(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】廃電池からの有価金属回収方法
(51)【国際特許分類】
C22B 7/00 20060101AFI20240109BHJP
B09B 5/00 20060101ALI20240109BHJP
B65H 3/00 20060101ALI20240109BHJP
C22B 1/02 20060101ALI20240109BHJP
C22B 15/00 20060101ALI20240109BHJP
C22B 23/02 20060101ALI20240109BHJP
H01M 10/54 20060101ALI20240109BHJP
【FI】
C22B7/00 C
B09B5/00 A
B65H3/00
C22B1/02
C22B15/00
C22B23/02
H01M10/54
(21)【出願番号】P 2020039182
(22)【出願日】2020-03-06
【審査請求日】2022-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】井関 隆士
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-074539(JP,A)
【文献】特開2016-037661(JP,A)
【文献】特開2017-004920(JP,A)
【文献】特開2019-065374(JP,A)
【文献】特開2018-122218(JP,A)
【文献】特開2007-138209(JP,A)
【文献】特開2017-037807(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00-61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃電池を焙焼する焙焼工程と、
焙焼物を破砕する破砕工程と、
破砕物に対して
、鉄を含む不純物金属からなる着磁物と
、少なくともコバルト及び/又はニッケルを含む有価金属からなる非着磁物とに区分
し得る磁力で磁選処理を施す磁選工程と、
前記非着磁物を篩別けして篩上物と篩下物とに分離する篩別工程と、
を有
し、
前記磁選工程では、
前記破砕工程で得られた前記破砕物を破砕物搬送用ベルトコンベアに載置して搬送し、該破砕物搬送用ベルトコンベアの上流側の上部空間に設置された邪魔板によって、該破砕物を高さ方向で一定のサイズ以下に調整し、
高さ方向のサイズが調整された破砕物に対して、前記破砕物搬送用ベルトコンベアの下流側の上部空間に、搬送される該破砕物とは接触しない高さに磁石が吊下げられて構成される吊下げ式磁選機を用いて、該破砕物に対して磁選処理を施し、
前記磁選処理により前記磁石に着磁した着磁物を、該磁石に巻き付くように取り付けられて構成され前記破砕物搬送用ベルトコンベアの搬送方向とは異なる方向が搬送方向となる着磁物搬送用ベルトコンベアを介して除去する、
廃電池からの有価金属回収方法。
【請求項2】
前記篩下物を酸化焙焼する酸化焙焼工程と、
酸化焙焼物を還元熔融して、スラグと、有価金属を含有する合金とを得る還元熔融工程と、をさらに有する、
請求項
1に記載の廃電池からの有価金属回収方法。
【請求項3】
廃電池を焙焼する焙焼工程と、
焙焼物を破砕する破砕工程と、
破砕物を篩別けして篩上物と篩下物とに分離する篩別工程と、
前記篩下物に対して
鉄を含む不純物金属からなる着磁物と
、少なくともコバルト及び/又はニッケルを含む有価金属からなる非着磁物とに区分
し得る磁力で磁選処理を施す磁選工程と、
を有
し、
前記磁選工程では、
前記篩別工程で得られた前記篩下物を篩下物搬送用ベルトコンベアに載置して搬送し、該篩下物搬送用ベルトコンベアの上流側の上部空間に設置された邪魔板によって、該篩下物を高さ方向で一定のサイズ以下に調整し、
高さ方向のサイズが調整された篩下物に対して、前記篩下物搬送用ベルトコンベアの下流側の上部空間に、搬送される該篩下物とは接触しない高さに磁石が吊下げられて構成される吊下げ式磁選機を用いて、該篩下物に対して磁選処理を施し、
