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特許7413038リチウムイオン二次電池用正極活物質、リチウムイオン二次電池
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  • 特許-リチウムイオン二次電池用正極活物質、リチウムイオン二次電池 図1
  • 特許-リチウムイオン二次電池用正極活物質、リチウムイオン二次電池 図2
  • 特許-リチウムイオン二次電池用正極活物質、リチウムイオン二次電池 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-04
(45)【発行日】2024-01-15
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用正極活物質、リチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20240105BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20240105BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240105BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20240105BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 A
C01G53/00 A
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020007387
(22)【出願日】2020-01-21
(65)【公開番号】P2021114436
(43)【公開日】2021-08-05
【審査請求日】2022-08-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】322003798
【氏名又は名称】パナソニックエナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】中村 拓真
(72)【発明者】
【氏名】金田 治輝
(72)【発明者】
【氏名】小鹿 裕希
【審査官】小森 利永子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/155523(WO,A1)
【文献】特表2014-523840(JP,A)
【文献】特表2011-527090(JP,A)
【文献】国際公開第2019/087503(WO,A1)
【文献】中国特許出願公開第110176583(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/36-4/525
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウムニッケルマンガン複合酸化物粒子およびリチウムとジルコニウムを含む化合物を含有するリチウムイオン二次電池用正極活物質であって、
前記リチウムニッケルマンガン複合酸化物粒子は、一般式LiNi1-a-b-cMnZr2+α(ただし、Mは、Co、W、Mo、Mg、Ca、Al、Ti、Cr、及びTaから選択される少なくとも1種の元素であり、0.05≦a<0.60、0≦b<0.60、0.00003≦c≦0.03、0.05≦a+b+c≦0.60、0.95≦d≦1.20、-0.2≦α≦0.2である。)で表されるリチウムニッケルマンガン複合酸化物の一次粒子が凝集した二次粒子で構成され、
前記リチウムイオン二次電池用正極活物質の粒子の表面を光電子分光分析することにより得られる光電子スペクトルは、O1sに帰属されるスペクトルにおいて531eV以上532eV以下の範囲に存在するピークよりも強度の強いピークを有し、かつC1sに帰属されるスペクトルにおいて289eV以上291eV以下の範囲に存在するピークよりも強度の強いピークを有するリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項2】
前記二次粒子の体積平均粒径MVが4μm以上20μm以下である請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質を含む正極を有するリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用正極活物質、リチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やノート型パソコンなどの携帯電子機器の普及に伴い、高いエネルギー密度や耐久性を有する小型で軽量な二次電池の開発が強く望まれている。また、電動工具やハイブリット自動車をはじめとする電気自動車用の電池として高出力の二次電池の開発が強く望まれている。
【0003】
このような要求を満たす二次電池として、リチウムイオン二次電池などの非水系電解質二次電池がある。リチウムイオン二次電池は、例えば負極および正極と電解質等で構成され、負極および正極の活物質として、リチウムを脱離および挿入することが可能な材料が用いられている。
【0004】
リチウムイオン二次電池については、現在研究開発が盛んに行われているところであるが、中でも、層状またはスピネル型のリチウム金属複合酸化物を正極材料に用いたリチウムイオン二次電池は、4V級の高い電圧が得られるため、高いエネルギー密度を有する電池として実用化が進んでいる。
【0005】
係るリチウムイオン二次電池の正極材料として、現在、合成が比較的容易なリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO)や、コバルトよりも安価なニッケルを用いたリチウムニッケル複合酸化物(LiNiO)、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LiNi0.33Co0.33Mn0.33)、マンガンを用いたリチウムマンガン複合酸化物(LiMn)、リチウムニッケルマンガン複合酸化物(LiNi0.5Mn0.5)などのリチウム複合酸化物が提案されている。
【0006】
また、近年では更なる性能向上を目的として、さらに添加元素を添加した正極材料についても検討が進められている。
【0007】
例えば、特許文献1には、一般式:LiNi1―x―y―zCoNb(但し、MはMn、FeおよびAlよりなる群から選ばれる一種以上の元素、1≦a≦1.1、0.1≦x≦0.3、0≦y≦0.1、0.01≦z≦0.05、2≦b≦2.2)で示されるリチウムとニッケルとコバルトと元素Mとニオブと酸素からなる少なくとも一種類以上の化合物で構成される組成物からなり、初回放電時に正極電位(vs.Li/Li+)が2Vから1.5Vの範囲内でα[mAh/g]の放電容量を示し、そのX線回折における層状結晶構造の(003)面の半値幅をβ[deg]としたとき、αおよびβがそれぞれ60≦α≦150および0.14≦β≦0.20の条件を同時に満たすことを特徴とする非水系二次電池用正極活物質が提案されている。
【0008】
特許文献1で提案された非水系二次電池用正極活物質によれば、優れた放電容量と急加熱安定性をしめすのは、組成物中に層状結晶構造の化合物以外に、LiとNbと酸素の化合物が存在し、且つおそらくは層状結晶構造の化合物の結晶粒界に、均一にLi-Nb-O化合物が形成されたことよる効果と考えられるとされている。
【0009】
特許文献2には、少なくとも層状構造のリチウム遷移金属複合酸化物を有する非水電解質二次電池用正極活物質であって、前記リチウム遷移金属複合酸化物は、一次粒子およびその凝集体である二次粒子の一方または両方からなる粒子の形態で存在し、前記一次粒子のアスペクト比が1~1.8であり、前記粒子の少なくとも表面に、モリブデン、バナジウム、タングステン、ホウ素およびフッ素からなる群から選ばれる少なくとも1種を有する化合物を有する非水電解質二次電池用正極活物質が提案されている。
【0010】
特許文献2で提案された非水系電解質二次電池用正極活物質によれば、粒子の表面にモリブデン、バナジウム、タングステン、ホウ素およびフッ素からなる群から選ばれる少なくとも1種を有する化合物を有することにより、導電性が向上するとされている。
【0011】
特許文献3には、リチウムイオンの挿入・脱離が可能な機能を有するリチウム遷移金属系化合物を主成分とし、該主成分原料に、B及びBiから選ばれる少なくとも1種の元素を含有する化合物と、Mo、W、Nb、Ta及びReから選ばれる少なくとも1種の元素を含有する化合物をそれぞれ1種併用添加した後、焼成されてなるリチウム二次電池正極材料用リチウム遷移金属系化合物粉体が提案されている。添加元素を規定の割合で併用添加した後、焼成することにより、粒成長及び焼結の抑えられた微細な粒子からなるリチウム遷移金属系化合物粉体が得られ、レートや出力特性が改善されるとともに、取り扱いや電極調製の容易なリチウム含有遷移金属系化合物粉体を得ることができるとされている。
【0012】
また、特許文献4には、一般式LiNi1-x-yCo (1.0≦a≦1.5、0≦x≦0.5、0≦y≦0.5、0.002≦z≦0.03、0≦w≦0.02、0≦x+y≦0.7、MはMn及びAlからなる群より選択される少なくとも一種、MはZr、Ti、Mg、Ta、Nb及びMoからなる群より選択される少なくとも一種)で表されるリチウム遷移金属複合酸化物と、少なくともホウ素元素及び酸素元素を含むホウ素化合物とを含む非水電解液二次電池用正極組成物が提案されている。ニッケル及びタングステンを必須とするリチウム遷移金属複合酸化物と、特定のホウ素化合物とを含む正極組成物を用いることにより、コバルト含有量が少ない又はコバルトを含有しないリチウム遷移金属複合酸化物を用いた正極組成物において出力特性及びサイクル特性を向上させることができるとされている。
