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特許7414067細胞足場材、細胞培養支持体、及び細胞の培養方法
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  • 特許-細胞足場材、細胞培養支持体、及び細胞の培養方法 図1
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  • 特許-細胞足場材、細胞培養支持体、及び細胞の培養方法 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】細胞足場材、細胞培養支持体、及び細胞の培養方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/10 20060101AFI20240109BHJP
   C12M 3/00 20060101ALI20240109BHJP
【FI】
C12N5/10
C12M3/00 A
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021527772
(86)(22)【出願日】2020-06-26
(86)【国際出願番号】 JP2020025209
(87)【国際公開番号】W WO2020262609
(87)【国際公開日】2020-12-30
【審査請求日】2022-01-13
(31)【優先権主張番号】P 2019120033
(32)【優先日】2019-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】上面 雅義
(72)【発明者】
【氏名】大治 雅史
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 博
(72)【発明者】
【氏名】福島 和樹
(72)【発明者】
【氏名】佐野 麻衣
【審査官】市島 洋介
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-342336(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0153815(US,A1)
【文献】国際公開第2018/226901(WO,A1)
【文献】特表2016-505266(JP,A)
【文献】国際公開第2018/144860(WO,A1)
【文献】特開2017-078048(JP,A)
【文献】特表2017-535608(JP,A)
【文献】佐野 麻衣, ほか,ポリ乳酸(A)-生体親和性ポリカーボネート(B) ABA型トリブロック共重合体の細胞接着性とエラストマー特性の評価,第47回医用高分子シンポジウム講演要旨集,2018年,pp.35-36
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00-3/10
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
人工多能性幹細胞培養用組成物であって、
ポリD-乳酸構造単位(A)と、下記一般式(I)で表される単位を少なくとも1つ含むポリカーボネート構造単位(B)と、を有するABA型のブロック共重合体を含み、
【化1】
前記一般式(I)中、Xはメチル基である、
組成物。
【請求項2】
前記共重合体の標準ポリスチレンで校正したゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて測定する数平均分子量(Mn)は、5,000~18,000である、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
(a)請求項1若しくは2に記載の組成物又は(b)請求項1若しくは2に記載の組成物と当該組成物を表面上に有する基材とを含む細胞培養支持体、を用意すること、
前記(a)組成物又は(b)細胞培養支持体を培養系に配置すること、及び、
前記(a)組成物又は(b)細胞培養支持体の存在下で、人工多能性幹細胞を培養すること
を含む、人工多能性幹細胞の培養方法。
【請求項4】
前記(b)細胞培養支持体を用意することを含み、前記基材は、ディッシュ、ウェルプレート、細胞容器、マイクロビーズ、マイクロキャリア、三次元ブロック体、又は細胞シートである、請求項3に記載の細胞の培養方法。
【請求項5】
前記培養系が、無血清培地で構成される、請求項3又は4に記載の細胞の培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の一実施形態は、細胞足場材、細胞培養支持体、及び細胞の培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
細胞培養は、基材に細胞を播種し、培地を添加して行われる。基材と細胞との接着性を高めるために、基材に細胞足場材をコーティングする方法が知られている。
近年拡大している再生医療では、iPS細胞等に代表される幹細胞を生体外で細胞培養して増殖し、動物又はヒト等の体内へ適用することが研究されている。細胞培養では、細胞を継代しながら細胞を増殖させていくが、細胞の分化が抑制されて細胞が増殖していくことが好ましい。一部の細胞が分化すると細胞増殖の進行が妨げられ、特に大量培養においては細胞増殖が抑制される場合がある。また、培養系に分化段階が異なる細胞が存在する場合、特定の分化段階の細胞を単離する必要が生じるが、純度高く細胞を単離することは技術的に困難を伴う。
【0003】
また、細胞培養では、培地や足場材等としてタンパク質成分が用いられている。このタンパク質は、最終的に培養した細胞製品に混入すると抗原となることがある。また、タンパク質が動物及びヒト由来の場合、ロット間バラつきが大きく、細胞の安定的な培養に影響を及ぼすことがある。そのため、細胞を無血清培地で培養する要望が高まっている。そのなかでも、細胞、特に幹細胞の無血清培地での培養に適した細胞足場材が求められている。
これまで、幹細胞の培養において、ラミニン、フィブロネクチン等が細胞足場材として検討されているが、十分な性能が得られていない。
【0004】
特開2018-068192号公報には、両親媒性ブロック共重合体のブロック間に芳香環と水素結合ユニットからなる構造を有する化合物が、細胞の増殖や形態制御に作用することが開示されている。特許文献1には、具体的な化合物として、ポリエチレングリコール(PEG)と、ポリL-乳酸(PLLA)、ポリε-カプロラクトン(PCL)、又はトリメチレンカーボネート(PTMC)とのブロック共重合体のブロック間にN-(4-(ウレイドメチル)ベンジル)ベンズアミドの構造を有する化合物が挙げられている。
特開2018-068192号公報には、この化合物を細胞伸展・増殖調節剤として、培地に添加して用いることが提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特開2018-068192号公報には、培地に添加する細胞伸展・増殖調節剤の用途について開示されるのみであり、細胞足場材については十分に検討されていない。
細胞足場材には、基材と細胞との接着性を備えながら、細胞の増殖に悪影響を与えないことが求められる。さらに、細胞足場材を用いた細胞培養においては、分化を抑制しつつ細胞を増殖させることが望まれる場合がある。
【0006】
本開示の一目的としては、細胞の分化を抑制して、細胞の増殖を促進する細胞足場材、細胞培養支持体、及び細胞の培養方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を達成するための具体的手段は以下の通りである。
[1]ポリ乳酸構造単位(A)と、ポリカーボネート構造単位(B)と、を有する共重合体を含む、細胞足場材。
[2]前記ポリカーボネート構造単位(B)は、置換基として、アルコキシアルキルオキシカルボニル基を有する単位を少なくとも1つ含む、[1]記載の細胞足場材。
[3]前記ポリカーボネート構造単位(B)は、置換基として、メトキシエチルオキシカルボニル基を有する単位を少なくとも1つ含む、[1]又は[2]に記載の細胞足場材。
【0008】
[4]前記ポリカーボネート構造単位(B)は、下記一般式(I)で表される単位を少なくとも1つ含む、[1]に記載の細胞足場材。
【化1】

(一般式(I)中、Xは水素原子又は炭素数5以下のアルキル基である。)
[5]前記一般式(I)中、Xはメチル基である、[4]に記載の細胞足場材。
[6]前記共重合体は、一方端又は両端部がポリ乳酸構造単位(A)であるブロック共重合体である、[1]から[5]のいずれかに記載の細胞足場材。
