(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】多結晶基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 16/32 20060101AFI20240109BHJP
C30B 29/36 20060101ALI20240109BHJP
C30B 33/06 20060101ALI20240109BHJP
【FI】
C23C16/32
C30B29/36 A
C30B33/06
(21)【出願番号】P 2019233936
(22)【出願日】2019-12-25
【審査請求日】2022-08-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【氏名又は名称】福田 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100161001
【氏名又は名称】渡辺 篤司
(72)【発明者】
【氏名】西村 英一郎
【審査官】宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-041060(JP,A)
【文献】特開2001-158666(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 16/32
C30B 29/36
C30B 33/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学気相蒸着法により
厚み0.6mmの黒鉛製の支持基板上に多結晶膜を成膜する成膜工程と、
前記支持基板と前記多結晶膜との積層体を加熱して、前記支持基板を燃焼除去する除去工程と、を含み、
前記除去工程における前記積層体の加熱温度が、前記成膜工程における前記多結晶膜の成膜温度-50℃~前記成膜温度+50℃であ
り、
前記成膜工程において、前記支持基板の両面を成膜対象面として前記多結晶膜を成膜し、
前記多結晶膜が、炭化ケイ素多結晶膜であり、
前記成膜温度が、1200℃~1700℃である、反り量が150μm以下の多結晶基板の製造方法。
【請求項2】
前記成膜工程と前記除去工程の間に、前記積層体の外周端部にある前記多結晶膜の少なくとも一部を除去して、前記支持基板の少なくとも一部を露出させる露出工程をさらに含む、請求項
1に記載の多結晶基板の製造方法。
【請求項3】
前記除去工程後の前記多結晶膜の表面を研磨する研磨工程をさらに含む、請求項1
または2に記載の多結晶基板の製造方法。
【請求項4】
前記成膜温度が1350℃であり、
前記除去工程における前記積層体の加熱温度が1350℃である、請求項1~3のいずれか1項に記載の多結晶基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多結晶基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化ケイ素(SiC)は、ケイ素(Si)と炭素(C)で構成される、化合物半導体材料である。炭化ケイ素は、絶縁破壊電界強度がケイ素の10倍で、バンドギャップがケイ素の3倍であり、半導体材料として優れている。さらに、デバイスの作製に必要なp型、n型の制御が広い範囲で可能であることなどから、ケイ素の限界を超えるパワーデバイス用材料として期待されている。
【0003】
しかしながら、炭化ケイ素半導体は、従来広く普及しているケイ素半導体と比較して、大面積の炭化ケイ素単結晶基板を得ることが難しく、製造工程も複雑である。これらの理由から、炭化ケイ素半導体は、ケイ素半導体と比較して大量生産が難しく、高価であった。
【0004】
これまでにも、炭化ケイ素半導体のコストを下げるために、様々な工夫が行われてきた。例えば、特許文献1には、炭化ケイ素基板の製造方法であって、少なくとも、マイクロパイプの密度が30個/cm2以下の炭化ケイ素単結晶基板と炭化ケイ素多結晶基板を準備し、前記炭化ケイ素単結晶基板と前記炭化ケイ素多結晶基板とを貼り合わせる工程を行い、その後、単結晶基板を薄膜化する工程を行い、多結晶基板上に単結晶層を形成した基板(以下、「炭化ケイ素貼り合わせ基板」と記載することがある。)を製造することが記載されている。
【0005】
