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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】マスク
(51)【国際特許分類】
   A41D 13/11 20060101AFI20240109BHJP
【FI】
A41D13/11 B
A41D13/11 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019239507
(22)【出願日】2019-12-27
(65)【公開番号】P2021107600
(43)【公開日】2021-07-29
【審査請求日】2022-12-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000186588
【氏名又は名称】小林製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】木村 あゆみ
(72)【発明者】
【氏名】松宗 円香
(72)【発明者】
【氏名】氏原 由博
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 寛和
(72)【発明者】
【氏名】塩見 隆史
(72)【発明者】
【氏名】中馬 章孝
(72)【発明者】
【氏名】藤田 薫
【審査官】須賀 仁美
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-143330(JP,A)
【文献】特開2017-070356(JP,A)
【文献】特開2019-011547(JP,A)
【文献】登録実用新案第3149815(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2015/0216241(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A41D13/11
A62B18/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
着用者の顔に装着されるマスクであって、
着用者の顔の一部を覆う本体部と、
被酸化性金属粉、酸化促進剤及び保水剤を含みかつ水の供給を受けるとともに空気と接触することで発熱する混合物を収容した収容袋と、
水を保持しかつ前記収容袋と接触して前記混合物に水を供給可能な水保持具と、
を備え、
前記水保持具は、前記収容袋よりも着用者側に配置され、
前記収容袋は、前記水保持具と接触する側の少なくとも一部が通水性を有する、マスク。
【請求項2】
前記収容袋に取り付けられ、かつ前記水保持具を収納しながら前記収容袋に接触させるポケットをさらに備える、請求項1に記載のマスク。
【請求項3】
前記本体部に取り付けられ、かつ前記収容袋とともに前記水保持具を収納する収納部をさらに備える、請求項1に記載のマスク。
【請求項4】
前記水保持具は、前記収容袋と接触した時から前記混合物100質量部あたり水10質量部以上210質量部以下を放出するよう構成されている、請求項1~3のいずれかに記載のマスク。
【請求項5】
前記水保持具は、圧縮変形により水を放出するよう構成されている、請求項1~4のいずれかに記載のマスク。
【請求項6】
前記水保持具は、前記収容袋と接触した時から1800Pa以上で加圧される、請求項5に記載のマスク
【請求項7】
前記混合物は、前記水保持具と接触した時から前記混合物100質量部あたり水10質量部以上210質量部以下を吸収するよう構成されている、請求項1~6のいずれかに記載のマスク。
【請求項8】
前記混合物の含水率は、5質量%以下である、請求項1~7のいずれかに記載のマスク。
【請求項9】
前記保水剤は、吸水速度が10秒以上のポリアクリル酸塩系樹脂を含む、請求項1~8のいずれかに記載のマスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気を発するマスクに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、花粉や黄砂等の微粉塵に対する防御対策として、また、ウイルスや細菌等の感染対策として、マスクが汎用されている。また最近では、マスクの機能が多様化し、様々なマスクが提案されている。例えば睡眠中は、飲食物や唾液等の嚥下がないため、口腔が乾燥しやすくなることがある。また、冬期には全般的に空気が乾燥しており、さらに冬期以外でもオフィス内では年中エアコンが稼働している。したがって、日中でも空気が乾燥しやすい環境が多く、口腔が乾燥しやすくなっている。
【0003】
これを防止するため、例えば特許文献1には、加湿機能を有するマスクが開示されている。特許文献1のマスクは、鼻及び口を覆うマスク本体部に、例えばカイロ等の発熱体からなる水蒸気発生体が取り付けられたものである。水蒸気発生体は、通気性を有する袋体に、鉄粉等の被酸化性金属、吸水剤、水、電解質、酸化促進剤等を含む水蒸気発生部が収容されており、水蒸気発生部が空気中の酸素と接触すると、水蒸気発生部に含まれる被酸化性金属の酸化反応が起こって熱が発生し、この熱によって水蒸気発生部に含まれる水が加熱されて所定温度の水蒸気となる。この水蒸気が袋体を通じて外部へ放出されて、マスク本体部内で着用者の口と鼻から吸引されることで、咽頭や鼻の乾燥感の緩和、喉や鼻の粘膜を潤す等の効果が得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】2019-11547号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1のマスクでは、マスク本体部の着用者側の面に水蒸気発生体の収容部を設けたり、水蒸気発生体の着用者側とは反対の面に粘着剤を設けたりして、水蒸気発生体がマスク本体部と着用者の顔との間に位置している。水蒸気発生体は、使用環境によってそれ自体の温度が高くなるため、マスクの装着時に水蒸気発生体が着用者の顔に当たり続けると、低温やけどのリスクがある。加えて、水蒸気発生体の水蒸気発生部は、発熱反応である被酸化性金属の酸化反応に必要な水分を予め含んでいる。そのため、マスクの製造時や在庫保管時に空気(酸素)が水蒸気発生体内に侵入することで、使用前に水蒸気発生部に含まれる被酸化性金属の酸化反応が進行してしまい、使用時に所望の発熱特性を得られないおそれがある。
【0006】
本発明は、上記課題に着目してなされたものであり、蒸気を発生可能なマスクにおいて、低温やけどのリスクを低減でき、かつ、使用前に被酸化性金属の酸化反応が進行するのを抑制できるマスクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、着用者の顔に装着され、蒸気を発するマスクに関する。本発明のマスクは、着用者の顔の一部を覆う本体部と、被酸化性金属粉、酸化促進剤及び保水剤を含みかつ水の供給を受けるとともに空気と接触することで発熱する混合物を収容した収容袋と、水を保持しかつ前記収容袋と接触して前記混合物に水を供給可能な水保持具と、を備え、前記水保持具は、前記収容袋よりも着用者側に配置され、前記収容袋は、前記水保持具と接触する側の少なくとも一部が通水性を有することを特徴とする。
【0008】
本発明のマスクにおいては、前記収容袋に取り付けられ、かつ前記水保持具を収納しながら前記収容袋に接触させるポケットをさらに備えるように、構成することができる。あるいは、本発明のマスクにおいては、前記本体部に取り付けられ、かつ前記収容袋とともに前記水保持具を収納する収納部をさらに備えるように、構成することができる。
【0009】
また、本発明のマスクにおいては、前記水保持具は、前記収容袋と接触した時から前記混合物100質量部あたり水10質量部以上210質量部以下を放出するように、構成することができる。
【0010】
また、本発明のマスクにおいては、前記水保持具は、圧縮変形により水を放出するように、構成することができる。
【0011】
また、本発明のマスクにおいては、前記水保持具は、前記収容袋と接触した時から1800Pa以上で加圧されるように、構成することができる。
【0012】
また、本発明のマスクにおいては、前記混合物は、前記水保持具と接触した時から前記混合物100質量部あたり水10質量部以上210質量部以下を吸水するように、構成することができる。
【0013】
また、本発明のマスクにおいては、前記混合物の含水率は、5質量%以下であるように、構成することができる。
【0014】
また、本発明のマスクにおいては、前記保水剤は、吸水速度が10秒以上のポリアクリル酸塩系樹脂を含むように、構成することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明のマスクによれば、収容袋内の混合物は、発熱反応である被酸化性金属の酸化反応に必要な十分量の水分を予め含んでいない。そのため、マスクの製造時や在庫保管時に空気が収容袋内に侵入することで使用前に混合物に含まれる被酸化性金属の酸化反応が進行するリスクを低減できる。よって、使用時に混合物が水保持具から水の供給を受けることで所望の発熱特性を発揮するので、水保持具を良好に加熱することができ、十分な量の温蒸気を着用者に供給することができる。
【0016】
