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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】設計支援システム
(51)【国際特許分類】
   G06F 30/10 20200101AFI20240109BHJP
   G06F 30/20 20200101ALI20240109BHJP
   G06Q 10/101 20230101ALI20240109BHJP
【FI】
G06F30/10
G06F30/20
G06Q10/101
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020042904
(22)【出願日】2020-03-12
(65)【公開番号】P2021144481
(43)【公開日】2021-09-24
【審査請求日】2023-02-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】長谷部 達也
(72)【発明者】
【氏名】岩下 健一
(72)【発明者】
【氏名】吉廻 公博
(72)【発明者】
【氏名】澤田 弥生
(72)【発明者】
【氏名】海老原 絵美子
(72)【発明者】
【氏名】花岡 恭平
【審査官】松浦 功
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-344200(JP,A)
【文献】特開2019-079216(JP,A)
【文献】特開2007-241774(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0101795(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0292248(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/00 -30/398
G06Q 10/00 -10/30
G06Q 50/00 -50/34
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
因果関係に関する知見を入力可能な入力装置と、
前記入力装置に入力された前記因果関係に関する前記知見と、複数の実験データをグループごとに因果推論した因果推論結果との統合をする演算装置と、
前記演算装置により前記統合の結果を表示する出力装置と、を備える、設計支援システム。
【請求項2】
前記グループは、ランダム化実験の単位で構成されている、請求項1記載の設計支援システム。
【請求項3】
前記因果関係は、製品仕様と製品機能との二項間関係を含む、請求項1記載の設計支援システム。
【請求項4】
前記統合は、統計的な処理により行われる、請求項1記載の設計支援システム。
【請求項5】
記録装置を更に備え、
前記記録装置は、前記因果推論結果を保存する、請求項1記載の設計支援システム。
【請求項6】
前記記録装置は、前記統合の結果を前記因果推論結果として記録し蓄積する、請求項5記載の設計支援システム。
【請求項7】
前記入力装置は、前記因果推論結果を入力可能である、請求項1記載の設計支援システム。
【請求項8】
前記出力装置は、前記統合の結果である因果関係表を二元表の形式で表示する、請求項1記載の設計支援システム。
【請求項9】
前記出力装置は、前記統合の結果とともに、前記統合の結果の根拠として用いた前記因果推論結果、及び前記因果関係に関する前記知見を表示する、請求項1記載の設計支援システム。
【請求項10】
前記出力装置は、前記統合の結果とともに、前記統合の結果に関する追加の知見を入力可能な構成を有する、請求項1記載の設計支援システム。
【請求項11】
前記出力装置は、目標入力部及び最適化結果を表示する、請求項1記載の設計支援システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、設計支援システムに関する。
【背景技術】
【0002】
材料の開発をはじめとする製品の開発においては、顧客に要求される製品機能を実現するために、設計指針の立案と、それに基づいた試作実験とを行う。材料の開発のように、膨大な組成・プロセス条件の組み合わせの中から最適なものを選択する必要がある場合、試作実験できる回数は限られているため、適切な設計方針を立案し、試験する材料系、組成条件等を決めることが重要である。
【0003】
有効な設計指針の立案には、開発対象に関する高度なドメイン知識が要求される。この場合においては、他の開発者の知見や、過去の設計実績データにある知見を外出し化し、利用することが効果的である。
【0004】
