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特許7413763多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 71/02 20060101AFI20240109BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20240109BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20240109BHJP
   B01D 67/00 20060101ALI20240109BHJP
   C01B 39/48 20060101ALI20240109BHJP
【FI】
B01D71/02
B01D69/10
B01D69/12
B01D67/00
C01B39/48
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019231258
(22)【出願日】2019-12-23
(65)【公開番号】P2020099901
(43)【公開日】2020-07-02
【審査請求日】2022-06-21
(31)【優先権主張番号】P 2018239894
(32)【優先日】2018-12-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度 独立行政法人(現・国立研究開発法人)科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業(チーム型研究(CREST))、「超空間制御に基づく高度な特性を有する革新的機能素材等の創製/精密分子ふるい機能の高度設計に基づく無機系高機能分離材料の創製/超高透過性ゼオライト膜の合成と透過特性評価」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】山田 美樹
(72)【発明者】
【氏名】岸本 友貴
(72)【発明者】
【氏名】武脇 隆彦
【審査官】片山 真紀
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/180243(WO,A1)
【文献】特開2013-226535(JP,A)
【文献】国際公開第2015/159986(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D53/22、61/00-71/82
C02F1/44
C01B33/20-39/54
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質支持体上にAFX型ゼオライト膜を有する多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の製造方法であって、
FAU型ゼオライトまたはCHA型ゼオライトを多孔質支持体の表面に付着させる工程と、
前記多孔質支持体を原料混合液に浸漬して水熱合成する工程とを備え、
前記原料混合液が、含窒素6員環化合物またはアミンがその窒素原子間を架橋して得られる2量体構造化合物、および含窒素5員環化合物のいずれか少なくとも1種類以上の化合物を含有し、かつ、アルミン酸ナトリウムおよび無定形アルミノシリケートのいずれか一方または両方を含有する、多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の製造方法。
【請求項2】
前記FAU型ゼオライトまたはCHA型ゼオライトが粉末状である、請求項1に記載の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の製造方法。
【請求項3】
前記FAU型ゼオライトまたはCHA型ゼオライトが膜状である、請求項1に記載の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の製造方法に関し、詳しくは、多孔質支持体上に緻密なAFX型ゼオライト膜が形成された多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を製造する方法に関する。本発明により製造された多孔質支持体-ゼオライト膜複合体は、気体混合物又は液体混合物から特定の成分を分離するために好適に用いられる。
【背景技術】
【0002】
火力発電所や各種プラントなどから排出されるガス(気体混合物)から、所望の気体を分離する技術として、ゼオライト膜が注目されている。ゼオライト膜の種類としては、LTA型、FAU型、MFI型、SAPO-34、DDR型、CHA型などが挙げられている。
【0003】
例えば、天然ガスの精製プラントや、生ごみなどをメタン発酵させてバイオガスを発生させるプラントで用いられる、二酸化炭素とメタンの分離用のゼオライト膜としては、DDR型ゼオライト(特許文献1)、SAPO-34(非特許文献1)、SSZ-13(非特許文献2)が知られている。
また、二酸化炭素とメタンの分離においては、SiO/Alモル比が5以上のCHA型アルミノケイ酸塩のゼオライト膜が、高い透過性能と高い分離性能を有することが開示されている(特許文献2)。
CHA型ゼオライト膜を用いてアンモニアと窒素の混合ガスからアンモニアを分離する方法も開示されている(特許文献3)。
【0004】
しかしながら、DDR型ゼオライト膜は、ゼオライトの構造が二次元であるために、二酸化炭素のパーミエンスが高いとは言えない。
また、CHA型ゼオライト膜は二酸化炭素の透過量は十分に大きいものの、細孔径が3.8Åと窒素分子のKinetic diameter(3.64Å)より大きいためか、窒素の分離性能が高いとはいえない。
【0005】
特許文献4には、緻密かつ均一な膜厚のAFX型のゼオライト膜を提供することを課題として、以下の方法が記載されている。
「ゼオライト膜複合体の製造方法であって、
a)FAU型の種結晶を取得する工程と、
b)支持体上に前記FAU型の種結晶を付着させる工程と、
c)原料溶液に前記支持体を浸漬し、水熱合成により前記FAU型の種結晶からAFX型のゼオライトを成長させて前記支持体上にAFX型のゼオライト膜を形成する工程と、
d)前記AFX型のゼオライト膜から構造規定剤を除去する工程と、
を備えることを特徴とするゼオライト膜複合体の製造方法。」
【0006】
特許文献4の0008段落には、従来技術の問題点について、
・ 支持体表面にAFX型のゼオライト膜を製造した場合、アルミニウム源であるY型のゼオライト粉末を含む原料溶液中に支持体を浸漬して水熱合成が行われるが、Y型のゼオライト粉末は、原料溶液が貯溜された容器底に沈降しやすいため、均一な膜厚のゼオライト膜を好適に製造することは困難である。
・ Y型のゼオライト粉末を含まない原料溶液を用いてAFX型のゼオライト膜を合成した場合、AFX型のゼオライトの結晶化が不十分になりやすく、AFX型のゼオライト膜を緻密に形成することが難しくなる。そのため、特にAFX型のゼオライト膜をガス分離等の用途に使用すると、分離性能を高くすることが難しい場合がある。
との記載があり、特許文献4に記載された発明では、このような従来技術の問題を解決するために、FAU型種結晶を支持体に付着させ、Al元素源を含まない原料溶液中で水熱合成を行っている。
【0007】
具体的に、特許文献4の実施例1では、モノリス型の支持体に、種結晶としてY型ゼオライト結晶を付着させた後、コロイダルシリカ、水酸化ナトリウム、および、SDA(構造規定剤)である1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタン-C4-ジクアットジブロミドを純水に溶解させた、Al元素源を含まない原料溶液に浸漬し、170℃で50時間水熱合成を行っている。
【0008】
なお、特許文献4の0042段落には、「原料溶液にはAl元素源は含まれていなくてもよいが、必要に応じて加えてもよい。」との記載はあるが、特許文献4には、具体的に支持体に種結晶を付着させた上で原料溶液にAl元素源を加えた実施例はない。また、同段落には、「このとき、原料溶液中のSi源とSDAとの配合割合等を調整することにより、緻密なゼオライト膜12を得ることができる。」との記載があり、特許文献4に記載の発明では、膜を緻密にするための条件は、Si源とSDA(構造規定剤)との配合割合であり、原料溶液中のAl元素源により膜を緻密化するとの技術思想は存在しない。
もとより、特許文献4に記載の発明は、アルミニウム源であるY型のゼオライト粉末を含む原料溶液中に支持体を浸漬して水熱合成を行う従来技術では、均一な膜厚のゼオライト膜を製造できないとの知見に基づいてなされたものであり、原料溶液にAl元素源を含有させるには阻害要因があると言える。
【0009】
また、特許文献4においては、生成したAFX型ゼオライト膜のX線回折の結果はなく、純度については言及されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2004-105942号公報
【文献】特許5957828号公報
【文献】特開2014-58433号公報
【文献】特開2019-150823号公報
【非特許文献】
【0011】
【文献】Shiguang Li et al.,"Improved SAPO-34 Membranes for CO2/CH4 Separation".Adv.Mater.2006,18,2601-2603
【文献】Halil Kalipcilar et al.,"Synthesis and Separation Performance of SSZ-13 Zeolite Membranes on Tubular Supports",Chem.Mater.2002,14,34583464
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、多孔質支持体上に純度が高く緻密なAFX型ゼオライト膜が形成された多孔質支持体-ゼオライト膜複合体であって、特に気体混合物において、窒素などの小さい分子の分離においても、分子ふるい作用による分離効果を十分に得ることができる多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を製造する方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するために本発明者らが鋭意検討した結果、AFX型ゼオライト膜を有する多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を製造するに当たり、FAU型ゼオライトまたはCHA型ゼオライトを付着させた多孔質支持体を、Al元素源を含む原料混合液に浸漬して水熱合成することにより、上記課題を解決できることがわかり本発明に到達した。
【0014】
即ち、本発明は以下を要旨とする。
【0015】
[1] 多孔質支持体上にAFX型ゼオライト膜を有する多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の製造方法であって、FAU型ゼオライトまたはCHA型ゼオライトを多孔質支持体の表面に付着させる工程と、前記多孔質支持体を原料混合液に浸漬して水熱合成する工程とを備え、前記原料混合液がAl元素源を含有する、多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の製造方法。
【0016】
[2] 前記FAU型ゼオライトまたはCHA型ゼオライトが粉末状である、[1]に記載の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の製造方法。
【0017】
[3] 前記FAU型ゼオライトまたはCHA型ゼオライトが膜状である、[1]に記載の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、多孔質支持体上に純度が高く緻密なAFX型ゼオライト膜を形成することができ、特に気体混合物の分離において、窒素などの小さい分子の分離であっても、分子ふるい作用による分離効果を十分に得ることができ、十分な処理量と分離性能で効率的な分離、濃縮を行える多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体が適用される分離膜モジュールの構成の一例を示す模式図である。
図2】比較例1で製造したゼオライト膜複合体のゼオライト膜のXRD測定チャートである。
図3】実施例1で製造したゼオライト膜複合体のゼオライト膜のXRD測定チャートである。
図4】実施例2で製造したゼオライト膜複合体のゼオライト膜のXRD測定チャートである。
図5】実施例3で製造したゼオライト膜複合体のゼオライト膜のXRD測定チャートである。
図6】実施例4で製造したゼオライト膜複合体のゼオライト膜のXRD測定チャートである。
図7】実施例5で製造したゼオライト膜複合体のゼオライト膜のXRD測定チャートである。
図8】実施例6で製造したゼオライト膜複合体のゼオライト膜のXRD測定チャートである。
図9】実施例7で製造したゼオライト膜複合体のゼオライト膜のXRD測定チャートである。
図10】比較例2で製造したゼオライト膜複合体のゼオライト膜のXRD測定チャートである。
図11】実施例8で製造したゼオライト膜複合体のゼオライト膜のXRD測定チャートである。
図12】実施例9で製造したゼオライト膜複合体のゼオライト膜のXRD測定チャートである。
図13】実施例10で製造したゼオライト膜複合体のゼオライト膜のXRD測定チャートである。
図14】実施例11で製造したゼオライト膜複合体のゼオライト膜のXRD測定チャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について更に詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施態様の一例であり、これらの内容に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0021】
本発明の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体(以下、単に「ゼオライト膜複合体」ということがある。)の製造方法は、
多孔質支持体上にAFX型ゼオライト膜を有する多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の製造方法であって、
FAU型ゼオライトまたはCHA型ゼオライトを多孔質支持体の表面に付着させる工程(以下、「第1工程」と称す場合がある。)と、
前記多孔質支持体を原料混合液に浸漬して水熱合成する工程(以下、「第2工程」と称す場合がある。)とを備え、
