(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-04
(45)【発行日】2024-01-15
(54)【発明の名称】摺動部材用摩擦材組成物、摺動部材用摩擦材及び摺動部材
(51)【国際特許分類】
C09K 3/14 20060101AFI20240105BHJP
F16F 7/02 20060101ALI20240105BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20240105BHJP
【FI】
C09K3/14 520J
C09K3/14 520M
C09K3/14 530Z
C09K3/14 520C
F16F7/02
F16F15/02 E
(21)【出願番号】P 2020022681
(22)【出願日】2020-02-13
【審査請求日】2022-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(73)【特許権者】
【識別番号】306022513
【氏名又は名称】日鉄エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】島田 活生
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 大
(72)【発明者】
【氏名】原 泰啓
(72)【発明者】
【氏名】西本 晃治
(72)【発明者】
【氏名】脇田 直弥
(72)【発明者】
【氏名】蓑和 健太郎
【審査官】柴田 啓二
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-179806(JP,A)
【文献】特開2013-166888(JP,A)
【文献】特開2019-196456(JP,A)
【文献】特開平09-031213(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/14
F16F 7/02
F16F 15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結合材、有機充填材、無機充填材、及び繊維基材を含有する
ダンパー又は摩擦ストッパー用摩擦材組成物であって、
金属を実質的に含有せず、カシューダスト10体積%以上及びモース硬度5以上の研削材1~4体積%を含有し、
前記カシューダストの少なくとも一部がフルフラールによって硬化された、
ダンパー又は摩擦ストッパー用摩擦材組成物。
【請求項2】
前記カシューダストが、茶黒系カシューダスト及び黒系カシューダストからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1に記載の
ダンパー又は摩擦ストッパー用摩擦材組成物。
【請求項3】
前記カシューダストにおいて、下記方法によって抽出されるタール分がカシューダスト全量に対して5質量%以下である、請求項1又は2に記載の
ダンパー又は摩擦ストッパー用摩擦材組成物。
タール分の抽出方法:カシューダストを370℃、1時間の条件で加熱処理し、その加熱処理後の残渣からタール分をアセトンで抽出する。
【請求項4】
前記研削材が、アルミナ、二酸化クロム、三酸化クロム、酸化ジルコニウム、ガーネット、二酸化珪素、珪酸ジルコニウム、ムライト、シリコンカーバイド及び金剛砂からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1~3のいずれか1項に記載の
ダンパー又は摩擦ストッパー用摩擦材組成物。
【請求項5】
さらに炭酸カルシウムを含有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の
ダンパー又は摩擦ストッパー用摩擦材組成物。
【請求項6】
さらに水酸化カルシウムを含有する、請求項1~5のいずれか1項に記載の
ダンパー又は摩擦ストッパー用摩擦材組成物。
【請求項7】
さらに珪藻土を含有する、請求項1~6のいずれか1項に記載の
ダンパー又は摩擦ストッパー用摩擦材組成物。
【請求項8】
前記繊維基材が、有機繊維及び無機繊維からなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の
ダンパー又は摩擦ストッパー用摩擦材組成物。
【請求項9】
前記繊維基材の含有量が、
ダンパー又は摩擦ストッパー用摩擦材組成物総量に対して5~20体積%である、請求項1~8のいずれか1項に記載の
ダンパー又は摩擦ストッパー用摩擦材組成物。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか1項に記載の
ダンパー又は摩擦ストッパー用摩擦材組成物を含有してなる、
ダンパー又は摩擦ストッパー用摩擦材。
【請求項11】
請求項1~9のいずれか1項に記載の
ダンパー又は摩擦ストッパー用摩擦材組成物を含有してなる
ダンパー又は摩擦ストッパー用摩擦材と裏金とを有する、
ダンパー。
【請求項12】
請求項1~9のいずれか1項に記載のダンパー又は摩擦ストッパー用摩擦材組成物を含有してなるダンパー又は摩擦ストッパー用摩擦材と裏金とを有する、摩擦ストッパー。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、摺動部材用摩擦材組成物、摺動部材用摩擦材及び摺動部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、地震等によって建物等に繰り返し振動が発生した際、建築構造物及び土木構造物(以下、これらをまとめて、単に構造物と称する。)への損傷が生じるという問題が多発している。例えば、一般的なビルにおいては、前記繰り返し振動によって、柱及び梁等の主架構の他、ブレース及び壁等の耐震要素にも損傷が発生している。