更に、特許文献1には、単結晶基板と多結晶基板とを貼り合わせる工程の前に、単結晶基板に水素イオン注入を行って水素イオン注入層を形成する工程を行い、単結晶基板と多結晶基板とを貼り合わせる工程の後、単結晶基板を薄膜化する工程の前に、350℃以下の温度で熱処理を行い、単結晶基板を薄膜化する工程を、水素イオン注入層にて機械的に剥離する工程とする炭化ケイ素基板の製造方法が記載されている。
【0006】
このような方法により、1つの炭化ケイ素単結晶インゴットからより多くの炭化ケイ素貼り合わせ基板が得られるようになった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
例えば、炭化ケイ素半導体の製造過程において、特許文献1の方法で製造された炭化ケイ素貼り合わせ基板の大部分が、多結晶基板であり、炭化ケイ素多結晶基板の製造においては、化学気相蒸着法(化学気相成長法、CVD法)によって800℃程度以上の高温で黒鉛支持基板上に炭化ケイ素多結晶膜を成膜したのち、さらに焼成して黒鉛支持基板を気化させる等の手段により、支持基板と炭化ケイ素多結晶膜の積層体から支持基板を一部もしくは全てを除去して、炭化ケイ素多結晶基板を得ていた。
【0009】
しかしながら、このようにして得られた炭化ケイ素等の多結晶膜基板は、冷却時に黒鉛支持基板と多結晶膜の熱膨脹係数差により内部応力が生じることに起因して、反りが生じることがあった。炭化ケイ素等の貼り合わせ基板を製造する等の用途に用いるためには、多結晶基板の平坦度を高くする必要があり、反りの大きい状態から平坦度の高い多結晶基板を得るため行われる平面研削の際の研削量が多くなり、製造歩留まりを低下させる要因となっていた。
【0010】
従って、本発明は、上記のような問題点に着目し、本発明は、多結晶基板の反りの発生を抑制することができる、多結晶基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の多結晶基板の製造方法は、化学気相蒸着法により黒鉛製の支持基板上に多結晶膜を成膜する成膜工程と、前記支持基板と前記多結晶膜との積層体を加熱して、前記支持基板を燃焼除去する除去工程と、を含み、前記除去工程における前記積層体の加熱温度が、前記成膜工程における前記多結晶膜の成膜温度-50℃~前記成膜温度+50℃である。
【0012】
また、本発明の多結晶基板の製造方法において、前記成膜工程において、前記支持基板の両面を成膜対象面として前記多結晶膜を成膜してもよい。
【0013】
また、本発明の多結晶基板の製造方法において、前記成膜工程と前記除去工程の間に、前記積層体の外周端部にある前記多結晶膜の少なくとも一部を除去して、前記支持基板の少なくとも一部を露出させる露出工程をさらに含んでもよい。
【0014】
また、本発明の多結晶基板の製造方法において、前記除去工程後の前記多結晶膜の表面を研磨する研磨工程をさらに含んでもよい。
【0015】
また、本発明の多結晶基板の製造方法において、前記多結晶膜が、炭化ケイ素多結晶膜であり、前記成膜温度が、1200℃~1700℃であってもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明の多結晶基板の製造方法であれば、多結晶基板の反りの発生を抑制することができる。これにより、平坦度を高める等の後工程の負担が少なくなり、歩留まりやコストを改善させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の一実施形態にかかる多結晶基板の製造方法において用いる成膜装置の一例を模式的に示す断面図である。
【
図2】本発明の一実施形態にかかる多結晶基板の製造方法の各工程における、支持基板、多結晶膜、多結晶基板を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の一実施形態にかかる多結晶基板の製造方法について、図面を参照して説明する。本実施形態の多結晶基板の製造方法は、化学気相蒸着法により黒鉛製の支持基板上に多結晶膜を成膜する成膜工程と、前記支持基板と前記多結晶膜との積層体を加熱して、前記支持基板を燃焼除去する除去工程と、を含むものである。本発明者等が鋭意研究し、試行錯誤を重ねた結果、本実施形態の多結晶基板の製造方法により、反りのない多結晶基板が得られることを見出すに至った。本実施形態の多結晶基板の製造方法は、例えば、炭化ケイ素(SiC)多結晶基板やシリコン(Si)多結晶基板の製造に適用することができる。以下の実施形態においては、多結晶基板として、炭化ケイ素多結晶基板を製造する場合を例示して説明する。
