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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】重合体組成物、成形体および光学部材
(51)【国際特許分類】
   C08L 33/06 20060101AFI20240109BHJP
   C08F 220/12 20060101ALI20240109BHJP
   C08K 5/13 20060101ALI20240109BHJP
【FI】
C08L33/06
C08F220/12
C08K5/13
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020013592
(22)【出願日】2020-01-30
(65)【公開番号】P2021120424
(43)【公開日】2021-08-19
【審査請求日】2022-10-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 亮輔
(72)【発明者】
【氏名】真鍋 誠
【審査官】谷合 正光
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-151801(JP,A)
【文献】特開2016-169365(JP,A)
【文献】特開2006-089624(JP,A)
【文献】特表2007-516240(JP,A)
【文献】特開昭61-272706(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 33/06
C08F 220/12
C08K 5/13
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位および(メタ)アクリル酸に由来する構造単位を含む重合体と、
4-メトキシフェノールである化合物(A)とを含有し、
前記化合物(A)の含有量が1質量ppm~10質量ppmである、重合体組成物。
【請求項2】
前記化合物(A)の含有量が1質量ppm~7質量ppmである、請求項1に記載の重合体組成物。
【請求項3】
前記重合体に含まれる全構造単位の合計含有量100モル%に対して、
(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位の含有量が70モル%~99.99モル%であり、
(メタ)アクリル酸に由来する構造単位の含有量が0.01モル%~30.0モル%である、請求項1または2に記載の重合体組成物。
【請求項4】
前記(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位がメタクリル酸メチルに由来する構造単位であり、
前記(メタ)アクリル酸に由来する構造単位がメタクリル酸に由来する構造単位である、請求項1~のいずれか一項に記載の重合体組成物。
【請求項5】
前記重合体が無水グルタル酸構造単位をさらに含む、請求項1~のいずれか一項に記載の重合体組成物。
【請求項6】
前記重合体に含まれる全構造単位の合計含有量100モル%に対して、
(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位の含有量が70モル%~99.98モル%であり、
(メタ)アクリル酸に由来する構造単位の含有量が0.01モル%~20.0モル%であり、
無水グルタル酸構造単位の含有量が0.01モル%~10モル%である、請求項に記載の重合体組成物。
【請求項7】
請求項1~のいずれか一項に記載の重合体組成物を含有する成形体。
【請求項8】
請求項に記載の成形体を含む、光学部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合体組成物、ならびに当該重合体組成物を含む成形体および光学部材に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車などの車両用の灯火類、特にテールランプまたはヘッドランプには、従来、主にハロゲンランプが用いられていた。そのため、灯火類に用いられる光学レンズなどの光学部材の原材料には高い耐熱性が要求されており、従来は一般的には無機ガラスが原材料として使用されていた。
【0003】
しかしながら、近年では、車両用の灯火類の光源として、従来のハロゲンランプに代えてLEDランプが使用されている。LEDランプが光源として使用される場合、LEDランプを覆う透光性の光学部材には無機ガラスが有する程の耐熱性は必要とされないこともあり、透明性に優れたアクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂が用いられてきている。
【0004】
例えば、下記特許文献1には、透明性に優れたアクリル樹脂とするために、メタクリル酸メチルに由来する構造単位とアクリル酸メチルに由来する構造単位とを含むアクリル樹脂において、4-メトキシフェノールの含有量を0.3ppm以下とすることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2004-323770号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
車両用の灯火類の光源として用いられるLEDランプにおいては、確かにLED素子自体の発熱についていえば従来のハロゲンランプなどと比較すると少ないものの、例えばLEDランプの高輝度化が求められ、LEDランプのさらなる高輝度化が図られる状況下では、制御回路を含む基板といったLED素子に付随する部材の発熱が顕著となるおそれがあるため、依然として熱安定性が要求されることとなる。
【0007】
また、従来のアクリル樹脂、ポリカーボネート樹脂を用いて製造された光学部材には、光源が発する熱により経時的に劣化して、光学部材から出射される光量が低減してしまったり、光学部材の黄色度が上がってしまうことにより出射光の波長が所望の波長とは異なってしまったりする場合があるため、このような熱に対する劣化を抑制するために、耐熱劣化特性が要求されている。
【0008】
しかしながら、例えば上記特許文献1にかかるアクリル樹脂では、上記の要求を十分には満足させることができていなかった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意検討を進めたところ、重合体組成物に含まれる所定の化合物の含有量を所定の範囲とすれば、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させるに至った。
