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特許7413997広帯域波長フィルムの製造方法、並びに円偏光フィルムの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】広帯域波長フィルムの製造方法、並びに円偏光フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20240109BHJP
【FI】
G02B5/30
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020516349
(86)(22)【出願日】2019-04-22
(86)【国際出願番号】 JP2019017070
(87)【国際公開番号】W WO2019208512
(87)【国際公開日】2019-10-31
【審査請求日】2022-04-11
(31)【優先権主張番号】P 2018087251
(32)【優先日】2018-04-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石原 次郎
(72)【発明者】
【氏名】大里 和弘
【審査官】近藤 幸浩
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/047465(WO,A1)
【文献】特開2010-181710(JP,A)
【文献】特開2011-039343(JP,A)
【文献】特開2002-040258(JP,A)
【文献】特開2009-282546(JP,A)
【文献】国際公開第2012/073462(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/140077(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
B29C55/10
B29L 7/00
B29L 9/00
B29L11/00
B32B 7/023
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺の樹脂フィルムとしての層(A)を用意する第一工程と;
前記層(A)上に、固有複屈折が負の樹脂の層(B)を形成して、複層フィルムを得る第二工程と;
前記複層フィルムを、前記複層フィルムの長手方向に対して平行でなく垂直でもない斜め方向に延伸して、λ/2層及びλ/4層を備える長尺の広帯域波長フィルムを得る第三工程と;をこの順に含み、
前記第一工程で用意される前記層(A)が、当該層(A)の長手方向に平行又は垂直な遅相軸を有し、
前記広帯域波長フィルムの前記λ/2層及び前記λ/4層が、下記式(1)を満たす、広帯域波長フィルムの製造方法。
θ(λ/4)={45°+2×θ(λ/2)}±5° (1)
(前記式(1)において、
θ(λ/2)は、前記広帯域波長フィルムの長手方向に対して、前記λ/2層の遅相軸がなす角度を表し、
θ(λ/4)は、前記広帯域波長フィルムの長手方向に対して、前記λ/4層の遅相軸がなす角度を表す。)
【請求項2】
前記第三工程が、前記複層フィルムを、当該複層フィルムの長手方向に対して45°以下の角度をなす斜め方向に延伸することを含む、請求項1に記載の広帯域波長フィルムの製造方法。
【請求項3】
前記の角度θ(λ/2)が、27.5°±10°の範囲にある、請求項1又は2に記載の広帯域波長フィルムの製造方法。
【請求項4】
前記の角度θ(λ/4)が、100°±20°の範囲にある、請求項1~3のいずれか一項に記載の広帯域波長フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記λ/2層が、前記層(A)を延伸して得られた層である、請求項1~4のいずれか一項に記載の広帯域波長フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記λ/4層が、前記層(B)を延伸して得られた層である、請求項1~5のいずれか一項に記載の広帯域波長フィルムの製造方法。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の製造方法で広帯域波長フィルムを製造する工程と;
前記広帯域波長フィルムと、長尺の直線偏光フィルムとを貼合する工程と;を含む、円偏光フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記直線偏光フィルムが、当該直線偏光フィルムの長手方向に吸収軸を有する、請求項7に記載の円偏光フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広帯域波長フィルム及びその製造方法、並びに円偏光フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
2層以上の層を備える光学フィルムの製造方法について、従来から様々な検討がなされていた(特許文献1~3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2016/047465号
【文献】国際公開第2009/031433号
【文献】特開2009-237534号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
広い波長帯域において波長板として機能できる広帯域波長フィルムとして、λ/2板及びλ/4板を組み合わせて含むフィルムが知られている。このような広帯域波長フィルムは、従来、あるフィルムを延伸してλ/2板を得る工程と、別のフィルムを延伸してλ/4板を得る工程と、これらのλ/2板及びλ/4板を貼合して広帯域波長フィルムを得る工程と、を含む製造方法によって製造されることが一般的であった。
【0005】
また、前記の広帯域波長フィルムを、直線偏光板として機能しうるフィルムとしての直線偏光フィルムと組み合わせることにより、円偏光フィルムを得る技術が知られている。一般に、長尺の直線偏光フィルムは、その長手方向又は幅方向に吸収軸を有する。よって、長尺の直線偏光フィルムに広帯域波長フィルムを組み合わせて円偏光フィルムを得る場合、λ/2板の遅相軸は、その長手方向に平行でなく垂直でもない斜め方向にあることが求められる。
【0006】
前記のように斜め方向に遅相軸を有する所望のλ/2板を容易に製造するために、出願人は、特許文献1に記載されているように、延伸を2回以上行う技術を開発した。そうすると、広帯域波長フィルムの製造方法の全体では、λ/4板を得るための1回以上の延伸と、λ/2板を得るための2回以上の延伸とを行うことになるので、合計の延伸回数は3回以上となる。しかし、延伸回数が3回以上と多いと、操作が煩雑であった。
【0007】
本発明は、前記の課題に鑑みて創案されたもので、少ない工程数で効率良く製造できる広帯域波長フィルム及びその製造方法;及び、前記の広帯域波長フィルムの製造方法を含む円偏光フィルムの製造方法;を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、前記の課題を解決するべく鋭意検討した。その結果、本発明者は、長手方向に平行又は垂直な遅相軸を有する樹脂フィルムとしての層(A)を用意する第一工程と;層(A)上に、固有複屈折が負の樹脂の層(B)を形成して、複層フィルムを得る第二工程と;複層フィルムを、当該複層フィルムの長手方向に対して平行でなく垂直でもない斜め方向に延伸して、λ/2層及びλ/4層を備える長尺の広帯域波長フィルムを得る第三工程と;をこの順に含む製造方法によれば、少ない工程数で効率良く広帯域波長フィルムを製造できることを見い出し、本発明を完成させた。
すなわち、本発明は、下記のものを含む。
【0009】
〔1〕 長尺の樹脂フィルムとしての層(A)を用意する第一工程と;
前記層(A)上に、固有複屈折が負の樹脂の層(B)を形成して、複層フィルムを得る第二工程と;
前記複層フィルムを、前記複層フィルムの長手方向に対して平行でなく垂直でもない斜め方向に延伸して、λ/2層及びλ/4層を備える長尺の広帯域波長フィルムを得る第三工程と;をこの順に含み、
前記第一工程で用意される前記層(A)が、当該層(A)の長手方向に平行又は垂直な遅相軸を有し、
前記広帯域波長フィルムの前記λ/2層及び前記λ/4層が、下記式(1)を満たす、広帯域波長フィルムの製造方法。
θ(λ/4)={45°+2×θ(λ/2)}±5° (1)
(前記式(1)において、
θ(λ/2)は、前記広帯域波長フィルムの長手方向に対して、前記λ/2層の遅相軸がなす角度を表し、
θ(λ/4)は、前記広帯域波長フィルムの長手方向に対して、前記λ/4層の遅相軸がなす角度を表す。)
〔2〕 前記第三工程が、前記複層フィルムを、当該複層フィルムの長手方向に対して45°以下の角度をなす斜め方向に延伸することを含む、〔1〕に記載の広帯域波長フィルムの製造方法。
〔3〕 前記の角度θ(λ/2)が、27.5°±10°の範囲にある、〔1〕又は〔2〕に記載の広帯域波長フィルムの製造方法。
〔4〕 前記の角度θ(λ/4)が、100°±20°の範囲にある、〔1〕~〔3〕のいずれか一項に記載の広帯域波長フィルムの製造方法。
〔5〕 前記λ/2層が、前記層(A)を延伸して得られた層である、〔1〕~〔4〕のいずれか一項に記載の広帯域波長フィルムの製造方法。
〔6〕 前記λ/4層が、前記層(B)を延伸して得られた層である、〔1〕~〔5〕のいずれか一項に記載の広帯域波長フィルムの製造方法。
〔7〕 〔1〕~〔6〕のいずれか一項に記載の製造方法で広帯域波長フィルムを製造する工程と;