[7]前記共重合体は、AB型、ABA型、又はABAB型のブロック共重合体である、[6]に記載の細胞足場材。
[8]前記共重合体は、ABA型ブロック共重合体である、[7]に記載の細胞足場材。
[9]前記ポリ乳酸構造単位(A)は、ポリD-乳酸構造単位、又はポリL-乳酸構造単位である、[1]から[8]のいずれか記載の細胞足場材。
【0009】
[10][1]から[9]のいずれかに記載の細胞足場材と、基材とを含む、細胞培養支持体。
[11][1]から[9]のいずれかに記載の細胞足場材を用意すること、前記細胞足場材を培養系に配置すること、及び前記細胞足場材の存在下で、細胞を培養することを含む、細胞の培養方法。
[12]前記培養系が、無血清培地で構成される、[11]に記載の細胞の培養方法。
【発明の効果】
【0010】
本開示の一実施形態によれば、細胞の分化を抑制して、細胞の増殖を促進する細胞足場材、細胞培養支持体、及び細胞の培養方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、各ポリマーを塗布した支持体を用いた場合の蛍光標識BSAの蛍光強度を示すグラフである。
図2図2は、各ポリマーを塗布した支持体を用いて培養したヒト正常線維芽細胞の蛍光差顕微鏡写真であり、細胞培養開始から(a)1時間後、(b)1日後、(c)2日後、(d)3日後、(e)7日後である。
図3図3は、各ポリマーを塗布した支持体を用いた、ヒト正常線維芽細胞の培養における細胞培養時間に対する細胞数を示すグラフである。
図4図4は、各ポリマーを塗布した支持体を用いた、ヒト正常線維芽細胞の培養における細胞培養時間に対するFGF-2濃度を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示にかかる一実施形態について説明するが、以下の例示によって本開示は限定されない。
【0013】
一実施形態による細胞足場材としては、ポリ乳酸構造単位(A)と、ポリカーボネート構造単位(B)とを有する、共重合体を含む。
一実施形態によれば、細胞の分化を抑制して、細胞の増殖を促進することができる。
【0014】
これを更に説明すれば、本開示にかかる細胞足場材を構成するポリ乳酸構造単位とポリカーボネート構造単位とは共に、細胞に対する接着性と、高い生体親和性を有する。一方で、ポリ乳酸構造単位は、疎水性の性質を有し、ポリカーボネート構造単位は、非水溶性であるがポリ乳酸構造単位に比較して親水性の性質を有する。これらの性質に基づき、それぞれの構造単位の特性から、本共重合体は、細胞に対する接着能を保持した状態で自己組織化する傾向がある。この構造上の特性が、細胞足場材として使用したときに、細胞の分化を抑制し且つ増殖を促す作用を奏するものと推測される。ただし、この理論には拘束されない。
【0015】
一実施形態による細胞足場材は、ポリ乳酸構造単位(A)と、ポリカーボネート構造単位(B)とを有する共重合体を含むことが好ましい。この共重合体は、構造単位(A)と構造単位(B)とによってブロック共重合体を構成することが好ましい。
【0016】
一実施形態による共重合体において、ポリ乳酸構造単位(A)は、ポリ乳酸構造によって構成される構造単位を意味し、複数の乳酸単位を含む構造単位であってよい。
ポリ乳酸構造単位(A)としては、例えば、ポリD-乳酸構造単位、ポリL-乳酸構造単位、ポリDL-乳酸構造単位等が挙げられる。好ましくは、ポリ乳酸構造単位(A)は、ポリD-乳酸構造単位、又はポリL-乳酸構造単位であり、より好ましくはポリD-乳酸構造単位である。共重合体に2個以上のポリ乳酸構造単位(A)が含まれる場合は、共重合体の1分子中に含まれるポリ乳酸構造単位(A)は、全て同一であっても全て又は一部が異なってもよいが、全て同一であることが好ましい。
【0017】
一実施形態による共重合体において、ポリカーボネート構造単位(B)は、ポリカーボネート構造によって構成される構造単位を意味し、複数のカーボネート単位を含む構造単位であってよい。
ポリカーボネート構造単位としては、主鎖にカーボネート結合を有する重合体の構造単位であって、脂肪族ポリカーボネート構造単位又は芳香族ポリカーボネート構造単位のいずれであってもよいが、脂肪族ポリカーボネート構造単位であることが好ましい。
脂肪族ポリカーボネート構造単位としては、例えば、ポリエチレンカーボネート構造単位、ポリプロピレンカーボネート構造単位、ポリトリメチレンカーボネート構造単位等、これらの共重合体の構造単位、又はこれらに側鎖を導入した誘導体の構造単位等が挙げられる。芳香族ポリカーボネート構造単位としては、例えば、ポリアリールカーボネート構造単位等、又はこれらの誘導体等が挙げられる。ポリアリールカーボネート構造単位としては、例えば、ポリフェニルカーボネート構造単位等が挙げられる。
共重合体に2個以上のポリカーボネート構造単位(B)が含まれる場合は、共重合体の1分子中に含まれる構造単位(B)は、全て同一であっても全て又は一部が異なってもよいが、全て同一であることが好ましい。
【0018】
ポリカーボネート構造単位(B)を構成するカーボネート単位は、置換基を有していてもよい。ポリカーボネート構造単位(B)は、置換基として、アルコキシアルキルオキシカルボニル基を有するカーボネート単位を少なくとも1個有することが好ましい。この置換基を有するカーボネート単位は、ポリカーボネート構造単位(B)の中に1個以上含まれればよく、ポリカーボネート構造単位(B)を構成するカーボネート単位の全単位に対して80モル%以上で含まれてよく、カーボネート単位の全単位がこの置換基を有してもよい。
アルコキシアルキルオキシカルボニル基は、主鎖のカーボネート結合の炭素原子に直接結合して導入されることが好ましい。
また、アルコキシアルキルオキシカルボニル基において、アルコキシ基は、直鎖又は分岐であってもよく、炭素数5以下のアルコキシ基が好ましく、より好ましくは炭素数3以下のアルコキシ基であり、さらに好ましくはエトキシ基又はメトキシ基であり、特に好ましくはメトキシ基である。
【0019】
また、アルコキシアルキルオキシカルボニル基において、アルコキシ基とカルボニル基との間に介在するアルキレン基は、直鎖又は分岐であってもよく、炭素数5以下が好ましく、より好ましくは炭素数3以下であり、さらに好ましくはプロピレン基、又はエチレン基であり、特に好ましくはエチレン基である。
具体的には、アルコキシアルキルオキシカルボニル基は、メトキシエチルオキシカルボニル基、メトキシプロピルオキシカルボニル基、エトキシエチルオキシカルボニル基、エトキシプロピルオキシカルボニル基等が挙げられ、特にメトキシエチルオキシカルボニル基が好ましい。
【0020】
共重合体において、ポリカーボネート構造単位(B)の置換基として、アルコキシアルキルオキシカルボニル基、例えばメトキシエチルオキシカルボニル基を有することで、細胞への接着性をより高めることができ、また細胞増殖において細胞の分化をより抑制することができる。この置換基を含むことで非水溶性の構造単位の分子鎖の間に水分子を含む層構造を取りやすくなり、ポリカーボネート構造単位(B)の部分において細胞が安定に保持され、細胞の増殖がより促進され、また、細胞の分化がより抑制されると考えられるが、この理論に拘束されない。
【0021】
ポリカーボネート構造単位(B)の好ましい一例としては、下記一般式(II)で表されるカーボネート単位を少なくとも1個含むことが好ましい。
【化2】
【0022】
一般式(II)において、Mは、水素原子、炭素数5以下の直鎖又は分岐のアルキル基、又は-L-Zで表される基であり、m及びm’は、それぞれ独立的に、0~5の整数であり、m+m’=1~7を満たし、Yは、-L-Zで表される基であり、Lは、アルキレン基、エーテル結合、エステル結合、単結合、-C(=O)-、又はこれらの組み合わせを有する2価の基であり、Zは、鎖状エーテル基、環状エーテル基、アセタール構造を有する基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基、又はこれらの組み合わせを有する1価の基である。
【0023】
ポリカーボネート構造単位(B)は、複数の一般式(II)で表されるカーボネート単位が重合された単位であってもよい。この場合、一般式(II)で表される単位の重合度は、例えば、2~2000であってよい。
ポリカーボネート構造単位において、一般式(II)で表されるカーボネート単位は少なくとも1個含まれてもよく、2個以上含まれてもよく、ポリカーボネート構造単位に含まれるカーボネート単位の全単位に対して80モル%以上含まれてよい。さらに、ポリカーボネート構造単位に含まれるカーボネート単位の全てが一般式(II)で表される単位であってよい。