【0013】
また、特許文献5には、電池ケースに収容され、予め定められた電圧以上の電圧で反応し、ガスを発生させるガス発生剤を含む非水電解液と、電池ケースの内圧が予め定められた圧力以上に高くなると、電極体と外部端子との電気的な接続を遮断する電流遮断機構とを備え、正極が、正極集電体と、正極集電体に保持され、正極活物質を含む正極活物質層と、を備えており、正極活物質層を水に浸漬したときに該正極活物質層から溶出する水酸化リチウムの量が、中和滴定に基づく該正極活物質層中のLi換算で0.014質量%~0.035質量%となるように設定されているリチウムイオン二次電池が提案されている。そして、正極活物質を構成する複合酸化物として、一般式:LiNiMnMe(式中のx、a、bおよびcは、0.99≦x≦1.12、0.9≦a+b+c≦1.1、1.1≦a/b≦1.7、0≦c≦0.4を全て満足する数であり、Meは、存在しないか若しくはCo、Mg、Sr、Ti、Zr、V、Nb、Mo、W、B及びAlから成る群から選択される1種又は2種以上の元素である。)を用いることが提案されている。係るリチウムイオン二次電池によれば、正極活物質の電子伝導性を高めつつ、ガス発生剤によるガス発生量をより適切に確保できる。そのため、出力特性を高く保ちつつ、電流遮断機構を適切に作動させうるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開2002-151071号公報
【文献】特開2005-251716号公報
【文献】特開2011-108554号公報
【文献】特開2013-239434号公報
【文献】特開2014-216061号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
ところで、リチウムイオン二次電池の正極は、正極活物質と、PVDF(ポリフッ化ビニリデン)やNMP(ノルマルメチル-2-ピロリドン)等の結着剤と、必要に応じて各種添加する成分と、を混合して正極スラリーにし、アルミ箔等の集電体に塗布することで形成される。このとき、正極スラリーがゲル化を起こし、操作性の低下、歩留まりの悪化を招く場合があり問題があった。
【0016】
そこで上記従来技術が有する問題に鑑み、本発明の一側面では、正極スラリーとした場合にゲル化を抑制できるリチウムイオン二次電池用正極活物質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するため本発明の一態様によれば、リチウムニッケルマンガン複合酸化物粒子およびリチウムとジルコニウムを含む化合物を含有するリチウムイオン二次電池用正極活物質であって、
前記リチウムニッケルマンガン複合酸化物粒子は、一般式LiNi1-a-b-cMnZr2+α(ただし、Mは、Co、W、Mo、Mg、Ca、Al、Ti、Cr、及びTaから選択される少なくとも1種の元素であり、0.05≦a<0.60、0≦b<0.60、0.00003≦c≦0.03、0.05≦a+b+c≦0.60、0.95≦d≦1.20、-0.2≦α≦0.2である。)で表されるリチウムニッケルマンガン複合酸化物の一次粒子が凝集した二次粒子で構成され、
前記リチウムイオン二次電池用正極活物質の粒子の表面を光電子分光分析することにより得られる光電子スペクトルは、O1sに帰属されるスペクトルにおいて531eV以上532eV以下の範囲に存在するピークよりも強度の強いピークを有し、かつC1sに帰属されるスペクトルにおいて289eV以上291eV以下の範囲に存在するピークよりも強度の強いピークを有するリチウムイオン二次電池用正極活物質を提供する。

【発明の効果】
【0018】
本発明の一態様によれば、正極スラリーとした場合にゲル化を抑制できるリチウムイオン二次電池用正極活物質を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】電池評価に使用したコイン型電池の概略断面図である。
図2】実施例1と比較例1のO1sに帰属される光電子スペクトルを示す図である。
図3】実施例1と比較例1のC1sに帰属される光電子スペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
[リチウムイオン二次電池用正極活物質]
本発明の発明者らは、正極スラリーとした場合にゲル化を抑制できる正極活物質について鋭意検討を行った。
【0021】
本発明の発明者らはまず、正極スラリーとした場合にゲル化する原因について検討を行った。その結果、正極活物質の粒子表面に炭酸リチウム等の遊離可能なリチウム成分である余剰リチウムが残存していると、結着剤との混合時に該余剰リチウムが遊離し、結着剤に含まれる水分と反応して水酸化リチウムが生成する場合がある。そして、生成した水酸化リチウムが結着剤と反応してゲル化していることを見出した。この傾向は正極活物質におけるリチウムが化学量論比よりも過剰で、かつニッケルの割合が高い場合に顕著となることも見出した。なお、正極活物質であるリチウム金属複合酸化物粒子を焼成で合成する際に、リチウム原料物質として水酸化リチウムや炭酸リチウムが用いられるが、正極活物質の粒子表面の余剰リチウムとしては炭酸リチウムの形態をとることが多い。
【0022】
また、本発明の発明者らは、正極活物質の粒子表面について、XPS(光電子分光)により得られる光電子スペクトルのうち、O1sスペクトルに帰属される531eV以上532eV以下の範囲に存在するピークの強度およびC1sスペクトルに帰属される289eV以上291eV以下の範囲に存在するピークの強度が該正極活物質の粒子表面に炭酸リチウム等の遊離可能なリチウム成分と紐付けされる指標であることを見出した。これらピークの強度が小さい正極活物質であるほど、正極活物質の粒子表面に存在する余剰リチウム成分が少ない正極材となっており、正極スラリーとした場合にゲル化を抑制できることを見出した。
【0023】
そこで、本発明の発明者はさらに検討を行った。その結果、ジルコニウムを添加したリチウムニッケルマンガン複合酸化物粒子を含有する正極活物質とし、該正極活物質の粒子の表面を光電子分光分析することにより得られる光電子スペクトルが、O1sに帰属されるスペクトルにおいて531eV以上532eV以下の範囲に存在するピークよりも強度の強いピークを有し、かつC1sに帰属されるスペクトルにおいて289eV以上291eV以下の範囲に存在するピークよりも強度の強いピークを有する場合に、粒子表面に存在する炭酸リチウム等の遊離可能なリチウム成分が特に少なくなっており、正極スラリーとした場合にゲル化を抑制できることを見出した。また、係る正極活物質によれば、電池セルとした場合のガス発生を抑制できることを見出した。以上の知見に基づき、本発明を完成させた。
【0024】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極活物質(以下、単に「正極活物質」とも記載する)は、リチウムニッケルマンガン複合酸化物粒子を含む。
係るリチウムニッケルマンガン複合酸化物粒子は、一般式LiNi1-a-b-cMnZr2+αで表されるリチウムニッケルマンガン複合酸化物の一次粒子が凝集した二次粒子で構成される。なお、少なくともジルコニウムの一部は、該一次粒子内部に分散していることが好ましい。
【0025】
上記一般式中の添加元素Mは、Co、W、Mo、Mg、Ca、Al、Ti、Cr、及びTaから選択される少なくとも1種の元素とすることができる。また、a、b、c、d、αは、0.05≦a<0.60、0≦b<0.60、0.00003≦c≦0.03、0.05≦a+b+c≦0.60、0.95≦d≦1.20、-0.2≦α≦0.2を満たすことが好ましい。
【0026】
本実施形態の正極活物質は、上述のようにリチウムニッケルマンガン複合酸化物粒子を含む。なお、本実施形態の正極活物質は、リチウムニッケルマンガン複合酸化物粒子から構成することもできる。ただし、この場合も製造工程における不可避成分を含有することを排除するものではない。
【0027】
リチウムニッケルマンガン複合酸化物粒子は、多結晶構造の粒子であり、上述の一般式で表されるリチウムニッケルマンガン複合酸化物の一次粒子が凝集した二次粒子で構成されている。
【0028】
なお、上述の一般式は、リチウムニッケルマンガン複合酸化物粒子が、各元素成分を、式中に示した物質量の比で含有していることを意味しており、係る化合物を形成していることを意味するものではない。すなわち、上述の一般式で表されるリチウムニッケルマンガン複合酸化物粒子はリチウム(Li)、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、添加元素M(M)、ジルコニウム(Zr)、および酸素(O)を、Li:Ni:Mn:M:Zr:O=d:1-a-b-c:a:b:c:2+αの割合で含有することを意味している。
【0029】
上記一般式中のMnの含有量を示すaは、0.05≦a<0.60であることが好ましく、0.10≦a≦0.55であることがより好ましい。Mnの含有量aを上述の範囲とすることで、正極活物質について、優れた出力特性、高いエネルギー密度が得られ、さらに熱安定性も高いものとすることができる。一方、aが0.05未満の場合、熱安定性の改善効果が十分でない場合があり、aが0.60以上では、出力特性やエネルギー密度が低下する恐れがある。
【0030】
上記一般式中の添加元素Mの含有量を示すbは、0≦b<0.60であることが好ましく、0≦b≦0.55であることがより好ましい。リチウムニッケルマンガン複合酸化物は、添加元素Mを含有しないこともできることから、上述のようにbは0以上とすることができる。また、添加元素Mを添加する場合であっても、過度に添加すると他のマンガンやジルコニウムの含有量が少なくなるため、上述のように添加元素Mの含有量を示すbは、0.60未満とすることが好ましい。
【0031】
