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特許7413820スルフィド化剤およびポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法
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  • 特許-スルフィド化剤およびポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】スルフィド化剤およびポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 75/0281 20160101AFI20240109BHJP
   C08G 75/0259 20160101ALI20240109BHJP
【FI】
C08G75/0281
C08G75/0259
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020024297
(22)【出願日】2020-02-17
(65)【公開番号】P2021127422
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-12-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100177471
【弁理士】
【氏名又は名称】小川 眞治
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(72)【発明者】
【氏名】深澤啓一郎
【審査官】宮内 弘剛
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-218214(JP,A)
【文献】特表2013-540703(JP,A)
【文献】特開平02-160833(JP,A)
【文献】特開平11-349566(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、ポリアリーレンスルフィド樹脂、アルカリ金属ハロゲン化物、チオフェノール誘導体およびスルフィド化剤を含む混合物(a)と水とを接触させた後、ポリアリーレンスルフィド樹脂を分離、除去して、少なくとも、アルカリ金属ハロゲン化物、チオフェノール誘導体およびスルフィド化剤を含む水溶液(b)を得る工程(1)、
少なくとも、アルカリ金属ハロゲン化物、チオフェノール誘導体およびスルフィド化剤を含む水溶液(b)に酸を加えてpHを8以下までの範囲に調整して、硫化水素を生成させる工程(2)、
生成した硫化水素を、アルカリ金属水酸化物又はアルカリ土類金属水酸化物を含む水溶液を有するチオフェノール回収用トラップ槽を経由して回収する工程(3)、および、
回収した硫化水素とアルカリ金属水酸化物とを反応させる工程(4)、
を有し、
前記工程(3)において回収されるチオフェノールの割合が、前記工程(2)において該水溶液(b)中に含まれるチオフェノール誘導体100モルに対して、70モル未満の範囲であることを特徴とする、スルフィド化剤の製造方法。
(ただし、スルフィド化剤は、アルカリ金属硫化物および/またはアルカリ金属水硫化物をさす。)
【請求項2】
少なくとも、ポリアリーレンスルフィド樹脂、アルカリ金属ハロゲン化物およびスルフィド化剤を含む混合物(a)は、
非プロトン性極性溶媒中で、ポリハロ芳香族化合物と、スルフィド化剤とを反応させた後に得られる、少なくともポリアリーレンスルフィド樹脂、アルカリ金属ハロゲン化物、前記非プロトン性極性溶媒、チオフェノール誘導体およびスルフィド化剤を含む粗反応混合物であるか、または当該粗反応混合物から前記非プロトン性極性溶媒を固液分離させて得られた反応混合物である、請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
非プロトン性極性溶媒中で、ポリハロ芳香族化合物と、スルフィド化剤とを反応させる際に用いる前記スルフィド化剤は、少なくとも非プロトン性極性溶媒の存在下で、含水スルフィド化剤を脱水する脱水工程を経て得られたものである、請求項記載の製造方法。
【請求項4】
回収した硫化水素を、アルカリ金属水酸化物と反応させる工程(4)の後に、未反応のアルカリ金属水酸化物に対して、硫化水素を加えて、該硫化水素と未反応のアルカリ金属水酸化物とを反応させる工程(5)を有する、請求項1記載の製造方法。
【請求項5】
前記請求項に記載の脱水工程において生成した硫化水素を回収した後、アルカリ金属水酸化物と反応させてスルフィド化剤を得る工程、を有することを特徴とするスルフィド化剤の製造方法。
【請求項6】
前記アルカリ金属水酸化物と反応させてスルフィド化剤を得る工程の後に、未反応のアルカリ金属水酸化物に対して、硫化水素を加えて、該硫化水素と未反応のアルカリ金属水酸化物とを反応させる工程を有する、請求項記載のスルフィド化剤の製造方法。
【請求項7】
有機アミド溶媒の存在下で含水スルフィド化剤を脱水して得られたスルフィド化剤を、有機アミド溶媒の存在下でポリハロ芳香族化合物と反応させてポリアリーレンスルフィド樹脂を製造する、ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法において、含水スルフィド化剤またはスルフィド化剤の少なくとも一部として前記請求項1~の何れか一項記載の製造方法により得られたスルフィド化剤および/または前記請求項またはの製造方法により得られたスルフィド化剤を加える工程を有することを特徴とする、ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スルフィド化剤の製造方法、および、それを用いたポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法に関する。より詳しくは、ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造工程で排出される廃水からスルフィド化剤を分離、精製し製造する方法、および得られたスルフィド化剤を原料の一部として再利用するポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリフェニレンスルフィド樹脂(PPS樹脂)に代表されるポリアリーレンスルフィド樹脂(PAS樹脂)は、耐熱性、耐薬品性等に優れ、電気電子部品、自動車部品、給湯機部品、繊維、フィルム用途等に幅広く利用されている。特に、リチウムイオン電池用パッキンやガスケット部材といった用途では、近年、特に高分子量ポリアリーレンスルフィド樹脂が、靭性および成形性に優れることから広く用いられている。
【0003】
ポリアリーレンスルフィド樹脂は、N-メチル-2-ピロリドン(以下、NMPと略すことがある)などの非プロトン性極性溶媒中で、ポリハロ芳香族化合物を、アルカリ金属硫化物および/またはアルカリ金属水硫化物(以下、スルフィド化剤ということがある)と重合反応させる方法等により得られるが、目的物質のポリアリーレンスルフィド樹脂と共に、溶媒、重合反応せずに残留したアルカリ金属水硫化物やアルカリ金属硫化物といったスルフィド化剤や塩化ナトリウムに代表されるアルカリ金属ハロゲン化物や、他のアルカリ金属含有無機塩、副反応により生成するオリゴマーおよびその誘導体といった副生成物を含有する粗反応生成物が得られる。重合反応後の粗反応生成物は適当な容器に取り出され、粗反応生成物中の溶媒は溶媒乾燥装置、濾過器、遠心分離器等の適当な固液分離装置を用いて脱溶媒処理により分離回収される(本操作を脱溶媒という)。
【0004】
さらに、脱溶媒処理後に得られる反応生成物は目的物質のポリアリーレンスルフィド樹脂と共に、アルカリ金属ハロゲン化物や、他のアルカリ金属含有無機塩や副生成物を含有するため、水洗と濾過が繰り返され、これらが除去される。一般には、100℃未満で行う水洗方法と、100℃以上の高温高圧下で行う熱水洗とがある。水洗又は熱水洗後に得られるポリアリーレンスルフィドは濾過器、遠心濾過器等で分離され、その後乾燥され、必要に応じて熱処理し架橋反応を行い製品とする。
【0005】
一方、水洗または熱水洗後に得られる廃水は、これまで産業廃棄物として処理されており有効活用されてこなかった。しかし、該廃水はCOD負荷が高いことから、環境負荷低減のために、COD物質を低減することが求められていた。
【0006】
廃水中のCOD物質を低減する処理方法としては、たとえば、廃水に、酸性凝集剤を加えてpH調整し、COD物質を不溶化させ、不溶化させたCOD物質を分離することを特徴とする廃水処理方法などが知られている(特許文献1参照)。しかしながら、この方法は、精製工程の廃水が導入され、混合機能を有し、且つpH指示調節計を備えておりpH調製と凝集処理が可能な凝集反応槽と、前記凝集反応槽より導入された不溶化したCOD物質を分離する連続式遠心分離装置を用いて分離する方法であるため、分離したCOD物質の含水率が高く、ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造原料として再利用することができなかった。しかも酸性凝集剤により分離したCOD物質は大きなフロック状に析出したものであるため、産業廃棄物として処理せざるを得ず、好ましいものとは言えなかった。
【0007】
そのため、重合反応後の水洗ないし熱水洗で排出される廃水を詳しく調べたところ、未反応のまま残留したスルフィド化剤が硫黄原子に換算して、仕込み量の3~5モル%程度の残留しており、該未反応スルフィド化剤が廃水のCOD値を高くしている要因の一つであること、さらに、硫黄原子のロス(原料原単位の低下)の原因となっていることが明らかとなった。
【0008】
そこで、重合反応後の水洗ないし熱水洗で排出される廃水には、重合せずに残留したスルフィド化剤のほかに、アルカリ金属ハロゲン化物や、副反応により生成するオリゴマーおよびその誘導体といった副生成物が含有されるため、一旦、酸を加えて未反応スルフィド化剤をガス化して、分離、回収することによって、未反応スルフィド化剤の廃水中からの除去と回収を行い、これにより、廃水のCODの低減とポリアリーレンスルフィド樹脂の製造原料として再利用が可能となることが提案された(特許文献2参照)。しかしながら、この未反応スルフィド化剤を含む回収物をポリアリーレンスルフィド樹脂の製造原料として再利用した場合、得られるポリアリーレンスルフィド樹脂の高分子量化にまだ改善の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2003-275773号公報
