(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】帯電センサ、ロボットハンド、及び検体の判定装置
(51)【国際特許分類】
B25J 19/02 20060101AFI20240109BHJP
B25J 15/08 20060101ALI20240109BHJP
【FI】
B25J19/02
B25J15/08 W
(21)【出願番号】P 2020139657
(22)【出願日】2020-08-20
【審査請求日】2023-04-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浦野 年由
(72)【発明者】
【氏名】水上 潤二
(72)【発明者】
【氏名】プラデル ケン
【審査官】牧 初
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-170425(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107290082(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 1/00-21/02
G01L 1/00- 1/26
G01L 25/00
G01L 5/00- 5/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の電極と、第1の誘電体とを含む第1の帯電部と、
前記第1の電極と対をなす第2の電極と、第2の誘電体とを含む第2の帯電部と、
前記第1の帯電部と前記第2の帯電部との間の静電容量の変化によって生じる信号を、前記第1の電極から取り出す取り出し部と、を備え、
前記第1の誘電体は、弾性部材を用いて形成され、内部が中空の中空部を含み、
前記中空部は、検体との接触による前記中空部の変形に伴って前記内部と外部との間を空気が出入りする出入り口を含み、
前記取り出し部は、前記中空の変形に伴って生じる信号を前記第1の電極から取り出す帯電センサ。
【請求項2】
前記第1の帯電部は、前記第1の誘電体と、前記第1の電極と、前記信号中のノイズを除去するノイズ除去層と、前記第2の電極とともに接地される第3の電極が積層された構造を有する
請求項1に記載の帯電センサ。
【請求項3】
前記ノイズ除去層の体積抵抗率が10
5Ω以上である
請求項2に記載の帯電センサ。
【請求項4】
前記第1の電極を接地させるスイッチをさらに含む
請求項2又は3に記載の帯電センサ。
【請求項5】
前記中空部は、シリコーンゴム、ウレタンゴム、アクリルゴム、天然ゴム、及びテフロンゴムから選ばれる少なくとも一つを用いて形成されている
請求項1から4のいずれか一項に記載の帯電センサ。
【請求項6】
第1の指と、前記第1の指と異なる第2の指とを含むロボットハンドにおいて、
前記第1の指に請求項1から5のいずれか一項に記載の第1の帯電部が設けられ、前記第2の指に請求項1から5のいずれか一項に記載の第2の帯電部が設けられている
ことを特徴とするロボットハンド。
【請求項7】
前記第2の誘電体として、前記第2の指を用いる
請求項6に記載のロボットハンド。
【請求項8】
請求項6又は7に記載のロボットハンドによって把持される前記検体と、前記検体と接触して変形可能な前記中空部との状態に応じて前記取り出し部から取り出される前記信号の形状に基づいて、前記検体の物性、及び前記検体の前記中空部に対する状態の少なくとも一方を判定する判定回路を含む、
検体の判定装置。
【請求項9】
前記判定回路は、前記信号のレベルの大きさに基づいて、前記検体の硬さを判定する、請求項8に記載の検体の判定装置。
【請求項10】
前記判定回路は、前記中空部に対する前記検体からの圧力の供給の解除に伴う前記信号のレベルの減衰時間に基づいて、前記検体の弾性を判定する、請求項8又は9に記載の検体の判定装置。
【請求項11】
前記判定回路は、前記中空部に対する前記検体の接触に伴う前記信号の立ち上がりのタイミングに基づいて、前記検体の大きさを判定する、請求項8から10のいずれか一項に
記載の検体の判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、帯電センサ、ロボットハンド、及び検体の判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ロボットハンドによって壊れやすい物質、形状が一定ではない物質を安定的に把持、識別するため、ロボットハンドの外装部分を変形可能とすることにより、様々な形状の物質を把持することが試みられている。このようなロボットハンドは、ソフトロボットと呼ばれている(例えば、特許文献1)。
【0003】
また、安定した把持と識別のため、ロボットハンドの表面上に数千個の電気抵抗型圧力センサを密着固定し、AIを用いて把持対象物表面との接触圧力を解析する方法が知られている(例えば、非特許文献1)。また、ロボットハンドに用いられるセンサとして、電気抵抗型圧力センサのみならず、誘電エラストマーの変形張力、糸張力、空気圧又は液圧による駆動機構を組み込むことも提案されている(例えば、非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【非特許文献】
【0005】
【文献】Nature562, 698-702
【文献】ロボット学会誌37巻1号2019年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ロボットハンドの制御には、カメラ等を使用して画像により把持対象物の形状等を認識させることが考えられる。この場合、カメラと把持対象物の間に邪魔になるものが無いことが要求される。また、画像から硬さや変形量を予測して把持させるには、かなりの学習が必要となる。かなりの学習により、おおよその特性を予想することはできるかもしれない。しかし、物質の実際の硬さや重さを予測することは難しく、物質を安定的に把持できない虞があった。
【0007】
一方、ロボットハンドの表面にセンサを設け、センサからの信号により、把持する位置や、把持する力を制御することが考えられる。この方法は、ある程度の硬度を持っているものを把持する場合には有効である。しかし、例えばお弁当のおかずカップのような、それ自体が容易に変形し、かつその変形が大きいと中身がこぼれてしまうような場合、この方法は必ずしも有効ではない。すなわち、カップの変形により、カップとの接触による圧力変化は小さい。また。圧力変化が起こってからの圧力増大に対して位置や力を反応させるのでは、中身が一定ではない(カップの中身が豆の盛り合わせである場合等を想定する
と理解しやすい)ため、うまく制御することは難しい。また、そのわずかの圧力変化に対
応しようとしても、通常使用されるロボットの速度では、接触してから把持したとロボットが判断するまでの間に、ロボットハンドの端機構が大きく動いてしまい、中身がこぼれてしまうことがあった。この問題に対応すべく、ロボットハンドの速度を落とすことは、高速で大量の処理をするという、ロボットを使用する意味を損なうことにつながる。このようなことから、現状では、可撓性を有するお弁当の容器等に食品を詰め合わせる作業について、ロボットを導入することができていない。
【0008】
つまり、従来技術では、簡素な構造で変形しやすく、変形したら中身がこぼれてしまうような容器を適正に把持可能なロボットは得られていない。本発明は、検体をより適正に把持することを可能とする技術を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本願の発明者らは、鋭意検討の結果、帯電センサ自体の静電容量の変化により接触の有無を検知する帯電センサの使い方を工夫し、ロボットハンド(把持部)に対し、中空部を有する帯電センサを設けることを想起するに至った。