前記磁選処理により前記磁石に着磁した着磁物を、該磁石に巻き付くように取り付けられて構成され前記篩下物搬送用ベルトコンベアの搬送方向とは異なる方向が搬送方向となる着磁物搬送用ベルトコンベアを介して除去する、
廃電池からの有価金属回収方法。
【請求項4】
前記非着磁物を酸化焙焼する酸化焙焼工程と、
酸化焙焼物を還元熔融して、スラグと、有価金属を含有する合金とを得る還元熔融工程と、をさらに有する、
請求項
3に記載の廃電池からの有価金属回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、廃電池に含まれる有価金属の回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、軽量で大出力が得られる二次電池としてリチウムイオン電池が普及している。リチウムイオン電池の基本構造として、アルミニウムや鉄等の金属製の外装缶の内側に、銅箔で作られた負極集電体とアルミニウム箔で作られた正極集電体とがある。
【0003】
負極集電体の表面には黒鉛等の負極活物質が固着され、負極材を構成する。また、正極集電体の表面にはニッケル酸リチウムやコバルト酸リチウム等の正極活物質が固着され、正極材を構成する。負極材と正極材は、ポリプロピレンの多孔質樹脂フィルム等からなるセパレータを介して上述した外装缶の中に装入され、その隙間には六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)等の電解質を含む電解液等が封入される。
【0004】
リチウムイオン電池は、現在ではハイブリッド自動車や電気自動車等の車載用電池としての利用が進んでいる。しかしながら、自動車に搭載されたリチウムイオン電池は、使用を重ねるにつれて次第に劣化し、最後は寿命が来て廃棄される。
【0005】
自動車の動力がガソリンから電気へと変化する中で、自動車用途に用いられる電池が増加することは、同時に廃棄される電池も増加していくことになる。
【0006】
このような廃棄されたリチウムイオン電池や、リチウムイオン電池の製造中に生じた不良品等(以下、まとめて「廃電池」と称する)を資源として再利用する試みと具体的提案は、従来から多く行われている。そして、その多くは、廃リチウムイオン電池を高温の炉に投入して全量を熔解する乾式製錬プロセスが主流のものとなっている。
【0007】
ここで、廃電池には、ニッケル、コバルト、銅等の商業的に再利用の価値のある元素(以下、これらを「有価金属」と称する)のほかに、炭素、アルミニウム、フッ素、リン等の商業的に回収対象とならない元素(以下、まとめて「不純物」と称する)が含まれている。廃電池から有価金属を回収する場合、上述する不純物を有価金属と効率よく分離する必要がある。
【0008】
このため、例えば、廃電池を焙焼してフッ素やリン等を除去する無害化処理を行ったのち、破砕や粉砕を行い、その後篩機や磁選機を用いて分別して、その分別物から上述の乾式製錬プロセス(以下、単に「乾式処理」とも称する)や、酸や有機溶媒等の液体を用いて分離する湿式製錬プロセス(以下、単に「湿式処理」とも称する)を用いて、有価金属を回収する方法が行われている。
【0009】
乾式処理による廃電池からの有価金属であるコバルトの回収方法として、例えば特許文献1では、廃リチウムイオン電池を熔融炉へ投入し、酸素を吹き込んで酸化するプロセスが提案されている。
【0010】
また、特許文献2では、廃リチウムイオン電池を熔融し、スラグを分離して有価物を回収した後、石灰系の溶剤(フラックス)を添加してリンを除去するプロセスが提案されている。
【0011】
さらに、特許文献3では、複数の単電池を直列接続してなる組電池と、組電池を制御する制御部とを含み、樹脂製部品を有する電池パックをリサイクルする方法として、充電状態の組電池を収容した電池パックをそのまま焙焼する工程と、電池パックの焙焼時に発生した未燃焼分の熱分解ガスを完全燃焼させる完全燃焼工程と、を有し、焙焼する工程における焙焼温度を、樹脂製部品を形成する樹脂の炭化温度以上で且つ電池パックの金属部品の融点以下とし、非酸化性雰囲気下又は還元雰囲気下で電池パック内の組電池を焙焼するリサイクル方法が開示されている。
【0012】
