積が5m/g以上60m/g以下である。
【選択図】なし
図1
図2