(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】溶着フィルム及び接合体
(51)【国際特許分類】
C09J 7/10 20180101AFI20240109BHJP
C09J 7/35 20180101ALI20240109BHJP
C09J 171/10 20060101ALI20240109BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20240109BHJP
【FI】
C09J7/10
C09J7/35
C09J171/10
B32B27/00 D
(21)【出願番号】P 2022580602
(86)(22)【出願日】2022-02-04
(86)【国際出願番号】 JP2022004352
(87)【国際公開番号】W WO2022172863
(87)【国際公開日】2022-08-18
【審査請求日】2023-07-10
(31)【優先権主張番号】P 2021020100
(32)【優先日】2021-02-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】株式会社レゾナック
(74)【代理人】
【識別番号】110002620
【氏名又は名称】弁理士法人大谷特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新林 良太
(72)【発明者】
【氏名】高橋 信行
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 勇人
(72)【発明者】
【氏名】黒木 一博
【審査官】福山 駿
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2022/209116(WO,A1)
【文献】国際公開第2022/014503(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 1/00-201/10
B32B 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フェノキシ樹脂からなる溶着フィルムであって、前記フェノキシ樹脂のz平均分子量が70,000以上であり、前記フェノキシ樹脂のz平均分子量と数平均分子量との比〔Mz/Mn〕が5.0以上である、溶着フィルム。
【請求項2】
前記溶着フィルムは厚さが1~1000μmである、請求項1に記載の溶着フィルム。
【請求項3】
前記溶着フィルムを、第一基材と第二基材との間に溶着させた際の引張剪断強度が、JIS K 6850:1999に準じた試験において10MPa以上である、請求項1または2に記載の溶着フィルム。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の溶着フィルムを、第一基材と第二基材との間に溶着させてなる、接合体。
【請求項5】
前記第一基材、及び前記第二基材が、いずれもアルミニウム、鉄、繊維強化プラスチック、ガラス、セラミック、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリエーテルイミド、ポリアミド、及びポリブチレンテレフタレートより選ばれる少なくとも1種からなる、請求項4に記載の接合体。
【請求項6】
溶着フィルムを、加熱、熱プレス、超音波溶着、及び高周波誘導溶着からなる群より選ばれる少なくとも1種の方法で、第一基材及び第二基材との間に溶着させる、請求項4または5に記載の接合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同種又は異種の樹脂材、同種又は異種の金属、金属と樹脂とを強固に溶着する用途に好適な溶着フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、製品の軽量化及び低コスト化等の観点から、自動車部品、医療機器、家電製品等の樹脂部品同士、金属同士、樹脂部品と金属との接合において、従来の機械的接合以外の接合方法の適用が進んでいる。樹脂あるいは金属材料を互いに接合する機械的接合方法以外の手段としては、接着剤接合、超音波溶着、振動溶着、熱溶着、熱風溶着、誘導溶着、射出溶着といった溶着が使用されており、溶着は特に簡便性が高く生産性有用な接合方法である。
【0003】