すなわち、本発明は、下記[1]~[9]を提供する。
[1] (メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位および(メタ)アクリル酸に由来する構造単位を含む重合体と、
4-tert-ブチルカテコール、6-tert-ブチル-2,4-キシレノール、パラメトキシフェノール、ハイドロキノン、2,2,6,6-テトラメチルピペリジニル-1-オキシル、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジニル-1-オキシルおよびトリフェニルフェルダジルからなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物(A)とを含有し、
前記化合物(A)の含有量が1質量ppm~10質量ppmである、重合体組成物。
[2] 前記化合物(A)の含有量が1質量ppm~7質量ppmである、[1]に記載の重合体組成物。
[3] 前記化合物(A)が4-メトキシフェノールである、[1]または[2]に記載の重合体組成物。
[4] 前記重合体に含まれる全構造単位の合計含有量100モル%に対して、
(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位の含有量が70モル%~99.99モル%であり、
(メタ)アクリル酸に由来する構造単位の含有量が0.01モル%~30.0モル%である、[1]~[3]のいずれか1つに記載の重合体組成物。
[5] 前記(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位がメタクリル酸メチルに由来する構造単位であり、
前記(メタ)アクリル酸に由来する構造単位がメタクリル酸に由来する構造単位である、[1]~[4]のいずれか1つに記載の重合体組成物。
[6] 前記重合体が、無水グルタル酸構造単位をさらに含む、[1]~[5]のいずれか1つに記載の重合体組成物。
[7] 前記重合体に含まれる全構造単位の合計含有量100モル%に対して、
(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位の含有量が70モル%~99.98モル%であり、
(メタ)アクリル酸に由来する構造単位の含有量が0.01モル%~20.0モル%であり、
無水グルタル酸構造単位の含有量が0.01モル%~10モル%である、[6]に記載の重合体組成物。
[8] [1]~[7]のいずれか1つに記載の重合体組成物を含有する成形体。
[9] [8]に記載の成形体を含む、光学部材。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、熱安定性、耐熱劣化特性に優れた重合体組成物、ならびに当該重合体組成物を含む成形体および光学部材を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。本発明は以下の記述によって限定されるものではなく、本発明の構成要素は本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
【0012】
1.共通する用語の説明
以下に、本明細書において用いられる用語の意味について説明する。別途の説明がない限り、本明細書中の用語の意味するところは、下記のとおりである。
【0013】
「置換基」は、1価の基であって、例えば、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基、アルキルオキシ基、シクロアルキルオキシ基、ハロゲン原子が挙げられる。
【0014】
「ハロゲン原子」には、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が含まれる。
【0015】
「芳香族炭化水素」は、単環構造の芳香族炭化水素、縮合環構造の芳香族炭化水素、並びに、単環構造の芳香族炭化水素および縮合環構造の芳香族炭化水素からなる群から選択される2以上の芳香族炭化水素が結合された構造を有する芳香族炭化水素を包含する。芳香族炭化水素は、単環構造の芳香族炭化水素、縮合環構造の芳香族炭化水素、並びに、単環構造の芳香族炭化水素および縮合環構造の芳香族炭化水素からなる群から選択される2以上の芳香族炭化水素が結合された構造を有する芳香族炭化水素に、さらに脂環式炭化水素が縮合した構造を包含する。
【0016】
単環構造の芳香族炭化水素としては、例えばベンゼンが挙げられる。縮合環構造の芳香族炭化水素としては、例えば、インデン、ナフタレン、フルオレン、フェナントレン、アントラセン、およびピレンが挙げられる。単環構造の芳香族炭化水素および縮合環構造の芳香族炭化水素からなる群から選択される2以上の構造が結合された構造を有する芳香族炭化水素としては、例えばビフェニルが挙げられる。単環構造の芳香族炭化水素および縮合環構造の芳香族炭化水素からなる群から選択される2以上の芳香族炭化水素が結合された構造を有する芳香族炭化水素に、さらに脂環式炭化水素が縮合した構造の芳香族炭化水素としては、テトラリンが挙げられる。
【0017】
「アルキル基」は、直鎖状であっても、分枝鎖状であっても、環状であってもよい。
アルキル基の炭素原子数は、通常1以上20以下であり、好ましくは1以上12以下であり、より好ましくは1以上8以下であり、さらに好ましくは1以上6以下である。
なお、本明細書において、「炭素原子数」には置換基の炭素原子数は含まれない。
【0018】
アルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、2,2-ジメチルプロピル基、n-ヘキシル基、2-メチルペンチル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、3,7-ジメチルオクチル基、2-エチルヘキシル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-トリデシル基、n-テトラデシル基、n-ペンタデシル基、n-ヘキサデシル基、n-ヘプタデシル基、n-オクタデシル基、n-ノナデシル基、およびn-イコシル基が挙げられる。
【0019】
アルキル基は、さらに置換基を有していてもよい。アルキル基は、例えば、置換基であるフッ素原子で置換されたアルキル基であってもよい。
