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特許7414241放射線線量測定ゲル、及びそれを放射線線量の計測材料として備える放射線線量計
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  • 特許-放射線線量測定ゲル、及びそれを放射線線量の計測材料として備える放射線線量計 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】放射線線量測定ゲル、及びそれを放射線線量の計測材料として備える放射線線量計
(51)【国際特許分類】
   G01T 1/04 20060101AFI20240109BHJP
   G01T 1/02 20060101ALI20240109BHJP
   C08L 5/00 20060101ALI20240109BHJP
   C08L 33/02 20060101ALI20240109BHJP
   C08K 5/20 20060101ALI20240109BHJP
   C08K 3/34 20060101ALI20240109BHJP
【FI】
G01T1/04
G01T1/02 B
C08L5/00
C08L33/02
C08K5/20
C08K3/34
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021522237
(86)(22)【出願日】2020-05-18
(86)【国際出願番号】 JP2020019641
(87)【国際公開番号】W WO2020241354
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2023-04-24
(31)【優先権主張番号】P 2019097794
(32)【優先日】2019-05-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】503359821
【氏名又は名称】国立研究開発法人理化学研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001999
【氏名又は名称】弁理士法人はなぶさ特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】高梨 宇宙
(72)【発明者】
【氏名】櫻葉汀 ダニエルアントニオ
(72)【発明者】
【氏名】濱田 敏正
【審査官】大門 清
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/221903(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/069853(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/098888(WO,A1)
【文献】特表平9-511055(JP,A)
【文献】特開2012-2669(JP,A)
【文献】Kazuyuki Sakai, et al.,Imaging the nano-structure of soft and wet materials with new type of DLS methods,Proc. of SPIE,米国,SPIE,2016年04月16日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/04
G01T 1/02
C08L 5/00
C08L 33/02
C08K 5/20
C08K 3/34
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ゲル化剤、及び式(1):
【化1】
(式(1)中、
は水素原子又はメチル基を表し、
m及びnは各々2~4の整数を表し、
kは0又は1を表し、
複数のR及びmはそれぞれ互いに同じでも異なってもよい。)で表される化合物を含む、放射線線量測定ゲル。
【請求項2】
さらに水を含む、請求項1に記載の放射線線量測定ゲル。
【請求項3】
前記ゲル化剤が、ゼラチン、アガロース、キサンタンガム、カラギーナン、ジェランガム、キトサン、及びアルギン酸からなる群から選ばれる1種又は2種以上である、請求項1又は請求項2に記載の放射線線量測定ゲル。
【請求項4】
前記ゲル化剤が、有機酸構造、有機酸塩構造又は有機酸アニオン構造を有する水溶性有機高分子(A)、ケイ酸塩(B)、及び該ケイ酸塩の分散剤(C)を含む、請求項1又は請求項2に記載の放射線線量測定ゲル。
【請求項5】
前記水溶性有機高分子(A)が、重量平均分子量100万乃至1,000万の完全中和又は部分中和ポリアクリル酸塩である、請求項4に記載の放射線線量測定ゲル。
【請求項6】
前記ケイ酸塩(B)が、スメクタイト、ベントナイト、バーミキュライト、及び雲母からなる群より選ばれる1種又は2種以上の水膨潤性ケイ酸塩粒子である、請求項4又は請求項5に記載の放射線線量測定ゲル。
【請求項7】
前記分散剤(C)が、オルトリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、テトラリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、エチドロン酸ナトリウム、ポリ(メタ)アクリル酸ナトリウム、ポリ(メタ)アクリル酸アンモニウム、アクリル酸ナトリウム/マレイン酸ナトリウム共重合体、アクリル酸アンモニウム/マレイン酸アンモニウム共重合体、水酸化ナトリウム、ヒドロキシルアミン、炭酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、フミン酸ナトリウム、及びリグニンスルホン酸ナトリウムからなる群から選ばれる1種又は2種以上である、請求項4乃至請求項6のうちいずれか一項に記載の放射線線量測定ゲル。
【請求項8】
放射線照射により重合可能なモノマーを更に含む、請求項1乃至請求項7のうちいずれか一項に記載の放射線線量測定ゲル。
【請求項9】
脱酸素剤を更に含む、請求項1乃至請求項8のうちいずれか一項に記載の放射線線量測定ゲル。
【請求項10】
請求項1乃至請求項9のうちいずれか一項に記載の放射線線量測定ゲルを放射線線量の計測材料として備える、放射線線量計。
【請求項11】
請求項10に記載の放射線線量計に放射線を照射する工程を含む、放射線線量の測定方法。
【請求項12】
請求項1乃至請求項9のうちいずれか一項に特定される前記ゲル化剤及び前記式(1)で表される化合物を混合する工程を含む、放射線線量測定ゲルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線線量測定ゲル、及び該放射線線量測定ゲルを放射線線量の計測材料として備える放射線線量計に関する。より詳しくは、本発明は、白濁による3次元線量分布の測定に用いられる放射線線量測定ゲル、及びそれを放射線線量の計測材料として備える放射線線量計に関する。