【0010】
本発明は、以下の通りである。
[1] 第1の電極と、第1の誘電体とを含む第1の帯電部と、
前記第1の電極と対をなす第2の電極と、第2の誘電体とを含む第2の帯電部と、
前記第1の帯電部と前記第2の帯電部との間の静電容量の変化によって生じる信号を、前記第1の電極から取り出す取り出し部と、を備え、
前記第1の誘電体は、弾性部材を用いて形成され、内部が中空の中空部を含み、
前記中空部は、検体との接触による前記中空部の変形に伴って前記内部と外部との間を空気が出入りする出入り口を含み、
前記取り出し部は、前記中空部の変形に伴って生じる信号を前記第1の電極から取り出す帯電センサ。
【0011】
[2] 前記第1の帯電部は、前記第1の誘電体と、前記第1の電極と、前記信号中のノイズを除去するノイズ除去層と、前記第2の電極とともに接地される第3の電極が積層された構造を有する[1]に記載の帯電センサ。
【0012】
[3] 前記ノイズ除去層の体積抵抗率が105Ω以上である[2]に記載の帯電センサ。
【0013】
[4] 前記第1の電極を接地させるスイッチをさらに含む[2]又は[3]に記載の帯電センサ。
【0014】
[5] 前記中空部は、シリコーンゴム、ウレタンゴム、アクリルゴム、天然ゴム、及びテフロンゴムから選ばれる少なくとも一つを用いて形成されている
[1]から[4]のいずれか一項に記載の帯電センサ。
【0015】
[6] 第1の指と、前記第1の指と異なる第2の指とを含むロボットハンドにおいて、
前記第1の指に[1]から[5]のいずれか一項に記載の第1の帯電部が設けられ、前記第2の指に[1]から[5]のいずれか一項に記載の第2の帯電部が設けられていることを特徴とするロボットハンド。
【0016】
[7] 前記第2の誘電体として、前記第2の指を用いる[6]に記載のロボットハンド。
【0017】
[8] [6]又は[7]に記載のロボットハンドによって把持される前記検体と、前記検体と接触して変形可能な前記中空部との状態に応じて前記取り出し部から取り出される前記信号の形状に基づいて、前記検体の物性、及び前記検体の前記中空部に対する状態の少なくとも一方を判定する判定回路を含む、検体の判定装置。
【0018】
[9] 前記判定回路は、前記信号のレベルの大きさに基づいて、前記検体の硬さを判定する、[8]に記載の検体の判定装置。
【0019】
[10] 前記判定回路は、前記中空部に対する前記検体からの圧力の供給の解除に伴う前記信号のレベルの減衰時間に基づいて、前記検体の弾性を判定する、[8]又は[9]に記載の検体の判定装置。
【0020】
[11] 前記判定回路は、前記中空部に対する前記検体の接触に伴う前記信号の立ち上がりのタイミングに基づいて、前記検体の大きさを判定する、[8]から[10]のいずれか一項に記載の検体の判定装置。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、検体のより適性な把持が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、帯電センサの実施例を示す図である。
【
図2】
図1に示したセンサ本体部分の構成例を示す。
【
図3】
図3は、
図1に示した帯電センサを設けたロボットハンドの構成例を示す図である。
【
図4】
図4は、実証実験に用いた、帯電センサを含む装置の構成を示す図である。
【
図6】
図6は、圧力波形と、圧力供給によって得られる応答信号の例を示す図である。
【
図7】
図7は、検体の判定装置の構成例を示すブロック図である。
【
図8】
図8は、判定用情報の一例を示すテーブルである。
【
図9】
図9は、硬さ及び検体種別の判定処理の例を示すフローチャートである。
【
図10】
図10は、検体の判定処理の例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
実施形態に係る帯電センサは、第1の電極と第1の誘電体とを含む第1の帯電部と、第1の電極と対をなす第2の電極と第2の誘電体とを含む第2の帯電部と、第1の帯電部と第2の帯電部との間の静電容量の変化によって生じる信号を第1の電極から取り出す取り出し部とを備える。第1の誘電体は、弾性部材を用いて形成され、内部が中空の中空部を含む。中空部は、検体との接触による中空部の変形に伴って内部と外部との間を空気が出入りする出入り口を含む。取り出し部は、前記中空の変形に伴って生じる信号を前記第1の電極から取り出す。
【0024】
このような帯電センサによれば、検体が帯電センサに接近すると、接触が起こる前に帯電センサと検体の間の静電容量の変化を検出し得る。その結果、ロボットハンドが検体に接触する前に検出される信号により、検体が帯電センサに接触する前にロボットハンドの移動速度を低下させること等ができる。これによって、変形しやすい検体であっても、検体を大きく変形させたり、内容物をこぼしたりすることなく、把持動作を行うことができる。
【0025】
また、中空部には、外部と連通し、中空部が検体接触した後の内部の空気を中空部から逃すための空気の出入り口が設けられている。これにより静電容量の変化を、接触後も連続して大きく検出することができる。そして、検体の接触前から信号が得られること、接触後も接触状態の変化に応じた信号が得られることから、適切に検体を把持することができる。
【0026】
これより、接触前に検体の存在を感知でき、弱い接触圧でも接触があったことを認識でき、そして広い範囲の接触圧に対応する信号が得られる帯電センサと、帯電センサを設け
たロボットハンド、及び帯電センサを設けたロボットハンドを用いて検体を判定する判定装置を提供することができる。
【0027】
(検体)
「検体」は、センサの接触面を接触させる物体(固体)であり、その材質や形状に制限はない。検体としては、アルミニウム、亜鉛、銅、又は鋼等の金属板、紙、ゴム、プラスチックフィルム、又はガラスなどを用いた板、ブロック、植木鉢、シート、食器、机、容器、手袋、袋などの成形製品、ミカン、バナナ、ごはん、パン、こんにゃく、肉などの食品、昆虫、動物、魚などを例示でき、これらの例示のうちの少なくとも一つが検体として選択され得る。
【0028】
(帯電センサ)
帯電センサは、電源が不要でセンシングしていないときの信号強度(レベル)がゼロベースである。このため、帯電センサから出力された信号をアンプで増幅した際のSN比(感度)が高い。従って、帯電センサの出力信号から振動に対する応答を高い精度で検出することができる。
【0029】
本明細書において、「帯電センサ」は、摩擦発電またはエレクトレットなどの帯電原理を利用したセンサである。帯電センサは、帯電発電の原理を利用することによって、自ら電圧を発生させる。このため、発光装置や電源等が不要である。このため、一定の光や電気信号の変動で応答を検出する光ファイバ式センサなどと比べて構造が簡易で、外乱の影響を受けにくくすることができる。
【0030】
帯電センサは、摩擦帯電構造、又はエレクトレット帯電構造を有することができる。摩擦帯電構造は、二つの(一対の)帯電部が対向した構造、すなわち、それぞれ電極と誘電体とを含む二つの帯電部が間隙を設けて重ねられた(対向する)構造を有する。エレクトレット帯電構造は、電極と誘電体からなる一組の帯電部の正と負に帯電された気泡を複数有する誘電体を電極で挟み込んだ構造を有する。摩擦帯電構造を有する帯電センサを摩擦帯電センサと称し、エレクトレット帯電構造を有する帯電センサをエレクトレット帯電センサと称する。
【0031】
帯電センサを使用することの利点は、ピエゾ効果を利用したセンサに比べ、はるかに弱い力を検知できること、また、接触した物質の物性や形状変形のしやすさによって、得られる波形が異なることである。
【0032】
(誘電体)
