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特許7413867固体酸化物形燃料電池部材用被覆鋼材、並びに、固体酸化物形燃料電池部材およびその製造方法
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  • 特許-固体酸化物形燃料電池部材用被覆鋼材、並びに、固体酸化物形燃料電池部材およびその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】固体酸化物形燃料電池部材用被覆鋼材、並びに、固体酸化物形燃料電池部材およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/021 20160101AFI20240109BHJP
   H01M 8/0228 20160101ALI20240109BHJP
   H01M 8/12 20160101ALI20240109BHJP
   C22C 38/00 20060101ALI20240109BHJP
   C22C 38/50 20060101ALI20240109BHJP
   C22C 38/54 20060101ALN20240109BHJP
【FI】
H01M8/021
H01M8/0228
H01M8/12 101
C22C38/00 302Z
C22C38/50
C22C38/54
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020049870
(22)【出願日】2020-03-19
(65)【公開番号】P2021150207
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2022-12-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(72)【発明者】
【氏名】桃野 将伍
(72)【発明者】
【氏名】山村 和広
(72)【発明者】
【氏名】上原 利弘
【審査官】山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2012/144600(WO,A1)
【文献】特表2008-522363(JP,A)
【文献】特表2013-527309(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00- 8/0297
H01M 8/08- 8/2495
C22C 38/00-38/60
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属基材の表層に金属被膜を有する、固体酸化物形燃料電池部材用被覆鋼材であって、前記金属基材は、質量%でC:0%超0.1%以下、Al:0.2%以下、Si:0.2%以下、Mn:0.1%以上1.0%以下、Cr:20.0%以上26.0%以下、Ni:0.1%以上1.0%以下、Cu:0.3%以上%4.0%以下、W:1.0%以上、3.0%以下、La:0.02%以上0.12%以下、Zr:0.01%以上0.5%以下、La+Zr:0.03%以上0.52%以下、残部Fe及び不可避的不純物からなり、 前記金属被膜は、厚さ0.5μm以上5.0μm以下のCo層を備えることを特徴とする、固体酸化物形燃料電池部材用被覆鋼材。
【請求項2】
前記MnおよびCuが、質量%でMn:0.1%以上0.5%以下、Cu:0.3%以上2.0%以下であることを特徴とする請求項1に記載の固体酸化物形燃料電池部材用被覆鋼材。
【請求項3】
前記金属基材は、厚さ1.5mm以下の板形状であることを特徴とする、請求項1または2に記載の固体酸化物形燃料電池部材用被覆鋼材
【請求項4】
請求項1~3に記載の固体酸化物形燃料電池部材用被覆鋼材を固体酸化物形燃料電池に適用し、
前記固体酸化物形燃料電池の動作環境下において、前記固体酸化物形燃料電池部材用被覆鋼材に形成されている金属被膜を酸化物被膜に変化させて固体酸化物形燃料電池用部材とし、
前記酸化物被膜は、クロミア系酸化物層であるA層と、
前記A層の直上に形成され、Co、MnおよびCuを含むスピネル型酸化物層であるB層と、から構成される、固体酸化物形燃料電池部材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体酸化物形燃料電池部材用被覆鋼材、並びに、固体酸化物形燃料電池部材およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