前記広帯域波長フィルムと、長尺の直線偏光フィルムとを貼合する工程と;を含む、円偏光フィルムの製造方法。
〔8〕 前記直線偏光フィルムが、当該直線偏光フィルムの長手方向に吸収軸を有する、〔7〕に記載の円偏光フィルムの製造方法。
〔9〕 長尺の広帯域波長フィルムであって、
前記広帯域波長フィルムの長手方向に対して27.5°±10°の角度をなす遅相軸を有するλ/2層と、
前記広帯域波長フィルムの長手方向に対して100°±20°の角度をなす遅相軸を有するλ/4層と、を備えた共延伸フィルムである、長尺の広帯域波長フィルム。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、少ない工程数で効率良く製造できる広帯域波長フィルム及びその製造方法;及び、前記の広帯域波長フィルムの製造方法を含む円偏光フィルムの製造方法;を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、本発明の一実施形態に係る広帯域波長フィルムの製造方法の第一工程で用意される樹脂フィルムとしての層(A)を模式的に示す斜視図である。
図2図2は、本発明の一実施形態に係る広帯域波長フィルムの製造方法の第二工程で得られる複層フィルムを模式的に示す斜視図である。
図3図3は、本発明の一実施形態に係る広帯域波長フィルムの製造方法の第三工程で得られる広帯域波長フィルムを模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について実施形態及び例示物を示して詳細に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施形態及び例示物に限定されるものではなく、本発明の請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0013】
以下の説明において、「長尺」のフィルムとは、幅に対して、5倍以上の長さを有するフィルムをいい、好ましくは10倍若しくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻き取られて保管又は運搬される程度の長さを有するフィルムをいう。フィルムの長さの上限は、特に制限は無く、例えば、幅に対して10万倍以下としうる。
【0014】
以下の説明において、フィルム又は層の遅相軸とは、別に断らない限り、当該フィルム又は層の面内における遅相軸を表す。
【0015】
以下の説明において、フィルム又は層の配向角とは、別に断らない限り、当該フィルム又は層の遅相軸が、当該フィルム又は層の長手方向に対してなす角度を表す。
【0016】
以下の説明において、複数の層を備える部材における各層の光学軸(遅相軸、透過軸、吸収軸等)がなす角度は、別に断らない限り、前記の層を厚み方向から見たときの角度を表す。
【0017】
以下に説明では、ある製品(広帯域波長フィルム、円偏光フィルム、等)の面内の光学軸(遅相軸、透過軸、吸収軸等)の方向及び幾何学的方向(フィルムの長手方向及び幅方向等)の角度関係は、別に断らない限り、ある方向のシフトを正、他の方向のシフトを負として規定され、当該正及び負の方向は、当該製品内の構成要素において共通に規定される。例えば、ある広帯域波長フィルムにおいて、「広帯域波長フィルムの長手方向に対してλ/2層の遅相軸がなす角度が27.5°であり、広帯域波長フィルムの長手方向に対してλ/4層の遅相軸がなす角度が100°である」とは、下記の2通りの場合を表す:
・当該広帯域波長フィルムを、そのある一方の面から観察すると、λ/2層の遅相軸が、広帯域波長フィルムの長手方向から時計周りに27.5°シフトし、且つ、λ/4層の遅相軸が、広帯域波長フィルムの長手方向から時計周りに100°シフトしている。
・当該広帯域波長フィルムを、そのある一方の面から観察すると、λ/2層の遅相軸が、広帯域波長フィルムの長手方向から反時計周りに27.5°シフトし、且つ、λ/4層の遅相軸が、広帯域波長フィルムの長手方向から反時計周りに100°シフトしている。
【0018】
以下の説明において、長尺のフィルムの斜め方向とは、別に断らない限り、そのフィルムの面内方向であって、そのフィルムの長手方向に平行でもなく垂直でもない方向を示す。
【0019】
以下の説明において、あるフィルムの正面方向とは、別に断らない限り、当該フィルムの主面の法線方向を意味し、具体的には前記主面の極角0°且つ方位角0°の方向を指す。
【0020】
以下の説明において、あるフィルムの傾斜方向とは、別に断らない限り、当該フィルムの主面に平行でも垂直でもない方向を意味し、具体的には前記主面の極角が0°より大きく90°より小さい範囲の方向を指す。
【0021】
以下の説明において、固有複屈折が正の材料とは、別に断らない限り、延伸方向の屈折率がそれに直交する方向の屈折率よりも大きくなる材料を意味する。また、固有複屈折が負の材料とは、別に断らない限り、延伸方向の屈折率がそれに直交する方向の屈折率よりも小さくなる材料を意味する。固有複屈折の値は誘電率分布から計算することができる。
【0022】
以下の説明において、「(メタ)アクリル」は、「アクリル」、「メタクリル」及びこれらの組み合わせを包含する。
【0023】
以下の説明において、層の面内レターデーションReは、別に断らない限り、Re=(nx-ny)×dで表される値である。また、層の厚み方向のレターデーションRthは、別に断らない限り、Rth=[{(nx+ny)/2}-nz]×dで表される値である。さらに、層のNZ係数は、別に断らない限り、(nx-nz)/(nx-ny)で表される値である。ここで、nxは、層の厚み方向に垂直な方向(面内方向)であって最大の屈折率を与える方向の屈折率を表す。nyは、層の前記面内方向であってnxの方向に直交する方向の屈折率を表す。nzは層の厚み方向の屈折率を表す。dは、層の厚みを表す。測定波長は、別に断らない限り、590nmである。
【0024】
以下の説明において、要素の方向が「平行」、「垂直」及び「直交」とは、別に断らない限り、本発明の効果を損ねない範囲内、例えば±3°、±2°又は±1°の範囲内での誤差を含んでいてもよい。
【0025】
[1.概要]
図1は、本発明の一実施形態に係る広帯域波長フィルムの製造方法の第一工程で用意される樹脂フィルムとしての層(A)100を模式的に示す斜視図である。また、図2は、本発明の一実施形態に係る広帯域波長フィルムの製造方法の第二工程で得られる複層フィルム200を模式的に示す斜視図である。さらに、図3は、本発明の一実施形態に係る広帯域波長フィルムの製造方法の第三工程で得られる広帯域波長フィルム300を模式的に示す斜視図である。
【0026】
本発明の一実施形態に係る広帯域波長フィルム300の製造方法は、
(1)図1に示すように、長尺の樹脂フィルムとしての層(A)100を用意する第一工程と;
(2)層(A)100上に、固有複屈折が負の樹脂の層(B)210を形成して、図2に示す複層フィルム200を得る第二工程と;
(3)複層フィルム200を延伸して、図3に示す長尺の広帯域波長フィルム300を得る第三工程と;
をこの順に含む。
【0027】
図1に示すように、第一工程で用意される層(A)100は、当該層(A)100の長手方向に平行又は垂直な遅相軸A100を有する。第二工程でこの層(A)100上に層(B)210を形成して図2に示す複層フィルム200を得た後で、複層フィルム200を第三工程で延伸する。この延伸は、所望の方向に遅相軸を有するλ/2層及びλ/4層が得られるように、当該複層フィルム200の長手方向に対して平行でなく垂直でもない斜め方向に行う。
【0028】
第三工程での延伸により、層(A)100及び層(B)210を同時に延伸する共延伸が行われる。よって、図3に示すように、層(A)100では、遅相軸A100の方向の調整と、光学特性の調整とが行われる。他方、層(B)210に遅相軸A210が現れ、光学特性が発現する。延伸後の層(A)100はλ/2層及びλ/4層の一方として機能し、延伸後の層(B)210はλ/2層及びλ/4層の他方として機能する。よって、前記の製造方法により、λ/2層及びλ/4層を備える広帯域波長フィルム300が得られる。図3では、延伸後の層(A)100がλ/2層として機能し、延伸後の層(B)210がλ/4層として機能する例を示すが、広帯域波長フィルム300の構成はこの例に限定されない。
【0029】
前記のλ/2層及びλ/4層は、下記式(1)を満たす。
θ(λ/4)={45°+2×θ(λ/2)}±5° (1)
式(1)は、θ(λ/4)が「{45°+2×θ(λ/2)}-5°」以上「{45°+2×θ(λ/2)}+5°」以下の範囲にあることを表す。式(1)において、θ(λ/2)は、広帯域波長フィルム300の長手方向A300に対して、λ/2層の遅相軸A100がなす角度を表す。また、θ(λ/4)は、広帯域波長フィルム300の長手方向A300に対して、λ/4層の遅相軸A210がなす角度を表す。この式(1)を満たすλ/2層及びλ/4層の組み合わせを含むことにより、広帯域波長フィルム300は、広い波長範囲において当該フィルムを透過する光にその光の波長の略1/4波長の面内レターデーションを与えることが可能な広帯域波長フィルムとして機能できる。
【0030】
通常、広帯域波長フィルム300の長手方向A300、λ/4層の長手方向(図示せず)、及び、λ/2層の長手方向(図示せず)は、一致する。よって、角度θ(λ/2)は、λ/2層の長手方向に対して当該λ/2層の遅相軸A100がなす配向角を表すので、以下、「配向角θ(λ/2)」と呼ぶことがある。また、角度θ(λ/4)は、λ/4層の長手方向に対して当該λ/4層の遅相軸A210がなす配向角を表すので、以下、「配向角θ(λ/4)」と呼ぶことがある。
