(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】Al合金の再生方法
(51)【国際特許分類】
C22B 21/06 20060101AFI20240109BHJP
C22B 7/00 20060101ALI20240109BHJP
C22B 9/10 20060101ALI20240109BHJP
B09B 3/40 20220101ALI20240109BHJP
【FI】
C22B21/06
C22B7/00 A
C22B9/10 101
B09B3/40
(21)【出願番号】P 2020040619
(22)【出願日】2020-03-10
【審査請求日】2023-02-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000241485
【氏名又は名称】豊田通商株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】519016181
【氏名又は名称】豊通スメルティングテクノロジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113664
【氏名又は名称】森岡 正往
(74)【代理人】
【識別番号】110001324
【氏名又は名称】特許業務法人SANSUI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】箕浦 琢真
(72)【発明者】
【氏名】八百川 盾
(72)【発明者】
【氏名】青木 裕子
(72)【発明者】
【氏名】石井 博行
(72)【発明者】
【氏名】加納 彰
(72)【発明者】
【氏名】日下 裕生
(72)【発明者】
【氏名】伊東 享祐
(72)【発明者】
【氏名】村田 知雄
【審査官】岡田 隆介
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-295466(JP,A)
【文献】特開昭55-050442(JP,A)
【文献】特開昭51-006810(JP,A)
【文献】特開昭60-234930(JP,A)
【文献】特表2020-531685(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 7/00
C22B 9/10
C22B 21/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一方がAl合金スクラップまたは再生Al合金鋳塊を含む原料を溶解して調製された第1溶湯と第2溶湯を混合して第3溶湯を得る混合工程と、
該第3溶湯から晶出したFe化合物の少なくとも一部を除去した第4溶湯を抽出する抽出工程と、
を備えたAl合金の再生方法であって、
該第1溶湯は、第2溶湯よりもMn濃度が大きいと共に湯温が高く、
該第2溶湯は、湯温がFe化合物の晶出温度域内にあるAl合金の再生方法。
【請求項2】
前記第1溶湯は、その全体に対するMn濃度が1質量%以上であり、
前記第2溶湯は、その全体に対するMn濃度が1質量%未満である請求項1に記載のAl合金の再生方法。
【請求項3】
前記第1溶湯の湯温は、Fe化合物の晶出上限温度よりも高い請求項1または2に記載のAl合金の再生方法。
【請求項4】
前記第2溶湯の湯温は、α-Alの晶出上限温度よりも高い請求項1~3のいずれかに記載のAl合金の再生方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Al合金スクラップを再生(リサイクル)する方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
最近の環境意識等の高揚に伴い、様々な部材や装置の軽量化が進められており、アルミニウム合金(単に「Al合金」という。)の使用量は増加しつつある。新規なAlの製造(精錬)には多量のエネルギーが必要であるが、Al合金スクラップ(単に「スクラップ」ともいう。)の再溶解に必要なエネルギーは僅かである。このためスクラップの再生または再利用(単に「リサイクル」という。)が望まれる。