加えて、水保持具が収容袋よりも着用者側に配置されている、つまりは、発熱する混合物を収容する収容袋と着用者の顔との間に水保持具が介在しているので、マスクの装着時に収容袋内の混合物が着用者の顔に直接当たることを抑制できる。よって、マスクの装着時に着用者の顔に収容袋が当たり続けて顔を低温やけどしたり、不快に感じたりするリスクを低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】一実施形態のマスクの(A)正面図であり、(B)背面図である。
図2】一実施形態のマスクの分解斜視図である。
図3図1のX1-X1概略断面図である。
図4】収容袋の正面図である。
図5】他の実施形態のマスクの分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実態形態について添付図面を参照して説明する。本発明のマスクは、着用者の顔に装着され、装着時に温かい蒸気(温蒸気)を発するものである。
【0019】
図1図3は、本実施形態のマスク1を示している。マスク1は、装着時に着用者の顔の一部(目の下の領域、特に鼻及び口)を覆う本体部2と、本体部2を着用者の顔に保持するための左右一対の耳掛け部3と、混合物4(図3に示す)を収容した収容袋5と、混合物4に供給可能な水を保持した水保持体6と、水保持具6を収納しながら収容袋5に接触させるポケット7とを備える。収容袋5内の混合物4は、収容袋5と接触する水保持具6から水の供給を受けるとともに空気中の酸素と接触することで発熱する。収容袋5は、混合物4の発熱によって、収容袋5と接触する水保持具6を加熱する。これにより、マスク1の装着時に水保持具6から温蒸気が発せられる。以下、マスク1の構成部材について、詳細に説明する。
【0020】
本体部
図1図3に示すように、本体部2は、平面視で長方形状を呈している。本体部2は、マスク1の装着時に、着用者の顔の目の下を横に延びる上側縁20と、下顎(又は顎下)を横に延びる下側縁21と、上側縁20及び下側縁21を接続する左右の側縁22,23とを有する。本体部2のサイズとしては、特に限定されるものではなく、例えば左右の側縁22,23が頬を縦断して顔の鼻、口、下顎、頬の一部を覆うサイズであればよい。
【0021】
本体部2は、単層構造又は2層以上の積層構造とすることができ、各層は、特に限定されないが、織布又は不織布等の通気性を有するシートを用いて構成することができる。その中でも、スパンボンド法、メルトブロー法、サーマルボンド法又はスパンレース法による不織布が好ましく例示され、より好ましくは、肌触りと保形性の観点からスパンボンド法による不織布が例示され、花粉・ウイルス等のカット性能の観点からメルトブロー法による不織布が例示される。以上の点を考慮して、好適な本体部2の層構造として、例えば、SMS層(スパンボンド-メルトブロー-スパンボンドの3層構造)が例示される。なお、その他にも、S層(スパンボンドの単層)又はSS層(スパンボンド-スパンボンドの2層構造)が好ましく例示される。本体部2を積層構造とする場合には、各層のシートの外周縁を所定の幅で、例えば接着、溶着(熱溶着、超音波溶着等)、縫合等の公知の方法により接合することで本体部2を形成することができる。
【0022】
本体部2の各層を構成する織布及び不織布の繊維素材としては、公知のものを用いることができ、特に限定されないが、紙、コットン等の天然繊維、レーヨン、アセテート等の半合成繊維、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエステル、ナイロン等の合成繊維が例示される。その中でも、生産性の観点からポリプロピレン、ポリエチレンが好ましく例示され、保形性の観点からポリプロピレンが好ましく例示され、肌触りの観点からナイロンが好ましく例示される。
【0023】
本体部2の上側縁20よりも下側位置には、例えばポリエチレン等のプラスチック樹脂や生分解性樹脂等からなる線状のノーズピース8が設けられている。ノーズピース8により、着用者の鼻と本体部2との間に隙間が生じるのが防止されるので、本体部2を顔にフィットさせることができる。ノーズピース8は、例えば本体部2に内蔵し、その上下位置で本体部2を構成する各層のシートを例えば接着、溶着(熱溶着、超音波溶着等)、縫合等で接合することで、所定位置に固定することができる。
【0024】
本体部2は、マスク1の着用前(未使用時)に平坦状をなしている。また、本体部2は、縦方向(上下方向)に伸長可能な構造を有する。例えば本体部2には、横方向(左右方向)に延びる少なくとも2つの折り目によって形成されるプリーツ(襞)24が少なくとも1つ設けられている。このプリーツ24の拡開により、本体部2は縦方向に伸長可能であり、本体部2を着用者の顔の大きさに対応して自由にサイズ調整することができる。
【0025】
耳掛け部
図1及び図2に示すように、左右一対の耳掛け部3は、本体部2の左右の側縁22,23に取り付けられている。耳掛け部3は、例えば紐状や帯状(バンド状)を呈しており、例えば接着、溶着(熱溶着、超音波溶着等)、縫合等の公知の方法により本体部2に取り付けることができる。耳掛け部3の素材は特に限定されないが、例えばポリエステル等の伸縮性のある素材であることが好ましい。なお、耳掛け部3は、紐やバンド以外の他の種々の手段を用いてもよい。
【0026】
混合物
図3に示すように、混合物4は収容袋5内に収容されている。混合物4は、水の供給を受けるとともに空気(酸素)と接触することにより発熱する組成物である。なお、本開示において、混合物4が発熱するとは、後述する所望の発熱特性を発揮して発熱することを意味する。混合物4は、被酸化性金属粉、酸化促進剤及び保水剤を含む。
【0027】
被酸化性金属粉は、酸化されることによって発熱する金属粉であれば、特に限定されず、鉄粉、亜鉛粉、アルミニウム粉、マグネシウム粉、銅粉等が例示され、好ましくは鉄粉が例示される。また、鉄粉としては、特に限定されないが、還元鉄粉、鋳鉄粉、アトマイズド鉄粉、電解鉄粉等が例示される。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0028】
被酸化性金属粉の形状は、特に限定されず、従来の一般的な使い捨てカイロに使用されている粉末状、粒状、繊維状等が例示される。被酸化性金属粉の平均粒径としては、特に限定されないが、0.01μ以上1000μm以下が例示され、好ましくは0.1μm以上500μm以下が例示され、より好ましくは0.5μm以上300μm以下が例示される。平均粒径は、標準ふるいを用いたJIS法等によって測定することができる。被酸化性金属粉の含有量は、特に限定されないが、被酸化性金属粉は、混合物4中、20質量%以上80質量%以下、好ましくは25質量%以上70質量%以下、より好ましくは30質量%以上65質量%以下が例示される。
【0029】
酸化促進剤は、空気(酸素)を取り込むことによって混合物4への、特に被酸化性金属粉への、酸素の供給を促進することを目的として使用される。酸化促進剤としては、特に限定されないが、活性炭、石炭、木炭、竹炭、石墨、カーボンブラック、黒鉛、アセチレンブラック、コーヒーカス炭等が例示され、好ましくは活性炭、カーボンブラック、竹炭、木炭、コーヒーカス炭等が例示される。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0030】
酸化促進剤の形状は、特に限定されず、従来の一般的な使い捨てカイロに使用されている粉末状、粒状、繊維状等の粉状が例示される。酸化促進剤の平均粒径としては、特に限定されないが、0.001μm以上1000μm以下が例示され、好ましくは0.005μm以上500μm以下が例示され、より好ましくは0.01μm以上200μm以下が例示される。平均粒径は、被酸化金属粉と同様にして測定できる。酸化促進剤の含有量は、特に限定されないが、混合物4中、1質量%以上30質量%以下が例示され、好ましくは3質量%以上25質量%以下が例示され、より好ましくは5質量%以上23質量%以下が例示される。
【0031】
保水剤は、特に限定されないが、多孔質物質や吸水性樹脂等が例示される。保水剤として、より具体的には、バーミキュライト、パーライト、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、カオリン、タルク、スメクタイト、マイカ、ベントナイト、炭酸カルシウム、シリカゲル、アルミナ、ゼオライト、二酸化珪素、珪藻土等の天然または合成の無機物、パルプ、木粉(おがくず)、綿、ポリアクリル酸塩系樹脂、ポリスルホン酸塩系樹脂、無水マレイン酸塩系樹脂、ポリアクリルアミド系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、ポリエチレンオキシド系樹脂、ポリアスパラギン酸塩系樹脂、ポリグルタミン酸塩系樹脂、ポリアルギン酸塩系樹脂、デンプン類、セルロース類等の天然または合成の有機物等が例示される。保水剤として、好ましくはバーミキュライト、パーライト、シリカゲル、珪藻土、酸化アルミニウム、木粉(おがくず)、ポリアクリル酸塩系樹脂等が例示される。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよいが、保水剤は、ポリアクリル酸塩系樹脂を含むことが好ましく、特にポリアクリル酸ナトリウムを含むことが好ましい。ポリアクリル酸塩系樹脂としては、特に限定されないが、好ましくは吸水速度が10秒以上のポリアクリル酸塩系樹脂が例示され、より好ましくは吸水速度が20秒以上のポリアクリル酸塩系樹脂が例示される。この限りにおいて制限されないが、上述した吸水速度は90秒以下が好ましく、60秒以下がより好ましい。なお、吸水速度は、JIS K 7224に基づく方法で測定することができ、吸水速度が10秒以上のポリアクリル酸塩系樹脂とは、ポリアクリル酸塩系樹脂2gが生理食塩水50gを吸水する時間を意味する。
