(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】金属ドープ硫化モリブデン粉体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 39/06 20060101AFI20240109BHJP
【FI】
C01G39/06
(21)【出願番号】P 2022580576
(86)(22)【出願日】2022-02-02
(86)【国際出願番号】 JP2022004055
(87)【国際公開番号】W WO2022172826
(87)【国際公開日】2022-08-18
【審査請求日】2023-07-06
(31)【優先権主張番号】P 2021019046
(32)【優先日】2021-02-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100215935
【氏名又は名称】阿部 茂輝
(74)【代理人】
【識別番号】100189337
【氏名又は名称】宮本 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100188673
【氏名又は名称】成田 友紀
(72)【発明者】
【氏名】高 榕輝
(72)【発明者】
【氏名】狩野 佑介
(72)【発明者】
【氏名】袁 建軍
【審査官】宮脇 直也
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-538951(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第106608652(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第109633933(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 39/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
三酸化モリブデン
のβ結晶構造を含む一次粒子の集合体からなる三酸化モリブデン粉体と、硫黄源と、第
4族~第13族金属塩と、を乾式混合することにより、混合粉体を得た後、前記混合粉体を温度200~1000℃で加熱することを含む、金属ドープ硫化モリブデン粉体の製造方法。
【請求項2】
酸化モリブデン前駆体化合物を気化させて、三酸化モリブデン蒸気を形成し、前記三酸化モリブデン蒸気を冷却することにより製造して得られる三酸化モリブデン粉体と、硫黄源と、第
4族~第13族金属塩と、を乾式混合することにより、混合粉体を得た後、前記混合粉体を温度200~1000℃で加熱することを含む、金属ドープ硫化モリブデン粉体の製造方法。
【請求項3】
三酸化モリブデン
のβ結晶構造を含む一次粒子の集合体からなる三酸化モリブデン粉体と、第
4族~第13族金属塩と、分散媒と、が配合された混合物から、前記分散媒を除去することにより、固形物を得た後、前記固形物を、硫黄源の存在下、温度200~1000℃で加熱することを含む、金属ドープ硫化モリブデン粉体の製造方法。
【請求項4】
酸化モリブデン前駆体化合物を気化させて、三酸化モリブデン蒸気を形成し、前記三酸化モリブデン蒸気を冷却することにより製造して得られる三酸化モリブデン粉体と、第
4族~第13族金属塩と、分散媒と、が配合された混合物から、前記分散媒を除去することにより、固形物を得た後、前記固形物を、硫黄源の存在下、温度200~1000℃で加熱することを含む、金属ドープ硫化モリブデン粉体の製造方法。
【請求項5】
前記混合物のフリーズドライにより、前記混合物から前記分散媒を除去する、請求項3又は4に記載の金属ドープ硫化モリブデン粉体の製造方法。
【請求項6】
前記混合物を加熱することにより、前記混合物から前記分散媒を除去する、請求項3又は4に記載の金属ドープ硫化モリブデン粉体の製造方法。
【請求項7】
前記三酸化モリブデン粉体の、蛍光X線で測定されるMoO
3の含有割合が99.6%以上である請求項1~4のいずれか一項に記載の金属ドープ硫化モリブデン粉体の製造方法。
【請求項8】
前記第
4族~第13族金属が、コバルト、パラジウム、イリジウム、マンガン、鉄、ニッケル、ジルコニウム、ルテニウム、インジウム及び亜鉛からなる群より選択される1種又は2種以上である、請求項1~4のいずれか一項に記載の金属ドープ硫化モリブデン粉体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ドープ硫化モリブデン粉体及びその製造方法に関する。
本出願は、2021年2月9日に、日本に出願された特願2021-019046に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
二硫化モリブデン(MoS2)に代表されるモリブデン硫化物は、例えば、潤滑剤、鉄鋼添加剤、モリブデン酸塩原料としてよく知られている。これらモリブデン硫化物は、不活性である利点を有効に活用した用途で用いられてきた。
【0003】
しかしながら、最近ではその活性に着目して、例えば、半導体材料、触媒等のファイン用途への適用が試みられ始めている。この様な活性は、モリブデン酸化物を硫化するといった任意の製造方法で得られたモリブデン硫化物を、微細化したり、その凝集を解くことで、ある程度は高めることは可能であるが、それだけでは期待された通りの優れた性能が得られないことも多い。そこで、それぞれの使用目的に沿って、より優れた性能を発揮させるために、単層状、ナノフラワー状、フラーレン様といった、特異な形状のモリブデン硫化物の製造方法が検討されている(特許文献1~2参照)。
【0004】
一方、水素は、再生可能エネルギーや燃料電池の分野で近年注目されており、水素の製造技術の重要性が高まっている。これまでは、水素の製造方法として、電極上での水素発生反応を利用したものが検討されてきており、その際に用いる電極触媒としては、高活性である点では、白金(Pt)が最適であると言われてきた。しかし、白金は貴金属であり、産出量が少なく、高価であるため、白金に代わる電極触媒の探索が行われている。そして、二硫化モリブデンは、ある程度の触媒活性を有していながら、安価であり、安定性が高いため、白金に代わる電極触媒として利用することが期待されている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-277199号公報
【文献】特表2004-512250号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Chem. Rev., 1 (2016), pp. 699-726
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、水素発生反応での電極触媒としての二硫化モリブデンの触媒活性は、まだ改善の余地があり、水素発生触媒としての活性のさらなる向上が望まれている。
ここでは、二硫化モリブデンの用途として、水素発生反応での電極触媒を例に挙げたが、先に挙げた半導体材料も含めて、種々の用途が想定されている。したがって、二硫化モリブデンを用いて、目的とする活性を有する新規の材料が開発されれば、極めて有用である。
【0008】
そこで、本発明は、二硫化モリブデンを用いた新規の材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の態様を包含する。
[1].第3族~第13族金属がドープされ、かつ、二硫化モリブデンの3R結晶構造を含む、金属ドープ硫化モリブデン粉体。
【0010】
[2].前記金属ドープ硫化モリブデン粉体が、二硫化モリブデンの2H結晶構造及び3R結晶構造を含む、[1]に記載の金属ドープ硫化モリブデン粉体。
【0011】
[3].前記金属ドープ硫化モリブデン粉体に対する、X線源としてCu-Kα線を用いた粉末X線回折(XRD)から得られるスペクトルにおいて、39.5°付近のピーク、及び、49.5°付近のピークが共に前記2H結晶構造及び3R結晶構造の合成ピークからなり、半値幅が1°以上である、[2]に記載の金属ドープ硫化モリブデン粉体。
【0012】
[4]前記金属ドープ硫化モリブデン粉体を構成する二硫化モリブデン粒子の一次粒子の形状が、紐形状、リボン状またはシート状であり、厚さが、1~40nmの範囲である、[1]~[3]のいずれかに記載の金属ドープ硫化モリブデン粉体。
【0013】
[5]BET法で測定される比表面積が10m2/g以上である、[1]~[4]のいずれかに記載の金属ドープ硫化モリブデン粉体。
【0014】
[6]動的光散乱式粒子径分布測定装置により求められるメディアン径D50が10~2000nmである、[1]~[5]のいずれかに記載の金属ドープ硫化モリブデン粉体。
【0015】
[7]モリブデンのK吸収端の広域X線吸収微細構造(EXAFS)スペクトルから得られる動径分布関数において、Mo-Sに起因するピークの強度IとMo-Moに起因するピーク強度IIとの比(I/II)が、1.0より大きい、[1]~[6]のいずれかに記載の金属ドープ硫化モリブデン粉体。
【0016】
[8].前記第3族~第13族金属が、コバルト、パラジウム、イリジウム、マンガン、鉄、ニッケル、ジルコニウム、ルテニウム、インジウム及び亜鉛からなる群より選択される1種又は2種以上である、[1]~[7]のいずれかに記載の金属ドープ硫化モリブデン粉体。
【0017】
[9].三酸化モリブデンのα結晶構造又はβ結晶構造を含む一次粒子の集合体からなる三酸化モリブデン粉体と、硫黄源と、第3族~第13族金属塩と、を乾式混合することにより、混合粉体を得た後、前記混合粉体を温度200~1000℃で加熱することを含む、金属ドープ硫化モリブデン粉体の製造方法。
【0018】
[10].三酸化モリブデンのα結晶構造又はβ結晶構造を含む一次粒子の集合体からなる三酸化モリブデン粉体と、第3族~第13族金属塩と、分散媒と、が配合された混合物から、前記分散媒を除去することにより、固形物を得た後、前記固形物を、硫黄源の存在下、温度200~1000℃で加熱することを含む、金属ドープ硫化モリブデン粉体の製造方法。
【0019】
[11].前記混合物のフリーズドライにより、前記混合物から前記分散媒を除去する、[10]に記載の金属ドープ硫化モリブデン粉体の製造方法。
【0020】
[12].前記混合物を加熱することにより、前記混合物から前記分散媒を除去する、[10]に記載の金属ドープ硫化モリブデン粉体の製造方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、二硫化モリブデンを用いた新規の材料が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】原料の三酸化モリブデン粉体の製造に用いられる装置の一例の概略図である。
【
図2】原料の三酸化モリブデン粉体のX線回折(XRD)パターンの結果を、三酸化モリブデンのα結晶の標準パターン(α-MoO
3)及びβ結晶の標準パターン(β-MoO
3)と共に示したものである。
【
図3】原料の三酸化モリブデン粉体を用いて測定された、モリブデンのK吸収端の広域X線吸収微細構造(EXAFS)スペクトルである。
【
図4】実施例1の金属ドープ硫化モリブデン粉体、及び比較例1の硫化モリブデン粉体のX線回折(XRD)パターンのうち、2θ/degreeが14付近の領域を拡大したものである。
【
図5】実施例1の金属ドープ硫化モリブデン粉体のTEM像である。
【
図6】実施例1の金属ドープ硫化モリブデン粉体のAFM像である。
【
図7】
図6に示す金属ドープ硫化モリブデン粉体の断面を示すグラフである。
【
図8】比較例1の硫化モリブデン粉体のTEM像である。
【
図9】実施例2~4の金属ドープ硫化モリブデン粉体、及び比較例2の硫化モリブデン粉体のX線回折(XRD)パターンのうち、2θ/degreeが14付近の領域を拡大したものである。
【
図10】実施例2の金属ドープ硫化モリブデン粉体のTEM像である。
【
図11】実施例2の金属ドープ硫化モリブデン粉体のSEM像である。
【
図12】実施例2の金属ドープ硫化モリブデン粉体のEDS像である。
【
図13】実施例3の金属ドープ硫化モリブデン粉体のTEM像である。
【
図14】実施例3の金属ドープ硫化モリブデン粉体のSEM像である。
【
図15】実施例3の金属ドープ硫化モリブデン粉体のEDS像である。
【
図16】実施例4の金属ドープ硫化モリブデン粉体のTEM像である。
【
図17】実施例4の金属ドープ硫化モリブデン粉体のSEM像である。
【
図18】実施例4の金属ドープ硫化モリブデン粉体のEDS像である。
【
図19】比較例2の硫化モリブデン粉体のTEM像である。
【
図20】比較例2の硫化モリブデン粉体のSEM像である。
【
図21】実施例5~7の金属ドープ硫化モリブデン粉体、及び比較例3の硫化モリブデン粉体のX線回折(XRD)パターンのうち、2θ/degreeが14付近の領域を拡大したものである。
【
図22】実施例5の金属ドープ硫化モリブデン粉体のTEM像である。
【
図23】実施例5の金属ドープ硫化モリブデン粉体のSEM像である。
【
図24】実施例6の金属ドープ硫化モリブデン粉体のTEM像である。
【
図25】実施例6の金属ドープ硫化モリブデン粉体のSEM像である。
【
図26】実施例7の金属ドープ硫化モリブデン粉体のTEM像である。
【
図27】実施例7の金属ドープ硫化モリブデン粉体のSEM像である。
【
図28】比較例3の硫化モリブデン粉体のTEM像である。
【
図29】比較例3の硫化モリブデン粉体のSEM像である。
【
図30】試験例2の硫化モリブデン粉体のX線回折(XRD)パターンの結果を、二硫化モリブデン(MoS
2)の3R結晶構造の回折パターン、二硫化モリブデン(MoS
2)の2H結晶構造の回折パターン及び二酸化モリブデン(MoO
2)の回折パターンと共に示したものである。
【
図31】試験例2の硫化モリブデン粉体のTEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
<<金属ドープ硫化モリブデン粉体>>
本実施形態の金属ドープ硫化モリブデン粉体は、第3族~第13族金属がドープされ、かつ、二硫化モリブデンの3R結晶構造を含む。
本明細書において、「金属ドープ硫化モリブデン粉体」とは、「第3族~第13族金属がドープされた二硫化モリブデンの粉体」、「ドーパントとして第3族~第13族金属を含む二硫化モリブデンの粉体」と同義である。また、本明細書において、単なる「硫化モリブデン粉体」との記載は、「金属ドープ硫化モリブデン粉体」ではなく、第3族~第13族金属がドープされていない硫化モリブデン粉体を意味する。
【0024】
本実施形態の金属ドープ硫化モリブデン粉体は、少なくとも二硫化モリブデンの3R結晶構造を含む。
例えば、本実施形態の金属ドープ硫化モリブデン粉体は、二硫化モリブデンの2H結晶構造及び3R結晶構造を含んでいてもよい。
また、本実施形態の、二硫化モリブデンの2H結晶構造及び3R結晶構造を含む金属ドープ硫化モリブデン粉体に対する、X線源としてCu-Kα線を用いた粉末X線回折(XRD)から得られるスペクトルにおいては、39.5°付近のピーク、及び、49.5°付近のピークが共に2H結晶構造及び3R結晶構造の合成ピークからなり、半値幅が1°以上であってもよい。
【0025】
また、本実施形態の金属ドープ硫化モリブデン粉体は、二硫化モリブデンの2H結晶構造と、3R結晶構造と、のいずれにも該当しない他の結晶構造を含んでいてもよい。このような金属ドープ硫化モリブデン粉体としては、例えば、二硫化モリブデンの3R結晶構造と、前記他の結晶構造と、を含み、2H結晶構造を含まない金属ドープ硫化モリブデン粉体;二硫化モリブデンの2H結晶構造と、3R結晶構造と、前記他の結晶構造と、を含む金属ドープ硫化モリブデン粉体;二硫化モリブデンの2H結晶構造と、3R結晶構造と、前記他の結晶構造と、を含み、金属ドープ硫化モリブデン粉体に対する、X線源としてCu-Kα線を用いた粉末X線回折(XRD)から得られるスペクトルにおいて、39.5°付近のピーク、及び、49.5°付近のピークが共に前記2H結晶構造及び3R結晶構造の合成ピークからなり、半値幅が1°以上である金属ドープ硫化モリブデン粉体が挙げられる。
前記他の結晶構造としては、例えば、1T結晶構造等が挙げられる。
【0026】
このような結晶構造を含む金属ドープ硫化モリブデン粉体は、水素発生反応(HER)での触媒、半導体材料等として好適である。
【0027】
通常の市販の二硫化モリブデン粉体を構成する硫化モリブデン粒子は、2H結晶構造の硫化モリブデンである。これに対して、本実施形態の金属ドープ硫化モリブデン粉体を構成する、金属ドープ硫化モリブデン粒子が、準安定構造の3R結晶構造を含む点は、X線源としてCu-Kα線を用いた、金属ドープ硫化モリブデン粉体に対する粉末X線回折(XRD)から得られるスペクトルにおいて、39.5°付近及び49.5°付近に、ピークを有することで区別できる。さらに、金属ドープ硫化モリブデン粒子が、2H結晶構造及び3R結晶構造を含む点は、上記と同じ粉末X線回折(XRD)から得られるスペクトルにおいて、39.5°付近のピーク、及び、49.5°付近のピークが共に、2H結晶構造及び3R結晶構造の合成ピークからなることで区別できる。
【0028】
第3族~第13族金属をドープしない点以外は、本実施形態の金属ドープ硫化モリブデン粉体の場合と同じ方法で製造された、第3族~第13族金属がドープされていない硫化モリブデン粉体を構成する硫化モリブデン粒子も、同様に準安定構造の3R結晶構造を含む。このような硫化モリブデン粒子が、準安定構造の3R結晶構造を含む点と、2H結晶構造及び3R結晶構造を含む点は、X線源としてCu-Kα線を用いた粉末X線回折(XRD)から得られるスペクトルが、金属ドープ硫化モリブデン粉体の場合と同様のパターンを示すことで区別できる。
【0029】