【0019】
次に、本実施形態の多結晶基板の製造方法について、成膜工程、除去工程の順に説明する。
【0020】
(成膜工程)
成膜工程について、図面を参照して説明する。以下の説明は成膜工程の一例であり、問題のない範囲で温度、圧力等の各条件や、手順等を変更してもよい。
【0021】
本実施形態の成膜工程は、化学気相蒸着法により黒鉛製の支持基板100上に、炭化ケイ素多結晶膜200(多結晶膜)を成膜する工程である。炭化ケイ素多結晶膜200を成膜する場合には、炭化ケイ素多結晶膜の成膜温度は、炭化ケイ素多結晶膜の一般的な成膜温度である、1200℃~1700℃とすることができる。例えば、以下に説明する成膜装置1000(
図1)を用いて行うことができる。支持基板100としては、黒鉛製の支持基板を好適に用いることができ、これにより、高温条件下で炭化ケイ素多結晶膜の蒸着を行う化学気相蒸着法においても、軟化や形状の変形等が発生し難い。また、支持基板100の厚さや成膜対象面の大きさ等の形状は特に限定されず、所望の炭化ケイ素多結晶基板500に合わせたものを用いることができる。なお、炭化ケイ素多結晶膜200の成膜は、成膜対象を支持基板100の両面とするか、片面とするかは特に限定されない。支持基板100の両面を成膜対象とすることで、1枚の支持基板100から2枚の炭化ケイ素多結晶基板を得ることができ、生産効率を向上させることができる。本実施形態においては、支持基板100の両面を成膜対象として炭化ケイ素多結晶基板を製造する方法を説明する。
【0022】
成膜装置1000は、化学気相蒸着法によって、支持基板100に炭化ケイ素多結晶膜200を成膜するために用いることができる。成膜装置1000は、成膜装置1000の外装となる筐体1100と、支持基板100に炭化ケイ素多結晶膜200を成膜させる成膜室1010と、成膜室1010より排出された原料ガスやキャリアガスを後述のガス排出口1030へ導入する排出ガス導入室1040と、排出ガス導入室1040を覆うボックス1050と、ボックス1050の外部より成膜室1010内を加温する、カーボン製のヒーター1060と、成膜室1010の下部に設けられ、成膜室1010に原料ガスやキャリアガスを導入するガス導入口1020と、ガス排出口1030と、支持基板100を保持する基板ホルダー1070を有する。また、基板ホルダー1070は、2つの柱1071と、支持基板100を水平に載置する、柱1071に設けられた載置部1072を有する。
【0023】
成膜に先立ち、予め、成膜室1010内に支持基板100を保持させて、排気ポンプを用いて減圧状態(例えば、25kPa程度)または酸素分圧が低い状態において、成膜の反応温度まで、ヒーター1060により支持基板100を加熱することが好ましい。また、このとき、炭化ケイ素多結晶が蒸着して成膜する前の支持基板100に、炭化ケイ素多結晶膜200の成膜を阻害するような反応が生じないよう、支持基板100を不活性雰囲気下とするために、Ar等の不活性ガス雰囲気下とすることが好ましい。成膜の反応温度まで達したら、不活性ガスの供給を止めて、成膜室1010内に炭化ケイ素多結晶膜200の成分を含む原料ガスやキャリアガス、ドーピングガスを供給して成膜工程を行う。
【0024】
原料ガスとしては、炭化ケイ素多結晶膜200を成膜させることができれば、特に限定されず、一般的に炭化ケイ素多結晶膜の成膜に使用されるSi系原料ガスやC系原料ガスを用いることができる。Si系原料ガスとしては、例えば、シラン(SiH4)を用いることができるほか、モノクロロシラン(SiH3Cl)、ジクロロシラン(SiH2Cl2)、トリクロロシラン(SiHCl3)、テトラクロロシラン(SiCl4)などのエッチング作用があるClを含む塩素系Si原料含有ガス(クロライド系原料)を用いることもできる。また、C系原料ガスとしては、例えば、メタン(CH4)、プロパン(C3H8)、アセチレン(C2H2)等の炭化水素ガスを用いることができる。また、上記のほか、トリクロロメチルシラン(CH3Cl3Si)、トリクロロフェニルシラン(C6H5Cl3Si)、ジクロロメチルシラン(CH4Cl2Si)、ジクロロジメチルシラン((CH3)2SiCl2)、クロロトリメチルシラン((CH3)3SiCl)等のSiとCとを両方含むガスも、原料ガスとして用いることができる。