【背景技術】
【0002】
がんの放射線治療として、ピンポイントで放射線治療を行う定位放射線治療(SRT:Stereotactic Radiation Therapy)や、同一照射野内の線量強度を変えて3次元的にがんの輪郭に沿って照射野を設定することが可能な強度変調粒子線治療(IMPT:Intensity modulated particle therapy)といった高精度な治療も導入されつつあり、これらの治療法では標的の3次元的な各位置に対する微視的エネルギー付与量の積算値(すなわち線量分布)が精密に調整される。また、陽子線や重粒子線(炭素線、ネオン線等)といった線量集中性の高い荷電粒子線を利用する粒子線治療が実施されている。粒子線治療は、従来のX線治療に比べ放射線照射の照射位置および線量をより高精度に制御して腫瘍を治療することができる利点を有している。粒子線治療において求められるのは、生体組織中の病巣などの標的位置にて粒子線からのエネルギーを適正に放出させること、および、標的周囲の正常組織に対しては可能な限り影響を与えないこと、の両立である。これらを目的に、粒子線ビームの径方向の広がりや粒子線ビームのブラッグピークの位置が被照射体中の標的位置に対し位置合わせされる。
【0003】
実際の放射線治療計画では、生体組織中における3次元での各位置における線量の分布が最適化される。典型的な治療計画では、標的組織における線量分布(各位置への放射線による線量)を治療目的に合わせて変形させると同時に、周辺の正常組織への放射線の影響も抑え、リスク臓器(organ at risk)に対する影響も可能な限り小さくする。このように複雑な形状の線量分布を作成するために、ビームが精密に制御され、多方向から照射されることもある。この制御には、被照射体に合わせて調整されるフィルター・コリメータ類(レンジシフター、マルチリーフコリメーター、ボーラス等)が装備される。そして、高度に制御された放射線治療を実現するためには、放射線照射装置や付属機器およびフィルター・コリメータ類等を含めた装置全体、ならびにそれら装置による照射処理において、高度な品質保証・品質管理(quality assurance and quality control,以下「QA/QC」と略記する)が必要となる。
【0004】
このような治療計画および各種装置のQA/QCのためには、様々な方向から様々な加速エネルギーで入射する多数の電離放射線によるエネルギー付与量を適切に積算して実測できる技術が必要である。エネルギー付与量を積算して線量を各位置において精密に測定することができれば、上記QA/QCの裏付けとなる3次元でのエネルギー付与量の分布(線量分布)を測定する事が可能となるためである。この目的では従来、電離箱線量計、半導体検出器、フイルムといった1次元または2次元での線量計が用いられている。これらの線量計では、粒子線を標的位置に位置合わせする領域のうち、1次元または2次元の座標に対する上記線量分布が実測される。近年はこれらの線量計に加え、化学線量計の測定原理を利用したゲルにより3次元の線量分布を測定することが可能なゲル線量計が注目されている。ゲル線量計を利用すれば、さらに、生体と等価とみなしうる材質である水の各位置において放射線により付与されるエネルギー量を正確に測定すること、つまり、生体等価物質や水等価物質における放射線の影響が測定できる、という利点もある。ゲル線量計では、それ自体を固体ファントムとして利用しつつ、3次元での線量分布を取得できるのである。
【0005】
3次元線量分布の測定が可能なゲル線量計としては、例えば、フリッケゲル線量計(特許文献1)やポリマーゲル線量計(特許文献2、特許文献3および非特許文献1)などが報告されている。フリッケゲル線量計は、液体化学線量計として知られるフリッケ線量計の溶液(硫酸第一鉄を含む水溶液)を含むゲルであり、放射線照射に伴う2価から3価への鉄の酸化反応(着色)が、吸収線量に比例して増加することを利用している。一方、ポリマーゲル線量計は、モノマーをゲル中に分散させたものであり、放射線照射すると線量に比例してポリマーが生成することから、その生成量(白濁度)を求めることで線量を見積もることができる。生成したポリマーはゲル中を拡散しにくく、白濁が経時的に安定しており、且つ白濁部分が透明なゲルの中に浮かんでいるように見えるため視覚的にも優れているのが特徴である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-209093号公報
【文献】特許第5590526号公報
【文献】特開2014-185969号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】第4回3次元ゲル線量計研究会要旨集内「AQUAJOINTポリマーゲル線量計」(2015年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来のポリマーゲル線量計では、アクリルアミドやN-ビニル-2-ピロリドンなどの水溶性重合モノマーの他、N,N’-メチレンビスアクリルアミド等の重合性架橋剤が添加され、放射線照射によるラジカル重合で不溶性の3次元網目構造を形成させる。しかし、これらは放射線照射に対する線量感度が低かったり、モノマーや架橋剤の安全性に問題があったりするため、より高感度で尚且つ安全性の高いポリマーゲル線量計が求められてきた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは高感度で尚且つ安全性の高いポリマーゲル線量計について鋭意検討を重ねた結果、下記式(1)で表される多官能アクリルアミド誘導体を架橋剤として用いたポリマーゲル線量計が、優れた照射感度を有することを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
即ち本発明は、第1観点として、ゲル化剤、及び式(1):
【化1】
(式(1)中、
は水素原子又はメチル基を表し、
m及びnは各々2~4の整数を表し、
kは0又は1を表し、
複数のR及びmはそれぞれ互いに同じでも異なってもよい。)で表される化合物を含む、放射線線量測定ゲルに関する。
第2観点として、さらに水を含む、第1観点に記載の放射線線量測定ゲルに関する。
第3観点として、前記ゲル化剤が、ゼラチン、アガロース、キサンタンガム、カラギーナン、ジェランガム、キトサン、及びアルギン酸からなる群から選ばれる1種又は2種以上である、第1観点又は第2観点に記載の放射線線量測定ゲルに関する。
第4観点として、前記ゲル化剤が、有機酸構造、有機酸塩構造又は有機酸アニオン構造を有する水溶性有機高分子(A)、ケイ酸塩(B)、及び該ケイ酸塩の分散剤(C)を含む、第1観点又は第2観点に記載の放射線線量測定ゲルに関する。
