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特許7414308鑑賞性に優れた八重咲きトレニア植物及びその作出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】鑑賞性に優れた八重咲きトレニア植物及びその作出方法
(51)【国際特許分類】
   A01H 1/02 20060101AFI20240109BHJP
   A01H 5/02 20180101ALI20240109BHJP
   A01H 6/00 20180101ALI20240109BHJP
【FI】
A01H1/02 Z
A01H5/02
A01H6/00
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2022037742
(22)【出願日】2022-03-11
(65)【公開番号】P2023132425
(43)【公開日】2023-09-22
【審査請求日】2023-11-29
【微生物の受託番号】IPOD  FERM P-22419
【微生物の受託番号】IPOD  FERM P-22420
【微生物の受託番号】IPOD  FERM P-22437
【微生物の受託番号】IPOD  FERM P-22422
【微生物の受託番号】IPOD  FERM P-22418
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100189094
【弁理士】
【氏名又は名称】田邉 陽一
(72)【発明者】
【氏名】西島 隆明
【審査官】太田 雄三
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-18100(JP,A)
【文献】西島隆明,仁木智哉,花018 トレニアの易変異性系統「雀斑」の自殖後代に現れた新規変異体「八重咲」,園芸学研究,2013年03月23日,第12巻 別冊1(園芸学会平成25年度春季大会,p. 183
【文献】NISHIJIMA, T., et al.,A Novel “Petaloid” Mutant of Torenia (Torenia fournieri Lind. ex Fourn.) Bears Double Flowers through Insertion of the DNA Transposon Ttf1 into a C-class Floral Homeotic Gene,The Horticulture Journal,2016年07月23日,Vol. 85, No. 3,pp. 272-283,doi: 10.2503/hortj.MI-108
【文献】西島隆明,トレニアに内在する変異原を利用した育種法と形質解析法の開発,JATAFFジャーナル,2017年06月01日,Vol. 5, No. 6,pp. 11-15
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01H 1/00
A01H 5/00
A01H 6/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(交配親1)半八重系統(FERM P-22419)に属するトレニア植物、又は、その後代集団又は変異集団に属し且つ発達した花弁を7~10枚有する花形特性を備えたトレニア植物、及び、
(交配親2)多心皮系統(FERM P-22420)に属するトレニア植物、又は、その後代集団又は変異集団に属し且つ心皮数が増大した花形特性を備えたトレニア植物、
を交配してF1集団を得、
得られたF1集団である交雑第1世代集団から生じたそれより後の世代の集団である交雑第2世代以降の集団から、発達した花弁を15枚以上有する花形特性を備えた個体を選抜する、
工程を含む、八重咲きトレニア植物の作出方法。
【請求項2】
(交配親3)請求項1に記載の作出方法にて得られた八重咲きトレニア植物、完全八重系統(FERM P-22437)に属するトレニア植物、又は、これらの後代集団又は変異集団に属し且つ発達した花弁を15枚以上有する花形特性を備えたトレニア植物、及び、
(交配親4)任意のトレニア植物、
を交配してF1集団を得、
得られたF1集団である交雑第1世代集団から生じたそれより後の世代の集団である交雑第2世代以降の集団から、発達した花弁を15枚以上有する花形特性を備え、且つ、所望の形質を備えた個体を選抜する、
工程を含む、八重咲きトレニア植物の作出方法。
【請求項3】
(交配親3’)請求項1又は2に記載の作出方法にて得られた八重咲きトレニア植物、完全八重系統(FERM P-22437)に属するトレニア植物、又は、これらの後代集団又は変異集団に属し且つ発達した花弁を15枚以上有する花形特性を備えたトレニア植物、及び、
(交配親5)ベゴニア様系統(FERM P-22422)に属するトレニア植物、又は、その後代集団又は変異集団に属し且つ花形が左右対称及び向背対称である花形特性を備えたトレニア植物、
を交配してF1集団を得、
得られたF1集団である交雑第1世代集団から生じたそれより後の世代の集団である交雑第2世代以降の集団から、発達した花弁を15枚以上有する花形特性を備え、且つ、前記花弁が花軸を中心に八重を形成するように放射状に配列し且つ放射相称状の花冠を示す花形特性を備えた個体を選抜する、
工程を含む、八重咲きトレニア植物の作出方法。
【請求項4】
(交配親6)請求項3に記載の作出方法にて得られた八重咲きトレニア植物、カーネーション様完全八重系統(FERM P-22418)に属するトレニア植物、又は、これらの後代集団又は変異集団に属し且つ発達した花弁を15枚以上有する花形特性を備え且つ前記花弁が花軸を中心に八重を形成するように放射状に配列し且つ放射相称状の花冠を示す花形特性を備えたトレニア植物、及び、
(交配親7)任意のトレニア植物、
を交配してF1集団を得、
得られたF1集団である交雑第1世代集団から生じたそれより後の世代の集団である交雑第2世代以降の集団から、発達した花弁を15枚以上有する花形特性を備え、且つ、前記花弁が花軸を中心に八重を形成するように放射状に配列し且つ放射相称状の花冠を示す花形特性を備え、且つ、所望の形質を備えた個体を選抜する、
工程を含む、八重咲きトレニア植物の作出方法。
【請求項5】
以下に記載の(植物1)、(植物2)、又は(植物3)に示す八重咲きトレニア植物:
(植物1)完全八重系統(FERM P-22437)又はカーネーション様完全八重系統(FERM P-22418)に属するトレニア植物、
(植物2)前記(植物1)に記載のトレニア植物の後代集団に属するトレニア植物であって、発達した花弁を15枚以上有する花形特性を備えたトレニア植物、
(植物3)前記(植物1)又は(植物2)に記載のトレニア植物の変異集団に属するトレニア植物であって、発達した花弁を15枚以上有する花形特性を備えたトレニア植物。
【請求項6】
以下に記載の(植物1’)、(植物2’)、又は(植物3’)に示す八重咲きトレニア植物:
(植物1’)カーネーション様完全八重系統(FERM P-22418)に属するトレニア植物、
(植物2’)前記(植物1’)に記載のトレニア植物の後代集団に属するトレニア植物であって、発達した花弁を15枚以上有する花形特性を備え、且つ、前記花弁が花軸を中心に八重を形成するように放射状に配列し且つ放射相称状の花冠を示す花形特性を備えたトレニア植物、
(植物3’)前記(植物1’)又は(植物2’)に記載のトレニア植物の変異集団に属するトレニア植物であって、発達した花弁を15枚以上有する花形特性を備え、且つ、前記花弁が花軸を中心に八重を形成するように放射状に配列し且つ放射相称状の花冠を示す花形特性を備えたトレニア植物。
【請求項7】
請求項1~4のいずれか一項に記載の作出方法にて得られた八重咲きトレニア植物、を交配親の一方又は双方に用いることを特徴とする、八重咲きトレニア植物の作出方法。
【請求項8】
請求項5又は6に記載の八重咲きトレニア植物、を交配親の一方又は双方に用いることを特徴とする、八重咲きトレニア植物の作出方法。
【請求項9】
請求項5又は6に記載の八重咲きトレニア植物の植物体。
【請求項10】
請求項5又は6に記載の八重咲きトレニア植物、を用いることを特徴とする、
八重咲きトレニア植物の栽培方法、八重咲きトレニア植物の植物体を生産する方法、又は、八重咲きトレニア植物の系統を作出する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鑑賞性に優れた八重咲きの花形特性を示すトレニア植物及びその作出方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球温暖化の影響で夏季に猛暑に見舞われることが多くなった状況において、夏季の花壇用花きとして主要な地位を占めるペチュニア、マリーゴールド等が高温で生育不良になるケースが増え、より強い耐暑性をもつ品目が求められている。しかし、ペチュニアやマリーゴールドに匹敵する高い観賞性と耐暑性を兼ね備えた花壇用花きの品目は少なく、夏季の花壇の植栽を設計する上で、また、鉢花として利用する上で、制約が多いのが現状である。
トレニアは、花きの中でも極めて高い耐暑性を有するところ、日向から日蔭まで幅広い光条件下で栽培が可能な優れた環境適応性を備える。そのため、日本のみならず米国でも人気の高い花である。しかし、トレニアは、花形変異を得ることが難しい植物種であり、日本では明治時代以来栽培されているにも関わらず依然として花形のバリエーションに乏しく、一重で小輪の品種しか存在しない。この点、八重咲き等のより華やかで見栄えのする花形を獲得できれば、優れた環境適応性と相まって、夏季の花壇や鉢植えを彩る主要な花きとなることが期待される。
【0003】
上記事情が示すように、トレニアは耐暑性に優れた植物であるところ、その花形は一重の品種のみで、夏季の花壇設計の品目としても採用可能な高い鑑賞性を備えた八重咲き品種系統の作出が望まれている。
しかしながら、トレニアには、重粒子線や化学変異原等を利用した従来の変異処理では花形変異体を得にくい特性を有する当該植物に特有の事情が存在する。また、トレニアに関しても他の植物種と同様にホメオティック遺伝子が報告されており、Cクラス遺伝子の機能阻害を目的とした変異によって雄蕊と雌蕊が花弁化したペタロイド変異体が報告されている。しかしながら、トレニアCクラス遺伝子機能欠損変異では、発達した花弁数が9枚(通常花弁5枚及びペタロイド化花弁4枚)と少なく、鑑賞には適した八重咲きの花形とは認められない(非特許文献1)。また、遺伝子組換えでCクラス遺伝子の機能をほぼ完全に抑制して完全不稔化を行ったトレニア植物も報告されているが、この場合、増加した花弁が未発達で十分展開せず、観賞性が高まった花形とは認められない(特許文献1)。
また、トレニアの特定ステージにある花芽をホルクロルフェニュロン(CPPU)処理することによって、花弁の裂片数が増加したトレニアの花を得る技術が報告されているが(非特許文献5)、当該技術で得られた花形は、花芽形成における薬剤処理に起因する一過的な形態変異に過ぎないため(植物の遺伝的背景を改変する技術ではないため)、遺伝的に次世代に受け継がれる形質ではない。また、当該技術で得られる八重咲きの花形は、CPPU処理を行った特定ステージにある花芽にのみ出現する花形であり、当該植物体の他の花芽やその後の当該植物体においても八重咲きの花形が出現するわけではない。
【0004】
上記のように遺伝的な花形変異体を得ることが困難であるトレニアの技術背景において、本発明者は、化学変異原処理の変異体からトランスポゾン転移活性化変異体である「雀斑(そばかす)」系統を見出した。当該雀斑系統は、そのトランスポゾン高転移活性の影響によって、自殖後代からスクリーニングを行うことで、トレニア植物に関する様々な変異体を次々と得ることを可能とする特殊な変異形質を示す(非特許文献2)。しかしながら、高変異活性を有する「雀斑」の自殖系統のスクリーニング選抜を行った場合であっても、鑑賞性の高い八重咲きの花形態を有する変異体は発見されておらず、その作出手段も見出されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-18100号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】T. Nishijima et al., The Horticulture Journal, 2016 Volume 85 Issue 3 p272-283, A Novel “Petaloid” Mutant of Torenia (Torenia fournieri Lind. ex Fourn.) Bears Double Flowers through Insertion of the DNA Transposon Ttf1 into a C-class Floral Homeotic Gene
【文献】T. Nishijima et al., Journal of the Japanese Society for Horticultural Science, 2013 Volume 82 Issue 1 p39-50, A Torenia (Torenia fournieri Lind. ex Fourn.) Novel Mutant ‘Flecked’ Produces Variegated Flowers by Insertion of a DNA Transposon into an R2R3-MYB Gene
【文献】T. Niki et al., The Horticulture Journal, 2016 Volume 85 Issue 4 p351-359, Conversion of Abaxial to Adaxial Petal in a Torenia (Torenia fournieri Lind. ex Fourn.) Mutant Appeared in Selfed Progeny of the Mutable Line “Flecked”
【文献】西島隆明・仁木智哉・鈴木孝征・東山哲也・鳴海貴子・佐々木克友・四方雅仁(2015)トレニアの易変性系統「雀斑」の自殖後代に生じた向軸側花弁が着色する変異体.園芸学研究15(別2), 254.