【0031】
[2.第一工程]
第一工程では、面内の所定の方向に遅相軸を有する長尺の樹脂フィルムとしての層(A)を用意する。この層(A)としては、2層以上の層を含む複層構造の樹脂フィルムを用いてもよいが、通常は、1層のみを含む単層構造の樹脂フィルムを用いる。
【0032】
樹脂フィルムを形成する樹脂としては、重合体を含み、必要に応じて更に任意の成分を含む熱可塑性樹脂を用いうる。特に、層(A)に含まれる樹脂としては、固有複屈折が負の樹脂を用いてもよいが、広帯域波長フィルムの製造を特に容易に行えることから、固有複屈折が正の樹脂を用いることが好ましい。
【0033】
固有複屈折が正の樹脂は、通常、固有複屈折が正の重合体を含む。固有複屈折が正の重合体の例を挙げると、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等のポリエステル;ポリフェニレンサルファイド等のポリアリーレンサルファイド;ポリビニルアルコール;ポリカーボネート;ポリアリレート;セルロースエステル重合体、ポリエーテルスルホン;ポリスルホン;ポリアリルサルホン;ポリ塩化ビニル;ノルボルネン重合体等の環状オレフィン重合体;棒状液晶ポリマーなどが挙げられる。これらの重合体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。また、重合体は、単独重合体でもよく、共重合体でもよい。これらの中でも、レターデーションの発現性及び低温での延伸性に優れることから、ポリカーボネート重合体が好ましい。また、機械特性、耐熱性、透明性、低吸湿性、寸法安定性及び軽量性に優れることから、環状オレフィン重合体が好ましい。
【0034】
層(A)に含まれる樹脂における重合体の割合は、好ましくは50重量%~100重量%、より好ましくは70重量%~100重量%、特に好ましくは90重量%~100重量%である。重合体の割合が前記範囲にある場合、層(A)及び広帯域波長フィルムが十分な耐熱性及び透明性を得られる。
【0035】
層(A)に含まれる樹脂は、重合体に組み合わせて、更に前記重合体以外の任意の成分を含みうる。任意の成分としては、例えば、顔料、染料等の着色剤;可塑剤;蛍光増白剤;分散剤;熱安定剤;光安定剤;紫外線吸収剤;帯電防止剤;酸化防止剤;微粒子;界面活性剤等が挙げられる。これらの成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0036】
層(A)に含まれる樹脂のガラス転移温度TgAは、好ましくは100℃以上、より好ましくは110℃以上、特に好ましくは120℃以上であり、好ましくは190℃以下、より好ましくは180℃以下、特に好ましくは170℃以下である。層(A)に含まれる樹脂のガラス転移温度が前記範囲の下限値以上である場合、層(A)を延伸して得られる層(λ/2層又はλ/4層)の高温環境下における耐久性を高めることができる。また、層(A)に含まれる樹脂のガラス転移温度が前記範囲の上限値以下である場合、延伸処理を容易に行える。
【0037】
第一工程で用意される層(A)が有する遅相軸は、当該層(A)の長手方向に平行又は垂直である。よって、層(A)の遅相軸が当該層の長手方向に対してなす配向角は、下記(a1)及び(a2)のいずれかを満たすことが好ましい。
(a1):層(A)の配向角が、好ましくは-3°以上、更に好ましくは-2°以上、特に好ましくは-1°以上であり、好ましくは3°以下、更に好ましくは2°以下、特に好ましくは1°以下である。
(a2):層(A)の配向角が、好ましくは87°以上、更に好ましくは88°以上、特に好ましくは89°以上であり、好ましくは93°以下、更に好ましくは92°以下、特に好ましくは91°以下である。
このような遅相軸を有する層(A)を用いた場合、好ましい光学特性を有する広帯域波長フィルムを容易に得ることができる。
【0038】
第一工程で用意される層(A)のレターデーション及びNZ係数等の光学特性は、当該層(A)を延伸して得られる層の光学特性に応じて設定しうる。
【0039】
例えば、層(A)を延伸してλ/2層を得ようとする場合、層(A)の面内レターデーションは、好ましくは150nm以上、より好ましくは180nm以上、特に好ましくは200nm以上であり、好ましくは400nm以下、より好ましくは380nm以下、特に好ましくは350nm以下である。また、層(A)のNZ係数は、好ましくは1.0以上、より好ましくは1.1以上、特に好ましくは1.15以上であり、好ましくは1.7以下、より好ましくは1.65以下、特に好ましくは1.6以下である。
【0040】
第一工程で用意される層(A)の厚みは、所望の広帯域波長フィルムが得られる範囲で任意に設定しうる。層(A)の具体的な厚みは、好ましくは20μm以上、より好ましくは25μm以上、特に好ましくは30μm以上であり、好ましくは100μm以下、より好ましくは95μm以下、特に好ましくは90μm以下である。層(A)の厚みが前記範囲にある場合、第三工程での延伸によって所望の光学特性を有するλ/2層又はλ/4層を容易に得ることができる。
【0041】
層(A)は、適切な長尺の樹脂フィルムを延伸して、当該樹脂フィルムに遅相軸を発現させることを含む製造方法によって、得ることができる。以下の説明では、延伸処理を施される前の樹脂フィルムを「延伸前フィルム」と呼び、延伸後に得られる樹脂フィルムを「延伸フィルム」と呼ぶことがある。
【0042】
延伸前フィルムは、例えば、溶融成形法又は溶液流延法によって製造できる。溶融成形法のより具体的な例としては、押出成形法、プレス成形法、インフレーション成形法、射出成形法、ブロー成形法、及び延伸成形法が挙げられる。これらの方法の中でも、機械強度及び表面精度に優れた層(A)を得るために、押出成形法、インフレーション成形法又はプレス成形法が好ましく、中でも効率よく簡単に層(A)を製造できる観点から押出成形法が特に好ましい。
【0043】
長尺の延伸前フィルムを用意した後で、その長尺の延伸前フィルムを延伸して、延伸フィルムとしての層(A)を得ることができる。
【0044】
層(A)の遅相軸は、通常、延伸前フィルムを延伸したことによって発現する。よって延伸前フィルムの延伸方向は、層(A)の遅相軸の方向に応じて設定することが好ましい。例えば、延伸前フィルムが固有複屈折が正の樹脂で形成されている場合、延伸前フィルムの延伸方向は、第一工程で用意しようとする層(A)の遅相軸に平行な方向に設定することが好ましい。また、例えば、延伸前フィルムが固有複屈折が負の樹脂で形成されている場合、延伸前フィルムの延伸方向は、第一工程で用意しようとする層(A)の遅相軸に垂直な方向に設定することが好ましい。したがって、延伸前フィルムの延伸方向は、当該延伸前フィルムの長手方向に平行又は垂直な方向であることが好ましい。特に、所望の広帯域波長フィルムを容易に製造する観点では、延伸前フィルムの延伸方向は、当該延伸前フィルムの長手方向に垂直な方向が好ましい。
【0045】
延伸前フィルムの延伸倍率は、好ましくは1.1倍以上、より好ましくは1.2倍以上であり、好ましくは4.0倍以下、より好ましくは3.0倍以下である。延伸倍率が前記範囲の下限値以上である場合、延伸方向の屈折率を大きくできる。また、延伸倍率が前記範囲の上限値以下である場合、層(A)を延伸して得られる層の遅相軸の方向を容易に制御することができる。
【0046】
延伸前フィルムの延伸温度は、好ましくはTgA以上、より好ましくは「TgA+2℃」以上、特に好ましくは「TgA+5℃」以上であり、好ましくは「TgA+40℃」以下、より好ましくは「TgA+35℃」以下、特に好ましくは「TgA+30℃」以下である。ここで、TgAとは、層(A)に含まれる樹脂のガラス転移温度を言う。延伸温度が前記の範囲にある場合、延伸前フィルムに含まれる分子を確実に配向させることができるので、所望の光学特性を有する層(A)を容易に得ることができる。
【0047】
上述した延伸は、通常、延伸前フィルムを長手方向に連続的に搬送しながら、ロール延伸機、テンター延伸機等の適切な延伸機を用いて行なうことができる。例えば、延伸前フィルムを当該延伸前フィルムの長手方向に延伸する場合には、ロール延伸機を用いることが好ましい。ロール延伸機により、自由一軸延伸を容易に行うことができる。自由一軸延伸とは、ある一方向への延伸であって、延伸される方向以外の方向に拘束力を加えない延伸のことをいう。これらの延伸機としては、例えば、特許文献1に記載のものを用いうる。
【0048】
[3.第四工程]
広帯域波長フィルムの製造方法は、第一工程において層(A)を用意した後で、必要に応じて、層(A)上に薄膜層を形成する工程を含んでいてもよい。適切な薄膜層を形成することにより、薄膜層は易接着層として機能し、層(A)と層(B)との結着力を高めることができる。また、薄膜層は、耐溶媒性を有することが好ましい。このような薄膜層は、通常、樹脂により形成される。
【0049】
薄膜層の材料としては、例えば、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、アクリルウレタン樹脂、エステル樹脂、エチレンイミン樹脂等が挙げられる。アクリル樹脂は、アクリルポリマーを含む樹脂である。また、ウレタン樹脂は、ポリウレタンを含む樹脂である。アクリルポリマー及びポリウレタン等の重合体は、通常、広範な種類の樹脂に対して高い結着力を有するので、層(A)と層(B)との結着力を高めることができる。また、これらの重合体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0050】