【文献】特開2015-218214号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
そこで本発明が解決しようとする課題は、ポリアリーレンスルフィド樹脂の重合反応後の水洗ないし熱水洗で排出される廃水に含まれる未反応スルフィド化剤を回収する方法を提供でき、さらに、回収した未反応スルフィド化剤をポリアリーレンスルフィド樹脂の重合原料として再利用した場合において、より分子量の高いポリアリーレンスルフィド樹脂を製造する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本願発明者らは種々の検討を行った結果、ポリアリーレンスルフィド樹脂の重合反応後の水洗ないし熱水洗で排出される廃水に含まれる未反応スルフィド化剤を回収した際に、当該回収物中に、チオフェノールまたはその誘導体が含まれること、それにより、上記の未反応スルフィド化剤を含む回収物をポリアリーレンスルフィド樹脂の製造原料として再利用した際に、ポリアリーレンスルフィド樹脂の高分子量化を阻害していることを突き止め、さらに、該回収物中のチオフェノール濃度を簡便かつ生産性良く低減できる方法を見出し、上記課題を解決するに至った。
【0012】
すなわち本発明は、[1] 少なくとも、ポリアリーレンスルフィド樹脂、アルカリ金属ハロゲン化物、チオフェノール誘導体およびスルフィド化剤を含む混合物(a)と水とを接触させた後、ポリアリーレンスルフィド樹脂を分離、除去して、少なくとも、アルカリ金属ハロゲン化物、チオフェノール誘導体およびスルフィド化剤を含む水溶液(b)を得る工程(1)、
少なくとも、アルカリ金属ハロゲン化物、チオフェノール誘導体およびスルフィド化剤を含む水溶液(b)に酸を加えてpHを8以下までの範囲に調整して、硫化水素を生成させる工程(2)、
生成した硫化水素を、アルカリ金属水酸化物又はアルカリ土類金属水酸化物を含む水溶液を有するチオフェノール回収用トラップ槽を経由して回収する工程(3)、および、
回収した硫化水素とアルカリ金属水酸化物とを反応させる工程(4)、
を有することを特徴とする、スルフィド化剤の製造方法、に関する。
【0013】
また、本発明は[2]前記工程(3)において回収されるチオフェノールの割合が、前記工程(3)において該水溶液(b)中に含まれるチオフェノール誘導体100モルに対して、100モル未満の範囲である、前記[1]記載のスルフィド化剤の製造方法、に関する。
また、本発明は[3]少なくとも、ポリアリーレンスルフィド樹脂、アルカリ金属ハロゲン化物、チオフェノール誘導体およびスルフィド化剤を含む混合物(a)は、
非プロトン性極性溶媒中で、ポリハロ芳香族化合物と、スルフィド化剤とを反応させた後に得られる、少なくともポリアリーレンスルフィド樹脂、アルカリ金属ハロゲン化物、前記非プロトン性極性溶媒、チオフェノール誘導体およびスルフィド化剤を含む粗反応混合物であるか、または当該粗反応混合物から前記非プロトン性極性溶媒を固液分離させて得られた反応混合物である、前記[1]または[2]記載の製造方法に関する。
また本発明は[4]非プロトン性極性溶媒中で、ポリハロ芳香族化合物と、スルフィド化剤とを反応させる際に用いる前記スルフィド化剤は、少なくとも非プロトン性極性溶媒の存在下で、含水スルフィド化剤を脱水する脱水工程を経て得られたものである、前記[3]記載の製造方法、に関する。
【0014】
さらに本発明は[5]回収した硫化水素を、アルカリ金属水酸化物と反応させる工程(4)の後に、未反応のアルカリ金属水酸化物に対して、硫化水素を加えて、該硫化水素と未反応のアルカリ金属水酸化物とを反応させる工程(5)を有する、前記[1]記載の製造方法に関する。
【0015】
さらに本発明は[6]前記[4]に記載の脱水工程において生成した硫化水素を回収した後、アルカリ金属水酸化物と反応させてスルフィド化剤を得る工程、を有することを特徴とするスルフィド化剤の製造方法、に関する。
【0016】
さらに本発明は[7]前記アルカリ金属水酸化物と反応させてスルフィド化剤を得る工程の後に、未反応のアルカリ金属水酸化物に対して、硫化水素を加えて、該硫化水素と未反応のアルカリ金属水酸化物とを反応させる工程を有する、前記[6]記載のスルフィド化剤の製造方法、に関する。
【0017】
さらに本発明は[8]有機アミド溶媒の存在下で含水スルフィド化剤を脱水して得られたスルフィド化剤を、有機アミド溶媒の存在下でポリハロ芳香族化合物と反応させてポリアリーレンスルフィド樹脂を製造する、ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法において、含水スルフィド化剤またはスルフィド化剤として前記[1]~[5]の何れか一項記載の製造方法により得られたスルフィド化剤および/または前記[6]または[7]の製造方法により得られたスルフィド化剤を加える工程を有することを特徴とする、ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法、に関する。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、ポリアリーレンスルフィド樹脂の重合反応後の水洗ないし熱水洗で排出される廃水に含まれる未反応スルフィド化剤を回収する方法を提供でき、さらに、回収した未反応スルフィド化剤をポリアリーレンスルフィド樹脂の重合原料として再利用した場合に、より分子量の高いポリアリーレンスルフィド樹脂を製造する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施例(1-2)スルフィド化剤の製造法(水硫化ソーダ回収液の調整)で用いた実験装置のうち、トラップ槽と連結させたガス吸収瓶の概念図である。詳しくはガス導入管(2)がトラップ槽(1)内の液面(2)より下方へ導かれている。さらにトラップ槽(1)内でバブリングさせた硫化水素が該槽(1)のガス排出管(3)、ジョイント部(10)およびガス吸収瓶(5)へのガス導入管(7)を経由して、該ガス吸収瓶(5)内の液面(6)より下方へ導かれ、当該ガス吸収瓶(5)内で水溶液中に硫化水素が吸収される。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のスルフィド化剤の製造方法は、 少なくとも、ポリアリーレンスルフィド樹脂、アルカリ金属ハロゲン化物、チオフェノール誘導体およびスルフィド化剤を含む混合物(a)と水とを接触させた後、ポリアリーレンスルフィド樹脂を分離、除去して、少なくとも、アルカリ金属ハロゲン化物、チオフェノール誘導体およびスルフィド化剤を含む水溶液(b)を得る工程(1)、
少なくとも、アルカリ金属ハロゲン化物、チオフェノール誘導体およびスルフィド化剤を含む水溶液(b)に酸を加えてpHを8以下までの範囲に調整して、硫化水素を生成させる工程(2)、
生成した硫化水素を、アルカリ金属水酸化物又はアルカリ土類金属水酸化物を含む水溶液を有するチオフェノール回収用トラップ槽を経由して回収する工程(3)、および、
回収した硫化水素とアルカリ金属水酸化物とを反応させる工程(4)、を有することを特徴とする。
【0021】
工程(1)は、少なくとも、ポリアリーレンスルフィド樹脂、アルカリ金属ハロゲン化物、チオフェノール誘導体およびスルフィド化剤を含む混合物(a)と水とを接触させて、アルカリ金属ハロゲン化物、チオフェノール誘導体およびスルフィド化剤を含む水溶液(b)とポリアリーレンスルフィド樹脂とに分離した後、ポリアリーレンスルフィド樹脂を除去して、少なくとも、アルカリ金属ハロゲン化物、チオフェノール誘導体およびスルフィド化剤を含む水溶液(b)を得る工程である。
【0022】
工程(1)で用いる、前記混合物(a)は、少なくとも、ポリアリーレンスルフィド樹脂、アルカリ金属ハロゲン化物、チオフェノールまたはそのアルカリ金属塩といったチオフェノール誘導体およびスルフィド化剤を含む混合物であれば特に限定されるものではないが、好ましくは後述する本発明で用いるポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法において得られる、少なくとも、ポリアリーレンスルフィド樹脂、アルカリ金属ハロゲン化物、該チオフェノール誘導体およびスルフィド化剤を含む反応混合物を用いることが好ましい。
【0023】
前記混合物(a)と水とを接触させて、前記混合物(a)からポリアリーレンスルフィド樹脂を除去して、少なくとも、アルカリ金属ハロゲン化物、チオフェノール誘導体およびスルフィド化剤を含む水溶液(b)を得る方法としては本発明の効果を損ねなければ特に限定されるものではないが、水と接触(以下、「水洗」ということがある)させた後、ポリアリーレンスルフィド樹脂を濾別することにより固液分離する方法を挙げることができる。
【0024】
前記混合物(a)を、水と接触させた後、ポリアリーレンスルフィド樹脂を濾別することにより固液分離する方法としては、例えば、後述するPAS製造工程で得られた粗反応混合物から非プロトン性極性溶媒を固液分離させて得られた反応スラリーに水を加えて撹拌した後にろ過装置を用いてろ過する方法、前記したろ過によって得られた水分を含有するろ過残渣(以下「含水ケーキ」と略記する。)に再度水を加えてスラリーとした後にろ過する方法、または前記含水ケーキがろ過器に保持された状態で再度水を加えろ過する方法等が挙げられる。
【0025】
前記水洗の際、前記混合物(a)に加える水の量は最終的に得られるポリアリーレンスルフィドの理論収量に対して2倍~10倍の範囲にあることが好ましく洗浄効率の点から好ましく、上記の量の水を2~10回、好ましくは2~4回に分割して水洗に供することが好ましい。前記水洗は、窒素ないし空気雰囲気下、好ましくは水温20℃以上、より好ましくは50℃以上、さらに好ましくは70℃以上から、好ましくは300℃以下、より好ましくは100℃以下、さらに好ましくは90℃以下の範囲で行う。前記水洗は、一回または複数回繰り返し行うことができる。複数回繰り返し水洗浄する場合、前記雰囲気・温度条件は同一でも異なっていても良い。
【0026】
濾別されたポリアリーレンスルフィド樹脂には、微量のアルカリ金属ハロゲン化物や、チオフェノール誘導体や、スルフィド化剤が十分に洗浄しきれずに残留していることがあるため、さらに、100℃~280℃の範囲の水と接触させた後に固液分離し(以下、「熱水洗」ということがある)、ポリアリーレンスルフィド樹脂を濾別等によって分離、除去して、得られた濾液を前記水溶液(b)に加えることができ、COD負荷の低減および硫黄原子のロス(原料原単位の低下)を抑制できる観点から好ましい。
