(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-12-28
(45)【発行日】2024-01-12
(54)【発明の名称】スパッタリングターゲット部材、スパッタリングターゲット組立品、及び成膜方法
(51)【国際特許分類】
G11B 5/851 20060101AFI20240104BHJP
C23C 14/34 20060101ALI20240104BHJP
G11B 5/65 20060101ALI20240104BHJP
【FI】
G11B5/851
C23C14/34
G11B5/65
(21)【出願番号】P 2023557651
(86)(22)【出願日】2022-09-22
(86)【国際出願番号】 JP2022035488
(87)【国際公開番号】W WO2023079856
(87)【国際公開日】2023-05-11
【審査請求日】2023-11-10
(31)【優先権主張番号】P 2021181296
(32)【優先日】2021-11-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】小庄 孝志
(72)【発明者】
【氏名】岩淵 靖幸
【審査官】川中 龍太
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/220675(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/014760(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/110033(WO,A1)
【文献】特開2018-172770(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/62 - 5/858
C23C 14/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Coを10~70mol%、Ptを5~30mol%、炭化物を1.5~10mol%、且つ、炭素、酸化物、窒化物及び炭窒化物から選択される一種又は二種以上の非磁性材料を合計で0~30mol%含有
し、炭素と炭化物の合計に対する炭化物のモル比が0.25以上である磁気記録層用スパッタリングターゲット部材。
【請求項2】
炭素と炭化物の合計に対する炭化物のモル比が0.
4以上である請求項1に記載の磁気記録層用スパッタリングターゲット部材。
【請求項3】
炭化物として、B
4C、Cr
3C
2及びTiCから選択される一種又は二種以上を含有する請求項
1に記載の磁気記録層用スパッタリングターゲット部材。
【請求項4】
B
4C、Cr
3C
2及びTiCから選択される一種又は二種以上を合計で1.5~10mol%含有する請求項3に記載の磁気記録層用スパッタリングターゲット部材。
【請求項5】
Cr、Ru、B、Ti、Si及びMnから選択される一種又は二種以上の金属元素を合計で30mol%以下含有する請求項
1に記載の磁気記録層用スパッタリングターゲット部材。
【請求項6】
相対密度が90%以上である請求項
1に記載の磁気記録層用スパッタリングターゲット部材。
【請求項7】
請求項1~6の何れか一項に記載の磁気記録層用スパッタリングターゲット部材と、当該スパッタリングターゲット部材に接合されたバッキングチューブ又はバッキングプレートとを備えたスパッタリングターゲット組立品。
【請求項8】
請求項1~6の何れか一項に記載の磁気記録層用スパッタリングターゲット部材をスパッタリングすることを含む成膜方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一実施形態において、磁気記録層用スパッタリングターゲット部材に関する。本発明は別の一実施形態において、そのようなスパッタリングターゲット部材を備えたスパッタリングターゲット組立品に関する。本発明は更に別の一実施形態において、そのようなスパッタリングターゲット部材を用いた成膜方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスクドライブに代表される磁気記録の分野では、記録を担う磁性薄膜の材料として、強磁性金属であるCo、Fe又はNiをベースとした材料が用いられている。例えば、近年実用化された垂直磁気記録方式を採用するハードディスクの記録層には、Coを主成分とするCo-Pt系の強磁性合金に酸化物粒子及び炭素粒子等の非磁性粒子を分散させた複合材料が多く用いられている。記録層は、非磁性粒子によって磁性粒子が磁気的に分離されるグラニュラー構造を微細化することで、単位面積当たりの記録量が増加する。
