(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-04
(45)【発行日】2024-01-15
(54)【発明の名称】検査方法
(51)【国際特許分類】
G01M 11/00 20060101AFI20240105BHJP
G02B 5/30 20060101ALI20240105BHJP
G01N 21/958 20060101ALI20240105BHJP
【FI】
G01M11/00 T
G02B5/30
G01N21/958
(21)【出願番号】P 2020144840
(22)【出願日】2020-08-28
【審査請求日】2023-05-31
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100124062
【氏名又は名称】三上 敬史
(74)【代理人】
【識別番号】100167597
【氏名又は名称】福山 尚志
(72)【発明者】
【氏名】小林 信次
(72)【発明者】
【氏名】松田 俊介
【審査官】伊藤 裕美
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-53057(JP,A)
【文献】特開2020-85854(JP,A)
【文献】特開2014-59456(JP,A)
【文献】特開2007-212442(JP,A)
【文献】特開2016-126005(JP,A)
【文献】特開2020-160421(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 11/00-11/04
G01N 21/84-21/958
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
偏光フィルムと位相差膜とが積層されてなる円偏光板、及び、前記円偏光板の前記位相差膜側に積層されポリエチレンテレフタレート系樹脂からなる剥離フィルムを備えるフィルム状の被検査物の欠陥の有無を判断する検査方法であって、
光源と、
第1の位相差フィルタと、
波長550nmの光に対する面内位相差値が前記剥離フィルムの波長550nmの光に対する面内位相差値と略同一であり、且つ、前記剥離フィルムが有する複屈折を補償するものである第1の位相差板と、
前記剥離フィルム側を前記第1の位相差板側へ向けた前記被検査物と、を前記光源が発する光の光路上にこの順に並ぶように、かつ、
波長550nmの光に対する面内位相差値が前記第1の位相差板の波長550nmの光に対する面内位相差値と略同一であり、且つ、前記第1の位相差板が有する複屈折を補償するものである第2の位相差板と、
前記第1の位相差フィルタとクロスニコルを構成する第2の位相差フィルタと、を前記被検査物によって反射される前記光の光路上にこの順に並ぶように配置し、
前記第1の位相差フィルタに前記光源の光を入射し、前記被検査物によって反射された前記光を前記第2の位相差フィルタ側から観察して前記円偏光板の欠陥の有無を判断し、
前記第1の位相差板及び前記第2の位相差板を、波長550nmの光に対する面内位相差値が前記剥離フィルムの波長550nmの光に対する面内位相差値よりも50~100nm大きく、且つ、前記剥離フィルムが有する複屈折を補償するものである第3の位相差板及び第4の位相差板にそれぞれ置き換え、
その置き換え後に前記第1の位相差フィルタに光を入射し、前記被検査物によって反射された前記光を前記第2の位相差フィルタ側から観察して前記円偏光板の欠陥の有無を判断する、検査方法。
【請求項2】
前記位相差膜は、重合性液晶化合物の硬化物からなるものである、請求項1記載の検査方法。
【請求項3】
前記被検査物、前記第1の位相差板、前記第2の位相差板、前記第3の位相差板、前記第4の位相差板、前記第1の位相差フィルタ、及び、前記第2の位相差フィルタの少なくとも一つを、互いに対面する角度が異なるように傾ける、又は、前記光路に垂直な方向に回転させる、請求項1又は2記載の検査方法。
【請求項4】
前記第1の位相差板及び前記第3の位相差板は、同一の部材内に配置されている、請求項1~3のいずれか一項記載の検査方法。
【請求項5】
前記第1の位相差板及び前記第2の位相差板は、同一の部材内に配置されている、請求項1~4のいずれか一項記載の検査方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示装置や有機EL表示装置等に用いられる偏光板は、一般的に偏光子が2枚の保護フィルムに挟まれて構成されている。偏光板を表示装置に貼り付けるため、片方の保護フィルムには粘着剤層が積層され、更に粘着剤層に剥離フィルムが積層される。また、他方の保護フィルムにもその表面を保護する剥離フィルム(表面保護フィルム)が貼合される場合が多い。偏光板はこのように剥離フィルムが積層された状態で流通搬送され、表示装置の製造工程で表示装置に貼合する際に剥離フィルムが剥離される。