【0027】
熱水洗の温度は、好ましくは100℃以上、より好ましくは120℃以上から、好ましくは280℃以下、より好ましくは275℃以下の範囲であることが、樹脂中に残留するアルカリ金属ハロゲン化物やスルフィド化剤の抽出効率が良好となる点から好ましい。更に具体的には、反応器内の気相の圧力を加圧下、より好ましくは0.2~4.6MPa(ゲージ圧、以下同じ。)なる条件下、140~260℃の熱水で抽出処理を行うことが好ましい。
【0028】
このような熱水洗を行う具体的方法は、前記の水洗後に濾別されたポリアリーレンスルフィド樹脂を圧力容器中において所定の圧力条件及び温度条件下に水で攪拌下に洗浄する方法が挙げられる。熱水洗時の水量はポリアリーレンスルフィドの質量に対して1.5倍~10倍であることが、前記アルカリ金属ハロゲン化物や、チオフェノール誘導体や、スルフィド化剤の抽出効率が良好となる点から好ましく、この量の熱水を2回以上に分けて熱水洗を行ってもよい。例えば、熱水洗を2回繰り返す場合、1回目の熱水洗と2回目の熱水洗の間にはろ過を行い、1回目の熱水洗で抽出したアルカリ金属ハロゲン化物、チオフェノール誘導体およびスルフィド化剤とポリアリーレンスルフィド樹脂とを濾別することが好ましい。また、熱水洗を一回実施した後に濾過を行い、前記した水洗を実施しても良い。この操作によってもアルカリ金属ハロゲン化物、チオフェノール誘導体およびスルフィド化剤と、ポリアリーレンスルフィド樹脂との分離、除去がより促進されうる。また1回目の熱水洗工程と2回目の熱水洗工程の条件は前記の条件より任意に選ぶことができるものの、1回目の熱水洗工程の温度は例えば120℃~200℃の範囲にある温度に設定して、まず高アルカリ性の濾液を濾別して除去した後に、2回目の熱水洗工程の温度を1回目の熱水洗工程の温度より高い温度、例えば150℃~275℃の範囲にある温度に設定して実施することが前記熱水洗で用いられる装置の耐薬品性の観点から好ましい。
【0029】
なお、工程(1)において、前記水溶液(b)に酸や塩基を添加してpH調整をすることができ、特に熱水洗後のpHが11.0以上から13.0未満の範囲になるように制御することが好ましい。その際に用いる酸としては、例えば、塩酸、硫酸、炭酸、酢酸、シュウ酸等が挙げられ、これらの中でも炭酸、酢酸、シュウ酸が好ましい。また、常圧または加圧下で炭酸ガスを導入し接触させても良い。一方、塩基としては水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、または炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、リン酸ナトリウム等が挙げられ、これらの中でも水酸化ナトリウムが好ましい。
【0030】
工程(1)は、撹拌機を有する水洗槽及び固液分離するための遠心分離機を用いることも可能であるが、容器内部に撹拌翼を有し、且つ、底部に濾過用フィルターが配設された混合機能を有す容器内で行うこともできる。また、100℃を超える熱水洗でも、熱水洗を行う撹拌機を有する水洗槽、及び、その後の20~100℃でろ過するため、遠心分離機を用いることも可能であるが、容器内部に撹拌翼を有し、且つ、底部に濾過用フィルターが配設された密閉型あるいは密閉可能な混合機能を有す容器内で行うことも可能である。本発明において、水洗ないし熱水洗は連続的に行っても良いし、バッチ式に行ってもいずれでも良い。
【0031】
工程(2)において用いられる酸としては、塩酸、硫酸、炭酸、酢酸などが挙げられ、これらの中でも塩酸が好ましい。該水溶液(b)のpH範囲は、酸を加えることによって硫化水素が生成する範囲であれば特に限定されるものではないが、より硫化水素が生成しつつ、一方で、チオフェノールの生成をより抑制させそのアルカリ金属塩を生成させやすい条件であることから、8.0以下の範囲であり、好ましくは1.5以上の範囲、より好ましくは2.5以上の範囲、さらに好ましくは4.5以上の範囲、特に好ましくは5.0以上の範囲であり、好ましくは6.5以下の範囲、より好ましくは6.0以下の範囲である。また、酸の添加は、好ましくは0℃以上、より好ましくは10℃以上から、好ましくは60℃以下、より好ましくは40℃以下までの範囲で行い、圧力も0~1.0Paの範囲で行うことが好ましい。
【0032】
工程(3)は、前記工程(2)で生成した硫化水素が蒸発して前記水溶液(b)から分離されているため、生成した硫化水素を回収する工程である。その際、一旦、アルカリ金属水酸化物又はアルカリ土類金属水酸化物を含む水溶液(c)を有するチオフェノール回収用トラップ槽(以下、単に「トラップ槽」とも称する)を経由させる。前記工程(3)において回収される硫化水素の割合は、前記工程(2)において該水溶液(b)中に含まれるスルフィド化剤100モルに対して、好ましくは5モル以上の範囲、より好ましくは20モル以上の範囲であり、さらに好ましくは50モル以上の範囲であり、さらに、上限値は特に限定されないが、好ましくは100モル以下の範囲、より好ましくは90モル以下の範囲、さらに好ましくは80モル以下の範囲である。また、前記工程(3)において、チオフェノールも、回収されることがある。前記工程(3)において回収されるチオフェノール誘導体の割合が、前記工程(2)において該水溶液(b)中に含まれるチオフェノール誘導体100モルに対して、好ましくは70モル以下の範囲、より好ましくは60モル以下の範囲であり、さらに好ましくは50モル以下の範囲であり、さらに、下限値は特に限定されないが、好ましくは0モル以上の範囲、より好ましくは10モル以上の範囲、さらに好ましくは20モル以上の範囲である。当該範囲であればポリアリーレンスルフィド樹脂の重合原料として再利用する際に、重合阻害を抑制できることができ好ましい。
【0033】
さらに工程(4)は、回収した硫化水素とアルカリ金属水酸化物とを反応させる工程である。工程(3)と工程(4)とを連続して行うことも、また、工程(3)と工程(4)を別々に行うこともできる。
【0034】
工程(3)と工程(4)とを連続して行う場合は、例えば、揮散した硫化水素(チオフェノールが回収された場合は、当該チオフェノールと)を、工程(2)の反応系外に配管を通じて排出して、続いて、当該配管を、トラップ槽に収容した前記水溶液(c)中に導いてバブリングさせて、さらに、トラップ槽内の水溶液(c)の液面の上方に位置し、該水溶液(c)が流出しない程度に該液面から充分に距離をとった排出口から配管を通じて排出し、アルカリ金属水酸化物を含む水溶液(d)中に導いてバブリング等させ該水溶液(d)に吸収させて回収し、同時に、硫化水素とアルカリ金属水酸化物とを反応させて、スルフィド化剤を生成させる方法が挙げられる。なお、トラップ槽は、ガス導入管とガス排出管とが備え付けらえれており、ガス導入管の端部(導入口)が槽内に収容した液面より下方に導入されてバブリング可能なようになっており、かつ、バブリングされた硫化水素が、液面から充分に距離とった槽内上部にガス排出管の端部(排出口)から排出される構造を有するものであれば、公知のものを使用することができる。
【0035】
前記水溶液(c)に用いるアルカリ金属水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム等が挙げられる。またアルカリ土類金属水酸化物としては、水酸化カルシウム、水酸化ストロンチウム、水酸化バリウム等が挙げられる。前記水溶液(c)におけるアルカリ金属水酸化物、または、アルカリ土類金属水酸化物の使用量は温度、圧力によっても異なるため一概に規定することはできないものの、揮散する硫化水素はなるべく吸収、反応させず、かつ、不可避的に含まれるチオフェノールを吸収ないしアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩へ反応させうる量であることが望ましい。一般的には、常温、常圧で、揮散する硫化水素の硫黄原子1モルに対して、好ましくは0.01モル以上、より好ましくは0.1モル以上から、好ましくは0.9モル以下、より好ましくは0.7モル以下の範囲である。水溶液(c)中のアルカリ金属水酸化物またはアルカリ土類金属水酸化物の濃度も硫化水素はなるべく吸収、反応させず、不可避的に含まれるチオフェノールを吸収、反応できる濃度であれば、特に限定されないが、好ましくは0.01wt%以上、より好ましくは0.1wt%以上から、好ましくは30wt%以下、より好ましくは15wt%以下までの範囲で、前記アルカリ金属水酸化物またはアルカリ土類金属水酸化物の使用量の範囲となるよう適宜調整すればよい。ある。その際の温度は圧力によっても異なるため、一概に規定することができないものの、好ましくは0℃以上、より好ましくは10℃以上から、好ましくは200℃以下、より好ましくは150℃以下までの範囲である。また、その際の圧力は温度によっても異なるため、一概に規定することができないものの、好ましくは0Pa以上から、好ましくは1.0Pa以下、より好ましくは0.5Paまでの範囲である。
【0036】
前記水溶液(d)に使用するアルカリ金属水酸化物としては、前記した水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム等が挙げられる。アルカリ金属水酸化物の使用量は硫化水素を吸収させる際の温度、圧力によっても異なるため一概に規定することはできないものの、揮散する硫化水素の全量を充分に吸収、反応できる量以上であることが望ましい。一般的には、常温、常圧で硫化水素を吸収、反応させる場合、揮散する硫化水素の硫黄原子1モルに対して、1モル以上であることが好ましく、1~2モルの範囲であればより好ましい。水溶液中のアルカリ金属水酸化物の濃度も硫化水素を吸収、反応させる際の温度、圧力によっても異なるため一概に規定することはできないものの、好ましくは5wt%以上、より好ましくは10wt%以上から、好ましくは49wt%以下、より好ましくは45wt%以下までの範囲で、前記アルカリ金属水酸化物の使用量の範囲となるよう適宜調整すればよい。また、硫化水素をアルカリ金属水酸化物を含む水溶液に吸収、反応させる際の温度は圧力によっても異なるため、一概に規定することができないものの、好ましくは0℃以上、より好ましくは10℃以上から、好ましくは200℃以下、より好ましくは150℃以下までの範囲である。また、硫化水素をアルカリ金属水酸化物を含む水溶液に吸収、反応させる際の圧力は温度によっても異なるため、一概に規定することができないものの、好ましくは0Pa以上から、好ましくは1.0Pa以下、より好ましくは0.5Paまでの範囲である。
