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特許7414437研磨用組成物、研磨用組成物の製造方法、研磨方法および半導体基板の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】研磨用組成物、研磨用組成物の製造方法、研磨方法および半導体基板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/14 20060101AFI20240109BHJP
   C09G 1/02 20060101ALI20240109BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20240109BHJP
   B24B 37/00 20120101ALI20240109BHJP
【FI】
C09K3/14 550Z
C09K3/14 550D
C09G1/02
H01L21/304 622D
B24B37/00 H
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019167314
(22)【出願日】2019-09-13
(65)【公開番号】P2021042343
(43)【公開日】2021-03-18
【審査請求日】2022-05-16
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】前 僚太
(72)【発明者】
【氏名】大西 正悟
【審査官】柴田 啓二
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2019/0211228(US,A1)
【文献】特開2009-278061(JP,A)
【文献】国際公開第2016/031485(WO,A1)
【文献】特開2019-116627(JP,A)
【文献】特開2013-138053(JP,A)
【文献】特開2013-120885(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/14
C09G 1/02
H01L 21/304
B24B 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コロイダルシリカと、下記式(1):
【化1】

ここで、
~Rのうち1または2の基は、それぞれ独立して、炭素数3以上20以下のアルキル基、炭素数3以上20以下のアルケニル基または炭素数6~20のアリール基である第1の基であり、
~Rのうち前記第1の基以外の残りの3または2の基は、それぞれ独立して、炭素数1または2のアルキル基または炭素数2のアルケニル基である第2の基であり、
は、一価のアニオンである、
で表される第4級アンモニウム化合物と、を含有し、
pHが4.0未満であり、
前記コロイダルシリカのゼータ電位が、-60mV以上-35mV以下であ
SiOCを含む研磨対象物を研磨する用途で使用される、研磨用組成物。
【請求項2】
コロイダルシリカと、下記式(1):
【化2】

ここで、
~Rのうち1または2の基は、それぞれ独立して、炭素数3以上20以下のアルキル基、炭素数3以上20以下のアルケニル基または炭素数6~20のアリール基である第1の基であり、
~Rのうち前記第1の基以外の残りの3または2の基は、それぞれ独立して、炭素数1または2のアルキル基または炭素数2のアルケニル基である第2の基であり、
は、一価のアニオンである、
で表される第4級アンモニウム化合物と、を含有し、
鉄化合物を含有せず、
pHが4.0未満であり、
前記コロイダルシリカのゼータ電位が、-60mV以上-35mV以下であ
SiOCを含む研磨対象物を研磨する用途で使用される、研磨用組成物。
【請求項3】
前記式(1)において、前記第1の基は、炭素数が8以上13以下のアルキル基、炭素数8以上13以下のアルケニル基、または炭素数6以上13以下のアリール基である、請求項1または2に記載の研磨用組成物。
【請求項4】
前記コロイダルシリカが、有機酸を表面に固定化したコロイダルシリカである、請求項1~のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項5】
酸化剤をさらに含む、請求項1~のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項6】
コロイダルシリカと、下記式(1):
【化3】

ここで、
~Rのうち1または2の基は、それぞれ独立して、炭素数3以上20以下のアルキル基、炭素数3以上20以下のアルケニル基または炭素数6~20のアリール基である第1の基であり、
~Rのうち前記第1の基以外の残りの3または2の基は、それぞれ独立して、炭素数1または2のアルキル基または炭素数2のアルケニル基である第2の基であり、
は、一価のアニオンである、
で表される第4級アンモニウム化合物と、を混合する工程を含み、
pHが4.0未満であり、
前記コロイダルシリカのゼータ電位が、-60mV以上-35mV以下である、SiOCを含む研磨対象物を研磨する用途で使用される研磨用組成物の製造方法。
【請求項7】
請求項1~のいずれか1項に記載の研磨用組成物または請求項に記載の製造方法により製造されてなる研磨用組成物を用いて、研磨対象物を研磨する工程を含む、研磨方法。
【請求項8】
請求項に記載の研磨方法を有する、半導体基板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨用組成物、研磨用組成物の製造方法、研磨方法および半導体基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体基板表面の多層配線化に伴い、デバイスを製造する際に、物理的に半導体基板を研磨して平坦化する、いわゆる、化学的機械的研磨(Chemical Mechanical Polishing;CMP)技術が利用されている。CMPは、シリカやアルミナ、セリア等の砥粒、防食剤、界面活性剤などを含む研磨用組成物(スラリー)を用いて、半導体基板等の研磨対象物(被研磨物)の表面を平坦化する方法であり、研磨対象物(被研磨物)は、シリコン、ポリシリコン、酸化ケイ素(SiO)、炭素含有酸化ケイ素(SiOC)、シリコン窒化物(SiN)や、金属等からなる配線、プラグ等である。
