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特許7414055リチウムイオン二次電池用正極活物質、リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法、リチウムイオン二次電池
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】リチウムイオン二次電池用正極活物質、リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法、リチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/525 20100101AFI20240109BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20240109BHJP
   H01M 4/36 20060101ALI20240109BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20240109BHJP
【FI】
H01M4/525
H01M4/505
H01M4/36 A
C01G53/00 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021502073
(86)(22)【出願日】2020-02-19
(86)【国際出願番号】 JP2020006459
(87)【国際公開番号】W WO2020171111
(87)【国際公開日】2020-08-27
【審査請求日】2022-10-19
(31)【優先権主張番号】P 2019031047
(32)【優先日】2019-02-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】金田 治輝
(72)【発明者】
【氏名】森實 健太
【審査官】冨士 美香
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-026456(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/525
H01M 4/505
H01M 4/36
C01G 53/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム複合酸化物粒子を含有するリチウムイオン二次電池用正極活物質であって、
前記リチウム複合酸化物粒子は、リチウム(Li)と、ニッケル(Ni)と、マンガン(Mn)と、ジルコニウム(Zr)と、添加元素M(M)とを物質量の比で、Li:Ni:Mn:Zr:M=a:b:c:d:e(ただし、0.95≦a≦1.20、0.10≦b<0.70、0.01≦c≦0.50、0.0003≦d≦0.02、0.01≦e≦0.50であり、前記添加元素MはCo、W、Mo、V、Mg、Ca、Al、Ti、及びTaから選択される1種類以上の元素である)の割合で含有するリチウム複合酸化物の粒子であり、
前記リチウム複合酸化物のX線回折パターンから算出される(003)面のピークの半価幅FWHM(003)と(104)面のピークの半価幅FWHM(104)とが、
FWHM(104)≧FWHM(003)×2.90-0.10の関係を満たし、
吸油量が13mL/100g以上18mL/100g以下であるリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項2】
水分率が0.07質量%以下である請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項3】
リチウム-ジルコニウム複合酸化物をさらに含有する請求項1または請求項に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項4】
Warder法によって求められる溶出リチウム量が0.02質量%以上0.07質量%以下である請求項1~請求項のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項5】
湿式フロー式粒子径・形状分析装置を用いたフロー式画像解析法により求めた円形度が、0.94以上0.98以下である請求項1~請求項4のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質。
【請求項6】
ニッケル、マンガンおよび添加元素Mを含有するニッケルマンガン複合化合物と、リチウム化合物と、平均粒径が0.5μm以上5.0μm以下のジルコニウム化合物とを混合して、リチウム(Li)と、ニッケル(Ni)と、マンガン(Mn)と、ジルコニウム(Zr)と、前記添加元素M(M)とを物質量の比で、Li:Ni:Mn:Zr:M=a:b:c:d:e(ただし、0.95≦a≦1.20、0.10≦b<0.70、0.01≦c≦0.50、0.0003≦d≦0.02、0.01≦e≦0.50であり、前記添加元素MはCo、W、Mo、V、Mg、Ca、Al、Ti、及びTaから選択される1種類以上の元素である)の割合で含有する原料混合物を調製する混合工程と、
前記原料混合物を、酸素濃度が80容量%以上97容量%以下である酸素含有雰囲気下、780℃以上950℃以下の温度で焼成する焼成工程と、を有するリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法。
【請求項7】
請求項1~請求項のいずれか一項に記載のリチウムイオン二次電池用正極活物質を含む正極を有するリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池用正極活物質、リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法、リチウムイオン二次電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話やノート型パソコンなどの携帯電子機器の普及に伴い、高いエネルギー密度や耐久性を有する小型で軽量な二次電池の開発が強く望まれている。また、電動工具やハイブリット自動車をはじめとする電気自動車用の電池として高出力の二次電池の開発が強く望まれている。さらに、上記の要求特性に加え、繰り返し使用しても劣化しにくい、高い耐久性をもつ二次電池の要望が高まっている。
【0003】
このような要求を満たす二次電池として、リチウムイオン二次電池がある。リチウムイオン二次電池は、負極および正極と電解質等で構成され、負極および正極の活物質として、リチウムを脱離および挿入することが可能な材料が用いられている。リチウムイオン二次電池は、上述のように高いエネルギー密度、出力特性、耐久性を有している。
【0004】
リチウムイオン二次電池については、現在研究開発が盛んに行われているところであるが、中でも、層状またはスピネル型のリチウム金属複合酸化物を正極材料に用いたリチウムイオン二次電池は、4V級の高い電圧が得られるため、高いエネルギー密度を有する電池として実用化が進んでいる。
【0005】
かかるリチウムイオン二次電池の正極材料として、現在、合成が比較的容易なリチウムコバルト複合酸化物(LiCoO)や、コバルトよりも安価なニッケルを用いたリチウムニッケル複合酸化物(LiNiO)、リチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物(LiNi1/3Co1/3Mn1/3)、マンガンを用いたリチウムマンガン複合酸化物(LiMn)、リチウムニッケルマンガン複合酸化物(LiNi0.5Mn0.5)などのリチウム複合酸化物が提案されている。
【0006】
ところでリチウムイオン二次電池においては、電池の使用過程で電解質の分解等によりガスが発生する場合があった。そこで、電池内部で発生したガスを系外に排出できる電池モジュール等について検討がなされていた。
【0007】
例えば特許文献1には、内側に電極、活物質、電解質等の電池要素を内包しラミネートフィルムで密閉された電池と、該電池を収納するケースとを有する電池モジュールにおいて、前記ケースは電池を電池前面または一部を支持する構造を有し、かつ前記ケースは突起物を有し、該突起物は先端からケース外部へ通じる貫通孔を有することを特徴とする電池モジュールが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】日本国特開2003-168410号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
このように、電池モジュールに追加的な部材を設け、電池内部で発生したガスを系外へ排出する方法について検討されてきた。しかしながら、コストを削減し、電池の安定性を高める観点から、リチウムイオン二次電池に用いた場合に、係るガスの発生を抑制できるリチウムイオン二次電池用正極活物質が求められていた。
【0010】
また、リチウムイオン二次電池の高性能化の観点から、リチウムイオン二次電池に用いた場合に、サイクル特性を向上できるリチウムイオン二次電池用正極活物質が求められていた。従って、リチウムイオン二次電池に用いた場合に、ガスの発生の抑制とともに、サイクル特性を高められるリチウムイオン二次電池用正極活物質が求められていた。
【0011】
そこで上記従来技術が有する問題に鑑み、本発明の一側面では、リチウムイオン二次電池に用いた場合に、サイクル特性を高め、かつガスの発生を抑制できるリチウムイオン二次電池用正極活物質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため本発明の一態様によれば、
リチウム複合酸化物粒子を含有するリチウムイオン二次電池用正極活物質であって、
前記リチウム複合酸化物粒子は、リチウム(Li)と、ニッケル(Ni)と、マンガン(Mn)と、ジルコニウム(Zr)と、添加元素M(M)とを物質量の比で、Li:Ni:Mn:Zr:M=a:b:c:d:e(ただし、0.95≦a≦1.20、0.10≦b<0.70、0.01≦c≦0.50、0.0003≦d≦0.02、0.01≦e≦0.50であり、前記添加元素MはCo、W、Mo、V、Mg、Ca、Al、Ti、及びTaから選択される1種類以上の元素である)の割合で含有するリチウム複合酸化物の粒子であり、
前記リチウム複合酸化物のX線回折パターンから算出される(003)面のピークの半価幅FWHM(003)と(104)面のピークの半価幅FWHM(104)とが、
FWHM(104)≧FWHM(003)×2.90-0.10の関係を満たし、
吸油量が13mL/100g以上18mL/100g以下であるリチウムイオン二次電池用正極活物質を提供する。

【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様によれば、リチウムイオン二次電池に用いた場合に、サイクル特性を高め、かつガスの発生を抑制できるリチウムイオン二次電池用正極活物質を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実験例において作製したコイン型電池の断面構成の説明図。