【0037】
一方、工程(3)と工程(4)を別々に行う場合は、例えば、揮散した硫化水素(チオフェノールが回収された場合は、当該チオフェノールと)を、工程(2)の反応系外に配管を通じて排出して、続いて、当該配管を、トラップ槽に収容した前記水溶液(c)中に導いてバブリングさせて、さらにトラップ槽から配管を通じて排出し、硫化水素を吸収することが知られている溶媒、例えば、有機アミド溶媒に吸収させて回収する工程を行った後、回収した硫化水素を含む溶媒に前記水溶液(d)を加えて、硫化水素とアルカリ金属水酸化物とを反応させ、アルカリ金属水硫化物を生成させる工程を行う方法が挙げられる。この場合、硫化水素を吸収することが知られている溶媒としては、有機アミド溶媒が挙げられる。さらに、有機アミド溶媒としては、ホルムアミド、アセトアミド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、テトラメチル尿素、N-メチル-2-ピロリドン、2-ピロリドン、N-メチル-ε-カプロラクタム、ε-カプロラクタム、ヘキサメチルホスホルアミド、N-ジメチルプロピレン尿素、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン酸などのアミド、尿素を挙げることができ、これらの中でもN-メチル-2-ピロリドン、2-ピロリドン、N-メチル-ε-カプロラクタム、ε-カプロラクタム、ヘキサメチルホスホルアミド、N-ジメチルプロピレン尿素、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン酸の脂肪族系環状構造を有するアミドが好ましく、N-メチル-2-ピロリドンがさらに好ましい。
【0038】
硫化水素を吸収することが知られている溶媒の使用量は硫化水素を吸収させる際の温度、圧力によっても異なるため一概に規定することはできないものの、揮散する硫化水素の全量を充分に吸収できる量以上であることが望ましい。一般的には、常温、常圧で硫化水素を吸収させる場合、揮散する硫化水素の硫黄原子1モルに対して、1~30kgの範囲であれば好ましい。硫化水素を硫化水素を吸収することが知られている溶媒に吸収させる際の温度、圧力は、一概に規定することができないものの、吸収温度0~200℃の範囲が好ましく、10~150℃の範囲がより好ましく、一方、圧力は、好ましくは0Pa以上から、好ましくは1.0Pa以下、より好ましくは0.5Pa以下の範囲である。その後、回収した硫化水素を含む溶媒に前記水溶液(d)を加えて、硫化水素とアルカリ金属水酸化物とを反応させ、アルカリ金属水硫化物を生成させる。その際、アルカリ金属水酸化物を加える量は、溶媒に吸収させた硫化水素の全量を充分に反応できる量以上であることが望ましい。一般的には、常温、常圧で硫化水素を吸収させる場合、溶媒に吸収させた硫化水素の硫黄原子1モルに対して、1モル以上であることが好ましく、1~2モルの範囲であればより好ましい。溶媒に加える前記水溶液(d)中のアルカリ金属水酸化物の濃度も硫化水素を吸収させる際の温度、圧力によっても異なるため一概に規定することはできないものの、好ましくは5wt%以上、より好ましくは10wt%以上から、好ましくは49wt%以下、より好ましくは45wt%以下までの範囲である。また、溶媒に吸収させた硫化水素とアルカリ金属水酸化物とを反応させる際の温度は圧力によっても異なるため、一概に規定することができないものの、温度は、好ましくは0℃以上、より好ましくは10℃以上から、好ましくは200℃以下、より好ましくは150℃以下までの範囲である。また、圧力も、一概に規定することができないものの、好ましくは0Pa以上から、好ましくは1.0Pa以下、より好ましくは0.5Pa以下までの範囲である。
【0039】
本発明では、このようにチオフェノールが硫化水素より高い酸解離定数を示す(チオフェノールの方が硫化水素よりアルカリ金属塩またはアルカリ土類金属塩になりやすい)ことを利用するため、工程(3)における前記水溶液(c)のアルカリ金属水酸化物、または、アルカリ土類金属水酸化物の濃度を低く、一方、工程(4)における前記水溶液(d)のアルカリ金属水酸化物の濃度を高く設定するなどの方法で、前記水溶液(c)のアルカリ金属水酸化物、または、アルカリ土類金属水酸化物の使用量と、前記水溶液(d)のアルカリ金属水酸化物の使用量とを比べ、前者が低く、後者が高くなるよう設定すればよい。
これにより工程(2)で反応系外にチオフェノールと硫化水素が排出された際に、アルカリ金属水酸化物を含む水溶液(c)を工程(3)におけるチオフェノールのトラップ槽とし、かつ、アルカリ金属水酸化物を含む水溶液(d)を工程(4)の反応場とすることができ、チオフェノールの少ない、より高純度のスルフィド化剤を得ることができる。
【0040】
工程(4)は連続式、バッチ式いずれでも構わない。硫化水素のアルカリ金属水酸化物の水溶液または有機アミド溶媒に対する吸収速度は速いため、循環ポンプ付充填塔などの一般的なもので良く、液張り込み型やバブリング型等のものでも十分に使用可能である。また、例えば、撹拌翼付き反応槽あるいはベッセルあるいはドラム等に移した後に、アルカリ金属水酸化物を含む水溶液(d)を加え、反応させてもよい。
【0041】
上記の通り、工程(4)は、回収した硫化水素の全量を充分に吸収、反応できる量以上のアルカリ金属水酸化物を用いるため、余剰のアルカリ金属水酸化物が未反応のまま系内に残留することとなる。そこで、工程(4)の後に、予め測定した未反応のアルカリ金属水酸化物に対して、硫化水素を加えて、未反応のアルカリ金属水酸化物と該硫化水素とを反応させる工程(5)を有することが好ましい。加える硫化水素の量は、未反応のまま残留しているアルカリ金属水酸化物の1モルに対して0.5~1モルの範囲であることが好ましい。当該範囲の硫化水素と反応させることによって、残留するアルカリ金属水酸化物1モルあたり、0.5~1モルのアルカリ金属水硫化物及び/又はアルカリ金属硫化物が生成する。
【0042】
なお、工程(4)または工程(5)を経て生成したアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属硫化物との割合は、硫化水素に反応させるアルカリ金属水酸化物の量や、反応時間、温度、圧力等に応じて変化するため一概に規定することはできず、また、アルカリ金属水硫化物およびアルカリ金属硫化物のいずれであっても後述するポリアリーレンスルフィド樹脂の重合原料であるスルフィド化剤として再利用可能であることから、アルカリ金属水硫化物およびアルカリ金属硫化物とが質量基準で0/100~100/0の範囲のうちの任意の割合で良い。
【0043】
本発明に用いる、少なくとも、ポリアリーレンスルフィド樹脂、アルカリ金属ハロゲン化物、チオフェノール誘導体およびスルフィド化剤を含む混合物(a)は、以下のポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法によって得られたものを用いることができる。また、上記の工程(1)~(4)、または、工程(1)~(5)を経て得られたアルカリ金属水硫化物及び/又はアルカリ金属硫化物はスルフィド化剤として、以下のポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法において、重合原料の少なくとも一部として用いることができる。その際、当該アルカリ金属水硫化物及び/又はアルカリ金属硫化物と伴に含有されることとなるチオフェノールを低減ないし不存在とすることもできるため、ポリアリーレンスルフィド樹脂の重合阻害を抑制できることができ、好ましい。
【0044】
PAS重合工程、すなわち、本発明に用いるポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法は、非プロトン性極性溶媒と、ポリハロ芳香族化合物と、スルフィド化剤とを混合し、該非プロトン性極性溶媒中で、ポリハロ芳香族化合物と、スルフィド化剤とを重合反応させて、少なくともポリアリーレンスルフィド樹脂と、重合せずに残留したスルフィド化剤と、アルカリ金属ハロゲン化物と、非プロトン性極性溶媒とを含む粗反応混合物を得るPAS重合工程、該粗反応混合物から非プロトン性極性溶媒を固液分離させて得られる、少なくともポリアリーレンスルフィド樹脂と、重合せずに残留したスルフィド化剤と、アルカリ金属ハロゲン化物とを含む反応混合物を得る、PAS/溶媒固液分離工程、を経る方法を挙げることができる。その際、該粗反応混合物ないし該反応混合物は、副生物としてチオフェノール誘導体を含む。
【0045】
ここで、本発明においてポリハロ芳香族化合物としては、例えば、芳香族環に直接結合した2個以上のハロゲン原子を有するハロゲン化芳香族化合物であり、具体的には、p-ジクロルベンゼン、o-ジクロルベンゼン、m-ジクロルベンゼン、トリクロルベンゼン、テトラクロルベンゼン、ジブロムベンゼン、ジヨードベンゼン、トリブロムベンゼン、ジブロムナフタレン、トリヨードベンゼン、ジクロルジフェニルベンゼン、ジブロムジフェニルベンゼン、ジクロルベンゾフェノン、ジブロムベンゾフェノン、ジクロルジフェニルエーテル、ジブロムジフェニルエーテル、ジクロルジフェニルスルフィド、ジブロムジフェニルスルフィド、ジクロルビフェニル、ジブロムビフェニル等のジハロ芳香族化合物及びこれらの混合物が挙げられ、これらの化合物をブロック共重合してもよい。これらの中でも好ましいのはジハロゲン化ベンゼン類であり、特に好ましいのはp-ジクロルベンゼンを80モル%以上含むものである。また、枝分かれ構造とすることによってポリアリーレンスルフィド樹脂の粘度増大を図る目的で、1分子中に3個以上のハロゲン置換基を有するポリハロ芳香族化合物を分岐剤として所望に応じて用いてもよい。このようなポリハロ芳香族化合物としては、例えば、1,2,4-トリクロルベンゼン、1,3,5-トリクロルベンゼン、1,4,6-トリクロルナフタレン等が挙げられる。更に、アミノ基、チオール基、ヒドロキシル基等の活性水素を持つ官能基を有するポリハロ芳香族化合物を挙げることが出来、具体的には、2,6-ジクロルアニリン、2,5-ジクロルアニリン、2,4-ジクロルアニリン、2,3-ジクロルアニリン等のジハロアニリン類;2,3,4-トリクロルアニリン、2,3,5-トリクロルアニリン、2,4,6-トリクロルアニリン、3,4,5-トリクロルアニリン等のトリハロアニリン類;2,2’-ジアミノ-4,4’-ジクロルジフェニルエーテル、2,4’-ジアミノ-2’,4-ジクロルジフェニルエーテル等のジハロアミノジフェニルエーテル類およびこれらの混合物においてアミノ基がチオール基やヒドロキシル基に置き換えられた化合物などが例示される。また、これらの活性水素含有ポリハロ芳香族化合物中の芳香族環を形成する炭素原子に結合した水素原子が他の不活性基、例えばアルキル基などの炭化水素基に置換している活性水素含有ポリハロ芳香族化合物も使用できる。