【0003】
スクラップを再溶解すると、通常、その溶湯中には、Feが混在する。スクラップから再生Al合金を得るためには、不要元素(不純物元素)の除去が必要となる。そのような元素の除去方法として、関連する記載が下記の文献にある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許第2464610号
【文献】米国特許第5741348号
【文献】特開2002-155322号
【文献】米国特許第4734127号
【文献】WO2013/168213
【文献】WO2013/168214
【非特許文献】
【0005】
【文献】古河電工時報104号(平成11年7月)25-30
【文献】Metallurgical Transactions 5(1974)785-787
【文献】Material Transactions, JIM.38(1997)622-699
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
(1)金属間化合物除去法
特許文献1、2および非特許文献は、Feを金属間化合物として溶湯から除去する方法に関する。具体的にいうと、特許文献1では、Al-(11.6~13.5)%Si-(0.8~9)%Fe合金に対し、Cr、Mn、Coを添加してFe系金属間化合物を晶出させ、溶湯中のFe量を低減させている。
【0007】
特許文献2では、Al-(0~12)%Si-(0.49~2.1)%Fe-(0.37~1.91)%Mn合金(Cr<0.4%、Ti<0.41%、Zr<0.26%、Mo<0.01%)にMnを添加してFe量の低減を図っている。しかし、Mnの使用量に対するFeの除去効率は低い。
【0008】
(2)偏析凝固法、結晶分別法
特許文献3~6、非特許文献1、2は、Al相が晶出した半凝固状態の溶湯から、Al晶出物を残留液相から分離して不純物を低減する偏析凝固法または結晶分別法に関する。ちなみに、非特許文献1では、半凝固溶湯を圧搾して残留液相を除去している。また非特許文献2では、半凝固溶湯を撹拌してAl晶出物を球状化させて、残留液相と分離している。このような方法は、Al相が晶出するまで溶湯を冷却する必要があり、エネルギーロスが大きい。
【0009】
(3)半溶融精製法
非特許文献3は、Al合金(固体)を半溶融状態に加熱して液相と残留Al結晶とに分離し、Al相の固溶限を超える不純物を除去する半溶融精製法に関する。具体的にいうと、非特許文献3では、半溶融状態のAl-8.39%Si-0.06%Mn-0.05%Mg合金を加圧して液相を分離し、残留分からAl-0.96%Si-1.14%Mn-1.56%Mg合金を得ている。この方法では、Feを金属間化合物として除去することが難しい。また、半溶融状態の残留Al結晶量は温度に依存しているため、本方法を利用できる合金組成が限られる。
【0010】
(4)帯溶融法
上述した方法以外にも、Al合金中から不純物を除去する方法として、インゴットを一端側から部分的に加熱・溶融させて、末端側に不純物を集め、加熱を開始した一端側の純度を高める帯溶融法もある。
【0011】
本発明はこのような事情に鑑みて為されたものであり、Mn使用量に対するFe除去量の割合(除去効率)を高めてAl合金スクラップをリサイクルできる新たなAl合金の再生方法等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者はこの課題を解決すべく鋭意研究した結果、Mn濃度と湯温が異なる複数の溶湯を混合することにより、従来よりも除去効率を高めることに成功した。この成果を発展させることにより、以降に述べる本発明を完成するに至った。
【0013】
《Al合金の再生方法》