【0003】
ところで、偏光板はその製造段階において、偏光子と保護フィルムとの間に異物が混入したり、気泡が残ったり、あるいは、保護フィルムが位相差フィルムの機能を持つ場合には配向欠陥が内在していることがある(以下、これらの異物、気泡及び配向欠陥をまとめて、「欠陥」ということがある)。欠陥が存在する偏光板を表示装置に貼合した場合、その欠陥の箇所が輝点として視認されたり、欠陥の箇所で画像がゆがんで見えたりすることがある。特に、輝点として視認される欠陥は、当該表示装置の黒表示時に視認されやすい。
【0004】
そこで、偏光板を表示装置に貼合する前段階(剥離フィルムを備えた状態の偏光板)で、この偏光板の欠陥を検出するための検査が行われる。この欠陥の検査は、一般的には偏光板の偏光軸を利用した光検査である。具体的には、特許文献1に示されているように、被検査物である偏光板と光源との間に偏光フィルタを設けたうえで、この偏光板又は偏光フィルタを平面方向に回転させ、これらのそれぞれの偏光軸方向を特定の関係とする。偏光軸方向同士が互いに直交する場合(すなわちクロスニコルを構成する配置の場合)、偏光フィルタを通過した直線偏光は、偏光板を通過しない。しかしながら、偏光板に欠陥が存在すると、当該箇所では直線偏光が透過してしまうので、その光が検出されることで欠陥の存在が判明する。一方、偏光板と偏光フィルタとの偏光軸方向同士が平行である場合、偏光フィルタを通過した直線偏光は偏光板を透過する。しかしながら、偏光板に欠陥が存在すると、当該箇所では直線偏光が遮断されるので、その光が検出されないことで欠陥の存在が判明する。偏光板を透過してきた光を検査者が目視により検出するか、あるいはCCDカメラと画像処理装置とを組み合わせた画像解析処理値により自動的に検出することで、偏光板の欠陥の有無の検査を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
偏光板が円偏光板であり、且つ、剥離フィルムがポリエチレンテレフタレート系樹脂(PET系樹脂)からなる場合は、当該PET系樹脂の波長分散にある程度合わせた位相差フィルタ(上記偏光フィルタに相当)を用いる。ここで、円偏光板と位相差フィルタとをクロスニコルを構成するように配置した場合、上記原理によれば欠陥は輝点として視認されることになるが、円偏光板が有する位相差膜の配向欠陥やピンホール等の位相差値が低い領域では輝点欠陥が黒点として視認されてしまうことがあり、その場合、輝点として検出するよりも検出判断が難しかった。特に、円偏光板が重合性液晶化合物の硬化物からなる位相差膜を含む場合にはその傾向が顕著である。
【0007】
また、特許文献1に示されている検査方法の原理は、被検査物を透過した光を観察するというものである。この原理では被検査物に変形欠陥(例えば、円偏光板の裁断時に生じた皺)が存在した場合、正常部分と変形欠陥部分とで光路長がほとんど変化しないので、光学的に変形欠陥を検出することが困難である。
【0008】
また、上述したように偏光板が剥離フィルムを備える場合は、この剥離フィルムが有する複屈折により円偏光板の偏光特性が阻害されるため、従来の検査装置では偏光板に存在する輝点等の欠陥を精度よく検出することができなかった。
【0009】
そこで本発明は、反射型の検査方法であって、円偏光板の欠陥の有無を容易に判断することができる検査方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、偏光フィルムと位相差膜とが積層されてなる円偏光板、及び、その円偏光板の位相差膜側に積層されポリエチレンテレフタレート系樹脂(以下、「PET系樹脂」ということがある。)からなる剥離フィルムを備えるフィルム状の被検査物の欠陥の有無を判断する検査方法であって、光源と、第1の位相差フィルタと、波長550nmの光に対する面内位相差値(以下、この波長550nmの光に対する面内位相差値を「Re(550)」ということがある。)