【0003】
例えば、特許文献1には、SiOC等の低比誘電率の絶縁膜を研磨するための研磨用組成物として、コロイダルシリカ粒子、ベンゾトリアゾール化合物、および第二級または第三級アミノアルコールを含み、pHが7~10の範囲である研磨用組成物が開示されている。この技術によれば、SiOC等の絶縁膜のスクラッチの発生を抑制することができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2008-091569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の技術では、研磨速度の向上が未だ不十分であるという問題があることがわかった。
【0006】
したがって、本発明は、SiOCを高い研磨速度で研磨することができる研磨用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決するために、鋭意検討を積み重ねた。その結果、コロイダルシリカと、下記式(1):
【0008】
【化1】
【0009】
ここで、R~Rのうち1または2の基は、それぞれ独立して、炭素数3以上20以下のアルキル基、炭素数3以上20以下のアルケニル基または炭素数6~20のアリール基である第1の基であり、R~Rのうち前記第1の基以外の残りの3または2の基は、それぞれ独立して、炭素数1または2のアルキル基または炭素数2のアルケニル基である第2の基であり、Aは、一価のアニオンである、
で表される第4級アンモニウム化合物と、を含有し、pHが4.0未満であり、前記コロイダルシリカのゼータ電位が、-60mV以上-35mV以下である、研磨用組成物により、上記課題が解決することを見出した。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、SiOCを高い研磨速度で研磨できる研磨用組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態を説明するが、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。なお、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20~25℃)/相対湿度40~50%RHの条件で測定する。また、本明細書において、範囲を示す「X~Y」は、「X以上Y以下」を意味する。
【0012】
<研磨用組成物>
本発明は、研磨対象物を研磨するために用いられる研磨用組成物であって、コロイダルシリカと、下記式(1):
【0013】
【化2】
【0014】
ここで、
~Rのうち1または2の基は、それぞれ独立して、炭素数3以上20以下のアルキル基、炭素数3以上20以下のアルケニル基または炭素数6~20のアリール基である第1の基であり、
~Rのうち前記第1の基以外の残りの3または2の基は、それぞれ独立して、炭素数1または2のアルキル基または炭素数2のアルケニル基である第2の基であり、
は、一価のアニオンである、
で表される第4級アンモニウム化合物と、を含有し、pHが4.0未満であり、前記コロイダルシリカのゼータ電位が、-60mV以上-35mV以下である、研磨用組成物である。当該研磨用組成物によれば、SiOCを高い研磨速度で研磨することができる。
【0015】
本発明の研磨用組成物により、上記効果を奏する理由は必ずしも明確ではないが、以下のように考えられる。
【0016】
本発明の研磨用組成物は、pH4.0未満において所定のゼータ電位であるコロイダルシリカと、特定構造の第4級アンモニウム化合物とを含有する。具体的には、研磨用組成物に用いられるコロイダルシリカは、pH4.0未満においてゼータ電位が-60mV~-35mVであり、第4級アンモニウム化合物は、疎水性の基(第1の基)を1つまたは2つ有する。
【0017】
ここで、「ゼータ(ζ)電位」とは、互いに接している固体と液体とが相対運動を行なったときの両者の界面に生じる電位差のことである。本発明の研磨用組成物においては、pHが4.0未満であって、このpH4.0未満において特定構造の第4級アンモニウム化合物が存在することにより、SiOC表面のゼータ電位は著しく陽転する。すなわち、pH4.0未満における特定構造の第4級アンモニウム化合物の存在下では、SiOC表面は正に帯電しており、そのゼータ電位の絶対値が大きくなる。
【0018】
よって、本発明の研磨用組成物を用いてSiOCを研磨する場合、特定構造の第4級アンモニウム化合物の存在下において、コロイダルシリカは負に帯電しており、SiOCは正に帯電している。これにより、SiOCとコロイダルシリカとは強く引き合うため、SiOCの研磨速度が高くなる。ただし、かかるメカニズムは推測に過ぎず、本発明の技術的範囲を制限しないことは言うまでもない。
【0019】
[研磨対象物]
本発明の研磨用組成物により研磨される研磨対象物は、SiOC(炭素含有酸化ケイ素)を含むことが好ましい。すなわち、本発明の研磨用組成物は、SiOCを含む研磨対象物を研磨する用途で用いられるのが好ましい。研磨対象物は、SiOC以外の材料を含んでいてもよく、研磨対象物に含まれるSiOC以外の材料としては、特に制限されず、例えば、酸化ケイ素、窒化ケイ素、炭窒化ケイ素(SiCN)、多結晶シリコン(ポリシリコン)、非晶質シリコン(アモルファスシリコン)、金属、SiGe等が挙げられる。
【0020】
SiOCを含む研磨対象物としては、公知の方法により形成されたSiOC(膜)を含む物であればよいが、例えば、SOG(Spin on glass)法により形成されたSiOC(膜)、流動性化学気相成膜(Flowable chemical vapor deposition;FCVD)法により形成されたSiOC(膜)を含む研磨対象物が好適に挙げられる。