開発者の知識を外出し化する方法としては、例えば、品質機能展開、機能ブロック図、オントロジー等に基づく知識グラフの形で、製品機能と製品仕様・工程との関係性に関する知識を整理する方法がある。
【0005】
過去の実績情報から知識を抽出する方法としては、統計・機械学習・深層学習等を用いて、数値、自然言語、分子構造等からなる製品仕様から製品特性を予測する、あるいはSHAPなどの製品特性への各変数の寄与率を求める方法などがある。ここで、SHAPは、モデルの予測結果に対する各変数(特徴量)の寄与を求めるための手法であり、SHapley Additive exPlanationsの略称である。
【0006】
さらに、実績情報がランダム化実験によって取得されている場合は、統計的因果推論によって因果効果を推定することができる。ランダム化実験から導出された因果効果は、意思決定の際の根拠として信頼性が高いとみなされている。意思決定に関して、因果推論結果よりも信頼性が高いといわれる方法として、複数の因果推論結果を集めて因果関係を論じるメタアナリシスがある。
【0007】
特許文献1には、製品の設計値及び性能値を含む実績データ、最適化目標、及び、制約から、実験計画又は最適化手法を選択し、選択した実験計画又は最適化手法を実行し、実験計画又は最適化手法の効果を算出し、実験計画又は最適化手法に関連付けて効果を出力する実験支援装置が開示されている。
【0008】
特許文献2には、シミュレーションによる意思決定支援のための発生する事象を推定するモデルについて、効果的にモデルを更新する技術を提供することを目的として、因果関係モデルと、データ分析機能による分析結果とに基づき、因果関係モデルを更新するための更新データを生成する意思決定支援システムが開示されている。
【0009】
特許文献3には、プロダクト構造ベース(E-BOM)での情報表現モデルである製品構造情報モデルと、プロセス構造ベース(M-BOM)での情報表現モデルである工程構成情報モデルを統合化した統合モデル(プロダクト-プロセスモデル(PPM))を格納しているデータベースである製品・工程モデルDBと、設計仕様、標準・基準書、製造方法に関する知識や生産システムにおける知見・ノウハウに関する知識ファイル(生データ)を格納している知識データDBと、を有する知見・ノウハウの体系化支援装置において、(1)工程を状態遷移により表現できること、(2)知見・ノウハウを体系化できること、(3)知見・ノウハウを蓄積・進化できること、統合モデルは工程を状態遷移により表現しているため、生産システムにおける不具合の因果連鎖関係に基づく不具合発生メカニズムを表現できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特開2019-185591号公報
【文献】特開2017-194730号公報
【文献】特開2007-241774号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
材料開発等における複雑な製品設計における意思決定を支援するには、開発者にどの製品仕様が機能発現に重要かという情報を、高い網羅性と確度をもって提示することが重要である。
【0012】
特許文献1に記載の実験支援装置によれば、実績データ等を基に最適な実験計画をすることができる。しかしながら、特許文献1には、製品仕様と特性との間にどのような二項間関係があるか等、設計方針の決定に必要な情報が得られるかどうかについては記載されていない。
【0013】
特許文献2に記載の意思決定支援システムによれば、データの分析結果等を用いて因果モデルを更新していくことを支援することができる。しかしながら、特許文献2には、データがランダム化されているかどうかについての記載がないため、相関関係が因果関係によるものか、偽相関によるものかを判断することが難しく、因果モデルの精度が下がり、意思決定に使えなくなる問題、モデル更新にユーザーの操作が必要になる問題などが起こり得ると考えられる。
【0014】
特許文献3に記載の知見・ノウハウの体系化支援装置によれば、知見・ノウハウを体系化でき、蓄積・進化できる。しかしながら、特許文献3には、数量的なデータを扱うことについては具体的な記載がなく、定量化した知見による正確な情報を提供することについても記載されていない。
【0015】
本発明は、ユーザーによる設計方針の策定の際に、実験データ、設計者の知見等を活用し、ユーザーを支援することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の設計支援システムは、因果関係に関する知見を入力可能な入力装置と、入力装置に入力された因果関係に関する知見と、複数の実験データをグループごとに因果推論した因果推論結果との統合をする演算装置と、演算装置により統合の結果を表示する出力装置と、を備える。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、ユーザーによる設計方針の策定の際に、実験データ、設計者の知見等を活用し、ユーザーを支援することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施形態に係る設計支援システムを示す構成図である。