第1の誘電体及び第2の誘電体に適用し得る誘電体の材料は、帯電性を有する材料であれば特に限定されない。例えば、ポリマー(樹脂)や非金属物質等が挙げられる。ポリマーとしては、シリコーン樹脂(ポリジメチルシロキサン(PDMS)等)、フッ素樹脂(ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等)、ポリイミド、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリオレフィン(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリエステル樹脂(ポリエチレンテレフタレート(PET)等)、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂(ポリメチルメタクリレート(PMMA)等)、ポリアミド樹脂(ナイロン等)、セルロースが挙げられる。非金属物質としては、シリカやアルミナ等の酸化物等が挙げられる。誘電体は、中空帯電センサの小型化、薄型化のために、樹脂フィルム、又は非金属物質の薄膜によって形成されるのが好ましい。
【0033】
誘電体の比誘電率(εDI)は、好ましくは5以上であり、より好ましくは8以上である。また、誘電体の比誘電率の上限はないが、高い方が好ましい。比誘電率は、被測定材料(検体)の層の両面に電極を形成して平行平板キャパシタを作製し、キャパシタの静電
容量Cを測定することで、以下の式1から計算することができる。
C=ε0・εr・A/d ・・・ (式1)
ここで、εrは比誘電率、ε0は真空の誘電率、Aはキャパシタの面積、dは被測定材料の層の膜厚である。キャパシタの静電容量Cは、LCRメータ、インピーダンスアナライザ等で測定することができる。
【0034】
誘電体の、接触により摩擦を生じさせる部分は、最表層として、以下のような材料を用いるのが好ましい。すなわち、最表層の材料としては、ポリマー、非金属物質、金属物質を挙げることができる。ポリマーとしては、上記したものや、メラミン樹脂を挙げることができる。また、非金属物質では、シリカやアルミナ等の酸化物等が挙げられる。また、金属物質としては、例えば、アルミニウム、鉄、ニッケル、銀、金、白金、銅、クローム、チタン、モリブデン、インジウム金属、これらの金属の合金もなどが挙げられる。
【0035】
(電極)
第1~第3の電極に適用し得る電極は、高い電気導電性を有する材料であれば特に限定されず、好適に用いることができる。電極は、例えば、アルミ、鉄、ニッケル、銀、金、白金、銅、クローム、チタン、モリブデン、インジウム金属であり、それら金属の合金も用いることができる。電極は、高い電気導電性を有する材料であれば、金属でなくとも構わない。電極は、例えば、ドープされたシリコン(Si)等の半導体材料、酸化インジウムスズ(ITO)等の金属酸化物、PEDOT-PSS等の導電性高分子も用いることができる。電極は、軟らかく、変形可能でかつダメージを受けにくい材料であることが好ましく、実用に耐える範囲で薄くすることが好ましく、通常100μm以下、より好ましくは50μm以下、最も好ましくは25μm以下、また下限値としては10μm以上である。このような薄さにすることで、帯電センサの感度を低下させることなく、かつ電極の破損による動作不良を防ぐことができる。
【0036】
(取り出し部)
取り出し部は、帯電センサが備える第1の電極から、応答信号(第1の帯電部と第2の帯電部との間の静電容量の変化によって生じる信号、及び検体の接触による中空部の変形に伴って発生する信号)を取り出すものである。応答信号が電気信号である場合、導体を用いて構成される。例えば、取り出し部は、電極に電気的に接続されたリード線、端子、コネクタなどである。
【0037】
(ロボットハンド)
本発明の実施例の一つは、ロボットハンドを含む。ロボットハンドは、例えば第1の指と、前記第1の指と異なる第2の指とを含む複数の指を含み、第1の指に第1の帯電部が設けられ、第2の指に第2の帯電部が設けられる。第2の誘電体として、第2の指を用いてもよい。「第2の指に第2の帯電部が設けられる」場合には、第2の帯電部に含まれる第2の電極が物理的に第2の指に取り付けられる場合の他、第2の電極が第2の指と離間した位置で第2の指と電気的に導通した状態にある場合を含む。
【0038】
本発明に係る帯電センサを適用したロボットハンドは、複数の指を持ち、そのうちの少なくとも1本に、第1の帯電部を含むセンサ本体部分を設置し、その他の指、又はそれと導通している部分の少なくとも1本に対電極を有することができる。指の本数は2以上であればよく、例えば、2-6本とされる。但し上限に制限はない。
【0039】
指は、弾力性を有する部材で形成されている。指の外装は軟質性を有することが好ましい。但し、弾力性を有する部材や軟質性の採用は必須ではない。アクチュエータにより指を駆動して、指が検体を把持する。
【0040】
ロボットハンドの把持又は保持対象である検体が柔らかく変形しやすいものである場合を考慮して、指の外表面は柔らかい物質でできていることが好ましい。このため、ロボットハンドは、内部中空部分を有しており弾力性あるいは軟質性の薄膜部材で構成されており、中空内の空気を吸引する為の空気吸引口を有しているものがよい。把持部は内部中空部分が大気下では膨らみ指の夫々の先端部の間の距離は大きく開くが、吸引、たとえば-35Kpa程度の力での吸引により内部中空部分が低減圧収縮すると、指の夫々の先端部が接近し、閉じて検体を把持する。把持部及び腕部は垂直方向及び水平方向(3軸座標系のXYZ方向)に移動可能であり、鉛直軸に対する傾きを変更することができる。
【0041】
(検体の判定装置)
本発明の実施例の一つは、検体の判定装置を含む。判定装置は、帯電センサが設けられたロボットハンドによって把持される検体と、検体と接触して変形可能な中空部との状態に応じて取り出し部から取り出される信号の形状に基づいて、検体の物性、及び検体の中空部に対する状態の少なくとも一方を判定する判定回路を含む。判定回路は、信号の信号レベルに大きさに基づいて、検体の硬さを判定する構成を採用するのが好ましい。また、判定回路は、中空部に対する検体からの圧力の供給の解除に伴う信号のレベルの減衰時間に基づいて、検体の弾性を判定する、構成を採用するのが好ましい。また、判定回路は、中空部に対する検体の接触に伴う信号の立ち上がりのタイミングに基づいて、検体の大きさを判定する、構成を採用するのが好ましい。
【0042】
以下に本発明を詳細に説明する。以下に記載する説明は、本発明の実施の一形態であり、本発明はその要旨を超えない限り、これらの内容に限定されない。
【0043】
<帯電センサ>
図1は、本発明の実施例に係る帯電センサの構成例を示す図である。
図2は、センサ本体部分の構成例を示す。
図3は、
図1に示した帯電センサをロボットハンドに取り付けた場合を模式的に示す。
【0044】
図1において、帯電センサ41は、大きく二つの部分に分かれている。一つは、ソフトロボットの、検体60を把持する部分(ロボットハンド(把持部ともいう)。
図2参照)に設けられる、中空部44を有するセンサ本体部分10である。もう一つは、センサ本体部分10から独立して存在する対電極部20である。
【0045】
センサ本体部分10は、支持体54Aと、支持体54Aの上に形成された電極532B(第3の電極に相当)と、電極532Bの上に形成された高抵抗層(ノイズ除去層に相当)55Aと、高抵抗層55Aの上に設けられた帯電部51A(第1の帯電部に相当)とを含む。
【0046】
帯電部51Aは、高抵抗層55Aの上に形成された電極53A(第1の電極に相当)と、電極53Aの上に形成された誘電体52A(第1の誘電体に相当)とを含む。誘電体52Aは、ドーム状の壁部58を有し、内部45が中空の中空部44を含む。中空部44は、中空部44の内部45と外部とを連通する空気の出入り口46を備えている。中空部44は、外部から圧力がかかると変形して(潰れて)内部45の空気を出入り口46から外部に出し、その後、圧力が低下すると、外部から出入り口46を介して空気を取り入れ元の形状に戻る。出入り口46は、2以上あってもよく、入り口と出口が別になっていてもよい。