【0021】
[コロイダルシリカ]
本発明の研磨用組成物は、砥粒としてコロイダルシリカを含む。本発明の研磨用組成物に使用されるコロイダルシリカは、pH4.0未満で-60mV以上-35mV以下のゼータ電位を示すものである。コロイダルシリカのゼータ電位は、-55mV以上-38mV以下であるのが好ましく、-50mV以上-40mV以下であるのがより好ましい。コロイダルシリカがこのような範囲のゼータ電位を有していることにより、SiOCに対する研磨速度をより向上させることができる。
【0022】
ここで、研磨用組成物中のコロイダルシリカのゼータ電位は、研磨用組成物を大塚電子株式会社製ELS-Z2に供し、測定温度25℃でフローセルを用いてレーザードップラー法(電気泳動光散乱測定法)で測定し、得られるデータをSmoluchowskiの式で解析することにより、算出する。
【0023】
コロイダルシリカの製造方法としては、ケイ酸ソーダ法、ゾルゲル法が挙げられ、いずれの製造方法で製造されたコロイダルシリカであっても、本発明のコロイダルシリカとして好適に用いられる。しかしながら、金属不純物低減の観点から、ゾルゲル法により製造されたコロイダルシリカが好ましい。ゾルゲル法によって製造されたコロイダルシリカは、半導体中に拡散性のある金属不純物や塩化物イオン等の腐食性イオンの含有量が少ないため好ましい。ゾルゲル法によるコロイダルシリカの製造は、従来公知の手法を用いて行うことができ、具体的には、加水分解可能なケイ素化合物(例えば、アルコキシシランまたはその誘導体)を原料とし、加水分解・縮合反応を行うことにより、コロイダルシリカを得ることができる。
【0024】
使用するコロイダルシリカの種類は特に限定されないが、例えば、表面修飾したコロイダルシリカの使用が可能である。コロイダルシリカの表面修飾は、例えば、コロイダルシリカの表面に有機酸の官能基を化学的に結合させること、すなわち有機酸の固定化により行うことができる。または、アルミニウム、チタンまたはジルコニウムなどの金属、あるいはそれらの酸化物をコロイダルシリカと混合してシリカ粒子の表面にドープさせることによりコロイダルシリカの表面修飾を行うことができる。
【0025】
本発明の好ましい実施形態において、研磨用組成物中に含まれるコロイダルシリカは、有機酸を表面に固定化したコロイダルシリカである。有機酸を表面に固定化したコロイダルシリカは、有機酸が固定化されていない通常のコロイダルシリカに比べて、研磨用組成物中でのゼータ電位の絶対値が大きい傾向がある。そのため、研磨用組成物中におけるコロイダルシリカのゼータ電位を-60mV以上-35mV以下の範囲に調整しやすい。
【0026】
なお、コロイダルシリカのゼータ電位は、例えば、上述の有機酸を表面に固定化したコロイダルシリカとするだけでなく、後述する第4級アンモニウム化合物の種類や添加量を調節することにより、所望の範囲に制御することができる。また、コロイダルシリカのゼータ電位は、例えば、pH調整剤として後述する酸を使用することにより、所望の範囲に制御することができる。
【0027】
有機酸を表面に固定化したコロイダルシリカとしては、カルボン酸基、スルホン酸基、ホスホン酸基、アルミン酸基等の有機酸を表面に固定化したコロイダルシリカが好ましく挙げられる。これらのうち、容易に製造できるという観点からスルホン酸、カルボン酸を表面に固定化したコロイダルシリカであるのが好ましく、スルホン酸を表面に固定化したコロイダルシリカであるのがより好ましい。
【0028】
コロイダルシリカの表面への有機酸の固定化は、コロイダルシリカと有機酸とを単に共存させただけでは果たされない。例えば、有機酸の一種であるスルホン酸をコロイダルシリカに固定化するのであれば、例えば、“Sulfonic acid-functionalized silica through of thiol groups”, Chem. Commun. 246-247 (2003)に記載の方法で行うことができる。具体的には、3-メルカプトプロピルトリメトキシシランなどのチオール基を有するシランカップリング剤をコロイダルシリカにカップリングさせた後に過酸化水素でチオール基を酸化することにより、スルホン酸を表面に固定化したコロイダルシリカ(スルホン酸修飾コロイダルシリカ)を得ることができる。
【0029】
あるいは、有機酸の一種であるカルボン酸をコロイダルシリカに固定化するのであれば、例えば、“Novel Silane Coupling Agents Containing a Photolabile 2-Nitrobenzyl Ester for Introduction of a Carboxy Group on the Surface of Silica Gel”, Chemistry Letters, 3, 228-229 (2000)に記載の方法で行うことができる。具体的には、光反応性2-ニトロベンジルエステルを含むシランカップリング剤をコロイダルシリカにカップリングさせた後に光照射することにより、カルボン酸を表面に固定化したコロイダルシリカ(カルボン酸修飾コロイダルシリカ)を得ることができる。
【0030】
本発明の研磨用組成物中、コロイダルシリカの平均一次粒子径の下限は、1nm以上であることが好ましく、5nm以上であることがより好ましく、7nm以上であることがさらに好ましい。また、本発明の研磨用組成物中、コロイダルシリカの平均一次粒子径の上限は、100nm以下が好ましく、75nm以下がより好ましく、50nm以下がさらに好ましい。このような範囲であれば、研磨用組成物を用いて研磨した後の研磨対象物の表面に発生しうるスクラッチなどのディフェクトを抑えることができる。なお、コロイダルシリカの平均一次粒子径は、例えば、BET法で測定されるコロイダルシリカの比表面積に基づいて算出される。
【0031】