【0025】
また、キャリアガスとしては、炭化ケイ素多結晶膜200の成膜を阻害することなく、原料ガスを支持基板100へ展開することができれば、一般的に使用されるキャリアガスを用いることができる。例えば、熱伝導率に優れ、SiCに対してエッチング作用がある水素(H2)を用いることができる。また、これらの原料ガスおよびキャリアガスと同時に、第3のガスとして、不純物ドーピングガスを同時に供給することもできる。例えば、導電型をn型とする場合には窒素(N2)ガス、p型とする場合にはトリメチルアルミニウム(TMA)ガスを用いることができる。
【0026】
炭化ケイ素多結晶膜200を成膜させる際には、上記のガスを適宜混合して、または、個別に成膜室1010内に供給する。具体的には、加熱した支持基板100に、1200~1700℃の温度において、炭化ケイ素多結晶膜200の成分を含む原料ガスやキャリアガス等の混合ガスを供給し、減圧下(例えば、25kPa程度)において支持基板100の二酸化ケイ素膜の表面や気相での化学反応を所定時間行うことで炭化ケイ素多結晶膜200を堆積することより、炭化ケイ素多結晶膜200を得る。また、所望の炭化ケイ素多結晶膜200の性状に応じて、上記条件内において、成膜工程の途中でガスの混合割合、供給量等の条件を変更してもよい。
【0027】
ここで、支持基板上にシリコン多結晶膜を成膜する場合には、原料ガスとして、例えば、シラン(SiH4)やトリクロロシラン(SiHCl3)など、シリコン多結晶膜の成膜に一般的に用いられるガスを用いることができる。また、成膜温度は、例えば、800℃~1000℃程度とすることができる。
【0028】
支持基板100の表面や気相での化学反応により、加熱した支持基板100に炭化ケイ素多結晶膜200を成膜させることができる。これにより、
図2(B)に示すように、支持基板100に炭化ケイ素多結晶膜200が成膜された、支持基板100と炭化ケイ素多結晶膜200との積層体300が得られる。その後、成膜時に供給していたガスの供給、および、排気ポンプを停止して、次いで減圧下、または、酸素分圧が低い状態において、Ar等の不活性ガスを成膜室1010内に供給しながら、室温まで冷却させる。以上のように形成された積層体300は、常温程度まで冷却されたのちに、除去工程に供される。
【0029】
(除去工程)
次に、成膜工程により得られた積層体300を、除去工程に供する。除去工程は、支持基板100と炭化ケイ素多結晶膜200との積層体300から支持基板100を除去する工程である。
【0030】
成膜工程と除去工程の間に、積層体300の外周端部にある炭化ケイ素多結晶膜200の少なくとも一部を除去して、支持基板100の少なくとも一部を露出させる露出工程をさらに含んでいてもよい。すなわち、端面加工装置等を用いて、例えば、
図2(B)の線Aの箇所で、外周部200Aを端面から内側へ2~4mm研削して、支持基板100の少なくとも一部(本実施形態においては支持基板100の側面110)を露出させて、支持基板100と炭化ケイ素多結晶膜200の本体部200Bとの積層体300Aを得る(
図2(C))。これにより、黒鉛製の支持基板100の側面110が露出して、除去工程により黒鉛製の支持基板100を気化させ易くなる。なお、支持基板100の外周端部にリング状の黒鉛等によりマスキングしておき、炭化ケイ素多結晶膜200を成膜したのちに、炭化ケイ素多結晶膜200をマスキングした材料ごと除去することにより、支持基板100を露出させてもよい。なお、リング状の黒鉛に、例えばタブのような把持部等を形成しておくなどして、炭化ケイ素多結晶膜200がリング状の黒鉛上に成膜しても除去しやすいようにすることが好ましい。また、支持基板100の片面を成膜対象として炭化ケイ素多結晶膜を成膜した場合には、裏面に蒸着した炭化ケイ素多結晶を除去することにより、支持基板の一部を露出させてもよい。さらに、積層体300Aを加熱して、支持基板100を燃焼させることにより支持基板100を除去することができる。加熱温度は、成膜工程における炭化ケイ素多結晶膜200の成膜温度-50℃(成膜温度よりも50℃低い温度)~前記成膜温度+50℃(成膜温度よりも50℃高い温度)とする。燃焼時間は、例えば、10時間程度とすることができる。燃焼による支持基板100の除去工程は、例えば、二珪化モリブデン製のヒーターを備える燃焼炉等を用いることができる。まず、積層体300Aを燃焼炉内に保持して、燃焼炉内にO