が剥離フィルムのRe(550)と略同一であり、且つ、剥離フィルムが有する複屈折を補償するものである第1の位相差板と、剥離フィルム側を第1の位相差板側へ向けた被検査物と、を光源が発する光の光路上にこの順に並ぶように、かつ、Re(550)が第1の位相差板のRe(550)と略同一であり、且つ、第1の位相差板が有する複屈折を補償するものである第2の位相差板と、第1の位相差フィルタとクロスニコルを構成する第2の位相差フィルタと、を被検査物によって反射される光の光路上にこの順に並ぶように配置し、第1の位相差フィルタに光源の光を入射し、被検査物によって反射された光を第2の位相差フィルタ側から観察して円偏光板の欠陥の有無を判断し、第1の位相差板及び第2の位相差板を、Re(550)が剥離フィルムのRe(550)よりも50~100nm大きく、且つ、剥離フィルムが有する複屈折を補償するものである第3の位相差板及び第4の位相差板にそれぞれ置き換え、その置き換え後に第1の位相差フィルタに光を入射し、被検査物によって反射された光を第2の位相差フィルタ側から観察して円偏光板の欠陥の有無を判断する、検査方法を提供する。なお、ここでRe(550)における「略同一」とは、Re(550)の差異が±5nm程度しかないことをいう。
【0011】
この検査方法では、第1の位相差フィルタと第2の位相差フィルタとをクロスニコルを構成するように配置していることから、被検査物の正常部分で反射した光が(例えば剥離フィルムの表面で反射した光)第2の位相差フィルタで遮断されるので、観察視野を十分に暗くすることができ、欠陥部分の観察をしやすくなる。他方、被検査物の内部に生じている欠陥部分で反射した光は、その欠陥に起因して位相差が理想よりもずれている(意図しない楕円偏光となっている)ので、そのずれの分だけ第2の位相差フィルタを透過することとなり、被検査物の欠陥部分として検出することができる。ここで、欠陥部分で反射した光は剥離フィルムを二度透過することになり、剥離フィルムが有する位相差が欠陥検出の障害になるとも考えられるが、第1の位相差板は剥離フィルムが有する複屈折を補償するものであるので、剥離フィルムが有する複屈折が欠陥検出の障害になることが抑制される。また、第1の位相差板及び第2の位相差板を用いた検査で黒色欠陥として観察された部位について、これらの位相差板のそれぞれを第3の位相差板及び第4の位相差板に置き換えて検査することによって、これを輝点欠陥として観察できるように位相差を調整することが可能である。また、このような反射型の検査方法は、透過型の検査方法と比べて被検査物中の光路が長くなるので、透過型の検査方法では検出が困難であった変形欠陥も容易に検出することができる。以上のことから、本発明の検査方法では円偏光板の欠陥の有無を容易に判断することができる。
【0012】
この検査方法において、位相差膜は、重合性液晶化合物の硬化物からなるものであってもよい。位相差膜が重合性液晶化合物の硬化物からなる場合、その一般的な薄さから、黒点欠陥が観察される可能性が高まる。従って、本発明を適用する対象として好適である。
【0013】
また、この検査方法では、被検査物、第1の位相差板、第2の位相差板、第3の位相差板、第4の位相差板、第1の位相差フィルタ、及び、第2の位相差フィルタの少なくとも一つを、互いに対面する角度が異なるように傾けてもよく、又は、光路に垂直な方向に回転させてもよい。これらを傾けることで、剥離フィルムや第1及び第2の位相差板等の位相差を微調整できることから、より広範囲の検査が可能となる。また、これらを回転させることで各構成の軸合わせが容易となる。
【0014】
第1の位相差板及び第3の位相差板は、同一の部材内に配置されていてもよい。また、第1の位相差板及び第2の位相差板は、同一の部材内に配置されていてもよい。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、反射型の検査方法であって、円偏光板の欠陥の有無を容易に判断することができる検査方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の好適な実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、各図において同一部分又は相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0018】
(検査装置と被検査物)
本実施形態の検査装置は、円偏光板の表面、円偏光板を構成する各層の間、又は内部の欠陥の有無を検査するものである。
図1に示されているとおり、検査装置100は、光源2、第1の位相差フィルタ3A、第1の位相差板4Aがこの順に配置され、かつ、第1の位相差フィルタ3A及び第1の位相差板4Aの隣に並べるようにして、第2の位相差フィルタ3B及び第2の位相差板4Bがそれぞれ配置されてなるものである。第1の位相差フィルタ3Aと第2の位相差フィルタ3Bとは面が互いに平行で略同一面上に並んでおり、第1の位相差板4Aと第2の位相差板4Bとは面が互いに平行で略同一面上に並んでいる。
【0019】