しかしながら、これらの方法は、脱水や乾燥の処理、装置本体やメンテナンスにも、多大なコストを要するという問題がある。
【0013】
また、廃電池には、鉄等の不純物の多く含まれているため、不純物を可能な限り排除することが効率よく有価金属を回収するためには欠かせない。ところが、不純物と有価金属とは、様々な形態で入り混じっていることも多く、経済的に効率性高く、確実にかつ安定して有価金属を分離して回収することは容易ではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開2013-091826号公報
【文献】特表2013-506048号公報
【文献】特開2010-3512号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、廃電池に含まれる有価金属を、不純物を効果的に除去しながら、効率的にかつ安定的に回収することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者は、上述した課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、廃電池を焙焼して得られる焙焼物を所定の大きさに破砕したのち、その破砕物に対して磁選処理を施し、磁選された非着磁物を対象として篩別けして篩下物を回収することで、効率的にかつ安定的に有価金属を回収できることを見出した。あるいは、破砕物の篩別けのよる篩下物に対して磁選処理を施し、磁選された非着磁物を回収することでも同様の効果が得られることを見出した。すなわち、本発明は以下のものを提供する。
【0017】
(1)本発明の第1の発明は、廃電池を焙焼する焙焼工程と、焙焼物を破砕する破砕工程と、破砕物に対して磁選処理を施して着磁物と非着磁物とに区分する磁選工程と、前記非着磁物を篩別けして篩上物と篩下物とに分離する篩別工程と、を有する、廃電池からの有価金属回収方法である。
【0018】
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、前記磁選工程では、前記破砕物に対して吊下げ式磁選機を用いて磁選処理を施す、廃電池からの有価金属回収方法である。
【0019】
(3)本発明の第3の発明は、第2の発明において、前記磁選工程では、前記破砕物のサイズが所定以下となるように調整し、サイズ調整した破砕物に対して前記磁選処理を施す、廃電池からの有価金属回収方法である。
【0020】
(4)本発明の第4の発明は、第3の発明において、前記磁選工程では、前記破砕工程を経てベルトコンベアに載置されて搬送される前記破砕物のうち、該ベルトコンベアの上部空間に設置された邪魔板によって高さ方向で一定のサイズ以下に調整した破砕物に対して前記磁選処理を施す、廃電池からの有価金属回収方法である。
【0021】
(5)本発明の第5の発明は、第3又は第4の発明において、前記磁選工程では、前記破砕物を、高さ方向のサイズで20mm以上120mm以下の範囲に調整し、サイズ調整した破砕物に対して前記磁選処理を施す、廃電池からの有価金属回収方法である。
【0022】
(6)本発明の第6の発明は、第1乃至第5のいずれかの発明において、前記篩下物を酸化焙焼する酸化焙焼工程と、酸化焙焼物を還元熔融して、スラグと、有価金属を含有する合金とを得る還元熔融工程と、をさらに有する、廃電池からの有価金属回収方法である。
【0023】
(7)本発明の第7の発明は、第1乃至第6のいずれかの発明において、前記有価金属は、少なくとも、コバルト、ニッケル、及び銅からなる群から選ばれる1種以上を含む、廃電池からの有価金属回収方法である。
【0024】
(8)本発明の第8の発明は、廃電池を焙焼する焙焼工程と、焙焼物を破砕する破砕工程と、破砕物を篩別けして篩上物と篩下物とに分離する篩別工程と、前記篩下物に対して磁選処理を施して着磁物と非着磁物とに区分する磁選工程と、を有する、廃電池からの有価金属回収方法である。
【0025】
