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特許7412915保護膜形成剤、及び半導体チップの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-04
(45)【発行日】2024-01-15
(54)【発明の名称】保護膜形成剤、及び半導体チップの製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/301 20060101AFI20240105BHJP
【FI】
H01L21/78 M
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019140240
(22)【出願日】2019-07-30
(65)【公開番号】P2021022710
(43)【公開日】2021-02-18
【審査請求日】2022-04-05
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000220239
【氏名又は名称】東京応化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】木下 哲郎
【審査官】内田 正和
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-066768(JP,A)
【文献】特開2020-066665(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/301
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体ウエハーのダイシングにおいて、半導体ウエハーの表面に保護膜を形成するために用いられる保護膜形成剤であって、
水溶性樹脂(A)と、吸光剤(B)と、塩基性化合物(C)と、溶媒(S)とを含み、
前記吸光剤(B)が、下記式(B1-1a):
【化1】

(式(B1-1a)中、R及びRは、それぞれ独立に、水酸基、又はカルボキシ基であり、 及びR の少なくとも一方が水酸基であり、 は、-NRで表される基であり、R及びRは、それぞれ独立に、炭素原子数1以上4以下のアルキル基である。)
で表される化合物を含み、
前記塩基性化合物(C)が、エチルアミン、n-プロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエチルアミン、ジ-n-プロピルアミン、ジエタノールアミン、トリエチルアミン、メチルジエチルアミン、ジメチルエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピロール、ピペリジン、1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]-7-ウンデセン、及び1,5-ジアザビシクロ[4,3,0]-5-ノナンからなる群より選ばれる少なくとも1種の塩基性有機化合物を含む、保護膜形成剤。
【請求項2】
前記吸光剤(B)の含有量が、0.1質量%以上10質量%以下である、請求項1に記載の保護膜形成剤。
【請求項3】
1気圧下において引火点をもたない、請求項1又は2に記載の保護膜形成剤。
【請求項4】
半導体ウエハーを加工する、半導体チップの製造方法であって、
前記半導体ウエハー上に、請求項1~のいずれか1項に記載の前記保護膜形成剤を塗布して保護膜を形成することと、
前記半導体ウエハー上における前記保護膜を含む1以上の層の所定の位置にレーザー光を照射し、前記半導体ウエハーの表面が露出し、且つ半導体チップの形状に応じたパターンの加工溝を形成することと、
を含む、半導体チップの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、保護膜形成剤、及び当該保護膜形成剤を用いる半導体チップの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイス製造工程において形成されるウエハーは、シリコン等の半導体基板の表面に絶縁膜と機能膜が積層された積層体を、ストリートと呼ばれる格子状の分割予定ラインによって区画したものであり、ストリートで区画されている各領域が、IC、LSI等の半導体チップとなっている。
【0003】
このストリートに沿ってウエハーを切断することによって複数の半導体チップが得られる。また、光デバイスウエハーでは、窒化ガリウム系化合物半導体等が積層された積層体がストリートによって複数の領域に区画される。このストリートに沿っての切断により、光デバイスウエハーは、発光ダイオード、レーザーダイオード等の光デバイスに分割される。これらの光デバイスは、電気機器に広く利用されている。
【0004】
このようなウエハーのストリートに沿った切断は、過去は、ダイサーと称されている切削装置によって行われていた。しかし、この方法では、積層構造を有するウエハーが高脆性材料であるため、ウエハーを切削ブレード(切れ刃)によって半導体チップ等に裁断分割する際に、傷や欠け等が発生したり、チップ表面に形成されている回路素子として必要な絶縁膜が剥離したりする問題があった。
【0005】
