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特許7413728樹脂組成物およびそれを用いた光学フィルム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】樹脂組成物およびそれを用いた光学フィルム
(51)【国際特許分類】
   C08L 35/02 20060101AFI20240109BHJP
   C08L 25/04 20060101ALI20240109BHJP
   C08F 22/14 20060101ALI20240109BHJP
   C08F 12/04 20060101ALI20240109BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20240109BHJP
【FI】
C08L35/02
C08L25/04
C08F22/14
C08F12/04
G02B5/30
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019202885
(22)【出願日】2019-11-08
(65)【公開番号】P2021075615
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】北川 貴裕
(72)【発明者】
【氏名】小峯 拓也
【審査官】藤原 研司
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-168899(JP,A)
【文献】特開2009-168900(JP,A)
【文献】特開昭50-065550(JP,A)
【文献】特開2013-114074(JP,A)
【文献】特開2019-026678(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 6/00-246/00
C08L 1/00-101/14
G02B 5/30
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フマル酸ジイソプロピル残基単位を80モル%以上含むフマル酸エステル系重合体(A)を80重量%以上99.9重量%以下、p-ヒドロキシスチレン重合体、スチレン/p-ヒドロキシスチレン共重合体、p-ニトロスチレン/p-ヒドロキシスチレン共重合体、p-シアノスチレン/p-ヒドロキシスチレン共重合体又はp-カルボキシスチレン/p-ヒドロキシスチレン共重合体であるビニル芳香族系重合体(B)を0.1重量%以上20重量%以下含有する樹脂組成物。
【請求項2】
請求項に記載の樹脂組成物を含む光学フィルム。
【請求項3】
フィルム面内の進相軸方向の屈折率をnx、それと垂直方向の屈折率をny、フィルムの厚み方向の屈折率をnzとした場合に、nx≦ny<nzの関係にあり、波長450nmの光で測定した位相差と波長550nmの光で測定した位相差の比(R450/R550)が1.1以下である請求項に記載の光学フィルム。
【請求項4】
式(3)で示される波長550nmで測定した面内位相差(Re)が-10~300nmで、式(4)で示される面外位相差(Rth)が-30~-300nmである請求項2または3に記載の光学フィルム。
Re=(ny-nx)×d (3)
Rth=[(nx+ny)/2-nz]×d (4)
(式中、nxはフィルム面内の進相軸方向の屈折率を示し、nyはフィルム面内の遅相軸方向の屈折率を示し、nzはフィルム面外の屈折率を示し、dはフィルム厚みを示す。)
【請求項5】
90℃で24時間熱処理を実施した後、下記式(5)により示される熱処理前後の面外位相差の比(保持率)が97%以上である請求項2乃至4いずれか一項に記載の光学フィルム。
保持率=Rth/Rth×100 (5)
(ここで、Rthは熱処理前の面外位相差、Rthは熱処理後の面外位相差を示す。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学材料として好適な樹脂組成物に関するものである。さらに詳しくは、樹脂組成物および、負の複屈折を有し、位相差特性、波長依存性、位相差安定性に優れる光学フィルム、特に液晶表示素子用の光学フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイは、マルチメディア社会における最も重要な表示デバイスとして、スマートフォン、コンピュータ用モニター、ノートパソコン、テレビまで幅広く使用されている。
【0003】
液晶ディスプレイには表示特性向上のため多くの光学フィルムが用いられており、特に位相差フィルムは正面や斜めから見た場合のコントラストの向上、色調の補償等大きな役割を果たしている。従来の位相差フィルムとしては、ポリカーボネートや環状ポリオレフィンが使用されており、これらの高分子はいずれも正の複屈折を有する高分子である。ここで、複屈折の正負は以下に示すように定義される。
【0004】
延伸等で分子配向した高分子フィルムの光学異方性は、フィルムを延伸した場合のフィルム面内の進相軸方向の屈折率をnx、それと直交するフィルム面内方向の屈折率をny、フィルムの厚み方向の屈折率をnzとした屈折率楕円体で表すことができる。
【0005】
つまり、負の複屈折を有する高分子の一軸延伸では延伸軸方向の屈折率が小さく(進相軸:延伸方向)、正の複屈折を有する高分子の一軸延伸では延伸軸方向と直交する軸方向の屈折率が小さい(進相軸:延伸方向と直交方向)。
【0006】
また、面内位相差(Re)は、進相軸方向と直交方向の屈折率(ny)-進相軸方向の屈折率(nx)にフィルムの厚みを掛けた値として表される。
【0007】
多くの高分子は正の複屈折性を有する。負の複屈折を有する高分子としてはアクリル樹脂やポリスチレンがあるが、アクリル樹脂は位相差の発現性が小さく、光学補償フィルムとしての特性は十分でない。ポリスチレンは、室温領域での光弾性係数が大きくわずかな応力で位相差が変化するなど位相差の安定性の課題、位相差の波長依存性が大きいといった光学特性上の課題、更に耐熱性が低いといった実用上の課題があり現状用いられていない。
【0008】
ここで位相差の波長依存性とは、位相差が測定波長に依存して変化することを意味し、波長450nmで測定した位相差(R450)と波長550nmで測定した位相差(R550)の比R450/R550として表すことができる。一般に芳香族構造の高分子ではこのR450/R550が大きくなる傾向が強く、低波長領域でのコントラストや視野角特性が低下する。
【0009】
負の複屈折を示す高分子の延伸フィルムはフィルムの厚み方向の屈折率が高く、従来にない光学補償フィルムとなるため、例えばスーパーツイストネマチック型液晶(STN-LCD)や垂直配向型液晶(VA-LCD)、面内配向型液晶(IPS-LCD)、反射型液晶ディスプレイ、半透過型液晶ディスプレイなどのディスプレイの視角特性の補償用の光学補償フィルムや偏光板の視角を補償するための光学補償フィルムとして有用であり、負の複屈折を有する光学補償フィルムに対して市場の要求が強い。