【0047】
センサ本体部分10の電極532Bに接続された配線と、対電極部20の電極531Bに接続された配線とはリード線43Aに結線(導通)され、同じ電位になるように構成されている。電極532B及び電極531Bは、リード線43Aを通じてアース(接地)さ
れる。
【0048】
電極532から引き出された配線と、電極53Aに接続されたリード線43Bとの間には、スイッチ532Cが設けられている。スイッチ532Cがオン(閉)となることで電極53Aの電位がアースとなる。リード線43Bは、帯電部51Aと帯電部51Bとの間の静電容量の変化によって生じる電流又は電圧、及び検体60との接触による中空部44の変形によって発生した電流又は電圧をセンサシグナル(信号)として取り出す(検出する)取り出し部として作用する。
【0049】
対電極部20は、帯電部51Bを含む。帯電部51Bは、例えば、支持体54B、電極531B及び誘電体52Bが積層された構成を有する。なお、誘電体52Bは、必要に応じて設けられる。
【0050】
帯電部51A及び51Bの夫々は、平面が18mm×18mmの矩形状に形成されている。但し、中空部44は平面円形状に形成されている。支持体54Aは、厚さ30μmのポリイミドフィルムを用いて形成されている。電極53Aは、厚さ100nmの銅膜であり、電極532Bは、厚さ100nmのアルミニウム膜である。電極532Bは、厚さ30μmポリイミドフィルムである支持体54Aに対する蒸着によって形成される。
【0051】
電極531Bは、厚さ16μmのPETフィルムで形成された支持体54Bの上に蒸着された厚さ100nmのアルミニウム膜である。
図3に示す例では、誘電体52Bが省略され、指2Bが誘電体52Bとして作用する。
【0052】
電極531B及び532Bは、配線としての、アルミニウム薄膜、銅薄膜などの導線に連結され、アース線としてのリード線43Aに連結されている。導線連結の方が湿度温度などの環境の変化の影響を受けづらく好ましい。支持体54Bは、厚さ25μmのPET製フィルムを用いて形成されている。
【0053】
電極531Bが誘電材料の場合は、電極531Bが誘電体52Bを兼ねてもよい。誘電体52B及び52Aの好ましい材料としては、シリコーンゴム、ウレタンゴム、アクリルゴム、天然ゴム、テフロンゴムなどの弾性を有する樹脂材料が好ましい。特に好ましくは、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂などである。
【0054】
リード線43A,43Bは、例えば、エレクトロメータに接続されて、エレクトロメータの表示部に表示された応答信号波形が観察される。支持体54Bは、誘電体52Bにダメージを与えないための保護層として作用する。支持体54Bは、帯電センサ41の感度を高くするために、変形が容易で、かつ摩擦等の起こりにくい部材を用いることが好ましい。電極53A,532Bは、変形が容易で、かつ変形により破損することの少ない材料であることが好ましい。
【0055】
誘電体52Aと誘電体52Bとの一方は、電荷を溜め易い材料とし、他方は溜めにくい材料とすることができる。また、誘電体52Aと誘電体52Bとは、同様の特性を有する材料を用いてもよい。支持体54Aを指2Aに接着してセンサ本体部分10を指2Aに取り付ける場合、支持体54Aは、破損等が起こりにくく、かつ接着剤との親和性の高い材料を使用することが好ましい。
【0056】
帯電部51Aと帯電部51Bとは、摩擦発電を行う際に、それぞれ正負を帯びた帯電部となり得る。この場合、電極53Aと電極53Bとのいずれが正負になるかはどちらでもよい。例えば、電極53Aが正に帯電し、電極53Bが負に帯電してもよい。逆に、電極53Aが負に帯電し、電極53Bが正に帯電してもよい。
【0057】
誘電体52Aが備える中空部44は、
図1では、ドーム状を成している。もっとも、中空部44は、縦横が5mmから8mm、高さが1mmから10mmの半球形などのドーム形状、円錐、又は4から20の多面体であるのが好ましい。中空部44内と外との間の膜厚(壁部58の膜圧)は0.01mmから5mmが好ましい。中空部44の材料は、シリコーンゴム、ウレタンゴム、アクリルゴム、天然ゴム、テフロンゴムなどの弾性を有する樹脂材料を用いるのが好ましい。特に好ましくは、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂を中空部44の材料に用いるのが好ましい。
【0058】
また、中空部44と誘電体52Aは同一の材料でも部分的に複数の異なる材料を用いて構成されていてもよい。異なる材料が用いられる場合、検体60に接触する側と電極53Aに接する側とで、帯電列上で大きく離れた材質を選択するのが好ましい。例えば検体60に接触する側にシリコーンゴムのようなマイナスに帯電しやすい材質を選び、電極53Aに近い側には、ナイロン樹脂のようなプラスに帯電しやすい物質を選択する。
【0059】
中空部44の出入り口46の形状の制限は特になく、円形の穴、あるいはスリット、などを採用し得る。出入り口46は、中空部44に検体60等から圧力がかからない時は塞がっているが、外部の圧力によって壁部58が変形した際に開口するものでもよい。
【0060】
なお、帯電センサ41が備える、誘電体、電極、及び支持体の夫々の厚みや材料は適宜設定可能である。誘電体、電極、及び支持体の夫々の好ましい膜厚は、それぞれ0.01μmから500μm、0.01μmから1000μm、1μmから1000μmの範囲で
ある。より好ましくは、0.05μmから200μm、0.02μmから500μm、5μmから500μmの範囲である。
【0061】
電極53Aと電極532Bとに挟まれた高抵抗層55Aは、電極53A及び電極532Aより高い体積抵抗率を有する。高抵抗層55Aの材料は、好ましくは105Ωcm以上1012Ωcm未満、さらに好ましくは106Ωcm以上1012Ωcm未満の体積抵抗率である有機または無機材料から適宜選択することができる。高抵抗層55Aは、高周波成分ノイズとベースライン変動を抑制させセンサシグナルを安定させる機能を有する。高抵抗層55Aの材料としては、紙、ポリイミド樹脂、シリコーンゴム、ウレタンゴム、アクリルゴム、天然ゴム、テフロンゴムなどの弾性を有する樹脂材料を用いるのが好ましい。特に、シリコーン樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂を用いるのが好ましい。
【0062】
高抵抗層55Aの好ましい膜厚は10nmから5mmであり、さらに好ましくは100nmから500μmである。高抵抗層55Aのセンサシグナル安定化効果は、検収されるシグナルの周波数より著しく高い。高周波成分の電荷が高抵抗層55Aを通過しやすいためと考えられる。体積抵抗率が105Ωcmより著しく低くなるとシグナル強度が低下し、また1012Ωcmより著しく高いとシグナル安定化効果が低減する。体積抵抗率は、5mm×5mmスクエアの有機樹脂層サンプルの両面に35μm銅箔を密着させ、貼り付け体積抵抗率用サンプルを作成し測定するとよい。測定装置としては例えばTecman社製高抵抗テスターTM385を用いて、計測することができる。
【0063】
<ロボットハンド>
帯電センサ41がロボットハンド(把持部)2に設置される場合には、
図2に示すように、ロボットハンド2が備える複数の指の一つ(第1の指(指2A))にセンサ本体部分10が設置され、指2Aと異なる指(第2の指(指2B))に対電極部20が設置される。
【0064】
図2に示すように、センサ本体部分10は指2A上に設置される。ロボットハンド2は