構造物の振動及び被害の低減方法としては、例えば、構造物に入る地震力そのものを低減する免震装置を採用する方法等が利用されている。しかし、アスペクト比(幅に対する高さ)が4以上の構造物(例えば高層ビル等)の場合には風荷重が支配的となる傾向にあることが知られており、風荷重による免震層の最大変形及び残留変形並びに免震装置の疲労を抑える必要がある。しかし、アスペクト比が4以上の構造物において風荷重の影響が小さくなるように免震装置の設計変更を行うと、今度は建物に入る地震力が増大してしまい、免震効果が薄れてしまうという問題が生じており、免震装置にはさらなる改善の余地があるため、新規な免震装置(例えば摩擦ストッパー等)を開発すること自体が重要なテーマとなっている。
【0003】
また、他の被害として、鉄筋コンクリート架構に支持された鉄骨置屋根構造の建物においては、表面壁付近の鉄骨部材及び鉄骨屋根支承部が損傷するという被害も多発している。このような被害を低減する手段として、一般的には支承部の補強がなされる傾向にあるが、その場合には鉄筋コンクリート片持架構の応答に耐えられる程の耐力の増加が必要であり、支承部の十分な補強は容易ではない。
【0004】
そこで、前記被害を低減又は回避するために、ビル等のブレース及び壁等の耐震要素並びに鉄骨屋根支承部にエネルギー吸収部材を導入することが提案されている。該エネルギー吸収部材の一つとして、摺動部材、例えば、摩擦によって振動を減衰するダンパーが挙げられる。摩擦ダンパーは、通常、摩擦材と、該摩擦材の摩擦対象である相手材のステンレス(SUS)板とによって構成され、摩擦材とSUS板との摩擦による減衰により振動エネルギーを吸収するものである。
【0005】
摩擦ダンパーにおける摩擦材は相手材がSUS板であるため、相手材の材質が一般的には鋳鉄であるディスクブレーキパッドに使用される摩擦材とは求められる性能が異なる。そのため、ディスクブレーキパッドに使用される摩擦材を摩擦ダンパーの摩擦材に転用しようとしても、要求される性能を十分に満たすことができない。
例えば、摩擦ダンパー等の摺動部材に求められる特性としては、(1)地震等による繰り返し振動に対する摩擦係数の安定性、(2)繰り返し振動後に摩擦材にクラックが生じないこと、(3)相手材であるSUS板に対して面当たりすること、(4)摩擦材の平均摩擦係数が高く、振動の減衰効果が高いこと、(5)繰り返し振動中の摺動音が小さいこと等がある。
【0006】
摩擦ダンパー用の摩擦材としては、SiCが60~85重量%、Fe2O3が5~25重量%、SiO2が5~20重量%及びAl2O3が2~10重量%の組成を有するセラミックス系摺動部材料(特許文献1参照)が知られている。他にも、建造物を構成する構造材の震動を摩擦材の摩擦力で制止する摩擦ダンパー用ライニングであって、前記摩擦材を補強する繊維材と、該摩擦材の摩擦力を調整する摩擦調整材と、該繊維材と該摩擦調整材とを結合する結合材とを含む摩擦材と、前記摩擦材が一体的に固着されるバックプレートと、を備え、前記結合材は、熱硬化性樹脂を含み、前記繊維材は、前記摩擦材に対して所定量であり、前記摩擦調整材は、1種又は複数種の固体潤滑材を前記摩擦材に対して所定量含み、モース硬度7.5以下の硬質粒子を該摩擦材に対して所定量含み、さらに該固体潤滑材と該硬質粒子の体積%比が所定範囲であり、前記摩擦材は、前記バックプレートに対する厚みの比が所定範囲である、摩擦ダンパー用ライニング(特許文献2参照)等が知られている。
【0007】
しかし、特許文献1又は特許文献2に記載の摩擦材をビル等のブレース及び壁等の耐震要素並びに鉄骨屋根支承部の摩擦ダンパーに使用すると、設置初期に相手材に面当たりし難く、初期摩擦係数が低く、「繰り返し振動」に対する摩擦係数の安定性が得られない。さらに、「繰り返し振動」による繰り返し摩擦で相手材のSUS板を摩耗させ易いという欠点もある。
【0008】
また、特許文献3の比較例には、繊維基材30体積%、フェノール樹脂6体積%、Al2O3を5体積%、Fe2O3を8体積%、カシューダスト5体積%、グラファイト5体積%を含有する摩擦材と、繊維基材30体積%、フェノール樹脂6体積%、Al2O3を5体積%、Fe2O3を8体積%、カシューダスト9体積%、グラファイト9体積%を含有する摩擦ダンパー用摩擦材が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平08-283070号公報
【文献】特開2012-017759号公報
【文献】特開2005-029648号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
特許文献3の比較例に記載されている前記摩擦ダンパー用摩擦材はカシューダストを含有したものであるが、カシューダストは分解点が低いため、特許文献3の比較例に記載されている組成の摩擦材では、「繰り返し振動」の際に摩擦係数の安定性が低下するという問題がある。
【0011】
そこで本発明は、(1)繰り返し振動に対する摩擦係数の安定性に優れ、(2)繰り返し振動後に摩擦材にクラックが生じ難く、(3)相手材であるSUS板に対して面当たりし、(4)摩擦材の平均摩擦係数が高くて、振動の減衰効果が高く、(5)繰り返し振動中の摺動音が小さい、という特性を有する摺動部材用摩擦材、該摺動部材用摩擦材を与える摺動部材用摩擦材組成物、及び前記摺動部材用摩擦材を用いた摺動部材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者等は鋭意検討を重ねた結果、金属を実質的に含有せず、カシューダスト及びモース硬度5以上の研削材を所定量含有し、且つ、前記カシューダストとして、その少なくとも一部がフルフラールによって硬化されたカシューダストを用いることによって前記課題を解決し得ることを見出した。
【0013】
すなわち、本発明は、下記[1]~[11]に関する。
[1]結合材、有機充填材、無機充填材、及び繊維基材を含有する摺動部材用摩擦材組成物であって、
金属を実質的に含有せず、カシューダスト10体積%以上及びモース硬度5以上の研削材1~4体積%を含有し、
前記カシューダストの少なくとも一部がフルフラールによって硬化された、摺動部材用摩擦材組成物。