【0020】
フッ素原子で置換されたアルキル基の具体例としては、2,2,2-トリフルオロエチル基、3,3,3―トリフルオロプロピル基、4,4,4-トリフルオロブチル基、5,5,5-トリフルオロペンチル基、6,6,6-トリフルオロヘキシル基、7,7,7-トリフルオロヘプチル基、8,8,8-トリフルオロオクチル基、9,9,9-トリフルオロノニル基、および、10,10,10-トリフルオロデシル基が挙げられる。
【0021】
「アルキルオキシ基」は、直鎖状であっても、分岐状であってもよい。
アルキルオキシ基の炭素原子数は、通常1以上20以下であり、好ましくは1以上12以下であり、より好ましくは1以上8以下であり、さらに好ましくは1以上6以下である。
アルキルオキシ基が有するアルキル基の例としては、上記アルキル基として挙げた例が挙げられる。
アルキルオキシ基の具体例としては、メトキシ基、エトキシ基、n-プロポキシ基、イソプロポキシ基、n-ブトキシ基、sec-ブトキシ基、tert-ブトキシ基、n-ペンチルオキシ基、2,2-ジメチルプロポキシ基、n-ヘキシルオキシ基、2-メチルペンチルオキシ基、n-ヘプチルオキシ基、n-オクチルオキシ基、3,7-ジメチルオクチルオキシ基、2-エチルヘキシルオキシ基、n-ノニルオキシ基、n-デシルオキシ基、n-ウンデシルオキシ基、n-ドデシルオキシ基、n-トリデシルオキシ基、n-テトラデシルオキシ基、n-ペンタデシルオキシ基、n-ヘキサデシルオキシ基、n-ヘプタデシルオキシ基、n-オクタデシルオキシ基、n-ノナデシルオキシ基、およびn-イコシルオキシ基が挙げられる。
【0022】
アルキルオキシ基は、さらに置換基を有していてもよい。アルキルオキシ基は、例えば、置換基であるフッ素原子で置換されたアルキルオキシ基であってもよい。
【0023】
フッ素原子で置換されたアルキルオキシ基の具体例としては、トリフルオロメトキシ基、ペンタフルオロエトキシ基、パーフルオロブトキシ基、パーフルオロヘキシルオキシ基、およびパーフルオロオクチルオキシ基が挙げられる。
【0024】
「アリール基」は、芳香族炭化水素から、環を構成する炭素原子に直接結合する水素原子1個を除いた残りの原子団を意味する。
【0025】
アリール基の炭素原子数は、通常6~60であり、好ましくは6~18であり、より好ましくは6~12である。
【0026】
アリール基の具体例としては、フェニル基、インデニル基、ナフチル基、フルオレニル基、フェナントリル基、アントリル基、ピレニル基が挙げられる。
【0027】
アリール基は、さらに置換基を有していてもよい。アリール基が有していてもよい置換基としては、例えば、ハロゲン原子、アルキル基、およびアルキルオキシ基が挙げられる。
【0028】
置換基を有するアリール基の具体例としては、トリル基、キシリル基、メシチル基、クメニル基、メチルナフチル基、メトキシフェニル基、クロロフェニル基が挙げられる。
【0029】
2.重合体組成物
本実施形態の重合体組成物は、(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位および(メタ)アクリル酸に由来する構造単位を含む重合体と、4-tert-ブチルカテコール、6-tert-ブチル-2,4-キシレノール、パラメトキシフェノール、ハイドロキノン、2,2,6,6-テトラメチルピペリジニル-1-オキシル、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジニル-1-オキシルおよびトリフェニルフェルダジルからなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物(A)とを含有し、化合物(A)の含有量が1質量ppm~10質量ppmである。
以下、本実施形態の重合体組成物に含まれ得る成分について、具体的に説明する。
【0030】
(1)重合体
重合体は、(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位および(メタ)アクリル酸に由来する構造単位を含む。まず、これらの構造単位それぞれについて説明する。
【0031】
(1-1)(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位および(メタ)アクリル酸に由来する構造単位
本実施形態の重合体組成物が含む重合体は、(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位および(メタ)アクリル酸に由来する構造単位を含む。
【0032】
ここで、文言「(メタ)」は、メチル基を含む場合とメチル基を含まない場合との両方を包括する意味である。
【0033】
具体的には、「(メタ)アクリル酸エステル」は、メタクリル酸エステルおよびアクリル酸エステルを包括する意味であり、これらの一方または双方であり得る。
【0034】
また、「(メタ)アクリル酸エステル」は、メタクリル酸およびアクリル酸を包括する意味であり、これらの一方または双方であり得る。
【0035】
さらに(メタ)アクリル酸エステルおよび(メタ)アクリル酸に含まれる「(メタ)アクリロイル基」は、「アクリロイル基」および「メタクリロイル基」を包括する意味であり、これらの一方または双方であり得る。
【0036】
「(メタ)アクリロイル基」が、「アクリロイル基」および「メタクリロイル基」の双方である場合には、それらの基の数の合計が(メタ)アクリロイル基の数とされる。
【0037】
本実施形態の重合体組成物が含む重合体において「(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位」を構成し得るメタクリル酸エステルは、下記式(1)で表される単量体である。
【0038】
【化1】
【0039】
式(1)中、R17はメチル基を表し、R18は、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基を表す。
【0040】
上記式(1)で表されるメタクリル酸エステルは、特に限定されない。式(1)で表されるメタクリル酸エステルとしては、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸(2-エチルヘキシル)、メタクリル酸(tert-ブチルシクロヘキシル)、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸(2,2,2-トリフルオロエチル)等が挙げられる。メタクリル酸エステルは、単量体である1種のみを単独で用いて重合体としてもよく、2種以上を組み合わせて重合体としてもよい。