従来、溶着材料としてホットメルト、エポキシ系樹脂、反応型ポリウレタン系樹脂などが用いられている。ホットメルトでは、数平均分子量、重量平均分子量を指標として開発がなされ、様々な配合等が検討されてきた(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前記ホットメルトでは、十分な溶着強度が得られない、事前処理等に特殊な方法が必要であり手間がかかる、などの問題があり、満足のいく性能は得られていない。また、エポキシ系樹脂又は反応型ポリウレタン系樹脂の架橋反応を用いる場合は、厳密な作業時間及び水分等の管理が必要であり、作業が煩雑になるという課題がある。また、作業簡便性の観点から、溶着剤をフィルム化することが望まれているが、これら架橋反応を用いるエポキシ系樹脂又は反応型ポリウレタン系樹脂は保形性に劣り、フィルム化しにくいという課題がある。
【0006】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、溶着強度及び保形性に優れる溶着フィルム、並びに該溶着フィルムを用いた接合体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決するべく鋭意検討した結果、z平均分子量、及びz平均分子量と数平均分子量との比〔Mz/Mn〕が特定の値以上であるフェノキシ樹脂からなる溶着フィルムが前記課題を解決できることを見出した。
【0008】
すなわち、本願開示は、以下に関する。
[1]フェノキシ樹脂からなる溶着フィルムであって、前記フェノキシ樹脂のz平均分子量が70,000以上であり、前記フェノキシ樹脂のz平均分子量と数平均分子量との比〔Mz/Mn〕が5.0以上である、溶着フィルム。
[2]前記溶着フィルムは厚さが1~1000μmである、上記[1]に記載の溶着フィルム。
[3]前記溶着フィルムを、第一基材と第二基材との間に溶着させた際の引張剪断強度が、JIS K 6850:1999に準じた試験において10MPa以上である、上記[1]または[2]に記載の溶着フィルム。
[4]上記[1]~[3]のいずれかに記載の溶着フィルムを、第一基材と第二基材との間に溶着させてなる、接合体。
[5]前記第一基材、及び前記第二基材が、いずれもアルミニウム、鉄、繊維強化プラスチック、ガラス、セラミック、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリエーテルイミド、ポリアミド、及びポリブチレンテレフタレートより選ばれる少なくとも1種からなる、上記[4]に記載の接合体。
[6]溶着フィルムを、加熱、熱プレス、超音波溶着、及び高周波誘導溶着からなる群より選ばれる少なくとも1種の方法で、第一基材及び第二基材との間に溶着させる、上記[4]または[5]に記載の接合体の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、溶着強度及び保形性に優れる溶着フィルム、並びに該溶着フィルムを用いた接合体及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態における接合体の構成を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について、一実施形態を参照しながら詳細に説明する。
本明細書において、接合とは、物と物とを繋合わせることを意味し、接着及び溶着はその下位概念である。接着とは、テープ及び接着剤の様な有機材(熱硬化性樹脂及び熱可塑性樹脂等)を介して、2つの被着材(接着しようとするもの)を接合状態とすることを意味する。
【0012】
<溶着フィルム>
本実施形態の溶着フィルムは、フェノキシ樹脂からなり、該フェノキシ樹脂のz平均分子量が70,000以上であり、前記フェノキシ樹脂のz平均分子量と数平均分子量との比〔Mz/Mn〕が5.0以上であることを特徴とする。
【0013】
前記フェノキシ樹脂は、z平均分子量(Mz)が70,000以上である。前記Mzが70,000未満であると、フィルム成形性の低下及び溶着強度が低下するおそれがある。前記Mzは、フィルム成形性の向上、及び溶着強度を高める観点から、好ましくは70,000~800,000であり、より好ましくは70,000~600,000であり、更に好ましくは70,000~400,000であり、より更に好ましくは80,000~250,000である。
なお、本明細書において、前記Mz、後述するMn及びMwは、細孔を有するカラムを用いて分子サイズの違いを分離する装置を用いる手法により測定することができ、具体的には実施例に記載の方法により測定することができる。
【0014】
前記フェノキシ樹脂のMzが70,000以上であることから、前記フェノキシ樹脂は、三次元分岐を形成した樹脂と、直鎖状の樹脂が適度に混在しているものと推察される。これにより、前記フェノキシ樹脂はフィルム成形性が良好となり、前記フェノキシ樹脂からなる溶着フィルムは、溶着強度に優れたものとなる。また、前記溶着フィルムの保存安定性およびリペア性が優れたものとなる。