本実施形態の金属ドープ硫化モリブデン粉体において、前記金属ドープ硫化モリブデン粉体を構成する、金属ドープ硫化モリブデン粒子を透過型電子顕微鏡(TEM)で撮影したときの二次元画像における、金属ドープモリブデン硫化物の一次粒子の形状は、目視観察又は画像写真で、粒子状、球状、板状、針状、紐形状、リボン状又はシート状であってもよく、これらの形状が組み合わさって含まれていてもよい。前記金属ドープモリブデン硫化物の一次粒子の形状は、紐形状、リボン状又はシート状であることが好ましく、金属ドープモリブデン硫化物50個の一次粒子の形状が、平均で、長さ(縦)×幅(横)=50~2000nm×50~2000nmの範囲の大きさを有することが好ましく、100~1000nm×100~1000nmの範囲の大きさを有することがより好ましく、150~500nm×150~500nmの範囲の大きさを有することが特に好ましい。前記金属ドープモリブデン硫化物の一次粒子の形状は、原子間力顕微鏡(AFM)で測定される厚さが、1~40nmの範囲の大きさを有することが好ましく、3~20nmの範囲の大きさを有することがより好ましく、5~10nmの範囲の大きさを有することが特に好ましい。ここで、シート状であるとは、薄層形状であることをいう。また、リボン状であるとは、長い薄層形状であることをいう。シート状であることで、金属ドープ硫化モリブデン粉体の比表面積を大きくすることができ、水素発生反応(HER)での触媒活性などの、金属ドープ硫化モリブデン粉体の各種活性がより優れたものとなる。ここで、紐形状であるとは、細長い形状であることをいう。前記金属ドープモリブデン硫化物の一次粒子のアスペクト比、すなわち、(長さ(縦))/厚み)の値は、50個の平均で、1.2~1200であることが好ましく、2~800であることがより好ましく、5~400であることがさらに好ましく、10~200であることが特に好ましい。
【0030】
本実施形態の金属ドープ硫化モリブデン粉体の、BET法で測定される比表面積は、10m2/g以上であることが好ましく、30m2/g以上であることがより好ましく、40m2/g以上であることが特に好ましい。本実施形態の金属ドープ硫化モリブデン粉体の比表面積が大きいほど、水素発生反応(HER)での触媒活性などの、金属ドープ硫化モリブデン粉体の各種活性が高くなる。
本実施形態の金属ドープ硫化モリブデン粉体の、BET法で測定される比表面積は300m2/g以下であってもよく、200m2/g以下であってもよく、100m2/g以下であってもよい。
【0031】
本実施形態の金属ドープ硫化モリブデン粉体(前記金属ドープ硫化モリブデン粉体を構成する金属ドープ硫化モリブデン粒子)の、動的光散乱式粒子径分布測定装置により求められるメディアン径D50は、10~2000nmであることが好ましい。そして、表面積が大きく、硫黄との反応性がより良好である三酸化モリブデン(MoO3)から製造された結果物であるという点において、金属ドープ硫化モリブデン粒子のメディアン径D50は、2000nm以下であることが好ましく、1500nm以下であることがより好ましく、1000nm以下であることが特に好ましい。一方、金属ドープ硫化モリブデン粒子のメディアン径D50は、10nm以上であってもよく、20nm以上であってもよく、40nm以上であってもよい。
【0032】
本実施形態の金属ドープ硫化モリブデン粉体の、モリブデンのK吸収端の広域X線吸収微細構造(EXAFS)スペクトルから得られる動径分布関数において、Mo-Sに起因するピークの強度Iと、Mo-Moに起因するピークの強度IIと、の比(I/II)が、0.1以上であることが好ましく、0.5以上であることがより好ましく、1.0以上であることが特に好ましい。
【0033】
本実施形態の金属ドープ硫化モリブデン粉体のMoS2への転化率RCは、70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、90%以上であることが特に好ましい。金属ドープ硫化モリブデン粉体のMoS2への転化率RCが大きいことにより、金属ドープ硫化モリブデン粉体の水素発生反応(HER)での触媒活性などの、各種活性が高くなる。
【0034】
前記金属ドープ硫化モリブデン粉体のMoS2への転化率RCは、金属ドープ硫化モリブデン粉体をX線回折(XRD)測定することにより得られるスペクトルデータから、RIR(参照強度比)法により求めることができる。金属ドープ硫化モリブデン(MoS2)のRIR値KA及び金属ドープ硫化モリブデン(MoS2)の(002)面又は(003)面に帰属される、2θ=14.4°±0.5°付近のピークの積分強度IA、並びに、各酸化モリブデン(原料であるMoO3、及び反応中間体であるMo9O25、Mo4O11、MoO2など)のRIR値KB及び各酸化モリブデン(原料であるMoO3、及び反応中間体であるMo9O25、Mo4O11、MoO2など)の最強線ピークの積分強度IBを用いて、次の式(1)から、金属ドープ硫化モリブデン粉体のMoS2への転化率RCを求めることができる。
RC(%)=(IA/KA)/(Σ(IB/KB))×100 ・・・(1)
ここで、RIR値は、ICSDデータベースに記載されている値をそれぞれ用いることができ、解析には、統合粉末X線解析ソフトウェア(PDXL)(Rigaku社製)を用いることができる。
【0035】
硫化モリブデン粉体(第3族~第13族金属がドープされていない硫化モリブデン粉体)は、硫化モリブデン粒子を透過型電子顕微鏡(TEM)で撮影したときの二次元画像における、モリブデン硫化物の一次粒子の形状、大きさ、及びアスペクト比;BET法で測定される比表面積;動的光散乱式粒子径分布測定装置により求められるメディアン径D50;Mo-Sに起因するピークの強度Iと、Mo-Moに起因するピークの強度IIと、の比(I/II);MoS2への転化率RC、の点において、本実施形態の金属ドープ硫化モリブデン粉体の場合と同様となる。
ここで、硫化モリブデン粉体としては、例えば、後述する比較例1~5の硫化モリブデン粉体(すなわち、金属をドープしない点以外は、本実施形態の金属ドープ硫化モリブデン粉体の場合と同じ方法で製造された硫化モリブデン粉体)、及び、後述する試験例2の硫化モリブデン粉体等が挙げられる。
【0036】
例えば、前記硫化モリブデン粉体の、BET法で測定される比表面積は、10m2/g以上であることが好ましく、30m2/g以上であることがより好ましく、40m2/g以上であることが特に好ましい。前記硫化モリブデン粉体の、BET法で測定される比表面積は300m2/g以下であってもよく、200m2/g以下であってもよく、100m2/g以下であってもよい。
前記硫化モリブデン粉体の、動的光散乱式粒子径分布測定装置により求められるメディアン径D50は、10~1000nmであることが好ましい。前記硫化モリブデン粉体のメディアン径D50は、600nm以下であることが好ましく、500nm以下であることがより好ましく、400nm以下であることが特に好ましい。前記硫化モリブデン粉体のメディアン径D50は、10nm以上であってもよく、20nm以上であってもよく、40nm以上であってもよい。
前記硫化モリブデン粉体における前記比(I/II)は、1.0より大きいことが好ましく、1.1以上であることがより好ましく、1.2以上であることが特に好ましい。
前記硫化モリブデン粉体の前記転化率RCは、70%以上であることが好ましく、80%以上であることがより好ましく、90%以上であることが特に好ましい。
なお、前記硫化モリブデン粉体のMoS2への転化率RCは、X線回折(XRD)測定の対象が、前記金属ドープ硫化モリブデン粉体ではなく、前記硫化モリブデン粉体である点を除けば、前記金属ドープ硫化モリブデン粉体のMoS2への転化率RCの場合と同じ方法で求められる。
【0037】
前記第3族~第13族金属は、周期表中、第3族と、第13族と、これらの間に位置している族と、のいずれかに該当する金属であれば、特に限定されない。
前記第3族~第13族金属として、より具体的には、例えば、スカンジウム(Sc)、イットリウム(Y)、ランタン(La)、セリウム(Ce)、プラセオジム(Pr)、ネオジム(Nd)、プロメチウム(Pm)、サマリウム(Sm)、ユーロピウム(Eu)、ガドリニウム(Gd)、テルビウム(Tb)、ジスプロシウム(Dy)、ホルミウム(Ho)、エルビウム(Er)、ツリウム(Tm)、イッテルビウム(Yb)、ルテチウム(Lu)、アクチニウム(Ac)、トリウム(Th)、プロトアクチニウム(Pa)、ウラン(U)、ネプツニウム(Np)、プルトニウム(Pu)、アメリシウム(Am)、キュリウム(Cm)、バークリウム(Bk)、カリホルニウム(Cf)、アインスタニウム(Es)、フェルミウム(Fm)、メンデレビウム(Md)、ノーベリウム(No)、ローレンシウム(Lr)等の第3族金属;
チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、ラザホージウム(Rf)等の第4族金属;
バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta),ドブニウム(Db)等の第5族金属;
クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、シーボーギウム(Sg)等の第6族金属;
マンガン(Mn)、テクネチウム(Tc)、レニウム(Re)、ボーリウム(Bh)等の第7族金属;
鉄(Fe)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)、ハッシウム(Hs)等の第8族金属;
コバルト(Co),ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、マイトネリウム(Mt)等の第9族金属;
ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ダームスタチウム(Ds)等の第10族金属;
銅(Cu)、銀(Ag)、金(Au)、レントゲニウム(Rg)等の第11族金属;
亜鉛(Zn)、カドミウム(Cd)、水銀(Hg)、コペルニシウム(Cn)等の第12族金属;
ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、タリウム(Tl)、ニホニウム(Nh)等の第13族金属等が挙げられる。
【0038】
前記金属ドープ硫化モリブデン粉体においてドープされている、前記第3族~第13族金属は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0039】
前記第3族~第13族金属は、コバルト、パラジウム、イリジウム、マンガン、鉄、ニッケル、ジルコニウム、ルテニウム、インジウム及び亜鉛からなる群より選択される1種又は2種以上であることが好ましい。
【0040】
前記金属ドープ硫化モリブデン粉体において、モリブデン量(モル量)に対する、前記第3族~第13族金属の量(モル量)の割合(本明細書においては「金属ドープ量」と称することがある)は、0.01~30モル%であることが好ましく、0.1~20モル%であることがより好ましく、0.2~10モル%であることがさらに好ましい。前記割合がこのような範囲であることで、金属ドープ硫化モリブデン粉体の各種活性が、より高くなる。
【0041】
<<金属ドープ硫化モリブデン粉体の製造方法>>
本実施形態の金属ドープ硫化モリブデン粉体は、例えば、三酸化モリブデン(MoO3)のα結晶構造又はβ結晶構造を含む一次粒子の集合体からなる三酸化モリブデン粉体と、硫黄源と、第3族~第13族金属塩と、を乾式混合することにより、混合粉体(本明細書においては、「原料粉体(1)」と称することがある)を得た後、前記混合粉体を温度200~1000℃で加熱(本明細書においては、前記加熱を「焼成」と称することがある)することを含む製造方法(本明細書においては、「製造方法(1)」と称することがある)により、製造できる。
【0042】
本実施形態の金属ドープ硫化モリブデン粉体は、例えば、三酸化モリブデン(MoO3)のα結晶構造又はβ結晶構造を含む一次粒子の集合体からなる三酸化モリブデン粉体と、第3族~第13族金属塩と、分散媒と、が配合された混合物(本明細書においては、「原料混合物(1)」と称することがある)から、前記分散媒を除去することにより、固形物(本明細書においては、「固形物(1)」と称することがある)を得た後、前記固形物を、硫黄源の存在下、温度200~1000℃で加熱(焼成)することを含む製造方法(本明細書においては、「製造方法(2)」と称することがある)によっても、製造できる。
【0043】
本実施形態の金属ドープ硫化モリブデン粉体は、例えば、三酸化モリブデン(MoO3)のα結晶構造又はβ結晶構造を含む一次粒子の集合体からなる三酸化モリブデン粉体と、第3族~第13族金属塩と、硫黄源と、分散媒と、が配合された混合物(本明細書においては、「原料混合物(2)」と称することがある)の温度を、40℃以下としながら、前記混合物から前記分散媒を除去することにより、固形物(本明細書においては、「固形物(2)」と称することがある)を得た後、前記固形物を、温度200~1000℃で加熱(焼成)することを含む製造方法(本明細書においては、「製造方法(3)」と称することがある)によっても、製造できる。
以下、各製造方法について、順次説明する。
【0044】
<製造方法(1)>
前記製造方法(1)において用いる三酸化モリブデン(MoO3)粉体は、三酸化モリブデンのα結晶構造又はβ結晶構造を含む一次粒子の集合体からなる。β結晶構造を含む前記三酸化モリブデン粉体は、結晶構造としてα結晶のみからなる従来の三酸化モリブデン粉体に比べて、硫黄との反応性が良好であり、硫黄源との反応において、MoS2への転化率RCを大きくすることができる。
【0045】
三酸化モリブデンのβ結晶構造は、X線源としてCu-Kα線を用いた粉末X線回折(XRD)から得られるスペクトルにおいて、MoO3のβ結晶の(011)面(2θ:23.01°付近、No.86426(無機結晶構造データベース、ICSD))のピークの存在によって、確認することができる。三酸化モリブデンのα結晶構造は、MoO3のα結晶の(021)面(2θ:27.32°付近、No.166363(無機結晶構造データベース、ICSD))のピークの存在によって、確認することができる。
【0046】
三酸化モリブデンのβ結晶構造は、ラマン分光測定から得られるラマンスペクトルにおいて、波数773、848cm-1及び905cm-1でのピークの存在によっても、確認することができる。三酸化モリブデンのα結晶構造は、波数663、816cm-1及び991cm-1でのピークの存在によって、確認することができる。
【0047】
前記三酸化モリブデン粉体の一次粒子の平均粒径は、5~2000nmであることが好ましい。
【0048】
三酸化モリブデン粉体の一次粒子の平均粒径とは、三酸化モリブデン粉体を、走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影し、二次元画像上の凝集体を構成する最小単位の粒子(すなわち、一次粒子)について、その長径(観察される最も長い部分のフェレ径)と短径(その最も長い部分のフェレ径に対して、垂直な向きの短いフェレ径)を計測し、その平均値を一次粒子径としたとき、ランダムに選ばれた50個の一次粒子の一次粒子径の平均値をいう。
【0049】
前記三酸化モリブデン粉体の一次粒子の平均粒径は、2000nm以下であることが好ましく、硫黄との反応性の点から、600nm以下であることがより好ましく、400nm以下であることがさらに好ましく、200nm以下であることが特に好ましい。前記三酸化モリブデン粉体の一次粒子の平均粒径は、10nm以上であってもよく、20nm以上であってもよく、40nm以上であってもよい。
【0050】
前記三酸化モリブデン粉体は、蛍光X線(XRF)で測定されるMoO3の含有割合(純度)が99.6%以上であることが好ましく、これにより、MoS2への転化率RCを大きくすることができ、高純度な、不純物由来の硫化物が生成するおそれがない、保存安定性の良好な硫化モリブデンを得ることができる。
【0051】
前記三酸化モリブデン粉体は、X線源としてCu-Kα線を用いた粉末X線回折(XRD)から得られるスペクトルにおいて、MoO3のβ結晶の(011)面に帰属するピーク強度の、MoO3のα結晶の(021)面に帰属するピーク強度に対する比(β(011)/α(021))が0.1以上であることが好ましく、1.0以上であることがより好ましく、2.0以上であることが特に好ましい。
【0052】
MoO3のβ結晶の(011)面に帰属するピーク強度、及び、MoO3のα結晶の(021)面に帰属するピーク強度は、それぞれ、ピークの最大強度を読み取り、前記比(β(011)/α(021))を求める。
【0053】
BET法で測定される、前記三酸化モリブデン粉体の比表面積は、10~100m2/gであることが好ましい。
【0054】
前記三酸化モリブデン粉体において、前記比表面積は、硫黄との反応性が良好になることから、10m2/g以上であることが好ましく、20m2/g以上であることがより好ましく、30m2/g以上であることがさらに好ましい。前記三酸化モリブデン粉体において、前記比表面積は、前記三酸化モリブデン粉体の製造が容易になることから、150m2/g以下であることが好ましく、120m2/g以下であってもよく、100m2/g以下であってもよい。
【0055】
前記三酸化モリブデン粉体は、モリブデンのK吸収端の広域X線吸収微細構造(EXAFS)スペクトルから得られる動径分布関数において、Mo-Oに起因するピークの強度Iと、Mo-Moに起因するピークの強度IIと、の比(I/II)が、0.1以上であることが好ましく、0.5以上であることがより好ましく、1.0以上であることが特に好ましい。
【0056】
Mo-Oに起因するピークの強度I、及び、Mo-Moに起因するピークの強度IIは、それぞれ、ピークの最大強度を読み取り、前記比(I/II)を求める。前記比(I/II)は、三酸化モリブデン粉体において、MoO3のβ結晶構造が得られていることの目安になると考えられ、前記比(I/II)が大きいほど、硫黄との反応性に優れる。
【0057】
前記三酸化モリブデン粉体は、酸化モリブデン前駆体化合物を気化させて、三酸化モリブデン蒸気を形成し、前記三酸化モリブデン蒸気を冷却することにより製造できる。
【0058】
前記三酸化モリブデン粉体の製造方法は、酸化モリブデン前駆体化合物、及び、前記酸化モリブデン前駆体化合物以外の金属化合物を含む原料混合物を焼成し、前記酸化モリブデン前駆体化合物を気化させて、三酸化モリブデン蒸気を形成することを含み、前記原料混合物100質量%に対する、前記金属化合物の割合が、酸化物換算で70質量%以下であることが好ましい。