図2】実験例において作製したラミネート型電池の構成の説明図。
図3A】インピーダンス評価の測定例。
図3B】解析に使用した等価回路の概略説明図。
図4】実験例1の正極活物質に含まれるリチウム複合酸化物粒子のSEM画像。
図5】実験例2の正極活物質に含まれるリチウム複合酸化物粒子のSEM画像。
図6】実験例4の正極活物質に含まれるリチウム複合酸化物粒子のSEM画像。
図7】実験例9の正極活物質に含まれるリチウム複合酸化物粒子のSEM画像。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明するが、本発明は、下記の実施形態に制限されることはなく、本発明の範囲を逸脱することなく、下記の実施形態に種々の変形および置換を加えることができる。
[リチウムイオン二次電池用正極活物質]
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極活物質(以下、単に「正極活物質」とも記載する)は、リチウム複合酸化物粒子を含有する。
【0016】
そして、リチウム複合酸化物粒子は、リチウム(Li)と、ニッケル(Ni)と、マンガン(Mn)と、ジルコニウム(Zr)と、添加元素M(M)とを物質量の比で、Li:Ni:Mn:Zr:M=a:b:c:d:eの割合で含有するリチウム複合酸化物の粒子とすることができる。
【0017】
なお、a、b、c、d、eは、0.95≦a≦1.20、0.10≦b<0.70、0.01≦c≦0.50、0.0003≦d≦0.02、0.01≦e≦0.50を満たすことが好ましい。また、添加元素MはCo、W、Mo、V、Mg、Ca、Al、Ti、及びTaから選択される1種類以上の元素とすることができる。
【0018】
そして、リチウム複合酸化物は、X線回折パターンから算出される(003)面のピークの半価幅FWHM(003)と(104)面のピークの半価幅FWHM(104)とが、以下の関係式(1)を満たすことが好ましい。
【0019】
FWHM(104)≧FWHM(003)×2.90-0.10・・・(1)
本発明の発明者は、リチウムイオン二次電池に用いた場合に、サイクル特性を高め、かつガスの発生を抑制できる正極活物質について鋭意検討を行った。その結果、ジルコニウム(Zr)を添加したリチウム複合酸化物の粒子を含有し、該リチウム複合酸化物の(003)面の半価幅と、(104)面の半価幅とが、所定の関係を有することで、リチウムイオン二次電池に用いた場合に、サイクル特性を高め、かつガスの発生を抑制できることを見出し、本発明を完成させた。
【0020】
本実施形態の正極活物質は、上述のようにリチウム(Li)と、ニッケル(Ni)と、マンガン(Mn)と、ジルコニウム(Zr)と、添加元素M(M)とを物質量の比で、Li:Ni:Mn:Zr:M=a:b:c:d:eの割合で含有するリチウム複合酸化物の粒子を含有することができる。なお、本実施形態の正極活物質は、上記リチウム複合酸化物の粒子から構成することもできる。
【0021】
リチウム複合酸化物のリチウムの含有割合を示すaの範囲は、0.95≦a≦1.20であることが好ましく、1.00≦a≦1.15であることがより好ましい。
【0022】
リチウム複合酸化物のニッケルの含有割合を示すbの範囲は、0.10≦b<0.70であることが好ましく、0.30≦b≦0.65であることがより好ましい。bの値が、上記範囲である場合、係るリチウム複合酸化物の粒子を含む正極活物質をリチウムイオン二次電池に用いた場合に、高い電池容量が得られる。
【0023】
リチウム複合酸化物のマンガンの含有量を示すcの範囲は、0.01≦c≦0.50であることが好ましく、0.03≦c≦0.35であることがより好ましい。cの値が上記範囲である場合、係るリチウム複合酸化物の粒子を含む正極活物質をリチウムイオン二次電池に用いた場合に、優れた耐久性および、高い電池容量が得られ、さらに高い安定性を有することができる。
【0024】
リチウム複合酸化物のジルコニウムの含有量を示すdの範囲は、0.0003≦d≦0.02であることが好ましく、0.0005≦d≦0.01であることがより好ましい。dの値が上記範囲である場合、係るリチウム複合酸化物の粒子を含む正極活物質をリチウムイオン二次電池に用いた場合に、ガスの発生を抑制することができる。これは、リチウム複合酸化物の構造を安定化させ、余剰のリチウム(溶出リチウム)を抑制できるため、電解質と、該余剰のリチウムとの反応等によるガスの発生を抑制できるためと考えられる。また、リチウム複合酸化物の結晶内において、安定したZr-O構造を形成することができると考えられ、該リチウム複合酸化物の粒子を含む正極活物質をリチウムイオン二次電池に用いた場合に、サイクル特性を高めることができる。
【0025】
リチウム複合酸化物の添加元素Mの含有量を示すeの範囲は、0.01≦e≦0.50であることが好ましく、0.03≦e≦0.35であることがより好ましい。添加元素Mを含有することで、係るリチウム複合酸化物の粒子を含む正極活物質をリチウムイオン二次電池に用いた場合に、サイクル特性、および出力特性等をさらに高めることができる。
【0026】
なお、添加元素Mとして好適に用いることができる元素の種類については既述のため、ここでは説明を省略する。
【0027】
リチウム複合酸化物は、上記ニッケル、マンガン、ジルコニウム、添加元素Mの含有量を示すb、c、d、eの合計が1であることが好ましい。すなわち、b+c+d+e=1を満たすことが好ましい。
【0028】
リチウム複合酸化物は、既述の様にリチウム、ニッケル、マンガン、ジルコニウム、添加元素Mを所定の割合で含有していればよく、その具体的な組成は特に限定されないが、例えば一般式LiNiMnZr2+αで表すことができる。なお、係る一般式中のa、b、c、d、eはそれぞれが既述の範囲を満たしていることが好ましい。また、酸素の含有量を示す2+αのうち、αは例えば-0.2≦α≦0.2であることが好ましい。
【0029】
そして、本実施形態の正極活物質が含有するリチウム複合酸化物は、X線回折パターンから算出される(003)面のピークの半価幅FWHM(003)と(104)面のピークの半価幅FWHM(104)とが、FWHM(104)≧FWHM(003)×2.90-0.10で表される関係式を満たすことができる。
【0030】
本発明の発明者らの検討によれば、FWHM(104)とFWHM(003)とが上記関係を満たすことで、(104)面の結晶成長を抑制し、(003)面の結晶成長を促進させることができ、酸素欠損の少ないリチウム複合酸化物とすることができる。このため、結晶構造を安定化させることができるため、係るリチウム複合酸化物の粒子を含む正極活物質をリチウムイオン二次電池に用いた場合に、サイクル特性を高めることができる。
【0031】
なお、各結晶面のピークの半価幅は特に限定されないが、例えばX線回折パターンから算出される(003)面のピークの半価幅が0.065°以上0.080°以下であることが好ましく、0.065°以上0.075°以下であることがより好ましい。
【0032】
(003)面のピークの半価幅が上記範囲の場合、係るリチウム複合酸化物が高い結晶性を有することを意味しており、余剰のリチウム(溶出リチウム)を抑制でき、電解質と、該余剰のリチウムとの反応によるガスの発生を特に抑制できる。また、リチウム複合酸化物粒子の結晶性を高めることで、リチウムの挿入、脱離を行った際も構造が安定化するため、リチウムイオン二次電池に係るリチウム複合酸化物の粒子を含む正極活物質を適用した場合にサイクル特性を特に高めることができる。
【0033】
さらに、本実施形態の正極活物質が含有するリチウム複合酸化物のX線回折パターンから算出される(104)面のピークの半価幅は、0.095°以上0.128°以下であることが好ましく、0.095°以上0.120°以下であることがより好ましく、0.095°以上0.115°以下であることがさらに好ましい。
【0034】
(104)面のピークの半価幅が上記範囲の場合、係るリチウム複合酸化物が高い結晶性を有することを意味している。このため、リチウムの挿入、脱離を行った際も構造が安定化するため、リチウムイオン二次電池に係るリチウム複合酸化物の粒子を含む正極活物質を適用した場合にサイクル特性を特に高めることができる。
【0035】
本実施形態の正極活物質が含有するリチウム複合酸化物の粒子は、一次粒子が凝集した二次粒子を有することができる。なお、係るリチウム複合酸化物の粒子は、一次粒子が凝集した二次粒子から構成することもできる。そして、係るリチウム複合酸化物の粒子の平均粒径D50は10μm以上15μm以下であることが好ましく、10.5μm以上14.5μm以下であることがより好ましい。リチウム複合酸化物の粒子の平均粒径D50を上記範囲とすることで、本実施形態の正極活物質をリチウムイオン二次電池の正極に用いた際に、出力特性および電池容量を特に高め、さらに正極への高い充填性を両立させることができる。具体的には上記リチウム複合酸化物の粒子の平均粒径D50を10μm以上とすることで、正極への充填性を高めることができる。また、上記リチウム複合酸化物の粒子の平均粒径を15μm以下とすることで、出力特性および電池容量を特に高めることができる。
【0036】
なお、本明細書において平均粒径は、レーザー回折・散乱法によって求めた粒度分布における積算値50%での粒径を意味する。
【0037】
また、本実施形態の正極活物質が含有するリチウム複合酸化物は、BET法によって測定される比表面積が、0.1m/g以上0.4m/g以下であることが好ましい。
【0038】
本実施形態の正極活物質が含有するリチウム複合酸化物の比表面積を上記範囲とすることで、出力特性や、安定性を特に高めることができ、好ましい。
【0039】
具体的には、比表面積を0.4m/g以下とすることで、正極を作製する際に、充填密度を高め、正極活物質としてのエネルギー密度を高めることができる。さらに、比表面積を0.4m/g以下とすることで、粒子の表面に存在する余剰リチウム量を抑制できるため、電解質等と余剰リチウムとの反応を抑制できる。このため、充放電反応の際の炭酸ガスや炭酸水素ガス、COガスなどの種々のガス発生を大幅に低減することができ、セルが膨張すること等を抑制できる。さらに、余剰リチウム量を抑制できるため、極板作製時に正極活物質を含有するスラリーがゲル化を起こしにくく、正極を製造する際の不具合を低減する利点、すなわち歩留まりの改善という生産プロセス上の利点も得られる
また、比表面積を0.1m/g以上とすることで、電解質との接触面積を高めることができ、正極抵抗を抑制できるため、出力特性を特に高められる。
【0040】
本実施形態の正極活物質は、リチウム-ジルコニウム複合酸化物をさらに含有することもできる。リチウム-ジルコニウム複合酸化物は、リチウムと、ジルコニウムとを含有する酸化物であり、例えばLiZrO等が挙げられる。