【0003】
磁性薄膜は、生産性の高さから、上記材料を成分とするスパッタリングターゲットをマグネトロンスパッタ装置でスパッタして作製されることが多い。そのため、種々の観点から磁性薄膜形成用のスパッタリングターゲットの技術開発が従来なされてきた。
【0004】
特許文献1(特開2013-37730号公報)には、FePtのL10型規則合金を構成する金属(磁性金属、貴金属)及び炭素を混合したスパッタリングターゲットが記載されている。
当該文献には、磁気記録媒体のヘッドスペーシングの拡大を抑制し、記録密度を向上させることを可能にするために、
(1)非磁性基板上に、規則合金の結晶粒子および炭素からなる粒界層を含む磁気記録層と、前記磁気記録層上に存在し、炭素からなる保護層前駆体とを形成する工程と、
(2)前記保護層前駆体に、炭化水素系ガスに対するプラズマ放電により生成した炭化水素系イオンを照射して、保護層前駆体を保護層に変化させる工程と
を含み、前記炭化水素系イオンは前記保護層前駆体に到達する際に300eV以上のエネルギーを有することを特徴とする垂直磁気記録媒体の製造方法が記載されている。
【0005】
特許文献2(国際公開第2014/132746号)には、Fe、PtおよびCを含有するFePt-C系スパッタリングターゲットであって、Ptを33at%以上60at%以下含有して残部がFeおよび不可避的不純物からなるFePt系合金相中に、不可避的不純物を含む1次粒子のC同士がお互いに接触しないように分散した構造を有することを特徴とするFePt-C系スパッタリングターゲットが記載されている。特許文献2によれば、このFePt-C系スパッタリングターゲットはパーティクルが少ないとされている。
【0006】
特許文献3(特開2018-172770号公報)には、Co:Pt=X:100-X(59≦X<100)のモル比で、金属Co及び金属Ptを合計で70mol%以上含有し、金属Crを0mol%以上20mol%以下含有する強磁性材スパッタリングターゲットであって、金属Coを90mol%以上含有し、平均粒径が30~300μmのCo粒子相と、モル比でCo:Pt=Y:100-Y(20≦Y≦60.5)となる条件で、金属Co及び金属Ptを合計で70mol%以上含有する平均粒径が7μm以下のCo-Pt合金粒子相を有する強磁性材スパッタリングターゲットが記載されている。特許文献3には、炭素、酸化物、窒化物、炭化物及び炭窒化物よりなる群から選択される一種又は二種以上の非磁性材料を合計で25mol%以下含有することも記載されており、この強磁性材スパッタリングターゲットは、Co-Pt合金相を微細化しつつ、Co相を粗大化するという手法を採用したことで、漏洩磁束が高く、スパッタリング時におけるパーティクルの発生も抑制可能であるとされている。
【0007】
特許文献4(国際公開第2012/081340号)には、磁気記録膜用スパッタリングターゲットにおいて、SiO2の添加に加え、10wtppm以上のB(ボロン)を添加する工夫を行うことが提案されている。スパッタリング時のパーティクル発生の原因となるクリストバライトの形成を抑制することにより、ターゲットのマイクロクラック及びスパッタリング中のパーティクル発生を抑制し、かつバーンイン時間の短縮化が可能であるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2013-37730号公報
【文献】国際公開第2014/132746号
【文献】特開2018-172770号公報
【文献】国際公開第2012/081340号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近年では、磁気記録層を成膜する際に基板を予め加熱しておくことがある(例:200℃程度)。主に磁性粒子の結晶性を向上させるのが目的であるが、副次的な影響で酸化物粒子が磁性粒子側に拡散してしまい、成膜後の磁気特性が下がってしまうおそれがある。このため、高温でも安定な粒界材料として、炭素を使用することが考えられる。しかしながら、単純に炭素を加えるとパーティクルが激増し、収率が大きく低下する。上述した先行技術文献に記載されている技術を採用することで、パーティクルを軽減するという方策もあり得るが、限界がある。そのため、これらとは異なるアプローチによりパーティクルを軽減できれば、技術の選択肢を増やしたり、更なる技術開発の可能性を広げたりするという観点から、有用であると考えられる。
【0010】