【0041】
本実施形態の重合体組成物が含む重合体において「(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位」を構成し得るアクリル酸エステルは、下記式(2)で表される単量体である。
【0042】
【化2】
【0043】
式(2)中、R19は水素原子を表し、R20は、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアリール基を表す。
アルキル基の炭素原子数は、好ましくは1以上12以下であり、より好ましくは1以上8以下であり、さらに好ましくは1以上6以下である。
【0044】
上記式(2)で表されるアクリル酸エステルは、特に限定されない。式(7)で表されるアクリル酸エステルとしては、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸sec-ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸フェニル等が挙げられる。
【0045】
アクリル酸エステルは、1種のみを単独で用いて重合体としてもよく、2種以上を組み合わせて重合体としてもよい。
【0046】
「(メタ)アクリル酸に由来する構造単位」としては、例えば、下記式(3)で表される、メタクリル酸に由来する構造単位、および下記式(4)で表される、アクリル酸に由来する構造単位が挙げられる。
【0047】
【化3】
【0048】
本実施形態では、(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位は、メタクリル酸メチルに由来する構造単位であることが好ましく、(メタ)アクリル酸に由来する構造単位はメタクリル酸に由来する構造単位であることが好ましい。
【0049】
(1-2)無水グルタル酸構造単位
本実施形態の重合体組成物が含む重合体は、下記式(5)で表される無水グルタル酸構造単位をさらに含み得る。
【0050】
【化4】
【0051】
式(5)中、R、RおよびRは、それぞれ独立に、水素原子、置換基を有していてもよいアルキル基を表す。
【0052】
無水グルタル酸構造単位は、単量体である(メタ)アクリル酸と、単量体である(メタ)アクリル酸とから重合体が合成後に、エステル基とカルボキシ基とがエステル交換反応して環化縮合することにより生成し得る。すなわち、本実施形態の重合体組成物は、単量体である(メタ)アクリル酸または(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位、および単量体である(メタ)アクリル酸または(メタ)アクリル酸に由来する構造単位に由来する無水グルタル酸構造単位をさらに含み得る。
【0053】
例えば、単量体としてメタクリル酸メチルおよびメタクリル酸を用いた場合には、下記式(6)で表される、無水グルタル酸構造単位が形成され得る。
【0054】
【化5】
【0055】
(1-3)その他の構造単位
本実施形態の重合体組成物が含む重合体は、上記以外のその他の構造単位を本発明の目的を損なわないことを条件として、さらに含んでいてもよい。
【0056】
(1-4)構造単位の含有量
(1-4-1)(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位および(メタ)アクリル酸に由来する構造単位の含有量
本実施形態において、(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位の含有量は、重合体に含まれる全構造単位の合計含有量(100モル%)に対して、通常70モル%以上99.99モル%以下(70モル%~99.99モル%)であり、好ましくは70モル%以上99.98モル%以下(70モル%~99.98モル%)であり、より好ましくは74.64モル%以上98.98モル%以下である。
【0057】
(メタ)アクリル酸エステル(特にメタクリル酸メチルまたはアクリル酸メチル)に由来する構造単位を上記範囲内の含有量とすれば、重合体の耐候性や光学特性を高めることができる。
【0058】
また、(メタ)アクリル酸に由来する構造単位の含有量は、重合体に含まれる全構造単位の合計含有量に対して、通常0.01モル%以上30モル%以下(0.01モル%~30.0モル%)であり、好ましくは0.01モル%以上20.0モル%以下であり(0.01モル%~20.0モル%)、より好ましくは1モル%以上26モル%以下であり、さらに好ましくは6モル%以上26モル%以下であり、よりさらに好ましくは7.48モル%以上25.2モル%以下であり、特に好ましくは10モル%以上25.2モル%以下である。
【0059】
(メタ)アクリル酸に由来する構造単位を上記範囲内の含有量(モル%)として含ませることによって、特に重合体組成物が光学レンズ等の光学部材の原材料として利用される場合に、ガラス転移温度(Tmg)および吸水率を好適な値とすることができる。
【0060】
(1-4-2)無水グルタル酸構造単位の含有量
さらに、無水グルタル酸構造単位の含有量は、重合体に含まれる全構造単位の合計含有量に対して、通常0.01モル%以上10モル%以下(0.01モル%~10モル%)であり、好ましくは0.02モル%以上9モル%以下であり、より好ましくは0.02モル%以上8モル%以下であり、さらに好ましくは0.02モル%以上5モル%以下であり、よりさらに好ましくは0.02モル%以上4.1モル%以下であり、またさらに好ましくは0.02モル%以上3モル%未満であり、よりさらに好ましくは0.02モル%以上2.5モル%以下であり、特に好ましくは0.02モル%以上0.16モル%以下である。
【0061】
無水グルタル酸構造単位は、重合反応、造粒成形における(メタ)アクリル酸エステルおよび(メタ)アクリル酸の環化縮合によって生じ得る構造単位である。しかしながら、上記の含有量であれば、本発明の作用効果には特に影響しない。
【0062】
無水グルタル酸構造単位の含有量を0.01モル%以上とすれば、重合体の耐熱性を向上させることができる。他方、無水グルタル酸構造単位の含有量を10モル%以下とすれば、重合体組成物の成形体の黄色度を抑制することができる。特に、無水グルタル酸構造単位の含有量が10mol%を超えてしまうと、成形体の黄色度が大きく顕著に増してしまう。このように無水グルタル酸構造単位の含有量を適切な所定の範囲内の量に調整することによって、その成形体の黄色度を抑制することができ、光学レンズ等の光学部材に好適に用いられる。重合体における無水グルタル酸構造単位の含有量(モル%)は、単量体の種類および割合(モル%または質量%)並びに重合方法を考慮して調整することができる。