【0041】
本発明の発明者らの検討によれば、本実施形態の正極活物質が、リチウム-ジルコニウム複合酸化物を含有することで、余剰リチウム量を特に抑制することができ、リチウムイオン二次電池に用いた場合に、電解質等と余剰リチウムとの反応を抑制できる。このため、充放電反応の際の炭酸ガスや炭酸水素ガス、COガスなどの種々のガス発生を特に低減することができ、セルが膨張すること等を抑制できる。
【0042】
また、余剰リチウム量を抑制できることで、極板作製時に正極活物質を含有するスラリーがゲル化を起こしにくく、正極を製造する際の不具合を低減する利点、すなわち歩留まりの改善という生産プロセス上の利点も得られる。
【0043】
なお、本実施形態の正極活物質のリチウム-ジルコニウム複合酸化物の含有量は極微量の場合もあり、一般的な粉末X線回折装置を用いた解析では十分に検出できない場合もある。このため、例えば高輝度な放射光等を光源に用いて測定した回折パターン等を用い、分析を行うことが好ましい。
【0044】
本実施形態の正極活物質は、Warder法により求められる溶出リチウム量が0.02質量%以上0.07質量%以下であることが好ましく、0.02質量%以上0.06質量%以下であることがより好ましい。溶出リチウム量とは、上述のようにWarder法によって求められる。具体的には例えば正極活物質に純水を加えて一定時間攪拌後、ろ過したろ液について中和滴定を行うことで算出されるリチウム量を意味する。上記ろ液のpHを測定しながら塩酸を加えていくことにより出現する中和点から、溶出したリチウムの化合物状態を評価し、溶出リチウム量を算出できる。
【0045】
溶出リチウム量は、本実施形態の正極活物質が有するリチウム複合酸化物の粒子の表面に付着していた余剰リチウムの正極活物質に占める割合を示している。そして、上述のように0.07質量%以下とすることで、本実施形態の正極活物質をリチウムイオン二次電池に用いた場合に、電解質等と余剰リチウムとの反応を抑制できる。このため、充放電反応の際の炭酸ガスや炭酸水素ガス、COガスなどの種々のガス発生を特に低減することができ、セルが膨張すること等を抑制できる。
【0046】
また、溶出リチウム量を0.07質量%以下とすることで、極板作製時に正極活物質を含有するスラリーがゲル化を起こしにくく、正極を製造する際の不具合を低減する利点、すなわち歩留まりの改善という生産プロセス上の利点も得られる。
【0047】
ただし、本実施形態の正極活物質において、溶出リチウム量を過度に低減しようとすると、粒子内部のリチウムの含有割合が低下し、電池特性が低下する恐れがある。このため、本実施形態の正極活物質の溶出リチウム量は0.02質量%以上であることが好ましい。
【0048】
本実施形態の正極活物質は、吸油量が13mL/100g以上18mL/100g以下であることが好ましく、13mL/100g以上17mL/100g以下であることがより好ましく、13.5mL/100g以上16.5mL/100g以下であることがさらに好ましい。
【0049】
これは、吸油量を上記範囲とすることで、極板を作製する際の充填性に優れるため、高エネルギー密度の電極とすることができ、リチウムイオン二次電池とした場合の出力特性を高めることができるからである。
【0050】
本明細書において「吸油量」は、JIS K6217-4:2008に準拠して測定されるDBP吸収量を意味する。
【0051】
本実施形態の正極活物質の水分率は特に限定されないが、0.07質量%以下が好ましく、0.06質量%以下がより好ましく、0.05質量%以下がさらに好ましい。本実施形態の正極活物質の水分率が上記範囲の場合、大気中の炭素、硫黄を含むガス成分と、余剰リチウム等が反応して、粒子の表面にリチウム化合物を形成することを特に抑制できる。このため、リチウムイオン二次電池に用いた場合に、ガスの発生を特に低減でき、セルが膨張すること等を抑制できる。
【0052】
また、水分率を上記範囲とすることで、極板作製時に正極活物質を含有するスラリーがゲル化を起こしにくく、正極を製造する際の不具合を低減する利点、すなわち歩留まりの改善という生産プロセス上の利点も得られる。
【0053】
本実施形態の正極活物質の上記水分率の下限値は特に限定されず、例えば0以上とすることができる。
【0054】
なお、上記水分率の測定値は、気化温度300℃の条件においてカールフィッシャー水分計で測定した場合の測定値である。
【0055】
本実施形態の正極活物質の湿式フロー式粒子径・形状分析装置を用いたフロー式画像解析法により求めた円形度は特に限定されないが、0.94以上0.98以下であることが好ましく、0.945以上0.97以下であることがより好ましい。本実施形態の正極活物質の円形度を上記範囲とすることで、極板を作製する際の充填性に優れるため、高エネルギー密度の電極とすることができ、リチウムイオン二次電池とした場合の出力特性を高めることができるからである。さらに、本実施形態の正極活物質の円形度が上記範囲であることは、焼結凝集が少なく、酸素欠損に伴う異常粒成長が起こっていないことを示している。このため、円形度は、焼結凝集の程度や、酸素欠損に伴う異常粒成長の有無を定量的に判断できる指標となる。なお、複数の粒子について円形度を測定した場合、平均値(平均円形度)を上記円形度とすることができ、係る平均値が上記範囲を充足することが好ましい。また、本実施形態の正極活物質の円形度を評価する際には粒子、具体的には例えばリチウム複合酸化物の粒子について評価を行うことになるため、正極活物質の円形度とは、リチウム複合酸化物の粒子の円形度と言い換えることもできる。
【0056】
以上に説明した本実施形態の正極活物質によれば、既述の様に、ジルコニウム(Zr)を添加したリチウム複合酸化物の粒子を含有し、該リチウム複合酸化物粒子の(003)面の半価幅と(104)面の半価幅が既述の関係式を満たす範囲にある。このため、本実施形態の正極活物質をリチウムイオン二次電池に用いた場合に、サイクル特性を高め、かつガスの発生を抑制できる。
[リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法]
次に本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法(以下、単に「正極活物質の製造方法」とも記載する)の一構成例について説明する。
【0057】
本実施形態の正極活物質の製造方法によれば、既述の正極活物質を製造することができる。このため、既に説明した事項の一部は説明を省略する。
【0058】
本実施形態のリチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法は、以下の工程を有することができる。
ニッケル、マンガンおよび添加元素Mを含有するニッケルマンガン複合化合物と、リチウム化合物と、ジルコニウム化合物とを混合して、原料混合物を調製する混合工程。
原料混合物を、酸素濃度が80容量%以上97容量%以下である酸素含有雰囲気下、780℃以上950℃以下の温度で焼成する焼成工程。
混合工程において調製する原料混合物は、リチウム(Li)と、ニッケル(Ni)と、マンガン(Mn)と、ジルコニウム(Zr)と、添加元素M(M)とを物質量の比で、Li:Ni:Mn:Zr:M=a:b:c:d:eの割合で含有することができる。なお、a、b、c、d、eは、0.95≦a≦1.20、0.10≦b<0.70、0.01≦c≦0.50、0.0003≦d≦0.02、0.01≦e≦0.50であることが好ましい。また、添加元素MはCo、W、Mo、V、Mg、Ca、Al、Ti、及びTaから選択される1種類以上の元素とすることができる。
【0059】
混合工程に供するジルコニウム化合物は、その平均粒径が0.5μm以上5.0μm以下であることが好ましい。
【0060】
以下、各工程について詳細な説明をする。
【0061】
(A)混合工程
混合工程では、ニッケルマンガン複合化合物と、リチウム化合物と、ジルコニウム化合物とを混合して、原料混合物を得ることができる。
【0062】
ニッケルマンガン複合化合物としては、ニッケル、マンガン、および添加元素Mを含有していればよく、特に限定されないが、例えばニッケルマンガン複合酸化物、およびニッケルマンガン複合水酸化物から選択された1種類以上を好適に用いることができる。ニッケルマンガン複合水酸化物は、晶析反応等により調製することができる。また、ニッケルマンガン複合酸化物は、係るニッケルマンガン複合水酸化物を酸化焙焼することで得ることができる。
【0063】
ニッケルマンガン複合化合物は、ニッケル、マンガン、および添加元素Mの供給源となることから、原料混合物の目的組成にあわせて、ニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、および添加元素M(M)を物質量の比で、Ni:Mn:M=b:c:eの割合で含有することが好ましい。係る、b、c、eについては、正極活物質においてリチウム複合酸化物について説明したものと同じ範囲とすることができるため、ここでは説明を省略する。
【0064】
例えばニッケルマンガン複合化合物としてニッケルマンガン複合酸化物を用いる場合であればNib´Mnc´e´1+βで表されるニッケルマンガン複合酸化物を好適に用いることができる。また、ニッケルマンガン複合化合物として、ニッケルマンガン複合水酸化物を用いる場合であればNib´Mnc´e´(OH)2+γで表されるニッケルマンガン複合水酸化物を好適に用いることができる。なお、上記化学式中のb´、c´、e´は、既述のb、c、eとb´:c´:e´=b:c:eの関係を満たし、かつb´+c´+e´=1を満たすことが好ましい。また、βは-0.2≦β≦0.2、γは-0.2≦γ≦0.2をそれぞれ満たすことが好ましい。
【0065】
リチウム化合物としては特に限定されないが、例えば炭酸リチウムや、水酸化リチウム等から選択された1種類以上を用いることができる。なお、水酸化リチウムは水和水を有する場合があり、水和水を有するまま用いることもできるが、予め焙焼し、水和水を低減しておくことが好ましい。
【0066】
ジルコニウム化合物としては、酸化ジルコニウム(ジルコニア)等を用いることができる。なお、ジルコニウムをニッケルマンガン複合化合物内に予め添加せず、ジルコニウム化合物として添加することで、リチウム-ジルコニウム複合酸化物を極微量ではあるが生成することができる。そして、リチウム-ジルコニウム複合酸化物を含有することで、本実施形態の正極活物質の製造方法により得られた正極活物質の溶出リチウム量を抑制することができる。
【0067】
ニッケルマンガン複合化合物、リチウム化合物、およびジルコニウム化合物は、焼成工程後において、所望のリチウム複合酸化物が得られるように、その粒径等を予め調整しておくことが好ましい。
【0068】
例えばジルコニウム化合物の粒子の平均粒径は0.5μm以上5.0μm以下であることが好ましく、0.5μm以上3.0μm以下であることがより好ましい。本発明の発明者らの検討によれば、ジルコニウム化合物の平均粒径を上記範囲となるように調整しておくことで、得られる正極活物質内におけるジルコニウムの分布の均一性を特に高めることができるからである。