【0059】
前記三酸化モリブデン粉体の製造方法は、
図1に示す製造装置1を用いて好適に実施できる。
【0060】
図1は、前記三酸化モリブデン粉体の製造に用いられる装置の一例の概略図である。製造装置1は、酸化モリブデン前駆体化合物、又は、前記原料混合物を焼成し、前記酸化モリブデン前駆体化合物を気化させる焼成炉2と、前記焼成炉2に接続され、前記焼成により気化した三酸化モリブデン蒸気を粉体化する十字(クロス)型の冷却配管3と、前記冷却配管3で粉体化した三酸化モリブデン粉体を回収する回収手段である回収機4と、を有する。この際、前記焼成炉2及び冷却配管3は、排気口5を介して接続されている。また、前記冷却配管3は、左端部には外気吸気口(図示せず)に開度調整ダンパー6が、上端部には観察窓7がそれぞれ配置されている。回収機4には、第1の送風手段である排風装置8が接続されている。当該排風装置8が排風することにより、回収機4及び冷却配管3が吸引され、冷却配管3が有する開度調整ダンパー6から外気が冷却配管3に送風される。すなわち、排風装置8が吸引機能を奏することによって、受動的に冷却配管3に送風が生じる。なお、製造装置1は、外部冷却装置9を有していてもよく、これによって焼成炉2から生じる三酸化モリブデン蒸気の冷却条件を任意に制御することが可能となる。
【0061】
開度調整ダンパー6により、外気吸気口からは空気を取り入れ、焼成炉2で気化した三酸化モリブデン蒸気を空気雰囲気下で冷却し、三酸化モリブデン粉体とすることで、前記比(I/II)を0.1以上とすることができ、三酸化モリブデン粉体において、MoO3のβ結晶構造が得られ易い。三酸化モリブデン蒸気を、液体窒素を用いて冷却した場合など、窒素雰囲気下の酸素濃度が低い状態での三酸化モリブデン蒸気の冷却は、酸素欠陥密度を増加させ、前記比(I/II)を低下させ易い。
【0062】
前記酸化モリブデン前駆体化合物としては、これを焼成することで三酸化モリブデン蒸気を形成するものであれば特に限定されないが、金属モリブデン、三酸化モリブデン、二酸化モリブデン、硫化モリブデン、モリブデン酸アンモニウム、リンモリブデン酸(H3PMo12O40)、ケイモリブデン酸(H4SiMo12O40)、モリブデン酸アルミニウム、モリブデン酸ケイ素、モリブデン酸マグネシウム(MgMonO3n+1(n=1~3))、モリブデン酸ナトリウム(Na2MonO3n+1(n=1~3))、モリブデン酸チタニウム、モリブデン酸鉄、モリブデン酸カリウム(K2MonO3n+1(n=1~3))、モリブデン酸亜鉛、モリブデン酸ホウ素、モリブデン酸リチウム(Li2MonO3n+1(n=1~3))、モリブデン酸コバルト、モリブデン酸ニッケル、モリブデン酸マンガン、モリブデン酸クロム、モリブデン酸セシウム、モリブデン酸バリウム、モリブデン酸ストロンチウム、モリブデン酸イットリウム、モリブデン酸ジルコニウム、モリブデン酸銅等が挙げられる。これらの酸化モリブデン前駆体化合物は、単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。酸化モリブデン前駆体化合物の形態は、特に限定されず、例えば、三酸化モリブデンなどの粉体状であってもよく、モリブデン酸アンモニウム水溶液のような液体であってもよいが、好ましくは、ハンドリング性かつエネルギー効率のよい粉体状である。
【0063】
酸化モリブデン前駆体化合物として、市販のα結晶の三酸化モリブデンを用いることが好ましい。また、酸化モリブデン前駆体化合物として、モリブデン酸アンモニウムを用いる場合には、焼成により熱力学的に安定な三酸化モリブデンに変換されることから、気化する酸化モリブデン前駆体化合物は前記三酸化モリブデンとなる。
【0064】
これらのうち、得られる三酸化モリブデン粉体の純度、一次粒子の平均粒径、結晶構造を制御しやすい点では、酸化モリブデン前駆体化合物は、三酸化モリブデンを含むことが好ましい。
【0065】
酸化モリブデン前駆体化合物、及び、前記酸化モリブデン前駆体化合物以外の金属化合物を含む原料混合物を焼成することでも、三酸化モリブデン蒸気を形成できる。
【0066】
前記酸化モリブデン前駆体化合物以外の金属化合物としては、特に限定されず、例えば、アルミニウム化合物、ケイ素化合物、チタン化合物、マグネシウム化合物、ナトリウム化合物、カリウム化合物、ジルコニウム化合物、イットリウム化合物、亜鉛化合物、銅化合物、鉄化合物等が挙げられる。これらのうち、前記金属化合物としては、前記アルミニウム化合物、ケイ素化合物、チタン化合物又はマグネシウム化合物を用いることが好ましい。
【0067】
酸化モリブデン前駆体化合物と前記酸化モリブデン前駆体化合物以外の金属化合物とが中間体を生成する場合があるが、この場合でも焼成により、前記中間体が分解して、三酸化モリブデンを熱力学的に安定な形態で気化させることができる。
【0068】
前記酸化モリブデン前駆体化合物以外の金属化合物としては、アルミニウム化合物を用いることが、焼成炉の傷つき防止のために好ましい。前記製造方法においては、三酸化モリブデン粉体の純度を向上させるために、前記酸化モリブデン前駆体化合物以外の金属化合物を用いなくてもよい。
【0069】
前記アルミニウム化合物としては、例えば、塩化アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩基性酢酸アルミニウム、水酸化アルミニウム、ベーマイト、擬ベーマイト、酸化アルミニウム(α-酸化アルミニウム、γ-酸化アルミニウム、δ-酸化アルミニウム、θ-酸化アルミニウム等)、2種以上の結晶相を有する混合酸化アルミニウム等が挙げられる。
【0070】
酸化モリブデン前駆体化合物、及び、前記酸化モリブデン前駆体化合物以外の金属化合物を含む原料混合物を焼成するに際して、前記原料混合物100質量%に対する、前記酸化モリブデン前駆体化合物の含有割合は、40~100質量%であることが好ましく、45~100質量%であってもよく、50~100質量%であってもよい。
【0071】
焼成温度は、使用する酸化モリブデン前駆体化合物及び前記金属化合物、並びに所望とする三酸化モリブデン粉体等によっても異なるが、通常、前記中間体が分解可能な温度であることが好ましい。例えば、酸化モリブデン前駆体化合物としてモリブデン化合物を、前記金属化合物として前記アルミニウム化合物を用いる場合には、前記中間体として、モリブデン酸アルミニウムが形成され得ることから、焼成温度は500~1500℃であることが好ましく、600~1550℃であることがより好ましく、700~1600℃であることがさらに好ましい。
【0072】
焼成時間も特に限定されず、例えば、1min~30hとすることができ、10min~25hとすることができ、100min~20hとすることができる。
【0073】
昇温速度は、使用する酸化モリブデン前駆体化合物及び前記金属化合物、並びに所望とする三酸化モリブデン粉体の特性等によっても異なるが、製造効率の観点から、0.1~100℃/minであることが好ましく、1~50℃/minであることがより好ましく、2~10℃/minであることがさらに好ましい。
【0074】
焼成炉内の内部圧力は、特に限定されず、陽圧であっても減圧であってもよいが、酸化モリブデン前駆体化合物を好適に焼成炉から冷却配管に排出する観点から、焼成は減圧下で行うことが好ましい。具体的な減圧度としては、-5000~-10Paであることが好ましく、-2000~-20Paであることがより好ましく、-1000~-50Paであることがさらに好ましい。減圧度が-5000Pa以上であると、焼成炉の高気密性や機械的強度が過度に要求されず、製造コストが低減できることから好ましい。一方、減圧度が-10Pa以下であると、焼成炉の排出口での酸化モリブデン前駆体化合物の詰まりを防止できることから好ましい。
【0075】
焼成中に焼成炉に気体を送風する場合、送風する気体の温度は、5~500℃であることが好ましく、10~100℃であることがより好ましい。
【0076】
気体の送風速度は、焼成炉の有効容積100Lに対して、1~500L/minであることが好ましく、10~200L/minであることがより好ましい。
【0077】
気化した三酸化モリブデン蒸気の温度は、使用する酸化モリブデン前駆体化合物の種類によっても異なるが、200~2000℃であることが好ましく、400~1500℃であることがより好ましい。気化した三酸化モリブデン蒸気の温度が2000℃以下であると、通常、冷却配管において、外気(0~100℃)の送風により容易に粉体化する傾向がある。
【0078】
焼成炉から排出される三酸化モリブデン蒸気の排出速度は、使用する前記酸化モリブデン前駆体化合物量及び前記金属化合物量、焼成炉の温度、焼成炉内への気体の送風、並びに焼成炉排気口の口径により制御できる。焼成炉から冷却配管への三酸化モリブデン蒸気の排出速度は、冷却配管の冷却能力によっても異なるが、0.001~100g/minであることが好ましく、0.1~50g/minであることがより好ましい。
【0079】
焼成炉から排出される気体中に含まれる三酸化モリブデン蒸気の含有量は、0.01~1000mg/Lであることが好ましく、1~500mg/Lであることがより好ましい。
【0080】
次に、前記三酸化モリブデン蒸気を冷却して粉体化する。
三酸化モリブデン蒸気の冷却は、冷却配管を低温にすることにより行われる。このときの冷却としては、上述のように冷却配管中への気体の送風による冷却、冷却配管が有する冷却機構による冷却、外部冷却装置による冷却等が挙げられる。
【0081】
三酸化モリブデン蒸気の冷却は、空気雰囲気下で行うことが好ましい。三酸化モリブデン蒸気を空気雰囲気下で冷却し、三酸化モリブデン粉体とすることで、前記比(I/II)を0.1以上とすることができ、三酸化モリブデン粉体において、MoO3のβ結晶構造が得られ易い。
【0082】
冷却温度(冷却配管の温度)は、特に限定されないが、-100~600℃であることが好ましく、-50~400℃であることがより好ましい。
【0083】
三酸化モリブデン蒸気の冷却速度は、特に限定されないが、100~100000℃/sであることが好ましく、1000~50000℃/sであることがより好ましい。三酸化モリブデン蒸気の冷却速度が速くなるほど、粒径が小さく、比表面積が大きい三酸化モリブデン粉体が得られる傾向があり、また、三酸化モリブデンのβ結晶構造が多く含まれる。
【0084】
冷却手段が、冷却配管中への気体の送風による冷却である場合、送風する気体の温度は-100~300℃であることが好ましく、-50~100℃であることがより好ましい。
【0085】
気体の送風速度は、0.1~20m3/minであることが好ましく、1~10m3/minであることがより好ましい。気体の送風速度が0.1m3/min以上であると、高い冷却速度を実現でき、冷却配管の詰まりを防止できることから好ましい。一方、気体の送風速度が20m3/min以下であると、高価な第1の送風手段(排風機等)が不要となり、製造コストを低減できることから好ましい。
【0086】
三酸化モリブデン蒸気を冷却して得られた粉体は、回収機に輸送されて回収される。
【0087】
前記三酸化モリブデン粉体の製造方法においては、前記三酸化モリブデン蒸気を冷却して得られた粉体を、再度、100~320℃の温度で焼成してもよい。
【0088】
すなわち、前記三酸化モリブデン粉体の製造方法で得られた三酸化モリブデン粉体を、再度、100~320℃の温度で焼成してもよい。再度の焼成の焼成温度は、120~280℃であってもよく、140~240℃であってもよい。再度の焼成の焼成時間は、例えば、1min~4hとすることができ、10min~5hとすることができ、100min~6hとすることができる。ただし、350℃以上の温度で再度焼成することにより、三酸化モリブデンの結晶サイズが成長し、また、三酸化モリブデン粉体中のβ結晶構造が消失して、前記比(β(011)/α(021))が0になって、硫黄との反応性が損なわれる。
【0089】
前記硫黄源は、硫黄原子を有する成分であり、その例としては、硫黄、硫化水素等が挙げられる。
【0090】
前記原料粉体(1)が含有する硫黄源は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0091】
原料粉体(1)において、硫黄源の配合量は、前記三酸化モリブデン粉体の配合量に対して、3~20倍モル量であることが好ましく、4~15倍モル量であることがより好ましく、5~10倍モル量であることがさらに好ましい。硫黄源の前記配合量が前記下限値以上であることで、金属ドープ硫化モリブデン粉体の収率がより向上する。硫黄源の前記配合量が前記上限値以下であることで、金属ドープ硫化モリブデン粉体中に混在する硫黄源、又はそれに由来する不純物の量が、より低減される。
【0092】
前記第3族~第13族金属塩は、第3族~第13族金属のカチオンと、アニオンと、で構成されたと見做せる塩であれば、特に限定されない。
【0093】
原料粉体(1)が含有する第3族~第13族金属塩は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0094】
前記アニオンは、無機アニオン(無機成分がアニオン化したもの)及び有機アニオン(有機成分がアニオン化したもの)のいずれであってもよい。
【0095】
前記無機アニオンとしては、例えば、塩化物イオン(Cl-)、臭化物イオン(Br-)、ヨウ化物イオン(I-)等のハロゲン化物イオン;硝酸イオン(NO3
-)、硫酸イオン(SO4
2-)、炭酸イオン(CO3
2-)、炭酸水素イオン(HCO3
-)、リン酸イオン(PO4
3-)、リン酸水素イオン(HPO4
2-)、リン酸二水素イオン(H2PO4
-)等のオキシアニオン等が挙げられる。
【0096】
前記有機アニオンとしては、例えば、酢酸イオン(CH3COO-)、ビス酢酸イオン、乳酸イオン、ビス(L-乳酸)イオン、グルコン酸イオン、クエン酸イオン、プロピオン酸イオン、2-エチルヘキサン酸イオン、酒石酸イオン、ジベンジルジチオカルバミン酸イオン、コハク酸イオン、イセチオン酸イオン等の有機酸イオン等が挙げられる。
【0097】
第3族~第13族金属塩は、第3族~第13族金属のカチオンと、無機アニオンと、で構成されたと見做せる塩であることが好ましく、第3族~第13族金属のカチオンと、ハロゲン化物イオン又はオキシアニオンと、で構成されたと見做せる塩であることがより好ましく、塩化物又は硝酸塩であることがさらに好ましい。
【0098】
前記塩化物としては、例えば、塩化コバルト(CoCl2)、塩化パラジウム(PdCl2)、塩化イリジウム(IrCl3)、塩化マンガン(MnCl2)、塩化鉄(III)(FeCl3)、塩化ニッケル(NiCl2)、塩化ルテニウム(RuCl3)、塩化亜鉛(ZnCl2)等が挙げられる。
前記硝酸塩としては、例えば、硝酸コバルト(Co(NO3)2)、オキシ硝酸ジルコニウム(ZrO(NO3)2)、硝酸インジウム(In(NO3)3)等が挙げられる。
【0099】
第3族~第13族金属塩としては、水和物を用いてもよい。
第3族~第13族金属塩の水和物としては、例えば、硝酸コバルト六水和物(Co(NO3)2・6H2O)、塩化コバルト六水和物(CoCl2・6H2O)、塩化マンガン四水和物(MnCl2・4H2O)、塩化鉄(III)六水和物(FeCl3・6H2O)、塩化ニッケル六水和物(NiCl2・6H2O)、オキシ硝酸ジルコニウム二水和物(ZrO(NO3)2・2H2O)、硝酸インジウム三水和物(In(NO3)3・3H2O)等が挙げられる。
【0100】
製造方法(1)において配合する第3族~第13族金属塩は、硝酸コバルト六水和物、塩化コバルト六水和物、塩化パラジウム、塩化イリジウム、塩化マンガン四水和物、塩化鉄(III)六水和物、塩化ニッケル六水和物、オキシ硝酸ジルコニウム二水和物、塩化ルテニウム、硝酸インジウム三水和物及び塩化亜鉛からなる群より選択される1種又は2種以上であることが好ましい。
【0101】
原料粉体(1)において、第3族~第13族金属塩の配合量は、前記三酸化モリブデン粉体の配合量に対して、0.2~10モル%であることが好ましく、0.4~7モル%であることがより好ましく、0.6~4モル%であることがさらに好ましい。第3族~第13族金属塩の前記配合量がこのような範囲であることで、金属ドープ硫化モリブデン粉体の各種活性が、より高くなる。
【0102】
原料粉体(1)において、全ての配合成分の合計配合量に対する、前記三酸化モリブデン粉体と、硫黄源と、第3族~第13族金属塩と、の合計配合量の割合は、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、97質量%以上であることがさらに好ましく、99質量%以上であることが特に好ましい。前記割合が前記下限値以上であることで、金属ドープ硫化モリブデン粉体の各種活性が、より高くなる。
一方、前記割合は、100質量%以下である。
【0103】
製造方法(1)での原料粉体(1)においては、全ての配合成分が乾式混合されていればよく、全ての配合成分が均一に混合されていることが好ましく、例えば、目視にてその中に粒子状のものが認められない程度にまで、すり潰されていてもよい。
本明細書において、「乾式混合」とは、常温で液状の成分を意図的に用いることなく、目的とする成分を混合することを意味する。
【0104】
原料粉体(1)を得るときの乾式混合は、例えば、5~40℃の温度条件下で行うことができる。
原料粉体(1)を得るときの乾式混合の時間は、例えば、5~120分であってもよい。
【0105】
上述の配合成分を乾式混合する方法は、特に限定されない。例えば、マグネット乳鉢やダンシングミル等の自動混合装置を用いて配合成分を混合してもよいし、比較的少量の配合成分は、乳鉢及び乳棒を用いてすり潰すことにより、混合できる。
【0106】
製造方法(1)において、原料粉体(1)の焼成条件は、適宜調節できる。
焼成温度は、三酸化モリブデンの硫化反応が充分に進行する温度であればよく、320℃以上であることが好ましく、340℃以上であることがより好ましく、360℃以上であることが特に好ましい。焼成温度は、例えば、320~1000℃であってもよく、340~800℃であってもよく、360~600℃であってもよい。
【0107】