(9)本発明の第9の発明は、第8の発明において、前記非着磁物を酸化焙焼する酸化焙焼工程と、酸化焙焼物を還元熔融して、スラグと、有価金属を含有する合金とを得る還元熔融工程と、をさらに有する、廃電池からの有価金属回収方法である。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、廃電池に含まれる有価金属を、効率的にかつ安定的に回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】有価金属回収方法の流れの一例を示す工程図である。
【
図2】ベルトコンベアの搬送経路の所定の箇所の上部に設けた吊下げ式磁選機について説明するための図である。
【
図3】ベルトコンベアの搬送経路の所定の箇所(吊下げ式磁選機よりも上流側)の上部空間に邪魔板を設置し、搬送される破砕物のうち高さ方向で一定のサイズ以下のものを通過させて磁選機に供給する流れを模式的に示した図である。
【
図4】有価金属回収方法の流れの他の一例を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において種々の変更が可能である。
【0029】
≪1.有価金属回収方法の概要≫
本実施の形態に係る有価金属の回収方法は、廃電池から有価金属を回収する方法である。一般的に、廃電池から有価金属を回収するにあたっては、乾式処理に加えて湿式処理を行う場合があるが、本実施の形態に係る有価金属回収方法は、主として乾式処理に関わる。
【0030】
具体的に、この有価金属回収方法は、無害化のために廃電池を焙焼して得られる焙焼物を所定の大きさに破砕したのち、その破砕物に対して磁選処理を施して着磁物と非着磁物とに区分し、次いで、非着磁物を所定の目開きの篩で篩別けして篩上物と篩下物とに分離する。なお、その後、分離した篩下物を対象として酸化焙焼し、酸化焙焼物を還元熔融してスラグと有価金属を含有する合金とを得る。
【0031】
また、有価金属回収方法の他の実施態様として、無害化のために廃電池を焙焼して得られる焙焼物を所定の大きさに破砕したのち、その破砕物を所定の目開きの篩で篩別けして篩上物と篩下物とに分離し、次いで、分離した篩下物に対して磁選処理を施して着磁物と非着磁物とに区分する。なお、その後は、区分した非着磁物を対象として酸化焙焼し、酸化焙焼物を還元熔融してスラグと有価金属を含有する合金とを得る。
【0032】
これらのような方法によれば、破砕物に対して磁選処理を施し、あるいは破砕物を篩別けした篩下物に対して磁選処理を施すようにすることで、廃電池に含まれている、鉄を主とする不純物の金属成分を効果的に除去することができる。このように、主として鉄を効果的に除去できることから、後工程にて還元熔融する際にスラグの融点や粘性等の設計が容易となり効率的に有価金属を回収できる。また、後工程にて鉄等の不純物を除去するための処理が不要となり、処理費用を低減できる。
【0033】
ここで、廃電池とは、上述したように、使用済みのリチウムイオン電池等の二次電池や、二次電池を構成する正極材等の製造工程で生じた不良品、製造工程内部の残留物、発生屑等のリチウムイオン電池の製造工程内における廃材を含む概念である。このような廃電池には、上述のように、ニッケル、コバルト、銅等の、回収して再利用する経済的価値のある有価金属が含まれている。
【0034】
≪2.有価金属回収方法の各工程について≫
<2-1.第1の実施形態>
図1は、本実施の形態に係る有価金属回収方法の流れの一例を示す工程図である。この有価金属回収方法は、廃電池を焙焼する焙焼工程S11と、焙焼物を破砕する破砕工程S12と、破砕物に対して磁選処理を施して着磁物と非着磁物とに区分する磁選工程S13と、磁選された非着磁物に対して篩別処理を施して篩上物となる塊状物と篩下物となる粉末とに分離する篩別工程S14と、を有する。ここで、ニッケルやコバルト等の有価金属は、正極活物質に含まれる金属であり、これらの工程を経て鉄等の不純物と分離された状態で粉末状で回収されることになる。したがって、有価金属は篩下物に多く分配される。
【0035】
また、得られた篩下物を酸化焙焼する酸化焙焼工程S15と、酸化焙焼物を還元熔融することにより、スラグと、有価金属を含有する合金(メタル)とを得る還元熔融工程S16と、をさらに有する。
【0036】
なお、このような一連の乾式処理を経て得られる有価金属の合金を、中和処理や溶媒抽出処理、電解採取等の湿式処理に付すことによって、その合金中に残留する不純物成分を除去して有価金属をさらに精製し、高付加価値なメタルとして回収できる。