(1)本発明は、少なくとも一方がAl合金スクラップを含む原料を溶解して調製された第1溶湯と第2溶湯を混合して第3溶湯を得る混合工程と、該第3溶湯から晶出したFe化合物の少なくとも一部を除去した第4溶湯を抽出する抽出工程と、を備えたAl合金の再生方法であって、該第1溶湯は、第2溶湯よりもMn濃度が大きいと共に湯温が高く、該第2溶湯は、湯温がFe化合物の晶出温度域内にあるAl合金の再生方法である。
【0014】
(2)本発明のAl合金の再生方法(単に「再生方法」または「リサイクル方法」という。)によれば、Mn使用量またはMn濃度を全体的に低減させつつ、スクラップを利用した溶湯から、Fe除去またはFe濃度低減が可能となる。換言すると、Mn量に対して除去されるFe量の割合である除去効率(Fe/Mn)を高めることができ、Al合金スクラップの効率的なリサイクル(Al合金の再生)が可能となる。
【0015】
本発明により除去効率が向上した理由は、次のように推察される。第2溶湯は、第1溶湯よりもMn濃度が小さく、その湯温はFe化合物の晶出温度域内にある。このような第2溶湯では、Fe濃度の高いFe化合物(Mnの有無は問わない)が晶出する。
【0016】
このような第2溶湯に、高Mn濃度の第1溶湯が加わると、第2溶湯中のFe化合物が核となって、Mnを含むFe化合物の成長が促進される。この結果、一般的な化学量論比(MnとFeの比率)に沿うFe化合物ではなく、Mnに対してFeが濃化または偏在したFe化合物が新たに生成され得る。その結果、高い除去効率(収率)でスクラップをリサイクルできるようになったと考えられる。
【0017】
《その他》
(1)Feの除去(Fe濃度の低減)がなされた再生Al合金は、固相状態で利用されても、液相状態(例えば第4溶湯のまま)で利用されてもよい。液相状態の再生Al合金は、例えば、再溶解等を行わずに、そのまま再生地金として利用され得る。
【0018】
(2)Fe化合物の組成は、再生過程の進行に伴い変化し得る。Fe化合物は、第3溶湯から分離除去され得る限り(第4溶湯の抽出が可能である限り)、具体的な組成や形態等は問わない。例えば、Fe化合物は、Feを含む金属間化合物、Feを含む合金、それらの混在物でもよい。Fe化合物の一部を構成し得る金属間化合物として、例えば、Al13Fe4、Al15Si2(Fe,Mn)4等があり得る。
【0019】
(3)本明細書でいう濃度や組成等は、特に断らない限り、対象物(溶湯、合金、化合物等)の全体に対する質量割合(質量%)であり、適宜、質量%を単に「%」と記す。
【0020】
(4)特に断らない限り本明細書でいう「x~y」は下限値xおよび上限値yを含む。本明細書に記載した種々の数値または数値範囲に含まれる任意の数値を新たな下限値または上限値として「a~b」のような範囲を新設し得る。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】Fe化合物の晶出温度と、Mn濃度またはFe濃度との関係を示すグラフである。
【
図2】各試料に係る再生方法と、再生溶湯のFe・Mn濃度を示す説明図である。
【
図3A】試料1に係る残渣(Fe化合物)のEPMAによる分析結果である。
【
図3B】試料C1に係る残渣(Fe化合物)のEPMAによる分析結果である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
上述した本発明の構成要素に、本明細書中から任意に選択した一つまたは二つ以上の構成要素を付加し得る。本明細書で説明する内容は、方法的な構成要素であっても物(例えば、再生Al合金(溶湯))に関する構成要素となり得る。
【0023】
《混合工程》
混合工程では、Mn濃度と湯温が異なる第1溶湯と第2溶湯が、少なくとも混合される。便宜上、第1溶湯と第2溶湯を混合する場合について主に説明するが、混合工程は、Mn濃度および/または湯温が異なる3種以上の溶湯(第1溶湯、第2溶湯および他の溶湯)が混合されてもよい。
【0024】