固体酸化物形燃料電池は、その発電効率が高いこと、SOx、NOx、COの発生量が少ないこと、負荷の変動に対する応答性が良いこと、コンパクトであること等の優れた特徴を有するため、火力発電の代替としての大規模集中型、都市近郊分散配置型、及び自家発電用等の幅広い発電システムへの適用が期待されている。近年では700~900℃程度の中高温で作動する固体酸化物形燃料電池も開発されており、その中でセパレータ、インターコネクタ、集電体等の固体酸化物形燃料電池用の部品には中高温での耐酸化性、電気伝導性、電解質や電極に近い熱膨張係数、低コスト、加工容易性等の特性が要求されている。このことから、材質としてはフェライト系ステンレス鋼、例えばFe-Cr系合金からなる金属基材が好適に用いられている。本願出願人も特開2007-16297号公報(特許文献1)、国際公開公報第2012/144600(特許文献2)等として、耐酸化性に優れるフェライト系ステンレス鋼を提案している。
【0003】
Fe-Cr系合金をセパレータ、インターコネクタ、集電体等に使用した場合、固体酸化物形燃料電池の作動に伴い、高温酸化雰囲気下におかれることで、金属表面で酸化が進行してCrを主体とする酸化被膜が生成し、これが保護被膜として作用することで耐酸化性を確保している。しかし、一方で、Crを主体とする酸化被膜からCr又はCr化合物(以下、Crと略記する。)が揮発して電極に再析出し電極特性を徐々に低下させる、いわゆるCr被毒の問題がある。
この問題を解決するために、セパレータ、インターコネクタ、集電体には金属基材の表面に耐酸化性と導電性を兼ね備えた被膜が設けられたものが用いられている。
【0004】
例えば、特許文献3には、Ni-Co合金が表面に被覆されているセパレータを構成要素に含む、固体酸化物形燃料電池が開示されている。Ni-Co合金を所定の割合でコーティングしたものに一定時間表面処理(酸化処理)を行うと、導電性に優れるスピネル型構造の酸化物(NiCr)が表面に生成される。また、Ni-Co合金の被覆により、酸化クロム(Cr)の酸化物被膜がコーティング内部にできる二重酸化物層となり、クロムの蒸発をニッケルコバルトのコーティング層によって防ぐことができると記載されている。
【0005】
また、特許文献4には、ステンレス鋼を主成分とする基材に酸化Coを主成分とする被膜を形成してなる燃料電池用インターコネクタの製造方法が開示されている。基材に対してCoメッキを行った後、そのCoメッキ層を酸化雰囲気下で酸化する酸化工程を行って、前記金属Coのメッキ層を酸化Coの被膜に変換するという手順で基材の表面に酸化Co被膜を設けた場合、Cr蒸発を抑制できると記載されている。一方で、金属Coの基材へ拡散する反応が優先的に起きた場合には、基材の耐酸化性が低下するため、Coメッキ前に基材の表面粗さ(Ra)を1.2μm以下とする研磨工程を行うことで、基材の耐酸化性を低下させにくくしている。特許文献7に記載されている酸化Coは一般にスピネル型構造を持つことが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2007-16297号公報
【文献】国際公開公報第2012/144600号
【文献】特開2012-119126号公報
【文献】特開2011-192546号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
以上のように、Fe-Cr系合金からなる金属基材の表面に、金属CoまたはNi-Co合金をコーティングし、意図的に予備酸化処理を行うことによって表面を酸化させることでスピネル系の酸化Co被膜またはNi-Co酸化被膜を形成して、セパレータ、インターコネクタ、集電体として使用することは知られている。
【0008】
特許文献3に記載されているNi-Co合金のように、オーステナイト安定化元素であるNiやMn等を含む金属被膜を金属基材にコーティングした場合、NiやMn等が金属基材側に拡散すると、金属基材表面のフェライト組織を不安定化させるとともに、オーステナイト組織が安定化する。金属基材表面にオーステナイトが形成されると熱膨張係数が大きく増加するため、金属基材と被膜の層間剥離が生じたり、セルを構成する電極や電解質との熱膨張差が大きくなりセルの破損を引き起こしたりするリスクがある。また、Ni-Co酸化被膜を形成させるために一定時間表面処理(酸化処理)を行う必要がある。
【0009】
特許文献4で開示されている技術はインターコネクタの金属基材の耐酸化性の向上と、クロム成分の揮散に代表されるインターコネクタに接続される部材に対する悪影響の防止を両立させるためのインターコネクタの製造方法であり、Coメッキ層中のCoが金属基材に拡散しないよう、金属基材の表面粗さを小さくし、かつ予備酸化処理を行い、表面に酸化Co膜を形成させるものである。すなわち、酸化Co膜は純粋なCo酸化物からなり、金属基材へのCoの拡散も、Coメッキ層への金属基材からの合金元素の拡散もさせないことに特徴がある。しかし、酸化Co膜は酸化膜の緻密性が十分とは言えず、酸化膜剥離の可能性があり、十分なCr被毒抑制の効果が得られない可能性がある。また、酸化Co被膜を形成させるために予備酸化処理を行う必要がある。