【文献】T. Nishijima et al., Scientia Horticulturae, 2006 Volume 109, p254-261, Change in flower morphology of Torenia fournieri Lind. induced by forchlorfenuron application
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術の事情に鑑みてなされたものでありその課題とする処は、鑑賞性に優れた八重咲きのトレニア植物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記従来技術の状況において、本発明者は鋭意研究を行ったところ、上記「雀斑(そばかす)」の自殖系統からの選抜を行った中から、花弁数がやや増加する「半八重」の花形特性を示す変異体を見出した。当該半八重変異は、劣性一因子の遺伝様式を示す変異形質であった。ここで、当該「半八重」を示すトレニア植物は、花弁数がやや増加するものの花弁数は7~10枚と少なく、鑑賞に適した八重咲きのトレニア植物とは認められなかった。
また、上記とは別途に、本発明者は、「雀斑」の自殖系統から雌蕊を構成する心皮の数が増加した「多心皮」の花形特性を示す変異体を見出した。当該多心皮変異は、劣性一因子の遺伝様式を示す変異形質であった。
【0009】
本発明者は、上記にて得られた半八重系統と多心皮系統を交配し、その後代から出現する個体の花形を調査したところ、驚くべきことに、その交雑集団のF2世代から、発達した花弁を十分に多く有する鑑賞性に優れた八重咲きの(「完全八重」の花形特性を備えた)トレニア植物が、一定頻度で出現することを見出した。また、その出現頻度は、二重変異の出現頻度と矛盾しない値を示し、当該「完全八重」の特性は、半八重変異と多心皮変異の二重変異の表現型として出現している形質であると認められた。
ここで、交配親の1つである多心皮変異は、雌蕊に関する変異であり、半八重との交配によって二重変異体の作出によって十分に発達した花弁の数を大幅に増加させる形質が発揮されることは、本願実施例での交雑試験によって初めて明らかになった知見である。
【0010】
更に、本発明者は、上記とは別途に「雀斑」の自殖系統から、花形がベゴニア様(左右相称であり且つ向背相称)を示す変異体を見出した。ベゴニア様変異体は、左右対称のみを示す通常のトレニア植物の花形と比較して、向背(上下)での対称性が追加された花形を示す。当該「ベゴニア様」を示すトレニア植物は、劣性一因子の遺伝様式を示す変異体であった。
本発明者は、上記にて得られた完全八重系統とベゴニア様の花弁形状を有する一系統を交配したところ、驚くべきことに、その交雑集団のF2世代から、発達した花弁を十分に多く有する完全八重の花形特性を備え、且つ、前記花弁が花軸を中心に八重を形成するように放射状に配列し且つ放射相称状の花冠を示す花形特性を備えた、極めて鑑賞性に優れた八重咲きの(「カーネーション様完全八重系統」の花形特性を備えた)トレニア植物が、一定頻度で出現することを見出した。当該形質の出現頻度は、各変異に関する多重変異体の出現頻度と矛盾しない値を示し、当該「カーネーション様完全八重」の特性は、完全八重の二重変異及びベゴニア様変異を合わせた多重変異の表現型として出現している形質であると認められた。
ここで、交配親である完全八重系統及びベゴニア様系統が有する変異は、その花形(花部の形態)は放射相称状の花冠とはならない変異である。この点、完全八重系統とベゴニア様系統との交配による多重変異体の作出によって、非常に多数の花弁が花軸を中心に放射状に八重を形成するようにランダムに配列し、花形の全体外観として放射相称状の花冠を示す表現型が出現することは、本例での交雑試験によって初めて明らかになった知見である。
【0011】
本発明者らは上記知見に基づいて本発明を完成するに至った。本発明は具体的には以下に記載の発明に関する。
[項1]
(交配親1)半八重系統(FERM P-22419)に属するトレニア植物、又は、その後代集団又は変異集団に属し且つ発達した花弁を7~10枚有する花形特性を備えたトレニア植物、及び、
(交配親2)多心皮系統(FERM P-22420)に属するトレニア植物、又は、その後代集団又は変異集団に属し且つ心皮数が増大した花形特性を備えたトレニア植物、
を交配してF1集団を得、
得られたF1集団である交雑第1世代集団から生じたそれより後の世代の集団である交雑第2世代以降の集団から、発達した花弁を15枚以上有する花形特性を備えた個体を選抜する、
工程を含む、八重咲きトレニア植物の作出方法。
[項2]
(交配親3)項1に記載の作出方法にて得られた八重咲きトレニア植物、完全八重系統(FERM P-22437)に属するトレニア植物、又は、これらの後代集団又は変異集団に属し且つ発達した花弁を15枚以上有する花形特性を備えたトレニア植物、及び、
(交配親4)任意のトレニア植物、
を交配してF1集団を得、
得られたF1集団である交雑第1世代集団から生じたそれより後の世代の集団である交雑第2世代以降の集団から、発達した花弁を15枚以上有する花形特性を備え、且つ、所望の形質を備えた個体を選抜する、
工程を含む、八重咲きトレニア植物の作出方法。
[項3]
(交配親3’)項1又は2に記載の作出方法にて得られた八重咲きトレニア植物、完全八重系統(FERM P-22437)に属するトレニア植物、又は、これらの後代集団又は変異集団に属し且つ発達した花弁を15枚以上有する花形特性を備えたトレニア植物、及び、
(交配親5)ベゴニア様系統(FERM P-22422)に属するトレニア植物、又は、その後代集団又は変異集団に属し且つ花形が左右対称及び向背対称である花形特性を備えたトレニア植物、
を交配してF1集団を得、
得られたF1集団である交雑第1世代集団から生じたそれより後の世代の集団である交雑第2世代以降の集団から、発達した花弁を15枚以上有する花形特性を備え、且つ、前記花弁が花軸を中心に八重を形成するように放射状に配列し且つ放射相称状の花冠を示す花形特性を備えた個体を選抜する、
工程を含む、八重咲きトレニア植物の作出方法。
[項4]
(交配親6)項3に記載の作出方法にて得られた八重咲きトレニア植物、カーネーション様完全八重系統(FERM P-22418)に属するトレニア植物、又は、これらの後代集団又は変異集団に属し且つ発達した花弁を15枚以上有する花形特性を備え且つ前記花弁が花軸を中心に八重を形成するように放射状に配列し且つ放射相称状の花冠を示す花形特性を備えたトレニア植物、及び、
(交配親7)任意のトレニア植物、
を交配してF1集団を得、
得られたF1集団である交雑第1世代集団から生じたそれより後の世代の集団である交雑第2世代以降の集団から、発達した花弁を15枚以上有する花形特性を備え、且つ、前記花弁が花軸を中心に八重を形成するように放射状に配列し且つ放射相称状の花冠を示す花形特性を備え、且つ、所望の形質を備えた個体を選抜する、
工程を含む、八重咲きトレニア植物の作出方法。
[項5]
以下に記載の(植物1)、(植物2)、又は(植物3)に示す八重咲きトレニア植物:
(植物1)完全八重系統(FERM P-22437)又はカーネーション様完全八重系統(FERM P-22418)に属するトレニア植物、
(植物2)前記(植物1)に記載のトレニア植物の後代集団に属するトレニア植物であって、発達した花弁を15枚以上有する花形特性を備えたトレニア植物、
(植物3)前記(植物1)又は(植物2)に記載のトレニア植物の変異集団に属するトレニア植物であって、発達した花弁を15枚以上有する花形特性を備えたトレニア植物。
[項6]
以下に記載の(植物1’)、(植物2’)、又は(植物3’)に示す八重咲きトレニア植物:
(植物1’)カーネーション様完全八重系統(FERM P-22418)に属するトレニア植物、
(植物2’)前記(植物1’)に記載のトレニア植物の後代集団に属するトレニア植物であって、発達した花弁を15枚以上有する花形特性を備え、且つ、前記花弁が花軸を中心に八重を形成するように放射状に配列し且つ放射相称状の花冠を示す花形特性を備えたトレニア植物、
(植物3’)前記(植物1’)又は(植物2’)に記載のトレニア植物の変異集団に属するトレニア植物であって、発達した花弁を15枚以上有する花形特性を備え、且つ、前記花弁が花軸を中心に八重を形成するように放射状に配列し且つ放射相称状の花冠を示す花形特性を備えたトレニア植物。
[項7]
項1~4のいずれか一項に記載の作出方法にて得られた八重咲きトレニア植物、を交配親の一方又は双方に用いることを特徴とする、八重咲きトレニア植物の作出方法。
[項8]
項5又は6に記載の八重咲きトレニア植物、を交配親の一方又は双方に用いることを特徴とする、八重咲きトレニア植物の作出方法。
[項9]
項5又は6に記載の八重咲きトレニア植物の植物体。
[項10]
項5又は6に記載の八重咲きトレニア植物、を用いることを特徴とする、
八重咲きトレニア植物の栽培方法、八重咲きトレニア植物の植物体を生産する方法、又は、八重咲きトレニア植物の系統を作出する方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、鑑賞性に優れた八重咲きのトレニア植物を提供することを可能とする。また、本発明は、更に鑑賞に優れた花形特性を備えた八重咲きのトレニア植物を作出するために使用する中間母本系統を提供することを可能とする。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】トレニア植物の花部を撮影した写真像図である。左図:正常型。右図:雀斑系統。
図2】完全八重の花形特性を示すトレニア植物の作出に関して、その作出に用いた中間母本系統及び作出された八重咲き系統の花部を撮影した写真像図である。上段左図:半八重系統。上段右図:多心皮系統。下段:完全八重系統。
図3】カーネーション様完全八重の花形特性を示すトレニア植物の作出に関して、その作出に用いた中間母本系統の花部を撮影した写真像図である。上段左図:ベゴニア様系統。上段右図:向背軸弁着色系統。下段:ベゴニア様系統(着色均等型)。
図4】カーネーション様完全八重の花形特性を示すトレニア植物の作出に関して、作出されたカーネーション様完全八重系統の花部を示した図である。左図:植物体を含む花部の写真像図。右図:花部のみの写真像図。
図5】本実施例に関して、八重咲きトレニア植物を作出するために行われた育種工程を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明に係る技術的範囲は、下記した構成を全て含む態様に限定されるものではない。また、本発明に係る技術的範囲は、下記に記載した構成以外の他の構成を含む態様を除外するものではない。
【0015】
1.技術背景、用語の説明等
本発明に係る「トレニア植物」には、(a)アゼナ科ツルウリクサ属(トレニア属)フルニエリ種(Torenia fournieri Lind. ex Fourn.)に属する植物が含まれる。詳しくは、本発明に係る「トレニア植物」には、フルニエリ種(Torenia fournieri)に属する各系統(品種を含む)又は集団に属する植物が含まれる。園芸品種や作出系統・集団だけでなく、野生種の系統や地域集団もここに含まれる。また、本発明に係る「トレニア植物」には、フルニエリ種に属する各系統(品種を含む)又は集団に属するトレニア植物どうし(各系統・集団間どうし)の交雑によって生じた雑種(交雑集団)又はその子孫集団に属する植物が含まれる。
【0016】
また、本発明に係る「トレニア植物」には、(b)フルニエリ種に属する植物と、フルニエリ種以外のツルウリクサ属(トレニア属)に属する植物と、の交雑によって生じた雑種(交雑集団)又はその子孫集団に属する植物が含まれる。
また、本発明に係る「トレニア植物」としては、(c)上記(b)として示されたトレニア植物どうし(各系統・集団間どうし)の交雑によって生じた交雑集団又はその子孫集団に属する植物が含まれる。