図2に示されているとおり、被検査物10はフィルム状であり、検査対象の本体である円偏光板1と、円偏光板1に対して粘着剤層15を介して積層された剥離フィルム16aとを備えている。円偏光板1は、偏光フィルム11の両面に保護フィルム12a,12bが貼合されており、更に、剥離フィルム16aを備える側の保護フィルム12a上に粘着剤層13を介して位相差膜14が形成されてなるものである。そして、円偏光板1のうち剥離フィルム16aを備えていない側の面には表面保護フィルム16bが積層されている。円偏光板1は、一般的に表示装置、例えば液晶表示装置や有機EL表示装置に用いられるものであり、使用時には剥離フィルム16aを剥がして、粘着剤層15を介して表示装置に貼り付けられる。
【0020】
なお、本明細書において「円偏光板」とは、円偏光板及び楕円偏光板を含むものとする。また、「円偏光」は、円偏光と楕円偏光を含むものとする。
【0021】
偏光フィルム11は、表面保護フィルム16b側から入射した光を直線偏光に変換するフィルムである。偏光フィルム11としては、例えば、ポリビニルアルコールフィルムにヨウ素や二色性色素が吸着・配向されたものや、重合性液晶化合物を配向・重合したものに、二色性色素が吸着・配向したものが挙げられる。
【0022】
保護フィルム12a,12bは、偏光フィルム11を保護するためのものである。保護フィルム12a,12bとしては、適度な機械的強度を有する偏光板を得る目的で、偏光板の技術分野で汎用されているものが用いられる。典型的には、トリアセチルセルロース(TAC)フィルム等のセルロースエステル系フィルム;環状オレフィン系フィルム;ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム等のポリエステル系フィルム:ポリメチルメタクリレート(PMMA)フィルム等の(メタ)アクリル系フィルム等である。また、偏光板の技術分野で汎用されている添加剤が、保護フィルムに含まれていてもよい。
【0023】
保護フィルム12a,12bは、円偏光板1の構成要素として偏光フィルム11とともに表示装置に貼合されるものであるので、位相差値の厳密な管理等が要求される。保護フィルム12aとしては,典型的には、位相差値が極めて小さいものが好ましく用いられる。また、保護フィルム12bとしては、例えば、偏光サングラスを介して表示装置を視認したときの見易さのため、λ/4の位相差を有するものや位相差値の小さいものが用いられる。保護フィルム12a,12bは、接着剤を介して偏光フィルム11に貼合される。
【0024】
位相差膜14は、表面保護フィルム16b側から入射し偏光フィルム11によって直線偏光とされた光を円偏光に変換する膜である。剥離フィルム16a側からみれば、位相差膜14は、剥離フィルム16a側から入射した円偏光を直線偏光に変換する膜である。位相差膜14は、位相差を有する膜であれば特に制限はないが、λ/2膜とλ/4膜とが積層されたものであってもよい。この場合、偏光フィルム11から近いほうからλ/2膜、λ/4膜の順にしてもよい。
【0025】
また、位相差膜14は、重合性液晶化合物の硬化物からなるものであることが好ましい。重合性液晶化合物の硬化物からなる位相差膜14は、通常厚さが0.2μm~10μm程度と薄く、異物等を含む場合にその部分で位相差値が低下しやすい。このような部位では、直線偏光が理想どおりの円偏光に変換しきらず、意図しない楕円偏光になる。また、後述するとおり、位相差板4で剥離フィルム16aの複屈折を補償したときに本来は輝点欠陥として観察されるべきものであるにも関わらず、黒点となって観察される場合がある。
【0026】
位相差膜14を形成し得る重合性液晶化合物は、例えば、特開2009-173893号公報、特開2010-31223号公報、WO2012/147904号公報、WO2014/10325号公報及びWO2017-43438号公報に開示されたものを挙げることができる。これらの公報に記載の重合性液晶化合物は、広い波長域において一様の偏光変換が可能な、いわゆる逆波長分散性を有する位相差膜を形成可能である。例えば、当該重合性液晶化合物を含む溶液(重合性液晶化合物溶液)を適当な基材上に塗布して光重合させることで、上述のように極めて薄い位相差膜を形成することができるので、かかる位相差膜を有する円偏光板は、厚みが極めて薄い円偏光板を形成することができる。このように厚みが極めて薄い円偏光板は、近年着目されているフレキシブル表示材料用の円偏光板として有利である。
【0027】
重合性液晶化合物溶液を塗布する基材としては、上述の公報に記載されたものを挙げることができる。かかる基材には、重合性液晶化合物を配向させるために配向膜が設けられていてもよい。配向膜は偏光照射により光配向させるものや、ラビング処理により機械的に配向させたもののいずれでもよい。なお、かかる配向膜に関しても、上記公報に記載されている。