なお、添加元素MとしてはCo、W、Mo、Mg、Ca、Al、Ti、Cr、及びTaから選択される少なくとも1種の元素、すなわち上記元素群から選択された1種以上の元素とすることができる。
【0032】
上記一般式においてZrの含有量を示すcの範囲は、0.00003≦c≦0.03が好ましい。cの範囲を上記範囲とすることで、余剰リチウムや残留カーボンの低減効果が十分に得られるとともに、リチウムイオン二次電池の正極に用いた場合に、該電池について十分な電池容量を得ることができる。一方、cが0.00003未満になると、余剰リチウムや残留カーボンの低減効果が十分に得られず、cが0.03を超えると、ジルコニウム化合物の偏析が起こり、出力特性と電池容量が低下する恐れがある。より高い余剰リチウムや残留カーボンの低減効果と優れた電池特性の両立を行う観点からは、前記cの範囲を0.0005≦c≦0.025とすることがより好ましく、0.001≦c≦0.02とすることがさらに好ましい。
【0033】
本実施形態の正極活物質が含有するジルコニウムは、その少なくとも一部はリチウムニッケルマンガン複合酸化物の一次粒子中に分散して存在することが好ましい。また、本実施形態の正極活物質が含有するジルコニウムのその他の一部は、リチウムニッケルマンガン複合酸化物の一次粒子の表面に、リチウムとジルコニウムを含む化合物として存在することもできる。
【0034】
通常5価をとるジルコニウムは、正極活物質中に含まれるニッケルと比較すると価数の高い元素であり、係る高価数元素が存在することで、リチウムニッケルマンガン複合酸化物合成時にニッケルの価数を高くする必要が、ジルコニウムの未添加品と比べると低減される。また、ジルコニウムは850℃以上の高温領域においてリチウムとの化合物を形成する性質を有する。この性質により、通常の焼成反応時には未反応物として残留してしまう余剰の炭酸リチウム等のリチウム成分がジルコニウムと反応して化合物を形成し、リチウムニッケルマンガン複合酸化物の一次粒子表面に存在することができる。このため、炭酸リチウム等の余剰リチウムを低減し、炭酸リチウムに含まれる炭素に起因する残留カーボンを低減する効果を発現していると推認される。
【0035】
また、リチウムニッケルマンガン複合酸化物の一次粒子内部に分散したジルコニウムについても同様に余剰リチウムと反応し、余剰リチウムや残留カーボンの低減効果を発現すると考えられる。リチウムニッケルマンガン複合酸化物の一次粒子内部に分散したジルコニウムはさらに、高温で焼成した時に起きやすいリチウムニッケルマンガン複合酸化物中のニッケル原子がリチウム席(サイト)へと移動するカチオンミキシングを緩和する作用もあると考えられる。
【0036】
上述のように、本実施形態の正極活物質においては、リチウムニッケルマンガン複合酸化物の一次粒子の表面に、リチウムとジルコニウムを含む化合物(以下、単に「リチウムジルコニウム化合物」とも記載する。)が存在していることが好ましい。
【0037】
係るリチウムジルコニウム化合物は、リチウムニッケルマンガン複合酸化物の一次粒子表面を全て被覆する必要はなく、少なくとも該一次粒子表面の一部に存在していれば、余剰リチウムや残留カーボンの低減効果が得られる。その結果正極スラリーのゲル化を抑制できる。さらに、リチウムジルコニウム化合物は、リチウムニッケルマンガン複合酸化物の一次粒子表面と固着していることが好ましい。
【0038】
リチウムジルコニウム化合物としては特に限定されないが、例えばLiZrO3、LiZrOから選択される少なくとも1種であることが好ましく、LiZrOであることがより好ましい。なお、これらのリチウムジルコニウム化合物は、例えばリチウムニッケルマンガン複合酸化物粒子をXRD(X線回折)法を用いて分析することで確認することができる。
【0039】
ここで、リチウムニッケルマンガン複合酸化物の一次粒子表面とは、二次粒子の外面で露出している一次粒子の表面と二次粒子外部と通じて、例えば電解質が浸透可能な二次粒子の表面近傍および内部の空隙に露出している一次粒子の表面を含むものである。さらに、一次粒子間の粒界であっても一次粒子の結合が不完全で電解質が浸透可能な状態となっていれば含まれるものである。
【0040】
また、リチウムジルコニウム化合物は、その状態によらず余剰リチウムや残留カーボンを低減する効果を発揮できることから、その状態は特に限定されない。リチウムジルコニウム化合物は、例えば結晶状態であったり、結晶とアモルファスの共存状態、あるいはアモルファスの状態で存在していてもよい。リチウムジルコニウム化合物が結晶状態で存在する場合、存在量の増加とともにX線回折測定で存在を確認することができる。
【0041】
既述の様に、ジルコニウム成分は、リチウムニッケルマンガン複合酸化物の一次粒子内に分散して存在することもできる。リチウムニッケルマンガン複合酸化物の一次粒子内でのジルコニウムの分布は特に限定されないが、ジルコニウム濃度が局所的に高くなると、反応抵抗が高くなり、電池特性の低下を招く恐れがある。そこで、余剰リチウムや残留カーボンの低減効果と電池特性とを両立させる観点から、リチウムニッケルマンガン複合酸化物の一次粒子内での最大ジルコニウム濃度は、リチウムニッケルマンガン複合酸化物の一次粒子内の平均ジルコニウム濃度の3倍以下であることが好ましく、2倍以下であることがより好ましい。
【0042】
リチウムニッケルマンガン複合酸化物の一次粒子内での最大ジルコニウム濃度の平均ジルコニウム濃度に対する比の下限値は特に限定されない。例えば、リチウムニッケルマンガン複合酸化物の一次粒子内での最大ジルコニウム濃度は、リチウムニッケルマンガン複合酸化物の一次粒子内の平均ジルコニウム濃度の1.2倍以上であることが好ましい。
【0043】
リチウムニッケルマンガン複合酸化物の一次粒子内のジルコニウム濃度の分布は、一次粒子断面の走査型透過電子顕微鏡(STEM:Scanning Transmission Electron Microscope)による組成分析(例えばEDX(エネルギー分散型X線分光法))により評価することができる。
【0044】
また、上記一般式中のマンガン、添加元素M、ジルコニウムの添加量を示すa、b、cの合計であるa+b+cの範囲は、0.05≦a+b+c≦0.60であることが好ましい。
【0045】
既述の様に、正極活物質中のニッケルの含有割合が高い場合に特に正極スラリーのゲル化が生じやすくなるため、本実施形態の正極活物質は特に高い効果を発揮できる。そして、本実施形態の正極活物質に含まれるリチウムニッケルマンガン複合酸化物においては、マンガン、添加元素M、ジルコニウムによりニッケルの一部が置換されているため、a+b+cを0.60以下とすることでニッケルの含有割合を十分に高めることができ、特に高い効果を発揮でき、好ましい。
【0046】
ただし、これらの元素による置換量が十分ではないとリチウムイオン二次電池とした場合に十分な電池特性が得られない場合がある。このため、a+b+cは0.05以上であることが好ましい。
【0047】
上記一般式中のリチウムの含有量を示すdは、0.95≦d≦1.20であることが好ましい。既述の様に、正極活物質におけるリチウム含有量が化学量論比よりも過剰の場合に特に正極スラリーのゲル化が生じやすくなるため、本実施形態の正極活物質は特に高い効果を発揮できる。このため、リチウムの含有量を示すdは0.95以上であることが好ましい。ただし、リチウムの含有量が過度に多くなると、余剰リチウム量や残留カーボン量も増加する恐れがある。このためdは1.20以下であることが好ましい。
【0048】
上記一般式中の酸素の含有量を表す2+αのαは、-0.2≦α≦0.2を満たすことが好ましい。これは、酸素欠損を生じたり、金属成分の組成比の変動等により、電荷のバランスを取るために酸素量が変動する場合があるからである。
【0049】
上記説明したとおり、本実施形態のジルコニウムを添加したリチウムニッケルマンガン複合酸化物粒子を含有する正極活物質は、粒子表面に存在する炭酸リチウム等の遊離可能なリチウム成分を低減することができる。そして、係る正極活物質の粒子の表面を光電子分光分析することにより得られる光電子スペクトルは、O1sに帰属されるスペクトルにおいて、531eV以上532eV以下の範囲に存在するピークよりも強度の強いピークを有することが好ましい。係る正極活物質の粒子の表面の光電子スペクトルは、C1sに帰属されるスペクトルにおいて、289eV以上291eV以下の範囲に存在するピークよりも強度の強いピークを有することが好ましい。O1sに帰属される光電子スペクトルのうち531eV以上532eV以下の範囲に存在するピークや、C1sに帰属されるスペクトルのうち289eV以上291eV以下の範囲に存在するピークは炭酸リチウム(LiCO)に相当する。このため、正極活物質の粒子表面の光電子スペクトルにおいて、O1sに帰属されるピークのうち、531eV以上532eV以下の範囲に存在するピークよりも強いピークが存在し、かつ、C1sに帰属されるピークのうち、289eV以上291eV以下の範囲に存在するピークよりも強いピークが存在すれば、粒子表面に存在する炭酸リチウム等の遊離可能なリチウム成分は十分に低減されていることを意味する。このような正極活物質は、正極作製時に正極スラリーがゲル化することを抑制できる。このため、正極スラリー調製時や、正極作製時に、操作性や歩留まりが悪化することを防止できる。また、係る正極活物質によれば、電池セルとした場合のガス発生を抑制できる。
【0050】
なお、光電子スペクトルはXPS(光電子分光)法により測定することができる。光電子スペクトルを測定する際の正極活物質の粒子は、正極活物質に含まれる粒子であれば特に限定されないが、例えばリチウムニッケルマンガン複合酸化物の粒子であることが好ましい。
【0051】
リチウムニッケルマンガン複合酸化物の二次粒子の粒径は特に限定されないが、体積平均粒径MVが4μm以上20μm以下であることが好ましく、5μm以上15μm以下であることがより好ましい。リチウムニッケルマンガン複合酸化物の二次粒子の体積平均粒径MVを上記範囲とすることで、電池の正極に用いた際の高い出力特性および電池容量と、正極への高い充填性をさらに両立させることができる。