【0010】
正の複屈折を有する高分子を用いてフィルムの厚み方向の屈折率を高めたフィルムの製造方法が提案されている。ひとつは高分子フィルムの片面または両面に熱収縮性フィルムを接着し、その積層体を加熱延伸処理して、高分子フィルムの厚み方向に収縮力をかける処理方法(例えば特許文献1~3参照)である。また、高分子フィルムに電場を印加しながら面内に一軸延伸する方法が提案されている(例えば特許文献4参照)。
【0011】
また、負の光学異方性を有する微粒子と透明性高分子からなる光学補償フィルムが提案されている(例えば特許文献5参照)。
【0012】
しかし、特許文献1~4において提案された方法は、製造工程が非常に複雑になるため生産性に劣るといった課題がある。また位相差の均一性などの制御も従来の延伸による制御に比べると著しく難しくなる。更に位相差の波長依存性が大きいなどの課題を抱えている。
【0013】
また、特許文献5で得られる光学補償フィルムは、負の光学異方性を有する微粒子を添加することにより負の複屈折を有する光学補償フィルムであり、製造方法の簡便化及び経済性の観点から、微粒子を添加する必要のない光学補償フィルムが求められている。
【0014】
また、負の複屈折を有する高分子を用いる方法が提案されており、例えば、液晶性高分子フィルムを塗布し、ホメオトロピック配向させた光学補償フィルムまたは光学補償層が提案されている(例えば特許文献6参照。)。また、ポリビニルナフタレンやポリビニルビフェニルなどの芳香族ポリマーを塗布した光学補償膜が提案されている(例えば特許文献7、非特許文献1参照。)。また、ポリビニルカルバゾール系高分子を用いた光学フィルムが提案されている(例えば特許文献8参照。)。さらに、フマル酸エステル系樹脂からなる位相差フィルムが提案されている(例えば特許文献9参照)。
【0015】
しかし、特許文献6に記載の方法では液晶性高分子を均一にホメオトロピック配向させることが難しいという課題がある。また、特許文献7、8および非特許文献1に記載の方法では、得られる膜が割れやすいことや位相差の波長依存性が大きいといった課題があり、かつ、ガラス域の光弾性係数が高く位相差が安定しないといった課題がある。
【0016】
特許文献9で得られる位相差フィルムは、位相差特性、波長依存性等の光学特性に優れてはいるものの、高温での耐久性が要求される偏光板部材として使用する場合、位相差の安定性のさらなる改善が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【文献】特許2818983号公報
【文献】特開平05-297223号公報
【文献】特開平05-323120号公報
【文献】特開平06-088909号公報
【文献】特開2005-156862号公報
【文献】特開2002-333524号公報
【文献】特開2006-221116号公報
【文献】特開2001-91746号公報
【文献】特開2008-64817号公報
【非特許文献】
【0018】
【文献】日本レオロジー学会誌Vol22、No.2、129-134(1994)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、光学フィルムとして用いた際に、高いレベルで位相差特性、波長依存性を発現し、高温環境下でもそれが維持される、位相差安定性に優れる樹脂組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、フマル酸エステル系重合体に対して、ビニル芳香族系重合体を含有させた樹脂組成物が上記課題を解決することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0021】
すなわち、本発明は、下記式(1)で表されるフマル酸ジエステル残基を含むフマル酸エステル系重合体(A)を80重量%以上99.9重量%以下、下記式(2)で表されるビニル芳香族残基単位を含むビニル芳香族系共重合体(B)を0.1重量%以上20重量%以下含有する樹脂組成物に関するものである。
【0022】
【化1】
(式中、R及びRはそれぞれ独立して炭素数1~12である直鎖状アルキル基、炭素数3~12である分岐状アルキル基、または炭素数3~6である環状アルキル基からなる群の1種を示す)
【0023】
【化2】
(式中、R3、R4、R5はそれぞれ独立して水素原子、アルキル基またはハロゲン原子からなる群の1種を示す。Xは水素原子、ヒドロキシ基、ニトロ基、シアノ基、カルボキシ基、ハロゲン原子、または炭素数1~12のアルキル基、アシルオキシ基、若しくはアルコキシ基からなる群の1種を示す。)
【0024】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0025】
本発明の樹脂組成物は、下記式(1)で表されるフマル酸ジエステル残基を含むフマル酸エステル系重合体(A)を80重量%以上99.9重量%以下、下記式(2)で表されるビニル芳香族残基単位を含むビニル芳香族系重合体(B)を0.1重量%以上20重量%以下含有する。
【0026】
【化3】
(式中、R及びRはそれぞれ独立して炭素数1~12である直鎖状アルキル基、炭素数3~12の分岐状アルキル基、または炭素数3~6である環状アルキル基からなる群の1種を示す)
【0027】
【化4】
(式中、R3、R4、R5はそれぞれ独立して水素原子、アルキル基またはハロゲン原子からなる群の1種を示す。Xは水素原子、ヒドロキシ基、ニトロ基、シアノ基、カルボキシ基、ハロゲン原子、または炭素数1~12のアルキル基、アシルオキシ基、若しくはアルコキシ基からなる群の1種を示す。)
【0028】
及びRはそれぞれ独立して炭素数1~12である直鎖状アルキル基、炭素数3~12の分岐状アルキル基、または炭素数3~6である環状アルキル基からなる群の1種を示す。該アルキル基は、フッ素原子、塩素原子などのハロゲン原子;エーテル基;エステル基若しくはアミノ基で置換されていてもよい。該アルキル基の例示として、エチル基、イソプロピル基、n-ブチル基、s-ブチル基、t-ブチル基、s-ペンチル基、t-ペンチル基、s-ヘキシル基、t-ヘキシル基、シクロプロピル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、2-エチルヘキシル基、n-オクチル基等の1種または2種以上が挙げられ、特に耐熱性、機械特性に優れた光学補償フィルムとなることからイソプロピル基、エチル基、n-ブチル、2-エチルヘキシル基、n-オクチル基からなる群の1種であることが好ましく、特に耐熱性、機械特性のバランスに優れた光学補償フィルムとなることからイソプロピル基が好ましい。