【0028】
しかしながら、重合性液晶化合物溶液を塗布する基材に異物等が存在していたり、基材自体に傷等があったりする場合に、重合性液晶化合物溶液を塗布して得られる塗布膜自体に欠陥が生じることがある。また、配向膜をラビング処理した場合には、ラビング布の屑が配向膜上に残り、これが重合性液晶化合物溶液(液晶硬化膜形成用組成物)の塗布膜に欠陥を生じさせることもある。このように、重合性液晶化合物から形成される位相差膜は、厚みが極めて薄い位相差膜を形成可能であるが、欠陥を生じる要因がある。そして、位相差膜の欠陥は後述するとおり、黒点となって観察される欠陥が生じることがある。このような欠陥を有する位相差膜を備えた円偏光板及び剥離フィルムを有する被検査物の欠陥の有無を判定する検出において、本実施形態の検査方法は特に有用である。
【0029】
位相差膜14は、基材上に配向膜形成用組成物を塗布し、更にその上に重合性液晶化合物を含んだ液晶硬化膜形成用組成物を塗布することによって作製することができる。そうして作成した位相差膜14を、保護フィルム12a上に形成された粘着剤層13に対して基材ごと貼合し、その後、基材を剥がすことで、位相差膜14を保護フィルム12a上に転写することができる。
【0030】
剥離フィルム16aは、表示装置に貼合するときに円偏光板1から剥がされるものであり、通常は、剥がされた剥離フィルム16aは廃棄される。したがって、保護フィルム12a,12bとは異なり、位相差値の厳密な管理が要求されることはない。そのため、市販されているフィルムを剥離フィルム16aとして採用する場合に、その位相差値を補償しないと、欠陥の検査において誤動作を招きかねない。すなわち、このように位相差値が厳密に管理されていない剥離フィルム16aが貼合された円偏光板1の欠陥検査では、当該剥離フィルム16aの位相差が検査装置100の検査精度を低下させる原因になり得る。
【0031】
なお、上記背景技術に記したように、円偏光板1において、剥離フィルム16aの反対面には、剥離フィルムの一種である表面保護フィルム16bが設けられることが多い。
図2に示されている円偏光板1では保護フィルム12b側に表面保護フィルム16bが貼合されている。この表面保護フィルム16bも通常、表示装置に貼合するときに円偏光板1から剥がされるものであり、保護フィルム12a,12bとは異なり、位相差値の厳密な管理が要求されることはない。なお、
図2において、保護フィルム12bと表面保護フィルム16bとは、適当な接着剤層又は粘着剤層を介して貼合されていてもよい(
図2においては、この接着剤層又は粘着剤層は、図示はしていない)。
【0032】
本実施形態において、剥離フィルム16aはPET系樹脂からなるものである。また、表面保護フィルム16bについてもPET系樹脂からなるものを用いる。PET系樹脂からなるフィルム(PET系樹脂フィルム)は、剥離フィルムとして汎用であり、且つ安価であるという利点がある。一方、安価なPET系樹脂フィルムは上記のとおり、位相差値の厳密な管理が要求されることはない。そのため、例えば、製品ロットごとに位相差値にバラツキがあることがある。また、同一のPET樹脂系フィルムであっても、面内に位相差値のバラツキがあることもある。このような安価なPET樹脂系フィルムを剥離フィルムとして貼合した円偏光板であっても、本実施形態の検査方法により、その欠陥の有無を精度よく検出することができる。
【0033】
ここで、剥離フィルム16aのRe(550)の求め方を示しておく。上記のとおり、これら剥離フィルムはPET系樹脂フィルムであり、このようなフィルムは市場から容易に入手できる。このフィルムから例えば、40mm×40mm程度の大きさの片を分取(長尺フィルムから、適当な切断具を用いて分取する等)する。この片のRe(550)を3回測定し、Re(550)の平均値を求める。片のRe(550)は、位相差測定装置KOBRA-WPR(王子計測機器株式会社製)を用い、測定温度室温(25℃程度)で測定することができる。なお、表面保護フィルム16bのRe(550)を求める場合にも、同様の試験を行えばよい。
【0034】
光源2は、種々の市販品を用いることができるが、例えばレーザ光等の直線光(直線光に近似するものも含む)であることが有利である。光源2が発する光は無偏光であり、後述する第1の位相差フィルタ3Aを通過し所定方向の偏光となる。
【0035】
第1の位相差フィルタ3A、及び、第2の位相差フィルタ3Bは、いずれも広帯域の円偏光板である。第2の位相差フィルタ3Bは、被検査物10を検査する場面では、常に第1の位相差フィルタ3Aとクロスニコルを構成するようにその向きが調整される。このとき、第2の位相差フィルタ3Bに入射する光は被検査物10で反射した反射光であることに留意する。そして、この第1及び第2の位相差フィルタ3A,3Bを構成する偏光板及び位相差板(位相差を有する層を構成する)は、いわゆる無欠陥のものが採用される。