前記原料混合液がAl元素源を含有することを特徴とする。
【0022】
以下において、本発明の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の製造方法により製造された多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を「本発明の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体」または「本発明のゼオライト膜複合体」と称す場合がある。
また、AFX型ゼオライト膜を単に「ゼオライト膜」と称す場合がある。
【0023】
[多孔質支持体]
本発明において用いられる多孔質支持体は、その表面などにゼオライトを膜状に結晶化できるような化学的安定性を有し、かつ多孔質であれば如何なるものであってもよい。
【0024】
多孔質支持体としては、ポリスルフォン(ポリスルホン)や酢酸セルロース、芳香族ポリアミド、フッ化ビニリデン、ポリエーテルスルフォン、ポリアクリロニトリル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリイミドなどのガス透過性の多孔質高分子よりなるものや、シリカ、α-アルミナ、γ-アルミナ、ムライト、ジルコニア、チタニア、イットリア、窒化珪素、炭化珪素などのセラミックス焼結体、鉄、ブロンズ、ステンレス等の金属焼結体やメッシュ状の成形体、ガラス、カーボン成形体などの無機多孔質支持体が挙げられる。
【0025】
これらの中でも、基本的成分あるいはその大部分が無機の非金属物質から構成されている固体材料であるセラミックスを焼結したものを含む無機多孔質支持体が好ましい。このような無機多孔質支持体であれば、その一部がゼオライト膜合成中にゼオライト化することで、ゼオライト膜と多孔質支持体との界面の密着性を高める効果を得ることができる。
【0026】
セラミックス焼結体としては、例えば、シリカ、α-アルミナ、γ-アルミナなどのアルミナ、ムライト、ジルコニア、チタニア、イットリア、窒化珪素、炭化珪素などを含むセラミックス焼結体(セラミックス支持体)が挙げられる。それらの中で、アルミナ、シリカ、ムライトのうち少なくとも1種を含む無機多孔質支持体が好ましいものとして挙げられる。これらの支持体を用いれば、部分的なゼオライト化が容易であるため、多孔質支持体とゼオライト膜の結合が強固になり緻密で分離性能の高い多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を形成しやすくなる。
【0027】
本発明において用いられる多孔質支持体は、その表面(以下「多孔質支持体表面」ともいう。)において、多孔質支持体上に形成されるゼオライトを結晶化させる作用を有することが好ましい。
【0028】
前記多孔質支持体表面は、細孔径が制御されていることが好ましい。多孔質支持体表面付近における多孔質支持体の平均細孔径は、通常0.02μm以上、好ましくは0.05μm以上、更に好ましくは0.1μm以上、より好ましくは0.15μm以上、特に好ましくは0.5μm以上であり、とりわけ好ましくは1μm以上であり、通常20μm以下、好ましくは10μm以下、更に好ましくは5μm以下、特に好ましくは2μm以下である。
【0029】
多孔質支持体の表面は滑らかであることが好ましく、必要に応じて表面をやすり等で研磨してもよい。
【0030】
多孔質支持体の気孔率は、通常20%以上、好ましくは25%以上、より好ましくは30%以上であり、通常70%以下、好ましくは60%以下、より好ましくは50%以下である。多孔質支持体の気孔率は、気体や液体を分離する際の透過流量を左右し、上記下限未満では透過物の拡散を阻害する傾向があり、上記上限を超えると多孔質支持体の強度が低下する傾向がある。
【0031】
本発明において用いられる多孔質支持体の形状は、気体混合物や液体混合物を有効に分離できるものであれば制限されるものではなく、具体的には平板状、管状、円筒状、円柱状や角柱状の孔が多数存在するハニカム状のものやモノリスなどが挙げられる。
【0032】
本発明において、ゼオライトを膜状に結晶化させる多孔質支持体の表面は、支持体の形状に応じて、どの表面であってもよく、複数の面であってもよい。例えば、管状の多孔質支持体の場合には外側の表面でも内側の表面でもよく、場合によっては外側と内側の両方の表面であってよい。
【0033】
多孔質支持体の平均厚さ(肉厚)は、通常0.1mm以上、好ましくは0.3mm以上、より好ましくは0.5mm以上であり、通常7mm以下、好ましくは5mm以下、より好ましくは3mm以下である。多孔質支持体はゼオライト膜に機械的強度を与える目的で使用しているが、多孔質支持体の平均厚さが薄すぎるとゼオライト膜複合体が十分な強度を持たず、衝撃や振動等に弱くなることがある。多孔質支持体の平均厚さが厚すぎると透過した物質の拡散が悪くなり透過流束が低くなることがある。
【0034】
例えば、管状の多孔質支持体の場合、通常長さ2cm以上、好ましくは4cm以上、更に好ましくは8cm以上、特に好ましくは10cm以上、とりわけ好ましくは20cm以上であり、通常200cm、好ましくは150cm以下、より好ましくは100cm以下である。多孔質支持体の長さがこの範囲より短い場合、1本あたりの流体の分離処理量が少ない場合があり、また、この範囲より長い場合、製造に手間がかかる場合がある。
また、管状の多孔質支持体の内径は、通常0.2cm以上、好ましくは0.3cm以上、より好ましくは0.4cm以上、更に好ましくは0.5cm以上、特に好ましくは0.6cm以上、最も好ましくは0.7cm以上、より一層好ましくは0.9cm以上であり、通常2cm以下、好ましくは1.5cm以下、より好ましくは1.2cm以下である。
外径は通常0.3cm以上、好ましくは0.5cm以上、より好ましくは0.6cm以上、更に好ましくは0.8cm以上、特に好ましくは1.0cm以上であり、通常2.5cm以下、好ましくは1.7cm以下、より好ましくは1.3cm以下である。
厚さ(肉厚)は上記の通りである。
【0035】
この範囲より内径、外径、肉厚が小さい場合、多孔質支持体の強度が下がり折れやすくなる場合がある。この範囲より内径、外径が大きい場合、単位体積当たりに充填し得る多孔質支持体の本数が少なくなる場合がある。この範囲より肉厚が大きい場合は透過性能が低下する傾向がある。
【0036】
[AFX型ゼオライト]
本発明において形成するAFX型ゼオライト膜のAFX型ゼオライトとは、International Zeolite Association(IZA)が定めるゼオライトの構造を規定するコードでAFX構造のものを示し、その構造はX線回折データにより特徴付けられる。また、International Zeolite Association(IZA)がcomposite building unitとして定めるd6r、gme、およびaftを骨格中に含む
AFX型ゼオライトは酸素8員環からなる3次元細孔を有し、例えばAFX型ゼオライトの一種である物質SAPO-56においては、その細孔径は3.4×3.6Åであることが知られている。
【0037】
本発明におけるAFX型ゼオライト膜は、後述の通り、Al元素源を含む原料混合液中に、予めFAU型ゼオライトまたはCHA型ゼオライトを付着させた多孔質支持体を浸漬して水熱合成することにより形成される。
【0038】
[ゼオライト膜]
本発明におけるゼオライト膜とは、ゼオライトにより構成される膜状物のことであり、好ましくは、前記多孔質支持体の表面にゼオライトを結晶化させて形成されたものである。膜を構成するゼオライトは少なくともAFX型ゼオライトを含み、ゼオライト以外にシリカ、アルミナなどの無機バインダー、ポリマーなどの有機物、あるいはゼオライト表面を修飾するシリル化剤などを必要に応じ含んでいてもよい。
【0039】
本発明において多孔質支持体上に形成されるゼオライト膜は、ゼオライトとしてAFX型ゼオライトを含む膜であり、好ましくはAFX型ゼオライトを主成分とするAFX型ゼオライト膜である。該ゼオライト膜には、一部、MOR型、MFI型、ANA型、GIS型などの他の構造のゼオライトが含まれていてもよく、アモルファス成分などが含有されていてもよい。該ゼオライト膜は、通常70質量%以上、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上がAFX型ゼオライトで構成される。該ゼオライト膜は、ゼオライト膜表面にX線を照射して得たX線回折パターンにおいて、AFX型ゼオライトに帰属されるピークが、AFX型ゼオライトまたは多孔質支持体に帰属されない他の結晶相に由来するピークに対して、高い強度で観測されることが好ましい。AFX型ゼオライトに帰属されるピークのうち最も強度の高いピークのピーク強度をI、AFX型ゼオライトまたは多孔質支持体に帰属されない他の結晶相に由来するピークのうち最も強度の高いピークのピーク強度をIとした時、ピーク強度比I/Iが、通常1.4以下、好ましくは1.0以下、より好ましくは0.5以下、更に好ましくは0.4以下、特に好ましくは0.35以下、とりわけ好ましくは0.3以下、最も好ましくは0.2以下であり、AFX型ゼオライトおよび多孔質支持体に帰属されるピークのみが観測されることが最も好ましい。このピーク強度比は、不純物とAFX型ゼオライトの量比を比較するためのもので、製造条件によりI,Iとも回折角が変わりうるものである。
【0040】
本発明において多孔質支持体上に形成されるゼオライト膜の厚さは、特に制限されるものではないが、通常0.1μm以上であり、好ましくは0.3μm以上、より好ましくは0.5μm以上、更に好ましくは0.7μm以上、特に好ましくは1.0μm以上、最も好ましくは1.2μm以上である。また通常100μm以下であり、好ましくは80μm以下、より好ましくは60μm以下、更に好ましくは20μm以下、特に好ましくは10μm以下、最も好ましくは5μm以下の範囲である。ゼオライト膜の膜厚が厚過ぎると透過量が低下する傾向があり、薄過ぎると選択性が低下したり、膜強度が低下したりする傾向がある。
【0041】
ゼオライト膜におけるゼオライトの粒子径は特に限定されるものではないが、小さすぎると粒界が大きくなるなどして透過選択性などを低下させる傾向があることから、通常30nm以上、好ましくは50nm以上、より好ましくは100nm以上、更に好ましくは200nm以上、特に好ましくは500nm以上であり、上限は膜の厚さ以下である。更に好ましくはゼオライトの粒子径がゼオライト膜の厚さと同じである場合である。ゼオライトの粒子径がゼオライト膜の厚さと同じであるとき、ゼオライトの粒界が最も小さくなるためである。水熱合成で得られたゼオライト膜は、ゼオライトの粒子径と膜の厚さが同じになる場合があるので好ましい。
【0042】
ゼオライト膜の形状(ゼオライト膜複合体としたときの形状)は特に限定されず、管状、中空糸状、モノリス型、ハニカム型などあらゆる形状を採用できる。また大きさも特に限定されず、例えば、管状の場合は、通常長さ2cm以上200cm以下、内径0.05cm以上2cm以下、厚さ0.5mm以上4mm以下が実用的で好ましい。
【0043】
AFX型ゼオライトにおいて、ゼオライトのSiO/Alモル比(以下、「SAR」と記載する場合がある。)は特に限定されないが、通常5以上、好ましくは6以上、特に好ましくは8以上である。上限は、通常不純物程度の量であり、SiO/Alモル比としては、例えば500以下、好ましくは100以下、より好ましくは90以下、更に好ましくは80以下、特に好ましくは65以下、最も好ましくは48以下である。SiO/Alモル比が前記下限未満ではゼオライト膜の緻密性が低下する場合があり、また耐久性が低下する傾向がある。SiO/Alモル比は、後に述べる水熱合成の反応条件により調整することができる。
【0044】
なお、上述のSiO/Alモル比は、走査型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光法(SEM-EDX)により得られた数値である。数ミクロンの膜のみの情報を得るために通常は電子線の加速電圧を10kVで測定する。
【0045】
[ゼオライト膜の製造方法]
本発明において、ゼオライト膜の製造方法は、AFX型ゼオライトを含む膜を多孔質支持体上に形成可能な方法であれば特に制限されず、例えば、
(1)多孔質支持体にゼオライトを膜状に結晶化させる方法
(2)多孔質支持体にゼオライトを無機バインダー、あるいは有機バインダーなどで固着させる方法
(3)多孔質支持体にゼオライトを分散させたポリマーを固着させる方法
(4)ゼオライトのスラリーを多孔質支持体に含浸させ、場合によっては吸引することによりゼオライトを多孔質支持体に固着させる方法
などの何れの方法も用いることができる。
【0046】
これらの中で、多孔質支持体にゼオライトを膜状に結晶化させる方法が特に好ましい。結晶化の方法に特に制限はないが、多孔質支持体を、ゼオライト製造に用いる水熱合成用の反応混合物(以下これを「水性反応混合物」又は「原料混合液」と称す。)中に入れて、直接水熱合成することで支持体の表面などにゼオライトを結晶化させる方法が好ましい。
具体的には、例えば、組成を調整して均一化した水性反応混合物(原料混合液)を、多孔質支持体を内部に緩やかに固定した、オートクレーブなどの耐熱耐圧容器に入れて密閉して、一定時間加熱すればよい。
【0047】
[多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の製造方法]
本発明の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の製造方法では、FAU型ゼオライトまたはCHA型ゼオライトを多孔質支持体の表面に付着させる第1工程と、第1工程を経た多孔質支持体を、Al元素源を含有する原料混合液に浸漬して水熱合成する第2工程とを経てAFX型ゼオライト膜を有する多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を製造する。
【0048】
AFX型ゼオライトは、Al元素源を必須元素として含むため、本発明によれば、Al元素源を含む原料混合液中で水熱合成することにより、純度が高く緻密なAFX型ゼオライト膜を形成することができると考えられる。
【0049】
また、FAU型ゼオライトまたはCHA型ゼオライトを多孔質支持体に付着させ、Al元素源を含む原料混合液中で水熱合成することにより、純度が高く緻密なAFX型ゼオライト膜を形成できる作用機構の詳細は明らかではないが、以下の通り推察される。
【0050】