ここで、当該雑種形成時の他方の親である「フルニエリ種以外のツルウリクサ属に属する植物」としては、フルニエリ種との交配によって雑種形成が可能なツルウリクサ属(トレニア属)に分類される種、系統(品種を含む)、集団に属する植物を挙げることができる。
当該「フルニエリ種以外のツルウリクサ属に属する植物」としては、一例としては、フルニエリ種の近縁種であるコンカラー種(Torenia concolor)、バイロニー種(Torenia baillonii)、バイカラー種(Torenia bicolor)等、;当該近縁種に属する系統(品種を含む)又は集団、;これらの系統(品種を含む)又は集団の間での雑種(交雑集団)、;当該雑種(交雑集団)の子孫集団、;に属する植物を挙げることができる。ここで、コンカラー種、バイロニー種、バイカラー種は、これまでにフルニエリ種との交雑による雑種形成が確認されているフルニエリ種の近縁種である。また、これら3種以外のツルウリクサ属に属する植物であっても、フルニエリ種との交雑によって雑種形成が可能なツルウリクサ属に分類される植物であれば、当該「フルニエリ種以外のツルウリクサ属に属する植物」に含まれる。
また、当該「フルニエリ種以外のツルウリクサ属に属する植物」としては、上記(b)又は(c)として示されたトレニア植物、等を挙げることも可能である。これらのトレニア植物は、フルニエリ種からの遺伝的背景を強く受け継いだ雑種又はその子孫であるため、当該植物として好適に挙げることができる。
更に、上記(b)又は(c)として示されたトレニア植物と、フルニエリ種に属する植物と、の交雑によって生じた雑種(交配集団)又はその子孫集団に関しても、上記と同様に、「フルニエリ種以外のツルウリクサ属に属する植物」として挙げることが可能である。また、この後の世代において同様にフルニエリ種との交雑を行って得られた雑種(交配集団)又はその子孫集団に関しても、上記と同様に「フルニエリ種以外のツルウリクサ属に属する植物」として挙げることが可能である。
【0017】
ここで、上記((a)、(b)、(c)等を含む)において記載された交雑による交雑集団(雑種)の形成では、1又は2以上の交雑を行って1又は2以上の交雑集団が形成される態様を含む。即ち、当該交雑では、上記した各交配親の範囲内において交配親の組み合わせを変えて、2以上の交雑集団が形成される態様が含まれる。また、その子孫集団の形成では、2以上の異なる交雑集団の間(各系統・集団間)の交配によって生じる子孫集団の形成が含まれる。
また、上記((a)、(b)、(c)等を含む)において記載された「その子孫集団」という表現は、交雑によって生じた交雑集団(雑種:交雑第1世代の集団)より後の世代の集団である交雑第2世代以降の集団を指す。当該子孫集団や後代集団に関する説明としては、本段落1.に下記した説明内容、並びに、下記段落3.に記載した「交雑第1世代の集団」及び「交雑第1世代集団から生じたそれより後の世代の集団」の説明内容を参照又は引用して、当該内容とすることも可能である。
【0018】
ここで、正常型(野生型)のトレニア植物の花形は、5枚の花弁が花軸を中心に一重に配列した左右相称花の花形特性を示す。また、各花弁は基部が合着して合弁花冠を示す。
通常の正常型のトレニア植物の花形においては、背軸側花弁及び左右軸側花弁が同型の花弁形状を示し、向軸側花弁はこれらと異なる形状の花弁形状を示す。
当該花弁の形状としては、背軸側花弁と左右軸側花弁は同型のへら形の花弁を示す。ここで、「へら形」とは、葉や花弁の形状を示す学術用語である。当該形状の一般的な態様としては、基部から中央下付近まで幅が狭く徐々に広がる形状を示すが、中央下付近から中央付近にかけて花弁幅が急に広くなり、中央付近から中央上付近にかけて幅の広がりが緩くなって中央上付近で幅が最大となり、中央上付近から先端付近では花弁幅が急に狭くなって先端部分が丸みを帯びた形状を示す。物品で例えると、しゃもじ状の形状を示す。
また、向軸側の花弁2枚は、上記へら形花弁が左右から完全に合着して幅の広い大型のへら形の形状を示す。
また、花色特性に関しては、様々な花色が知られているが、各花弁で異なる着色様式を示す傾向がある。向軸側花弁は、背軸側花弁及び左右軸側花弁と比較して、着色が薄い花色となる傾向を示す。背軸側花弁及び左右軸側花弁は、基部が薄い色調であるが先端付近が濃い色調となる傾向を示す。また、背軸側花弁は、その中央付近に黄色の蜜標を有することが多い。
【0019】
本明細書中、「雀斑(そばかす)系統」とは、本発明者らによって得られたトランスポゾン高転移活性を有する変異体の形質を、集団として固定して作出されたトレニア植物の系統を指す。当該雀斑系統は、そのトランスポゾン高転移活性の影響によって、自殖後代からスクリーニングを行うことで、トレニア植物に関する様々な変異体を次々と得ることを可能とする特殊な変異形質を示す(非特許文献2)。
【0020】
本明細書中、「後代集団」という用語は、対象のトレニア植物を交配親の一方又は双方として得られる子集団(交配又は自殖によって得られる子集団)及びその子孫集団を指す。異なる品種系統どうしの交配により生じた交雑集団(子集団)及びその子孫集団もここに含まれる。
当該子孫集団としては、得られた複数の子集団間の交配によって生じた集団、得られた同一の子集団内の個体どうしの交配によって生じた集団、得られた子集団に属する個体の自殖によって生じた集団、が含まれる。
また、当該後代集団としては、これらの更なる後代集団も含まれる。即ち、当該子孫集団としては、得られた複数の子孫集団の間での交配によって生じた集団、得られた子集団と子孫集団の間での交配によって生じた集団、得られた同一の子孫集団内の個体どうしの交配によって生じた集団、得られた子孫集団に属する個体の自殖によって生じた集団、が含まれる。
【0021】
本明細書中、「変異集団(変異体集団、変異系統)」としては、突然変異、遺伝子導入、ゲノム編集等によって作出された変異体(変異個体)の変異形質が固定された集団を指す。その変異形質を備えた後代集団もここに含まれる。
【0022】
本明細書中、「交雑第1世代集団」とは、異なる集団又は品種系統の交配(交雑)によって生じたF1集団(交雑集団)を指す。本明細書中における「交雑」では、各段落に記載された交配親の範囲内において1又は2以上の交雑を行って、1又は2以上のF1集団が形成される態様を含む。また、その交配親の範囲内において交配親の組み合わせを変えて、2以上のF1集団が形成される態様が含まれる。また、その子孫集団の形成では、2以上の異なるF1集団の間(各集団間)の交配によって生じる子孫集団の形成が含まれる。
本明細書中、「交雑第2世代集団」とは、同一のF1集団内での交配、異なるF1集団間での交配、又は、F1集団に属する個体の自殖、によって生じた交雑第2世代の集団を指す。
【0023】
本明細書中、交雑第2世代集団のうち、同一のF1集団内での交配又はF1集団に属する個体の自殖によって生じた集団は、F2集団に該当する。同様に、交雑第3世代集団のうち、同一のF2集団内での交配又はF2集団に属する個体の自殖によって生じた集団は、F3集団に該当する。また、交雑第4世代集団のうち、同一のF3集団内での交配又はF3集団に属する個体の自殖によって生じた集団は、F4集団に該当する。
この点、交雑第n世代集団のうち、同一のFn-1集団内での交配又はFn-1集団に属する個体の自殖によって生じた集団は、Fn集団と示すことができる(n:世代を示す自然数)。
【0024】
本明細書中、「集団内の交配」は、1つの同じ集団に属する個体どうしでの交配による繁殖様式を意味する。また、「集団間の交配」とは、2つの異なる集団間に属する個体どうしの交配による繁殖様式を意味する。ここでの交配には、個体どうしの自由交配が含まれる。また、「自殖」は、同一個体による自家受粉による繁殖様式を意味する。
なお、本明細書中、「2つの集団間での交配」を意味する場合、「交雑」と同義に読むことが可能である。
【0025】
本明細書中、「その子孫集団」という表現は、交雑によって生じた交雑集団(雑種:交雑第1世代の集団)より後の世代の集団である交雑第2世代以降の集団を指す。当該子孫集団や後代集団に関する説明としては、下記段落3.に記載した「交雑第1世代の集団」及び「交雑第1世代集団から生じたそれより後の世代の集団」の説明内容を参照又は引用して、当該内容とすることも可能である。
【0026】
本明細書中、「花形」とは、花部の形態を指す用語として用いる。「花色」とは、花部の着色様式を指す用語として用いる。ここで、トレニア植物の「花面」は、向軸側が上側に、背軸側が下側になるようにして、花面が横方向を向く(花面が地面と直交する向きの面となる)傾向がある。この点、花部の説明における「向軸側」とは、花部が分枝した植物体の茎側を指し、花の上側を指す。「背軸側」とは、花部が分枝した植物体の茎の反対側を指し、花の下側を指す。「左右」とは、花面視における向背方向に直交する方向を指す。
【0027】
2.「完全八重」の花形特性を示すトレニア植物
本発明に係る八重咲きトレニア植物は、発達した花弁を十分数有する完全八重の花形特性を備えた八重咲きトレニア植物に関する。
【0028】
[花形特性(花部の形態的特性)]
(完全八重の花形特性)
本発明に係る「完全八重」の花形特性を備えたトレニア植物とは、発達した花弁が十分に多く増加し、花軸を中心に放射状に花弁が配列して鑑賞に適した八重咲きの花形を示すトレニア植物を指す。
ここで、「完全八重」を示すトレニア植物が備える花形特性としては、発達した花弁数を15枚以上有するものであれば、花形外観の点で鑑賞性に優れた八重咲きと判断することが可能である。完全八重を示す花形の花弁数として、特に好ましくは、発達した花弁数が19枚以上、20枚以上、25枚以上、30枚以上、又は33枚以上を好適に挙げることができる。発達した花弁数の上限としては特に、鑑賞に適した花形となる範囲で制限はないが、一例としては80枚以下、60枚以下、又は50枚以下を挙げることができる。
好適な実施形態として、発達した花弁数の範囲は、15~80枚、好ましくは19~60枚、特に好ましくは33~50枚を挙げることができる。なお、本明細書においては、合着して外見上1つの花弁と見える場合であっても、合着元の花弁が複数枚(例えば2枚)である場合は、その合着前の複数枚(例えば2枚)の枚数として数える。例えば、正常型の向軸側花弁2枚が合着して、大型のへら形花弁を形成するが、当該合着した花弁は2枚と数える。
花弁数が上記範囲を満たすトレニア植物の場合、花軸を中心に放射状に密集して(花弁どうしの間隔が狭く)花弁が配置される形状となり、完全八重と認められる美しい八重咲きの花形を示す。ここで、花弁数が上記より少ない枚数(特に15枚未満)である場合、花軸を中心に配置される花弁がまばらとなり(花弁どうしの間隔が大きく)、完全八重とは認められない花形となり好適ではない。
【0029】
完全八重を示すトレニア植物が有する花弁としては、花形が高い鑑賞性を備える点で、発達した花弁(伸展した状態の花弁)となった状態にて十分な大きさに発達した花弁であることが望ましい。花弁のサイズ(花弁の大きさ)の態様としては、花部の外側花弁は大きく内側花弁は小さい傾向を示すが、下端から上端までの花弁長(合弁花冠として融合している筒部を含む基部から先端までの長さ)が20mm以上に発達したものを挙げることができる。また、裂片部(合弁花冠として融合している筒部を含む基部から分かれた裂片)の長さ(筒部を除いた長さ)が5mm以上に発達したものを挙げることができる。また、花弁幅(花弁で最大となる部分の幅)が5mm以上に発達したものを好適に挙げることができる。また、完全八重を示すトレニア植物としては、大輪化した花弁で構成される花形のものも含まれるため、これらの値の上限値としては特に制限はないが、例えば、下記の実施例で挙げられた値を上限値(mm以下)とすることが可能である。
【0030】