このような不具合を解消するために、半導体基板の表面に、水溶性材料の層を含むマスクを形成し、次いで、マスクに対してレーザーを照射し、マスクの一部を分解除去することにより、マスクの一部において半導体基板の表面を露出させた後、プラズマエッチングによりマスクの一部から露出した半導体基板を切断して、半導体基板を半導体チップ(IC)に分割する方法が提案されている(特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2014-523112号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の方法等においてマスクとしての保護膜を形成する場合、水溶性の樹脂とともに、水溶性紫外線吸収剤が使用されることが多い。しかしながら、従来使用されている水溶性紫外線吸収剤は、ダイシングに使用されるレーザーの波長における吸光係数が低い。このため、保護膜形成剤における水溶性紫外線吸収剤の添加量を高める必要がある場合がある。水溶性紫外線吸収剤を保護膜形成剤に多量に添加する場合、吸収剤自体の溶解性の問題や、保護膜の物理的特性の低下等の問題がある。
【0008】
本発明は、上記の課題に鑑みなされたものであって、半導体ウエハーのダイシングにおいて、半導体ウエハーの表面に保護膜を形成するために用いられ、吸光係数の高い保護膜を形成できる保護膜形成剤と、当該保護膜形成剤を用いる半導体チップの製造方法とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、水溶性樹脂(A)と、吸光剤(B)と、溶媒(S)とを含む保護膜形成剤において、吸光剤(B)として特定の構造の化合物を用いることによって上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0010】
本発明の第1の態様は、半導体ウエハーのダイシングにおいて、半導体ウエハーの表面に保護膜を形成するために用いられる保護膜形成剤であって、
水溶性樹脂(A)と、吸光剤(B)と、溶媒(S)とを含み、
吸光剤(B)が、下記式(B1):
【化1】
(式(B1)中、R及びRは、それぞれ独立に、水酸基、又はカルボキシ基であり、R及びRは、それぞれ独立に、水酸基、カルボキシ基、又は-NRで表される基であり、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素原子数1以上4以下のアルキル基であり、m及びnは、それぞれ独立に0以上2以下の整数である。)
で表される化合物を含む、保護膜形成剤である。
【0011】
本発明の第2の態様は、半導体ウエハーを加工する、半導体チップの製造方法であって、
半導体ウエハー上に、第1の態様にかかる保護膜形成剤を塗布して保護膜を形成することと、
半導体ウエハー上における保護膜を含む1以上の層の所定の位置にレーザー光を照射し、半導体ウエハーの表面が露出し、且つ半導体チップの形状に応じたパターンの加工溝を形成することと、
を含む、半導体チップの製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、半導体ウエハーから半導体チップを製造する半導体チップの製造方法において、半導体ウエハーの表面に保護膜を形成するために用いられ、吸光係数の高い保護膜を形成できる保護膜形成剤と、当該保護膜形成剤を用いる半導体チップの製造方法とを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の保護膜剤を用いるウエハーの加工方法によって加工される半導体ウエハーを示す斜視図。
図2図1に示される半導体ウエハーの断面拡大図。
図3】保護膜が形成された半導体ウエハーの要部拡大断面図。
図4】保護膜が形成された半導体ウエハーが環状のフレームに保護テープを介して支持された状態を示す斜視図。
図5】レーザー光線射工程を実施するレーザー加工装置の要部斜視図。
図6】保護膜と、レーザー光照射によって形成された加工溝とを備える半導体ウエハーの断面拡大図。
図7図6に示される半導体ウエハーに対するプラズマ照射を示す説明図。
図8】プラズマ照射により、半導体ウエハーが半導体チップに分割された状態を示す断面拡大図。
図9】半導体チップ上の保護膜が除去された状態を示す断面拡大図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
≪保護膜形成剤≫
保護膜形成剤は、半導体ウエハーのダイシングにおいて、半導体ウエハーの表面に保護膜を形成するために用いられる。保護膜形成剤は、水溶性樹脂(A)と、吸光剤(B)と、溶媒(S)とを含む。以下、保護膜形成剤について、「保護膜形成剤」とも記す。
【0015】
具体的には、保護膜形成剤は、半導体ウエハー上に形成された保護膜に対してレーザー光を照射して、半導体ウエハーの表面が露出し、且つ半導体チップの形状に応じたパターンの加工溝を形成することと、
上記の保護膜と、上記の化合溝とを備える半導体ウエハーにレーザー又はプラズマを照射して、半導体ウエハーにおける加工溝の位置を加工することと、
を含む半導体チップの製造方法における、保護膜の形成に好適に用いられる。
【0016】
半導体ウエハーの加工後の水洗による保護膜の除去が容易であることや、後述する半導体チップの製造方法においてプラズマ照射を行う場合に、プラズマ照射に対する保護膜の十分な耐久性の点で、保護膜の膜厚は、典型的には、1μm以上100μm以下が好ましく、10μm以上100μm以下がより好ましい。30μm以上100μm以下がさらに好ましい。
レーザーを照射する場合、保護膜の膜厚は、0.1μm以上10μm以下が好ましい。
【0017】
以下、保護膜形成剤が含む、必須、又は任意の成分について、説明する。
【0018】
<水溶性樹脂(A)>