【0029】
本発明におけるフマル酸エステル系重合体(A)は、式(1)で表される残基単位以外の残基単位を含む共重合体であってもよく、また、式(1)により示される残基単位のみを有する重合体であってもよい。好ましくは、フマル酸エステル系重合体(A)は、式(1)で表される残基単位のみを有する重合体である。
【0030】
式(1)により示されるフマル酸エステル残基単位としては、具体的にはフマル酸ジメチル残基、フマル酸ジエチル残基、フマル酸ジイソプロピル残基、フマル酸ジ-tert-ブチル残基、フマル酸ジ-n-ブチル残基、フマル酸ジ-sec-ブチル残基、フマル酸イソブチル残基、フマル酸ジペンチル残基、フマル酸ジイソペンチル残基、フマル酸ジ-sec-イソアミル残基、フマル酸ジネオペンチル残基、フマル酸ジ-tert-ペンチル残基、フマル酸ジ-2-エチルヘキシル残基、フマル酸ジシクロプロピル残基、フマル酸ジシクロブチル残基、フマル酸ジシクロペンチル残基及びフマル酸ジシクロヘキシル残基からなる群の少なくとも1種が挙げられ、その中でもフマル酸ジエチル残基、フマル酸ジイソプロピル残基、フマル酸ジ-n-ブチル残基、フマル酸ジ-2-エチルヘキシル残基、フマル酸ジ-n-オクチル残基等が好ましく、特にフマル酸ジイソプロピル残基が好ましい。
【0031】
本発明で用いるフマル酸エステル系重合体(A)が共重合体である場合、式(1)で表されるフマル酸エステル残基の割合は30モル%以上であることが好ましく、特に得られる光学補償フィルムが耐熱性、機械特性により優れることから、50モル%以上であることが好ましく、70モル%以上であることがさらに好ましい。また、通常式(1)により示されるフマル酸エステル残基の割合は100%モル以下である。
【0032】
ここで、各残基単位の割合は、一般的なH-NMR測定により各成分の定量評価を行い、
各残基単位のモル数/共重合体(A)の含有する全ての残基単位のモル数の合計
で計算することができる。
【0033】
本発明で用いるフマル酸エステル系重合体(A)として、具体的に、例えばフマル酸ジイソプロピル重合体、フマル酸ジ-n-ブチル重合体、フマル酸ジイソプロピル・フマル酸ジメチル共重合体、フマル酸ジイソプロピル・フマル酸ジエチル共重合体、フマル酸ジイソプロピル・フマル酸ジ-n-ブチル共重合体、フマル酸ジイソプロピル・フマル酸ビス(2-エチルヘキシル)共重合体、フマル酸ジイソプロピル・フマル酸ジ-n-オクチル共重合体等が挙げられる。その中でも特にフマル酸ジイソプロピル重合体、フマル酸ジイソプロピル・フマル酸ジエチル共重合体、フマル酸ジイソプロピル・フマル酸ビス(2-エチルヘキシル)共重合体、フマル酸ジイソプロピル・フマル酸ジ-n-オクチル共重合体からなる群の1種が好ましい。
【0034】
本発明で用いるフマル酸エステル系重合体(A)は、少なくともフマル酸ジイソプロピル残基を含有する共重合体であることが好ましい。この場合、フマル酸ジイソプロピル残基の割合は70モル%以上、さらには80モル%以上であることが好ましい。これにより耐熱性、位相差特性に優れた光学補償フィルムとなる。
【0035】
また、本発明の樹脂組成物を構成するフマル酸エステル系重合体(A)は、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて、その他の単量体残基を含有していても良く、該その他の単量体残基としては、例えばスチレン残基、α-メチルスチレン残基等のスチレン類残基;アクリル酸残基;アクリル酸メチル残基、アクリル酸エチル残基、アクリル酸ブチル残基、アクリル酸3-エチル-3-オキセタニルメチル残基、アクリル酸テトラヒ残基ドロフルフリル残基等のアクリル酸エステル類残基;メタクリル酸残基;メタクリル酸メチル残基、メタクリル酸エチル残基、メタクリル酸ブチル残基、メタクリル酸3-エチル-3-オキセタニルメチル残基、メタクリル酸テトラヒドロフルフリル残基等のメタクリル酸エステル類残基;酢酸ビニル残基、プロピオン酸ビニル残基等のビニルエステル類残基;メチルビニルエーテル残基、エチルビニルエーテル残基、ブチルビニルエーテル残基等のビニルエーテル残基;アクリロニトリル残基;メタクリロニトリル残基;エチレン残基、プロピレン残基等のオレフィン類残基;等の1種又は2種以上を挙げることができる。
【0036】
フマル酸エステル系重合体(A)は、特に機械特性に優れ、製膜時の成形加工性に優れたものとなることから、40℃条件下、ゲル・パーミエイション・クロマトグラフィー(GPC)により測定した溶出曲線より得られる標準ポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)が1×10~5×10のものであることが好ましく、さらに好ましくは5×10~5×10またさらに好ましくは8×10~5×10である。
【0037】
本発明の樹脂組成物を構成するフマル酸エステル系重合体(A)の製造方法としては、フマル酸エステル系重合体(A)が得られる限り、特に制限はなく、例えばフマル酸エステル類のラジカル重合を行うことにより製造することができる。
【0038】
また、用いるラジカル重合法としては、公知の重合方法で行うことが可能であり、例えば塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、沈殿重合法、乳化重合法等のいずれもが採用可能である。
【0039】
ラジカル重合法を行う際の重合開始剤としては、例えばベンゾイルパーオキサイド、ラウリルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、アセチルパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルクミルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシアセテート、t-ブチルパーオキシベンゾエート、t-ブチルパーオキシピバレート等の有機過酸化物;2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2-ブチロニトリル)、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、ジメチル-2,2’-アゾビスイソブチレート、1,1’-アゾビス(シクロヘキサン-1-カルボニトリル)等のアゾ系開始剤が挙げられる。
【0040】
そして、溶液重合法、懸濁重合法、沈殿重合法、乳化重合法において使用可能な溶媒として特に制限はなく、例えばベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族溶媒;メタノール、エタノール、プロピルアルコール、ブチルアルコール等のアルコール系溶媒;シクロヘキサン;ジオキサン;テトラヒドロフラン(THF);アセトン;メチルエチルケトン;ジメチルホルムアミド;酢酸イソプロピル;水等が挙げられ、これらの混合溶媒も挙げられる。
