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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-04
(45)【発行日】2024-01-15
(54)【発明の名称】蛍光X線分析装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/223 20060101AFI20240105BHJP
【FI】
G01N23/223
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022066526
(22)【出願日】2022-04-13
(65)【公開番号】P2023156889
(43)【公開日】2023-10-25
【審査請求日】2023-03-30
(73)【特許権者】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(74)【代理人】
【識別番号】100114764
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100178124
【弁理士】
【氏名又は名称】篠原 英樹
(72)【発明者】
【氏名】辻 幸一
【審査官】井上 徹
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-313132(JP,A)
【文献】特開2020-20689(JP,A)
【文献】特開2021-162358(JP,A)
【文献】特開2002-257707(JP,A)
【文献】国際公開第2021/019830(WO,A1)
【文献】特開2004-125748(JP,A)
【文献】特表2007-527524(JP,A)
【文献】国際公開第96/037770(WO,A1)
【文献】国際公開第2009/041393(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2003/0209479(US,A1)
【文献】蓬田 直也ほか,共焦点型微小部蛍光X線分析法を用いた毛髪中の元素分布解析,X線分析の進歩,2018年03月,第49号,PP.209-218
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00-G01N 23/2276
G01N 21/00-G01N 21/01
G01N 21/17-G01N 21/61
G01N 21/62-G01N 21/74
G01N 33/48-G01N 33/98
G01N 1/00-G01N 1/44
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
IEEE Xplore
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料が保持される試料保持部と、
前記試料保持部に保持された試料に1次X線を照射するX線照射部と、
1次X線が照射された際に試料から発生した蛍光X線を検出する検出部と、
前記検出部により検出された蛍光X線に基づいて試料を分析する分析部とを備える蛍光X線分析装置であって、
前記分析部は、
前記検出部により検出された蛍光X線に基づいて、前記試料保持部に保持された試料に含まれる所定の元素の量に比例した数値を測定する元素測定部と、
前記試料保持部により保持された試料の量に比例した数値を測定する試料測定部と、
前記元素測定部により測定された試料に含まれる所定の元素の量に比例した数値を、前記試料測定部により測定された試料の量に比例した数値で規格化することにより補正する補正部とを備え、
前記試料保持部は、可撓性の収容袋を備え、該収容袋の内側に試料が収容されたあと、該収容袋が試料ごと巻かれた状態になることにより試料が保持されることを特徴とする蛍光X線分析装置。
【請求項2】
試料が保持される試料保持部と、
前記試料保持部に保持された試料に1次X線を照射するX線照射部と、
1次X線が照射された際に試料から発生した蛍光X線を検出する検出部と、
前記検出部により検出された蛍光X線に基づいて試料を分析する分析部とを備える蛍光X線分析装置であって、
前記分析部は、
前記検出部により検出された蛍光X線に基づいて、前記試料保持部に保持された試料に含まれる所定の元素の量に比例した数値を測定する元素測定部と、