薄膜層の材料としての樹脂は、重合体に組み合わせて、耐熱安定剤、耐候安定剤、レベリング剤、帯電防止剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、防曇剤、滑剤、染料、顔料、天然油、合成油、ワックス、粒子等の任意の成分を含んでいてもよい。任意の成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0051】
薄膜層の材料としての樹脂のガラス転移温度は、層(A)に含まれる樹脂のガラス転移温度TgA、及び、層(B)に含まれる固有複屈折が負の樹脂のガラス転移温度TgBよりも低いことが好ましい。特に、薄膜層の材料としての樹脂のガラス転移温度と、ガラス転移温度TgA及びTgBのうち低い方の温度との差は、5℃以上が好ましく、10℃以上がより好ましく、20℃以上が特に好ましい。これにより、第三工程における延伸によって薄膜層にレターデーションが発現することを抑制できるので、広帯域波長フィルムでの薄膜層が光学等方性を有することができる。よって、広帯域波長フィルムの光学特性の調整を容易にすることができる。
【0052】
薄膜層は、例えば、薄膜層の材料としての樹脂と、溶媒とを含む塗工液を、層(A)上に塗工することを含む方法によって、形成できる。溶媒としては、水を用いてもよく、有機溶媒を用いてもよい。有機溶媒としては、例えば、後述する層(B)の形成に用いうる溶媒と同様のものが挙げられる。また、溶媒は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0053】
さらに、前記の塗工液は、架橋剤を含んでいてもよい。架橋剤を用いることにより、薄膜層の機械的強度を高めたり、薄膜層の層(A)及び層(B)に対する結着性を高めたりすることができる。架橋剤としては、例えば、エポキシ化合物、アミノ化合物、イソシアネート化合物、カルボジイミド化合物、オキサゾリン化合物等を使用できる。また、これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。架橋剤の量は、塗工液中の重合体100重量部に対して、好ましくは1重量部以上、より好ましくは5重量部以上であり、好ましくは70重量部以下、より好ましくは65重量部以下である。
【0054】
塗工液の塗工方法は、例えば、後述する層(B)の形成に用いうる塗工方法と同様の方法が挙げられる。
【0055】
層(A)上に塗工液を塗工することにより、薄膜層を形成できる。この薄膜層には、必要に応じて、乾燥及び架橋等の硬化処理を施してもよい。乾燥方法としては、例えば、オーブンを用いた加熱乾燥が挙げられる。また、架橋方法としては、例えば、加熱処理、紫外線等の活性エネルギー線の照射処理、などの方法が挙げられる。
【0056】
[4.第二工程]
第一工程において層(A)を用意し、必要に応じて薄膜層を形成した後で、固有複屈折が負の樹脂の層(B)を形成して、複層フィルムを得る第二工程を行う。この第二工程では、層(A)上に、直接、又は、薄膜層等の任意の層を介して間接的に、層(B)を形成する。ここで「直接」とは、層(A)と層(B)との間に任意の層が無いことをいう。
【0057】
固有複屈折が負の樹脂は、通常は熱可塑性樹脂であり、固有複屈折が負の重合体を含む。固有複屈折が負の重合体の例を挙げると、スチレン又はスチレン誘導体の単独重合体及び共重合体、並びに、スチレン又はスチレン誘導体と任意のモノマーとの共重合体を含むポリスチレン系重合体;ポリアクリロニトリル重合体;ポリメチルメタクリレート重合体;あるいはこれらの多元共重合ポリマー;並びに、セルロースエステル等のセルロース化合物などが挙げられる。また、スチレン又はスチレン誘導体に共重合させうる前記任意のモノマーとしては、例えば、アクリロニトリル、無水マレイン酸、メチルメタクリレート、及びブタジエンが好ましいものとして挙げられる。中でも、ポリスチレン系重合体及びセルロース化合物が好ましい。また、これらの重合体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0058】
固有複屈折が負の樹脂における重合体の割合は、好ましくは50重量%~100重量%、より好ましくは70重量%~100重量%、特に好ましくは90重量%~100重量%である。重合体の割合が前記範囲にある場合、層(B)を延伸して得られる層(λ/2層又はλ/4層)が適切な光学特性を発現できる。
【0059】
層(B)に含まれる固有複屈折が負の樹脂は、可塑剤を含むことが好ましい。可塑剤を用いることにより、層(B)に含まれる樹脂のガラス転移温度TgBを適切に調整することができる。可塑剤としては、フタル酸エステル、脂肪酸エステル、リン酸エステル、およびエポキシ誘導体などが挙げられる。可塑剤の具体例としては、特開2007-233114号公報に記載の物が挙げられる。また、可塑剤は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0060】
可塑剤の中でも、入手が容易であり、安価であることから、リン酸エステルが好ましい。リン酸エステルの例としては、トリエチルフォスフェート、トリブチルフォスフェート、トリオクチルフォスフェート等の、トリアルキルフォスフェート;トリクロロエチルフォスフェート等の、ハロゲン含有トリアルキルフォスフェート;トリフェニルフォスフェート、トリクレジルフォスフェート、トリス(イソプロピルフェニル)フォスフェート、クレジルジフェニルフォスフェート等の、トリアリールフォスフェート;オクチルジフェニルフォスフェート等の、アルキル-ジアリールフォスフェート;トリ(ブトキシエチル)フォスフェート等の、トリ(アルコキシアルキル)ホスフェート;などが挙げられる。
【0061】
可塑剤の量は、層(B)に含まれる固有複屈折が負の樹脂の量100重量%に対して、好ましくは0.001重量%以上、より好ましくは0.005重量%以上、特に好ましくは0.1重量%以上であり、好ましくは20重量%以下、より好ましくは18重量%以下、特に好ましくは15重量%以下である。可塑剤の量が前記の範囲にある場合、層(B)に含まれる樹脂のガラス転移温度TgBを適切に調整できるので、所望の広帯域波長フィルムが得られる適切な延伸を第三工程で容易に行うことが可能である。
【0062】
固有複屈折が負の樹脂は、前記の重合体及び可塑剤に組み合わせて、更に前記重合体及び可塑剤以外の任意の成分を含みうる。任意の成分としては、例えば、層(A)に含まれる樹脂が含みうる任意の成分と同じ例が挙げられる。任意の成分は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0063】
層(B)に含まれる固有複屈折が負の樹脂のガラス転移温度TgBは、好ましくは80℃以上、より好ましくは90℃以上、更に好ましくは100℃以上、中でも好ましくは110℃以上、特に好ましくは120℃以上である。固有複屈折が負の樹脂のガラス転移温度TgBがこのように高い場合、固有複屈折が負の樹脂の配向緩和を低減することができる。固有複屈折が負の樹脂のガラス転移温度TgBの上限に特に制限は無いが、通常は200℃以下である。
【0064】
第三工程における延伸によって層(A)及び層(B)の両方の光学特性を適切な範囲に調整する観点から、層(A)に含まれる樹脂のガラス転移温度TgAと層(B)に含まれる樹脂のガラス転移温度TgBとは、近いことが好ましい。具体的には、ガラス転移温度TgAとガラス転移温度TgBとの差の絶対値|TgA-TgB|が、好ましくは20℃以下、より好ましくは15℃以下、特に好ましくは10℃以下である。
【0065】
層(B)は、面内レターデーション及び遅相軸を有していてもよい。層(B)が面内レターデーション及び遅相軸を有する場合、第三工程での延伸によって、層(B)の面内レターデーション及び遅相軸方向が調整される。しかし、このような調整を行うための延伸条件の設定は、複雑となり易い。そこで、第三工程での延伸後に層(B)において所望の光学特性及び遅相軸方向を容易に得る観点からは、第二工程で形成する層(B)は、面内レターデーション及び遅相軸を有さないか、有するとしても面内レターデーションが小さいことが好ましい。具体的には、層(B)の面内レターデーションは、好ましくは0nm~20nm、より好ましくは0nm~15nm、特に好ましくは0nm~10nmである。
【0066】
第二工程で形成する層(B)の厚みは、所望の広帯域波長フィルムが得られる範囲で、任意に設定しうる。層(B)の具体的な厚みは、好ましくは3μm以上、より好ましくは5μm以上、特に好ましくは7μm以上であり、好ましくは30μm以下、より好ましくは25μm以下、特に好ましくは20μm以下である。層(B)の厚みが前記範囲にある場合、延伸によって所望の光学特性を有するλ/2層又はλ/4層を容易に得ることができる。
【0067】
層(B)の形成方法に特段の制限は無く、例えば、塗工法、押出法、貼合法などの形成方法を用いうる。
【0068】
塗工法によって層(B)を形成する場合、第二工程は、層(A)上に、固有複屈折が負の樹脂を含む組成物を塗工することを含む。前記の組成物は、通常、固有複屈折が負の樹脂に組み合わせて更に溶媒を含む液状の組成物である。溶媒としては、例えば、酢酸メチル、酢酸エチル、アセトン、メチルエチルケトン、3-メチル-2-ブタノン、メチルイソブチルケトン、テトラヒドロフラン、シクロペンチルメチルエーテル、アセチルアセトン、シクロヘキサノン、2-メチルシクロヘキサノン、1,3-ジオキソラン、1,4-ジオキサン、2-ペンタノン、N,N-ジメチルホルムアミドなどが挙げられる。また、溶媒は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。溶媒は、溶解、配向緩和等の現象を層(A)に生じさせる可能性があるが、通常は、液状の組成物の塗工厚みが薄く、また、塗工後速やかに乾燥するので、前記の現象の程度は無視できるほど小さい。