第5観点として、前記水溶性有機高分子(A)が、重量平均分子量100万乃至1,000万の完全中和又は部分中和ポリアクリル酸塩である、第4観点に記載の放射線線量測定ゲルに関する。
第6観点として、前記ケイ酸塩(B)が、スメクタイト、ベントナイト、バーミキュライト、及び雲母からなる群より選ばれる1種又は2種以上の水膨潤性ケイ酸塩粒子である、第4観点又は第5観点に記載の放射線線量測定ゲルに関する。
第7観点として、前記分散剤(C)が、オルトリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、テトラリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、エチドロン酸ナトリウム、ポリ(メタ)アクリル酸ナトリウム、ポリ(メタ)アクリル酸アンモニウム、アクリル酸ナトリウム/マレイン酸ナトリウム共重合体、アクリル酸アンモニウム/マレイン酸アンモニウム共重合体、水酸化ナトリウム、ヒドロキシルアミン、炭酸ナトリウム、ケイ酸ナトリウム、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、フミン酸ナトリウム、及びリグニンスルホン酸ナトリウムからなる群から選ばれる1種又は2種以上である、第4観点乃至第6観点のうちいずれか一項に記載の放射線線量測定ゲルに関する。
第8観点として、放射線照射により重合可能なモノマーを更に含む、第1観点乃至第7観点のうちいずれか一項に記載の放射線線量測定ゲルに関する。
第9観点として、脱酸素剤を更に含む、第1観点乃至第8観点のうちいずれか一項に記載の放射線線量測定ゲルに関する。
第10観点として、第1観点乃至第9観点のうちいずれか一項に記載の放射線線量測定ゲルを放射線線量の計測材料として備える、放射線線量計に関する。
第11観点として、第10観点に記載の放射線線量計に放射線を照射する工程を含む、放射線線量の測定方法に関する。
第12観点として、第1観点乃至第9観点のうちいずれか一項に特定される前記ゲル化剤及び前記式(1)で表される化合物を混合する工程を含む、放射線線量測定ゲルの製造方法に関する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の放射線線量測定ゲルは、広く使用されているN,N’-メチレンビスアクリルアミド等の重合性架橋剤を用いた従来のポリマーゲル線量計と比べて、優れた照射感度を有する。特に本発明で使用する式(1)で表される化合物は、水への溶解時に加熱を必要とせず、また溶解補助剤(コモノマー等)を必須として使用せずとも容易に水に溶解でき、種々のコモノマーを組み合わせてゲルを構成することが可能である。また、コモノマーの選択によってさらに優れた照射感度を有する放射線線量測定ゲルとすることができる。
【0012】
また、本発明の放射線線量測定ゲルは工業的に入手容易な原料を用いて製造できる。前述したとおり、本発明で使用する式(1)で表される化合物は容易に水に溶解でき、また特に水溶性有機高分子(A)、ケイ酸塩(B)、及び該ケイ酸塩の分散剤(C)を含むゲル化剤を用いることにより、加熱を必要とすることなく室温で混合するだけでゲルを製造することができる。そのため、本発明の放射線線量測定ゲルは、一定の品質を有するゲルとして容易に提供することができる。また該ゲルはインジェクタブルなゲルとして、放射線線量計における放射線線量の計測材料に使用することができる。
【0013】
さらに、本発明の放射線線量測定ゲルは充分な強度を有する。例えば、典型的には容器等の支持体がなくてもゲルの形状を保持できる程度のかたさ(「弾性率」)や強度(「破断応力」)を有し、いわば自己支持性を有する。したがって、本発明の放射線線量測定ゲルはガラスやプラスチック容器だけでなく、酸素透過性の低いプラスチックラップを用いたフレキシブルなゲル線量計の作製に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例3乃至実施例6の放射線線量計の照射試験の結果を示す図である。
図2】実施例6及び比較例1の放射線線量計の照射試験の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明者らは、高感度で尚且つ安全性の高いポリマーゲル線量計について検討を重ね、該線量計に用いるゲルを構成する重合性架橋剤として、多官能アクリルアミド誘導体の採用を検討した。そして、上記式(1)で表されるアクリルアミド誘導体を重合性架橋剤として用いたゲルを検討したところ、該誘導体が水に易溶性であり、加熱や溶解補助剤を必要とせずとも水に溶解してゲル形成が可能であること、またコモノマーとして種々のモノマーを組み合わせることができ、さらに照射感度を向上させたゲルとなることを見出した。
以下、本発明について詳述する。
【0016】
[放射線線量測定ゲル]
本発明の放射線線量測定ゲルは、ゲルを構成する必須成分として、ゲル化剤、及び、重合性架橋剤として多官能アクリルアミド構造を有する化合物[上記式(1)で表される化合物]を含む。本発明の放射線線量測定ゲルにあっては、上記成分の他に水を含み得、また本発明の所期の効果を損なわない範囲で、必要に応じて、他の成分を任意に含んでもよい。
【0017】
<ゲル化剤>
ゲル化剤としては、動植物由来の天然高分子等が挙げられる。具体的には、ゼラチン、アガロース、キサンタンガム、カラギーナン、ジェランガム、キトサン、及びアルギン酸又はこれらの塩等が挙げられる。本発明では、これらのゲル化剤は1種を単独で使用してもよいし、2種以上を組み合わせて用いることできる。
上記天然物高分子の含有量は、放射線線量測定ゲルの全質量(100質量%)に対して、0.01質量%乃至30質量%、好ましくは0.05質量%乃至20質量%である。
【0018】
また、本発明では、ゲル化剤として、有機酸構造、有機酸塩構造又は有機酸アニオン構造を有する水溶性有機高分子(A)、ケイ酸塩(B)、及び該ケイ酸塩の分散剤(C)を含むゲル化剤を用いることができる。
【0019】
なお本発明で用いるゲル化剤としては、上記天然高分子、又は上記有機酸構造、有機酸塩構造若しくは有機酸アニオン構造を有する水溶性有機高分子(A)、上記ケイ酸塩(B)、及び上記該ケイ酸塩の分散剤(C)を含むゲル化剤のいずれも好ましいが、得られるゲルにおいて耐熱性や強度が求められる場合には、上記成分(A)乃至成分(C)を含むゲル化剤を用いることがより好適である。
【0020】
≪成分(A):有機酸構造、有機酸塩構造又は有機酸アニオン構造を有する水溶性有機高分子≫
ゲル化剤を構成する成分(A):有機酸構造、有機酸塩構造又は有機酸アニオン構造を有する水溶性有機高分子としては、有機高分子の側鎖として、複数のカルボキシル基、スルホニル基、及びホスホニル基等の有機酸基、有機酸基の塩構造又はアニオン構造を有し、水に自由に溶解する高分子が挙げられる。
【0021】