【0037】
[焙焼工程]
焙焼工程S11は、廃電池に含有される電解液成分であるフッ素成分等を取り除いて無害化し、また、次工程での破砕を容易とすることを主な目的とする。
【0038】
焙焼処理における条件は、特に限定されないが、確実に無害化するとともに、廃電池を脆くして次工程での破砕を容易にする観点から、焙焼温度としては700℃以上に加熱して行うことが好ましい。なお、焙焼温度の上限としては、特に限定されないが、1200℃以下とすることが好ましい。焙焼温度が高すぎると、主に廃電池の外部シェルに用いられている鉄等の一部がキルン等の焙焼炉本体の内壁等に付着してしまい、円滑な操業の妨げになったり、あるいはキルン自体の劣化につながる場合があり好ましくない。
【0039】
また、焙焼処理に供する廃電池を炉内に積み重ねすぎると、内部まで十分に焙焼できず焼きムラができてしまう。そのため、均一に焙焼できるようにする観点から、処理量や焙焼炉の加熱能力等を選定することが好ましい。例えば、予め予備試験を行って、最適温度や焙焼時間を決定することが好ましい。
【0040】
焙焼時の加熱方式は、特に限定されず、電気式であってよく、石油やガス等の燃料を使用するバーナー式であってよい。特に、バーナー式の加熱は低コストであり好ましい。
【0041】
[破砕工程]
破砕工程S12では、焙焼工程S11にて廃電池を焙焼して得られた焙焼物を、破砕し、細かく分離する。
【0042】
破砕処理において使用する破砕装置は、特に限定されず、例えばロッドミル、ジョークラッシャー、二軸混錬機、チェーンミル等を用いることができる。
【0043】
[磁選工程]
磁選工程S13では、破砕工程S12にて焙焼物を破砕して得られた破砕物に対して磁選処理を施すことによって着磁物と非着磁物とに区分する。磁選工程S13での処理は、廃電池に含まれる不純物である、鉄を主とする金属を着磁物として分離除去することである。
【0044】
ここで、回収した有価金属中に不純物の鉄が含まれると、後工程の還元熔融工程S16での乾式製錬の際においてスラグの融点や粘性等の設計が複雑になる。さらに、回収した有価金属において鉄を十分に除去できないと、後工程で別途、鉄を除去するための処理が必要となり、また処理費用が増すことになる。
【0045】
この点、本実施の形態に係る有価金属回収方法によれば、磁選工程S13を設け、破砕物に対して磁選処理を施し、区分された非着磁物を次工程に供給して有価金属を回収するようしている。このことから、着磁物として区分される鉄等の不純物金属成分を効果的に除去できる。また、回収する有価金属中への鉄の含有を防ぐことができるため、後工程の還元熔融処理の設計が容易となり、また、鉄を除去するための処理が不要となり、処理コストの増加も抑えることができる。
【0046】
磁選処理の方法としては、特に限定されないが、例えば吊下げ式磁選機を用いた方法により行うことができる。
図2は、ベルトコンベアの搬送経路の所定の箇所の上部に設けた吊下げ式磁選機について説明するための図である。
【0047】
図2に示すように、吊下げ式磁選機12は、ベルトコンベア11の搬送経路の上部に磁石20が吊下げられて構成されるものであり、磁石の周囲には着磁物排出用の別のベルトコンベア13が磁石20に巻き付くように取り付けられている。なお、ベルトコンベア11において、その搬送方向は紙面手前から紙面奥に向かう方向であり、その搬送方向の経路の途中の上部に吊下げ式磁選機12が設置されている。
【0048】
図2に示すように、破砕工程S2を経て得られた破砕物1は、ベルトコンベア11によって次工程における処理へと搬送されていくが、その搬送経路の所定の箇所の上部に設けられた吊下げ式磁選機12により、破砕物1のうちの鉄等の不純物が磁石20に着磁して着磁物1Aとなり、有価金属を含む破砕物は磁石20に着磁せずに非着磁物1Bとして、それぞれ区分される。
【0049】
このように吊下げ式磁選機12を用いて磁選処理を施すことで、磁石20に吸い付けられた鉄等の着磁物1Aは、着磁物排出用ベルトコンベア13によって磁石20の周辺から遠ざけられ除去されるようになるため、より確実にかつ効率的に有価金属と鉄等の不純物金属成分とを区分できる。