、指2A及び指2Bの開閉動作を行い、閉動作時に、指2Aの先端における指の腹と、指2Bの先端における指の腹とが接触するように閉じて、検体60を挟む。このとき、検体60の押圧面(
図2の下面)59は、指2A上に設けられたセンサ本体部分10、すなわち、中空部44の壁部58の表面である接触面と接触する。センサ本体部分10は、帯電量(電荷量)の変化を、電極53Aに接続されたリード線(取り出し部)43Bにより検出する。ロボットハンド2は、内部中空部分21と、内部中空部分21内の空気を吸引するための空気吸引口22とを有する。ロボットハンド2は、内部中空部分21が大気下では膨らみ、指2A及び2Bの夫々の先端部の間の距離は大きく開く。これに対し、例えば-35Kpa程度の力で空気吸引口22から内部中空部分21内の空気を吸引することによって、内部中空部分22が減圧収縮すると、指2A及び2Bの夫々の先端部が接近し、閉じて検体60を把持する。
【0065】
一方、
図3において、対電極部20は、
図1と異なり誘電体52Bを有しておらず、指2Bが誘電体52Bとして作用する。指2Bが電極531Bと導通していれば、対電極部20は、指2Bの上になくてもよい。このアースの取られた対電極部20を備えることで、センサ本体部分10と検体60との間の接触による圧力を感知する触覚検知のみならず、センサ本体部分10と検体60の帯電電場を非接触近接状態で検知する機能も兼ね備えることができる。
【0066】
図1及び
図3に示す帯電センサ41は、センサ本体部分10の帯電部52Aが、中空の内部45が空気の出入り口である出入り口46を介して外部(外の空間)と連通した中空部44を有している。中空部44の壁部58は、柔軟な(弾性を有する)材料で形成されている。壁部58は、微弱な検体60の接触圧力に対して容易に変形可能である。また、検体60との接触による外圧の発生時に、中空部44は、出入り口46から内部45の空気を逃すことができる。仮に、中空部44が出入り口46を有しない場合には、変形により内部45の空気圧が上昇し、圧力の上昇に対して帯電部52Aの変形量が小さくなって、感度が低下する。出入り口46から空気が抜けることで、感度の低下を抑制することができる。
【0067】
検体60を指2A及び2Bで挟む場合、検体60にロボットハンド2の指2A及び2Bが接近することによって、帯電センサ41の電極531Bと53A間の静電容量(静電容量C)が変化する。また、検体60と帯電部52A(中空部44)とが接触すると、検体60から帯電部52Aへ電荷が移動して帯電発電が起こる。さらに指2A及び2Bの把持力を強めると、検体60からの押圧で中空部44の内部45の空気が出入り口46から抜けて中空部44が潰れる。内部45から空気の殆どが抜けた後も加圧が続くと、壁部58の柔軟性により、壁部58はさらに収縮変形を続ける。このように、中空部44が変形し、潰れてさらに圧縮される間、帯電発電が継続して起こる。帯電発電によって、電極532Bと電極53Aとの間の電圧が変化し、この変化が取り出し部(電極53Aに接続されたリード線)43Bからセンサシグナルとして検出される。
【0068】
帯電センサ41によれば、上記した中空部44による作用によって、1g以下の微弱な触覚圧力から数百gの強い圧力変化までの幅広い検体からの圧力を検知することができる。帯電センサ41は、後述するように第1~第3の検知モードにより、種々の検体の大きさ、物性の違いを、センサシグナルの変化として検知することができ、検体の高い識別が可能となる。
【0069】
<実証実験>
図4は、
図5に示す実証実験の結果を得るために使用された装置の説明図である。平面上にセンサ本体部分10を設置し、検体60(レゴ社製レゴブロック)の側面を掴んだ(挟んだ)ロボットハンド(把持部)200をセンサ本体部分10に接近させる。ロボットハ
ンド200は、指2C及び指2Dを有し、ピニオン及びラックを用いた開閉機構25により、指2Cと指2Dとの間の距離を広げたり狭めたりすることで、指2C及び指2Dを開閉可能となっている。ロボットハンド200は、ピニオン及びラック機構を用いた上下動機構23により、上下動可能となっている。
【0070】
ロボットハンド200の上部には、対電極部20が設けられている。ロボットハンド200は、Vstone社製スカラーロボット「VS-ASR」である。上下動機構23の操作により、ロボットハンド200に掴まれた検体60を段階的にセンサ本体部分10に向かって下降させ、センサ本体部分10に接触させ、電極53Aからの取り出し部(リード線43B)からの信号(センサシグナル)の変化を見た。
【0071】
図5には、センサシグナルの測定結果が示されている。
図5の上段のグラフは、ロボットハンド200によって把持された検体60の下端の上下動の記録を示す。
図5の下段のグラフは、帯電センサ41に対する圧力を示す信号(ロードセルの出力信号)と、検体60の進退に伴う静電容量の変化及び圧力変化に伴う帯電センサ41の出力信号(センサシグナル)とを示す。
【0072】
センサ本体部分10が置かれた平面は、PRC社製ロードセル型精密天秤の台上であり、精密天秤が有するロードセルの出力信号を以て、検体60とセンサ本体部分10との接触時の荷重の変化を見た。
【0073】
実験では、検体60と中空部44との間隙が 3.0mmになるよう初期状態を設定し
、この初期状態を始点(0mm:
図5のグラフの0mmの点)とした(
図5の(a)参照)。
【0074】
次いでロボットハンド200を駆動させ、一定速度で3.8秒間かけて検体60を中空部44側(下方)に11.8mm降下させた。この移動において、検体60は、下降し始めてから1.0秒後に3.0mm下降し、中空部44の表面に接触した(
図5の(b)参照)。
【0075】
下段のグラフで表されるセンサシグナル強度を見ると、3mm降下してセンサ本体部分に接触する前に、すでにセンサシグナルが得られている(
図5の(1)を参照)。このことは、センサ本体部分10の下部に設けたロードセルにより得られる荷重がゼロであることからも、非接触時点で検体60の接近を検知できていることがわかる。
【0076】
中空部44(センサ本体部分10)と検体60が接触すると、ロードセルにおいて荷重が検知される(“Load cell”のグラフを参照)。その後、検体60は、1.7秒かけて
、さらに5.3mm下降し、中空部44を押し続け、中空部44の内部45が収縮圧縮され、ついに中空部44がほぼ潰れた状態(中空層陥没)になった(
図5の(c)参照)。
【0077】
ここまでの帯電センサ41からの信号(センサシグナル)は、圧力の増大に対しほぼリニアに増加していることがわかる(
図5の(1)及び(2)を参照)。これは、ロードセルの出力信号の波形とセンサシグナルの波形とがほぼ平行になっていることからわかる。中空部44内の空気が出入り口46から出て、中空部44がほぼ潰れた状態となり、内部45の空気の圧縮による変形の抑制が起こっていないことがわかる。
【0078】
次いで、潰れた中空部44が検体60の押圧によってさらに圧縮され始めると、センサシグナルは傾きを変えるが、傾き自身は一定となる(
図5の(3)を参照)。中空層陥没(
図5の(c))から、ロードセルの出力信号の傾きは大きく変化し、中空部44の収縮による大きな形状変化が生じたことを示している。
【0079】
検体60は、さらに1.1秒かけて、さらに3.5mm下降し、収縮した中空帯電部をさらに強い圧力で圧縮し続け停止した(陥没層圧縮:
図5の(d)を参照)。このときのロードシグナルからの信号は最大圧力値を示し、検体60が最大圧力を中空部44(センサ本体部分10)に印加していることがわかる。
【0080】
次に検体60の位置を2.1秒間保持した(
図5の(3))。この時間内で一時的に最大圧縮された中空部44は、定常状態に戻ろうと収縮状態を緩和変形する(膨らもうとする)。このため、中空部44の形状変化に伴う静電容量に変化が発生し、この変化がセンサシグナルの上昇として検知された。一方、ロードセルからの信号では、圧力の減少として検知された。