本発明の研磨用組成物中、コロイダルシリカの平均二次粒子径の下限は、2nm以上であることが好ましく、10nm以上であることがより好ましく、15nm以上であることがさらに好ましい。また、本発明の研磨用組成物中、コロイダルシリカの平均一次粒子径の上限は、200nm以下が好ましく、150nm以下がより好ましく、100nm以下がさらに好ましい。このような範囲であれば、研磨用組成物を用いて研磨した後の研磨対象物の表面に発生しうるスクラッチなどのディフェクトを抑えることができる。なお、コロイダルシリカの平均一次粒子径は、例えば、レーザー回折散乱法に代表される動的光散乱法により測定することができる。
【0032】
コロイダルシリカの平均会合度は、好ましくは5.0以下であり、より好ましくは3.0以下であり、さらにより好ましくは2.5以下である。コロイダルシリカの平均会合度が小さくなるにつれて、研磨用組成物を用いて研磨対象物を研磨することにより表面欠陥の少ない研磨面を得られやすい。また、コロイダルシリカの平均会合度は、好ましくは1.0以上であり、より好ましくは1.2以上である。コロイダルシリカの平均会合度が大きくなるにつれて、研磨用組成物による研磨対象物の除去速度が向上する利点がある。なお、コロイダルシリカの平均会合度は、コロイダルシリカの平均二次粒子径の値を平均一次粒子径の値で除することにより得られる。
【0033】
本発明において、コロイダルシリカの形状は、特に制限されず、球状または非球形状のどちらであってもよいが、非球状であるのが好ましい。非球形状の具体例としては、三角柱や四角柱等の多角柱状、円柱状、円柱の中央部が端部よりも膨らんだ俵状、円盤の中央部が貫通しているドーナツ状、板状、中央部にくびれを有するいわゆる繭型形状、複数の粒子が一体化しているいわゆる会合型球形状、表面に複数の突起を有するいわゆる金平糖形状、ラグビーボール形状等、種々の形状が挙げられ、特に制限されない。
【0034】
コロイダルシリカの含有量の下限は、研磨用組成物に対して、0.1質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましく、1質量%以上であることがさらに好ましい。また、コロイダルシリカの含有量の上限は、研磨用組成物に対して、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましい。このような範囲であると、研磨速度をより向上することができる。なお、研磨用組成物が2種以上のコロイダルシリカを含む場合には、コロイダルシリカの含有量はこれらの合計量を意味する。
【0035】
上記のゼータ電位が特定の範囲にあるコロイダルシリカを含んでいれば、本発明の一実施形態による研磨用組成物は、他の砥粒を含んでいてもよい。他の砥粒の例としては、例えば、アルミナ粒子、ジルコニア粒子、チタニア粒子等の金属酸化物粒子が挙げられる。
【0036】
[第4級アンモニウム化合物]
本発明の研磨用組成物は、下記式(1)で表される第4級アンモニウム化合物(以下、単に「第4級アンモニウム化合物」とも称する。)を含む。
【0037】
【化3】
【0038】
式(1)において、R~Rのうち1または2の基は、それぞれ独立して、炭素数3以上20以下のアルキル基、炭素数3以上20以下のアルケニル基または炭素数6~20のアリール基である第1の基であり、R~Rのうち第1の基以外の残りの3または2の基は、それぞれ独立して、炭素数1または2のアルキル基または炭素数2のアルケニル基である第2の基である。
【0039】
ここで、第1の基は、第4級アンモニウム化合物において疎水性の基として作用する。本発明の研磨用組成物においては、疎水性の高い第1の基を有する第4級アンモニウム化合物が存在することにより、研磨用組成物中において、第4級アンモニウム塩がカチオン界面活性剤として挙動し、結果としてSiOC表面のゼータ電位を著しく陽転させることができるものと推測される。
【0040】
なお、上記第1の基を2つ有する場合、第1の基は互いに同じでもよいし異なっていてもよい。同様に、3または2存在する第2の基は互いに同じでもよいし異なっていてもよい。
【0041】
炭素数3~20のアルキル基は、直鎖状であっても分岐状であってもよい。炭素数3~20のアルキル基の具体例について特に制限はないが、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、2-エチルヘキシル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基(ミリスチル基)、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基(パルミチル基)、n-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基(ステアリル基)、n-ノナデシル基、n-イコシル基などを挙げることができる。
【0042】
炭素数3~20のアルケニル基は、直鎖状であっても分岐状であってもよい。炭素数3~20のアルケニル基の具体例について特に制限はないが、1-プロペニル基、イソプロペニル基、2-メチル-1-プロペニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、2-エチル-1-ブテニル基、1-ペンテニル基、2-ペンテニル基、3-ペンテニル基、4-ペンテニル基、4-メチル-3-ペンテニル基、1-ヘキセニル基、2-ヘキセニル基、3-ヘキセニル基、4-ヘキセニル基、5-ヘキセニル基、1-オクテニル基、2-オクテニル基、1-ドデセニル基、2-ドデセニル基、3-ドデセニル基、2-テトラデセニル基、1-ヘキサデセニル基、2-ヘキサデセニル基、1-オクタデセニル基、2-オクタデセニル基、オレイル基(シス-9-オクタデセニル基)などを挙げることができる。
【0043】
炭素数6~20のアリール基は、フェニル基、2-メチルフェニル基、3-エチルフェニル基、ナフチル基などを挙げることができる。
【0044】
炭素数1または2のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基などを挙げることができる。
【0045】