焼成時間は、三酸化モリブデンの硫化反応が充分に進行する温度であればよく、2~8時間であることが好ましく、2.5~6.5時間であることがより好ましく、3~5時間であることが特に好ましい。
【0108】
焼成は、窒素雰囲気下等、不活性ガスの存在下で行うことが好ましい。
例えば、不活性ガスを流しながら焼成を行う場合には、不活性ガスの流量は、1~5分で焼成室内のガスの全量を一回置換できる流量であることが好ましい。例えば、焼成室の容積が1Lである場合には、不活性ガスの流量は、200~1000mL/minであることが好ましい。
【0109】
製造方法(1)において、温度200~1000℃での加熱(焼成)に供するすべての成分の合計使用量に対する、原料粉体(1)の使用量の割合は、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、97質量%以上であることがさらに好ましく、99質量%以上であることが特に好ましい。前記割合が前記下限値以上であることで、金属ドープ硫化モリブデン粉体の各種活性が、より高くなる。
一方、前記割合は、100質量%以下である。
【0110】
製造方法(1)においては、少なくとも、原料粉体(1)を調製し、原料粉体(1)を温度200~1000℃で加熱(焼成)することにより、金属ドープ硫化モリブデン粉体を製造できる。
製造方法(1)においては、金属ドープ硫化モリブデン粉体が得られれば、原料粉体(1)の調製と焼成以外に、1種又は2種以上の任意の他の操作を、適したタイミングで、1回又は2回以上行ってもよい。
【0111】
製造方法(1)は、単純な操作で安価に金属ドープ硫化モリブデン粉体を製造できる点で、優れている。
【0112】
<製造方法(2)>
前記製造方法(2)において用いる三酸化モリブデン(MoO3)粉体と、第3族~第13族金属塩と、硫黄源は、それぞれ、製造方法(1)において用いる三酸化モリブデン粉体と、第3族~第13族金属塩と、硫黄源と同じである。
【0113】
製造方法(2)において用いる前記分散媒は、特に限定されず、通常、溶媒として使用可能なものから適宜選択できる。
分散媒は、前記原料混合物(1)から除去することを考慮すると、低沸点であるものが好ましい。
【0114】
分散媒としては、例えば、水、アセトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン(THF)、ヘキサン、ヘプタン、トルエン、メタノール、エタノール、プロパノール(1-プロパノール、2-プロパノール)、ブタノール(1-ブタノール、2-ブタノール)、ヘキサノール(1-ヘキサノール、2-ヘキサノール)等が挙げられる。第3族~第13族金属塩を溶解可能である点では、好ましい分散媒としては、例えば、水、アセトン、アセトニトリル、メタノールが挙げられる。
【0115】
原料混合物(1)が含有する分散媒は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0116】
原料混合物(1)においては、前記三酸化モリブデン粉体が分散し、第3族~第13族金属塩が溶解又は分散している。すなわち、分散媒は一部の配合成分に対しては、溶媒として機能し得る。
【0117】
原料混合物(1)において、第3族~第13族金属塩の配合量は、前記三酸化モリブデン粉体の配合量に対して、0.2~10モル%であることが好ましく、0.4~7モル%であることがより好ましく、0.6~4モル%であることがさらに好ましい。第3族~第13族金属塩の前記配合量がこのような範囲であることで、金属ドープ硫化モリブデン粉体の各種活性が、より高くなる。
【0118】
原料混合物(1)において、分散媒の配合量は、前記三酸化モリブデン粉体の配合量に対して、1~300質量倍であることが好ましく、25~200質量倍であることがより好ましく、50~100質量倍であることがさらに好ましい。分散媒の前記配合量がこのような範囲であることで、原料混合物(1)の取り扱い性がより高くなる。
【0119】
原料混合物(1)において、全ての配合成分の合計配合量に対する、前記三酸化モリブデン粉体と、第3族~第13族金属塩と、分散媒と、の合計配合量の割合は、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、97質量%以上であることがさらに好ましく、99質量%以上であることが特に好ましい。前記割合が前記下限値以上であることで、金属ドープ硫化モリブデン粉体の各種活性が、より高くなるとともに、原料混合物(1)の取り扱い性がより高くなる。
一方、前記割合は、100質量%以下である。
【0120】
原料混合物(1)は、前記三酸化モリブデン粉体と、第3族~第13族金属塩と、分散媒と、を配合することで調製できる。これら成分の配合順は、特に限定されず、各成分を独立して順次配合してもよいし、一部の成分同士を予め混合しておき、得られた混合物を配合してもよい。
例えば、原料混合物(1)は、前記三酸化モリブデン粉体と分散媒の配合物である前記三酸化モリブデン粉体の分散液と、第3族~第13族金属塩と分散媒(溶媒)の配合物である第3族~第13族金属塩の分散液又は溶液と、を混合することで、調製してもよい。
【0121】
製造方法(2)において、原料混合物(1)を調製するときは、すべての成分を配合した後、得られた配合物を、例えば、10~35℃で、0.5~12時間撹拌することにより、原料混合物(1)を調製してもよい。
【0122】
製造方法(2)において、原料混合物(1)から分散媒を除去する方法は、分散媒(溶媒)の除去(すなわち乾燥)が可能な限り、特に限定されない。分散媒を除去する方法(乾燥方法)としては、例えば、送風式乾燥機又はロータリーエバポレーターを用いる乾燥方法、フリーズドライによる乾燥方法等が挙げられる。量産に適した方法としては、例えば、原料混合物(1)のフリーズドライにより、原料混合物(1)から分散媒を除去する方法(本明細書においては、「乾燥方法(1)」と称することがある)と、原料混合物(1)を加熱することにより、原料混合物(1)から分散媒を除去する方法(本明細書においては、「乾燥方法(2)」と称することがある)と、が挙げられる。
【0123】
前記乾燥方法(1)において、フリーズドライの条件は、特に限定されない。例えば、ドライアイス及びメタノールの混合物を冷媒として用いて、原料混合物(1)を凍結させ、次いで、ロータリーポンプ等を用いて、原料混合物(1)の存在環境を真空に維持することによって、原料混合物(1)から分散媒を除去できる。
【0124】
前記乾燥方法(2)においては、原料混合物(1)を、例えば、50~200℃で、0.5~6時間加熱してもよい。そして、送風しながらこのように加熱することが好ましい。
【0125】
原料混合物(1)から分散媒を除去する方法は、より簡略化された方法により、より均一な品質で固形物(1)を得られる点では、乾燥方法(1)であることが好ましい。
【0126】
製造方法(2)において、固形物(1)と共存させる硫黄源の量(配合量)は、前記三酸化モリブデン粉体の配合量に対して、3~20倍モル量であることが好ましく、4~15倍モル量であることがより好ましく、5~10倍モル量であることがさらに好ましい。硫黄源の前記配合量が前記下限値以上であることで、金属ドープ硫化モリブデン粉体の収率がより向上する。硫黄源の前記配合量が前記上限値以下であることで、金属ドープ硫化モリブデン粉体中に混在する硫黄源、又はそれに由来する不純物の量が、より低減される。
ここで、前記三酸化モリブデン粉体の配合量(モル)とは、原料混合物(1)の調製時における前記三酸化モリブデン粉体の配合量(モル)に、固形物(1)の使用量(質量部)を乗じ、固形物(1)の全量(質量部)で除して得られた量([原料混合物(1)の調製時における前記三酸化モリブデン粉体の配合量(モル)]×[固形物(1)の使用量(質量部)]/[固形物(1)の全量(質量部)])を意味する。したがって、得られた固形物(1)の全量を用いる場合には、前記三酸化モリブデン粉体の配合量(モル)とは、原料混合物(1)の調製時における前記三酸化モリブデン粉体の配合量(モル)を意味する。
【0127】
製造方法(2)において、固形物(1)の焼成条件は、適宜調節できる。
例えば、製造方法(2)における、硫黄源の存在下での固形物(1)の焼成条件は、製造方法(1)における原料粉体(1)の焼成条件と同じであってもよい。
【0128】
製造方法(2)において、温度200~1000℃での加熱(焼成)に供するすべての成分の合計使用量に対する、固形物(1)と、硫黄源と、の合計使用量の割合は、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、97質量%以上であることがさらに好ましく、99質量%以上であることが特に好ましい。前記割合が前記下限値以上であることで、金属ドープ硫化モリブデン粉体の各種活性が、より高くなる。
一方、前記割合は、100質量%以下である。
【0129】
製造方法(2)においては、少なくとも、原料混合物(1)から固形物(1)を得た後、固形物(1)を硫黄源の存在下で焼成することにより、金属ドープ硫化モリブデン粉体を製造できる。
製造方法(2)においては、金属ドープ硫化モリブデン粉体が得られれば、原料混合物(1)から固形物(1)を得た後、固形物(1)を硫黄源の存在下で焼成すること以外に、1種又は2種以上の任意の他の操作を、適したタイミングで、1回又は2回以上行ってもよい。
【0130】
製造方法(2)は、より均一な品質で金属ドープ硫化モリブデン粉体を製造できる点で、優れており、乾燥方法(1)を採用する製造方法(2)は、より一層均一な品質で金属ドープ硫化モリブデン粉体を製造できる点で、特に優れている。
【0131】
<製造方法(3)>
前記製造方法(3)において用いる三酸化モリブデン(MoO3)粉体と、第3族~第13族金属塩と、硫黄源は、それぞれ、製造方法(1)において用いる三酸化モリブデン粉体と、第3族~第13族金属塩と、硫黄源と同じである。
【0132】
製造方法(3)において用いる前記分散媒は、製造方法(2)において用いる分散媒と同じである。
【0133】
原料混合物(2)が含有する分散媒は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0134】
前記原料混合物(2)においては、前記三酸化モリブデン粉体が分散し、硫黄源が溶解又は分散し、第3族~第13族金属塩が溶解又は分散している。すなわち、分散媒は一部の配合成分に対しては、溶媒として機能し得る。
【0135】
原料混合物(2)において、第3族~第13族金属塩の配合量は、前記三酸化モリブデン粉体の配合量に対して、0.2~10モル%であることが好ましく、0.4~7モル%であることがより好ましく、0.6~4モル%であることがさらに好ましい。第3族~第13族金属塩の前記配合量がこのような範囲であることで、金属ドープ硫化モリブデン粉体の各種活性が、より高くなる。
【0136】
原料混合物(2)において、硫黄源の配合量は、前記三酸化モリブデン粉体の配合量に対して、3~20倍モル量であることが好ましく、4~15倍モル量であることがより好ましく、5~10倍モル量であることがさらに好ましい。硫黄源の前記配合量が前記下限値以上であることで、金属ドープ硫化モリブデン粉体の収率がより向上する。硫黄源の前記配合量が前記上限値以下であることで、金属ドープ硫化モリブデン粉体中に混在する硫黄源、又はそれに由来する不純物の量が、より低減される。
【0137】
原料混合物(2)において、分散媒の配合量は、前記三酸化モリブデン粉体の配合量に対して、1~300質量倍であることが好ましく、5~150質量倍であることがより好ましく、10~90質量倍であることがさらに好ましい。分散媒の前記配合量がこのような範囲であることで、原料混合物(2)の取り扱い性がより高くなる。
【0138】
原料混合物(2)において、全ての配合成分の合計配合量に対する、前記三酸化モリブデン粉体と、第3族~第13族金属塩と、硫黄源と、分散媒と、の合計配合量の割合は、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、97質量%以上であることがさらに好ましく、99質量%以上であることが特に好ましい。前記割合が前記下限値以上であることで、金属ドープ硫化モリブデン粉体の各種活性が、より高くなるとともに、原料混合物(2)の取り扱い性がより高くなる。
一方、前記割合は、100質量%以下である。
【0139】
原料混合物(2)は、前記三酸化モリブデン粉体と、第3族~第13族金属塩と、硫黄源と、分散媒と、を配合することで調製できる。これら成分の配合順は、特に限定されず、各成分を独立して順次配合してもよいし、一部の成分同士を予め混合しておき、得られた混合物を配合してもよい。
例えば、原料混合物(2)は、前記三酸化モリブデン粉体と分散媒の配合物である前記三酸化モリブデン粉体の分散液と、第3族~第13族金属塩と分散媒(溶媒)の配合物である第3族~第13族金属塩の分散液又は溶液と、硫黄源と、を混合することで、調製してもよい。
【0140】
製造方法(3)において、原料混合物(2)を調製するときは、すべての成分を配合した後、得られた配合物を、例えば、10~35℃で、0.5~12時間撹拌することにより、原料混合物(2)を調製してもよい。
【0141】
製造方法(3)において、原料混合物(2)から分散媒を除去する方法は、原料混合物(2)の温度を100℃以下とした状態で、分散媒(溶媒)の除去(すなわち乾燥)が可能な限り、特に限定されない。このように分散媒を除去する方法としては、例えば、ロータリーエバポレーターを用いて分散媒を除去する方法、フリーズドライにより分散媒を除去する方法が挙げられる。好ましい方法としては、例えば、原料混合物(2)のフリーズドライにより、室温付近の温度で原料混合物(2)から分散媒を除去する方法(本明細書においては、「乾燥方法(3)」と称することがある)が挙げられる。
乾燥方法(3)は、より簡略化された方法により、より均一な品質で固形物(2)を得られる点で好ましい。
【0142】
前記乾燥方法(3)において、フリーズドライの条件は、特に限定されない。
例えば、乾燥方法(3)におけるフリーズドライの条件は、乾燥方法(1)におけるフリーズドライの条件と同じであってもよい。
【0143】
製造方法(3)において、固形物(2)の焼成条件は、適宜調節できる。
例えば、製造方法(3)における固形物(2)の焼成条件は、製造方法(1)における原料粉体(1)の焼成条件と同じであってもよい。
【0144】
製造方法(3)において、温度200~1000℃での加熱(焼成)に供するすべての成分の合計使用量に対する、固形物(2)の使用量の割合は、90質量%以上であることが好ましく、95質量%以上であることがより好ましく、97質量%以上であることがさらに好ましく、99質量%以上であることが特に好ましい。前記割合が前記下限値以上であることで、金属ドープ硫化モリブデン粉体の各種活性が、より高くなる。
一方、前記割合は、100質量%以下である。
【0145】
製造方法(3)においては、少なくとも、原料混合物(2)から固形物(2)を得た後、固形物(2)を焼成することにより、金属ドープ硫化モリブデン粉体を製造できる。
製造方法(3)においては、金属ドープ硫化モリブデン粉体が得られれば、原料混合物(2)から固形物(2)を得た後、固形物(2)を焼成すること以外に、1種又は2種以上の任意の他の操作を、適したタイミングで、1回又は2回以上行ってもよい。
【0146】
製造方法(3)は、より一層均一な品質で金属ドープ硫化モリブデン粉体を製造できる点で、特に優れている。
【0147】
<<水素発生触媒>>
前記金属ドープ硫化モリブデン粉体は、水素発生反応(HER)での触媒(本明細書においては、「水素発生触媒」と称することがある)として好適に利用できる。また、前記金属ドープ硫化モリブデン粉体は、導電材と併用することでも、水素発生触媒として利用できる。すなわち、好ましい水素発生触媒としては、例えば、前記金属ドープ硫化モリブデン粉体を含有するものが挙げられ、前記水素発生触媒は、前記金属ドープ硫化モリブデン粉体以外に、さらに導電材を含有していてもよい。前記金属ドープ硫化モリブデン粉体及び導電材を含有する水素発生触媒の、水素発生反応(HER)での触媒活性は、より高くなる。
【0148】
前記導電材は、公知のものであってよい。
前記導電材としては、例えば、導電性の高いカーボン及び金属等が挙げられる。
前記水素発生触媒が含有する前記導電材は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0149】
前記カーボンとしては、例えば、アセチレンブラック、Cabotカーボンブラック、ケッチェンブラック等が挙げられる。
【0150】
水素発生触媒が含有するカーボンは、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0151】
前記カーボンは、アセチレンブラック、Cabotカーボンブラック及びケッチェンブラックからなる群より選択される1種又は2種以上であることが好ましく、ケッチェンブラックであることがより好ましく、ケッチェンブラックEC300J及びケッチェンブラックEC600JDからなる群より選択される1種又は2種以上であることがさらに好ましい。ケッチェンブラックは、高い比表面積及び導電性を有しており、さらに、硫化モリブデンの凝集も抑制できる点で優れている。
【0152】
前記導電材である金属としては、例えば、金、銀、銅、アルミニウム、ロジウム、モリブデン、タングステン、鉄、ニッケル、コバルト、インジウム等が挙げられる。
導電材としての金属は、金属ドープ硫化モリブデン粉体中のドープされている金属とは異なり、水素発生触媒においては、単に金属ドープ硫化モリブデン粉体と混合されているに過ぎない。
【0153】
水素発生触媒が含有する、導電材としての金属は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0154】
水素発生触媒は、例えば、導電材として、金属を含有せず、カーボンを含有していてもよいし、カーボンを含有せず、金属を含有していてもよいし、金属及びカーボンを共に含有していてもよい。
【0155】
水素発生触媒において、導電材の含有量は、前記硫化モリブデン粉体の含有量に対して、1~50質量%であることが好ましく、5~40質量%であることがより好ましく、10~30質量%であることがさらに好ましい。前記含有量がこのような範囲であることで、水素発生触媒の活性の向上効果がより高くなる。