【0081】
その後、検体60を1.1秒かけて、11.8mm上昇させ、初期位置に戻した(検体離脱:
図5の(e))。検体60の上昇に伴い、検体60は中空部44の表面から離れ、この離間に伴う静電容量の減少が、センサシグナルの強度を低下させ、ロードセルからの信号の強度は、中空部44を押す圧力の減少により低下した。
【0082】
検体60が元の位置に戻り、中空部44が元の状態に復元した後においても、中空部44には電荷が残留するため。実験の開始時のセンサシグナル値(初期シグナル電圧)より低い電圧(-0.94V)を示した。この残留電荷も検体60の帯電特性に関わっていると考えられる。この残留電荷は。スイッチ532Cをオン(閉)にして、リード線43Aとリード線43Bとの間を短絡させることで除去され、センサシグナルは実験前の初期の電圧を示した。
【0083】
帯電センサ41のセンサ特性の評価結果から、帯電センサ41は、検体60が中空部44の表面に接触する前の非接触検体電界の検知モード(第1の検知モード:
図5の(1))と、接触後の検体60による低加圧検知モード(第2の検知モード:
図5の(2))と、検体60による高加圧検知モード(第3の検知モード:
図5の(3))とを有している。第1~第3のいずれの検知モードについても、ロボットハンド200の制御プログラムのハンド設定位置、及びロードセルによって計測された圧力[g]と良い相関が得られた。
【0084】
これらの結果より、ロボットハンド200が検体60を把持する際に、非接触状態の検体60と、検体60からの弱い圧力から高い圧力までの広い圧力範囲の検出が可能となる。よって、把持対象の検体60の形状、柔らかさ、及び弾性などの異なる物性による検体60の高い職別が可能となる。
【0085】
<実施例>
図6は、Shenzhen Yuejiang Technology 社製のロボットアーム(Dobot Magician)に
取り付けたロボットハンド(Piab社製エアーバキューム型ソフトハンドpiSOFTGRIP)の指の上に取り付けた帯電センサ41の検知特性評価結果である。
図6のグラフは、縦軸が帯電センサ41のセンサシグナル(応答信号:単位は電圧V)であり、横軸は時間(単位秒)である。
【0086】
図6に示す評価結果は、形状や材料が異なる検体60をロボットハンド2で把持させて時の異なる検体特性評価を目的とし、ロボットハンド2が検体60を把持した際に得られた帯電センサ41からのセンサシグナル形状(波形)と、検体60の大きさと、物性との相関を検知できることを確認した。
【0087】
使用された検体60は、ガーリック(重量24g、直径約4cm、ガーリック本体と紙のような表皮を含む)と、ブドウの粒(重量12g、直径2.5cm、柔らかく高弾性)
、ABSフィラメントを材料に3Dプリンタを用いて作製した、ブドウとほぼ同サイズのABSボール(重量3g、直径2.5cm、ブドウと同じ大きさだが硬い)を使用した。
【0088】
ロボットハンド2は、3本の指を有し、指の一つにセンサ本体部分10(帯電部51A)が設けられ、別の一つに対電極部20(帯電部51B)が設けられている。これらの3本の指の中心に検体60が位置するようにロボットアームを操作し、ロボットハンドを固定した。次いで、帯電センサ41のリード線43Aと43Bを短絡させて(スイッチ532Cをオンにして)、電極53Aから得られるセンサシグナルを0Vに設定した。その後、スイッチ532Cをオフにし、ロボットハンド2の吸引口22から-35Kpsで内部中空部分21内の空気を吸引し、指2A及び2Bを閉じて検体60を約0.5秒間で把持させた後、その吸引状態を1.6秒間保持させた。
【0089】
図6のグラフに示されるセンサシグナル(縦軸、単位V)は、把持の開始で検体60が中空部44に接触し加圧するに伴って上昇し、最大加圧状態(センサシグナルのピーク)に到達する。このとき、一時的な最大の中空部44の収縮状態となる。その後、中空部44に対する圧力は徐々に緩和され、定常状態になるまで膨らむ。これより、シグナルビークの後は、減衰カーブ状のシグナルが得られた。
【0090】
3種の検体60のセンサシグナルの形状を比較すると、ガーリックはブドウ及びABSボールより大きいため、ブドウ及びABSボールより早く中空部44との接触位置に到達する。このため、ガーリックに係るセンサシグナル(グラフA)の立ち上がりのタイミングとピークとが3種類のうちで一番早く観測された。
【0091】
また、ガーリックに係るグラフAのセンサシグナルの立ち上がりと減衰カーブをブドウのグラフB及びABSボールのグラフCと比較すると、グラフAの減衰カーブは単純なカーブではなく、カーブの屈曲がみられ、複数の帯電発電成分が観測される。これは、ガーリックの本体とそれを包む帯電性の表皮が中空部44と接触して生じる摩擦帯電で複数の立ち上がりと減衰シグナルが発生したと考えられる。これより、複雑なガーリックの形状とセンサシグナル形状とのよい相関が示されている。
【0092】
一方、ブドウに係るグラフBと、ブドウとほぼ同じ大きさ及び形状のABSボールに係るグラフCとは、類似したシグナル形状(信号波形)を示した。もっとも、ブドウに関しては、ABSボールに比べて高いピークと早いシグナル減衰とが観測された。これは、ブドウがABSボールに比べて柔軟で高い弾性を有し、加圧に対してABSボールよりも速く大きな形状変化を起こし易いためであり、ブドウの信号波形は、ブドウの物性との良い相関を示している。
【0093】
以上の結果より本発明の複数の検知モードを有する中空帯電センサは形状柔らかさや弾性などの異なる検体に対して高い識別特性を有することが明らかになった。
【0094】
<判定装置>
図8は、実施形態に係る帯電センサ41を備えるロボットハンド2について適用可能な検体の判定装置の構成例を示すブロック図である。判定装置200は、バス210を介して相互に接続された、プロセッサ201、記憶装置202、通信インターフェース(通信IF)203、入力装置204、ディスプレイ205を含む。
【0095】
バス210は、電磁駆動装置(モータ、ソレノイドなど)206に接続されており、電磁駆動装置206は、ロボットハンド(把持部)2を含むマニピュレータ207に接続されている。ロボットハンド2には中空帯電センサ40が取り付けられており、振動応答センサとしての帯電センサ41は、リード線43A及び43Bを介してエレクトロメータ2
08に接続されている。
【0096】
判定装置200として、汎用又は専用のコンピュータを適用することができる。記憶装置202は、主記憶装置と、補助記憶装置とを含む。主記憶装置は、プログラムやデータの記憶領域、プロセッサ201の作業領域、通信データのバッファ領域として使用される。補助記憶装置は、プログラムやデータの記憶領域として使用される。主記憶装置は、RAM(Random Access Memory)又はRAMとROM(Read Only Memory)との組み合わせである。補助記憶装置は、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)、EEPRO
Mなどである。
【0097】
通信IF203は、有線ネットワーク又は無線ネットワークを経由してサーバや他の装置等との情報の通信(入出力)を行うインターフェースである。通信IF203は、例えば、ネットワークインタフェースカード、無線通信モジュール(回路チップ)などである。入力装置204は、キー、ボタン、ポインティングデバイス、タッチパネルなどであり、判定装置にデータや情報を入力するために使用される。ディスプレイ205は、データや情報の表示に使用される。
【0098】
プロセッサ201は、例えばCPU(Central Processing Unit)であり、記憶装置2