【0041】
また、ラジカル重合を行う際の重合温度は、重合開始剤の分解温度に応じて適宜設定することができ、一般的には40℃以上150℃以下の範囲で行うことが好ましい。
【0042】
本発明における懸濁重合方法としては、公知のラジカル懸濁重合法を採用可能であり、水性媒体を用いる限り特に制限はない。また、水性媒体としては、特に制限はなく、例えば、水、工業用水、イオン交換水、蒸留水等を挙げることができる。
【0043】
本発明の懸濁重合反応において一般的に用いられる分散剤を使用することが可能であり、該分散剤に特に制限はなく、公知の分散剤を使用することができ、例えば、ポリビニルアルコール等のポリビニルアルコール系分散剤;メチルセルロース、エチルセルロース、プロピルセルロースヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、カルボキシエチルセルロース等のセルロース系分散剤;りん酸カルシウム等の無機化合物等を挙げることができ、その中でも懸濁重合がより安定することから、セルロース系分散剤が好ましく、ヒドロキシプロピルメチルセルロースがさらに好ましい。
【0044】
本発明のフマル酸エステル系重合体(A)の製造方法における水性媒体、単量体、分散剤、油溶性ラジカル重合開始剤の配合割合は、所望するフマル酸エステル系重合体の品質により適宜選択することが可能であり、その中でもより生産効率に優れたフマル酸エステル系重合体の製造方法となることから、水性媒体100重量部に対し、単量体50重量部以上150重量部以下、分散剤0.01重量部以上20重量部以下、油溶性ラジカル重合開始剤0.001重量部以上5重量部以下として用いることが好ましい。
【0045】
本発明における懸濁重合反応装置としては、特に制限はなく、公知の装置を使用することができ、例えば、撹拌翼、温度調整装置等を備えたグラスライニング(GL)、ステンレス(SUS)製等の反応釜等を挙げることができる。また、撹拌翼については、例えば、パドル翼、4枚パドル翼、アンカー翼、3枚後退翼、6枚タービン翼、ブルーマージン翼等を挙げることができる。
【0046】
本発明に係る樹脂組成物は、式(2)で示されるビニル芳香族残基単位を含むビニル芳香族系重合体を含有することにより、フィルム状に成形して用いる際に、高温下においても位相差安定性に優れたものになることを特徴とする。
【0047】
本発明において、ビニル芳香族系重合体(B)は、位相差安定化剤として使用することができる。
【0048】
3、R4、R5はそれぞれ独立して水素原子、アルキル基、またはハロゲン原子を示す。
Xは水素原子、ヒドロキシ基、ニトロ基、シアノ基、カルボキシ基、ハロゲン原子、または炭素数1~12のアルキル基、アシルオキシ基、若しくはアルコキシ基からなる群の1種を示す。
【0049】
式(2)により示されるビニル芳香族残基としては、具体的にはスチレン残基、p-ヒドロキシスチレン残基、p-ニトロスチレン残基、p-シアノスチレン残基、p-カルボキシスチレン残基、p-ブロモスチレン残基、p-ヨードスチレン残基、p-t-ブトキシスチレン残基、p-アセトキシスチレン残基からなる群の少なくとも1種が挙げられ、その中でも耐熱特性がより優れるためスチレン残基、p-ヒドロキシスチレン残基、p-ニトロスチレン残基、p-シアノスチレン残基、p-カルボキシスチレン残基、p-ブロモスチレン残基、p-ヨードスチレン残基、p-t-ブトキシスチレン残基、p-アセトキシスチレン残基等が好ましく、スチレン残基、p-ヒドロキシスチレン残基、p-ニトロスチレン残基、p-シアノスチレン残基、p-カルボキシスチレン残基からなる群の少なくとも1種がさらに好ましく、スチレン残基又はp-ヒドロキシスチレン残基の少なくともいずれかがまたさらには好ましい。
【0050】
本発明で用いるビニル芳香族系重合体(B)が共重合体である場合、式(2)で表されるビニル芳香族残基の割合は30モル%以上であることが好ましく、特に得られる光学補償フィルムが耐熱性、機械特性に優れることから、50モル%以上であることが好ましく、さらに70モル%以上であることが好ましい。
【0051】
本発明で用いるビニル芳香族系重合体(B)として、具体的に、例えばp-ヒドロキシスチレン重合体、スチレン/p-ヒドロキシスチレン共重合体、p-ニトロスチレン/p-ヒドロキシスチレン共重合体、p-シアノスチレン/p-ヒドロキシスチレン共重合体、p-カルボキシスチレン/p-ヒドロキシスチレン共重合体等が挙げられ、その中でも特にp-ヒドロキシスチレン共重合体又はスチレン/p-ヒドロキシスチレン共重合体の少なくともいずれかが好ましい。
【0052】
本発明のビニル芳香族系重合体がスチレン/p-ヒドロキシスチレン共重合体である場合、スチレン残基単位の割合は40モル%以上60モル%以下であることが好ましい。ここで、組成比はフマル酸エステル系重合体(A)と同じくH-NMRにより測定することができる。
【0053】
また、ビニル芳香族系重合体(B)は、本発明の目的を逸脱しない限りにおいて、その他の単量体残基を含有していても良く、該その他の単量体残基としては、例えばアクリル酸残基;アクリル酸メチル残基、アクリル酸エチル残基、アクリル酸ブチル残基、アクリル酸3-エチル-3-オキセタニルメチル残基、アクリル酸テトラヒ残基ドロフルフリル残基等のアクリル酸エステル類残基;メタクリル酸残基;メタクリル酸メチル残基、メタクリル酸エチル残基、メタクリル酸ブチル残基、メタクリル酸3-エチル-3-オキセタニルメチル残基、メタクリル酸テトラヒドロフルフリル残基等のメタクリル酸エステル類残基;酢酸ビニル残基、プロピオン酸ビニル残基等のビニルエステル類残基;メチルビニルエーテル残基、エチルビニルエーテル残基、ブチルビニルエーテル残基等のビニルエーテル残基;アクリロニトリル残基;メタクリロニトリル残基;エチレン残基、プロピレン残基等のオレフィン類残基;等の1種又は2種以上を挙げることができる。
【0054】
本発明のビニル芳香族系重合体(B)は、機械的性質向上、位相差安定性の観点から、標準ポリスチレン換算の重量平均分子量が100~400,000であることが好ましく、100~100,000以内であることがさらに好ましく、1,000~50,000であることが特に好ましい。ここで、重量平均分子量はフマル酸エステル系重合体(A)と同じくGPCにより測定することができる。
【0055】
本発明の樹脂組成物を構成するビニル芳香族系重合体(B)の製造方法としては、フマル酸エステル系重合体(A)と同様に、ビニル芳香族モノマーのラジカル重合を行うことにより製造することができる。この場合、所望のビニル芳香族モノマーをラジカル重合させる方法、またはp-ヒドロキシスチレンのような反応性の官能基を有するビニル芳香族モノマーをラジカル重合させて、得られた重合体の反応性官能基を反応させることで所望の構造の重合体(B)を得る方法を用いることができる。