そのような水溶性有機高分子(A)のうち、有機酸構造を有するものとしては、例えば、カルボキシル基を有するものとして、ポリ(メタ)アクリル酸、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロース;スルホニル基を有するものとして、ポリスチレンスルホン酸;ホスホニル基を有するものとしてポリビニルホスホン酸等が挙げられる。好ましくはポリアクリル酸を挙げることができる。
なお、本明細書では、「(メタ)アクリル酸」との表記はアクリル酸とメタクリル酸の両方をいう。
【0022】
また、有機酸基の塩構造を有するものとしては、例えば、上記有機酸基のナトリウム塩、アンモニウム塩、カリウム塩、及びリチウム塩などが挙げられる。
さらに、アニオン構造を有するものとしては、例えば、有機酸基又は有機酸の塩からカチオンが解離した構造を有するものが挙げられる。
【0023】
水溶性有機高分子(A)は、分岐および化学架橋構造を持たない直鎖型構造が好ましく、有機酸構造の全てが塩構造となる完全中和物、又は有機酸構造と有機酸塩構造とが混在する部分中和物のいずれも使用でき、それらの混合物も使用できる。
【0024】
水溶性有機高分子(A)の重量平均分子量は、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)によるポリエチレングリコール換算で、好ましくは100万以上1,000万以下であり、より好ましくは200万以上750万以下である。
【0025】
水溶性有機高分子(A)としては、完全中和又は部分中和ポリアクリル酸塩が好ましく、完全中和又は部分中和の直鎖型ポリアクリル酸塩がより好ましく、重量平均分子量100万以上1,000万以下、より好ましくは200万以上750万以下の完全中和又は部分中和の直鎖型ポリアクリル酸ナトリウムが特に好ましい。部分中和の中和度としては、10%乃至90%であり、好ましくは30%乃至80%である。
【0026】
上記水溶性有機高分子(A)の含有量は、放射線線量測定ゲルの全質量(100質量%)に対して0.01質量%乃至20質量%、好ましくは0.05質量%乃至10質量%である。
【0027】
≪成分(B):ケイ酸塩≫
上記ケイ酸塩(B)としては、例えば、スメクタイト、ベントナイト、バーミキュライト、及び雲母等の水膨潤性のケイ酸塩粒子が挙げられ、水又は含水液体を分散媒としたコロイドを形成するものが好ましい。なお、スメクタイトとは、モンモリロナイト、バイデライト、ヘクトライト、サポナイト、及びスチブンサイト等の膨潤性を有する粘土鉱物の総称である。
【0028】
上記ケイ酸塩粒子の一次粒子の形状としては、円盤状、板状、球状、粒状、立方状、針状、棒状、及び無定形等が挙げられ、例えば直径5nm乃至1,000nmの円盤状又は板状のものが好ましい。例えば、下記に例示するラポナイトXLGは、直径20nm乃至100nmの円盤状を有するケイ酸塩粒子である。
【0029】
ケイ酸塩の好ましい具体例としては、層状ケイ酸塩が挙げられ、市販品として容易に入手可能な例として、BYK社製のラポナイトXLG(合成ヘクトライト)、XLS(合成ヘクトライト、分散剤としてピロリン酸ナトリウム含有)、XL21(ナトリウム・マグネシウム・フルオロシリケート)、RD(合成ヘクトライト)、RDS(合成ヘクトライト、分散剤として無機ポリリン酸塩含有)、及びS482(合成ヘクトライト、分散剤含有);片岡コープアグリ株式会社(旧:コープケミカル株式会社)製のルーセンタイトSWN(合成スメクタイト)及びSWF(合成スメクタイト)、ミクロマイカ(合成雲母)、及びソマシフ(合成雲母);クニミネ工業株式会社製のクニピア(モンモリロナイト)、スメクトンSA(合成サポナイト);株式会社ホージュン製のベンゲル(天然ベントナイト精製品)等が挙げられる。
【0030】
上記ケイ酸塩(B)の含有量は、放射線線量測定ゲルの全質量(100質量%)に対して0.01質量%乃至20質量%、好ましくは0.05質量%乃至10質量%である。
【0031】
≪成分(C):ケイ酸塩の分散剤≫
成分(C)は上記ケイ酸塩(B)の分散剤である。分散剤(C)として、ケイ酸塩の分散性の向上や、層状ケイ酸塩を層剥離させる目的で使用される分散剤又は解膠剤を使用することができる。例えば、リン酸塩系分散剤、カルボン酸塩系分散剤、アルカリとして作用するもの、多価カチオンと反応し不溶性塩又は錯塩を形成するもの、そして有機解膠剤を使用することができる。
【0032】
例えば、リン酸塩系分散剤として、オルトリン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、トリポリリン酸ナトリウム、テトラリン酸ナトリウム、ヘキサメタリン酸ナトリウム、ポリリン酸ナトリウム、及びエチドロン酸ナトリウム等;カルボン酸塩系分散剤として、ポリ(メタ)アクリル酸ナトリウム、ポリ(メタ)アクリル酸アンモニウム、アクリル酸ナトリウム/マレイン酸ナトリウム共重合体、及びアクリル酸アンモニウム/マレイン酸アンモニウム共重合体等;アルカリとして作用するものとして、水酸化ナトリウム、及びヒドロキシルアミン等;多価カチオンと反応し不溶性塩又は錯塩を形成するものとして、炭酸ナトリウム、及びケイ酸ナトリウム等;有機解膠剤として、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、フミン酸ナトリウム、リグニンスルホン酸ナトリウム等が挙げられる。これらの中でも、リン酸塩系分散剤としてピロリン酸ナトリウム、及びエチドロン酸ナトリウム、カルボン酸塩系分散剤としてポリ(メタ)アクリル酸ナトリウム、有機解膠剤としてポリエチレングリコール(PEG900等)等を好適に用いることができる。
中でも、カルボン酸塩系分散剤が好ましく、ポリ(メタ)アクリル酸ナトリウムがより好ましく、重量平均分子量1,000以上2万以下の低重合ポリアクリル酸ナトリウムが特に好ましい。上記の低重合ポリアクリル酸ナトリウムはケイ酸塩粒子と相互作用して粒子表面にカルボキシアニオン由来の負電荷を生じさせ、電荷の反発によりケイ酸塩を分散させる等の機構により分散剤として作用することが知られている。
【0033】
上記分散剤(C)の含有量は、放射線線量測定ゲル(100質量%)に対して100質量%中に0.01質量%乃至20質量%、好ましくは0.03質量%乃至10質量%、さらに好ましくは0.05質量%乃至10質量%である。
なお、本発明では、分散剤(C)を含有する形態にて上記(B)ケイ酸塩を使用する場合(例えば市販品など)には、分散剤(C)をさらに添加しても、添加しなくてもよい。
【0034】
≪成分(D):二価以上の正電荷を有する化合物≫
上記ゲルには、必要に応じて、さらに二価以上の正電荷を有する化合物(D)を加えることもできる。
上記化合物(D)としては、例えば、第2族元素を含む化合物、遷移金属元素を含む化合物、両性元素を含む化合物、及びポリアミン類を含む化合物からなる群から選ばれる1種又は2種以上の化合物が挙げられる。