(1)第1溶湯と第2溶湯
第1溶湯と第2溶湯は、少なくとも一方が、スクラップ原料から調製されていれば足る(調製工程)。スクラップ原料は、Al合金スクラップ(単に「スクラップ」という。)を含む原料、再生Al合金鋳塊(Al合金スクラップを原料として製造したAl合金鋳塊)等の一種以上からなる。各溶湯がスクラップ原料をベースに調製されていると、スクラップのリサイクルが促進されてより好ましい。各溶湯の調製に際して、スクラップ原料の異同や調製時期の異同等は問わない。
【0025】
スクラップ原料は、鋳物や展伸材等からなるAl合金の他、異種金属材(Fe基材、Mg基材等)を含んでもよい。また、スクラップ原料は、スクラップ自体に加えて、各溶湯を所望の成分組成とするための調整原料(合金、化合物、純金属等からなる添加材)を含んでもよい。
【0026】
第1溶湯の調製は、Al合金スクラップや添加材等の原料が十分に溶融する温度(例えば、650~930℃さらには680~880℃程度)でなされるとよい。但し、その湯温は、鉄くず等が溶け残る温度でもよい。第2溶湯の調製は、例えば、Al合金スクラップ等の原料が十分に溶解する温度(Fe化合物の晶出上限温度超)にされた後、Fe化合物の晶出温度域に調整(降温)してなされてもよい。いずれにしても第2溶湯は、第1溶湯との混合前に、核となるFe化合物が晶出した状態であると好ましい。
【0027】
第2溶湯は、例えば、その全体に対してMn濃度が1質量%未満、0.7質量%以下さらには0.4質量%以下であるとよい。Mn濃度は、下限値を問わないが、例えば、0.05質量%以上さらには0.1質量%以上でもよい。
【0028】
第1溶湯は、その核のまわりに、Al-Fe-Mn-Si系化合物を成長させるため、例えば、その全体に対してMn濃度が1質量%以上、1.4質量%以上さらには1.7質量%以上であるとよい。そのMn濃度は、上限値を問わないが、例えば、5質量%以下、4質量%以下さらには3質量%以下でもよい。除去効率を高めるため、第1溶湯と第2溶湯のMn濃度差を、例えば、1質量%以上、1.5質量%以上さらには1.8質量%以上としてもよい。
【0029】
Fe化合物の晶出温度域は、溶湯の成分組成により変化し得る。Fe化合物の晶出上限温度(晶出開始温度)とα-Alの晶出上限温度との一例を
図1に示した。
図1は、解析ソフト(Thermo-Calc Software AB社製 Thermo-Calc)を用いてScheil式に基づいて計算した結果である。そのときのAl合金溶湯組成(一例)は、Al-11%Si-2%Cu-(0.5~1.5)%Fe-(0.2~2)%Mn-0.3%Mg-0.8%Znとした。
【0030】
図1からわかるように、Mn濃度およびFe濃度が高いほど、Fe化合物が生成されて晶出温度域が広くなることがわかる。
【0031】
そこで第1溶湯の湯温は、第2溶湯の湯温よりも高いと共に、Mn濃度やFe濃度に応じて、Fe化合物の晶出上限温度よりも高いとよい。具体的にいうと、第1溶湯の湯温は、例えば、700~900℃さらには750~850℃とされるとよい。
【0032】
第2溶湯の湯温は、例えば、核となるFe化合物の晶出温度域内にあるとよい。他の化合物や金属等がその温度域内で晶出等してもよい。但し、リサイクル効率(Al収率)を高めるため、第2溶湯の湯温は、α-Alが晶出しない温度域であるとよい。つまり第2溶湯の湯温は、α-Alの晶出上限温度(約577℃)よりも高いとよい。具体的にいうと、第2溶湯の湯温は、例えば、620~570℃さらには600~575℃とされるとよい。
【0033】
(2)第3溶湯
第3溶湯は、第1溶湯と第2溶湯を混合して得られる。混合は、例えば、第1溶湯を第2溶湯側へ注いでなされてもよいし、第2溶湯を第1溶湯側へ注いでなされてもよいし、第1溶湯と第2溶湯を別な容体(坩堝等)へ注いでなされてもよい。第2溶湯を第1溶湯側または別な容体へ注ぐときは、沈降しているFe化合物の混入を抑制しつつなされてもよい。具体的には、下層域を除いて、第2溶湯の上層域~中層域(上澄み部分)が他へ注がれてもよい。