【0010】
以上より本発明の目的は、優れた耐酸化性を有し、Cr被毒を抑制した固体酸化物形燃料電池部材を提供することにある。また、本発明の目的は、固体酸化物形燃料電池部材及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は、上記目的のため、Co被膜を施す金属基材の組成を検討した。その結果、MnおよびCuを適量含有する耐酸化性に優れたFe-Cr系フェライト合金からなる金属基材において、固体酸化物形燃料電池の製造時および/または作動時の高温保持時に、金属基材からCo被膜へMnおよびCuが拡散することでMnおよびCuを含む(Co、Mn、Cu)のスピネル型酸化物層が形成しCr蒸発を抑制すること、また、金属基材と(Co、Mn、Cu)のスピネル型酸化物層の境界には、クロミア系酸化物層が形成され、スピネル型酸化物層及びクロミア系酸化物層から構成される二層の酸化物層によって耐酸化性が向上すること、及び長時間酸化後においても金属基材はフェライト組織を維持することを見出し、本発明に到達した。
【0012】
即ち本発明の一態様は、金属基材の表層に金属被膜を有する、固体酸化物形燃料電池部材用被覆鋼材であって、前記金属基材は、質量%でC:0%超0.1%以下、Al:0.2%以下、Si:0.2%以下、Mn:0.1%以上1.0%以下、Cr:20.0%以上26.0%以下、Ni:0.1%以上1.0%以下、Cu:0.3%以上%4.0%以下、W:1.0%以上3.0%以下、La:0.02%以上0.12%以下、Zr:0.01%以上0.5%以下、La+Zr:0.03%以上0.52%以下、残部Fe及び不可避的不純物からなり、前記金属被膜は、厚さ0.5μm以上5.0μm以下のCo層を備えることを特徴とする、固体酸化物形燃料電池部材用被覆鋼材である。
好ましくは、前記金属基材は、前記MnおよびCuが、Mn:0.1%以上0.5%以下、Cu:0.3%以上2.0%以下である。
好ましくは、前記金属基材は、厚さ1.5mm以下の板形状である。
【0013】
また、本発明の他の一態様は、上記の固体酸化物形燃料電池部材用被覆鋼材を用いた、固体酸化物形燃料電池部材であって、この固体酸化物形燃料電池部材は、前記金属基材の表層に酸化物被膜を有し、前記酸化物被膜は、クロミア系酸化物層であるA層と、前記A層の直上に形成され、Co、MnおよびCuを含むスピネル型酸化物層であるB層と、から構成されることを特徴とする、固体酸化物形燃料電池用部材である。
【0014】
また、本発明の他の一態様は、上記の固体酸化物形燃料電池部材用被覆鋼材を固体酸化物形燃料電池に適用し、この固体酸化物形燃料電池の動作環境下において、上記の固体酸化物形燃料電池部材用被覆鋼材に形成されている金属被膜を酸化物被膜に変化させて固体酸化物形燃料電池用部材とし、上記の酸化物被膜は、クロミア系酸化物層であるA層と、このA層の直上に形成され、Co、MnおよびCuを含むスピネル型酸化物層であるB層と、から構成される、固体酸化物形燃料電池部材の製造方法である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、特殊な予備酸化処理を行う必要がなく、長時間に渡り集電特性に優れ、Cr被毒を抑制した信頼性の高い固体酸化物形燃料電池部材と、その製造方法とを得ることができる。そして、これらのことに好適な固体酸化物形燃料電池部材用被覆鋼材を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】固体酸化物形燃料電池用被覆鋼材の未使用時における断面顕微鏡写真である。
図2】固体酸化物形燃料電池用被覆鋼材の850℃で4000時間加熱した後の断面顕微鏡写真である。
図3】(a)固体酸化物形燃料電池用被覆鋼材の未使用時における、金属被膜領域から得られた[001]入射の電子回折像である。(b)稠密六方構造の[001]入射の電子回折シミュレーション像である。
図4】(a)固体酸化物形燃料電池用被覆鋼材の850℃で4000時間加熱した後の、金属基材領域から得られた[111]入射の電子回折像である。(b)フェライトの[111]入射の電子回折シミュレーション像である。
図5】(a)固体酸化物形燃料電池用被覆鋼材の850℃で4000時間加熱した後の、2層の酸化物層の内、上側に位置する酸化物層領域から得られた[110]入射の電子回折像である。(b)スピネル型構造の[110]入射の電子回折シミュレーション像である。