【0032】
保水剤の形状は、特に限定されないが、従来の一般的な使い捨てカイロに使用されている形状が例示される。保水剤の平均粒径としては、特に限定されないが、0.1μm以上3000μm以下が例示され、好ましくは0.5μm以上1000μm以下が例示され、より好ましくは1μm以上600μm以下が例示される。平均粒径は、被酸化金属粉と同様にして測定できる。保水剤の含有量は、特に限定されないが、混合物4中、1質量%以上65質量%以下が例示され、好ましくは5質量%以上60質量%以下が例示され、より好ましくは10質量%以上60質量%以下が例示される。
【0033】
混合物4は、必要に応じて任意の他の成分をさらに含有してもよい。他の成分としては、特に限定されないが、水溶性塩類、水、水素発生抑制剤、増粘剤、賦形剤、界面活性剤、金属イオン封鎖剤、また、香料、温感成分、抗疲労成分、鎮痛成分、炎症抑制成分、血行促進成分、清涼化(冷却、リフレッシュ)成分、忌避成分の各種有用成分等が例示される。他の成分は、目的に応じて適宜選択して使用すればよく、1種単独で使用してもよく2種以上を組み合わせて使用してもよく、その配合量も適宜選択すればよい。
【0034】
他の成分として香料等の有用成分を用いる場合、混合物4において発生する熱により有用成分に起因する有用作用をより効果的に発揮させる点からは、該有用成分として、混合物4の発熱温度(例えば38℃から85℃程度)によってその有用作用を揮発できる成分がより好ましい。
【0035】
他の成分の中で水溶性塩類について説明すると、水溶性塩類は、特に限定されないが、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属の塩化物塩や硫化物塩、カルシウム、マグネシウム等のアルカリ土類金属の塩化物塩や硫化物塩、鉄、銅、アルミニウム、亜鉛、ニッケル、銀、バリウム等の金属の塩化物塩や硫化物塩等が例示される。水溶性塩類として、好ましくは塩化ナトリウム、塩化カリウム等が例示される。これらは1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0036】
水溶性塩類の含有量は、特に限定されないが、混合物4中、10質量%以下(ゼロを含む)が例示され、好ましくは0.5質量%以上7質量%以下が例示され、より好ましくは1質量%以上5質量%以下が例示される。
【0037】
他の成分の中で水について説明すると、水としては蒸留水、水道水、イオン交換水、純粋、超純水、工業用水等が例示される。ここで、従来から使用されている、空気中の酸素との接触により発熱する発熱性組成物を含む使い捨てカイロ等の発熱体は、発熱組成物中に所定量の水が含まれており、発熱性組成物は、空気(酸素)と接触することで直ちに発熱性組成物に含まれる被酸化性金属粉の酸化反応が進行して発熱する。発熱性組成物は、所望の発熱特性(発熱温度、発熱持続時間、立ち上がり時間等)を実現するように水も含めて各種材料の配合量が設定されている。本実施形態の混合物4は、水の配合量が、発熱性組成物が所望の発熱特性を発揮して発熱するのに必要な所定量以下であり、混合物4中の含水率が、特に限定されないが、例えば5質量%以下(ゼロを含む)である。
【0038】
このように、本実施形態では、混合物4は、従来の使い捨てカイロ等で用いられている空気(酸素)と接触するだけで所望の発熱特性で発熱する発熱性組成物とは異なり、水供給具6より供給される所定量の水を吸収することで、所望の発熱特性を発揮して発熱するものである。混合物4が所望の発熱特性を発揮するために吸収する水の量(吸水量)としては、特に限定されないが、混合物100質量部あたり、好ましくは水10質量部以上210質量部以下であり、好ましくは水10質量部以上180質量部以下であり、より好ましくは水60質量部以上115質量部以下である。
【0039】
ここで、混合物100質量部あたり水10質量部以上210質量部以下を吸収するとは、室温(約15℃から25℃)で、混合物100質量部あたり水10質量部以上210質量部以下を混合物4が吸収することを意味する。
【0040】
混合物4の吸水量は、収容袋5への接触前の、水を保持した水保持具6の重さ(A)を測定し、また、収容袋5へ接触させた後の水保持具6の重さ(B)を測定し、重さ(A)から重さ(B)を減じることにより算出する。混合物100質量部あたり水10質量部以上210質量部以下といった割合は、重さ(A)から重さ(B)を減じることにより得た値を、収容袋5に収容された(水保持具6との接触前の)混合物4の重さ(C)で除し、このようにして得た値に100を乗じることにより算出する。すなわち、次の式により算出する。
【0041】
混合物100質量部あたりの吸水割合
={重さ(A)-重さ(B)}×100/重さ(C)
【0042】
混合物4は、特に限定されるものではないが、所望の発熱特性をより効率良く発揮する点から、収容袋5と水保持具6との接触により混合物4へ水を供給開始した時から60秒間に、混合物100質量部あたり水10質量部以上210質量部以下を吸収することが好ましい。
【0043】
なお、本実施形態において、混合物4の所望の発熱特性とは、例えば、混合物4が発熱した際の最高温度、混合物4の発熱温度が40℃以上を超える発熱持続時間、混合物4の発熱温度が40℃を越えるまでにかかる時間(立ち上がり時間)が例示される。混合物4におけるこれらの発熱特性としては、特に限定されるものではないが、最高温度としては好ましくは38℃以上85℃以下が例示され、より好ましくは40℃以上70℃以下が例示される。また、発熱持続時間としては、好ましくは10分以上が例示され、より好ましくは30分以上が例示される。また、立ち上がり時間としては、収容袋5と水保持具6との接触により混合物4へ水を供給開始した時から好ましくは12分以下、より好ましくは7分以下、さらに好ましくは5分以下が例示される。最高温度、発熱持続時間及び立ち上がり時間は、JIS S4100:2007年に基づく測定値に従い決定する。具体的には、これらの温度、時間は、後述の実施例に記載する通り、混合物4を収容した収容袋5の、水保持具6を接触させる面とは反対側の面に温度センサーを予めテープで貼り付けて固定しておき、次いで、収容袋5(温度センサーを固定していないもう一方の片面)に水保持具6を接触させ、次いで、前記反対側の面(温度センサーを固定した面)が下向きになるように網棚の上に収容袋を置いて、室温(約15~25℃)で測温を行うことにより、発熱温度、時間を測定し、決定する。後述の実施例では時間も測定可能な温度センサーを使用しており、従って、これに従い時間も測定すればよい。特に限定されないが、所望の発熱特性を効率良く得る点から、収容袋5に水保持具6を接触させることにより混合物4へ水を供給開始した時から60秒後に水保持具6を外した収容袋5において、前記値を満たすことが好ましく例示される。
【0044】
上述したように、本実施形態の混合物4は、混合物100質量部あたり水10質量部以上210質量部以下を吸収することにより、所望の発熱特性を発揮するが、このような混合物4の一例としては、特に限定されるものではないが、被酸化性金属粉を20質量%以上70質量%以下、酸化促進剤を5質量%以上25質量%以下、保水剤を10質量%以上35質量%以下、水溶性塩類を10質量%以下(ゼロを含む)、それぞれ含む混合物が例示される。混合物4の一例としてより好ましくは、被酸化性金属粉を40質量%以上60質量%以下、酸化促進剤を5質量%以上20質量%以下(ゼロを含む)、保水剤を15質量%以上35質量%以下、水溶性塩類を5質量%以下、それぞれ含む混合物が例示される。なお、該混合物中に、水は例えば5質量%以下(ゼロを含む)含まれていてもよい。
【0045】
混合物4は、被酸化性金属粉、酸化促進剤、保水剤及び水溶性塩類、必要に応じて上述した他の成分を混合することにより調製できる。混合物4は、酸素存在下で調製してもよく、真空下または不活性ガス雰囲気下で製造してもよく、従来から公知の使い捨てカイロ等に用いられている発熱性組成物と同様の手順に従い調整することができる。特に、本実施形態では、混合物4は空気(酸素)接触するだけでは発熱しないため、混合物4は、空気(酸素)存在下で調製することができる。
【0046】
収容袋5内に収容する混合物4の量は、特に限定されるものではなく、収容袋5の大きさ等に応じて適宜設定することができるが、好ましくは4g以上20g以下が例示され、より好ましくは8g以上16g以下が例示される。
【0047】
収容袋
図1図4に示すように、混合物4を収容する収容袋5は、内部に混合物4を収容可能な収容空間を有する袋状をなす。収容袋5は、特に限定されないが、厚みの薄い扁平状が例示され、また、平面視形状は、本実施形態では長方形状であるが、正方形状、三角形状、円形状、楕円形状等、任意の形状とすることができる。収容袋5に混合物4を収容する方法は、従来から公知の使い捨てカイロ等の製造手順に従い行うことができる。
【0048】
