(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-04
(45)【発行日】2024-01-15
(54)【発明の名称】接着層付き回路基板の製造方法及び多層回路基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
H05K 3/46 20060101AFI20240105BHJP
H05K 3/28 20060101ALI20240105BHJP
B32B 15/088 20060101ALI20240105BHJP
B32B 27/34 20060101ALI20240105BHJP
C08G 73/10 20060101ALI20240105BHJP
【FI】
H05K3/46 B
H05K3/28 C
H05K3/46 T
B32B15/088
B32B27/34
C08G73/10
(21)【出願番号】P 2022187924
(22)【出願日】2022-11-25
(62)【分割の表示】P 2018205804の分割
【原出願日】2018-10-31
【審査請求日】2022-11-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000006644
【氏名又は名称】日鉄ケミカル&マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115118
【氏名又は名称】渡邊 和浩
(74)【代理人】
【識別番号】100095588
【氏名又は名称】田治米 登
(74)【代理人】
【識別番号】100094422
【氏名又は名称】田治米 惠子
(74)【代理人】
【識別番号】110000224
【氏名又は名称】弁理士法人田治米国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】須藤 芳樹
(72)【発明者】
【氏名】西山 哲平
(72)【発明者】
【氏名】平石 克文
【審査官】ゆずりは 広行
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-140544(JP,A)
【文献】特開2006-120947(JP,A)
【文献】国際公開第2018/061727(WO,A1)
【文献】特開平06-112610(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05K 3/46
H05K 3/28
B32B 15/088
B32B 27/34
C08G 73/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁性基材層と、前記絶縁性基材層の少なくとも片面に形成された導体回路層と、前記導体回路層を被覆する接着層と、を有する接着層付き回路基板の製造方法であって、
前記絶縁性基材層が、下記の式(a)、
E
1=√ε
1×Tanδ
1 ・・・(a)
[ここで、ε
1は、スプリットポスト誘電体共振器(SPDR)により測定される10GHzにおける誘電率を示し、Tanδ
1は、スプリットポスト誘電体共振器(SPDR)により測定される10GHzにおける誘電正接を示す]
に基づき算出される、誘電特性を示す指標であるE
1値が0.009未満であり、
前記導体回路層を覆うように、接着性樹脂の溶液を塗布して乾燥することによって、前記接着層を形成する工程を含むことを特徴とする接着層付き回路基板の製造方法。
【請求項2】
前記絶縁性基材層がポリイミド層を含み、該ポリイミド層の少なくとも1層を構成するポリイミドが、酸無水物成分とジアミン成分とを反応させて得られる非熱可塑性ポリイミドであって、テトラカルボン酸残基及びジアミン残基を含むものであり、
前記テトラカルボン酸残基の全量100モル部に対して、
3,3’、4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)から誘導されるテトラカルボン酸残基(BPDA残基)及び1,4-フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル)二無水物(TAHQ)から誘導されるテトラカルボン酸残基(TAHQ残基)の少なくとも1種並びにピロメリット酸二無水物(PMDA)から誘導されるテトラカルボン酸残基(PMDA残基)及び2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物(NTCDA)から誘導されるテトラカルボン酸残基(NTCDA残基)の少なくとも1種の合計が80モル部以上であり、
前記BPDA残基及び前記TAHQ残基の少なくとも1種と、前記PMDA残基及び前記NTCDA残基の少なくとも1種とのモル比{(BPDA残基+TAHQ残基)/(PMDA残基+NTCDA残基)}が0.4~1.5の範囲内にある請求項1に記載の接着層付き回路基板の製造方法。
【請求項3】
前記接着性樹脂が、テトラカルボン酸残基及びジアミン残基を含有する接着性ポリイミドであり、
前記接着性ポリイミドは、前記ジアミン残基の全量100モル部に対して、ダイマー酸の二つの末端カルボン酸基が1級のアミノメチル基又はアミノ基に置換されてなるダイマー酸型ジアミンから誘導されるジアミン残基を50モル部以上含有する請求項1に記載の接着層付き回路基板の製造方法。
【請求項4】
前記接着性ポリイミドは、前記テトラカルボン酸残基の全量100モル部に対して、
下記の一般式(1)及び/又は(2)で表されるテトラカルボン酸無水物から誘導されるテトラカルボン酸残基を合計で90モル部以上含有することを特徴とする請求項3に記載の接着層付き回路基板の製造方法。
【化1】
[一般式(1)中、Xは、単結合、または、下式から選ばれる2価の基を示し、一般式(2)中、Yで表される環状部分は、4員環、5員環、6員環、7員環又は8員環から選ばれる環状飽和炭化水素基を形成していることを表す。]
【化2】
[上記式において、Zは-C
6H
4-、-(CH
2)n-又は-CH
2-CH(-O-C(=O)-CH
3)-CH
2-を示すが、nは1~20の整数を示す。]
【請求項5】
前記接着性ポリイミドは、前記ジアミン残基の全量100モル部に対して、
前記ダイマー酸型ジアミンから誘導されるジアミン残基を50モル部以上99モル部以下の範囲内で含有し、
下記の一般式(B1)~(B7)で表されるジアミン化合物から選ばれる少なくとも1種のジアミン化合物から誘導されるジアミン残基を1モル部以上50モル部以下の範囲内で含有する請求項3に記載の接着層付き回路基板の製造方法。
【化3】
[式(B1)~(B7)において、R
1は独立に炭素数1~6の1価の炭化水素基又はアルコキシ基を示し、連結基Aは独立に-O-、-S-、-CO-、-SO-、-SO
2-、-COO-、-CH
2-、-C(CH
3)
2-、-NH-若しくは-CONH-から選ばれる2価の基を示し、n
1は独立に0~4の整数を示す。ただし、式(B3)中から式(B2)と重複するものは除き、式(B5)中から式(B4)と重複するものは除くものとする。]
【請求項6】
複数の回路基板を積層した多層回路基板の製造方法であって、
前記複数の回路基板の少なくとも1つが、請求項1から5のいずれか1項に記載の接着層付き回路基板の製造方法によって製造された接着層付き回路基板であることを特徴とする多層回路基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回路基板及び多層回路基板に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、電子機器の高密度化、高機能化の進展に伴い、更なる寸法安定性や優れた高周波伝送特性を有する回路基板材料が求められている。特に、高速信号処理に必要な有機層間絶縁材料の特性には、低誘電率化、低誘電損失化が重要である。高周波化に対応するために、低誘電率、低誘電正接を特徴とした液晶ポリマー(LCP)を誘電体層とした多層配線板が提案されている(例えば、特許文献1)。液晶ポリマーを絶縁層とした多層配線板は、熱可塑性樹脂である液晶ポリマー基材の融点付近まで加熱した状態で加熱圧着することにより製造されるため、液晶ポリマー基材の熱変形により、回路導体の位置ズレがおきやすく、インピーダンスの不整合など電気特性に悪影響が出ることが懸念されている。また、液晶ポリマーを基材層とする多層配線板は、多層接着界面が平滑であるとアンカー効果が発現せず層間接着力が不十分となるため、回路導体と液晶ポリマー基材のそれぞれの表面に粗化処理を必要とし、製造工程が煩雑であるという問題点もあった。
【0003】
ところで、ポリイミドを主成分とする接着層に関する技術として、ダイマー酸などの脂肪族ジアミンから誘導されるジアミン化合物を原料とするポリイミドと、少なくとも2つの第1級アミノ基を官能基として有するアミノ化合物と、を反応させて得られる架橋ポリイミド樹脂を、カバーレイフィルムの接着剤層に適用することが提案されている(例えば、特許文献2)。特許文献2の架橋ポリイミド樹脂は、環状シロキサン化合物からなる揮発成分を発生させず、優れた半田耐熱性を有し、繰り返し高温にさらされる使用環境でも、配線層とカバーレイフィルムとの接着力を低下させない、という利点を有するものである。しかしながら、特許文献2では、高周波信号伝送への適用可能性については検討されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-317953号公報
【文献】特開2013-1730号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、耐熱性や密着性に優れ、誘電率及び誘電正接が小さく、高周波伝送においても伝送損失の低減が可能な接着層を備えた回路基板及び多層回路基板を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、鋭意研究の結果、ポリイミド層を含み、特定の誘電特性を備える絶縁性基材層と導体回路層を有する回路基板において、導体回路層を被覆する接着層に熱圧着が可能な接着性ポリイミドを使用するとともに、該接着性ポリイミドの原料となるモノマーの種類と量を制御することによって、優れた接着性を維持しつつ、低誘電率化及び低誘電正接化が可能となることを見出し、本発明を完成した。
【0007】
すなわち、本発明の回路基板は、ポリイミド層を含む絶縁性基材層と、前記絶縁性基材層の少なくとも片面に形成された導体回路層と、前記導体回路層を被覆する接着層を備えている。そして、本発明の回路基板は、前記絶縁性基材層が、下記の式(a)、
E1=√ε1×Tanδ1 ・・・(a)
[ここで、ε1は、スプリットポスト誘電体共振器(SPDR)により測定される10GHzにおける誘電率を示し、Tanδ1は、スプリットポスト誘電体共振器(SPDR)により測定される10GHzにおける誘電正接を示す]
に基づき算出される、誘電特性を示す指標であるE1値が0.009未満である。
また、本発明の回路基板において、前記接着層は、テトラカルボン酸残基及びジアミン残基を含有する接着性ポリイミドを有しており、前記接着性ポリイミドは、前記ジアミン残基の全量100モル部に対して、ダイマー酸の二つの末端カルボン酸基が1級のアミノメチル基又はアミノ基に置換されてなるダイマー酸型ジアミンから誘導されるジアミン残基を50モル部以上含有する。
【0008】
また、本発明の回路基板は、前記ポリイミド層の少なくとも1層を構成するポリイミドが、酸無水物成分とジアミン成分とを反応させて得られる非熱可塑性ポリイミドであって、テトラカルボン酸残基及びジアミン残基を含むものであってもよい。この場合、前記テトラカルボン酸残基の全量100モル部に対して、3,3’、4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)から誘導されるテトラカルボン酸残基(BPDA残基)及び1,4-フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル)二無水物(TAHQ)から誘導されるテトラカルボン酸残基(TAHQ残基)の少なくとも1種並びにピロメリット酸二無水物(PMDA)から誘導されるテトラカルボン酸残基(PMDA残基)及び2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物(NTCDA)から誘導されるテトラカルボン酸残基(NTCDA残基)の少なくとも1種の合計が80モル部以上であってもよい。また、前記BPDA残基及び前記TAHQ残基の少なくとも1種と、前記PMDA残基及び前記NTCDA残基の少なくとも1種とのモル比{(BPDA残基+TAHQ残基)/(PMDA残基+NTCDA残基)}が0.4~1.5の範囲内にあってもよい。
【0009】
また、本発明の回路基板は、前記ジアミン成分が、全ジアミン成分に対して4,4’-ジアミノ-2,2’-ジメチルビフェニル(m-TB)を80モル%以上含有するものであってもよい。
【0010】
また、本発明の回路基板において、前記接着性ポリイミドは、前記テトラカルボン酸残基の全量100モル部に対して、下記の一般式(1)及び/又は(2)で表されるテトラカルボン酸無水物から誘導されるテトラカルボン酸残基を合計で90モル部以上含有するものであってもよい。
【0011】
【0012】
一般式(1)中、Xは、単結合、または、下式から選ばれる2価の基を示し、一般式(2)中、Yで表される環状部分は、4員環、5員環、6員環、7員環又は8員環から選ばれる環状飽和炭化水素基を形成していることを表す。