【0035】
例えば、第2族元素を含む化合物として、ベリリウム、マグネシウム、及びカルシウムの化合物;遷移金属元素を含む化合物として、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、ジルコニウム、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、及びパラジウムの化合物;両性元素を含む化合物として、亜鉛、カドミウム、水銀、アルミニウム、ガリウム、インジウム、タリウム、スズ、及び鉛の化合物;ポリアミン類を含む化合物として、エチレンジアミン、フェニレンジアミン、ヒドラジン、プトレスシン、カダベリン、スペルミジン、及びスペルミンの化合物等が挙げられる。
【0036】
これら化合物は、二価以上の正電荷を有する酸化物や水酸化物、又は塩であり、さらにポリアミン類では、フリー体でもよい。
塩を構成する酸としては、硫酸、塩酸、臭化水素酸、フッ化水素酸、トリフルオロ酢酸、酢酸、リン酸、二リン酸、ヘキサメタリン酸、ポリリン酸、ケイ酸、アルミン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、メタンスルホン酸、及びp-トルエンスルホン酸等が挙げられる。
【0037】
二価以上の正電荷を有する化合物(D)としては、好ましくは、マグネシウム、カルシウム、アルミニウムの塩酸塩、硫酸塩、二リン酸塩、ケイ酸塩、及びアルミン酸塩であり、より好ましくは、塩化マグネシウム、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、硫酸アルミニウム、二リン酸カルシウム、及びケイ酸アルミン酸マグネシウムである。
【0038】
上記ゲルが成分(D)を含む場合、上記化合物(D)の含有量は、放射線線量測定ゲルの全質量(100質量%)に対して0.01質量%乃至50質量%、好ましくは0.05質量%乃至10質量%である。
【0039】
上記ゲル化剤を構成する水溶性有機高分子(A)、ケイ酸塩(B)、及び該ケイ酸塩の分散剤(C)の好ましい組合せとしては、放射線線量測定ゲル100質量%中、成分(A)として重量平均分子量200万以上750万以下の完全中和又は部分中和された直鎖型ポリアクリル酸ナトリウム0.05質量%乃至10質量%、成分(B)として水膨潤性スメクタイト又はサポナイト0.05質量%乃至10質量%、及び成分(C)としてピロリン酸ナトリウム0.05質量%乃至10質量%、又は重量平均分子量1,000以上2万以下のポリアクリル酸ナトリウム0.05質量%乃至10質量からなる組合せが挙げられる。
【0040】
また、本発明のゲル化剤が成分(D)を含む場合、上記水溶性有機高分子(A)、ケイ酸塩(B)、前記ケイ酸塩の分散剤(C)、及び上記化合物(D)の好ましい組合せとしては、放射線線量測定ゲル100質量%中、成分(A)として重量平均分子量200万以上750万以下の完全中和又は部分中和された直鎖型ポリアクリル酸ナトリウム0.05質量%乃至10質量%、成分(B)として水膨潤性スメクタイト又はサポナイト0.05質量%乃至10質量%、成分(C)としてピロリン酸ナトリウム0.05質量%乃至10質量%、又は重量平均分子量1,000以上2万以下のポリアクリル酸ナトリウム0.05質量%乃至10質量%、及び(D)として塩化マグネシウム又は塩化カルシウム又は硫酸マグネシウム0.05質量%乃至10質量%からなる組合せが挙げられる。
【0041】
[式(1)で表される化合物]
本発明の放射線線量測定ゲルは、重合性架橋剤として下記式(1)で表される化合物を含む。
【化2】
式(1)において、Rは水素原子又はメチル基を表す。好ましくは、Rは水素原子である。複数のRは、互いに同一であっても異なっていてもよく、同一であることが好ましい。
mは2~4の整数を表すが、m=2が好ましい。複数のmは、互いに同一であっても異なっていてもよく、同一であることが好ましい。また、C2mで表される炭素鎖は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよく、直鎖状であることが好ましい。
nは2~4の整数を表す。また、C2nで表される炭素鎖は、直鎖状であっても分岐鎖状であってもよく、直鎖状であることが好ましい。
kは0又は1を表す。好ましくは、kは0である。
【0042】
以下に式(1)で表される化合物の具体例を挙げるが、これらに限定されない。
【化3】
【0043】
一般式(1)で表される化合物の中でも、(1)-1、(1)-3、(1)-5、(1)-7が好ましく、(1)-1がより好ましい。
【0044】
上記式(1)で表される化合物の含有量は、放射線線量測定ゲルの全質量(100質量%)に対して、1質量%乃至15質量%、好ましくは2質量%乃至6質量%である。
【0045】
[放射線照射により重合可能なモノマー]
本発明の放射線線量測定ゲルは放射線照射により重合可能なモノマーを含むことができる。これにより、本発明の放射線線量測定ゲルはより放射線に対する線量感度を向上させることができ、該ゲルを放射線線量の計測材料として備える放射線線量計はより高感度なポリマーゲル線量計として機能する。
【0046】
上記放射線照射により重合可能なモノマーとしては、放射線の作用により重合可能な炭素-炭素不飽和結合を有するものであれば特に限定されず、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸2-メトキシメチル、メタクリル酸2-エトキシエチル、メタクリル酸2-ヒドロキシエチル、トリエチレングリコールモノエチルエーテルモノメタクリレート、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-メトキシエチル、N-ビニル-2-ピロリドン、アクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、アクリロイルモルホリン、N-イソプロピルアクリルアミド、メタクリロイル-L-アラニンメチルエステル、及びアクリロイル-L-プロリンメチルエステルなどが挙げられる。
【0047】
本発明の放射線線量測定ゲル中に放射線照射により重合可能なモノマーを含む場合、その含有量は、放射線線量測定ゲルの全質量(100質量%)に対して、例えば2質量%乃至15質量%であり、好ましくは3質量%乃至8質量%である。
【0048】