[2]前記カシューダストが、茶黒系カシューダスト及び黒系カシューダストからなる群から選択される少なくとも1種である、上記[1]に記載の摺動部材用摩擦材組成物。
[3]前記カシューダストにおいて、下記方法によって抽出されるタール分がカシューダスト全量に対して5質量%以下である、上記[1]又は[2]に記載の摺動部材用摩擦材組成物。
タール分の抽出方法:カシューダストを370℃、1時間の条件で加熱処理し、その加熱処理後の残渣からタール分をアセトンで抽出する。
[4]前記研削材が、アルミナ、二酸化クロム、三酸化クロム、酸化ジルコニウム、ガーネット、二酸化珪素、珪酸ジルコニウム、ムライト、シリコンカーバイド及び金剛砂からなる群から選択される少なくとも1種である、上記[1]~[3]のいずれかに記載の摺動部材用摩擦材組成物。
[5]さらに炭酸カルシウムを含有する、上記[1]~[4]のいずれかに記載の摺動部材用摩擦材組成物。
[6]さらに水酸化カルシウムを含有する、上記[1]~[5]のいずれかに記載の摺動部材用摩擦材組成物。
[7]さらに珪藻土を含有する、上記[1]~[6]のいずれかに記載の摺動部材用摩擦材組成物。
[8]前記繊維基材が、有機繊維及び無機繊維からなる群から選択される少なくとも1種を含む、上記[1]~[7]のいずれかに記載の摺動部材用摩擦材組成物。
[9]前記繊維基材の含有量が、摺動部材用摩擦材組成物総量に対して5~20体積%である、上記[1]~[8]のいずれかに記載の摺動部材用摩擦材組成物。
[10]上記[1]~[9]のいずれかに記載の摺動部材用摩擦材組成物を含有してなる、摺動部材用摩擦材。
[11]上記[1]~[9]のいずれかに記載の摺動部材用摩擦材組成物を含有してなる摺動部材用摩擦材と裏金とを有する、摺動部材。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、(1)繰り返し振動に対する摩擦係数の安定性に優れ、(2)繰り返し振動後に摩擦材にクラックが生じ難く、(3)相手材であるSUS板に対して面当たりし、(4)摩擦材の平均摩擦係数が高くて、振動の減衰効果が高く、(5)繰り返し振動中の摺動音が小さい、という特性を有する摺動部材用摩擦材、該摺動部材用摩擦材を与える摺動部材用摩擦材組成物、及び前記摺動部材用摩擦材を用いた摺動部材を提供することができる。
本発明の摺動部材用摩擦材及び摺動部材を用いることにより、地震等の繰り返し振動が発生したときに、ビル等の建物における柱及び梁等の主架構の損傷を抑制し、さらに、鉄筋コンクリート架構に支持された鉄骨置屋根構造の建物において、表面壁付近の鉄骨部材及び鉄骨屋根支承部が損傷するのを抑制することができる。
また、本発明の摺動部材用摩擦材は、優れた耐風性能を有しており、風荷重にのみ作用する耐風装置の摩擦ストッパー用の摺動部材としても有効に機能する。該摩擦ストッパーは、地震発生後にもメンテナンスが不要である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施例及び比較例における評価用摩擦ダンパーの作製方法を説明するための模式図である。
【
図2】実施例及び比較例における評価用摩擦ダンパーの作製方法を説明するための模式図である。
【
図3】実施例及び比較例における評価用摩擦ダンパーの作製方法を説明するための模式図である。
【
図4】実施例及び比較例において作製した評価用摩擦ダンパーの状態を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について詳細に説明する。但し、以下の実施形態において、その構成要素は、特に明示した場合を除き、必須ではない。数値及びその範囲についても同様であり、本発明を制限するものではない。
本明細書中に記載されている数値範囲において、その数値範囲の上限値又は下限値は、実施例に示されている値に置き換えてもよい。さらに、本明細書において、摩擦材組成物中の各成分の含有量は、各成分に該当する物質が複数種存在する場合には、特に断らない限り、摩擦材組成物中に存在する当該複数種の物質の合計の含有量を意味する。
また、本明細書における記載事項を任意に組み合わせた態様も本発明に含まれる。
【0017】
以下、本発明の摺動部材用摩擦材組成物、摺動部材用摩擦材及び摺動部材について詳述する。なお、本発明の摺動部材用摩擦材組成物は、アスベストを含有しない摩擦材組成物、いわゆるノンアスベスト摩擦材組成物である。
【0018】
[摺動部材用摩擦材組成物]
本発明の摺動部材用摩擦材組成物は、地震等の繰り返し振動を減衰することが可能な摺動部材用の摩擦材組成物であり、摺動部材の具体例としては、ダンパー(摩擦ダンパー又は制振摩擦ダンパー)、摩擦ストッパー等が挙げられる。つまり、本発明の摺動部材用摩擦材組成物は、ダンパー用摩擦材組成物、摩擦ストッパー用摩擦材組成物ということもできる。
以下、摺動部材用摩擦材組成物を単に摩擦材組成物と称することがあり、同様に、摺動部材用摩擦材を単に摩擦材と称することがある。
【0019】
本発明は、結合材、有機充填材、無機充填材、及び繊維基材を含有する摩擦材組成物であって、金属を実質的に含有せず、カシューダスト10体積%以上及びモース硬度5以上の研削材1~4体積%を含有し、前記カシューダストの少なくとも一部がフルフラールによって硬化された、摺動部材用摩擦材組成物である。
上記構成により、(1)繰り返し振動に対する摩擦係数の安定性に優れ、(2)繰り返し振動後に摩擦材にクラックが生じ難く、(3)相手材であるSUS板に対して面当たりし、(4)摩擦材の平均摩擦係数が高くて、振動の減衰効果が高く、(5)繰り返し振動中の摺動音が小さい、という特性を発現する。ここで、「SUS板に対して面当たりする」とは、隙間が少ない状態で摩擦材の面とSUS板の面とが接する状態をいい、摩擦材の面とSUS板の面とが馴染んだ状態といえる。逆に、面当たりしていない状態は、両者が部分的に接している状態である。なお、面当たりは、繰り返し振動の初期における面当たりのことである。
【0020】