【0046】
これらの各種活性水素含有ポリハロ芳香族化合物の中でも、好ましいのは活性水素含有ジハロ芳香族化合物であり、特に好ましいのはジクロルアニリンである。
【0047】
ニトロ基を有するポリハロ芳香族化合物としては、例えば、2,4-ジニトロクロルベンゼン、2,5-ジクロルニトロベンゼン等のモノまたはジハロニトロベンゼン類;2-ニトロ-4,4’-ジクロルジフェニルエーテル等のジハロニトロジフェニルエーテル類;3,3’-ジニトロ-4,4’-ジクロルジフェニルスルホン等のジハロニトロジフェニルスルホン類;2,5-ジクロル-3-ニトロピリジン、2-クロル-3,5-ジニトロピリジン等のモノまたはジハロニトロピリジン類;あるいは各種ジハロニトロナフタレン類などが挙げられる。
【0048】
また、本発明においてスルフィド化剤としては、アルカリ金属硫化物及び/又はアルカリ金属水硫化物を挙げることができる。
【0049】
前記アルカリ金属硫化物としては、硫化リチウム、硫化ナトリウム、硫化ルビジウム、硫化セシウム及びこれらの混合物が含まれる。かかるアルカリ金属硫化物は、水和物あるいは水性混合物あるいは無水物として使用することができる。また、アルカリ金属硫化物はアルカリ金属水硫化物とアルカリ金属水酸化物との反応によっても導くことができる。尚、通常、アルカリ金属硫化物中に微量存在するアルカリ金属水硫化物、チオ硫酸アルカリ金属と反応させるために、少量のアルカリ金属水酸化物を加えても差し支えない。
【0050】
また、前記アルカリ金属水硫化物としては、水硫化リチウム、水硫化ナトリウム、水硫化ルビジウム、水硫化セシウム及びこれらの混合物が含まれる。かかるアルカリ金属水硫化物は、水和物あるいは水性混合物あるいは無水物として使用することができる。
【0051】
また、前記アルカリ金属水硫化物はアルカリ金属水酸化物と伴に用いる。当該アルカリ金属水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化ルビジウム、水酸化セシウム等が挙げられるが、これらはそれぞれ単独で用いても良いし、2種以上を混合して用いても良い。これらの中でも、入手が容易なことから水酸化リチウムと水酸化ナトリウム及び水酸化カリウムが好ましく、特に水酸化ナトリウムが好ましい。
【0052】
なお、上記のとおり、前記工程(1)~(4)、または、工程(1)~(5)を経て得られたアルカリ金属水硫化物及び/又はアルカリ金属硫化物もスルフィド化剤として、ポリアリーレンスルフィド樹脂の重合反応における原料として、再利用することができる。
【0053】
本発明に用いるポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法は、原料として含水スルフィド化剤を用いることもでき、その場合、少なくとも非プロトン性極性溶媒の存在下で、含水スルフィド化剤を脱水する工程を経て、ポリアリーレンスルフィド樹脂の重合反応に供することが好ましい。また、非プロトン性極性溶媒の仕込み量が少ない場合、例えば、スルフィド化剤の硫黄原子1モルに対して、1モル未満の場合、ポリハロ芳香族化合物の存在下で、含水スルフィド化剤と、非プロトン性極性溶媒とを、脱水させることが好ましい。
【0054】
脱水工程は、少なくとも非プロトン性極性溶媒と、含水スルフィド化剤として含水アルカリ金属硫化物または含水アルカリ水硫化物及びアルカリ金属水酸化物を、蒸留装置が設けられた反応容器に仕込み、水が共沸により除去される温度、具体的には、300℃以下の範囲、好ましくは220℃以下、より好ましくは200℃以下から、好ましくは80℃以上、より好ましくは100℃以上の範囲にまで加熱して、蒸留により水を系外に排出することにより行う。脱水工程では、重合反応を行う系内の水分量が、スルフィド化剤の硫黄原子1モルに対して、5モル以下、より好ましくは2モル以下から、好ましくは0.01モル以上までの範囲となるまで脱水することが好ましい。
【0055】
また、脱水工程では、アルカリ金属硫化物やアルカリ金属水硫化物が、水と反応して平衡的に硫化水素を気体として生成させる。このため、生成した硫化水素を回収した後、アルカリ金属水酸化物と反応させてアルカリ金属水硫化物及び/又はアルカリ金属硫化物を得ることが好ましい。具体的には、生成した硫化水素は、水または共沸混合物とともに反応系外に排出し、蒸留装置により、水または共沸混合物と硫化水素を分離した後、前記工程(3)と同様の方法で回収することが好ましく、さらに、回収した硫化水素を前記工程(4)と同様の方法で、アルカリ金属水酸化物とを反応させて、アルカリ金属水硫化物及び/又はアルカリ金属硫化物を製造することが好ましい。また、脱水工程で回収した硫化水素を、アルカリ金属水酸化物と反応させて、アルカリ金属水硫化物及び/又はアルカリ金属硫化物を製造する工程の後に、工程(5)と同様の方法で、未反応のアルカリ金属水酸化物に対して、硫化水素を加えて、未反応のアルカリ金属水酸化物と該硫化水素とを反応させる工程を有することが好ましい。当該脱水工程で得られたアルカリ金属水硫化物及び/又はアルカリ金属硫化物も、スルフィド化剤としてポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法において、原料の一部として用いることが好ましい。
【0056】
また、本発明において非プロトン性極性溶媒としては、ホルムアミド、アセトアミド、N-メチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、テトラメチル尿素、N-メチル-2-ピロリドン、2-ピロリドン、N-メチル-ε-カプロラクタム、ε-カプロラクタム、ヘキサメチルホスホルアミド、N-ジメチルプロピレン尿素、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン酸などのアミド、尿素及びラクタム類;スルホラン、ジメチルスルホラン等のスルホラン類;ベンゾニトリル等のニトリル類;メチルフェニルケトン等のケトン類及びこれらの混合物を挙げることができ、これらの中でもN-メチル-2-ピロリドン、2-ピロリドン、N-メチル-ε-カプロラクタム、ε-カプロラクタム、ヘキサメチルホスホルアミド、N-ジメチルプロピレン尿素、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン酸の脂肪族系環状構造を有するアミドが好ましく、N-メチル-2-ピロリドンがさらに好ましい。
【0057】
PAS重合工程におけるポリアリーレンスルフィド樹脂の重合反応は、これらの非プロトン性極性溶媒の存在下、スルフィド化剤として上記アルカリ金属硫化物と、ポリハロ芳香族化合物とを反応させる。または、ポリアリーレンスルフィド樹脂の重合反応は、これらの非プロトン性極性溶媒の存在下、スルフィド化剤として上記アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物と、ポリハロ芳香族化合物とを反応させる。重合条件は一般に、温度200~330℃の範囲であり、圧力は重合溶媒及び重合モノマーであるポリハロ芳香族化合物を実質的に液相に保持するような範囲であるべきであり、一般には0.1MPa以上から、好ましくは20MPa以下、より好ましくは2MPa以下までの範囲より選択される。ポリハロ芳香族化合物の仕込量は、前記スルフィド化剤の硫黄原子1モルに対して、0.2モル以上、好ましくは0.8モル以上、より好ましくは0.9モル以上から、5.0モル以下、好ましくは1.3モル以下、さらに好ましくは1.1モル以下までの範囲となるよう調製する。また、非プロトン性極性溶媒の仕込量は、スルフィド化剤の硫黄原子1モルに対して、1.0モル以上、好ましくは2.5モル以上から、6.0モル以下、好ましくは4.5モル以下までの範囲となるよう調整する。なお、重合反応は少量の水の存在下に行うことが好ましく、その割合は、重合方法や得られるポリマーの分子量や生産性との兼ね合いで適宜調整することが好ましい。具体的には、スルフィド化剤の硫黄原子1モルに対して2.0モル以下、好ましくは1.6モル以下の範囲となるよう脱水操作を行うが、さらにポリハロ芳香族化合物の存在下で脱水操作を行う場合(例えば、下記具体的態様における「5)」の方法)においては0.9モル以下、好ましくは0.3モル以下、より好ましくは0.02モル以下から、好ましくは0.05モル以上、より好ましくは0.01モル以上までの範囲となるよう脱水操作を行えばよい。
【0058】
上記した非プロトン性極性溶媒の存在下、スルフィド化剤とポリハロ芳香族化合物とを重合させる具体的態様としては、例えば、
1)アルカリ金属カルボン酸塩またはハロゲン化リチウム等の重合助剤を使用する方法、
2)芳香族ポリハロゲン化合物等の分岐剤を使用する方法、
3)少量の水の存在下に重合反応を行い次いで水を追加してさらに重合する方法、
4)アルカリ金属硫化物と芳香族ジハロゲン化合物との反応中に、反応釜の気相部分を冷却して反応釜内の気相の一部を凝縮させ液相に還流させる方法、
5)ポリハロ芳香族化合物の存在下、アルカリ金属硫化物、又は、含水アルカリ金属水硫化物及びアルカリ金属水酸化物と、脂肪族環状構造を有するアミド、尿素またはラクタムとを、脱水させながら反応させて固形のアルカリ金属硫化物を含むスラリーを製造する工程、該スラリーを製造した後、更にNMPなどの極性有機溶媒を加え、水を留去して脱水を行う工程、次いで、脱水工程を経て得られたスラリー中で、ポリハロ芳香族化合物と、アルカリ金属水硫化物と、前記脂肪族環状構造を有するアミド、尿素またはラクタムの加水分解物のアルカリ金属塩とを、NMPなどの極性有機溶媒1モルに対して反応系内に現存する水分量が0.02モル以下で反応させて重合を行う工程を必須の製造工程として有するポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法、が挙げられる。
【0059】