また、前記(1)で表される化合物以外の、1分子中に不飽和結合を2つ以上有するモノマー(以下、本明細書では、「その他重合性架橋剤」とも記載する)の少なくとも1種を含んでいてもよい。このようなその他重合性架橋剤としては、例えば、N,N’-メチレンビスアクリルアミド、N,N’-ジアリルアクリルアミド、N,N’-ジアクリロイルイミド、トリアリルホルマール、1,3,5-トリアクリロイルヘキサヒドロ-1,3,5-トリアジン、ジアリルナフタリン、エチレングリコールジアクリレート、エチレングリコールジメタクリレート、各種ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジメタクリレート、各種ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブチレングリコールジアクリレート、1,3-ブチレングリコールジメタクリレート、1,4-ブチレングリコールジメタクリレート、各種ポリブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリセロールジメタクリレート、ネオペンチルグリコールジメタクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、テトラメチロールメタンテトラメタクリレート、ジビニルベンゼン等のジビニル化合物などが挙げられる。各種ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートにおけるエチレングリコールの単位数は、1,2,3,4,9,14,23のものがあり、その中でも、溶解性の観点から、単位数が9以上の水溶性のものが好ましい。上述のモノマーの中には、水に溶解し難いものもあるが、ゲル中に均一に分散していて、放射線照射前のゲル全体が透明であればよい。さらに均一分散性を高めるためには、アルコールなどの有機溶剤を5%以下であれば添加してもよい。
【0049】
<その他の添加剤>
本発明の放射線線量測定ゲルは、放射線照射による重合反応を促進して放射線感受性を高めるために、アスコルビン酸やテトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウムクロリド(THPC)、テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウム硫酸塩(THPS)などの脱酸素剤や、グルコノ-δ-ラクトン、過塩素酸、硫酸や食塩などのpH調整剤を含むことが好ましい。また、本発明の放射線線量測定ゲルは放射線照射後の残存モノマーによる重合を抑制するために、ハイドロキノンやフェニレンジアミン等のフリーラジカル捕捉剤や、グアイアズレン等の紫外線吸収剤などを含んでもよい。さらに、本発明の放射線線量測定ゲルは、必要に応じて着色剤などを含んでもよい。
【0050】
[放射線線量計ゲルの製造方法]
放射線線量計ゲルの製造方法は特に限定されるものではないが、例えば、ゲル化剤としてゼラチン等の天然高分子、または、ゲル化剤として上記成分(A)乃至成分(C)、及び式(1)で表される化合物を所定の割合で混合し、所望により成分(D)、放射線照射により重合可能なモノマー、及びその他の添加剤をさらに添加して混合し、さらに水を添加して混合し、静置してゲル化させ、製造することができる。上記の各成分や添加剤等は含水溶液や水分散液の形態にて添加してもよい。
【0051】
また例えばゲル化剤として上記成分(A)乃至成分(C)を含有するゲル化剤を用いる場合には、例えば(A)成分乃至(C)成分のうちの2成分の混合物若しくはその水溶液又は含水溶液と、残りの1成分若しくはその水溶液又は含水溶液と、所望により成分(D)、放射線照射により重合可能なモノマー、及びその他の添加剤、あるいはこれら成分・モノマー・添加剤の含水溶液を添加剤とを混合・静置することによってゲル化させ、放射線線量計ゲルを製造することができる。また、各成分の混合物に対して、水又は含水溶液を添加することによってもゲル化が可能である。
【0052】
なお成分(D)は、ゲル化の前に各成分の混合時に添加する方法のほかに、ゲル化後に成分(D)の水溶液に浸漬させる方法により、添加することもできる。これらの処理方法はそれぞれの操作を組み合わせて行うこともできる。
上記浸漬法を用いる場合、成分(D)の水溶液の濃度としては、通常0.1質量%乃至50質量%であり、好ましくは1質量%乃至30質量%であり、より好ましくは5質量%乃至20質量%である
【0053】
上記ゲル化剤(天然高分子、成分(A)乃至成分(C))、並びに、所望により添加する成分(D)や放射線照射により重合可能なモノマー、及びその他の添加剤などその他成分を混合する方法としては、機械式又は手動による撹拌の他、超音波処理を用いることができるが、特に機械式撹拌が好ましい。機械式撹拌には、例えば、マグネチックスターラー、プロペラ式撹拌機、自転・公転式ミキサー、ディスパー、ホモジナイザー、振とう機、ボルテックスミキサー、ボールミル、ニーダー、超音波発振器等を使用することができる。そのなかでも、好ましくは自転・公転式ミキサーによる混合である。
混合する際の温度は、混合物(水溶液又は水分散液)の凝固点乃至沸点、好ましくは-5℃乃至100℃であり、より好ましくは0℃乃至50℃である。
【0054】
混合直後は強度が弱くゾル状であるが、静置することでゲル化する。静置時間は2時間乃至100時間が好ましい。静置温度は-5℃乃至100℃であり、好ましくは0℃乃至50℃である。また、混合直後のゲル化する前に型に流し込んだり、押出成型したりすることにより、任意形状の放射線線量測定ゲルを作製することができる。
【0055】
[放射線線量計]
本発明の放射線線量測定ゲルは放射線線量の計測材料に適するため、当該放射線線量測定ゲルを容器に充填して放射線線量計、例えばファントムとすることができる。容器はMRIに感応せず、放射線を透過し、耐溶剤性、気密性等を有していれば特に限定されず、その材質はガラス、アクリル樹脂、ポリエステル、エチレン-ビニルアルコール共重合体などが好ましい。容器が透明であれば、MRIのみならず、白濁度の3次元計測が可能な光学CTを使用することで、3次元線量分布を測定できる。また、該放射線線量測定ゲルを容器に充填した後、残りの空間を窒素ガス等で置換してもよい。
【0056】
[放射線線量の測定方法]
上記の放射線線量計を用いた、放射線線量の測定方法も本発明の対象である。
放射線線量の測定方法は、前記放射線線量計に放射線を照射する工程を含むこと以外には特に限定されない。例えば、放射線を照射する工程に用いる照射装置としては、汎用的なX線照射装置の他、IMRT(Intensity Modulated Radio Therapy:強度変調放射線治療)やSRT(Sterotactic Radio Therapy:定位放射線治療)といった線量集中性の高い放射線や、陽子線や重粒子線(炭素線、ネオン線等)といった荷電粒子による放射線など、高度なガンの放射線治療に使用される装置も使用し得、実際の治療を想定した照射においても前記放射線線量計を使用することができる。そして、照射後の線量解析方法としては、X線CT装置、光学CT装置、超音波エコー装置やMRI等による撮像により求めたR画像から緩和速度R-吸収線量特性を用いて吸収線量を求めて、照射後の放射線線量計の吸収線量分布を定量化する。