【0013】
【0014】
上記式において、Zは-C6H4-、-(CH2)n-又は-CH2-CH(-O-C(=O)-CH3)-CH2-を示すが、nは1~20の整数を示す。
【0015】
また、本発明の回路基板において、前記接着性ポリイミドは、前記ジアミン残基の全量100モル部に対して、前記ダイマー酸型ジアミンから誘導されるジアミン残基を50モル部以上99モル部以下の範囲内で含有してもよい。この場合、下記の一般式(B1)~(B7)で表されるジアミン化合物から選ばれる少なくとも1種のジアミン化合物から誘導されるジアミン残基を1モル部以上50モル部以下の範囲内で含有してもよい。
【0016】
【0017】
式(B1)~(B7)において、R1は独立に炭素数1~6の1価の炭化水素基又はアルコキシ基を示し、連結基Aは独立に-O-、-S-、-CO-、-SO-、-SO2-、-COO-、-CH2-、-C(CH3)2-、-NH-若しくは-CONH-から選ばれる2価の基を示し、n1は独立に0~4の整数を示す。ただし、式(B3)中から式(B2)と重複するものは除き、式(B5)中から式(B4)と重複するものは除くものとする。
【0018】
本発明の多層回路基板は、複数の回路基板を積層した多層回路基板であって、前記複数の回路基板が、上記いずれかの回路基板を含むことを特徴とする。
【0019】
本発明の接着層付き回路基板の製造方法は、絶縁性基材層と、前記絶縁性基材層の少なくとも片面に形成された導体回路層と、前記導体回路層を被覆する接着層と、を有する接着層付き回路基板の製造方法である。そして、本発明の接着層付き回路基板の製造方法は、前記導体回路層を覆うように、接着性樹脂のシートを積層するか、又は、接着性樹脂の溶液を塗布して乾燥することによって、前記接着層を形成する工程を含むことを特徴とする。
【0020】
本発明の多層回路基板の製造方法は、前記接着性樹脂が、接着性ポリイミドであってもよい。
【0021】
本発明の多層回路基板の製造方法は、複数の回路基板を積層した多層回路基板の製造方法であって、前記複数の回路基板の少なくとも1つが、上記いずれかの接着層付き回路基板の製造方法によって製造された接着層付き回路基板であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明の回路基板は、特定のテトラカルボン酸残基及びジアミン残基を導入した接着性ポリイミドによって導体回路層を被覆する接着層を形成することで、密着性の確保と低誘電率化及び低誘電正接化を可能とした。また、本発明の多層回路基板は、良好な層間接続を有し、且つ信頼性が高く、電子部品の高密度集積化や、高密度実装化を可能とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の一実施の形態にかかる多層回路基板の製造方法における工程手順を示す説明図である。
【
図2】本発明の一実施の形態にかかる多層回路基板の別の製造方法における工程手順を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明の実施の形態について詳細に説明する。
【0025】
[回路基板]
本実施の形態の回路基板は、ポリイミド層を含む絶縁性基材層の少なくとも片面に導体回路層を有し、前記導体回路層は、接着層で被覆されている。本実施の形態の回路基板の高周波伝送特性は、接着性ポリイミドで形成された接着層と内部に埋め込まれる導体回路層により確保することができ、該接着層は絶縁基材層との低温接着性も良好なため、絶縁性基材層の誘電特性に悪影響を及ぼさない。導体回路層を被覆する接着層は、導体回路層の表面を部分的に被覆するものでもよいし、導体回路層の全表面に亘って被覆するものでもよい。また、本実施の形態の回路基板は、接着層で被覆されている導体回路層以外に、任意の導体回路層を有してもよい。
【0026】
(絶縁性基材層)
絶縁性基材層は、ポリイミドから構成されるポリイミド層を含むものであれば特に限定はなく、ポリイミド層以外の樹脂層は、電気的絶縁性を有する樹脂により構成される樹脂層を含んでいてもよい。ポリイミド層以外の樹脂層を構成する樹脂として、例えばエポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、シリコーン、ETFEなどを挙げることができるが、絶縁性基材層の全体が、ポリイミド層によって構成されることが好ましい。絶縁性基材層を構成するポリイミド層は、単層でも複数層でもよいが、非熱可塑性ポリイミド層(以下、「第1のポリイミド層」ともいう。)を含むことが好ましい。ここで、「非熱可塑性ポリイミド」とは、一般に加熱しても軟化、接着性を示さないポリイミドのことであるが、本発明では、動的粘弾性測定装置(DMA)を用いて測定した、30℃における貯蔵弾性率が1.0×109Pa以上であり、300℃における貯蔵弾性率が3.0×108Pa以上であるポリイミドをいう。
【0027】
ポリイミドは、特定の酸無水物とジアミン化合物とを反応させて得られる前駆体のポリアミド酸をイミド化して製造されるので、酸無水物とジアミン化合物を説明することにより、非熱可塑性ポリイミドの具体例が理解される(後述する熱可塑性ポリイミドについても同様である)。なお、本発明におけるポリイミドとしては、いわゆるポリイミドの他、ポリアミドイミド、ポリベンズイミダゾール、ポリイミドエステル、ポリエーテルイミド、ポリシロキサンイミド等の構造中にイミド基を有するものが含まれる。
【0028】
絶縁性基材層は、下記の数式(a)、
E1=√ε1×Tanδ1 ・・・(a)
[ここで、ε1は、スプリットポスト誘電体共振器(SPDR)により測定される10GHzにおける誘電率を示し、Tanδ1は、スプリットポスト誘電体共振器(SPDR)により測定される10GHzにおける誘電正接を示す。なお、√ε1は、ε1の平方根を意味する。]
に基づき算出される、誘電特性を示す指標であるE1値が0.009未満であり、好ましくは0.0025~0.0085の範囲内がよく、より好ましくは0.0025~0.008の範囲内がよい。E1値が、0.009未満であることによって、優れた高周波伝送特性を有するFPC等の回路基板を製造できる。一方、E1値が上記上限を超えると、FPC等の回路基板に使用した際に、高周波信号の伝送経路上で電気信号のロスなどの不都合が生じやすくなる。
【0029】
また、絶縁性基材層は、導体回路層となる金属層を積層した金属張積層板を形成した際の反りや寸法安定性の低下を抑制する観点から、絶縁性基材層の全体として、熱膨張係数(CTE)を10~30ppm/Kの範囲内に制御することが好ましい。
【0030】
絶縁性基材層は、導体回路層との接着性及び耐熱性を向上させる観点から、導体回路層に接している樹脂層は熱可塑性ポリイミドからなる熱可塑性ポリイミド層とすることが好ましい。ここで、「熱可塑性ポリイミド」とは、一般にガラス転移温度(Tg)が明確に確認できるポリイミドのことであるが、本発明では、DMAを用いて測定した、30℃における貯蔵弾性率が1.0×108Pa以上であり、300℃における貯蔵弾性率が3.0×107Pa未満であるポリイミドをいう。
【0031】
熱可塑性ポリイミド層(以下、「第2のポリイミド層」ともいう。)を含む場合、絶縁性基材層においてベース層(主層)として機能する第1のポリイミド層のCTEは、好ましくは1~25ppm/Kの範囲内、より好ましくは10~20ppm/Kの範囲内がよい。
【0032】
絶縁性基材層の厚みは、例えば5~100μmの範囲内にあることが好ましく、10~50μmの範囲内がより好ましい。絶縁性基材層の厚みが上記下限値に満たないと、十分な電気絶縁性が担保出来ないなどの問題が生じることがある。一方、絶縁性基材層の厚みが上記上限値を超えると、寸法安定性が低下するなどの不具合が生じる。
【0033】
(絶縁性基材層の誘電率)
絶縁性基材層は、インピーダンス整合性を確保するために、絶縁性基材層全体として、10GHzにおける誘電率(ε1)が4.0以下であることが好ましい。絶縁性基材層の10GHzにおける誘電率が4.0を超えると、回路基板に適用した際に、絶縁性基材層の誘電損失の悪化に繋がり、高周波信号の伝送経路上で電気信号のロスなどの不都合が生じやすくなる。
【0034】
(絶縁性基材層の誘電正接)
絶縁性基材層は、誘電損失の悪化を抑制するために、10GHzにおける誘電正接(Tanδ1)は、好ましくは0.02以下、より好ましくは0.0005以上0.01以下の範囲内、更に好ましくは0.001以上0.008以下の範囲内がよい。絶縁性基材層の10GHzにおける誘電正接が0.02を超えると、回路基板に適用した際に、高周波信号の伝送経路上で電気信号のロスなどの不都合が生じやすくなる。
【0035】
(導体回路層)
本実施の形態の回路基板における導体回路層は、導電性の材料から構成されるものであれば特に制限はないが、例えば、銅、ステンレス、鉄、ニッケル、ベリリウム、アルミニウム、亜鉛、インジウム、銀、金、スズ、ジルコニウム、タンタル、チタン、鉛、マグネシウム、マンガン及びこれらの合金等の金属が好ましい。この中でも、特に銅又は銅合金が好ましい。
【0036】
導体回路層は、任意の手法で形成できる。例えば、銅を主成分とする金属箔を絶縁性基材層に熱圧着して片面又は両面に金属箔を有する絶縁性基材層を形成した後、金属箔上に感光性レジストを塗布し、露光、現像を行い、所定のマスクパターンを形成し、マスクパターンを介して金属箔のエッチングを行った後、マスクパターンを除去することによって、所定形状の導体回路層を形成することができる。また、絶縁性基材層にインクジェットやメッキによって、所定形状の導体回路層を形成してもよい。
【0037】
導体回路層の厚みは特に限定されるものではないが、例えば導体回路層の材料として、銅箔を用いる場合、好ましくは35μm以下であり、より好ましくは5~25μmの範囲内がよい。生産安定性及びハンドリング性の観点から、銅箔の厚みの下限値は5μmとすることが好ましい。なお、銅箔を用いる場合は、圧延銅箔でも電解銅箔でもよい。また、銅箔としては、市販されている銅箔を用いることができる。
【0038】
導体回路層は、高周波伝送における伝送損失の低減と絶縁性基材層との密着性の観点から、絶縁性基材層と接する面が、粗化処理されており、最大高さ粗さ(Rz)が2.0μm以下であることが好ましい。伝送損失は、導体損失と誘電損失の和からなるが、導体回路層のRzが大きいと導体損失が大きくなる。すなわち伝送損失に悪影響を及ぼすため、Rzを制御する必要がある。
【0039】
なお、絶縁性基材層には、導体回路層以外に層間接続電極(ビア電極)を形成してもよい。層間接続電極は、絶縁性基材層にレーザー加工やドリル加工によりビアホールを形成した後、印刷等により導電性ペーストを充填することにより形成することができる。導電性ペーストは、例えば錫を主成分とする導電性粉末に、有機溶剤やエポキシ樹脂等が混合されたものを用いることができる。また、層間接続電極は、ビアホールを形成した後、ビアホールの内面、及び導体回路層の表面の一部にメッキ部を形成してもよい。
【0040】
(接着層)
接着層は、導体回路層を被覆するものである。また、接着層の上に必要に応じて、保護層としてカバーレイフィルム若しくはソルダーレジストが設けられてもよい。絶縁性基材層の片面又は両面に所定パターンの導体回路層を形成した後、接着層を積層する。
【0041】
接着層を構成する接着性ポリイミドは、特定の酸無水物とジアミン化合物とを反応させて得られる前駆体のポリアミド酸をイミド化して製造されるので、酸無水物とジアミン化合物を説明することにより、接着性ポリイミドの具体例が理解される。なお、本発明において、テトラカルボン酸残基とは、テトラカルボン酸二無水物から誘導された4価の基のことを意味し、ジアミン残基とは、ジアミン化合物から誘導された2価の基のことを意味する。
【0042】
(テトラカルボン酸残基)
接着性ポリイミドは、全テトラカルボン酸残基の100モル部に対して、下記の一般式(1)及び/又は(2)で表されるテトラカルボン酸無水物から誘導されるテトラカルボン酸残基(以下、「テトラカルボン酸残基(1)」、「テトラカルボン酸残基(2)」と記すことがある)を、合計で90モル部以上含有することが好ましい。本発明では、テトラカルボン酸残基(1)及び/又は(2)を、全テトラカルボン酸残基の100モル部に対して合計で90モル部以上含有させることによって、接着性ポリイミドに溶剤可溶性を付与するとともに、接着性ポリイミドの柔軟性と耐熱性の両立が図りやすく好ましい。テトラカルボン酸残基(1)及び/又は(2)の合計が90モル部未満では、接着性ポリイミドの溶剤溶解性が低下する傾向になる。
【0043】
【0044】
一般式(1)中、Xは、単結合、または、下式から選ばれる2価の基を示し、一般式(2)中、Yで表される環状部分は、4員環、5員環、6員環、7員環又は8員環から選ばれる環状飽和炭化水素基を形成していることを示す。
【0045】
【0046】
上記式において、Zは-C6H4-、-(CH2)n-又は-CH2-CH(-O-C(=O)-CH3)-CH2-を示すが、nは1~20の整数を示す。
【0047】