本発明の摩擦材組成物が実質的に含有しない金属としては、銅、アルミニウム、鉄、亜鉛、錫、並びに、銅、アルミニウム、鉄、亜鉛及び錫からなる群から選択される少なくとも1種を含有する合金が挙げられる。
なお、本明細書において、「実質的に含有しない」とは、全く含有しない(つまり0質量%である)ことと共に、含有していることによって何ら影響がない程度にわずかに含有している(例えば、1質量%以下、0.5質量%以下、又は0.1質量%以下含有する。)ことも含まれる。
以下、本発明の摩擦材組成物が含有し得る各成分について詳述する。
【0021】
(結合材)
結合材は、摩擦材組成物に含まれる有機充填材及び繊維基材等を一体化して、強度を与える機能を有するものである。
結合材としては、熱硬化性樹脂を用いることができる。該熱硬化性樹脂としては、例えば、未変性フェノール樹脂;アクリルエラストマー分散フェノール樹脂及びシリコーンエラストマー分散フェノール樹脂等の各種エラストマー分散フェノール樹脂;アクリル変性フェノール樹脂、シリコーン変性フェノール樹脂、カシュー変性フェノール樹脂、エポキシ変性フェノール樹脂及びアルキルベンゼン変性フェノール樹脂等の各種変性フェノール樹脂などが挙げられる。結合材は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
結合材としては、耐熱性、成形性及び摩擦係数の観点から、未変性フェノール樹脂、アクリル変性フェノール樹脂、シリコーン変性フェノール樹脂、アルキルベンゼン変性フェノール樹脂が好ましく、未変性フェノール樹脂、シリコーン変性フェノール樹脂がより好ましい。
【0022】
摩擦材組成物における結合材の含有量は、15~35体積%であることが好ましく、20~30体積%であることがより好ましい。結合材の含有量を前記範囲とすることで、摩擦材のクラックが防止される傾向にあり、且つ摩擦係数が安定化する傾向にある。
【0023】
(有機充填材、カシューダスト)
有機充填材は、摩擦材の耐摩耗性等を向上させるための摩擦調整剤として含まれるものである。
有機充填材としては、例えば、カシューダスト、ゴム成分、メラミンダスト等が挙げられる。本発明では、これらの有機充填材の中でもカシューダストを摩擦材組成物総量に対して10体積%以上含有することを必須とする。該カシューダストは、カシューナッツシェルオイルを重合、硬化させたものを粉砕して得られるものである。カシューダストの平均粒子径に特に制限はないが、混合した材料の分散均一性の観点から、150~450μmが好ましく、200~400μmがより好ましく、250~350μmがさらに好ましい。なお、本明細書において、平均粒子径は、レーザー回折粒度分布測定の方法を用いて測定したd50の値(体積分布のメジアン径、累積中央値)を意味し、以下同様である。例えば、レーザー回折/散乱式粒子径分布測定装置、商品名:LA・920(株式会社堀場製作所製)で測定することができる。
カシューダストを摩擦材組成物総量に対して10体積%以上含有することで、摩擦材に十分な柔軟性を付与し、且つ摩擦係数の安定性を向上させることができる。カシューダストの含有量は、摩擦材組成物総量に対して10~40体積%が好ましく、10~35体積%がより好ましく、15~30体積%がさらに好ましく、15~25体積%が特に好ましい。カシューダストの含有量が摩擦材組成物総量に対して40体積%以下であれば、耐熱性の低下及び熱履歴による強度低下が抑制される傾向にある。
【0024】
カシューダストは、(i)カシューナッツシェルオイルを、ホルムアルデヒド(もしくはパラホルムアルデヒド)又はヘキサミンで硬化させるか又は架橋剤無しで硬化させた茶系カシューダスト、(ii)カシューナッツシェルオイルを、フルフラール及びホルムアルデヒド(もしくはパラホルムアルデヒド)で硬化させた茶黒系カシューダスト、(iii)カシューナッツシェルオイルを、フルフラールで硬化させた黒系カシューダストに分類される。
本発明において使用するカシューダストは、摩擦係数の安定性及び繰り返し振動中の摺動音低減の観点から、カシューダストの少なくとも一部がフルフラールによって硬化されたものである。つまり、摩擦係数の安定性及び繰り返し振動中の摺動音低減の観点から、前記(ii)の茶黒系カシューダスト及び前記(iii)の黒系カシューダストからなる群から選択される少なくとも1種を使用することが好ましい。摩擦係数の安定性及び繰り返し振動中の摺動音低減の観点から、カシューダストとして、少なくとも一部がフルフラールによって硬化されたカシューダストを70質量%以上含有することが好ましく、80質量%以上含有することがより好ましく、90質量%以上含有することがさらに好ましく、少なくとも一部がフルフラールによって硬化されたカシューダストが実質的に100質量%であってもよい。
【0025】
一方、前記(i)の茶系カシューダストは軟らかく、熱膨張も大きいが、摩擦係数の安定性及び繰り返し振動中の摺動音低減を低下させる。これは、前記(i)の茶系カシューダストが分解するときにタール分を発生することが原因であると推察する。カシューダストの少なくとも一部がフルフラールによって硬化されたものである前記(ii)の茶黒系カシューダスト及び前記(iii)の黒系カシューダストは、前記(i)の茶系カシューダストと比較して硬く、熱膨張も小さく、そのため、分解時にタール分が発生し難いことが摩擦係数の安定性の向上及び繰り返し振動中の摺動音の低減に影響しているものと考える。カシューダストとしては、摩擦係数の安定性の向上効果及び繰り返し振動中の摺動音の低減効果の観点から、前記(iii)の黒系カシューダストがより好ましい。
摩擦係数の安定性の向上効果及び繰り返し振動中の摺動音の低減効果の観点から、前記カシューダストにおいて、下記方法によって抽出されるタール分がカシューダスト全量に対して5質量%以下であることが好ましく、2質量%以下であることがより好ましく、1.5質量%以下であることがさらに好ましく、1.2質量%以下であることが特に好ましい。カシューダストにおける前記タール分の含有量の下限値に特に制限はないが、0.05質量%以上であってもよく、0.2質量%以上であってもよく、0.5質量%以上であってもよい。