【0063】
(1-4-3)その他の構造単位の含有量
その他の構造単位の含有量は、重合体に含まれる全構造単位の合計含有量に対して、通常0.01モル%以上10モル%以下であり、好ましくは0.02モル%以上9モル%以下であり、より好ましくは0.02モル%以上8モル%以下であり、さらに好ましくは0.02モル%以上5モル%以下であり、よりさらに好ましくは0.02モル%以上4.1モル%以下であり、またさらに好ましくは0.02モル%以上3モル%未満であり、特に好ましくは0.02モル%以上2.5モル%以下であり、とりわけ好ましくは0.02モル%以上0.16モル%以下である。
【0064】
本実施形態の重合体における各構造単位の好適な含有量の具体例としては、重合体に含まれる全構造単位の合計含有量100モル%に対して、(メタ)アクリル酸エステルに由来する構造単位の含有量が70モル%~99.98モル%であり、(メタ)アクリル酸に由来する構造単位の含有量が0.01モル%~20.0モル%であり、無水グルタル酸構造単位の含有量が0.01モル%~10モル%である態様が挙げられる。
【0065】
本実施形態において、重合体が含有する構造単位の含有量(モル%)は、13C-NMR法によって各構造単位に応じたピーク範囲におけるピークの積分値を求めることによって算出することができる数値であるか、または、含まれる構造に応じて13C-NMR法とさらに補助的にH-NMR法および/またはIR法も用いて算出することができる数値である。
【0066】
(2)化合物(A)
本実施形態の重合体組成物は、化合物(A)を含む。化合物(A)は、具体的には、4-tert-ブチルカテコール、6-tert-ブチル-2,4-キシレノール、パラメトキシフェノール、ハイドロキノン、2,2,6,6-テトラメチルピペリジニル-1-オキシル、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジニル-1-オキシルおよびトリフェニルフェルダジルからなる群から選ばれる少なくとも一種の化合物である。
【0067】
ここで、化合物(A)は、単量体の重合禁止剤として機能し得る化合物であり、通常、単量体を保管するにあたり、保管性を向上させる観点から添加される成分である。例えば、本実施形態の重合体組成物における単量体である(メタ)アクリル酸は、反応性が高いため、通常、数百質量ppm程度の濃度となるように、重合禁止剤である化合物(A)が添加され得る一方で、単量体である(メタ)アクリル酸エステルは、比較的反応性が低いため、通常、10質量ppm程度の濃度となるように、重合禁止剤である化合物(A)が添加され得る。
【0068】
本実施形態の重合体組成物に含まれる化合物(A)は、原料である単量体に重合禁止剤として添加されていた化合物(A)に由来していても、化合物(A)の含有量を重合体組成物において所定の範囲内とするために、単量体および/または重合体組成物に能動的に添加された化合物(A)に由来していても、またはこれらの両方に由来していてもよい。
【0069】
化合物(A)としては、4-tert-ブチルカテコール、6-tert-ブチル-2,4-キシレノールおよび4-メトキシフェノールであることが好ましく、4-メトキシフェノールであることがより好ましい。
【0070】
本実施形態の重合体組成物において、化合物(A)の含有量は、1質量ppm~10質量ppmであることが好ましく、1質量ppm~9質量ppmであることがより好ましく、特に成形体(光学部材)の全光透過率を向上させ、黄色度を低減して耐熱劣化特性を良好にする観点から、1質量ppm~7質量ppmであることがさらに好ましく、2質量ppm~7質量ppmであることがさらにまた好ましい。
【0071】
本実施形態の重合体組成物は、例えば、製造工程等において不可避的に混入し得る微量成分(重合開始剤、重合安定剤、分子量調整剤等の添加剤の残留物)を含んでいてもよい。
【0072】
本実施形態の重合体組成物は、例えば、230℃、3.8kg荷重におけるMFR(メルトフローレート)値が、通常1以上7以下であり、好ましくは2以上6以下であり、より好ましくは4以上6以下であり得る。
【0073】
本明細書において、MFR値とは、JIS K7210-1999に規定された方法において、230℃、3.8kg荷重で測定される値である。
【0074】
MFR値をこのような範囲とすることによって、重合体組成物が光学レンズ等の光学部材の原材料として利用される場合であって、例えば重合体組成物を射出形成等により成形して成形体とする場合に流動性を好ましいものとすることができる。
【0075】
3.重合体組成物の製造方法
本実施形態の重合体組成物の製造方法については、特に制限はない。重合体組成物(重合体組成物に含まれる重合体)を製造するための重合方法としては、例えば、懸濁重合法、溶液重合法、塊状重合法が挙げられる。本実施形態の重合体組成物の重合方法としては、特に、懸濁重合法を採用することが好ましい。以下、懸濁重合法を用いる実施形態について具体的に説明する。
【0076】
本実施形態の重合体組成物の製造方法にかかる懸濁重合法は、例えば、水、重合開始剤、連鎖移動剤、懸濁安定剤および必要に応じて他の添加剤等を所定量オートクレーブに仕込み、攪拌しつつ単量体である(メタ)アクリル酸エステルおよび(メタ)アクリル酸を供給して加熱することにより実施することができる。
【0077】
水の使用量は、容量比で、単量体の量に対して、例えば、1~5倍量、特に1~3倍量程度とすればよい。
【0078】
本実施形態の懸濁重合法に用いられる重合開始剤は、特に制限されない。重合開始剤としては、例えば、ラウリルパーオキサイド、1,1―ジ(tert-ブチルパーオキシ)シクロヘキサン等の過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物等のラジカル重合開始剤が挙げられる。重合開始剤は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0079】