【0156】
水素発生触媒において、水素発生触媒の総質量に対する、金属ドープ硫化モリブデン粉体と、前記導電材と、の合計含有量(質量部)の割合は、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましく、例えば、97質量%以上、及び99質量%以上のいずれかであってもよく、100質量%であってもよい。前記割合が前記下限値以上であることで、水素発生触媒の水素発生反応(HER)での触媒活性が、より高くなる。前記割合は、100質量%以下であればよい。
【0157】
<<触媒インク>>
前記水素発生触媒は、触媒インクの含有成分として好適である。
このような触媒インクとしては、例えば、前記水素発生触媒と、溶媒と、を含有するものが挙げられ、これら以外に、さらに高分子電解質を含有するものも挙げられる。
【0158】
触媒インクが含有する前記水素発生触媒は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0159】
前記溶媒としては、例えば、水素発生触媒を分散させることができ、作用電極用基材に塗布することによって触媒層を形成可能なものが挙げられる。また、前記溶媒は、高分子電解質を分散可能なもの、触媒層の形成時に、常温又は100℃以下の温度で除去可能なものが好ましい。
【0160】
前記溶媒としては、より具体的には、例えば、水、アセトン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン(THF)、ヘキサン、ヘプタン、トルエン、メタノール、エタノール、プロパノール(1-プロパノール、2-プロパノール)、ブタノール(1-ブタノール、2-ブタノール)、ペンタノール(1-ペンタノール、2-ペンタノール)、ヘキサノール(1-ヘキサノール、2-ヘキサノール)、ヘプタノール(1-ヘプタノール、2-ヘプタノール)等が挙げられる。
【0161】
触媒インクが含有する溶媒は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0162】
触媒インクにおいて、溶媒の含有量は、水素発生触媒の含有量に対して、1~300質量倍であることが好ましく、10~150質量倍であることがより好ましく、30~75質量倍であることがさらに好ましい。溶媒の前記含有量がこのような範囲であることで、触媒インクの取り扱い性がより高くなり、さらに、触媒インクにおいて、凝集物の発生も抑制できる。
【0163】
触媒インクは、前記高分子電解質を含有することによって、その導電性が高くなり、さらに、触媒インク中での硫化モリブデンの凝集を抑制できる。
高分子電解質は、燃料電池用触媒層において一般的に用いられているものであってよい。
高分子電解質としては、例えば、スルホ基を有するパーフルオロカーボン重合体(例えば、ナフィオン(登録商標))、スルホ基を有する炭化水素系高分子化合物、リン酸等の無機酸をドープさせた高分子化合物、一部がプロトン伝導性の官能基で置換された有機/無機ハイブリッドポリマー、高分子マトリックスにリン酸溶液又は硫酸溶液を含浸させたプロトン伝導体等が挙げられる。
【0164】
触媒インクが含有する高分子電解質は、1種のみであってもよいし、2種以上であってもよい。
【0165】
触媒インクが高分子電解質を含有する場合、触媒インクにおいて、高分子電解質の含有量は、水素発生触媒の含有量に対して、0.1~20質量%であることが好ましく、0.5~10質量%であることがより好ましく、1~5質量%であることがさらに好ましい。高分子電解質の含有量がこのような範囲であることで、水素発生反応(HER)での触媒効果がより高くなる。
【0166】
触媒インクにおいて、触媒インクの総質量に対する、水素発生触媒と、高分子電解質と、溶媒と、の合計含有量(質量部)の割合は、80質量%以上であることが好ましく、90質量%以上であることがより好ましく、95質量%以上であることがさらに好ましく、例えば、97質量%以上、及び99質量%以上のいずれかであってもよく、100質量%であってもよい。前記割合が前記下限値以上であることで、触媒インクと、これから形成される触媒層と、の水素発生反応(HER)に対する触媒活性がより高くなる。前記割合は、100質量%以下であればよい。
【実施例】
【0167】
以下、具体的実施例により、本発明についてさらに詳しく説明する。ただし、本発明は、以下に示す実施例に何ら限定されるものではない。
【0168】
各項目の物性評価は、以下に示す方法で行った。
【0169】
<三酸化モリブデン粉体の一次粒子の平均粒径の測定方法>
三酸化モリブデン粉体を構成する三酸化モリブデン粒子を、走査型電子顕微鏡(SEM)で撮影した。二次元画像上の凝集体を構成する最小単位の粒子(すなわち、一次粒子)について、その長径(観察される最も長い部分のフェレ径)及び短径(その最も長い部分のフェレ径に対して、垂直な向きの短いフェレ径)を計測し、その平均値を一次粒子径とした。同様の操作をランダムに選ばれた50個の一次粒子に対して行い、その一次粒子の一次粒子径の平均値から、一次粒子の平均粒径を算出した。
【0170】
<三酸化モリブデンの純度測定:XRF分析>
蛍光X線分析装置PrimusIV(株式会社リガク製)を用い、回収した三酸化モリブデン粉体の試料約70mgをろ紙にとり、PPフィルムをかぶせて組成分析を行った。XRF(蛍光X線)分析結果により求められるモリブデン量を、三酸化モリブデン粉体100質量%に対する三酸化モリブデン換算(質量%)により求めた。
【0171】
<金属ドープ硫化モリブデン粉体の金属ドープ量の測定:XRF分析>
蛍光X線分析装置PrimusIV(株式会社リガク製)を用い、金属ドープ硫化モリブデン粉体の試料約70mgをろ紙にとり、PPフィルムをかぶせて組成分析を行った。金属ドープ硫化モリブデン粉体中のモリブデン量(モル量)に対する、XRF(蛍光X線)分析結果により求められる金属量(モル量)の割合を算出し、金属ドープ量とした。
【0172】
<結晶構造解析:XRD法>
三酸化モリブデン粉体、硫化モリブデン粉体又は金属ドープ硫化モリブデン粉体の試料を0.5mm深さの測定試料用ホルダーに充填し、それを広角X線回折(XRD)装置(株式会社リガク製 UltimaIV)にセットし、Cu/Kα線、40kV/40mA、スキャンスピード2°/min、走査範囲10°以上70°以下の条件で測定を行った。
【0173】
<比表面積測定:BET法>
三酸化モリブデン粉体、硫化モリブデン粉体又は金属ドープ硫化モリブデン粉体の試料について、比表面積計(マイクロトラックベル製、BELSORP-mini)にて測定し、BET法による窒素ガスの吸着量から測定された試料1g当たりの表面積を、比表面積(m2/g)として算出した。
【0174】
<MoS2への転化率RCの算出>
黒色粉末の硫化モリブデン粉体をX線回折(XRD)測定した。次に、RIR(参照強度比)法により、硫化モリブデン(MoS2)のRIR値KA及び硫化モリブデン(MoS2)の(002)面又は(003)面に帰属される、2θ=14.4°±0.5°付近のピークの積分強度IA、並びに、各酸化モリブデン(原料であるMoO3、及び反応中間体であるMo9O25、Mo4O11、MoO2など)のRIR値KB及び各酸化モリブデン(原料であるMoO3、及び反応中間体であるMo9O25、Mo4O11、MoO2など)の最強線ピークの積分強度IBを用いて、次の式(1)からMoS2への転化率RCを求めた。
RC(%)=(IA/KA)/(Σ(IB/KB))×100 ・・・(1)
ここで、RIR値は、無機結晶構造データベース(ICSD)に記載されている値をそれぞれ用い、解析には、統合粉末X線解析ソフトウェア(PDXL)(Rigaku社製)を用いた。
【0175】
<広域X線吸収微細構造(EXAFS)測定>
硫化モリブデン粉末36.45mgと窒化ホウ素333.0mgとを乳鉢で混合した。この混合物123.15mgを量り取り、φ8mmの錠剤に圧縮成形し、測定サンプルを得た。この測定サンプルを用いて、あいちシンクロトロン光センターのBL5S1にて透過法で広域X線吸収微細構造(EXAFS)を測定した。解析にはAthena(インターネット<URL: https://bruceravel.github.io/demeter/>)を用いた。
【0176】
<金属ドープ硫化モリブデン粉体又は硫化モリブデン粉体のメディアン径D50の測定>
アセトン20mLに、金属ドープ硫化モリブデン粉体又は硫化モリブデン粉体0.1gを添加し、氷浴中で4時間超音波処理を施した後、さらにアセトンで、動的光散乱式粒子径分布測定装置(MicrotracBEL製Nanotrac WaveII)の測定可能範囲の濃度に適宜調整し、測定サンプルを得た。この測定サンプルを用い、動的光散乱式粒子径分布測定装置(MicrotracBEL製Nanotrac WaveII)により、粒径0.0001~10μmの範囲の粒子径分布を測定し、メディアン径D50を算出した。
ただし、メディアン径D50が10μmを超えるものについては、同様に溶液を調製し、レーザ回折式粒度分布測定装置(島津製作所製 SALD-7000)により、粒径0.015~500μmの範囲の粒子径分布を測定し、メディアン径D50を算出した。
【0177】
<金属ドープ硫化モリブデン粉体又は硫化モリブデン粉体の粒子形状観察方法(1)>
金属ドープ硫化モリブデン粉体又は硫化モリブデン粉体を、透過型電子顕微鏡(TEM)(JEOL JEM1400)で撮影し、二次元画像の視野内50個の一次粒子の形状を観察した。
【0178】
<金属ドープ硫化モリブデン粉体又は硫化モリブデン粉体の粒子形状観察方法(2)>
金属ドープ硫化モリブデン粉体又は硫化モリブデン粉体を、走査型電子顕微鏡(SEM)(JEOL JCM7000)で撮影し、粒子形状を観察した。
【0179】
<金属ドープ硫化モリブデン粉体又は硫化モリブデン粉体の粒子形状観察方法(3)>
金属ドープ硫化モリブデン粉体を、原子間力顕微鏡(AFM)(Oxfоrd Cypher-ES)で測定し、粒子形状を観察した。
【0180】
<金属ドープ硫化モリブデン粉体の元素分布解析>
走査型電子顕微鏡(SEM)(JEOL JCM7000)を用いて、エネルギー分散型X線分光法(EDS)により、金属ドープ硫化モリブデン粉体を観察し、これら粉体中での元素の分布状態を解析した。
【0181】
[実施例1]
<<金属ドープ硫化モリブデン粉体の製造(製造方法(1))>>
<β結晶構造を含む三酸化モリブデン粉体の製造>
遷移酸化アルミニウム(和光純薬工業株式会社製、活性アルミナ、平均粒径45μm)1kgと、三酸化モリブデン(太陽鉱工株式会社製)1kgと、を混合し、次いでサヤに仕込み、
図1に示す製造装置1のうち焼成炉2で、温度1100℃で10時間焼成した。焼成中、焼成炉2の側面及び下面から外気(送風速度:50L/min、外気温度:25℃)を導入した。三酸化モリブデンは、焼成炉2内で蒸発した後、回収機4付近で冷却され、粒子として析出した。焼成炉2としてRHKシミュレーター(株式会社ノリタケカンパニーリミテド製)を用い、回収機4としてVF-5N集塵機(アマノ株式会社製)を用いた。
【0182】
焼成後、サヤから1.0kgの青色の粉体である酸化アルミニウムと、回収機4で回収した三酸化モリブデン粉体0.85kgを取り出した。回収した三酸化モリブデン粉体は、一次粒子の平均粒径が80nmであり、蛍光X線(XRF)測定にて、三酸化モリブデンの純度は99.7%であることが確認できた。この三酸化モリブデン粉体の、BET法で測定される比表面積(SA)は、44.0m2/gであった。
【0183】
また、この三酸化モリブデン粉体のX線回折(XRD)を測定した。X線回折パターンの結果を、三酸化モリブデンのα結晶の標準パターン及びβ結晶の標準パターンと共に、
図2に示す。MoO
3のα結晶に帰属するピークとMoO
3のβ結晶に帰属するピークが観察され、その他のピークは観察されなかった。次いでβ結晶の(011)面(2θ:23.01°付近、No.86426(無機結晶構造データベース(ICSD)))とα結晶の(021)面(2θ:27.32°付近、No.166363(無機結晶構造データベース、(ICSD)))のピーク強度比(β(011)/α(021))を求めたところ、β(011)/α(021)は5.2であった。
【0184】
この三酸化モリブデン粉体32.76mgと窒化ホウ素333.0mgとを乳鉢で混合した。この混合物121.92mgを量り取り、φ8mmの錠剤に圧縮成形し、広域X線吸収微細構造(EXAFS)を測定した。モリブデンのK吸収端の広域X線吸収微細構造(EXAFS)スペクトルを
図3に示す。このスペクトルから得られる動径分布関数において、Mo-Oに起因するピークの強度Iと、Mo-Moに起因するピークの強度IIと、の比(I/II)は、2.0であった。
【0185】
<コバルトドープ硫化モリブデン粉体の製造>
乳鉢中で、この三酸化モリブデン粉体0.25gと、硫黄粉末(関東化学株式会社製、三酸化モリブデン粉体に対して7倍モル量)と、硝酸コバルト六水和物(関東化学社製、三酸化モリブデン粉体に対して1モル%)5.06mgと、を含有する原料粉体(1)を、乳棒を用いて常温下で30分すり潰すことにより、均一な灰白色粉末を得た。
次いで、磁性坩堝中で、流量300mL/minの窒素気流下で、得られた灰白色粉末を400℃で4時間加熱(焼成)することにより、粉末(コバルトドープ硫化モリブデン粉体)を得た。
【0186】
実施例1のこの粉末のX線回折(XRD)パターンを確認したところ、二硫化モリブデン(MoS2)に帰属されるピークのみが検出され、二硫化モリブデン(MoS2)に帰属されないピークが見られなかった。すなわち、副生成物である二酸化モリブデン(MoO2)などの反応中間体ピークが観察されず、二硫化モリブデン(MoS2)に帰属されるピークのみが観察されたことから、上記で得られた金属ドープ硫化モリブデン粉体は、MoS2への転化率RCが99%以上であり、硫黄との反応が速やかに進んだことが確認できた。
実施例1の金属ドープ硫化モリブデン粉体をX線回折(XRD)により結晶構造解析したところ、2H結晶構造及び3R結晶構造が含まれていることを確認した。
【0187】
さらに、このX線回折(XRD)パターンのうち、2θ/degreeが14付近の領域を拡大したものを、後述する比較例1の硫化モリブデン粉体のものと共に、
図4に示す。
図4から、実施例1の金属ドープ硫化モリブデン粉体のピークは、比較例1の硫化モリブデン粉体のピークよりも、低角側へシフトしており、実施例1の金属ドープ硫化モリブデン粉体では、比較例1の硫化モリブデン粉体よりも、結晶での層間距離が伸びていることが示唆された。
【0188】
実施例1の金属ドープ硫化モリブデン粉体(コバルトドープ硫化モリブデン粉体)の金属ドープ量(コバルトドープ量)を、XRF分析により求めたところ、0.77モル%であった。
【0189】
実施例1の金属ドープ硫化モリブデン粉体の比表面積をBET法により測定したところ、59.8m2/gであった。
【0190】
実施例1の金属ドープ硫化モリブデン粉体の、モリブデンのK吸収端の広域X線吸収微細構造(EXAFS)スペクトルから得られる動径分布関数において、Mo-Sに起因するピークの強度Iと、Mo-Moに起因するピークの強度IIと、の比(I/II)を求めたところ、1.737であった。
【0191】
実施例1の金属ドープ硫化モリブデン粉体の粒度分布を、動的光散乱式粒子径分布測定装置により計測し、メディアン径D50を求めたところ、562nmであった。
【0192】
実施例1の金属ドープ硫化モリブデン粉体のTEM像を
図5に示す。
【0193】
実施例1の金属ドープ硫化モリブデン粉体のAFM像を
図6に示す。
図6は測定して得られたAFM像であり金属ドープ硫化モリブデン粉体の粒子上面を示している。このAFM像より長さ(縦)×幅(横)を求めたところ、180nm×80nmであった。
図7は
図6に示す金属ドープ硫化モリブデン粉体の断面を示している。この断面図より厚さを求めたところ、16nmであった。したがって、実施例1の金属ドープ硫化モリブデン粉体の一次粒子のアスペクト比(長さ(縦)/厚さ)の値は、11.25であった。
【0194】
上述のX線回折パターンをはじめとする各種分析結果から、目的とする金属ドープ硫化モリブデン粉体が確かに得られたことを確認できた。
【0195】
<<硫化モリブデン粉体の製造(製造方法(1’))>>
[比較例1]
硝酸コバルト六水和物を用いなかった点以外は、実施例1の場合と同じ方法で、硫化モリブデン粉体を製造した。本明細書においては、製造方法(1)において、第3族~第13族金属塩の使用を省略したものを「製造方法(1’)」と称することがある。
【0196】
比較例1の硫化モリブデン粉体のX線回折(XRD)パターンのうち、2θ/degreeが14付近の領域を拡大したものを、上述の実施例1の金属ドープ硫化モリブデン粉体のものと共に、
図4に示す。
【0197】
比較例1の硫化モリブデン粉体の金属ドープ量(亜鉛ドープ量)を、XRF分析により求めたところ、0.00モル%であった。
【0198】
比較例1の硫化モリブデン粉体の比表面積をBET法により測定したところ、38.9m2/gであった。
【0199】
比較例1の硫化モリブデン粉体の前記比(I/II)を求めたところ、1.362であった。
【0200】
比較例1の硫化モリブデン粉体の粒度分布を、動的光散乱式粒子径分布測定装置により計測し、メディアン径D50を求めたところ、797nmであった。
【0201】
比較例1の硫化モリブデン粉体のTEM像を
図8に示す。
【0202】
<<金属ドープ硫化モリブデン粉体の製造(製造方法(3))>>
[実施例2]
<コバルトドープ硫化モリブデン粉体の製造>
実施例1で得られた三酸化モリブデン粉体5gと、イオン交換水195gを用いて、濃度が2.5質量%の三酸化モリブデン粉体の水分散体を得た。
塩化コバルト六水和物(関東化学社製)0.18gと、イオン交換水9.82gを用いて、濃度が1質量%の塩化コバルト水溶液を得た。