【0052】
係る二次粒子の体積平均粒径MVを4μm以上とすることで、特に正極への高い充填性を発揮することができる。また、係る二次粒子の体積平均粒径MVを20μm以下とすることで、特に高い出力特性や電池容量を得ることができる。
【0053】
体積平均粒径MVは、粒子体積で重み付けした平均粒径であり、粒子の集合において、個々の粒子の直径にその粒子の体積を乗じたものの総和を粒子の総体積で割ったものである。体積平均粒径MVは、例えばレーザー回折式粒度分布計を用いたレーザー回折散乱法によって、測定することが可能である。
[リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法]
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法(以下、単に「正極活物質の製造方法」と記載する場合もある。)によれば、既述の正極活物質を製造することができる。このため、既に説明した事項については一部説明を省略する。
【0054】
本実施形態の正極活物質の製造方法は、一般式LiNi1-a-b-cMnZr2+αで表されるリチウムニッケルマンガン複合酸化物の一次粒子が凝集した二次粒子で構成されたリチウムニッケルマンガン複合酸化物粒子を含み、該正極活物質の粒子の表面を光電子分光分析することにより得られる光電子スペクトルが、所定のピークを有するリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法に関する。なお、上記一般式中のMは、Co、W、Mo、Mg、Ca、Al、Ti、Cr、及びTaから選択される少なくとも1種の元素である。また、a、b、c、d、αは、0.05≦a<0.60、0≦b<0.60、0.00003≦c≦0.03、0.05≦a+b+c≦0.60、0.95≦d≦1.20、-0.2≦α≦0.2を満たすことが好ましい。
【0055】
また、少なくともジルコニウムの一部が、リチウムニッケル複合酸化物の一次粒子内部に分散していることが好ましい。
【0056】
そして、本実施形態の正極活物質の製造方法は、以下の工程を有することができる。
【0057】
一般式Ni1-x-yMnM´(OH)2+βで表されるニッケルマンガン複合水酸化物粒子と、ジルコニウム化合物と、リチウム化合物と、を含むリチウムジルコニウム混合物を得る混合工程。
【0058】
該リチウムジルコニウム混合物を酸化雰囲気中850℃以上1000℃以下で焼成することによりリチウムニッケルマンガン複合酸化物を得る焼成工程。
【0059】
なお、ニッケルマンガン複合水酸化物粒子の一般式における添加元素M´は、Co、W、Mo、Mg、Ca、Al、Ti、Cr、Zr及びTaから選択される少なくとも1種の元素とすることができる。また、x、y、βは、0.05≦x≦0.60、0≦y≦0.60、0.05≦x+y≦0.60、-0.1≦β≦0.4を満たすことが好ましい。
【0060】
x、yは、0.10≦x≦0.55、0≦y≦0.55を満たすことがより好ましい。
【0061】
上記製造方法では、原料の1つとして、少なくともマンガンを含むニッケル複合水酸化物粒子、すなわちニッケルマンガン複合水酸化物粒子を用いる。これにより、得られる正極活物質の一次粒子内でマンガンが均一に分布するようになり、マンガンを含有することにより得られる上述の高い熱安定性という効果を十分に得られる。
【0062】
また、一次粒子内にマンガンが含有されることで後述のリチウム化合物との焼成温度を高くすることが可能となり、ジルコニウムを一次粒子に均一に分散させることが可能となる。
【0063】
なお、ニッケルマンガン複合水酸化物粒子に替えて、ニッケル水酸化物とマンガン化合物とを混合したものや、ニッケル水酸化物にマンガン化合物を被覆したもの用いると、マンガンの分布が不均一にとなってマンガンを含有させることによって得られる効果が十分に得られない。
【0064】
また、本実施形態の正極活物質の製造方法では、焼成工程において、さらにジルコニウム化合物と、リチウム化合物とを含むリチウムジルコニウム混合物を焼成することで、ジルコニウムを一次粒子に、より均一に分散することが可能となる。リチウム化合物は、焼成時の温度で溶融し、ニッケルマンガン複合水酸化物粒子内に浸透してリチウムニッケルマンガン複合酸化物を形成する。この際、ジルコニウム化合物は溶融したリチウム化合物とともに二次粒子内部まで浸透する。また一次粒子においても結晶粒界などがあれば浸透する。浸透することで一次粒子内部における拡散が促進されジルコニウムが一次粒子内で均一に分散する。
【0065】
さらに、本実施形態の正極活物質の製造方法では、焼成工程における焼成温度を850℃以上1000℃以下としている。これによりリチウム化合物の溶融が確実に生じ、ジルコニウム化合物の浸透と拡散が促進される。また、温度を高くすることで、ジルコニウムの拡散が促進されるとともに、得られるリチウムニッケルマンガン複合酸化物の結晶性が高くなり、出力特性やエネルギー密度を向上させることができる。
【0066】
以下、各工程について詳細な説明をする。
【0067】
(A)混合工程
混合工程は、ニッケルマンガン複合水酸化物粒子と、ジルコニウム化合物と、リチウム化合物とを含む原料を混合してリチウムジルコニウム混合物を得る工程である。
【0068】
ニッケルマンガン複合水酸化物粒子は、既述の様に一般式Ni1-x-yMnM´(OH)2+βで表されるニッケルマンガン複合水酸化物の粒子であり、その調製方法は特に限定されないが、晶析法等を用いることができる。
【0069】
ニッケルマンガン複合水酸化物粒子は、ジルコニウム化合物およびリチウム化合物と混合する前に、熱処理工程に供することもできる。すなわち、本実施形態の正極活物質の製造方法は、混合工程の前に、ニッケルマンガン複合水酸化物粒子を熱処理する熱処理工程をさらに有することもできる。
【0070】
ニッケルマンガン複合水酸化物粒子について予め熱処理工程に供することで、ニッケルマンガン複合水酸化物粒子に含有されている水分を除去、低減することができる。
【0071】
ニッケルマンガン複合水酸化物粒子を熱処理工程に供し、該粒子中に残留している水分を十分に除去することで、焼成工程後に得られる正極活物質中のリチウム(Li)と、リチウム以外の金属(Me)との原子数の比(Li/Me)がばらつくことを防ぐことができる。
【0072】
熱処理工程の温度条件は特に限定されず、ニッケルマンガン複合水酸化物粒子中の残留水分が除去される温度まで加熱すればよく、例えば105℃以上700℃以下とすることが好ましい。熱処理工程において、ニッケルマンガン複合水酸化物粒子を熱処理する際の温度を105℃以上とすることで短時間で効率よく、残留水分を除去することができるため好ましい。また、熱処理工程において、ニッケルマンガン複合水酸化物粒子を熱処理する際の温度を700℃以下とすることで、ニッケルマンガン複合水酸化物から、ニッケルマンガン複合酸化物に転換された粒子が焼結して凝集することを特に抑制することができる。
【0073】
熱処理工程において、ニッケルマンガン複合水酸化物を、ニッケル複合酸化物にまで転換する場合には、熱処理の温度は350℃以上700℃以下とすることが好ましい。
【0074】
熱処理工程において、熱処理を行う雰囲気は特に制限されるものではない。例えば簡易的に行える大気雰囲気や、空気気流中において行うことが好ましい。
【0075】
また、熱処理工程における熱処理時間は特に制限されないが、1時間未満ではニッケルマンガン複合水酸化物中の残留水分の除去が十分に行われない場合があるため、熱処理時間は1時間以上が好ましく、5時間以上15時間以下がより好ましい。
【0076】
熱処理工程において、熱処理を実施するために用いる設備は特に限定されず、例えばニッケルマンガン複合水酸化物粒子を空気気流中で加熱できるものであれば好適に用いることができる。熱処理工程において熱処理を実施するために用いる設備としては、例えば送風乾燥器や、ガス発生がない電気炉等を好適に用いることができる。
【0077】
なお、ニッケルマンガン複合水酸化物粒子を熱処理工程に供する際、該ニッケルマンガン複合水酸化物粒子に既述の添加元素M´を含む化合物を加えることもできる。なお、添加元素M´を含む化合物を添加する場合には、熱処理工程に供するニッケルマンガン複合水酸化物粒子に含まれる添加元素M´は、熱処理工程で添加する量に対応して、目的組成よりも少なくなっていることが好ましい。
【0078】
混合工程に供するジルコニウム化合物としては、水酸化ジルコニウム、酸化ジルコニウム、硫化ジルコニウム、塩化ジルコニウム、硫酸ジルコニウムなどジルコニウムを含有する化合物であれば、特に限定されるものではない。ただし、入手のし易さや、焼成して得られるリチウムニッケルマンガン金属複合酸化物への、熱安定性や電池容量、サイクル特性の低下を招く不純物の混入を避ける観点から、ジルコニウム化合物として、水酸化ジルコニウム、および酸化ジルコニウムから選択された1種類以上を用いることが好ましい。
【0079】
用いるジルコニウム化合物の粒径は特に限定されるものではない。ただし、取扱い性や、反応性を高める観点から、用いるジルコニウム化合物の平均粒径は0.01μm以上10μm以下が好ましく、0.05μm以上3.0μm以下がより好ましく、0.08μm以上1.5μm以下がさらに好ましい。
【0080】
これは用いるジルコニウム化合物の平均粒径を0.01μm以上とすることで、粉末の取扱い性に優れ、混合工程や、焼成工程においてジルコニウム化合物が飛散し、調製する正極活物質の組成が目的組成からずれることを抑制できるからである。
【0081】
また、用いるジルコニウム化合物の平均粒径を10μm以下とすることで、焼成後に得られるリチウムニッケルマンガン複合酸化物中にジルコニウムを特に均一に分布させることができ、熱安定性を高められるためである。