このうち、1)~5)、特に1)~4)の重合方法でポリアリーレンスルフィド樹脂を製造する場合であって、製造原料として、例えば、非プロトン性極性溶媒がN-メチル-2-ピロリドン、ポリハロ芳香族化合物がp-ジクロロベンゼンである場合には、重合反応の副反応物として、下記一般式(1)
【0060】
【化1】
(式中、Xはアルカリ金属原子または水素原子を表す。)で表されるカルボキシアルキルアミノ基含有化合物が該粗反応混合物に含まれる場合がある。本発明は、ポリアリーレンスルフィド樹脂を製造方法について公知の方法であれば特に限定するものではないため、製造方法によっては該カルボキシアルキルアミノ基含有化合物が生成しない場合もあることから必須の成分ではない。しかし、例えば、1)~5)、特に1)~4)の重合方法で、前記カルボキシアルキルアミノ基含有化合物が生成した場合は、当該カルボキシアルキルアミノ基含有化合物は粗反応混合物と非プロトン性極性溶媒のPAS/溶媒固液分離工程を経て、反応混合物中に含まれ、さらに本発明の工程(1)を経て、前記水溶液(a)中に含まれ、さらに本発明の工程(2)を経て、前記水溶液(b)中に含まれ、さらに工程(3)、(4)において硫化水素と分離されることとなる。すなわち、アルカリ金属ハロゲン化物と同様に移行する。このため、アルカリ金属水硫化物を生成する反応には関与せず、必須の成分ではない。
【0061】
上記のPAS重合工程を経て得られた、少なくともポリアリーレンスルフィド樹脂と、未反応スルフィド化剤として残留したアルカリ金属水硫化物及び/又はアルカリ金属硫化物と、アルカリ金属ハロゲン化物と、チオフェノール誘導体と、非プロトン性極性溶媒とを含む粗反応混合物は、前記混合物(a)として用いることができる。
【0062】
次に、PAS/溶媒固液分離工程は、PAS重合工程を経て得られた、少なくともポリアリーレンスルフィド樹脂と、未反応スルフィド化剤として残留したアルカリ金属水硫化物及び/又はアルカリ金属硫化物と、アルカリ金属ハロゲン化物と、非プロトン性極性溶媒とを含む粗反応混合物は、続いて、前記粗反応混合物から前記非プロトン性極性溶媒を固液分離させて、少なくとも、ポリアリーレンスルフィド樹脂、アルカリ金属ハロゲン化物、チオフェノール誘導体並びにアルカリ金属水硫化物及び/又はアルカリ金属硫化物を含む反応混合物を得る工程である。得られた反応混合物も、前記混合物(a)として用いることができる。
【0063】
該固液分離には大きく分けて、後述するフラッシュ法とクウェンチ法の2種類がある。フラッシュ法は、溶媒を蒸発させて溶媒回収し、同時に固形物を回収する方法であり、一般的に、減圧下に加熱して溶媒を留去することにより行われる。
【0064】
一方、クウェンチ法は、重合反応物を、除冷して粒子状のポリアリーレンスルフィド樹脂を回収する方法であり、一般的に、反応釜内で反応スラリーを冷却後、ポリアリーレンスルフィド樹脂を晶析させた後に固液分離する方法が挙げられる。クウェンチ法における固液分離は、濾過やスクリューデカンター等の遠心分離機を用いて分離した後、得られた濾過残渣に直接水を加えスラリー化したのち、固液分離を繰り返し行う方法や、得られた濾過残渣を非酸化性雰囲気下で加熱して、残存する溶媒を除去する方法などが挙げられる。フラッシュ法は、固形物を比較的簡便に回収することができる点で好ましく、クウェンチ法は、ポリアリーレンスルフィド樹脂の粒度を制御しやすい点や晶析時にポリマー粒子にアルカリ金属ハロゲン化物やスルフィド化剤などの不純物を取り込みにくくなるため、高純度のポリマーが得られる点で好ましい。
【0065】
続いて、前記反応混合物は、本発明の水洗ないし熱水洗による精製工程を経て、ポリアリーレンスルフィド樹脂と、少なくとも、アルカリ金属ハロゲン化物およびスルフィド化剤を含む水溶液とに分離する。当該精製工程は、工程(1)と同様におこなうことができ、ポリアリーレンスルフィド樹脂を製造する場合には、濾別したポリアリーレンスルフィド樹脂を回収すればよい。
【0066】
濾別されたポリアリーレンスルフィド樹脂は回収され、その後、そのまま乾燥してポリアリーレンスルフィド樹脂粉末として用いても良いし、更に洗浄処理した後、固液分離し、乾燥を行って粉末状ないし顆粒状のポリアリーレンスルフィド樹脂として調製することもできる。
【0067】
上記のように、本発明の工程(1)~(4)を経て得られたスルフィド化剤を原料の少なくとも一部として再利用して重合されたポリアリーレンスルフィド樹脂は、本発明の効果を損ねない範囲で、離型剤、着色剤、耐熱安定剤、紫外線安定剤、発泡剤、防錆剤、難燃剤、滑剤、カップリング剤、充填材などの添加剤を含有せしめることができる。更に、同様に下記のごとき合成樹脂及びエラストマーを混合して使用することもできる。これら合成樹脂としては、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルケトン、ポリアリーレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ四弗化エチレン、ポリ二弗化エチレン、ポリスチレン、ABS樹脂、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂、フェノール樹脂、ウレタン樹脂、液晶ポリマー等が挙げられ、エラストマーとしては、ポリオレフィン系ゴム、弗素ゴム、シリコーンゴム等が挙げられる。
【0068】
さらに、工程(1)~(4)を経て得られたスルフィド化剤を原料の少なくとも一部として再利用して重合されたポリアリーレンスルフィド樹脂は、射出成形、押出成形、圧縮成形、ブロー成形のごとき各種溶融加工法により、耐熱性、成形加工性、寸法安定性等に優れ、特にエポキシ樹脂との接着性に優れた成形物を製造することができる。このため、例えば、コネクタ・プリント基板・封止成形品などの電気・電子部品、ランプリフレクター・各種電装部品などの自動車部品、各種建築物や航空機・自動車などの内装用材料、あるいはOA機器部品・カメラ部品・時計部品などの精密部品等の射出成形・圧縮成形品、あるいは繊維・フィルム・シート・パイプなどの押出成形・引抜成形品等として幅広く利用可能である。
【0069】
本発明により、ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造工程で水洗後または熱水洗後に得られる廃水から、再利用可能な状態で未反応スルフィド化剤として残留するアルカリ金属水硫化物を分離、回収することにより、廃水のCOD値の低減、産業廃棄物の低減による環境負荷の低減と、硫黄原子のロス(原料原単位の低下)を抑制し、ポリアリーレンスルフィド樹脂の生産性を向上させることができる。さらに、回収した未反応スルフィド化剤をポリアリーレンスルフィド樹脂の重合原料として再利用した場合に、より分子量の高いポリアリーレンスルフィド樹脂を製造することができる。
【実施例
【0070】
以下に実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。これら例は例示的なものであって限定的なものではない。
【0071】
(測定法1 溶融粘度の測定法)
ポリフェニレンスルフィド樹脂は島津製作所製フローテスター、CFT-500Dを用い、300℃、荷重:1.96×10Pa、L/D=10(mm)/1(mm)にて、6分間保持した後に測定した。
【0072】
(測定法2 飛散した硫化水素(飛散S)と未反応スルフィド化剤中の硫黄の測定法)
ビーカーにサンプル0.5gを精秤し、次いで純水を70ml、1wt%水酸化ナトリウム水溶液を4ml加え、撹拌しながら、電位差自動滴定装置を用いて、0.02mol/L硝酸銀水溶液で滴定した。
【0073】
(測定法3 第1中和点(硫化ソーダ+炭酸ソーダ)の測定法)
ビーカーにサンプルを10g精秤し、次いで純水を70ml加え、撹拌しながら、電位差自動滴定装置を用いて、0.1mol/L塩酸で滴定した。
【0074】
(測定法4 廃水中のpHの測定法)
横河電機株式会社製の「パーソナルpHメーターPH72」を使用。pH4、pH7標準液によるpH校正後、廃水に付属電極「PH72」を浸漬させてpHを測定した。
【0075】
(測定法5 回収液中の水硫化ソーダ濃度、硫化ソーダ濃度の測定法)
サンプルの110倍希釈水溶液を90g精秤し、撹拌しながら、電位差自動滴定装置を用いて、0.5mol/L塩酸で中和滴定を行い、第1当量点の滴定量より硫化ソーダ濃度を算出し、次に、第2当量点の滴定量と第1当量点の滴定量の差より水硫化ソーダ濃度を算出した。水硫化ソーダおよび/または硫化ソーダ(スルフィド化剤)の回収率(%)は、(脱水時に飛散した硫化水素のモル部及び水硫化ソーダ回収液へ移行したスルフィド化剤のモル部)÷(廃水中のスルフィド化剤のモル部)×100として算出した。
【0076】
(測定法6 チオフェノール濃度の測定法)
蓋付バイアル瓶にサンプル0.5g、メチルイソブチルケトン2.5gを精秤し、次いで5M塩酸1.5gを氷浴下でゆっくり滴下する。同バイアル内にモノクロロベンゼン0.1g、アセトン8gを加え、蓋をして、内容物を十分攪拌する。得られたスラリーの上澄み液のチオフェノール濃度を、島津製作所製ガスクロマトグラフ装置を用いて測定した。チオフェノールの回収率(%)は、(水硫化ソーダ回収液へ移行したチオフェノールのモル部)÷(廃水中のチオフェノール誘導体のモル部)×100として算出した。
【0077】
実施例1
<実施例(1-1)> PPS重合及び廃水の製造
予め15wt%水酸化ナトリウム水溶液2.90kgを仕込んだガス吸収瓶を接続したコンデンサ、圧力計、温度計、デカンタ、精留塔を連結した撹拌翼付きオートクレーブにp-ジクロロベンゼン(以下、p-DCBと略す)33.20kg(226モル)、NMP2.28kg(23.00モル)、47.23質量%NaSH水溶液27.30kg(硫黄原子230モル、ナガオ株式会社製「水硫化ソーダ(液体)45%品」)、及び49.21質量%NaOH水溶液18.34kg(228モル)を仕込み、撹拌しながら窒素雰囲気下で173℃まで5時間掛けて昇温して、水27.21kgを留出させた。脱水時に飛散した硫化水素をガス吸収瓶により水酸化ナトリウム水溶液に吸収させて、硫化水素を吸収した水酸化ナトリウム水溶液(1)を得た。硫化水素を吸収した水酸化ナトリウム水溶液(A)を硝酸銀滴定(測定法2)した。結果を表1に示す。
【0078】