テトラカルボン酸残基(1)を誘導するためのテトラカルボン酸二無水物としては、例えば、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)、3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物(DSDA)、4,4’-オキシジフタル酸無水物(ODPA)、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸無水物(6FDA)、2,2-ビス〔4-(3,4-ジカルボキシフェノキシ)フェニル〕プロパン二無水物(BPADA)、p-フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル酸無水物)(TAHQ)、エチレングリコール ビスアンヒドロトリメリテート(TMEG)などを挙げることができる。
【0048】
また、テトラカルボン酸残基(2)を誘導するためのテトラカルボン酸二無水物としては、例えば、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、 1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロヘプタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6-シクロオクタンテトラカルボン酸二無水物などを挙げることができる。
【0049】
接着性ポリイミドは、発明の効果を損なわない範囲で、上記一般式(1)又は(2)で表されるテトラカルボン酸無水物以外の酸無水物から誘導されるテトラカルボン酸残基を含有することができる。
【0050】
(ジアミン残基)
接着性ポリイミドは、全ジアミン残基の100モル部に対して、ダイマー酸型ジアミンから誘導されるダイマー酸型ジアミン残基を50モル部以上、例えば50モル部以上99モル部以下の範囲内、好ましくは60モル部以上、例えば60モル部以上99モル部以下の範囲内で含有する。ダイマー酸型ジアミン残基を上記の量で含有することによって、接着層の誘電特性を改善させるとともに、接着層のガラス転移温度の低温化(低Tg化)による熱圧着特性の改善及び低弾性率化による内部応力を緩和することができる。全ジアミン残基の100モル部に対して、ダイマー酸型ジアミン残基が50モル部未満であると、絶縁性基材層との十分な接着性が得られないことがある。
【0051】
ここで、ダイマー酸型ジアミンとは、ダイマー酸の二つの末端カルボン酸基(-COOH)が、1級のアミノメチル基(-CH2-NH2)又はアミノ基(-NH2)に置換されてなるジアミンを意味する。ダイマー酸は、不飽和脂肪酸の分子間重合反応によって得られる既知の二塩基酸であり、その工業的製造プロセスは業界でほぼ標準化されており、炭素数が11~22の不飽和脂肪酸を粘土触媒等にて二量化して得られる。工業的に得られるダイマー酸は、オレイン酸やリノール酸などの炭素数18の不飽和脂肪酸を二量化することによって得られる炭素数36の二塩基酸が主成分であるが、精製の度合いに応じ、任意量のモノマー酸(炭素数18)、トリマー酸(炭素数54)、炭素数20~54の他の重合脂肪酸を含有する。本発明では、ダイマー酸は分子蒸留によってダイマー酸含有量を90重量%以上にまで高めたものを使用することが好ましい。また、ダイマー化反応後には二重結合が残存するが、本発明では、更に水素添加反応して不飽和度を低下させたものもダイマー酸に含めるものとする。
【0052】
ダイマー酸型ジアミンの特徴として、ダイマー酸の骨格に由来する特性をポリイミドに付与することができる。すなわち、ダイマー酸型ジアミンは、分子量約500~620の巨大分子の脂肪族であるので、分子のモル体積を大きくし、ポリイミドの極性基を相対的に減らすことができる。このようなダイマー酸型ジアミンの特徴は、ポリイミドの耐熱性の低下を抑制しつつ、誘電率と誘電正接を小さくして誘電特性を向上させることに寄与すると考えられる。また、2つの自由に動く炭素数7~9の疎水鎖と、炭素数18に近い長さを持つ2つの鎖状の脂肪族アミノ基とを有するので、ポリイミドに柔軟性を与えるのみならず、ポリイミドを非対象的な化学構造や非平面的な化学構造とすることができるので、ポリイミドの低誘電率化及び低誘電正接化を図ることができると考えられる。
【0053】
ダイマー酸型ジアミンは、市販品が入手可能であり、例えばクローダジャパン社製のPRIAMINE1073(商品名)、同PRIAMINE1074(商品名)、同PRIAMINE1075(商品名)、BASFジャパン社製のバーサミン551(商品名)、同バーサミン552(商品名)等が挙げられる。
【0054】
また、接着性ポリイミドは、下記の一般式(B1)~(B7)で表されるジアミン化合物から選ばれる少なくとも1種のジアミン化合物から誘導されるジアミン残基を、全ジアミン残基の100モル部に対して、合計で1モル部以上50モル部以下の範囲内で含有することが好ましく、1モル部以上40モル部以下の範囲内で含有することがより好ましい。一般式(B1)~(B7)で表されるジアミン化合物は、屈曲性を有する分子構造を持つため、これらから選ばれる少なくとも一種のジアミン化合物を上記範囲内の量で使用することによって、ポリイミド分子鎖の柔軟性を向上させ、溶剤可溶性と熱可塑性を付与することができる。また、例えば接着層にレーザー加工によりビアホール(貫通孔)を形成する場合でも、ポリイミド分子構造中の芳香環の割合が高くなることで、例えば紫外線領域の吸収性を高めることができる他、接着層のガラス転移温度を高めることができ、これによってレーザー光の入熱によるボトム金属の温度上昇に対する耐熱性を向上させることができるため、レーザー加工性をより向上させることができる。一般式(B1)~(B7)で表されるジアミン化合物から選ばれる少なくとも1種のジアミン化合物から誘導されるジアミン残基の合計量が全ジアミン残基の100モル部に対して50モル部を超えると、接着性ポリイミドの柔軟性が不足し、またTgが上昇するため、熱圧着による残留応力が増加しエッチング後寸法変化率が悪化する傾向になる。
【0055】
【0056】
式(B1)~(B7)において、R1は独立に炭素数1~6の1価の炭化水素基又はアルコキシ基を示し、連結基Aは独立に-O-、-S-、-CO-、-SO-、-SO2-、-COO-、-CH2-、-C(CH3)2-、-NH-若しくは-CONH-から選ばれる2価の基を示し、n1は独立に0~4の整数を示す。ただし、式(B3)中から式(B2)と重複するものは除き、式(B5)中から式(B4)と重複するものは除くものとする。
なお、「独立に」とは、上記式(B1)~(B7)の内の一つにおいて、または二つ以上において、複数の連結基A、複数のR1若しくは複数のn1が、同一でもよいし、異なっていてもよいことを意味する。また、式(B1)~(B7)において、末端の二つのアミノ基における水素原子は置換されていてもよく、例えば-NR2R3(ここで、R2,R3は、独立してアルキル基などの任意の置換基を意味する)であってもよい。
【0057】
式(B1)で表されるジアミン(以下、「ジアミン(B1)」と記すことがある)は、2つのベンゼン環を有する芳香族ジアミンである。このジアミン(B1)は、少なくとも1つのベンゼン環に直結したアミノ基と2価の連結基Aとがメタ位にあることで、ポリイミド分子鎖が有する自由度が増加して高い屈曲性を有しており、ポリイミド分子鎖の柔軟性の向上に寄与すると考えられる。従って、ジアミン(B1)を用いることで、ポリイミドの熱可塑性が高まる。ここで、連結基Aとしては、-O-、-CH2-、-C(CH3)2-、-CO-、-SO2-、-S-、-COO-が好ましい。
【0058】
ジアミン(B1)としては、例えば、3,3’-ジアミノジフェニルメタン、3,3’-ジアミノジフェニルプロパン、3,3’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3-ジアミノジフェニルエーテル、3,4'-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルメタン、3,4’-ジアミノジフェニルプロパン、3,4’-ジアミノジフェニルスルフィド、3,3’-ジアミノベンゾフェノン、(3,3’-ビスアミノ)ジフェニルアミン等を挙げることができる。
【0059】
式(B2)で表されるジアミン(以下、「ジアミン(B2)」と記すことがある)は、3つのベンゼン環を有する芳香族ジアミンである。このジアミン(B2)は、少なくとも1つのベンゼン環に直結したアミノ基と2価の連結基Aとがメタ位にあることで、ポリイミド分子鎖が有する自由度が増加して高い屈曲性を有しており、ポリイミド分子鎖の柔軟性の向上に寄与すると考えられる。従って、ジアミン(B2)を用いることで、ポリイミドの熱可塑性が高まる。ここで、連結基Aとしては、-O-が好ましい。
【0060】
ジアミン(B2)としては、例えば1,4-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン、3-[4-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ]ベンゼンアミン、3-[3-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ]ベンゼンアミン等を挙げることができる。
【0061】
式(B3)で表されるジアミン(以下、「ジアミン(B3)」と記すことがある)は、3つのベンゼン環を有する芳香族ジアミンである。このジアミン(B3)は、1つのベンゼン環に直結した、2つの2価の連結基Aが互いにメタ位にあることで、ポリイミド分子鎖が有する自由度が増加して高い屈曲性を有しており、ポリイミド分子鎖の柔軟性の向上に寄与すると考えられる。従って、ジアミン(B3)を用いることで、ポリイミドの熱可塑性が高まる。ここで、連結基Aとしては、-O-が好ましい。
【0062】
ジアミン(B3)としては、例えば1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン(TPE-R)、1,3-ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゼン(APB)、4,4'-[2-メチル-(1,3-フェニレン)ビスオキシ]ビスアニリン、4,4'-[4-メチル-(1,3-フェニレン)ビスオキシ]ビスアニリン、4,4'-[5-メチル-(1,3-フェニレン)ビスオキシ]ビスアニリン等を挙げることができる。
【0063】
式(B4)で表されるジアミン(以下、「ジアミン(B4)」と記すことがある)は、4つのベンゼン環を有する芳香族ジアミンである。このジアミン(B4)は、少なくとも1つのベンゼン環に直結したアミノ基と2価の連結基Aとがメタ位にあることで高い屈曲性を有しており、ポリイミド分子鎖の柔軟性の向上に寄与すると考えられる。従って、ジアミン(B4)を用いることで、ポリイミドの熱可塑性が高まる。ここで、連結基Aとしては、-O-、-CH2-、-C(CH3)2-、-SO2-、-CO-、-CONH-が好ましい。
【0064】
ジアミン(B4)としては、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)]ベンゾフェノン、ビス[4,4'-(3-アミノフェノキシ)]ベンズアニリド等を挙げることができる。
【0065】
式(B5)で表されるジアミン(以下、「ジアミン(B5)」と記すことがある)は、4つのベンゼン環を有する芳香族ジアミンである。このジアミン(B5)は、少なくとも1つのベンゼン環に直結した、2つの2価の連結基Aが互いにメタ位にあることで、ポリイミド分子鎖が有する自由度が増加して高い屈曲性を有しており、ポリイミド分子鎖の柔軟性の向上に寄与すると考えられる。従って、ジアミン(B5)を用いることで、ポリイミドの熱可塑性が高まる。ここで、連結基Aとしては、-O-が好ましい。
【0066】
ジアミン(B5)としては、4-[3-[4-(4-アミノフェノキシ)フェノキシ]フェノキシ]アニリン、4,4’-[オキシビス(3,1-フェニレンオキシ)]ビスアニリン等を挙げることができる。
【0067】
式(B6)で表されるジアミン(以下、「ジアミン(B6)」と記すことがある)は、4つのベンゼン環を有する芳香族ジアミンである。このジアミン(B6)は、少なくとも2つのエーテル結合を有することで高い屈曲性を有しており、ポリイミド分子鎖の柔軟性の向上に寄与すると考えられる。従って、ジアミン(B6)を用いることで、ポリイミドの熱可塑性が高まる。ここで、連結基Aとしては、-C(CH3)2-、-O-、-SO2-、-CO-が好ましい。
【0068】
ジアミン(B6)としては、例えば、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(BAPP)、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル(BAPE)、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン(BAPS)、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ケトン(BAPK)等を挙げることができる。
【0069】
式(B7)で表されるジアミン(以下、「ジアミン(B7)」と記すことがある)は、4つのベンゼン環を有する芳香族ジアミンである。このジアミン(B7)は、ジフェニル骨格の両側に、それぞれ屈曲性の高い2価の連結基Aを有するため、ポリイミド分子鎖の柔軟性の向上に寄与すると考えられる。従って、ジアミン(B7)を用いることで、ポリイミドの熱可塑性が高まる。ここで、連結基Aとしては、-O-が好ましい。
【0070】
ジアミン(B7)としては、例えば、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)]ビフェニル、ビス[4-(4-アミノフェノキシ)]ビフェニル等を挙げることができる。