前記試料保持部により保持された試料の量に比例した数値を測定する試料測定部と、
前記元素測定部により測定された試料に含まれる所定の元素の量に比例した数値を、前記試料測定部により測定された試料の量に比例した数値で規格化することにより補正する補正部とを備え、
前記試料保持部は、可撓性の収容袋を備え、該収容袋の内側の下部に試料が収容されたあと、試料が収容された下部以外の上部および中間部が巻かれた状態になることにより試料が保持されることを特徴とする蛍光X線分析装置。
【請求項3】
前記試料保持部に保持された試料を含む所定の領域を撮像する撮像部を備え、
前記試料測定部は、前記撮像部により撮像された所定の領域の画像に基づいて、所定の領域の画像の面積に対する試料の占める画像の面積の割合を算出することにより、試料の量に比例した数値を測定する請求項1又は請求項2に記載の蛍光X線分析装置。
【請求項4】
前記試料保持部に保持された試料に対して光線を照射する光源部と、該試料を透過した光線を検出する第2の検出部とを備え、
前記試料測定部は、光源部から試料に照射された光線の強度と、該試料を透過した光線の強度に基づいて、前記試料保持部に保持された試料の量に比例した数値を測定する請求項1又は請求項2に記載の蛍光X線分析装置。
【請求項5】
前記試料保持部は、細長い管状に形成されたキャピラリー管を備え、該キャピラリー管の内側に試料が保持される請求項1又は請求項2に記載の蛍光X線分析装置。
【請求項6】
可撓性の収容袋を備え、収容袋の内側に試料が収容されたあと、該収容袋が試料ごと巻かれた状態になることにより試料が保持される試料保持部と、
前記試料保持部に保持された試料に1次X線を照射するX線照射部と、
1次X線が照射された際に試料から発生した蛍光X線を検出する検出部と、
前記検出部により検出された蛍光X線に基づいて試料を分析する分析部とを備える蛍光X線分析装置による蛍光X線分析方法であって、
前記分析部は、
前記検出部により検出された蛍光X線に基づいて、前記試料保持部に保持された試料に含まれる所定の元素の量に比例した数値を元素測定部により測定するステップと、
前記試料保持部により保持された試料の量に比例した数値を試料測定部により測定するステップと、
補正部により前記元素測定部により測定された試料に含まれる所定の元素の量に比例した数値を、前記試料測定部により測定された試料の量に比例した数値で規格化することにより補正するステップとを備えることを特徴とする蛍光X線分析方法。
【請求項7】
可撓性の収容袋を備え、該収容袋の内側の下部に試料が収容されたあと、試料が収容された下部以外の上部および中間部が巻かれた状態になることにより試料が保持される試料保持部と、
前記試料保持部に保持された試料に1次X線を照射するX線照射部と、
1次X線が照射された際に試料から発生した蛍光X線を検出する検出部と、
前記検出部により検出された蛍光X線に基づいて試料を分析する分析部とを備える蛍光X線分析装置による蛍光X線分析方法であって、
前記分析部は、
前記検出部により検出された蛍光X線に基づいて、前記試料保持部に保持された試料に含まれる所定の元素の量に比例した数値を元素測定部により測定するステップと、
前記試料保持部により保持された試料の量に比例した数値を試料測定部により測定するステップと、
補正部により前記元素測定部により測定された試料に含まれる所定の元素の量に比例した数値を、前記試料測定部により測定された試料の量に比例した数値で規格化することにより補正するステップとを備えることを特徴とする蛍光X線分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線の照射により試料から発生した蛍光X線を検出することによって試料を分析する蛍光X線分析装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、X線の照射により試料から発生した蛍光X線を検出することによって、試料に含まれる所定の元素を分析することが行われており、特に高感度分析が可能な全反射蛍光X線分析法(TXRF)が知られている。
【0003】