水溶性樹脂(A)は、保護膜形成剤を用いて形成される保護膜の基材である。水溶性樹脂の種類は、水等の溶剤に溶解させて塗布・乾燥して膜を形成し得る樹脂であれば特に制限されない。
水溶性とは、25℃の水100gに対して、溶質(水溶性樹脂)が0.5g以上溶解することをいう。
【0019】
水溶性樹脂(A)は、熱重量測定において、500℃まで昇温した場合に80重量%以上の重量減少率を示す樹脂であるのが好ましい。500℃まで昇温した場合の重量減少率は、90重量%以上がより好ましく、95重量%以上がさらに好ましい。
500℃まで昇温した場合の重量減少率が上記の範囲内である水溶性樹脂(A)を含む保護膜形成剤を用いる場合、保護膜中でレーザー光のエネルギーによる水溶性樹脂(A)の分解が良好に進行することから、レーザー光の照射により保護膜において良好に開口した加工溝を形成しやすい。
【0020】
水溶性樹脂(A)について、熱重量測定において、350℃まで昇温した場合の重量減少率は、10重量%以上が好ましく、15%以上がより好ましい。
かかる水溶性樹脂(A)を用いる場合、レーザー光により与えられるエネルギー量が少なくとも、水溶性樹脂(A)が良好に分解しやすく、低出力のレーザーを照射する場合であっても、保護膜において良好に開口した加工溝を形成しやすい。
【0021】
重量減少率を求めるための熱重量測定は、一般的な熱重量測定方法に従って行うことができる。
【0022】
水溶性樹脂(A)について、重量減少率を調整する方法は特に限定されない。一般的には、同種の樹脂であれば、平均分子量が小さい程、水溶性樹脂(A)の重量減少率が高い。
【0023】
レーザー光を照射された際の分解性と、成膜性との両立の観点から、水溶性樹脂(A)の重量平均分子量は、15,000以上300,000以下が好ましく、20,000以上200,000以下がより好ましい。
【0024】
水溶性樹脂(A)の種類の具体例としては、ビニル系樹脂、セルロース系樹脂、ポリエチレンオキサイド、ポリグリセリン、及び水溶性ナイロン等を挙げることができる。
ビニル系樹脂としては、ビニル基を有する単量体の単独重合体、又は共重合体であって、水溶性の樹脂であれば特に限定されない。ビニル系樹脂としては、ポリビニルアルコール、ポリビニルアセタール(酢酸ビニル共重合体も含む)、ポリビニルピロリドン、ポリアクリルアミド、ポリ(N-アルキルアクリルアミド)、ポリアリルアミン、ポリ(N-アルキルアリルアミン)、部分アミド化ポリアリルアミン、ポリ(ジアリルアミン)、アリルアミン・ジアリルアミン共重合体、ポリアクリル酸、ポリビニルアルコールポリアクリル酸ブロック共重合体、及びポリビニルアルコールポリアクリル酸エステルブロック共重合体が挙げられる。
セルロース系樹脂としては、水溶性のセルロース誘導体であれば特に限定されない。セルロース系樹脂としては、メチルセルロース、エチルセルロース、及びヒドロキシプロピルセルロース等が挙げられる。
これらは、1種単独で使用することもできるし、2種以上を組み合わせて使用することもできる。
【0025】
上記の水溶性樹脂(A)の具体例の中では、保護膜の熱ダレによる加工溝の形状悪化等が生じにくいことから、ビニル系樹脂、及びセルロース系樹脂が好ましく、ポリビニルピロリドン、及びヒドロキシプロピルセルロースがより好ましい。
【0026】
半導体ウエハー表面に形成される保護膜は、通常、保護膜と加工溝とを備える半導体ウエハーを半導体チップに加工する方法に応じた、加工溝の形成後の適切な時点において、半導体ウエハー又は半導体チップの表面から除去される。このため、保護膜の水洗性の点から、半導体ウエハー表面との親和性の低い水溶性樹脂が好ましい。半導体ウエハー表面との親和性の低い水溶性樹脂としては、極性基としてエーテル結合、水酸基、アミド結合のみを有する樹脂、例えばポリビニルアルコール、ポリエチレングリコール、ポリビニルピロリドン、及びヒドロキシプロピルセルロースが好ましい。
【0027】
保護膜に対してレーザー光を照射して加工溝を形成する際の開口不良や、保護膜の熱ダレによる加工溝の形状悪化等が生じにくいことから、保護膜形成剤における、水溶性樹脂(A)の質量と、吸光剤(B)の質量との総量に対する、水溶性樹脂(A)の質量の比率は、60質量%以上99質量%以下が好ましく、80質量%以上95質量%以下がより好ましい。
【0028】
<吸光剤(B)>
保護膜形成剤は、保護膜にレーザー光のエネルギーを効率よく吸収させ、保護膜の熱分解を促進させる目的で、吸光剤(B)を含む。吸光剤(B)は、下記式(B1):
【化2】
(式(B1)中、R及びRは、それぞれ独立に、水酸基、又はカルボキシ基であり、R及びRは、それぞれ独立に、水酸基、カルボキシ基、又は-NRで表される基であり、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素原子数1以上4以下のアルキル基であり、m及びnは、それぞれ独立に0以上2以下の整数である。)
で表される化合物を含む。
【0029】
上記の式(B1)で表される化合物は、吸光係数が高く、保護膜形成剤にアルカリとともに添加した場合でも高い吸光係数を示す。このため、上記の式(B1)で表される化合物を吸光剤(B)として含む保護膜形成剤を用いて保護膜を形成すると、ダイシング用のマスク形成の際に保護膜の部分的なレーザーによる分解を良好に行うことができる。
【0030】