即ち、FAU型ゼオライトまたはCHA型ゼオライトは、AFX型ゼオライトの骨格に含まれるナノパーツの一部を、その骨格中に含んでおり、AFX型ゼオライトの種結晶として有効に機能するものである。このようなFAU型ゼオライトまたはCHA型ゼオライトを多孔質支持体の表面に付着させたものを、Al元素源を有する原料混合液に浸漬して水熱合成を行うと、多孔質支持体上のFAU型ゼオライトまたはCHA型ゼオライトから生じたナノパーツが結晶成長の核および原料となり、多孔質支持体上にAFX型ゼオライト膜が形成される。その際、多孔質支持体上でFAU型ゼオライトまたはCHA型ゼオライトから形成されるAFX型ゼオライト結晶に加えて、原料混合液中のAl元素源を利用して原料混合液からもAFX型ゼオライトが形成されるため、ナノパーツ同士が直接結合を形成することに加えて、AFX型ゼオライトを形成するのに好適な組成を有する原料混合液由来の原料でナノパーツ間の結合が形成されるため、AFX型ゼオライトが形成されやすく、また、多孔質支持体表面全体を覆うのに十分な量のAFX型ゼオライトを成長させることができ、純度が高く緻密なAFX型ゼオライト膜を形成することができる。
【0051】
これに対して、前述の特許文献4では、支持体にY型ゼオライトの種結晶を付着させているが、原料溶液中にAl元素源を含まないため、種結晶を核および原料として形成されるゼオライトのみがゼオライト膜を構成し、原料溶液側からのAFX型ゼオライトの形成が起こらないため、純度が高く緻密なAFX型ゼオライト膜を形成することは困難である。
【0052】
なお、本発明において、「緻密」とは「欠陥が少ない」ことを意味し、高結晶性でも結晶粒子間に隙間があるもの、特にAFX型ゼオライトの細孔径よりも大きい粒子間隙があることにより、AFX型ゼオライト膜における分離対象の気体の主な透過経路が間隙部分となることで、気体混合物の分離において分子ふるい作用による分離効果を十分に得ることができないものは、本発明に係る「緻密膜」には該当しない。
一方、結晶性が多少低くても、結晶粒子同士が密に集まっていれば「緻密膜」に該当する。
【0053】
<第1工程>
第1工程では、多孔質支持体の表面にFAU型ゼオライトまたはCHA型ゼオライトを付着させる。
【0054】
FAU型ゼオライトとは、International Zeolite Association(IZA)が定めるゼオライトの構造を規定するコードでFAU構造のものであり、好ましくはY型またはX型ゼオライトであり、SiO/Al比が低すぎず原料混合液中において適度に溶解するという観点から、より好ましくはY型ゼオライトである。なお、工業的に製造されるFAU型ゼオライトのうち、Si/Alモル比が約2未満のものがX型ゼオライト、約2以上のものがY型ゼオライトと、一般的に呼称される。FAU型ゼオライトは、AFX型ゼオライトと共通するナノパーツである、d6rを骨格中に含む。FAU型ゼオライトは、水熱合成により生成したものでもよいし、市販のものをそのまま使用してもよい。
【0055】
CHA型ゼオライトとは、International Zeolite Association(IZA)が定めるゼオライトの構造を規定するコードでCHA構造のものである。CHA型ゼオライトは、AFX型ゼオライトと共通するナノパーツである、d6rを骨格中に含む。CHA型ゼオライトは、水熱合成により生成したものでもよいし、市販のものをそのまま使用してもよい。
【0056】
本発明において多孔質支持体に付着させるFAU型ゼオライトまたはCHA型ゼオライトのSiO/Alモル比は、特に限定されないが、通常2以上、好ましくは3以上、より好ましくは5以上、更に好ましくは6以上である。上限は、通常Al元素源が不純物程度の量であり、SiO/Alモル比としては、例えば500以下、好ましくは200以下、より好ましくは100以下、更に好ましくは80、特に好ましくは40以下とりわけ好ましくは30以下、最も好ましくは17以下である。SiO/Al比が低すぎると原料混合液中で溶解しにくく、FAU型ゼオライトまたはCHA型ゼオライトが多孔質支持体上に残存する場合があり、AFX型ゼオライトが十分に形成されず緻密膜を得にくい傾向がある。SiO/Alモル比が高すぎると原料混合液中で溶解しやすく、AFX型ゼオライトが形成されやすくなる一方、AFX型ゼオライト膜形成過程において多孔質支持体上に残存しにくくなる場合があり、AFX型ゼオライトを緻密膜として形成しにくい傾向がある。
【0057】
本発明において多孔質支持体に付着させるFAU型ゼオライトまたはCHA型ゼオライトのSiO/Alモル比の制御方法は、特に限定されず、そのゼオライトが形成された時のSiO/Alモル比のままで用いてもよく、ゼオライトが形成された後にスチーム処理等の脱Al処理等によってSiO/Alモル比が調整されたものを用いてもよい。合成後の脱Al処理によってSiO/Alモル比を調整したものは、ゼオライト骨格からAl元素が脱離しているため、初めからそのSiO/Alモル比となるように形成されたものに比べて、原料混合液中で溶解しやすい。そのため、後処理等によるSiO/Alモル比の調整を行わず、そのゼオライトが形成された時のSiO/Alモル比のまま用いるほうが、AFX型ゼオライトを緻密膜として形成しやすく好ましい。
【0058】
本発明において多孔質支持体に付着させるFAU型ゼオライトまたはCHA型ゼオライトは、カウンターカチオンとして、有機テンプレート(構造規定剤)や、金属カチオンを含んでいても良い。
具体的には、ゼオライトの結晶化において必要に応じて用いられる、有機テンプレート(構造規定剤)を含んでいてもよいし、加熱処理や抽出などにより有機テンプレートが除去されていてもよく、また元から有機テンプレートが含まれていないものを用いてもよいが、有機テンプレートが含まれているものの方が、原料混合液中で溶解しにくく、AFX型ゼオライト結晶の核および原料となるナノパーツを生成しにくくなるものの、AFX型ゼオライト膜形成過程において多孔質支持体上に残存しやすく緻密膜を形成しやすい傾向があり、好ましい。
【0059】
また、例えば、ゼオライトの結晶構造を好適に形成するために用いられる金属カチオンが含まれていてもよいし、イオン交換処理などにより金属カチオンを除去または他の金属カチオンに交換してもよく、また元から金属カチオンが含まれていないものを用いてもよい。金属カチオンが含まれていると、原料混合液中で溶解しにくく、AFX型ゼオライト結晶の核および原料となるナノパーツを生成しにくくなる傾向があるものの、AFX型ゼオライト膜形成過程において多孔質支持体上に残存しやすく緻密膜を形成しやすい傾向があり、好ましい。
【0060】
本発明において、FAU型ゼオライトまたはCHA型ゼオライトのいずれか一方のみを多孔質支持体に付着させてもよく、両方を付着させてもよい。
これらのうち、FAUゼオライトは骨格密度がAFX型ゼオライトよりも低いため、より骨格密度の高いAFXゼオライトへの再構成が起こりやすいことから、少なくともFAUゼオライトを用いることが好ましい。
【0061】
多孔質支持体に付着させるFAU型ゼオライトまたはCHA型ゼオライトの形態は、粉末状であってもよく、膜状であってもよい。
【0062】
FAU型ゼオライトまたはCHA型ゼオライトが粉末状である場合、その粒子径は特に限定されないが、多孔質支持体上に種結晶を付着させる観点から、粒子径は支持体の細孔径に近いことが望ましく、平均一次粒子径としては、通常0.5nm以上、好ましくは1nm以上、より好ましくは2nm以上で、通常20μm以下、好ましくは15μm以下、より好ましくは10μm以下、更に好ましくは5μm以下、特に好ましくは1μm以下、とりわけ好ましくは500nm以下である。なお、本発明における平均一次粒子径とは、一次粒子の粒子径に相当する。平均一次粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)による粒子の観察において、粒子径を任意に選択した30個以上の粒子について測定し、その一次粒子の粒子径を平均して求められる。その際、粒子径は粒子の投影面積と等しい面積を持つ円の直径(円相当径)とする。
平均一次粒子径が上記下限未満であると多孔質支持体の細孔径に対して小さすぎるため十分な量を多孔質支持体表面に付着させることが難しく、また多孔質支持体の内部にまで種結晶が付着しAFX型ゼオライトが形成されることでガス透過が阻害される傾向がある。平均一次粒子径が上記上限より大きいと、多孔質支持体の細孔径に対して大きすぎるため付着させた後に脱離しやすく、ゼオライト膜に欠陥が生じる要因となり得る。
【0063】
多孔質支持体上に、FAU型またはCHA型ゼオライト粉末を付着させる方法は特に限定されず、例えば、ゼオライト粉末を水などの溶媒に分散させてその分散液に多孔質支持体を浸けて表面に種結晶を付着させるディップ法や、ゼオライト粉末を水などの溶媒に分散させてその分散液に一端を封止した多孔質支持体を浸漬したのちに多孔質支持体を他端から吸引することで多孔質支持体表面に強固にゼオライト粉末を付着させる吸引法、ゼオライト粉末を水などの溶媒と混合してスラリー状にしたものを多孔質支持体上に塗りこむ方法などを用いることができる。
【0064】
多孔質支持体上のゼオライト粉末の付着量を制御し、再現性良く多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を製造するには、ディップ法および吸引法が望ましい。ゼオライト粉末を分散させる溶媒は特に限定されないが、水が好ましい。
【0065】
分散させるゼオライト粉末の量は特に限定されず、分散液の全質量に対して、通常0.01質量%以上、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.5質量%以上である。また、通常40質量%以下、好ましくは20質量%以下、より好ましくは10質量%以下、更に好ましくは5質量%以下、特に好ましくは3質量%以下である。
分散させるゼオライト粉末の量が少なすぎると、多孔質支持体上に付着するゼオライト粉末の量が少ないため、水熱合成時に多孔質支持体表面に部分的にゼオライトが生成しない箇所ができ、欠陥のある膜となる可能性がある。ディップ法によって多孔質支持体上に付着するゼオライト粉末の量は分散液中のゼオライト粉末の量がある程度以上でほぼ一定となるため、分散液中のゼオライト粉末の量が多すぎると、ゼオライト粉末の無駄が多くなりコスト面で不利である。
【0066】
膜状のFAU型ゼオライトまたはCHA型ゼオライトを多孔質支持体に付着させる場合は、多孔質支持体上にFAU型またはCHA型のゼオライト結晶を膜状に成長させてFAU型ゼオライト膜またはCHA型ゼオライト膜を形成させればよい。
この場合、多孔質支持体上のFAU型ゼオライト膜またはCHA型ゼオライト膜の厚さには特に制限はなく、以下のゼオライト付着量を満たすような厚さであればよい。
【0067】
多孔質支持体上に予め付着させておくFAU型ゼオライトまたはCHA型ゼオライトの量は特に限定されず、多孔質支持体の表面積1mあたりの質量で、通常0.01g以上、好ましくは0.03g以上、より好ましくは0.05g以上、更に好ましくは0.1g以上であり、通常200g以下、好ましくは100g以下、より好ましくは50g以下、更に好ましくは40g以下である。
FAU型ゼオライトまたはCHA型ゼオライトの付着量が上記下限未満の場合には、結晶ができにくくなり、膜の成長が不十分になる場合や、膜の成長が不均一になったりする傾向がある。また、粉末状のFAU型ゼオライトまたはCHA型ゼオライトの付着量が上記上限を超える場合には、表面の凹凸がFAU型ゼオライトまたはCHA型ゼオライトによって増長されたり、多孔質支持体から落ちたFAU型ゼオライトまたはCHA型ゼオライトによって自発核が成長しやすくなって多孔質支持体上の膜成長が阻害されたりする場合がある。何れの場合も、緻密なAFX型ゼオライト膜が生成しにくくなる傾向となる。 膜状のFAU型ゼオライトまたはCHA型ゼオライトの付着量が上記上限を超える場合には、水熱合成後にFAU型ゼオライトまたはCHA型ゼオライトが残存する場合がある。何れの場合も、緻密なAFX型ゼオライト膜が生成しにくくなる傾向となる。
【0068】
なお、粉末状のFAU型ゼオライトまたはCHA型ゼオライトと膜状のFAU型ゼオライトまたはCHA型ゼオライトとを多孔質支持体に付着させてもよく、この場合は、予め多孔質支持体上にFAU型ゼオライトまたはCHA型ゼオライト膜を形成したものに対して、前述のディップ法等によりFAU型ゼオライトまたはCHA型ゼオライト粉末を付着させる方法、或いはFAU型ゼオライトまたはCHA型ゼオライト膜にFAU型ゼオライトまたはCHA型ゼオライト粉末を擦り込むなどの方法を採用することができる。この場合も、膜状物と粉末状物の合計の付着量が上記範囲となるようにすることが好ましい。
【0069】
<第2工程>
第2工程では、第1工程でFAU型ゼオライトまたはCHA型ゼオライトを付着させた多孔質支持体を、Al元素源を含む原料混合液に浸漬して水熱合成を行うことで、多孔質支持体上にAFX型ゼオライトを合成してAFX型ゼオライト膜を形成する。
【0070】
<原料混合液(水性反応混合物)>
第2工程で用いる原料混合液(水性反応混合物)は、Al元素源を必須成分として含むものであるが、Si元素源と必要に応じて有機テンプレート、アルカリ源、および水を含むものが好ましい。
【0071】
水性反応混合物(原料混合液)に用いるSi元素源としては、例えば、無定形シリカ、コロイダルシリカ、シリカゲル、ケイ酸ナトリウム、無定形アルミノシリケートゲル、テトラエトキシシラン(TEOS)、トリメチルエトキシシラン、水ガラス等を用いることができる。
【0072】
原料混合液(水性反応混合物)に用いるAl元素源は、特に限定されるものではなく、例えば、アルミン酸ナトリウム、水酸化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、酸化アルミニウム、無定形アルミノシリケートゲル、Y型等のゼオライトを含む固体アルミノシリケート等を用いることができる。ゼオライトの主成分となる元素のみから構成され、生成したAFX型ゼオライト膜に不純物成分を含みにくくなる観点から、アルミン酸ナトリウム、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、無定形アルミノシリケートゲル、およびY型等のゼオライトを含む固体アルミノシリケートがより好ましく、均一な原料混合液(水性反応混合物)を容易に得られることから、アルミン酸ナトリウムおよび無定形アルミノシリケートが更に好ましく、アルミン酸ナトリウムが特に好ましい。
【0073】