【0069】
前記の組成物の塗工方法としては、例えば、カーテンコーティング法、押し出しコーティング法、ロールコーティング法、スピンコーティング法、ディップコーティング法、バーコーティング法、スプレーコーティング法、スライドコーティング法、印刷コーティング法、グラビアコーティング法、ダイコーティング法、ギャップコーティング法、及びディッピング法などが挙げられる。
【0070】
また、塗工法では、第二工程は、組成物を層(A)上に塗工した後で、必要に応じて塗工された組成物を乾燥させることを含む。乾燥により溶媒が除去されて、層(A)上に固有複屈折が負の樹脂の層(B)を形成することができる。乾燥は、例えば、自然乾燥、加熱乾燥、減圧乾燥、減圧加熱乾燥等の乾燥方法で行いうる。
【0071】
押出法によって層(B)を形成する場合、第二工程は、層(A)上に、固有複屈折が負の樹脂を押し出すことを含む。樹脂の押し出しは、通常、当該樹脂が溶融した状態で行われる。また、樹脂は、通常、ダイを用いて、フィルム状に押し出される。このように押し出された固有複屈折が負の樹脂が層(A)又は薄膜層に付着することで、層(A)上に固有複屈折が負の樹脂の層(B)を形成することができる。また、押出法によって層(B)を形成する場合、第二工程は、通常、押し出されて層(A)に付着した固有複屈折が負の樹脂を冷却して硬化させることを含む。
【0072】
貼合法によって層(B)を形成する場合、第二工程は、層(A)に、固有複屈折が負の樹脂のフィルムを貼合することを含む。固有複屈折が負の樹脂のフィルムの製造方法としては、例えば、押出成形法、インフレーション成形法、プレス成形法等の溶融成形法;溶液流延法;が挙げられる。また、固有複屈折が負の樹脂のフィルムと層(A)との貼合には、必要に応じて、接着剤又は粘着剤を用いてもよい。
【0073】
上述した層(B)の形成方法の中でも、塗工法が好ましい。一般に、固有複屈折が負の樹脂は、機械的強度が低い傾向がある。しかし、塗工法によれば、このように機械的強度が低い樹脂を用いながら、層(B)を容易に形成できる。この点、例えば、貼合法を用いる場合、適切な支持フィルム上に層(B)を形成し、この層(B)を層(A)に貼り合わせると、層(B)の破損を抑制しながら層(A)上に層(B)を形成することが可能である。しかし、支持フィルム上への層(B)の形成と、この支持フィルムから層(A)への層(B)の転写という多くの工程を行う貼合法に比べ、塗工法は、層(B)の形成に要する工程数を少なくできる。さらに、塗工法によれば、接着剤及び粘着剤が不要である。また、塗工法では、押出法よりも層(B)自体の厚みを薄くし易い。よって、薄い広帯域波長フィルムを少ない工程数で得る観点では、塗工法によって層(B)を形成することが好ましい。
【0074】
[5.第三工程]
第二工程において層(A)及び層(B)を備える複層フィルムを得た後で、この複層フィルムを延伸して、長尺の広帯域波長フィルムを得る第三工程を行う。第三工程での延伸により、層(A)の遅相軸の方向が調整され、且つ、層(A)の光学特性が調整されて、λ/2層及びλ/4層の一方が得られる。また、第三工程での延伸により、層(B)に遅相軸が現れ、且つ、層(B)に光学特性が発現して、λ/2層及びλ/4層の他方が得られる。
【0075】
第三工程での複層フィルムの延伸は、当該複層フィルムの長手方向に対して平行でなく垂直でもない斜め方向に行われる。具体的な延伸方向は、複層フィルムの面内方向の中から、所望の広帯域波長フィルムが得られるように、設定される。
【0076】
例えば、層(A)が固有複屈折が正の樹脂の層である場合には、層(A)の遅相軸の方向は、第三工程での延伸によって、その延伸方向に近づくように変化する。また、例えば、層(A)が固有複屈折が負の樹脂の層である場合には、層(A)の遅相軸の方向は、第三工程での延伸によって、その延伸方向に垂直な方向に近づくように変化する。このように、通常、層(A)の遅相軸の方向は、第三工程での延伸によって変化する。さらに、層(B)では、通常、第三工程での延伸によって、その延伸方向に垂直な方向に遅相軸が現れる。したがって、第三工程での延伸方向は、前記のような層(A)での遅相軸の方向の変化、及び、層(B)での遅相軸の発現によって、所望の方向に遅相軸を有するλ/2層及びλ/4層が得られるように設定することが好ましい。
【0077】
第三工程における複層フィルムの延伸方向が、当該複層フィルムの長手方向に対してなす具体的な角度は、好ましくは4°以上、特に好ましくは5°以上であり、好ましくは45°以下、より好ましくは30°以下、特に好ましくは20°以下である。このような延伸方向に複層フィルムを延伸した場合、λ/2層及びλ/4層の遅相軸の方向を容易に制御することが可能である。
【0078】
第三工程における複層フィルムの延伸方向と、層(A)の遅相軸とがなす角度の大きさ(角度の絶対値)は、好ましくは45°以上、より好ましくは60°以上、特に好ましくは70°以上であり、好ましくは86°以下、特に好ましくは85°以下である。このような延伸方向に複層フィルムを延伸した場合、λ/2層及びλ/4層の遅相軸を、式(1)の関係を満たすように調整することが容易となる。
【0079】
第三工程における延伸倍率は、好ましくは1.1倍以上、より好ましくは1.15倍以上、特に好ましくは1.2倍以上であり、好ましくは2.5倍以下、より好ましくは2.2倍以下、特に好ましくは2.0倍以下である。第三工程における延伸倍率が前記範囲の下限値以上である場合、シワの発生を抑制できる。また、第三工程における延伸倍率が前記範囲の上限値以下である場合、λ/2層及びλ/4層の遅相軸の方向を容易に制御することが可能となる。
【0080】
第三工程における延伸温度は、層(A)に含まれる樹脂のガラス転移温度TgA及び層(B)に含まれる固有複屈折が負の樹脂のガラス転移温度TgBに対して、下記の条件(C1)及び(C2)の両方を満たすことが好ましい。
(C1)延伸温度が、好ましくはTgA-20℃以上、より好ましくはTgA-10℃以上、特に好ましくはTgA-5℃以上であり、好ましくはTgA+30℃以下、より好ましくはTgA+25℃以下、特に好ましくはTgA+20℃以下の温度である。
(C2)延伸温度が、好ましくはTgB-20℃以上、より好ましくはTgB-10℃以上、特に好ましくはTgB-5℃以上であり、好ましくはTgB+30℃以下、より好ましくはTgB+25℃以下、特に好ましくはTgB+20℃以下の温度である。
このような延伸温度で延伸を行うことにより、層(A)の光学特性を適切に調整でき、且つ、層(B)に所望の光学特性を発現させることができる。よって、所望の光学特性を有する広帯域波長フィルムを得ることができる。
【0081】
上述した第三工程での延伸は、任意の延伸機を用いて行うことができ、例えば、テンター延伸機、ロール延伸機を用いて行うことができる。これらの延伸機を用いた延伸は、長尺の複層フィルムを長手方向に連続的に搬送しながら行うことが好ましい。
【0082】
[6.任意の工程]
上述した広帯域波長フィルムの製造方法は、上述した工程に組み合わせて、更に任意の工程を含んでいてもよい。
例えば、広帯域波長フィルムの製造方法は、広帯域波長フィルムの表面に保護層を設ける工程を含んでいてもよい。
【0083】
さらに、例えば、広帯域波長フィルムの製造方法は、任意の時点において、層(A)、層(B)、及び薄膜層のうち1又は2以上の表面に、コロナ処理、プラズマ処理等の表面処理を施す工程を含んでいてもよい。よって、例えば、層(A)の表面に表面処理を施した後で、その処理面に層(B)又は薄膜層を形成してもよい。また、例えば、薄膜層の表面に表面処理を施した後で、その処理面に層(B)を形成してもよい。表面処理を行うことにより、当該表面処理を施された面において層同士の結着性を高めることが可能である。
【0084】
上述した第一工程~第四工程及び任意の工程は、いずれも、層(A)、複層フィルム及び広帯域波長フィルム等のフィルムを連続的に搬送しながら行いうる。このようなファイルの搬送の搬送方向は、通常、当該フィルムの長手方向である。よって、前記の搬送の際には、フィルムの長手方向及び幅方向は、通常、搬送のMD方向(Machine Direction)及びTD方向(Transverse Direction)に一致する。
【0085】
[7.広帯域波長フィルム]
上述した製造方法により、λ/2層及びλ/4層を備えた共延伸フィルムを得ることができる。この共延伸フィルムのλ/2層及びλ/4層は、前記式(1)を満たす。式(1)で表される関係を満たすλ/2層とλ/4層との組み合わせは、広い波長範囲において当該フィルムを透過する光にその光の波長の略1/4波長の面内レターデーションを与えることが可能な広帯域波長フィルムとして機能できる(特開2007-004120号公報参照)。よって、上述した製造方法によれば、λ/2層及びλ/4層を備えた共延伸フィルムとして、長尺の広帯域波長フィルムを得ることができる。より広い波長範囲で機能できる広帯域波長フィルムを実現する観点では、λ/2層及びλ/4層は、式(2)を満たすことが好ましく、式(3)を満たすことがより好ましい。式(2)は、θ(λ/4)が「{+45°+2×θ(λ/2)}-4°」以上「{+45°+2×θ(λ/2)}+4°」以下の範囲にあることを表す。また、式(3)は、θ(λ/4)が「{+45°+2×θ(λ/2)}-3°」以上「{+45°+2×θ(λ/2)}+3°」以下の範囲にあることを表す。