【0050】
ここで、吊下げ式磁選機を用いた磁選処理においては、磁石の磁力のほか、磁石と破砕物との高さ方向の距離が、鉄等の不純物の除去率や有価金属と不純物との分離率に大きな影響を与える。例えば、多量の廃電池を処理する場合には、不可避的に焙焼や破砕が十分でないものが発生し、大きな塊が磁選機にかけられることになる。このとき、従来からの一般的な磁選処理では、粗大な破砕物から有価金属と鉄等の不純物とを十分に効果的に分離できず、また安定的な処理を行うことができない。そのため、鉄等で形成された缶体と共に有価金属が着磁物に分配されることも多くなる。
【0051】
そこで、この有価金属回収方法では、磁選工程S13での処理において、破砕物のサイズを小さく所定以下となるように調整し、サイズ調整した破砕物に対して磁選機を用いた磁選処理を施すことが好ましい。また、磁選機に供給する破砕物の量についても一定に揃えることが好ましい。
【0052】
破砕物のサイズ調整の方法としては、例えば
図3の模式図に示すように、ベルトコンベア11により搬送される破砕物1が吊下げ式磁選機12の磁石20の部分に入る手前の位置の上部空間において、ベルトコンベア11からの高さを調整した邪魔板30を設置しておき、高さ方向で一定のサイズ以下のものを通過させて吊下げ式磁選機12に供給する。このような方法によれば、邪魔板30を通過した破砕物1は、邪魔板30の設置高さ(下端部30aの高さ)以下のサイズに調整された破砕物1Dとなり、サイズ調整された破砕物1Dのみが吊下げ式磁選機12に供給されて(吊下げ式磁選機12の下方に搬送されて)、磁選処理が施されることになる。
【0053】
一方で、高さ方向で一定のサイズを超える粗大な破砕物1Eは、ベルトコンベア11に設けられた邪魔板30により搬送が邪魔されて回収され、吊下げ式磁選機12には供給されないこととなる。なお、このような邪魔板30で除去された粗大な破砕物1Eは、再度破砕して磁選処理することで、鉄等の不純物を効率よく除去しながら、有価金属の回収ロスを低減できる。
【0054】
具体的に、調整する破砕物のサイズ(高さ方向のサイズ)としては、特に限定されないが、20mm以上120mm以下程度の範囲とすることが好ましい。このようなサイズに調整した破砕物に対して磁選処理を施すことで、鉄等の不純物金属成分をより確実に着磁物として磁選機の磁石に着磁させて除去でき、より効果的に有価金属と分離できる。
【0055】
なお、破砕物の高さ方向のサイズとは、破砕物の単一粒子のサイズのみならず、ベルトコンベアに積載される破砕物の積載高さのサイズも含む概念である。
【0056】
[篩別工程]
篩別工程S14では、磁選工程S13にて磁選され区分された非着磁物を、所定の目開きの篩(篩機)を用いて篩上物と篩下物とに篩別けして分離する。特に廃電池の場合、有価金属を多く含む正極活物質は破砕によって粉状化し、篩下に分配される。そのため、篩別けにより篩下物と篩上物とに分離することで、有価金属を効率的に回収できる。
【0057】
そして、本実施の形態に係る有価金属回収方法では、前工程の磁選工程S13にて磁選処理を施し、鉄等の不純物金属成分を除去した非着磁物を篩別けの処理対象としているため、回収される篩下物においては、不純物の含有を抑えられた有価金属が含まれる。
【0058】
篩別処理については、特に限定されず、市販の篩機を用いて行うことができる。また、篩の目開き(スクリーンの目開き)等は、篩上物と篩下物との篩別けの条件に基づいて適宜設定することができる。なお、篩の目開きが大きすぎると、篩下に有価金属と共に非有価金属が多く回収されてしまうことがあり好ましくない。また、篩の目開きが小さすぎると、篩上に多くの有価金属が含まれてしまうことがあり好ましくない。例えば、篩の目開きとしては5mm以下であると、有価金属を効率的に回収でき好ましい。
【0059】
篩機は、密閉された空間内に載置して、破砕物が周囲に飛散しない構造を構成していることが好ましい。このように密閉状態で破砕物を篩機に供給できるようにすることで、粉状物の飛散や、それに伴う有価金属の回収ロスをより効率的に防ぐことができ、また、安全面並びに作業環境面の観点からも好ましい。