【0069】
ニッケルマンガン複合化合物とリチウム化合物と、ジルコニウム化合物との混合には、一般的な混合機を使用することができ、例えばシェーカーミキサーやレーディゲミキサー、ジュリアミキサー、Vブレンダー等から選択された1種類以上を用いることができる。混合工程における混合条件は特に限定されないが、ニッケルマンガン複合化合物等の原料の粒子等の形骸が破壊されない程度で、原料となる成分が十分に混合されるように条件を選択することが好ましい。
【0070】
原料混合物は、焼成工程に供する前に、混合工程で十分混合しておくことが好ましい。混合が十分でない場合には、個々の粒子間でLi/Meがばらつき、十分な電池特性が得られない等の問題が生じる可能性がある。なお、Li/Meは、原料混合物に含まれる、リチウムと、リチウム以外の金属との原子数の比を意味する。
【0071】
ニッケルマンガン複合化合物とリチウム化合物と、ジルコニウム化合物とは、混合後の原料混合物について、リチウム(Li)と、ニッケル(Ni)と、マンガン(Mn)と、ジルコニウム(Zr)と、添加元素M(M)とを物質量の比で、Li:Ni:Mn:Zr:M=a:b:c:d:eの割合で含有するように秤量、混合することが好ましい。係る式中のa、b、c、d、eの好適な範囲は、正極活物質においてリチウム複合酸化物について説明したものと同じ範囲とすることができるため、ここでは説明を省略する。
【0072】
これは、焼成工程の前後で、各金属の含有割合はほとんど変化しないため、原料混合物における各金属の含有割合が、本実施形態の正極活物質の製造方法により得られる正極活物質の目的とする各金属の含有割合と同じになるように混合することが好ましいからである。
(B)焼成工程
焼成工程では、混合工程で得た原料混合物を酸素濃度が80容量%以上97容量%以下である酸素含有雰囲気下、780℃以上950℃以下の温度で焼成し、リチウム複合酸化物を得ることができる。
【0073】
焼成工程において原料混合物を焼成すると、ニッケルマンガン複合化合物の粒子にリチウム化合物中のリチウムや、ジルコニウム化合物中のジルコニウムが拡散するので、多結晶構造の粒子からなるリチウム複合酸化物が形成される。
【0074】
焼成工程では、上述のように、原料混合物を酸素濃度が80容量%以上97容量%以下である酸素含有雰囲気下で焼成することが好ましい。なお、焼成工程における雰囲気の酸素以外の残部の成分は特に限定されないが、例えば窒素や、希ガス等の不活性ガスとすることが好ましい。
【0075】
本発明の発明者らの検討によれば、焼成工程における酸素濃度が、得られるリチウム複合酸化物の結晶性に影響を与えている。そして、焼成工程における酸素濃度を上記範囲とすることで結晶性を十分に高め、得られるリチウム複合酸化物のX線回折パターンから算出される(003)面の半価幅と、(104)面のピークの半価幅とが既述の関係式(1)を満たすことができる。
【0076】
焼成工程における雰囲気の酸素濃度は、80容量%以上95容量%以下であることがより好ましく、80容量%以上93容量%以下であることがさらに好ましい。
【0077】
また、焼成工程では、上述のように原料混合物を780℃以上950℃以下で焼成することが好ましく、800℃以上945℃以下で焼成することがより好ましい。
【0078】
焼成温度を780℃以上とすることで、ニッケルマンガン複合化合物の粒子中へのリチウムや、ジルコニウムの拡散を十分に行うことができる。このため、例えば余剰のリチウムや未反応の粒子が残ることを防ぎ、所望の組成であり、結晶構造の整ったリチウム複合酸化物を得ることができ、係るリチウム複合酸化物の粒子を含む正極活物質をリチウムイオン二次電池に用いた場合に所望の電池特性を得ることができる。
【0079】
また、焼成温度を950℃以下とすることで、形成されたリチウム複合酸化物の粒子間での焼結を抑制し、異常粒成長の発生も防止することができる。なお、異常粒成長が生じると、焼成後の粒子が粗大となってしまい粒子形態を保持できなくなる可能性があり、正極を形成したときに、比表面積が低下して正極の抵抗が上昇するため電池容量が低下する恐れがある。
【0080】
焼成時間は、3時間以上とすることが好ましく、6時間以上24時間以下であることがより好ましい。3時間以上とすることで、リチウム複合酸化物の生成を十分に進行させることができるからである。
【0081】
焼成工程においては、焼成温度である780℃以上950℃以下の温度で焼成する前に、焼成温度よりも低い105℃以上780℃未満のリチウム化合物とニッケルマンガン複合化合物、ジルコニウム化合物の粒子とが反応し得る温度で仮焼することが好ましい。仮焼温度は、400℃以上700℃以下とすることがより好ましい。このような温度で原料混合物を保持し、仮焼することにより、ニッケルマンガン複合化合物の粒子へのリチウムや、ジルコニウムの拡散が十分に行われ、特に均一なリチウム複合酸化物を得ることができる。例えば、リチウム化合物として水酸化リチウムを使用する場合であれば、400℃以上550℃以下の温度で1時間以上10時間以下程度保持して仮焼することが好ましい。
【0082】
焼成工程において焼成に用いる炉は、特に限定されるものではなく、例えば所定の酸素濃度の気体雰囲気や、所定の酸素濃度の気体の気流中で原料混合物を焼成できるものであればよいが、ガス発生がない電気炉が好ましく、バッチ式あるいは連続式の炉をいずれも用いることができる。
【0083】
焼成によって得られたリチウム複合酸化物の粒子は、粒子間の焼結は抑制されているが、弱い焼結や凝集により粗大な粒子を形成していることがある。このような場合には、解砕により上記焼結や凝集を解消して粒度分布を調整することが好ましい。
【0084】
焼成後に得られたリチウム複合酸化物の粒子を、本実施形態の正極活物質とすることができる。
【0085】
なお、本実施形態の正極活物質の製造方法は、上記工程に限定されず、さらに任意の工程を有することもできる。
【0086】
例えば、混合工程に供するニッケルマンガン複合化合物の一種であるニッケルマンガン複合水酸化物を晶析法により調製する晶析工程や、晶析工程で得られたニッケルマンガン複合水酸化物を酸化焙焼する酸化焙焼工程を有することもできる。
(C)晶析工程
晶析工程は、ニッケル、マンガン、および添加元素Mを含有するニッケルマンガン複合水酸化物の粒子を晶析させる晶析ステップを有することができる。
【0087】
晶析ステップの具体的な手順は特に限定されないが、例えばニッケル(Ni)、マンガン(Mn)、および添加元素Mを含む混合水溶液と、アルカリ水溶液とを混合して、ニッケルマンガン複合水酸化物の粒子を晶析させることができる。具体的には例えば以下の手順により実施することが好ましい。
【0088】
まず、反応槽内に水を入れて所定の雰囲気、温度に制御する。なお、晶析ステップの間、反応槽内の雰囲気は特に限定されないが、例えば窒素雰囲気等の不活性雰囲気とすることができる。また、不活性ガスに加えて、空気等の酸素を含有する気体をあわせて供給し、反応槽内の溶液の溶存酸素濃度を調整することもできる。反応槽内には水に加えて、後述するアルカリ水溶液や、錯化剤をさらに加えて初期水溶液とすることもできる。
【0089】
そして、反応槽内に、少なくともニッケル、マンガン、および添加元素Mを含む混合水溶液と、アルカリ水溶液とを加えて反応水溶液とする。次いで、反応水溶液を一定速度にて撹拌してpHを制御することにより、反応槽内にニッケルマンガン複合水酸化物の粒子を共沈殿させ晶析させることができる。
【0090】
なお、ニッケル、マンガン、および添加元素Mを含む混合水溶液とはせず、一部の金属を含む混合水溶液と、残部の金属を含む水溶液とを供給しても良い。具体的には例えばニッケルとマンガンとを含む混合水溶液と、添加元素Mを含む水溶液とを供給しても良い。また、各金属の水溶液を別々に調製し、各金属を含有する水溶液を反応槽に供給しても良い。
【0091】
ニッケル、マンガン、および添加元素Mを含む混合水溶液は、溶媒である水に対して、各金属の塩を添加することで調製することができる。塩の種類は特に限定されず、例えばニッケルや、マンガンの塩としては、硫酸塩、硝酸塩、塩化物から選択された1種類以上の塩を用いることができる。なお、各金属の塩の種類は異なっていても良いが、不純物の混入を防ぐ観点から、同じ種類の塩とすることが好ましい。
【0092】
また、添加元素Mを含む塩としては例えば、硫酸コバルト、塩化コバルト、硫酸チタン、酸化タングステン、酸化モリブデン、硫化モリブデン、五酸化バナジウム、塩化カルシウム、硫酸アルミニウム、アルミン酸ナトリウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、炭酸マグネシウム等から選択された1種類以上を用いることができる。
【0093】
アルカリ水溶液は、溶媒である水にアルカリ成分を添加することで調製できる。アルカリ成分の種類は特に限定されないが、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム等から選択された1種類以上を用いることができる。
【0094】
混合水溶液に含まれる金属元素の組成と、得られるニッケルマンガン複合水酸化物に含まれる金属元素の組成はほぼ一致する。したがって、目的とするニッケルマンガン複合水酸化物の金属元素の組成と同じになるように混合水溶液の金属元素の組成を調整することが好ましい。
【0095】
晶析ステップでは、上記金属成分を含有する水溶液(混合水溶液)とアルカリ水溶液以外にも任意の成分を反応水溶液に添加することができる。
【0096】
例えば、アルカリ水溶液と併せて、錯化剤を反応水溶液に添加することもできる。
【0097】
錯化剤は、特に限定されず、水溶液中でニッケルイオンやその他金属イオンと結合して錯体を形成可能なものであればよい。錯化剤としては例えば、アンモニウムイオン供給体が挙げられる。アンモニウムイオン供給体としては、特に限定されないが、例えば、アンモニア、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、炭酸アンモニウム、フッ化アンモニウム等から選択された1種類以上を使用することができる。
【0098】
晶析工程における反応水溶液の温度や、pHは特に限定されないが、例えば錯化剤を使用しない場合、反応水溶液の温度を、60℃を超えて80℃以下の範囲とすることが好ましく、かつ、反応水溶液のpHは10以上12以下(25℃基準)であることが好ましい。
【0099】
晶析工程において、錯化剤を使用しない場合、反応水溶液のpHを12以下とすることで、ニッケルマンガン複合水酸化物の粒子が細かい粒子となることを防ぎ、濾過性を高めることができる。また、より確実に球状粒子を得ることができる。
【0100】