【0082】
平均粒径は、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布において、各粒径における粒子数を粒径の大きい側から累積し、累積体積が全粒子の合計体積の50%での粒径を意味する。
【0083】
上記の平均粒径を有するジルコニウム化合物を得る方法としては、ボールミル、遊星ボールミル、ジェットミル・ナノジェットミル、ビーズミル、ピンミルなど各種粉砕機を用いて、所定の粒径となるように粉砕する方法がある。また、必要に応じて、乾式分級機や篩がけにより分級してもよい。特に、篩がけを行い、平均粒径が0.01μmに近いジルコニウム化合物の粒子を得ることが好ましい。
【0084】
混合工程に供するリチウム化合物についても特に限定されないが、残留不純物の影響が少なく、焼成温度で溶解する炭酸リチウム、水酸化リチウムから選択された1種類以上を好適に用いることができる。ただし、取り扱いが簡便であり安価な炭酸リチウムを用いることがより好ましい。
【0085】
混合工程において、ニッケルマンガン複合水酸化物粒子と、ジルコニウム化合物と、リチウム化合物との混合には、一般的な混合機を使用することができ、例えばシェーカーミキサーやレーディゲミキサー、ジュリアミキサー、Vブレンダー等を用いることができる。混合の際の具体的な条件は特に限定されるものではなく、ニッケルマンガン複合水酸化物粒子等の形骸が破壊されない程度で、ニッケルマンガン複合水酸化物粒子と、ジルコニウム化合物と、リチウム化合物とが十分に混合されるように、その条件を選択することが好ましい。
【0086】
ニッケルマンガン複合水酸化物粒子と、ジルコニウム化合物と、リチウム化合物とは、リチウムジルコニウム混合物中のリチウム(Li)と、リチウム以外の金属(Me)との原子数の比である、Li/Meが、0.95以上1.20以下となるように混合することが好ましい。つまり、リチウムジルコニウム混合物におけるLi/Meが、正極活物質における目的組成のLi/Meと同じになるように混合することが好ましい。これは、焼成工程前後で、Li/Meはほとんど変化しないので、この混合工程で調製するリチウムジルコニウム混合物中のLi/Meが、焼成工程後に得られる正極活物質におけるLi/Meとほぼ等しくなるからである。
【0087】
(B)焼成工程
焼成工程は、混合工程で得られたリチウムジルコニウム混合物を酸化雰囲気中850℃以上1000℃以下で焼成し、リチウムニッケルマンガン複合酸化物を得る工程である。
【0088】
焼成工程においてリチウムジルコニウム混合物を焼成すると、ニッケルマンガン複合水酸化物粒子中にリチウム化合物中のリチウムが拡散するので、多結晶構造の粒子からなるリチウムニッケルマンガン複合酸化物が形成される。
【0089】
また、ニッケルマンガン複合水酸化物粒子中にジルコニウム化合物中のジルコニウムも拡散するとともに、該ジルコニウムがリチウム化合物中のリチウムと反応してリチウムジルコニウム化合物が形成される。そして、リチウムニッケルマンガン複合酸化物の一次粒子表面に係るリチウムジルコニウム化合物が存在することになる。
【0090】
リチウムジルコニウム混合物の焼成温度は、850℃以上1000℃以下が好ましく、900℃以上950℃以下がより好ましい。
【0091】
焼成温度を850℃以上とすることで、リチウムジルコニウム化合物の形成を促進し、ニッケルマンガン複合水酸化物粒子中へ、リチウムおよびジルコニウムを十分に拡散させることができる。このため、余剰リチウムを低減し、未反応の粒子の残留を抑制できる。また、得られる正極活物質の結晶構造を十分に整え、リチウムイオン二次電池の正極材料として用いた場合に、該電池の電池特性を高めることができる。
【0092】
また、焼成温度を1000℃以下とすることで、生成したリチウムニッケルマンガン複合酸化物の粒子間で焼結が進行することを抑制し、異常粒成長の発生も抑制できる。なお、異常粒成長が生じると、焼成後の粒子が粗大となってしまい粒子形態を保持できなくなる可能性があり、正極活物質を形成したときに、比表面積が低下して正極の抵抗が上昇して電池容量が低下するという問題が生じる恐れがある。
【0093】
焼成時間は、少なくとも3時間以上とすることが好ましく、6時間以上24時間以下がより好ましい。これは3時間以上とすることで、リチウムニッケルマンガン複合酸化物の生成を十分に進行させることができるからである。
【0094】
また、焼成時の雰囲気は、酸化雰囲気であることが好ましく、特に酸素濃度が3容量%以上100容量%以下の雰囲気とすることがより好ましい。これは、酸素濃度を3容量%以上とすることで、酸化反応を十分に促進することができ、リチウムニッケルマンガン複合酸化物の結晶性を特に高めることができるからである。
【0095】
なお、酸素濃度を上記範囲とするため、焼成は大気ないしは酸素気流中で実施することが好ましく、とくに電池特性を考慮すると、酸素気流中で行うことが好ましい。
【0096】
焼成工程においては、既述の焼成温度、すなわち850℃以上1000℃以下の温度で焼成する前に、仮焼することもできる。
【0097】
仮焼温度は特に限定されないが、例えば350℃以上でかつ焼成温度より低く、リチウム化合物が溶融しニッケルマンガン複合水酸化物粒子と反応し得る温度とすることが好ましい。特に仮焼温度は400℃以上でかつ焼成温度より低く、リチウム化合物が溶融しニッケルマンガン複合水酸化物粒子と反応し得る温度とすることがより好ましい。このような温度でリチウムジルコニウム混合物を仮焼することにより、ニッケルマンガン複合水酸化物粒子へ、リチウム化合物とジルコニウム化合物が浸透してリチウムとジルコニウムの拡散が十分に行われ、特に均一なリチウムニッケルマンガン複合酸化物を得ることができる。例えば、リチウム化合物として炭酸リチウムを使用する場合であれば、400℃以上700℃以下の温度で1時間以上10時間以下程度保持して仮焼することが好ましい。
【0098】
焼成に用いられる炉は、特に限定されるものではなく、所定の雰囲気、例えば大気ないしは酸素気流中でリチウムジルコニウム混合物を焼成できるものであればよいが、ガス発生がない電気炉が好ましく、バッチ式、連続式のいずれの炉であっても用いることができる。
【0099】
焼成によって得られたリチウムニッケルマンガン複合酸化物は、粒子間の焼結は抑制されているが、弱い焼結や凝集により粗大な粒子を形成していることがある。このような場合には、解砕により上記焼結や凝集を解消して粒度分布を調整することが好ましい。
【0100】
また、本実施形態の正極活物質の製造方法は、さらに任意の工程を有することもできる。本実施形態の正極活物質の製造方法は、例えば混合工程に供するニッケルマンガン複合水酸化物粒子を晶析法により調製する晶析工程をさらに有することもできる。
【0101】
(C)晶析工程
上記混合工程に供するニッケルマンガン複合水酸化物粒子は、例えば晶析工程によって得ることが好ましい。
【0102】
晶析工程は、少なくともニッケルとマンガンを含む混合水溶液にアルカリ水溶液を加えて、ニッケルマンガン複合水酸化物粒子を晶析させる工程であり、既述の一般式で表されるニッケルマンガン複合水酸化物粒子が得られる方法であれば、特に限定されないが、下記の手順により実施することが好ましい。
【0103】
まず、反応槽内の少なくともニッケル(Ni)とマンガン(Mn)を含む混合水溶液に、アルカリ水溶液を加えて反応水溶液を調製する(反応水溶液調製ステップ)。
【0104】
次に、反応水溶液を一定速度にて撹拌してpHを制御することにより、反応槽内にニッケルマンガン複合水酸化物粒子を共沈殿させ晶析させる(晶析ステップ)。
【0105】
なお、晶析工程を実施する間、反応槽内の雰囲気は特に限定されないが、例えば大気雰囲気(空気雰囲気)とし、必要に応じて窒素等も併せて供給することができる。反応槽内に気体を供給する場合、反応槽内の液、例えば反応水溶液に吹き込み、反応水溶液の溶存酸素濃度を調整するようにして供給することもできる。
【0106】
また、反応水溶液調製ステップにおいては、反応槽内で、混合水溶液と、アルカリ水溶液とを混合し、反応水溶液を調製できればよく、その供給順等は特に限定されない。反応水溶液調製ステップでは、例えば反応槽内に温度等を調整した水を予め入れておき、そこに混合水溶液と、アルカリ水溶液とを同時に供給しても良い。
【0107】
混合水溶液に含まれる金属元素の組成と、晶析ステップ後に得られるニッケルマンガン複合水酸化物に含まれる金属元素の組成とはほぼ一致する。したがって、目的とするニッケル含有水酸化物の金属元素の組成と同じになるように混合水溶液の金属元素の組成を調整することができる。
【0108】
混合水溶液は、上述のようにニッケルとマンガンとを含む。このため、混合水溶液は、少なくともニッケルの塩およびマンガンの塩を、溶媒である水に添加することで調製することができる。なお、後述するように、混合水溶液には目的組成に応じてさらに添加元素M´の塩を添加しておくこともできる。ニッケルの塩およびマンガンの塩の種類は特に限定されないが、例えば硫酸塩、硝酸塩、および塩化物から選択された1種類以上の塩を用いることができる。なお、ニッケルの塩と、マンガンの塩とは種類が異なっていても良いが、同じであることが好ましい。
【0109】
アルカリ水溶液は、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等から選択された1種類以上を用いることができる。
【0110】
また、アルカリ水溶液と併せて、錯化剤を混合水溶液に添加することもできる。
【0111】
錯化剤は、特に限定されず、水溶液中でニッケルイオンやその他金属イオンと結合して錯体を形成可能なものであればよく、例えば、アンモニウムイオン供給体が挙げられる。アンモニウムイオン供給体としては、特に限定されないが、例えば、アンモニア、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、炭酸アンモニウム、フッ化アンモニウム等から選択された1種類以上を使用することができる。