この全反射蛍光X線分析法(TXRF)に用いられる装置は、一般に試料が保持される試料保持基板と、試料保持基板に保持された試料に1次X線を照射するX線照射部と、X線が照射された際に試料から発生した蛍光X線を検出する検出部と、検出部により検出された蛍光X線に基づいて試料を分析する分析部とを備える。そして、全反射蛍光X線分析法(TXRF)では、1次X線を試料保持基板に対して非常に浅い視射角(0.1度以下)で反射させ、試料保持板の試料の直上に配置された検出器により試料から発生した蛍光X線を検出する(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
これによれば、一般的な蛍光X線分析法に比べて、蛍光X線の検出強度が増大する。また、1次X線は全反射されるため、試料への侵入深さは数nmと浅く、1次X線の散乱も抑えることができる。つまり、試料からの蛍光X線の強度は増加し、バックグラウンド強度は軽減されることから、全反射蛍光X線分析法(TXRF)は元素の検出下限が向上し、例えば毛髪のような微量の試料の分析に適している。
【0005】
ところで、従来の蛍光X線分析に際して、毛髪等の試料に太さの個体差があるなどして、試料の太さ、長さ、個数あるいは分量によって、試料から発生する蛍光X線の強度が変わる。このため、試料から発生する蛍光X線の強度を試料の量で規格化する必要があり、例えばマイクロ電子天秤を用いて試料の量を直接測定することが挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2005-128013号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、マイクロ電子天秤を用いて試料の量を直接測定することは有効な方法ではあるが、マイクロ電子天秤を適用できる人材や場面が限られる上、マイクロ電子天秤は高額であり、設置場所の制約もあった。このため、実際には試料から発生する蛍光X線の強度を試料の量で規格化することは容易ではなく、試料を精度良く分析することができていないという問題があった。
【0008】
本発明は、上述の問題に鑑みてなされたものであって、試料を精度良く分析することができる試料蛍光X線分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するために、試料が保持される試料保持部と、前記試料保持部に保持された試料に1次X線を照射するX線照射部と、1次X線が照射された際に試料から発生した蛍光X線を検出する検出部と、前記検出部により検出された蛍光X線に基づいて試料を分析する分析部とを備える蛍光X線分析装置であって、前記分析部は、前記検出部により検出された蛍光X線に基づいて、前記試料保持部に保持された試料に含まれる所定の元素の量に比例した数値を測定する元素測定部と、前記試料保持部により保持された試料の量に比例した数値を測定する試料測定部と、前記元素測定部により測定された試料に含まれる所定の元素の量に比例した数値を、前記試料測定部により測定された試料の量に比例した数値で規格化することにより補正する補正部とを備えることを特徴とする。
【0010】
これによれば、試料に含まれる所定の元素の量に比例した数値を試料の量に比例した数値で規格化することにより補正することによって、試料の単位量当たりの所定の元素の量の程度を算出し得るため、試料の太さ、長さ、個数あるいは分量に関わらず試料を精度良く分析することができる。
【0011】
また、前記試料保持部に保持された試料を含む所定の領域を撮像する撮像部を備え、
前記試料測定部は、前記撮像部により撮像された所定の領域の画像に基づいて、所定の領域の画像の面積に対する試料の占める画像の面積の割合を算出することにより、試料の量に比例した数値を測定してもよい。これによれば、試料を含む所定の領域を撮像することによって試料の量に比例した数値を測定するため、試料の単位量当たりの所定の元素の量の程度を簡単に算出することができる。特に撮像部としてスマートフォン等の携帯端末を用いた場合、本蛍光X線分析装置を小型化することができるとともに、コストを抑えることができる。
【0012】
また、前記試料保持部に保持された試料に対して光線を照射する光源部と、該試料を透過した光線を検出する第2の検出部とを備え、前記試料測定部は、光源部から試料に照射された光線の強度と、該試料を透過した光線の強度に基づいて、前記試料保持部に保持された試料の量に比例した数値を測定してもよい。これによれば、試料に照射された光線の強度と試料を透過した光線の強度によって試料の量に比例した数値を測定するため、試料の単位量当たりの所定の元素の量の程度を簡単に算出することができる。特にマイクロ電子天秤等で試料の量を直接測定する場合に比べて、本蛍光X線分析装置を小型化することができるとともに、コストを抑えることができる。