具体的には、例えば後述する実施例の[放射線線量計の照射試験]に記載した放射線線量計の照射実験の方法に準じて放射線量が求められる。
【実施例
【0057】
次に実施例を挙げ本発明の内容を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
以下、実施例で使用した各化合物は以下のとおりである。
[式(1)で表される化合物]
・N,N-ビス(2-アクリルアミドエチル)アクリルアミド(FAM-301):富士フイルム株式会社、商品名「FAM-301」
【化4】
N,N-ビス(2-アクリルアミドエチル)アクリルアミドは、使用前に、テトラヒドロフラン/ヘキサン(1/1)を用いて再結晶処理を行ったものを用いた。
[放射線照射により重合可能なモノマー]
・アクリルアミド(AAm):富士フイルム和光純薬株式会社
・N-ビニル-2-ピロリドン(NVP):東京化成工業株式会社
・2-ヒドロキシエチルメタクリレート(HEMA):東京化成工業株式会社
・N,N-ジメチルアクリルアミド(DiMeAAm):東京化成工業株式会社
・N-イソプロピルアクリルアミド(NIPAM):東京化成工業株式会社
【化5】
[その他の添加剤]
・テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウムクロリド(THPC)(80%水溶液、アルドリッチ社)
・ハイドロキノン(HQ):富士フイルム和光純薬株式会社
[その他化合物]
・N,N’-メチレンビスアクリルアミド(Bis):富士フイルム和光純薬株式会社
【0058】
[ゼラチンをゲル化剤とした放射線線量測定ゲルを放射線線量の計測材料として備える放射線線量計の製造]
<実施例1>
N,N-ビス(2-アクリルアミドエチル)アクリルアミド(富士フイルム株式会社))4g、ゼラチン(シグマアルドリッチ社製)10g、アクリルアミド(富士フイルム和光純薬株式会社製)6g、テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウムクロリド80%水溶液(アルドリッチ社製)360μLを水180gに加え、45℃乃至50℃で加熱し、均一になるまで撹拌した。得られた混合物を30mL用PETボトルに充填し、静置した状態で冷蔵庫により20時間冷却し、照射試験用の目的物を得た。
【0059】
<実施例2>
N,N-ビス(2-アクリルアミドエチル)アクリルアミド(富士フイルム株式会社)6g、ゼラチン(シグマアルドリッチ社製)10g、アクリルアミド(富士フイルム和光純薬株式会社製)6g、テトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウムクロリド80%水溶液(アルドリッチ社製)360μLを水178gに加え、45℃乃至50℃で加熱し、均一になるまで撹拌した。得られた混合物を30mL用PETボトルに充填し、静置した状態で冷蔵庫により20時間冷却し、照射試験用の目的物を得た。
【0060】
【表1】
【0061】
[製造例1:ケイ酸塩水分散液の製造]
ラポナイトXLG(BYK社製)6部、低重合ポリアクリル酸ナトリウム35%水溶液(重量平均分子量15,000:シグマアルドリッチ社製)7.1部、水86.9部を混合し、均一な水分散液になるまで25℃にて撹拌し目的物を得た。
【0062】
[製造例2:高重合ポリアクリル酸ナトリウム水溶液の製造]
高重合ポリアクリル酸ナトリウム[富士フイルム和光純薬株式会社製:重合度22,000乃至70,000、重量平均分子量2,068,000~6,580,000{ユニット分子量:94(-CH-CHCOONa-)として計算}、完全中和]2部、水98部を混合し、均一な水溶液になるまで25℃にて撹拌し目的物を得た。
【0063】
[水溶性有機高分子、ケイ酸塩及びケイ酸塩の分散剤を含有するゲル化剤を用いた放射線線量測定ゲルを放射線線量の計測材料として備える放射線線量計の製造]
<実施例3>
N,N-ビス(2-アクリルアミドエチル)アクリルアミド(富士フイルム株式会社)2g、N-ビニル-2-ピロリドン(東京化成工業株式会社製)16g、製造例2で製造した高重合ポリアクリル酸ナトリウム水溶液22gを水136gに加え、室温で撹拌した後、真空により脱気した。次に、氷水により冷却し、12℃程度でテトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウムクロリド80%水溶液(アルドリッチ社製)2.4gを加え、均一になるまで撹拌した。製造例1で製造したケイ酸塩水分散液22gを加え1分間撹拌した。得られた混合物を30mL用PETボトルに充填し、静置した状態で冷蔵庫により20時間冷却し、照射試験用の目的物を得た。
【0064】
<実施例4>
N,N-ビス(2-アクリルアミドエチル)アクリルアミド(富士フイルム株式会社)4g、N-ビニル-2-ピロリドン(東京化成工業株式会社製)16g、製造例2で製造した高重合ポリアクリル酸ナトリウム水溶液22gを水134gに加え、室温で撹拌した後、真空により脱気した。次に、氷水により冷却し、12℃程度でテトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウムクロリド80%水溶液(アルドリッチ社製)2.4gを加え、均一になるまで撹拌した。製造例1で製造したケイ酸塩水分散液22gを加え1分間撹拌した。得られた混合物を30mL用PETボトルに充填し、静置した状態で冷蔵庫により20時間冷却し、照射試験用の目的物を得た。
【0065】
<実施例5>
N,N-ビス(2-アクリルアミドエチル)アクリルアミド(富士フイルム株式会社)6g、N-ビニル-2-ピロリドン(東京化成工業株式会社製)16g、製造例2で製造した高重合ポリアクリル酸ナトリウム水溶液22gを水132gに加え、室温で撹拌した後、真空により脱気した。次に、氷水により冷却し、12℃程度でテトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウムクロリド80%水溶液(アルドリッチ社製)2.4gを加え、均一になるまで撹拌した。製造例1で製造したケイ酸塩水分散液22gを加え1分間撹拌した。得られた混合物を30mL用PETボトルに充填し、静置した状態で冷蔵庫により20時間冷却し、照射試験用の目的物を得た。
【0066】
<実施例6>
N,N-ビス(2-アクリルアミドエチル)アクリルアミド(富士フイルム株式会社)8g、N-ビニル-2-ピロリドン(東京化成工業株式会社製)16g、製造例2で製造した高重合ポリアクリル酸ナトリウム水溶液22gを水130gに加え、室温で撹拌した後、真空により脱気した。次に、氷水により冷却し、12℃程度でテトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウムクロリド80%水溶液(アルドリッチ社製)2.4gを加え、均一になるまで撹拌した。製造例1で製造したケイ酸塩水分散液22gを加え1分間撹拌した。得られた混合物を30mL用PETボトルに充填し、静置した状態で冷蔵庫により20時間冷却し、照射試験用の目的物を得た。