Si元素源とAl元素源は、得られるAFX型ゼオライトにおけるSiO/AlO3モル比が前述の好適範囲となるように用いられるが、Al元素源は、Al/SiOモル比として、原料混合液(水性反応混合物、後述の種結晶は含まれない。)中に、0.0001以上、特に0.001以上、とりわけ0.01以上含有されていることが、前述の原料混合液(水性反応混合物)中のAl元素源による効果を確実に得る上で好ましい。ただし、原料混合液(水性反応混合物)中のAl元素源量が過度に多くても、原料混合液(水性反応混合物)が糊化する場合やAFX型ゼオライト以外のゼオライトが形成されやすくなる場合があるため、原料混合液(水性反応混合物、後述の種結晶は含まれない。)中のAl元素源含有量はAl/SiOモル比として0.5以下、特に0.1以下、とりわけ0.05以下であることが好ましい。
【0074】
なお、Al元素源およびSi元素源以外に他の元素源、例えばGa、Fe、B、Ti、Zr、Sn、Znなどの元素源を用いてもよい。
【0075】
AFX型ゼオライトの結晶化において、必要に応じて有機テンプレート(構造規定剤)を用いることができ、有機テンプレートを用いて合成したものがより好ましい。有機テンプレートを用いて合成することにより、結晶化したAFX型ゼオライトのアルミニウム原子に対するケイ素原子の割合が高くなり、アルミニウム原子の電荷補償として存在する細孔内アルカリカチオン量が減少するため、カチオンによる分子拡散阻害が起こりにくく、透過能(透過性能)が向上する。
【0076】
有機テンプレートとしては、所望のAFX型ゼオライト膜を形成し得るものであれば種類は問わず、如何なるものであってもよい。また、有機テンプレートは1種類でも、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0077】
本発明に係るAFX型ゼオライトの合成では、有機テンプレートとして、通常、アミン類が用いられる。好ましくは4級アンモニウムイオンであり、具体的には、例えば1,4-ジアザビシクロ[2.2.2]オクタンやキヌクリジン等の含窒素6員環化合物や、トリエチルアミン等のアミンが、その窒素原子間を架橋して得られる2量体構造が挙げられる。架橋部分の構造としては、例えば飽和炭化水素鎖等が挙げられ、その炭素数は4又は5が好ましい。また、含窒素5員環化合物も用いることができ、例えば、2つのピロリジル基を有するピロリジン誘導体や、イミダゾールの有する2つの窒素原子に置換基を有する構造も挙げられる。この置換基は特に限定されないが、嵩高い炭化水素基やアダマンチル基等の環状構造が好ましい。
【0078】
このような有機テンプレートのカチオンは、AFX型ゼオライトの形成に害を及ぼさないアニオンを伴う。このようなアニオンを代表するものには、Cl、Br、Iなどのハロゲンイオンや水酸化物イオン、酢酸塩、硫酸塩、およびカルボン酸塩が含まれる。これらの中で、水酸化物イオンが特に好適に用いられる。
【0079】
有機テンプレートを用いる場合には、有機テンプレートの使用量は、結晶の生成しやすさの観点から、原料混合液(水性反応混合物、後述の種結晶は含まれない。)に含まれるケイ素(Si)に対するモル比で通常0.01以上、好ましくは0.05以上、より好ましくは0.1以上であり、通常1以下、好ましくは0.5以下、より好ましくは0.3以下である。有機テンプレートの使用量が上記下限値より少ないと、AFX型ゼオライトが十分に生成しない場合がある。有機テンプレートの使用量が上記上限値よりも多いと、コストが高騰し不利である。
【0080】
アルカリ源としては、有機テンプレートのカウンターアニオンの水酸化物イオン、Si元素源やAl元素源に含まれるアルカリカチオン、NaOH、KOHなどのアルカリ金属水酸化物、Ca(OH)などのアルカリ土類金属水酸化物などを用いることができる。
【0081】
アルカリの種類は特に限定されず、2種類以上を併用してもよい。通常、Na、K、Li、Rb、Cs、Ca、Mg、Sr、Baなどが用いられる。これらの中で、Naがより好ましい。
【0082】
アルカリ源は、その適当量を使用することにより、ケイ素やアルミニウムに有機テンプレートが好適な状態に配位しやすくなるため、結晶構造を作りやすくできる。アルカリ源の金属元素(R)と、原料混合液(水性反応混合物、後述の種結晶は含まれない。)に含まれるケイ素(Si)とのモル比R/Siは、通常0.1以上、好ましくは0.2以上、より好ましくは0.25以上、更に好ましくは0.3以上、特に好ましくは0.35以上であり、通常2.0以下、好ましくは1.5以下、より好ましくは1.0以下、更に好ましくは0.8以下である。
【0083】
アルカリ金属元素のケイ素に対するモル比(R/Si)が上記上限値よりも大きいと、生成したAFX型ゼオライトが溶解しやすく、AFX型ゼオライトが得られなかったり収率が著しく低くなったりする場合がある。R/Siが上記下限値よりも小さいと、原料のSi元素源やAl元素源が十分に溶解せず、均一な原料混合液(水性反応混合物)が得られず、AFX型ゼオライトが生成しにくくなる場合がある。
【0084】
原料混合液(水性反応混合物)中の水の量は、結晶の生成しやすさの観点から、原料混合液(水性反応混合物、後述の種結晶は含まれない。)に含まれるケイ素(Si)に対するモル比で通常3以上、好ましくは5以上、より好ましくは8以上、更に好ましくは10以上である。また廃液処理にかかるコスト抑制の点から、通常100モル以下、好ましくは50以下である。
【0085】
本発明では、多孔質支持体に予めFAU型ゼオライトまたはCHA型ゼオライトを付着させているため、水熱合成に際して、必ずしも原料混合液中に種結晶を存在させる必要は無いが、原料混合液に種結晶を加えることで、AFX型ゼオライトの結晶化を促進できる。
【0086】
使用する種結晶としては、結晶化を促進するゼオライトであれば種類は問わないが、効率よく結晶化させるためには、骨格を形成するナノパーツの構造がAFX型ゼオライトと同じであることが好ましい。具体的には、International Zeolite Association(IZA)がcomposite building unitとして定めるd6r、gme、あるいはaftを骨格中に含むものが、AFX型ゼオライトに再構成されやすく好ましい。
【0087】
d6rを骨格中に含むゼオライト構造はAEI、AFT、AFV、AFX、AVL、CHA、EAB、EMT、ERI、FAU、GME、JSR、KFI、LEV、LTL、LTN、MOZ、MSO、MWW、OFF、SAS、SAT、SAV、SBS、SBTSFW、SSF、SWY、SZR、TSC、WEN、SVYが挙げられる。gmeを骨格中に含むゼオライト構造はAFX、EAB、EON、GME、LTF、MAZ、OFF、SFW、SWYが挙げられる。aftを骨格中に含むゼオライト構造はAFT、AFXが挙げられる。これらのうち、AFX、CHA、FAUがより好ましい。中でも、FAUは骨格密度がAFXよりも低いため、より骨格密度の高いAFXへの再構成が起こりやすいことから、特に好ましい。
【0088】
種結晶の粒子径は特に限定されない。種結晶の粒子径は、SEMにより観察される平均一次粒子径で通常0.5nm以上、好ましくは1nm以上、より好ましくは2nm以上で、通常20μm以下、好ましくは15μm以下、より好ましくは10μm以下、更に好ましくは5μm以下、特に好ましくは1μm以下、とりわけ好ましくは500nm以下である。原料混合液(水性反応混合物)に加える種結晶として、粒子径の小さい種結晶を用いることで、種結晶が原料混合液(水性反応混合物)中で沈降せずより均一に分散するため、より効率よくAFX型ゼオライトの結晶化を促進できる。
【0089】
原料混合液(水性反応混合物)中に種結晶を含有させる場合、原料混合液(水性反応混合物)中に含有させる種結晶の量は特に限定されず、原料混合液水性反応混合物)の全質量に対して、通常0.001質量%以上、好ましくは0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上である。また、通常50質量%以下、好ましくは40質量%以下、より好ましくは30質量%以下、更に好ましくは質量20%以下、特に好ましくは10質量%以下である。
原料混合液(水性反応混合物)に分散させる種結晶の量が少なすぎると、種結晶を用いることによるゼオライトの結晶化促進効果を十分に得ることができず、過度に多過ぎても添加量に見合う効果は得られず、種結晶の無駄が多くなりコスト面で不利である。
【0090】
<多孔質支持体の固定方法>
水熱合成に際して、原料混合液(水性反応混合物)中に浸漬した多孔質支持体の固定方法に特に制限はなく、縦置き、横置きなどあらゆる形態をとることができる。固定した多孔質支持体へは、静置法でAFX型ゼオライト膜を形成させてもよいし、原料混合液(水性反応混合物)の撹拌下にAFX型ゼオライト膜を形成させてもよい。
【0091】
<水熱合成反応条件>
AFX型ゼオライト膜を形成する水熱合成時の加熱温度は特に限定されないが、通常100℃以上、好ましくは120℃以上、更に好ましくは140℃以上であり、通常200℃以下、好ましくは190℃以下、更に好ましくは180℃以下、より好ましくは160℃以下であり、特に好ましくは150℃以下である。反応温度が低すぎると、ゼオライトが結晶化し難くなることがある。また、反応温度が高すぎると、本発明におけるAFX型ゼオライトとは異なるタイプのゼオライトが生成し易くなったり、緻密でない(欠陥がある)膜になったりすることがある。
【0092】
水熱合成の反応時間は特に限定されないが、例えば、加熱温度が150℃の時は、通常1時間以上、好ましくは5時間以上、更に好ましくは10時間以上、特に好ましくは20時間以上、とりわけ好ましくは40時間以上であり、通常15日間以下、好ましくは10日以下、より好ましくは8日以下、更に好ましくは6日以下、特に好ましくは70時間以下である。水熱合成の反応時間が短すぎるとゼオライトが結晶化し難しくなることがある。また、水熱合成において、多孔質支持体に付着させたFAU型ゼオライトまたはCHA型ゼオライトはAFX型ゼオライトに転換されるが、この水熱合成の反応時間が短すぎると、多孔質支持体上に一部FAU型ゼオライトまたはCHA型ゼオライトが残存するおそれがある。水熱合成の反応時間が長すぎると、本発明におけるAFX型ゼオライトとは異なるタイプのゼオライトが生成し易くなることがある。反応時間は、加熱温度により変わりうる。加熱温度を下げると、反応時間は長くなる。
【0093】
水熱合成反応時の圧力は特に限定されず、密閉容器中に入れた原料混合液(水性反応混合物)を、この温度範囲に加熱したときに生じる自生圧力で十分である。更に必要に応じて、窒素などの不活性ガスを加えても差し支えない。
【0094】
<加熱処理>
水熱合成により得られたゼオライト膜複合体は、水洗した後に、加熱処理する。ここで、加熱処理とは、熱をかけてゼオライト膜複合体を乾燥する、或いは有機テンプレートを使用した場合に有機テンプレートを焼成することを意味する。
【0095】
加熱処理の温度は、乾燥を目的とする場合は通常50℃以上、好ましくは80℃以上、より好ましくは100℃以上、通常200℃以下、好ましくは150℃以下である。乾燥を目的とした加熱処理時の昇温速度及び降温速度は、後述の有機テンプレートの除去における場合と同様としてもよい。
【0096】
加熱時間は、多孔質支持体上のAFX型ゼオライト膜が十分に乾燥される時間であれば特に限定されず、好ましくは0.5時間以上、より好ましくは1時間以上である。上限は特に限定されず、通常200時間以内、好ましくは150時間以内、より好ましくは100時間以内である。
【0097】
[多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の空気透過量]
加熱処理として、乾燥のみ目的とする加熱処理を行った後のゼオライト膜を、as-madeのゼオライト膜と呼称する。本発明のゼオライト膜複合体のas-madeでの空気透過量[L/(m・h)]は、通常245L/(m・h)以下、好ましくは100L/(m・h)以下、より好ましくは50L/(m・h)以下、更に好ましくは30L/(m・h)以下である。as-madeのゼオライト膜は、その細孔内に有機テンプレートを有しているため、空気は主にゼオライト粒子間隙を透過する。そのため、as-madeのゼオライト膜の空気透過量が多いことは、そのゼオライト膜に欠陥が多く緻密性が低いことを示しており、as-madeのゼオライト膜の空気透過量は低いほど好ましい。
【0098】
ここで、空気透過量とは、後述の実施例の項で詳述するとおり、ゼオライト膜複合体を絶対圧5kPaの真空ラインに接続した時の空気の透過量[L/(m・h)]である。
【0099】
<有機テンプレートの除去>
水熱合成を有機テンプレートの存在下で行った場合、得られたゼオライト膜複合体を、水洗した後に、例えば、加熱処理や抽出などにより、好ましくは加熱処理、すなわち焼成により有機テンプレートを取り除くことが適当である。
【0100】
この場合の焼成温度は、通常350℃以上、好ましくは400℃以上、より好ましくは430℃以上、更に好ましくは480℃以上であり、通常900℃以下、好ましくは850℃以下、更に好ましくは800℃以下、特に好ましくは750℃以下である。焼成温度が低すぎると有機テンプレートが残っている割合が多くなる傾向があり、AFX型ゼオライトの細孔が少なく、そのために分離、濃縮の際の透過流束が減少する可能性がある。焼成温度が高すぎると多孔質支持体とAFX型ゼオライトの熱膨張率の差が大きくなるためAFX型ゼオライト膜に亀裂が生じやすくなる可能性があり、AFX型ゼオライト膜の緻密性が失われ分離性能が低くなることがある。
【0101】
焼成時間は、昇温速度や降温速度により変動するが、有機テンプレートが十分に取り除かれる時間であれば特に限定されず、好ましくは1時間以上、より好ましくは5時間以上である。上限は特に限定されず、通常200時間以内、好ましくは150時間以内、より好ましくは100時間以内、最も好ましくは24時間以内である。
焼成は空気雰囲気で行えばよいが、酸素を付加した雰囲気で行ってもよい。
【0102】
焼成の際の昇温速度は、多孔質支持体とAFX型ゼオライトの熱膨張率の差でAFX型ゼオライト膜に亀裂を生じさせることを少なくするために、なるべく遅くすることが望ましい。昇温速度は、通常5℃/分以下、好ましくは2℃/分以下、更に好ましくは1℃/分以下、特に好ましくは0.5℃/分以下である。通常、作業性を考慮し0.1℃/分以上である。
また、焼成後の降温速度もAFX型ゼオライト膜に亀裂が生じることを避けるためにコントロールする必要がある。昇温速度と同様、遅ければ遅いほど望ましい。降温速度は、通常5℃/分以下、好ましくは2℃/分以下、より好ましくは1℃/分以下、特に好ましくは0.5℃/分以下である。通常、作業性を考慮し0.1℃/分以上である。
【0103】
<AFX型ゼオライト膜のイオン交換>