上記式(B1)において、R及びRは、-NRで表される基である場合がある。R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素原子数1以上4以下のアルキル基である。R及びRとしてのアルキル基は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよい。R及びRとしてのアルキル基の具体例は、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、及びtert-ブチル基である。
【0031】
-NRで表される基としては、アミノ基、メチルアミノ基、エチルアミノ基、ジメチルアミノ基、及びジエチルアミノ基が好ましく、アミノ基、ジメチルアミノ基、及びジエチルアミノ基がより好ましい。
【0032】
式(B1)で表される化合物は、塩基の存在下又は不存在下での吸光係数の高さから、下記式(B1-1):
【化3】
(式(B1-1中)、R~R、m、及びnは、式(B1)中のこれらと同様である。)
で表される化合物が好ましい。
【0033】
塩基の存在下又は不存在下での吸光係数の高さから、上記式(B1)及び式(B1-1)において、R及びRの少なくとも一方が水酸基であるのが好ましい。
【0034】
式(B1-1)で表される化合物は、下記式(B1-1a)~式(B1-1e):
【化4】
(式(B1-1a)~式(B1-1e)中、R~Rは、式(B1)中のこれらと同様である。)
のいずれかで表される化合物であるのが好ましい。
【0035】
式(B1-1a)~式(B1-1e)で表される化合物の中では、式(B1-1a)で表される化合物が好ましい。
式(B1-1a)~式(B1-1e)で表される化合物において、Rが、-NRで表される前述の基であって、R及びRが、それぞれ独立に炭素原子数1以上4以下のアルキル基であるのが好ましい。
【0036】
式(B1)で表される化合物の好適な具体例として、以下の化合物が挙げられる。
【0037】
【化5】
【0038】
【化6】
【0039】
【化7】
【0040】
これらの化合物の中では、入手の容易性や、塩基の存在下でも高い吸光係数を示すことから、下記の化合物が好ましい。
【化8】
【0041】
吸光剤(B)としては、上記の式(B1)で表される化合物とともに、その他の吸光剤を用いることができる。その他の吸光剤としては、例えば、水溶性染料、水溶性色素、及び、水溶性紫外線吸収剤等を使用することができる。これらはいずれも水溶性であり、保護膜中に均一に存在させる上で有利である。
水溶性の吸光剤を用いる場合、保護膜形成剤の保存安定性が高く、保護膜形成剤の保存中に、保護膜形成剤の相分離や吸光剤の沈降等の不都合を生じることがないため、保護膜形成剤の良好な塗布性を長期間維持しやすい点でも有利である。
【0042】
なお、顔料等の水不溶性の吸光剤を用いることもできる。水不溶性の吸光剤を用いる場合、保護膜形成剤の使用に致命的な支障が生じるわけではないが、保護膜のレーザー吸収能にばらつきが生じたり、保存安定性や塗布性に優れる保護膜形成剤を得にくかったり、均一な厚みの保護膜を形成しにくかったりする場合がある。
【0043】
水溶性染料の具体例としては、アゾ染料(モノアゾ及びポリアゾ染料、金属錯塩アゾ染料、ピラゾロンアゾ染料、スチルベンアゾ染料、チアゾールアゾ染料)、アントラキノン染料(アントラキノン誘導体、アントロン誘導体)、インジゴイド染料(インジゴイド誘導体、チオインジゴイド誘導体)、フタロシアニン染料、カルボニウム染料(ジフェニルメタン染料、トリフェニルメタン染料、キサンテン染料、アクリジン染料)、キノンイミン染料(アジン染料、オキサジン染料、チアジン染料)、メチン染料(シアニン染料、アゾメチン染料)、キノリン染料、ニトロソ染料、ベンゾキノン及びナフトキノン染料、ナフタルイミド染料、ペリノン染料、及びその他の染料等の中より、水溶性の染料が選択される。
【0044】
水溶性の色素としては、例えば食用赤色2号、食用赤色40号、食用赤色102号、食用赤色104号、食用赤色105号、食用赤色106号、食用黄色NY、食用黄色4号タートラジン、食用黄色5号、食用黄色5号サンセットエローFCF、食用オレンジ色AM、食用朱色No.1、食用朱色No.4、食用朱色No.101、食用青色1号、食用青色2号、食用緑色3号、食用メロン色B、及び食用タマゴ色No.3等の食品添加用色素が、環境負荷が低い点等から好適である。
【0045】
水溶性紫外線吸収剤としては、例えば4,4’-ジカルボキシベンゾフェノン、ベンゾフェノン-4-カルボン酸、2-カルボキシアントラキノン、1,2-ナフタリンジカルボン酸、1,8-ナフタリンジカルボン酸、2,3-ナフタリンジカルボン酸、2,6-ナフタリンジカルボン酸、2,7-ナフタリンジカルボン酸、4-アミノ桂皮酸、3-アミノ桂皮酸、2-アミノ桂皮酸、シナピン酸(3,5-ジメトキシ-4-ヒドロキシ桂皮酸)、フェルラ酸、カフェイン酸、ビフェニル-4-スルホン酸、2,6-アントラキノンジスルホン酸、2,7-アントラキノンジスルホン酸、クルクミン、及びテトラヒドロキシベンゾフェノン等の有機酸類;これらの有機酸類のソーダ塩、カリウム塩、アンモニウム塩、及び第4級アンモニウム塩;EAB-F(4,4’-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン)等の水溶性アミン類を挙げることができる。
これらの中でも、4-アミノ桂皮酸、3-アミノ桂皮酸、2-アミノ桂皮酸、及びフェルラ酸が好ましく、4-アミノ桂皮酸、及びフェルラ酸がより好ましく、4-アミノ桂皮酸が特に好ましい。
【0046】