(タール分の抽出方法)
カシューダストを370℃、1時間の条件で加熱処理し、その加熱処理後の残渣からタール分をアセトンで抽出する。
【0026】
また、カシューダスト以外の有機充填材である前記ゴム成分としては、例えば、天然ゴム、アクリルゴム、イソプレンゴム、ポリブタジエンゴム(BR)、ニトリル-ブタジエンゴム(NBR)、スチレン-ブタジエンゴム(SBR)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)等が挙げられる。ゴム成分は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。該ゴム成分は分解時にタール成分を発生しないため、摩擦係数の安定性に影響しないものと考えられる。
本発明の摩擦材組成物がゴム成分を含有する場合、その含有量は、摩擦材組成物総量に対して1~10体積%であることが好ましく、2~10体積%であることがより好ましく、3~7体積%であることがさらに好ましい。
また、カシューパーティクルとゴム成分とを併用する場合には、カシューパーティクルをゴム成分で被覆したものを用いてもよいし、別々に用いてもよい。なお、摩擦材に十分な柔軟性を与えるという観点から、カシューダストとゴム成分とを併用することが好ましい。
【0027】
本発明の摩擦材組成物中における、有機充填材の合計含有量は、特に制限されるものではないが、摩擦材組成物総量に対して11~50体積%であることが好ましく、15~40体積%であることがより好ましく、15~35体積%であることがさらに好ましく、20~30体積%であることが特に好ましい。有機充填材の合計含有量を前記範囲とすることで、相手材であるSUS板に対して面当たりするため、振動初期における摩擦係数が安定する傾向にあり、且つ、高温での耐熱性の悪化及び高温での熱履歴による摩擦係数の安定性の低下を避けられる傾向にある。
【0028】
(無機充填材、モース硬度5以上の研削材)
本発明の摩擦材組成物は無機充填材を含有してもよい。無機充填材としては、摩擦材の摩擦係数を高めるモース硬度5以上の研削材と、該研削材以外の無機充填材とに大きく分類分けすることができる。
本発明で使用する研削材は、モース硬度5以上の無機充填材とも言える。該研削材のモース硬度は、5.5以上であってもよく、6以上であってもよい。研削材のモース硬度の上限に特に制限はないが、繰り返し振動中の摺動音を抑制する観点から、モース硬度10以下が好ましく、モース硬度9以下がより好ましく、8以下がさらに好ましく、7以下が特に好ましい。
本発明の摩擦材組成物においては、モース硬度5以上の研削材を摩擦材組成物総量に対して1~4体積%含有する。研削材の含有量が1体積%以上であることにより、十分に高い摩擦係数を発現し、4体積%以下であることにより、相手材であるSUS板を摩耗し過ぎずに済む。十分に高い摩擦係数を発現する観点からは、研削材の含有量は、摩擦材組成物総量に対して1.5~4体積%であることが好ましく、2~4体積%であることがより好ましい。一方、相手材であるSUS板を摩耗し過ぎないという観点からは、研削材の含有量は、摩擦材組成物総量に対して1~3体積%であることが好ましく、1~2体積%であることがより好ましい。
研削材としては、モース硬度5以上の無機充填材であれば特に制限はないが、例えば、アルミナ、二酸化クロム、三酸化クロム、酸化ジルコニウム、ガーネット、二酸化珪素、珪酸ジルコニウム、ムライト、シリコンカーバイド、金剛砂等が挙げられる。研削材は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。研削材としては、これらの中でも、アルミナが好ましい。該アルミナとしては、α-アルミナ、γ-アルミナ等が挙げられ、いずれであってもよいが、γ-アルミナ(モース硬度5~6)が好ましい。
研削材の平均粒子径に特に制限はないが、摩擦係数向上の観点から、1~10μmであることが好ましく、3~10μmであることがより好ましい。
【0029】
前記研削材以外の無機充填材としては、例えば、黒鉛、三硫化アンチモン、硫化錫、二硫化モリブデン、硫化鉄、硫化ビスマス、硫化亜鉛等の固体潤滑材;水酸化カルシウム、酸化カルシウム、炭酸ナトリウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、硫酸バリウム、珪藻土、ドロマイト、コークス、マイカ、酸化鉄、バーミキュライト、ラジオライト、硫酸カルシウム、チタン酸カリウム(8チタン酸カリウム、6チタン酸カリウム等)、チタン酸リチウムカリウム、チタン酸マグネシウムカリウム、チタン酸ナトリウム、タルク、クレー、ゼオライト、クロマイト、酸化マグネシウム、酸化鉄などが挙げられる。前記研削材以外の無機充填材は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0030】
前記固体潤滑材を含有させることで、摩擦材の耐摩耗性を向上させることができる。固体潤滑材としては、摩擦材の耐摩耗性の観点から、黒鉛が好ましい。該黒鉛としては、特に制限されるものではなく、公知の黒鉛、つまり、天然黒鉛、人造黒鉛のいずれも使用することができる。天然黒鉛としては、土状黒鉛、鱗状黒鉛及び鱗片状黒鉛等が挙げられる。また、人造黒鉛は、通常、石油コークス又は石炭系ピッチコークスを主原料として黒鉛化処理により製造されたもので、キッシュ黒鉛、分解黒鉛及び熱分解黒鉛等が挙げられる。黒鉛の平均粒子径は、特に制限されるものではないが、耐摩耗性の観点から、0.1~100μmが好ましく、1~80μmがより好ましく、1~50μmがさらに好ましい。
本発明の摩擦材組成物が固体潤滑材を含有する場合、その含有量は、特に制限されるものではないが、摩擦材組成物総量に対して0.1~5体積%であることが好ましく、0.5~3体積%であることがより好ましい。また、本発明の摩擦材組成物は、固体潤滑材を含有しない態様も好ましい。
【0031】