完全八重を示すトレニア植物の花弁は、各花弁が基部で合着した合弁花冠であるが、頂部に向かうにしたがって複雑に分岐を繰り返し、裂片部がそれぞれの花弁となる。この点、トレニア植物の花弁数を示す「枚」は、裂片の数を示す「裂」(例:15裂以上など)に置き換えて、表現することも可能である。また、一部が離弁花的に基部から分離した花弁となる場合もある。花弁形状の一態様としては、正常型の通常のトレニア植物と同型形状の花弁(全縁のへら形)を挙げることができる。
また、当該花弁の形状としては、花弁形状に変異が生じたトレニア植物の花弁の態様を挙げることができる。花弁や葉の形状を示す学術用語にて説明すると、花弁の全体形状としては、線形、広線形、針形、披針形、楕円形、長楕円形、糸状、卵形、倒卵形、心形、倒心形、ひし形、ひし状卵形、円形、偏円形、腎形、等の形状を挙げることができる。また、花弁の先端形状としては、鋭尖頭、鋭頭、鈍頭、円頭、凹頭、凸頭、円頭凸端、尾状、等の形状を挙げることができる。また、花弁の基部形状としては、漸鋭尖形、くさび形、切形、心形、耳形、矢じり形、ほこ形、等の形状を挙げることができる。また、花弁の縁の形状としては、全縁、波状縁、波状鋸歯縁、鋸歯縁、歯牙縁、重鋸歯縁、欠刻、等の形状を挙げることができる。
また、一態様としては、扇状の形状を示す花弁、外縁に突起を有する形状の花弁、外縁が裂開した形状の花弁、外縁が丸みを帯びた形状の花弁、全体が丸みを帯びた形状の花弁、外縁が尖った形状の花弁、全体が尖った形状の花弁、外縁の中央部分が窪んだ形状の花弁、全左右側が窪んだ形状の花弁、外縁の先端が多数に細裂した形状の花弁、全体が背軸側に反り返った形状の花弁、外縁の先端が背軸側に反り返ってカールした形状の花弁、全体が向軸側に反り返った形状の花弁、外縁の先端が向軸側に反り返ってカールした形状の花弁、フリル状の形状を有する花弁、ヒダ状の形状を有する花弁、等を挙げることができる。
また、これらの形状の特性を複数備えた形状の花弁を挙げることができる。
【0031】
完全八重を示すトレニア植物の花形としては、上記した花弁が花軸に対して花面視にて放射状に配列して八重咲きとなった花形となる。当該花形としてより具体的には、花弁のそれぞれが花軸を中心に全方向にそれぞれの距離にて花軸に対して花弁の向軸面を向けて配置されることで、花形全体として花弁が幾重にも形成されて八重咲きの花形が形成される。
また、当該花形の態様としては、同一形状の花弁が放射状に配列して形成された花形、2種類以上(好ましくは2種類)の異なる形状の花弁が放射状に配列して形成された花形、のいずれについても、本発明の完全八重を示すトレニア植物の花形に含まれる。
【0032】
本発明における完全八重を示す花形の態様としては、正常型のトレニア植物と同型の花弁を有する八重咲きの花形を挙げることできる。ここで、正常型の花弁形状は、2種類のへら形花弁を有する。具体的には、背軸側花弁及び左右軸花弁が同型のへら形花弁を示すところ、向軸側花弁はへら形花弁が左右方向で合着して大型のへら形花弁を示す。
当該態様の花形では、向軸側の領域に配列する花弁は正常型の向軸側花弁と同形状の花弁が集まって配列し、背軸側の領域に配列する花弁は正常型の背軸側花弁と同形状の花弁が集まって配列し、左右軸側の領域に配列する花弁は正常型の左右側花弁と同形状の花弁が集まって配列する。そのため、当該正常型と同型の花弁での完全八重を示す花形としては、花形全体として左右相称性を示す花形となるが、多くの発達した花弁が花軸を囲むように放射状に幾重にも配列し、各花弁がフリル形状を伴った花弁で構成される美しい八重咲きの花形となる。
当該花形を備えた完全八重を示すトレニア植物として、より具体的には、「11118系統」(FERM P-22437)に属するトレニア植物に属するトレニア植物を挙げることができる。
【0033】
本発明における完全八重を示す花形の態様としては、変異型の花弁を有する八重咲きの花形を挙げることができる。当該態様の花形としては、様々な変異花弁を備えた八重咲きの花形が含まれる。
【0034】
(カーネーション様完全八重の花形特性)
本発明における完全八重を示す花形の態様としては、好ましくは、花弁が花軸に対して花面視にて放射状に配列して八重咲きとなることに加えて、花形全体として「放射相称状の花冠」を示す花形であることが、八重咲きの鑑賞性が向上する点で好適である。当該態様の花形は、花軸を中心に花弁が配列し、花形全体として花面視にて放射相称状の形態を示す花形となり、多くの成熟花弁が花軸を囲むように放射状に幾重にも配列するため、美しい八重咲きの花形となる。
当該花形を備えた完全八重を示すトレニア植物として、鑑賞性の点で特に好適には、同型の花弁又は2種類以上の異型花弁が花軸を中心に八重を形成するようにランダムに放射状に配列して「放射相称状」の花冠を示す花形特性を備えたトレニア植物を挙げることできる。当該花形は、多くの発達した花弁が花軸を囲むように放射状に幾重にも配列するため、各花弁がフリル形状を伴った花弁で構成される美しい八重咲きの花形となる。当該花形では、フリル形状を伴った花弁であり且つ放射相称状の花冠を示す八重咲きである点で、カーネーションの花形に酷似した花形を示すため、「カーネーション様完全八重」を示すトレニア植物という用語で記載する。
ここで、当該態様の花形としては、2種類以上(好ましくは2種類)の異なる形状の花弁がランダムに放射状に配列し、花部全体として放射相称状の花冠を示すような花形を挙げることができる。また、同型の1種類の花弁が放射状に配列し、花部全体として放射相称状の花冠を示すような花形を挙げることができる。
ここで、「放射相称状の花冠」は、学術的な意味での「放射相称花」ではないが、花面視にて花軸を中心とする放射方向のいずれの軸に対しても近似的な対称性を示す花形と表現することができる。また、当該放射相称状の花冠の説明としては、ランダムな放射配列やフリル等に起因する若干の偏りを有するが、全体外観としては放射方向のいずれの軸に対しても、前記偏りを許容した範囲において対称性を示すと認められる花形と表現することが可能である。また、当該放射相称状の花冠の説明としては、花面視にて花軸を中心とする放射方向のいずれの軸に対してもその軸を挟んだ両方の部分が、ランダムな放射配列やフリル等に起因する若干の偏りを除いては区別できない形状の花形と表現することも可能である。
【0035】
当該態様の一形態としては、上記した完全八重系統と同様の2種類のフリルを伴ったへら形花弁にて構成される花形であるところ、その配列様式が花軸を中心に放射状にランダムに配置する配列様式を示し、花部全体として放射相称状の花冠を示す花形を挙げることができる。当該「カーネーション様完全八重」(完全八重の一態様)を示すトレニア植物としては、より具体的には、「10868系統」(FERM P-22418)に属するトレニア植物を挙げることができる。
また、別態様としては、同型の1種類のへら形花弁が放射状に配列し、花部全体として放射相称状の花冠を示すような花形を挙げることができる。
【0036】
[花色特性(着色様式)]
本発明に係る完全八重を示すトレニア植物は、花部の特徴に関して上記したように八重咲きの美しい花部形態を備える。この点、花弁の着色様式に関する花色特性に関しては特に制限はなく、如何なる着色様式のトレニア植物であっても上記完全八重を示す花形に関する特徴を充足する限りは、本発明のトレニア植物に含めることが可能である。
花色特性としては、例えば、正常型と同様の着色様式の花弁に加えて、単一色の着色様式の花弁、色調の濃淡や模様を有する着色様式の花弁、等を挙げることができる。また、基部が薄い色調であるが先端付近が濃い色調である着色様式の花弁、基部と先端がそれぞれ異なる色調の着色様式の花弁、覆輪を模様として有する着色様式の花弁、等を挙げることができる。
【0037】
本発明に係る完全八重を示すトレニア植物として、鑑賞性の点で特に好適には、花形の美しさを更に強調した花部の印象を与える点、放射状に配列した各花弁が均質(ばらつきがない)又は同一の着色様式である花色特性のものが好適である。
本発明に係る完全八重を示すトレニア植物として、花部がこのような花色特性を示す着色様式としてより具体的には、正常型のトレニア花弁の一部にある蜜標や色斑が消失して各花弁が同一の単一色となり、花部全体が単一色を示す着色様式の花色特性を挙げることができる。例えば、紫色、薄紫色、濃い紫色、赤紫色、青紫色、ピンク色、赤色、黄色、白色等の単一色の着色様式を挙げることができる。また、本発明に係る完全八重を示すトレニア植物としては、各花弁が模様や色調の濃淡等を有する均質又は同一の花弁であり、これらの花弁が放射状に配列して、花部全体として均質な(ばらつきのない)着色様式を示すものを挙げることができる。
また、本発明に係る完全八重を示すトレニア植物としては、各花弁が単一色を示す花弁であり、異なる2以上の色彩の花弁が放射状にランダムに配列して、花部全体として放射相称状を示す着色様式のものを挙げることができる。また、各花弁が模様や色調の濃淡等を有する異なる花弁であり、これらの花弁が放射状にランダムに配列して、花部全体として放射相称状を示すような着色様式のものを挙げることができる。また、各花弁が2以上の色彩を有する花弁であり、これらの花弁が放射状にランダムに配列して、花部全体として放射相称状を示すような着色様式のものを挙げることができる。
ここで、着色様式に関する放射相称状という用語は、上記した花形及び花冠に関する説明と同様に、花面視にて花軸を中心とする放射方向のいずれの軸に対しても近似的な対称性を示す着色様式と説明することができる。また、当該用語に関して、上記した花形及び花冠に関する説明を着色様式に置き換えた上で、その内容を参照することができる。
【0038】
[その他の形質]
本発明に係る八重咲きトレニア植物としては、上記した完全八重の花形特性に加えて、所望の好適な形質を併せて備えた植物に関しても、上記した完全八重を示す花形特性に関する特徴を充足する限りは、本発明のトレニア植物に含めることが可能である。
当該所望の形質として、例えば、花形の更なる向上に関する形質(大輪化、花形の大型化、花弁の大型化、花色や着色様式、等)、植物体全体の鑑賞性に関する形質(1株あたりの花数の増加、栽培した植物体全体の草姿、葉の形状、等)、成長に関する形質(例えば、栽培期間の早晩性、植物ホルモン合成系、等)、環境耐性に関する形質(例えば、耐寒性、耐暑性、耐乾性、等)、耐病性に関する形質、生殖に関する形質(例えば、花成制御、自家不和合性、細胞質雄性不稔性、等)などを挙げることができる。また、これら以外の所望の形質を挙げることもできる。
【0039】
[八重咲きトレニア植物の実施形態]
本発明に係る八重咲きトレニア植物としては、完全八重に関する花形特性(花部の形態に関する特性)を備えたトレニア植物であれば、花色特性及び/又は他の形質を併せて備えたトレニア植物であっても、本発明の八重咲きトレニア植物に含まれる。
【0040】
即ち、本発明に係る八重咲きトレニア植物としては、上記した完全八重に関する花形特性を備えたトレニア植物が含まれる。また、本発明に係る八重咲きトレニア植物としては、下記の完全八重を示すトレニア植物の作出方法にて得られた完全八重を示すトレニア植物が含まれる。実施形態の一例としては、下記の実施例にて作出された完全八重の花形特性を備えたトレニア植物である「11118系統」(FERM P-22437)に属するトレニア植物を挙げることができる。
また、本発明に係る八重咲きトレニア植物としては、上記した完全八重を示すトレニア植物の「後代集団」に属するトレニア植物であって且つ完全八重の花形特性を備えたトレニア植物に関しても、本発明に係る完全八重を示すトレニア植物とすることができる。また、本発明に係る八重咲きトレニア植物としては、上記した完全八重を示すトレニア植物又はその後代集団の「変異集団」に属するトレニア植物であって且つ完全八重の花形特性を備えたトレニア植物に関しても、本発明に係る完全八重を示すトレニア植物とすることができる。