また、ポリカーボネート構造単位に複数の一般式(II)で表される単位が含まれる場合では、複数の一般式(II)で表される単位は全てが互いに同一であっても異なってもよく、又は一部が異なってもよい。
【0024】
一般式(II)において、Mとしては、水素原子、炭素数5以下、好ましくは3以下、更に好ましくは2以下の直鎖又は分岐のアルキル基、又は-L-Zで表される基であってよい。例えば、水素原子、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基、sec-ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、sec-ペンチル基、tert-ペンチル基等が挙げられる。また、-L-Zで表される基は後述のYで説明する通りである。Mとしては、なかでもメチル基又はエチル基が好ましく、より好ましくはメチル基である。
【0025】
また、m及びm’は、それぞれ独立的に、0~5の整数であり、m+m’=1~7を満すことが好ましい。さらに、m+m’=1~4を満たすことが好ましく、m=m’=1であることがより好ましい。m=m’=1の場合、ポリカーボネート構造単位の主鎖は、ポリトリメチレンカーボネートの骨格となる。
【0026】
また、Yは、-L-Zで表される基であり、L及びZはそれぞれ以下の通りである。
Lは、主鎖とZとのリンカーであり、アルキレン基、エーテル結合、エステル結合、単結合、-C(=O)-、又はこれらの組み合わせを有する2価の基であってよく、なかでも、エーテル結合、エステル結合、単結合、-C(=O)-、又はこれらの組み合わせを有する2価の基が好ましく、エステル結合、又は-C(=O)-を有する2価の基がより好ましい。
【0027】
Zは、鎖状エーテル基、環状エーテル基、アセタール構造を有する基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基、又はこれらの組み合わせを有する1価の基であってよいが、なかでも鎖状エーテル基、又はアルコキシアルキル基が好ましい。
鎖状エーテル基としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルキレングリコール又はその重合体の構造を有することが好ましい。
Zの具体例としては、下記一般式(III)において、Rがエチレン基又はプロピレン基であり、R’が水素原子又は炭素数5以下の直鎖又は分岐のアルキル基であり、nは1~30の整数である。
-(R-O)-R’ (III)
一般式(III)において、Rは好ましくはエチレン基である。また、R’は好ましくはメチル基又はエチル基であり、より好ましくはメチル基である。また、nは好ましくは1~5であり、より好ましくは1又は2である。
より好ましくは、Zは、アルコキシアルキル基であり、例えば、メトキシエチル基、メトキシプロピル基、エトキシエチル基、エトキシプロピル基、プロピルオキシエチル基、プロピルオキシプロピル基等が挙げられ、なかでもメトキシエチル基が好ましい。
【0028】
-L-Zで表される基の具体例としては、例えば、-OCH、-OCHCH、-OCHCHCH、-CHOCH、-CHOCHCH、-CHOCHCHCH、-CHCHOCH、-CHCHOCHCH、-CHCHOCHCHCH、-CHOCHCHOCH、-CHOCHCHOCHCH、-CHOCHCHOCHCHCH、-CHCHOCHCHOCH、-CHCHOCHCHOCHCH、-CHCHOCHCHOCHCHCH、-C(=O)OCH、-C(=O)OCHCH、-C(=O)OCHCHCH、-C(=O)OCHCHOCH、-C(=O)OCHCHCHOCH、-C(=O)OCHCHOCHCH、-C(=O)OCHCHCHOCHCH、-C(=O)OCHCHOCHCHCH、-C(=O)OCHCHCHOCHCHCH等が挙げられる。なかでも、-C(=O)OCH、-C(=O)OCHCH、-C(=O)OCHCHCH、-C(=O)OCHCHOCH、-C(=O)OCHCHCHOCH、-C(=O)OCHCHOCHCH、-C(=O)OCHCHCHOCHCH、-C(=O)OCHCHOCHCHCH、又は-C(=O)OCHCHCHOCHCHCHが好ましい。より好ましくは、-C(=O)OCHCHOCH、-C(=O)OCHCHCHOCH、-C(=O)OCHCHOCHCH、-C(=O)OCHCHCHOCHCH、-C(=O)OCHCHOCHCHCH、又は-C(=O)OCHCHCHOCHCHCHである。特に好ましくは、-C(=O)OCHCHOCHである。
【0029】
ポリカーボネート構造単位(B)のより具体的な好ましい一例としては、下記一般式(I)で表されるカーボネート単位を少なくとも1個含むことが好ましい。
【化3】
【0030】
一般式(I)中、Xは水素原子又は炭素数5以下のアルキル基である。
Xにおいて、炭素数5以下のアルキル基は直鎖又は分岐であってよい。また、Xは好ましくはメチル基又はエチル基であり、より好ましくはメチル基である。
【0031】
ポリカーボネート構造単位(B)は、複数の一般式(I)で表されるカーボネート単位が重合された単位であってもよい。この場合、一般式(I)で表される単位の重合度は、例えば、2~2000であってよい。
ポリカーボネート構造単位において、一般式(I)で表されるカーボネート単位は少なくとも1個含まれてもよく、2個以上含まれてもよく、ポリカーボネート構造単位に含まれるカーボネート単位の全単位に対して80モル%以上含まれていることが好ましい。さらに、ポリカーボネート構造単位に含まれるカーボネート単位の全てが一般式(I)で表される単位であってよい。
また、ポリカーボネート構造単位に複数の一般式(I)で表される単位が含まれる場合では、複数の一般式(I)で表される単位は全てが互いに同一であっても異なってもよく、又は一部が異なってもよい。
【0032】
一実施形態による共重合体は、ポリ乳酸構造単位(A)及びポリカーボネート構造単位(B)を含むブロック共重合体であってもよい。この場合、ブロック共重合体のブロック構造は、少なくとも一方の端部がポリ乳酸構造単位(A)であることが好ましい。すなわち、ブロック共重合体のブロック構造は、一方端又は両端部がポリ乳酸構造単位(A)であることが好ましい。例えば、AB型、ABA型、ABAB型等が挙げられ、好ましくはABA型である。
ブロック共重合体のブロック構造において、一方端又は両端部がポリ乳酸構造単位(A)であることで、ポリ乳酸構造単位(A)は基材への接着性を備えるため、基材に細胞足場材をより安定して付着させることができる。
さらに、ABA型のように、両端部がポリ乳酸構造単位(A)であることで、ブロック共重合体の両端部においてポリ乳酸構造単位(A)が基材に接着し、中間部分のポリカーボネート構造単位(B)が基材から浮き上がるようにして、ブロック共重合体が基材に付着されると考えられる。この構成では、浮き上がったポリカーボネート構造単位(B)の部分で細胞を捕獲しながら、基材への細胞の接着性をより高めることができる。
【0033】
ブロック共重合体の一例としては、下記一般式(IV)で表される共重合体である。より具体的には、下記一般式()で表される共重合体が好ましい。
【0034】
【化4】
【0035】
一般式(IV)において、Xは、上記した一般式(I)と同じであるため、説明を省略する。一般式(IV)において、a、b、c及びdは、共重合体の分子量に応じて適宜決定される数値であり、互いに同一でも一部又は全てが異なってもよい。例えば、a=d及びb=cのうち一方又は両方を満たすことが好ましく、a=dかつb=cがより好ましい。
一般式(V)において、a、b、c及びdは、上記した一般式(IV)と同じであるため、説明を省略する。
【0036】
一実施形態による共重合体の1分子の数平均分子量(Mn)は、5,000~100,000が好ましく、10,000~80,000がより好ましく、12,500~70,000がさら好ましく、15,000~50,000が特に好ましい。
一実施形態による共重合体の1分子の分子量分布(Mw/Mn)は、特に限定されるものではないが、例えば、2.0以下、好ましくは1.5以下、より好ましくは1.2以下である。
【0037】
ポリ乳酸構造単位(A)の数平均分子量(Mn)は、1,000~50,000が好ましく、3,000~40,000がより好ましく、4,000~35,000がさらに好ましく、5,000~30,000がよりさらに好ましい。
また、ポリ乳酸構造単位(A)の分子量分布(Mw/Mn)は、特に限定されないが、1.0~10が好ましく、1.0~8がより好ましく、1.05~5がさらに好ましい。