上述した通り、収容袋5内に収容される混合物4は、所定量の水が水保持具6より供給されることによって、所望の発熱特性(最高温度、発熱持続時間及び立ち上がり時間)を発揮して発熱する。そのため、収容袋5は、水保持具6と接触する側(マスク1の装着時に着用者の方を向く側)の少なくとも一部が通水性を有する。さらに、混合物4は、空気(酸素)と接触することで発熱する。すなわち混合物4は、水保持具6より所定量の水が混合物4に供給され、かつ、空気(酸素)と接触することで発熱する。そのため、収容袋5は、少なくとも一部が通気性を有する。よって、収容袋5は、少なくとも一部で通水性及び通気性を有する。収容袋5において、通水性を有する部分は通気性を有するために通気性を有する部分を兼ねていてもよいが、通気性を有する部分が通水性を有する部分とは別に設けられていることが好ましく、収容袋5は、本体部2の方を向く側の少なくとも一部が通気性を有していることが好ましい。
【0049】
収容袋5は、表裏面を構成する第1シート50と第2シート51とを備え、第1シート50及び第2シート51を重ねた状態で外周部を全周にわたって接合することで袋状に形成されている。2枚のシート50,51を接合する方法としては、接着、溶着(熱溶着、超音波溶着等)、縫合等の方法が例示される。収容袋5は、混合物4が収容される部分、つまりは収容袋5の外周部(2枚のシート50,51が接合された部分)より内側の部分が発熱領域53となる。
【0050】
収容袋5の発熱領域53は、仕切り部52により左右方向に区画されている。仕切り部52は、上下方向に沿って2枚のシート50,51を接着、溶着(熱溶着、超音波溶着等)、縫合等の方法で接合することで収容袋5に形成される。仕切り部52には、混合物5が存在しない又は少量しか存在しないため、収容袋5は仕切り部52の位置で折れ曲がりやすくなる。よって、収容袋5は、マスク1の装着時に、着用者の顔の形に追従して柔軟に変形することができる。なお、仕切り部52は必ずしも収容袋5に形成されている必要はない。
【0051】
収容袋5の2枚のシート50,51のうち、水保持具6と接触する第1シート50は、少なくとも一部、好ましくは全域が通水性を有する。第1シート50としては、通水性を有する樹脂フィルム、通水性を有する織布又は不織布等が例示される。
【0052】
第1シート50の樹脂フィルムに用いられる樹脂としては、特に限定されないが、熱可塑性樹脂が例示される。熱可塑性樹脂としては、特に限定されないが、好ましくはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリカーボネート、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体等が例示され、より好ましくはポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン酢酸ビニル共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体等が例示される。これらの樹脂は単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0053】
第1シート50の樹脂フィルムは、通水性を確保するための細孔を少なくとも一部に有している。該細孔は、水は通過することができる一方で、混合物4が通過して収容袋5の外部へ漏出するのを抑制できれば、その大きさは特に限定されず、また細孔の形状や数等も特に限定されない。細孔を有する樹脂フィルムは、従来公知であり、多数の穿孔を有する樹脂フィルムや多孔質フィルム等が例示される。多孔質フィルムは、複数の孔が連続した細孔を多数有する多孔質フィルムをいう。細孔は、樹脂フィルムの全域に均一に存在していてもよく、一部に密集して存在していてもよい。
【0054】
第1シート50の織布又は不織布の繊維素材としては、特に限定されないが、ナイロン、ビニロン、ポリエステル、レーヨン、アクリル、ポリエチレン、ポリプロピレン、アセテート、ポリ塩化ビニル、ポリブチレンテレフタレート等の合成繊維、綿、麻、絹、紙等の天然繊維、合成繊維と天然繊維との混合繊維等が例示され、好ましくはナイロン、ポリエステル、ポリプロピレン等が例示され、より好ましくはナイロン、ポリエステル等が例示される。これらの繊維素材は単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0055】
第1シート50の織布又は不織布は、水は通過することができる一方で、混合物4が通過して収容袋5の外部へ漏出するのを抑制できれば、その目付は特に限定されないが、好ましくは50g/m以上120g/m以下が例示される。
【0056】
第1シート50の厚みは、収容袋5として使用できる限りは特に限定されないが、好ましくは10μm以上2000μm以下が例示され、より好ましくは10μm以上1000μm以下が例示される。
【0057】
第1シート50は、通水性を有する樹脂フィルム、あるいは、通水性を有する織布又は不織布の単独で構成されていてもよいが、強度や混合物4の発熱に対する耐久性等を考慮すると通水性を有する樹脂フィルムを使用することが好ましい。第1シート50は、通水性を有する樹脂フィルムと通水性を有する織布又は不織布との積層体で構成されていてもよい。
【0058】
該積層体は、混合物4側(収容袋5の内側)に通水性を有する樹脂フィルムが配置されてもよいし、通水性を有する織布又は不織布が配置されてもよい。該積層体は、一例としてラミネート法によって形成することができ、ラミネート法として熱接合により積層する方法、ホットメルト接着剤、アクリル系接着剤、又はウレタン系接着剤等の接着剤で積層する方法等が例示される。なお、第1シート50は、全域が該積層体であってもよく、一部が該積層体であってもよい。
【0059】
上述した通り、収容袋5内に収容される混合物4は、水保持具6より所定量の水が供給されることによって所望の温度に発熱する。そのため、第1シート50は、水保持具6から放出される所定量の水を混合物4に供給できる程度の通水性を有していれば、第1シート50の通水性は特に限定されない。第1シート50の通水性は、第1シート50を構成する織布又は不織布の目付、及び/又は、樹脂フィルムの孔の数や孔の大きさ等に応じて適宜設定される。第1シート50は、通水性を有していることで、通気性も有している。
【0060】
収容袋5の2枚のシート50,51のうち、本体部2の方を向く第2シート51は、少なくとも一部、好ましくは全域が通気性を有する。第2シート51としては、第1シート50と同様に、通気性を有する樹脂フィルム、通気性を有する織布又は不織布、通気性を有する樹脂フィルムと通気性を有する織布又は不織布との積層体等が例示され、強度や混合物4の発熱に対する耐久性等を考慮すると樹脂フィルムを使用することが好ましい。第2シート51の織布又は不織布の繊維素材、樹脂フィルムに用いられる樹脂としては、上述した第1シート50で例示したものと同じものが例示される。
【0061】
第2シート51の樹脂フィルムは、通気性を確保するための細孔を少なくとも一部に有している。該細孔は、空気(酸素)は通過することができる一方で、混合物4が通過して収容袋5の外部へ漏出するのを抑制できれば、その大きさは特に限定されず、また細孔の形状や数等も特に限定されない。細孔を有する樹脂フィルムは、従来公知であり、多数の穿孔を有する樹脂フィルムや多孔質フィルム等が例示される。細孔は、樹脂フィルムの全域に均一に存在していてもよく、一部に密集して存在していてもよい。
【0062】
第2シート51の織布又は不織布は、空気(酸素)は通過することができる一方で、混合物4が通過して収容袋5の外部へ漏出するのを抑制できれば、その目付は特に限定されないが、好ましくは25g/m以上70g/m以下が例示される。
【0063】
第2シート51の厚みは、収容袋5として使用できる限りは特に限定されないが、好ましくは10μm以上2000μm以下が例示され、より好ましくは10μm以上1000μm以下が例示される。
【0064】
上述した通り、収容袋5内に収容される混合物4は、適切な量の空気(酸素)が接触することによって所望の温度に発熱する。収容袋5は、第1シート50が水保持具6と接触していて通気し難いため、本体部2側の第2シート51の通気度が収容袋5の全体の通気度に対して大きなウェイトを占める。そのため、第2シート51は、適切な量の空気(酸素)を混合物4に接触できる程度の通気性を有していれば、第2シート51の通気性は特に限定されない。第2シート51の通気性は、第2シート51を構成する織布又は不織布の目付、及び/又は、樹脂フィルムの孔の数や孔の大きさ等に応じて適宜設定される。第2シート51は、通水性を有していてもよいし、非通水性であってもよい。
【0065】
なお、第2シート51は、第1シート50により適切な量の空気(酸素)を混合物4に接触させることができれば、非通気性であってもよい。ここで、非通気性とは、完全に空気(酸素)を通さない性質だけに限定されるものではなく、例えば第2シート51の樹脂フィルムが空気(酸素)を通過させる細孔を有していないことを意味し、樹脂フィルム自体がわずかながら通気していたとしても非通気性に含まれる。
【0066】
収容袋5は、第2シート51が接着、溶着(熱溶着、超音波溶着等)、縫合等の方法で本体部2に接合されることで、本体部2に取り付けられている。収容袋5は、特に限定されないが、第1シート50及び第2シート51が接合された外周部のうち、上側縁のみが本体部2に接合されることが好ましい。これにより、本体部2をプリーツ24の拡開により縦方向に伸長させる際に収容袋5が妨げにならないうえ、収容袋5が本体部2に拘束されておらず水保持具6の重みにより水保持具6を着用者の顔に近接させやすくなる。そのため、水保持具6から発せられる温蒸気を着用者の鼻や口に効率的に供給することができる。