【0071】
接着性ポリイミドは、発明の効果を損なわない範囲で、上記ダイマー酸型ジアミン及びジアミン(B1)~(B7)以外のジアミン化合物から誘導されるジアミン残基を含むことができる。上記ダイマー酸型ジアミン及びジアミン(B1)~(B7)以外のジアミン化合物から誘導されるジアミン残基としては、熱可塑性ポリイミドに使用されるジアミン化合物として一般に使用されるものを制限なく用いることができる。
【0072】
また、接着性ポリイミドにおいて、上記テトラカルボン酸残基及びジアミン残基の種類や、2種以上のテトラカルボン酸残基又はジアミン残基を含有する場合のそれぞれのモル比を選定することにより、熱膨張係数、引張弾性率、ガラス転移温度等を制御することができる。また、ポリイミドにおいて、ポリイミドの構造単位を複数有する場合は、ブロックとして存在しても、ランダムに存在していてもよいが、ランダムに存在することが好ましい。
【0073】
接着性ポリイミドのイミド基濃度は、20重量%以下であることが好ましい。ここで、「イミド基濃度」は、ポリイミド中のイミド基部(-(CO)2-N-)の分子量を、ポリイミドの構造全体の分子量で除した値を意味する。イミド基濃度が20重量%を超えると、樹脂自体の分子量が小さくなるとともに、極性基の増加によって低吸湿性も悪化し、弾性率が上昇する。
【0074】
接着性ポリイミドの重量平均分子量は、例えば10,000~400,000の範囲内が好ましく、20,000~350,000の範囲内がより好ましい。重量平均分子量が10,000未満であると、ポリイミド層の強度が低下して脆化しやすい傾向となる。一方、重量平均分子量が400,000を超えると、過度に粘度が増加して塗工作業の際に接着層の厚みムラ、スジ等の不良が発生しやすい傾向になる。
【0075】
接着性ポリイミドは、導体回路層を被覆するものであることから、銅の拡散を抑制するために完全にイミド化された構造が最も好ましい。但し、ポリイミドの一部がアミド酸となっていてもよい。そのイミド化率は、フーリエ変換赤外分光光度計(市販品:日本分光製FT/IR620)を用い、1回反射ATR法にてポリイミド薄膜の赤外線吸収スペクトルを測定することによって、1015cm-1付近のベンゼン環吸収体を基準とし、1780cm-1のイミド基に由来するC=O伸縮の吸光度から算出することができる。
【0076】
(架橋形成)
接着性ポリイミドがケトン基を有する場合に、該ケトン基と、少なくとも2つの第1級のアミノ基を官能基として有するアミノ化合物のアミノ基を反応させてC=N結合を形成させることによって、架橋構造を形成することができる。架橋構造の形成によって、接着性ポリイミドの耐熱性を向上させることができる。ケトン基を有するポリイミドを形成するために好ましいテトラカルボン酸無水物としては、例えば3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物(BTDA)を、ジアミン化合物としては、例えば、4,4’―ビス(3-アミノフェノキシ)ベンゾフェノン(BABP)、1,3-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)ベンゾイル]ベンゼン(BABB)等の芳香族ジアミンを挙げることができる。
【0077】
接着性ポリイミドの架橋形成に使用可能な上記アミノ化合物としては、ジヒドラジド化合物、芳香族ジアミン、脂肪族アミン等を例示することができる。これらの中でも、ジヒドラジド化合物が好ましい。ジヒドラジド化合物以外の脂肪族アミンは、室温でも架橋構造を形成しやすく、ワニスの保存安定性の懸念があり、一方、芳香族ジアミンは、架橋構造の形成のために高温にする必要がある。ジヒドラジド化合物を使用した場合は、ワニスの保存安定性と硬化時間の短縮化を両立させることができる。ジヒドラジド化合物としては、例えば、シュウ酸ジヒドラジド、マロン酸ジヒドラジド、コハク酸ジヒドラジド、グルタル酸ジヒドラジド、アジピン酸ジヒドラジド、ピメリン酸ジヒドラジド、スベリン酸ジヒドラジド、アゼライン酸ジヒドラジド、セバシン酸ジヒドラジド、ドデカン二酸ジヒドラジド、マレイン酸ジヒドラジド、フマル酸ジヒドラジド、ジグリコール酸ジヒドラジド、酒石酸ジヒドラジド、リンゴ酸ジヒドラジド、フタル酸ジヒドラジド、イソフタル酸ジヒドラジド、テレフタル酸ジヒドラジド、2,6-ナフトエ二酸ジヒドラジド、4,4-ビスベンゼンジヒドラジド、1,4-ナフトエ酸ジヒドラジド、2,6-ピリジン二酸ジヒドラジド、イタコン酸ジヒドラジド等のジヒドラジド化合物が好ましい。以上のジヒドラジド化合物は、単独でもよいし、2種類以上混合して用いることもできる。
【0078】
(接着層の製造)
接着性ポリイミドは、上記のテトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物を溶媒中で反応させ、ポリアミド酸を生成したのち加熱閉環させることにより製造できる。例えば、テトラカルボン酸二無水物とジアミン化合物をほぼ等モルで有機溶媒中に溶解させて、0~100℃の範囲内の温度で30分~24時間撹拌し重合反応させることで接着性ポリイミドの前駆体であるポリアミド酸が得られる。反応にあたっては、生成する前駆体が有機溶媒中に5~50重量%の範囲内、好ましくは10~40重量%の範囲内となるように反応成分を溶解する。重合反応に用いる有機溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N-ジエチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、2-ブタノン、ジメチルスホキシド(DMSO)、ヘキサメチルホスホルアミド、N-メチルカプロラクタム、硫酸ジメチル、シクロヘキサノン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジグライム、トリグライム、クレゾール等が挙げられる。これらの溶媒を2種以上併用して使用することもでき、更にはキシレン、トルエンのような芳香族炭化水素の併用も可能である。また、このような有機溶媒の使用量としては特に制限されるものではないが、重合反応によって得られるポリアミド酸溶液の濃度が5~50重量%程度になるような使用量に調整して用いることが好ましい。
【0079】
合成されたポリアミド酸は、通常、反応溶媒溶液として使用することが有利であるが、必要により濃縮、希釈又は他の有機溶媒に置換することができる。また、ポリアミド酸は一般に溶媒可溶性に優れるので、有利に使用される。ポリアミド酸の溶液の粘度は、500cps~100,000cpsの範囲内であることが好ましい。この範囲を外れると、コーター等による塗工作業の際にフィルムに厚みムラ、スジ等の不良が発生し易くなる。
【0080】
ポリアミド酸をイミド化させてポリイミドを形成させる方法は、特に制限されず、例えば前記溶媒中で、80~400℃の範囲内の温度条件で1~24時間かけて加熱するといった熱処理が好適に採用される。
【0081】
以上のようにして得られた接着性ポリイミドを架橋形成させる場合は、ケトン基を有するポリイミドを含む樹脂溶液に、上記アミノ化合物を加えて、接着性ポリイミド中のケトン基とアミノ化合物の第1級アミノ基とを縮合反応させる。この縮合反応により、樹脂溶液は硬化して硬化物となる。この場合、アミノ化合物の添加量は、ケトン基1モルに対し、第1級アミノ基が合計で0.004モル~1.5モルがよく、好ましくは0.005モル~1.2モル、より好ましくは0.03モル~0.9モル、最も好ましくは0.04モル~0.5モルとなるようにアミノ化合物を添加することができる。ケトン基1モルに対して第1級アミノ基が合計で0.004モル未満となるようなアミノ化合物の添加量では、アミノ化合物によるポリイミド鎖の架橋が十分ではないため、硬化させた後の接着層において耐熱性が発現しにくい傾向となり、アミノ化合物の添加量が1.5モルを超えると未反応のアミノ化合物が熱可塑剤として作用し、接着層の耐熱性を低下させる傾向がある。
【0082】
架橋形成のための縮合反応の条件は、接着性ポリイミドにおけるケトン基とアミノ化合物の第1級アミノ基が反応してイミン結合(C=N結合)を形成する条件であれば、特に制限されない。加熱縮合の温度は、縮合によって生成する水を系外へ放出させるため、又は接着性ポリイミドの合成後に引き続いて加熱縮合反応を行なう場合に当該縮合工程を簡略化するため等の理由で、例えば120~220℃の範囲内が好ましく、140~200℃の範囲内がより好ましい。反応時間は、30分~24時間程度が好ましく、反応の終点は、例えばフーリエ変換赤外分光光度計(市販品:日本分光製FT/IR620)を用い、赤外線吸収スペクトルを測定することによって、1670cm-1付近のポリイミド樹脂におけるケトン基に由来する吸収ピークの減少又は消失、及び1635cm-1付近のイミン基に由来する吸収ピークの出現により確認することができる。
【0083】
接着性ポリイミドのケトン基とアミノ化合物の第1級のアミノ基との加熱縮合は、例えば、(a)接着性ポリイミドの合成(イミド化)に引き続き、アミノ化合物を添加して加熱する方法、(b)ジアミン成分として予め過剰量のアミノ化合物を仕込んでおき、接着性ポリイミドの合成(イミド化)に引き続き、イミド化若しくはアミド化に関与しない残りのアミノ化合物とともに接着性ポリイミドを加熱する方法、又は、(c)アミノ化合物を添加した接着性ポリイミドの組成物を所定の形状に加工した後(例えば任意の基材に塗布した後やフィルム状に形成した後)に加熱する方法、等によって行うことができる。
【0084】
接着性ポリイミドの耐熱性付与のため、架橋構造の形成でイミン結合の形成を説明したが、これに限定されるものではなく、ポリイミドの硬化方法として、例えばエポキシ樹脂、エポキシ樹脂硬化剤、マレイミドや活性化エステル樹脂やスチレン骨格を有する樹脂等の不飽和結合を有する化合物等を配合し硬化することも可能である。
【0085】
(接着層の厚み)
接着層の厚みは、例えば5~125μmの範囲内にあることが好ましく、10~100μmの範囲内がより好ましい。接着層の厚みが上記下限値に満たないと、十分な電気絶縁性が担保出来ないなどの問題が生じることがある。一方、接着層の厚みが上記上限値を超えると、寸法安定性が低下するなどの不具合が生じる。
【0086】
(接着層のCTE)
接着性ポリイミドは、高熱膨張性であり、CTEが、好ましくは35ppm/K以上、より好ましくは35ppm/K以上200ppm/K以下の範囲内、更に好ましくは35ppm/K以上150ppm/K以下の範囲内である。使用する原料の組合せ、厚み、乾燥・硬化条件を適宜変更することで所望のCTEを有する接着層とすることができる。接着性ポリイミドは、高熱膨張性であるが低弾性であるため、CTEが30ppm/Kを超えても、積層時に発生する内部応力を緩和することができる。本発明者らは、接着性ポリイミドの特徴として、40~250℃の範囲に、温度上昇に伴って貯蔵弾性率が急勾配で減少する温度域が存在することを見出した。このような特性が、熱圧着時の内部応力を緩和し、回路加工後の寸法安定性を保持する要因であると考えられる。
【0087】
(接着層の誘電正接)
接着層は、誘電損失の悪化を抑制するために、10GHzにおける誘電正接(Tanδ)が、好ましくは0.004以下、より好ましくは0.0005以上0.004以下の範囲内、更に好ましくは0.001以上0.0035以下の範囲内がよい。接着層の10GHzにおける誘電正接が0.004を超えると、高周波信号の伝送経路上で電気信号のロスなどの不都合が生じやすくなる。一方、接着層の10GHzにおける誘電正接の下限値は特に制限されない。
【0088】
(接着層の誘電率)
接着層は、インピーダンス整合性を確保するために、10GHzにおける誘電率が4.0以下であることが好ましい。接着層の10GHzにおける誘電率が4.0を超えると、接着層の誘電損失の悪化に繋がり、高周波信号の伝送経路上で電気信号のロスなどの不都合が生じやすくなる。
【0089】
(フィラー)
接着層は、必要に応じて、フィラーを含有してもよい。フィラーとしては、例えば、二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、フッ化アルミニウム、フッ化カルシウム、有機ホスフィン酸の金属塩等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を混合して用いることができる。
【0090】
(接着フィルム)
接着性ポリイミドは、溶剤可溶性であるので、接着層を積層する場合は、ポリイミドの塗布液を塗布、乾燥して積層してもよく、また、フィルム状のポリイミド(以下「接着フィルム」という。)として積層してもよい。
【0091】
接着フィルムは、上述の接着性ポリイミドをフィルム状に形成してなるものである。フィルム状のポリイミドは、銅箔、ガラス板、ポリイミド系フィルム、ポリアミド系フィルム、ポリエステル系フィルムなどの任意の基材に積層された状態であってもよい。
【0092】
接着フィルムの製造方法の態様として、例えば、[1]支持基材に、ポリアミド酸の溶液を塗布・乾燥し、熱処理してイミド化した後、支持基材から剥がして接着フィルムを製造する方法、[2]支持基材に、ポリアミド酸の溶液を塗布・乾燥した後、ポリアミド酸のゲルフィルムを支持基材から剥がし、熱処理してイミド化して接着フィルムを製造する方法、[3]支持基材に、接着性ポリイミドの溶液を塗布・乾燥した後、支持基材から剥がして接着フィルムを製造する方法、を挙げることができる。なお、接着フィルムを構成する接着性ポリイミドについて、上記方法で架橋形成をさせてもよい。