前記フェノキシ樹脂は、直鎖状の比較的低分子量の樹脂を含んでいてもよい。該低分子量の樹脂を含むことにより、溶着フィルムの被着材への濡れ性を高めることができる。
【0015】
前記フェノキシ樹脂は、数平均分子量(Mn)が好ましくは6,000~30,000であり、より好ましくは6,000~25,000であり、更に好ましくは6,000~20,000であり、より更に好ましくは7,000~20,000である。前記フェノキシ樹脂のMnが前記範囲内であると、三次元分岐を形成した樹脂が一定程度存在し、かつ、比較的低分子量の樹脂を含みやすくなり、溶着強度および被着材への濡れ性が優れたものとなる。
【0016】
前記Mzと前記Mnとの比〔Mz/Mn〕は5.0以上である。前記比〔Mz/Mn〕が5.0未満であると、フィルム成形性の低下及び溶着強度が低下するおそれがある。前記比〔Mz/Mn〕は、フィルム成形性の向上、及び溶着強度を高める観点から、好ましくは5.0~200.0であり、より好ましくは5.0~100.0であり、更に好ましくは5.0~50.0であり、より更に好ましくは5.0~35.0であり、より更に好ましくは5.0~30.0であり、より更に好ましくは5.0~24.0である。
【0017】
前記フェノキシ樹脂は、重量平均分子量(Mw)が好ましくは10,000~500,000であり、より好ましくは20,000~300,000であり、更に好ましくは25,000~150,000であり、より更に好ましくは25,000~120,000であり、より更に好ましくは30,000~120,000である。前記フェノキシ樹脂のMwが前記範囲内であると、三次元分岐を形成した樹脂が一定程度存在し、かつ、比較的低分子量の樹脂を含みやすくなり、フィルム成形性および溶着強度が優れたものとなる。
【0018】
本発明に用いられるフェノキシ樹脂は、前記Mz及び前記比〔Mz/Mn〕がそれぞれ前述の値以上であれば特に限定されるものではないが、例えば、2官能エポキシ化合物と2官能の水酸基を有する化合物とを触媒存在下で反応させることにより得られる樹脂が挙げられる。
【0019】
前記2官能エポキシ化合物としては、例えば、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、ビフェノール型エポキシ樹脂、ナフタレン型2官能エポキシ樹脂等の芳香族エポキシ樹脂;1,6-ヘキサンジオールジグリシジルエーテル等の脂肪族エポキシ樹脂が挙げられる。これらは、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
特にビスフェノールA型エポキシ樹脂が好ましく、その分子量は好ましくは250~6,000であり、より好ましくは300~6,000であり、更に好ましくは700~5,000である。前記分子量がこの範囲内であると、フィルム成形性が良好となる。
【0020】
前記2官能の水酸基を有する化合物としては、例えば、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ビフェノール等のフェノール類;エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール等の脂肪族グリコールが挙げられる。中でも、コストや接着性、耐水性の観点から、ビスフェノールA、ビスフェノールSが好ましく、特にビスフェノールSが好ましい。これらは、1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0021】
前記2官能の水酸基を有する化合物の配合量は、前記2官能エポキシ化合物1.0等量に対して好ましくは0.4~1.2等量であり、より好ましくは0.5~1.0等量である。前記2官能の水酸基を有する化合物の配合量が前記範囲内であるとフィルム成形性が良好となる。また、フェノキシ樹脂のMz及び比〔Mz/Mn〕をそれぞれ前述の値以上にしやすくなる。
【0022】
前記触媒としては、例えば、トリエチルアミン、2,4,6-トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール等の3級アミン;トリフェニルホスフィン等のリン系化合物等が好適に用いられる。中でも、安定性の観点から、トリフェニルホスフィンが好ましい。
前記触媒の使用量は、特に制限はないが、2官能エポキシ化合物と2官能の水酸基を有する化合物との合計100質量部に対して、好ましくは0.01~10.00質量部であり、より好ましくは0.10~1.00質量部であり、更に好ましくは0.15~0.50質量部である。