前記研削材及び固体潤滑材以外の無機充填材としては、前述の中でも、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、珪藻土が好ましい。珪藻土としては、不純物を低減し、且つ、吸湿性を低下させる観点から、焼成珪藻土が好ましい。
本発明の摩擦材組成物に炭酸カルシウムを含有させることで、摩擦材の強度を高めることができる。炭酸カルシウムとしては、表面処理されているものであってもよいし、表面処理されていないものであってもよい。本発明の摩擦材組成物が炭酸カルシウムを含有する場合、その含有量は、摩擦材組成物総量に対して5~35体積%が好ましく、10~25体積%がより好ましく、15~25体積%がさらに好ましい。
本発明の摩擦材組成物に水酸化カルシウムを含有させることで、摩擦材のpHを大きくし、摩擦材の錆発生の抑制効果が得られる。本発明の摩擦材組成物が水酸化カルシウムを含有する場合、その含有量は、摩擦材組成物総量に対して0.5~12体積%が好ましく、3~10体積%がより好ましく、3~7体積%がさらに好ましい。
本発明の摩擦材組成物に珪藻土を含有させることで、摩擦材に気孔を含有させ、摩擦係数を安定化させることができる。本発明の摩擦材組成物が珪藻土を含有する場合、その含有量は、摩擦材組成物総量に対して5~30体積%が好ましく、10~25体積%がより好ましく、12~20体積%がさらに好ましい。
【0032】
無機充填材の合計含有量は、摩擦材用組成物総量に対して、20~70体積%であることが好ましく、30~65体積%であることがより好ましく、30~55体積%であることがさらに好ましい。無機充填材の合計含有量を前記範囲とすることで、耐熱性の悪化を避けられる傾向にある。
【0033】
(繊維基材)
繊維基材は摩擦材において補強作用を示すものである。繊維基材としては、有機繊維及び無機繊維からなる群から選択される少なくとも1種を含むことが好ましい。なお、金属繊維は長期設置における錆の発生を起こし、SUSとの固着が懸念されるため、本発明でいう繊維基材には含めない。
有機繊維及び無機繊維を併用すると、摩擦係数の安定性が高くなる傾向にあるため好ましい。
【0034】
有機繊維としては、例えば、アラミド繊維、アクリル繊維、セルロース繊維、フェノール樹脂繊維等が挙げられる。有機繊維は、1種を単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、耐熱性及び補強効果の観点から、アラミド繊維を用いることが好ましい。
有機繊維としては、フィブリル化有機繊維を含有することが好ましく、フィブリル化アラミド繊維を含有することがより好ましい。フィブリル化有機繊維とは、分繊化し、毛羽立ちをもった有機繊維であり、商業的に入手することができる。
【0035】
本発明の摩擦材組成物が有機繊維を含有する場合、その含有量は、特に制限されるものではないが、摩擦材組成物総量に対して、好ましくは1~15質量%、より好ましくは1~10質量%、さらに好ましくは1.5~6質量%、特に好ましくは1.5~4質量%である。前記下限値以上であれば、良好なせん断強度、耐クラック性及び耐摩耗性が発現する傾向にあり、前記上限値以下であれば、摩擦材組成物中の有機繊維と他材料の偏在によるせん断強度及び耐クラック性の悪化を効果的に抑制することができる傾向にある。
【0036】
無機繊維としては、例えば、ガラス繊維、ウォラストナイト、ロックウール、セラミック繊維、生分解性セラミック繊維、鉱物繊維、炭素繊維、アルミノシリケート繊維等が挙げられる。これらの中でも、補強効果の観点から、ガラス繊維が好ましい。
ガラス繊維とは、ガラスを溶融及び紡糸して製造した繊維のことを指す。ガラス繊維は、原料がEガラス、Cガラス、Sガラス、Dガラス等であるものを使用することができ、これらの中でも、特に高強度であるという観点から、Eガラス又はSガラスを含有するガラス繊維を使用することが好ましい。また、結合材との親和性向上のため、ガラス繊維の表面をアミノシラン又はエポキシシラン等で処理したガラス繊維を使用してもよい。
【0037】
前記ガラス繊維の平均繊維長は、特に制限されるものではないが、80~6,000μmが好ましく、150~5,000μmがより好ましく、300~4,000μmがさらに好ましい。平均繊維長が80μm以上であれば、摩擦材の強度が向上する傾向にあり、6,000μm以下であれば、ガラス繊維の分散性の低下が抑制される傾向にある。また、前記ガラス繊維の平均繊維径は、5~20μmが好ましく、7~15μmがより好ましい。平均繊維径が5μm以上であれば、摩擦材組成物の各成分の混合時にガラス繊維が折損することを抑制することができ、20μm以下であれば、摩擦材の強度が向上する傾向にある。本明細書において、平均繊維長及び平均繊維径はそれぞれ、用いる無機繊維を無作為に50個選択し、光学顕微鏡で繊維長及び繊維径を測定し、それから求められる平均値を示すが、市販品であればカタログ値を参照できる。なお、本明細書において、繊維径は、繊維の直径を指す。
本発明の摩擦材組成物中における無機繊維(特にガラス繊維)の含有量は、特に制限されるものではないが、摩擦材組成物総量に対して、1~10体積%であることが好ましく、3~8体積%であることがより好ましい。ガラス繊維の含有量を前記範囲とすることで、混合後の摩擦材組成物のハンドリング性を損なうことなく、靭性を付与することができ、摩擦材の強度を向上させることができる。
【0038】
摩擦材組成物中の繊維基材の含有量は5~20体積%が好ましく、5~15体積%がより好ましく、5~12体積%がさらに好ましく、5~10体積%が特に好ましい。繊維基材の含有量を前記範囲にすることで、適正な材料強度が得られ、良好な耐摩耗性を発現し、成形性も良好となる傾向にある。
【0039】
(その他の成分)
また、本発明の摩擦材組成物は、本発明の効果を損なわない程度において、必要に応じて前記各成分以外のその他の成分を配合することができる。
その他の成分としては、例えば、ヘキサメチレンテトラミン、ヘキサメトキシメチロールメラミン、レゾール樹脂等の硬化剤;p-トルエンスルホン酸等の硬化促進剤などが挙げられる。