【0038】
ポリカーボネート構造単位(B)の数平均分子量(Mn)は、2,000~50,000が好ましく、5,000~40,000がより好ましく、6,000~35,000がさらに好ましく、7,000~20,000が特に好ましい。
また、ポリカーボネート構造単位(B)の分子量分布(Mw/Mn)は、特に限定されないが、1.0~10が好ましく、1.0~8がより好ましく、1.05~5がさらに好ましい。
【0039】
ここで、ポリ乳酸構造単位(A)の数平均分子量は、1個のブロックの数平均分子量であり、ブロック共重合体に2つ以上のポリ乳酸構造単位(A)のブロックが含まれる場合はそれぞれがこの範囲を満たすことが好ましい。ポリカーボネート構造単位(B)も同様である。
また、数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)は、標準ポリスチレンで校正したゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)を用いて測定することができる。また、分子量分布は、数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比(Mw/Mn)から求めることができる。
【0040】
一実施形態による共重合体において、ポリ乳酸構造単位(A)を構成する全単位が乳酸単位であることが好ましい。また、一実施形態による共重合体において、ポリカーボネート構造単位(B)を構成する全単位がカーボネート単位であることが好ましい。
一実施形態による共重合体において、共重合体全体を構成するモノマー単位の全単位に対し、ポリ乳酸構造単位(A)を構成するモノマー単位の全単位は、10モル%以上が好ましく、30モル%以上がより好ましく、40モル%以上がさらに好ましい。
また、別の一実施形態による共重合体において、共重合体全体を構成するモノマー単位の全単位に対し、ポリ乳酸構造単位(A)を構成するモノマー単位の全単位は、90モル%以下が好ましく、70モル%以下がより好ましく、60モル%以下がさらに好ましい。
共重合体全体を構成するモノマー単位の全単位に対し、ポリ乳酸構造単位(A)を構成するモノマー単位の全単位は、10~90モル%が好ましく、30~70モル%がより好ましく、40~60モル%がさらに好ましい。
【0041】
一実施形態による共重合体において、共重合体全体を構成するモノマー単位の全単位に対し、ポリカーボネート構造単位(B)を構成するモノマー単位の全単位は、10モル%以上が好ましく、30モル%以上がより好ましく、40モル%以上がさらに好ましい。
また、別の一実施形態による共重合体において、共重合体全体を構成するモノマー単位の全単位に対し、ポリカーボネート構造単位(B)を構成するモノマー単位の全単位は、90モル%以下が好ましく、70モル%以下がより好ましく、60モル%以下がさらに好ましい。
共重合体全体を構成するモノマー単位の全単位に対し、ポリカーボネート構造単位(B)を構成するモノマー単位の全単位は、10~90モル%が好ましく、30~70モル%がより好ましく、40~60モル%がさらに好ましい。
【0042】
一実施形態による共重合体において、ポリ乳酸構造単位(A)を構成するモノマー単位の全単位数と、ポリカーボネート構造単位(B)を構成するモノマー単位の全単位数とは、モル比で、10:90~90:10が好ましく、30:70~70:30がより好ましく、40:50~50:40がさらに好ましい。
一実施形態による共重合体において、共重合体全体を構成するモノマー単位の全単位に対し、ポリ乳酸構造単位(A)を構成するモノマー単位の全単位及びポリカーボネート構造単位(B)を構成するモノマー単位の全単位の合計単位は、80モル%以上が好ましく、90モル%以上が好ましい。さらには、一実施形態による共重合体は、ポリ乳酸構造単位(A)及びポリカーボネート構造単位(B)から構成されてもよい。
【0043】
ここで、一実施形態による共重合体がブロック共重合体であって、ブロック共重合体にポリ乳酸構造単位(A)のブロックが2個以上含まれる場合は、2個以上のポリ乳酸構造単位(A)のブロックを構成するモノマー単位の全単位の合計量が上記した範囲を満たすことが好ましい。ポリカーボネート構造単位(B)も同様である。
【0044】
以下、一実施形態による共重合体の合成方法の一例について説明する。なお、一実施形態による共重合体は、以下の合成方法によって得られるものに限定されない。
【0045】
共重合体は、ポリ乳酸と、ポリカーボネートとを用意し、ポリ乳酸とポリカーボネートとを結合させることによって合成することができる。
また、ポリカーボネートを用意し、ポリカーボネートの一方端又は両端にモノマーとして乳酸、乳酸ラクチド、又はこれらの組み合わせを重合させて結合させて合成することも可能である。
また、ポリ乳酸を用意し、ポリ乳酸の一方端又は両端にモノマーであるカーボネートを重合させて結合させて合成することも可能である。
また、乳酸とカーボネートとを用いて、ランダム重合してもよく、又は重合試薬を用いてブロック共重合することも可能である。
【0046】
ポリ乳酸としては、ポリD-乳酸、ポリL-乳酸、ポリDL-乳酸等を単独で、又はこれらを組み合わせて用いることができるが、ポリD-乳酸又はポリL-乳酸を単一成分として用いることが好ましく、ポリD-乳酸を単一成分として用いることがより好ましい。
ポリ乳酸の数平均分子量は、ブロック共重合体に導入する構造単位(A)の目的とする分子量に応じて適宜設定することが好ましい。
【0047】
ポリ乳酸を構成するモノマー成分としては、例えば乳酸、乳酸ラクチド、及び乳酸と乳酸ラクチドとの組み合わせ等が挙げられる。
ポリ乳酸を構成するモノマー成分である乳酸としては、D-乳酸、L-乳酸、DL-乳酸等を単独で、又はこれらを組み合わせて用いることができるが、D-乳酸又はL-乳酸を単一成分として用いることが好ましく、D-乳酸を単一成分として用いることがより好ましい。
モノマー成分である乳酸ラクチドとしては、D-乳酸ラクチド、L-乳酸ラクチド、DL-乳酸ラクチド等を単独で、又はこれらを組み合わせて用いることができるが、D-乳酸ラクチド又はL-乳酸ラクチドを単一成分として用いることが好ましく、D-乳酸ラクチドを単一成分として用いることがより好ましい。
モノマー成分として乳酸と乳酸ラクチドとを組み合わせて用いてもよいが、それぞれ単独で用いてもよい。
【0048】
ポリカーボネートとしては、脂肪族ポリカーボネート、芳香族ポリカーボネートを単独で、又はこれらを組み合わせて用いることができる。
ポリカーボネートとしては、置換基としてアルコキシアルキルオキシカルボニル基を有するカーボネート単位を少なくとも1個含むポリカーボネート誘導体を好ましく用いることができ、さらには、この置換基はメトキシエチルオキシカルボニル基であることが好ましい。
また、ポリカーボネートとしては、一般式(II)で表されるカーボネート単位を少なくとも1個含むポリカーボネート誘導体を用いることが好ましい。さらには、一般式(I)で表されるカーボネート単位を少なくとも1個含むポリカーボネート誘導体を用いることが好ましい。一般式(II)で表されるカーボネート単位としては、置換基としてアルコキシアルキルオキシカルボニル基を有するカーボネート単位が好ましい。また、一般式(I)で表されるカーボネート単位としては、置換基としてメトキシエチルオキシカルボニル基を有するカーボネート単位が好ましい。
ポリカーボネートの数平均分子量は、ブロック共重合体に導入するポリカーボネート構造単位(B)の目的とする分子量に応じて適宜設定することが好ましい。
【0049】
ポリカーボネートを構成するモノマー成分であるカーボネートとしては、脂肪族カーボネートが好ましく、例えば、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、トリメチレンカーボネート等、又はこれらの誘導体などが挙げられる。これらは、単独で、又は2種以上を組み合わせて用いてもよい。一般式(II)で表される構造を有するカーボネート、又はその環状体である環状カーボネートがより好ましい。また、後述するトリメチレンカーボネート誘導体を用いることができる。
【0050】
ポリ乳酸又はポリ乳酸のモノマー成分と、ポリカーボネート又はポリカーボネートのモノマー成分との共重合は、溶液重合で行うことが好ましく、必要に応じて、合成系に、重合開始剤、重合触媒等を添加して行うことができる。
重合溶媒としては、例えば、ジクロロメタン、クロロホルム、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン(THF)、トルエン等が挙げられる。