【0023】
2官能エポキシ化合物と2官能の水酸基を有する化合物との反応は、50~200℃で行うことが好ましい。
【0024】
本発明においては2官能の水酸基を有する化合物以外では2官能カルボキシ化合物及び2官能チオール化合物が使用できる。2官能カルボキシ化合物は分子内にカルボキシ基を2つ有する化合物であればよく、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸等の芳香族ジカルボン酸;シュウ酸、コハク酸、マロン酸、グルタル酸、アジピン酸、セバシン酸、マレイン酸、フマル酸等の脂肪族ジカルボン酸が挙げられる。2官能チオール化合物としては、分子内にメルカプト基を2つ有する化合物であればよく、例えば、昭和電工株式会社製の2官能2級チオール化合物 カレンズMT(登録商標)BD1:1,4-ビス(3-メルカプトブチリルオキシ)ブタン等が挙げられる。
【0025】
(溶着フィルムの製造方法)
本実施形態の溶着フィルムの製造方法は、特に限定されるものではないが、例えば、前記2官能エポキシ樹脂、及び前記2官能の水酸基を有する化合物を加熱混合して得られた樹脂組成物、もしくは前記2官能エポキシ樹脂、及び前記2官能の水酸基を有する化合物を溶媒に溶解し、得られた混合物から必要に応じて前記溶媒を除去して得られた固形分95質量%以上の樹脂組成物を加熱圧縮してフェノキシ樹脂からなる溶着フィルムを得る方法等が挙げられる。
前記製造方法によれば、フェノキシ樹脂からなる溶着フィルムを簡便に製造することができる。また、フェノキシ樹脂のMz及び比〔Mz/Mn〕をそれぞれ前述の値以上にしやすくなる。
なお、本明細書において「固形分」とは、溶媒等の揮発成分を除いた組成物中の成分を指す。
【0026】
触媒を使用する場合、触媒は、前記2官能エポキシ化合物、及び前記2官能の水酸基を有する化合物と同時に溶媒に添加してもよく、前記2官能エポキシ樹脂、及び前記2官能の水酸基を有する化合物が溶媒に溶解した後に添加してもよい。
溶媒としては、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、トルエン、キシレン、アセトン等が好ましい。
【0027】
前記樹脂組成物を加熱圧縮する方法としては、例えば、加熱したプレス(熱プレス)等で圧縮する方法が挙げられる。
前記熱プレスの温度は、好ましくは120~250℃であり、より好ましくは130~200℃であり、更に好ましくは140~180℃である。
また、前記樹脂組成物を熱プレスで圧縮する際の圧縮時間は、好ましくは0.5~4時間であり、より好ましくは0.5~3時間であり、更に好ましくは0.5~2時間である。
【0028】
本実施形態の溶着フィルムは、厚さが好ましくは1~1000μmであり、より好ましくは10~800μmであり、更に好ましくは20~500μmである。
【0029】
本実施形態の溶着フィルムは、第一基材と第二基材との間に溶着させた際の引張剪断強度が、JIS K 6850:1999に準じた試験において好ましくは10MPa以上であり、より好ましくは13MPa以上である。
前記引張せん断強度は、具体的には実施例に記載の方法により測定することができる。
【0030】
<接合体>
図1は、本発明の一実施形態(本実施形態)における接合体の構成を示す説明図である。
図1に示すように、本実施形態の接合体10は、溶着フィルム1を第一基材2と第二基材3との間に溶着させてなる。前記溶着方法としては、加熱、熱プレス、超音波溶着、及び高周波誘導溶着からなる群より選ばれる少なくとも1種の方法が挙げられる。中でも、熱プレス、超音波溶着、高周波誘導溶着が好ましい。
【0031】
前記第一基材、及び前記第二基材は、いずれもアルミニウム、鉄、繊維強化プラスチック(FRP)、ガラス、セラミック、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリエーテルイミド、ポリアミド、及びポリブチレンテレフタレートより選ばれる少なくとも1種からなることが好ましく、アルミニウム、鉄、ポリカーボネート、及びポリブチレンテレフタレートより選ばれる少なくとも1種からなることがより好ましい。
前記第一基材、及び前記第二基材は、同じ材料からなるものでもよく、異なる材料からなるものでもよい。
【0032】
前記第一基材、及び前記第二基材は、いずれも表面の汚染物の除去、及び/又は、アンカー効果を目的として、表面に前処理を施すことが好ましい。