【0034】
混合後の時間経過や温度変化(降温)により、第3溶湯中でFe化合物の晶出や成長が起こる(晶出工程)。その晶出を促進するために、第3溶湯は、降温、撹拌等がされてもよい。例えば、第3溶湯は、(α-Alの晶出上限温度)+(3~53℃さらには13~33℃)、具体的にいうと、580~630℃さらには590~610℃とされるとよい。なお、晶出工程の時間は問わないが、例えば、5~120分間さらには15~60分間であるとよい。
【0035】
《抽出工程》
第3溶湯中に晶出したFe化合物の少なくとも一部を除去することにより、Fe濃度が低減された第4溶湯が抽出される。比重が大きいFe化合物は第3溶湯の下層域に沈降し易いため、第4溶湯の抽出は、例えば、第3溶湯の中層域~上層域にある溶湯(Feの濃度が低下した上澄み溶湯)だけを取り出してなされる。その他、固相であるFe化合物をフィルター等で濾して、第3溶湯から第4溶湯が抽出されてもよい。
【0036】
Fe化合物以外の未溶解物(例えば鉄くず等)の除去は、第3溶湯の調製段階(混合工程)でなされてもよいし、第4溶湯の抽出段階でなされてもよい。
【0037】
抽出された第4溶湯は、凝固させることなく、そのまま展伸材や鋳物等の製造に供されてもよい。第4溶湯は、再利用前(リサイクル前)に、さらに精製されたり、純Al(新塊)や合金源が添加されて、所望成分に調整されてもよい(成分調整工程)。勿論、第4溶湯は、凝固させた再生鋳塊(インゴット)として提供されてもよい。
【0038】
各溶湯の組成は、本発明に係るFeの除去原理(メカニズム)が実現され得る限り、問わない。敢えて一例をいうと、各溶湯は、Al合金部材の所望特性等に応じて、下記に示す組成範囲のいずれか一つ以上を満たしてもよい。
Si:1~13%さらに3~12%、Cu:0.5~5%さらに1.5~4%、
Mg:0.1~6%さらに0.2~4%、Zn:0.3~7%さらに0.6~5%、
Mn:0.1~5%さらに0.3~3%、Fe:0.5%以下さらに0.4%以下
【実施例】
【0039】
Feの除去方法(再生方法)を変更して調製した各Al合金溶湯(試料)について、その成分測定と分離されたFe化合物の観察を行った。これらの具体例に基づいて本発明をより詳しく説明する。
【0040】
《試料1》
(1)原溶湯
図2に示すように、Al合金スクラップの代替として、Fe含有量(濃度)が比較的多いダイカスト材(JIS ADC12)を原料に用いた。その化学組成(初期組成)は、Al-11%Si-2%Cu-1%Fe-0.2%Mn-0.3%Mg-0.8%Znであった。なお、本実施例でいう組成(濃度)は、対象としている溶湯または合金の全体に対する質量割合(質量%)であり、単に「%」で示す。
【0041】
試料1では、二つの黒鉛坩堝(#10:高さ182mm×口径147mm×底径94mm、口厚12mm)に、それぞれ原料を1kgずつ入れて、800℃まで加熱した。こうして、各黒鉛坩堝(単に「坩堝」という。)に、同組成の溶湯(「原溶湯」という。)を1kgずつ用意した。ちなみに、原溶湯のFe化合物の晶出上限温度は591℃となる。なお、本実施例で示す晶出温度はいずれも、既述した解析ソフト(熱力学計算ソフト)から求めた。
【0042】
(2)調製工程
一方の原溶湯に、粒状の純Mnを16.2g添加して、撹拌と静置を繰返し、Mnを含む原料全体(スクラップ原料)を完全に溶解した。こうしてMn濃度を2%とした溶湯(800℃)を調製した。この溶湯を「第1溶湯」という。ちなみに、第1溶湯のFe化合物の晶出上限温度は676℃となる。
【0043】
他方の原溶湯は、Mnを添加せず、坩堝ごと炉外へ取り出し、大気中に静置して578℃(α-Alの晶出上限温度(577℃)+1℃)まで放冷させた(降温工程)。こうして得られた溶湯を「第2溶湯」という。第2溶湯は、その降温処理により、Fe化合物が微細に晶出した状態またはその一部が沈降した状態になっていたと推察される。第2溶湯は原溶湯と同組成なため、第2溶湯のFe化合物の晶出上限温度も591℃である。