当該後代集団又は変異集団としては、前記に記載のトレニア植物の後代集団又は変異集団に属するトレニア植物であって、発達した花弁を十分に多く(上記した枚数)有する花形特性(完全八重の花形特性)を備えたトレニア植物、を挙げることができる。
【0041】
更に、本発明に係る完全八重を示すトレニア植物としては、上記したカーネーション様の花形を示す完全八重の花形特性を示すトレニア植物に関しても、本発明に係る完全八重を示すトレニア植物に含まれる。実施形態の一例としては、下記の実施例にて作出されたカーネーション様完全八重の花形特性を備えたトレニア植物である「10868系統」(FERM P-22418)に属するトレニア植物を挙げることができる。
また、本発明に係るカーネーション様完全八重を示すトレニア植物としては、カーネーション様完全八重を示すトレニア植物の「後代集団」に属するトレニア植物であって且つカーネーション様完全八重の花形特性を備えたトレニア植物に関しても、本発明に係る完全八重を示すトレニア植物とすることができる。また、本発明に係るカーネーション様完全八重を示すトレニア植物としては、カーネーション様完全八重を示すトレニア植物又はその後代集団の「変異集団」に属するトレニア植物であって且つカーネーション様完全八重の花形特性を備えたトレニア植物に関しても、本発明に係る完全八重を示すトレニア植物とすることができる。
当該後代集団又は変異集団としては、前記に記載のトレニア植物の後代集団又は変異集団に属するトレニア植物であって、且つ、発達した花弁を十分に多く(上記した枚数)有する完全八重の花形特性を備え、且つ、前記花弁が花軸を中心に八重を形成するように放射状に配列し且つ放射相称状の花冠を示す花形特性(カーネーション様完全八重の花形特性)を備えたトレニア植物、を挙げることができる。
【0042】
ここで、上記の説明における後代集団又は変異集団に関して、育種に関する用語及び集団に関する説明としては、上記段落1.に記載の「用語の説明」の説明内容を参照又は引用して、当該内容とすることが可能である。また、上記の説明における後代集団に関して、下記段落3.に記載の「交雑第1世代の集団」及び「交雑第1世代集団から生じたそれより後の世代の集団」の説明内容(例えば(i)~(v)等)を参照又は引用して、当該内容とすることも可能である。
【0043】
3.八重咲きトレニア植物の作出方法
本発明においては、上記した特性を有する完全八重を示す八重咲きトレニア植物の作出方法に関する発明が含まれる。
【0044】
[完全八重トレニア植物]
本発明に係る完全八重を示すトレニア植物の作出は、「半八重」の花形特性を示すトレニア植物と、「多心皮」の花形特性を示すトレニア植物とを交配(交雑)し、その交配集団を得る工程を含む方法である。
【0045】
本発明に係る完全八重を示すトレニア植物の作出に用いる交配親の「半八重」の花形特性を示すトレニア植物としては、具体的には、下記の実施例に示された半八重系統であるDF17系統(FERM P-22419)に属するトレニア植物を用いることが可能である。また、DF17系統(FERM P-22419)と同じ原因遺伝子の変異によって同様の花形を示すトレニア植物に関しても、当該交配親として用いることが可能である。また、半八重花形を示すトレニア植物の後代集団又は変異集団に属し且つ発達した花弁を7~10枚有する半八重の花形特性を備えたトレニア植物に関しても、当該交配親として用いることが可能である。
ここで、本明細書中、「半八重」を示す花形特性とは、通常の正常型トレニア植物(花弁数)に対して花弁数がやや増加して、発達した花弁を7~10枚有する花形特性を指す(図2)。当該花形の花弁数の増加は十分ではなく、花弁の配置状態はまばらで(花弁どうしの間隔が大きく)、鑑賞性に優れた八重咲きの花形としては十分とは認められない。当該半八重変異は、劣性一因子の遺伝様式を示す。
【0046】
また、本発明に係る完全八重を示すトレニア植物の作出に用いる交配親の「多心皮」の花形特性を示すトレニア植物としては、具体的には、下記の実施例に示された多心皮系統であるMC1系統(FERM P-22420)に属するトレニア植物を用いることが可能である。また、MC1系統(FERM P-22420)と同じ原因遺伝子の変異によって同様の花形を示すトレニア植物に関しても、当該交配親として用いることが可能である。また、多心皮花形を示すトレニア植物の後代集団又は変異集団に属し且つ心皮数が増大した多心皮の花形特性を備えたトレニア植物に関しても、当該交配親として用いることが可能である。
ここで、本明細書中、「多心皮」を示す花形特性とは、雌蕊を構成する心皮の数が増加した花形特性を指す(図2)。当該多心皮変異は、劣性一因子の遺伝様式を示す。
【0047】
本発明に係る完全八重を示すトレニア植物の作出では、当該交配(「半八重」の花形特性を示すトレニア植物と「多心皮」の花形特性を示すトレニア植物との交雑)の後、その子孫集団(当該交雑後の交雑第2世代以降の集団)から、「完全八重」を示す花形特性を備えた個体を選抜する工程、を含む方法である。
ここで、本発明に係る「完全八重」を示す花形特性は、一因子劣性遺伝する「半八重変異」と「多心皮変異」との二重変異の表現型である。そのため、当該作出方法では、遺伝子座がヘテロとなるF1世代(当該交配によって生じた交雑第1世代)からは当該花形は出現せず、劣性ホモの遺伝子型が2つの遺伝子座の両方で出現する交雑第2世代以降にて出現し、当該交雑第2世代又はそれ以降の世代の集団から「完全八重」を示す花形特性を備えた個体を得ることが可能となる。
当該作出の選抜工程にて指標となる「完全八重」を示す花形特性に関しては、上記段落2.に記載の「完全八重」に関する特性を、参照又は引用して当該指標とすることが可能である。
【0048】
本発明に係る完全八重を示すトレニア植物の作出では、上記交配工程(交雑)によって生じた子孫集団から、「完全八重」を示す花形特性を備えた個体を分離して得ることが可能となる。
ここで、当該選抜を行う母集団である上記交配工程によって生じた子孫集団とは、交雑第2世代以降の集団を指し、詳しくは、得られたF1集団である交雑第1世代集団から生じたそれより後の世代の集団である交雑第2世代以降の集団、を挙げることができる。
【0049】
本明細書中、「交雑第1世代の集団」とは、各段落に記載された交配工程(交雑)によって得られた1又は2以上のF1集団を指す。即ち、当該交配工程の後(交雑後)に生じた第1世代目の集団を指す。当該「交雑」では、各段落に記載された交配親の範囲内において1又は2以上の交雑を行って、1又は2以上のF1集団が形成される態様を含む。また、その交配親の範囲内において交配親の組み合わせを変えて、2以上のF1集団が形成される態様が含まれる。また、その子孫集団の形成では、2以上の異なるF1集団の間(各集団間)の交配によって生じる子孫集団の形成が含まれる。
【0050】
本明細書中、「前記交雑第1世代集団から生じたそれより後の世代の集団」とは、交雑第2世代以降の集団、即ち、各段落に記載された交配工程の後(交雑後)の世代が第2世代目以降の集団を指す。
例えば、「前記交雑第1世代集団から生じたそれより後の世代の集団」には、(i)前記1又は2以上のF1集団である交雑第1世代の集団内若しくは集団間の交配又は自殖によって生じた集団(交雑第2世代の集団)が含まれる。当該交雑第2世代の集団には、1つの同じF1集団内の個体どうしの交配によって生じた集団、2つの異なるF1集団間の個体どうしの交配によって生じた集団、F1集団に属する個体の自殖によって生じた集団、が含まれる。
また、「前記交雑第1世代集団から生じたそれより後の世代の集団」としては、例えば、(ii)前記交雑第2世代の集団内若しくは集団間の交配又は自殖によって生じた集団(交雑第3世代の集団)が含まれる。当該交雑第3世代の集団には、1つの同じ交雑第2世代集団内の個体どうしの交配によって生じた集団、2つの異なる交雑第2世代集団間の個体どうしの交配によって生じた集団、交雑第2世代集団に属する個体の自殖によって生じた集団、が含まれる。
また、「前記交雑第1世代集団から生じたそれより後の世代の集団」としては、例えば、(iii)前記交雑第3世代の集団内若しくは集団間の交配又は自殖によって生じた集団(交雑第4世代の集団)が含まれる。当該交雑第4世代の集団には、1つの同じ交雑第3世代集団内の個体どうしの交配によって生じた集団、2つの異なる交雑第3世代集団間の個体どうしの交配によって生じた集団、交雑第3世代集団に属する個体の自殖によって生じた集団、が含まれる。
また、「前記交雑第1世代集団から生じたそれより後の世代の集団」としては、更に世代を継いで前の世代までの集団内若しくは集団間の交配又は自殖によって生じた集団が含まれる。即ち、上記交配工程の後(交雑後)、前の世代までの集団内若しくは集団間の交配又は自殖による育種工程を、世代を継いで行って生じた子孫集団が含まれる。例えば、(iv)上記交配工程の後(交雑後)の世代が第5世代目以降の集団(交雑第5代以降の集団)が含まれる。
また、「前記交雑第1世代集団から生じたそれより後の世代の集団」としては、上記交配工程の後(交雑後)の世代が異なる集団間での交配によって生じた集団も含まれる。例えば、(v)交雑第1世代の集団と交雑第2世代の集団間との交配によって生じた集団が含まれる。また、交雑第1世代の集団と交雑第3世代の集団間との交配によって生じた集団が含まれる。また、交雑第2世代の集団と交雑第3世代の集団間との交配によって生じた集団が含まれる。
また、これらの世代間交配によって生じた集団どうしの交配によって生じた集団も「前記交雑第1世代集団から生じたそれより後の世代の集団」に含まれる。また、これらの世代間交配によって生じた集団と上記各交雑世代の集団との交配によって生じた集団も「前記交雑第1世代集団から生じたそれより後の世代の集団」に含まれる。
【0051】
ここで、本明細書中、「集団内の交配」は、1つの同じ集団に属する個体どうしでの交配による繁殖様式を意味する。また、「集団間の交配」とは、2つの異なる集団間に属する個体どうしの交配による繁殖様式を意味する。ここでの交配には、個体どうしの自由交配が含まれる。また、「自殖」は、同一個体による自家受粉による繁殖様式を意味する。
なお、当該選抜を行う母集団としては、近交弱勢により他の劣った形質が発現することを回避する観点では、交雑第4世代までの集団、好ましくは交雑第3世代までの集団、を当該選抜の母集団とすることが好適である。
また、育種に関する用語及び各世代集団の説明としては、上記段落1.に記載の「用語の説明」の説明内容を参照又は引用して、当該内容とすることが可能である。
【0052】
当該作出方法における選抜工程では、「完全八重」を示す花形特性、即ち発達した花弁を十分に多く(上記した枚数)有する完全八重の花形特性、を備えた個体を選抜する工程を行うことを含む。当該選抜工程において指標となる完全八重を示す花形特性の詳細については、上記段落2.に記載の特性を、参照又は引用して当該指標とすることが可能である。
当該作出方法では、当該選抜工程を経ることにより、完全八重の花形特性を備えたトレニア植物を得ることが可能となる。
【0053】
また、本発明においては、上記にて得られた完全八重を示すトレニア植物を交配親として用いて、完全八重の花形特性に加えて、更に所望の形質を備えたトレニア植物を作出することが可能である。
当該態様における八重咲きトレニア植物の作出は、上記した「完全八重」の花形特性を示すトレニア植物と、任意のトレニア植物とを交配(交雑)し、その交配集団を得る工程を含む方法である。
当該態様における所望の形質を備えた八重咲きトレニア植物の作出では、当該交配(上記した完全八重を示すトレニア植物と任意のトレニア植物との交雑)の後、その子孫集団(当該交雑後の交雑第2世代以降の集団)から、「完全八重」を示す花形特性を備え且つ所望の形質を備えた個体を選抜する工程、を含む方法である。