【0013】
また、前記試料保持部は、細長い管状に形成されたキャピラリー管を備え、該キャピラリー管の内側に試料を保持してもよい。これによれば、試料保持部において長細い管状に形成されたキャピラリー管の内側に試料が保持されるため、毛髪等の繊維状の試料、唾液や血液等の液体の試料、微量な試料を試料保持部に安定して配置することができ、蛍光X線分析により試料を精度良く分析することが可能となる。
【0014】
また、前記試料保持部は、可撓性の収容袋を備え、該収容袋の内側に試料が収容されたあと、該収容袋が試料ごと巻かれた状態になることにより試料を保持してもよい。これによれば、収容袋の内側に試料が収容されたあと、該収容袋が試料ごと巻かれた状態になるため、毛髪等の繊維状の試料、唾液や血液等の液体の試料、微量な試料を試料保持部に簡単かつ安定して配置することができる。
【0015】
また、前記試料保持部は、可撓性の収容袋を備え、該収容袋の内側の下部に試料が収容されたあと、試料が収容された下部以外の上部および中間部が巻かれた状態になることにより試料を保持してもよい。これによれば、収容袋の内側の下部に試料が収容されたあと、試料が収容された下部以外の上部および中間部が巻かれた状態になるため、毛髪等の繊維状の試料、唾液や血液等の液体の試料、微量な試料を試料保持部に簡単かつ安定して配置することができる。
【0016】
また、本発明に係る蛍光X線分析方法は、試料が保持される試料保持部と、前記試料保持部に保持された試料に1次X線を照射するX線照射部と、1次X線が照射された際に試料から発生した蛍光X線を検出する検出部と、前記検出部により検出された蛍光X線に基づいて試料を分析する分析部とを備える蛍光X線分析装置による蛍光X線分析方法であって、前記分析部は、前記検出部により検出された蛍光X線に基づいて、前記試料保持部に保持された試料に含まれる所定の元素の量に比例した数値を測定するステップと、前記試料保持部により保持された試料の量に比例した数値を測定するステップと、前記元素測定部により測定された試料に含まれる所定の元素の量に比例した数値を、前記試料測定部により測定された試料の量に比例した数値で規格化することにより補正するステップとを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、試料に含まれる所定の元素の量に比例した数値を試料の量に比例した数値で規格化することにより補正することによって、試料の単位量当たりの所定の元素の量の程度を算出し得るため、試料の太さ、長さ、個数あるいは分量に関わらず試料を精度良く分析することができる。
【0018】
よって、健康科学では血液、唾液、尿、汗などを、環境分析では河川水、大気微粒子、製造工程管理では飲料水、メッキ浴、洗浄水、ナノ材料などを、水質安全評価では飲料水、水道水、井戸水などをそれぞれ本装置によって分析でき、様々な産業分野において利用が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の第1の実施形態に係る蛍光X線分析装置を示す構成概略図である。
図2図1の分析部、検出部、撮像部の電気的構成を示すブロック図である。
図3図1のキャピラリー管を示す斜視図である。
図4】試料に含まれる元素の蛍光X線の強度の一例を示す図である。
図5】試料を撮像した画像処理前(左側)および画像処理後(右側)の画像を示す図である。
図6】試料の画像解析を説明するための図である。
図7】所定の領域に対して試料が占める割合の一例を示す表である。
図8】本装置による蛍光X線分析方法を示すフローチャートである。
図9】本発明の第2の実施形態に係る蛍光X線分析装置を示す構成概略図である。
図10図9の分析部、検出部、第2の検出部の電気的構成を示すブロック図である。
図11】試料保持部の変形例としての収容袋を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<第1の実施形態>
次に、本発明に係る蛍光X線分析装置(以下、本装置という)の第1の実施形態について図1図8を参照しつつ説明する。