【0051】
重合開始剤としては、例えば、1-ピレンブタノール、ラウリルアルコール、デカノール、ステアリルアルコール等のアルコール系重合開始剤;1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]ウンデカ-7-エン(DBU)、ジメチルアミノピリジン(DMAP)、トリエチレンジアミン(DABCO)、(+)-スパルテイン、(-)-スパルテイン等の環状アミン重合開始剤等が挙げられる。
重合触媒としては、例えば、1-(3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル)-3-シクロヘキシル-2-チオウレア(TU)等の二官能基化チオウレア等が挙げられる。
【0052】
重合は、好ましくは、室温から合成系に影響しない温度の範囲内、より具体的には室温から50℃の範囲内で、大気雰囲気又は不活雰囲気、好ましくは窒素雰囲気等の不活性雰囲気下で、1分間から12時間行うのが好ましく、30分間から6時間行うのがより好ましい。
重合反応の終了は、モノマー成分等が反応系に存在しているか否かで判断することができ、H-NMR、TLC等の方法により確認することができる。重合反応が十分に進行したら、反応停止剤を加えることによって重合反応を終了させることができる。反応停止剤としては、例えば、酢酸、塩酸、硫酸、安息香酸等が挙げられる。
【0053】
以下、置換基としてアルコキシアルキルオキシカルボニル基を有するポリカーボネート誘導体の合成方法について説明する。このポリカーボネート誘導体は、環状カーボネートの骨格に、重合体に側鎖として導入される官能基を導入したモノマーを、開環重合して得ることができる。
より具体的な例として、一般式(II)で表されるカーボネート単位を含むポリカーボネート誘導体の合成方法について説明する。
例えば、一般式(II)においてm=m’=1である単位を有するポリトリメチレンカーボネートの誘導体を重合するためには、トリメチレンカーボネートの炭素原子に、Mで表される基及びYで表される基を導入したトリメチレンカーボネート誘導体をモノマーとして用いることができる。M及びYは、上記一般式(II)において説明した通りである。
【0054】
トリメチレンカーボネートの誘導体の具体例としては、例えば、5-メチル-5-(2-メトキシエチルオキシカルボニル)-1,3-ジオキサン-2-オン、5-メチル-5-(2-エトキシエチルオキシカルボニル)-1,3-ジオキサン-2-オン、5-メチル-5-[2-(2-メトキシエトキシ)エチルオキシカルボニル]-1,3-ジオキサン-2-オン、4-メチル-4-(2-メトキシエチルオキシカルボニル)-1,3-ジオキサン-2-オン、4-メチル-4-(2-エトキシエチルオキシカルボニル)-1,3-ジオキサン-2-オン、4-メチル-4-[2-(2-メトキシエトキシ)エチルオキシカルボニル]-1,3-ジオキサン-2-オン等が挙げられる。
【0055】
一般式(II)で表される単位を有するポリカーボネート誘導体の合成において、環状カーボネートの骨格に、重合体に側鎖として導入される官能基を導入したモノマーの開環重合は、特に限定されずに各種方法によって行うことができる。例えば、開環重合は、各種重合開始剤を用いてカチオン重合反応、アニオン重合反応等を用いることができ、必要に応じて重合触媒等を用いてもよい。重合溶媒、重合開始剤、重合触媒は、特に制限されず、上記した共重合体の合成において説明したものを用いることができる。
より詳細には、特開2014-161675号公報に記載の方法にしたがって合成することができる。
【0056】
一実施形態による細胞足場材は、上記した一実施形態による共重合体を単一成分として含むものであってよい。
また、一実施形態による細胞足場材は、溶媒に添加された状態で細胞足場材組成物として提供されてもよい。溶媒としては、水、有機溶媒、又はこれらの混合溶媒を挙げることができる。水としては、溶媒として使用する水に加えて、一実施形態による共重合体の中間水であってもよい。有機溶媒としては、ジクロロメタン、メタノール等が挙げられる。細胞足場材組成物は、必要に応じて、後述する培地用添加剤、その他の添加成分等をさらに含むことができる。
【0057】
また、一実施形態によれば、上記した一実施形態による細胞足場材と、基材とを含む細胞培養支持体を提供することができる。
一実施形態による細胞培養支持体は、細胞の分化を抑制し且つ増殖を促す作用を奏することができるため、特定の分化段階の細胞を培養により増殖させることに好適に用いることができる。
【0058】
支持体に含まれる基材の形状は特に制限されないが、平面平板、曲面平板、球体、ブロック体等からなる群から選択される1種以上であってよい。
具体的には、基材として、細胞培養基材として使用されているものを特に制限することなく用いることができ、例えば、ディッシュ、平底ウェルプレート、丸底ウェルプレート等のウェルプレート;シャーレ等の細胞容器;マイクロビーズ、マイクロキャリア、三次元ブロック体;細胞シート等を用いることができる。
【0059】
基材の材料としては、特に限定されないが、細胞に対して毒性を示さない材料が好ましい。例えば、ポリエチレンテレフタレート等のエステル系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、スチレン系樹脂、チオール系樹脂、シリコーン系樹脂等の樹脂;純ニッケル、チタン、白金、金、タングステン、レニウム、パラジウム、ロジウム、ルテニウム等の金属;ステンレス鋼、チタニウム/ニッケル、ニチノール、コバルトクロム、白金イリジウム合金等の合金;ガラス、セラミックスなどが挙げられる。
【0060】
また、細胞培養をした基材をそのまま生体に移植するような再生医療に適用してもよい。再生医療用に適する基材としては、例えば、シリコーン、ポリエーテルブロックアミド(PEBAX)、ポリウレタン、シリコーン-ポリウレタン共重合体、セラミックス、コラーゲン、ヒドロキシアパタイト、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート、ゴアテックス(登録商標)等の超高分子量ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、その他生体由来材料等の生体適合性材料;ポリラクチド(PLA)、ポリグリコリド(PGA)、ポリカプロラクトン(PCL)、及びそれらの共重合体、PHB-PHV系ポリ(アルカン酸)類、ポリエステル類、デンプン、セルロース、キトサン等の天然高分子、その誘導体等の生体分解性材料などが挙げられる。
【0061】
細胞培養支持体は、細胞足場材を基材に付与することによって得ることができる。
例えば、細胞足場材を有機溶媒に溶解した後、液体組成物の状態で基材に付与することができる。
溶媒としては、ジクロロメタン、メタノール等を用いることができる。また、液体組成物は、細胞足場材に加えて、後述する培地用添加剤、その他の添加成分等をさらに含むことができる。液体組成物全量に対して細胞足場材は0.05~10質量%が好ましく、0.1~1質量%がより好ましい。
【0062】
液体組成物の基材への付与方法としては、特に限定されずに、例えば、スピンコーターを用いる方法等が挙げられる。
基材への細胞足場材の付与量としては、基材の種類、細胞足場材の種類、培養対象となる細胞の種類、付与の方法等によって適宜調整が可能である。基材への細胞足場材の付与量は、単位面積当たりの固形分量で、例えば0.05μg/mm~500μg/mmとすることができる。スピンコーターを用いた付与方法を用いる場合には、単位面積当たりの固形分量で、例えば、0.01μg/mm~10μg/mmとすることができ、0.05μg/mm~5μg/mmとすることができ、又は0.1μg/mm~3.0μg/mmとすることができる。
【0063】
細胞足場材を基材に付与する前に、一実施形態による共重合体以外の他のポリマーで処理してもよい。他のポリマーとしては、例えば、(メタ)アクリル系樹脂等が挙げられる。他のポリマーは、適宜溶媒を添加して、液体状で基材に付与することが好ましい。基材と細胞足場材との間に他のポリマーを介在させることで、基材への足場材の密着性をより高めることができる。
【0064】
一実施形態による細胞培養支持体は、増殖対象となる細胞の培養系に配置することができる。具体的には、細胞培養支持体を予め培地中に配置し、対象となる細胞をこの培地へ播種することができ、又は、対象細胞が存在する培養系に、細胞培養支持体を供給することができる。これにより、対象細胞と細胞培養支持体が接触して、細胞培養支持体に対象細胞が接着して成育する。この結果、一実施形態による細胞培養支持体を用いていることで、対象細胞の分化が抑制され、且つ、増殖が促進されることが可能となる。