前処理としては、例えば、脱脂処理、UVオゾン処理、ブラスト処理、研磨処理、プラズマ処理、コロナ放電処理、レーザー処理、エッチング処理、フレーム処理等が挙げられる。
前処理としては、基材の表面を洗浄する前処理または表面に凹凸を付ける前処理が好ましい。具体的には、基材がアルミニウム、ガラス、セラミック、又は鉄からなる場合、脱脂処理、UVオゾン処理、ブラスト処理、研磨処理、プラズマ処理、エッチング処理からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましく、基材がFRP、ポリプロピレン、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリエーテルイミド、ポリアミド、又はポリブチレンテレフタレートからなる場合、脱脂処理、UVオゾン処理、ブラスト処理、研磨処理、プラズマ処理及びコロナ放電処理からなる群より選ばれる少なくとも1種が好ましい。
前処理は、1種のみであってもよく、2種以上を施してもよい。これらの前処理の具体的な方法としては、公知の方法を用いることができる。
通常、FRPの表面には樹脂又は補強材に由来する水酸基が存在し、ガラス及びセラミック表面には元々水酸基が存在すると考えられるが、前記の前処理によって新たに水酸基が生成され、基材の表面の水酸基を増やすことができる。
【0033】
前記脱脂処理とは、基材表面の油脂などの汚れをアセトン、トルエン等の有機溶剤等で溶かして除去する方法である。
【0034】
前記UVオゾン処理とは、低圧水銀ランプから発光する短波長の紫外線の持つエネルギーとそれにより発生するオゾン(O3)の力で、表面を洗浄したり改質する方法である。ガラスの場合、表面の有機系不純物の除去を行う表面洗浄法の一つとなる。一般に、低圧水銀ランプを用いた洗浄表面改質装置は、「UVオゾンクリーナー」、「UV洗浄装置」、「紫外線表面改質装置」などと呼ばれている。
【0035】
前記ブラスト処理としては、例えば、ウェットブラスト処理、ショットブラスト処理、サンドブラスト処理等が挙げられる。中でも、ウェットブラスト処理は、ドライブラスト処理と比べより緻密な面が得られるため、好ましい。
【0036】
前記研磨処理としては、例えば、研磨布を用いたバフ研磨、研磨紙(サンドペーパー)を用いたロール研磨、電解研磨等が挙げられる。
【0037】
前記プラズマ処理とは、高圧電源とロッドでプラズマビームを作り素材表面にぶつけて分子を励起させて官能状態とするもので、素材表面に水酸基又は極性基を付与できる大気圧プラズマ処理方法等が挙げられる。
【0038】
前記コロナ放電処理とは、高分子フィルムの表面改質に施される方法が挙げられ、電極から放出された電子が高分子表面層の高分子主鎖又は側鎖を切断し発生したラジカルを起点に表面に水酸基又は極性基を発生させる方法である。
【0039】
前記レーザー処理とは、レーザー照射によって基材の表面のみを急速に加熱、冷却して、表面の特性を改善する技術で表面の粗面化に有効な方法である。公知のレーザー処理技術を使用することができる。
【0040】
前記エッチング処理としては、例えば、アルカリ法、リン酸-硫酸法、フッ化物法、クロム酸-硫酸法、塩鉄法等の化学的エッチング処理;電解エッチング法等の電気化学的エッチング処理等が挙げられる。
【0041】
前記フレーム処理とは、燃焼ガスと空気の混合ガスを燃やすことで空気中の酸素をプラズマ化させ、酸素プラズマを処理対象物に付与することで表面の親水化を図る方法である。公知のフレーム処理技術を使用することができる。
【実施例】
【0042】
次に実施例により、本発明を具体的に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0043】
(製造例1)
撹拌機、環流冷却器、ガス導入管、及び温度計を付した反応装置に、jER(登録商標)1007(三菱ケミカル株式会社製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、分子量約4060)1.0等量(203g)、ビスフェノールS(分子量250)1.0等量(12.5g)、トリフェニルホスフィン0.8g、及びメチルエチルケトン400gを仕込み、窒素雰囲気下で撹拌しながら100℃まで昇温した。目視で溶解したことを確認し、40℃まで冷却して固形分35質量%の樹脂組成物を得た。これから溶剤を除去して固形分100質量%の樹脂組成物(EP-1)を得た。
【0044】
(製造例2)