多孔質支持体上に形成されたAFX型ゼオライト膜は、必要に応じてイオン交換してもよい。イオン交換は、有機テンプレートを用いて合成した場合は、通常、有機テンプレートを除去した後に行う。
【0104】
イオン交換するイオンとしては、プロトン、Na、K、Liなどのアルカリ金属イオン、Ca2+、Mg2+、Sr2+、Ba2+などのアルカリ土類金属イオン、Fe、Cu、Znなどの遷移金属のイオンなどが挙げられる。これらの中で、プロトン、Na、K、Liなどのアルカリ金属イオンが好ましい。
【0105】
イオン交換は、焼成後(有機テンプレートを使用した場合など)のAFX型ゼオライト膜を、NHNO、NaNOなどアンモニウム塩あるいは交換するイオンを含む水溶液、場合によっては塩酸などの酸で、通常、室温から100℃の温度で処理後、水洗する方法などにより行えばよい。更に、必要に応じて200~500℃で焼成してもよい。
【0106】
[多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の空気透過量]
本発明のゼオライト膜複合体(加熱処理後(ここでいう加熱処理とは焼成による有機テンプレート除去を指す)のゼオライト膜複合体)の空気透過量[L/(m・h)]は、通常2700L/(m・h)以下、好ましくは1400L/(m・h)以下、より好ましくは1000L/(m・h)以下、更に好ましくは700L/(m・h)以下、より更に好ましくは600L/(m・h)以下、特に好ましくは500L/(m・h)以下、とりわけ好ましくは300L/(m・h)以下、最も好ましくは200L/(m・h)以下である。空気透過量の下限は特に限定されないが、通常0.01L/(m・h)以上、好ましくは0.1L/(m・h)以上、より好ましくは1L/(m・h)以上である。
【0107】
ここで、空気透過量とは、後述の実施例の項で詳述するとおり、ゼオライト膜複合体を絶対圧5kPaの真空ラインに接続した時の空気の透過量[L/(m・h)]である。
【0108】
本発明のゼオライト膜複合体は、上記のとおり優れた特性をもつものであり、気体混合物又は液体混合物から特定の成分を分離するための膜分離手段として好適に用いることができる。
【0109】
[ゼオライト膜複合体のゼオライト付着量]
本発明のゼオライト膜複合体のゼオライト付着量は、水熱合成前に多孔質支持体に付着させたFAU型ゼオライトまたはCHA型ゼオライトも含めて、表面積1mあたりの質量で、通常1g以上、好ましくは5g以上、より好ましくは10g以上、更に好ましくは20g以上であり、通常2000g以下、好ましくは1000g以下、より好ましくは500g以下、更に好ましくは300g以下である。
ゼオライトの付着量が上記下限未満の場合には、後述の分離、濃縮操作において、選択性が低下したり、ゼオライト膜強度が低下したりする傾向があり、上記上限を超えると、透過量が低下する傾向がある。
【0110】
[気体混合物又は液体混合物の分離方法]
本発明の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体に、気体混合物又は液体混合物を接触させて、透過性の高い成分を透過させることにより、該成分を分離することができる。以下、この分離方法を「本発明の気体混合物又は液体混合物の分離方法」と称す場合がある。
なお、本発明の気体混合物又は液体混合物の分離方法によれば、透過性の高い成分を透過させることにより、透過性の低い成分を濃縮することができる。
【0111】
本発明の気体混合物又は液体混合物の分離方法において、本発明のゼオライト膜複合体を介し、多孔質支持体側又はゼオライト膜側の一方の側に複数の成分からなる気体混合物又は液体混合物を接触させ、その逆側を気体混合物又は液体混合物が接触している側よりも低い圧力とすることによって気体混合物又は液体混合物から、ゼオライト膜に透過性が高い成分(透過性が相対的に高い混合物中の物質)を選択的に、すなわち透過物質の主成分として透過させる。これにより、気体混合物又は液体混合物から透過性の高い物質を分離することができる。その結果、気体混合物又は液体混合物中の特定の成分(透過性が相対的に低い混合物中の物質)の濃度を高めることで、特定の成分を分離回収、あるいは濃縮することができる。
【0112】
分離又は濃縮の対象となる気体混合物としては、本発明の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体によって、分離又は濃縮が可能な気体混合物であれば特に制限はない。
気体混合物としては、例えば、二酸化炭素、酸素、窒素、メタン、エタン、エチレン、プロパン、プロピレン、ノルマルブタン、イソブタン、1-ブテン、2-ブテン、イソブテン、六フッ化硫黄、ヘリウム、一酸化炭素、一酸化窒素、水などから選ばれる少なくとも1種の成分を含むものが挙げられる。これらの気体成分のうち、パーミエンスの高い気体成分は、ゼオライト膜複合体を透過して分離され、パーミエンスの低い気体成分は供給気体側に濃縮される。
【0113】
気体混合物は、上記成分の少なくとも2種の成分を含む。この場合、2種の成分としては、パーミエンスの高い成分とパーミエンスの低い成分の組合せが好ましい。
ここで、パーミエンス(Permeance、「透過度」ともいう)とは透過する物質量を、膜面積と時間と透過する物質の供給側と透過側の分圧差の積で割ったものであり、単位は、[mol・(m・s・Pa)-1]である。
【0114】
気体混合物として具体的には、二酸化炭素と窒素を含有する気体混合物、二酸化炭素とメタンを含有する気体混合物、水素と炭化水素を含有する気体混合物、水素と酸素を含有する気体混合物、水素と二酸化炭素を含有する気体混合物、窒素と酸素を含有する気体混合物、メタン及びヘリウムを含有する気体混合物などが挙げられ、空気、天然ガス、燃焼気体やコークスオーブンガス、ごみ埋め立て場から発生するランドファィルガスなどのバイオガス、石油化学工業で生成、排出されるメタンの水蒸気改質ガスなどの分離又は濃縮に使用することもできる。
【0115】
これらのうち、本発明は特に二酸化炭素と窒素を含有する気体混合物、窒素と酸素を含有する気体混合物、および、水素と酸素を含有する気体混合物の分離、濃縮に好適である。
【0116】
本発明のゼオライト膜複合体の分離又は濃縮の対象となる液体混合物としては、本発明のゼオライト膜複合体によって、分離又は濃縮が可能な液体混合物であれば特に制限はない。
【0117】
液体混合物としては水と有機化合物との液体混合物が挙げられる。
有機化合物としては、例えば、酢酸、アクリル酸、プロピオン酸、蟻酸、乳酸、シュウ酸、酒石酸、安息香酸などのカルボン酸類や、スルフォン酸、スルフィン酸、ハビツル酸、尿酸、フェノール、エノール、ジケトン型化合物、チオフェノール、イミド、オキシム、芳香族スルフォンアミド、第1級および第2級ニトロ化合物などの有機酸類;メタノール、エタノール、イソプロパノール(2-プロパノール)などのアルコール類;アセトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類;アセトアルデヒドなどのアルデヒド類、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン等のアミドなどの窒素を含む有機化合物(N含有有機化合物);酢酸エステル、アクリル酸エステル等のエステル類などが挙げられる。
【0118】
これらの中で、特にアルコール、エーテル、ケトン、アルデヒド、アミドから選ばれる少なくとも一種を含有する有機化合物が望ましい。これら有機化合物の中で、炭素数が2から10のものが好ましく、炭素数が3から8のものがより好ましい。
【0119】
また有機化合物としては、水と混合物(混合溶液)を形成し得る高分子化合物でもよい。かかる高分子化合物としては、分子内に極性基を有するもの、例えば、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコールなどのポリオール類;ポリアミン類;ポリスルホン酸類;ポリアクリル酸などのポリカルボン酸類;ポリアクリル酸エステルなどのポリカルボン酸エステル類;グラフト重合等によってポリマー類を変性させた変性高分子化合物類;オレフィンなどの非極性モノマーとカルボキシル基等の極性基を有する極性モノマーとの共重合によって得られる共重合高分子化合物類などが挙げられる。
【0120】
更に、含水有機化合物としては、水とポリマーエマルジョンとの混合物でもよい。ここで、ポリマーエマルジョンとは、接着剤や塗料等で通常使用される、界面活性剤とポリマーとの混合物である。ポリマーエマルジョンに用いられるポリマーとしては、例えば、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、アクリル樹脂、ポリオレフィン、エチレン-ビニルアルコール共重合体などのオレフィン-極性モノマー共重合体、ポリスチレン、ポリビニルエーテル、ポリアミド、ポリエステル、セルロース誘導体等の熱可塑性樹脂;尿素樹脂、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン等の熱硬化性樹脂;天然ゴム、ポリイソプレン、ポリクロロプレン、スチレン-ブタジエン共重合体などのブタジエン共重合体等のゴム等が挙げられる。また界面活性剤としては、それ自体既知のものを用いればよい。
【0121】
液体混合物としては、より具体的には、有機酸類/水、アルコール類/水、アセトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類/水、アルデヒド類/水、ジオキサン、テトラヒドロフラン等のエーテル類/水、ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン等のアミドなどの窒素を含む有機化合物(窒素含有有機物)/水、酢酸エステル等のエステル類/水等が挙げられ、本発明のゼオライト膜複合体によれば、これらの有機化合物と水の混合水溶液から水を選択的に透過させて有機化合物を分離、濃縮することができる。
【0122】
これら気体混合物や液体混合物の分離や濃縮の条件は、対象とする気体種、液体種や組成等に応じて、それ自体既知の条件を採用すればよい。
【0123】
気体混合物または液体混合物の分離に用いるゼオライト膜複合体を設けた分離膜モジュールの形態としては、平膜型、スパイラル型、ホロウファイバー型、円筒型、ハニカム型等が挙げられ、適用対象に合わせて最適な形態が選ばれる。
【0124】
その一つである円筒型分離膜モジュールについて、図1を参照して説明する。
【0125】
図1において、円筒管型のゼオライト膜複合体1は、ステンレス製の耐圧容器2に格納された状態で恒温槽(図示せず)に設置されている。恒温槽には、試料混合物の温度調整が可能なように、温度制御装置が付設されている。
【0126】
ゼオライト膜複合体1の一端は、円柱状のエンドピン3で密封されている。他端は接続部4で接続され、接続部4の他端は、耐圧容器2と接続されている。ゼオライト膜複合体1の内側と、透過成分8を排出する配管11が、接続部4を介して接続されており、配管11は、耐圧容器2から延出している。
ゼオライト膜複合体1には、配管11を経由して、スイープ気体等のスイープ流体9を供給する配管12が挿入されている。
耐圧容器2に通じるいずれかの箇所には、試料混合物の供給側の圧力を測る圧力計5、供給側の圧力を調整する背圧弁6が接続されている。
各接続部は気密性よく接続されている。
【0127】
試料混合物7を、一定の流量で耐圧容器2とゼオライト膜複合体1の間に供給し、背圧弁6により供給側の圧力を一定とする。透過成分8はゼオライト膜複合体1の内外の分圧差に応じてゼオライト膜複合体1を透過し、配管11を通じて排出され、不透過成分(濃縮成分)10が得られる。
【0128】
気体混合物又は液体混合物の分離は、通常0~500℃の範囲内で行なわれる。本発明のゼオライト膜複合体の分離特性から、分離温度は室温から200℃の範囲内が好ましい。
【0129】
本発明の多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を気体混合物又は液体混合物の分離、濃縮に供する際には、分離、濃縮操作に先立ち、前処理を行うことが好ましい。
【0130】
多孔質支持体-ゼオライト膜複合体の前処理としては、次のような前処理操作が挙げられる。
(1) 多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を気体混合物又は液体混合物の分離、濃縮時の操作温度以上の温度、例えば0~250℃高い温度で0~10時間程度で乾燥する。
(2) 多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を気体混合物又は液体混合物の分離、濃縮で透過させる成分でパージする。具体的には、前記の乾燥温度において、AFX型ゼオライトの細孔径よりも小さいガスを、膜の外側に加圧供給する。
【実施例
【0131】
以下、実施例によって本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を超えない限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。
【0132】
(1)X線回折(XRD)
XRD測定は以下の条件に基づき行った。
・装置名:オランダPANalytical社製X’PertPro MPD
・光学系仕様 入射側:封入式X線管球(CuKα)
Soller Slit(0.04rad)
Divergence Slit(Valiable Slit)
試料台:XYZステージ
受光側:半導体アレイ検出器(X’ Celerator)
Ni-filter
Soller Slit(0.04rad)
ゴニオメーター半径:240mm
・測定条件 X線出力(CuKα):45kV、40mA
走査軸:θ/2θ
走査範囲(2θ):5.0-70.0°
測定モード:Continuous
読込幅:0.05°
計数時間:99.7sec
自動可変スリット(Automatic-DS):1mm(照射幅)
横発散マスク:10mm(照射幅)
【0133】
なお、X線は円筒管(ゼオライト膜複合体)の軸方向に対して垂直な方向に照射した。またX線は、できるだけノイズ等がはいらないように、試料台においた円筒管状のゼオライト膜複合体と、試料台表面に平行な面とが接する2つのラインのうち、試料台表面に接するラインではなく、試料台表面より上部にあるもう一方のライン上に主にあたるようにした。
また、照射幅を自動可変スリットによって1mmに固定して測定し、Materials Data,Inc.のXRD解析ソフトJADE7.5.2(日本語版)を用いて可変スリット→固定スリット変換を行ってXRDパターンを得た。