そこで、本発明は一実施形態において、上記の先行技術とは別の観点からパーティクルの発生を抑制可能な、磁気記録層用スパッタリングターゲット部材を提供することを課題とする。本発明は別の一実施形態において、そのようなスパッタリングターゲット部材を備えたスパッタリングターゲット組立品を提供することを課題とする。本発明は更に別の一実施形態において、そのようなスパッタリングターゲット部材を用いた成膜方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は上記課題を解決するために鋭意検討したところ、炭化物の比率を高めたCo-Pt系のスパッタリングターゲット部材を使用することがパーティクルの抑制に有効であることを見出した。本発明は上記知見に基づき完成したものであり、以下に例示される。
【0012】
[1]
Coを10~70mol%、Ptを5~30mol%、炭化物を1.5~10mol%、且つ、炭素、酸化物、窒化物及び炭窒化物から選択される一種又は二種以上の非磁性材料を合計で0~30mol%含有する磁気記録層用スパッタリングターゲット部材。
[2]
炭素と炭化物の合計に対する炭化物のモル比が0.25以上である[1]に記載の磁気記録層用スパッタリングターゲット部材。
[3]
炭化物として、B4C、Cr3C2及びTiCから選択される一種又は二種以上を含有する[1]又は[2]に記載の磁気記録層用スパッタリングターゲット部材。
[4]
B4C、Cr3C2及びTiCから選択される一種又は二種以上を合計で1.5~10mol%含有する[3]に記載の磁気記録層用スパッタリングターゲット部材。
[5]
Cr、Ru、B、Ti、Si及びMnから選択される一種又は二種以上の金属元素を合計で30mol%以下含有する[1]~[4]の何れか一項に記載の磁気記録層用スパッタリングターゲット部材。
[6]
相対密度が90%以上である[1]~[5]の何れか一項に記載の磁気記録層用スパッタリングターゲット部材。
[7]
[1]~[6]の何れか一項に記載の磁気記録層用スパッタリングターゲット部材と、当該スパッタリングターゲット部材に接合されたバッキングチューブ又はバッキングプレートとを備えたスパッタリングターゲット組立品。
[8]
[1]~[6]の何れか一項に記載の磁気記録層用スパッタリングターゲット部材をスパッタリングすることを含む成膜方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一実施形態によれば、炭化物は高温でも安定であるため、成膜後の磁気特性に対する影響を抑制可能でありながらも、スパッタ時のパーティクルが軽減されるという格別の効果が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(1.スパッタリングターゲット部材)
(1-1.組成)
本発明に係るスパッタリングターゲット部材は一実施形態において、Coを10~70mol%、Ptを5~30mol%、炭化物を1.5~10mol%、且つ、炭素、酸化物、窒化物及び炭窒化物から選択される一種又は二種以上の非磁性材料を合計で0~30mol%含有する。当該組成は、スパッタリングターゲット部材全体に占める炭化物の比率が高く、これがスパッタ時のパーティクルの抑制に寄与する。
【0015】
磁気記録層を形成するという観点から、上記スパッタリングターゲット部材におけるCoの濃度は10~70mol%とすることが好適である。Coの濃度は、要求される磁気記録層の磁気特性に応じて適宜調整すればよいが、典型的には20~70mol%とすることができ、より典型的には30~70mol%とすることができ、更により典型的には40~60mol%とすることができる。なお、ここで考慮されるCoは単体で存在しているか又はPt等の他の金属と合金を形成している金属Coである。
【0016】
磁気記録層を形成するという観点から、上記スパッタリングターゲット部材におけるPtの濃度は5~30mol%とすることが好適である。Ptの濃度は、要求される磁気記録層の磁気特性に応じて適宜調整すればよいが、典型的には5~25mol%とすることができ、より典型的には10~25mol%とすることができ、更により典型的には10~20mol%とすることができる。なお、ここで考慮されるPtは単体で存在しているか又はCo等の他の金属と合金を形成している金属Ptである。
【0017】
上記スパッタリングターゲット部材における炭化物の濃度は1.5~10mol%とすることが好適である。スパッタ時のパーティクル抑制効果を高めるという観点から、炭化物の濃度の下限は1.5mol%以上であり、好ましくは1.8mol%以上であり、より好ましくは2.0mol%以上である。但し、炭化物の濃度は高すぎてもパーティクル抑制効果が低下するため、炭化物の濃度の上限は、10mol%以下であり、好ましくは8.0mol%以下であり、より好ましくは6.0mol%以下である。