θ(λ/4)={+45°+2×θ(λ/2)}±5° (1)
θ(λ/4)={+45°+2×θ(λ/2)}±4° (2)
θ(λ/4)={+45°+2×θ(λ/2)}±3° (3)
【0086】
上述した製造方法では、層(A)及び層(B)の延伸を、従来のように別々に行うのではなく、第三工程において一緒に行っている。そのため、従来よりも延伸処理の回数を減らすことができるので、広帯域波長フィルムの製造に要する工程数を減らすことができ、したがって、効率の良い製造を実現できる。また、複層フィルムを延伸することで層(A)及び層(B)を共延伸して広帯域波長フィルムを得る前記の製造方法では、λ/2層及びλ/4層それぞれの製造後に両者を貼り合わせる従来の製造方法のように、貼り合わせによる遅相軸方向のズレを生じない。そのため、λ/2層及びλ/4層それぞれの遅相軸の方向を精密に制御することが容易であるので、効果的な色付き抑制が可能な円偏光フィルムを実現できる高品質の広帯域波長フィルムを容易に得ることができる。
【0087】
得られた広帯域波長フィルムにおいて、λ/2層は、層(A)及び層(B)の一方が延伸して得られる層であり、λ/4層は、層(A)及び層(B)の他方が延伸して得られる層である。中でも、広帯域波長フィルムの製造が特に容易であることから、λ/2層が、層(A)を延伸して得られた層であることが好ましく、また、λ/4層が、層(B)を延伸して得られた層であることが好ましい。よって、λ/2層は、好ましくは層(A)と同じ樹脂からなる層であり、λ/4層は、好ましくは層(B)と同じ樹脂からなる層である。
【0088】
λ/2層は、測定波長590nmにおいて、通常220nm以上通常300nm以下の面内レターデーションを有する層である。λ/2層がこのような面内レターデーションを有する場合、λ/2層及びλ/4層を組み合わせて広帯域波長フィルムを実現できる。中でも、傾斜方向での色付き抑制機能に優れた円偏光フィルムを得る観点では、測定波長590nmにおけるλ/2層の面内レターデーションは、好ましくは230nm以上、より好ましくは240nm以上であり、好ましくは280nm以下、より好ましくは270nm以下である。
【0089】
λ/2層の測定波長590nmにおける厚み方向のレターデーションは、好ましくは130nm以上、より好ましくは140nm以上、特に好ましくは150nm以上であり、好ましくは300nm以下、より好ましくは280nm以下、特に好ましくは270nm以下である。λ/2層の厚み方向のレターデーションが前記の範囲にある場合、傾斜方向での色付き抑制機能に特に優れた円偏光フィルムを得ることができる。
【0090】
λ/2層のNZ係数は、好ましくは1.0以上、より好ましくは1.05以上、特に好ましくは1.10以上であり、好ましくは1.6以下、より好ましくは1.55以下、特に好ましくは1.5以下である。λ/2層のNZ係数が前記の範囲にある場合、傾斜方向での色付き抑制機能に特に優れた円偏光フィルムを得ることができる。また、このようなNZ係数を有するλ/2層は、製造を容易に行うことができる。
【0091】
λ/2層のレターデーション及びNZ係数等の光学特性は、例えば、第一工程で用意する層(A)のレターデーション及び厚み;並びに、第三工程での延伸温度、延伸倍率、延伸方向等の延伸条件;により、調整できる。
【0092】
λ/2層の配向角θ(λ/2)は、27.5°±10°の範囲(即ち、17.5°~37.5°の範囲)にあることが好ましく、27.5°±8°の範囲(即ち、19.5°~35.5°の範囲)にあることがより好ましく、27.5°±5°の範囲(即ち、22.5°~32.5°の範囲)にあることが特に好ましい。一般的な直線偏光フィルムは、その幅方向に透過軸を有し、その長手方向に吸収軸を有する。λ/2層の配向角θ(λ/2)が前記の範囲にある場合には、このような一般的な直線偏光フィルムと組み合わせて、円偏光フィルムを容易に実現できる。また、λ/2層の配向角θ(λ/2)が前記の範囲にある場合には、得られる円偏光フィルムの正面方向及び傾斜方向での色付き抑制機能を良好にできる。
【0093】
λ/2層の配向角θ(λ/2)は、例えば、第一工程で用意する層(A)の遅相軸の方向;並びに、第三工程での延伸方向及び延伸倍率等の延伸条件;によって、調整できる。
【0094】
λ/2層の厚みは、好ましくは20μm以上、より好ましくは25μm以上、さらに好ましくは30μm以上であり、好ましくは80μm以下、より好ましくは70μm以下、さらに好ましくは60μm以下である。これにより、λ/2層の機械的強度を高めることができる。
【0095】
λ/4層は、測定波長590nmにおいて、通常90nm以上通常154nm以下の面内レターデーションを有する層である。λ/4層がこのような面内レターデーションを有する場合、λ/2層及びλ/4層を組み合わせて広帯域波長フィルムを実現できる。中でも、傾斜方向での色付き抑制機能に優れた円偏光フィルムを得る観点では、測定波長590nmにおけるλ/4層の面内レターデーションは、好ましくは100nm以上、より好ましくは110nm以上であり、好ましくは140nm以下、より好ましくは130nm以下である。
【0096】
λ/4層の測定波長590nmにおける厚み方向のレターデーションは、好ましくは-150nm以上、より好ましくは-140nm以上、特に好ましくは-130nm以上であり、好ましくは-80nm以下、より好ましくは-90nm以下、特に好ましくは-100nm以下である。λ/4層の厚み方向のレターデーションが前記の範囲にある場合、傾斜方向での色付き抑制機能に特に優れた円偏光フィルムを得ることができる。
【0097】
λ/4層のNZ係数は、好ましくは-1.0以上、より好ましくは-0.8以上、特に好ましくは-0.7以上であり、好ましくは0.0以下、より好ましくは-0.05以下、特に好ましくは-0.1以下である。λ/4層のNZ係数が前記の範囲にある場合、傾斜方向での色付き抑制機能に特に優れた円偏光フィルムを得ることができる。また、このようなNZ係数を有するλ/4層は、製造を容易に行うことができる。
【0098】
λ/4層のレターデーション及びNZ係数等の光学特性は、例えば、第二工程で形成する層(B)の厚み;並びに、第三工程での延伸温度、延伸倍率、延伸方向等の延伸条件;により、調整できる。
【0099】
λ/4層の配向角θ(λ/4)は、100°±20°の範囲(即ち、80°~120°の範囲)にあることが好ましく、100°±15°の範囲(即ち、85°~115°の範囲)にあることがより好ましく、100°±10°の範囲(即ち、90°~110°の範囲)にあることが特に好ましい。λ/4層の配向角θ(λ/4)が前記の範囲にある場合には、幅方向に透過軸を有し且つ長手方向に吸収軸を有する一般的な直線偏光フィルムと組み合わせて、円偏光フィルムを容易に実現できる。また、λ/4層の配向角θ(λ/4)が前記の範囲にある場合には、得られる円偏光フィルムの正面方向及び傾斜方向での色付き抑制機能を良好にできる。
【0100】
λ/4層の遅相軸の方向は、例えば、第三工程での延伸方向によって、調整できる。
【0101】
λ/4層の厚みは、好ましくは3μm以上、より好ましくは4μm以上、特に好ましくは5μm以上であり、好ましくは15μm以下、より好ましくは13μm以下、特に好ましくは10μm以下である。λ/4層の厚みが前記範囲の下限値以上にある場合、所望の光学特性を容易に得ることができる。また、λ/4層の厚みが前記範囲の上限値以下にある場合、広帯域波長フィルムの厚みを低減できる。
【0102】
λ/2層とλ/4層とは、直接に接していることが好ましい。これにより、広帯域波長フィルムの厚みを薄くできる。
【0103】
広帯域波長フィルムの製造方法が薄膜層を形成する第四工程を含む場合、広帯域波長フィルムは、λ/2層とλ/4層との間に薄膜層を備える。λ/2層及びλ/4層それぞれの製造後に両者を貼り合わせる従来の製造方法で用いられる接着層が一般に5μm以上と厚いのに対し、上述した製造方法で得られる広帯域波長フィルムの薄膜層は、それよりも薄くすることができる。具体的な薄膜層の厚みは、好ましくは2.0μm未満、より好ましくは1.8μm未満、特に好ましくは1.5μm未満である。このように薄膜層を薄くできるので、広帯域波長フィルム全体の厚みも薄くすることが可能である。薄膜層の厚みの下限は、薄いほど好ましく、例えば0.1μmでありうる。
【0104】
広帯域波長フィルムは、λ/2層、λ/4層及び薄膜層に組み合わせて、任意の層を備えていてもよい。例えば、λ/2層とλ/4層とを接着するための接着層又は粘着層を備えていてもよい。
【0105】
広帯域波長フィルムの全光線透過率は、好ましくは80%以上、より好ましくは85%以上、特に好ましくは88%以上である。光線透過率は、JIS K0115に準拠して、分光光度計を用いて、波長400nm~700nmの範囲で測定しうる。
【0106】
広帯域波長フィルムのヘイズは、好ましくは5%以下、より好ましくは3%以下、特に好ましくは1%以下であり、理想的には0%である。ここで、ヘイズは、JIS K7361-1997に準拠して、日本電色工業社製「濁度計 NDH-300A」を用いて、5箇所測定し、それから求めた平均値を採用しうる。
【0107】
広帯域波長フィルムの厚みは、好ましくは20μm以上、より好ましくは25μm以上、特に好ましくは30μm以上であり、好ましくは120μm以下、より好ましくは100μm以下、特に好ましくは90μm以下である。上述した製造方法によれば、このように薄い広帯域波長フィルムを容易に製造することが可能である。