【0065】
以下、一実施形態による細胞の培養方法について説明する。
一実施形態による細胞の培養方法は、細胞足場材を用意すること、細胞足場材を培養系に配置すること、及び細胞足場材の存在下で、細胞を培養することを含むことができる。
ここで、細胞足場材には、上記した一実施形態による細胞足場材を用いることができる。これによって、細胞の分化を抑制し、細胞の増殖を促進し、未分化の細胞を大量に生産することができる。
【0066】
細胞足場材を用意する工程では、上記した一実施形態による細胞足場材が用意される。このとき、細胞足場材は、細胞足場材を一成分として含む上述した組成物の形態で提供されてもよく、又は細胞足場材と基材とを含む細胞培養支持体の形態で提供されてもよい。
【0067】
細胞足場材を培養系に配置する工程では、細胞足場材を提供する形態に応じた配置方法を適宜選択して、細胞足場材が培養系に配置される。例えば、細胞足場材組成物又はプレート形状の基材を含む細胞培養支持体として、細胞播種前に予め培養系に細胞足場材を配置させることができる。他の方法としては、予め対象細胞を培養系に播種し、その後の培養系に、細胞足場材組成物又はマイクロビーズ形状の細胞培養支持体として細胞足場材を配置することができる。
【0068】
細胞の培養を行う工程では、細胞足場材の存在下で、対象となる細胞の培養を行う。
培養対象となり得る細胞として、例えば、初代培養細胞、培養細胞株、組換培養細胞株等を用いることができる。細胞の由来については、特に限定されず、例えば、ヒト、チンパンジー、サル、ウシ、ウマ、ブタ、イヌ、ネコ、ウサギ、ラット、マウス、ハムスター等の哺乳類;ニワトリ等の鳥類等が挙げられる。また、種の異なる2つ以上の細胞をハイブリッドさせた細胞を用いてもよい。
細胞が由来する器官、組織としては、特に限定されず、例えば、血球・リンパ系、血管系、脳・神経系、骨髄、筋組織、胸腺、唾液腺、口腔、食道、胃、肝臓、胆嚢、脾臓、小腸、大腸、直腸、皮膚、角膜、肺、甲状腺、哺乳器、子宮、子宮頸部、卵巣、精巣、膵臓、腎臓、副腎皮質、膀胱、胎盤、臍帯、胎仔、胎子、尾、間葉系幹細胞、癌細胞等が挙げられる。
【0069】
また、培養可能な細胞として幹細胞を好ましく用いることができる。例えば、胚性幹細胞(ES細胞)、人工多能性幹細胞(iPS細胞)、胚性腫瘍細胞(EC細胞)、胚性生殖幹細胞(EG細胞)、核移植ES細胞、体細胞由来ES細胞等の分化多能性を有する幹細胞;造血幹細胞、骨髄由来間葉系幹細胞、脂肪組織由来間葉系幹細胞、臍帯由来間葉系幹細胞、その他間質由来幹細胞、Muse細胞、神経幹細胞等の組織幹細胞;肝臓、膵臓、脂肪組織、骨組織、軟骨組織、神経組織等の各種組織における前駆細胞、線維芽細胞等の各種の幹細胞が挙げられる。
【0070】
細胞の培養としては、対象となる細胞の培養に通常用いられる条件を、細胞の種類に応じてそのまま用いることができる。
細胞培養に用いる培地としては、細胞が生存し、増殖可能であるものであれば特に限定されず、培養する細胞の種類に応じて適宜選択することができる。
培地としては、血清培地又は無血清培地のいずれであってもよいが、一実施形態による細胞足場材は無血清培地での培養に好ましく用いることができる。
無血清培地としては、例えば、イーグル培地、ダルベッコ変法イーグル培地(低グルコース又は高グルコース)、イーグルMEM培地、αMEM培地、IMDM培地、ハムF10培地、ハムF12培地、RPMI1640培地等、又はこれらのブレンド培地が挙げられる。
血清培地は、無血清培地に血清を添加して調製することができる。無血清培地に血清を添加する場合は、例えば、ウシ胎仔血清(FBS)、ウマ血清、ヒト血清等の血清等を用いることができる。血清を添加する場合は、血清の濃度は30%以下が好ましい。
【0071】
培地には、必要に応じて、添加剤を添加してもよい。添加剤としては、例えば、ビタミンA、ビタミンB1、ビタミンB2、ビタミンB6、ビタミンB12、ビタミンC、ビタミンD等のビタミン;葉酸等の補酵素;グリシン、アラニン、アルギニン、アスパラギン、グルタミン、イソロイシン、ロイシン等アミノ酸;乳酸等の炭素源としての糖又は有機酸;EGF、FGF、PFGF、TGF-β等の成長因子;IL-1、IL-6等のインターロイキン;TNF-α、TNF-β、レプチン等のサイトカイン;トランスフェリン等の金属トランスポーター;鉄イオン、セレンイオン、亜鉛イオン等の金属イオン;β-メルカプトエタノール、グルタチオン等のSH試薬;アルブミン等のタンパク質などが挙げられる。
【0072】
細胞の培養方法は、特に限定されず、それぞれの細胞に適した方法を用いればよい。通常、細胞の培養は、30~40℃の範囲内、好ましくは37℃の温度で、70~100%の範囲内、好ましくは95~100%の範囲内の湿度で、2%~7%CO、好ましくは5%CO環境下で行うことができる。細胞の継代の時期及び方法も、特に限定されず、それぞれの細胞に適した方法を用いればよい。
【0073】
培養の形態は、細胞の付着が容易な二次元培養であってもよく、培養系において細胞を浮遊させる三次元培養であってもよい。培養の形態は、細胞の種類、培地組成等によって適宜選択可能である。
【0074】
また、一実施形態によれば、上記した一実施形態による細胞足場材、基材、及び培地を含む細胞培養キットを提供することができる。このキットにおいては、一実施形態による細胞足場材、基材、培地がそれぞれ別の容器に保存されてもよい。また、一実施形態による基材と細胞足場材とを備える細胞培養支持体を用いて、細胞培養支持体及び培地がそれぞれ別の容器に保存されていてもよい。また、このキットには、培養する細胞が含まれてもよい。また、このキットには、培養に使用する器具等が備えられてもよい。一実施形態による細胞足場材、細胞足場材支持体については、上記した通りである。
【0075】
また、一実施形態によれば、細胞足場材のための、ポリ乳酸構造単位(A)と、ポリカーボネート構造単位(B)とを有する共重合体の使用を提供することができる。
また、一実施形態によれば、細胞足場材の製造のための、ポリ乳酸構造単位(A)と、ポリカーボネート構造単位(B)とを有する共重合体の使用を提供することができる。
ここで、ポリ乳酸構造単位(A)と、ポリカーボネート構造単位(B)とを有する共重合体については、上述した一実施形態による細胞足場材における共重合体に関して記述した事項をそのまま援用する。例えば、本共重合体中、ポリカーボネート構造単位(B)は、置換基として、アルコキシアルキルオキシカルボニル基を有する単位を少なくとも1つ含んでいてもよく、また、ポリカーボネート構造単位(B)は、上述した一般式(I)で表される単位を少なくとも1つ含んでいてもよい。また、本共重合体中、ポリ乳酸構造単位(A)は、ポリD-乳酸構造単位、又はポリL-乳酸構造単位であってもよい。さらに、本共重合体は、ABA型ブロック共重合体であってもよい。これらの任意の組み合わせであってもよい。一例では、本共重合体中、ポリカーボネート構造体(B)は、置換基として、アルコキシアルキルオキシカルボニル基を有する単位を少なくとも1つ含むか、又は上述した一般式(I)で表される単位を少なくとも1つを含み、ポリ乳酸構造単位(A)は、ポリD-乳酸構造単位、又はポリL-乳酸構造単位である。この一例の共重合体は、ABAがブロック共重合体であってもよい。
【実施例
【0076】
以下、本開示を実施例により具体的に説明するが、本開示はこれらの実施例に限定されない。
【0077】
「物性の評価方法」
実施例において得られた生成物の分子量、構造の確認、重合の進行度は、以下の手順によって評価した。
(1)分子量
数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)は、Chromaster GPC分析システム(株式会社日立ハイテクサイエンス製)にGPCカラム(株式会社日立化成テクノサービス製「Gelpack GL-R420,R430,R440」)を接続して、THFを溶出液として1.75mL/minで溶出し測定した。
【0078】
(2)分子量分布([Mw/Mn])
分子量分布は、上記(1)の方法で求めた重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)の値を用い、その比(Mw/Mn)として求めた。
【0079】
(3)NMR測定