撹拌拌機、環流冷却器、ガス導入管、及び温度計を付した反応装置に、jER(登録商標)1007(三菱ケミカル株式会社製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、分子量約4060)1.0等量(203g)、ビスフェノールS(分子量250)0.8等量(10.0g)、トリフェニルホスフィン0.8g、及びメチルエチルケトン397gを仕込み、窒素雰囲気下で撹拌しながら100℃まで昇温した。目視で溶解したことを確認し、40℃まで冷却して固形分35質量%の樹脂組成物を得た。これから溶剤を除去して固形分100質量%の樹脂組成物(EP-2)を得た。
【0045】
(製造例3)
撹拌機、環流冷却器、ガス導入管、及び温度計を付した反応装置に、jER(登録商標)1007(三菱ケミカル株式会社製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、分子量約4060)1.0等量(203g)、ビスフェノールS(分子量250)0.5等量(6.3g)、トリフェニルホスフィン0.8g、及びメチルエチルケトン390gを仕込み、窒素雰囲気下で撹拌しながら100℃まで昇温した。目視で溶解したことを確認し、40℃まで冷却して固形分35質量%の樹脂組成物を得た。これから溶剤を除去して固形分100質量%の樹脂組成物(EP-3)を得た。
【0046】
(製造例4)
撹拌機、環流冷却器、ガス導入管、及び温度計を付した反応装置に、jER(登録商標)1001(三菱ケミカル株式会社製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、分子量約900)1.0等量(270g)、ビスフェノールS(分子量250)0.95等量(71.3g)、トリフェニルホスフィン0.8g、及びメチルエチルケトン515gを仕込み、窒素雰囲気下で撹拌しながら100℃まで昇温した。目視で溶解したことを確認し、40℃まで冷却して固形分35質量%の樹脂組成物を得た。これから溶剤を除去して固形分100質量%の樹脂組成物(EP-4)を得た。
【0047】
(製造例5)
撹拌機、環流冷却器、ガス導入管、及び温度計を付した反応装置に、エポミックR140P(三井化学株式会社製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、分子量約378)1.0等量(189g)、ビスフェノールS(分子量250)0.95等量(119g)、トリフェニルホスフィン0.8g、を仕込み、窒素雰囲気下で撹拌しながら100℃まで昇温した。目視で溶解したことを確認し、固形分100質量%の樹脂組成物(EP-5)を得た。
【0048】
(製造例6)
撹拌機、環流冷却器、ガス導入管、及び温度計を付した反応装置に、jER(登録商標)1007(三菱ケミカル株式会社製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、分子量約4060)1.0等量(203g)、ビスフェノールS(分子量250)0.25等量(3.1g)、トリフェニルホスフィン0.8g、及びメチルエチルケトン390gを仕込み、窒素雰囲気下で撹拌しながら100℃まで昇温した。目視で溶解したことを確認し、40℃まで冷却して固形分35質量%の樹脂組成物を得た。これから溶剤を除去して固形分100質量%の樹脂組成物(EP-6)を得た。
【0049】
(製造例7)
撹拌機、環流冷却器、ガス導入管、及び温度計を付した反応装置に、jER(登録商標)1007(三菱ケミカル株式会社製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、分子量約4060)1.0等量(203g)、ビスフェノールS(分子量250)0.95等量(11.8g)、トリフェニルホスフィン0.8g、及びシクロヘキサノン198gを仕込み、窒素雰囲気下で170℃まで昇温して反応させた。6.5時間反応後、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)でビスフェノールSのピークが消失したことを確認して反応を終了し、固形分52質量%のフェノキシ樹脂を得た。これから溶剤を除去して固形分100質量%のフェノキシ樹脂(EP-7)を得た。
【0050】
(製造例8)
撹拌機、環流冷却器、ガス導入管、及び温度計を付した反応装置に、エポミックR140P(三井化学株式会社製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、分子量約378)1.0等量(189g)、ビスフェノールS(分子量250)0.95等量(119g)、トリフェニルホスフィン0.8g、及びシクロヘキサノン1232gを仕込み、窒素雰囲気下で170℃まで昇温して反応させた。4時間反応後、GPCでビスフェノールSのピークが消失したことを確認して反応を終了し、固形分25質量%のフェノキシ樹脂を得た。これから溶剤を除去して固形分100質量%のフェノキシ樹脂(EP-8)を得た。