炭素数2のアルケニル基の具体例としては、ビニル基を挙げることができる。
【0046】
式(1)で表される第4級アンモニウム化合物において、第1の基(すなわち、R~Rのうち1または2の基)は、炭素数4以上18以下のアルキル基、炭素数4以上18以下のアルケニル基、または炭素数6以上18以下のアリール基であることが好ましく、炭素数6以上16以下のアルキル基、炭素数6以上16以下のアルケニル基、または炭素数6以上16以下のアリール基であることがより好ましく、炭素数8以上13以下のアルキル基、炭素数8以上13以下のアルケニル基、または炭素数6以上13以下のアリール基であることがさらに好ましく、炭素数8以上13以下のアルキル基が最も好ましい。また、第2の基(すなわち、R~Rのうち第1の基以外の残りの3または2の基)は、メチル基、エチル基が好ましく、メチル基であることがさらに好ましい。
【0047】
第4級アンモニウム化合物において、第1の基は、R~Rの4つのうち1つまたは2つであり、第2の基は、R~Rの4つのうち3つまたは2つであるが、好ましくは第1の基は1つであり、第2の基は3つである。これにより、研磨速度の向上がより発揮される。
【0048】
式(1)において、Aは、一価のアニオンである。一価のアニオンAは、任意の一価のアニオンであり、特に制限されないが、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオンなどのハロゲン化物イオン;水酸化物イオン;安息香酸イオンなどの有機酸イオンなどが好適である。なかでも、ハロゲン化物イオンであることが好ましく、塩素イオンであることがより好ましい。なお、一価のアニオンは、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0049】
式(1)で表される第4級アンモニウム化合物としては、Aが塩化物イオンである場合、ブチルトリメチルアンモニウムクロリド、オクチルトリメチルアンモニウムクロリド、ジオクチルジメチルアンモニウムクロリド、デシルトリメチルクロリド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロリド、ジドデシルジメチルアンモニウムクロリド、テトラデシルトリメチルアンモニウムクロリド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムクロリド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロリド、ジステアリルジメチルアンモニウムクロリド、フェニルトリメチルアンモニウムクロリド等が好適に用いられる。これらのうち、ブチルトリメチルアンモニウムクロリド、ドデシルトリメチルアンモニウムクロリド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロリド、フェニルトリメチルアンモニウムクロリドが好ましく、ドデシルトリメチルアンモニウムクロリド、ステアリルトリメチルアンモニウムクロリドがより好ましい。
【0050】
これらの第4級アンモニウム化合物は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0051】
第4級アンモニウム化合物の含有量の下限は、研磨用組成物に対して、0.001質量%以上であることが好ましく、0.005質量%以上であることがより好ましく、0.01質量%以上であることがさらに好ましい。また、第4級アンモニウム化合物の含有量の上限は、研磨用組成物に対して、5質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましい。このような範囲であると、研磨速度をより向上させることができる。なお、研磨用組成物が2種以上の第4級アンモニウム化合物を含む場合には、第4級アンモニウム化合物の含有量はこれらの合計量を意味する。
【0052】
[pHおよびpH調整剤]
本発明の研磨用組成物のpHは4.0未満である。仮に、pH4.0以上となると、研磨対象物の研磨速度を向上させることができない。本発明の研磨用組成物のpHは4.0未満であればよいが、より好ましくは3.9以下である。pHが4.0未満であると、研磨対象物、特にSiOCの研磨速度が向上する有利な効果がある。pHの下限は、1.0以上であることが好ましく、1.5以上であることがより好ましい。
【0053】
研磨用組成物のpHを所望の値に調整するのにpH調整剤を使用してもよい。
【0054】
使用されるpH調整剤は、無機酸、有機酸、アルカリ等がある。これらは1種単独でもまたは2種以上を組み合わせて使ってもよい。
【0055】
pH調整剤として使用できる無機酸の具体例としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、フッ酸、ホウ酸、炭酸、次亜リン酸、亜リン酸およびリン酸が挙げられる。なかでも好ましいのは、塩酸、硫酸、硝酸またはリン酸である。
【0056】
pH調整剤として使用できる有機酸の具体例としては、例えば、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、2-メチル酪酸、n-ヘキサン酸、3,3-ジメチル酪酸、2-エチル酪酸、4-メチルペンタン酸、n-ヘプタン酸、2-メチルヘキサン酸、n-オクタン酸、2-エチルヘキサン酸、安息香酸、グリコール酸、サリチル酸、グリセリン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フタル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、乳酸、ジグリコール酸、2-フランカルボン酸、2,5-フランジカルボン酸、3-フランカルボン酸、2-テトラヒドロフランカルボン酸、メトキシ酢酸、メトキシフェニル酢酸およびフェノキシ酢酸が挙げられる。メタンスルホン酸、エタンスルホン酸およびイセチオン酸等の有機硫酸を使用してもよい。なかでも好ましいのは、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フタル酸、リンゴ酸および酒石酸のようなジカルボン酸、ならびにクエン酸のようなトリカルボン酸である。