その後、釜を密閉し、脱水時に共沸により留出したDCBはデカンタで分離して、随時釜内に戻した。脱水終了後の釜内は微粒子状の無水硫化ナトリウム組成物がDCB中に分散した状態であった。脱水工程終了後に、内温を160℃に冷却し、NMP47.49kg(479モル)を仕込み、185℃まで昇温した。圧力が0.00MPaに到達した時点で、精留塔を連結したバルブを開放し、内温200℃まで1時間掛けて昇温した。この際、精留塔出口温度が110℃以下になる様に冷却とバルブ開度で制御した。留出したDCBと水の混合蒸気はコンデンサで凝縮し、デカンタで分離して、DCBは釜へ戻した。留出水量は414gであった。内温200℃から230℃まで3時間掛けて昇温し、2時間攪拌した後、250℃まで昇温し、1時間攪拌した。最終圧力は0.48MPaであった。
【0079】
反応後に得られたスラリーを室温まで冷却したのち、真空乾燥機を用いて、減圧下150℃で3時間乾燥して、N-メチル-2-ピロリドンを留去した。次に70℃温水142kgを加え攪拌した後、ろ過し、さらに70℃温水81kgを加えてろ過してろ液を集めて廃水(1)209kgを得た。廃水(1)を硝酸銀滴定(測定法2)して硫化ソーダ濃度および水硫化ソーダ濃度からスルフィド化剤(硫化ソーダ及び水硫化ソーダ)量(モル)を、またチオフェノール濃度からチオフェノール量(モル)を求めた。結果を表1に示す。
【0080】
<実施例(1-2)> スルフィド化剤の製造法(水硫化ソーダ回収液の調整)
撹拌機、pHメーター、ガス導入管、ガス排出管、滴下ロートを備えた密閉容器に、ガス排出管からトラップ槽を経由して、実施例(1-1)で得られた硫化水素を吸収した水酸化ナトリウム水溶液(1)が入ったガス吸収瓶を連結した。トラップ槽には2.30wt%水酸化ナトリウム水溶液2.00kg(廃水(1)中の硫黄分1モル当り0.1モル)を仕込んだ。
その密閉容器に廃水(1)209kg、次に、Nガス(50ml/分)を導入しながら撹拌し、廃水(1)中の第1中和点(測定法3)+硫黄分1モル当り1.20モルに相当する塩酸を滴下してpH(測定法4)を3.3に調整した。60分間撹拌を行い、硫化水素ガスを発生させ、トラップ槽を経由して、ガラス吸収瓶中の水酸化ナトリウム水溶液(1)に吸収させ、水硫化ソーダ回収液(1)を得た。得られた水硫化ソーダ回収液(1)を測定して水硫化ソーダ濃度および硫化ソーダ濃度からスルフィド化剤量(モル)を求めた(測定法5、6)。結果を表2に示す。
【0081】
<実施例(1-3)> 実施例(1-2)で得たスルフィド化剤を用いたPPS製造
水酸化ナトリウム水溶液が入ったガス吸収瓶が接続したコンデンサ、圧力計、温度計、デカンタ、精留塔を連結した撹拌翼付きオートクレーブにp-DCB216.53g(1.47モル)、NMP14.87g(0.15モル)、47.23質量%NaSH水溶液172.70g(1.46モル)、得られた水硫化ソーダ回収液(1)14.58g(4.50×10-2モル、全水硫化ソーダの仕込みモルに対しての回収水硫化ソーダ使用割合は、3.0mol%、チオフェノール量はNaSH1モル当り2.84×10-4モル)、及び49.21質量%NaOH水溶液119.10g(1.47モル)を仕込み、撹拌しながら窒素雰囲気下で173℃まで5時間掛けて昇温して、水186.20gを留出させた。
【0082】
その後、釜を密閉し、脱水時に共沸により留出したDCBはデカンタで分離して、随時釜内に戻した。脱水終了後の釜内は微粒子状の無水硫化ナトリウム組成物がDCB中に分散した状態であった。脱水工程終了後に、内温を160℃に冷却し、NMP309.73g(3.13モル)を仕込み、185℃まで昇温した。圧力が0.00MPaに到達した時点で、精留塔を連結したバルブを開放し、内温200℃まで1時間掛けて昇温した。この際、精留塔出口温度が110℃以下になる様に冷却とバルブ開度で制御した。留出したDCBと水の混合蒸気はコンデンサで凝縮し、デカンタで分離して、DCBは釜へ戻した。留出水量は2.70gであった。内温200℃から230℃まで3時間掛けて昇温し、2時間攪拌した後、250℃まで昇温し、1時間攪拌した。最終圧力は0.48MPaであった。
【0083】
反応後に得られたスラリーを室温まで冷却したのち、真空乾燥機を用いて、減圧下150℃で3時間乾燥して、N-メチル-2-ピロリドンを留去した。次に70℃温水920gを加え攪拌した後、ろ過し、さらに70℃温水1200gを加えて10分間攪拌した後にろ過し、ろ過後のケーキに70℃のイオン交換水1200gを加えケーキ洗浄を行った。得られた含水ケーキとイオン交換水460gを0.5リッターオートクレーブに仕込み150℃で30分間攪拌を行った。室温まで冷却した後、ろ過し、ろ過後のケーキに70℃のイオン交換水1200gを加えケーキ洗浄を行った。得られた含水ケーキとイオン交換水460gを0.5リッターオートクレーブに仕込み、220℃で30分間攪拌を行った。スラリーを室温まで冷却した後、ろ過し、ろ過後のケーキに70℃のイオン交換水1200gを加えケーキ洗浄を行った。その後、120℃で4時間乾燥し、溶融粘度57Pa・s(測定法1)のPPS樹脂を得た。結果を表3にまとめた。
【0084】
実施例2
<実施例(2-1)> PPS重合及び廃水の製造
予め仕込むガス吸収瓶内の15wt%水酸化ナトリウム水溶液の仕込量を2.90kgから2.50kgに変更したこと以外は、実施例(1-1)と同一の操作を行った。なお、実施例(2-1)で得られた硫化水素を吸収した水酸化ナトリウム水溶液を、硫化水素を吸収した水酸化ナトリウム水溶液(2)と称する。また、実施例(2-1)で得られた廃水を、廃水(2)と称する。結果を表1に表す。
【0085】
<実施例(2-2)> スルフィド化剤の製造法(水硫化ソーダ回収液の調製)
トラップ槽に仕込む2.00kgの水酸化ナトリウム水溶液の濃度を2.30wt%から4.60wt%(廃水(2)中の硫黄分1モル当り0.2モル)に変更したこと以外は、実施例(1-2)と同一の操作を行った。得られた水硫化ソーダ回収液を水硫化ソーダ回収液(2)と称する。
水硫化ソーダ回収液(2)を測定した(測定法5、6)。結果を表2に表す。
【0086】
<実施例(2-3)>実施例(2-2)で得たスルフィド化剤を用いたPPS製造
水酸化ナトリウム水溶液が入ったガス吸収瓶が接続したコンデンサ、圧力計、温度計、デカンタ、精留塔を連結した撹拌翼付きオートクレーブにp-DCB216.53g(1.47モル)、NMP14.87g(0.15モル)、47.23質量%NaSH水溶液172.70g(1.46モル)、得られた水硫化ソーダ回収液(2)14.58g(4.50×10-2モル、全水硫化ソーダの仕込みモルに対しての回収水硫化ソーダ使用割合は、3.0mol%、チオフェノール量はNaSH1モル当り1.56×10-4モル)、及び49.21質量%NaOH水溶液119.10g(1.47モル)を仕込み、撹拌しながら窒素雰囲気下で173℃まで5時間掛けて昇温して、水186.22gを留出させた。
それ以降、実施例(1-3)と同一の操作を行った。得られたPPS樹脂の溶融粘度は68Pa・sであった(測定法1)。結果を表3にまとめた。
【0087】
実施例3
<実施例(3-1)> PPS重合及び廃水の製造
予め仕込むガス吸収瓶内の15wt%水酸化ナトリウム水溶液の仕込量を2.90kgから0.850kgに変更したこと以外は、実施例(1-1)と同一の操作を行った。なお、実施例(3-1)で得られた硫化水素を吸収した水酸化ナトリウム水溶液を、硫化水素を吸収した水酸化ナトリウム水溶液(3)と称する。また、実施例(3-1)で得られた廃水を、廃水(3)と称する。結果を表1に表す。
【0088】
<実施例(3-2)> スルフィド化剤の製造法(水硫化ソーダ回収液の調製)
トラップ槽に仕込む2.00kgの水酸化ナトリウム水溶液の濃度を2.30wt%から17.24wt%(廃水(3)中の硫黄分1モル当り0.75モル)に変更したこと以外は、実施例(1-2)と同一の操作を行った。得られた水硫化ソーダ回収液を水硫化ソーダ回収液(3)と称する。
水硫化ソーダ回収液(3)を測定した(測定法5、6)。結果を表2に表す。
【0089】
<実施例(3-3)> 実施例(3-2)で得たスルフィド化剤を用いたPPS製造
水酸化ナトリウム水溶液が入ったガス吸収瓶が接続したコンデンサ、圧力計、温度計、デカンタ、精留塔を連結した撹拌翼付きオートクレーブにp-DCB216.53g(1.47モル)、NMP14.87g(0.15モル)、47.23質量%NaSH水溶液142.43g(1.20モル)、得られた水硫化ソーダ回収液(3)98.94g(3.00×10-1モル、全水硫化ソーダの仕込みモルに対しての回収水硫化ソーダ使用割合は、20mol%、チオフェノール量はNaSH1モル当り2.76×10-4モル)、及び49.21質量%NaOH水溶液119.10g(1.47モル)を仕込み、撹拌しながら窒素雰囲気下で173℃まで5時間掛けて昇温して、水237.28gを留出させた。
それ以降、実施例(1-3)と同一の操作を行った。得られたPPS樹脂の溶融粘度は58Pa・sであった(測定法1)。結果を表3にまとめた。
【0090】
実施例4
<実施例(4-1)> PPS重合及び廃水の製造
予め仕込むガス吸収瓶内の15wt%水酸化ナトリウム水溶液の仕込量を2.90kgから0.480kgに変更したこと以外は、実施例(1-1)と同一の操作を行った。なお、実施例(4-1)で得られた硫化水素を吸収した水酸化ナトリウム水溶液を、硫化水素を吸収した水酸化ナトリウム水溶液(4)と称する。また、実施例(4-1)で得られた廃水を、廃水(4)と称する。結果を表1に表す。
【0091】
<実施例(4-2)> スルフィド化剤の製造法(水硫化ソーダ回収液の調製)
トラップ槽に仕込む2.00kgの水酸化ナトリウム水溶液の濃度を2.30wt%から19.54wt%(廃水(4)中の硫黄分1モル当り0.85モル)に変更したこと以外は、実施例(1-2)と同一の操作を行った。得られた水硫化ソーダ回収液を水硫化ソーダ回収液(4)と称する。
水硫化ソーダ回収液(4)を測定した(測定法5、6)。結果を表2に表す。
【0092】
<実施例(4-3)> 実施例(4-2)で得たスルフィド化剤を用いたPPS製造
水酸化ナトリウム水溶液が入ったガス吸収瓶が接続したコンデンサ、圧力計、温度計、デカンタ、精留塔を連結した撹拌翼付きオートクレーブにp-DCB216.53g(1.47モル)、NMP14.87g(0.15モル)、得られた水硫化ソーダ回収液(4)498.41g(1.50モル、全水硫化ソーダの仕込みモルに対しての回収水硫化ソーダ使用割合は、100mol%、チオフェノール量はNaSH1モル当り2.14×10-4モル)、及び49.21質量%NaOH水溶液119.10g(1.47モル)を仕込み、撹拌しながら窒素雰囲気下で173℃まで5時間掛けて昇温して、水479.39gを留出させた。47.23質量%NaSH水溶液は仕込まなかった。