上記で得られた三酸化モリブデン粉体の水分散体20gと、塩化コバルト水溶液0.9gと、イオン交換水19.1gと、硫黄粉末(関東化学株式会社製)0.8gと、を混合し、常温下で3時間撹拌することにより、原料混合物(2)を得た。得られた原料混合物(2)において、硫黄粉末の配合量は、三酸化モリブデン粉体の配合量に対して7倍モル量であり、塩化コバルト六水和物の配合量は、三酸化モリブデン粉体の配合量に対して2モル%であり、水の配合量は、前記三酸化モリブデン粉体の配合量に対して、80質量倍であった。
【0203】
上記で得られた原料混合物(2)から、フリーズドライにより水を除去し、固形物(2)を得た。
次いで、磁性坩堝中で、流量300mL/minの窒素気流下で、得られた固形物(2)を400℃で4時間加熱(焼成)することにより、粉末(コバルトドープ硫化モリブデン粉体)を得た。
【0204】
実施例2のこの粉末のX線回折(XRD)パターンを確認したところ、ここでも、二硫化モリブデン(MoS2)に帰属されるピークのみが検出され、二硫化モリブデン(MoS2)に帰属されないピークが見られなかった。すなわち、副生成物である二酸化モリブデン(MoO2)などの反応中間体ピークが観察されず、上記で得られた金属ドープ硫化モリブデン粉体は、MoS2への転化率RCが99%以上であり、硫黄との反応が速やかに進んだことが確認できた。
実施例2の金属ドープ硫化モリブデン粉体をX線回折(XRD)により結晶構造解析したところ、2H結晶構造及び3R結晶構造が含まれていることを確認した。
【0205】
さらに、このX線回折(XRD)パターンのうち、2θ/degreeが14付近の領域を拡大したものを、後述する他の実施例の金属ドープ硫化モリブデン粉体のものと、後述する比較例2の硫化モリブデン粉体のものと共に、
図9に示す。ただし、
図9においては、各スペクトルの最大のピーク強度を100とする規格化を行っている。
図9から、実施例2の金属ドープ硫化モリブデン粉体(コバルトドープ硫化モリブデン粉体)のピークは、比較例2の硫化モリブデン粉体のピークよりも、低角側へシフトしており、実施例2の金属ドープ硫化モリブデン粉体では、比較例2の硫化モリブデン粉体よりも、結晶での層間距離が伸びていることが示唆された。
【0206】
実施例2の金属ドープ硫化モリブデン粉体(コバルトドープ硫化モリブデン粉体)の金属ドープ量(コバルトドープ量)を、XRF分析により求めたところ、0.77モル%であった。
【0207】
実施例2の金属ドープ硫化モリブデン粉体の比表面積をBET法により測定したところ、35.6m2/gであった。
【0208】
実施例2の金属ドープ硫化モリブデン粉体の前記比(I/II)を求めたところ、1.704であった。
【0209】
実施例2の金属ドープ硫化モリブデン粉体の粒度分布を、動的光散乱式粒子径分布測定装置により計測し、メディアン径D50を求めたところ、810nmであった。
【0210】
実施例2の金属ドープ硫化モリブデン粉体のTEM像を
図10に示す。
【0211】
実施例2の金属ドープ硫化モリブデン粉体のSEM像を
図11に示す。
図11から、実施例2の金属ドープ硫化モリブデン粉体には、大きさが数μm程度の粒子の凝集物が観測された。
【0212】
実施例2の金属ドープ硫化モリブデン粉体のEDS像を
図12に示す。
図12から、実施例2の金属ドープ硫化モリブデン粉体においては、モリブデン(
図12中、「Mo-L」で表示)、硫黄(
図12中、「S-K」で表示)と共に、コバルト(
図12中、「Co-K」で表示)も万遍なく均一に分布していることを確認できた。
【0213】
上述のX線回折パターン、EDS像をはじめとする各種分析結果から、目的とする金属ドープ硫化モリブデン粉体が確かに得られたことを確認できた。
【0214】
[実施例3]
<パラジウムドープ硫化モリブデン粉体の製造>
実施例1で得られた三酸化モリブデン粉体5gと、イオン交換水195gを用いて、濃度が2.5質量%の三酸化モリブデン粉体の水分散体を得た。
塩化パラジウム(関東化学社製)0.1gと、イオン交換水9.9gを用いて、濃度が1質量%の塩化パラジウム水溶液を得た。
上記で得られた三酸化モリブデン粉体の水分散体20gと、塩化パラジウム水溶液1.3gと、イオン交換水18.7gと、硫黄粉末(関東化学株式会社製)0.8gと、を混合し、常温下で3時間撹拌することにより、原料混合物(2)を得た。得られた原料混合物(2)において、硫黄粉末の配合量は、三酸化モリブデン粉体の配合量に対して7倍モル量であり、塩化パラジウムの配合量は、三酸化モリブデン粉体の配合量に対して2モル%であり、水の配合量は、前記三酸化モリブデン粉体の配合量に対して、80質量倍であった。
【0215】
上記で得られた原料混合物(2)を用いた点以外は、実施例2の場合と同じ方法で、粉末(パラジウムドープ硫化モリブデン粉体)を得た。
【0216】
実施例3のこの粉末のX線回折(XRD)パターンは、実施例2の粉末(コバルトドープ硫化モリブデン粉体)のX線回折パターンと、同様であった。
実施例3のX線回折(XRD)パターンでも、二硫化モリブデン(MoS2)に帰属されるピークのみが検出され、二硫化モリブデン(MoS2)に帰属されないピークが見られなかった。すなわち、副生成物である二酸化モリブデン(MoO2)などの反応中間体ピークが観察されず、上記で得られた金属ドープ硫化モリブデン粉体は、MoS2への転化率RCが99%以上であり、硫黄との反応が速やかに進んだことが確認できた。
実施例3の金属ドープ硫化モリブデン粉体をX線回折(XRD)により結晶構造解析したところ、2H結晶構造及び3R結晶構造が含まれていることを確認した。
【0217】
X線回折(XRD)パターンのうち、2θ/degreeが14付近の領域を拡大したものを、他の実施例の金属ドープ硫化モリブデン粉体のものと、後述する比較例2の硫化モリブデン粉体のものと共に、
図9に示す。
図9から、実施例3の金属ドープ硫化モリブデン粉体(パラジウムドープ硫化モリブデン粉体)のピークは、比較例2の硫化モリブデン粉体のピークよりも、高角側へシフトしており、実施例3の金属ドープ硫化モリブデン粉体では、比較例2の硫化モリブデン粉体よりも、結晶での層間距離が縮んでいることが示唆された。
【0218】
実施例3の金属ドープ硫化モリブデン粉体(パラジウムドープ硫化モリブデン粉体)の金属ドープ量(パラジウムドープ量)を、XRF分析により求めたところ、2.07モル%であった。
【0219】
実施例3の金属ドープ硫化モリブデン粉体の比表面積をBET法により測定したところ、42.3m2/gであった。
【0220】
実施例3の金属ドープ硫化モリブデン粉体の前記比(I/II)を求めたところ、1.720であった。
【0221】
実施例3の金属ドープ硫化モリブデン粉体の粒度分布を、動的光散乱式粒子径分布測定装置により計測し、メディアン径D50を求めたところ、703nmであった。
【0222】
実施例3の金属ドープ硫化モリブデン粉体のTEM像を
図13に示す。
【0223】
実施例3の金属ドープ硫化モリブデン粉体のSEM像を
図14に示す。
図14から、実施例3の金属ドープ硫化モリブデン粉体には、大きさが数μm程度の粒子の凝集物が観測された。
【0224】
実施例3の金属ドープ硫化モリブデン粉体のEDS像を
図15に示す。
図15から、実施例3の金属ドープ硫化モリブデン粉体においては、モリブデン(
図15中、「Mo-L」で表示)、硫黄(
図15中、「S-K」で表示)と共に、パラジウム(
図15中、「Pd-L」で表示)も万遍なく均一に分布していることを確認できた。
【0225】
上述のX線回折パターン、EDS像をはじめとする各種分析結果から、目的とする金属ドープ硫化モリブデン粉体が確かに得られたことを確認できた。
【0226】
[実施例4]
<イリジウムドープ硫化モリブデン粉体の製造>
実施例1で得られた三酸化モリブデン粉体5gと、イオン交換水195gを用いて、濃度が2.5質量%の三酸化モリブデン粉体の水分散体を得た。
塩化イリジウム(関東化学社製)0.1gと、イオン交換水9.9gを用いて、濃度が1質量%の塩化イリジウム水溶液を得た。
上記で得られた三酸化モリブデン粉体の水分散体20gと、塩化イリジウム水溶液2.1mgと、イオン交換水17.9gと、硫黄粉末(関東化学株式会社製)0.8gと、を混合し、常温下で3時間撹拌することにより、原料混合物(2)を得た。得られた原料混合物(2)において、硫黄粉末の配合量は、三酸化モリブデン粉体の配合量に対して7倍モル量であり、塩化イリジウムの配合量は、三酸化モリブデン粉体の配合量に対して2モル%であり、水の配合量は、前記三酸化モリブデン粉体の配合量に対して、80質量倍であった。
【0227】
上記で得られた原料混合物(2)を用いた点以外は、実施例2の場合と同じ方法で、粉末(イリジウムドープ硫化モリブデン粉体)を得た。
【0228】
実施例4のこの粉末のX線回折(XRD)パターンは、実施例2の粉末(コバルトドープ硫化モリブデン粉体)のX線回折パターンと、同様であった。
実施例4のX線回折(XRD)パターンでも、二硫化モリブデン(MoS2)に帰属されるピークのみが検出され、二硫化モリブデン(MoS2)に帰属されないピークが見られなかった。すなわち、副生成物である二酸化モリブデン(MoO2)などの反応中間体ピークが観察されず、上記で得られた金属ドープ硫化モリブデン粉体は、MoS2への転化率RCが99%以上であり、硫黄との反応が速やかに進んだことが確認できた。
実施例4の金属ドープ硫化モリブデン粉体をX線回折(XRD)により結晶構造解析したところ、2H結晶構造及び3R結晶構造が含まれていることを確認した。
【0229】
X線回折(XRD)パターンのうち、2θ/degreeが14付近の領域を拡大したものを、他の実施例の金属ドープ硫化モリブデン粉体のものと、後述する比較例2の硫化モリブデン粉体のものと共に、
図9に示す。
図9から、実施例4の金属ドープ硫化モリブデン粉体(イリジウムドープ硫化モリブデン粉体)のピークは、比較例2の硫化モリブデン粉体のピークよりも、低角側へシフトしており、実施例4の金属ドープ硫化モリブデン粉体では、比較例2の硫化モリブデン粉体よりも、結晶での層間距離が縮んでいることが示唆された。
【0230】
実施例4の金属ドープ硫化モリブデン粉体(イリジウムドープ硫化モリブデン粉体)の金属ドープ量(イリジウムドープ量)を、XRF分析により求めたところ、1.13モル%であった。
【0231】
実施例4の金属ドープ硫化モリブデン粉体の比表面積をBET法により測定したところ、29.6m2/gであった。
【0232】
実施例4の金属ドープ硫化モリブデン粉体の前記比(I/II)を求めたところ、1.561であった。
【0233】
実施例4の金属ドープ硫化モリブデン粉体の粒度分布を、動的光散乱式粒子径分布測定装置により計測し、メディアン径D50を求めたところ、1123nmであった。
【0234】
実施例4の金属ドープ硫化モリブデン粉体のTEM像を
図16に示す。
【0235】
実施例4の金属ドープ硫化モリブデン粉体のSEM像を
図17に示す。
図17から、実施例4の金属ドープ硫化モリブデン粉体には、大きさが数μm程度の粒子の凝集物が観測された。
【0236】
実施例4の金属ドープ硫化モリブデン粉体のEDS像を
図18に示す。
図18から、実施例4の金属ドープ硫化モリブデン粉体においては、モリブデン(
図18中、「Mo-L」で表示)、硫黄(
図18中、「S-K」で表示)と共に、イリジウム(
図18中、「Ir-M」で表示)も万遍なく均一に分布していることを確認できた。
【0237】
上述のX線回折パターン、EDS像をはじめとする各種分析結果から、目的とする金属ドープ硫化モリブデン粉体が確かに得られたことを確認できた。
【0238】
<<硫化モリブデン粉体の製造(製造方法(3’))>>
[比較例2]
塩化コバルト水溶液を用いなかった点以外は、実施例2の場合と同じ方法で、硫化モリブデン粉体を製造した。本明細書においては、製造方法(3)において、第3族~第13族金属塩の使用を省略したものを「製造方法(3’)」と称することがある。
【0239】
比較例2のこの粉末のX線回折(XRD)パターンのうち、2θ/degreeが14付近の領域を拡大したものを、他の実施例の金属ドープ硫化モリブデン粉体のものと共に、
図9に示す。
【0240】
比較例2の硫化モリブデン粉体の金属ドープ量(亜鉛ドープ量)を、XRF分析により求めたところ、0.00モル%であった。
【0241】
比較例2の硫化モリブデン粉体の比表面積をBET法により測定したところ、31.7m2/gであった。
【0242】
比較例2の硫化モリブデン粉体の前記比(I/II)を求めたところ、1.734であった。
【0243】
比較例2の硫化モリブデン粉体の粒度分布を、動的光散乱式粒子径分布測定装置により計測し、メディアン径D50を求めたところ、1006nmであった。
【0244】
比較例2の硫化モリブデン粉体のTEM像を
図19に示す。
【0245】
比較例2の硫化モリブデン粉体のSEM像を
図20に示す。
図20から、比較例2の硫化モリブデン粉体には、大きさが数μm程度の粒子の凝集物が観測された。
【0246】
<<金属ドープ硫化モリブデン粉体の製造(製造方法(2))>>
[実施例5]
<コバルトドープ硫化モリブデン粉体の製造>
実施例1で得られた三酸化モリブデン粉体5gと、イオン交換水195gを用いて、濃度が2.5質量%の三酸化モリブデン粉体の水分散体を得た。
塩化コバルト六水和物(関東化学社製)0.18gと、イオン交換水9.82gを用いて、濃度が1質量%の塩化コバルト水溶液を得た。
上記で得られた三酸化モリブデン粉体の水分散体20gと、塩化コバルト水溶液0.9gと、イオン交換水19.1gと、を混合し、常温下で3時間撹拌することにより、原料混合物(1)を得た。得られた原料混合物(1)において、塩化コバルト六水和物の配合量は、三酸化モリブデン粉体の配合量に対して2モル%であり、水の配合量は、前記三酸化モリブデン粉体の配合量に対して、80質量倍であった。
【0247】
上記で得られた原料混合物(1)を150℃で2時間加熱することにより、原料混合物(1)から水を除去し、固形物(1)を得た。
【0248】
次いで、固形物(1)と、硫黄粉末(関東化学株式会社製)0.8gとを混合した。この混合物において、硫黄粉末の配合量は、三酸化モリブデン粉体の配合量(固形物(1)中の三酸化モリブデン粉体の量)に対して7倍モル量であった。
次いで、磁性坩堝中で、流量300mL/minの窒素気流下で、得られた前記混合物を400℃で4時間加熱(焼成)することにより、粉末(コバルトドープ硫化モリブデン粉体)を得た。
【0249】
実施例5のこの粉末のX線回折(XRD)パターンを確認したところ、ここでも、二硫化モリブデン(MoS2)に帰属されるピークのみが検出され、二硫化モリブデン(MoS2)に帰属されないピークが見られなかった。すなわち、副生成物である二酸化モリブデン(MoO2)などの反応中間体ピークが観察されず、上記で得られた金属ドープ硫化モリブデン粉体は、MoS2への転化率RCが99%以上であり、硫黄との反応が速やかに進んだことが確認できた。
実施例5の金属ドープ硫化モリブデン粉体をX線回折(XRD)により結晶構造解析したところ、2H結晶構造及び3R結晶構造が含まれていることを確認した。
【0250】
さらに、このX線回折(XRD)パターンのうち、2θ/degreeが14付近の領域を拡大したものを、後述する他の実施例の金属ドープ硫化モリブデン粉体のものと、後述する比較例3の硫化モリブデン粉体のものと共に、
図21に示す。ただし、
図21においては、各スペクトルの最大のピーク強度を100とする規格化を行っている。
図21から、実施例5の金属ドープ硫化モリブデン粉体(コバルトドープ硫化モリブデン粉体)のピークは、比較例3の硫化モリブデン粉体のピークよりも、低角側へシフトしており、実施例5の金属ドープ硫化モリブデン粉体では、比較例3の硫化モリブデン粉体よりも、結晶での層間距離が伸びていることが示唆された。
【0251】
実施例5の金属ドープ硫化モリブデン粉体(コバルトドープ硫化モリブデン粉体)の金属ドープ量(コバルトドープ量)を、XRF分析により求めたところ、0.77モル%であった。
【0252】
実施例5の金属ドープ硫化モリブデン粉体の比表面積をBET法により測定したところ、53.2m2/gであった。
【0253】
実施例5の金属ドープ硫化モリブデン粉体の前記比(I/II)を求めたところ、1.807であった。
【0254】
実施例5の金属ドープ硫化モリブデン粉体の粒度分布を、動的光散乱式粒子径分布測定装置により計測し、メディアン径D50を求めたところ、569nmであった。
【0255】
実施例5の金属ドープ硫化モリブデン粉体のTEM像を
図22に示す。
【0256】
実施例5の金属ドープ硫化モリブデン粉体のSEM像を
図23に示す。
図23から、実施例5の金属ドープ硫化モリブデン粉体には、大きさが数μm程度の粒子の凝集物が観測された。
【0257】
上述のX線回折パターンをはじめとする各種分析結果から、目的とする金属ドープ硫化モリブデン粉体が確かに得られたことを確認できた。
【0258】
[実施例6]
<パラジウムドープ硫化モリブデン粉体の製造>
原料混合物(2)の調製時において、硫黄粉末を用いなかった点以外は、実施例3の場合と同じ方法で、原料混合物(1)を得た。得られた原料混合物(1)において、塩化パラジウムの配合量は、三酸化モリブデン粉体の配合量に対して2モル%であり、水の配合量は、前記三酸化モリブデン粉体の配合量に対して、80質量倍であった。
【0259】
上記で得られた原料混合物(1)を用いた点以外は、実施例5の場合と同じ方法で、粉末(パラジウムドープ硫化モリブデン粉体)を得た。
【0260】
実施例6のこの粉末のX線回折(XRD)パターンは、実施例2の粉末(コバルトドープ硫化モリブデン粉体)のX線回折パターンと、同様であった。
実施例6のX線回折(XRD)パターンでも、二硫化モリブデン(MoS2)に帰属されるピークのみが検出され、二硫化モリブデン(MoS2)に帰属されないピークが見られなかった。すなわち、副生成物である二酸化モリブデン(MoO2)などの反応中間体ピークが観察されず、上記で得られた金属ドープ硫化モリブデン粉体は、MoS2への転化率RCが99%以上であり、硫黄との反応が速やかに進んだことが確認できた。
実施例6の金属ドープ硫化モリブデン粉体をX線回折(XRD)により結晶構造解析したところ、2H結晶構造及び3R結晶構造が含まれていることを確認した。
【0261】