【0056】
本発明の樹脂組成物は、フマル酸エステル系重合体(A)を80重量%以上99.9重量%以下、ビニル芳香族重合体(B)を0.01重量%以上20重量%以下含む。位相差特性がより優れるため、本発明の樹脂組成物は、好ましくは(A)を85重量%以上99.9重量%以下、(B)を0.1重量%以上15重量%以下含み、さらに好ましくは(A)を90重量%以上99.7重量%以下、(B)を0.3重量%以上10重量%以下含む。本発明の樹脂組成物において、ビニル芳香族系重合体(B)の割合が0.01重量%以上であることにより、高温環境時、位相差安定性がより向上する。また、20重量%以下であることにより、本発明の特徴である位相差特性により優れた光学フィルムを得ることができる。
【0057】
これらのビニル芳香族系重合体は1種でもよく、2種以上混合して使用してもよい。
【0058】
本発明の組成物は、フマル酸エステル系重合体(A)とビニル芳香族系重合体(B)をブレンドすることにより得ることができる。
【0059】
ブレンドの方法としては、溶融ブレンド、溶液ブレンド等の方法を用いることができる。溶融ブレンド法とは加熱により重合体を溶融させて混練することにより製造する方法である。溶液ブレンド法とは重合体を溶剤に溶解しブレンドする方法である。溶液ブレンドに用いる溶剤としては塩化メチレン、クロロホルムなどの塩素系溶剤、トルエン、キシレンなどの芳香族溶剤、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶剤、メタノール、エタノール、プロパノールなどのアルコール溶剤、ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン等を用いることができる。各重合体を溶剤に溶解したのちブレンドすることも可能であり、各樹脂の粉体、ペレット等を混練後、溶剤に溶解させることも可能である。得られたブレンド溶液を貧溶剤に投入し、樹脂組成物を析出させることも可能であり、またブレンド溶液のまま光学補償フィルムの製造に用いることも可能である。
【0060】
本発明の樹脂組成物はフィルム状に成形することにより、光学フィルムとして好適に使用することができる。
【0061】
本発明の光学フィルムの製造方法としては、特に制限はなく、例えば、本発明の樹脂組成物を溶液キャスト法、溶融キャスト法等の方法によりフィルム化することにより製造することができる。
【0062】
溶液キャスト法は、本発明の樹脂組成物を溶媒に溶解した溶液(以下、「ドープ」と称する。)を支持基板上に流延した後、加熱等により溶媒を除去しフィルムを得る方法である。その際ドープを支持基板上に流延する方法としては、例えばTダイ法、ドクターブレード法、バーコーター法、ロールコーター法、リップコーター法等が用いられる。特に、工業的にはダイからドープをベルト状又はドラム状の支持基板に連続的に押し出す方法が最も一般的である。用いられる支持基板としては、例えばガラス基板;ステンレスやフェロタイプ等の金属基板;ポリエチレンテレフタレート(PET)、トリアセチルセルロース(TAC)等のプラスチック基板などが挙げられる。溶液キャスト法において、高い透明性を有し、且つ厚み精度、表面平滑性に優れたフィルムを製膜する際には、ドープの溶液粘度は極めて重要な因子であり、700~30,000cpsが好ましく、特に1,000~10,000cpsであることが好ましい。また、溶融キャスト法とは、組成物を押出機内で溶融し、Tダイのスリットからフィルム状に押出した後、ロールやエアーなどで冷却しつつ引き取る成形法である。
【0063】
本発明の樹脂組成物を含むフィルムは、延伸することなく高い位相差を発現するものであるが、必要であれば、得られたフィルムを、一軸又は二軸に延伸してもよい。一軸延伸方法としては、例えば自由幅一軸延伸、テンターにより延伸する方法、ロール間で延伸する方法などが挙げられ、ニ軸延伸方法としては、例えばテンターにより延伸する方法、チューブ状に膨らませて延伸する方法などがある。
【0064】
延伸する際の光学フィルムの厚みは、光学部材の薄膜化への適合性および延伸処理のし易さの観点から、10μm以上200μm以下が好ましく、30μm以上180μm以下がさらに好ましく、30μm以上150μm以下が特に好ましい。
【0065】
その延伸条件としては、厚みむらが発生し難く、機械的特性、光学的特性に優れる光学フィルムとなることから、延伸温度は50℃以上200℃以下が好ましく、特に好ましくは80℃以上180℃以下であり、延伸倍率は1.01~3倍が好ましく、特に好ましくは1.01~2倍である。
【0066】
また、延伸によって得られる光学フィルムの厚みは、5μm以上100μm以下であることが好ましく、さらに好ましくは10μm以上80μm以下であり、特に好ましくは10μm以上60μm以下の範囲である。
【0067】
本発明の樹脂組成物を用いた光学フィルムは、フィルム面内の進相軸方向の屈折率をnx、それと垂直方向の屈折率をny、フィルムの厚み方向の屈折率をnzとした場合に、nx≦ny<nzの関係にあり、450nmの光で測定した位相差と550nmの光で測定した位相差の比(R450/R550)が1.1以下であることを特徴とする光学フィルムであり、前記nx≦ny<nzの関係を満たすことによりIPS-LCD等の視野角補償性能の優れた光学フィルムとなるものである。
【0068】
また、本発明の樹脂組成物を用いた光学フィルムがより光学特性に優れたフィルムとなることから、下記式(3)により示される波長589nmで測定した面内位相差(Re)が-10~300nmであることが好ましく、さらに-10~290nmであることが好ましく、特に-10~280nmであることが好ましい。
Re=(ny-nx)×d (3)
(ここで、dはフィルムの厚みを示す。)。
また、光学フィルムと偏光板を積層し一体化されてなる円偏光フィルムとして用いる際の面内位相差(Re)は、-10~280nmが好ましい。円偏光フィルムは、反射型液晶ディスプレイの補償フィルムの他、有機ELディスプレイなどの反射防止フィルム、輝度向上フィルムなどにも有用である。
【0069】
また、本発明の光学フィルムは、下記式(4)により示される波長550nmで測定した面外位相差(Rth)が-30~-300nmであることが好ましく、さらに好ましくは-50~-300nmであり、特に好ましくは-80~-300nmである。
Rth=〔(nx+ny)/2-nz〕×d (4)
【0070】