【0051】
(製造例9)
撹拌機、環流冷却器、ガス導入管、及び温度計を付した反応装置に、jER(登録商標)1007(三菱ケミカル株式会社製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、分子量約4060)1.0等量(203g)、ビスフェノールS(分子量250)0.95等量(11.8g)、トリフェニルホスフィン0.8g、及びシクロヘキサノン400gを仕込み、窒素雰囲気下で170℃まで昇温して反応させた。6.5時間反応後、GPCでビスフェノールSのピークが消失したことを確認して反応を終了し、固形分35質量%のフェノキシ樹脂を得た。これから溶剤を除去して固形分100質量%のフェノキシ樹脂(EP-9)を得た。
【0052】
(製造例10)
撹拌機、環流冷却器、ガス導入管、及び温度計を付した反応装置に、jER(登録商標)1007(三菱ケミカル株式会社製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、分子量約4060)1.0等量(203g)、ビスフェノールS(分子量250)0.95等量(11.8g)、トリフェニルホスフィン7.2g、及びシクロヘキサノン200gを仕込み、窒素雰囲気下で170℃まで昇温して反応させた。4時間反応後、GPCでビスフェノールSのピークが消失したことを確認して反応を終了し、固形分52質量%のフェノキシ樹脂を得た。これから溶剤を除去して固形分100質量%のフェノキシ樹脂(EP-10)を得た。
【0053】
(製造例11)
140℃に昇温した2L混和機3011(高林理化株式会社製)に、jER(登録商標)1007(三菱ケミカル株式会社製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、分子量約4060)1.0等量(939g)を仕込み、低速で撹拌しながら溶解した。溶解後、ビスフェノールS(分子量250)0.95等量(56.3g)を4回に分けて投入し、140℃を維持した状態でビスフェノールSが溶解するまで回転数30rpmで撹拌を行った。ビスフェノールSの溶解を目視で確認後、トリフェニルホスフィン3.8gを投入し、温度140℃、回転数30rpmの条件で45分間撹拌し、固形分100質量%の樹脂組成物(EP-11)を得た。
【0054】
(製造例12)
140℃に昇温した2L混和機3011(高林理化株式会社製)に、jER(登録商標)1007(三菱ケミカル株式会社製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、分子量約4060)1.0等量(939g)を仕込み、低速で撹拌しながら溶解した。溶解後、ビスフェノールS(分子量250)1.0等量(57.5g)を4回に分けて投入し、140℃を維持した状態でビスフェノールSが溶解するまで回転数30rpmで撹拌を行った。ビスフェノールSの溶解を目視で確認後、トリフェニルホスフィン3.8gを投入し、温度160℃、回転数30rpmの条件で80分間撹拌し、固形分100質量%の樹脂組成物(EP-12)を得た。
【0055】
(製造例13)
撹拌機、環流冷却器、ガス導入管、及び温度計を付した反応装置に、jER(登録商標)1007(三菱ケミカル株式会社製、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、分子量約4060)1.0等量(203g)、ビスフェノールS(分子量250)0.5等量(6.3g)、BRG-555 0.5等量(5.2g)(アイカ工業株式会社製、ノボラック系フェノール樹脂)、トリフェニルホスフィン0.8g、及びシクロヘキサノン400gを仕込み、窒素雰囲気下で170℃まで昇温して反応させた。6.5時間反応後、GPCでビスフェノールSのピークが消失したことを確認して反応を終了し、固形分35質量%のフェノキシ樹脂を得た。これから溶剤を除去して固形分100質量%のフェノキシ樹脂(EP-13)を得た。
【0056】
(実施例1~8、及び比較例1~5)
〔溶着フィルムの作製〕
プレス機の上板及び下板に非粘着フッ素樹脂フィルム(ニトフロン(登録商標)No.900UL、日東電工株式会社製)を設置し、下板の非粘着フッ素樹脂フィルム上に製造例1~13で得られた樹脂組成物又はフェノキシ樹脂を配置した後、前記プレス機を160℃に加熱し、前記樹脂組成物又はフェノキシ樹脂を2時間加熱圧縮して厚みが50μmとなる溶着フィルムを作製した。得られた溶着フィルムを用い、以下の評価を実施した。結果を表1に示す。