【0036】
第1の位相差板4Aは、被検査物10が備える剥離フィルム16aによる光の複屈折を補償するものである。第1の位相差板4Aを構成する材料としては、互いにPET系樹脂からなる剥離フィルム16aによる光の複屈折を補償するものであれば特に限定されない。市販の100~200nmを有する位相差板を準備し、これらを複数枚積層して所望の位相差値となるようにして第1の位相差板4Aを形成することもできる。Re(550)は通常、加成性を有するため、積層した位相差板のRe(550)から所望のRe(550)の第1の位相差板4Aを得ることができる。第2の位相差板4Bは、第1の位相差板4Aの位相差を相殺するものであり、第1の位相差板4Aと同じ構成のものを用いることが好ましい。PET系樹脂からなる剥離フィルム16aは、通常、面内方向の位相差値や遅相軸のばらつきが大きいため、検査時に位相差値を複数選択できるように複数種の位相差板を準備しておくことが好ましい。本実施形態では、剥離フィルム16aのRe(550)と略同一の位相差値をもつ第1の位相差板4A及び第2の位相差板4Bの二枚組と、剥離フィルム16aのRe(550)よりも50~100nm大きなRe(550)の第3の位相差板4C及び第4の位相差板4Dの二枚組との少なくとも二種類の位相差板を用いる。ここで、対にして用いる第1の位相差板4Aと第2の位相差板4Bとは同一のRe(550)を有しており、第3の位相差板4Cと第4の位相差板4Dとは同一のRe(550)を有している。なお、剥離フィルム16aのRe(550)と略同一の位相差値とは上記と同じように、剥離フィルム16aのRe(550)と、位相差板のRe(550)との差分の絶対値が5nm以下であることをいう。
【0037】
更に、剥離フィルムの位相差値のばらつきを考慮すると、上記第1及び第2の位相差板4A,4Bは、剥離フィルムのRe(550)に対して、±300nm程度の範囲の位相差を示すものとすることが好ましい。この位相差の範囲内では更に、剥離フィルムの面内方向において50nm~100nm刻みで変化させることが好ましい。これらの位相差を示す位相差板を種々準備しておくことが好ましい。すなわち、位相差を変化させる一連の位相差板として、第1の位相差板4A、第3の位相差板4Cに加え、更に位相差の異なる位相差板を準備しておくことが好ましい。次に、この位相差板の様子について説明する。
【0038】
図3に面内位相差の異なる位相差板が集積された一連の位相差板4の概略を示す。
図3に示されているとおり、位相差板4は、枠体を成す一枚の保持部材41の中に、面内方向の位相差値が異なる領域が二列で一方向に連なって構成されたものであってもよい。すなわち、位相差板4のうち一つの列(図示上下方向)に注目すると、端に位置している領域は第1の位相差板4Aに相当する領域a
1であってRe(550)が例えば1720nmである領域であり、その隣にある領域は第3の位相差板4Cに相当する領域a
3であってRe(550)が1790nmである領域であり、更にその隣にある領域は第5の位相差板4Eに相当する領域a
5であってRe(550)が1860nmである領域である。位相差板4において、一列あたりの当該領域の数は任意であり、
図3ではn番目の領域a
2n-1までを示している。そして、位相差板4のうちもう一つの列には、隣り合う各領域(a
1、a
3、a
5、…、a
2n-1)と同じRe(550)を有する領域(a
2、a
4、a
6、…、a
2n)が対となるように配置されている。すなわち、第1の位相差板4A(a
1)に対応する領域が第2の位相差板4B(a
2)であり、第3の位相差板4C(a
3)に対応する領域が第4の位相差板4D(a
4)であり、第5の位相差板4E(a
5)に対応する領域が第6の位相差板4F(a
6)である。なお、それぞれの領域において、厚さ方向の位相差値は、一領域で観察しようとする視野領域の広さにより調節することができる。
【0039】
この位相差板4は、上記のとおり一枚の保持部材41のなかに各領域が構成されていることから、検査装置100において同じRe(550)を有する領域同士を対にして用いることができる。つまり、位相差板4は、第1の位相差板4Aと第2の位相差板4Bとを同時に提供するために好適な構成を成している。第1の位相差板4A及び第2の位相差板4Bを対として用い、その後、位相差板4をスライドすることで第3の位相差板4C及び第4の位相差板4Dを対として用いることができ、更には第5の位相差板4E及び第6の位相差板4Fを対として用いることができる。