吸光剤(B)の質量に対する、式(B1)で表される化合物の質量の割合は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。吸光剤(B)の質量に対する、式(B1)で表される化合物の質量の割合は、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、95質量%以上がさらに好ましく、100質量%が特に好ましい。
【0047】
保護膜形成剤中の吸光剤(B)の含有量は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。保護膜形成剤中の吸光剤(B)の含有量は、0.1質量%以上10質量%以下が好ましい。
保護膜に対してレーザー光を照射して加工溝を形成する際の開口不良や、保護膜の熱ダレによる加工溝の形状悪化等が生じにくいことから、保護膜形成剤における、水溶性樹脂(A)の質量と、吸光剤(B)の質量との総量に対する、吸光剤(B)の質量の比率は、1質量%以上50質量%以下が好ましく、5質量%以上40質量%以下がより好ましく、10質量%以上40質量%以下がさらに好ましい。
【0048】
<塩基性化合物(C)>
保護膜形成剤は、式(B1)で表される化合物を溶解させやすくする目的で塩基性化合物(C)を含んでいてもよい。塩基性化合物(C)としては、無機化合物、及び有機化合物のいずれも使用できる。塩基性化合(C)としては、有機化合物が好ましい。
塩基性化合物(C)の具体例としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、ケイ酸ナトリウム、メタケイ酸ナトリウム、及びアンモニア等の塩基性無機化合物や、エチルアミン、n-プロピルアミン、モノエタノールアミン、ジエチルアミン、ジ-n-プロピルアミン、ジエタノールアミン、トリエチルアミン、メチルジエチルアミン、ジメチルエタノールアミン、トリエタノールアミン、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、ピロール、ピペリジン、1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]-7-ウンデセン、及び1,5-ジアザビシクロ[4,3,0]-5-ノナン等の塩基性有機化合物が挙げられる。
【0049】
塩基性化合物(C)の使用量は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。塩基性化合物(C)の使用量は、式(B1)で表される化合物1モルに対して、1モル以上が好ましく、1モル以上20モル以下がより好ましい。塩基性化合物(C)の使用量の下限は、式(B1)で表される化合物1モルに対して、1.5モル以上であってよく、2モル以上であってよく、3モル以上であってもよい。塩基性化合物(C)の使用量の上限は、式(B1)で表される化合物1モルに対して、15モル以下であってよく、10モル以下であってよく、5モル以下であってもよい。
【0050】
<その他の添加剤>
保護膜形成剤は、水溶性樹脂(A)、及び吸光剤(B)以外にも、本発明の目的を阻害しない限りにおいて、他の配合剤を含んでいてもよい。他の配合剤としては、例えば、防腐剤、及び界面活性剤等を用いることができる。
【0051】
防腐剤としては、安息香酸、ブチルパラベン、エチルパラベン、メチルパラベン、プロピルパラベン、安息香酸ナトリウム、プロピオン酸ナトリウム、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、ベンジルアルコール、塩化セチルピリジニウム、クロロブタノール、フェノール、フェニルエチルアルコール、2-フェノキシエタノール、硝酸フェニル第二水銀、チメロサール、メタクレゾール、ラウリルジメチルアミンオキサイド又はそれらの組み合わせを使用することができる。
【0052】
保護膜形成剤の防腐の点だけでなく、半導体ウエハー洗浄後の廃液の処理の負荷低減の点からも、防腐剤を使用することが好ましい。半導体ウエハーの洗浄のために大量の洗浄水が使用されるのが一般的である。しかし、前述の保護膜形成剤を用いるプロセスでは、保護膜形成剤に含まれる水溶性樹脂(A)に起因する、廃液中での雑菌の繁殖が懸念される。そのため、前述の保護膜形成剤を用いるプロセスに由来する廃液は、保護膜形成剤を使用しないプロセスに由来する廃液とは別に処理されることが望ましい。しかし、保護膜形成剤に防腐剤を含有させる場合、水溶性樹脂(A)に起因する雑菌の繁殖が抑制されるので、保護膜形成剤を使用するプロセスに由来する廃液と、保護膜形成剤を使用しないプロセスに由来する廃液とを、同様に処理し得る。このため、廃水処理工程の負荷を減らすことができる。
【0053】
界面活性剤は、例えば、保護膜形成剤製造時の消泡性、保護膜形成剤の安定性、及び保護膜形成剤の塗布性等を高めるために使用される。特に保護膜形成剤製造時の消泡性の点で界面活性剤を使用することが好ましい。
【0054】
一般に保護膜は保護膜形成剤をスピンコートすることにより形成される。しかし、保護膜を形成する際に気泡に起因する凹凸が発生する場合がある。このような凹凸の発生を抑制するために、界面活性剤等の消泡剤を使用することが好ましい。
【0055】
界面活性剤としては、水溶性の界面活性剤が好ましく使用できる。界面活性剤としては、ノニオン系界面活性剤、カチオン系界面活性剤、アニオン系界面活性剤、及び両性界面活性剤のいずれも使用することができる。界面活性剤は、シリコーン系であってもよい。洗浄性の点からノニオン系界面活性剤が好ましい。
【0056】
<溶媒(S)>