ここで、当該作出の選抜工程の対象となる子孫集団(交雑第2世代以降の集団)に関する好適範囲は、上記段落を参照又は引用して当該範囲とすることが可能である。また、育種に関する用語及び各世代集団の説明としては、上記段落1.に記載の「用語の説明」の説明内容、並びに、本段落3.に上記した「交雑第1世代の集団」及び「交雑第1世代集団から生じたそれより後の世代の集団」の説明内容(例えば(i)~(v)等)を参照又は引用して、当該内容とすることが可能である。また、当該作出の選抜工程にて指標となる「完全八重」を示す花形特性に関しては、上記段落2.に記載の「完全八重」に関する特性を、参照又は引用して当該指標とすることが可能である。
当該作出態様では、当該選抜工程を経ることにより、完全八重の花形特性に加えて、交配親(任意のトレニア植物)が有していた任意の形質を備えたトレニア植物を、「所望の形質」を有するトレニア植物として得ることが可能となる。また、当該作出態様では、当該選抜工程を経ることにより、完全八重の花形特性に加えて、交配の組み合わせ(完全八重を備えたトレニア植物と任意のトレニア植物)によって出現する新たな形質を備えたトレニア植物を、「所望の形質」を備えたトレニア植物として得ることも可能である。
【0054】
また、本発明においては、上記にて得られた完全八重を示すトレニア植物を交配親の「双方」に用いて交配(交雑)を行い、更に完全八重の花形特性を備えたトレニア植物を作出することも可能である。当該態様では、異なる特性や形質を有する2種類の完全八重の花形特性を備えたトレニア植物を組み合わせて交配することで、所望の形質を備えた完全八重の花形特性を示すトレニア植物を選抜して作出することも可能となる。
当該態様における八重咲きトレニア植物の作出では、上記した2つの遺伝子座の両方が劣性ホモの組み合わせとなる遺伝子型が交雑第1世代以降にて出現し得るため、当該交雑第1世代又はそれ以降の世代の集団から「完全八重」を示す花形特性を備えた個体を得ることが可能となる。
即ち、当該態様における八重咲きトレニア植物の作出では、当該交配(上記した完全八重を示すトレニア植物どうしの交雑)の後、その交配集団(当該交雑後の交雑第1世代集団:F1集団)又はその子孫集団(当該交雑後の交雑第2世代以降の集団)から、「完全八重」を示す花形特性を備えた個体を選抜することが可能となる。
ここで、選抜工程に関する好適範囲は、上記段落を参照又は引用して当該範囲とすることが可能である。また、育種に関する用語及び各世代集団の説明としては、上記段落1.に記載の「用語の説明」の説明内容、並びに、本段落3.に上記した「交雑第1世代の集団」及び「交雑第1世代集団から生じたそれより後の世代の集団」の説明内容(例えば(i)~(v)等)を参照又は引用して、当該内容とすることが可能である。また、当該作出の選抜工程にて指標となる「完全八重」を示す花形特性に関しては、上記段落2.に記載の「完全八重」に関する特性を、参照又は引用して当該指標とすることが可能である。
【0055】
[カーネーション様完全八重を示すトレニア植物]
本発明に係る完全八重を示すトレニア植物としては、更に鑑賞性に優れた花形特性を備えたカーネーション様完全八重を示すトレニア植物が、その一態様に含まれる。この点、本発明では、完全八重の花形特性を示すトレニア植物を交配親として用いて、カーネーション様完全八重の花形特性を備えたトレニア植物を作出することが可能となる。
【0056】
本発明に係るカーネーション様完全八重を示すトレニア植物の作出は、「完全八重」の花形特性を示すトレニア植物と、「ベゴニア様」の花形特性を示すトレニア植物とを交配(交雑)し、その交配集団を得る工程を含む方法である。
当該作出に用いる交配親の「完全八重」の花形特性を示すトレニア植物としては、上記の作出方法にて作出された完全八重を示すトレニア植物を用いることが可能である。また、下記の実施例に示された完全八重系統である11118系統(FERM P-22437)に属するトレニア植物を用いることが可能である。また、これらの後代集団又は変異集団に属し且つ完全八重の花形特性を備えたトレニア植物に関しても、当該交配親として用いることが可能である。
【0057】
また、当該作出に用いる交配親の「ベゴニア様」の花形特性を示すトレニア植物としては、下記の実施例に示された着色均等型のベゴニア様系統であるRSF1系統(FERM P-22422)に属するトレニア植物を用いることが可能である。また、RSF1系統(FERM P-22422)と同じ原因遺伝子の変異によって同様の花形形状(但し、着色様式は均等ではない)を示すトレニア植物(非特許文献3:Niki et al., 2016)に関しても、当該交配親として用いることが可能である。より好適な態様には、着色様式が各花弁で均等となる特性を有する点では、FERM P-22422又はこれに由来する集団に属するトレニア植物を用いることが好適である。
また、ベゴニア様花形を示すトレニア植物の後代集団又は変異集団に属し且つ花形が左右対称及び向背対称(上下対称)である花形特性を備えたトレニア植物に関しても、当該交配親として用いることが可能である。
ここで、本明細書中、「ベゴニア様」を示す花形特性とは、正常型が有していた左右対称性に加えて、背軸側(下側)花弁が向軸側(上側)の花弁に変化して向軸側花弁(上側花弁)と背軸側花弁(下側花弁)が対称性を示す花形特性を指す(図3)。当該花形は、通常の正常型トレニア植物の花形より対称性を示す軸数が増加しているが、放射相称状の花冠は示さない。当該ベゴニア様変異は、劣性一因子の遺伝様式を示す。
【0058】
本発明に係るカーネーション様完全八重を示すトレニア植物の作出では、当該交配(「完全八重」の花形特性を示すトレニア植物と「ベゴニア様」の花形特性を示すトレニア植物との交雑)の後、その子孫集団(当該交雑後の交雑第2世代以降の集団)から、「カーネーション様完全八重」を示す花形特性を備えた個体を選抜する工程、を含む方法である。
ここで、本発明に係る「カーネーション様完全八重」を示す花形特性は、一因子劣性遺伝する「半八重変異」、「多心皮変異」、「ベゴニア様変異」の三重変異の表現型である。そのため、当該作出方法では、遺伝子座がヘテロとなるF1世代(当該交配によって生じた交雑第1世代)からは当該花形は出現せず、劣性ホモの遺伝子型が3つの遺伝子座の全てで出現する交雑第2世代以降にて出現し、当該交雑第2世代又はそれ以降の世代の集団から「カーネーション様完全八重」を示す花形特性を備えた個体を得ることが可能となる。
【0059】
本発明に係る完全八重を示すトレニア植物の作出では、上記交配工程(交雑)によって生じた子孫集団から、「カーネーション様完全八重」を示す花形特性を備えた個体を分離して得ることが可能となる。
ここで、当該選抜を行う母集団である上記交配工程(「完全八重」の花形特性を示すトレニア植物と「ベゴニア様」の花形特性を示すトレニア植物との交雑)によって生じた子孫集団とは、当該交雑後の交雑第2世代以降の集団を指し、詳しくは、得られたF1集団である交雑第1世代集団から生じたそれより後の世代の集団である交雑第2世代以降の集団、を挙げることができる。
【0060】
ここで、当該作出の選抜工程の対象となる子孫集団(交雑第2世代以降の集団)に関する好適範囲は、上記段落を参照又は引用して当該範囲とすることが可能である。また、育種に関する用語及び各世代集団の説明としては、上記段落1.に記載の「用語の説明」の説明内容、並びに、本段落3.に上記した「交雑第1世代の集団」及び「交雑第1世代集団から生じたそれより後の世代の集団」の説明内容(例えば(i)~(v)等)を参照又は引用して、当該内容とすることが可能である。
また、当該作出の選抜工程にて指標となる「カーネーション様完全八重」を示す花形特性に関しては、上記段落2.に記載の「カーネーション様完全八重」に関する特性を、参照又は引用して当該指標とすることが可能である。
なお、当該選抜を行う母集団としては、近交弱勢により他の劣った形質が発現することを回避する観点では、交雑第4世代までの集団、好ましくは交雑第3世代までの集団、を当該選抜の母集団とすることが好適である。
【0061】
当該作出方法における選抜工程では、「カーネーション様完全八重」を示す花形特性、即ち発達した花弁を十分に多く(上記した枚数)有する完全八重の花形特性を備え且つ前記花弁が花軸を中心に八重を形成するように放射状に配列し且つ放射相称状の花冠を示す花形特性を備えた個体を選抜する工程を行うことを含む。当該選抜工程において指標となるカーネーション様完全八重を示す花形特性の詳細については、上記段落2.に記載の特性を、参照又は引用して当該指標とすることが可能である。
当該作出方法では、当該選抜工程を経ることにより、カーネーション様完全八重の花形特性を備えたトレニア植物を得ることが可能となる。
【0062】
また、本発明においては、上記にて得られたカーネーション様完全八重を示すトレニア植物を交配親として用いて、カーネーション様完全八重の花形特性に加えて、更に所望の形質を備えたトレニア植物を作出することが可能である。
当該態様における八重咲きトレニア植物の作出は、上記した「カーネーション様完全八重」の花形特性を示すトレニア植物と、任意のトレニア植物とを交配(交雑)し、その交配集団を得る工程を含む方法である。
当該態様における所望の形質を備えた八重咲きトレニア植物の作出では、当該交配(上記したカーネーション様完全八重の花形特性を示すトレニア植物と任意のトレニア植物との交雑)の後、その子孫集団(当該交雑後の交雑第2世代以降の集団)から、「カーネーション様完全八重」を示す花形特性を備え且つ所望の形質を備えた個体を選抜する工程、を含む方法である。
ここで、当該作出の選抜工程の対象となる子孫集団(交雑第2世代以降の集団)に関する好適範囲は、上記段落を参照又は引用して当該範囲とすることが可能である。また、育種に関する用語及び各世代集団の説明としては、上記段落1.に記載の「用語の説明」の説明内容、並びに、本段落3.に上記した「交雑第1世代の集団」及び「交雑第1世代集団から生じたそれより後の世代の集団」の説明内容(例えば(i)~(v)等)を参照又は引用して、当該内容とすることが可能である。また、当該作出の選抜工程にて指標となる「カーネーション様完全八重」を示す花形特性に関しては、上記段落2.に記載の「カーネーション様完全八重」に関する特性を、参照又は引用して当該指標とすることが可能である。
当該作出態様では、当該選抜工程を経ることにより、カーネーション様完全八重の花形特性に加えて、交配親(任意のトレニア植物)が有していた任意の形質を備えたトレニア植物を、「所望の形質」を有するトレニア植物として得ることが可能となる。また、当該作出態様では、当該選抜工程を経ることにより、カーネーション様完全八重の花形特性に加えて、交配の組み合わせ(カーネーション様完全八重を備えたトレニア植物と任意のトレニア植物)によって出現する新たな形質を備えたトレニア植物を、「所望の形質」を備えたトレニア植物として得ることも可能である。
【0063】
また、本発明においては、上記にて得られたカーネーション様完全八重を示すトレニア植物を交配親の「双方」に用いて交配(交雑)を行い、更にカーネーション様完全八重の花形特性を備えたトレニア植物を作出することも可能である。当該態様では、異なる特性や形質を有する2種類のカーネーション完全八重の花形特性を備えたトレニア植物を組み合わせて交配することで、所望の形質を備えたカーネーション様完全八重の花形特性を示すトレニア植物を選抜して作出することも可能となる。
当該態様における八重咲きトレニア植物の作出では、上記した3つの遺伝子座の全てが劣性ホモとなる組み合わせの遺伝子型が交雑第1世代以降にて出現し得るため、当該交雑第1世代又はそれ以降の世代の集団から「カーネーション様完全八重」を示す花形特性を備えた個体を得ることが可能となる。