モノマー及びポリマーの構造解析については、NMR測定装置(日本電子株式会社製、JEOL 500MHz JNM-ECX)を用い、H-NMR測定を行った。なお、ケミカルシフトはCDClH:7.26ppm)を基準とした。
【0080】
「試薬」
2,2-ビス(メチロール)プロピオン酸(bis-MPA:98%)、2-メトキシエタノール(99.8%)、Amberlyst-15(登録商標)(dry,moisture≦1.5%)はシグマアルドリッチジャパン株式会社より購入し、そのまま使用した。酢酸エチル(99.5%)、ジクロロメタン(DCM:99.5%)、ピリジン(99.5%)、塩化アンモニウム(98.5%)、炭酸水素ナトリウム(99.5~100.3%)、1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデカ-7-エン(DBU:99.0%)、安息香酸(99.5%)、ジエチルエーテル(99.0%)、ヘキサン(95.0%)、トリメチレンカーボネート(TMC:98.0%)、メタノール(99.8%)、テトラヒドロフラン(THF:99.5%)、(+)-sparteine(Sp)、2-プロパノール(99.7%)は関東化学株式会社より購入した。脱水グレードのTHF、DCMは関東化学株式会社製ソルベントサプライシステムから供給した(水分量<10ppm)。塩酸(35.0~37.0質量%)、硫酸マグネシウム(95.0%)は富士フイルム和光純薬株式会社より、トリホスゲン(98%)、ベンジルアルコール、2-メトキシエチルアクリレート(>98.0%)、1,4-ジオキサン(>99.0%)、2,2-アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN>98.0%)は東京化成工業株式会社より購入し、そのまま使用した。1-(3,5-ビス(トリフルオロメチル)フェニル)-3-シクロヘキシル-2-チオウレア(TU)は既報の手法を参考に合成した。モノマー類、TUはTHFに溶解させCaH(水素化カルシウム)にて乾燥させた。DBUはCaHを用いて減圧蒸留したものを使用した。
D-乳酸ラクチド(D-lactide)は、Purac社より購入した。
Lipidure(登録商標)-CM5206(以下、PMBとも記す)は、日油株式会社より購入した。
【0081】
「合成例1:ポリ乳酸-ポリカーボネートブロック共重合体(PDMED)の合成」
<2-メトキシエチル 2,2-ビス(ヒドロキシメチル)プロパノエート(ME-MPA)の合成>
【化5】
【0082】
bis-MPA(30.0g,0.224mol)、イオン交換樹脂Amberlyst-15(登録商標)(6.00g)を2-メトキシエタノール(300mL,3.82mol)に加えて90℃にて48時間加熱、撹拌した。その後、反応溶液からイオン交換樹脂を濾別し、得られた濾液を減圧下で濃縮した。さらに、真空乾燥して淡黄色の油状物質としてME-MPAを得た(41.4g,収率96.3%)。H-NMR(400MHz,CDCl):δ 4.35(t,J=4.8Hz,2H),3.85(d,J=12Hz,2H),3.73(d,J=12Hz,2H),3.63(t,J=5.0Hz,2H),3.39(s,3H),1.11(s,3H)
【0083】
<2-(2-メトキシエチルオキシカルボニル)-2-メチルトリメチレンカーボネート(MEMTC)の合成>
【化6】
【0084】
ME-MPA(20.0g,0.104mol)とピリジン(50.5mL,0.624mol)をジクロロメタン(DCM)(120mL)に加え、ドライアイス-2-プロパノール(IPA)浴中で-75℃に冷却した。次にトリホスゲン(15.4g,0.0520mol)のDCM溶液(160mL)を滴下し、-75℃の冷却下にて1時間、その後室温にて2時間撹拌した。反応終了後、飽和塩化アンモニウム水溶液(200mL)を加えて30分間撹拌し、有機相をさらに1N塩酸水溶液(200mL)で2回、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液(200mL)、飽和食塩水(200mL)、及びイオン交換水(200mL)にて順次、洗浄した。得られた有機相は硫酸マグネシウムにて乾燥後、減圧下で濃縮、乾燥した。その後、カラムクロマトグラフィー(酢酸エチル)にて精製し、無色の粘性液体としてMEMTCを得た(14.1g,収率46.2%)。H-NMR(400MHz,CDCl):δ 4.68(d,J=11Hz,2H),4.32(t,J=9.5Hz,2H),4.20(d,J=11Hz,2H),3.57(t,J=4.8Hz,2H),3.33(s,3H),1.31(s,3H)
【0085】
<ポリ[2-(2-メトキシエチルオキシカルボニル)-2-メチルトリメチレンカーボネート](PMEMTC)の合成>
【化7】
【0086】
窒素雰囲気下グローブボックス内で、MEMTC(0.433g,1.99mmol)、TU(15.0mg,0.041mmol)およびDBU(6.1mg,0.040mmol)をDCM(2mL)中、室温で撹拌した。2時間の反応後、H-NMRにてモノマーの消費を確認し、停止剤として安息香酸を数滴加え、一晩撹拌した。その後、反応溶液を2-プロパノール(60mL)中に再沈殿し、真空下で乾燥させて無色で粘性のあるポリマーPMEMTCを得た(0.325g,収率75.1%)。GPC:Mn 8700,Mw/Mn 1.11;H-NMR(400MHz,CDCl):δ 4.30(m,6H),3.58(t,J=4.8Hz,2H),3.36(s,3H),1.27(s,3H)
【0087】
<PDLA-PMEMTC-PDLA(PDMED)の合成>
【化8】
【0088】
窒素雰囲気下グローブボックス内で、PMEMTC(0.16g,0.734mmol)をDCM(480mg)中に溶解させ、乾燥剤として水素化カルシウムを少量加えて1h撹拌した。その後、シリンジフィルターを通して濾過し、(+)-sparteine(Sp)(3.44mg,1.49mmol)が入ったバイアルに滴下した。TU(5.8mg,1.49mmol)およびD-lactide(DLA;77.1mg,0.535mmol)をDCM(240mg)中に溶解させ、最初に調整した溶液と混合し、室温で撹拌した。2時間の反応後、H-NMRにてモノマーの消費を確認し、停止剤として安息香酸を数滴加え、数時間撹拌した。その後、反応溶液を2-プロパノール(30mL)中に再沈殿し、真空下で乾燥させて白色の固体PDLA-PMEMTC-PDLA(PDMED)を得た(0.132g,収率55%)。GPC:Mn 18000,Mw/Mn 1.10;H-NMR(400MHz,CDCl):δ 5.26-5.12(q,2H),4.30(m,6H),3.58(t,J=4.8Hz,2H),3.36(s,3H),1.70-1.50(d,6H),1.27(s,3H)
【0089】
「合成例2:ポリ乳酸(PDLA)の合成」
TU(5.8mg,1.49mmol)及びD-lactide(77.1mg,0.535mmol)をDCM(240mg)中に溶解させ、室温で撹拌した。2時間の反応後、反応溶液を2-プロパノール(30mL)中に再沈殿し、真空下で乾燥させて白色の固体PDLAを得た。
【0090】
「合成例3:PTMC(ポリトリメチレンカーボネート)の合成」
ベンジルアルコール(4.32mg,0.04mmol)、トリメチレンカーボネート(2.01g,20mmol)、DBU(182.4mg,1.4mmol)及びTU(447.1mg,1.4mmol)をDCM(20mL)に溶解させ、撹拌した。24時間後、安息香酸を加えて反応を停止し、反応溶液を2-プロパノール中に再沈殿後、上澄み液を遠心分離した。得られた粘性体をDCMに溶解させて回収し、エバポレーターで濃縮後、乾燥させ、PTMCを得た。
【0091】
「合成例4:PMEA(ポリ(2-メトキシエチル)アクリレート)の合成」
15gの2-メトキシエチルアクリレート(130.14g/mol,115mmmol)、60gの1,4-ジオキサンに溶解し、30分間窒素バブリングを行った。その後、開始剤である15mgのAIBN(0.091mmol)を少量の1,4-ジオキサンに溶解して加え、窒素バブリングしながら75℃で6時間重合を行った。その後、重合溶媒をn-ヘキサン1000mlに滴下することで重合で生成したポリマーを沈殿物として回収した。得られた粗生成物を、THF/n-ヘキサン系で沈殿操作を3回繰り返し、精製した。精製後のポリマーはTHFに溶解させて回収し、エバポレーターで濃縮後、60℃で30時間、真空乾燥させ、PMEAを得た。
【0092】
「細胞培養の評価方法」