【0057】
無機酸または有機酸の代わりにあるいは無機酸または有機酸と組み合わせて、無機酸または有機酸のアルカリ金属塩等の塩をpH調整剤として用いてもよい。弱酸と強塩基、強酸と弱塩基、または弱酸と弱塩基の組み合わせの場合には、pHの緩衝作用を期待することができる。
【0058】
pH調整剤として使用できるアルカリの具体例としては、例えば、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド等を挙げることができる。pH調整剤の含有量は、本発明の効果を奏する範囲内で適宜調整することによって選択することができる。
【0059】
なお、研磨用組成物のpHは、例えばpHメータにより測定することができる。
【0060】
[他の成分]
本発明の研磨用組成物は、必要に応じて、分散媒、無機塩類、式(1)で表される第4級アンモニウム化合物以外の界面活性剤、水溶性高分子、防腐剤、防カビ剤、酸化剤等の他の成分をさらに含んでもよい。以下、他の成分である、分散媒、無機塩類、界面活性剤、水溶性高分子、防腐剤および防カビ剤、ならびに酸化剤について説明する。
【0061】
[分散媒]
研磨用組成物は、研磨用組成物を構成する各成分の分散のために分散媒(溶媒)を含んでもよい。分散媒は、各成分を分散または溶解させる機能を有する。分散媒としては、有機溶媒、水が挙げられるが、水を含むことが好ましく、水であることがより好ましい。
【0062】
研磨対象物の汚染や他の成分の作用を阻害することを抑制するという観点から、分散媒としては不純物をできる限り含有しない水が好ましい。このような水としては、例えば、遷移金属イオンの合計含有量が100ppb以下である水が好ましい。ここで、水の純度は、例えば、イオン交換樹脂を用いる不純物イオンの除去、フィルタによる異物の除去、蒸留等の操作によって高めることができる。具体的には、水としては、例えば、脱イオン水(イオン交換水)、純水、超純水、蒸留水等を用いることが好ましい。通常は、研磨用組成物に含まれる分散媒の90体積%以上が水であることが好ましく、95体積%以上が水であることがより好ましく、99体積%以上が水であることがさらに好ましく、100体積%が水であることが特に好ましい。
【0063】
また、分散媒は、各成分の分散または溶解のために、水と有機溶媒との混合溶媒であってもよい。この場合、用いられる有機溶媒としては、水と混和する有機溶媒であるアセトン、アセトニトリル、エタノール、メタノール、イソプロパノール、グリセリン、エチレングリコール、プロピレングリコール等が挙げられる。また、これらの有機溶媒を水と混合せずに用いて、各成分を分散または溶解した後に、水と混合してもよい。これら有機溶媒は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。
【0064】
[無機塩類]
本発明の研磨用組成物は、無機塩類を含んでもよい。本発明で添加される無機塩類の具体例としては、例えば硫酸アンモニウム、塩化マグネシウム、酢酸カリウム、および硝酸アルミニウム等が挙げられる。
【0065】
[界面活性剤]
本発明の研磨用組成物は、式(1)で表される第4級アンモニウム化合物以外の界面活性剤を含んでもよい。本発明で添加される界面活性剤は、陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両性界面活性剤、および非イオン性界面活性剤のいずれであってもよい。
【0066】
陰イオン性界面活性剤の例としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル酢酸、ポリオキシエチレンアルキル硫酸エステル、アルキル硫酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸、アルキルエーテル硫酸、アルキルベンゼンスルホン酸、アルキルリン酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルリン酸エステル、ポリオキシエチレンスルホコハク酸、アルキルスルホコハク酸、アルキルナフタレンスルホン酸、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸、およびこれらの塩等が挙げられる。
【0067】
陽イオン性界面活性剤の例としては、式(1)で表される第4級アンモニウム化合物以外であればよく、例えば、テトラメチルアンモニウム塩等が挙げられる。
【0068】
両性界面活性剤の例としては、例えば、アルキルベタイン、アルキルアミンオキシド等が挙げられる。
【0069】
非イオン性界面活性剤の例としては、例えば、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミン、およびアルキルアルカノールアミド等が挙げられる。
【0070】
界面活性剤は、単独でもまたは2種以上混合しても用いることができる。
【0071】
[水溶性高分子]
本発明の研磨用組成物は、水溶性高分子を含んでもよい。本発明で添加される水溶性高分子の具体例としては、例えば、ポリスチレンスルホン酸塩、ポリイソプレンスルホン酸塩、ポリアクリル酸塩、ポリマレイン酸、ポリイタコン酸、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、ポリグリセリン、ポリビニルピロリドン、イソプレンスルホン酸とアクリル酸との共重合体、ポリビニルピロリドンポリアクリル酸共重合体、ポリビニルピロリドン酢酸ビニル共重合体、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物の塩、ジアリルアミン塩酸塩二酸化硫黄共重合体、カルボキシメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースの塩、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、プルラン、キトサン、およびキトサン塩類が挙げられる。