また、反応水溶液のpHを10以上とすることで、ニッケルマンガン複合水酸化物の粒子の生成速度を速め、例えばNi等の一部の成分がろ液中に残留等することを防ぐことができる。このため、目的組成のニッケルマンガン複合水酸化物の粒子を、より確実に得ることができる。
【0101】
晶析工程において、錯化剤を使用しない場合、反応水溶液の温度を60℃超とすることで、Niの溶解度が上がるため、Niの沈殿量が目的組成からずれ、共沈にならない現象をより確実に回避できる。
【0102】
また、反応水溶液の温度を80℃以下とすることで、水の蒸発量を抑制できるため、スラリー濃度が高くなることを防ぐことができる。スラリー濃度が高くなることを防ぐことで、例えば反応水溶液内に硫酸ナトリウム等の意図しない結晶が析出し、不純物濃度が高くなることを抑制できる。
【0103】
一方、アンモニアなどのアンモニウムイオン供給体を錯化剤として使用する場合、Niの溶解度が上昇するため、晶析工程における反応水溶液のpHは10以上13以下(25℃基準)であることが好ましい。また、この場合、反応水溶液の温度が30℃以上60℃以下であることが好ましい。
【0104】
反応水溶液に錯化剤としてアンモニウムイオン供給体を添加する場合、反応槽内において、反応水溶液中のアンモニア濃度は、3g/L以上25g/L以下で一定の範囲に保持することが好ましい。
【0105】
反応水溶液中のアンモニア濃度を3g/L以上とすることで、金属イオンの溶解度を特に一定に保持することができるため、形状や、粒径の整ったニッケルマンガン複合水酸化物の一次粒子を形成することができる。このため、得られるニッケルマンガン複合水酸化物の粒子について、粒度分布の拡がりを抑制できる。
【0106】
反応水溶液中のアンモニア濃度を25g/L以下とすることで、金属イオンの溶解度が過度に大きくなることを防ぎ、反応水溶液中に残存する金属イオン量を抑制できるため、より確実に目的組成のニッケルマンガン複合水酸化物の粒子を得ることができる。
【0107】
また、アンモニア濃度が変動すると、金属イオンの溶解度が変動し、均一な水酸化物粒子が形成されない恐れがあるため、一定の範囲に保持することが好ましい。例えば、晶析工程の間、アンモニア濃度は、上限と下限の幅を5g/L程度以内として所望の濃度に保持することが好ましい。
【0108】
そして定常状態になった後に沈殿物を採取し、濾過、水洗してニッケルマンガン複合水酸化物粒子を得ることができる。あるいは、混合水溶液とアルカリ水溶液、場合によってはさらにアンモニウムイオン供給体を含む水溶液を反応槽に連続的に供給して、反応槽からオーバーフローさせて沈殿物を採取し、濾過、水洗してニッケルマンガン複合水酸化物粒子を得ることもできる。
【0109】
なお、添加元素Mは、晶析条件を最適化して組成比の制御を容易にするため、ニッケルマンガン複合水酸化物の粒子の表面を添加元素Mで被覆することで添加することもできる。この場合、晶析工程は、得られたニッケルマンガン複合水酸化物の粒子の表面に、添加元素Mを被覆する被覆ステップをさらに有することもできる。
【0110】
被覆ステップにおいて、ニッケルマンガン複合水酸化物の粒子の表面に添加元素Mを被覆する方法は特に限定されるものではなく、例えば各種公知の方法を用いることができる。
【0111】
例えば、ニッケルマンガン複合水酸化物の粒子を純水に分散させ、スラリーとする。このスラリーに狙いの被覆量見合いの添加元素Mを含有する溶液を混合し、所定のpHになるように酸を滴下し、pH値を調整する。このとき酸としては特に限定されないが、例えば硫酸、塩酸、および硝酸等から選択された1種類以上を用いることが好ましい。
【0112】
pH値を調整した後、所定の時間混合した後に、ろ過・乾燥を行うことで、添加元素Mが被覆されたニッケルマンガン複合水酸化物を得ることができる。
【0113】
ニッケルマンガン複合水酸化物の粒子の表面に添加元素Mを被覆する方法は、上記方法に限定されるものではない。例えば、添加元素Mの化合物を含む溶液とニッケルマンガン複合水酸化物の粒子を含有する溶液とをスプレードライで乾燥させる方法や、添加元素Mの化合物を含む溶液を、ニッケルマンガン複合水酸化物の粒子に含浸させる方法等を用いることもできる。
【0114】
なお、被覆ステップに供するニッケルマンガン複合水酸化物の粒子は、添加元素Mの一部が予め添加されたものであっても良く、添加元素Mを含まないものであっても良い。添加元素Mの一部を予め添加する場合には、既述の様に例えば晶析を行う際に、混合水溶液に添加元素Mを含む水溶液等を加えておくことができる。このようにニッケルマンガン複合水酸化物の粒子が、添加元素Mの一部を含む場合には、目的組成となるように、被覆ステップで添加する添加元素Mの量を調整することが好ましい。
(D)酸化焙焼工程
酸化焙焼工程を実施する場合、晶析工程で得られたニッケルマンガン複合水酸化物を酸素含有雰囲気中で焼成し、その後室温まで冷却することで、ニッケルマンガン複合酸化物を得ることができる。なお、酸化焙焼工程では、ニッケルマンガン複合水酸化物を焼成することで、水分を低減し、その少なくとも一部を上述のようにニッケルマンガン複合酸化物とすることができる。ただし、酸化焙焼工程において、ニッケルマンガン複合水酸化物を完全にニッケルマンガン複合酸化物に変換する必要はなく、ここでいうニッケルマンガン複合酸化物は、例えばニッケルマンガン複合水酸化物や、その中間体を含有していても良い。
【0115】
酸化焙焼工程における焙焼条件は特に限定されないが、酸素含有雰囲気中、例えば空気雰囲気中、350℃以上1000℃以下の温度で、5時間以上24時間以下焼成することが好ましい。
【0116】
これは、焼成温度を350℃以上とすることで、得られるニッケルマンガン複合酸化物の比表面積が過度に大きくなることを抑制でき好ましいからである。また、焼成温度を1000℃以下とすることで、ニッケルマンガン複合酸化物の比表面積が過度に小さくなることを抑制でき好ましいからである。
【0117】
焼成時間を5時間以上とすることで、焼成容器内の温度を特に均一にすることができ、反応を均一に進行させることができ、好ましい。また、24時間よりも長い時間焼成を行っても、得られるニッケルマンガン複合酸化物に大きな変化は見られないため、エネルギー効率の観点から、焼成時間は24時間以下とすることが好ましい。
【0118】
熱処理の際の酸素含有雰囲気中の酸素濃度は特に限定されないが、例えば酸素濃度が20容量%以上であることが好ましい。酸素雰囲気とすることもできるため、酸素含有雰囲気の酸素濃度の上限値は100容量%とすることができる。
[リチウムイオン二次電池]
本実施形態のリチウムイオン二次電池(以下、「二次電池」ともいう。)は、既述の正極活物質を含む正極を有することができる。
【0119】
以下、本実施形態の二次電池の一構成例について、構成要素ごとにそれぞれ説明する。本実施形態の二次電池は、例えば正極、負極及び非水系電解質を含み、一般のリチウムイオン二次電池と同様の構成要素から構成される。なお、以下で説明する実施形態は例示に過ぎず、本実施形態のリチウムイオン二次電池は、下記実施形態をはじめとして、当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を施した形態で実施することができる。また、二次電池は、その用途を特に限定するものではない。
(正極)
本実施形態の二次電池が有する正極は、既述の正極活物質を含むことができる。
【0120】
以下に正極の製造方法の一例を説明する。まず、既述の正極活物質(粉末状)、導電材および結着剤(バインダー)を混合して正極合材とし、さらに必要に応じて活性炭や、粘度調整などの目的の溶剤を添加し、これを混練して正極合材ペーストを作製することができる。
【0121】
正極合材中のそれぞれの材料の混合比は、リチウムイオン二次電池の性能を決定する要素となるため、用途に応じて、調整することができる。材料の混合比は、公知のリチウムイオン二次電池の正極と同様とすることができ、例えば、溶剤を除いた正極合材の固形分の全質量を100質量%とした場合、正極活物質を60質量%以上95質量%以下、導電材を1質量%以上20質量%以下、結着剤を1質量%以上20質量%以下の割合で含有することができる。
【0122】
得られた正極合材ペーストを、例えば、アルミニウム箔製の集電体の表面に塗布し、乾燥して溶剤を飛散させ、シート状の正極が作製される。必要に応じ、電極密度を高めるべくロールプレス等により加圧することもできる。このようにして得られたシート状の正極は、目的とする電池に応じて適当な大きさに裁断等し、電池の作製に供することができる。
【0123】
導電材としては、例えば、黒鉛(天然黒鉛、人造黒鉛および膨張黒鉛など)や、アセチレンブラックやケッチェンブラック(登録商標)などのカーボンブラック系材料などを用いることができる。
【0124】
結着剤(バインダー)としては、活物質粒子をつなぎ止める役割を果たすもので、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、フッ素ゴム、エチレンプロピレンジエンゴム、スチレンブタジエン、セルロース系樹脂およびポリアクリル酸等から選択された1種類以上を用いることができる。
【0125】
必要に応じ、正極活物質、導電材等を分散させて、結着剤を溶解する溶剤を正極合材に添加することもできる。溶剤としては、具体的には、N-メチル-2-ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。また、正極合材には、電気二重層容量を増加させるために、活性炭を添加することもできる。
【0126】
正極の作製方法は、上述した例示のものに限られることなく、他の方法によってもよい。例えば正極合材をプレス成形した後、真空雰囲気下で乾燥することで製造することもできる。
(負極)
負極は、金属リチウム、リチウム合金等を用いることができる。また、負極は、リチウムイオンを吸蔵・脱離できる負極活物質に結着剤を混合し、適当な溶剤を加えてペースト状にした負極合材を、銅等の金属箔集電体の表面に塗布、乾燥し、必要に応じて電極密度を高めるべく圧縮して形成したものを用いてもよい。
【0127】
負極活物質としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛およびフェノール樹脂などの有機化合物焼成体、およびコークスなどの炭素物質の粉状体を用いることができる。この場合、負極結着剤としては、正極同様、PVDFなどの含フッ素樹脂を用いることができ、これらの活物質および結着剤を分散させる溶剤としては、N-メチル-2-ピロリドンなどの有機溶剤を用いることができる。
(セパレータ)
正極と負極との間には、必要に応じてセパレータを挟み込んで配置することができる。セパレータは、正極と負極とを分離し、電解質を保持するものであり、公知のものを用いることができ、例えば、ポリエチレンやポリプロピレンなどの薄い膜で、微少な孔を多数有する膜を用いることができる。
(非水系電解質)
非水系電解質としては、例えば非水系電解液を用いることができる。
【0128】