図6】(a)固体酸化物形燃料電池用被覆鋼材の850℃で4000時間加熱した後の、断面の反射電子像である。(b)電子線マイクロアナライザーによるCoの面分析結果である。(c)電子線マイクロアナライザーによるMnの面分析結果である。(d)電子線マイクロアナライザーによるCuの面分析結果である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の固体酸化物形燃料電池部材用被覆鋼材における金属基材について説明する。金属基材は、質量%でC:0%超0.1%以下、Al:0.2%以下、Si:0.2%以下、Mn:0.1%以上1.0%以下、Cr:20.0%以上26.0%以下、Ni:0.1%以上1.0%以下、Cu:0.3%以上%4.0%以下、W:1.0%以上3.0%以下、La:0.02以上0.12%以下、Zr:0.01以上0.5%以下、La+Zr:0.03%以上0.5%以下、残部Fe及び不可避的不純物からなる金属材料を用いる。
この組成のFe-Cr系合金は、フェライト系合金であり、金属基材表面にCo被膜を有する時、固体酸化物形燃料電池の作動温度において、Mn及びCuの金属被膜への拡散により、(Co、Mn、Cu)スピネル型酸化物層を形成してCrの蒸発を抑制するとともに、耐酸化性を向上させ、燃料電池の性能の低下を抑制することができる。
各元素の含有量を規定した理由は以下の通りである。なお、各元素の含有量は質量%として記す。
【0018】
<C:0%超0.1%以下>
Cは、Crと結びつくことにより母材のCr量を減少させ、耐酸化性を低下させる元素である。そのため、耐酸化性を向上させるためには、Cをできる限り低くすることが有効であり、本発明では0.1%以下の範囲に限定する。Cの好ましい上限は0.04%である。
但し、Zrを含む本発明の固体酸化物形燃料電池部材用被覆鋼材の場合、CがZr炭化物(Nも存在する場合はZr炭窒化物)を形成するところ、Cが低すぎると、Zr炭化物を形成しないZrがフェライト基地中に固溶してもなお余剰のZrが残存する場合がある。余剰のZrはFeと反応してLaves相等の金属間化合物を形成して析出し耐酸化性を低下させる。そのため、Cは0%を超える必要がある。Cの好ましい下限は0.001%である。
【0019】
<Al:0.2%以下>
Alは、固体酸化物形燃料電池の作動温度において、クロミア系酸化物近傍の金属組織中にAlを粒子状、及び針状に形成する。なお、クロミア系酸化物とは、クロミアを主体とする酸化物のことである。これにより、Crの外方拡散を不均一にして安定なクロミア系酸化物層の形成を妨げることで、耐酸化性を劣化させる。このため、本発明では0.2%以下(0%を含む)の範囲に限定する。
【0020】
<Si:0.2%以下>
Siは、固体酸化物形燃料電池の作動温度において、クロミア系酸化物層と母材の界面付近にSiO膜を形成する。SiOの電気比抵抗がクロミア系酸化物層よりも高いことから、電気伝導性を低下させる。また、上述のAlの形成と同様に、安定なクロミア系酸化物層の形成を妨げることで、耐酸化性を劣化させる。このため、本発明では0.2%以下(0%を含む)の範囲に限定する。
【0021】
<Mn:0.1%以上1.0%以下>
Mnは、金属基材が表面にCo被膜を有する時、700℃~900℃程度の作動温度において、Cuとともに金属基材からCo被膜中に拡散してスピネル型酸化物を形成する元素である。Co、Mnを含むスピネル型酸化物層は、クロミア系酸化物層の外側(表面側)に形成される。このスピネル型酸化物層は、固体酸化物形燃料電池の電解質・電極等のセラミックス部品に蒸着して燃料電池の性能を劣化させる複合酸化物を形成するCrが、固体酸化物形燃料電池用鋼から蒸発するのを防ぐ保護効果を有する。このため、最低限0.1%を必要とする。
一方、過度に添加すると、スピネル型酸化物層中のMn含有量が多くなり、酸化被膜が厚くなり、耐酸化性および導電性が悪くなる恐れがある。従って、Mnは1.0%を上限とする。好ましいMnの上限は0.5%である。
【0022】
<Cr:20.0%以上26.0%以下>
Crは、金属基材のフェライト組織を維持するため、および固体酸化物形燃料電池の作動温度において、緻密なクロミア系酸化物層の生成により、優れた耐酸化性を実現するために必要な元素である。良好な耐酸化性及び電気伝導性を得るため最低限20.0%を必要とする。好ましいCrの下限は22.0%であり、さらに好ましいCrの下限は23.0%である。
しかしながら、過度の添加は耐酸化性向上にさほど効果がないばかりか加工性の劣化を招くので上限を26.0%に限定する。好ましいCrの上限は25.0%である。
【0023】