2や空気等の酸化性ガスを供給しながら、大気圧下、または、酸素分圧が高い状態において、ヒーターにより燃焼炉内を加熱する。なお、燃焼炉内を加熱温度まで昇温するときには、減圧下、または、酸素分圧低い状態において、燃焼炉内にArガス等の不活性ガスを供給して、燃焼炉内を不活性条件にすることが好ましい。加熱により、支持基板100のみが燃焼して、支持基板100が除去された炭化ケイ素多結晶膜が得られ、
図2(D)に示すように、これを炭化ケイ素多結晶基板500として用いる。
【0031】
また、除去工程後の炭化ケイ素多結晶膜について、必要に応じて、厚さや表面粗さの調整、また、平坦度を高める等のために、除去工程後の炭化ケイ素多結晶膜の表面を研磨する研磨工程をさらに行って、炭化ケイ素多結晶基板500を得てもよい。炭化ケイ素多結晶基板500は、半導体の製造に用いられる基板とするのであれば、半導体製造プロセスで使用できる程度の面精度が必要となる。そこで、研磨工程により、支持基板100を除去した後の炭化ケイ素多結晶膜の表面を平滑化することが好ましい。例えば、支持基板100を除去した後の炭化ケイ素多結晶膜をダイアモンドスラリーでラップ処理し、ダイアモンドとアルミナとの混合スラリーでハードポリッシュした後に、シリカスラリー(コロイダルシリカ、pH11)でポリッシュするという工程を経て、平滑化した炭化ケイ素多結晶基板500を得ることができる。
【0032】
また、本実施形態の炭化ケイ素多結晶基板の製造方法において、上述した工程以外に、他の工程を含んでいてもよい。他の工程としては、例えば、研磨工程後の炭化ケイ素基板において、研磨工程により炭化ケイ素多結晶基板の表面に付着した付着物を除去するための洗浄工程等が挙げられる。
【0033】
本実施形態の炭化ケイ素多結晶基板の製造方法においては、除去工程における積層体の加熱温度が、成膜工程における成膜温度-50℃~前記成膜温度+50℃である。炭化ケイ素多結晶膜の成膜工程において、支持基板100と炭化ケイ素多結晶膜200の積層体が成膜温度帯にあるときには、成膜した炭化ケイ素多結晶膜と支持基板のサイズは一致しており、反りは生じない。
【0034】
支持基板の燃焼温度は、従来の炭化ケイ素多結晶基板の製造方法において、炭化ケイ素多結晶膜の成膜温度よりも例えば200℃程度以上低いことが多い。ここで、支持基板の片面に炭化ケイ素多結晶膜を成膜した場合、炭化ケイ素多結晶膜成膜後の冷却過程において、炭化ケイ素と支持基板の材料である黒鉛との熱膨張係数が異なる場合、炭化ケイ素多結晶膜と黒鉛製支持基板との収縮量に差が生じ、積層体に反りが発生し得る。積層体が反った状態で支持基板を燃焼除去すると、炭化ケイ素基板に反りが固定化されるため得られた炭化ケイ素基板も反ってしまうこととなる。また、支持基板の両面に炭化ケイ素多結晶膜を成膜した場合、炭化ケイ素多結晶膜成膜後の冷却工程において、黒鉛と炭化ケイ素との熱膨張係数の違いによる収縮量の差に起因する反りは発生しないものの、各層の内部に応力が発生する。この状態で支持基板を燃焼除去すると、内部応力に起因して、炭化ケイ素基板に反りが生じうる。
【0035】
一方、本実施形態の炭化ケイ素多結晶基板の製造方法のように、除去工程における積層体300Aの加熱温度を、成膜工程における成膜温度-50℃~前記成膜温度+50℃として、支持基板100を燃焼除去することで、成膜後の冷却において反りが発生した場合でも、成膜温度と同程度の温度に加熱されることにより、再び反りがほとんどない状態の積層体となる。また、内部に応力が発生していた場合においても、成膜温度と同程度の温度に加熱されることにより、発生した応力が相殺される。このような状態で、支持基板100が燃焼除去されるため、反りの小さい炭化ケイ素多結晶基板500を得ることが出来る。
【0036】
本実施形態の多結晶基板の製造方法であれば、多結晶基板の反りの発生を抑制することができる。これにより、平坦度を高める等の後工程の負担が少なくなり、歩留まりやコストを改善させることができる。