【0060】
[酸化焙焼工程]
次に、酸化焙焼工程S15では、篩別工程S14で得られた篩下物を酸化雰囲気下で焙焼する。酸化焙焼工程S15での焙焼処理により、篩下物に含まれる炭素成分(カーボン)を酸化して除去することができる。具体的に、得られる酸化焙焼物中の炭素の含有量をほぼ0質量%とする。
【0061】
このように、酸化雰囲気下での焙焼により炭素を除去することができ、その結果、次工程の還元熔融工程S16において局所的に発生する還元有価金属の熔融微粒子が、炭素による物理的な障害なく凝集することが可能となり、一体化した合金として回収できる。また、還元熔融工程S16において電池の内容物に含まれるリンが炭素により還元されることを抑制し、有効にリンを酸化除去して、有価金属の合金中に分配されることを抑制できる。
【0062】
酸化焙焼工程S15では、例えば600℃以上の温度(酸化焙焼温度)で酸化焙焼する。焙焼温度を600℃以上とすることで、電池に含まれる炭素を有効に酸化除去できる。また、好ましくは700℃以上とすることで、処理時間を短縮させることもできる。また、酸化焙焼温度の上限値としては900℃以下とすることが好ましく、これにより熱エネルギーコストを抑制することができ、処理効率を高めることができる。
【0063】
酸化焙焼の処理は、公知の焙焼炉を使用して行うことができる。また、次工程の還元熔融工程S16における熔融処理で使用する熔融炉とは異なる炉(予備炉)を設け、その予備炉内において行うことが好ましい。焙焼炉としては、酸素を供給しながら破砕物を加熱することによりその内部で酸化処理(焙焼)を行うことが可能な、あらゆる形式のキルンを用いることができる。一例として、公知のロータリーキルン、トンネルキルン(ハースファーネス)等を好適に用いることができる。
【0064】
[還元熔融工程]
還元熔融工程S16では、酸化焙焼工程S15での焙焼処理により得られた酸化焙焼物を還元熔融することにより、不純物を含むスラグと、有価金属を含有する合金(メタル)とを得る。還元熔融工程S16では、酸化焙焼処理にて酸化させて得られた、不純物元素の酸化物はそのままで、その酸化焙焼処理で酸化してしまった有価金属の酸化物については還元及び熔融させることにより、不純物と分離して還元物を一体化した合金を得ることができる。なお、熔融物として得られる合金を「熔融合金」ともいう。
【0065】
還元熔融工程S16では、例えば炭素の存在下で処理を行うことができる。炭素としては、回収対象である有価金属のニッケル、コバルト等を容易に還元する能力がある還元剤であって、例えば、炭素1モルでニッケル酸化物等の有価金属の酸化物2モルを還元できる黒鉛等が挙げられる。また、炭素1モルあたり2モル~4モルを還元できる炭化水素等を炭素の供給源として用いることもできる。このように、還元剤としての炭素の存在下で還元熔融することで、有価金属を効率的に還元して、有価金属を含む合金を効果的に得ることができる。
【0066】
炭素としては、人工黒鉛や天然黒鉛のほか、製品や後工程で不純物が許容できる程度であれば、石炭やコークス等を使用することもできる。また、還元熔融処理に際しては、炭素の存在量を適度に調節することが望ましい。具体的に、好ましくは、処理対象の酸化焙焼物100質量%に対して7.5質量%を超え10質量%以下となる割合、より好ましくは、8.0質量%以上9.0質量%以下となる割合の量の炭素の存在下で熔融する。
【0067】
還元熔融処理における温度条件(熔融温度)としては、特に限定されないが、1320℃以上1600℃以下の範囲とすることが好ましく、1450℃以上1550℃以下の範囲とすることがより好ましい。また、還元熔融処理においては、酸化物系フラックスを添加して用いてもよい。なお、還元熔融処理においては、粉塵や排ガス等が発生することがあるが、従来公知の排ガス処理を施すことによって無害化することができる。
【0068】
<2-2.第2の実施形態>
図4は、他の実施形態に係る有価金属回収方法の流れの一例を示す工程図である。この有価金属回収方法は、廃電池を焙焼する焙焼工程S21と、焙焼物を破砕する破砕工程S22と、破砕物に対して篩別処理を施して篩上物となる塊状物と篩下物となる粉末とに分離する篩別工程S23と、篩下物に対して磁選処理を施して着磁物と非着磁物とに区分する磁選工程S24と、を有する。