<Ni:0.1%以上1.0%以下>
Niは、少量添加することで靭性の向上に効果がある。また、Cuを含む鋼の熱間加工性を改善する効果があるため、最低限0.1%を必要とする。一方、Niはオーステナイト生成元素であり、過度に含有した場合、フェライト―オーステナイトの二相組織となり易く、熱膨張係数を増加させる。また、本発明のようなフェライト系ステンレス鋼を製造する際に、例えば、リサイクル材の溶解原料を用いたりすると、不可避的に混入する場合もある。Niの含有量が多くなりすぎると、セラミックス系の部品との熱膨張差により接合性が低下したりセラミックス部品が破損したりすることが懸念されるため、多量の添加または混入は好ましくない。そのため本発明においては、Niの上限を1.0%とする。
【0024】
<Cu:0.3%以上%4.0%以下>
Cuは、金属基材が表面にCo被膜を有する時、700℃~900℃程度の作動温度において、金属基材からCo被膜中に拡散し、クロミア系酸化物層上に形成されるCo、Mnを含むスピネル型酸化物を緻密化する。このスピネル型酸化物により、クロミア系酸化物層からのCrの蒸発を抑制する効果がある。そのため、最低限0.3%を必要とする。一方、Cuを過度に添加すると母相中にCu相が析出して、Cu相の存在場所で緻密なクロミア系酸化物層が形成されにくくなり、耐酸化性が低下したり、熱間加工性が低下したり、フェライト組織が不安定になる可能性があるので、Cuの上限を4.0%とした。好ましいCuの上限は2.0%以下である。
【0025】
<La:0.02%以上0.12%以下>
Laは、少量添加により、主としてCrを含む酸化被膜を緻密化させ、密着性を向上させることによって、良好な耐酸化性を発揮させており、添加が不可欠である。Laは0.02%より添加が少ないと酸化被膜の緻密性、密着性を向上させる効果が少なく、一方0.12%より多く添加するとLaを含む酸化物等の介在物が増加し熱間加工性が劣化する恐れがあるため、Laは0.02%以上0.12%以下とする。
【0026】
<Zr:0.01%以上0.5%以下>
Zrもまた、少量添加により酸化被膜を緻密化させ、酸化被膜の密着性を向上させることで、耐酸化性、及び酸化被膜の電気伝導度を大幅に改善する効果を有する。Zrは0.01%より少ないと酸化被膜の緻密性、密着性を向上させる効果が少なく、一方、0.5%より多く添加するとZrを含む粗大な化合物が多く形成され、熱間加工性及び冷間加工性が劣化する恐れがある。また、Feと反応してLaves相等の金属間化合物を形成して析出し耐酸化性を低下させることから、Zrは0.01%以上0.5%以下とする。
【0027】
<La+Zr:0.03%以上0.52%以下>
本発明では、前述のLa及びZrについて、いずれも優れた高温での耐酸化性を向上させる効果を有することから複合添加が好ましいが、その場合、LaとZrの合計が0.03%より少ないと耐酸化性向上への効果が少なく、一方、0.52%を超えて添加するとLaやZrを含む化合物が多く生成することによって熱間加工性や冷間加工性の低下が心配されることから、LaとZrは合計で0.03%以上0.52%以下とする。
【0028】
<W:1.0%以上3.0%以下>
一般に、固溶強化等に対してWと同じ作用効果を発揮する元素としてMoが知られている。しかし、WはMoと比較して、固体酸化物形燃料電池の作動温度で酸化したとき、Fe-Cr系フェライト合金の金属基材中のCrの外方拡散を適度に抑制する効果があり、緻密なクロミア系酸化物層の過度な成長を抑制して、安定した保護作用を長時間維持するのに有効である。そのため、本発明では、Wを単独で必須添加する。
W添加により、Fe-Cr系フェライト合金の金属基材中のCrの外方拡散を適度に抑制することで、クロミア系酸化物層形成後の合金内部のCr量の減少を抑制することができる。これにより、緻密なクロミア系酸化物層が長時間維持されるので、合金の異常酸化を防止して、優れた耐酸化性を長時間維持することができる。この効果を発揮するためには最低限1.0%を必要とする。しかし、Wを3.0%を超えて添加すると熱間加工性が劣化するため、Wは3.0を上限とする。
【0029】
本発明では、上述した元素以外は、Fe及び不可避的不純物とする。以下、代表的な不純物とその好ましい上限を以下に記しておく。なお、不純物元素であるため、各元素の好ましい下限は0%である。
<Mo:0.2%以下>
Moは、耐酸化性を低下させることから積極的な添加は行わないが、0.2%以下の含有は酸化特性に大きく影響しないので0.2%以下に制限する。
<S:0.015%以下>
Sは、希土類元素と硫化物系介在物を形成して、耐酸化性に効果をもつ有効な希土類元素量を低下させ、耐酸化性を低下させるだけでなく、熱間加工性、表面肌を劣化させるため、0.015%以下にすると良い。好ましくは、0.008%以下が良い。