【0057】
<評価>
(1)溶着フィルムの保形性
評価は溶着フィルムが成形できたものを「A」、やや脆さが見られたが離型でき、溶着フィルムが得られたものを「B」、溶着フィルムとして離形できなかったものを「C」とした。
【0058】
(2)分子量測定(Mz、Mn、Mw)
各実施例及び比較例で作製した溶着フィルムをテトラヒドロフランに溶解し、Prominence 501(昭和サイエンス株式会社製、Detector:Shodex(登録商標) RI-501(昭和電工株式会社製))を用い、以下の条件で測定した。
カラム:昭和電工製 LF-804×2本
カラム温度:40℃
試料:重合体の0.4質量%テトラヒドロフラン溶液
流量:1ml/分
溶離液:テトラヒドロフラン
【0059】
(3)溶着フィルムの厚み
得られた溶着フィルムの厚みは23℃、湿度50%の雰囲気中に24時間放置後、株式会社ミツトヨ製のMDC-25MXを用いて測定した。
【0060】
(4)引張せん断試験
〔接合試験体-1(鋼板/溶着フィルム/鋼板)の作製〕
25mm×100mm、厚さ3mmの冷延鋼板の表面を10分間ブラスト処理後、ブラスト面をメチルエチルケトンで脱脂した。脱脂した面に溶着フィルムを置き、同様の処理を行った冷延鋼板を、接合部の重なり長さ12.5mm、幅25mmとなるように重ね、クリップで固定した。固定した状態で160℃雰囲気に2時間放置して溶着させ、接合試験体-1を作製した。ここで接合部とは、試験体用基材を重ね合わせた箇所を意味する。
【0061】
〔接合試験体-2(アルミニウム/溶着フィルム/アルミニウム)の作製〕
冷延鋼板の代わりに25mm×100mm、厚さ1.6mmのアルミニウム A6061-T6を用いたこと以外は前述の接合試験体-1の作製と同じ方法で接合試験体-2を作製した。
【0062】
〔接合試験体-3(アルミニウム/溶着フィルム/ポリカーボネート)の作製〕
ポリカーボネート 121R(SABIC社製)を、射出成形機(住友重機械工業株式会社製 SE100V)を用いて、シリンダー温度290℃、金型温度85℃、射出速度30mm/秒、保圧70MPaで3秒と50MPaで2秒、冷却時間13秒の条件で射出成型して、25mm×100mm、厚さ2mmのポリカーボネート板を得た。
試験体用基材として、得られたポリカーボネート板、及びアルミニウム板を用意した。アルミニウム板は、25mm×100mm、厚さ1.6mmのアルミニウム A6061-T6の表面を10分間ブラスト処理後、ブラスト面をメチルエチルケトンで脱脂した。
アルミニウム板の脱脂した面に溶着フィルムを置き、ポリカーボネート板を、接合部の重なり長さが12.5mm、幅25mmとなるように重ねて固定し、固定部を高周波誘導溶着機(精電舎電子工業株式会社製、発振器UH-2.5K、プレスJIIP30S)を用いて高周波誘導により金属を発熱させ、加熱・加圧によりアルミニウム板及びポリカーボネート板を接合し、接合試験体-3を作製した。加圧力は110N(圧力2.2MPa)、発振周波数は900kHz、発振時間は5秒とした。
【0063】
各接合試験体について、JIS K 6850:1999に準じて、引張試験機(株式会社島津製作所製 万能試験機オートグラフ「AG-IS」;ロードセル10kN、引張速度10mm/min、温度23℃、50%RH)にて、引張りせん断強度試験を行い、接合強度を測定した。測定結果を表1に示す。
【0064】
【0065】
Mzが70,000以上であり、比〔Mz/Mn〕が5.0以上であるフェノキシ樹脂からなる溶着フィルムを用いた実施例1~8では、離型できる程度の強さを有するために取扱い性に優れ、引張せん断強度が10MPa以上と高く、溶着強度に優れることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0066】
本実施形態の溶着フィルムを用いた接合体は、例えば、ドアサイドパネル、ボンネットルーフ、テールゲート、ステアリングハンガー、Aピラー、Bピラー、Cピラー、Dピラー、クラッシュボックス、パワーコントロールユニット(PCU)ハウジング、電動コンプレッサー部材(内壁部、吸入ポート部、エキゾーストコントロールバルブ(ECV)挿入部、マウントボス部等)、リチウムイオン電池(LIB)スペーサー、電池ケース、LEDヘッドランプ等の自動車用部品や、スマートフォン、ノートパソコン、タブレットパソコン、スマートウォッチ、大型液晶テレビ(LCD-TV)、屋外LED照明の構造体等として用いられるが、特にこれら例示の用途に限定されるものではない。
【符号の説明】
【0067】
10 接合体
1 溶着フィルム
2 第一基材
3 第二基材