本発明の摩擦材組成物が上記その他の成分を含有する場合、その含有量としては、摩擦材組成物総量に対して、それぞれ、好ましくは5質量%以下、より好ましくは3質量%以下であり、その他の成分を含有していなくてもよい。
【0040】
[摺動部材用摩擦材及び摺動部材]
本発明は、前記摺動部材用摩擦材組成物を含有してなる摺動部材用摩擦材も提供する。本発明はさらに、前記摺動部材用摩擦材組成物を含有してなる摺動部材用摩擦材と裏金とを有する摺動部材も提供する。
本発明の摺動部材用摩擦材は、(1)繰り返し振動に対する摩擦係数の安定性に優れ、(2)繰り返し振動後に摩擦材にクラックが生じ難く、(3)相手材であるSUS板に対して面当たりし、(4)摩擦材の平均摩擦係数が高くて、振動の減衰効果が高く、(5)繰り返し振動中の摺動音が小さい、という特性を有する。そのため、ビル等のブレース及び壁等の耐震要素における摺動部材(又はエネルギー吸収部材)、並びに、鉄筋コンクリート架構に支持された鉄骨置屋根構造の建物において、表面壁付近の鉄骨部材における摺動部材(又はエネルギー吸収部材)及び鉄骨屋根支承部における摺動部材(又はエネルギー吸収部材)等として有用である。
【0041】
さらに、本発明の摺動部材用摩擦材は、風荷重にのみ作用する耐風装置の摩擦ストッパー用の摺動部材としても有用である。摩擦ストッパーは摩擦材とSUS板とを有する構成をしており、風荷重時には静止摩擦力によって摺動しないことによって風に対して抵抗し、地震時には摺動して摩擦ストッパーが解放され、免震装置が本来の免震効果を発揮するものである。該摩擦ストッパーは、地震発生後にもメンテナンスが不要である。
【0042】
本発明の摺動部材としては、例えば、下記構成等が挙げられるが、特にこれらに制限されるものではない。
(1)摺動部材用摩擦材のみの構成。
(2)裏金と、該裏金の上に形成された本発明の摺動部材用摩擦材とを有する構成。
(3)上記(2)の構成において、裏金と摺動部材用摩擦材との間に、裏金の接着効果を高めるための表面改質を目的としたプライマー層(a)及び裏金と前記摩擦材の接着を目的とした接着層(b)からなる群から選択される少なくとも一方をさらに介在させた構成。
これらの中でも、前記(2)又は(3)の構成(つまり、本発明の摺動部材用摩擦材と裏金とを有する摺動部材)が好ましく、前記(3)の構成がより好ましい。
【0043】
上記裏金によって、摺動部材の機械的強度の向上させることができる。裏金の材質としては、金属、繊維強化プラスチック等が挙げられる。より具体的には、例えば、鉄、ステンレス、無機繊維強化プラスチック、炭素繊維強化プラスチック等が挙げられる。前記プライマー層及び前記接着層としては、例えばブレーキライニング又はブレーキパッド等の摩擦部材に用いられるプライマー層又は接着層をそのまま利用することができる。
【0044】
本発明の摺動部材用摩擦材は、例えば、ブレーキライニング又はブレーキパッド等を製造する際に一般に使用されている方法を利用して製造できる。具体的には、本発明の摺動部材用摩擦材組成物を加熱加圧成形することによって、本発明の摺動部材用摩擦材を製造することができる。詳細には、例えば、本発明の摺動部材用摩擦材組成物をレーディゲミキサー(「レーディゲ」は、登録商標。)、加圧ニーダー、アイリッヒミキサー(「アイリッヒ」は、登録商標。)等の混合機を用いてよく混合し、得られた混合物を成形金型にて予備成形し、得られた予備成形物を成形温度130~160℃、成形圧力20~50MPa、成形時間2~10分間の条件で成形し、得られた成形物を150~250℃で1~5時間熱処理することにより、本発明の摺動部材用摩擦材を得ることができる。なお、該摺動部材用摩擦材は、研磨処理等が施されたものであってもよい。
【実施例】
【0045】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明する。本発明は何らこれらに限定されるものではない。
【0046】
<実施例1~2、比較例1~5>
[摺動部材用摩擦材の作製]
表1に示す配合量に従って各成分を配合し、各例の摺動部材用摩擦材組成物(ダンパー用摩擦材組成物又は摩擦ストッパー用摩擦材組成物)を得た。
各例で得られた摺動部材用摩擦材組成物を「レーディゲ(登録商標)ミキサーM20」(商品名、株式会社マツボー製)で混合し、得られた混合物を成形プレス(王子機械株式会社製)で予備成形し、得られた予備成形物を成形温度145℃、成形圧力30MPa、成形時間5分間の条件で成形プレス機を用いて、鉄製の裏金と共に加熱加圧成形し、得られた成形品を200℃で4.5時間熱処理し、ロータリー研磨機を用いて研磨し、摺動部材用摩擦材(摩擦材の厚さ5mm、摩擦材投影面積44cm2)を得た。
【0047】
なお、各例において使用した各種材料は次のとおりである。なお、カシューダストについて、抽出されるタール分の量は下記方法に従って測定した。
<タール分の抽出方法>
カシューダストを370℃、1時間の条件で加熱処理し、その加熱処理後の残渣からタール分をアセトンで抽出した。
【0048】
(結合材)
・フェノール樹脂(未変性):日立化成株式会社製
(有機充填材)
・黒系カシューダスト:商品名「6251-1」(カシュー株式会社製)、平均粒子径300μm、前記方法で抽出されるタール分:1質量%
・茶系カシューダスト:商品名「B200」(カシュー株式会社製)、平均粒子径300μm、前記方法で抽出されるタール分:7質量%
・NBR粉(ゴム成分)
(無機充填材)
・γ-アルミナ(研削材):モース硬度5~6、アルベマール社製
・炭酸カルシウム
・水酸化カルシウム
・焼成珪藻土
(繊維基材)
・アラミド繊維(有機繊維)
・ガラス繊維(無機繊維)
【0049】
前記方法で作製した各例の摺動部材用摩擦材について、下記方法に従って各種性能評価を行った。結果を表1に示す。
【0050】
[性能評価方法]
(1.繰り返し振動に対する摩擦係数の安定性)
まず、各例の摺動部材用摩擦材について摩擦係数を測定した。なお、摩擦係数は、下記方法で評価用摩擦ダンパーの作製した上で、下記方法によって算出した。