02に記憶されたプログラムを実行することによって、ロボットハンド(把持部)2の動作を制御する制御装置として動作する。プロセッサ201は、通信IF203を介して受信される外部装置からの命令、の操作者等が入力装置204を用いて入力した命令、又はプログラムの実行によって生成される命令によって様々な処理を行う。
【0099】
例えば、プロセッサ201は、ロボットハンド2の位置、傾き、指2A及び2Bの開閉などを制御する電磁駆動装置206の制御量を計算し、電磁駆動装置206に制御量を示す制御信号を供給する。電磁駆動装置206は、マニピュレータ207が備える複数の関節やリニアスライダー、エアーアクチュエータの空気圧調整用のポンプやバルブに対応する複数のステッピングモータ、サーボモータ、ソレノイドを含み、プロセッサ201から与えられた制御量(回転や移動の方向や速度量)に従った量だけ、駆動制御などする。これによって、ロボットハンド2の位置、傾き、ロボットハンド2が備える複数の指の開閉などが行われる。
【0100】
ロボットハンド2には、中空部44を備える帯電センサ41が取り付けられている。帯電センサ41は、リード線43A及び43Bを介してエレクトロメータ208に接続されている。ロボットハンド2が検体60を把持し、その時に検体60が中空部44に近接すると、中空部44(帯電部52A)の静電容量Cの変化による電位差が生じる。また、検体60が中空部44に接触し加圧すると、摩擦発電による電位差が生じる。これらの電位差によって生じる電流又は電流の時間的変化を示す応答信号が電極53Aからリード線43Bを通じてエレクトロメータ208に入力される。
【0101】
エレクトロメータ208は、応答信号(圧力供給及び供給の解除の繰り返しに伴う応答信号(電流又は電圧)の時間的変化)の測定を行い、エレクトロメータ208が備えるディスプレイに、
図5及び
図6に示したような、応答信号(センサシグナル)を示す電流又は電圧波形を表示する。波形の観察によって、検体60の硬さ、弾性、形状などを目視判定することができる。
【0102】
(処理例1)
帯電センサ41から出力される応答信号は、判定装置200が有する増幅器によって増幅され、AD変換器によってディジタル信号に変換された後、バス210を介してプロセッサ201に入力される。プロセッサ210に入力されるディジタル信号は、帯電センサ
41からの出力信号を示す。電圧の波形は、電流の波形よりも大きく変化するため、電圧の波形を用いることが好ましい。
【0103】
プロセッサ201は、例えば、記憶装置202に予め記憶された各種の波形に関するデータと、帯電センサ41から取得した波形とを比較して、ロボットハンド2によって把持された検体60の硬さを算出(決定)する。記憶装置202には、判定用情報として、検体60の硬さに応じた波形に関するデータが記憶されている。このため、プロセッサ201は、記憶装置202に記憶された波形に関するデータと、帯電センサ41から取得した波形(「測定値」という)とを比較することで、ロボットハンド2によって把持された検体60の硬さを算出(判定)することができる。
【0104】
図8は、判定用情報の一例を示すテーブルである。テーブルは、硬さと、閾値と、検体種別とを示す情報を含む1以上のエントリ(レコード)からなる。硬さは、何らかの物理量でも或る対象物との比較における相対的な硬さを示す値でもよい。例えば、複数種類の検体間での硬さを示す相対値であってもよい。
図8に示すテーブルの例では、硬さの異なる検体A、B及びCに関する硬さと、判定用閾値との関連が、レコード毎に記録されている。硬度“1”が最も柔らかく、値が大きくなるほど硬さが増す。閾値は、TH1<TH2<TH3である。
【0105】
図9は、プロセッサ201の硬さ及び検体種別の判定処理の例を示すフローチャートである。ステップS01では、プロセッサ201は、或る検体60を把持し帯電センサ41から出力される応答信号の測定値を取得する。測定値は、例えば、圧力の供給による電圧レベルの上昇量(増加量)を示す値であるが、これ以外でもよい。
図6のグラフB及びCに示したように、二つの検体60の大きさが同じである場合、柔らかい方の検体60の応答信号のピークが大きくなる。一例として、閾値は、応答信号のピークに対する閾値とすることができる。
【0106】
ステップS02では、プロセッサ201は、測定値が所定の閾値範囲に属しているか否かを判定する。ステップS02における閾値範囲は、“0<測定値=<閾値TH1”である。測定値が閾値範囲に入ると判定される場合(ステップS02のYES)、プロセッサ201は、検体60の硬さが“1”であり、且つ検体60が検体“A”であると判定する。ステップS02にて、測定値が閾値範囲に入らないと判定される場合(ステップS02のNO)、処理がステップS03に進む。
【0107】
ステップS03では、プロセッサ201は、測定値が所定の閾値範囲に属しているか否かを判定する。ステップS03における閾値範囲は、“TH1<測定値=<閾値TH2”である。測定値が閾値範囲に入ると判定される場合(S03のYES)、プロセッサ201は、検体60の硬さが“2”であり、且つ検体60が検体“B”であると判定する。測定値が閾値範囲に入らないと判定される場合(S03のNO)、プロセッサ201は、検体60の硬さが“3”であり、且つ検体60が検体“C”であると判定する。
【0108】
また、プロセッサ201は、ロボットハンド2によって把持された検体60の硬さに応じて、ロボットハンド2の把持状態を制御する。プロセッサ201は、ロボットハンド2の検体60の把持状態における内部中空部分21の空気量(吸引力)を制御することにより、ロボットハンド2の把持状態を制御する。例えば、プロセッサ201は、吸引力の変更によって指2の駆動量を制御することにより、ロボットハンド2が検体60を把持するときの検体60に加わる力を制御してもよい。
【0109】
例えば、検体60の硬さに応じた波形と、検体60の硬さに応じた制御情報とを対応付けて、記憶装置202に記憶してもよい。制御情報は、ロボットハンド2の把持状態を制
御する情報であり、例えば、指2の駆動量に関する情報である。プロセッサ201は、帯電センサ41から取得した波形に基づいて記憶装置202を参照し、記憶装置202から制御情報を取得してロボットハンド2の把持状態を制御してもよい。更に、プロセッサ201は、検体60に関して帯電センサ41から取得された波形に基づいて、ロボットハンド2の移動(位置)や傾きを制御してもよい。
【0110】
プロセッサ201は、帯電センサ41から取得した波形に基づいて、ロボットハンド2によって把持された検体60の良品又は不良品を判定することができる。記憶装置202には、検体60の硬さに応じた波形に関するデータと、検体60の良品又は不良品を示すデータとが対応付けて記憶されている。
【0111】
プロセッサ201は、検体60の硬さと形状に応じた波形に関するデータと、帯電センサ41から取得した波形とを比較して、ロボットハンド2によって把持された検体60が良品又は不良品であるかを判定してもよい。
【0112】
上述したように、応答信号の強度(ピーク)から検体60の硬さが分かる。検体60が例えばリンゴである場合、鮮度が良好であれば硬く(良品)、鮮度の低下(腐敗)が進むと柔らかくなる(不良品)。そこで、以下の構成を採用すれば、検体(リンゴ)の良不良を判定することができる。
【0113】
帯電センサ41を用いて、不良品についての硬さを調べた場合の応答信号の強度(強度大、シグナル強度Baとする)と、良品についての硬さを調べた場合の応答信号の強度(強度小、シグナル強度Caとする)とを測定する。
【0114】
シグナル強度Caをシグナル強度Baで割った値を検体の良否を判定する閾値(TH1)に設定し、