<P:0.04%以下>
Pは酸化被膜を形成するCrよりも酸化しやすい元素であり、耐酸化性を劣化させるため、0.04%以下に制限すると良い。好ましくは、0.03%以下が良く、更に好ましくは、0.02%以下、更には0.01%以下が良い。
<B:0.003%以下>
Bは、約700℃以上の高温で酸化被膜の成長速度を大きくし、耐酸化性を劣化させる。また、酸化被膜の表面粗さを大きくして酸化被膜と電極との接触面積を小さくすることによって接触抵抗を劣化させる。そのため、Bは0.003%以下に制限すると良く、できるだけ0%まで低減させる方が良い。好ましい上限は0.002%以下が良く、更に好ましくは0.001%未満が良い。
<H:0.0003%以下>
Hは、Fe-Cr系フェライト母相中に過剰に存在すると、粒界等の欠陥部へ集まり易く、水素脆化を起こすことで製造中に割れを発生させる場合があることから、0.0003%以下に制限すると良い。更に好ましくは0.0002%以下が良い。
【0030】
次に、本発明の固体酸化物形燃料電池部材用被覆鋼材における、金属基材の表層に形成される金属被膜について説明する。
本発明の金属被膜はCo層を備え、Co層はCoとその他不可避的不純物から成る。この金属被膜を有する本発明の固体酸化物形燃料電池用被覆鋼材は700℃~900℃程度の作動温度にて、Co、MnおよびCuを含むスピネル型酸化物層を形成し、燃料電池部材の耐Cr被毒および耐酸化性に貢献する。
不可避的不純物のうち、オーステナイト安定化元素であるNiは、金属基材側に拡散すると、金属基材内の表面近傍にオーステナイト相が形成され、熱膨張係数が増加し、金属基材と酸化物被膜の層間剥離が生じることから有害な元素である。そのため、Niは0.2%以下が好ましく、0.1%以下がさらに好ましい。また、Mnもオーステナイト安定化元素であるが、Niより影響力が小さく、少量の含有は許容でき、Co、Mnを含むスピネル型酸化物の形成にも有効であるものの、金属基材中にMnを含む場合、Co被膜中にMnを含有する必要はなく、Mnを含まないCo膜の方が製造性も良好であることから、Mnは0.5%以下が好ましく、さらに好ましくは0.1%以下がよい。
【0031】
金属被膜の形成方法は、金属基材への密着性に優れた緻密な被膜を形成する任意の方法を選択することができる。好ましい被膜形成方法としては、比較的簡易に薄い被膜を形成することができるため、電気メッキ、無電解メッキが挙げられる。
【0032】
固体酸化物形燃料電池用被覆鋼材として未使用である状態において、金属被膜の厚さは0.5~5.0μmであることが好ましい。0.5μm未満であると、スピネル型酸化物被膜が薄くなり、Cr蒸発を抑制する効果が不十分になる。そのため、下限を0.5μmとする。好ましい金属被膜の厚さの下限は1.0μmであり、より好ましい金属被膜の厚さの下限は1.5μmである。一方、5.0μm超えると、酸化物被膜が厚くなり、導電性が低下するだけでなく、固体酸化物形燃料電池の繰り返し作動における熱サイクルにより、酸化物層の剥がれが生じる恐れがある。そのため、上限を5.0μmとする。より好ましい金属被膜の厚みの上限は、4.5μmである。
【0033】
結晶粒界は結晶粒内に比べて原子の拡散速度が速いため、固体酸化物形燃料電池の作動温度において、金属基材におけるMn及びCuの金属被膜への拡散を促進する。そのため、固体酸化物形燃料電池用被覆鋼材として未使用である状態において、金属被膜の結晶粒は金属基材表面に対して垂直に近い方位に結晶粒界を有している方が好ましい。この時、「金属基材表面に対して垂直に近い方位に結晶粒界を有している」とは、図1に示すように被覆鋼材における金属基材と金属被膜の境界を電子顕微鏡で拡大して観察した際に、金属被膜に観察される結晶粒界が、金属基材と金属被膜の境界面の垂直方位に対して、0°~45°となることを意味する。
【0034】
金属被膜形成後から、固体酸化物形燃料電池用被覆鋼材として未使用である状態において、Co金属被膜は常温で稠密六方晶の結晶構造を有しており、その(001)面の格子定数は約0.25nmであることが知られている。一方、金属基材である体心立方構造をもつFe-Cr系フェライト合金の(110)面の最近接原子間距離は約0.25nmであり、Coの格子定数と非常に近いことから良好な方位関係をもって膜形成が可能である。これは膜の密着性や結晶方位制御にも有利である。Co膜中に不純物元素や合金元素が多く含まれると格子定数が変化するため、金属基材との密着性が変化することが懸念されることから、Co膜は稠密六方晶の結晶構造を有していることが好ましい。
【0035】