【0112】
晶析工程における反応水溶液の温度や、pHは特に限定されないが、例えば反応水溶液における溶解ニッケル濃度が5mg/L以上1000mg/L以下となるようにpH等を制御することが好ましい。なお、反応水溶液における溶解ニッケル濃度は上記範囲に限定されるものではなく、目的とするリチウムニッケルマンガン複合酸化物のニッケル比率等に応じてその範囲を選択することができる。
【0113】
晶析工程で、錯化剤を使用しない場合、反応水溶液の温度を、60℃以上80℃以下の範囲とすることが好ましく、かつ反応水溶液のpHが10以上12以下(25℃基準)であることが好ましい。
【0114】
反応水溶液のpHを12以下とすることで、ニッケルマンガン複合水酸化物粒子が過度に細かくなることを抑制し、濾過性を高めることができる。また、pHを12以下とすることで球状粒子を得ることができる。
【0115】
反応水溶液のpHを10以上とすることで、ニッケルマンガン複合水酸化物粒子の生成速度を高め、生産性を高めることができる。また、上述のようにニッケルマンガン複合水酸化物粒子の生成反応を十分に促進できるため、晶析ステップの後、濾過により晶析物を分離した際に濾液中にニッケル成分が残留することを抑制し、より確実に目的組成のニッケルマンガン複合水酸化物粒子を生成できる。
【0116】
また、反応水溶液の温度を60℃以上とすることで、ニッケルの溶解度を高め、より確実に目的組成のニッケルマンガン複合水酸化物粒子を共沈させることができる。反応水溶液の温度を80℃以下とすることで、反応水溶液からの水の蒸発量を抑制し、スラリー濃度が過度に高くなることを防止できる。また、反応水溶液の温度を80℃以下とすることで、上述のように水の蒸発量を抑制できるため、硫酸ナトリウム等の結晶が発生することを抑止し、得られるニッケルマンガン複合水酸化物粒子の不純物濃度を低くすることができる。このため、得られたニッケルマンガン複合水酸化物粒子を用いて調製した正極活物質をリチウムイオン二次電池に適用した場合に、充放電容量を高めることができ、好ましい。
【0117】
一方、晶析工程で、錯化剤として、アンモニアなどのアンモニウムイオン供給体を使用する場合、ニッケルの溶解度が上昇するため、反応水溶液のpHは10以上13以下(25℃基準)であることが好ましく、反応水溶液の温度は30℃以上60℃以下であることが好ましい。
【0118】
また、上述のように錯化剤としてアンモニウムイオン供給体を使用する場合、反応槽内において、反応水溶液中のアンモニア濃度は、3g/L以上25g/L以下の範囲内で一定値に保持することが好ましい。
【0119】
反応水溶液中のアンモニア濃度を3g/L以上とすることで、金属イオンの溶解度を一定に保持することができ、形状及び粒径が整った板状の水酸化物一次粒子を形成することができ、粒度分布の拡がりも抑制できる。
【0120】
反応水溶液中のアンモニア濃度を25g/L以下とすることで、金属イオンの溶解度が過度に大きくなることを抑制し、反応水溶液中に残存する金属イオン量を抑制し、より確実に目的組成のニッケルマンガン複合水酸化物粒子を生成することができる。
【0121】
また、反応水溶液中のアンモニア濃度が変動すると、金属イオンの溶解度が変動し、均一な水酸化物粒子が形成されない恐れがあるため、一定値に保持することが好ましい。例えば、アンモニア濃度は、上限と下限の幅、すなわち変動の幅を5g/L程度以下として所望の濃度に保持することが好ましい。
【0122】
晶析ステップ終了後は、すなわち定常状態になった後は沈殿物を採取し、濾過、水洗してニッケルマンガン複合水酸化物粒子を得ることができる(濾過、水洗ステップ)。
【0123】
なお、連続式の場合には、反応槽に対して、既述の混合水溶液と、アルカリ水溶液と、場合によってはアンモニウムイオン供給体を含む水溶液とを連続的に供給して、既述の反応水溶液調製ステップと、晶析ステップとを実施できる。混合水溶液等の原料を反応槽に連続的に供給する場合、混合水溶液の反応槽内での滞留時間は特に限定されないが、十分に結晶成長をさせ、かつ生産性を高める観点から、例えば3時間以上12時間以下となるように各溶液の供給速度を調整することが好ましい。そして、反応槽からオーバーフローさせて沈殿物を採取し、濾過、水洗してニッケルマンガン複合水酸化物粒子を得ることもできる(濾過、水洗ステップ)。
【0124】
なお、ニッケルマンガン複合水酸化物粒子に、既述の添加元素M´を配合する方法としては特に限定されないが、晶析工程の生産性を高める観点から、少なくともニッケルとマンガンを含む混合水溶液に添加元素M´を含む塩を添加しておくことが好ましい。係る添加元素M´を添加した混合水溶液を用いることで、添加元素M´を含むニッケルマンガン複合水酸化物粒子を共沈させることができる。
【0125】
添加元素M´は既述の様にCo、W、Mo、Mg、Ca、Al、Ti、Cr、Zr及びTaから選ばれる少なくとも1種であり、熱安定性や保存特性改善及び電池特性等を改善するために任意に添加することができる。なお、添加元素M´としてジルコニウムを選択した場合には、正極活物質の目的組成に応じて、既述の混合工程で添加するジルコニウム化合物の量を調整することが好ましい。
【0126】
添加元素M´を含む塩としては、たとえば、硫酸コバルト、タングステン酸ナトリウム、酸化タングステン、酸化モリブデン、硫化モリブデン、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、硫酸アルミニウム、アルミン酸ナトリウム、硫酸チタン、ペルオキソチタン酸アンモニウム、シュウ酸チタンカリウム、水酸化ジルコニウム、硫酸ジルコニウム、塩化クロム、タンタル酸ナトリウム、タンタル酸等から選択された1種以上が挙げられる。なお、添加元素M´を含む塩は、水に溶解させ、添加元素M´を含む水溶液としてから、混合水溶液に添加することが好ましい。
【0127】
また、晶析条件を最適化して組成比の制御を容易にするため、少なくともニッケルとマンガンを含む混合水溶液に、アルカリ水溶液を加えて晶析させた後、添加元素M´で被覆する被覆工程を設け、添加元素M´を配合することもできる。
【0128】
被覆方法としては、特に限定されず、公知の方法を用いることができる。
【0129】
例えば、第1の方法として、晶析ステップ後に得られた、添加元素M´を添加していないニッケルマンガン複合水酸化物粒子を、添加元素M´で被覆する方法が挙げられる。
【0130】
また、第2の方法として、晶析時に添加元素M´の一部を添加しておき、晶析後に得られたニッケルマンガン複合水酸化物粒子に対してさらに添加元素M´の被覆を行う方法が挙げられる。具体的には、ニッケル、マンガン及び添加元素M´の一部を含む混合水溶液を作製し、添加元素M´を含むニッケルマンガン複合水酸化物粒子を晶析(共沈)させる。次いで、得られた晶析物である添加元素M´を含むニッケルマンガン複合水酸化物粒子に添加元素M´を被覆して添加元素M´の含有量を調整することができる。
【0131】
上述の第1の方法や、第2の方法の様に、ニッケルマンガン複合水酸化物粒子に添加元素M´を被覆する場合の手順の構成例について以下に説明する。
【0132】
まず、ニッケルマンガン複合水酸化物粒子を純水に分散させ、スラリーとする(ニッケルマンガン複合水酸化物スラリー化ステップ)。
【0133】
次いで、得られたスラリーと、目的とする被覆量に相当する量の添加元素M´を含有する溶液とを混合し、所定のpHになるように酸を滴下し、調整する(添加元素M´添加ステップ)。この時、酸としては、硫酸、塩酸、硝酸等から選択された1種以上を用いることが好ましい。
【0134】
そして、所定の時間混合した後に、濾過・乾燥を行うことで添加元素M´により被覆されたニッケルマンガン複合水酸化物粒子を得ることができる(濾過、乾燥ステップ)。
【0135】
なお、添加元素M´により被覆する方法は上述の方法に限定されず、例えば添加元素M´の化合物を含む溶液を含浸させる方法や、添加元素M´を含む化合物を含む水溶液と、ニッケルマンガン複合水酸化物粒子との混合物をスプレードライ等で乾燥させる方法等を用いることもできる。
[リチウムイオン二次電池]
本実施形態のリチウムイオン二次電池(以下、「二次電池」ともいう。)は、既述の正極活物質を含む正極を有することができる。
【0136】
以下、本実施形態の二次電池の一構成例について、構成要素ごとにそれぞれ説明する。本実施形態の二次電池は、例えば正極、負極及び非水系電解質を含み、一般のリチウムイオン二次電池と同様の構成要素から構成される。なお、以下で説明する実施形態は例示に過ぎず、本実施形態のリチウムイオン二次電池は、下記実施形態をはじめとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。また、二次電池は、その用途を特に限定するものではない。
(正極)
本実施形態の二次電池が有する正極は、既述の正極活物質を含むことができる。
【0137】
以下に正極の製造方法の一例を説明する。まず、既述の正極活物質(粉末状)、導電材および結着剤(バインダー)を混合して正極合材とし、さらに必要に応じて活性炭や、粘度調整などの目的の溶剤を添加し、これを混練して正極合材ペーストを作製することができる。
【0138】
正極合材中のそれぞれの材料の混合比は、リチウム二次電池の性能を決定する要素となるため、用途に応じて、調整することができる。材料の混合比は、公知のリチウム二次電池の正極と同様とすることができ、例えば、溶剤を除いた正極合材の固形分の全質量を100質量%とした場合、正極活物質を60質量%以上95質量%以下、導電材を1質量%以上20質量%以下、結着剤を1質量%以上20質量%以下の割合で含有することができる。
【0139】