【0040】
被検査物10の内部の欠陥部分で反射した光を観察するために、反射光の光路上、且つ、第2の位相差フィルタ3Bの両側のうち光源2がある側の位置に、CCDカメラ等を含む検出手段5を配置してもよい。例えば、CCDカメラと画像処理装置を組み合わせた画像処理解析により自動的に検出し、これによって被検査物の検査を行うことができる。或いは、検出手段5は部材ではなく、人間が第2の位相差フィルタ3Bを人が目視観察することであってもよい。また、適宜、光源2とCCDカメラとの間には仕切り版があってもよい。
【0041】
また、検査装置100は、被検査物10、第1の位相差板4A、第2の位相差板4B、第3の位相差板4C、第4の位相差板4D、第1の位相差フィルタ3A、及び、第2の位相差フィルタ3Bの少なくとも一つを、互いに対面する角度が異なるように傾ける、又は、光の光路9に垂直な方向に回転させることを可能とする可動装置(図示していない。)を備えていることが好ましい。これらを傾けることで、PET系樹脂からなる剥離フィルム16aや第1の位相差板4A、第2の位相差板4B、第3の位相差板4C、第4の位相差板4Dの位相差を微調整できることから、より広範囲の検査が可能となる。また、これらを回転させることでPET系樹脂からなる剥離フィルム16aと第1の位相差板4A、第2の位相差板4B、第3の位相差板4C、第4の位相差板4Dとの軸合わせが容易となる。
【0042】
(検査方法)
検査装置100を用いた検査方法は、以下のとおりである。はじめに、検査装置100の内部のうち、光源2から見て第1の位相差板4A及び第2の位相差板4Bの向こう側に被検査物10を配置する。このとき、これら各フィルムの面がいずれも平行となるように、且つ、被検査物10中の剥離フィルム16aや位相差膜14を備える側が光源2側を向くとともに円偏光板1と第1の位相差フィルタ3Aとがクロスニコルを構成するように配置する。ここで、第1の位相差板4A及び第2の位相差板4Bとしては、いずれも
図3に示された位相差板4を用いており、第1の位相差板4Aは被検査物10に入射する前の光が透過するように、かつ、第2の位相差板4Bは被検査物10が反射した光が入射するように配置している。
【0043】
そして、第1の位相差フィルタ3Aが第2の位相差フィルタ3Bとクロスニコルを構成するように調整する。検査装置100が上記可動装置を備えている場合は、被検査物10を任意の向きに挿入した後に、各フィルムの相対的な位置関係を可動装置によって変化させてクロスニコルとしてもよい。
【0044】
光源2から、第1の位相差フィルタ3Aへ光を入射する。このとき、被検査物10に対する入射角(被検査物10の表面に対する垂線を基準とする角度)を3°~30°とすることが好ましく、5°~20°とすることがより好ましい。光源2が発する光が指向性が低い光である場合は、被検査物10からの反射角(又は検出手段5による観察角度)が上記の角度範囲となるようにすることが好ましい。
【0045】
光源2が発した光は第1の位相差フィルタ3Aに入射し、これを透過して円偏光となり、続けて第1の位相差板4Aを透過する(光路9a)。第1の位相差板4Aを透過した光は次に、被検査物10に入射する。そして、被検査物10中の剥離フィルム16aを透過し、円偏光板1を構成する位相差膜14にて直線偏光に変換され、最終的に偏光フィルム11で吸収される(光路9aの終末)。ここで、第1の位相差板4Aを透過した光の一部は被検査物10中の剥離フィルム16aの表面で反射する(光路9b)。この反射光は、第1の位相差フィルタ3Aと第2の位相差フィルタ3Bとがクロスニコルを構成するように配置されていることから、第2の位相差フィルタ3Bで遮断され(光路9bの終末)、このため検出手段5による第2の位相差フィルタ3Bの観察視野は暗くなっている。
【0046】
他方、被検査物10に入射した光の一部は、被検査物10中に存在する欠陥(位相差膜14と偏光フィルム11との界面に存在する欠陥Dや、位相差膜14中に存在する欠陥D’)の部分で反射が強くなる(光路9c)。この反射光は、その欠陥D,D’に起因して位相差が理想よりもずれている(意図しない楕円偏光となっている)ので、偏光フィルムに吸収されず、その界面での反射光が生じる。この反射光は第2の位相差フィルタでは遮断されずに透過することとなる。これを検出手段5側から観察すると、欠陥部分が輝点として観察される。
【0047】