<評価用摩擦ダンパーの作製>
(i.評価用摩擦ダンパーの作製)
図1~4を参照しながら、評価用摩擦ダンパーの作製方法を説明する。
まず、
図1に示す様に、2箇所にボルト穴を開けた6mm厚のSUS板(SUS304製、外板用)の片面に、フェノール樹脂系接着剤「110」(セメダイン株式会社製、商品名)を用いて摺動部材用摩擦材1を4枚接着固定した外板5を2枚用意した。
次に、
図2に示す様に、2箇所に長穴を開けた12mm厚の板の両面に対して、1面当たり4枚のSUS板2(SUS304製)を接着し、且つ温度センサ3を設けた中板4を1枚用意した。
そして、1枚の中板4を、前記2枚の外板5によって、摺動部材用摩擦材1を内側にして挟み込んだ後、皿バネ7とロードセル6を介したボルトを中央の穴に挿して締結し、片面当たり4枚の摺動部材用摩擦材1で前記中板4を挟んで加圧するという状態にし、摺動部材である評価用摩擦ダンパー(
図4の合体図参照)を作製した。
図3中の左の(a)は評価用摩擦ダンパーを左側から見たとき(
図4中の目(a)参照)の様子を示し、
図3中の右の(b)は評価用摩擦ダンパーを右側から見たとき(
図4中の目(b)参照)の様子を示す。
(ii.摩擦係数の測定方法)
オートグラフ「AGX-100kN」(株式会社島津製作所製)の上部ロードセルに評価用摩擦ダンパーの中板4を接続し、下部つかみ具に外板5を接続した。加圧ボルト8の締め付けにより、加圧ボルト1本当たりの加圧軸力を75kNとした。
合計摺動面積(44×2)cm
2、摺動速度20mm/秒、及び摺動距離±30mmの条件で、評価用摩擦ダンパーを5サイクルだけ往復摺動させ、上部ロードセル6にて摩擦力(kN)を測定した。該摩擦力から、下記式に基づいて摩擦係数μ(繰り返し耐力試験前のμ)を求めた。
μ=P/(ΣN×m)
[μ:摩擦係数、P:摩擦力(kN)、ΣN:ボルトの軸力の総和(kN)、m:摩擦面数(中板の両面で摩擦することから2である。)]
次に、当該評価用摩擦ダンパーについて、前記同様の条件で150サイクルの繰り返し耐力試験を実施し、その後、前記同様の方法で150サイクル後の摩擦係数μ(繰り返し耐力試験後のμ)を求めた。
繰り返し耐力試験前の摩擦係数に対する繰り返し耐力試験後の摩擦係数について、下記評価基準に従って評価した。繰り返し振動に対する摩擦係数の安定性の良さは、A>B>C>Dの順である。
A:摩擦係数の低下率が5%以下である。
B:摩擦係数の低下率が5%超、且つ、15%以下である。
C:摩擦係数の低下率が15%超、且つ、30%以下である。
D:摩擦係数の低下率が30%超である。
【0051】
(2.繰り返し振動後のクラックの発生有無)
前記の150サイクルの繰り返し耐力試験後の摺動部材用摩擦材の外観を目視で観察し、下記評価基準に従って評価した。
A:クラックの発生は確認されなかった。
C:クラックの発生が確認された。
【0052】
(3.相手材(SUS板)に対する面当たり性)
摺動部材用摩擦材について、ロックウェル硬さSスケール(HRS)を用いて表面の硬度を測定し、これを相手材(SUS板)に対する面当たり性の指標とし、下記評価基準に従って評価した。相手材(SUS板)に対する面当たり性の良さは、A>Cの順である。
A:硬度(HRS)が115以下である。
C:硬度(HRS)が115超である。
【0053】
(4.平均摩擦係数)
前記「1.繰り返し振動に対する摩擦係数の安定性」の項目における150サイクルの繰り返し耐力試験を実施し、前記同様の方法で1サイクル毎の摩擦係数を求め、150サイクル分の平均摩擦係数を求めた。
平均摩擦係数は0.25以上であることが好ましい。
【0054】
(5.繰り返し振動中の摺動音)
前記「1.繰り返し振動に対する摩擦係数の安定性」の項目における150サイクルの繰り返し耐力試験を実施し、試験後の摺動部材用摩擦材の摺動音を観測し、下記評価基準に従って評価した。
A:摺動音の発生なし。
B:高周波音のみ発生した。但し、発生率は20%以下であった。
C:高周波音及び低周波音が共に発生した。但し、発生率は20%以下であった。
D:摺動音の発生が20%を超えた。
【0055】
【0056】
実施例1~2の摺動部材用摩擦材は、(1)繰り返し振動に対する摩擦係数の安定性に優れ、(2)繰り返し振動後に摩擦材にクラックが生じ難く、(3)相手材であるSUS板に対して面当たりし、(4)摩擦材の平均摩擦係数が高くて、振動の減衰効果が高く、(5)繰り返し振動中の摺動音が小さいという特性を有していることが分かる。
一方、カシューダストの含有量が0体積%又は10体積%未満である比較例1及び2では、(1)繰り返し振動に対する摩擦係数の安定性が悪化し、(3)相手材であるSUS板に対して面当たりし難く、(5)繰り返し振動中の摺動音が大きかった。カシューダストとして、フルフラールによって硬化された部分がない茶系カシューダストを用いた比較例3では、(1)繰り返し振動に対する摩擦係数の安定性が悪化し、(4)摩擦材の平均摩擦係数が低下し、(5)繰り返し振動中の摺動音が大きかった。研削材の含有量が1体積%未満である比較例4及び5では、(1)繰り返し振動に対する摩擦係数の安定性が若干低下し、且つ、(4)摩擦材の平均摩擦係数が低下した。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の摺動部材用摩擦材組成物を含有してなる摩擦材及び摩擦部材は、ビル等のブレース及び壁等の耐震要素における摺動部材(又はエネルギー吸収部材)、並びに、鉄筋コンクリート架構に支持された鉄骨置屋根構造の建物において、表面壁付近の鉄骨部材における摺動部材(又はエネルギー吸収部材)及び鉄骨屋根支承部における摺動部材(又はエネルギー吸収部材)等として有用である。
さらに、本発明の摺動部材用摩擦材は、風荷重にのみ作用する耐風装置の摩擦ストッパー用の摺動部材としても有用である。
【符号の説明】
【0058】
1 摺動部材用摩擦材
2 SUS板
3 温度センサ
4 中板
5 外板
6 ロードセル
7 皿バネ
8 加圧ボルト