次に、本発明の固体酸化物形燃料電池部材用被覆鋼材の金属基材における、板厚の範囲を規定した理由を述べる。
本発明の金属基材は圧延によって供せられ、その板厚は1.5mm以下にすることが良い。一般に高温環境下で使用される合金の耐酸化性は板厚が薄くなるにつれて低下し、また合金素材の性質をより顕著に反映することが知られている。本発明は上述した合金組成を達成することで特に薄板における耐酸化性を向上させることができる。そのため、本発明の固体酸化物形燃料電池用被覆鋼材の板厚の好ましい上限を1.5mmとした。なお、板厚が1.5mm超であった場合においても本発明の合金組成を達成することで固体酸化物形燃料電池用被覆鋼材の耐酸化性の向上が図られることは言うまでもない。
【0036】
本発明の固体酸化物形燃料電池部材用被覆鋼材を用いることで、固体酸化物形燃料電池の作動温度である700℃~900℃(動作環境下)において、金属基材のMn及びCuがCo被膜側に拡散し、Co、Mn及びCuを有するスピネル型酸化物層が形成する。また、金属基材とスピネル型酸化物層の境界には、クロミア系酸化物層が形成される。この二層の酸化物被膜の構造により、優れた耐酸化性と、Cr被毒の抑制が実現する。言い換えると、本発明の固体酸化物形燃料電池部材用被覆鋼材を用いることで、図2に示すような、金属基材の表層に二層の酸化物被膜を有する、優れた耐酸化性とCr被毒の抑制を実現した固体酸化物形燃料電池部材を得ることができる。この時、前記酸化物被膜はクロミア系酸化物層であるA層と、A層の直上に形成され、Co、MnおよびCuを含むスピネル型酸化物層であるB層と、から構成される。
クロミア系酸化物層であるA層の直上に形成されスピネル型酸化物層であるB層は、Coを主成分とする酸化物層である。Coのみからなるスピネル型酸化物層は、酸化膜の緻密性、安定性が十分ではなく、厚さが約1μm以上になると剥離等が起こることが懸念される。本発明規定のMn、Cuを含むFe-Cr系フェライト合金からなる金属基材からCo金属膜中にMn、Cuが拡散して酸化することで、Co、MnおよびCuを含むスピネル型酸化物層がA層の直上に形成されると、スピネル型酸化物層の密着性、緻密性、安定性が向上し、厚さが増しても剥離しにくくなり、またMn、Cuによりスピネル型酸化物層の導電性も向上する。
【0037】
以上のことによって、金属基材の表層に酸化物被膜を有する、固体酸化物形燃料電池部材であって、上記の金属基材は、質量%でC:0%超0.1%以下、Al:0.2%以下、Si:0.2%以下、Mn:0.1%以上1.0%以下、Cr:20.0%以上26.0%以下、Ni:0.1%以上1.0%以下、Cu:0.3%以上%4.0%以下、W:1.0%以上3.0%以下、La:0.02%以上0.12%以下、Zr:0.01%以上0.5%以下、La+Zr:0.03%以上0.52%以下、残部Fe及び不可避的不純物からなり、上記の酸化物被膜は、クロミア系酸化物層であるA層と、このA層の直上に形成され、Co、MnおよびCuを含むスピネル型酸化物層であるB層と、から構成される、固体酸化物形燃料電池用部材とすることができる。
好ましくは、上記のMnおよびCuが、質量%でMn:0.1%以上0.5%以下、Cu:0.3%以上2.0%以下である。また、好ましくは、上記の金属基材が、厚さ1.5mm以下の板形状である。
【実施例
【0038】
以下の実施例で本発明を更に詳しく説明するが、これら実施例によって本発明が限定されるものではない。
本発明の金属基材を、真空誘導炉または、真空精錬炉を用いて鋼塊を作製した。真空溶解または真空精錬時には、C、Si、Al及び不純物元素を規定内に低く抑えるために、操業条件を制御して溶解を行った。ここで言う操業条件とは、例えば、原料の厳選、炉内真空雰囲気の高真空化、Arバブリング等を単独或いは幾つかを組み合わせた操業条件である。
得られた鋼塊は、質量%で、C:0.02%、Al:0.053%、Si:0.08%、Mn:0.27%、Cr:24.05%、Ni:0.59%、Cu:0.9%、W:2.02%、Zr:0.21%、La:0.06%、残部Fe及び不可避的不純物であり、不可避的不純物のうち、Mo、P、B、HはそれぞれMo≦0.2%、P≦0.04%、B<0.001%、H≦0.0003%の範囲であった。
その後、鋼塊を熱間鍛造、熱間圧延、冷間圧延などの塑性加工によって1mm厚の寸法に加工した後、950℃で数分の焼鈍を行って焼鈍材とした。
【0039】
上記の焼鈍材から10mm(w)×10mm(l)×1mm(t)の板状試験片を切り出し、板状試験片の表面をサンドペーパーを用いて♯1000まで研磨した。その後、板状試験片の表面に、厚さが0.5μm、1.0μm、4.0μmのCo被膜をめっきし、表1に示す被覆鋼材を得た。この時、比較例としてCoメッキを実施しない板状試験片を用意した。