【0134】
(2)空気透過量
大気圧下で、ゼオライト膜複合体の一端を封止し、他端を、気密性を保持した状態で5kPaの真空ラインに接続して、真空ラインとゼオライト膜複合体の間に設置したマスフローメーターでゼオライト膜複合体を透過した空気の流量を測定し、空気透過量[L/(m・h)]とした。マスフローメーターとしてはKOFLOC社製8300、Nガス用、最大流量500ml/min(20℃、1気圧換算)を用いた。KOFLOC社製8300においてマスフローメーターの表示が10ml/min(20℃、1気圧換算)以下であるときはLintec社製MM-2100M、Airガス用、最大流量20ml/min(0℃、1気圧換算)を用いて測定した。
【0135】
(3)ガス透過・分離試験
単成分ガス透過試験および複数成分ガス分離試験は、図1に模式的に示す分離膜モジュールを用いて、以下のとおり行った。用いた試料ガスは、二酸化炭素(純度99.9%、高圧ガス工業社製)、メタン(純度99.999%、ジャパンファインプロダクツ社製)、窒素(工業用窒素ガス、東邦酸素工業社製)、又は水素(純度99.99%以上、HORIBA STEC製水素発生器OPGU-2200より発生)である。
【0136】
この分離膜モジュールの構成については前述の通りである。
この分離膜モジュールにおいて、試料ガス(供給ガス7)を、一定の流量で耐圧容器2とゼオライト膜複合体1の間に供給し、背圧弁6により供給側の圧力を一定とした。一方、ゼオライト膜複合体1を透過した透過ガス8を、配管11に接続されている流量計(図示せず)にて測定した。また、非透過ガス10を配管12に接続されている流量計(図示せず)にて測定した。更に、ガス分離試験の場合には、透過ガス8、非透過ガス10のガスを分取してガスクロマトグラフによる成分分析を行った。
【0137】
より具体的には、水分や空気などの成分を除去するため、測定温度以上での乾燥、及び、排気若しくは使用する供給ガスによるパージ処理をした後、試料温度及びゼオライト膜複合体1の供給ガス7側と透過ガス8側の差圧を一定として、透過ガス流速が安定したのちに、ゼオライト膜複合体1を透過した試料ガス(透過ガス8)の流速を測定し、ガスのパーミエンス[mol・(m・s・Pa)-1]を算出した。パーミエンスを計算する際の圧力は、供給ガスの供給側と透過側の圧力差(差圧)を用いた。ガス分離試験の場合には、ゼオライト膜複合体1を透過した試料ガス(透過ガス8)の流速とガスクロマトグラフによる成分分析結果を用いて、各ガス成分についてパーミエンス[mol・(m・s・Pa)-1]を算出した。
ガス透過試験においては、上記測定結果に基づき、パーミエンス比αを下記式(1)により算出した。例えば、水素、窒素のパーミエンス比については以下の通り算出される。
α=PH2/PN2 (1)
〔式(1)中、PH2およびPN2は、それぞれ、水素および窒素のパーミエンス[mol・(m・s・Pa)-1]を示す〕
他のガス種についても同様である。
ガス分離試験においても、上記測定結果に基づき、パーミエンス比αを下記式(2)により算出した。例えば、水素、窒素のパーミエンス比については以下の通り算出される。
α=pH2/pN2 (2)
〔式(2)中、pH2およびpN2は、それぞれ、ゼオライト膜複合体1を水素と窒素の混合ガスとして透過した試料ガスのパーミエンス[mol・(m・s・Pa)-1]のうち、水素および窒素の各パーミエンス[mol・(m・s・Pa)-1]を示す〕
他のガス種についても同様である。
【0138】
[比較例1]
<付着用ゼオライトの合成>
付着用AFX型ゼオライトを次の通り合成した。
1.24gのNaOH(キシダ化学社製)と1.87gの水、および、10.8gの1,4-Bis(DABCO)Butanedimminium DiHydroxide(以下DABCOと略すことがある。セイケム社製 19.8質量%水溶液)を加え撹拌してNaOHを溶解させた。そこに、3.81gのFAU型ゼオライト(SAR=30、Zeolyst社製CBV720)を加え、室温で2時間撹拌することで、水熱合成用原料混合液を調製した。得られた水熱合成用原料混合液の組成は1SiO/0.033Al/0.50NaOH/0.10DABCO/10HO(モル比)であった。
【0139】
この水熱合成用原料混合液を耐圧容器に入れ、150℃のオーブン中に静置し、72時間水熱合成を行った。水熱合成反応後、反応液を冷却して、濾過により生成した結晶を回収した。回収した結晶を100℃で12時間乾燥した後、得られたゼオライト粉末のXRDを測定したところ、AFX型ゼオライトであることを確認した。得られたAFX型ゼオライトをSEMで観察したところ、粒子径は約1μmであった。
【0140】
<多孔質支持体へのゼオライトの付着>
多孔質支持体としてアルミナチューブ(外径12mm、内径9mm、ノリタケカンパニーリミテッド社製)を40mmの長さに切断した後、水で洗浄したのち乾燥させたものを用いた。
【0141】
付着用に合成した粒子径約1μmのAFX型ゼオライトの結晶を水に分散させ、1質量%のAFX型ゼオライト分散液を作製した。作製したAFX型ゼオライト分散液に、下端に栓をし、上端からチューブを付けた状態で多孔質支持体を浸漬し、チューブを通して、多孔質支持体の内側を真空に減圧し3秒間保持することで、多孔質支持体にAFX型ゼオライトを付着させた。AFX型ゼオライトを付着させた多孔質支持体は120℃で30分間乾燥した。付着したAFX型ゼオライト量は17g/mであった。
【0142】
<水熱合成>
1.38gのFAU型ゼオライト(NaY、SAR=5、日揮触媒化成社製)と0.382gのNaOH(キシダ化学社製)、59.5gの水を混合撹拌し、そこに、15.37gの水ガラス3号(キシダ化学社製)と13.95gのDABCO 19.8質量%水溶液(セイケム社製)加え、室温で2時間撹拌することで、水熱合成用原料混合液を調製した。得られた水熱合成用原料混合液の組成は1SiO/0.033Al/0.70NaOH/0.10DABCO/50HO(モル比)であった。
【0143】
AFX型ゼオライトを付着させた多孔質支持体を水熱合成用原料混合液の入ったテフロン(登録商標)製内筒に垂直方向に浸漬してオートクレーブを密閉し、150℃で72時間、自生圧力下で加熱した。所定時間経過後、放冷した後に多孔質支持体-ゼオライト膜複合体をオートクレーブから取り出し、洗浄後、100℃以上120℃以下の温度で1時間以上乾燥させた。乾燥後、テンプレート焼成前(以下as-madeということがある)の状態で円筒管の一端を封止し、他の一端を真空ラインに接続することで管内を減圧とし、真空ライン設置した流量計で空気の透過量を前述の条件で測定したところ、透過量は0.0L/(m・h)であった。
【0144】
<テンプレートの除去>
得られたゼオライト膜複合体のテンプレートを除去するために電気炉で500℃にて5時間焼成し(テンプレート焼成工程)、焼成後のゼオライト膜複合体を得た。このとき150℃までの昇温速度と降温速度はともに2.5℃/分、150℃から450℃までの昇温速度と降温速度は0.5℃/分、450℃から500℃までの昇温速度と降温速度は0.1℃/分とした。
【0145】
<測定・評価>
焼成後のゼオライト膜複合体の重量と多孔質支持体の重量の差から、多孔質支持体上に結晶化したゼオライトの重量は30g/mであった。焼成後のゼオライト膜複合体の空気透過量は600L/(m・h)であった。生成した膜のXRD測定をしたところAFX型ゼオライトが生成していたが、多くのANA型ゼオライトも副生成しており、AFX型ゼオライトに帰属されるピークのうち最も強度の高いピーク(2θ=22.0[deg])のピーク強度をI、AFX型ゼオライトまたは多孔質支持体に帰属されない他の結晶相に由来するピークのうち最も強度の高いピーク(2θ=16.2[deg])のピーク強度をIとした時、ピーク強度比I/Iが1.45であった。
XRD測定チャートを図2に示す。
この比較例1では、原料混合液中にAl元素源を含むが、多孔質支持体にFAU型ゼオライトまたはCHA型ゼオライトではなくAFX型ゼオライトを付着させたため、種結晶としたAFX型ゼオライトが原料混合液中で長時間加熱されることにより、一部ANA型ゼオライトに転換し、緻密ではあるものの純度の高いAFX型ゼオライト膜は得られなかった。
【0146】
なお、図2及び後述の図3図14において、図中の「S」マークで示すピークは多孔質支持体に帰属される。また、図中の「*」マークで示すピークは、AFX型ゼオライトおよび多孔質支持体に帰属されない、不純物結晶性物質のピークである。
【0147】
[実施例1]
<多孔質支持体へのゼオライトの付着>
国際公開第2015/159986号の実施例1に記載の種結晶と同様に作製したFAU型ゼオライトを、2質量%水に分散させたものを付着用FAU型ゼオライト分散液として用い、比較例1と同様の操作で多孔質支持体上にFAU型ゼオライトを付着させた。FAU型ゼオライトの付着量は39g/mであった。
【0148】
<水熱合成>
水熱合成用原料混合液として、水酸化アルミニウム(Al、53.5質量%含有、アルドリッチ社製)0.78g、1mol/lのNaOH水溶液(キシダ化学社製)9.74g、水17.36gを混合撹拌しているところに、水ガラス3号(キシダ化学社製)31.0g、DABCO(19.8質量%水溶液 セイケム社製)25.75gを加え、室温で2時間撹拌して得たものを用い、合成時間を144時間とした以外は比較例1と同様に多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を製造した。用いた水熱合成用原料混合液の組成は1SiO/0.033Al/0.70NaOH/0.10DABCO/25HO(モル比)であった。
【0149】
<測定・評価>
このようにして得られたas-madeのゼオライト膜複合体の空気透過量は0L/(m・h)であり、緻密な膜を得られたことが示唆された。焼成後のゼオライト膜複合体の重量と多孔質支持体の重量の差から求めた、多孔質支持体上に結晶化したゼオライトの重量は180g/mであった。焼成後のゼオライト膜複合体の空気透過量は320L/(m・h)であった。
生成した膜のXRD測定をしたところAFX型ゼオライトが生成していることを確認した。ANA型ゼオライトも副生成しており、AFX型ゼオライトに帰属されるピークのうち最も強度の高いピーク(2θ=21.9[deg])のピーク強度をI、AFX型ゼオライトまたは多孔質支持体に帰属されない他の結晶相に由来するピークのうち最も強度の高いピーク(2θ=26.2[deg])のピーク強度をIとした時、ピーク強度比I/Iが1.24であった。比較例1に比べて長時間加熱したにもかかわらず、AFX型ゼオライト由来のピークに対するANA型ゼオライト由来のピーク強度が低減されていることから、本実施例ではFAU型ゼオライトを付着させた多孔質支持体を用いてAl元素源を含む原料混合液中で水熱合成したことで、AFX型ゼオライトの形成を促進できたことが分かる。
XRD測定チャートを図3に示す。
【0150】
このゼオライト膜複合体を用いて、試験温度を140℃、供給ガス圧を0.4MPa、透過ガス圧を大気圧として単成分ガス透過試験を実施したところ、COパーミエンス(PCO2)は5.14×10-7[mol・(m・s・Pa)-1]、CHガスパーミエンスPCH4は7.09×10-8[mol・(m・s・Pa)-1]、パーミエンス比PCO2/PCH4は7.3であった。CH分子はAFX型ゼオライトの細孔径より大きいため、すべてゼオライト細孔ではなくゼオライト粒界を拡散して、膜を透過すると予想される。ゼオライト膜中の粒界におけるCOおよびCHの拡散がKnudsen拡散であると仮定すると、欠陥におけるパーミエンス比PCO2/PCH4は、以下の式から0.603と算出できる。
CO2/PCH4=(MWCH4×T)0.5/(MWCO2×T)0.5
(MWCO2およびMWCH4はそれぞれCOおよびCHの分子量、Tは試験温度[K])
ゼオライト膜全体におけるパーミエンス比PCO2/PCH4が、Knudsen拡散におけるパーミエンス比PCO2/PCH4に比べて大きいことから、ゼオライト細孔をCOが選択的に透過したことが判った。従って、このゼオライト膜がAFX型ゼオライト細孔の分子篩に由来するCO/CH分離能を有することが示唆された。
【0151】
本実施例では、FAU型ゼオライトを付着させた多孔質支持体を用いてAl元素源を含む原料混合液中で水熱合成したことで、AFX型ゼオライトの純度が比較的高く、as-madeでの空気透過量が低く緻密なAFX型ゼオライト膜を多孔質支持体上に形成することができ、分子ふるい作用による分離効果の高いゼオライト膜複合体を得ることができた。
【0152】
[実施例2]
<多孔質支持体へのゼオライトの付着>
FAU型ゼオライト(SAR=30、Zeolyst社製CBV720)10質量%分散液を3φのAlボール(分散液の3倍量使用)で6時間ボールミルした分散液を2質量%に水で希釈したFAU型ゼオライト分散液を、AFX型ゼオライト分散液の代りに用いた以外は、比較例1と同様にして、多孔質支持体にFAU型ゼオライトを付着させた。FAU型ゼオライトの付着量は20g/mであった。
【0153】
<水熱合成>
このFAU型ゼオライト付着多孔質支持体を用いて、反応時間を72時間とした以外は実施例1と同様にして多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を製造した。
【0154】
<測定・評価>
このようにして得られたas-madeのゼオライト膜複合体の重量と多孔質支持体の重量の差から求めた、多孔質支持体上に結晶化したas-madeのゼオライトの重量は160g/mであった。生成した膜のXRD測定をしたところAFX型ゼオライトが生成していることを確認した。
AFX型ゼオライトに帰属されるピークのうち最も強度の高いピーク(2θ=22.1[deg])のピーク強度をI、AFX型ゼオライトまたは多孔質支持体に帰属されない他の結晶相に由来するピークのうち最も強度の高いピーク(2θ=22.9[deg])のピーク強度をIとした時、ピーク強度比I/Iが0.31であり、比較的純度の高いAFX型ゼオライト膜が形成されていることが示唆された。
XRD測定チャートを図4に示す。
【0155】
本実施例でも、FAU型ゼオライトを付着させた多孔質支持体を用いてAl元素源を含む原料混合液中で水熱合成したことで、AFX型ゼオライトの純度が高いAFX型ゼオライト膜を多孔質支持体上に形成することができた。
【0156】
[実施例3]
<多孔質支持体へのゼオライトの付着>
多孔質支持体上に、直接水熱合成することにより、多孔質支持体-FAU型ゼオライト(Y型ゼオライト)膜複合体を作製した。