【0067】
収容袋5は、水保持具6と接触する側の第1シート50に第1シート50との間に水保持具6を収納可能な空間を形成するようにポケット7が設けられている。ポケット7は、透湿性を有するシートからなる。透湿性とは、蒸気を通すことができる性質である。
【0068】
ポケット7は、少なくとも一部、好ましくは全域が透湿性を有する。ポケット7としては、第1シート50と同様に、透湿性を有する樹脂フィルム、透湿性を有する織布又は不織布、透湿性を有する樹脂フィルムと透湿性を有する織布又は不織布との積層体等が例示され、肌触りを考慮すると織布又は不織布を使用し、織布又は不織布が着用者の顔に当たるようにすることが好ましい。ポケット7の織布又は不織布の繊維素材、樹脂フィルムに用いられる樹脂としては、上述した第1シート50で例示したものと同じものが例示される。
【0069】
ポケット7の樹脂フィルムは、透湿性を確保するための細孔を少なくとも一部に有している。該細孔は、蒸気が通過することができれば、その大きさは特に限定されず、また細孔の形状や数等も特に限定されない。細孔を有する樹脂フィルムは、従来公知であり、多数の穿孔を有する樹脂フィルムや多孔質フィルム等が例示される。細孔は、樹脂フィルムの全域に均一に存在していてもよく、一部に密集して存在していてもよい。
【0070】
ポケット7の織布又は不織布は、蒸気が通過することができれば、その目付は特に限定されないが、好ましくは10g/m以上100g/m以下である。
【0071】
ポケット7の厚みは、特に限定されないが、好ましくは10μm以上2000μm以下が例示され、より好ましくは10μm以上1000μm以下が例示される。
【0072】
ポケット7の透湿性は、水保持具6から発せられる温蒸気が通過することができれば特に限定されない。ポケット7の透湿性は、ポケット7を構成する織布又は不織布の目付、及び/又は、樹脂フィルムの孔の数や孔の大きさ等に応じて適宜設定される。ポケット7は、通気性を有していてもよい。
【0073】
ポケット7は、収容袋5の第1シート50の少なくとも一部に接着、溶着(熱溶着、超音波溶着等)、縫合等の方法で接合することによって、第1シート50に取り付けられている。ポケット7は、第1シート50との間の収納空間への開口70が形成されるように、第1シート50に接合される。開口70は、ポケット7と第1シート50との間の空間に水保持具6を入れるための部位であり、開口70からポケット7内に水保持具6を収納することでポケット7により水保持具6を保持しながら収容袋5に水保持具6を接触させることができる。
【0074】
ポケット7は、水保持具6を内部に収納可能であれば形状や大きさは特に限定されないが、収容袋5と同じ形状や大きさに形成されていることが好ましい。また、ポケット7は、特に限定されないが、収容袋5の第1シート50及び第2シート51が接合された外周部に、ポケット7の外周部が開口70を残すようにして接合されることで、収容袋5に取り付けられることが好ましい。本実施形態では、ポケット7は、外周部のうち、上側縁を除いた部分が収容袋5に接合されている。ポケット7と収容袋6との接合部の幅は、特に限定されないが、収容袋5の2枚のシート50,51の接合部の幅と同じ又は該幅よりも小さいことが好ましい。開口70の大きさは、水保持具6をポケット7内に入れることが可能な大きさであれば特に限定されない。
【0075】
水保持具
図1図3に示すように、水保持具6は、水を保持することが可能であり、混合物4を収容する収容袋5に接触して水を放出することで混合物4に水を供給するとともに、水の供給を受けた混合物4の発熱に伴い加熱されることで温蒸気を発し、マスク1の着用者に温蒸気を供給する。水保持具6は、予め水を保持した状態にあってもよく、当初は水を保持していないが、混合物4への水の供給時、すなわち、収容袋5に水保持具6を接触させる際に水を保持していればよい。
【0076】
水保持具6は、特に限定されないが、所定の厚みを有するシート状をなしており、特に限定されないが、好ましくは平面視形状が収容袋5の形状とほぼ同じ形状であり、両者の形状は互いに対応している。つまり、水保持具6の平面視形状は、本実施形態では長方形状であるが、収容袋5の平面視形状が例えば正方形状であれば水保持具6も正方形状であり、収容袋5の平面視形状が例えば円形状や楕円形状であれば水保持具6も円形状や楕円形状である。なお、「ほぼ同じ形状」とは、厳密に同じ形状である必要はなく、例えば角が面取りされているか否か等の軽微な形状の違いを許容する意味である。
【0077】
水保持具6は、特に限定されないが、好ましくは収容袋5の発熱領域53の大きさとほぼ同じ大きさであり、収容袋5の発熱領域53の外縁輪郭が水保持具6の外縁輪郭より大きくはみ出さない。なお、「ほぼ同じ」とは、水保持具6と収容袋5の発熱領域53とが全く同じ大きさであることに加えて、一方が他方よりも僅かに大きいことを許容する意味である。
【0078】
水保持具6と収容袋5の発熱領域53とが同じ形状かつ同じ大きさであることで、水保持具6から収容袋5内に収容される混合物4の全体に均一に水を放出できるとともに、混合物4以外に水を放出することがほぼない。そのうえ、水保持具6により収容袋5の発熱領域53がほぼ完全に覆われることで、マスク1の装着時に収容袋5の発熱領域53が着用者の顔に触れることを確実に防止できる。さらに、水保持具6は、その全域が収容袋5の混合物4により均一に加熱されるので、水保持具6に保持された水が温まりやすく、水保持具6から効率よく温蒸気を発生させることができる。
【0079】
なお、水保持具6は、必ずしも収容袋5の発熱領域53と同じ形状かつ同じ大きさであって発熱領域53の全域に接触させて使用されるものである必要はなく、発熱領域53とは異なる形状及び/又は大きさであって発熱領域53の一部分に接触させて使用されるものであってもよい。
【0080】
水保持具6の大きさは、特に限定されないが、好ましくは横方向に4cm以上14cm以下、縦方向に2cm以上10cm以下が例示され、より好ましくは横方向に7cm以上11cm以下、縦方向に3cm以上6cm以下が例示される。なお、面積では、好ましくは8cm以上98cm以下が例示され、より好ましくは25cm以上55cm以下が例示される。
【0081】
水保持具6の厚みは、特に限定されないが、好ましくは0.5mm以上5mm以下が例示され、より好ましくは2mm以上4mm以下が例示される。
【0082】
水保持具6は、図示は省略するが、横方向の中央位置に縦方向に延びる切欠きを有していてもよい。これにより、水保持具6は、切欠きの位置で折れ曲がりやすくなる。よって、水保持具6は、マスク1の装着時に、着用者の顔の形に追従して柔軟に変形することができる。また、マスク1の装着時に水保持具6が着用者の口に重なる場合、切欠きが通気孔として機能することにより、水保持具6により着用者の口による呼吸を妨げることが抑制され、着用者の口による呼が容易になる。切欠きは、水保持具6の上側縁と下側縁との間の一部に上下に延びるようにして形成されていてもよいし、水保持具6の下側縁から上方に延びるようにして形成されていてもよいし、水保持具6の上側縁から下方に延びるようにして形成されていてもよいし、水保持具6の上側縁及び下側縁からそれぞれ下方及び上方に延びるようにして形成されていてもよい。なお、通気孔としては、切欠きに代えて、複数の小径の孔が水保持具6の一部又は全域に形成されていてもよい。
【0083】
水保持具6は、水を保持するとともに接触する収容袋5に水を放出して収容袋5内の混合物4に水を供給することができ、そのうえ、接触する収容袋5内の混合物4の発熱に伴って保持する水が加熱されるものであれば、その素材は特に限定されない。
【0084】
水保持具6は、例えば、種々の繊維素材、好ましくは親水性繊維、親水性繊維及び合成繊維の混紡繊維を用いた織布又は不織布により形成することができる。繊維素材として、特に限定されないが、好ましくはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、レーヨン、コットン、パルプ等が例示され、柔軟性、保水性の観点からパルプが好適に例示される。繊維素材からなる水保持具6の製法は、特に限定されないが、好ましくはエアレイド法が例示される。
【0085】
水保持具6は、生産性、加工性、耐久性の観点から主成分たるパルプにポリエチレン等の熱融着性繊維を所定の割合で混紡して形成することが好ましい。パルプと熱融着性繊維との配合割合は、特に限定されないが、好ましくは60:40から80:20が例示される。
【0086】
水保持具6は、収容袋5に放出する量の水と、睡眠時等の長時間にわたり十分な蒸気を着用者に供給することができる量の水を保持できれば、その目付は特に限定されないが、好ましくは50g/m以上が例示され、より好ましくは100g/m以上が例示される。一方で、目付が大きすぎると、水保持具6が硬くなり、マスク1の装着時に水保持具6が着用者の顔の形状に沿うように変形し難くなって、着用者が不快に感じるおそれがある。そのため、水保持具6の目付は、好ましくは1000g/m以下が例示され、より好ましくは600g/m以下が例示される。
【0087】