【0018】
上記スパッタリングターゲット部材は炭化物を一種含有してもよいし、二種以上含有してもよい。炭化物としては、例えば、B、Ca、Cr、Nb、Si、Ta、Ti、W及びZrから選択される元素の一種又は二種以上の炭化物が挙げられ、これらの中でもB4C、Cr3C2及びTiCから選択される一種又は二種以上が好ましく、B4C及びCr3C2から選択される一種又は二種がより好ましく、B4Cが更により好ましい。
【0019】
従って、上記スパッタリングターゲット部材は好適な実施形態において、B4C、Cr3C2及びTiCから選択される一種又は二種以上を合計で1.5~10mol%含有し、好ましくは1.8~8.0mol%含有し、より好ましくは2.0~6.0mol%含有する。
上記スパッタリングターゲット部材はより好適な実施形態において、B4C及びCr3C2から選択される一種又は二種を合計で1.5~10mol%含有し、好ましくは1.8~8.0mol%含有し、より好ましくは2.0~6.0mol%含有する。
上記スパッタリングターゲット部材は更により好適な実施形態において、B4Cを1.5~10mol%含有し、好ましくは1.8~8.0mol%含有し、より好ましくは2.0~6.0mol%含有する。
【0020】
上記スパッタリングターゲット部材中には、磁気記録層の磁気特性を調節する観点から、炭化物以外の非磁性材料を添加してもよい。具体的には、炭素、酸化物、窒化物及び炭窒化物から選択される一種又は二種以上の非磁性材料を合計で0~30mol%含有することができ、好ましくは0~25mol%含有することができ、より好ましくは0~20mol%含有することができる。
酸化物の例としては、Al、B、Ba、Be、Ca、Ce、Co、Cr、Dy、Er、Eu、Ga、Gd、Ho、Li、Mg、Mn、Nb、Nd、Pr、Sc、Si、Sm、Sr、Ta、Tb、Ti、V、Y、Zn及びZrから選択される元素の一種又は二種以上の酸化物が挙げられる。酸化物の中では、B、Co、Cr、Si及びTiから選択される元素の一種又は二種以上の酸化物が好ましい。
窒化物の例としては、Al、B、Ca、Nb、Si、Ta、Ti及びZrから選択される元素の一種又は二種以上の窒化物が挙げられる。
炭窒化物の例としては、Ti、Cr、V及びZrから選択される元素の一種又は二種以上の炭窒化物が挙げられる。
【0021】
スパッタ時のパーティクルを効果的に抑制するという観点からは、上記スパッタリングターゲット部材中において、炭素と炭化物の合計に対する炭化物のモル比は0.25以上であることが好ましく、0.4以上であることがより好ましく、0.6以上であることが更により好ましく、0.8以上であることが更により好ましく、1.0であることが最も好ましい。
【0022】
上記スパッタリングターゲットは、第三元素として、Cr、Ru、B、Ti、Si及びMnから選択される一種又は二種以上の金属元素を合計で30mol%以下、例えば0.01~20mol%、典型的には0.05~10mol%含有してもよい。これらは磁気記録層の特性を向上させるために、必要に応じて添加される金属である。配合割合は上記範囲内で様々に調整でき、いずれも有効な磁気記録層としての特性を維持することができる。なお、本発明においてはBも金属として取り扱う。上記第三元素が単体金属又は合金ではなく、炭化物、酸化物、窒化物、又は炭窒化物として存在している場合には、それらはここで規定する第三元素ではなく上述した非磁性材料として取り扱う。
【0023】
(1-2.相対密度)
本発明に係るスパッタリングターゲット部材は一実施形態において、相対密度が90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましい。相対密度は例えば90%~100%とすることができる。これにより、成膜時の異常放電(アーキング)の発生が少なく、均一な薄膜を作製することができる。本明細書において、相対密度は、スパッタリングターゲット部材の実測密度を計算密度(理論密度ともいう)で割り返して求めた値である。実測密度はアルキメデス法により測定される。計算密度は、ターゲット部材の原料粉末の構成成分が互いに拡散あるいは反応せずに混在していると仮定したときの密度であり、次式で計算される。
式:計算密度=Σ(原料粉末の構成成分の分子量×原料粉末の構成成分のモル濃度)/Σ(原料粉末の構成成分の分子量×原料粉末の構成成分のモル濃度/原料粉末の構成成分の文献値密度)
ここで、Σは、ターゲット部材の不純物以外の構成成分の全てについて、和をとることを意味する。