本発明の樹脂組成物はビニル芳香族系重合体(B)を含有することによって位相差安定性に優れたものとなり、高温環境下でも高い位相差安定性が要求される偏光板用途などにも有用である。本発明の樹脂組成物は、より高い位相差安定性を有する光学フィルムを得るのに好適であるため、該光学フィルムを90℃で24時間熱処理を実施した後、下記式(5)により示される熱処理前後の面外位相差の比(保持率)が97%以上であることが好ましく、98%以上であることがさらに好ましい。この際、測定時の膜厚は30~60μmである。
保持率=Rth/Rth×100 (5)
(ここで、Rthは熱処理前の面外位相差、Rthは熱処理後の面外位相差を示す。)
【0071】
本発明の光学フィルムは、フィルム成形時又はフィルム自体の熱安定性を高めるために酸化防止剤が配合されていることが好ましい。該酸化防止剤としては、例えばヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、その他酸化防止剤が挙げられ、これら酸化防止剤はそれぞれ単独又は併用して用いても良い。そして、相乗的に酸化防止作用が向上することからヒンダードフェノール系酸化防止剤とリン系酸化防止剤を併用して用いることが好ましく、その際には例えばヒンダードフェノール系酸化防止剤100重量部に対してリン系酸化防止剤を100~500重量部で混合して使用することが特に好ましい。また、酸化防止剤の添加量としては、本発明の樹脂組成物100重量部に対する重量部として表記すればよい。これは酸化防止剤以外の紫外線吸収剤も同様である。酸化防止剤は、組成物100重量部に対して0.01~10重量部が好ましく、特に0.5~1重量部が好ましい。
【0072】
さらに、紫外線吸収剤として、例えばベンゾトリアゾール、ベンゾフェノン、トリアジン、ベンゾエートなどの紫外線吸収剤を必要に応じて配合していてもよい。
【0073】
本発明の光学フィルムは、発明の主旨を越えない範囲で、その他ポリマー、界面活性剤、高分子電解質、導電性錯体、無機フィラー、顔料、染料、帯電防止剤、アンチブロッキング剤、滑剤等が配合されたものであってもよい。
【0074】
本発明の光学フィルムは、偏光板と積層して円あるいは楕円偏光板として用いることもできるし、さらに、ポリビニルアルコール/沃素等からなる偏光子と積層し偏光板とすることもできる。また、本発明の光学フィルム同士又は他の光学フィルムと積層することもできる。
本発明の樹脂組成物を用いた光学フィルムは、液晶ディスプレイのコントラストや視角特性の補償フィルムや反射防止フィルムとして有用である。
【実施例
【0075】
以下、本発明を実施例により説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、断りのない限り用いた試薬は市販品を用いた。
【0076】
なお、実施例により示す諸物性は、以下の方法により測定した。
<数平均分子量の測定>
ゲル・パーミエイション・クロマトグラフィー(GPC)装置(東ソー製、商品名:C0-8011(カラムGMHHR―Hを装着))を用い、テトラヒドロフランを溶媒として、40℃で測定し、標準ポリスチレン換算値として求めた。
<重合体の解析>
重合体の構造解析は核磁気共鳴測定装置(日本電子製、商品名:JNM-GX270)を用い、プロトン核磁気共鳴分光(H-NMR)スペクトル分析より求めた。
<光学フィルムの光線透過率およびヘーズの測定>
作成したフィルムの光線透過率およびヘーズの測定は、ヘーズメーター(日本電色工業製、商品名:NDH2000)を使用し、光線透過率の測定はJIS K 7361-1(1997版)に、ヘーズの測定はJIS-K 7136(2000年版)に、それぞれ準拠して測定した。
<位相差特性の測定>
試料傾斜型自動複屈折計(王子計測機器製、商品名:KOBRA-WR)を用いて波長589nmの光を用いて光学補償フィルムの位相差特性を測定した。
<波長分散特性の測定>
試料傾斜型自動複屈折計(王子計測機器製、商品名:KOBRA-WR)を用い、波長450nmの光による位相差Re(450)と波長550nmの光による位相差Re(550)の比として光学フィルムの波長分散特性を測定した。
<位相差の安定性の評価>
作製した光学フィルムについて、大気下、90℃で24時間熱処理を実施した後、下記式(5)により示される熱処理前後の面外位相差の比(保持率)により、位相差の安定性を評価した。
保持率=Rth/Rth×100 (5)
(ここで、Rthは熱処理前の面外位相差、Rthは熱処理後の面外位相差を示す。)
【0077】
合成例1
攪拌機、冷却管、窒素導入管及び温度計を備えた1リットル反応器に、蒸留水600g、分散剤であるヒドロキシプロピルメチルセルロース(信越化学製、商品名メトローズ60SH-50)3.4g、フマル酸ジイソプロピル400.0g及び油溶性ラジカル開始剤であるt-ブチルパーオキシピバレート8.3gを入れ、窒素バブリングを1時間行なった後、400rpmで攪拌しながら50℃で24時間保持することによりラジカル懸濁重合を行なった。重合反応の終了後、反応器より内容物を回収し、重合物をろ別し、蒸留水で2回洗浄およびメタノールで2回洗浄後、80℃で減圧乾燥した(収率:77%)。得られたフマル酸ジイソプロピル重合体の数平均分子量は129,000であった。
【0078】
合成例2
攪拌機、冷却管、窒素導入管及び温度計を備えた1リットル反応器に、蒸留水600g、分散剤であるヒドロキシプロピルメチルセルロース(信越化学製、商品名メトローズ60SH-50)3.4g、フマル酸ジイソプロピル350.9g、フマル酸ジエチル49.1g(フマル酸ジイソプロピル100重量部に対し、14.0重量部)及び油溶性ラジカル開始剤であるt-ブチルパーオキシピバレート8.3gを入れ、窒素バブリングを1時間行なった後、400rpmで攪拌しながら50℃で28時間保持することによりラジカル懸濁重合を行なった。重合反応の終了後、反応器より内容物を回収し、重合物をろ別し、蒸留水で2回洗浄およびメタノールで2回洗浄後、80℃で減圧乾燥した(収率:75%)。
得られたフマル酸エステル系重合体の数平均分子量は138,000であった。H-NMR測定により、ポリマー粒子はフマル酸ジイソプロピル残基単位/フマル酸ジエチル残基単位=86.7/13.3(モル%)であるフマル酸ジイソプロピル・フマル酸ジエチル共重合体であることを確認した。
【0079】
合成例3
攪拌機、冷却管、窒素導入管及び温度計を備えた1リットル反応器に、蒸留水600g、分散剤であるヒドロキシプロピルメチルセルロース(信越化学製、商品名メトローズ60SH-50)3.4g、フマル酸ジイソプロピル340.5g、フマル酸ジ-n-ブチル59.5g(フマル酸ジイソプロピル100重量部に対し、17.6重量部)及び油溶性ラジカル開始剤であるt-ブチルパーオキシピバレート8.3gを入れ、窒素バブリングを1時間行なった後、400rpmで攪拌しながら50℃で28時間保持することによりラジカル懸濁重合を行なった。重合反応の終了後、反応器より内容物を回収し、重合物をろ別し、蒸留水で2回洗浄およびメタノールで2回洗浄後、80℃で減圧乾燥した(収率:76%)。