また、第1の位相差板4Aは、剥離フィルム16aによる光の複屈折を効果的に補償するために剥離フィルム16aが有する位相差値と波長分散特性とにできる限り一致するように設計するが、剥離フィルム16aの位相差値の面内ばらつきにより検査視野全体で光を十分に遮断して検査することは困難である。このような場合には、円偏光板1のうち、位相差膜14の位相差値が低下している部分で光学補償がマッチングし、本来輝点として観察されるべき欠陥が黒点として観察されてしまうことが起こりうる。通常、黒点欠陥は輝点欠陥と比較して、視認性に与える影響が小さいため欠陥サイズについても輝点欠陥より大きくても許容されることが多いことから、結果的に問題なしと判断されてしまうことがある。しかし、その黒点欠陥が本来位相差膜14の位相差値低下部位に起因する輝点欠陥として観察されるべきものであった場合には、視認性に与える影響が大きく、問題となってしまう。
【0048】
このため、本実施形態では、黒点と視認された欠陥部位に対して、第1の位相差板4A及び第2の位相差板4Bとは異なる面内位相差を有する第3の位相差板4C及び第4の位相差板4Dを用いる。具体的には、位相差板4を構成している保持部材41をその面方向にスライドさせ、第1の位相差板4A及び第2の位相差板4Bに代わって第3の位相差板4C及び第4の位相差板4Dが光路9上に位置するようにする。この配置にて二回目の検査を行う。
【0049】
このように、面内位相差値が異なる位相差板を用いて複数回にわたって検査することで、欠陥が輝点欠陥として観察される可能性が高まり、欠陥を正しく認識しやすい。なお、第3の位相差板4C及び第4の位相差板4Dの対を用いた検査でも再度黒点と視認された場合は、保持部材41を更に第5の位相差板4E及び第6の位相差板4Fの対へスライドさせ、三回目の検査を行う。
【0050】
検査中、被検査物10、第1及び第2の位相差板4A,4B、並びに、第1及び第2の位相差フィルタ3A,3Bの少なくとも一つを、互いに対面する角度が異なるように傾けてもよいし、光の光路9に垂直な方向に回転させてもよい。傾けることによって、剥離フィルム16aや第1及び第2の位相差板4A,4Bの位相差を微調整できることから、より広範囲の検査が可能となる。また、これらを回転させることでPET系樹脂からなる剥離フィルム16aと第1及び第2の位相差板4A,4Bとの軸合わせが容易となる。これらの操作は、検査装置100が可動装置を備えている場合に特に容易に行うことができる。
【0051】
また、本発明の検査方法では、光源2からの光として例えば、単一波長の光又は波長幅が狭い範囲である光を用いることで、位相差値が局所的にずれている欠陥の検出も可能となる。具体的には、光源として、被検査物10に含まれる円偏光板1の偏光フィルムの透過軸と位相差フィルタに含まれる直線偏光へ変換する偏光板の透過軸とがクロスニコル配置とならないように配置したときに透過光量が最小となる波長の光を用いる。このとき、第1の位相差フィルタ3Aと位相差膜14が相対するように配置する。複数の波長がある場合には、特に、波長が500~600nmの範囲の波長を選択することが好ましい。さらに、強度ピークの半値幅が30nm以下である光源とすることで検査精度が向上する。
【0052】
以上に示した検査方法によれば、第1の位相差板4A及び第2の位相差板4Bの対を用いた検査で黒色欠陥が観察された部位を第3の位相差板4C及び第4の位相差板4Dを用いて検査することによって、これを輝点欠陥として観察できるように位相差を調整することが可能となる。また、この検査方法は反射型の検査方法であるので、透過型の検査方法と比べて被検査物10中の光路が長くなり、透過型の検査方法では検出が困難であった皺等の変形欠陥も容易に検出することができる。以上のことから、本発明の検査方法では円偏光板の欠陥の有無を容易に判断することができる。
【0053】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に何ら限定されるものではない。例えば、上記実施形態では第1の位相差フィルタ3Aと第1の位相差板4Aとを互いに別の物品として示したが、これらは互いに積層された積層体として一枚のフィルムを構成していてもよい。第2の位相差フィルタ3Bと第2の位相差板4Bについても同様に一つの積層体としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、円偏光板の品質検査に利用することができる。
【符号の説明】
【0055】
1…円偏光板、2…光源、3A…第1の位相差フィルタ、3B…第2の位相差フィルタ、4…位相差板、4A…第1の位相差板、4B…第2の位相差板、5…検出手段、9(9a,9b,9c)…光路、10…被検査物、11…偏光フィルム、12a,12b…保護フィルム、13…粘着剤層、14…位相差膜、15…粘着剤層、16a…剥離フィルム、16b…表面保護フィルム、41…保持部材、100…検査装置、a…領域、D,D’…欠陥。