それ以降、実施例(1-3)と同一の操作を行った。得られたPPS樹脂の溶融粘度は63Pa・sであった(測定法1)。結果を表3にまとめた。
【0093】
実施例5
<実施例(5-1)> PPS重合及び廃水の製造
実施例(2-1)と同一の操作を行った。なお、実施例(5-1)で得られた硫化水素を吸収した水酸化ナトリウム水溶液を、硫化水素を吸収した水酸化ナトリウム水溶液(5)と称する。また、実施例(5-1)で得られた廃水を、廃水(5)と称する。結果を表1に表す。
【0094】
<実施例(5-2)> スルフィド化剤の製造法(水硫化ソーダ回収液の調製)
廃水(5)中の第1中和点(測定法3)+硫黄分1モル当り0.90モルに相当する塩酸を滴下してpH(測定法4)を5.5に調整したこと以外は、実施例(1-2)と同一の操作を行った。得られた水硫化ソーダ回収液を水硫化ソーダ回収液(5)と称する。
水硫化ソーダ回収液(5)を測定した(測定法5、6)。結果を表2に表す。
【0095】
<実施例(5-3)> 実施例(5-2)で得たスルフィド化剤を用いたPPS製造
水酸化ナトリウム水溶液が入ったガス吸収瓶が接続したコンデンサ、圧力計、温度計、デカンタ、精留塔を連結した撹拌翼付きオートクレーブにp-DCB216.53g(1.47モル)、NMP14.87g(0.15モル)、47.23質量%NaSH水溶液172.70g(1.46モル)、得られた水硫化ソーダ回収液(5)14.76g(4.50×10-2モル、全水硫化ソーダの仕込みモルに対しての回収水硫化ソーダ使用割合は、3.0mol%、チオフェノール量はNaSH1モル当り1.84×10-4モル)、及び49.21質量%NaOH水溶液119.10g(1.47モル)を仕込み、撹拌しながら窒素雰囲気下で173℃まで5時間掛けて昇温して、水186.34gを留出させた。
それ以降、実施例(1-3)と同一の操作を行った。得られたPPS樹脂の溶融粘度は65Pa・sであった(測定法1)。結果を表3にまとめた。
【0096】
実施例6
<実施例(6-1)> PPS重合及び廃水の製造
予め仕込むガス吸収瓶内の15wt%水酸化ナトリウム水溶液の仕込量を2.90kgから0.540kgに変更したこと以外は、実施例(1-1)と同一の操作を行った。なお、実施例(6-1)で得られた硫化水素を吸収した水酸化ナトリウム水溶液を、硫化水素を吸収した水酸化ナトリウム水溶液(6)と称する。また、実施例(6-1)で得られた廃水を、廃水(6)と称する。結果を表1に表す。
【0097】
<実施例(6-2)> スルフィド化剤の製造法(水硫化ソーダ回収液の調製)
廃水(6)中の第1中和点(測定法3)+硫黄分1モル当り0.25モルに相当する塩酸を滴下してpH(測定法4)を7.1に調整したこと以外は、実施例(1-2)と同一の操作を行った。得られた水硫化ソーダ回収液を水硫化ソーダ回収液(6)と称する。
水硫化ソーダ回収液(6)を測定した(測定法5、6)。結果を表2に表す。
【0098】
<実施例(6-3)> 実施例(6-2)で得たスルフィド化剤を用いたPPS製造
水酸化ナトリウム水溶液が入ったガス吸収瓶が接続したコンデンサ、圧力計、温度計、デカンタ、精留塔を連結した撹拌翼付きオートクレーブにp-DCB216.53g(1.47モル)、NMP14.87g(0.15モル)、得られた水硫化ソーダ回収液(6)491.42g(1.50モル、全水硫化ソーダの仕込みモルに対しての回収水硫化ソーダ使用割合は、100mol%、チオフェノール量はNaSH1モル当り2.15×10-4モル)、及び49.21質量%NaOH水溶液119.10g(1.47モル)を仕込み、撹拌しながら窒素雰囲気下で173℃まで5時間掛けて昇温して、水474.60gを留出させた。47.23質量%NaSH水溶液は仕込まなかった。
それ以降、実施例(1-3)と同一の操作を行った。得られたPPS樹脂の溶融粘度は63Pa・sであった(測定法1)。結果を表3にまとめた。
【0099】
実施例7
<実施例(7-1)> PPS重合及び廃水の製造
実施例(2-1)と同一の操作を行った。なお、実施例(7-1)で得られた硫化水素を吸収した水酸化ナトリウム水溶液を、硫化水素を吸収した水酸化ナトリウム水溶液(7)と称する。また、実施例(7-1)で得られた廃水を、廃水(7)と称する。結果を表1に表す。
【0100】
<実施例(7-2)> スルフィド化剤の製造法(水硫化ソーダ回収液の調製)
トラップ槽に仕込む2.00kgの液体を2.30wt%の水酸化ナトリウム水溶液から4.25wt%の水酸化カルシウム水溶液(廃水(7)中の硫黄分1モル当り0.1モル)に変更したこと以外は、実施例(1-2)と同一の操作を行った。得られた水硫化ソーダ回収液を水硫化ソーダ回収液(7)と称する。
水硫化ソーダ回収液(7)を測定した(測定法5、6)。結果を表2に表す。
【0101】
<実施例(7-3)> 実施例(7-2)で得たスルフィド化剤を用いたPPS製造
水酸化ナトリウム水溶液が入ったガス吸収瓶が接続したコンデンサ、圧力計、温度計、デカンタ、精留塔を連結した撹拌翼付きオートクレーブにp-DCB216.53g(1.47モル)、NMP14.87g(0.15モル)、47.23質量%NaSH水溶液172.70g(1.46モル)、得られた水硫化ソーダ回収液(7)14.76g(4.50×10-2モル、全水硫化ソーダの仕込みモルに対しての回収水硫化ソーダ使用割合は、3.0mol%、チオフェノール量はNaSH1モル当り1.40×10-4モル)、及び49.21質量%NaOH水溶液119.10g(1.47モル)を仕込み、撹拌しながら窒素雰囲気下で173℃まで5時間掛けて昇温して、水186.35gを留出させた。
それ以降、実施例(1-3)と同一の操作を行った。得られたPPS樹脂の溶融粘度は69Pa・sであった(測定法1)。結果を表3にまとめた。
【0102】
比較例1
<比較例(1-1)> PPS重合及び廃水の製造
予め仕込むガス吸収瓶内の15wt%水酸化ナトリウム水溶液の仕込量を2.90kgから3.20kgへ変更したこと以外は、実施例(1-1)と同一の操作を行った。なお、比較例1-1で得られた硫化水素を吸収した水酸化ナトリウム水溶液を、硫化水素を吸収した水酸化ナトリウム水溶液(C1)と称する。また、比較例(1-1)で得られた廃水を、廃水(C1)と称する。結果を表4に表す。
【0103】
<比較例(1-2)> スルフィド化剤の製造法(水硫化ソーダ回収液の調製)
塩酸滴下後の廃水(C1)より発生する硫化水素ガスを、トラップ槽を経由せずに水酸化ナトリウム水溶液(C1)に直接吸収させたこと以外は、実施例(1-1)と同一の操作を行った。得られた水硫化ソーダ回収液を水硫化ソーダ回収液(C1)と称する。
得られた水硫化ソーダ回収液(C1)を測定した(測定法5、6)。結果を表5に表す。
【0104】
<比較例(1-3)> 比較例(1-2)で得たスルフィド化剤を用いたPPS製造
水酸化ナトリウム水溶液が入ったガス吸収瓶が接続したコンデンサ、圧力計、温度計、デカンタ、精留塔を連結した撹拌翼付きオートクレーブにp-DCB216.53g(1.47モル)、NMP14.87g(0.15モル)、47.23質量%NaSH水溶液172.70g(1.46モル)、得られた水硫化ソーダ回収液(2)14.45g(4.50×10-2モル、全水硫化ソーダの仕込みモルに対しての回収水硫化ソーダ使用割合は、3.0mol%、チオフェノール量はNaSH1モル当り4.63×10-4モル)、及び49.21質量%NaOH水溶液119.10g(1.47モル)を仕込み、撹拌しながら窒素雰囲気下で173℃まで5時間掛けて昇温して、水186.08gを留出させた。
それ以降、実施例(1-3)と同一の操作を行った。得られたPPS樹脂の溶融粘度は43Pa・sであった(測定法1)。結果を表6に表す。
【0105】
比較例2
<比較例(2-1)> PPS重合及び廃水の製造
比較例(1-1)と同一の操作を行った。なお、比較例(2-1)で得られた硫化水素を吸収した水酸化ナトリウム水溶液を、硫化水素を吸収した水酸化ナトリウム水溶液(C2)と称する。また、比較例(2-1)で得られた廃水を、廃水(C2)と称する。結果を表4に表す。
【0106】
<比較例(2-2)> スルフィド化剤の製造法(水硫化ソーダ回収液の調製)
トラップ槽に仕込む2.00kgの液体を2.30wt%の水酸化ナトリウム水溶液から純水に変更したこと以外は、実施例(1-2)と同一の操作を行った。得られた水硫化ソーダ回収液を水硫化ソーダ回収液(C2)と称する。
得られた水硫化ソーダ回収液(C2)を測定した(測定法5、6)。結果を表5に表す。
【0107】
<比較例(2-3)>比較例(2-2)で得たスルフィド化剤を用いたPPS製造
水酸化ナトリウム水溶液が入ったガス吸収瓶が接続したコンデンサ、圧力計、温度計、デカンタ、精留塔を連結した撹拌翼付きオートクレーブにp-DCB216.53g(1.47モル)、NMP14.87g(0.15モル)、47.23質量%NaSH水溶液172.70g(1.46モル)、得られた水硫化ソーダ回収液(2)14.72g(4.50×10-2モル、全水硫化ソーダの仕込みモルに対しての回収水硫化ソーダ使用割合は、3.0mol%、チオフェノール量はNaSH1モル当り4.73×10-4モル)、及び49.21質量%NaOH水溶液119.10g(1.47モル)を仕込み、撹拌しながら窒素雰囲気下で173℃まで5時間掛けて昇温して、水186.26gを留出させた。
それ以降、実施例(1-3)と同一の操作を行った。得られたPPS樹脂の溶融粘度は42Pa・sであった(測定法1)。結果を表6にまとめた。
【0108】
【表1】


※「←」印は左記に同様。
【0109】
【表2】

【0110】
【表3】
【0111】
【表4】
【0112】
【表5】
【0113】
【表6】
【0114】
以上の結果から、実施例1~5では比較例1、2と対比して、ポリフェニレンスルフィド樹脂の製造原料として使用したスルフィド化剤から、チオフェノールを低減させつつ、かつ、未反応のまま残留したスルフィド化剤を多く含む回収液として回収できること、さらに、PPS重合の原料として再利用しても、より高分子量のPPS樹脂を製造できることが明らかとなった。
【符号の説明】
【0115】
1 トラップ槽
2 ガス導入管
3 ガス排出管
4 液面
5 ガス吸収瓶
6 液面
7 ガス導入管
8 ガス排出管
9 撹拌機
10 ジョイント
図1