X線回折(XRD)パターンのうち、2θ/degreeが14付近の領域を拡大したものを、他の実施例の金属ドープ硫化モリブデン粉体のものと、後述する比較例3の硫化モリブデン粉体のものと共に、
図21に示す。
図21から、実施例6の金属ドープ硫化モリブデン粉体(パラジウムドープ硫化モリブデン粉体)のピークは、比較例3の硫化モリブデン粉体のピークよりも、高角側へシフトしており、実施例6の金属ドープ硫化モリブデン粉体では、比較例3の硫化モリブデン粉体よりも、結晶での層間距離が縮んでいることが示唆された。
【0262】
実施例6の金属ドープ硫化モリブデン粉体(パラジウムドープ硫化モリブデン粉体)の金属ドープ量(パラジウムドープ量)を、XRF分析により求めたところ、2.07モル%であった。
【0263】
実施例6の金属ドープ硫化モリブデン粉体の比表面積をBET法により測定したところ、51.7m2/gであった。
【0264】
実施例6の金属ドープ硫化モリブデン粉体の前記比(I/II)を求めたところ、1.685であった。
【0265】
実施例6の金属ドープ硫化モリブデン粉体の粒度分布を、動的光散乱式粒子径分布測定装置により計測し、メディアン径D50を求めたところ、606nmであった。
【0266】
実施例6の金属ドープ硫化モリブデン粉体のTEM像を
図24に示す。
【0267】
実施例6の金属ドープ硫化モリブデン粉体のSEM像を
図25に示す。
図25から、実施例6の金属ドープ硫化モリブデン粉体には、大きさが数μm程度の粒子の凝集物が観測された。
【0268】
上述のX線回折パターンをはじめとする各種分析結果から、目的とする金属ドープ硫化モリブデン粉体が確かに得られたことを確認できた。
【0269】
[実施例7]
<イリジウムドープ硫化モリブデン粉体の製造>
原料混合物(2)の調製時において、硫黄粉末を用いなかった点以外は、実施例4の場合と同じ方法で、原料混合物(1)を得た。得られた原料混合物(1)において、塩化イリジウムの配合量は、三酸化モリブデン粉体の配合量に対して2モル%であり、水の配合量は、前記三酸化モリブデン粉体の配合量に対して、80質量倍であった。
【0270】
上記で得られた原料混合物(1)を用いた点以外は、実施例5の場合と同じ方法で、粉末(イリジウムドープ硫化モリブデン粉体)を得た。
【0271】
実施例7のこの粉末のX線回折(XRD)パターンは、実施例2の粉末(コバルトドープ硫化モリブデン粉体)のX線回折パターンと、同様であった。
実施例7のX線回折(XRD)パターンでも、二硫化モリブデン(MoS2)に帰属されるピークのみが検出され、二硫化モリブデン(MoS2)に帰属されないピークが見られなかった。すなわち、副生成物である二酸化モリブデン(MoO2)などの反応中間体ピークが観察されず、上記で得られた金属ドープ硫化モリブデン粉体は、MoS2への転化率RCが99%以上であり、硫黄との反応が速やかに進んだことが確認できた。
実施例7の金属ドープ硫化モリブデン粉体をX線回折(XRD)により結晶構造解析したところ、2H結晶構造及び3R結晶構造が含まれていることを確認した。
【0272】
X線回折(XRD)パターンのうち、2θ/degreeが14付近の領域を拡大したものを、他の実施例の金属ドープ硫化モリブデン粉体のものと、後述する比較例3の硫化モリブデン粉体のものと共に、
図21に示す。
図21から、実施例7の金属ドープ硫化モリブデン粉体(イリジウムドープ硫化モリブデン粉体)のピークは、比較例3の硫化モリブデン粉体のピークよりも、低角側へシフトしており、実施例7の金属ドープ硫化モリブデン粉体では、比較例3の硫化モリブデン粉体よりも、結晶での層間距離が伸びていることが示唆された。
【0273】
実施例7の金属ドープ硫化モリブデン粉体(イリジウムドープ硫化モリブデン粉体)の金属ドープ量(イリジウムドープ量)を、XRF分析により求めたところ、1.13モル%であった。
【0274】
実施例7の金属ドープ硫化モリブデン粉体の比表面積をBET法により測定したところ、49.7m2/gであった。
【0275】
実施例7の金属ドープ硫化モリブデン粉体の前記比(I/II)を求めたところ、1.643であった。
【0276】
実施例7の金属ドープ硫化モリブデン粉体の粒度分布を、動的光散乱式粒子径分布測定装置により計測し、メディアン径D50を求めたところ、661nmであった。
【0277】
実施例7の金属ドープ硫化モリブデン粉体のTEM像を
図26に示す。
【0278】
実施例7の金属ドープ硫化モリブデン粉体のSEM像を
図27に示す。
図27から、実施例7の金属ドープ硫化モリブデン粉体には、大きさが数μm程度の粒子の凝集物が観測された。
【0279】
上述のX線回折パターンをはじめとする各種分析結果から、目的とする金属ドープ硫化モリブデン粉体が確かに得られたことを確認できた。
【0280】
<<硫化モリブデン粉体の製造(製造方法(2’))>>
[比較例3]
塩化コバルト水溶液を用いなかった点以外は、実施例5の場合と同じ方法で、硫化モリブデン粉体を製造した。本明細書においては、製造方法(2)において、第3族~第13族金属塩の使用を省略したものを「製造方法(2’)」と称することがある。
【0281】
比較例3のこの粉末のX線回折(XRD)パターンのうち、2θ/degreeが14付近の領域を拡大したものを、他の実施例の金属ドープ硫化モリブデン粉体のものと共に、
図21に示す。
【0282】
比較例3の硫化モリブデン粉体の金属ドープ量(亜鉛ドープ量)を、XRF分析により求めたところ、0.00モル%であった。
【0283】
比較例3の硫化モリブデン粉体の比表面積をBET法により測定したところ、46.1m2/gであった。
【0284】
比較例3の硫化モリブデン粉体の前記比(I/II)を求めたところ、1.640であった。
【0285】
比較例3の硫化モリブデン粉体の粒度分布を、動的光散乱式粒子径分布測定装置により計測し、メディアン径D50を求めたところ、707nmであった。
【0286】
比較例3の硫化モリブデン粉体のTEM像を
図28に示す。
【0287】
比較例3の硫化モリブデン粉体のSEM像を
図29に示す。
図29から、比較例3の硫化モリブデン粉体には、大きさが数μm程度の粒子の凝集物が観測された。
【0288】
<<金属ドープ硫化モリブデン粉体の製造(製造方法(3))>>
[実施例8]
<マンガンドープ硫化モリブデン粉体の製造>
実施例1で得られた三酸化モリブデン粉体5gと、イオン交換水195gを用いて、濃度が2.5質量%の三酸化モリブデン粉体の水分散体を得た。
塩化マンガン四水和物(関東化学社製)0.16gと、イオン交換水9.84gを用いて、濃度が1質量%の塩化マンガン水溶液を得た。
上記で得られた三酸化モリブデン粉体の水分散体20gと、塩化マンガン水溶液0.9gと、イオン交換水19.1gと、硫黄粉末(関東化学株式会社製)0.8gと、を混合し、常温下で3時間撹拌することにより、原料混合物(2)を得た。得られた原料混合物(2)において、硫黄粉末の配合量は、三酸化モリブデン粉体の配合量に対して7倍モル量であり、塩化マンガン四水和物の配合量は、三酸化モリブデン粉体の配合量に対して2モル%であり、水の配合量は、前記三酸化モリブデン粉体の配合量に対して、80質量倍であった。
【0289】
上記で得られた原料混合物(2)を用いた点以外は、実施例2の場合と同じ方法で、粉末(マンガンドープ硫化モリブデン粉体)を得た。
【0290】
実施例8のこの粉末のX線回折(XRD)パターンは、実施例2の粉末(コバルトドープ硫化モリブデン粉体)のX線回折パターンと、同様であった。
実施例8のX線回折(XRD)パターンでも、二硫化モリブデン(MoS2)に帰属されるピークのみが検出され、二硫化モリブデン(MoS2)に帰属されないピークが見られなかった。すなわち、副生成物である二酸化モリブデン(MoO2)などの反応中間体ピークが観察されず、上記で得られた金属ドープ硫化モリブデン粉体は、MoS2への転化率RCが99%以上であり、硫黄との反応が速やかに進んだことが確認できた。
実施例8の金属ドープ硫化モリブデン粉体をX線回折(XRD)により結晶構造解析したところ、2H結晶構造及び3R結晶構造が含まれていることを確認した。
【0291】
実施例8の金属ドープ硫化モリブデン粉体(マンガンドープ硫化モリブデン粉体)の金属ドープ量(マンガンドープ量)を、XRF分析により求めたところ、1.23モル%であった。
実施例8の金属ドープ硫化モリブデン粉体の比表面積をBET法により測定したところ、39.7m2/gであった。
実施例8の金属ドープ硫化モリブデン粉体の前記比(I/II)を求めたところ、1.572であった。
実施例8の金属ドープ硫化モリブデン粉体の粒度分布を、動的光散乱式粒子径分布測定装置により計測し、メディアン径D50を求めたところ、776nmであった。
【0292】
上述の各種分析結果は、目的とする金属ドープ硫化モリブデン粉体が確かに得られたことを示していた。
【0293】
[実施例9]
<鉄ドープ硫化モリブデン粉体の製造>
実施例1で得られた三酸化モリブデン粉体5gと、イオン交換水195gを用いて、濃度が2.5質量%の三酸化モリブデン粉体の水分散体を得た。
塩化鉄(III)六水和物(関東化学社製)0.16gとイオン交換水9.84gを用いて、濃度が1質量%の塩化鉄水溶液を得た。
上記で得られた三酸化モリブデン粉体の水分散体20gと、塩化鉄水溶液1.1gと、イオン交換水18.9gと、硫黄粉末(関東化学株式会社製)0.8gと、を混合し、常温下で3時間撹拌することにより、原料混合物(2)を得た。得られた原料混合物(2)において、硫黄粉末の配合量は、三酸化モリブデン粉体の配合量に対して7倍モル量であり、塩化鉄(III)六水和物の配合量は、三酸化モリブデン粉体の配合量に対して2モル%であり、水の配合量は、前記三酸化モリブデン粉体の配合量に対して、80質量倍であった。
【0294】
上記で得られた原料混合物(2)を用いた点以外は、実施例8の場合と同じ方法で、粉末(鉄ドープ硫化モリブデン粉体)を得た。
【0295】
実施例9のこの粉末のX線回折(XRD)パターンは、実施例2の粉末(コバルトドープ硫化モリブデン粉体)のX線回折パターンと、同様であった。
実施例9のX線回折(XRD)パターンでも、二硫化モリブデン(MoS2)に帰属されるピークのみが検出され、二硫化モリブデン(MoS2)に帰属されないピークが見られなかった。すなわち、副生成物である二酸化モリブデン(MoO2)などの反応中間体ピークが観察されず、上記で得られた金属ドープ硫化モリブデン粉体は、MoS2への転化率RCが99%以上であり、硫黄との反応が速やかに進んだことが確認できた。
実施例9の金属ドープ硫化モリブデン粉体をX線回折(XRD)により結晶構造解析したところ、2H結晶構造及び3R結晶構造が含まれていることを確認した。
【0296】
実施例9の金属ドープ硫化モリブデン粉体(鉄ドープ硫化モリブデン粉体)の金属ドープ量(鉄ドープ量)を、XRF分析により求めたところ、0.72モル%であった。
実施例9の金属ドープ硫化モリブデン粉体の比表面積をBET法により測定したところ、41.2m2/gであった。
実施例9の金属ドープ硫化モリブデン粉体の前記比(I/II)を求めたところ、1.597であった。
実施例9の金属ドープ硫化モリブデン粉体の粒度分布を、動的光散乱式粒子径分布測定装置により計測し、メディアン径D50を求めたところ、711nmであった。
【0297】
上述の各種分析結果は、目的とする金属ドープ硫化モリブデン粉体が確かに得られたことを示していた。
【0298】
[実施例10]
<ニッケルドープ硫化モリブデン粉体の製造>
実施例1で得られた三酸化モリブデン粉体5gと、イオン交換水195gを用いて、濃度が2.5質量%の三酸化モリブデン粉体の水分散体を得た。
塩化ニッケル六水和物(関東化学社製)0.18gと、イオン交換水9.82gを用いて、濃度が1質量%の塩化ニッケル水溶液を得た。
上記で得られた三酸化モリブデン粉体の水分散体20gと、塩化ニッケル水溶液0.9gと、イオン交換水19.1gと、硫黄粉末(関東化学株式会社製)0.8gと、を混合し、常温下で3時間撹拌することにより、原料混合物(2)を得た。得られた原料混合物(2)において、硫黄粉末の配合量は、三酸化モリブデン粉体の配合量に対して7倍モル量であり、塩化ニッケル六水和物の配合量は、三酸化モリブデン粉体の配合量に対して2モル%であり、水の配合量は、前記三酸化モリブデン粉体の配合量に対して、80質量倍であった。
【0299】
上記で得られた原料混合物(2)を用いた点以外は、実施例8の場合と同じ方法で、粉末(ニッケルドープ硫化モリブデン粉体)を得た。
【0300】
実施例10のこの粉末のX線回折(XRD)パターンは、実施例2の粉末(コバルトドープ硫化モリブデン粉体)のX線回折パターンと、同様であった。
実施例10のX線回折(XRD)パターンでも、二硫化モリブデン(MoS2)に帰属されるピークのみが検出され、二硫化モリブデン(MoS2)に帰属されないピークが見られなかった。すなわち、副生成物である二酸化モリブデン(MoO2)などの反応中間体ピークが観察されず、上記で得られた金属ドープ硫化モリブデン粉体は、MoS2への転化率RCが99%以上であり、硫黄との反応が速やかに進んだことが確認できた。
実施例10の金属ドープ硫化モリブデン粉体をX線回折(XRD)により結晶構造解析したところ、2H結晶構造及び3R結晶構造が含まれていることを確認した。
【0301】
実施例10の金属ドープ硫化モリブデン粉体(ニッケルドープ硫化モリブデン粉体)の金属ドープ量(ニッケルドープ量)を、XRF分析により求めたところ、1.65モル%であった。
実施例10の金属ドープ硫化モリブデン粉体の比表面積をBET法により測定したところ、50.3m2/gであった。
実施例10の金属ドープ硫化モリブデン粉体の前記比(I/II)を求めたところ、1.672であった。
実施例10の金属ドープ硫化モリブデン粉体の粒度分布を、動的光散乱式粒子径分布測定装置により計測し、メディアン径D50を求めたところ、616nmであった。
【0302】
上述の各種分析結果は、目的とする金属ドープ硫化モリブデン粉体が確かに得られたことを示していた。
【0303】
[実施例11]
<ジルコニウムドープ硫化モリブデン粉体の製造>
実施例1で得られた三酸化モリブデン粉体5gと、イオン交換水195gを用いて、濃度が2.5質量%の三酸化モリブデン粉体の水分散体を得た。
オキシ硝酸ジルコニウム二水和物(関東化学社製)0.11gと、イオン交換水9.89gを用いて、濃度が1質量%のオキシ硝酸ジルコニウム水溶液を得た。
上記で得られた三酸化モリブデン粉体の水分散体20gと、オキシ硝酸ジルコニウム水溶液1.6gと、イオン交換水18.4gと、硫黄粉末(関東化学株式会社製)0.8gと、を混合し、常温下で3時間撹拌することにより、原料混合物(2)を得た。得られた原料混合物(2)において、硫黄粉末の配合量は、三酸化モリブデン粉体の配合量に対して7倍モル量であり、オキシ硝酸ジルコニウム二水和物の配合量は、三酸化モリブデン粉体の配合量に対して2モル%であり、水の配合量は、前記三酸化モリブデン粉体の配合量に対して、80質量倍であった。
【0304】
上記で得られた原料混合物(2)を用いた点以外は、実施例8の場合と同じ方法で、粉末(ジルコニウムドープ硫化モリブデン粉体)を得た。
【0305】
実施例11のこの粉末のX線回折(XRD)パターンは、実施例2の粉末(コバルトドープ硫化モリブデン粉体)のX線回折パターンと、同様であった。
実施例11のX線回折(XRD)パターンでも、二硫化モリブデン(MoS2)に帰属されるピークのみが検出され、二硫化モリブデン(MoS2)に帰属されないピークが見られなかった。すなわち、副生成物である二酸化モリブデン(MoO2)などの反応中間体ピークが観察されず、上記で得られた金属ドープ硫化モリブデン粉体は、MoS2への転化率RCが99%以上であり、硫黄との反応が速やかに進んだことが確認できた。
実施例11の金属ドープ硫化モリブデン粉体をX線回折(XRD)により結晶構造解析したところ、2H結晶構造及び3R結晶構造が含まれていることを確認した。
【0306】
実施例11の金属ドープ硫化モリブデン粉体(ジルコニウムドープ硫化モリブデン粉体)の金属ドープ量(ジルコニウムドープ量)を、XRF分析により求めたところ、2.09モル%であった。
実施例11の金属ドープ硫化モリブデン粉体の比表面積をBET法により測定したところ、46.2m2/gであった。
実施例11の金属ドープ硫化モリブデン粉体の前記比(I/II)を求めたところ、1.604であった。
実施例11の金属ドープ硫化モリブデン粉体の粒度分布を、動的光散乱式粒子径分布測定装置により計測し、メディアン径D50を求めたところ、723nmであった。
【0307】
上述の各種分析結果は、目的とする金属ドープ硫化モリブデン粉体が確かに得られたことを示していた。
【0308】
[実施例12]
<ルテニウムドープ硫化モリブデン粉体の製造>
実施例1で得られた三酸化モリブデン粉体5gと、イオン交換水195gを用いて、濃度が2.5質量%の三酸化モリブデン粉体の水分散体を得た。
塩化ルテニウム(関東化学社製)0.10gと、イオン交換水9.90gを用いて、濃度が1質量%の塩化ルテニウム水溶液を得た。
上記で得られた三酸化モリブデン粉体の水分散体20gと、塩化ルテニウム水溶液1.4gと、イオン交換水18.6gと、硫黄粉末(関東化学株式会社製)0.8gと、を混合し、常温下で3時間撹拌することにより、原料混合物(2)を得た。得られた原料混合物(2)において、硫黄粉末の配合量は、三酸化モリブデン粉体の配合量に対して7倍モル量であり、塩化ルテニウムの配合量は、三酸化モリブデン粉体の配合量に対して2モル%であり、水の配合量は、前記三酸化モリブデン粉体の配合量に対して、80質量倍であった。
【0309】
上記で得られた原料混合物(2)を用いた点以外は、実施例8の場合と同じ方法で、粉末(ルテニウムドープ硫化モリブデン粉体)を得た。
【0310】
実施例12のこの粉末のX線回折(XRD)パターンは、実施例2の粉末(コバルトドープ硫化モリブデン粉体)のX線回折パターンと、同様であった。
実施例12のX線回折(XRD)パターンでも、二硫化モリブデン(MoS2)に帰属されるピークのみが検出され、二硫化モリブデン(MoS2)に帰属されないピークが見られなかった。すなわち、副生成物である二酸化モリブデン(MoO2)などの反応中間体ピークが観察されず、上記で得られた金属ドープ硫化モリブデン粉体は、MoS2への転化率RCが99%以上であり、硫黄との反応が速やかに進んだことが確認できた。