非水系電解液としては、例えば支持塩としてのリチウム塩を有機溶媒に溶解したものを用いることができる。また、非水系電解液として、イオン液体にリチウム塩が溶解したものを用いてもよい。なお、イオン液体とは、リチウムイオン以外のカチオンおよびアニオンから構成され、常温でも液体状の塩をいう。
【0129】
有機溶媒としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ブチレンカーボネートおよびトリフルオロプロピレンカーボネートなどの環状カーボネートや、ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネートおよびジプロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート、さらにテトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフランおよびジメトキシエタンなどのエーテル化合物、エチルメチルスルホン、ブタンスルトンなどの硫黄化合物、リン酸トリエチル、リン酸トリオクチルなどのリン化合物等から選ばれる1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を混合して用いることもできる。
【0130】
支持塩としては、LiPF、LiBF、LiClO、LiAsF、LiN(CFSO、およびそれらの複合塩などを用いることができる。さらに、非水系電解液は、ラジカル捕捉剤、界面活性剤および難燃剤などを含んでいてもよい。
【0131】
また、非水系電解質としては、固体電解質を用いてもよい。固体電解質は、高電圧に耐えうる性質を有する。固体電解質としては、無機固体電解質、有機固体電解質が挙げられる。
【0132】
無機固体電解質としては、酸化物系固体電解質、硫化物系固体電解質等が挙げられる。
【0133】
酸化物系固体電解質としては、特に限定されず、例えば酸素(O)を含有し、かつリチウムイオン伝導性と電子絶縁性とを有するものを好適に用いることができる。酸化物系固体電解質としては、例えば、リン酸リチウム(LiPO)、LiPO、LiBO、LiNbO、LiTaO、LiSiO、LiSiO-LiPO、LiSiO-LiVO、LiO-B-P、LiO-SiO、LiO-B-ZnO、Li1+XAlTi2-X(PO(0≦X≦1)、Li1+XAlGe2-X(PO(0≦X≦1)、LiTi(PO、Li3XLa2/3-XTiO(0≦X≦2/3)、LiLaTa12、LiLaZr12、LiBaLaTa12、Li3.6Si0.60.4等から選択された1種類以上を用いることができる。
【0134】
硫化物系固体電解質としては、特に限定されず、例えば硫黄(S)を含有し、かつリチウムイオン伝導性と電子絶縁性とを有するものを好適に用いることができる。硫化物系固体電解質としては、例えば、LiS-P、LiS-SiS、LiI-LiS-SiS、LiI-LiS-P、LiI-LiS-B、LiPO-LiS-SiS、LiPO-LiS-SiS、LiPO-LiS-SiS、LiI-LiS-P、LiI-LiPO-P等から選択された1種類以上を用いることができる。
【0135】
なお、無機固体電解質としては、上記以外のものを用いてよく、例えば、LiN、LiI、LiN-LiI-LiOH等を用いてもよい。
【0136】
有機固体電解質としては、イオン伝導性を示す高分子化合物であれば、特に限定されず、例えば、ポリエチレンオキシド、ポリプロピレンオキシド、これらの共重合体などを用いることができる。また、有機固体電解質は、支持塩(リチウム塩)を含んでいてもよい。
(二次電池の形状、構成)
以上のように説明してきた本実施形態のリチウムイオン二次電池は、円筒形や積層形など、種々の形状にすることができる。いずれの形状を採る場合であっても、本実施形態の二次電池が非水系電解質として非水系電解液を用いる場合であれば、正極および負極を、セパレータを介して積層させて電極体とし、得られた電極体に、非水系電解液を含浸させ、正極集電体と外部に通ずる正極端子との間、および、負極集電体と外部に通ずる負極端子との間を、集電用リードなどを用いて接続し、電池ケースに密閉した構造とすることができる。
【0137】
なお、既述の様に本実施形態の二次電池は非水系電解質として非水系電解液を用いた形態に限定されるものではなく、例えば固体の非水系電解質を用いた二次電池、すなわち全固体電池とすることもできる。全固体電池とする場合、正極活物質以外の構成は必要に応じて変更することができる。
【0138】
本実施形態の二次電池では、ガスの発生を抑制することができ保存安定性に優れている。このため、ラミネート型の電池等の様にガス発生の影響を受けやすい電池に特に好適に用いることができる。また、本実施形態の二次電池は、ガスの発生が抑制されることで、電池特性を安定させることができるため、ラミネート型以外の電池にも好適に用いることができる。
【0139】
そして、本実施形態の二次電池は、各種用途に用いることができるが、高容量、高出力な二次電池とすることができるため、例えば常に高容量を要求される小型携帯電子機器(ノート型パーソナルコンピュータや携帯電話端末など)の電源に好適であり、高出力が要求される電気自動車用電源にも好適である。
【0140】
また、本実施形態の二次電池は、小型化、高出力化が可能であることから、搭載スペースに制約を受ける電気自動車用電源として好適である。なお、本実施形態の二次電池は、純粋に電気エネルギーで駆動する電気自動車用の電源のみならず、ガソリンエンジンやディーゼルエンジンなどの燃焼機関と併用するいわゆるハイブリッド車用の電源としても用いることができる。
【実施例
【0141】
以下に、実施例及び比較例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例によってなんら限定されるものではない。
【0142】
なお、以下の実験例では、特に断りがない限り、ニッケルマンガン複合化合物および正極活物質の作製には、和光純薬工業株式会社製試薬特級の各試料を使用した。
【0143】
ここではまず、以下の実験例で得られた正極活物質、二次電池の評価方法について説明する。
(正極活物質の評価)
得られた正極活物質について以下の評価を行った。
【0144】
(a)組成
ICP発光分光分析装置(VARIAN社製、725ES)を用いた分析により正極活物質の組成の評価を行った。なお、以下の実験例においては、正極活物質が異相としてリチウム-ジルコニウム複合酸化物を含む場合があるが、その含有量は極微量であり、ほぼリチウム複合酸化物から構成されるため、求めた正極活物質の組成はリチウム複合酸化物の組成とみなすことができる。以下の平均粒径、比表面積についても同様の理由から正極活物質について評価を行ったものをリチウム複合酸化物粒子の評価結果とすることができる。
【0145】
(b)(003)面のピークの半価幅、(104)面のピークの半価幅、異相の確認
X線回折装置(パナリティカル社製、X'Pert PRO)を用いて測定を行い、XRDパターンから、解析ソフトJADE(MDI社、Jade9、ver.9.6.0)を用いて、リチウム複合酸化物粒子の(003)面、および(104)面のピークの半価幅を算出した。
【0146】
また、得られたXRDパターンについて相同定を行い、リチウム複合酸化物以外に、リチウム-ジルコニウム複合酸化物等の異相が含まれていないかを確認した。異相が確認された場合には相同定を行い、異相の組成を確認した。
【0147】
(c)粒子観察
得られた正極活物質に含まれるリチウム複合酸化物粒子について、SEM(日本電子株式会社製、型式:JSM-6360LA)により観察を行った。後述するように実験例1、2、4、9におけるリチウム複合酸化物粒子のSEM画像を図4図7に示す。
【0148】
(d)平均粒径
レーザ光回折散乱式粒度分析計(日機装株式会社製 型式:マイクロトラックHRA)を用いて、リチウム複合酸化物粒子の平均粒径D50を測定した。
【0149】
(e)溶出リチウム量
溶出リチウム量は、中和滴定法の一つであるWarder法により評価した。評価結果から、水酸化リチウム(LiOH)と炭酸リチウム(LiCO)量を算出し、これらのリチウム量の和を溶出リチウム量とした。
【0150】
具体的には、得られた正極活物質に純水を加えて撹拌後、ろ過したろ液のpHを測定しながら塩酸を加えていくことにより出現する中和点から溶出するリチウムの化合物状態を評価して算出した。
【0151】
なお、上述の滴定は第2中和点まで測定した。第2中和点までに塩酸で中和されたアルカリ分を、水酸化リチウム(LiOH)および炭酸リチウム(LiCO)に由来するリチウム量(Li)として、第2中和点までに滴下した塩酸の量、及び塩酸の濃度から、ろ液内のリチウム量を算出した。
【0152】
そして、ろ液を調製する際に用いた正極活物質の試料の量で、算出したろ液内のリチウム量を割り、単位を質量%に換算して溶出リチウム量を求めた。
【0153】
(f)水分率
得られた正極活物質について、カールフィッシャー水分計(三菱ケミカルアナリテック社製 型式:CA-200)により、気化温度300℃の条件において水分率を測定した。
【0154】
(g)吸油量
吸油量は、得られた正極活物質について、JIS K6217-4:2008に準拠して測定を行った
(h)比表面積
流動方式ガス吸着法比表面積測定装置(ユアサアイオニクス株式会社製、マルチソーブ)によりリチウム複合酸化物粒子の比表面積を測定した。
【0155】
(i)円形度
得られた正極活物質について、湿式フロー式粒子径・形状分析装置(シスメックス社製 型式:FPIA-3000)により、円形度を評価した。標準試料により焦点を調整した後、試料粉末を分散媒である水に、超音波処理により分散させた分散液を用いて、測定を実施した。なお、分散液の液温は25℃とした。また、分散液は、湿式フロー式粒子径・形状分析装置で測定が可能なように濃度を調整した。
【0156】
測定を行う際カウント粒子数を10000個に設定した。撮像された画像を解析し、投影面積と等しい円の周囲長を投影像の周囲長で除して円形度を算出した。具体的には以下の式(1)により算出した。
【0157】
C=2×(S×π)1/2/L・・・(1)
C:円形度、S:投影面積から求めた円の面積、L:粒子周囲長
解析条件は、0.250μm≦円相当径<100μm、0.200≦円形度<1.00のもとで行った。すなわち、測定を行った10000個の粒子のうち、円相当径、円形度が上記解析条件の範囲に入る粒子を選択して円形度の解析を行うことにした。ただし、測定を行った粒子はいずれも上記解析条件を充足していた。
【0158】
そして、上記解析条件を充足する粒子の円形度の平均値を、該正極活物質の円形度とした。
(電池特性の評価)
以下の実験例で作製した製作した図1に示したコイン型電池を用いて、充電容量、放電容量、効率、正極抵抗を評価した。また、図2に示したラミネート型電池を用いてサイクル特性、及び保存ガス量を評価した。
(a)充電容量、放電容量、効率