水保持具6は、単層構造又は複数層構造とすることができるが、耐久性、保水性の観点から、上述した繊維素材を1対の不織布で挟んだ3層構造とすることが好ましい。このとき、1対の不織布で挟まれる層を中層、1対の不織布からなる層を両端層という。両端層の不織布は同素材としてもよく、異なる素材としてもよい。両端層の不織布の素材としては、親水性繊維、疎水性繊維、合成繊維、又は親水性繊維と合成繊維との混紡繊維が例示され、親水性繊維としては、特に限定されないが、好ましくはレーヨン、コットンが例示され、より好ましくはレーヨンが例示される。両端層の一方側を親水性にすると製造時に水分をパルプに吸収させやすくなり、製造が容易になるという利点がある。疎水性繊維としては、特に限定されないが、好ましくはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート等のポリエステルが例示され、より好ましくはポリエチレン、ポリプロピレンが例示される。両端層の他方側を疎水性にするとぬれやべたつきを防止できるという利点がある。したがって、両端層のうち着用者側に向く方を疎水性繊維で構成するとともに、それとは反対側をレーヨン等の親水性繊維で構成することが好ましい。両端層の不織布の目付は、特に限定されないが、好ましくは20g/m以上50g/m以下が例示される。
【0088】
水保持具6としては、織布又は不織布以外にも、例えばスポンジ等の多孔質体により形成することができる。多孔質体は、内部に小孔、割れ目、空隙等の空間を連続して有する構造のものであり、前記空間内に水が保持される。スポンジとしては、特に限定されないが、ウレタン樹脂、メラミン樹脂等の合成樹脂材料を主原料とする合成スポンジ、海綿、セルロース等の天然材料を主原料とする天然スポンジ、合成ゴム、天然ゴム等のゴム材料を主原料とするゴムスポンジ等、種々のスポンジが例示される。
【0089】
水保持具6は、特に限定されないが、外力の作用により圧縮変形可能であることが好ましい。つまり、水保持具6は、保持する水が圧縮変形により外部に押し出されることで水を放出するものであることが好ましい。水保持具6は、保持する水が自然に外部に染み出ることで水を放出するものであってもよいが、圧縮変形により水を放出するよう構成されることで、水保持具6から水を確実性高く放出させることができる。また、水保持具6は、容易に圧縮変形する柔軟性を有していることがさらに好ましい。これにより、水保持具6に大きな力を加えなくても混合物4の発熱に十分な量の水を水保持具6から放出させることができる。この容易に圧縮変形する水保持具6としては、特に限定されないが、ウレタンスポンジ等のスポンジや、クラレクラフレックス株式会社製の「フェリベンディ」(登録商標)のような伸縮性を有する不織布が好ましく例示される。なお、水保持具6は、外力の作用により圧縮変形して保持する水を放出するものであればよく、必ずしも弾性を有する必要はないが、弾性を有することで、外力が取り除かれると元の形に戻ろうとすることが好ましい。弾性としては、外力が加わって圧縮変形した水保持具6が、元の形に戻ろうとする性質であればよく、必ずしも元の形に完全に戻る性質までは必要としない。
【0090】
上述した水保持具6は、特に限定されないが、収容袋5と接触させた時から収容袋5に所定量の水を放出することが好ましい。具体的には、室温(約15℃から25℃)で、水保持具6と収容袋5とが接触した時から収容袋5内の混合物100質量部あたり、好ましくは10質量部以上210質量部以下、より好ましくは10質量部以上180質量部下、更に好ましくは60質量部以上115質量部下の水を収容袋5に放出することが好ましい。また、水保持具6は、特に限定されないが、収容袋5と接触させた時から60秒間に、収容袋5に上述した量の水を放出することが好ましい。収容袋5内の混合物4は、発熱時に所望の発熱特性を満たすためには、所定量の水が供給される必要があり、水の供給量が発熱特性に大きく影響する。つまり、混合物4は、水の供給量が多過ぎても少な過ぎても発熱し難い。そのうえ、同じ水の供給量であっても供給速度が速すぎたり遅すぎたりすると、混合物4が効率よく発熱し難いため、水保持具6は、特に限定されないが、収容袋5と接触させた時から60秒間に、収容袋5に上述した量の水を放出することが好ましい。そこで、本実施形態では、水保持具6が収容袋5と接触した時から60秒間に、混合物100質量部あたり水10質量部以上210質量部以下を収容袋5に放出することで、混合物4を良好に発熱させ、混合物4が発熱時に所望の発熱特性を効率的に発揮するように構成されている。
【0091】
水保持具6から収容袋5への水の放出方法は、特に限定されないが、水保持具6と収容袋5とを接触させた時から水保持具6を好ましくは60秒間加圧して圧縮変形させ、水保持具6が保持する水を水保持具6から押し出すことで、収容袋5内の混合物100質量部あたり10質量部以上210質量部以下の水を収容袋5に放出させることが好ましい。これにより、収容袋5内の混合物4は、水保持具6から所定時間内に所定量の水の供給を確実性高く受けることができる。水保持具6に加える力は、特に限定されないが、着用者等が人の手で無理なく水保持具6を押圧できる程度の力であることが好ましく、1800Pa以上が例示され、より好ましくは1800Pa以上6500Pa以下が例示される。ここで、水保持具6が上述したスポンジや伸縮性を有する不織布のような容易に圧縮変形する柔軟性を有している場合には、水保持具6に加える力は比較的小さくてよく、例えば約1800Paから3000Paが例示される。これに対して水保持具6が通常の不織布のような圧縮変形し難いものである場合には、水保持具6に加える力は比較的大きくする必要があり、例えば約4000Paから6500Paが例示される。このように、60秒間で収容袋5内の混合物100質量部あたり10質量部以上210質量部以下の水が収容袋5に放出されるように、水保持具6の柔軟性に応じて水保持具6を加圧する際の力を加減する。
【0092】
なお、水保持具6から収容袋5への水の放出方法は、上述した方法以外に、水保持具6と収容袋5とを接触させた時から、水保持具6が保持する水を水保持具6から自然に染み出させることで、収容袋5内の混合物100質量部あたり10質量部以上210質量部以下の水を収容袋5に放出させてもよい。
【0093】
水保持具6から収容袋5への水の放出量は、収容袋5への接触前の、水を保持した水保持具6の重さ(A)を測定し、また、収容袋5へ接触させた後の水保持具6の重さ(B)を測定し、重さ(A)から重さ(B)を減じることにより算出する。また、収容袋5内の混合物100質量部あたり水10質量部以上210質量部以下といった割合は、重さ(A)から重さ(B)を減じることにより得た値を、収容袋5に収容された(水保持具6との接触前の)混合物4の重さ(C)で除し、このようにして得た値に100を乗じることにより算出する。すなわち、次の式により算出する。
【0094】
混合物100質量部あたりの放出割合
={重さ(A)-重さ(B)}×100/重さ(C)
【0095】
水保持具6に保持される水の量(水保持量)は、収容袋5に対して所定量の水を放出できるとともに、睡眠時等の長時間にわたり十分な蒸気を着用者に供給できれば、特に限定されないが、好ましくは6g以上が例示され、より好ましくは8g以上が例示される。またマスク1の装着時における水保持具6の重量による使用感への影響の観点から、水保持量は、好ましくは20g以下が例示され、より好ましくは16g以下が例示される。
【0096】
水保持具6に保持される水には、他の成分を添加することもできる。他の成分としては、特に限定されないが、食塩を例示することができる。食塩を含む水として、特に限定されないが、好ましくは0.1質量%以上10質量%以下の食塩水が例示される。食塩を水に添加することにより、混合物4の発熱を効率よく行うことができる。
【0097】
また、水に添加される他の成分として、ポリオールを例示することができる。ポリオールとしては、特に限定されないが、好ましくはグリセリンやジプロピレングリコール、1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、ソルビトール、1,2ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール等が例示され、より好ましくは安全性に点でグリセリンが例示される。これらの他にも、メチルパラベンやフェノキシエタノール等の防腐剤、ヒアルロン酸塩やベタイン等の保湿剤、植物エキス、キサンタンガムやヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC),ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、寒天、グアーガム、カラギーナン等の水溶性増粘剤、ユーカリやミント等の香料、香料を可溶化する界面活性剤(ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤、アニオン性界面活性剤)等を適宜添加することができる。
【0098】
水保持具6は、ポケット7内に収納する前は、不透過性のアルミラミネートフィルム、アルミ蒸着PETフィルム、透明(シリカ)蒸着PETフィルムからなる袋等に収容しておくことが好ましい。
【0099】