図2】実施例の入力装置に入力される実験データ集合の一例を示す表である。
図3】実施例の入力装置に入力される因果関係知見データの一例を示す画像である。
図4】実施例の設計支援システムにおいて扱われるデータのスキーマの一例を示す構成図である。
図5】実施例の設計支援システムにおいて統合した因果関係情報の一例を示す表示画面である。
図6】実施例の設計支援システムにおいて表示される因果関係の詳細についての一例を示す画面である。
図7】実施例の設計支援システムにおいて表示される因果関係の詳細についての他の例を示す画面である。
図8】実施例の設計支援システムにおいて因果関係知見を登録する際に表示される画面の一例である。
図9】実施例の設計支援システムにおいて最適化の処理をする際に表示される画面の一例である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の実施形態に係る設計支援システムは、製品設計方針の立案に必要な知識及び設計実績データの解析結果の記録及び提示をするものである。
【0020】
以下、実施形態について説明する。
【0021】
本実施形態においては、材料等の製品機能と製品仕様との因果関係に関する知見・ノウハウを、製品仕様(例えば材料の組成や工程条件)と製品機能・特性(試作実験結果値など)との二項間関係に整理する。さらに、製品仕様から製品機能・特性への因果関係について、ランダム化実験の単位でグループ化した実験データを因果推論することで導出する。これらの製品仕様と製品機能・特性との組み合わせのそれぞれに紐づく因果関係知見・ノウハウ及び定量的な因果推論結果を統計的に統合し、メタアナリシスを行い、結果を開発者に提示する。
【0022】
因果関係知見・ノウハウには、開発者が考える因果関係の大小、傾向、方向、その因果関係の根拠・原理を示す文章や参考文献、外部情報への参照、図表、知見を示した開発者自身の情報等が含まれる。
【0023】
ランダム化実験の単位でグループ化した実験データとは、どのランダム化実験(直交表、最適計画、応答曲面計画などの実験計画法によって得られた実験データを含む。)によって実験データが得られたかを識別できる形で記録した実験データのことである。言い換えると、当該グループは、ランダム化実験の単位で構成されている。
【0024】
因果推論結果とは、グループ化した実験データごとに統計的手法や機械学習を用いた因果推論を実施し、因果効果を推定した結果のことである。因果効果としては、ATE (Average Treatment Effect), CATE (Conditional Average Treatment Effect)あるいはこれらを連続値の介入に拡張したもの、プロペンシティ・スコアが含まれる。因果推論手法としては、線形手法やCausal Forest, X-learner, Causal Effect VAEなどの機械学習ベースの手法を必要に応じて用いる。これらの因果推論は、自動あるいは、人間が手動でモデリングして行う。
【0025】
実験データには、実世界での実験結果とシミュレーション実験による結果とが含まれる。
【0026】
最後に、特定の製品仕様及び製品機能・特性を原因及び結果として有する複数の因果関係知見・ノウハウと因果推論結果とを統計操作、メタアナリシスの手法等により統合し、システムのユーザーに可読性の高い形で提示する。
【0027】
図1は、一実施形態に係る設計支援システムの構成を示したものである。
【0028】
本図に示す設計支援システムは、製品の設計業務において、典型的には、試作実験を行う前に製品設計指針を立てる際に、実験データの因果推論によって得られる因果効果と製品設計者の持つ因果関係知見とを統合した情報を製品設計者に提示し、設計指針策定を支援するシステムである。なお、この設計支援システムは、分散配置された装置の集合体であるシステムであってもよいが、すべての機能を1台にまとめた設計支援装置であってもよい。
【0029】
本図において、設計支援システムは、入力部101(入力装置)と、記録部104(記録装置)と、因果推論部105と、統合部106と、表示部107(出力装置)と、を備えている。因果推論部105及び統合部106は、演算装置に含まれる。なお、因果推論部105及び統合部106は、別個の装置に設けられていてもよい。また、入力装置、演算装置及び出力装置のいずれか二つが一台の装置として構成されていてもよい。例えば、ホストコンピュータが演算装置であり、入力装置及び出力装置は、ユーザーが保有する一台の携帯端末であってもよい。