【0044】
(3)混合工程
炉外に取り出した第1溶湯の坩堝を傾動させて、第1溶湯を第2溶湯の坩堝へ注いだ。こうして第1溶湯と第2溶湯を混合した。混合された溶湯(「混合溶湯」という。)の湯温は約640℃であった。
【0045】
(4)晶出工程
混合溶湯を大気中で撹拌しながら600℃(α-Alの晶出上限温度(577℃)+ 23℃)まで放冷させた。こうして得られた溶湯を「第3溶湯」という。撹拌されつつ降温された第3溶湯は、Fe化合物の晶出と成長が進行し、Fe化合物の多くが沈降した状態になっていたと推察される。ちなみに、第3溶湯のFe化合物の晶出上限温度は636℃となる。
【0046】
(5)抽出工程
第3溶湯を坩堝ごと傾動させて、その上層域にある溶湯(上澄み)だけを空の坩堝に注いだ。こうしてAl合金の再生溶湯(第4溶湯)を得た。
【0047】
《試料C1・試料C2》
比較例として、
図2に示すように、試料C1と試料C2も製作した。いずれの試料も、一つの坩堝で2kgの原料を800℃まで加熱して、原溶湯を用意した。試料C1では、原溶湯に既述のMnを16.2g添加して、Mn濃度が1%の溶湯を調製した。試料C2では、原溶湯に同Mnを36.7g添加し、Mn濃度が2%の溶湯を調製した。なお、いずれの試料でも、試料1の場合と同様に、撹拌と静置を繰返して、Mnを含む原料を完全に溶解させた。
【0048】
Mnを添加した各溶湯に対しても、試料1の場合と同様な晶出工程と抽出工程を施して、それぞれ再生溶湯を得た。
【0049】
《測定・観察》
(1)成分測定
各試料の再生溶湯(上澄み溶湯)を、750℃まで再加熱し、十分に撹拌した後、その一部を分析用型(φ40mm×30mm)に注湯し、室内で放冷して自然凝固させた。こうして得られた各試料の合金を用いて、その底面から高さ約5mmの水平断面における濃度を蛍光X線分析により行った。得られたそれぞれのFe濃度とMn濃度を、
図2に併せて示した。
【0050】
(2)Fe化合物の観察
試料1と試料C1について、上澄み溶湯の抽出後の底部(試料1なら第3溶湯の底部)にあった残渣(凝固物)を、電子プローブマイクロアナライザー(EPMA)で観察・分析した。得られた結果(Fe、Mn、SiおよびAlの濃度分布)を、
図3Aと
図3B(両者を併せて単に「
図3」という。)にそれぞれ示した。なお、EPMAの観察試料は、熱硬化性樹脂に埋め込んだ凝固物の一部を鏡面研磨して製作した。
【0051】
《評価》
(1)Fe濃度
図2に示した試料1~C2の各Fe濃度を比較すると明らかなように、試料1のFe濃度は、Mn添加量が同じ試料C1のFe濃度とMn添加量が約2倍である試料C2のFe濃度との略中間となった。これらのことから、Mn濃度と湯温が異なる二つの溶湯を混合すると、Mnの使用量に対するFeの除去量(除去効率)を大幅に向上させ得ることがわかった。具体的にいうと、混合工程により、除去効率が25~75%程度向上することがわかった。
【0052】
(2)Fe化合物
図3に示したAl-Fe-Mn-Si系の化合物(Fe化合物)を比較すると明らかなように、試料1のFe化合物は、中央付近に、Fe濃度が高くてMn濃度が低い部分が生成されていた。一方、試料C1のFe化合物は、Fe濃度とMn濃度が略均一的であった。
【0053】
試料1のFe化合物は、混合工程前に核となる第1Fe化合物(高Fe濃度で低Mn濃度な化合物)が晶出した後、混合工程後にその核の周囲に第2Fe化合物(Fe濃度とMn濃度が略均一的な化合物)が成長してできたと考えられる。そして、第1Fe化合物の生成が上述した除去効率の向上に寄与したと推察される。
【0054】
以上のことから、本発明の再生方法によれば、Mn量を抑制しつつFeを除去でき、Al合金スクラップのリサイクルを効率的に行えることが明らかとなった。