【0108】
[8.円偏光フィルム]
上述した製造方法で製造された広帯域波長フィルムを用いて、長尺の円偏光フィルムを製造することができる。このような円偏光フィルムは、上述した製造方法で広帯域波長フィルムを製造する工程と、この広帯域波長フィルムと長尺の直線偏光フィルムとを貼合する工程と、を含む製造方法により、製造できる。前記の貼合は、通常、直線偏光フィルム、λ/2層及びλ/4層が、厚み方向においてこの順に並ぶように行う。また、貼合には、必要に応じて、接着層又は粘着層を用いてもよい。
【0109】
直線偏光フィルムは、吸収軸を有する長尺のフィルムであり、吸収軸と平行な振動方向を有する直線偏光を吸収し、これ以外の偏光を透過させうる機能を有する。ここで、直線偏光の振動方向とは、直線偏光の電場の振動方向を意味する。
【0110】
直線偏光フィルムは、通常は偏光子層を備え、必要に応じて偏光子層を保護するための保護フィルム層を備える。
偏光子層としては、例えば、適切なビニルアルコール系重合体のフィルムに、適切な処理を適切な順序及び方式で施したものを用いうる。かかるビニルアルコール系重合体の例としては、ポリビニルアルコール及び部分ホルマール化ポリビニルアルコールが挙げられる。フィルムの処理の例としては、ヨウ素及び二色性染料等の二色性物質による染色処理、延伸処理、及び架橋処理が挙げられる。通常、偏光子層を製造するための延伸処理では、延伸前のフィルムを長手方向に延伸するので、得られる偏光子層においては当該偏光子層の長手方向に平行な吸収軸が発現しうる。この偏光子層は、吸収軸と平行な振動方向を有する直線偏光を吸収しうるものであり、特に、偏光度に優れるものが好ましい。偏光子層の厚さは、5μm~80μmが一般的であるが、これに限定されない。
【0111】
偏光子層を保護するための保護フィルム層としては、任意の透明フィルムを用いうる。中でも、透明性、機械的強度、熱安定性、水分遮蔽性等に優れる樹脂のフィルムが好ましい。そのような樹脂としては、トリアセチルセルロース等のアセテート樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリオレフィン樹脂、環状オレフィン樹脂、(メタ)アクリル樹脂等が挙げられる。中でも、複屈折が小さい点でアセテート樹脂、環状オレフィン樹脂、(メタ)アクリル樹脂が好ましく、透明性、低吸湿性、寸法安定性、軽量性などの観点から、環状オレフィン樹脂が特に好ましい。
【0112】
前記の直線偏光フィルムは、例えば、長尺の偏光子層と長尺の保護フィルム層とを貼り合わせて製造しうる。貼り合わせの際には、必要に応じて、接着剤を用いてもよい。
【0113】
直線偏光フィルムは、好ましくは、当該直線偏光フィルムの長手方向に吸収軸を有する。このような直線偏光フィルムは、27.5°±10°(即ち、17.5°~37.5°)の配向角θ(λ/2)を有するλ/2層、及び、100°±20°(即ち、80°~120°)の配向角θ(λ/4)を有するλ/4層を含む広帯域波長フィルムと貼合して、円偏光フィルムを製造することが好ましい。前記のような組み合わせの貼合によれば、長尺の直線偏光フィルムと長尺の広帯域波長フィルムとを、それらの長手方向を平行にして貼合することにより円偏光フィルムを製造することが可能であるので、円偏光フィルムをロールトゥロール法によって製造することが可能になる。したがって、円偏光フィルムの製造効率を高めることが可能である。
【0114】
こうして得られた円偏光フィルムでは、直線偏光フィルムを透過した広い波長範囲の直線偏光が、広帯域波長フィルムによって円偏光に変換される。そのため、円偏光フィルムは、広い波長範囲において、右円偏光及び左円偏光の一方の光を吸収し、残りの光を透過させる機能を有する。
【0115】
前記の円偏光フィルムは、直線偏光フィルム及び広帯域波長フィルムに組み合わせて、更に任意の層を備えていてもよい。
例えば、円偏光フィルムは、傷つき抑制のための保護フィルム層を備えていてもよい。また、例えば、円偏光フィルムは、直線偏光フィルムと広帯域波長フィルムとの接着のために、接着層又は粘着層を備えていてもよい。
【0116】
前記の円偏光フィルムは、光を反射しうる面に設けた場合、外光の反射を効果的に低減できる。特に、前記の円偏光フィルムは、可視領域の広い波長範囲において、外光の反射を効果的に低減できる点で、有用である。そして、このように広い波長範囲において外光の反射を効果的に低減できるので、前記の円偏光フィルムは、一部の波長の光の反射強度が大きくなることによる色付きを抑制することができる。この円偏光フィルムは、前記の反射抑制及び色付き抑制の効果を、少なくともその正面方向において得ることができ、更に通常は、その傾斜方向においても得ることができる。また、傾斜方向における反射抑制及び色付き抑制の効果は、通常、フィルム主面の全ての方位角方向で得ることが可能である。
【0117】
[9.画像表示装置]
前記のように外光の反射を抑制する機能を活用して、円偏光フィルムは、有機エレクトロルミネッセンス表示装置(以下、適宜「有機EL表示装置」ということがある。)の反射抑制フィルムとして用いうる。
【0118】
有機EL表示装置は、長尺の円偏光フィルムから切り出して得られた円偏光フィルム片を備える。
有機EL表示装置が円偏光フィルム片を備える場合、通常、有機EL表示装置は表示面に円偏光フィルム片を備える。有機EL表示装置の表示面に、円偏光フィルム片を、直線偏光フィルム側の面が視認側に向くように設けることにより、装置外部から入射した光が装置内で反射して装置外部へ出射することを抑制することができ、その結果、表示装置の表示面のぎらつきを抑制できる。具体的には、装置外部から入射した光は、その一部の直線偏光のみが直線偏光フィルムを通過し、次にそれが広帯域波長フィルムを通過することにより円偏光となる。円偏光は、表示装置内の光を反射する構成要素(反射電極等)により反射され、再び広帯域波長フィルムを通過することにより、入射した直線偏光の振動方向(偏光軸)と直交する方向に振動方向(偏光軸)を有する直線偏光となり、直線偏光フィルムを通過しなくなる。これにより、反射抑制機能が達成される。また、前記の反射抑制機能が広い波長範囲で得られることにより、表示面の色付きを抑制することができる。
【0119】
さらに、前記の円偏光フィルムは、液晶表示装置に設けてもよい。このような液晶表示装置は、長尺の円偏光フィルムから切り出して得られた円偏光フィルム片を備える。
液晶表示装置が円偏光フィルム片を、直線偏光フィルム側の面が視認側に向くように備える場合、装置外部から入射した光が装置内で反射して装置外部へ出射することを抑制することができ、その結果、表示装置の表示面のぎらつき及び色付きを抑制できる。
また、液晶表示装置が円偏光フィルム片を、広帯域波長フィルム、直線偏光フィルム、及び、液晶表示装置の液晶セルが視認側からこの順に並ぶように備える場合、画像を円偏光で表示することができる。そのため、表示面から出る光を偏光サングラスによって安定して視認することを可能にして、偏光サングラス着用時の画像視認性を高めることができる。
【0120】
また、特に有機EL表示装置及び液晶表示装置等の画像表示装置に、円偏光フィルム片を、直線偏光フィルム側の面が視認側に向くように設ける場合、表示パネルの反りを抑制することができる。以下、この効果について説明する。
【0121】
一般に、画像表示装置は、有機エレクトロルミネッセンス素子及び液晶セル等の表示素子を含む表示パネルを備える。この表示パネルは、表示パネルの機械的強度を高めるためにガラス基材等の基材を備える。そして、直線偏光フィルム側の面が視認側に向くように円偏光フィルム片が設けられた表示パネルでは、通常、基材、広帯域波長フィルム及び直線偏光フィルムを、この順に備える。
【0122】
ところで、直線偏光フィルムの偏光子層は、一般に、高温環境において面内方向に収縮し易い。このように偏光子層が収縮しようとすると、その偏光子層を含む直線偏光フィルムが設けられた表示パネルには、当該表示パネルを反らせようとする応力が生じる。表示パネルの反りは、画質低下の原因となりうるので、抑制することが望まれる。この反りについては、偏光子層と表示パネルの基材との間の距離が大きいほど、前記の反りは大きくなる傾向があることが判明している。
【0123】
λ/2層及びλ/4層それぞれの製造後に両者を貼り合わせる従来の製造方法によって製造された広帯域波長フィルムは、接着層が厚かったので、その広帯域波長フィルムの全体も厚かった。よって、従来の広帯域波長フィルムは、偏光子層と表示パネルの基材との間の距離が大きくなるので、表示パネルの反りが大きくなる傾向があった。
これに対し、上述したように共延伸フィルムとして製造された広帯域波長フィルムは、λ/2層とλ/4層とが直接に接したり、λ/2層とλ/4層との間に設けられる薄膜層を薄くしたりできる。よって、広帯域波長フィルムの全体を薄くできるので、偏光子層と表示パネルの基材との間の距離を小さくできる。したがって、表示パネルの反りを抑制することが可能である。
【実施例
【0124】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではなく、本発明の請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0125】
以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、別に断らない限り、重量基準である。また、以下に説明する操作は、別に断らない限り、常温及び常圧の条件において行った。