【0030】
入力部101は、実験データ集合入力部102と因果関係知見入力部103とを含む。実験データ集合入力部102は、ランダム化実験の単位でグループ化された実験データ(以下「実験データ集合」と呼ぶ。)の入力を受け付ける。因果関係知見入力部103は、ユーザーから製品仕様と製品特性との因果関係に関する知見・情報(因果関係知見)の入力を受け付ける。入力部101において入力された情報は、記録部104に記録される。
【0031】
因果推論部105は、記録部104に記録された実験データ集合のデータを用いて、因果推論を行い、因果効果や関連指標(以下「因果推論結果」という。)を算出する。算出された因果推論結果は、記録部104に記録される。
【0032】
統合部106は、因果関係知見及び因果推論結果のうち、共通の因果関係の原因及び結果を持つものを抽出し、抽出された因果関係知見及び因果推論結果に対し統合処理を行う。
【0033】
表示部107は、統合部106において統合された因果関係知見及び因果推論結果並びに入力部101で入力された生データを複数の可視化方法でユーザーに提示する。
【0034】
以下、実施例について図面を用いて説明する。
【実施例
【0035】
図2は、図1の入力部101で入力される実験データ集合のグループの一部を示したものである。
【0036】
図2において、実験データ集合のグループ201には、実験データ集合202a、202bが含まれる。このうちの一つである実験データ集合202aには、実験データ集合の名称、作成日などを示す実験データ集合のメタデータ203と、テーブルとして表される複数の実験データ204とが含まれている。なお、本図においては、実験データ204の一つとして「材料組成3」の列を破線で囲んで表している。
【0037】
複数の実験データ204は、材料組成、工程条件、構成分子の特徴量等のような製品仕様、製品仕様を特徴づけるような特徴量、材料特性のような製品特性等の列で構成されていてもよい。テーブルの値は、数値、カテゴリを表す文字列等で表される。また、実験データ204には、実験番号のような各行のユニークなキーを値に持つカラム(列)も含まれる。実験データ204の製品仕様、製品特性等は、直交表、最適計画、ラテン超格子法のような実験計画法で構成した実験、あるいは実験計画法で生成した実験を製品設計者が修正したものにより得られる。
【0038】
図3は、図1の入力部101に入力される因果関係知見データの一部を示したものである。
【0039】
図3において、因果関係知見データ301は、複数の因果関係知見302a、302bを含む。因果関係知見302aは、知見のID、作成日、作成者などのメタデータ303と、知見の対象となる製品仕様・特徴量(原因)、製品特性(結果)等の情報304と、グラフ305と、ユーザーの考える因果効果の大きさを表すスコア(-100~100などで規格化した値)、知見の根拠を示す文章及び知見に対する参考文献データ、画像、外部情報へのリンクなどの付加情報を示すメモ306と、知見が成立すると思われる範囲・条件(材料系など)を表す情報307と、を含む。
【0040】
知見に対する理由、メモ306などの情報は、因果関係知見302bにおいては、表示されない空欄308であり、本図に示す例においては任意の項目として追加することができるようになっている。
【0041】
図4は、図1の記録部104で記録されるデータのデータモデル401の一例を示したものである。
【0042】
本図において、データモデル401は、実験データ集合403及び因果知見データ404がエンティティデータ402を参照する構造を有している。ここで、エンティティとは、製品仕様(材料組成、工程条件、材料組成特徴量など)や製品特性(試験項目、実験結果項目など)をいう。
【0043】
エンティティデータ402には、エンティティの名前、エンティティの種類(材料組成、材料特性などのカテゴリ情報や、材料組成の中の更に細かい分類の情報など)、親エンティティの情報、その他の非構造情報を格納するメタデータ等が含まれる。2つのエンティティ同士に親子関係がある場合、子エンティティは親エンティティ下位概念(例えば、親:添加剤、子:硬化剤など、子ならば親である場合)または部分概念(例えば、親:材料A、子:モノマ、添加剤など、子が親の構成要素である場合)である。これらのエンティティデータ402、及びエンティティデータ402とのリレーションは、事前にエンティティ辞書を用意しておく。そして、入力された実験データ集合202a、202b(図2)若しくは因果関係知見302a、302b(図3)をエンティティデータ402と紐付けること、又は未登録のエンティティが実験データ集合202a、202b(図2)若しくは因果関係知見302a、302b(図3)の原因・結果の項目に含まれる場合にエンティティを新しく登録することにより構成する。