多孔質支持体としてアルミナチューブ(外径12mm、内径9mm、ノリタケカンパニーリミテド社製)を40mmの長さに切断した後、水で洗浄したのち乾燥させたものを用いた。
FAU型ゼオライト膜合成用の種結晶としてはFAU型ゼオライト(NaY、SAR=5、日揮触媒化成社製 以下、「NaY5」ということがある。)を用いた。NaY5の3質量%水分散液を作製し、120℃で30分以上乾燥させた多孔質支持体の上下をシリコンゴム栓で封じたものを、この種結晶分散液に浸漬して種結晶を付着させ、分散液から引き揚げたのちに、ラテックス手袋を着用した指でこすりこむ(以下、ラビング法ということがある)ことにより種結晶を支持体に付着させた。その後、100℃で1時間以上乾燥して、種結晶付着多孔質支持体を得た。付着した種結晶量は1.7g/mであった。
【0157】
NaOH(キシダ化学社製)4.48gを水50gに溶解させたのち、アルミン酸ナトリウム水溶液(NaO 18.9質量%、Al 20.13質量%浅田化学工業社製)3.0gを加えて撹拌し、そこに水ガラス3号(キシダ化学社製)12.4gと水31.26gを予め混合したものを加えて、室温で12時間撹拌して水熱合成用原料混合液を調製した。得られた水熱合成用原料混合液の組成は1SiO/0.1Al/2.8NaOH/84HO(モル比)であった。
【0158】
種結晶付着多孔質支持体を水熱合成用原料混合液の入ったテフロン(登録商標)製内筒に垂直方向に浸漬してオートクレーブを密閉し100℃で5時間、自生圧力下で加熱した。所定時間経過後、放冷した後に多孔質支持体-ゼオライト膜複合体をオートクレーブから取り出し、洗浄後100℃で1時間以上乾燥させて、多孔質支持体-FAU型ゼオライト膜複合体を得た。得られたゼオライト膜複合体と多孔質支持体重量の差から求めた、多孔質支持体上に結晶化したFAU型ゼオライトの重量は37g/mであった。
【0159】
<水熱合成>
FAU型ゼオライトを付着させた多孔質支持体の代わりに、上述のアルミナ支持体-FAU型ゼオライト膜複合体を用いた以外は実施例2と同様にして、ゼオライト膜複合体を得た。
【0160】
<測定・評価>
このようにして得られたas-madeのゼオライト膜複合体の空気透過量は35L/(m・h)であり、緻密な膜を得られたことが示唆された。焼成後のゼオライト膜複合体の重量と多孔質支持体の重量の差から求めた、多孔質支持体上に結晶化したゼオライトの重量は270g/mであった。焼成後のゼオライト膜複合体の空気透過量は190L/(m・h)であった。生成した膜のXRD測定をしたところAFX型ゼオライトが生成し、ANA型ゼオライトも副生成しており、AFX型ゼオライトに帰属されるピークのうち最も強度の高いピーク(2θ=21.9[deg])のピーク強度をI、AFX型ゼオライトまたは多孔質支持体に帰属されない他の結晶相に由来するピークのうち最も強度の高いピーク(2θ=26.2[deg])のピーク強度をIとした時、ピーク強度比I/Iが1.38であり、比較的純度の高いAFX型ゼオライト膜が形成されていることが示唆された。
XRD測定チャートを図5に示す。
【0161】
このゼオライト膜複合体を用いて、試験温度を50℃、供給ガス圧を0.4MPa、透過ガス圧を大気圧として単成分ガス透過試験を実施したところ、COパーミエンス(PCO2)は2.13×10-7[mol・(m・s・Pa)-1]、CHガスパーミエンスPCH4は4.97×10-8[mol・(m・s・Pa)-1]、パーミエンス比PCO2/PCH4は4.3であった。CH分子はAFX型ゼオライトの細孔径より大きいため、すべてゼオライト細孔ではなくゼオライト粒界を拡散して、膜を透過すると予想される。ゼオライト膜中の粒界におけるCOおよびCHの拡散がKnudsen拡散であると仮定すると、欠陥におけるパーミエンス比PCO2/PCH4は、以下の式から0.603と算出できる。
CO2/PCH4=(MWCH4×T)0.5/(MWCO2×T)0.5
(MWCO2およびMWCH4はそれぞれCOおよびCHの分子量、Tは試験温度[K])
ゼオライト膜全体におけるパーミエンス比PCO2/PCH4が、Knudsen拡散におけるパーミエンス比PCO2/PCH4に比べて大きいことから、ゼオライト細孔をCOが選択的に透過したことが判った。従って、このゼオライト膜がAFX型ゼオライト細孔の分子篩に由来するCO/CH分離能を有することが示唆された。
【0162】
本実施例でも、FAU型ゼオライトを付着させた多孔質支持体を用いてAl元素源を含む原料混合液中で水熱合成したことで、比較的純度が高く、as-madeでの空気透過量が低く緻密なAFX型ゼオライト膜を多孔質支持体上に形成することができ、分子ふるい作用による分離効果の高いゼオライト膜複合体を得ることができた。
【0163】
[実施例4]
<多孔質支持体へのゼオライトの付着>
付着用FAU型ゼオライト合成時の反応時間を3日間にした以外は実施例1と同様にして合成したFAU型ゼオライトを用いてFAU型ゼオライトの2質量%分散液を作製し、実施例1と同様に2秒間吸引して多孔質支持体にFAU型ゼオライトを付着させたのち、ラテックス手袋を着用した指でこすりこむラビング法でFAU型ゼオライトを多孔質支持体に付着させた。その後、120℃で30分以上乾燥して、FAU型ゼオライト付着多孔質支持体を得た。付着したFAU型ゼオライト量は6.6g/mであった。
【0164】
<水熱合成>
得られたFAU型ゼオライト付着多孔質支持体を用いて、反応温度を140℃とした以外は実施例2と同様にして、ゼオライト膜複合体を得た。
【0165】
<測定・評価>
このようにして得られたas-madeのゼオライト膜複合体の空気透過量は0L/(m・h)であり、緻密な膜を得られたことが示唆された。焼成後のゼオライト膜複合体の重量と多孔質支持体の重量の差から求めた、多孔質支持体上に結晶化したゼオライトの重量は84g/mであった。焼成後のゼオライト膜複合体の空気透過量は200L/(m・h)であった。生成した膜のXRD測定をしたところAFX型ゼオライトが生成していることを確認した。AFX型ゼオライトまたは多孔質支持体に帰属されない他の結晶相に由来するピークはほとんど確認されず、非常に純度の高いAFX型ゼオライト膜の形成が示唆された。AFX型ゼオライトに帰属されるピークのうち最も強度の高いピーク(2θ=26.2[deg])のピーク強度をI、AFX型ゼオライトまたは多孔質支持体に帰属されない他の結晶相に由来するピークのうち最も強度の高いピーク(2θ=23.1[deg])のピーク強度をIとした時、ピーク強度比I/Iが0.39であった。
XRD測定チャートを図6に示す。
【0166】
このゼオライト膜複合体を用いて、試験温度を140℃、供給ガス圧を0.4MPa、透過ガス圧を大気圧として単成分ガス透過試験を実施したところ、COパーミエンスPCO2は8.99×10-7[mol・(m・s・Pa)-1]、CHガスパーミエンスPCH4は8.28×10-8[mol・(m・s・Pa)-1]、パーミエンス比PCO2/PCH4は10.9であった。ゼオライト膜全体におけるパーミエンス比PCO2/PCH4が、Knudsen拡散におけるパーミエンス比PCO2/PCH4に比べて大きいことから、ゼオライト細孔をCOが選択的に透過したことが判った。従って、このゼオライト膜がAFX型ゼオライト細孔の分子篩に由来するCO/CH分離能を有することが示唆された。
【0167】
本実施例でも、FAU型ゼオライトを付着させた多孔質支持体を用いてAl元素源を含む原料混合液中で水熱合成したことで、AFX型ゼオライトの純度が非常に高く、as-madeでの空気透過量が低く緻密なAFX型ゼオライト膜を多孔質支持体上に形成することができ、分子ふるい作用による分離効果の高いゼオライト膜複合体を得ることができた。
【0168】
[実施例5]
<多孔質支持体へのゼオライトの付着>
特許第5585126号公報の実施例5と同様にして(ただし、水熱合成用原料混合液の組成は、1SiO/0.066Al/0.15NaOH/0.1KOH/0.04TMADAOH/100HO(モル比)とした)作成したアルミナ多孔質支持体-CHA型ゼオライト膜複合体(アルミナ多孔質支持体:外径12mm、内径9mm、ノリタケカンパニーリミテド社製)を40mmに切断したものに更に、以下のようにしてFAU型ゼオライトを付着させた。
付着用FAU型ゼオライト分散液としては、プロトン型FAU型ゼオライト(SAR=10、HST-35OHVA東ソー社製 以下「HY10」ということがある。)を水共存下でビーズミル処理し、D50=150μmまで粉砕した20質量%分散液を用いた。
多孔質支持体-CHA型ゼオライト膜複合体上に、浸漬・吸引時間を20秒とした以外は実施例4と同様にして、ビーズミルしたHY10の20質量%分散液に浸漬・吸引後ラビングし、同様に乾燥させ、FAU型ゼオライトを付着させた。
【0169】
<水熱合成>
上記の通りFAU型ゼオライトを付着させたアルミナ多孔質支持体-CHA型ゼオライト膜複合体を水熱合成用原料混合液に浸漬して実施例2と同様に水熱合成を行い、ゼオライト膜複合体を得た。
【0170】
<測定・評価>
このようにして得られたas-madeのゼオライト膜複合体の重量と多孔質支持体の重量の差から求めた、多孔質支持体上に結晶化したas-madeのゼオライトの重量は82g/mであった。生成した膜のXRD測定をしたところAFX型ゼオライトが生成していることを確認した。AFX型ゼオライトに帰属されるピークのうち最も強度の高いピーク(2θ=17.5[deg])のピーク強度をI、AFX型ゼオライトまたは多孔質支持体に帰属されない他の結晶相に由来するピークのうち最も強度の高いピーク(2θ=23.3[deg])のピーク強度をIとした時、ピーク強度比I/Iが0.44であり、比較的純度の高いAFX型ゼオライト膜が形成されたことが示唆された。
XRD測定チャートを図7に示す。
【0171】
本実施例では、FAU型ゼオライトとCHA型ゼオライトを付着させた多孔質支持体を用いてAl元素源を含む原料混合液中で水熱合成したことで、AFX型ゼオライト膜の純度が比較的高いAFX型ゼオライト膜を多孔質支持体上に形成することができた。
【0172】
[実施例6]
<多孔質支持体へのゼオライトの付着>
プロトン型FAU型ゼオライト(SAR=200、東ソー社製HSZ-390HUA)の1質量%水分散液を付着用FAU型ゼオライト分散液として用い、実施例4と同様に3秒間吸引後ラビングすることでアルミナ支持体上にFAU型ゼオライトを付着させた。FAU型ゼオライトの付着量は6.5g/mであった。
【0173】
<水熱合成>
水熱合成用原料混合液として、アルミン酸ナトリウム水溶液(NaO 18.9質量%、Al 20.13質量%、浅田化学工業社製)0.72gに、予め混合した水ガラス3号(キシダ化学社製)10.90gと水8.74gを撹拌しながら加え、更にDABCO(17.29質量%水溶液 セイケム社製)9.45gを加え、室温で1時間撹拌して得たものを用い、合成時間を24時間とした以外は実施例2と同様に多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を製造した。用いた水熱合成用原料混合液の組成は1SiO/0.033Al/0.70NaOH/0.10DABCO/25HO(モル比)であった。
【0174】
<測定・評価>
このようにして得られたas-madeのゼオライト膜複合体の重量と多孔質支持体の重量の差から求めた、多孔質支持体上に結晶化したas-madeのゼオライトの重量は70g/mであった。生成した膜のXRD測定をしたところAFX型ゼオライトが生成していることを確認した。AFX型ゼオライトに帰属されるピークのうち最も強度の高いピーク(2θ=21.9[deg])のピーク強度をI、AFX型ゼオライトまたは多孔質支持体に帰属されない他の結晶相に由来するピークのうち最も強度の高いピーク(2θ=22.8[deg])のピーク強度をIとした時、ピーク強度比I/Iが0.40であり、比較的純度の高いAFX型ゼオライト膜が形成されていることが示唆された。
XRD測定チャートを図8に示す。
【0175】
本実施例でも、FAU型ゼオライトを付着させた多孔質支持体を用いてAl元素源を含む原料混合液中で水熱合成したことで、AFX型ゼオライト膜の純度が比較的高いAFX型ゼオライト膜を多孔質支持体上に形成することができた。
【0176】
[実施例7]
<多孔質支持体へのゼオライトの付着・水熱合成>
付着用ゼオライトとしてSiO/Al比=500仕込みで合成したCHA型ゼオライトを用いた以外は実施例6と同様にして多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を製造した。CHA型ゼオライトの付着量は4.3g/mであった。
【0177】
<測定・評価>
このようにして得られたas-madeのゼオライト膜複合体の空気透過量は240L/(m・h)であり、比較的緻密な膜を得られたことが示唆された。焼成後のゼオライト膜複合体の重量と多孔質支持体の重量の差から求めた、多孔質支持体上に結晶化したゼオライトの重量は110g/mであった。焼成後のゼオライト膜複合体の空気透過量は6600L/(m・h)であった。生成した膜のXRD測定をしたところAFX型ゼオライトが生成していることを確認した。AFX型ゼオライトまたは多孔質支持体に帰属されない他の結晶相に由来するピークはほとんど確認されず、非常に純度の高いAFX型ゼオライト膜の形成が示唆された。AFX型ゼオライトに帰属されるピークのうち最も強度の高いピーク(2θ=21.7[deg])のピーク強度をI、AFX型ゼオライトまたは多孔質支持体に帰属されない他の結晶相に由来するピークのうち最も強度の高いピーク(2θ=7.3[deg])のピーク強度をIとした時、ピーク強度比I/Iが0.17であった。
XRD測定チャートを図9に示す。
【0178】
本実施例でも、CHA型ゼオライトを付着させた多孔質支持体を用いてAl元素源を含む原料混合液中で水熱合成したことで、AFX型ゼオライトの純度が比較的高く、as-madeでの空気透過量が比較的低く緻密なAFX型ゼオライト膜を多孔質支持体上に形成することができた。
【0179】
[比較例2]
<多孔質支持体へのゼオライトの付着>
実施例3と同様にアルミナ多孔質支持体-FAU型ゼオライト(Y型ゼオライト)膜複合体を合成した。
【0180】
<水熱合成>
水熱合成用原料混合液として、1mol/lのNaOH水溶液(キシダ化学社製)6.60gに、予め混合した水ガラス3号(キシダ化学社製)10.36gと水2.14gを加え、更にDABCO(17.29質量%水溶液 セイケム社製)8.98gを加え、室温で1時間撹拌して得たものを用いた以外は、実施例7と同様に多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を製造した。用いた水熱合成用原料混合液の組成は1SiO/0Al/0.767NaOH/0.10DABCO/25HO(モル比)であった。