【0021】
[全体構成]
本装置は、図1および図2に示すように、試料Pが保持される試料保持部1と、試料保持部1に保持された試料Pに1次X線(X1)を照射するX線照射部2と、1次X線(X1)が照射された際に試料Pから発生した蛍光X線(X2)を検出する検出部3と、試料保持部1に保持された試料Pを含む所定の領域を撮像する撮像部4と、検出部3により検出された蛍光X線(X2)と、撮像部4により撮像された所定の領域の画像に基づいて試料Pを分析する分析部5とを備える。なお、本実施形態では、毛髪等の繊維状の試料Pを想定している。
【0022】
前記試料保持部1は、長細い円管状に形成されたキャピラリー管10を備え、該キャピラリー管10の内側に試料Pが保持される。このキャピラリー管10は、本装置の図示略のケース内において支持部材等により脱着可能に配置される。なお、図1に示すキャピラリー管10は、説明の便宜上、拡大して図示したものである。
【0023】
前記キャピラリー管10は、図3に示すように、例えば長さ5mm~50mm、内径100μmm~5mm、厚み5μm~100μmの両端開口の細長い円管状の周壁10aに形成され、高分子材料、カーボン、ボロンナイトライド(BN)、石英ガラス、シリコンなどの蛍光X線(X2)が透過可能な材料から構成される。なお、キャピラリー管10は、X線が透過し易いように、表面が平滑な材料が好ましい。また、キャピラリー管10は、試料によっては、カーボンナノチューブのように極めて小さい内径(数十ナノメーター)を有するものを用いてもよい。
【0024】
また、前記キャピラリー管10は、試料Pの分析の際、一方端の開口部10bから試料Pが挿入され、内側で試料Pを保持したあと、本装置の図示略のケース内の所定箇所に配置される。このとき、キャピラリー管10は、軸方向(長さ方向)がX線照射部2から照射される1次X線(X1)の照射方向と略平行となるように水平状態で配置される。
【0025】
前記X線照射部2は、1次X線(X1)を出射するX線管と、X線管から出射された1次X線(X1)を略平行化するコリメータとを備える。このX線照射部2は、試料保持部1のキャピラリー管10の一方端の開口部10bから1次X線(X1)を入射させ、キャピラリー管10の周壁10aの内面に対して所定の視射角(例えば0.1度)で全反射させたあと、キャピラリー管10の他方端の開口部10cから1次X線(X1)を出射させることにより、キャピラリー管10の内側に保持された試料Pに1次X線(X1)を照射する。
【0026】
これによれば、試料Pの蛍光X線強度が増大するとともに、1次X線(X1)の散乱も抑えることができる。なお、これらX線管およびコリメータは、従来の蛍光X線分析装置に用いられているものと同様であるため、その詳細な説明を省略する。
【0027】
前記検出部3は、試料保持部1のキャピラリー管10の外側に設けられている。この検出部3は、キャピラリー管10の外側に周方向に沿って複数設けられた場合、試料Pからの蛍光X線(X2)を全周に亘って検出し得るため、蛍光X線分析における分析時間の短縮と高感度化が可能となる。
【0028】
前記撮像部4は、試料保持部1に保持された試料Pを含む所定の領域を撮像するものであって、キャピラリー管10の外側に設けられる。特に撮像部4としてスマートフォン等の携帯端末を用いた場合、本蛍光X線分析装置を小型化することができるとともに、コストを抑えることができる。例えば、撮像部4は、試料Pが毛髪5本または10本の場合、図5の左側の写真に示すように、試料Pが含まれる所定の領域を撮像する。
【0029】
前記分析部5は、図2に示すように、試料保持部1に保持された試料Pに含まれる所定の元素の量に関して測定を行う元素測定部51と、該試料Pの量に関して測定を行う試料測定部52と、該試料Pの元素に関する量を試料Pに関する量で規格化することにより補正する補正部53と、試料Pの分析結果を出力する出力部54と、本装置の各部を制御する制御部55とを備える。なお、試料Pの量とは、全ての試料Pの表面積、体積または質量などの試料全体の大きさに関する量をいう。
【0030】
前記元素測定部51は、検出部3により検出された蛍光X線に基づいて、試料保持部1に保持された試料Pに含まれる所定の元素の量に比例した数値K1を測定する。本実施形態では、元素測定部51は、図4に示すように、所定の元素の量に比例した数値K1として、所定の元素に対応する蛍光X線の強度を測定する。例えば、試料Pに含まれる所定の元素として銅(Cu)を分析したい場合、銅(Cu)に対応する蛍光X線の強度を測定する。