ポリマーとして、合成例1で得られたPDMED、合成例1の中間体であるPMEMTC、合成例2で得られたPDLA、合成例3で得られたPTMC、合成例4で得られたPMEA、PMB(日油株式会社製「LIPIDURE(登録商標)-CM5206」)を用いて、以下の評価を行った。
【0093】
(1)細胞足場材の調製
直径15mmで円形に打ち抜いた厚み125μmのPETフィルム(三菱ケミカル株式会社製「Diafoil、T100E125 E07」)を、メタノールに一晩浸漬し脱脂処理を行った。その後、各ポリマーをDCMもしくはメタノールに溶解し、0.2質量%の濃度に調整した。この溶液を上記処理済みのPETフィルムに100μLを2度スピンコーターで塗布して、室温にて一日静置した後に一晩純水に浸漬して洗浄した。これを乾燥した後、ポリマー塗布PETフィルム(以下、支持体)をクリーンベンチ内で、スポットUV照射装置(ウシオ電機株式会社製「SP-11」)にて4W/cmの出力で10分間照射して滅菌した。また、対照として、脱脂処理をした後に、ポリマーを塗布しない未処理の支持体(PET支持体)を用意した。
【0094】
(2)モデルタンパク質吸着実験
直径15mmで円形に打ち抜いた厚み125μmのPETフィルム(三菱ケミカル株式会社製「Diafoil、T100E125 E07」)を、メタノールに一晩浸漬し脱脂処理を行った。基板の裏面に0.1質量%のBSA(ウシ血清アルブミン)を1質量%TritonX-100含有のリン酸バッファー液(PBS pH7.4)に溶解し、100μLを2度スピンコーターで塗布して、室温にて一日静置した後に一晩純水に浸漬して洗浄、これを乾燥することでPETへの非特異吸着を防止した。その後、各ポリマーをDCMもしくはメタノールに溶解し、0.2質量%の濃度に調整した。この溶液を上記処理済みのPETフィルムの表面に100μLを2度スピンコーターで塗布して、室温にて一日静置した後に一晩純水に浸漬して洗浄した。
得られた支持体を細胞培養向け24穴プレート(コーニング社製「Coster 24 wells」)に沈め、蛍光標識BSA(FITC標識)を0.1w/v%でPBSに溶解し、500μL/wellを添加して、37℃、60minで搖動した(傾斜角:6°,30r/min)。対照として、ポリマーを塗布しない未処理の支持体(PET支持体)を用いて、同様に処理した。
搖動後、PBSで洗浄し、蛍光顕微鏡(株式会社キーエンス製「BZ-X」)にて、吸着の状態を観察し、吸着量を蛍光強度から評価した。その結果を図1に示す。図1は、PET支持体の蛍光強度を基準として、各ポリマーを塗布した支持体を用いた場合の蛍光標識BSAの蛍光強度を相対的に示すグラフである。
【0095】
(3)細胞培養実験
(3-1)ヒト正常線維芽細胞
上記(1)細胞足場材の調製で調製したPDMED支持体、PMB支持体、PET支持体を、24穴組織培養用プレートの各ウェルの底面にセットした。また、支持体をセットしないウェルを用意した。各ウェルに、5×10cells/cmの播種密度でヒト皮膚正常線維芽細胞(NHDF)を播種した。各ウェルにEagle MEM培地に10%ウシ胎仔血清(FBS)を添加して調製した培地を添加した。
このプレートを37℃、5%CO雰囲気下で培養した。細胞培養開始から1時間後、1日後、2日後、3日後、7日後にそれぞれ細胞の状況を観察するとともに、培養上清を1000μL取り出し、7000rpmで1分間遠心分離し、その上澄みを500μL取り出し、FGF-2(線維芽細胞成長因子2)の定量評価に供試した。
【0096】
(i)細胞増殖の評価方法
蛍光差顕微鏡(オリンパス株式会社製「MVX10」)を用いて、細胞増殖の状態を観察するとともに、細胞数を計測した。図2は、蛍光差顕微鏡によって観察した写真であり、細胞開始から(a)1時間後、(b)1日後、(c)2日後、(d)3日後、(e)7日後である。図3に、細胞培養時間に対する細胞数のグラフを示す。
(ii)細胞分化抑制の評価方法
各細胞培養時間に採取した培養上清をヒトFGF-2測定ELISAキット(R&D system社製)にて測定した。図4に、細胞培養時間に対するFGF-2の濃度のグラフを示す。
【0097】
各培養時間の細胞観察から、PDMEDを用いたプレート(以下、PDMEDウェルという)の細胞増殖数は、ブランクとしてのPETを用いたプレート(以下、PETウェルという)より少ないが、おおむね良好な増殖を維持することがわかる。一方、PMBを用いたプレート(以下、PMBウェルという)は細胞が接着せず増殖にほとんど寄与していないことがわかる。細胞の形状を観察すると、PETウェルでは大きく伸展しながら増殖し、また細胞密度が上がると、線維芽細胞の特徴である塊状での増殖が認められた。PDMEDウェルでは細胞の伸展が少なく、細胞密度が上がっても、細胞が支持体に接着しながら塊状にならず増殖していることが認められた。
【0098】
FGF-2の定量結果から、細胞が支持体に接着しないPMBウェルでは培養初期に多くFGF-2を放出していることがわかる。PETウェルは増殖の状況によって因子の放出に大きくばらつきがあり、特に7日目には塊状になるため因子の放出がなくなっている。一方、PDMEDウェルは培養中安定した因子の放出をしていることがわかった。
細胞の増殖の観察からも、PDMEDは、ヒト線維芽細胞としての機能である塊状増殖をすることなく、増殖のみが優先して起こっていることが示唆された。これはFGF-2の安定した放出からも明らかである。
【0099】
(3-2)iPS細胞
上記(1)細胞足場材の調製と同様の方法で、支持体の直径を50mmとし、PDMED支持体、PMB支持体、対照としての未処理のPET支持体、対照としてのラミニン(株式会社ニッピ製「iMatrix511」)支持体を用意した。各支持体を60mmディッシュ(IWAKI社製「3010-060」)の底面にセットした。京都大学由来フィーダーフリーiPS細胞を各ディッシュ(それぞれ、「PDMEDディッシュ」、「PMBディッシュ」、「PETディッシュ」、「iMatrixディッシュ」という)に、2.5×10cells/ディッシュの量で播種した。
【0100】
各ディッシュに培地(味の素ヘルシーサプライ株式会社製「StemFitAK02」)を添加し、37℃、5%CO雰囲気下で培養した。細胞を7日間培養後、倒立型顕微鏡(オリンパス株式会社製「CKX31SF」)を用いて細胞の状況を観察するとともに、未分化細胞をFACS(フローサイトメトリ-)により分離定量した。また、上記(3-1)と同様に、培養初日から7日までの、培養上清を取得しIL-6(インターロイキン-6)及びTNFα(腫瘍壊死因子α)の定量評価に供した。それぞれの評価はELISAキット(R&D system社製)にて行った。
表1に、培養7日目の未分化細胞率と、培養5日目のIL-6及びTNFαの濃度を示す。
未分化細胞率(%)が100(%)に近いほど、細胞の分化が抑制されていることを意味する。また、IL-6の濃度が0に近いほど、細胞の分化が抑制されていることを意味する。さらに、TNFαの濃度が0に近いほど、細胞の分化が抑制されていることを意味する。
【0101】
【表1】
【0102】
IL-6は分化誘導に関わるサイトカインとして知られている。この実験結果より、対照であるiMatrixディッシュでは、生存細胞の未分化細胞率が他に比べて低く、培養5日目でのIL-6及びTNFαの放出も、他と比較して極めて高い。このことから、iMatrixディッシュでは、細胞の分化が十分に抑制されないことがわかった。
また、PMBディッシュ及びPETディッシュでは、培養7日目での未分化細胞率がPDMEDディッシュよりも低く、また、培養5日目でのIL-6の放出も認められた。なお、PMBディッシュについては、培養2日目で約2pg/mLのTNFαの放出が確認された(データ示さず)。このことから、PMBディッシュ及びPETディッシュでも、細胞の分化が十分に抑制されていないことが示された。
これらに対して、PDMEDディッシュでは、培養7日目での未分化細胞率が高く、また培養初日から5日目までの間で各サイトカインの放出が認められなかった。このことからも、PDMEDを細胞足場材として使用した場合、細胞の分化を抑制しながら、増殖に寄与できることがわかった。
【0103】
本願の開示は、2019年6月27日に出願された特願2019-120033号に記載の主題と関連しており、それらのすべての開示内容は引用によりここに援用される。既に述べられたもの以外に、本開示の新規かつ有利な特徴から外れることなく、上記の実施形態に様々な修正や変更を加えてもよいことに注意すべきである。したがって、そのような全ての修正や変更は、添付の請求の範囲に含まれることが意図されている。
図1
図2
図3
図4