【0093】
接着性ポリイミド溶液(又はポリアミド酸溶液)を支持基材上に塗布する方法としては特に制限されず、例えばコンマ、ダイ、ナイフ、リップ等のコーターにて塗布することが可能である。製造される接着フィルムは、ポリアミド酸溶液中でイミド化を完結させた接着性ポリイミド溶液を支持基材上に塗布・乾燥することによって形成することが好ましい。接着性ポリイミドは溶剤可溶性であるので、ポリアミド酸を溶液の状態でイミド化し、接着性ポリイミドの塗布液としてそのまま使用できるので有利である。
【0094】
なお、接着フィルムは、任意の基材上に溶液の状態(例えば、溶剤を含有するワニス状)で塗布し、例えば80~180℃の温度で乾燥した後、剥離することにより得られる。また、任意の基材をカバーレイフィルム又はソルダーレジストとし、接着層の保護層とすることもできる。
【0095】
この接着フィルムを、上記導体回路層が形成された絶縁性基材層と例えば60℃以上220℃以下の温度で熱圧着させることによって、本実施の形態の回路基板が得られる。絶縁性基材層との熱圧着を施す場合、好ましくは60℃以上180℃未満、より好ましくは80℃以上175℃以下の温度がよい。熱圧着の温度が220℃を超えると、絶縁性基材層とポリイミド層とのピール強度が低下する傾向になる。
【0096】
(ポリイミド)
次に、絶縁性基材層におけるポリイミド層を構成する好ましいポリイミドについて、非熱可塑性ポリイミド、熱可塑性ポリイミドの順に説明する。
【0097】
(非熱可塑性ポリイミド)
第1のポリイミド層(非熱可塑性ポリイミド層)を構成する非熱可塑性ポリイミドは、テトラカルボン酸残基及びジアミン残基を含むものである。非熱可塑性ポリイミドは、芳香族テトラカルボン酸二無水物から誘導される芳香族テトラカルボン酸残基及び芳香族ジアミンから誘導される芳香族ジアミン残基を含むことが好ましい。
【0098】
(テトラカルボン酸残基)
非熱可塑性ポリイミド層を構成する非熱可塑性ポリイミドは、テトラカルボン酸残基として、3,3’、4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDA)及び1,4-フェニレンビス(トリメリット酸モノエステル)二無水物(TAHQ)の少なくとも1種から誘導されるテトラカルボン酸残基並びにピロメリット酸二無水物(PMDA)及び2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物(NTCDA)の少なくとも1種から誘導されるテトラカルボン酸残基を含有する。
【0099】
BPDAから誘導されるテトラカルボン酸残基(以下、「BPDA残基」ともいう。)及びTAHQから誘導されるテトラカルボン酸残基(以下、「TAHQ残基」ともいう。)は、ポリマーの秩序構造を形成しやすく、分子の運動抑制により誘電正接や吸湿性を低下させることができる。しかし、一方でBPDA残基は、ポリイミド前駆体のポリアミド酸としてのゲル膜の自己支持性を付与できるが、イミド化後のCTEを増大させるとともに、ガラス転移温度を低くして耐熱性を低下させる傾向になる。
【0100】
このような観点から、非熱可塑性ポリイミド層を構成する非熱可塑性ポリイミドが、全テトラカルボン酸残基の100モル部に対して、BPDA残基及びTAHQ残基の合計を好ましくは30モル部以上60モル部以下の範囲内、より好ましくは40モル部以上50モル部以下の範囲内で含有するように制御する。BPDA残基及びTAHQ残基の合計が30モル部未満では、ポリマーの秩序構造の形成が不十分となって、耐吸湿性が低下したり、誘電正接の低減が不十分となり、60モル部を超えると、CTEの増加や面内リタデーション(RO)の変化量の増大のほか、耐熱性が低下したりするおそれがある。
【0101】
また、ピロメリット酸二無水物から誘導されるテトラカルボン酸残基(以下、「PMDA残基」ともいう。)及び2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物から誘導されるテトラカルボン酸残基(以下、「NTCDA残基」ともいう。)は、剛直性を有するため、面内配向性を高め、CTEを低く抑えるとともに、面内リタデーション(RO)の制御や、ガラス転移温度の制御の役割を担う残基である。一方で、PMDA残基は、分子量が小さいため、その量が多くなり過ぎると、ポリマーのイミド基濃度が高くなり、極性基が増加して吸湿性が大きくなってしまい、分子鎖内部の水分の影響により誘電正接が増加する。また、NTCDA残基は、剛直性が高いナフタレン骨格によりフィルムが脆くなりやすく、弾性率を増大させる傾向になる。そのため、非熱可塑性ポリイミド層を構成する非熱可塑性ポリイミドは、全テトラカルボン酸残基の100モル部に対して、PMDA残基及びNTCDA残基の合計を好ましくは40モル部以上70モル部以下の範囲内、より好ましくは50モル部以上60モル部以下の範囲内、さらに好ましくは50~55モル部の範囲内で含有する。PMDA残基及びNTCDA残基の合計が40モル部未満では、CTEが増加したり、耐熱性が低下したりするおそれがあり、70モル部を超えると、ポリマーのイミド基濃度が高くなり、極性基が増加して低吸湿性が損なわれ、誘電正接が増加するおそれやフィルムが脆くなりフィルムの自己支持性が低下するおそれがある。
【0102】
また、BPDA残基及びTAHQ残基の少なくとも1種並びにPMDA残基及びNTCDA残基の少なくとも1種の合計が、全テトラカルボン酸残基の100モル部に対して80モル部以上、好ましくは90モル部以上であることがよい。
【0103】
また、BPDA残基及びTAHQ残基の少なくとも1種と、PMDA残基及びNTCDA残基少なくとも1種のモル比{(BPDA残基+TAHQ残基)/(PMDA残基+NTCDA残基)}を0.4以上1.5以下の範囲内、好ましくは0.6以上1.3以下の範囲内、より好ましくは0.8以上1.2以下の範囲内とし、CTEとポリマーの秩序構造の形成を制御することがよい。
【0104】
PMDA及びNTCDAは、剛直骨格を有するため、他の一般的な酸無水物成分に比べて、ポリイミド中の分子の面内配向性の制御が可能であり、熱膨張係数(CTE)の抑制とガラス転移温度(Tg)の向上効果がある。また、BPDA及びTAHQは、PMDAと比較し分子量が大きいため、仕込み比率の増加によりイミド基濃度が低下することで、誘電正接の低下や吸湿率の低下に効果がある。一方でBPDA及びTAHQの仕込み比率が増加すると、ポリイミド中の分子の面内配向性が低下し、CTEの増加に繋がる。さらに分子内の秩序構造の形成が進み、ヘイズ値が増加する。このような観点から、PMDA及びNTCDAの合計の仕込み量は、原料の全酸無水物成分の100モル部に対し、40~70モル部の範囲内、好ましくは50~60モル部の範囲内、より好ましくは50~55モル部の範囲内がよい。原料の全酸無水物成分の100モル部に対し、PMDA及びNTCDAの合計の仕込み量が40モル部未満であると、分子の面内配向性が低下し、低CTE化が困難となり、またTgの低下による加熱時におけるフィルムの耐熱性や寸法安定性が低下する。一方、PMDA及びNTCDAの合計の仕込み量が70モル部を超えると、イミド基濃度の増加により吸湿率の悪化や、弾性率を増大させる傾向になる。
【0105】
また、BPDA及びTAHQは、分子運動の抑制やイミド基濃度の低下による低誘電正接化、吸湿率低下に効果があるが、イミド化後のポリイミドフィルムとしてのCTEを増大させる。このような観点から、BPDA及びTAHQの合計の仕込み量は、原料の全酸無水物成分の100モル部に対し、30~60モル部の範囲内、好ましくは40~50モル部の範囲内、より好ましくは40~45モル部の範囲内がよい。
【0106】
非熱可塑性ポリイミド層を構成する非熱可塑性ポリイミドに含まれる、上記BPDA残基、TAHQ残基、PMDA残基、NTCDA残基以外のテトラカルボン酸残基としては、例えば、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、4,4’-オキシジフタル酸無水物、2,3',3,4'-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2',3,3'-、2,3,3',4'-又は3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3',3,4'-ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物、3,3'',4,4''-、2,3,3'',4''-又は2,2'',3,3''-p-テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)-プロパン二無水物、ビス(2,3-又は3.4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、1,1-ビス(2,3-又は3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,2,7,8-、1,2,6,7-又は1,2,9,10-フェナンスレン-テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-アントラセンテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)テトラフルオロプロパン二無水物、2,3,5,6-シクロヘキサン二無水物、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、4,8-ジメチル-1,2,3,5,6,7-ヘキサヒドロナフタレン-1,2,5,6-テトラカルボン酸二無水物、2,6-又は2,7-ジクロロナフタレン-1,4,5,8-テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7-(又は1,4,5,8-)テトラクロロナフタレン-1,4,5,8-(又は2,3,6,7-)テトラカルボン酸二無水物、2,3,8,9-、3,4,9,10-、4,5,10,11-又は5,6,11,12-ペリレン-テトラカルボン酸二無水物、シクロペンタン-1,2,3,4-テトラカルボン酸二無水物、ピラジン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ピロリジン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、チオフェン-2,3,4,5-テトラカルボン酸二無水物、4,4’-ビス(2,3-ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルメタン二無水物、エチレングリコール ビスアンヒドロトリメリテート等の芳香族テトラカルボン酸二無水物から誘導されるテトラカルボン酸残基が挙げられる。
【0107】
(ジアミン残基)
非熱可塑性ポリイミド層を構成する非熱可塑性ポリイミドに含まれるジアミン残基としては、一般式(A1)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基が好ましい。
【0108】
【0109】
式(A1)において、連結基Xは単結合若しくは-COO-から選ばれる2価の基を示し、Yは独立に、炭素数1~3の1価の炭化水素基、若しくはアルコキシ基を示し、nは0~2の整数を示し、p及びqは独立して0~4の整数を示す。ここで、「独立に」とは、上記式(A1)において、複数の置換基Y、さらに整数p、qが、同一でもよいし、異なっていてもよいことを意味する。なお、上記式(A1)において、末端の二つのアミノ基における水素原子は置換されていてもよく、例えば-NR3R4(ここで、R3,R4は、独立してアルキル基などの任意の置換基を意味する)であってもよい。
【0110】
一般式(A1)で表されるジアミン化合物(以下、「ジアミン(A1)」と記すことがある)は、2つのベンゼン環を有する芳香族ジアミンである。ジアミン(A1)は、剛直構造を有しているため、ポリマー全体に秩序構造を付与する作用を有している。そのため、ガス透過性が低く、低吸湿性のポリイミドが得られ、分子鎖内部の水分を低減できるため、誘電正接を下げることができる。ここで、連結基Xとしては、単結合が好ましい。
【0111】
ジアミン(A1)としては、例えば、1,4-ジアミノベンゼン(p-PDA;パラフェニレンジアミン)、2,2’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル(m-TB)、2,2’-n-プロピル-4,4’-ジアミノビフェニル(m-NPB)、4-アミノフェニル-4’-アミノベンゾエート(APAB)等を挙げることができる。
【0112】
非熱可塑性ポリイミド層を構成する非熱可塑性ポリイミドは、ジアミン(A1)から誘導されるジアミン残基を、全ジアミン残基の100モル部に対して、好ましくは80モル部以上、より好ましくは85モル部以上含有することがよい。ジアミン(A1)を上記範囲内の量で使用することによって、モノマー由来の剛直構造により、ポリマー全体に秩序構造が形成されやすくなり、ガス透過性が低く、低吸湿性、かつ低誘電正接である非熱可塑性ポリイミドが得られやすい。
【0113】