【0067】
<実施例7>
N,N-ビス(2-アクリルアミドエチル)アクリルアミド(富士フイルム株式会社)4g、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(東京化成工業株式会社製)8g、製造例2で製造した高重合ポリアクリル酸ナトリウム水溶液22gを水142gに加え、室温で撹拌した後、真空により脱気した。次に、氷水により冷却し、12℃程度でテトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウムクロリド80%水溶液(アルドリッチ社製)2.4gを加え、均一になるまで撹拌した。製造例1で製造したケイ酸塩水分散液22gを加え1分間撹拌した。得られた混合物を30mL用PETボトルに充填し、静置した状態で冷蔵庫により20時間冷却し、照射試験用の目的物を得た。
【0068】
<実施例8>
N,N-ビス(2-アクリルアミドエチル)アクリルアミド(富士フイルム株式会社)4g、N,N-ジメチルアクリルアミド(東京化成工業株式会社製)8g、製造例2で製造した高重合ポリアクリル酸ナトリウム水溶液22gを水142gに加え、室温で撹拌した後、真空により脱気した。次に、氷水により冷却し、12℃程度でテトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウムクロリド80%水溶液(アルドリッチ社製)2.4gを加え、均一になるまで撹拌した。製造例1で製造したケイ酸塩水分散液22gを加え1分間撹拌した。得られた混合物を30mL用PETボトルに充填し、静置した状態で冷蔵庫により20時間冷却し、照射試験用の目的物を得た。
【0069】
<実施例9>
N,N-ビス(2-アクリルアミドエチル)アクリルアミド(富士フイルム株式会社)6g、N-イソプロピルアクリルアミド(東京化成工業株式会社製)12g、製造例2で製造した高重合ポリアクリル酸ナトリウム水溶液22gを水136gに加え、室温で撹拌した後、真空により脱気した。次に、氷水により冷却し、12℃程度でテトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウムクロリド80%水溶液(アルドリッチ社製)2.4gを加え、均一になるまで撹拌した。製造例1で製造したケイ酸塩水分散液22gを加え1分間撹拌した。得られた混合物を30mL用PETボトルに充填し、静置した状態で冷蔵庫により20時間冷却し、照射試験用の目的物を得た。
【0070】
<実施例10>
N,N-ビス(2-アクリルアミドエチル)アクリルアミド(富士フイルム株式会社)6g、N-ビニル-2-ピロリドン(東京化成工業株式会社製)12g、製造例2で製造した高重合ポリアクリル酸ナトリウム水溶液22gを水136gに加え、室温で撹拌した後、真空により脱気した。次に、氷水により冷却し、12℃程度でテトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウムクロリド80%水溶液(アルドリッチ社製)2.4gを加え、均一になるまで撹拌した。製造例1で製造したケイ酸塩水分散液22gを加え1分間撹拌した。得られた混合物を30mL用PETボトルに充填し、静置した状態で冷蔵庫により20時間冷却し、照射試験用の目的物を得た。
【0071】
<実施例11>
N,N-ビス(2-アクリルアミドエチル)アクリルアミド(富士フイルム株式会社)6g、N-ビニル-2-ピロリドン(東京化成工業株式会社製)12g、ヒドロキノン(富士フイルム和光純薬株式会社製)0.04g、製造例2で製造した高重合ポリアクリル酸ナトリウム水溶液22gを水136gに加え、室温で撹拌した後、真空により脱気した。次に、氷水により冷却し、12℃程度でテトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウムクロリド80%水溶液(アルドリッチ社製)2.4gを加え、均一になるまで撹拌した。製造例1で製造したケイ酸塩水分散液22gを加え1分間撹拌した。得られた混合物を30mL用PETボトルに充填し、静置した状態で冷蔵庫により20時間冷却し、照射試験用の目的物を得た。
【0072】
<比較例1>
N,N’-メチレンビスアクリルアミド(Bis)(富士フイルム和光純薬株式会社製)8g、N-ビニル-2-ピロリドン(東京化成工業株式会社製)16g、製造例2で製造した高重合ポリアクリル酸ナトリウム水溶液22gを水130gに加え、45℃で撹拌した後、加熱(45℃/30分)により脱気した。次に、氷水により冷却し、12℃程度でテトラキス(ヒドロキシメチル)ホスホニウムクロリド80%水溶液(アルドリッチ社製)2.4gを加え、均一になるまで撹拌した。製造例1で製造したケイ酸塩水分散液22gを加え1分間撹拌した。得られた混合物を30mL用PETボトルに充填し、静置した状態で冷蔵庫により20時間冷却し、照射試験用の目的物を得た。
【0073】
【表2】
【0074】
[放射線線量計の照射試験]
実施例1乃至実施例11及び比較例1で得られた照射試験用の目的物(放射線線量計のサンプル)に対して、ラジオフレックス 250CG(理学電機株式会社(現:株式会社リガク))を用いてX線(250kV,4mA)を照射した。具体的には、各サンプルに、線量率1Gy/分で1Gy、3Gy、5Gy、7Gyを照射した。何れのサンプルもX線照射により白濁し、放射線線量計として機能することが確認された。
照射後の各サンプルを、3T MRI(MAGNETOM Prisma、シーメンス社製)によるMRI測定によって分析した。分析のためのパルス磁界として、スピンエコーマルチコントラストシーケンス(se_mc)を印加し、各サンプルのT緩和時間を取得して、R(つまり1/T)を算出した。照射後のRから未照射のRを引いてΔRを算出した。得られた結果を表3に示す。また図1に実施例3乃至実施例6、図2に実施例6と比較例1の放射線線量計の照射試験の結果を示す。
【0075】
【表3】
【0076】
表3、図1及び図2に示すように、線量に比例してΔRが増加する(感度が高まる)ことを確認できた。
また図1に示すように、N,N-ビス(2-アクリルアミドエチル)アクリルアミド(式(1)で表される化合物)の添加量の増加(実施例3:1%、実施例4:2%、実施例5:3%、実施例6:4%)とともに感度が高まることが確認された。
また図2に示すように、N,N-ビス(2-アクリルアミドエチル)アクリルアミド(式(1)で表される化合物)を含む放射線線量計は、N,N’-メチレンビスアクリルアミド(Bis)を含む比較例の放射線線量計と比べて、感度が高いことが確認された。
図1
図2