【0044】
実験データ407は、図2における実験データ集合202a、202bを構成する実験データ204の表における行に相当するレコードで構成され、実験データ集合403からデータ集合に含まれるものが参照されている。
【0045】
因果推論結果集合405は、実験データ集合403のレコードに対する因果推論結果を格納するものであり、因果推論結果の原因エンティティ、及び結果エンティティへのリレーションを含み、因果推論結果として、因果推論を行った方法、因果効果の値、因果効果の値の分布、推論の精度、推論条件等を記載した非構造データであるメタデータを含む。また、因果推論は、自動又は手動で行われるが、因果推論が手動で行われた場合には、作成者としてその因果推論を行ったユーザーの情報が記録される。自動で因果推論を行う場合には、原因カラムから結果カラムの項目への因果関係を線形回帰に基づく因果推論やより複雑な機械学習ベースの因果推論など複数の手法によって推論し、推定精度が高いものを採用し記録する。必要に応じて、原因・結果カラムに対して分子記述子などを用いた特徴量化などの前処理を行うことが望ましい。さらに、因果推論結果集合405及び因果知見データ404について、それを見たユーザーからの結果に対する評価が整数値として記録される。ユーザーデータ408は、ユーザー名、所属、ログインパスワード、行動履歴等の情報を含む。
【0046】
統合データ406は、レコードとして、共通の原因エンティティ及び結果エンティティを有する複数の因果推論結果及び因果関係知見への参照を有し、それらの複数の因果推論結果及び因果関係知見の因果効果・因果関係スコアを元に統計処理によって統合因果効果スコアを算出したものを格納している。言い換えると、図1の記録部104においては、因果推論結果を保存することが望ましく、統合の結果である統合データ406を因果推論結果として記録し蓄積すること(すなわち、統合の結果を蓄積し、学習すること)が望ましい。
【0047】
図5は、図1の表示部107に表示される統合した因果関係情報の画面の一例を示したものである。
【0048】
図5に示す画面501は、デスクトップアプリケーション、Webブラウザ等に表示されたものである。具体的には、画面501においては、エンティティ検索ユーザーインターフェース502、検索結果503、因果関係表506等が表示されている。因果関係表506は、二元表の形式とすることが望ましい。
【0049】
因果関係の表示にあたっては、まず、エンティティ検索ユーザーインターフェース502にて、因果関係を確認したい製品仕様、特徴量、製品特性名等をユーザーが入力し、検索を実行する。そして、検索に最も近い結果を検索結果503に表示する。
【0050】
検索の近さとしては、入力文字列、検索対象のエンティティ名等をword2vecやキャラクターベースLSTM等でベクトル化したときの類似度や、Levenshtein距離のような編集距離等を用いる。「列に追加」のボタン504又は「行に追加」のボタン505をクリックすることで、検索結果503に示された製品仕様、特徴量、製品特性の名称等を因果関係表506の列507又は行508に追加することができる。
【0051】
因果関係表506においては、列507に因果関係の原因に相当するエンティティ名を、行508に結果に相当するエンティティ名を対応させる。これにより、各セル510において、列507の「原因」から行508の「結果」へと対応する因果関係の情報を表示する。セル510の内部には、統合した因果関係509がグラフとして図示されている。因果関係509のグラフには、統合データ406(図4)に含まれる統合因果関係スコアが用いられている。グラフの傾きは、統合因果関係スコアが正の場合には右肩上がりに、負の場合には右肩下がりになる。
【0052】
因果関係の内訳表示511には、正の因果効果、負の因果効果、因果関係が無いと判断された因果推論結果集合405及び因果知見データ404(図4)の件数等が表示可能である。また、内訳表示511の矢印をクリックすることで、因果関係知見を簡易的に登録し、因果知見データ404(図4)のレコードを増やすことができる。ここで因果関係知見を登録した場合、登録された因果関係に対応する部分が内訳表示511の中で強調して表示される。
【0053】
因果関係表506のセル510は、クリック等の操作によって選択することができる。選択した因果関係の詳細表示のボタン512をクリックすることで、選択したセル510に対応する因果関係情報の詳細情報を見る画面への遷移できる。