【0072】
[防腐剤および防カビ剤]
本発明で用いられる防腐剤および防カビ剤としては、例えば、2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オンや5-クロロ-2-メチル-4-イソチアゾリン-3-オン等のイソチアゾリン系防腐剤、パラオキシ安息香酸エステル類、およびフェノキシエタノール等が挙げられる。これら防腐剤および防カビ剤は、単独でもまたは2種以上混合して用いてもよい。
【0073】
[酸化剤]
本発明の研磨用組成物は、酸化剤を含むことが好ましい。酸化剤は、研磨対象物の表面を酸化する作用を有し、研磨用組成物による研磨対象物の研磨速度をより向上させうる。
【0074】
酸化剤の例としては、過酸化水素、過酸化ナトリウム、過酸化バリウム、オゾン水、銀(II)塩、鉄(III)塩、過マンガン酸、クロム酸、重クロム酸、ペルオキソ二硫酸、ペルオキソリン酸、ペルオキソ硫酸、ペルオキソホウ酸、過ギ酸、過酢酸、過安息香酸、過フタル酸、次亜塩素酸、次亜臭素酸、次亜ヨウ素酸、塩素酸、亜塩素酸、過塩素酸、臭素酸、ヨウ素酸、過ヨウ素酸、過硫酸、ジクロロイソシアヌル酸およびそれらの塩等が挙げられる。これら酸化剤は、単独でもまたは2種以上組み合わせても用いることができる。これらの中でも、過酸化水素、過硫酸アンモニウム、過ヨウ素酸、次亜塩素酸、およびジクロロイソシアヌル酸ナトリウムが好ましく、過酸化水素がより好ましい。
【0075】
研磨用組成物中の酸化剤の含有量の下限は、0.001質量%以上であることが好ましく、0.01質量%以上であることが好ましい。下限をこのようにすることで、研磨速度をより向上させることができる。また、研磨用組成物中の酸化剤の含有量の上限は、30質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。上限をこのようにすることで、研磨用組成物の材料コストを抑えることができるのに加え、研磨使用後の研磨用組成物の処理、すなわち廃液処理の負荷を軽減することができる。また、酸化剤による研磨対象物表面の過剰な酸化が起こる虞を少なくすることもできる。
【0076】
[研磨用組成物の使用形態]
本発明の研磨用組成物は、典型的には該研磨用組成物を含む研磨液の形態で研磨対象物に供給されて、その研磨対象物の研磨に用いられる。本発明の研磨用組成物は、例えば、希釈(典型的には、水により希釈)して研磨液として使用されるものであってもよく、そのまま研磨液として使用されるものであってもよい。すなわち、本発明に係る技術における研磨用組成物の概念には、研磨対象物に供給されて該研磨対象物の研磨に用いられる研磨用組成物(ワーキングスラリー)と、希釈して研磨に用いられる濃縮液(ワーキングスラリーの原液)との双方が包含される。上記濃縮液の濃縮倍率は、例えば、体積基準で2倍~100倍程度とすることができ、通常は5倍~50倍程度が適当である。
【0077】
<研磨用組成物の製造方法>
本発明の研磨用組成物の製造方法は、特に制限されず、例えば、コロイダルシリカ、第4級アンモニウム化合物および必要に応じてpH調整剤等の他の添加剤を、分散媒中で攪拌混合することにより得ることができる。各成分の詳細は上述した通りである。したがって、本発明は、コロイダルシリカと、上記式(1)で表される第4級アンモニウム化合物と、を混合する工程を含み、pHが4.0未満であり、コロイダルシリカのゼータ電位が、-60mV以上-35mV以下である、研磨用組成物の製造方法を提供する。
【0078】
各成分を混合する際の温度は特に制限されないが、10℃以上40℃以下が好ましく、溶解速度を上げるために加熱してもよい。また、混合時間も、均一混合できれば特に制限されない。
【0079】
<研磨方法および半導体基板の製造方法>
本発明は、本発明の研磨用組成物または本発明の製造方法により製造されてなる研磨用組成物を用いて研磨対象物を研磨する工程を含む研磨方法を提供する。また、本発明は、上記研磨方法を有する、半導体基板の製造方法を提供する。
【0080】
研磨装置としては、研磨対象物を有する基板等を保持するホルダーと回転数を変更可能なモータ等とが取り付けてあり、研磨パッド(研磨布)を貼り付け可能な研磨定盤を有する一般的な研磨装置を使用することができる。
【0081】
研磨パッドとしては、一般的な不織布、ポリウレタン、および多孔質フッ素樹脂等を特に制限なく使用することができる。研磨パッドには、研磨液が溜まるような溝加工が施されていることが好ましい。
【0082】
研磨条件については、例えば、研磨定盤の回転速度は、10rpm(0.17s-1)以上500rpm(8.3s-1)が好ましい。研磨対象物を有する基板にかける圧力(研磨圧力)は、0.5psi(3.4kPa)以上10psi(68.9kPa)以下が好ましい。研磨パッドに研磨用組成物を供給する方法も特に制限されず、例えば、ポンプ等で連続的に供給する方法が採用される。この供給量に制限はないが、研磨パッドの表面が常に本発明の研磨用組成物で覆われていることが好ましい。
【0083】
研磨終了後、基板を流水中で洗浄し、スピンドライヤ等により基板上に付着した水滴を払い落として乾燥させることにより、金属を含む層を有する基板が得られる。
【0084】
本発明の研磨用組成物は一液型であってもよいし、二液型をはじめとする多液型であってもよい。
【実施例
【0085】
本発明を、以下の実施例および比較例を用いてさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、特記しない限り、「%」および「部」は、それぞれ、「質量%」および「質量部」を意味する。また、下記実施例において、特記しない限り、操作は室温(20~25℃)/相対湿度40~50%RHの条件下で行われた。なお、研磨用組成物に含まれるスルホン酸修飾コロイダルシリカまたは未修飾コロイダルシリカのゼータ電位は、下記方法により測定した。