本実施形態の懸濁重合法に用いられる連鎖移動剤は、特に制限されない。連鎖移動剤としては、例えば、n-ドデシルメルカプタン(特に、1-ドデシルメルカプタン)、n-ブチルメルカプタン、n-オクチルメルカプタン、2-エチルヘキシルチオグリコレート等のメルカプタン類等が挙げられる。連鎖移動剤は、1種のみを用いてもよいし、2種以上を用いてもよい。
【0080】
本実施形態の懸濁重合法に用いられる懸濁安定剤としては、例えば、メチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等の水溶性セルロースエーテルが挙げられる。また、懸濁安定剤として、部分けん化されたビニルアルコール、アクリル酸重合体およびゼラチン等の水溶性ポリマーを使用することもできる。
【0081】
本実施形態において適用される懸濁重合法においては、例えば、重合反応後に得られるスラリー状の反応物である重合体組成物を脱水および必要に応じて洗浄した後、乾燥させることにより、ビーズ状の重合体組成物である重合体組成物ビーズとして得ることができる。重合体組成物ビーズはそのまま使用してもよいし、さらに押出機(例えば脱気押出機)を用いて押出造粒して成形することによりペレット状の重合体組成物である重合体組成物ペレットとしてもよい。
【0082】
本実施形態においては、単量体(構造単位)の含有量(モル%または質量%)の調整のみならず、好適な重合方法、成形方法を選択し、およびこれらの条件を適宜調節することによっても、成形体の黄色度を抑制できる好適な重合体組成物を製造することができる。
【0083】
具体的には、例えば、押出機を用いる押出造粒において、温度を高すぎない適切な温度(例えば190℃以上250℃以下、好ましくは210℃以上220℃以下)に設定するか、または、例えば、押出機内での滞留時間を長すぎない適切な時間に設定することができる。
【0084】
押出機内での滞留時間ごとの重合体組成物の処理量に換算すると、例えば、押出機のスクリュー回転数が60rpm以上100rpm、好ましくは80rpmである場合には、処理量を1kg/Hr以上2.0kg/Hr以下、好ましくは処理量1kg/Hr以上1.5kg/Hr以下に設定するか、または、例えば、後処理において高温(例えば290℃程度)で長く加熱しすぎないようにすればよい。
【0085】
このように押出造粒の条件を適宜選択して設定することによっても、閉環縮合による過剰な無水グルタル酸構造単位の生成を効果的に防止することができる。
結果として、重合体中の無水グルタル酸構造単位の含有量(モル%)を前述した所定の範囲内に調整することができ、成形体の黄色度をより効果的に抑制することができる。
【0086】
上記のとおり、本実施形態の重合体組成物(重合体組成物ビーズ、重合体組成物ペレット)は、既に説明したとおり所定量の化合物(A)を含んでいる。
【0087】
本実施形態の重合体組成物における化合物(A)の含有量を減少させる方向に調整する場合には、上記の製造方法、例えば、懸濁重合法を実施するにあたり、予め、単量体、すなわち化合物(A)を不可避的に含んでいる(メタ)アクリル酸エステルを、例えば、イオン交換樹脂、合成吸着剤、活性炭等に通液して、洗浄することにより、単量体、ひいては製造される重合体組成物中の化合物(A)の含有量を減少させるか、または化合物(A)を不含とする方向に調整することができる。
【0088】
また、本実施形態の重合体組成物における化合物(A)の含有量を減少させる方向に調整するにあたり、例えば重合反応が完了した後の反応液、すなわち重合体組成物を、水等の洗浄液を用いて洗浄することによっても重合体組成物中の化合物(A)の含有量を減少させるか、または化合物(A)を不含とすることができる。
【0089】
本実施形態の重合体組成物における化合物(A)の含有量を増加させる方向に調整する場合には、例えば、上記の製造方法、例えば、懸濁重合法を実施するにあたり、予め、原料(単量体)に対し、所定量の化合物(A)を添加しておくことにより化合物(A)の含有量を調整することができる。
また、本実施形態の重合体組成物における化合物(A)の含有量を増加させる方向に調整するにあたり、例えば重合反応が完了した後の反応液、またはこの反応液を洗浄して得られる重合体組成物に対し、所定量の化合物(A)を添加することによっても化合物(A)の含有量を調整することができる。
【0090】
なお、化合物(A)の含有量を重合反応を実施する前に調整する場合には、既に説明した押出造粒工程や後述する成形体の製造工程により化合物(A)が揮発してその含有量が減少することを考慮して、(メタ)アクリル酸エステルの洗浄を実施すればよい。
【0091】
4.成形体
本実施形態の成形体は、重合体組成物を含有する。すなわち、本実施形態の成形体は、既に説明した重合体組成物を成形した成形体である。本実施形態の成形体は、所望の用途に応じた形状とすることができる。
【0092】
本実施形態の成形体は、従来公知の任意好適な製造方法により製造することができる。本実施形態の成形体は、具体的には、例えば、既に説明した重合体組成物を、目的とする所望の形状に成形できる金型のキャビティ内に充填して、加熱、さらには冷却するなどの工程を実施した後、成形された重合体組成物を金型から取り出すことにより製造することができる。
【0093】
5.光学部材
本実施形態の光学部材は、前述の成形体を含む光学部材である。ここで、光学部材としては、例えば、光学レンズ、導光部材等が挙げられる。光学レンズ、および導光部材の具体例としては、自動車またはオートバイ等の車両灯、街路灯、電気スタンドまたは家庭用一般照明等の点灯器具全般に使用され得る透光性のカバー等が挙げられる。
【0094】
上記のとおり、本実施形態の光学部材は、既に説明した重合体組成物を含む。そのため、本実施形態にかかる重合体組成物、成形体および光学部材によれば、優れた熱安定性、耐熱劣化特性を有しており、さらにはこれらをバランスよく効果的に両立させることができる。
【0095】
より具体的には、例えば、本実施形態の光学部材を、車両灯の光学レンズ(カバー)として適用した場合を想定すると、光源であるLEDランプ等から発生する熱に曝され続けたとしても、光学部材(成形体)の重量減少割合を効果的に低減することができる。
【0096】
ここで、光学部材の特に加熱による重量減少は、主として、光学部材を構成する重合体組成物中に含まれる重合体の分解に起因するものであり、重合減少割合が小さいほど、熱安定性に優れているといえる。
【0097】