得られたフマル酸エステル系重合体の数平均分子量は117,000であった。H-NMR測定により、ポリマー粒子はフマル酸ジイソプロピル残基単位/フマル酸ジ-n-ブチル残基単位=88.5/11.5(モル%)であるフマル酸ジイソプロピル・フマル酸ジ-n-ブチル共重合体であることを確認した。
【0080】
合成例4
攪拌機、冷却管、窒素導入管及び温度計を備えた1リットル反応器に、蒸留水600g、分散剤であるヒドロキシプロピルメチルセルロース(信越化学製、商品名メトローズ60SH-50)3.4g、フマル酸ジイソプロピル332.2g、フマル酸ビス(2-エチルヘキシル)67.8g(フマル酸ジイソプロピル100重量部に対し、20.4重量部)及び油溶性ラジカル開始剤であるt-ブチルパーオキシピバレート8.3gを入れ、窒素バブリングを1時間行なった後、400rpmで攪拌しながら50℃で28時間保持することによりラジカル懸濁重合を行なった。重合反応の終了後、反応器より内容物を回収し、重合物をろ別し、蒸留水で2回洗浄およびメタノールで2回洗浄後、80℃で減圧乾燥した(収率:73%)。
得られたフマル酸エステル系重合体の数平均分子量は140,000であった。H-NMR測定により、ポリマー粒子はフマル酸ジイソプロピル残基単位/フマル酸ビス(2-エチルヘキシル)残基単位=87.4/12.6(モル%)であるフマル酸ジイソプロピル・フマル酸ビス(2-エチルヘキシル)共重合体であることを確認した。
【0081】
合成例5
攪拌機、冷却管、窒素導入管及び温度計を備えた1リットル反応器に、蒸留水600g、分散剤であるヒドロキシプロピルメチルセルロース(信越化学製、商品名メトローズ60SH-50)3.4g、フマル酸ジイソプロピル350.9g、フマル酸ジ-n-オクチル67.8g(フマル酸ジイソプロピル100重量部に対し、20.4重量部)及び油溶性ラジカル開始剤であるt-ブチルパーオキシピバレート8.3gを入れ、窒素バブリングを1時間行なった後、400rpmで攪拌しながら50℃で28時間保持することによりラジカル懸濁重合を行なった。重合反応の終了後、反応器より内容物を回収し、重合物をろ別し、蒸留水で2回洗浄およびメタノールで2回洗浄後、80℃で減圧乾燥した(収率:77%)。
得られたフマル酸エステル系重合体の数平均分子量は125,000であった。H-NMR測定により、ポリマー粒子はフマル酸ジイソプロピル残基単位/フマル酸ジ-n-オクチル残基単位=87.2/12.8(モル%)であるフマル酸ジイソプロピル・フマル酸ジ-n-オクチル共重合体であることを確認した。
【0082】
合成例6(式(2)で示される残基単位を有する樹脂の前駆体(スチレン/p-tert-ブトキシスチレン共重合体)の合成)
容量75mLのガラスアンプルにスチレン25g、p-tert-ブトキシスチレ25g、および重合開始剤であるtert-ブチルパーオキシピバレート0.45gを入れ、窒素置換と抜圧を繰り返したのち減圧状態で熔封した。このアンプルを50℃の恒温槽に入れ、24時間保持することによりラジカル重合をした。重合反応終了後、アンプルから重合物を取出し、テトラヒドロフラン200gで溶解させた。このポリマー溶液を4Lのヘキサン中に滴下して析出させた後、80℃で10時間真空乾燥することにより、スチレン/p-tert-ブトキシスチレン共重合体32gを得た。得られた重合体の数平均分子量は110,000であった。
【0083】
合成例7(式(2)で示される残基単位を有する樹脂(スチレン/p-ヒドロキシスチレン共重合体)の合成)
容量500mLの四ツ口フラスコに合成例6で得られたスチレン/p-tert-ブトキシスチレン共重合体30g、メタノール170gを入れ、撹拌しながら窒素気流下で臭化水素酸15gを滴下した。滴下完了後、8時間還流した溶液を水中に投入し析出させ、水洗した後、80℃で10時間真空乾燥することにより、共重合体18gを得た。得られた共重合体の数平均分子量は108,000であった。H-NMR測定により、得られた共重合体はスチレン残基単位/p-ヒドロキシスチレン残基単位=50.4/49.6(モル%)のスチレン/p-ヒドロキシスチレン共重合体であることを確認した。
【0084】
実施例1
合成例1で得られたフマル酸ジイソプロピル重合体100重量部に対して合成例7で得られたスチレン/p-ヒドロキシスチレン共重合体を3重量部配合し、トルエン・メチルエチルケトン混合溶液(トルエン/メチルエチルケトン=50重量%/50重量%)に溶解して20%溶液とし、Tダイ法により溶液流延装置の支持基板に流延し、80℃および130℃で各々4分乾燥し、幅250mm、厚み50μmのフィルムを得た。
フィルムの3次元屈折率測定の結果(nx=1.4784、ny=1.4784、nz=1.4818)から、得られたフィルムはnx≦ny<nzとフィルムの厚み方向の屈折率が大きかった。面内位相差Re=(ny-nx)×dは0nm、面外位相差Rth=〔(nx+ny)/2-nz〕×dは-170nm、位相差の比(R450/R550)(波長依存性)は1.01、位相差の安定性の評価による面外位相差の保持率は99.2%であり、位相差の安定性に優れるものであった。一方、面内位相差Reはほとんど変化しなかった。
これらの結果から、得られたフィルムは、負の複屈折を有し、厚み方向の屈折率が大きく、波長依存性が小さく、位相差の安定性に優れることから光学フィルムに適したものであった。
【0085】
実施例2
合成例2で得られたフマル酸ジイソプロピル・フマル酸ジエチル共重合体100重量部に対して合成例7で得られたスチレン/p-ヒドロキシスチレン共重合体を3重量部配合し、トルエン・メチルエチルケトン混合溶液(トルエン/メチルエチルケトン=50重量%/50重量%)に溶解して20%溶液とし、Tダイ法により溶液流延装置の支持基板に流延し、80℃および130℃で各々4分乾燥し、幅250mm、厚み40μmのフィルムを得た。
フィルムの3次元屈折率測定の結果(nx=1.4808、ny=1.4809、nz=1.4849)から、得られたフィルムはnx≦ny<nzとフィルムの厚み方向の屈折率が大きかった。面内位相差Re=(ny-nx)×dは4.0nm、面外位相差Rth=〔(nx+ny)/2-nz〕×dは-162nm、位相差の比(R450/R550)(波長依存性)は1.01、位相差の安定性の評価による面外位相差の保持率は99.1%であり、位相差の安定性に優れるものであった。
これらの結果から、得られたフィルムは、負の複屈折を有し、厚み方向の屈折率が大きく、波長依存性が小さく、位相差の安定性に優れることから光学フィルムに適したものであった。
【0086】
実施例3