保護膜形成剤は、通常、水溶性樹脂(A)や吸光剤(B)を溶解させるために、溶媒(S)を含む。溶媒(S)としては、水、有機溶剤、及び有機溶剤の水溶液のいずれも用いることができる。使用時の引火等の危険が少ないことや、コストの点等で、溶媒(S)としては、水、及び有機溶剤の水溶液が好ましく、水がより好ましい。
【0057】
引火性の観点からは、溶媒(S)中の有機溶剤の含有量は、20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましく、10質量%以下がさらに好ましく、5質量%以下がさらにより好ましく、3質量%以下が特に好ましい。
【0058】
溶媒(S)は、保護膜形成剤が1気圧下において引火点を持たないように選択されるのが好ましい。具体的には、保護膜形成剤における水の含有量を調整することにより、保護膜の引火点や、引火点の有無が調整される。
引火点をもたない保護膜形成剤は安全であり、例えば、非防爆環境下に置くことができる。具体的には、保護膜形成剤の保管、輸送、使用等の取扱いを非防爆環境下に行うことができる。例えば、保護膜形成剤の半導体工場への導入のみならず、保護膜の形成を非防爆環境下に行うことができる。従って、通常高価な防爆設備等の防爆環境が不要である点で、引火点をもたない保護膜形成剤は、産業上非常に有利である。
【0059】
引火点は、1気圧下において、液温80℃以下ではタグ密閉式で測定し、液温80℃超ではクリーブランド開放式で測定することにより得られる。
本出願の明細書及び特許請求の範囲においては、クリーブランド開放式で測定しても、引火点が測定できなかった場合を、引火点なしとする。
【0060】
保護膜形成剤が含み得る有機溶剤の例としては、メチルアルコール、エチルアルコール、アルキレングリコール、アルキレングリコールモノアルキルエーテル、アルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテート等が挙げられる。
アルキレングリコールとしては、エチレングリコール、及びプロピレングリコール等が挙げられる。アルキレングリコールモノアルキルエーテルとしては、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、及びプロピレングリコールモノエチルエーテル等が挙げられる。アルキレングリコールモノアルキルエーテルアセテートとしては、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、及びプロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等が挙げられる。
保護膜形成剤は、2種以上の有機溶剤を組み合わせて含んでいてもよい。
【0061】
保護膜形成剤の固形分濃度は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。固形分濃度は、例えば、5質量%以上60質量%以下が好ましく、10質量%以上50質量%以下がより好ましい。
【0062】
≪半導体チップの製造方法≫
半導体チップの製造方法は、半導体ウエハーを加工して半導体チップを製造することを含む方法である。
より具体的には、半導体チップの製造方法は、
半導体ウエハー上に、前述の保護膜形成剤を塗布して保護膜を形成することと、
半導体ウエハー上における保護膜を含む1以上の層の所定の位置にレーザー光を照射し、半導体ウエハーの表面が露出し、且つ半導体チップの形状に応じたパターンの加工溝を形成することと、
を含む方法である。
典型的には、上記の半導体チップの製造方法は、半導体ウエハーにおけるストリートの位置を切断する切断工程を含む。
以下、保護膜を形成することについて「保護膜形成工程」とも記し、加工溝を形成することについて「加工溝形成工程」とも記し、半導体ウエハーにおけるストリートの位置を切断することについて「切断工程」とも記す。
【0063】
<保護膜形成工程>
保護膜形成工程では、半導体ウエハー上に、前述の保護膜形成剤を塗布して保護膜が形成される。
【0064】
半導体ウエハーの加工面の形状は、半導体ウエハーに対して所望する加工を施すことができる限りにおいて特に限定されない。典型的には、半導体ウエハーの加工面は、多数の凹凸を有している。そして、ストリートに相当する領域に凹部が形成されている。
半導体ウエハーの加工面では、半導体チップに相当する複数の領域が、ストリートによって区画される。
加工後の水洗による保護膜の除去が容易であることや、後述する切断工程においてプラズマ照射を行う場合のプラズマ照射に対する保護膜の十分な耐久性の点で、保護膜の膜厚は、典型的には、1μm以上100μm以下が好ましく、10μm以上100μm以下がより好ましい。30μm以上100μm以下がさらに好ましい。
加工溝形成工程及び/又は切断工程においてレーザーを照射する場合、保護膜の膜厚は、0.1μm以上10μm以下が好ましい。
切断工程において、ブレードによる切断を行う場合、保護膜の膜厚は特に制限されない。ブレードによる切断を行う場合、加工後の水洗による保護膜の除去が容易であることから、保護膜の厚さは、例えば、0.1μm以上100μ以下が好ましい。
【0065】
以下に、図面を参照しつつ、格子状のストリートで区画された複数の半導体チップを備える半導体ウエハーに対して、前述の保護膜剤を用いてダイシング加工を行う半導体チップの製造方法について、半導体チップの製造方法の好ましい一態様として説明する。
【0066】