【0024】
スパッタリングターゲット部材は、必要に応じて、バッキングプレート又はバッキングチューブのような基材と接合させて、スパッタリングターゲット組立品としてスパッタリング装置に装着してもよい。基材を使用せず、スパッタリングターゲット部材をそのままスパッタリングターゲットとしてスパッタリング装置に装着してもよい。
【0025】
(2.製法)
本発明に係るスパッタリングターゲット部材は、粉末焼結法を用いて、例えば、以下の方法によって作製することができる。
【0026】
まず、目的とするスパッタリングターゲット部材の組成に応じた原料粉末を用意する。原料粉末としては、例えば、Co粉末、Pt粉末及び炭化物粉に加えて、炭素粉、酸化物粉、窒化物粉、及び炭窒化物粉から選択される一種又は二種以上の非磁性材料の粉末が挙げられる。更に、Cr、Ru、B、Ti、Si及びMnから選択される一種又は二種以上の金属粉末を用意してもよい。
【0027】
原料粉末の純度は好ましくは90mol%以上であり、より好ましくは95mol%以上であり、更により好ましくは99.9mol%以上である。典型的な実施形態において、原料粉末は表示成分及び不可避的不純物以外は含まない。
【0028】
原料粉末のメジアン径(D50)の上限はそれぞれ、均一な組織を実現するために、200μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましく、50μm以下であることが更により好ましく、10μm以下であることが更により好ましい。また、当該原料粉末のメジアン径の下限は、原料粉末の酸化防止の理由により、0.1μm以上であることが好ましく、0.3μm以上であることがより好ましく、0.5μm以上であることが更により好ましい。メジアン径は粉砕や篩別により調整可能である。
【0029】
次いで、用意した原料粉末を所望の組成となるように秤量し、ボールミル等の公知の手法を用いて粉砕を兼ねて混合し、混合粉末を得る。このとき、粉砕容器内に不活性ガスを封入して原料粉の酸化をできるかぎり抑制することが望ましい。不活性ガスとしては、Ar、N2ガスが挙げられる。
【0030】
混合粉末のメジアン径(D50)の上限はそれぞれ、均一な組織を実現するために、20μm以下であることが好ましく、10μm以下であることがより好ましく、5μm以下であることが更により好ましい。また、混合粉末のメジアン径の下限は、混合粉末の酸化防止の理由により、0.1μm以上であることが好ましく、0.3μm以上であることがより好ましく、0.5μm以上であることが更により好ましい。
【0031】
本発明において、各原料粉末及び混合粉末のメジアン径は、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における体積基準での積算値50%での粒径(D50)を意味する。実施例においては、株式会社堀場製作所製の型式LA-920の粒度分布測定装置を使用し、粉末をエタノールの溶媒中に分散させて測定した。屈折率は金属コバルトの値を使用した。
【0032】
このようにして得られた混合粉末をホットプレス法で真空雰囲気又は不活性ガス雰囲気下において成形・焼結する。また、前記ホットプレス法以外にも、プラズマ放電焼結法など様々な加圧焼結方法を使用することができる。特に、熱間静水圧加圧処理(HIP)は、焼結体の密度向上に有効であり、ホットプレス法と熱間静水圧加圧処理(HIP)をこの順に実施することが焼結体の密度向上の観点から好ましい。
【0033】
焼結時の保持温度の上限は、ターゲットの組成にもよるが、結晶粒の粗大化を防止するために、1500℃以下とすることが好ましく、1400℃以下とすることがより好ましく、1200℃以下とすることが更により好ましい。また、焼結時の保持温度の下限は、焼結体の密度低下を避けるために600℃以上とすることが好ましく、650℃以上とすることがより好ましく、700℃以上とすることが更により好ましい。
【0034】
焼結時のプレス圧力の下限は、焼結を促進するために10MPa以上とすることが好ましく、15MPa以上とすることがより好ましく、20MPa以上とすることが更により好ましい。また、焼結時のプレス圧力の上限は、ダイスの強度を考慮し70MPa以下とすることが好ましく、50MPa以下とすることがより好ましく、40MPa以下とすることが更により好ましい。
【0035】
焼結時間の下限は、焼結体の密度向上のために0.1時間以上とすることが好ましく、0.2時間以上とすることがより好ましく、0.5時間以上とすることが更により好ましい。また、焼結時間の上限は、結晶粒の粗大化を防止するために10時間以下とすることが好ましく、5時間以下とすることがより好ましく、2時間以下とすることが更により好ましい。