【0031】
前記試料測定部52は、試料保持部1により保持された試料Pの量に比例した数値K2を測定する。本実施形態では、試料測定部52は、撮像部4により撮像された所定の領域の画像に基づいて、所定の領域の画像の面積Sに対する試料Pの占める画像の面積Tの割合を算出することにより試料の量に比例した数値を測定する。
【0032】
例えば、試料測定部52は、試料Pが毛髪5本または10本の場合、図5の右側の図に示すように、撮像部4により撮像された所定の領域の画像をグレースケール化し、図6に示すように、所定の領域の画像の面積Sと試料Pの占める画像の面積T(T1+T2+T3+…+Tn:nは資料Pの本数)を計測したあと、図7に示すように、所定の領域の画像の面積Sに対する試料Pの占める画像の面積Tの割合(T/S)を算出する。これによれば、撮像部4による画像から試料Pの量(本数)に比例した数値を簡単に測定することができる。
【0033】
前記補正部53は、元素測定部51により測定された試料Pに含まれる所定の元素の量に比例した数値K1を、試料測定部52により測定された試料Pの量に比例した数値K2で規格化することにより補正する。例えば、補正部53は、所定の元素の量に比例した数値K1を試料Pの量に比例した数値K2で除算することにより規格化する。
【0034】
なお、前記分析部5は、一般に検出部3に直接接続されたパーソナルコンピュータ(PC)で実行されるが、検出部3とネットワークを介して接続されたクラウド上のサーバコンピュータで実行されてもよい。特にクラウド上のサーバコンピュータで実行される場合、例えば、小型のX線照射部2(長さ180mm、幅45mm、高さ20mm程度)、検出部3(長さ1500mm、幅60mm、厚さ20mm)、キャピラリー管10(長さ30mm、外径2mm程度)、撮像部4のみで装置を構成し得るため、省スペース化、軽量化、並びに小型化が可能となる。
【0035】
[本装置による蛍光X線分析方法]
次に、本装置による蛍光X線分析方法について図8を参照しつつ説明する。
【0036】
まず、キャピラリー管10の一方端の開口部10bから試料Pを挿入して、キャピラリー管10の内側で試料Pを保持したあと、図示略の本装置のケース内の所定箇所に水平状態で配置する(S1)。
【0037】
次に、前記X線照射部2は、試料保持部1のキャピラリー管10の一方端の開口部10bから1次X線(X1)を入射させ、キャピラリー管10の内面に対して所定の視射角で全反射させたあと、キャピラリー管10の他方端の開口部10cから1次X線(X1)を出射させることにより、キャピラリー管10の内側に保持された試料Pに1次X線(X1)を照射する(S2)。
【0038】
次に、前記検出部3は、1次X線(X1)が照射された際に試料Pから発生した蛍光X線(X2)を検出する(S3)。このとき、各検出部3により試料Pからの蛍光X線(X2)を全周に亘って検出した場合、蛍光X線分析における分析時間の短縮と高感度化が可能となる。
【0039】
次に、前記分析部5は、試料保持部1に保持された試料Pの分析を行う(S4)。具体的には、元素測定部51が、検出部3により検出された蛍光X線に基づいて、試料保持部1に保持された試料Pに含まれる所定の元素の量に比例した数値K1を測定する。また、試料測定部52が、試料保持部1により保持された試料Pの量に比例した数値K2を測定する。そして、補正部53が、元素測定部51により測定された試料に含まれる所定の元素の量に比例した数値K1を、試料測定部52により測定された試料Pの量に比例した数値K2で規格化することにより補正する。あとは、出力部54が、補正部53により規格化して補正された数値を画面や印刷により出力する。
而して、試料Pに含まれる所定の元素の量に比例した数値K1を試料の量に比例した数値K2で規格化することにより補正することによって、試料Pの単位量当たりの所定の元素の量の程度を算出し得るため、試料Pの太さ、長さ、個数あるいは分量に関わらず試料Pを精度良く分析することができる。
【0040】
<第2の実施形態>
次に、本装置の第2の実施形態について図9および図10を参照しつつ説明する。なお、以下では上記の第1の実施形態と異なる構成についてのみ説明することとし、同一の構成については説明を省略して同一の符号を付すこととする。