図1には、加工対象の半導体ウエハーの斜視図が示される。図2には、図1に示される半導体ウエハーの要部拡大断面図が示される。図1及び図2に示される半導体ウエハー2では、シリコン等の半導体基板20の表面20a上に、絶縁膜と回路とを形成する機能膜が積層された積層体21が設けられている。積層体21においては、複数のIC、LSI等の半導体チップ22がマトリックス状に形成されている。
ここで、半導体チップ22の、形状、及びサイズは特に限定されず、半導体チップ22の設計に応じて、適宜設定され得る。
【0067】
各半導体チップ22は、格子状に形成されたストリート23によって区画されている。なお、図示される実施形態においては、積層体21として使用される絶縁膜は、SiO膜、又はSiOF、BSG(SiOB)等の無機物系の膜や、ポリイミド系、パリレン系等のポリマー膜である有機物系の膜からなる低誘電率絶縁体被膜(Low-k膜)からなる。
【0068】
上記の積層体21の表面が、加工面である表面2aに該当する。上記の表面2a上に、前述した保護膜形成剤を用いて、保護膜が形成される。
【0069】
保護膜形成工程では、例えば、スピンコーターによって半導体ウエハー2の表面2aに保護膜形成材を塗布して保護膜が形成される。なお、保護膜形成剤の塗布方法は、所望する膜厚の保護膜を形成できる限り特に限定されない。
【0070】
次いで、表面2aを被覆する液状の保護膜形成材を乾燥させる。これによって、図3に示されるように半導体ウエハー2上の表面2aに、保護膜24が形成される。
【0071】
このようにして半導体ウエハー2の表面2aに保護膜24が形成された後、半導体ウエハー2の裏面に、図4に示されるように、環状のフレーム5に装着された保護テープ6が貼着される。
【0072】
<加工溝形成工程>
加工溝形成工程では、半導体ウエハー2上における保護膜24を含む1以上の層の所定の位置にレーザー光を照射し、半導体基板20の表面20aが露出し、且つ半導体チップ22の形状に応じたパターンの加工溝が形成される。
【0073】
具体的には、半導体ウエハー2上の表面2a(ストリート23)に、保護膜24を通してレーザー光が照射される。このレーザー光の照射は、図5に示されるようにレーザー光線照射手段72を用いて実施される。
レーザーは強度の点から波長100nm以上400nm以下である紫外線レーザーが好ましい。また、波長266nm、355nm等のYVO4レーザー、及びYAGレーザーが好ましい。
【0074】
加工溝形成工程における上記レーザー光照射は、例えば以下の加工条件で行われる。なお、集光スポット径は加工溝25の幅を勘案して、適宜選択される。
レーザー光の光源 :YVO4レーザー又はYAGレーザー
波長 :355nm
繰り返し周波数:50kHz以上100kHz以下
出力 :0.3W以上4.0W以下
加工送り速度 :1mm/秒以上800mm/秒以下
【0075】
上述した加工溝形成工程を実施することにより、図6に示されるように、半導体ウエハー2におけるストリート23を備える積層体21において、ストリート23に沿って加工溝25が形成される。保護膜24が、前述の式(B1)で表される化合物を吸光剤(B)として含む場合、保護膜24に対して上記のようにレーザー光を照射することにより、所望する形状の開口を有し、平坦且つ真っすぐな良好な形状の断面を備える溝を、保護膜24中に容易に形成できる。
【0076】
上述したように所定のストリート23に沿ってレーザー光の照射を実行したら、チャックテーブル71に保持されている半導体ウエハー2を矢印Yで示す方向にストリートの間隔だけ割り出し移動し、再びレーザー光の照射を遂行する。
【0077】
このようにして所定方向に延在する全てのストリート23についてレーザー光の照射と割り出し移動とを遂行した後、チャックテーブル71に保持されている半導体ウエハー2を90度回動させて、上記所定方向に対して直角に延びる各ストリート23に沿って、上記と同様にレーザー光の照射と割り出し移動とを実行する。このようにして、半導体ウエハー2上の積層体21に形成されている全てのストリート23に沿って、加工溝25を形成することができる。
【0078】
<切断工程>
切断工程では、ストリート23の位置に対応する位置に加工溝25を備える半導体ウエハー2を切断する。好ましい方法としては、保護膜24と加工溝25とを備える半導体ウエハー2にレーザー又はプラズマを照射することにより半導体ウエハー2を切断する方法や、保護膜24を備える半導体ウエハー2、又は保護膜24が剥離された半導体ウエハー2をブレードにより切断する方法が挙げられる。レーザーを照射する場合、半導体ウエハー2を切断すべく、加工溝25に対してレーザーが照射される。プラズマを照射すする場合、加工溝25の表面にプラズマが暴露されるように、半導体ウエハー2の保護膜を備える面の一部又は全面にプラズマが照射される。ブレードにより切断を行う場合、切断箇所に純水を供給しながら、加工溝25の位置に沿って、ブレードにより半導体ウエハー2が切断される。
以下、好ましい切断方法であるプラズマ照射による切断方法について説明する。
【0079】
図7に示されるように、保護膜24と、加工溝25とを備える半導体ウエハー2にプラズマを照射される。そうすることにより、図8に示されるように半導体ウエハー2における加工溝25の位置が切断される。
具体的には、保護膜24で被覆された半導体ウエハー2において、上記の通り、加工溝25を形成した後、保護膜24と、加工溝25から露出する半導体基板20の表面20aとに対して、プラズマ照射を行うことにより、半導体ウエハー2が、半導体チップ22の形状に従って切断され、半導体ウエハー2が半導体チップ22に分割される。