図9のステップS01及びS02の処理を検体60に対して行う。S02の処理において、測定値(シグナル強度)が0より大きく閾値TH1より小さい場合には、検体は良品のクラスに分類される(良品と判定される)。そうでない場合には、検体は不良品のクラスに分類される(不良品と判定される)。
【0115】
これにより、例えば、果物である検体60について、プロセッサ201は果物の選別を行うことができる。また、例えば、品質の良くない果物をジュース用に分別し、品質の良い果物を生食用に分別することができる。更に、プロセッサ201は、AI(Artificial
Intelligence)やディープラーニングと組み合わせて、帯電センサ41から取得した波
形に基づいて、特定の果物のダメージの状態を判定してもよい。
【0116】
なお、複数の指2のそれぞれを交換可能にしてもよいし、指2A及び2B、並びにアクチュエータ3を交換可能にしてもよい。誘電エラストマーの変形張力、糸張力、空気圧による駆動機構の場合、指2A及び2B並びにアクチュエータ3を交換することが容易である。腕部4にロボットハンド2を交換可能に取り付けてもよい。また、マニピュレータ207にカメラ等の撮像装置を設けることにより、撮像装置によって検体60を撮像し、プロセッサ201が検体60の種類を特定してもよい。
【0117】
以上説明したように、プロセッサ201は、帯電センサ41に加わる中空に応じた信号に基づいてロボットハンド2の把持状態を制御する。これにより、検体60を適切に把持することができる。例えば、プロセッサ201は、検体60の硬さに応じて、ロボットハンド2の把持状態を制御することにより、検体60を適切に把持することができる。
【0118】
(処理例2)
帯電センサ41の応答信号、すなわち、静電容量の変化、及び圧力の変化に伴う電流又
は電圧の時間的変化を示す情報(測定値)は、判定装置200に入力されて、記憶装置202に記憶される。記憶装置202には、ロボットハンド2の検体60として扱う複数種類の検体に関する、判定用情報が記憶されている。判定用情報は、予め記憶装置に記憶された判定用情報の読み出しによって取得しても、判定装置200に接続された外部記憶装置から読み出し、或いは適時の通信によって取得してもよい。
【0119】
判定用情報は、圧力の供給及びその解除に伴うレベルの変化量(レベル変動の大きさ)に関して1以上の閾値を含んでもよい。この閾値と変化量の測定値とを比較して、閾値より大きい検体と、閾値より小さい検体とを異なる種類と判定できる。例えば、
図6のグラフAとグラフBとの比較において、大きい物が小さい物よりも早く立ち上がり、ピークを迎える。よって、例えば、ピークまでの到達時間について閾値を設ければ、検体60の大小を判定することができる。
【0120】
また、判定用情報は、応答信号の減衰時間(圧力供給が解除(停止)されてから応答信号の値が0になるまでの時間)に関して1以上の閾値を含んでもよい。このような閾値と、減衰時間の測定値との比較によって、検体の種類を判定することができる。
【0121】
また、応答信号(判定用数値)について、圧力の増加期間におけるレベルの上昇、圧力の減衰期間におけるレベルの低下の少なくとも一方が認められるか否かによって、検体の種類を判定することもできる。
【0122】
このように、判定装置200は、検体に関する応答信号の測定値と判定用情報とを用いて、検体の同定を行うことができる。また、比較対象物に対する、相対的な物性(硬度や弾性)を測定することができる。すなわち、異種物体間での比較、或いは形状の異なる同種間での比較によって、把持された検体の相対的な物性を測定することができる。また、比較対象がなくても、何らかの単位で、検体の硬さや弾性(復帰力)を示すこともできる。さらに、信号中の位相反転箇所の有無を判定することで、把持された検体の形状や接触状態を判定することもできる。
【0123】
図10は、プロセッサ201による、検体の判定処理の例を示すフローチャートである。
図10の処理は、種類(物性や形状)の異なる検体a~eの識別(同定)を行う処理である。ステップS101では、プロセッサ201は、検体に関する応答信号の測定値を取得する。測定値は、エレクトロメータ208からリアルタイムに供給されるものでも、記憶装置202から所定のタイミングで読み出されるものでもよい。
【0124】
ステップS102では、プロセッサ201は、波形の解析によって、1回の圧力供給及びその解除に対応する応答信号(電圧変化)に関して、圧力の増加期間、又は減衰期間に対応する応答信号の期間における位相の反転の有無を判定する。位相反転があると判定される場合には(S102のYES)、識別対象の検体は検体cであると判定する。これに対し、位相反転がないと判定される場合には(S102のNO)、処理がステップS103に進む。
【0125】
ステップS103では、プロセッサ201は、波形の解析によって、1回の圧力供給及びその解除に対応する応答信号(電圧変化)に関して、圧力の減衰期間に対応する応答信号の減衰時間が閾値より長い否かを判定する。減衰時間が閾値より長い(遅延時間がある)場合には、処理がステップS104に進み、そうでないと判定される場合には、処理がステップS105に進む。
【0126】
ステップS104では、プロセッサ201は、遅延時間の長さが閾値以上か否かを判定する。遅延時間の長さが閾値以上と判定される場合(S104のYES)、検体は検体e
であると判定され、そうでない場合には(S104のNO)、検体は検体dであると判定する。
【0127】
ステップS105では、プロセッサ201は、波形の解析によって、1回の圧力供給及びその解除に対応する応答信号(電圧変化)に関して、応答信号のレベル(増加量)が閾値より大きいか否かを判定する。レベルが閾値より大きいと判定される場合には(S105のYES)、検体60は検体bであると判定する。これに対し、レベルが閾値以下の場合には(S105のNO)、検体は検体aと判定する。このようにして、中空帯電センサ40を接触させた検体60が検体a~eのいずれであるかを判定することができる。
【0128】
なお、プロセッサ201は、「判定回路」の一例であり、プロセッサ201が行う判定回路としての処理は、複数のCPUや、複数のコアを有するCPU、DSP、GPUなどのCPU以外のプロセッサによって行われてもよい。また、判定回路としての処理は、ASIC、やFPGAなどの集積回路、プロセッサと集積回路の組み合わせ(SoC(System-on-a-Chip)など)によって行われてもよい。
【0129】
上述した帯電センサ41及び帯電センサ41が適用されたロボットハンド2によれば、可撓性を有する容器等の、容易に変形する物体(検体)を適正に把持することができ、把持の際の変形によって内容物(飲食物など)がこぼれること等を回避することができる。また、判定装置200によれば、帯電センサ41が適用されたロボットハンド2を用いて、検体60の物性、検体60の中空部44に対する状態、検体60の大きさなどを適正に判定することができる。上述した実施形態にて説明した構成は、発明の目的を逸脱しない範囲で適宜組み合わせることができる。
【符号の説明】
【0130】
2 ・・・ロボットハンド(把持部)
2A・・・指
2B・・・指(ハンド型誘電体)
10・・・センサ本体部分
20・・・対電極部
21・・・内部中空部分
22・・・中空内の空気を吸引する為の空気吸引口
44・・・中空部
45・・・中空部の内部
46・・・空気吸引口
41・・・帯電センサ
43・・・取出し部
43A、43B・・・リード線
46・・・空気出入り口
51A、51B・・・帯電部(帯電体)
52B・・・誘電体
52A・・・誘電体
53A、53B・・・電極
531B・・・電極
532B・・・電極
532C・・・スイッチ
54A、54B・・・支持体
55A・・・ 高抵抗層(ノイズ除去層)
58・・・接触面
59・・・押圧面
60・・・検体
200・・・判定回路
201・・・プロセッサ
202・・・記憶装置