得られた正極合材ペーストを、例えば、アルミニウム箔製の集電体の表面に塗布し、乾燥して溶剤を飛散させ、シート状の正極が作製される。必要に応じ、電極密度を高めるべくロールプレス等により加圧することもある。このようにして得られたシート状の正極は、目的とする電池に応じて適当な大きさに裁断等し、電池の作製に供することができる。
【0140】
導電材としては、例えば、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛および膨張黒鉛など)や、アセチレンブラックやケッチェンブラック(登録商標)などのカーボンブラック系材料等から選択された1種類以上を用いることができる。
【0141】
結着剤(バインダー)は、活物質粒子をつなぎ止める役割を果たすもので、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、スチレンブタジエン、セルロース系樹脂およびポリアクリル酸等から選択された1種類以上を用いることができる。
【0142】
必要に応じ、正極活物質、導電材等を分散させて、結着剤を溶解する溶剤を正極合材に添加することもできる。溶剤としては、具体的には、N-メチル-2-ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。また、正極合材には、電気二重層容量を増加させるために、活性炭を添加することもできる。
【0143】
正極の作製方法は、上述した例示のものに限られることなく、他の方法によってもよい。例えば正極合材をプレス成形した後、真空雰囲気下で乾燥することで製造することもできる。
(負極)
負極は、金属リチウム、リチウム合金等を用いることができる。また、負極は、リチウムイオンを吸蔵・脱離できる負極活物質に結着剤を混合し、適当な溶剤を加えてペースト状にした負極合材を、銅等の金属箔集電体の表面に塗布、乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成したものを用いてもよい。
【0144】
負極活物質としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛およびフェノール樹脂などの有機化合物焼成体、およびコークスなどの炭素物質の粉状体を用いることができる。この場合、負極結着剤としては、正極同様、PVDFなどの含フッ素樹脂を用いることができ、これらの活物質および結着剤を分散させる溶剤としては、N-メチル-2-ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。
(セパレータ)
正極と負極との間には、必要に応じてセパレータを挟み込んで配置することができる。セパレータは、正極と負極とを分離し、電解質を保持するものであり、公知のものを用いることができ、例えば、ポリエチレンやポリプロピレンなどの薄い膜で、微少な孔を多数有する膜を用いることができる。
(非水系電解質)
非水系電解質としては、例えば非水系電解液を用いることができる。
【0145】
非水系電解液としては、例えば支持塩としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解したものを用いることができる。また、非水系電解液として、イオン液体にリチウム塩が溶解したものを用いてもよい。なお、イオン液体とは、リチウムイオン以外のカチオンおよびアニオンから構成され、常温でも液体状の塩をいう。
【0146】
有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートおよびトリフルオロプロピレンカーボネートなどの環状カーボネートや、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートおよびジプロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート、さらにテトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフランおよびジメトキシエタンなどのエーテル化合物、エチルメチルスルホン、ブタンスルトンなどの硫黄化合物、リン酸トリエチル、リン酸トリオクチルなどのリン化合物等から選ばれる1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いることもできる。
【0147】
支持塩としては、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiN(CFSO、およびそれらの複合塩などを用いることができる。さらに、非水系電解液は、ラジカル捕捉剤、界面活性剤および難燃剤などを含んでいてもよい。
【0148】
また、非水系電解質としては、固体電解質を用いてもよい。固体電解質は、高電圧に耐えうる性質を有する。固体電解質としては、無機固体電解質、有機固体電解質が挙げられる。
【0149】
無機固体電解質としては、酸化物系固体電解質、硫化物系固体電解質等が挙げられる。
【0150】
酸化物系固体電解質としては、特に限定されず、例えば酸素(O)を含有し、かつリチウムイオン伝導性と電子絶縁性とを有するものを好適に用いることができる。酸化物系固体電解質としては、例えば、リン酸リチウム(LiPO)、LiPO、LiBO、LiNbO、LiTaO、LiSiO、LiSiO-LiPO、LiSiO-LiVO、LiO-B-P、LiO-SiO、LiO-B-ZnO、Li1+XAlTi2-X(PO(0≦X≦1)、Li1+XAlGe2-X(PO(0≦X≦1)、LiTi(PO、Li3XLa2/3-XTiO(0≦X≦2/3)、LiLaTa12、LiLaZr12、LiBaLaTa12、Li3.6Si0.60.4等が挙げられる。
【0151】
硫化物系固体電解質としては、特に限定されず、例えば硫黄(S)を含有し、かつリチウムイオン伝導性と電子絶縁性とを有するものを好適に用いることができる。硫化物系固体電解質としては、例えば、LiS-P、LiS-SiS、LiI-LiS-SiS、LiI-LiS-P、LiI-LiS-B、LiPO-LiS-SiS、LiPO-LiS-SiS、LiPO-LiS-SiS、LiI-LiS-P、LiI-LiPO-P等が挙げられる。
【0152】
なお、無機固体電解質としては、上記以外のものを用いてよく、例えば、LiN、LiI、LiN-LiI-LiOH等を用いてもよい。
【0153】
有機固体電解質としては、イオン伝導性を示す高分子化合物であれば、特に限定されず、例えば、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、これらの共重合体などを用いることができる。また、有機固体電解質は、支持塩(リチウム塩)を含んでいてもよい。
(二次電池の形状、構成)
以上のように説明してきた本実施形態のリチウムイオン二次電池は、円筒形や積層形など、種々の形状にすることができる。いずれの形状を採る場合であっても、本実施形態の二次電池が非水系電解質として非水系電解液を用いる場合であれば、正極および負極を、セパレータを介して積層させて電極体とし、得られた電極体に、非水系電解液を含浸させ、正極集電体と外部に通ずる正極端子との間、および、負極集電体と外部に通ずる負極端子との間を、集電用リードなどを用いて接続し、電池ケースに密閉した構造とすることができる。
【0154】
なお、既述の様に本実施形態の二次電池は非水系電解質として非水系電解液を用いた形態に限定されるものではなく、例えば固体の非水系電解質を用いた二次電池、すなわち全固体電池とすることもできる。全固体電池とする場合、正極活物質以外の構成は必要に応じて変更することができる。
【0155】
本実施形態の二次電池は、常に高容量を要求される小型携帯電子機器(ノート型パーソナルコンピュータや携帯電話端末など)の電源に好適であり、高出力が要求される電気自動車用電源にも好適である。
【0156】
また、本実施形態の二次電池は、特に安全性に優れており、さらに出力特性、容量の点で優れている。そのため、小型化、高出力化が可能であることから、搭載スペースに制約を受ける電気自動車用電源として好適である。
【0157】
なお、本実施形態の二次電池は、純粋に電気エネルギーで駆動する電気自動車用の電源のみならず、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの燃焼機関と併用するいわゆるハイブリッド車用の電源としても用いることができる。
【実施例
【0158】
以下に、本発明の実施例及び比較例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。なお、実施例及び比較例における正極活物質の各種評価方法は、以下の通りである。
(1)組成の分析
以下の実施例、比較例で得られた正極活物質の組成について、ICP発光分光分析装置(島津製作所製 型式:ICPS8100)を用いて、ICP発光分光法により評価した。
(2)体積平均粒径MV
以下の実施例、比較例で得られた正極活物質の体積平均粒径について、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置(日機装株式会社製、マイクロトラックHRA)により評価を行なった。
(3)余剰リチウム(Li)量の分析
余剰リチウム量は、中和滴定法の一つであるWarder法により評価した。評価結果から、水酸化リチウム(LiOH)と炭酸リチウム(LiCO)量を算出し、これらのリチウム量の和を余剰リチウム量とした。
【0159】
具体的には、得られた正極活物質に純水を加えて撹拌後、ろ過したろ液のpHを測定しながら塩酸を加えていくことにより出現する中和点から溶出するリチウムの化合物状態を評価して算出した。
【0160】
なお、上述の滴定は第2中和点まで測定した。第2中和点までに塩酸で中和されたアルカリ分を、水酸化リチウム(LiOH)および炭酸リチウム(LiCO)に由来するリチウム量(Li)として、第2中和点までに滴下した塩酸の量、及び塩酸の濃度から、ろ液内のリチウム量を算出した。