上述した本実施形態のマスク1を使用するには、まず、水保持具6をポケット7内に収納して収容袋5に水保持具6を接触させる。そして、水保持具6を着用者が例えば手のひら等で収容袋5の方に向けて押圧する。水保持具6は、好ましくは収容袋5に接触した時から1800Pa以上で60秒間加圧されることで、所定量の水、具体的には収容袋5内の混合物100質量部あたり10質量部以上210質量部以下の水を収容袋5の混合物4に対して放出する。これにより、収容袋5内の混合物4は所定量の水の供給を受けることで発熱する。この状態で、着用者はマスク1を顔に装着する。マスク1の装着時には、水を保持する水保持体6が収容袋5内の混合物4の発熱により加熱され続けることで、水保持具6から温蒸気が長時間にわたり発生する。この温蒸気がポケット7を通過し、本体部2内で着用者の口と鼻から吸引されることで、咽頭や鼻の乾燥感の緩和、喉や鼻の粘膜を潤す等の効果等を得ることができる。
【0100】
上述した本実施形態のマスク1によれば、水保持具6が収容袋5よりも着用者側に配置されている、つまりは、発熱する混合物4を収容する収容袋5と着用者の顔との間に水保持具6が介在しているので、マスク1の装着時に収容袋5内の混合物4が着用者の顔に直接当たることを抑制できる。よって、マスク1の装着時に着用者の顔に収容袋5が当たり続けて顔を低温やけどしたり、不快に感じたりするリスクを低減できる。
【0101】
加えて、収容袋5内の混合物4は、発熱反応である被酸化性金属の酸化反応に必要な十分量の水分を予め含んでいない。そのため、マスク1の製造時や在庫保管時に空気(酸素)が収容袋5内に侵入することで使用前に混合物4に含まれる被酸化性金属の酸化反応が進行するリスクを低減できる。よって、使用時に混合物4が所望の発熱特性を発揮することで、水保持具6を良好に加熱することができ、十分な量の温蒸気を着用者に供給することができる。
【0102】
また、上述した本実施形態のマスク1によれば、水保持具6は、収容袋5と接触した時から好ましくは60秒間に、混合物100質量部あたり水10質量部以上210質量部以下を放出するよう構成されている。これにより、収容袋5内の混合物4は、所望の発熱特性を達成可能な所定量の水の供給を受けるので、混合物4を良好に発熱させることができる。
【0103】
また、上述した本実施形態のマスク1によれば、水保持具6は、圧縮変形により水を放出するよう構成されている。これにより、水保持具6から収容袋5内の混合物4に対して所定量の水を確実性高く放出させることができる。
【0104】
また、上述した本実施形態のマスク1によれば、水保持具6は、収容袋5と接触した時から1800Pa以上で好ましくは60秒間加圧されることで、収容袋5内の混合物100質量部あたり水10質量部以上210質量部以下を放出するよう構成されている。これにより、着用者等が人の手で無理なく水保持具6を押圧することができ、これにより、水保持具6から収容袋5内の混合物4に対して所定量の水を確実性高く放出させることができる。
【0105】
また、上述した本実施形態のマスク1によれば、混合物4は、水保持具6と接触した時から好ましくは60秒間に、混合物100質量部あたり水10質量部以上210質量部以下を吸収するよう構成されている。これにより、収容袋5内の混合物4は、所望の発熱特性を発揮可能な所定量の水の吸収ができるので、混合物4を良好に発熱させることができる。
【0106】
また、上述した本実施形態のマスク1によれば、混合物4の含水率は、5質量%以下である。これにより、混合物4は、使用前に発熱反応である被酸化性金属の酸化反応が進行することを確実性高く防止することができる。
【0107】
また、上述した本実施形態のマスク1によれば、混合物4に含まれる保水剤は、吸水速度が10秒以上のポリアクリル酸塩系樹脂を含む。これにより、混合物4はその内部まで水が浸透しながら水を多く保水するため、発熱の持続時間を長く維持することができる。
【0108】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。
【0109】
上記実施形態では、収容袋5に、水保持具6を収納しながら収容袋5に接触させるためのポケット7が取り付けられている。水保持具6を収容袋5に接触させるための手段は、収容袋5に取り付けられたポケット7に限定されず、例えば図5に示すように、本体部2に取り付けられた袋状の収納部9を用いることができる。
【0110】
収納部9は、例えば2枚のシートからなり、2枚のシートの外周部のうち上側縁を除く部分が互いに接着、溶着(熱溶着、超音波溶着等)、縫合等の方法で接合されることで、収納部9は上部が開口し、2枚のシートの間に収容袋5及び水保持具6を挿入して保持することができる袋状に形成される。なお、1枚のシートを折り重ね、外周部のうち上側縁を除く部分が互いに接着、溶着(熱溶着、超音波溶着等)、縫合等の方法で接合されることで、上部に開口90を有する袋状の収納部9を形成してもよい。図5の実施形態では、収納部9に収容袋5とともに水保持具6を収納することで、水保持具6を収容袋5に接触させながら保持することができる。なお、収納部9内において本体部2側に収容袋5を収納し、本体部2とは反対側(マスク1の装着時に着用者の顔側)に水保持具6を収納する。収納部9の本体部2側の面は通気性有しており、本体部2とは反対側(マスク1の装着時に着用者の顔側)の面は透湿性(あるいは通気性)を有している。
【0111】
なお、図示は省略するが、図5の実施形態において、収納部9に水保持具6のみを収納し、また、収容袋5の一方の面に粘着層を設け、収容袋5を前記粘着層を用いて収納部9の本体部2側の面に貼り付けることで、水保持具6を収容袋5に収納部9の一部を挟んで接触させるようにしてもよい。
【0112】
また、上記実施形態では、水保持具6は、収容袋5と接触した時から60秒間に、混合物100質量部あたり水10質量部以上210質量部以下を放出するよう構成されているが、水保持具6の水の放出量は特に限定されない。
【0113】
また、上記実施形態では、混合物4は、収容袋5と水保持具6とが接触した時から混合物100質量部あたり水10質量部以上210質量部以下を吸収するよう構成されているが、混合物4の水の吸収量は特に限定されない。
【0114】
また、上記実施形態では、混合物4は、水の含水率が5質量%以下であるが、混合物4が水の供給がなくては所望の発熱特性を発揮しないのであれば、混合物4の含まれる水の含水率は特に限定されない。
【0115】
また、上記実施形態では、混合物4は、吸水速度が10秒以上のポリアクリル酸塩系樹脂を含むが、ポリアクリル酸塩系樹脂の吸水速度は特に限定されない。
【0116】
また、上記実施形態では、本体部2の上側縁20、下側縁21及び左右の側縁22,23は直線状に形成されているが、例えば上側縁20は上側に向けて凸の屈曲線又は湾曲線状に形成されていてもよく、及び/又は下側縁21は下側に向けて凸の屈曲線又は湾曲線状に形成されていてもよく、及び/又は左右の側縁22,23は内側に向けて凸の屈曲線又は湾曲線状に形成されていてもよい。
【0117】
また、上記実施形態において、本体部2は平面視長方形状を呈しているが、三角形状、正方形状、その他多角形状、円形状、楕円形状など、種々の形状を呈していてもよい。
【0118】
また、上記実施形態では、本体部2はプリーツ24により縦方向に伸長可能な構造になっているが、本体部2を縦方向に伸長可能とする手段は、プリーツ24に限られるものではなくその他の種々の手段を用いることができ、例えば本体部2にギャザーを形成することで本体部2を縦方向に伸長可能な構造としてもよい。なお、プリーツ24などの本体部2を伸長可能とする手段、構造は本体部2に設けられていなくてもよい。
【0119】
また、上記実施形態では、本体部2が平坦タイプであるが、立体タイプであってもよい。立体タイプとは、2枚のマスク片の側縁同士を熱融着等で接合し、未使用時において横方向中央に縦方向に延びる折り畳み部により2枚のマスク片が折り重ねられていて、2枚のマスク片を展開しても平坦状とはならず、マスク1の装着時に本体部2と顔の鼻の下(鼻孔)及び口との間に大きな空間を形成する構造のものある。平坦タイプの方が、マスク1の装着時に、立体タイプよりも本体部2が顔の表面に隙間をあけずにくっつく。
【実施例
【0120】
以下、実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0121】
[試験例1]
混合物の調製
表1に記載する組成に従い、被酸化性金属粉、酸化促進剤、保水剤、水溶性塩類を混合し、混合物(実施例1~実施例8、比較例1及び比較例2)を調製した。表1中、混合物の含有量の単位は質量%である。なお、各成分は次の通りである。
【0122】
・被酸化性金属粉:鉄粉(商品名アトメル80AF-2、神戸製鋼株式会社製)
・酸化促進剤:活性炭、合成ケイ酸アルミニウム(商品名キョーワード700、協和化学工業株式会社製)
・保水剤:ポリアクリル酸ナトリウム(商品名サンフレッシュK31、三洋化成工業株式会社製、吸水速度35秒)、結晶セルロース1(商品名Comprecel S 101、伏見製薬所社製)、結晶セルロース2(商品名セオラスKG-802、旭化成株式会社製)
・水溶性塩類:塩化ナトリウム(商品名TF-100、株式会社ソルト関西社製)
【0123】
それぞれの実施例及び比較例について得られた混合物12gを、通水性を備えた収容袋(大きさ50mm×80mm)に収容し、封をすることにより、前記混合物を収容した収容袋を得た。該混合物は空気と接触しても発熱しないため、後述の水保持具と接触させるまで、非通気性の袋に収納することなく、このまま放置した。
【0124】
水保持具の調製