各実験例で作製したコイン型電池を作製してから12時間程度放置し、開回路電圧OCV(open circuit voltage)が安定した後、正極に対する電流密度を0.1mA/cmとしてカットオフ電圧4.3Vまで充電した時の容量を充電容量とした。また、充電後、1時間の休止後、カットオフ電圧3.0Vまで放電したときの容量を放電容量とした。
【0159】
充電容量に対する、放電容量の割合である効率を算出した。
(b)正極抵抗
(a)の充放電容量測定後、0.2Cのレートで4.1V(SOC80%)まで定電流定電圧(CCCV)充電を行い、充電後のコイン型電池について交流インピーダンス法により抵抗値を測定した。測定には、周波数応答アナライザおよびポテンショガルバノスタット(ソーラトロン製)を使用し、図3Aに示すようなナイキストプロットを得た。プロットは、溶液抵抗、負極抵抗と容量、および、正極抵抗と容量を示す特性曲線の和として表れているため、図3Bに示した等価回路を用いてフィッティング計算し、正極抵抗の値を算出した。
(c)サイクル特性
サイクル特性は、500サイクル充放電を行った時の容量維持率を測定することにより評価した。具体的には、ラミネート型電池を、25℃に保持された恒温槽内で、電流密度0.3mA/cmとして、カットオフ電圧4.2Vまで充電し、10分間の休止後、カットオフ電圧2.5Vまで放電するサイクルを5サイクル繰り返すコンディショニングを行った後、45℃に保持された恒温槽内で、電流密度2.0mA/cmとして、カットオフ電圧4.2Vまで充電し、10分間の休止後、カットオフ電圧2.5Vまで放電するサイクルを500サイクル繰り返し、コンディショニング後の500サイクル目の放電容量の、1サイクル目の放電容量に対する割合である容量維持率を算出し、評価した。
(d)保存ガス量
ラミネート型電池を作製後、ラミネート型電池を25℃に保持された恒温槽内で、電流密度0.3mA/cmとして、カットオフ電圧4.2Vまで充電し、10分間の休止後、カットオフ電圧2.5Vまで放電するサイクルを5サイクル繰り返すコンディショニングを行った。そして、この際発生したガスをラミネート型電池内から逃がした。この際のラミネート型電池の体積をアルキメデス法により測定した。
【0160】
次いで、充放電容量を測定し、この値を基準として、充電深度(SOC)が100%となるように温度25℃にて、4.2Vまで定電流定電圧(CCCV)充電した。
【0161】
充電後、60℃に設定された恒温槽内で7日間保管し、7日経過後、2.5Vまで放電を行い、放電後、ラミネート型電池の体積をアルキメデス法により測定し、コンディショニング後に測定したラミネート型電池の体積との差からセル内に発生したガス量を評価した。
【0162】
実験例5での保存ガス量を1.00とし、相対的な割合で結果を示す。
【0163】
以下、各実験例における正極活物質等の製造条件、評価結果について説明する。実験例1~実験例4、実験例10、実験例11が実施例、実験例5~実験例9が比較例になる。
[実験例1]
(1)ニッケルマンガン複合化合物の製造
(晶析工程)
はじめに、反応槽(60L)内に、水を半分の量まで入れて撹拌しながら、槽内温度を45℃に設定した。このとき反応槽内に、窒素ガス(N)と大気(Air)を供給して反応槽液中の溶存酸素濃度が1.5mg/L以上2.5mg/L以下となるようにN/Air流量を調整した。
【0164】
この反応槽内の水に、アルカリ水溶液である25質量%水酸化ナトリウム水溶液と、錯化剤である25質量%アンモニア水とを適量加えて、pH値が液温25℃基準で11.6に、アンモニア濃度が12g/Lとなるように初期水溶液を調製した。
【0165】
同時に、硫酸ニッケルと、硫酸マンガンと、硫酸コバルトとを、ニッケルとマンガンとコバルトとの物質量の比が、Ni:Mn:Co=55.0:25.0:20.0となるように純水に溶解して、金属成分の濃度が2.0mol/Lの混合水溶液を調製した。
【0166】
この混合水溶液を、反応槽の初期水溶液に対して一定速度で滴下し、反応水溶液とした。この際、アルカリ水溶液である25質量%水酸化ナトリウム水溶液、および錯化剤である25質量%アンモニア水も一定速度で初期水溶液に滴下し、反応水溶液のpH値が、液温25℃基準で11.6に、アンモニア濃度が12.0g/Lに維持されるように制御した。係る操作により、ニッケルマンガン複合水酸化物粒子を晶析させた(晶析ステップ)。
【0167】
その後、反応槽に設けられたオーバーフロー口より回収されたニッケルマンガン複合水酸化物粒子を含むスラリーをろ過し、イオン交換水で水溶性の不純物を洗浄除去したのち、乾燥させた。
(酸化焙焼工程)
得られたニッケルマンガン複合水酸化物粒子を、空気(酸素濃度:21容量%)気流中、600℃で5時間酸化焙焼した。これによりニッケルとマンガンとコバルトとを物質量の比で、Ni:Mn:Co=55.0:25.0:20.0の割合で含有するニッケルマンガン複合酸化物粒子を得た。
(2)正極活物質の製造
(混合工程)
得られたニッケルマンガン複合酸化物粒子と、リチウム化合物である平均粒径が25μmの水酸化リチウムと、平均粒径が1.5μmである酸化ジルコニウムとをシェーカーミキサ装置(ウィリー・エ・バッコーフェン(WAB)社製 型式:TURBULA TypeT2C)を用いて十分に混合し、原料混合物を調製した。この際、得られる原料混合物に含まれるリチウム(Li)と、リチウム以外の金属(Me)との原子数の比であるLi/Meが1.015となるように、また、ニッケルマンガン複合酸化物粒子中の金属成分と、酸化ジルコニウム中のジルコニウムとの原子数の合計のうち、ジルコニウムの原子数の割合が0.35at.%となるように各原料を秤量、混合した。
(焼成工程)
混合工程で得られた原料混合物を、酸素濃度が85容量%、残部が窒素である酸素含有雰囲気下、945℃で6時間焼成した。
【0168】
得られた焼成物はピンミルを使用して二次粒子形状が保たれる程度の強度で粉砕した。
【0169】
以上の手順により、リチウム複合酸化物粒子(リチウム複合酸化物粉末)からなる正極活物質を得た。
【0170】
得られた正極活物質について組成、および異相の確認を行ったところ、本実験例で得られた正極活物質は、一般式:Li1.015Ni0.5480Mn0.2495Zr0.0035Co0.1990で表されるリチウム複合酸化物を含むことが確認された。また、異相として極微量ではあるがリチウム-ジルコニウム複合酸化物であるLiZrOを含むことが確認できた。
【0171】
また、得られた正極活物質に含まれるリチウム複合酸化物粒子のSEM画像を図4に示す。図4に示すようにリチウム複合酸化物の粒子は、一次粒子が凝集した二次粒子により構成されていることが確認できた。
【0172】
その他の評価結果については表1に示す。
(3)二次電池の作製
以下の手順により、図1に示す構造のコイン型電池、または図2に示す構造のラミネート型電池を作製し、該電池について既述の評価を行った。
(コイン型電池)
図1に示すように、コイン型電池10は、ケース11と、このケース11内に収容された電極12とから構成されている。
【0173】
ケース11は、中空かつ一端が開口された正極缶111と、この正極缶111の開口部に配置される負極缶112とを有しており、負極缶112を正極缶111の開口部に配置すると、負極缶112と正極缶111との間に電極12を収容する空間が形成されるように構成されている。
【0174】
電極12は、正極121、セパレータ122および負極123からなり、この順で並ぶように積層されており、正極121が正極缶111の内面に接触し、負極123が負極缶112の内面に接触するようにケース11に収容されている。
【0175】
なお、ケース11は、ガスケット113を備えており、このガスケット113によって、正極缶111と負極缶112との間が非接触の状態、すなわち電気的に絶縁状態を維持するように相対的な移動を規制し、固定されている。また、ガスケット113は、正極缶111と負極缶112との隙間を密封して、ケース11内と外部との間を気密液密に遮断する機能も有している。
【0176】
このコイン型電池10を、以下のようにして作製した。まず、得られた正極活物質52.5mg、アセチレンブラック15mg、およびポリテトラフルオロエチレン(PTFE)樹脂7.5mgを混合し、直径11mmで75mg程度の重量になるまで薄膜化して、正極121を作製し、これを真空乾燥機中100℃で12時間乾燥した。
【0177】
この正極121、負極123、セパレータ122および電解液とを用いて、コイン型電池10を、露点が-60℃に管理されたAr雰囲気のグローブボックス内で作製した。
【0178】
負極123には、直径13mmの円盤状に打ち抜かれたリチウム金属を用いた。
【0179】
セパレータ122には、膜厚25μmのポリエチレン多孔膜を用いた。電解液には、1MのLiClOを支持電解質とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の混合比が体積基準で1:1混合液(富山薬品工業株式会社製)を用いた。
【0180】
評価結果を表2に示す。
(ラミネート型電池)
図2に示すように、ラミネート型電池20は、正極膜21と、セパレータ22と、負極膜23との積層物に電解液を含浸させたものを、ラミネート24により封止した構造を有している。なお、正極膜21には正極タブ25が、負極膜23には負極タブ26がそれぞれ接続されており、正極タブ25、負極タブ26はラミネート24の外に露出している。
【0181】
得られた正極活物質20.0gと、アセチレンブラック2.35gと、ポリフッ化ビニリデン1.18gとをN-メチル-2-ピロリドン(NMP)に分散させたスラリーをAl箔上に1cmあたり正極活物質が7.0mg存在するように塗布した。次いで、係るAl箔上に正極活物質含有するスラリーを塗布したものを、120℃で30分間、大気中で乾燥し、NMPを除去した。正極活物質が塗布されたAl箔を幅66mmの短冊状に切り取り、荷重1.2tでロールプレスして正極膜を作製した。そして、正極膜を50mm×30mmの長方形に切り抜き、真空乾燥機中120℃で12時間乾燥したものをラミネート型電池20の正極膜21として用いた。
【0182】
また、平均粒径20μm程度の黒鉛粉末とポリフッ化ビニリデンとの混合物である負極合材ペーストを銅箔に塗布された負極膜23を用意した。セパレータ22には、膜厚20μmのポリエチレン多孔膜を、電解液には、1MのLiPFを支持電解質とするエチレンカーボネート(EC)とジエチルカーボネート(DEC)の3:7混合液(宇部興産株式会社製)を用いた。
【0183】
露点-60℃に管理されたドライルームで、上記正極膜21と、セパレータ22と、負極膜23との積層物に電解液を含浸させ、ラミネート24により封止して、ラミネート型電池20を作製した。
【0184】
なお、サイクル特性評価用と、保存ガス量評価用とに2つのラミネート型電池を作製した。
【0185】
評価結果を表2に示す。
[実験例2]