合成例3で得られたフマル酸ジイソプロピル・フマル酸ジ-n-ブチル共重合体100重量部に対して合成例7で得られたスチレン/p-ヒドロキシスチレン共重合体を3重量部配合し、トルエン・メチルエチルケトン混合溶液(トルエン/メチルエチルケトン=50重量%/50重量%)に溶解して20%溶液とし、Tダイ法により溶液流延装置の支持基板に流延し、80℃および130℃で各々4分乾燥し、幅250mm、厚み45μmのフィルムを得た。
フィルムの3次元屈折率測定の結果(nx=1.4797、ny=1.4798、nz=1.4839)から、得られたフィルムはnx≦ny<nzとフィルムの厚み方向の屈折率が大きかった。面内位相差Re=(ny-nx)×dは4.5nm、面外位相差Rth=〔(nx+ny)/2-nz〕×dは-187nm、位相差の比(R450/R550)(波長依存性)は1.01、位相差の安定性の評価による面外位相差の保持率は99.1%であり、位相差の安定性に優れるものであった。
これらの結果から、得られたフィルムは、負の複屈折を有し、厚み方向の屈折率が大きく、波長依存性が小さく、位相差の安定性に優れることから光学フィルムに適したものであった。
【0087】
実施例4
合成例4で得られたフマル酸ジイソプロピル・フマル酸ビス(2-エチルヘキシル)共重合体100重量部に対して合成例7で得られたスチレン/p-ヒドロキシスチレン共重合体を10重量部配合し、トルエン・メチルエチルケトン混合溶液(トルエン/メチルエチルケトン=50重量%/50重量%)に溶解して20%溶液とし、Tダイ法により溶液流延装置の支持基板に流延し、80℃および130℃で各々4分乾燥し、幅250mm、厚み40μmのフィルムを得た。
フィルムの3次元屈折率測定の結果(nx=1.4789、ny=1.479、nz=1.4826)から、得られたフィルムはnx≦ny<nzとフィルムの厚み方向の屈折率が大きかった。面内位相差Re=(ny-nx)×dは4.5nm、面外位相差Rth=〔(nx+ny)/2-nz〕×dは-164nm、位相差の比(R450/R550)(波長依存性)は1.01、位相差の安定性の評価による面外位相差の保持率は99.2であり、位相差の安定性に優れるものであった。
これらの結果から、得られたフィルムは、負の複屈折を有し、厚み方向の屈折率が大きく、波長依存性が小さく、位相差の安定性に優れることから光学フィルムに適したものであった。
【0088】
実施例5
合成例5で得られたフマル酸ジイソプロピル・フマル酸ジ-n-オクチル共重合体に対して合成例7で得られたスチレン/p-ヒドロキシスチレン共重合体を3重量部配合し、トルエン・メチルエチルケトン混合溶液(トルエン/メチルエチルケトン=50重量%/50重量%)に溶解して20%溶液とし、Tダイ法により溶液流延装置の支持基板に流延し、80℃および130℃で各々4分乾燥し、幅250mm、厚み50μmのフィルムを得た。得られたフィルムを一片50mmの正方形に裁断し、二軸延伸装置(井元製作所製)により温度150℃、延伸速度10mm/min.の条件にてフィルム面内のx、y方向にそれぞれ1.25倍の二軸延伸を施した。得られたフィルムの膜厚は35μmであった。
フィルムの3次元屈折率測定の結果(nx=1.4680、ny=1.4681、nz=1.4720)から、得られたフィルムはnx≦ny<nzとフィルムの厚み方向の屈折率が大きかった。面内位相差Re=(ny-nx)×dは5nm、面外位相差Rth=〔(nx+ny)/2-nz〕×dは-197nm、位相差の比(R450/R550)(波長依存性)は1.02、位相差の安定性の評価による面外位相差の保持率は99.2%であり、位相差の安定性に優れるものであった。
これらの結果から、得られたフィルムは、負の複屈折を有し、厚み方向の屈折率が大きく、波長依存性が小さく、位相差の安定性に優れることから光学フィルムに適したものであった。
【0089】
実施例6
合成例1で得られたフマル酸ジイソプロピル重合体100重量部に対して合成例7で得られたスチレン/p-ヒドロキシスチレン共重合体を3重量部配合し、トルエン・メチルエチルケトン混合溶液(トルエン/メチルエチルケトン=50重量%/50重量%)に溶解して20%溶液とし、Tダイ法により溶液流延装置の支持基板に流延し、80℃および130℃で各々4分乾燥し、幅250mm、厚み50μmのフィルムを得た。得られたフィルムを一片50mmの正方形に裁断し、二軸延伸装置(井元製作所製)により温度150℃、延伸速度10mm/min.の条件にてフィルム面内のx方向にそれぞれ1.50倍の一軸延伸を施した。得られたフィルムの膜厚は40μmであった。
フィルムの3次元屈折率測定の結果(nx=1.4675、ny=1.4724、nz=1.4725)から、得られたフィルムはnx<ny<nzとフィルムの厚み方向の屈折率が大きかった。面内位相差Re=(ny-nx)×dは196nm、面外位相差Rth=〔(nx+ny)/2-nz〕×dは-102nm、位相差の比(R450/R550)(波長依存性)は1.02、位相差の安定性の評価による面外位相差の保持率は99.1%であり、位相差の安定性に優れるものであった。
これらの結果から、得られたフィルムは、負の複屈折を有し、厚み方向の屈折率が大きく、波長依存性が小さく、位相差の安定性に優れることから光学フィルムに適したものであった。
【0090】
比較例1
合成例1で得られたフマル酸ジイソプロピル重合体をトルエン・メチルエチルケトン混合溶液(トルエン/メチルエチルケトン=50重量%/50重量%)に溶解して20%溶液とし、Tダイ法により溶液流延装置の支持基板に流延し、80℃および130℃で各々4分乾燥し、幅250mm、厚み50μmのフィルムを得た。
フィルムの3次元屈折率測定の結果(nx=1.4779、ny=1.4780、nz=1.4823)から、得られたフィルムはnx≦ny<nzとフィルムの厚み方向の屈折率が大きかった。面内位相差Re=(ny-nx)×dは5.0nm、面外位相差Rth=〔(nx+ny)/2-nz〕×dは-218nm、位相差の比(R450/R550)(波長依存性)は1.01、位相差の安定性の評価による面外位相差の保持率は88.0%であり、位相差の安定性に優れるものであった。
これらの結果から、得られたフィルムは、位相差の安定性に課題があった。
【0091】
比較例2
合成例1で得られたフマル酸ジイソプロピル重合体100重量部に対して合成例7で得られたスチレン/p-ヒドロキシスチレン共重合体を50重量部配合し、トルエン・メチルエチルケトン混合溶液(トルエン/メチルエチルケトン=50重量%/50重量%)に溶解して20%溶液とし、Tダイ法により溶液流延装置の支持基板に流延し、80℃および130℃で各々4分乾燥し、幅250mm、厚み50μmのフィルムを得た。
得られたフィルムの外観は不透明なものであり、光学フィルムに適したものではなかった。