また、非熱可塑性ポリイミドにおける全ジアミン残基の100モル部に対して、ジアミン(A1)から誘導されるジアミン残基が80モル部以上85モル部以下の範囲内である場合は、より剛直であり、面内配向性に優れる構造であるという観点から、ジアミン(A1)として、1,4-ジアミノベンゼンを用いることが好ましい。
【0114】
非熱可塑性ポリイミド層を構成する非熱可塑性ポリイミドに含まれるその他のジアミン残基としては、例えば、2,2-ビス-[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[1-(3-アミノフェノキシ)]ビフェニル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4-(3-アミノフェノキシ)]ベンゾフェノン、9,9-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]フルオレン、2,2-ビス-[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2-ビス-[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、3,3’-ジメチル-4,4’-ジアミノビフェニル、4,4’-メチレンジ-o-トルイジン、4,4’-メチレンジ-2,6-キシリジン、4,4’-メチレン-2,6-ジエチルアニリン、3,3’-ジアミノジフェニルエタン、3,3’-ジアミノビフェニル、3,3’-ジメトキシベンジジン、3,3''-ジアミノ-p-テルフェニル、4,4'-[1,4-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、4,4'-[1,3-フェニレンビス(1-メチルエチリデン)]ビスアニリン、ビス(p-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(p-β-アミノ-t-ブチルフェニル)エーテル、ビス(p-β-メチル-δ-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(2-メチル-4-アミノペンチル)ベンゼン、p-ビス(1,1-ジメチル-5-アミノペンチル)ベンゼン、1,5-ジアミノナフタレン、2,6-ジアミノナフタレン、2,4-ビス(β-アミノ-t-ブチル)トルエン、2,4-ジアミノトルエン、m-キシレン-2,5-ジアミン、p-キシレン-2,5-ジアミン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン、2,6-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノピリジン、2,5-ジアミノ-1,3,4-オキサジアゾール、ピペラジン、2'-メトキシ-4,4'-ジアミノベンズアニリド、4,4'-ジアミノベンズアニリド、1,3-ビス[2-(4-アミノフェニル)-2-プロピル]ベンゼン、6-アミノ-2-(4-アミノフェノキシ)ベンゾオキサゾール等の芳香族ジアミン化合物から誘導されるジアミン残基、ダイマー酸の二つの末端カルボン酸基が1級のアミノメチル基又はアミノ基に置換されてなるダイマー酸型ジアミン等の脂肪族ジアミン化合物から誘導されるジアミン残基が挙げられる。
【0115】
非熱可塑性ポリイミドにおいて、上記テトラカルボン酸残基及びジアミン残基の種類や、2種以上のテトラカルボン酸残基又はジアミン残基を適用する場合のそれぞれのモル比を選定することにより、熱膨張係数、貯蔵弾性率、引張弾性率等を制御することができる。また、非熱可塑性ポリイミドにおいて、ポリイミドの構造単位を複数有する場合は、ブロックとして存在しても、ランダムに存在していてもよいが、面内リタデーション(RO)のばらつきを抑制する観点から、ランダムに存在することが好ましい。
【0116】
なお、非熱可塑性ポリイミドに含まれるテトラカルボン酸残基及びジアミン残基を、いずれも芳香族基とすることで、ポリイミドフィルムの高温環境下での寸法精度を向上させ、面内リタデーション(RO)の変化量を小さくすることができるため好ましい。
【0117】
非熱可塑性ポリイミドのイミド基濃度は、33重量%以下であることが好ましい。ここで、「イミド基濃度」は、ポリイミド中のイミド基部(-(CO)2-N-)の分子量を、ポリイミドの構造全体の分子量で除した値を意味する。イミド基濃度が33重量%を超えると、樹脂自体の分子量が小さくなるとともに、極性基の増加によって低吸湿性も悪化する。上記酸無水物とジアミン化合物の組み合わせを選択することによって、非熱可塑性ポリイミド中の分子の配向性を制御することで、イミド基濃度低下に伴うCTEの増加を抑制し、低吸湿性を担保している。
【0118】
非熱可塑性ポリイミドの重量平均分子量は、例えば10,000~400,000の範囲内が好ましく、50,000~350,000の範囲内がより好ましい。重量平均分子量が10,000未満であると、フィルムの強度が低下して脆化しやすい傾向となる。一方、重量平均分子量が400,000を超えると、過度に粘度が増加して塗工作業の際にフィルム厚みムラ、スジ等の不良が発生しやすい傾向になる。
【0119】
(熱可塑性ポリイミド)
第2のポリイミド層(熱可塑性ポリイミド層)を構成する熱可塑性ポリイミドは、テトラカルボン酸残基及びジアミン残基を含むものであり、芳香族テトラカルボン酸二無水物から誘導される芳香族テトラカルボン酸残基及び芳香族ジアミンから誘導される芳香族ジアミン残基を含むことが好ましい。
【0120】
(テトラカルボン酸残基)
熱可塑性ポリイミド層を構成する熱可塑性ポリイミドに用いるテトラカルボン酸残基としては、上記非熱可塑性ポリイミド層を構成する非熱可塑性ポリイミドにおけるテトラカルボン酸残基として例示したものと同様のものを用いることができる。
【0121】
(ジアミン残基)
熱可塑性ポリイミド層を構成する熱可塑性ポリイミドに含まれるジアミン残基としては、上記一般式(B1)~(B7)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基が好ましい。
【0122】
熱可塑性ポリイミド層を構成する熱可塑性ポリイミドは、全ジアミン残基の100モル部に対して、ジアミン(B1)~ジアミン(B7)から選ばれる少なくとも一種のジアミン化合物から誘導されるジアミン残基を60モル部以上、好ましくは60モル部以上99モル部以下の範囲内、より好ましくは70モル部以上95モル部以下の範囲内で含有することがよい。ジアミン(B1)~ジアミン(B7)は、屈曲性を有する分子構造を持つため、これらから選ばれる少なくとも一種のジアミン化合物から誘導されるジアミン残基を上記範囲内の量で使用することによって、ポリイミド分子鎖の柔軟性を向上させ、熱可塑性を付与することができる。ジアミン(B1)~ジアミン(B7)から選ばれる少なくとも一種のジアミン化合物から誘導されるジアミン残基の合計量が全ジアミン残基の100モル部に対して60モル部未満であるとポリイミド樹脂の柔軟性不足で十分な熱可塑性が得られない。
【0123】
また、熱可塑性ポリイミド層を構成する熱可塑性ポリイミドに含まれるジアミン残基としては、上記一般式(A1)で表されるジアミン化合物から誘導されるジアミン残基も好ましい。式(A1)で表されるジアミン化合物[ジアミン(A1)]については、非熱可塑性ポリイミドの説明で述べたとおりである。ジアミン(A1)は、剛直構造を有し、ポリマー全体に秩序構造を付与する作用を有しているため、分子の運動抑制により誘電正接や吸湿性を低下させることができる。更に、熱可塑性ポリイミドの原料として使用することで、ガス透過性が低く、長期耐熱接着性に優れたポリイミドが得られる。
【0124】
熱可塑性ポリイミド層を構成する熱可塑性ポリイミドは、ジアミン(A1)から誘導されるジアミン残基を、全ジアミン残基の100モル部に対して、好ましくは1モル部以上40モル部以下の範囲内、より好ましくは5モル部以上30モル部以下の範囲内で含有してもよい。ジアミン(A1)を上記範囲内の量で使用することによって、モノマー由来の剛直構造により、ポリマー全体に秩序構造が形成されるので、熱可塑性でありながら、ガス透過性及び吸湿性が低く、長期耐熱接着性に優れたポリイミドが得られる。
【0125】
熱可塑性ポリイミド層を構成する熱可塑性ポリイミドは、発明の効果を損なわない範囲で、ジアミン(A1)、(B1)~(B7)以外のジアミン化合物から誘導されるジアミン残基を含むことができる。
【0126】
熱可塑性ポリイミドにおいて、上記テトラカルボン酸残基及びジアミン残基の種類や、2種以上のテトラカルボン酸残基又はジアミン残基を適用する場合のそれぞれのモル比を選定することにより、熱膨張係数、引張弾性率、ガラス転移温度等を制御することができる。また、熱可塑性ポリイミドにおいて、ポリイミドの構造単位を複数有する場合は、ブロックとして存在しても、ランダムに存在していてもよいが、ランダムに存在することが好ましい。
【0127】
なお、熱可塑性ポリイミドに含まれるテトラカルボン酸残基及びジアミン残基を、いずれも芳香族基とすることで、ポリイミドフィルムの高温環境下での寸法精度を向上させ、面内リタデーション(RO)の変化量を抑制することができる。
【0128】
熱可塑性ポリイミドのイミド基濃度は、33重量%以下であることが好ましい。ここで、「イミド基濃度」は、ポリイミド中のイミド基部(-(CO)2-N-)の分子量を、ポリイミドの構造全体の分子量で除した値を意味する。イミド基濃度が33重量%を超えると、樹脂自体の分子量が小さくなるとともに、極性基の増加によって低吸湿性も悪化する。上記ジアミン化合物の組み合わせを選択することによって、熱可塑性ポリイミド中の分子の配向性を制御することで、イミド基濃度低下に伴うCTEの増加を抑制し、低吸湿性を担保している。
【0129】
熱可塑性ポリイミドの重量平均分子量は、例えば10,000~400,000の範囲内が好ましく、50,000~350,000の範囲内がより好ましい。重量平均分子量が10,000未満であると、フィルムの強度が低下して脆化しやすい傾向となる。一方、重量平均分子量が400,000を超えると、過度に粘度が増加して塗工作業の際にフィルム厚みムラ、スジ等の不良が発生しやすい傾向になる。
【0130】
熱可塑性ポリイミド層を構成する熱可塑性ポリイミドは、例えば回路基板の絶縁樹脂における接着層となるため、銅の拡散を抑制するために完全にイミド化された構造が最も好ましい。但し、ポリイミドの一部がアミド酸となっていてもよい。そのイミド化率は、フーリエ変換赤外分光光度計(市販品:日本分光製FT/IR620)を用い、1回反射ATR法にてポリイミド薄膜の赤外線吸収スペクトルを測定することによって、1015cm-1付近のベンゼン環吸収体を基準とし、1780cm-1のイミド基に由来するC=O伸縮の吸光度から算出される。
【0131】
(ポリイミドの合成)
ポリイミド層を構成するポリイミドは、上記酸無水物及びジアミンを溶媒中で反応させ、前駆体樹脂を生成したのち加熱閉環させることにより製造できる。例えば、酸無水物成分とジアミン成分をほぼ等モルで有機溶媒中に溶解させて、0~100℃の範囲内の温度で30分~24時間撹拌し重合反応させることでポリイミドの前駆体であるポリアミド酸が得られる。反応にあたっては、生成する前駆体が有機溶媒中に5~30重量%の範囲内、好ましくは10~20重量%の範囲内となるように反応成分を溶解する。重合反応に用いる有機溶媒としては、例えば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAC)、N-メチル-2-ピロリドン、2-ブタノン、ジメチルスホキシド、硫酸ジメチル、シクロヘキサノン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジグライム、トリグライム等が挙げられる。これらの溶媒を2種以上併用して使用することもでき、更にはキシレン、トルエンのような芳香族炭化水素の併用も可能である。また、このような有機溶剤の使用量としては特に制限されるものではないが、重合反応によって得られるポリアミド酸溶液(ポリイミド前駆体溶液)の濃度が5~30重量%程度になるような使用量に調整して用いることが好ましい。
【0132】
ポリイミドの合成において、上記酸無水物及びジアミンはそれぞれ、その1種のみを使用してもよく2種以上を併用して使用することもできる。酸無水物及びジアミンの種類や、2種以上の酸無水物又はジアミンを使用する場合のそれぞれのモル比を選定することにより、熱膨張性、接着性、ガラス転移温度等を制御することができる。
【0133】
合成された前駆体は、通常、反応溶媒溶液として使用することが有利であるが、必要により濃縮、希釈又は他の有機溶媒に置換することができる。また、前駆体は一般に溶媒可溶性に優れるので、有利に使用される。前駆体をイミド化させる方法は、特に制限されず、例えば前記溶媒中で、80~400℃の範囲内の温度条件で1~24時間かけて加熱するといった熱処理が好適に採用される。
【0134】
ポリイミド層の形成方法については特に限定されないが、例えば、[1]支持基材に、ポリアミド酸の溶液を塗布・乾燥した後、イミド化してポリイミドフィルムを製造する方法(以下、キャスト法)、[2]支持基材に、ポリアミド酸の溶液を塗布・乾燥した後、ポリアミド酸のゲルフィルムを支持基材から剥がし、イミド化してポリイミドフィルムを製造する方法などが挙げられる。また、ポリイミドフィルムが、複数層のポリイミド層からなる場合、その製造方法の態様としては、例えば、[3]支持基材に、ポリアミド酸の溶液を塗布・乾燥することを複数回繰り返した後、イミド化を行う方法(以下、逐次塗工法)、[4]支持基材に、多層押出により、同時にポリアミド酸の積層構造体を塗布・乾燥した後、イミド化を行う方法(以下、多層押出法)などが挙げられる。ポリイミド溶液(又はポリアミド酸溶液)を基材上に塗布する方法としては特に制限されず、例えばコンマ、ダイ、ナイフ、リップ等のコーターにて塗布することが可能である。多層のポリイミド層の形成に際しては、ポリイミド溶液(又はポリアミド酸溶液)を基材に塗布、乾燥する操作を繰り返す方法が好ましい。