【0041】
本装置は、図9に示すように、試料保持部1に保持された試料Pに対して光線を照射する光源部6と、該試料Pを透過した光線(例えば、可視光、X線、紫外線または赤外線)を検出する第2の検出部7とを備える。この第2の検出部7は、図10に示すように、分析部5の試料測定部52の入力側に設けられており、光線の検出結果を試料測定部52に送信するものとなされている。
【0042】
また、本装置において、元素測定部51は、所定の元素の量に比例した数値K1として、所定の元素に対応する蛍光X線(X2)の強度を測定する。例えば、検出部3により検出された所定の元素(例えば、銅Cu)の蛍光X線(X2)の強度をI、X線照射部2から試料Pを含む所定の領域に照射された1次X線(X1)の強度をI、所定の元素の質量をWとすると、下式[1]の関係式が成立する。
【0043】
I=k’IW(k’:比例定数)…[1]
【0044】
また、本装置において、試料測定部52は、光源部6から試料Pに照射された光線の強度と、該試料Pを透過した光線の強度に基づいて、試料保持部1に保持された試料Pの量に比例した数値K2を測定する。例えば、光源部6から試料Pに照射された光線の強度をA、第2の検出部7により検出された該試料Pを透過した光線の強度をA、試料Pの体積をVとすると、下式[2]の関係式が成立する。
【0045】
A/A=kV(k:比例定数)…[2]
【0046】
また、本装置において、補正部53は、元素測定部51により測定された試料Pに含まれる所定の元素の量に比例した数値K1を、試料測定部52により測定された試料Pの量に比例した数値K2で規格化することにより補正する。例えば、補正部53は、試料Pに含まれる所定の元素の量に比例した数値K1としての所定の元素に対応する蛍光X線の強度Iを、試料Pの量に比例した数値K2としての光線の強度比 A/Aで除算することにより規格化すると、上式[1][2]からも明らかなように試料Pの体積濃度(W/V)に比例する。
【0047】
なお、本実施形態では、試料Pとして主に毛髪等の繊維状のものを想定したが、血液、唾液、尿、汗、河川水、大気微粒子、飲料水、メッキ浴、洗浄水、ナノ材料、水道水、井戸水、粉状物などの様々な試料Pの分析が可能である。
【0048】
また、前記検出器3は、キャピラリー管10の外側に複数設けられるものとしたが、1個のみ設けられてもよい。
【0049】
また、前記X線照射部2は、照射される1次X線(X1)がキャピラリー管10の周壁10aの内面で全反射するものとしたが、その他の態様の反射であってもよい。
【0050】
また、前記キャピラリー管10は、1本配置するものとしたが、複数本配置してもよい。
【0051】
また、前記試料保持部1は、キャピラリー管10を用いたが、その他の形状および構造のものを用いてもよい。例えば、試料保持部1は、図11(a)に示すように、可撓性の収容袋11を備え、該収容袋11の内側に試料Pが収容されたあと、該収容袋11が試料Pごと巻かれた状態になることにより試料Pが保持されるものが挙げられる。あるいはまた、試料保持部1は、図11(b)に示すように、可撓性の収容袋11を備え、該収容袋11の内側の下部に試料Pが収容されたあと、試料Pが収容された下部以外の上部および中間部が巻かれた状態になることにより試料Pが保持されるものが挙げられる。これらによれば、毛髪等の繊維状の試料P、唾液や血液等の液体の試料P、微量な試料Pを試料保持部1に簡単かつ安定して配置することができる。
【0052】
以上、図面を参照して本発明の実施形態を説明したが、本発明は、図示した実施形態のものに限定されない。図示された実施形態に対して、本発明と同一の範囲内において、あるいは均等の範囲内において、種々の修正や変形を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0053】
1…試料保持部
10…キャピラリー管
10a…周壁
10b…一方端の開口部
10c…他方端の開口部
2…X線照射部
3…検出部
4…撮像部
5…分析部
51…元素測定部
52…試料測定部
53…補正部
54…出力部
55…制御部
6…光源部
7…第2の検出部
P…試料
図1
図2
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図11