【0036】
得られた焼結体を、旋盤等を用いて所望の形状に成形加工することにより、本発明の一実施形態に係るスパッタリングターゲット部材を作製することができる。ターゲット形状には特に制限はないが、例えば平板状(円盤状や矩形板状を含む)及び円筒状が挙げられる。本発明に係るスパッタリングターゲット部材は一実施形態において、グラニュラー構造をもつ磁気記録層の成膜に使用するスパッタリングターゲット部材として特に有用である。
【0037】
(3.成膜方法)
本発明は一実施形態において、上記スパッタリングターゲット部材を用いてスパッタリングする工程を含む成膜方法を提供する。スパッタ条件は適宜設定することができる。
【実施例】
【0038】
以下に本発明の実施例を比較例と共に示すが、実施例及び比較例は本発明及びその利点をよりよく理解するために提供するものであり、本発明が限定されることを意図するものではない。
【0039】
(1.スパッタリングターゲット部材の作製)
原料粉末として、以下の粉末を用意した。何れも99.9質量%以上の高純度品であり、表示成分及び不可避的不純物以外は含まない。これらの粉末のメジアン径は篩別して適宜調整した。
Co粉末:メジアン径(D50)=3.3μm
Pt粉末:メジアン径(D50)=21.8μm
Cr粉末:メジアン径(D50)=2.7μm
B粉末:メジアン径(D50)=3.9μm
C粉末:メジアン径(D50)=25.5μm
B4C粉末:メジアン径(D50)=0.5μm
Cr3C2粉末:メジアン径(D50)=1.2μm
TiC粉末:メジアン径(D50)=5.1μm
B2O3粉末:メジアン径(D50)=0.5μm
TiO2粉末:メジアン径(D50)=0.9μm
CoO粉末:メジアン径(D50)=2.1μm
【0040】
次に、上記の各原料粉末を試験番号に応じて表1の原料組成欄に記載のモル比となるように、粉砕媒体のジルコニアボールによりボールミルを用いて混合しながら粉砕した。得られた混合粉末のメジアン径(D50)はいずれも0.5~5.0μm程度であった。次いで、得られた混合粉末をカーボン製の型に充填し、真空雰囲気下でのホットプレス及びAr雰囲気下での熱間静水圧加圧処理(HIP)により焼結を行った。ホットプレスは保持温度800~1100℃、プレス圧力20~30MPaで1~2時間行った。ホットプレス後の熱間静水圧加圧処理(HIP)は高密度化のために行った。その後、HIP後の焼結体を、汎用旋盤および平面研削盤を用いて研削加工して直径が180mm、厚さが5mmの円盤状のスパッタリングターゲット部材を得た。
【0041】
(2.相対密度)
上記手順により得られた各スパッタリングターゲット部材について、先述した方法(相対密度=実測密度/理論密度×100%)に従って、相対密度を測定した。結果を表1に示す。
【0042】
【0043】
【0044】
(3.パーティクル数)
上記手順により得られた各スパッタリングターゲット部材をマグネトロンスパッタ装置(株式会社キヤノンアネルバ製C-3010スパッタリングシステム)に取り付け、スパッタリングを行った。スパッタリングの条件は、投入電力1kW、Arガス圧1.7Paとし、合計2時間のプレスパッタリングを実施した後、4インチ径のシリコン基板上に20秒間成膜した。そして基板上へ付着した粒子径が0.07μm以上のパーティクルの個数を表面異物検査装置(KLA-Tencor社製Candela CS920)で測定した。結果を表2に示す。
【0045】
【0046】
炭素及び炭化物以外の組成が同じ実施例1、実施例2及び比較例1を比較すると、これらはC源のモル濃度が2mol%であり共通する。しかしながら、C源として炭素のみを使用した比較例1に比べ、C源として炭化物のみを使用した実施例1及び実施例2の方がパーティクル数が少なかった。実施例1と実施例2を比較すると、炭化物としてB4Cを使用することでパーティクル数が激減することが分かる。
【0047】
炭素及び炭化物以外の組成が同じ実施例3、実施例4、比較例2及び比較例3を比較すると、これらはC源のモル濃度が5mol%であり共通する。しかしながら、C源として炭素のみを使用した比較例3に比べ、C源として炭化物を使用した比較例2、実施例3及び実施例4の方がパーティクル数が少なかった。比較例2、実施例3及び実施例4を比較すると、炭化物の含有割合が大きくなるにつれてパーティクル数が減少することが分かる。また、炭化物濃度が1.5mol%未満の比較例2に対して、炭化物濃度が1.5mol%以上の実施例3及び実施例4のパーティクル数の減少量が顕著である。