【0135】
本実施の形態の絶縁性基材層は、上記のポリイミドフィルムをそのまま使用することよい。また、ポリイミド層以外の樹脂層を含む場合には、他の樹脂フィルムを支持基材としてキャスト法によってポリイミド層を形成してもよいし、ポリイミドフィルムに他の樹脂層を積層して形成してもよい。
【0136】
本実施の形態の絶縁性基材層は、必要に応じて、無機フィラーを含有してもよい。具体的には、例えば二酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化ベリリウム、窒化ホウ素、窒化アルミニウム、窒化ケイ素、フッ化アルミニウム、フッ化カルシウム等が挙げられる。これらは1種又は2種以上を混合して用いることができる。
【0137】
[多層回路基板]
本実施の形態の多層回路基板は、上記実施の形態に係る複数の回路基板を積層して形成される。また、本実施の形態の多層回路基板は、任意に多層回路基板の表面に露出する導体部を有してもよい。本明細書において、「導体回路層」とは、絶縁性基材層の面方向に形成された面内接続電極(ランド電極)を意味し、導体回路層に接する層間接続電極(ビア電極)と区別している。
【0138】
本実施の形態の多層回路基板の高周波伝送特性は、接着層と内部に埋め込まれる導体回路層により確保することができる。従って、本実施の形態の多層回路基板を、高周波伝送特性が損なわれることなく、導体回路層の接着強度が高く、導体回路層の埋め込み性が高い多層回路基板とすることができる。また、本実施の形態の多層回路基板の表面に露出する導体部を設ける場合であっても、耐熱性と十分な接着強度が確保され、部品実装時の半田付けに際して表面に露出する導体部に熱や応力が印加されても、層間剥離が生じにくい。
【0139】
本実施の形態の多層回路基板において、絶縁性基材層の少なくとも片面に導体回路層が形成された回路基板を2枚準備し、この2枚の回路基板を積層して多層回路基板とする例を挙げて説明する。なお、本実施の形態は、2枚の回路基板を積層する場合を例に挙げるが、3枚以上の回路基板を積層した多層回路基板にも適用できる。
【0140】
<第1の製造工程例>
図1は、本実施の形態に係る多層回路基板の第1の製造工程例を示す工程図である。まず、導体回路層が形成された回路基板(「第1の回路基板」と記す)が2枚準備される。ここでは、第1の回路基板として、
図1(a)に示すように、ポリイミド層を含む絶縁樹脂層(以下「絶縁性基材層」という。)10の片面に導体回路層20が形成されている第1の回路基板1Aを使用する場合を例示するが、絶縁性基材層10の両面にそれぞれ導体回路層20が形成されているものでもよい。
【0141】
(接着層形成工程)
次に、
図1(b),(c)に示すように、第1の回路基板1Aにおける導体回路層20を覆うように接着層30を積層形成して第2の回路基板2Aを形成する接着層形成工程が行われる。なお、第1の回路基板1Aが、絶縁性基材層10の両面にそれぞれ導体回路層20が形成されている両面回路基板である場合は、両面にそれぞれ接着層30を積層してもよい。
【0142】
接着層形成工程は、上記第1の回路基板1Aの片面又は両面における絶縁性基材層10の露出面と導体回路層20の表面に接着層30を積層することにより行われる。例えば、接着層形成工程は、90~100℃の低温で、上記導体回路層20の表面及び上記絶縁性基材層10の露出面を覆うように、接着フィルム30Aを片面又は両面に貼り合わせることにより行うことができる。
【0143】
上記接着層形成工程では、形成される第2の回路基板2Aにおける接着層30の表面を平坦状に形成することが好ましい。接着層30の表面を平坦状に形成することにより、後述する積層工程における接着性が向上する。また、形成された接着層30の厚みを均一に形成することが好ましい。
【0144】
(積層工程)
次に、
図1(d),(e)に示すように、上記接着層30を片面又は両面に設けた複数の第2の回路基板2Aどうし、又は第2の回路基板2Aと他の回路基板(上記第1の回路基板1Aでもよい)を積層して多層回路基板100を得る積層工程が行われる。
図1(d),(e)では、第2の回路基板2Aにおける接着層30どうしを対接するように積層する態様を示しているが、第2の回路基板2Aの接着層面と、他の第2の回路基板2Aの絶縁性基材層10側の面が対接するように積層してもよい。なお、本実施の形態では、2枚の回路基板を積層する例を示したが、3枚以上の回路基板を一度に積層する積層工程を行うこともできる。
【0145】
上記接着層形成工程において、接着層30の表面が平坦化されているため、積層工程で接着層30に気泡等を生じることなく、積層することが可能となる。
【0146】
(厚み調整工程)
必要に応じて、上記積層工程で得られた多層回路基板100を、
図1(e),(f)に示すように、両側から加圧ローラやプレス装置等によって加圧することにより、上記接着層30の厚みを調整する厚み調整工程を行うこともできる。厚み調整工程により、厚みの精度を向上させることができる。
【0147】
(加熱工程)
厚み調整工程において、接着層30の厚みを調整した後、好ましくは40~250℃、より好ましくは120℃以上180℃未満の温度で加熱する加熱工程を行う。これにより、
図1(g)に示すように、複数の回路基板が一体的に積層された多層回路基板101が製造される。この際、接着層30は、例えば接着性ポリイミドの加熱縮合によるイミン結合の架橋構造を形成させることもできる。
【0148】
本実施の形態の多層回路基板101は、導体回路層20及び絶縁性基材層10の間に、絶縁性、柔軟性及び低誘電特性を確保できる厚みの接着層30を設けた構成を備えている。なお、必要に応じて接着層30の対接する面の間に、保護層としてカバーレイフィルム若しくはソルダーレジストを設けてもよい。また、本実施の形態の多層回路基板101の内部には、例えばICチップやチップコンデンサ、チップコイル、チップ抵抗等のチップ型の電子部品を内蔵することもできる。なお、
図1では、これらの電子部品や、ビア電極などは図示を省略している。
【0149】
<第2の製造工程例>
図2は、本実施の形態に係る多層回路基板の製造方法の別の例における工程図である。まず、導体回路層が形成された回路基板(「第1の回路基板」と記す)が2枚準備される。ここでは、
図2(a)に示すように、ポリイミド層を含む絶縁樹脂層(以下「絶縁性基材層」という。)10の片面に導体回路層20が形成されている第1の回路基板1Aを使用する場合を例示するが、絶縁性基材層10の両面にそれぞれ導体回路層20が形成されているものでもよい。
【0150】
(接着層形成工程)
次に、
図2(b),(c)に示すように、第1の回路基板1Aにおける導体回路層20を覆うように接着層30を積層形成して第2の回路基板2Aを形成する接着層形成工程が行われる。なお、第1の回路基板1Aが、絶縁性基材層10の両面にそれぞれ導体回路層20が形成されている両面回路基板である場合は、両面にそれぞれ接着層30を積層してもよい。
【0151】
接着層形成工程は、上記第1の回路基板1Aの片面又は両面における絶縁性基材層10の露出面と導体回路層20の表面に接着層30を積層することにより行われる。例えば、接着層形成工程は、コーター200を使用し、上記導体回路層20の表面及び上記絶縁性基材層10の露出面を覆うように、接着性ポリイミドの溶液30Bを塗布し、乾燥させて接着層30を形成する。接着性ポリイミドの溶液30Bは、回路配線への悪影響を回避しつつ、導体回路層20の回路配線間への充填性を高めるため、所定の物性に調整されたものを用いることが好ましい。
例えば、接着性ポリイミドの溶液30Bは、塗布乾燥後の反り抑制の観点から、弾性率は1.8GPa以下が好ましい。
【0152】
上記接着層形成工程では、形成される第2の回路基板2Aにおける接着層30の表面を平坦状に形成することが好ましい。接着層30の表面を平坦状に形成することにより、後述する積層工程における接着性が向上する。また、形成された接着層30の厚みを均一に形成することが好ましい。本実施の形態では、接着性ポリイミド溶液を塗布するキャスト法を採用することによって、接着層30の平坦性及び厚みの均一性の確保と、導体回路層20の回路間への充填性を確実にすることができる。
【0153】
第2の製造工程例における他の構成及び効果は、第1の製造工程例と同様である。例えば、第2の製造工程例における上記以外の工程(積層工程、厚み調整工程、加熱工程など)は、第1の製造工程例と同様であるため、
図2において
図1と同じ符号を付して説明を省略する。
【実施例】
【0154】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。なお、以下の実施例において、特にことわりのない限り各種測定、評価は下記によるものである。
【0155】
[吸湿率の測定]
試験片(幅4cm×長さ20cm)を3枚用意し、80℃で1時間乾燥した。乾燥後直ちに23℃/50%RHの恒温恒湿室に入れ、24時間以上静置し、その前後の重量変化から次式により求めた。
吸湿率(質量%)=[(吸湿後重量-乾燥後重量)/乾燥後重量]×100
【0156】
[粘度の測定]
E型粘度計(ブルックフィールド社製、商品名;DV-II+Pro)を用いて、25℃における粘度を測定した。トルクが10%~90%になるよう回転数を設定し、測定を開始してから2分経過後、粘度が安定した時の値を読み取った。
【0157】
[熱膨張係数(CTE)の測定]
3mm×20mmのサイズのポリイミドフィルムを、サーモメカニカルアナライザー(Bruker社製、商品名;4000SA)を用い、5.0gの荷重を加えながら一定の昇温速度で30℃から300℃まで昇温させ、更にその温度で10分保持した後、5℃/分の速度で冷却し、250℃から100℃までの平均熱膨張係数(熱膨張係数)を求めた。
【0158】
[ガラス転移温度(Tg)の測定]
5mm×20mmのサイズのポリイミドフィルムを、動的粘弾性測定装置(DMA:ユー・ビー・エム社製、商品名;E4000F)を用いて、30℃から400℃まで昇温速度4℃/分、周波数11Hzで測定を行い、弾性率変化(tanδ)が最大となる温度をガラス転移温度とした。
【0159】
[銅箔の表面粗度の測定]
AFM(ブルカー・エイエックスエス社製、商品名:Dimension Icon型SPM)、プローブ(ブルカー・エイエックスエス社製、商品名:TESPA(NCHV)、先端曲率半径10nm、ばね定数42N/m)を用いて、タッピングモードで、銅箔表面の80μm×80μmの範囲について測定し、十点平均粗さ(Rzjis)を求めた。
【0160】
[誘電率及び誘電正接の測定]
ベクトルネットワークアナライザ(Agilent社製、商品名;ベクトルネットワークアナライザE8363C)及びスプリットポスト誘電体共振器(SPDR)を用いて、周波数10GHzにおける樹脂シート(硬化後の樹脂シート)の誘電率(ε1)および誘電正接(Tanδ1)を測定した。なお、測定に使用した樹脂シートは、温度;24~26℃、湿度;45~55%の条件下で、24時間放置したものである。
また、樹脂積層体の誘電特性を示す指標であるE1は、下式(a)に基づいて算出した。
E1=√ε1×Tanδ1 ・・・(a)
【0161】
[レーザー加工性の評価方法]
レーザー加工性の評価は、以下の方法で行った。UV-YAG、第3高調波355nmのレーザー光を周波数60kHz、1.0Wの強度で、サンプルの多層回路基板の積層方向に照射して有底ビア加工し、接着層に抉れやアンダーカットが発生しないものを「良好」、接着層に抉れやアンダーカットが発生したものを「不良」と評価した。
【0162】
[リフロー耐熱性の測定]
リフロー耐熱性は、以下の方法で行った。サンプルの多層回路基板を40℃、湿度90%、96時間で吸湿後、120℃、2時間加熱前処理したものを、150℃から180℃に105秒、220℃以上に65秒、245℃に7秒の熱がかかるプロファイルで試験を行った。サンプルの層間に膨れが発生しないものや層の剥がれが発生しないものを「良好」、サンプルの層間に膨れの発生や層の剥がれが発生したものを「不可」と評価した。
【0163】
[ピール強度の測定]
ピール強度は、以下の方法で行った。引張試験機(東洋精機製作所製、ストログラフVE)を用いて、試験片幅5mmのサンプルを接着層の90°方向に、速度50mm/minで引っ張ったときの剥離強度を測定した。なお、ピール強度が0.9kN/m以上を「良」、ピール強度が0.4kN/m以上0.9kN/m未満を「可」、ピール強度が0.4kN/m未満を「不可」と評価した。
【0164】
[反りの評価方法]
反りの評価は、以下の方法で行った。10cm×10cmのフィルムを置き、フィルムの4隅の反り上がっている高さの平均を測定し、10mm以下を「良」、10mmを超える場合を「不可」とした。
【0165】
本実施例で用いた略号は以下の化合物を示す。
BTDA:3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物
BPDA:3,3',4,4'‐ビフェニルテトラカルボン酸二無水物