重量減少割合(質量%)は、例えば、市場にて入手可能である熱重量測定・示差熱分析装置(例えば、日立ハイテクサイエンス(株)製「TG/DTA7200」)を用いて、加熱処理の前後の重合性組成物、重合性組成物ペレットおよびその成形体(光学部材)の重量を測定して比較することにより算出することができる。
【0098】
加熱処理の条件としては、例えば、空気流量を200mL/分とし、昇温速度を20℃/分とする条件で、まず常温から40℃まで昇温し、次に40℃から300℃まで昇温し、次いで300℃で60分間保持する条件とすることができる。
【0099】
本実施形態の重合性組成物、重合性組成物ペレットおよびその成形体(光学部材)の重量減少割合は、好ましくは43質量%以下であり、より好ましくは42%以下であり、さらに好ましくは41.5%以下である。
【0100】
また、同様に、光源であるLEDランプ等から発生する熱に曝されたとしても、全光線透過率の劣化および黄色度の進行を、効果的に抑制することができる。すなわち、より優れた耐熱劣化特性とすることができる。
【0101】
全光線透過率および黄色度は、例えば、本実施形態の重合体組成物を成形した成形体の端面を鏡面加工した試験片を用いて、市場にて入手可能である分光光度計(例えば、(株)日立ハイテクフィールディング製「日立分光光度計U-4000」)を用いて測定することができる。
【0102】
具体的には、例えば、光路長を50mmとしたときの波長における380nm~780nmの範囲の光線について、120℃で1040時間静置する加熱処理(加速劣化処理)の前後の試験片を用いて、透過率(全光線透過率(以下「Tt(%)」という。)および黄色度(以下「YI(単位なし)」という。)を測定し、処理前(初期)の全光線透過率と処理後の全光線透過率との差(ΔTt(%))および処理前(初期)の黄色度と処理後の黄色度との差(ΔYI(単位なし))を算出することにより評価することができる。
【0103】
本実施形態の重合性組成物、およびその成形体(光学部材)のΔTt(%)は、好ましくは-12.0以上であり、より好ましくは-11.1以上であり、さらに好ましくは-11.0以上であり、またさらに好ましくは-10.8以上である。
【0104】
本実施形態の重合性組成物、重合性組成物ペレットおよびその成形体(光学部材)のΔYIは、好ましくは27.1以下であり、より好ましくは25.0以下であり、さらに好ましくは24.7以下であり、またさらに好ましくは24.0以下であり、よりさらに好ましくは23.4以下である。
【0105】
6.光学部材の製造方法
本実施形態の光学部材は、既に説明した重合体組成物を、例えば、射出成形法により成形して製造することができる。
【0106】
具体的には、本実施形態の光学部材は、既に説明した重合体組成物を成形材料とし、重合体組成物を溶融状態として金型のキャビティ内に射出充填し、次いで冷却した後、成形された成形体を金型から剥離して取り出すことにより製造することができる。
【0107】
より具体的には、本実施形態の光学部材は、例えば、成形材料である重合体組成物ペレットをホッパーからシリンダー内に投入し、スクリューを回転させながら重合体組成物ペレットを溶融させ、スクリューを後退させて、シリンダー内に所定量充填し、スクリューを前進させることにより圧力をかけながら溶融した重合体組成物(ペレット)を金型のキャビティ内に射出充填し、金型が充分に冷めるまで一定時間保圧した後、金型を開いて金型から成形体を剥離して取り出すことにより製造することができる。
【0108】
本実施形態の光学部材を製造する際の諸条件(例えば、成形材料の金型のキャビティ内における溶融温度、成形材料を金型に射出する際の金型温度、重合体組成物を金型に充填した後に保圧する際の圧力等)は、適宜設定することができ、特に限定されない。
【0109】
[実施例]
1.重合体組成物の調製
<実施例1>
攪拌機を備えた5Lオートクレーブ内において、メタクリル酸((株)日本触媒製)1.3質量部と、メタクリル酸メチル(住友化学(株)製)98.7質量部とを混合してモノマー成分100質量部を得た。
【0110】
得られたモノマー成分100質量部に、重合開始剤であるラウリルパーオキサイド(化薬アクゾ(株)製「ラウロックスK」)0.4質量部と、連鎖移動剤である1-ドデシルメルカプタン(花王(株)製「チオカルコール20」)0.45質量部とを添加して、これらをモノマー成分に溶解させたモノマー成分溶液を調製した。
【0111】
上記モノマー成分100質量部を基準として、懸濁安定剤であるヒドロキシエチルセルロース(三昌(株)製「SANHEC H」)0.113質量部をイオン交換水に溶解させて懸濁重合水相150質量部を調製した。
【0112】
上記モノマー成分溶液に、上記懸濁重合水相150質量部を加え、重合温度を80℃とし、攪拌速度を1200rpmとする条件で懸濁重合を行って、スラリー状の反応液を得た。
【0113】
得られたスラリー状の反応液を、40Lのイオン交換水で洗浄し、次いで、脱水機((株)コクサン製「遠心機 H-122」)を用いて脱水する操作を2回繰り返した後、乾燥させることにより、重合体組成物ビーズを得た。
【0114】
得られた重合体組成物ビーズに、4-メトキシフェノール(東京化成工業(株)製「MO123」)を、重合体組成物ビーズの量を100質量部とした場合における0.0002質量部として添加した後、20mmベント付き押出機(東洋精機社製「ME型ラボプラストミル」)を用いて、スクリュー回転数を80rpmとし、重合体組成物ビーズの温度を220℃とし、処理量を1.0kg/時間とする条件で造粒し、実施例1にかかる重合体組成物ペレットを得た。
【0115】
<実施例2~4>
4-メトキシフェノールの添加量を、0.0005質量部(実施例2)、0.0008質量部(実施例3)、および0.001質量部(実施例4)にそれぞれ変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例2~4にかかる重合体組成物ペレットを得た。
【0116】
<比較例1>
重合体組成物ビーズを実施例1と同様にして得た後、得られた重合体組成物ビーズを、4-メトキシフェノールを添加することなく、20mmベント付き押出機(東洋精機社製「ME型ラボプラストミル」)を用いて、スクリュー回転数を80rpmとし、重合体組成物温度を220℃とし、処理量を1.0kg/時間とする条件で造粒し、比較例1にかかる重合体組成物ペレットを得た。
【0117】
<比較例2>
4-メトキシフェノールの添加量を、0.002質量部に変更した以外は、実施例1と同様にして、比較例2にかかる重合体組成物ペレットを得た。