即ち、当該態様における八重咲きトレニア植物の作出では、当該交配(上記したカーネーション様完全八重を示すトレニア植物どうしの交雑)の後、その交配集団(当該交雑後の交雑第1世代集団:F1集団)又はその子孫集団(当該交雑後の交雑第2世代以降の集団)から、「カーネーション様完全八重」を示す花形特性を備えた個体を選抜することが可能となる。
ここで、選抜工程に関する好適範囲は、上記段落を参照又は引用して当該範囲とすることが可能である。また、育種に関する用語及び各世代集団の説明としては、上記段落1.に記載の「用語の説明」の説明内容、並びに、本段落3.に上記した「交雑第1世代の集団」及び「交雑第1世代集団から生じたそれより後の世代の集団」の説明内容(例えば(i)~(v)等)を参照又は引用して、当該内容とすることが可能である。また、当該作出の選抜工程にて指標となる「カーネーション様完全八重」を示す花形特性に関しては、上記段落2.に記載の「カーネーション様完全八重」に関する特性を、参照又は引用して当該指標とすることが可能である。
【0064】
4.その他、各種発明
[植物体]
本発明においては、上記した特性を有するトレニア植物の植物体に関する発明が含まれる。
本発明に係る八重咲きトレニア植物の植物体は、上記したトレニア植物を構成する植物体の全ての組織や器官等が含まれる。また、植物体の全体又はその一部である如何なる部分も含まれる。また、植物体を構成する組織や器官等が含まれる。また、様々な発育ステージにある植物体が含まれる。
例えば、花(花部)、花を構成する各花器官(ガク片、花弁、雄蕊、雌蕊等)、蕾、花芽、葉、茎、芽、果実、種子、根、等を挙げることができる。また、幼苗、苗、生育段階にある栄養段階にある植物体、発蕾段階にある植物体、開花した花を付けた植物体、花が枯れた段階にある植物体、等など、様々な段階にある植物体を挙げることができる。
また、培養細胞、カルス細胞、培養された組織、等の培養状態にある植物体を挙げることもできる。
【0065】
本発明に係るトレニア植物の植物体の態様としては、植物体が生育状態にある態様を挙げることができる。例えば、地植えされた植物体、鉢植えされた植物体、挿し芽された植物体、人工培地に植えられた植物体、等の態様を挙げることができる。
また、植物体の一部を収穫又は切除した態様を挙げることができる。例えば、切り花、ブーケ等にする態様を挙げることができる。また、植物体の一部を加工した状態のものも本発明の植物体に含まれる。例えば、ドライフラワー、押し花、プリザーブドフラワー、樹脂包埋された植物体、等にする態様を挙げることができる。
【0066】
[トレニア系統の作出方法]
本発明においては、上記した特性を有するトレニア植物を得、これを用いてトレニア植物の系統を作出することが可能である。
即ち、本発明においては、上記した八重咲きトレニア植物を集団構成個体として含んでなる又は集団構成個体としてなる、八重咲きトレニア植物の系統に関する発明が含まれる。
本発明においては、上記したトレニア植物を集団の構成個体とするトレニア系統の作出方法に関する発明が含まれる。当該方法における作出工程としては、上記段落に記載したトレニア植物を用いて自殖、同系他殖、交配、及び/又は選抜等を行う又は繰り返し、上記した特性や形質を発現する八重咲きトレニア植物の集団を得て、所望のトレニア系統として作出することが可能となる。これらの具体的な手法は、上記段落や実施例に記載した内容を参照して行うことが可能である。
ここで、本明細書中における「系統」という用語は、「種(species)」の下位分類を指し、集団として他の品種又は系統と区別可能な外形的及び/又は生理的な特性(表現型)を有する集団を指す用語として用いる。なお、系統のうち、同一世代の特性が十分に類似した均一性を有し、世代を超えて前記特性が維持される安定性を備える集団が「品種」と呼称されるが、品種も系統の一部に含まれる。
【0067】
[各種方法]
本発明においては、上記した特性を有するトレニア植物に関する各種発明が含まれる。
本発明においては、完全八重を示す八重咲きトレニア植物の作出方法に関する発明が含まれる。また、本発明においては、完全八重の花形特性を備えた八重咲きトレニア植物を栽培する方法に関する発明が含まれる。また、本発明においては、完全八重の花形特性を備えた八重咲きトレニア植物の植物体を生産する方法に関する発明が含まれる。また、完全八重の花形特性を備えた八重咲きトレニア植物の系統又は品種を作出する方法に関する発明が含まれる。
これらの各種方法に関する発明は、本発明に係るトレニア植物の種苗(種子、苗等)や植物体組織等を用いることを含む発明である。これらの各種方法において、本発明に係るトレニア植物を用いる以外の各種工程や条件等は、常法を採用して行うことが可能である。
【実施例
【0068】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明の範囲はこれらにより限定されるものではない。
本発明者は、化学変異源処理からの変異体からトランスポゾン高転移活性化変異体「雀斑」を見出し(図1)、当該「雀斑」の自殖後代から選抜を行うことでトレニア植物に関する様々な変異体を得る手法を開発した。本発明者は、当該「雀斑」及びトランスポゾン転移を利用した変異体作出手法を非特許文献2にて報告している。しかしながら、「雀斑」からのスクリーニング選抜では、鑑賞性に優れた八重咲きのトレニア植物が得られた作出例は報告されていない。
なお、以下に示す実験例において作出された各「F2集団」は、各交雑試験において作出されたF1集団内に属する個体の自殖によって生じた集団(交雑第2世代目の集団)を指す。
【0069】
[実験例1] 完全八重の花形特性を示すトレニア植物の作出
発達した花弁を十分な数備えた鑑賞性に優れた八重咲きのトレニア植物の作出を行った。
【0070】
(1)半八重系統の作出
「雀斑」の自殖後代から花形特性に着目したスクリーニング選抜を行い、花弁数がやや増加した半八重の花形特性を示す変異体を見出した。当該変異体の自殖後代から花部の特性が安定した系統を選抜して、「半八重系統」であるDF17系統(FERM P-22419)を作出した。しかしながら、当該半八重を示すトレニア系統は、通常のトレニアよりは花弁数が増加しているものの、その増加の程度が7~10枚と少なく、鑑賞に適した八重咲きのトレニア植物とは認められなかった(図2)。
当該作出された「半八重系統」(FERM-P22419)に関して、正常型である一重のトレニア植物との交雑検定を行ったところ、F1世代では得られた52個体の全てが正常型の花形を示した。そして、F2世代では、正常型が133個体(73%)、半八重変異型が48個体(27%)生じた。当該分離比は、当該「半八重変異」が一因子劣性遺伝すると仮定した場合の変異型の理論的分離比25%と統計的に矛盾せず、当該半八重変異は、一因子劣性遺伝することが示された。
【0071】
(2)多心皮系統の作出
上記の半八重系統とは別途に、上記「雀斑」の自殖後代からスクリーニング選抜を行ったところ、花弁数の増加は認められないが雌蕊を形成する心皮の数が増大した多心皮の花形特性を示す変異体を見出した(図2)。当該変異体の自殖後代から花部の特性が安定した系統を選抜して「多心皮系統」であるMC1系統(FERM P-22420)を作出した。
当該作出された「多心皮系統」(FERM-P22420)に関して、正常型である一重のトレニア植物との交雑検定を行ったところ、F1世代では得られた48個体の全てが正常型の花形を示した。そして、F2世代では、正常型が118個体(74%)、多心皮変異型が42個体(26%)生じた。当該分離比は、当該「多心皮変異」が一因子劣性遺伝すると仮定した場合の変異型の理論的分離比25%と統計的に矛盾せず、当該多心皮変異は一因子劣性遺伝することが示された。
【0072】
(3)完全八重系統の作出
上記した「雀斑」の自殖集団からのスクリーニング選抜では、上記(1)に示した半八重系統以上に花弁数が増加した八重咲きトレニア変異体を得ることができなかった。
そこで、上記にて作出した「半八重系統」(FERM-P22419)と「多心皮系統」(FERM-P22420)を交配し、その後代集団にどのような花部を有する交雑体が出現するかを調査した(図2図5)。本例では、半八重系統を花粉親とし、多心皮系統を種子親として用いて交配試験を行った。
両者を交配した結果、F1世代では得られた36個体の全てが正常型の花形を示したところ、一方、F2世代では、総個体数153に対して「完全八重」を示す植物体(図2)が9個体出現した。当該結果は、当該完全八重を示す形質に関して、一因子劣性遺伝する「半八重変異」と「多心皮変異」の二重変異型としてF2世代での理論値6.25%と統計的に矛盾せず、実測値5.9%の頻度の分離比にて出現することを示す結果であった。
得られた完全八重トレニア植物から花部の特性が安定した集団を得、「完全八重系統」である11118系統(FERM P-22437)を作出した。
【0073】
以上の結果、半八重系統と多心皮系統を交配して得られたF2集団から、これらの二重変異体である発達した花弁を十分数備えた完全八重咲きのトレニア植物体が、一定頻度にて出現することが示された。当該作出工程にて得られた「完全八重」を示すトレニア植物は、発達した花弁の数が19~50枚の範囲(特に出現頻度が多い個体の花弁数は19~33枚)で大幅に増加した個体となり、フリルを伴ったへら形の花弁を有する八重咲きの花形特性を示す鑑賞性に優れたものであった(図2)。
また、進展した状態での発達した花弁の花弁長(筒部を含む基部から先端までの長さ)は20~45mm、裂片部の長さ(筒部を除いた長さ)は5~15mm、花弁幅(花弁で最大となる部分の幅)は5~20mmであった。
ここで、作出親である多心皮系統が有する多心皮変異は、雌蕊に関する変異であり、半八重系統との交配による二重変異体の作出によって十分に発達した花弁の数を大幅に増加させる形質が発揮されることは、本例での交雑試験によって分離個体を得るまでは不明であった。
【0074】
ここで、本例におけるF2集団からは、完全八重を示す八重咲き個体として発達した花弁が19枚以上の個体が出現した。但し、植物の花弁数は、同じ遺伝的背景を示す集団であっても、ある程度の幅を以て出現する場合がある。また、トレニア植物の花形の場合、発達した花弁を15枚以上備えた個体であれば、花軸を中心に密集して花弁が放射状に配列して完全な八重を示す花形になると認められる。
これらの点、上記と同様の完全八重を示すトレニア植物と同じ遺伝的背景を有するが何等かの要因によって花弁数が19枚未満の個体であっても、発達した花弁数が15枚以上有するトレニア植物であれば、本発明に係る完全八重の花形を示すトレニア植物であると判断できる。
【0075】
なお、本例にて作出された完全八重系統の各花弁形状は、通常のトレニア植物と同様に向軸側花弁と、背軸側花弁及び左右軸側花弁とで、異なる形状のへら形花弁を示すところ、これらの各花弁の配置領域は正常型と同様の配置領域を示す。そのため、完全八重であってもその花形としては放射相称状の花冠を示さない。
また、当該完全系統の花色は、正常型と同様に向軸弁花弁は全体的に薄い紫色を示す。また、背軸側花弁及び左右軸側花弁の花色は基部から中央付近までは薄い紫色を示すところ、中央付近から先端側が濃い紫色を示す。また、背軸側花弁の中央付近には、黄色の蜜標が存在する。これらの点、本例にて作出された完全八重系統は、花色特性の点に関しても放射相称状の着色様式を示さない。
【0076】
[実験例2] カーネーション様完全八重の花形特性を示すトレニア植物の作出
上記実験例1にて作出された完全八重系統を中間母本系統として用い、花形特性の点で更に鑑賞性に優れた八重咲きトレニア植物の作出を行った。
【0077】
(1)ベゴニア様系統の作出
上記実験例の各種トレニア系統とは別途に、上記「雀斑」の自殖後代からスクリーニング選抜を行ったところ、正常型が有する左右対称の花形特性に加えて、背軸側(下側)の花弁が向軸側(上側)の花弁に変化して向背(上下)が対称性を示す外観になったベゴニア様変異体を見出した。ベゴニア様変異体は、左右対称のみを示す通常のトレニア植物の花形と比較して、向背での対称性が追加された花形を示す。当該変異体からトランスポゾンの転移活性を除去して花部の特性が安定した集団を得、「ベゴニア様系統」(非特許文献3:Niki et al., 2016)を作出した(図3)。