【0126】
[評価方法]
〔層(A)の光学特性の測定方法〕
第一工程で得た層(A)としての延伸フィルムの面内レターデーションRe、NZ係数及び配向角を、位相差計(Axometrics社製「AxoScan」)を用いて測定した。測定波長は、590nmであった。
【0127】
〔広帯域波長フィルムの各層の光学特性の測定方法〕
評価対象となる広帯域波長フィルムを、位相差計(Axometrics社製「AxoScan」)のステージに設置した。そして、広帯域波長フィルムを透過する偏光の前記広帯域波長フィルムを透過する前後での偏光状態の変化を、広帯域波長フィルムの透過偏光特性として測定した。この測定は、広帯域波長フィルムの主面に対して極角-55°から55°の範囲で行う多方向測定として行った。また、前記の多方向測定は、広帯域波長フィルムの主面のある方位角方向を0°として、45°、90°、135°及び180°の各方位角方向において行った。前記の測定の測定波長は、590nmであった。
【0128】
次に、前記のように測定した透過偏光特性から、フィッティング計算をすることで、各層の面内レターデーションRe、厚み方向のレターデーションRth、NZ係数及び配向角を求めた。前記のフィッティング計算は、広帯域波長フィルムに含まれる各層の3次元屈折率及び配向角をフィッティングパラメータに設定して行った。また、前記のフィッティング計算には、前記の位相差計(AxoScan)の付属ソフト(Axometrics社製「Multi-Layer Analysis」)を使用した。
【0129】
〔シミュレーションによる色差ΔE*abの計算方法〕
シミュレーション用のソフトウェアとしてシンテック社製「LCD Master」を用いて、各実施例及び比較例で製造された円偏光フィルムをモデル化し、下記の設定で色差ΔE*abを計算した。
シミュレーション用のモデルでは、平面状の反射面を有するアルミニウムミラーの前記反射面に、広帯域波長フィルムのλ/4層側がミラーに接するように円偏光フィルムを貼り付けた構造を設定した。したがって、このモデルでは、厚み方向において、直線偏光フィルム、λ/2層、λ/4層及びミラーがこの順に設けられた構造が設定された。
そして、前記のモデルにおいて、D65光源から円偏光フィルムに光を照射したときの色差ΔE*abを、前記円偏光フィルムの正面方向において計算した。色差ΔE*abの計算に当たっては、円偏光フィルムを貼り付けられていないアルミニウムミラーの、極角0°、方位角0°の方向での反射光を基準とした。また、シミュレーションにおいては、実際に円偏光フィルムの表面で発生する表面反射成分については、色差ΔE*abの計算から除いている。色差ΔE*abの値は、値が小さいほど色味変化が少ないことを意味しており、好ましい。
【0130】
〔円偏光フィルムの目視評価〕
画像表示装置(Apple社「AppleWatch」(登録商標))が備える偏光板を剥離し、その画像表示装置の表示面と、評価対象の円偏光フィルムのλ/4層の面とを、粘着層(日東電工製「CS9621」)を介して貼り合せた。表示面を黒表示状態(画面全体に黒色を表示した状態)にし、極角θ=0°(正面方向)、及び、極角θ=60°(傾斜方向)の全方位から、表示面を観察した。外光の反射による輝度及び色付きが小さいほど、良好な結果である。観察の結果を、下記の基準で評価した。
「A」: 視認できるレベルの輝度及び色付きが、ない。
「B」: 輝度及び色付きが、視認できるレベルで発生する。
「C」: 輝度及び色付きが、酷く発生する。
【0131】
[実施例1]
(第一工程:層(A)の製造)
固有複屈折が正の樹脂として、ペレット状のノルボルネン系樹脂(日本ゼオン社製;ガラス転移温度126℃)を用意し、100℃で5時間乾燥した。乾燥した樹脂を、押出し機に供給し、ポリマーパイプ及びポリマーフィルターを経て、Tダイからキャスティングドラム上にシート状に押し出した。押し出された樹脂を冷却し、厚み160μmの長尺の延伸前フィルムを得た。得られた延伸前フィルムはロールに巻き取って回収した。
【0132】
延伸前フィルムをロールから引き出して、テンター延伸機に連続的に供給した。そして、このテンター延伸機によって、延伸前フィルムを延伸して、層(A)としての長尺の延伸フィルムを得た。この延伸において、延伸前フィルムの長手方向に対して延伸方向がなす延伸角度は90°、延伸温度は135℃、延伸倍率は2.0倍であった。また、得られた延伸フィルムの配向角は90°、面内レターデーションReは250nm、厚みは80μmであった。得られた延伸フィルムはロールに巻き取って回収した。
【0133】
(第二工程:層(B)の形成)
固有複屈折が負の樹脂としてスチレン-無水マレイン酸共重合体(ノヴァ・ケミカル社製「Daylark D332」、ガラス転移温度130℃、オリゴマー成分含有量3重量%)を含む液状組成物を用意した。この液状組成物は溶媒としてメチルエチルケトンを含み、液状組成物におけるスチレン-無水マレイン酸共重合体の濃度は10重量%であった。
【0134】
延伸フィルムをロールから引き出して、この延伸フィルム上に前記の液状組成物を塗工した。その後、塗工された液状組成物を乾燥させて、延伸フィルム上に層(B)としてのスチレン-無水マレイン酸共重合体の層(厚み10μm)を形成した。これにより、層(A)及び層(B)を備える複層フィルムを得た。得られた複層フィルムはロールに巻き取って回収した。
【0135】
(第三工程:複層フィルムの延伸)
複層フィルムをロールから引き出して、テンター延伸機に連続的に供給した。そして、このテンター延伸機によって、複層フィルムに延伸を行った。この延伸において、複層フィルムの長手方向に対して延伸方向がなす延伸角度は15°、延伸温度は130℃、延伸倍率1.5倍であった。これにより、層(A)を延伸して得られたλ/2層と、層(B)を延伸して得られたλ/4層とを備える共延伸フィルムとして、広帯域波長フィルムを得た。得られた広帯域波長フィルムを、上述した方法によって評価した。
【0136】
(円偏光フィルムの製造)
長手方向に吸収軸を有する長尺の直線偏光フィルムを用意した。この直線偏光フィルムと、前記の広帯域波長フィルムとを、互いの長手方向を平行にして貼合した。この貼合は、粘着剤(日東電工社製「CS-9621」)を用いて行った。これにより、直線偏光フィルム、λ/2層及びλ/4層をこの順で備える円偏光フィルムを得た。得られた円偏光フィルムについて、上述した方法で評価した。
【0137】
[実施例2]
第三工程において、複層フィルムの長手方向に対して延伸方向がなす延伸角度を、10°に変更した。
以上の事項以外は、実施例1と同じ操作により、広帯域波長フィルム及び円偏光フィルムの製造及び評価を行った。
【0138】
[実施例3]
第三工程において、複層フィルムの長手方向に対して延伸方向がなす延伸角度を、5°に変更した。
以上の事項以外は、実施例1と同じ操作により、広帯域波長フィルム及び円偏光フィルムの製造及び評価を行った。
【0139】
[比較例1]
固有複屈折が正の樹脂として、ペレット状のノルボルネン系樹脂(日本ゼオン社製;ガラス転移温度126℃)を用意し、100℃で5時間乾燥した。乾燥した樹脂を、押出し機に供給し、ポリマーパイプ及びポリマーフィルターを経て、Tダイからキャスティングドラム上にシート状に押し出した。押し出された樹脂を冷却し、厚み110μmの長尺の延伸前フィルムを得た。得られた延伸前フィルムはロールに巻き取って回収した。
【0140】
延伸前フィルムをロールから引き出して、ロール延伸機に連続的に供給した。そして、このロール延伸機によって、延伸前フィルムに自由一軸延伸を行って、長尺の延伸フィルムを得た。この延伸において、延伸前フィルムの長手方向に対して延伸方向がなす延伸角度は0°、延伸温度は135℃、延伸倍率は1.9倍であった。また、得られた延伸フィルムの配向角は0°、面内レターデーションReは350nm、厚みは80μmであった。
【0141】
こうして得られた延伸フィルムを、層(A)として用いたこと以外は、実施例1と同じ操作により、広帯域波長フィルム及び円偏光フィルムの製造及び評価を行った。
【0142】
[比較例2]
第三工程において、複層フィルムの長手方向に対して延伸方向がなす延伸角度を、0°に変更した。また、第三工程での複層フィルムの延伸を、ロール延伸機を用いた自由一軸延伸にて行った。
以上の事項以外は、実施例1と同じ操作により、広帯域波長フィルム及び円偏光フィルムの製造及び評価を行った。
【0143】
[比較例3]
第三工程において、複層フィルムの長手方向に対して延伸方向がなす延伸角度を、45°に変更した。
以上の事項以外は、実施例1と同じ操作により、広帯域波長フィルム及び円偏光フィルムの製造及び評価を行った。
【0144】
[比較例4]
第三工程において、複層フィルムの長手方向に対して延伸方向がなす延伸角度を、60°に変更した。
以上の事項以外は、実施例1と同じ操作により、広帯域波長フィルム及び円偏光フィルムの製造及び評価を行った。
【0145】
[結果]
実施例及び比較例の結果を、下記の表1及び表2に示す。下記の表において、略称の意味は、下記の通りである。
COP:ノルボルネン系樹脂。
ST:スチレン-無水マレイン酸共重合体。
Re:面内レターデーション。
Rth:厚み方向のレターデーション。
配向角:長手方向に対して遅相軸がなす角度。
総厚:λ/2層とλ/4層との合計厚み。
縦:長手方向。
横:幅方向。
斜め:斜め方向。
【0146】
【表1】
【0147】
【表2】
【符号の説明】
【0148】
100 層(A)
200 複層フィルム
210 層(B)
300 広帯域波長フィルム
図1
図2
図3