【0037】
その他、本発明を実施するための最良の構成、方法などは、以上の記載で開示されているが、本発明は、これに限定されるものではない。すなわち、本発明は、主に特定の実施形態に関して特に説明されているが、本発明の技術的思想及び目的の範囲から逸脱することなく、以上述べた実施形態に対し、形状、材質、数量、その他の詳細な構成において、当業者が様々な変形を加えることができるものである。従って、上記に開示した形状、材質などを限定した記載は、本発明の理解を容易にするために例示的に記載したものであり、本発明を限定するものではないから、それらの形状、材質などの限定の一部、もしくは全部の限定を外した部材の名称での記載は、本発明に含まれるものである。
【実施例】
【0038】
以下、本発明の実施例および比較例によって、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されることはない。
【0039】
本実施例においては、成膜装置1000を用いて黒鉛製の支持基板に炭化ケイ素多結晶膜を成膜する成膜工程を行ったのち、露出工程、支持基板の除去工程を行うことで炭化ケイ素多結晶基板を得た実施例を例示して説明する。
【0040】
(実施例1)
[炭化ケイ素多結晶基板の製造]
直径6インチ、厚み0.6mmの黒鉛製の支持基板を前述した実施形態の成膜装置1000の成膜室に保持して、成膜工程を行った。まず、成膜室1010内へArガスを流入させながら、成膜室1010内を不図示の排気ポンプにより25kPaに減圧した後、1350℃まで加熱して、1350℃に達したのちArガスの供給を停止した。原料ガスとして、SiCl4ガスとCH4ガスを各800sccm(standard cc/min、1気圧、0℃での値に換算したガス流量)、キャリアガスとして水素ガスを5000sccmで導入し、25kPaで、20時間の成膜を実施して炭化ケイ素多結晶膜を成膜した。
【0041】
炭化ケイ素多結晶膜を成膜後、端面加工装置を使用し、炭化ケイ素多結晶膜の外周部を研磨することで、黒鉛製の支持基板の側面を露出させた。その後、燃焼炉内を減圧した状態で加熱温度まで昇温させたのち、O2雰囲気下で、圧力は1気圧で、加熱温度を1350℃で、10時間保持して、支持基板と炭化ケイ素多結晶膜との積層体を燃焼させ、支持基板を完全に除去し、炭化ケイ素多結晶基板を得た。
【0042】
[炭化ケイ素多結晶基板の評価]
炭化ケイ素多結晶基板の表面の中心線上を斜入射型光学測定器により測定し、得られた測定値の最大値と最小値との差を反り量とした。測定は5点とし、中心、円周端部、および中心と円周端部との間にあり、中心からの距離と円周端部からの距離が同じ地点について、測定した。反り量が、50μm以下の場合を◎、150μm以下の場合を○、150μmよりも大きい場合を×と評価した。結果を表1に示した。また、表1には、成膜温度、加熱温度、温度差(加熱温度-成膜温度(℃))を併せて示した。
【0043】
(実施例2、実施例3、比較例1~比較例4)
除去工程における加熱温度を種々変更したこと以外は、実施例1と同様の方法により炭化ケイ素多結晶基板を製造した。除去工程における加熱温度、炭化ケイ素多結晶基板の評価結果を表1に示した。
【0044】
【0045】
本発明の例示的実施例1~実施例3において、炭化ケイ素多結晶基板の反り量を確認したところ、加熱温度が1350℃(成膜温度と同じ温度)とした実施例1においては、反り量が50μm以下となり、反り量がとても少ない基板が得られた。また、実施例2(加熱温度が成膜温度よりも50℃低い)、実施例3(加熱温度が成膜温度よりも50℃高い)においては、反り量が150μm以下となり、反り量が少ない基板が得られた。また、比較例1~比較例4(いずれも、加熱温度が成膜温度-50℃よりも低い、または、成膜温度+50℃よりも高い)の炭化ケイ素多結晶基板においては、反り量が150μmよりも大きかった。よって、本発明の多結晶基板の製造方法であれば、多結晶基板の反りの発生を抑制することができ、平坦度を高める等の後工程の負担が少なくなり、歩留まりやコストを改善させることができることが示された。
【符号の説明】
【0046】
100 支持基板
200 炭化ケイ素多結晶膜(多結晶膜)
300 積層体
500 炭化ケイ素多結晶基板(多結晶基板)