【0040】
【表1】
【0041】
上記板状試験片を用いて、各種試験を行った。
まず、大気中において、板状試験片を850℃で500~5000時間の加熱処理を行った後、酸化前後の重量を測定した。また、850℃で5000時間加熱した試験片について、目視により酸化被膜の剥離の有無を観察した。
次に、表1に示す試験片について、次の試験方法によりCr蒸発の抑制度合いを確認した。試験片にアルミナリングを乗せ、アルミナリングの中に固体酸化物形燃料電池の空気極に好適に用いられるLa-xSrxMnO(以下、LSMと呼ぶ)粉末を入れた状態で、絶対湿度10%に制御し加熱温度850℃に固定した雰囲気で、30時間の加熱を行った。その後、ICP分析によりLSM粉末中に含有するCr量を測定した。以上の測定における酸化増量、酸化被膜の剥離の有無及びCr蒸発量を表2に示す。
【0042】
【表2】
【0043】
本発明で規定するNo.1~3の固体酸化物形燃料電池部材用被覆鋼材は、比較例のNo.4に対して、500時間における酸化増量が多い。これは、酸化初期に被覆鋼材が有するCo被膜が、スピネル型酸化物被膜に変化する際における酸化増量が含まれるためである。固体酸化物形燃料電池において、長時間の高温酸化雰囲気に晒される鋼材の耐酸化性を議論するにあたっては、この酸化初期の酸化増量分を無視するほうが妥当である。そこで、500時間時点における重量を基準とし、5000時間までの酸化増量を見ると、No.1~3の固体酸化物形燃料電池用被覆鋼材は、比較例のNo.4に比べて酸化増量が少なく、耐酸化性が向上していることが分かる。また、いずれの試験片においても加熱処理後の酸化被膜の剥離は見られなかった。但し、No.1~3の被覆鋼材の中では、No.2の厚さ1.0μmのCo被覆鋼材は、500時間時点を基準とした5000時間後の酸化増量が最も大きい。これは、No.1の0.5μmのCo被覆鋼材はCo被覆層が薄いため、Coの酸化増量が小さく、一方でNo.3の4.0μmのCo被覆鋼材はCo被覆層が厚いため、初期に安定な厚さのスピネル型酸化物層が形成され、成長速度が遅くなるため、酸化増量が低くなるのに対して、No.2の1.0μmのCo被覆鋼材は、やや厚めのスピネル型酸化物層が形成されるものの、成長速度が十分に低下するには不十分な厚さであるため、酸化増量が多くなったものと考えられる。
【0044】
表2より、本発明で規定するNo.1~3の固体酸化物形燃料電池用被覆鋼材は、比較例のNo.4に対して、酸化初期及び高温長時間酸化後において、クロム蒸発量を大幅に抑制していることが明らかである。但し、最も薄い0.5μmのCo被覆鋼材No.1は、わずかながらもCr蒸発が検出されており、No.1~3の被覆鋼材の中では、Cr蒸発抑制の点ではやや劣る結果となっている。
以上の結果から、耐酸化性、Cr蒸発抑制を高いレベルで両立するためには、Co被覆厚さは、1.5μm以上であることが好ましい。
【0045】
表1のNo.3の試験片について、金属基材と金属被膜の透過電子顕微鏡観察を行った。得られた写真を図1に示す。金属被膜は金属基板に対して垂直となる方向に結晶粒界を有している。また、図3は金属被膜領域から得られた[001]入射の電子回折像であるが、電子回折シミュレーション像との一致から、金属被膜は稠密六方構造を有することが分かる。
【0046】
表1のNo.3の試験片について、850℃×4000時間加熱後の金属基材と酸化物被膜の透過電子顕微鏡観察を行った。得られた写真を図2に示す。大気中における加熱により、金属基材側から順にクロミア系酸化物層、スピネル型酸化物層となる2層の酸化物被膜が形成されている。この時、図4図2の符号5の領域となる金属基材における[111]入射の電子回折像であるが、電子回折シミュレーション像との一致から加熱後においても金属基材はフェライト組織を保持していることが分かる。また、図2の符号3の領域から得られた[110]入射の電子回折像を図5に示すが、電子回折シミュレーション像との一致からスピネル型構造を有していることが確認できる。
【0047】
表1のNo.3の試験片について、850℃×4000時間加熱後、加工による酸化物層剥離を防止するためNiメッキを施し、金属基材と酸化物被膜の走査電子顕微鏡観察及び電子線マイクロアナライザーによるCo、Mn、Cuの面分析を行った。得られた写真を図6に示す。反射電子像と各元素の面分析を比較することで、スピネル型酸化物層の領域にはCoの他、Mn及びCuを含有していることが確認できる。
【符号の説明】
【0048】
1 金属被膜
2 金属基材
3 スピネル型酸化物層
4 クロミア系酸化物層
5 金属基材
6 Niメッキ
図1
図2
図3
図4
図5
図6