正極活物質を製造する際、混合工程において、得られる原料混合物に含まれるリチウム(Li)と、リチウム以外の金属(Me)との原子数の比であるLi/Meが1.015となるように、また、ニッケルマンガン複合酸化物粒子中の金属成分と、酸化ジルコニウム中のジルコニウムとの原子数の合計のうち、ジルコニウムの原子数の割合が0.50at.%となるように実験例1と同じ各原料を秤量、混合した。
【0186】
以上の点以外は実験例1と同様にして正極活物質を製造、評価し、さらに該正極活物質を用いて二次電池を製造、評価した。
【0187】
得られた正極活物質について組成、および異相の確認を行ったところ、本実験例で得られた正極活物質は、一般式:Li1.015Ni0.5470Mn0.2490Zr0.0050Co0.1990で表されるリチウム複合酸化物を含むことが確認された。また、異相として極微量ではあるがリチウム-ジルコニウム複合酸化物であるLiZrOを含むことが確認できた。
【0188】
また、SEMにより粒子観察を行ったところ、リチウム複合酸化物の粒子は、一次粒子が凝集した二次粒子により構成されていることが確認できた。
【0189】
その他の評価結果を表1、表2に示す。また、得られた正極活物質に含まれるリチウム複合酸化物粒子のSEM画像を図5に示す。
[実験例3]
正極活物質を製造する際、混合工程において、得られる原料混合物に含まれるリチウム(Li)と、リチウム以外の金属(Me)との原子数の比であるLi/Meが1.015となるように、また、ニッケルマンガン複合酸化物粒子中の金属成分と、酸化ジルコニウム中のジルコニウムとの原子数の合計のうち、ジルコニウムの原子数の割合が0.80at.%となるように実験例1と同じ各原料を秤量、混合した。
【0190】
以上の点以外は実験例1と同様にして正極活物質を製造、評価し、さらに該正極活物質を用いて二次電池を製造、評価した。
【0191】
得られた正極活物質について組成、および異相の確認を行ったところ、本実験例で得られた正極活物質は、一般式:Li1.015Ni0.5450Mn0.2490Zr0.0080Co0.1980で表されるリチウム複合酸化物を含むことが確認された。また、異相として極微量ではあるがリチウム-ジルコニウム複合酸化物であるLiZrOを含むことが確認できた。
【0192】
SEMにより粒子観察を行ったところ、リチウム複合酸化物の粒子は、一次粒子が凝集した二次粒子により構成されていることが確認できた。
【0193】
その他の評価結果を表1、表2に示す。
[実験例4]
正極活物質を製造する際、焼成工程において焼成温度を930℃とした点以外は実験例2と同様にして正極活物質を製造、評価し、さらに該正極活物質を用いて二次電池を製造、評価した。
【0194】
得られた正極活物質について組成、および異相の確認を行ったところ、本実験例で得られた正極活物質は、一般式:Li1.015Ni0.5470Mn0.2490Zr0.0050Co0.1990で表されるリチウム複合酸化物を含むことが確認された。また、異相として極微量ではあるがリチウム-ジルコニウム複合酸化物であるLiZrOを含むことが確認できた。
【0195】
SEMにより粒子観察を行ったところ、リチウム複合酸化物の粒子は、一次粒子が凝集した二次粒子により構成されていることが確認できた。
【0196】
その他の評価結果を表1、表2に示す。また、得られた正極活物質に含まれるリチウム複合酸化物粒子のSEM画像を図6に示す。
[実験例5]
正極活物質を製造する際、混合工程において、得られる原料混合物に含まれるリチウム(Li)と、リチウム以外の金属(Me)との原子数の比であるLi/Meが1.015となるように、実験例1と同じニッケルマンガン複合酸化物粒子と、水酸化リチウムとを秤量、混合した。なお、酸化ジルコニウムの添加は行わなかった。
【0197】
以上の点以外は実験例1と同様にして正極活物質を製造、評価し、さらに該正極活物質を用いて二次電池を製造、評価した。
【0198】
得られた正極活物質について組成、および異相の確認を行ったところ、本実験例で得られた正極活物質は、一般式:Li1.015Ni0.5500Mn0.2500Co0.2000で表されるリチウム複合酸化物からなり、異相を含まないことが確認できた。
【0199】
その他の評価結果を表1、表2に示す。
[実験例6]
正極活物質を製造する際、混合工程において、得られる原料混合物に含まれるリチウム(Li)と、リチウム以外の金属(Me)との原子数の比であるLi/Meが1.015となるように、また、ニッケルマンガン複合酸化物粒子中の金属成分と、酸化ジルコニウム中のジルコニウムとの原子数の合計のうち、ジルコニウムの原子数の割合が0.02at.%となるように実験例1と同じ各原料を秤量、混合した。
【0200】
以上の点以外は実験例1と同様にして正極活物質を製造、評価し、さらに該正極活物質を用いて二次電池を製造、評価した。
【0201】
得られた正極活物質について組成、および異相の確認を行ったところ、本実験例で得られた正極活物質は、一般式:Li1.015Ni0.5498Mn0.2500Zr0.0002Co0.2000で表されるリチウム複合酸化物からなり、異相を含まないことが確認できた。
【0202】
その他の評価結果を表1、表2に示す。
[実験例7]
正極活物質を製造する際、混合工程において、得られる原料混合物に含まれるリチウム(Li)と、リチウム以外の金属(Me)との原子数の比であるLi/Meが1.015となるように、また、ニッケルマンガン複合酸化物粒子中の金属成分と、酸化ジルコニウム中のジルコニウムとの原子数の合計のうち、ジルコニウムの原子数の割合が2.5at.%となるように実験例1と同じ各原料を秤量、混合した。
【0203】
以上の点以外は実験例1と同様にして正極活物質を製造、評価し、さらに該正極活物質を用いて二次電池を製造、評価した。
【0204】
得られた正極活物質について組成、異相の確認を行ったところ、本実験例で得られた正極活物質は、一般式:Li1.015Ni0.5360Mn0.2420Zr0.0250Co0.1970で表されるリチウム複合酸化物を含むことが確認された。また、異相として極微量ではあるがリチウム-ジルコニウム複合酸化物であるLiZrO3、LiZrOを含むことが確認できた。
【0205】
その他の評価結果を表1、表2に示す。
[実験例8]
正極活物質を製造する際、混合工程において、ジルコニウム源として、平均粒径が5.2μmの酸化ジルコニウムを用いた点以外は、実験例2と同様にして正極活物質を製造、評価し、さらに該正極活物質を用いて二次電池を製造、評価した。
【0206】
得られた正極活物質について組成評価を行ったところ、本実験例で得られた正極活物質は、一般式:Li1.015Ni0.5470Mn0.2490Zr0.0050Co0.1990で表されるリチウム複合酸化物を含むことが確認された。また、異相として極微量ではあるがZrO、およびリチウム-ジルコニウム複合酸化物であるLiZrOを含むことが確認できた。
【0207】
その他の評価結果を表1、表2に示す。
[実験例9]
正極活物質を製造する際、焼成工程において酸素濃度が65容量%、残部が窒素である酸素含有雰囲気下で焼成した点以外は実験例2と同様にして正極活物質を製造、評価し、さらに該正極活物質を用いて二次電池を製造、評価した。
【0208】
得られた正極活物質について組成、異相の確認を行ったところ、本実験例で得られた正極活物質は、一般式:Li1.015Ni0.5470Mn0.2490Zr0.0050Co0.1990で表されるリチウム複合酸化物を含むことが確認された。また、異相として極微量ではあるがリチウム-ジルコニウム複合酸化物であるLiZrOを含むことが確認できた。
【0209】
その他の評価結果を表1、表2に示す。また、得られた正極活物質に含まれるリチウム複合酸化物粒子のSEM画像を図7に示す。
[実験例10]
正極活物質を製造する際、混合工程において、得られる原料混合物に含まれるリチウム(Li)と、リチウム以外の金属(Me)との原子数の比であるLi/Meが1.005となるように、また、ニッケルマンガン複合酸化物粒子中の金属成分と、酸化ジルコニウム中のジルコニウムとの原子数の合計のうち、ジルコニウムの原子数の割合が0.5at.%となるように実験例1と同じ各原料を秤量、混合した。
【0210】
以上の点以外は実験例1と同様にして正極活物質を製造、評価し、さらに該正極活物質を用いて二次電池を製造、評価した。
【0211】
得られた正極活物質について組成、異相の確認を行ったところ、本実験例で得られた正極活物質は、一般式:Li1.005Ni0.5470Mn0.2490Zr0.0050Co0.1990で表されるリチウム複合酸化物を含むことが確認された。また、異相として極微量ではあるがリチウム-ジルコニウム複合酸化物であるLiZrOを含むことが確認できた。
[実験例11]
正極活物質を製造する際、混合工程において、得られる原料混合物に含まれるリチウム(Li)と、リチウム以外の金属(Me)との原子数の比であるLi/Meが1.045となるように、また、ニッケルマンガン複合酸化物粒子中の金属成分と、酸化ジルコニウム中のジルコニウムとの原子数の合計のうち、ジルコニウムの原子数の割合が0.5at.%となるように実験例1と同じ各原料を秤量、混合した。
【0212】
以上の点以外は実験例1と同様にして正極活物質を製造、評価し、さらに該正極活物質を用いて二次電池を製造、評価した。
【0213】
得られた正極活物質について組成、異相の確認を行ったところ、本実験例で得られた正極活物質は、一般式:Li1.045Ni0.5470Mn0.2490Zr0.0050Co0.1990で表されるリチウム複合酸化物を含むことが確認された。また、異相として極微量ではあるがリチウム-ジルコニウム複合酸化物であるLiZrOを含むことが確認できた。
【0214】
【表1】
【0215】
【表2】
表1、表2に示した結果から、所定量のZrを含有するリチウム複合酸化物の粒子を含有し、リチウム複合酸化物のX線回折パターンから算出される(003)面のピークの半価幅FWHM(003)と(104)面のピークの半価幅FWHM(104)とが所定の関係を満たす正極活物質である実験例1~実験例4、実験例10、実験例11では、サイクル特性を高め、かつガスの発生を抑制できることを確認できた。
【0216】
以上にリチウムイオン二次電池用正極活物質、リチウムイオン二次電池用正極活物質の製造方法、リチウムイオン二次電池を、実施形態および実施例等で説明したが、本発明は上記実施形態および実施例等に限定されない。特許請求の範囲に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形、変更が可能である。
【0217】
本出願は、2019年2月22日に日本国特許庁に出願された特願2019-031047号に基づく優先権を主張するものであり、特願2019-031047号の全内容を本国際出願に援用する。
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7