【0161】
そして、ろ液を調製する際に用いた正極活物質の試料の量で、算出したろ液内のリチウム量を割り、単位を質量%に換算して余剰リチウムを求めた。
(4)光電子スペクトル
XPS装置(アルバックファイ社製、Versa Probe II)を用い、モノクロメーターで単色化を行ったAl-Kα線を照射X線源とし、1.0×10-6Pa以下の真空雰囲気中で、正極活物質の粒子の光電子スペクトルの測定を行った。
(5)初期充放電容量
以下の各実施例、比較例で得られた正極活物質の評価には、図1に示す2032型コイン型電池11(以下、「コイン型電池」という。)を使用した。
【0162】
図1に示すように、コイン型電池11は、ケース12と、このケース12内に収容された電極13とから構成されている。
【0163】
ケース12は、中空かつ一端が開口された正極缶12aと、この正極缶12aの開口部に配置される負極缶12bとを有している。そして、負極缶12bを正極缶12aの開口部に配置すると、負極缶12bと正極缶12aとの間に電極13を収容する空間が形成されるように構成されている。
【0164】
電極13は、正極13a、セパレータ13cおよび負極13bとからなり、この順で並ぶように積層されており、正極13aが正極缶12aの内面に集電体14を介して接触し、負極13bが負極缶12bの内面に集電体14を介して接触するようにケース12に収容されている。正極13aとセパレータ13cとの間にも集電体14が配置されている。
【0165】
なお、ケース12はガスケット12cを備えており、このガスケット12cによって、正極缶12aと負極缶12bとの間が非接触の状態を維持するように相対的な移動が固定されている。また、ガスケット12cは、正極缶12aと負極缶12bとの隙間を密封してケース12内と外部との間を気密液密に遮断する機能も有している。
【0166】
図1に示すコイン型電池11は、以下のようにして製作した。
【0167】
まず、正極活物質52.5mg、アセチレンブラック15mg、およびポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂7.5mgを混合し、100MPaの圧力で直径11mm、厚さ100μmにプレス成形して、正極13aを作製した。作製した正極13aを真空乾燥機中120℃で12時間乾燥した。
【0168】
この正極13aと、負極13b、セパレータ13cおよび電解液とを用いて、上述したコイン型電池11を、露点が-80℃に管理されたAr雰囲気のグローブボックス内で作製した。
【0169】
なお、負極13bには、直径17mm、厚さ1mmのリチウム(Li)金属を用いた。セパレータ13cには膜厚25μmのポリエチレン多孔膜を用いた。電解液には1MのLiClOを支持電解質(支持塩)とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の等量混合液(富山薬品工業株式会社製)を用いた。
【0170】
製造したコイン型電池11の性能を示す初期放電容量は、以下のように評価した。
【0171】
初期充放電容量は、まず図1に示すコイン型電池11を作製してから24時間程度放置し、開回路電圧OCV(open circuit voltage)が安定した後、正極に対する電流密度を0.1mA/cmとしてカットオフ電圧4.3Vまで充電して初期充電容量とした。そして、1時間の休止後、カットオフ電圧3.0Vまで放電したときの容量を初期放電容量とした。充放電容量の測定には、マルチチャンネル電圧/電流発生器(株式会社アドバンテスト製、R6741A)を用いた。
[実施例1]
(晶析工程)
反応槽(60L)に純水を50L入れ、攪拌しながら槽内温度を45℃に設定した。このとき反応槽内に、NガスおよびAirガスを流した。この反応槽内に混合水溶液と、アルカリ水溶液と、錯化剤とを同時に連続的に添加し、反応水溶液を調製した(反応水溶液調製ステップ)。
【0172】
なお、混合水溶液としては、ニッケル:コバルト:マンガンの物質量(モル)の比が55:25:20となるように、硫酸ニッケル、硫酸コバルト、硫酸マンガンを溶解させた水溶液を用いた。
【0173】
また、アルカリ水溶液としては25質量%水酸化ナトリウム溶液を、錯化剤としては25質量%アンモニア水をそれぞれ用いた。
【0174】
反応水溶液調製ステップでは、反応水溶液の反応槽内の滞留時間が8時間となるように各溶液の流量を制御した。また、反応槽内の反応水溶液中のpHを10以上13以下(25℃基準)、アンモニア濃度を11g/L以上15g/L以下に調整し、ニッケルマンガン複合水酸化物を晶析させた(晶析ステップ)。
【0175】
反応槽が安定した後、オーバーフロー口からニッケルマンガン複合水酸化物を含むスラリーを回収した後、濾過を行いニッケルマンガン複合水酸化物のケーキを得た。そして、濾過を行ったデンバー(ろ布)内にあるニッケルマンガン複合水酸化物140gに対して1Lの純水を通液することで、不純物の洗浄を行った(濾過、水洗ステップ)。
【0176】
濾過後の粉を乾燥し、Ni0.55Co0.25Mn0.20(OH)2+β(0≦β≦0.4)で表されるニッケルマンガン複合水酸化物粒子を得た。
【0177】
(混合工程)
得られたニッケルコバルトマンガン複合水酸化物粒子と、炭酸リチウムと、平均粒径が1.0μmの酸化ジルコニウム(ZrO)とを混合して、リチウムジルコニウム混合物を得た。
【0178】
なお、混合する際に、リチウムジルコニウム混合物中のニッケル:コバルト:マンガン:ジルコニウムの物質量(モル)の比が54.7:24.9:19.9:0.5であり、かつリチウムと、リチウム以外の金属(ニッケル、コバルト、マンガン、ジルコニウム)の合計メタル量との原子数の比(Li/Me)が1.03になるように秤量した。
【0179】
そして、秤量した原料をシェーカーミキサー装置(ウィリー・エ・バッコーフェン(WAB)社製TURBULA TypeT2C)を用いて十分に混合した。
(焼成工程)
混合工程で調製したリチウムジルコニウム混合物を、大気(酸素濃度:21容量%)気流中にて900℃まで3時間で昇温し、その後10時間保持して、5時間で降温させる条件で焼成した。
【0180】
その後、解砕してリチウムニッケルマンガン複合酸化物の粒子からなる正極活物質を得た。リチウムニッケルマンガン複合酸化物の粒子は、走査型電子顕微鏡で観察したところ、一次粒子が凝集した二次粒子から構成されていることを確認できた。得られた正極活物質について、体積平均粒径MVと余剰リチウム量、XPSによる光電子スペクトルを測定した。また、該正極活物質を用いてコイン型電池を作製し、初期充放電容量を評価した。二次粒子の体積平均粒径MVは13.5μmであった。XPSによる光電子スペクトルを図2図3に示す。その他の評価結果を表1に示す。
【0181】
なお、得られた正極活物質について、組成分析を行ったところ、目的組成になっていることが確認できた。すなわち、Li/Me=1.03であり、ニッケルとマンガンとコバルトとジルコニウムの合計量に対するジルコニウムのモル比(組成比)は表1に示した結果になっていることが確認できた。具体的には、Li1.03Ni0.547Co0.249Mn0.199Zr0.0052+α(-0.2≦α≦0.2)が得られていることを確認できた。
【0182】
また、正極活物質が含有するリチウムニッケルマンガン複合酸化物の一次粒子断面をEDXにより評価したところ、粒子内部にジルコニウムが均一に分散していることも確認できた。
[比較例1]
混合工程において、酸化ジルコニウムを用いず、得られたニッケルマンガン複合水酸化物粒子と炭酸リチウムとをLi/Me=1.03となるように秤量して、焼成工程に供する混合物を調製した点以外は実施例1と同様に正極活物質を得るとともに評価した。二次粒子の体積平均粒径MVは12.5μmであった。XPSによる光電子スペクトルを図2図3に示す。その他の評価結果を表1に示す。
【0183】
【表1】
表1に示すように、実施例1ではジルコニウムを添加し、900℃で焼成したことにより、余剰リチウム量の少ない正極活物質が得られていることが確認できた。
【0184】
また、図2及び図3に示すように、XPSでの測定においても、実施例1はO1sに帰属される光電子スペクトルのうち531eV以上532eV以下の範囲に存在するピークよりも強度の強いピークが存在し、かつC1sに帰属される光電子スペクトルのうち289eV以上291eV以下の範囲に存在するピークよりも強度の強いピークが存在することを確認した。
【0185】
なお、図2中、領域21に存在するピークは、炭酸リチウム(LiCO)が含まれていることを意味し、領域22に存在するピークはニッケルの酸化物が含まれることを意味する。また、領域23に存在するピークはマンガンの酸化物が含まれていることを、領域24に存在するピークはコバルトの酸化物が含まれていることを意味する。
【0186】
図3中、領域31に存在するピークは、炭酸リチウム(LiCO)が含まれていることを意味する。
【0187】
実施例1の正極活物質によれば、正極スラリーとした場合にゲル化を抑制でき、かつ電池セルとした場合におけるガス発生量が低減されていることを確認できた。これは、ジルコニウムを添加して900℃で焼成したことで、正極活物質の粒子表面にリチウムジルコニウム化合物を形成されて、余剰リチウムが減少したためと推定される。
【0188】
一方、比較例1では、ジルコニウムを添加していないため、余剰リチウム量の低減がみられなかった。図2及び図3に示すようにXPSでの測定においても、O1sに帰属される光電子スペクトルのうち531eV以上532eV以下の範囲に存在するピーク、及びC1sに帰属される光電子スペクトルのうち289eV以上291eV以下の範囲に存在するピークがそれぞれ最強であり、正極活物質の粒子表面に残存する炭酸リチウムの量が多いことを示唆する結果が得られた。また、スラリーゲル化の抑制や電池セルとした場合におけるガス発生量の低減も見られなかった。
図1
図2
図3