【0054】
なお、本設計支援システムにおいては、ユーザー管理がなされている。このため、画面501には、利用中のユーザー名513が表示されるようになっている。ユーザーは、知見登録ボタン514をクリックすることで、知見登録画面に遷移できる。また、最適化実行ボタン515をクリックすることで、目的の製品特性を実現するためにどのような製品仕様が最適であるかを確認する画面に遷移できる。
【0055】
図6は、図5のボタン512をクリックした際に表示される因果関係の詳細確認画面の例を示したものである。
【0056】
図6に示す詳細確認画面601には、因果推論結果リスト602と、因果知見リスト608と、が含まれる。詳細確認画面601においては、図5において選択したセル510の原因及び結果に対応する因果関係の統合結果の根拠となった因果推論結果集合405のデータ及び因果知見データ404(図4)を閲覧できる。因果推論結果集合405のデータ及び因果知見データ404は、複数表示されるようにしてもよい。
【0057】
因果推論結果集合405のデータのそれぞれの枠603には、因果推論結果の基となった実験データ集合の名称、その実験データを表示する実験データ表示ボタン604、推論結果の精度・詳細などを表示するための分析詳細情報表示ボタン605等が設けられている。
【0058】
実験データ表示ボタン604又は分析詳細情報表示ボタン605をクリックすると、モーダルウインドウやファイルのダウンロード等の方式で該当する情報が表示される。因果推論結果は、グラフ606として曲線で表される因果効果及び破線で表される信頼区間や、ボックスプロット607のような形式で可視化される。グラフ606以外にCATEの値等があれば表示される。
【0059】
因果知見リスト608では、選択したセル510(図5)に対応する原因及び結果に対応する因果知見データ404(図4)が複数表示される。因果知見リスト608のうちの一つの枠609には、因果知見データ404にある因果関係スコアをグラフの傾きとして可視化した情報610、登録者、知見の理由/原理、画像データや文書データ等を表すアイコンを含むメモ欄611等が表示される。これらは、因果知見データ404に含まれる情報である。枠612に示すように、理由/原理等が未登録の場合は、それらは表示されない。
【0060】
まとめると、出力装置は、詳細確認画面601において、統合の結果とともに、統合の結果の根拠として用いた因果推論結果、及び因果関係に関する知見を表示する。
【0061】
図7は、図5のボタン512をクリックした際に表示される因果関係の詳細確認画面の他の例を示したものである。
【0062】
図7に示す詳細確認画面701には、因果推論結果702が1件表示されている。因果推論結果702は、実験データ数が多いデータ集合を元にしたもの、すなわち大規模データを対象とした場合の一例である。
【0063】
実験データ数が多い場合、可視化方法として、製品特性を予測する機械学習モデルをアンサンブル学習(ランダムフォレスト、勾配ブースティングなど)などにより作成した上で、LIME (Local Interpretable Model-agnostic Explanations)やSHAPなどの説明モデルを用いることにより、各説明変数の寄与を計算できる。このため、データが少ない場合とは異なる可視化方法を採用することができる。
【0064】
因果推論結果702における因果関係の可視化部703は、SHAP値を用いて変数の寄与を可視化した上で、機械学習ベースの因果推論方法(S, T, X-Learnerなどを用いた方法など)によって計算したCATEを表示した例を示したものである。因果推論結果リスト602と因果推論結果702との間の表示方法の切り替えは、因果推論結果集合405の情報を元にルールベースで行う。
【0065】
図8は、図5の知見登録ボタン514をクリックした場合、あるいは図5の因果関係の内訳表示511の知見数表示部をクリックした場合に表示される因果関係知見の登録画面を示したものである。
【0066】
図5の知見登録ボタン514をクリックした場合、図8に示す因果関係知見の登録画面801においては、図5の画面501において選択したセル510に対応する原因及び結果に対応する因果知見データ404を登録できる。
【0067】
登録画面801には、因果関係スコアについてスライダや数値による入力及び可視化をすることが可能な因果関係スコア入力部802が含まれる。ここで、因果関係スコアは、ユーザーが、必要に応じて、因果関係の大きさをユーザーの主観や経験に基づく評価あるいは文献情報等の客観的評価に基づき、特定の数値の範囲内で評価して入力するものである。なお、ユーザーの主観や経験に基づく評価は、因果推論結果や文献情報に比べ確証がなく信頼性が低いが、実験データ・文献情報の取得に比べ入力コストが低い。このため、ユーザーの主観や経験に基づく評価の入力により、信頼性は低いが、多数、より広範囲の条件に対する因果知見を収集することができる。