PMDA:ピロメリット酸二無水物
ODPA:4,4’-オキシジフタル酸無水物(別名;5,5’-オキシビス-1,3-イソベンゾフランジオン)
m‐TB:2,2'‐ジメチル‐4,4'‐ジアミノビフェニル
TPE-R:1,3-ビス(4‐アミノフェノキシ)ベンゼン
APB:1,3-ビス(3‐アミノフェノキシ)ベンゼン
BAPP:2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン
DDA:炭素数36の脂肪族ジアミン(クローダジャパン株式会社製、商品名;PRIAMINE1074、アミン価;210mgKOH/g、環状構造及び鎖状構造のダイマージアミンの混合物、ダイマー成分の含有量;95重量%以上)
N-12:ドデカン二酸ジヒドラジド
DMAc:N,N‐ジメチルアセトアミド
NMP:N-メチル-2-ピロリドン
【0166】
(合成例1)
<接着用の樹脂溶液の調製>
1000mlのセパラブルフラスコに、57.68gのBTDA(0.179モル)、87.10gのDDA(0.163モル)、5.26gのAPB(0.018モル)、210gのNMP及び140gのキシレンを装入し、40℃で1時間良く混合して、ポリアミド酸溶液を調製した。このポリアミド酸溶液を190℃に昇温し、4時間加熱、攪拌し、140gのキシレンを加えてイミド化を完結したポリイミド溶液1(固形分;30重量%、粘度;6,100cps、重量平均分子量;63,900)を調製した。
【0167】
(合成例2~9)
<接着層用の樹脂溶液の調製>
表1に示す原料組成とした他は、合成例1と同様にしてポリイミド溶液2~9を調製した。
【0168】
【0169】
(合成例10)
<接着層用の樹脂溶液の調製>
合成例1で調製したポリイミド溶液1の100g(固形分として30g)に1.1gのN-12(0.004モル)を配合し、0.1gのNMP及び10gのキシレンを加えて希釈し、更に1時間攪拌することでポリイミド溶液10を調製した。
【0170】
(合成例11)
<接着層用の樹脂溶液の調製>
ポリイミド溶液2を用いた他は、合成例10と同様にしてポリイミド溶液11を調製した。
【0171】
(合成例12)
<接着層用の樹脂溶液の調製>
ポリイミド溶液3を用いた他は、合成例10と同様にしてポリイミド溶液12を調製した。
【0172】
(合成例13)
<接着層用の樹脂溶液の調製>
ポリイミド溶液4を用いた他は、合成例10と同様にしてポリイミド溶液13を調製した。
【0173】
(合成例14)
<接着層用の樹脂溶液の調製>
ポリイミド溶液5を用いた他は、合成例10と同様にしてポリイミド溶液14を調製した。
【0174】
(合成例15)
<接着層用の樹脂溶液の調製>
ポリイミド溶液6を用いた他は、合成例10と同様にしてポリイミド溶液15を調製した。
【0175】
(合成例16)
熱電対および攪拌機を備えると共に窒素導入が可能な反応容器に、200gのDMAcを入れた。この反応容器に1.335gのm-TB(0.0063モル)及び10.414gのTPE-R(0.0356モル)を容器中で撹拌しながら溶解させた。次に、0.932gのPMDA(0.0043モル)及び11.319gのBPDA(0.0385モル)を加えた。その後、2時間撹拌を続け、溶液粘度1,420mPa・sのポリアミド酸の樹脂溶液aを調製した。
次に、厚さ12μmの電解銅箔の片面(Rz;2.1μm)に、ポリアミド酸の樹脂溶液aを硬化後の厚みが約25μmとなるように均一に塗布した後、120℃で加熱乾燥し溶媒を除去した。更に、120℃から360℃まで段階的な熱処理を30分以内で行い、イミド化を完結した。塩化第二鉄水溶液を用いて銅箔をエッチング除去して、ポリイミドフィルムa(熱可塑性、Tg;256℃、CTE;52ppm/K、吸湿率;0.36重量%)を調製した。
【0176】
(合成例17)
熱電対および攪拌機を備えると共に窒素導入が可能な反応容器に、250gのDMAcを入れた。この反応容器に12.323gのm-TB(0.0580モル)及び1.886gのTPE-R(0.0064モル)を容器中で撹拌しながら溶解させた。次に、8.314gのPMDA(0.0381モル)及び7.477gのBPDA(0.0254モル)を加えた。その後、3時間撹拌を続け、溶液粘度31,500mPa・sのポリアミド酸の樹脂溶液bを調製した。樹脂溶液bを用いて、合成例16と同様にして、ポリイミドフィルムb(非熱可塑性、Tg;342℃、CTE;15.6ppm/K、吸湿率;0.61重量%)を調製した。
【0177】
(作製例1)
<接着層用の樹脂シートの調製>
ポリイミド溶液10を離型処理されたPETフィルムの片面に塗布し、80℃で15分間乾燥を行った後、剥離することによって、樹脂シート1(厚さ;25μm)を調製した。この樹脂シート1をオーブンにて温度160℃、2時間の条件で加熱し、評価サンプル1を得た。評価サンプル1のガラス転移温度は41.2℃であり、誘電率及び誘電正接はそれぞれ、2.69及び0.0023であった。
【0178】
(作製例2)
<接着層用の樹脂シートの調製>
ポリイミド溶液11を使用した以外は、作製例1と同様にして、樹脂シート2を調製した後、評価サンプル2を得た。評価サンプル2のガラス転移温度は48.0℃であり、誘電率及び誘電正接はそれぞれ、2.50及び0.0022であった。
【0179】
(作製例3)
<接着層用の樹脂シートの調製>
ポリイミド溶液12を使用した以外は、作製例1と同様にして、樹脂シート3を調製した後、評価サンプル3を得た。評価サンプル3のガラス転移温度は60.2℃であり、誘電率及び誘電正接はそれぞれ、2.63及び0.0025であった。
【0180】
(作製例4)
<接着層用の樹脂シートの調製>
ポリイミド溶液13を使用した以外は、作製例1と同様にして、樹脂シート4を調製した後、評価サンプル4を得た。評価サンプル4のガラス転移温度は72.0℃であり、誘電率及び誘電正接はそれぞれ、2.70及び0.0028であった。
【0181】
(作製例5)
<接着層用の樹脂シートの調製>
ポリイミド溶液14を使用した以外は、作製例1と同様にして、樹脂シート5を調製した後、評価サンプル5を得た。評価サンプル5のガラス転移温度は39.6℃であり、誘電率及び誘電正接はそれぞれ、2.61及び0.0025であった。
【0182】
(作製例6)
<接着層用の樹脂シートの調製>
ポリイミド溶液15を使用した以外は、作製例1と同様にして、樹脂シート6を調製した後、評価サンプル6を得た。評価サンプル6のガラス転移温度は48.2℃であり、誘電率及び誘電正接はそれぞれ、2.61及び0.0023であった。
【0183】
(作製例7)
<接着層用の樹脂シートの調製>
ポリイミド溶液7を使用した以外は、作製例1と同様にして、樹脂シート7を調製した後、評価サンプル7を得た。評価サンプル7のガラス転移温度は236.3℃であり、誘電率及び誘電正接はそれぞれ、3.11及び0.0050であった。
【0184】
(作製例8)
<接着層用の樹脂シートの調製>
ポリイミド溶液8を使用した以外は、作製例1と同様にして、樹脂シート8を調製した後、評価サンプル8を得た。評価サンプル8のガラス転移温度は164.8℃であり、誘電率及び誘電正接はそれぞれ、2.90及び0.0039であった。
【0185】
(作製例9)
<接着層用の樹脂シートの調製>
ポリイミド溶液9を使用した以外は、作製例1と同様にして、樹脂シート9を調製した後、評価サンプル9を得た。評価サンプル9のガラス転移温度は195.8℃であり、誘電率及び誘電正接はそれぞれ、2.90及び0.0041であった。
【0186】
(作製例10)
<カバーレイの調製>
ポリイミド溶液7をポリイミドフィルム(東レデュポン社製、商品名;カプトンEN―S、厚さ;25μm、CTE;16ppm/K、誘電率;3.79、誘電正接;0.0126)の片面に塗布し、80℃で15分間乾燥を行い、カバーレイ10(接着層の厚さ;25μm)を調製した。
【0187】
(作製例11)
<カバーレイの調製>
ポリイミド溶液8を用いた他は、作製例10と同様にしてカバーレイ11を調製した。
【0188】
(作製例12)
<カバーレイの調製>
ポリイミド溶液9を用いた他は、作製例10と同様にしてカバーレイ12を調製した。
【0189】
(作製例13)
<銅張積層板の調製>
長尺の電解銅箔(Rz;0.8μm)の表面に、樹脂溶液aを硬化後の厚みが約2~3μmとなるように均一に塗布した後、120℃で加熱乾燥し、溶媒を除去した。次に、その上に樹脂溶液bを硬化後の厚みが約21μmとなるように均一に塗布した後、120℃で加熱乾燥し、溶媒を除去した。更に、その上に樹脂溶液aを硬化後の厚みが約2~3μmとなるように均一に塗布した後、120℃で加熱乾燥し溶媒を除去した。このようにして、3層のポリアミド酸層を形成した後、120℃から360℃まで段階的な熱処理を30分で行い、イミド化を完結し、銅張積層板1(樹脂層の厚み;25μm、誘電率;3.4、誘電正接;0.0033、E1;0.0061)を調製した。
【0190】
[実施例1]
銅張積層板1の銅箔にエッチングによる回路加工を施し、導体回路層を形成した配線基板1を調製した。配線基板1の導体回路層側の面と、銅張積層板1の絶縁性基材層側の面との間に樹脂シート1を挟み、重ね合わせた状態で、温度;160℃、圧力;4MPa、時間;60分間の条件で熱圧着して、回路基板1を調製した。回路基板1の反りは「良」、ピール強度は「良」、レーザー加工性は「良好」であった。
【0191】
[実施例2]
樹脂シート1に代えて樹脂シート2を使用したこと以外、実施例1と同様にして、回路基板2を調製した。回路基板2の反りは「良」、ピール強度は「良」、レーザー加工性は「良好」であった。
【0192】
[実施例3]
樹脂シート1に代えて樹脂シート3を使用したこと以外、実施例1と同様にして、回路基板3を調製した。回路基板3の反りは「良」、ピール強度は「良」、レーザー加工性は「良好」であった。
【0193】
[実施例4]
樹脂シート1に代えて樹脂シート4を使用したこと以外、実施例1と同様にして、回路基板4を調製した。回路基板4の反りは「良」、ピール強度は「良」、レーザー加工性は「良好」であった。
【0194】
[実施例5]
樹脂シート1に代えて樹脂シート5を使用したこと以外、実施例1と同様にして、回路基板5を調製した。回路基板5の反りは「良」、ピール強度は「良」、レーザー加工性は「良好」であった。
【0195】
[実施例6]
樹脂シート1に代えて樹脂シート6を使用したこと以外、実施例1と同様にして、回路基板6を調製した。回路基板6の反りは「良」、ピール強度は「良」、レーザー加工性は「良好」であった。
【0196】
(比較例1)
樹脂シート1に代えて樹脂シート7を使用したこと以外、実施例1と同様にして、回路基板7を調製した。回路基板7の反りは「不可」、ピール強度は「不可」、レーザー加工性は「良好」であった。
【0197】
(比較例2)
樹脂シート1に代えて樹脂シート8を使用したこと以外、実施例1と同様にして、回路基板8を調製した。回路基板8の反りは「良」、ピール強度は「可」、レーザー加工性は「不良」であった。
【0198】
(比較例3)
樹脂シート1に代えて樹脂シート9を使用したこと以外、実施例1と同様にして、回路基板9を調製した。回路基板9の反りは「不可」、ピール強度は「不可」、レーザー加工性は「良好」であった。
【0199】
[実施例7]
実施例1と同様にして、配線基板10及び配線基板10’(いずれも、配線基板1と同じもの)を準備した。配線基板10及び配線基板10’のそれぞれの導体回路層側の面に、2枚のカバーレイ10の接着層面をそれぞれ重ね合わせて積層し、カバーレイ10が積層した回路基板10及び回路基板10’を調製した。回路基板10のカバーレイ側の面と、回路基板10’のカバーレイ側の面との間に樹脂シート1を挟み、重ね合わせた状態で、温度;160℃、圧力;4MPa、時間;60分間の条件で真空ラミネートし、その後オーブンにて温度;160℃、時間;1時間の条件で熱圧着することで、多層回路基板10を調製した。多層回路基板10の反りは「良」、レーザー加工性及びリフロー耐熱性も「良好」であった。
【0200】
[実施例8]
カバーレイ10に代えてカバーレイ11を使用し、樹脂シート1に代えて樹脂シート2を使用したこと以外、実施例7と同様にして、多層回路基板11を調製した。多層回路基板11の反りは「良」、レーザー加工性及びリフロー耐熱性も「良好」であった。
【0201】
[実施例9]
カバーレイ10に代えてカバーレイ12を使用し、樹脂シート1に代えて樹脂シート3を使用したこと以外、実施例7と同様にして、多層回路基板12を調製した。多層回路基板12の反りは「良」、レーザー加工性及びリフロー耐熱性も「良好」であった。
【0202】
[実施例10]
実施例1と同様にして、配線基板13(配線基板1と同じもの)を準備した。配線基板13の導体回路層側の面にポリイミド溶液10を塗布し、80℃で15分間乾燥を行なって、接着層(厚さ;25μm)が導体回路層を被覆する回路基板13を調製した。回路基板13の反りは「良」、ピール強度は「良」、レーザー加工性は「良好」であった。
【0203】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはなく、種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0204】
1A…第1の回路基板、2A…第2の回路基板、10…絶縁性基材層、20…導体回路層、30…接着層、30A…接着シート、30B…接着性ポリイミドの溶液、100,101…多層回路基板、200…コーター