【0181】
<測定・評価>
このようにして得られたas-madeのゼオライト膜複合体の空気透過量は250L/(m・h)と高い値であった。焼成後のゼオライト膜複合体の重量と多孔質支持体の重量の差から求めた、多孔質支持体上に結晶化したゼオライトの重量は93g/mであった。焼成後のゼオライト膜複合体の空気透過量は2800L/(m・h)であった。生成した膜のXRD測定をしたところAFX型ゼオライトが生成していることを確認した。AFX型ゼオライトまたは多孔質支持体に帰属されない他の結晶相に由来するピークはほとんど確認されず、非常に純度の高いAFX型ゼオライト膜の形成が示唆された。AFX型ゼオライトに帰属されるピークのうち最も強度の高いピーク(2θ=21.8[deg])のピーク強度をI、AFX型ゼオライトまたは多孔質支持体に帰属されない他の結晶相に由来するピークのうち最も強度の高いピーク(2θ=32.3[deg])のピーク強度をIとした時、ピーク強度比I/Iが0.18であった。
XRD測定チャートを図10に示す。
【0182】
本比較例では、FAU型ゼオライトを付着させた多孔質支持体を用いたが、水熱合成用原料混合液中にAl元素源を含まないため、多孔質支持体上にAFX型ゼオライト膜を合成することはできたが、as-madeでの空気透過量が高く、AFX型ゼオライト膜は緻密ではないことが分かる。
【0183】
[実施例8]
<多孔質支持体へのゼオライトの付着>
比較例2と同様にアルミナ多孔質支持体-FAU型ゼオライト(Y型ゼオライト)膜複合体を合成した。
【0184】
<水熱合成>
水熱合成用原料混合液として、アルミン酸ナトリウム水溶液(NaO 18.9質量%、Al 20.13質量%、浅田化学工業社製)0.27gに、予め混合した水ガラス3号(キシダ化学社製)10.91gと水3.71gと1mol/l NaOH水溶液(キシダ化学社製)5.32gを撹拌しながら加え、更にDABCO(17.29質量%水溶液 セイケム社製)9.45gを加え、室温で1時間撹拌して得たものを用いた以外は比較例2と同様に多孔質支持体-ゼオライト膜複合体を製造した。用いた水熱合成用原料混合液の組成は1SiO/0.01Al/0.767NaOH/0.10DABCO/25HO(モル比)であった。
【0185】
<測定・評価>
このようにして得られたas-madeのゼオライト膜複合体の空気透過量は56L/(m・h)であった。本実施例では、原料混合液にAl元素源を添加したこと以外は比較例2と同様にゼオライト膜を製造していることから、原料混合液にAl元素源を添加した効果により、比較例2に比べてas-madeでの空気透過量が低減され、より緻密な膜が得られたことが示唆された。焼成後のゼオライト膜複合体の重量と多孔質支持体の重量の差から求めた、多孔質支持体上に結晶化したゼオライトの重量は130g/mであった。焼成後のゼオライト膜複合体の空気透過量は2600L/(m・h)であった。生成した膜のXRD測定をしたところAFX型ゼオライトが生成していることを確認した。AFX型ゼオライトまたは多孔質支持体に帰属されない他の結晶相に由来するピークはほとんど確認されず、非常に純度の高いAFX型ゼオライト膜の形成が示唆された。AFX型ゼオライトに帰属されるピークのうち最も強度の高いピーク(2θ=21.8[deg])のピーク強度をI、AFX型ゼオライトまたは多孔質支持体に帰属されない他の結晶相に由来するピークのうち最も強度の高いピーク(2θ=6.2[deg])のピーク強度をIとした時、ピーク強度比I/Iが0.30であった。
XRD測定チャートを図11に示す。
【0186】
本実施例でも、FAU型ゼオライトを付着させた多孔質支持体を用いてAl元素源を含む原料混合液中で水熱合成したことで、AFX型ゼオライトの純度が比較的高く、Al元素源を含まない原料混合液中で水熱合成した場合に比べて明らかにas-madeでの空気透過量が低く緻密なAFX型ゼオライト膜を多孔質支持体上に形成することができた。
【0187】
[実施例9]
<多孔質支持体へのゼオライトの付着・水熱合成>
実施例5で付着用FAU型ゼオライト分散液として用いたものと同様の、ビーズミルで粉砕したHY10の20質量%分散液0.016gを、水熱合成用原料混合液に添加したほかは、実施例8と同様にアルミナ多孔質支持体-FAU型ゼオライト(Y型ゼオライト)膜複合体を水熱合成用原料混合液に浸漬してゼオライト膜複合体を合成した。
【0188】
<測定・評価>
このようにして得られたas-madeのゼオライト膜複合体の空気透過量は0L/(m・h)であり、緻密な膜を得られたことが示唆された。焼成後のゼオライト膜複合体の重量と多孔質支持体の重量の差から求めた、多孔質支持体上に結晶化したゼオライトの重量は164g/mであった。焼成後のゼオライト膜複合体の空気透過量は94L/(m・h)であった。生成した膜のXRD測定をしたところAFX型ゼオライトが生成していることを確認した。AFX型ゼオライトまたは多孔質支持体に帰属されない他の結晶相に由来するピークはほとんど確認されず、非常に純度の高いAFX型ゼオライト膜の形成が示唆された。AFX型ゼオライトに帰属されるピークのうち最も強度の高いピーク(2θ=21.8[deg])のピーク強度をI、AFX型ゼオライトまたは多孔質支持体に帰属されない他の結晶相に由来するピークのうち最も強度の高いピーク(2θ=41.7[deg])のピーク強度をIとした時、ピーク強度比I/Iが0.30であった。
XRD測定チャートを図12に示す。
【0189】
このゼオライト膜複合体を用いて、試験温度を140℃、供給ガス圧を0.4MPa、透過ガス圧を大気圧として単成分ガス透過試験を実施したところ、COパーミエンス(PCO2)は9.25×10-8[mol・(m・s・Pa)-1]、CHガスパーミエンスPCH4は1.50×10-8[mol・(m・s・Pa)-1]、パーミエンス比PCO2/PCH4は6.2であった。
ゼオライト膜全体におけるパーミエンス比PCO2/PCH4が、Knudsen拡散におけるパーミエンス比PCO2/PCH4に比べて大きいことから、ゼオライト細孔をCOが選択的に透過したことが判った。従って、このゼオライト膜がAFX型ゼオライト細孔の分子篩に由来するCO/CH分離能を有することが示唆された。
【0190】
本実施例でも、FAU型ゼオライトを付着させた多孔質支持体を用いてAl元素源を含む原料混合液中で水熱合成したことで、AFX型ゼオライトの純度が非常に高く、as-madeでの空気透過量が低く緻密なAFX型ゼオライト膜を多孔質支持体上に形成することができ、分子ふるい作用による分離効果の高いゼオライト膜複合体を得ることができた。
【0191】
[実施例10]
<多孔質支持体へのゼオライトの付着・水熱合成>
実施例6で付着用FAU型ゼオライトとして用いたものと同様のプロトン型FAU型ゼオライト(SAR=200、東ソー社製HSZ-390HUA)の粉末0.015gを、水熱合成用原料混合液に添加したほかは、実施例8と同様にアルミナ多孔質支持体-FAU型ゼオライト(Y型ゼオライト)膜複合体を水熱合成用原料混合液に浸漬してゼオライト膜複合体を合成した。
【0192】
<測定・評価>
このようにして得られたas-madeのゼオライト膜複合体の空気透過量は0L/(m・h)であり、緻密な膜を得られたことが示唆された。焼成後のゼオライト膜複合体の重量と多孔質支持体の重量の差から求めた、多孔質支持体上に結晶化したゼオライトの重量は142g/mであった。焼成後のゼオライト膜複合体の空気透過量は167L/(m・h)であった。生成した膜のXRD測定をしたところAFX型ゼオライトが生成していることを確認した。AFX型ゼオライトまたは多孔質支持体に帰属されない他の結晶相に由来するピークはほとんど確認されず、非常に純度の高いAFX型ゼオライト膜の形成が示唆された。AFX型ゼオライトに帰属されるピークのうち最も強度の高いピーク(2θ=21.8[deg])のピーク強度をI、AFX型ゼオライトまたは多孔質支持体に帰属されない他の結晶相に由来するピークのうち最も強度の高いピーク(2θ=18.8[deg])のピーク強度をIとした時、ピーク強度比I/Iが0.34であった。
XRD測定チャートを図13に示す。
【0193】
このゼオライト膜複合体を用いて、試験温度を140℃、供給ガス圧を0.4MPa、透過ガス圧を大気圧として単成分ガス透過試験を実施したところ、COパーミエンス(PCO2)は1.94×10-7[mol・(m・s・Pa)-1]、CHガスパーミエンスPCH4は1.50×10-8[mol・(m・s・Pa)-1]、パーミエンス比PCO2/PCH4は6.2であった。
ゼオライト膜全体におけるパーミエンス比PCO2/PCH4が、Knudsen拡散におけるパーミエンス比PCO2/PCH4に比べて大きいことから、ゼオライト細孔をCOが選択的に透過したことが判った。従って、このゼオライト膜がAFX型ゼオライト細孔の分子篩に由来するCO/CH分離能を有することが示唆された。
【0194】
本実施例でも、FAU型ゼオライトを付着させた多孔質支持体を用いてAl元素源を含む原料混合液中で水熱合成したことで、AFX型ゼオライトの純度が比較的高く、as-madeでの空気透過量が低く緻密なAFX型ゼオライト膜を多孔質支持体上に形成することができ、分子ふるい作用による分離効果の高いゼオライト膜複合体を得ることができた。
【0195】
[実施例11]
<多孔質支持体へのゼオライトの付着・水熱合成>
水熱合成用原料混合液の組成を変更した以外は、実施例3と同様に、アルミナ多孔質支持体-FAU型ゼオライト(Y型ゼオライト)膜複合体を合成した。水熱合成用原料混合液は、実施例3と同様に得た後、更にDABCO(19.8質量%水溶液 セイケム社製)を加えて1分間撹拌し、水熱合成用原料混合液の組成を1SiO/0.1Al/2.8NaOH/84HO/0.1DABCO(モル比)として用いた。実施例5で付着用FAU型ゼオライト分散液として用いたものと同様の、ビーズミルで粉砕したHY10の20質量%分散液1.24gを水熱合成用原料混合液に添加したほかは、実施例8と同様にして、前記の方法で得たアルミナ多孔質支持体-FAU型ゼオライト(Y型ゼオライト)膜複合体を水熱合成用原料混合液に浸漬してゼオライト膜複合体を合成した。
【0196】
<測定・評価>
このようにして得られたas-madeのゼオライト膜複合体の空気透過量は80L/(m・h)であり、比較的緻密な膜を得られたことが示唆された。焼成後のゼオライト膜複合体の重量と多孔質支持体の重量の差から求めた、多孔質支持体上に結晶化したゼオライトの重量は136g/mであった。焼成後のゼオライト膜複合体の空気透過量は589L/(m・h)であった。生成した膜のXRD測定をしたところAFX型ゼオライトが生成していることを確認した。AFX型ゼオライトまたは多孔質支持体に帰属されない他の結晶相に由来するピークはほとんど確認されず、非常に純度の高いAFX型ゼオライト膜の形成が示唆された。AFX型ゼオライトに帰属されるピークのうち最も強度の高いピーク(2θ=21.9[deg])のピーク強度をI、AFX型ゼオライトまたは多孔質支持体に帰属されない他の結晶相に由来するピークのうち最も強度の高いピーク(2θ=7.1[deg])のピーク強度をIとした時、ピーク強度比I/Iが0.30であった。
XRD測定チャートを図14に示す。
【0197】
このゼオライト膜複合体を用いて、試験温度を50℃、供給ガス圧を0.4MPa、透過ガス圧を大気圧、供給ガス線速を40cm/sとして、2成分混合ガス透過試験を実施したところ、供給ガス組成CO/CH=50/50の時、COパーミエンス(PCO2)は3.65×10-7[mol・(m・s・Pa)-1]、CHガスパーミエンスPCH4は2.95×10-8[mol・(m・s・Pa)-1]、パーミエンス比PCO2/PCH4は12.4であった。また、供給ガス組成CO/N=50/50の時、COパーミエンス(PCO2)は3.36×10-7[mol・(m・s・Pa)-1]、NガスパーミエンスPN2は3.62×10-8[mol・(m・s・Pa)-1]、パーミエンス比PCO2/PN2は9.29であった。
ゼオライト膜全体におけるパーミエンス比PCO2/PCH4が、Knudsen拡散におけるパーミエンス比PCO2/PCH4に比べて大きいことから、ゼオライト細孔をCOが選択的に透過したことが判った。従って、このゼオライト膜がAFX型ゼオライト細孔の分子篩に由来するCO/CH分離能を有することが示唆された。
また、N分子はAFX型ゼオライトの細孔径より大きいため、すべてゼオライト細孔ではなくゼオライト粒界を拡散して、膜を透過すると予想される。ゼオライト膜中の粒界におけるCOおよびNの拡散がKnudsen拡散であると仮定すると、欠陥におけるパーミエンス比PCO2/PN2は、以下の式から0.798と算出できる。
CO2/PCH4=(MWN2×T)0.5/(MWCO2×T)0.5
(MWCO2およびMWN2はそれぞれCOおよびNの分子量、Tは試験温度[K])
ゼオライト膜全体におけるパーミエンス比PCO2/PN2が、Knudsen拡散におけるパーミエンス比PCO2/PN2に比べて大きいことから、ゼオライト細孔をCOが選択的に透過したことが判った。従って、このゼオライト膜がAFX型ゼオライト細孔の分子篩に由来するCO/N分離能を有することが示唆された。
【0198】
本実施例でも、FAU型ゼオライトを付着させた多孔質支持体を用いてAl元素源を含む原料混合液中で水熱合成したことで、AFX型ゼオライトの純度が比較的高く、as-madeでの空気透過量が比較的低く緻密なAFX型ゼオライト膜を多孔質支持体上に形成することができ、分子ふるい作用による分離効果の高いゼオライト膜複合体を得ることができた。
【0199】
以上より、本発明の方法により得られた多孔質支持体-AFX型ゼオライト膜複合体は、窒素などの小さい分子に対しても分子ふるい作用による分離効果を示すことが分かった。これは、AFX型ゼオライト膜を形成しているAFX型ゼオライトの純度が高く、膜が緻密で、ガス分子がAFX型ゼオライトの細孔内を透過していることに起因すると考えられる。
【符号の説明】
【0200】
1 多孔質支持体-ゼオライト膜複合体
2 耐圧容器
3 エンドピン
4 接続部
5 圧力計
6 背圧弁
7 試料混合物
8 透過成分
9 スイープ流体
10 濃縮成分
11 配管
12 配管
図1
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図3
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