【0068】
因果関係の成立する条件の入力部803においては、どのような製品仕様において因果関係が成立するのかについて、製品仕様に対する制約や代表製品仕様をテキストや数値で指定することで定義する。因果関係の理由・原理の入力部804においては、該当する因果関係が成立する要因や理由について、リッチテキスト、添付ファイル、外部の情報への参照等によって入力する。因果関係の参考資料の入力部805においては、その他の参考情報の入力について、リッチテキスト、添付ファイル、外部の情報への参照等によって受け付ける。登録ボタン806をクリックすることにより、入力内容が因果知見データ404に反映される。
【0069】
図5の因果関係の内訳表示511の知見数表示部をクリックした場合、図8の因果関係スコア入力部802においては、図5の因果関係の内訳表示511においてクリックされた、正の因果効果あり、因果効果なし、又は負の因果効果ありのいずれかの選択肢に基づいて、初期値が表示される。
【0070】
まとめると、出力装置は、登録画面801において、統合の結果とともに、統合の結果に関する追加の知見を入力可能な構成を有する。
【0071】
図9は、図5の最適化実行ボタン515をクリックした場合に表示される最適化画面を示したものである。
【0072】
図9において、最適化画面901は、目標入力部902と最適化結果905の表示部とから成る。目標入力部902においては、図5の因果関係表506の行508において指定されている製品仕様のそれぞれに対して、それらを最大化したいのか、最小化したいのか、最適化対象でないかなどの最適化目標を選択肢903から入力する。実行ボタン904をクリックすると、最適化結果905が表示される。
【0073】
ここで、最適化結果905は、因果関係の知見及び推論結果の統合データ406(図4)を元に、最も最適化目標に適合する因果関係表506の列507(図5)の製品仕様・特徴量項目の組み合わせを遺伝的アルゴリズムやシンプレクス法などの最適化手法により算出したものである。最適化結果905には、因果関係表506の列507(図5)の製品仕様・特徴量項目の名前、最適化の結果(当該製品仕様値を大きくすべきか又は小さくすべきか、ある値に近づけるべきか等)等を数値又は文字列によって表示する。
【0074】
まとめると、出力装置は、最適化画面901において、目標入力部及び最適化結果を表示する。
【0075】
以下、上記の実施形態及び実施例による効果をまとめて説明する。
【0076】
上記の実施形態等によれば、システムのユーザーは、製品設計指針を立案する際に、各製品仕様と製品特性がどのような二項間関係を有するかを知見及び因果推論結果に基づいて提示されることで、適切な設計方針の意思決定ができる。
【0077】
また、ランダム化された単位でグループ化した実験データを蓄積するため、統計的な因果推論が可能である。このため、システムに因果推論結果を蓄積することができるため、意思決定の根拠として信頼性が高い情報を提示できる。
【0078】
二項間関係に整理したうえで、知見及び因果推論結果を複数蓄積することで、メタアナリシスを容易にすることができる。個々の知見、分析結果の信頼性が低い場合でも、これらの情報を統合することで、より信頼性の高い情報を提供できる。
【0079】
さらに、実験データから得られる因果関係が網羅できる範囲は限られているが、知見を同時に蓄積することで、データが無い範囲の情報を補うことができる。
【符号の説明】
【0080】
101:入力部、102:実験データ集合入力部、103:因果関係知見入力部、104:記録部、105:因果推論部、106:統合部、107:表示部、201:実験データ集合のグループ、202a、202b:実験データ集合、203、303:メタデータ、204:実験データ、301:因果関係知見データ、302a、302b:因果関係知見、304、307:情報、305:グラフ、306:メモ、308:空欄、401:データモデル、402:エンティティデータ、403:実験データ集合、404:因果知見データ、405:因果推論結果集合、406:統合データ、407:実験データ、408:ユーザーデータ、501:画面、502:エンティティ検索ユーザーインターフェース、503:検索結果、505、512:ボタン、506:因果関係表、507:列、508:行、509:因果関係、510:セル、511:内訳表示。
図1
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図9