水保持具として、大きさ60mm×90mmの不織布(商品名フェリベンディ150g/m、クラレクラフレックス株式会社製、エチレン-ビニルアルコール共重合体、スチームジェット製法)を用いた。具体的には、実施例1~実施例6ならびに比較例1及び比較例2では、水保持具として、該不織布を1枚用い、実施例7及び実施例8では、水保持具として、該不織布を2枚重ね合わせたものを用いた。
【0125】
各水保持具に吸水させた水の量は、実施例1は2g、実施例2は4g、実施例3は10g、実施例4は11g、実施例5は14g、実施例6は20g、実施例7は22g、実施例8は25g、比較例1は0.5g、比較例2は1gである。
【0126】
水保持具から混合物への水の供給
水保持具から混合物への水の供給は次のように行った。前述の混合物を収容した収容袋の片面(通水性面)に前述の水を吸水させた水保持具を重ねて接触させ、直ちに3.6kg荷重(約6500Pa)の負荷をかけて1分間静置した。該接触による混合物の吸水量は、接触直前に、水を吸水させた水保持具の重さ(接触前重量)を測定し、また、前述のように1分間静置後に水保持具の重さ(接触後重量)を測定し、接触前重量から接触後重量を減じ、得られた値を混合物の吸水量とした。本試験例において、放出された水が収容袋等から漏れ出たことは観察されず、すなわち、放出された水は全て、収容袋内の混合物が吸水した。
【0127】
発熱評価
次の手順に従い発熱を評価した。まず、前記混合物を収容した収容袋の、水保持具を接触させる面とは反対側の面に温度センサーを予めテープで貼り付けて固定しておき、次いで、該収容袋(温度センサーを固定していないもう一方の片面)に水保持具を接触させ、次いで、前記反対側の面(温度センサーを固定した面)が下向きになるように網棚の上に収容袋を置いて、室温(約15℃から25℃)で測温を行うことにより、発熱温度、時間を測定した。この際、該温度センサーを用いて、5秒間隔でデータを記録した。また、前述の通り負荷をかけて1分間静置した後、水保持具を収容袋から外した。次いで、このように測定した発熱温度及び時間に基づき、発熱時の最高温度(前記負荷をかけた時から3時間内の最高温度)、発熱温度が40℃を越える持続時間(発熱持続時間)、発熱温度が40℃を越えるまでにかかる時間(立ち上がり時間)を評価した。具体的には、最高温度は、40℃を超えた場合を「○」、40℃以下で30℃を超えた場合を「△」、30℃以下の場合を「×」とした。発熱持続時間は、発熱温度が40℃を超えて続く時間が30分以上の場合を「○」、30分未満で10分以上の場合を「△」、10分未満の場合を「×」とした。立ち上がり時間は、前記接触後、発熱温度が40℃を超えるまでに要した時間が7分以下の場合を「○」、7分を超えて12分以下の場合を「△」、12分を超える場合を「×」とした。
【0128】
結果
結果を表1に示す。
【0129】
【表1】
【0130】
表1から明らかなように、混合物100重量部あたりの吸水割合が少ない比較例1及び比較例2では、発熱時の最高温度が40℃を超えず、また、所望の発熱持続時間(10分以上)及び立ち上がり時間(12分以下)は認められなかった。これに対して、混合物100重量部あたりの吸水割合を増加させた実施例1~実施例8では、発熱時に40℃を超える良好な最高温度が達成され、また、所望の発熱持続時間(10分以上)及び立ち上がり時間(12分以下)が認められた。このことから、実施例1~実施例8によれば、混合物は良好な発熱特性が得られることが確認された。また、このことから、使用時に、収容袋に水保持具を接触させて収容袋内の混合物に水を吸収させた場合であっても、良好な発熱特性が得られることが確認された。
【0131】
[試験例2]
混合物の調製
表2に記載する組成に従い、被酸化性金属粉、酸化促進剤、保水剤、水溶性塩類を混合し、混合物(実施例9及び実施例10、比較例3)を調製した。表2中、混合物の含有量の単位は質量%である。なお、各成分は試験例1と同じものを用いた。
【0132】
それぞれの実施例及び比較例について得られた混合物11gを、通水性を備えた収容袋(大きさ50mm×80mm)に収容し、封をすることにより、前記混合物を収容した収容袋を得た。該混合物は空気と接触しても発熱しないため、後述の含水体と接触させるまで、非通気性の袋に収納することなく、このまま放置した。
【0133】
水保持具の調製
水保持具は、実施例9及び実施例10は試験例1と同じ不織布(商品名フェリベンディ150g/m、クラレクラフレックス株式会社製、エチレン-ビニルアルコール共重合体、スチームジェット製法)を、比較例3は不織布(商品名HP-55、日本バイリーン株式会社製、ニードルパンチ製法)を使用し、同様に水を吸水させた。各水保持具に吸水させた水の量は全て11gである。
【0134】
水保持具から混合物への水の供給
水保持具から混合物への水の供給は試験例1と同じように行った。なお、実施例9では1kg荷重(約1800Pa)の負荷をかけて1分間静置し、実施例10では3.6kg荷重(約6500Pa)の負荷をかけて1分間静置した。比較例3では1kg荷重(約1800Pa)の負荷をかけて1分間静置した。水保持具からの水の放出量は、接触直前に、水を吸水させた水保持具の重さ(接触前重量)を測定し、また、前述のように1分間静置後に水保持具の重さ(接触後質量)を測定し、接触前重量から接触後重量を減じ、得られた値を水保持具の放水量とした。本試験例において、放出された水が収容袋等から漏れ出たことは観察されず、すなわち、放出された水は全て、収容袋内の混合物が吸水した。
【0135】
発熱評価
前記接触後、試験例1と同様にして発熱を評価した。
【0136】
結果
結果を表2に示す。
【0137】
【表2】
【0138】
表2から明らかなように、混合物100重量部あたりの水の放出量が少ない比較例3では、発熱時の最高温度が40℃を超えず、また、所望の発熱持続時間(10分以上)及び立ち上がり時間(12分以下)は認められなかった。これに対して、混合物100重量部あたりの水の放出量を増加させた実施例9及び実施例10では、発熱時に40℃を超える良好な最高温度が達成され、また、所望の発熱持続時間(10分以上)及び立ち上がり時間(12分以下)が認められた。このことから、実施例9及び実施例10によれば、加圧することにより含水体から所定量の水が放出され、これが混合物に吸水されて、良好な発熱特性が得られることが確認された。また、このことから、使用時に、収容袋に含水体を接触させて水を放出させて、収容袋内の該混合物に吸水させた場合であっても、良好な発熱特性が得られることが確認された。
【0139】
[試験例3]
表3に記載する組成に従って混合物12gを調整した。表3中、混合物の含有量の単位は質量%である。なお、各成分は試験例1と同じものを用いた。得られた混合物を、通水性を備えた収容袋(大きさ50mm×80mm)に収容し、封をすることにより、前記混合物を収容した収容袋を得た。該混合物は空気と接触しても発熱しないため、後述の含水体と接触させるまで、非通気性の袋に収納することなく、このまま放置した。
【0140】
水保持具は、試験例1と同じ不織布(商品名フェリベンディ150g/m、クラレクラフレックス株式会社製、エチレン-ビニルアルコール共重合体、スチームジェット製法)を使用し、水11gを吸水させた。前述の混合物を収容した収容袋の片面(通水性面)に前述の水を吸水させた水保持具を重ねて接触させ、そこに3.6kg荷重(約6500Pa)の負荷をかけて1分間静置して、混合物の発熱を開始させた。なお、発熱開始時に混合物が吸収した水の量は9gであった。
【0141】
発熱開始後、直ちに収容袋と水保持具とを重ねた状態で水保持具が肌側になるように腕に静置して、腕に水保持具を介して収容袋を接触させ、水保持具と肌との間の温度(肌が熱源である収容袋に接触しているときの皮膚表面温度)Tsを測定した。そして、以下の式(1)(2)に基づいて算出される損傷関数Ωの積算値に基づいて、積算値が0.53を上回るまでの時間tを求めた(実施例11)。また、同じ収容袋を用いて、同様に、発熱開始直後の収容袋が直接肌に接触するように腕に静置して、収容袋と肌との間の温度(肌が熱源である収容袋に接触しているときの皮膚表面温度)Tsを測定し、以下の式(1)(2)に基づいて算出される損傷関数Ωの積算値に基づいて、積算値が0.53を上回るまでの時間tを求めた(比較例4)。結果を表4に示す。損傷関数Ωについては、非特許文献1(山田幸生,低温やけどについて,「食品と安全」第72号(平成11年3月),2頁~8頁)を参照することができる。
【0142】
【数1】
【0143】
なお、「t」は熱源である収容袋に皮膚が接触している時間(sec)、Ttは表皮底部温度(℃)、Tsは熱源である収容袋に接触しているときの皮膚表面温度(℃)である。
【0144】
【表3】
【0145】
【表4】
【0146】
表4から明らかなように、収容袋と肌との間に水保持具が介在する実施例11は損傷関数Ωの積算値が0.53を上回るまでの時間が33.8時間と非常に長いのに対して、収容袋を直接肌に接触させた比較例4は損傷関数Ωの積算値が0.53を上回るまでの時間が1.9時間と非常に短く、実施例11は比較例4と比較して低温やけどといわれる障害が生じるまでの時間が十分に長いことが確認された。よって、実施例11によれば、マスクの装着時に着用者の顔が収容袋により低温やけどすることのリスクの低減に効果的であることが示された。
【符号の説明】
【0147】
1 マスク
2 本体部
4 混合物
5 収容袋
6 水保持具
7 ポケット
9 収納部
図1
図2
図3
図4
図5