【0118】
2.構造単位の含有量の測定
実施例1~4並びに比較例1および2にかかる重合体組成物に含まれる重合体が含有している各構造単位について、全構造単位の合計含有量に対する含有量(モル%)を測定した。
【0119】
構造体の含有量の測定は、核磁気共鳴装置(Bruker社製「Avance600」(10mmクライオプローブ))を用いて、13C-NMRにより測定した。
【0120】
具体的には、測定溶媒として重クロロホルムを用い、測定温度を27℃とし、インバースゲートプロトンデカップリング法によって測定した。パルス繰り返し時間は20秒とし、積算回数は4000回とし、化学シフト値基準はクロロホルムとした。メタクリル酸メチルに由来する構造単位の含有量は、173.0~180.4ppmのピークの積分値より求めた。メタクリル酸に由来する構造単位の含有量は、180.4~188.0ppmのピークの積分値より求めた。無水グルタル酸構造単位の含有量は、170.0~173.0ppmのピークの積分値より求めた。
【0121】
実施例1~4および比較例1~2で得られた重合体組成物に含まれる重合体は、メタクリル酸メチルに由来する構造単位98.65モル%と、メタクリル酸に由来する構造単位1.2モル%と、無水グルタル酸構造単位0.15モル%とを含む重合体であった。
【0122】
3.重合体組成物ペレット中の4-メトキシフェノール含有量の測定
(検量線の作成)
4-メトキシフェノールを、クロロホルム溶液(内部標準物質であるp-テルフェニルを0.01質量%含む。)に溶解させて、4-メトキシフェノールの含有量が1ppm、5ppm、10ppm、50ppmとなるようにそれぞれ調整された標準液を調製した。
【0123】
調製された標準液に対して、下記のガスクロマトグラフィー質量分析機器を用いた下記の条件(以下「GC-MS条件」という。)により、ガスクロマトグラフィー質量分析測定(以下「GC-MS測定」という。)を行って、4-メトキシフェノールの検量線を作成した。
【0124】
[ガスクロマトグラフィー質量分析機器]
・GC :アジレント製「6890型」
・MS(検出器) :アジレント製「5973N型」(SIMモード)
・カラム :アジレント製「DB-WAXシリーズ」(30m×0.25mm×0.25μm)
[GC-MS条件]
・注入口温度 :240℃
・インターフェース温度:240℃
・キャリアーガス :ヘリウム(1mL/分)
・スプリット比 :20:1
・注入量 :1μL
【0125】
上記実施例1~4および比較例1~2により得られた重合体組成物ペレット0.1gそれぞれを、クロロホルム溶液3mL(内部標準物質であるp-テルフェニルを0.01質量%含む。)に溶解させた後、ヘキサン30mLに滴下することで重合体を析出させた。析出した重合体をろ過して得られたろ液に、40℃の条件で窒素ガスを吹き付けて、3mLまで濃縮した濃縮液に対して、上記のガスクロマトグラフィー質量分析機器を用いた上記のGC-MS条件でGC-MS測定を行い、重合体組成物ペレット中の4-メトキシフェノールの含有量(質量ppm)を測定した。結果を表1に示す。
【0126】
4.重合体組成物ペレットの重量減少割合の評価
上記実施例1~4および比較例1~2により得られた重合体組成物ペレットそれぞれを粉砕した後、粉砕物9.5mgをアルミニウム製パン(日立ハイテクサイエンス(株)製「P/N SSC000E030 Open Sample Pan」、直径5mm)上に設置した後、熱重量測定・示差熱分析装置(日立ハイテクサイエンス(株)製「TG/DTA7200」)を用いて、空気流量を200mL/分とし、昇温速度を20℃/分とする条件で、まず常温から40℃まで昇温し、次に40℃から300℃まで昇温し、次いで300℃で60分間保持する加熱処理を実施した後、重量を測定し、さらには重合体組成物ペレットの重量減少割合(質量%)を算出して熱安定性について評価した。結果を表1に示す。
【0127】
5.成形体の全光線透過率および黄色度の評価
上記実施例1~4および比較例1~2により得られた重合体組成物ペレットそれぞれを80℃、12時間の条件で乾燥した後、プレス成形機((株)神藤金属工業所製「シンドー式ASF型油圧プレス」)を用いて、プレス温度を220℃とする条件でプレス成形して、成形体を得た。次いで、得られた成形体の端面を鏡面加工することにより、平面サイズが50mm角であり、厚さが3mmである光学部材を模した試験片を得た。得られた試験片を用いて、光路長を50mmとしたときの波長380nm~780nmの範囲の光線における透過率(全光線透過率:Tt(%))および黄色度(YI(単位なし))を、分光光度計((株)日立ハイテクフィールディング製「日立分光光度計U-4000」)を用いて測定した。結果を表1に示す。
【0128】
上記試験片を、120℃に設定した恒温器(エスペック(株)製「パーフェクトオーブンPH-101」)内に設置し、1040時間静置する加速劣化処理を実施した。
【0129】
上記加速劣化処理後の試験片について、再度、上記と同様にして、全光線透過率および黄色度を測定し、処理前(初期)の全光線透過率と処理後の全光線透過率との差(ΔTt(%))および処理前(初期)の黄色度と処理後の黄色度との差(ΔYI(単位なし))を算出することにより耐熱劣化特性について評価した。結果を表1に示す。
【0130】
【表1】
【0131】
表1からも明らかなとおり、4-メトキシフェノールの含有量を、重合体組成物(ビーズ)100質量部あたり0.001質量部以下(9質量ppm以下)とした実施例1~4(特に0.0008質量部以下(7質量ppm以下)とした実施例1~3)によれば、4-メトキシフェノールの含有量にかかる本発明の要件を満たさない比較例1および2と比較すると、4-メトキシフェノールを含有しない比較例1と比較すると重量減少割合を効果的に低減することができており、4-メトキシフェノールの含有量がより多い比較例2と比較すると同程度には重量減少割合を低減することができていた。
【0132】
また、全光線透過率の劣化の程度(ΔTt(%))および黄色度の進行の程度(ΔYI)については、4-メトキシフェノールを含有しない比較例1と比較すると同程度には抑制できており、より多く4-メトキシフェノールを含有する比較例2と比較するとより効果的に抑制できていた。
【0133】
結果として、本発明の実施例にかかる重合体組成物によれば、熱安定性と耐熱劣化特性とをバランスよく効果的に両立させることができていた。