【0080】
プラズマ照射条件については、加工溝25の位置における半導体ウエハー2の切断を良好に行うことができれば特に限定されない。プラズマ照射条件は、半導体ウエハー2の材質やプラズマ種等を勘案して、半導体基板に対するプラズマエッチングの一般的な条件の範囲内で適宜設定される。
プラズマ照射においてプラズマを生成させるために用いられるガスとしては、半導体ウエハー2の材質に応じて適宜選択される。典型的には、プラズマの生成にはSFガスが使用される。
また、所謂BOSCHプロセスに従い、C又はCガス等の供給による側壁保護と、プラズマ照射による半導体ウエハー2のエッチングとを交互に行うことにより、半導体ウエハー2の切断を行ってもよい。BOSCHプロセスによれば、高アスペクト比でのエッチングが可能であり、半導体ウエハー2が厚い場合でも、半導体ウエハー2の切断が容易である。
【0081】
次に、図9に示されるように、半導体チップ22の表面を被覆する保護膜24が除去される。上述したように保護膜24は、水溶性樹脂(A)を含む保護膜形成剤を用いて形成されているので、水(或いは温水)によって保護膜24を洗い流すことができる。
【0082】
以上、半導体ウエハーを加工することによる半導体チップの製造方法を実施形態に基づいて説明した。本発明にかかる保護膜形成剤と、半導体チップの製造方法とは、半導体ウエハー表面に保護膜を形成し、半導体ウエハーの保護膜を備える面においてストリートに相当する位置に加工溝を形成することを含む方法であれば、種々の半導体チップの製造方法に対して適用することができる。
【実施例
【0083】
以下、実施例、及び比較例により、本発明を具体的に説明する。本発明は、以下の実施例になんら限定されない。
【0084】
〔参考例1、参考例2、比較参考例1、及び比較参考例2〕
参考例1、参考例2、比較参考例1、及び比較参考例2において、吸光剤として以下のUA1~UA4を用いた。なお、UA4として、下記化合物の水和物を用いた。
【化9】
【0085】
上記のUA1~UA4を、塩基としてのモノエタノールアミンとともに濃度0.001質量%となるように水に溶解させて、各吸光剤の波長355nmでのグラム吸光係数を測定した。また、上記のUA1~UA4を、濃度0.001質量%となるようにプロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)に溶解させて、各吸光剤の波長355nmでのグラム吸光係数を測定した。グラム吸光係数の測定結果を表1に記す。
【0086】
【表1】
【0087】
表1から、式(B1)の構造に該当する構造を有するUA1及びUA2が、高いグラム吸光係数を示すことが分かる。
【0088】
〔実施例1、実施例2、比較例1、及び比較例2〕
水溶性樹脂としてのヒドロキシプロピルセルロース8.5質量部と、表2に記載の種類の吸光剤1質量部と、モノエタノールアミン0.5質量部とを水90質量部に溶解させて、各実施例及び比較例の保護膜形成剤を得た。
得られた保護膜形成剤を用いて、ガラス基板上に1μmの膜厚になるようにスピンコート法により保護膜を形成した。形成された保護膜について、分光光度計(MCPD-3000(大塚電子製))を用いて透過率の測定を行い、透過率の測定結果から波長355nmでの膜厚1μmあたりの吸光度を測定した。測定結果を表2に記す。
【0089】
【表2】
【0090】
表2から、式(B1)の構造に該当する構造を有するUA1及びUA2を含む保護膜形成剤を用いることにより、吸光度の高い保護膜を形成できることが分かる。
【0091】
〔実施例3、比較例3、及び比較例4〕
水溶性樹脂としてのヒドロキシプロピルセルロース26.25質量部と、表3に記載の種類の吸光剤3質量部と、モノエタノールアミン0.75質量部とを、水59.5質量部及びに溶解させて、各実施例及び比較例の保護膜形成剤を得た。
なお、US5として、4-アミノ桂皮酸を用いた。
【0092】
得られた保護膜形成剤を、シリコン基板上に30μmの膜厚になるようにスピンコート法により塗布した後、70℃で5分間乾燥させて保護膜を形成した。保護膜を備えるシリコン基板の保護膜側の面に対して、以下の条件で直線状にレーザー照射を行い、保護膜のレーザー照射された箇所の断面形状を電子顕微鏡により観察して、後述する評価基準に従い評価した。
【0093】
<レーザー照射条件>
波長:355nm
周波数:100kHz
出力:0.3W
デフォーカス:-0.5mm
送り速度:100mm/s
Pass:3
【0094】
<断面形状評価基準>
〇:保護膜の断面が平坦であり、真っすぐなきれいな溝が形成された。
△:保護膜の断面に応答が目立ち、形状が良好でない溝が形成された。
×:溝自体の形成が困難であった。
【0095】
【表3】
【0096】
表3から、式(B1)の構造に該当する構造を有するUA1を含む保護膜形成剤を用いて形成された保護膜に対してレーザーを照射する場合、保護膜のストリートに相当する位置に断面形状が良好な溝を容易に形成できることが分かる。
【符号の説明】
【0097】
2 :半導体ウエハー
20 :基板
21 :積層体
22 :半導体チップ
23 :ストリート
24 :保護膜
25 :レーザー加工溝
26 :切削溝
3 :スピンコーター
5 :環状のフレーム
6 :保護テープ
7 :レーザー加工装置
71 :レーザー加工装置のチャックテーブル
72 :レーザー光線照射手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9