【0069】
すなわち、第2の実施形態に係る方法は、第1の実施形態に係る方法と比べて、篩別工程と磁選工程との順番が異なり、篩別工程S23にて破砕物を篩別けて回収された篩下物の粉末に対して磁選工程S24における磁選処理を施すことを特徴としている。
【0070】
各工程における処理の説明は、第1の実施形態の方法にて説明したとおりであり、したがってここでの説明は省略する。
【0071】
第2の実施形態に係る有価金属回収方法のように、破砕物を所定の目開きの篩を用いて篩別けた後、篩下物となる粉末に対して磁選処理を施すことで、篩下物中において有価金属と共に含まれる鉄等の不純物金属成分を着磁物として分離除去することができる。これにより、磁選処理を経て回収される非着磁物には、鉄等の不純物の含有が低減された有価金属が含まれるようになるため、このような非着磁物に対して、酸化焙焼工程S25及び還元熔融工程S26での処理を施すことで、廃電池に含まれる有価金属を、効率的にかつ安定的に回収できる。
【実施例】
【0072】
以下、実施例及び比較例を用いて、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0073】
[実施例、比較例]
(焙焼工程)
廃電池として、外形が角形をした車載用のリチウムイオン電池の使用済み品を用意した。この廃電池を大気雰囲気下で920℃の温度で6時間かけて焙焼した。
【0074】
(破砕工程)
次に、破砕工程では、破砕機としてチェーンミルを用いて、焙焼工程から得られた焙焼物を1バッチ10kgとして破砕した。このような破砕により得られた破砕物を回収し、そのまま次工程の磁選工程に供した。
【0075】
(磁選工程)
次に、磁選工程では、磁選機として吊下げ磁選機を用い、ベルトコンベアにて搬送供給される破砕物に対して磁選処理を行った。このとき、ベルトコンベアの所定の位置(吊下げ式磁選機よりも上流側)の上部空間に邪魔板を吊下げて設置し、搬送される破砕物の高さ方向のサイズを調整し、サイズ調整された破砕物のみを磁選機に供給するようにした。調整したサイズ(試料の高さ)は、下記表1に示すとおりとした。また、1.0kg/分の搬送速度で破砕物を搬送し、磁選機に連続的に供給して磁選処理を施した。
【0076】
他方、比較例1では、破砕物に対する磁選処理を行わず、破砕物をそのまま篩別工程に供給した。
【0077】
(篩別工程)
次に、篩別工程では、磁選処理を経て得られた非着磁物(実施例1~7)、及び破砕物(比較例1)を秤量し、直径2.0mmの孔が多数開口した金属(ステンレス)板を篩に用いた篩機にかけ、篩下物と篩上物とに篩別けした。
【0078】
[結果]
下記表1に、実施例1~7及び比較例1での処理条件、篩別工程での篩別処理を経て回収された篩下物に含まれる鉄(Fe)の含有量の測定結果を示す。また、実施例1~7において磁選工程での磁選処理を経て回収された着磁物中の組成の結果も併せて示す。なお、ICP発光分光分析器を用いて各金属元素の含有量を測定した。
【0079】
【0080】
表1に示すように、磁選処理を行った実施例1~7では、磁選処理の後の篩別処理で回収された篩下物中におけるFeの含有量が低く、不純物のFeが除去された篩下物を得ることができた。
【0081】
これに対して、磁選処理を行わなかった比較例1では、篩下物中におけるFeの含有量が非常に多くなってしまった。このような不純物であるFeの含有量が多い篩下物に対して後工程にて還元熔融処理を行った場合、スラグの融点や粘性等の設計が困難になると想定された。
【0082】
また、実施例1~7のそれぞれの結果から、磁選処理を行うに先立ち、破砕物に対するサイズ調整を行うことにより(実施例1~6)、着磁物中に分配されることになるNiやCoの有価金属の量を低減でき、ロスを抑制して効果的に有価金属を回収できることがわかった。
【符号の説明】
【0083】
1 破砕物
1A 着磁物
1B 非着磁物
1D 破砕物
1E 破砕物
11 ベルトコンベア
12 吊下げ式磁選機
13 (着磁物排出用)ベルトコンベア
20 磁石
30 邪魔板