実施例12の金属ドープ硫化モリブデン粉体をX線回折(XRD)により結晶構造解析したところ、2H結晶構造及び3R結晶構造が含まれていることを確認した。
【0311】
実施例12の金属ドープ硫化モリブデン粉体(ルテニウムドープ硫化モリブデン粉体)の金属ドープ量(ルテニウムドープ量)を、XRF分析により求めたところ、2.95モル%であった。
実施例12の金属ドープ硫化モリブデン粉体の比表面積をBET法により測定したところ、38.8m2/gであった。
実施例12の金属ドープ硫化モリブデン粉体の前記比(I/II)を求めたところ、1.536であった。
実施例12の金属ドープ硫化モリブデン粉体の粒度分布を、動的光散乱式粒子径分布測定装置により計測し、メディアン径D50を求めたところ、779nmであった。
【0312】
上述の各種分析結果は、目的とする金属ドープ硫化モリブデン粉体が確かに得られたことを示していた。
【0313】
[実施例13]
<インジウムドープ硫化モリブデン粉体の製造>
実施例1で得られた三酸化モリブデン粉体5gと、イオン交換水195gを用いて、濃度が2.5質量%の三酸化モリブデン粉体の水分散体を得た。
硝酸インジウム三水和物(関東化学社製)0.12gと、イオン交換水9.88gを用いて、濃度が1質量%の硝酸インジウム水溶液を得た。
上記で得られた三酸化モリブデン粉体の水分散体20gと、硝酸インジウム水溶液2.1gと、イオン交換水17.9gと、硫黄粉末(関東化学株式会社製)0.8gと、を混合し、常温下で3時間撹拌することにより、原料混合物(2)を得た。得られた原料混合物(2)において、硫黄粉末の配合量は、三酸化モリブデン粉体の配合量に対して7倍モル量であり、硝酸インジウム三水和物の配合量は、三酸化モリブデン粉体の配合量に対して2モル%であり、水の配合量は、前記三酸化モリブデン粉体の配合量に対して、80質量倍であった。
【0314】
上記で得られた原料混合物(2)を用いた点以外は、実施例8の場合と同じ方法で、粉末(インジウムドープ硫化モリブデン粉体)を得た。
【0315】
実施例13のこの粉末のX線回折(XRD)パターンは、実施例2の粉末(コバルトドープ硫化モリブデン粉体)のX線回折パターンと、同様であった。
実施例13のX線回折(XRD)パターンでも、二硫化モリブデン(MoS2)に帰属されるピークのみが検出され、二硫化モリブデン(MoS2)に帰属されないピークが見られなかった。すなわち、副生成物である二酸化モリブデン(MoO2)などの反応中間体ピークが観察されず、上記で得られた金属ドープ硫化モリブデン粉体は、MoS2への転化率RCが99%以上であり、硫黄との反応が速やかに進んだことが確認できた。
実施例13の金属ドープ硫化モリブデン粉体をX線回折(XRD)により結晶構造解析したところ、2H結晶構造及び3R結晶構造が含まれていることを確認した。
【0316】
実施例13の金属ドープ硫化モリブデン粉体(インジウムドープ硫化モリブデン粉体)の金属ドープ量(インジウムドープ量)を、XRF分析により求めたところ、1.00モル%であった。
実施例13の金属ドープ硫化モリブデン粉体の比表面積をBET法により測定したところ、36.7m2/gであった。
実施例13の金属ドープ硫化モリブデン粉体の前記比(I/II)を求めたところ、1.656であった。
実施例13の金属ドープ硫化モリブデン粉体の粒度分布を、動的光散乱式粒子径分布測定装置により計測し、メディアン径D50を求めたところ、823nmであった。
【0317】
上述の各種分析結果は、目的とする金属ドープ硫化モリブデン粉体が確かに得られたことを示していた。
【0318】
<<金属ドープ硫化モリブデン粉体の製造(製造方法(2))>>
[実施例14]
<亜鉛ドープ硫化モリブデン粉体の製造>
実施例1で得られた三酸化モリブデン粉体5gと、イオン交換水195gを用いて、濃度が2.5質量%の三酸化モリブデン粉体の水分散体を得た。
塩化亜鉛(関東化学社製)0.2gと、イオン交換水19.8gを用いて、濃度が1質量%の塩化亜鉛水溶液を得た。
上記で得られた三酸化モリブデン粉体の水分散体73.2gと、塩化亜鉛水溶液5.8gと、を混合し、常温下で3時間撹拌することにより、原料混合物(1)を得た。得られた原料混合物(1)において、塩化亜鉛の配合量は、三酸化モリブデン粉体の配合量に対して2モル%であり、水の配合量は、前記三酸化モリブデン粉体の配合量に対して、40質量倍であった。
【0319】
上記で得られた原料混合物(1)を150℃で2時間加熱することにより、原料混合物(1)から水を除去し、固形物(1)を得た。
【0320】
次いで、固形物(1)と、硫黄粉末(関東化学株式会社製)6.1gとを混合した。この混合物において、硫黄粉末の配合量は、三酸化モリブデン粉体の配合量(固形物(1)中の三酸化モリブデン粉体の量)に対して7倍モル量であった。
次いで、磁性坩堝中で、流量300mL/minの窒素気流下で、得られた前記混合物を400℃で4時間加熱(焼成)することにより、粉末(亜鉛ドープ硫化モリブデン粉体)を得た。
【0321】
実施例14のこの粉末のX線回折(XRD)パターンは、実施例2の粉末(コバルトドープ硫化モリブデン粉体)のX線回折パターンと、同様であった。
実施例14のX線回折(XRD)パターンでも、二硫化モリブデン(MoS2)に帰属されるピークのみが検出され、二硫化モリブデン(MoS2)に帰属されないピークが見られなかった。すなわち、副生成物である二酸化モリブデン(MoO2)などの反応中間体ピークが観察されず、上記で得られた金属ドープ硫化モリブデン粉体は、MoS2への転化率RCが99%以上であり、硫黄との反応が速やかに進んだことが確認できた。
実施例14の金属ドープ硫化モリブデン粉体をX線回折(XRD)により結晶構造解析したところ、2H結晶構造及び3R結晶構造が含まれていることを確認した。
【0322】
実施例14の金属ドープ硫化モリブデン粉体(亜鉛ドープ硫化モリブデン粉体)の金属ドープ量(亜鉛ドープ量)を、XRF分析により求めたところ、1.07モル%であった。
実施例14の金属ドープ硫化モリブデン粉体の比表面積をBET法により測定したところ、51.0m2/gであった。
実施例14の金属ドープ硫化モリブデン粉体の前記比(I/II)を求めたところ、1.611であった。
実施例14の金属ドープ硫化モリブデン粉体の粒度分布を、動的光散乱式粒子径分布測定装置により計測し、メディアン径D50を求めたところ、634nmであった。
【0323】
上述の各種分析結果は、目的とする金属ドープ硫化モリブデン粉体が確かに得られたことを示していた。
【0324】
<<硫化モリブデン粉体の製造(製造方法(2’))>>
[比較例4]
塩化亜鉛水溶液を用いなかった点以外は、実施例14の場合と同じ方法で、硫化モリブデン粉体を製造した。
【0325】
比較例4の硫化モリブデン粉体の金属ドープ量(亜鉛ドープ量)を、XRF分析により求めたところ、0.00モル%であった。
比較例4の硫化モリブデン粉体の比表面積をBET法により測定したところ、45.1m2/gであった。
比較例4の硫化モリブデン粉体の前記比(I/II)を求めたところ、1.756であった。
比較例4の硫化モリブデン粉体の粒度分布を、動的光散乱式粒子径分布測定装置により計測し、メディアン径D50を求めたところ、761nmであった。
【0326】
<<金属ドープ硫化モリブデン粉体の製造(製造方法(3))>>
[実施例15]
<亜鉛ドープ硫化モリブデン粉体の製造>
実施例1で得られた三酸化モリブデン粉体5gと、イオン交換水195gを用いて、濃度が2.5質量%の三酸化モリブデン粉体の水分散体を得た。
塩化亜鉛(関東化学社製)0.2gと、イオン交換水19.8gを用いて、濃度が1質量%の塩化亜鉛水溶液を得た。
上記で得られた三酸化モリブデン粉体の水分散体73.2gと、塩化亜鉛水溶液5.8gと、硫黄粉末(関東化学株式会社製)6.1gと、を混合し、常温下で3時間撹拌することにより、原料混合物(2)を得た。得られた原料混合物(2)において、硫黄粉末の配合量は、三酸化モリブデン粉体の配合量に対して7倍モル量であり、塩化亜鉛の配合量は、三酸化モリブデン粉体の配合量に対して2モル%であり、水の配合量は、前記三酸化モリブデン粉体の配合量に対して、40質量倍であった。
【0327】
上記で得られた原料混合物(2)を用いた点以外は、実施例2の場合と同じ方法で、粉末(亜鉛ドープ硫化モリブデン粉体)を得た。
【0328】
実施例15のこの粉末のX線回折(XRD)パターンは、実施例2の粉末(コバルトドープ硫化モリブデン粉体)のX線回折パターンと、同様であった。
実施例15のX線回折(XRD)パターンでも、二硫化モリブデン(MoS2)に帰属されるピークのみが検出され、二硫化モリブデン(MoS2)に帰属されないピークが見られなかった。すなわち、副生成物である二酸化モリブデン(MoO2)などの反応中間体ピークが観察されず、上記で得られた金属ドープ硫化モリブデン粉体は、MoS2への転化率RCが99%以上であり、硫黄との反応が速やかに進んだことが確認できた。
実施例15の金属ドープ硫化モリブデン粉体をX線回折(XRD)により結晶構造解析したところ、2H結晶構造及び3R結晶構造が含まれていることを確認した。
【0329】
実施例15の金属ドープ硫化モリブデン粉体(亜鉛ドープ硫化モリブデン粉体)の金属ドープ量(亜鉛ドープ量)を、XRF分析により求めたところ、1.07モル%であった。
実施例15の金属ドープ硫化モリブデン粉体の比表面積をBET法により測定したところ、38.8m2/gであった。
実施例15の金属ドープ硫化モリブデン粉体の前記比(I/II)を求めたところ、1.688であった。
実施例15の金属ドープ硫化モリブデン粉体の粒度分布を、動的光散乱式粒子径分布測定装置により計測し、メディアン径D50を求めたところ、862nmであった。
【0330】
上述の各種分析結果は、目的とする金属ドープ硫化モリブデン粉体が確かに得られたことを示していた。
【0331】
<<硫化モリブデン粉体の製造(製造方法(3’))>>
[比較例5]
塩化亜鉛水溶液を用いなかった点以外は、実施例15の場合と同じ方法で、硫化モリブデン粉体を製造した。
【0332】
比較例5の硫化モリブデン粉体の金属ドープ量(亜鉛ドープ量)を、XRF分析により求めたところ、0.00モル%であった。
比較例5の硫化モリブデン粉体の比表面積をBET法により測定したところ、46.6m2/gであった。
比較例5の硫化モリブデン粉体の前記比(I/II)を求めたところ、1.662であった。
比較例5の硫化モリブデン粉体の粒度分布を、動的光散乱式粒子径分布測定装置により計測し、メディアン径D50を求めたところ、738nmであった。
【0333】
【0334】
[試験例1]
<<水素発生触媒の評価>>
<触媒インクの製造>
5%ナフィオン(登録商標)分散液(富士フイルム和光純薬株式会社製、DE520 CSタイプ)を、超純水:1-プロパノールの質量比が1:1の混合溶媒で希釈し、1wt%ナフィオン(登録商標)を調製した。
100μLの1-ヘキサノール及び4.1μLの1wt%ナフィオン(登録商標)の混合溶液に、実施例2で得られたコバルトドープ硫化モリブデン粉体2.0mgを加えて超音波処理で分散させることにより、触媒インクを調製した。
【0335】
<作用電極の製造>
作用電極用基材としてグラッシーカーボンロッド(東海カーボン社製, φ5mm×10mm)を用い、グラッシーカーボンロッド上に、上記で得られた分散液(触媒インク)を5.0μL塗布して60℃で1時間乾燥させることにより、コバルトドープ硫化モリブデン粉体を含む触媒層(水素発生触媒層)を有する作用電極を作製した。グラッシーカーボンロッド上でのコバルトドープ硫化モリブデンの担持量は、1.0mg/cm2であった。
【0336】
<水素発生触媒の評価>
電気化学測定は、株式会社ミックラボ製の三電極式セル、及び、株式会社東方技研製のポテンショスタットを用いて、電解液には0.1MのH2SO4を用い、30℃の温度で測定した。参照電極には可逆水素電極(RHE)、カウンター電極にはグラッシーカーボンプレートをそれぞれ用いた。前処理として、窒素雰囲気にて、走査速度150mV/s、0.05~0.9Vの範囲で300サイクルのサイクリックボルタンメトリーを行った。
【0337】
その後、酸素雰囲気及び窒素雰囲気のそれぞれにおいて、走査速度5mV/s、0.2~0.9Vの範囲で低速スキャンボルタンメトリーを行った(2H++2e-⇒H2)。
【0338】
酸素雰囲気及び窒素雰囲気の電流密度の差から、水素発生反応(HER)の電流密度(i/mA・cm2)を算出した。過電圧ηが300mVでの電流密度を求めたところ、-6.4mA/cm2であった。また、電流密度が1mA/cm2であるときの過電圧ηは、-170.0mVであった。
【0339】
[試験例2]
<<水素発生触媒の評価>>
<水素発生触媒(硫化モリブデン粉体)の製造>
磁性坩堝中で、実施例1で得られた三酸化モリブデン粉体1.00gと、硫黄粉末(関東化学株式会社製)1.57gとを、粉末が均一になるように攪拌棒にて混合し、窒素雰囲気下、500℃で4時間の焼成を行い、黒色粉末を得た。ここで、前記三酸化モリブデン粉体のMoO
3量100モル%に対して、前記硫黄のS量は705モル%である。この黒色粉末(試験例2の硫化モリブデン粉体)のX線回折(XRD)パターンの結果を、無機結晶構造データベース(ICSD)に記されている二硫化モリブデン(MoS
2)の3R結晶構造の回折パターン、二硫化モリブデン(MoS
2)の2H結晶構造の回折パターン及び二酸化モリブデン(MoO
2)の回折パターンと共に、
図30に示す。二酸化モリブデン(MoO
2)は、反応中間体である。
【0340】
図30のX線回折(XRD)パターンでは、二硫化モリブデン(MoS
2)に帰属されるピークのみが検出され、二硫化モリブデン(MoS
2)に帰属されないピークが見られなかった。すなわち、副生成物である二酸化モリブデン(MoO
2)などの反応中間体ピークが観察されず、二硫化モリブデン(MoS
2)に帰属されるピークのみが観察されたことから、上記で得られた硫化モリブデン粉体は、MoS
2への転化率R
Cが99%以上であり、硫黄との反応が速やかに進んだことが確認できた。
試験例2の硫化モリブデン粉体をX線回折(XRD)により結晶構造解析したところ、2H結晶構造及び3R結晶構造が含まれていることを確認した。39.5°付近のピーク、49.5°付近のピークの半値幅は、それぞれ2.36°、3.71°と広かった。
【0341】
試験例2の硫化モリブデン粉体の比表面積をBET法により測定したところ、70m2/gであった。
【0342】
試験例2の硫化モリブデン粉体の粒度分布を、動的光散乱式粒子径分布測定装置により計測し、メディアン径D50を求めたところ、200nmであった。
【0343】
試験例2の硫化モリブデン粉体のTEM像を
図31に示す。長さが約200nm、幅が約10nmのリボン状又はシート状のモリブデン硫化物が多数含まれていることが観察できた。
【0344】
<触媒インクの製造、作用電極の製造、及び水素発生触媒の評価>
触媒インクの製造時に、コバルトドープ硫化モリブデン粉体2.0mgに加えて、試験例2で得られた硫化モリブデン粉体2.0mgを用いた点以外は、試験例1の場合と同じ方法で、触媒インク及び作用電極を製造し、水素発生触媒を評価した。作用電極において、グラッシーカーボンロッド上での硫化モリブデンの担持量は、1.0mg/cm2であった。過電圧ηが300mVでの電流密度を求めたところ、-2.5mA/cm2であった。また、電流密度が1mA/cm2であるときの過電圧ηは、-231.7mVであった。
【0345】
[試験例3]
<<水素発生触媒の評価>>
触媒インクの製造時に、試験例2で得られた硫化モリブデン粉体2.0mgに加えて、さらに、ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ株式会社製の導電性カーボンブラック(ケッチェンブラック(登録商標)、EC300J、メディアン径D50:40nm)0.2mgを用いた点以外は、試験例2の場合と同じ方法で、水素発生触媒、触媒インク及び作用電極を製造し、水素発生触媒を評価した。作用電極において、グラッシーカーボンロッド上での硫化モリブデンの担持量は、1.0mg/cm2であった。過電圧ηが300mVでの電流密度を求めたところ、-16.1mA/cm2であった。また、電流密度が1mA/cm2であるときの過電圧ηは、-126.7mVであり、電流密度が10mA/cm2であるときの過電圧ηは、-245.2mVであった。
【0346】
[試験例4]
触媒インクを用いなかった点以外は、試験例1の場合と同じ方法で、電気化学測定を行った。過電圧ηが300mVでの電流密度を求めたところ、-0.2mA/cm2であった。
【0347】
[試験例5]
触媒インクの製造時に、コバルトドープ硫化モリブデン粉体2.0mgに代えて、関東化学社製の硫化モリブデン粉体2.0mgを用いた点以外は、試験例1の場合と同じ方法で、比較用の触媒インクを製造し、比較用の水素発生触媒(硫化モリブデン粉体)を評価した。
この比較用の硫化モリブデン粉体の比表面積をBET法により測定したところ、3.0m2/gであった。
この比較用の硫化モリブデン粉体の粒度分布を、動的光散乱式粒子径分布測定装置により計測し、メディアン径D50を求めたところ、30μm以下であった。
作用電極において、グラッシーカーボンロッド上での硫化モリブデンの担持量は、1.0mg/cm2であった。過電圧ηが300mVでの電流密度を求めたところ、-0.3mA/cm2であった。
【0348】
【0349】
【0350】
試験例1~5の結果から、金属ドープ硫化モリブデン粉体は、硫化モリブデン粉体に対して同等以上の、水素発生触媒としての活性を示すことが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0351】
本発明は、水素発生反応の触媒、半導体材料等の活性を有する材料として利用可能である。
【符号の説明】
【0352】
1・・・製造装置、2・・・焼成炉、3・・・冷却配管、4・・・回収機、5・・・排気口、6・・・開度調整ダンパー、7・・・観察窓、8・・・排風装置、9・・・外部冷却装置