【0086】
<ゼータ電位測定>
下記で調製した各研磨用組成物を大塚電子株式会社製ELS-Z2に供し、測定温度25℃でフローセルを用い、レーザードップラー法(電気泳動光散乱測定法)により測定を行った。得られたデータをSmoluchowskiの式で解析することにより、研磨用組成物中のスルホン酸修飾コロイダルシリカまたは未修飾コロイダルシリカのゼータ電位を算出した。
【0087】
[研磨用組成物の調製]
(表面修飾コロイダルシリカの準備)
コロイダルシリカとして、平均一次粒子径12nm、平均二次粒子径24nm、平均会合度2のスルホン酸修飾コロイダルシリカを、“Sulfonic acid-functionalized silica through quantitative oxidation of thiol groups”, Chem. Commun. 246-247 (2003)に記載の方法で作製したものを準備した。
【0088】
また、同様の方法で、平均一次粒子径35nm、平均二次粒子径70nm、平均会合度2のスルホン酸修飾コロイダルシリカを準備した。
【0089】
(実施例1)
砥粒として上記で得られたスルホン酸修飾コロイダルシリカ(平均一次粒子径12nm、平均二次粒子径24nm、平均会合度2)を4質量%、および第4級アンモニウム化合物としてドデシルトリメチルアンモニウムクロリドを0.05質量%の最終濃度となるように、分散媒であるイオン交換水に室温(25℃)で加え、混合液を得た。
【0090】
その後、混合液にpH調整剤としてマレイン酸を、pHが2.3となるように添加し、室温(25℃)で30分攪拌混合し、研磨用組成物を調製した。研磨用組成物(液温:25℃)のpHは、pHメータ(株式会社堀場製作所製 型番:LAQUA)により確認した。また、得られた研磨用組成物中のスルホン酸修飾コロイダルシリカのゼータ電位を、上記方法により測定したところ、-45mVであった。
【0091】
(実施例2、4、6および比較例1、3)
砥粒の種類、および第4級アンモニウム化合物の種類を表1のように変更したこと以外は実施例1と同様にして、実施例2、4、6および比較例1、3に係る研磨用組成物を調製した。なお、下記表1において「-」と表示されているものは、その剤を含んでいないことを示す。得られた研磨用組成物のpH、およびスルホン酸修飾コロイダルシリカまたは未修飾コロイダルシリカのゼータ電位は、下記表1に示す。
【0092】
(実施例3、比較例2)
表1に記載のpHとなるようにpH調整剤の種類および含有量を変更したこと以外は実施例1と同様にして、実施例3および比較例2に係る研磨用組成物を調製した。なお、実施例3では、pH調整剤としてマレイン酸を研磨用組成物のpHが3.8となるように添加し、比較例2では、pH調整剤としてマレイン酸を研磨用組成物のpHが6.0となるように添加した。得られた研磨用組成物のpHおよび研磨用組成物中のスルホン酸修飾コロイダルシリカのゼータ電位は、下記表1に示す。
【0093】
(実施例5)
スルホン酸修飾コロイダルシリカおよび第4級アンモニウム化合物に加えて、酸化剤として過酸化水素を1質量%の最終濃度となるように添加した以外は、実施例1と同様にして、研磨用組成物を調製した。得られた研磨用組成物のpHおよび研磨用組成物中のスルホン酸修飾コロイダルシリカのゼータ電位は、下記表1に示す。
【0094】
[平均二次粒子径の評価]
研磨用組成物中のコロイダルシリカの平均二次粒子径は、レーザー光を用いた光散乱法によって測定し、測定機器としては日機装株式会社製、動的光散乱式粒度分布計UPA-UT151を用いた。
【0095】
[研磨速度の評価]
研磨対象物として、表面に厚さ450ÅのSiOC膜をFCVD(Flowable CVD)法で形成したシリコンウェーハ(300mm、ブランケットウェーハ)及び表面に厚さ5000ÅのSiOC膜をSOG(Spin on glass)法で形成したシリコンウェーハを準備した。それぞれのシリコンウェーハを30mm×30mmのチップに切断したクーポンを試験片とし、上記で得られた各研磨用組成物を用いて、基板を以下の研磨条件で研磨した。
【0096】
(研磨条件)
研磨機としてEJ-380IN-CH(日本エンギス株式会社製)を、研磨パッドとして硬質ポリウレタンパッドIC1010(ロームアンドハース社製)を、それぞれ用いた。研磨圧力3.8psi(21.0kPa)、定盤回転数60rpm、キャリア回転数60rpm、研磨用組成物の供給速度100ml/minの条件で、研磨時間は60秒で研磨を実施した。
【0097】
(研磨速度)
研磨速度(Removal Rate;RR)は、以下の式により計算した。
【0098】
【数1】
【0099】
膜厚は、光干渉式膜厚測定装置(大日本スクリーン製造株式会社製、型番:ラムダエースVM-2030)によって求めて、研磨前後の膜厚の差を研磨時間で除することにより研磨速度を評価した。
【0100】
研磨速度の評価結果を下記表1に示す。
【0101】
【表1】
【0102】
表1に示すように、実施例1~7の研磨用組成物を用いた場合、研磨速度が20nm/minを超え、比較例1~3の研磨用組成物と比べてSiOCを高い研磨速度で研磨できることがわかった。
【0103】
実施例1と比較例2との比較により、pHが4.0未満でないと、疎水性の第1の基を有する第4級アンモニウム化合物の存在下、コロイダルシリカのゼータ電位が所定の範囲であった場合であっても研磨速度が明らかに低下することがわかる。また、実施例1と比較例3とを比較すると、研磨用組成物に含有される第4級アンモニウム化合物が疎水性の第1の基を有していない場合には、研磨速度が著しく低下することがわかる。
【0104】
このことから、pH4.0未満において、疎水性の第1の基を有する第4級アンモニウム化合物の存在下、コロイダルシリカのゼータ電位が所定の範囲であることにより、SiOCの研磨速度が向上することがわかる。
【0105】
また、酸化剤である過酸化水素を含む実施例5の研磨用組成物を用いた場合、SiOCの研磨速度がより向上することがわかった。