ここで、当該「ベゴニア様系統」が有する変異形質は、劣性一因子遺伝することが報告されている(非特許文献3:Niki et al., 2016)。
【0078】
(2)向背軸弁着色系統の作出
上記実験例の各種トレニア系統とは別途に、上記「雀斑」の自殖後代からスクリーニング選抜を行ったところ、向軸側花弁及び背軸側花弁が左右軸側花弁(基部が薄い紫色で先端部が濃い紫色に着色した花弁)と同様の着色様式を示し、全ての花弁が同様の着色様式を示す向背軸弁着色変異体を見出した。当該変異体からトランスポゾンの転移活性を除去して花部の特性が安定した集団を得、「向背軸弁着色系統」(非特許文献4:西島ら、2015)を作出した(図3)。
ここで、当該「向背軸弁着色系統」が有する変異形質の原因遺伝子は、TfRAD1であると同定されており(非特許文献4:西島ら、2015)、向背軸弁着色変異は劣性一因子遺伝することが判明している。なお、当該向背軸弁着色系統は、本出願時において市販品種として入手することが可能である。
【0079】
(3)ベゴニア様系統(着色均等型)の作出
上記にて作出した「ベゴニア様系統」と市販品種として入手した「向背軸弁着色系統」を交配し、その後代集団にどのような花部を有する交雑体が出現するかを調査した(図3図5)。
両者を交配した結果、F1世代では得られた全てが正常型の花形を示したところ、一方、F2世代では、総個体数に対して、花弁形状が「左右対称及び向背対称(ベゴニア様)」であり且つ「全ての花弁の着色様式が均等性」を示す植物体(図3)が4.8%の頻度で生じることを見出した。当該結果は、当該形質に関して、一因子劣性遺伝する「ベゴニア様変異」と「向背軸弁着色変異」の二重変異型としてF2世代での理論値6.25%と統計的に矛盾しない分離比にて出現することを示す結果であった。
得られた着色均等型ベゴニア様トレニア植物から花部の特性が安定した集団を得、「着色均等型ベゴニア様系統」であるRSF1系統(FERM P-22422)を作出した。
以上の結果、ベゴニア様系統と向背軸弁着色系統を交配して得られたF2集団から、これらの二重変異体である花弁の着色様式が均等性を示すベゴニア様トレニア植物体が、一定頻度にて出現することが示された。当該作出工程にて得られた「着色均等型ベゴニア様」を示すトレニア植物は、花弁形状が上下及び左右で対称性を有し且つ花色特性の点で各花弁の着色様式が同様の着色様式を示す(各花弁の着色様式にばらつきのない:即ち、向背軸側花弁及び左右軸側花弁のいずれの花弁もが、基部が薄い紫色で先端部が濃い紫色の着色様式を示す)鑑賞性に優れた花部特性を示すものであった(図3)。なお、当該トレニア植物の花形に関しては、正常型が有する左右対称の花形に加えて、ベゴニア様変異の影響で向背対称の花弁形状を示すところ、放射相称状の花冠形状は示さない。
【0080】
(4)カーネーション様完全八重系統の作出
上記実験例1にて作出された完全八重系統は、発達した花弁を十分に多数備えた鑑賞性に優れた八重咲きの花形特性を示す。そこで、当該完全八重系統と上記(3)にて得られた着色均等型ベゴニア様系統(ベゴニア様の花形特性を示し且つ全ての花弁の着色様式が均質である系統)を中間母本系統として用い、更に鑑賞性に優れた花部特性を備えたトレニア植物の作出を行った。
【0081】
上記にて作出した「完全八重系統」(FERM-P22437)と「ベゴニア様系統(着色均等型)」(FERM-P22422)を交配し、その後代集団にどのような花形特性を有する交雑体が出現するかを調査した(図3図4図5)。本例では、完全八重系統を種子親とし、着色均等型ベゴニア様系統を花粉親として用いて、交配試験を行った。
両者を交配した結果、F1世代では得られた全てが正常型の花形を示したところ、一方、F2世代では、総個体数に対して、発達した花弁を十分に多く有する完全八重の花形特性を備え、且つ、前記花弁が花軸を中心に八重を形成するように放射状に配列し且つ放射相称状の花冠を示す花形特性を備えた植物体(図5)が、0.8%の頻度で生じることを見出した。当該植物体の花形は、カーネーションの花形と類似した形状を示した。また、当該植物体は、全ての花弁の着色様式が同様の着色様式である花色特性を示した。
当該結果は、当該着色均等型で且つカーネーション様完全八重を示す形質に関して、一因子劣性遺伝する「半八重変異」、「多心皮変異」、「ベゴニア様変異」、及び「向背軸弁着色変異」の四重変異型としてF2世代での理論値0.4%と統計的に矛盾しない分離比にて出現することを示す結果であった。また、着色様式以外の「カーネーション様完全八重」の花形変異に関しては、「半八重変異」、「多心皮変異」、「ベゴニア様変異」の三重変異型として出現した表現型であると認められた。
得られたカーネーション様完全八重を示すトレニア植物から花部特性が安定した集団を得、「カーネーション様完全八重系統」である10868系統(FERM P-22418)を作出した。なお、当該系統は、各花弁の着色様式が同様の着色様式(各花弁の着色様式にばらつきのない:即ち、いずれの花弁もが、基部が薄い紫色で先端部が濃い紫色の着色様式)を示す系統であった。
【0082】
以上の結果、完全八重系統とベゴニア様系統の一系統を交配して得られたF2集団から、完全八重咲きの花形特性を示し且つ花弁が花軸を中心に八重を形成するように放射状に配列し且つ放射相称状の花冠(カーネーション様の花形)を備えたトレニア植物体が、一定頻度にて出現することが示された。
当該作出工程にて得られた「カーネーション様完全八重」を示すトレニア植物は、発達した花弁の数が19~50枚の範囲(特に出現頻度が多い個体の花弁数は19~33枚)で大幅に増加した花形特性を有し、且つ、花形全体を構成する花弁形状がフリルを伴った形状で、花弁の配列様式が放射状に配列し且つ放射相称状の八重の花形を示す鑑賞性に優れた花形特性を示すものであった(図5)。また、当該花弁形状及び花形としては、2種類の異なる形状のフリルを伴ったへら形花弁(正常型の左右軸側花弁及び向軸側花弁に相当する花弁)にて構成されるところ、これらがランダムに放射状に配置する配列様式を示すため、花部全体として放射相称状の花冠を示した。また、進展した状態での発達した花弁の花弁長(筒部を含む基部から先端までの長さ)は20~45mm、裂片部の長さ(筒部を除いた長さ)は5~15mm、花弁幅(花弁で最大となる部分の幅)は5~20mmであった。その花面視からの花形外観は、通常のトレニア植物では見られない放射相称状の花冠を示した。
【0083】
ここで、本例におけるF2集団からは、カーネーション様完全八重を示す八重咲き個体として発達した花弁が19枚以上の個体が出現した。但し、植物の花弁数は、同じ遺伝的背景を示す集団であっても、ある程度の幅を以て出現する場合がある。また、トレニア植物の花形の場合、発達した花弁を15枚以上備えた個体であれば、花軸を中心に密集して花弁が放射状に配列して完全な八重を示す花形になると認められる。
これらの点、上記と同様のカーネーション様完全八重を示すトレニア植物と同じ遺伝的背景を有するが、何等かの要因によって花弁数が19枚未満の個体であっても、発達した花弁数が15枚以上有するトレニア植物であれば、本発明に係るカーネーション様完全八重の花形を示すトレニア植物であると判断できる。
【0084】
ここで、交配親である完全八重系統は、その花形として八重咲きの特性を示すところ、一方、各花弁形状は通常のトレニア植物と同様に向軸側花弁、背軸側花弁、及び左右軸側花弁がそれぞれの領域にのみ位置する花弁の配置態様を示し、その花形として放射相称状の花冠を示さない。また、もう一方の交配親であるベゴニア様系統(着色均等型)が有する花形変異は、向軸側と背軸側が同一形状の花弁とはなるところ、向背方向と左右方向で花弁形状が異なり、その配列様式においては放射相称状の花冠を示さない。これらの点、完全八重系統とベゴニア様系統との交配による変異体の作出によって、その花形として放射相称状の花冠(花面視にて花軸を中心に放射方向のいずれの軸に対しても近似的な対称性を示す花部の形状)を有するカーネーション様の花形が発現することは、本例での交雑試験によって分離個体を得るまでは不明であった。
【0085】
[生物寄託]
上記の作出工程にて得られた八重咲きトレニア系統及びその作出に用いた中間母本系統に関して、寄託機関に生物寄託を行った。下記のトレニア植物に関する各系統は、独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センターに寄託申請され、下記の受託番号が付与された。
【0086】
(1)寄託機関の名称及び宛名
名称: 独立行政法人製品評価技術基盤機構 特許生物寄託センター
住所: 郵便番号292-0818 千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8 120号室
【0087】
(2)受託番号及び寄託に関する日付
・FERM P-22419: Torenia fournieri DF17系統(半八重系統)
寄託日(受託日): 2021年 6月17日
受託証通知日: 2021年 9月 1日
・FERM P-22420: Torenia fournieri MC1系統(多心皮系統)
寄託日(受託日): 2021年 6月17日
受託証通知日: 2021年 9月 1日
・FERM P-22437: Torenia fournieri 11118系統(完全八重系統)
寄託日(受託日): 2021年12月16日
受託証通知日: 2022年 2月15日
・FERM P-22422: Torenia fournieri RSF1系統(着色均等型ベゴニア様系統)
寄託日(受託日): 2021年 6月17日
受託証通知日: 2021年 9月 1日
・FERM P-22418: Torenia fournieri 10868系統(カーネーション様完全八重系統)
寄託日(受託日): 2021年 4月14日
受託証通知日: 2021年 6月14日
【0088】
(3)寄託生物に関する特徴
FERM P-22419、FERM P-22420、FERM P-22437、FERM P-22422、及び、FERM P-22418、に関する各寄託生物の特徴は、本願明細書に係る発明を実施するための形態及び実施例に記載の通りである。また、これらの寄託生物に共通する分類学上の位置及び科学的性質に関する情報は、次の通りである。
・分類学上の位置: アゼナ科ツルウリクサ属(トレニア属)フルニエリ種(Torenia fournieri Lind. ex Fourn.)
・科学的性質に関する情報: ゲノムは2倍体である。高い耐暑性を有し、日向から日蔭まで幅広い光条件下で栽培が可能な優れた環境適応性を備える。変異処理での変異体を得にくい特性を有する。花部は各花弁の基部が合着した合弁花冠を示すが、その花形は正常型とは大きく異なり、上記したようなそれぞれの系統に特有の花形特性を示す。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明にて作出された八重咲きのトレニア植物(トレニア系統)は優れた鑑賞性を備えるため、そのままでも品種化が可能であるところ、更に研究機関や種苗会社等での新規品種の開発に利用されることが期待される。詳しくは、本発明にて作出された八重咲きのトレニア植物(トレニア系統)に既存の商業品種に存在する花色や草姿のバリエーションを取り入れることで、より商品性を高めた品種が作出されることが期待される。
【受託番号】
【0090】
FERM P-22419
FERM P-22420
FERM P-22437
FERM P-22422
FERM P-22418
図1
図2
図3
図4
図5