(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】走路境界決定装置および走路境界決定方法
(51)【国際特許分類】
G08G 1/16 20060101AFI20240109BHJP
G01S 17/89 20200101ALI20240109BHJP
【FI】
G08G1/16 C
G01S17/89
(21)【出願番号】P 2020049687
(22)【出願日】2020-03-19
【審査請求日】2022-04-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100105924
【氏名又は名称】森下 賢樹
(74)【代理人】
【識別番号】100109047
【氏名又は名称】村田 雄祐
(74)【代理人】
【識別番号】100109081
【氏名又は名称】三木 友由
(72)【発明者】
【氏名】通山 恭一
(72)【発明者】
【氏名】鎌田 実
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 太久磨
(72)【発明者】
【氏名】古瀬 航
【審査官】西畑 智道
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-036981(JP,A)
【文献】特開2016-218539(JP,A)
【文献】特開2017-033366(JP,A)
【文献】特開2020-134367(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00-99/00
G01C 21/00-21/36
G01C 23/00-25/00
G01S 17/89
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に設けられた光測距装置が車両の進行方向の路面を含む対象物を車両の進行方向に交差する方向にレーザ光を走査して得られた、対象物の車両からの距離および方向を示す複数の測定情報を取得する取得部と、
前記取得部により取得された複数の測定情報にもとづいて路面の横断勾配を示す線分を導出する導出部と、
前記導出部により導出された横断勾配を示す線分をもとに変化点を算出し、算出された複数の変化点のうち任意の2点を複数抽出してその2点から生成した複数の仮候補直線を評価して前記車両の走路の境界ラインを決定する決定部と、を備え
、
前記決定部によって生成される前記仮候補直線は、前記任意の2点から生成されたものであって走路の左側または右側の境界ラインの一方に対応する第1仮候補直線と、前記第1仮候補直線に平行であって走路の左側および右側の境界ラインの中間のラインに対応する第2仮候補直線と、前記第1仮候補直線に平行であって走路の左側または右側の境界ラインの他方に対応する第3仮候補直線と、を含み、
前記決定部は、前記第1仮候補直線、前記第2仮候補直線および前記第3仮候補直線を複数生成し、前記第1仮候補直線、前記第2仮候補直線および前記第3仮候補直線をそれぞれ評価して、走路の左側および右側の境界ラインと中間のラインとを決定することを特徴とする走路境界決定装置。
【請求項2】
前記導出部は、前記取得部により取得された複数の測定情報を、直線状の領域内に位置するグループに分類することで、横断勾配を示す線分を導出することを特徴とする請求項1に記載の走路境界決定装置。
【請求項3】
前記決定部は、走路の道幅情報を用いて前記第1仮候補直線に平行な前記第2仮候補直線および前記第3仮候補直線を生成することを特徴とする請求項1に記載の走路境界決定装置。
【請求項4】
各ステップをコンピュータによって実行する走路境界決定方法であって、
取得部は、車両に設けられた光測距装置が車両の進行方向の路面を含む対象物を車両の進行方向に交差する方向に走査することで得られた、対象物の車両からの距離および方向を示す複数の測定情報を取得するステップと、
導出部は、取得された複数の測定情報にもとづいて路面の横断勾配を示す線分を導出するステップと、
決定部は、導出された横断勾配を示す線分をもとに変化点を算出し、算出された複数の変化点のうち任意の2点を複数抽出してその2点から生成した複数の仮候補直線を評価して前記車両の走路の境界ラインを決定するステップと、を含
み、
前記決定部によって生成される前記仮候補直線は、前記任意の2点から生成されたものであって走路の左側または右側の境界ラインの一方に対応する第1仮候補直線と、前記第1仮候補直線に平行であって走路の左側および右側の境界ラインの中間のラインに対応する第2仮候補直線と、前記第1仮候補直線に平行であって走路の左側または右側の境界ラインの他方に対応する第3仮候補直線と、を含み、
境界ラインを決定するステップにおいて、前記決定部は、前記第1仮候補直線、前記第2仮候補直線および前記第3仮候補直線を複数生成し、前記第1仮候補直線、前記第2仮候補直線および前記第3仮候補直線をそれぞれ評価して、走路の左側および右側の境界ラインと中間のラインとを決定することを特徴とする走路境界決定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両が走行する走路の境界を決定するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、車両に搭載されたカメラが複数の白線を検出し、複数の白線を走路特徴点として走路境界を検出する走路検出装置が開示されている。この走路検出装置は、検出される毎に複数の走路特徴点を重ね合わせて連続させることで、平行な複数本の走路形状を推定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の技術は、走路形状を推定するために道路上の白線を用いるが、住宅街などにある生活道路などでは白線がないことがあり、白線がない道路では走路形状を推定することが困難になる。
【0005】
本発明の目的は、白線などの路面標識がない道路で走路境界を決定できる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の走路境界決定装置は、車両に設けられた光測距装置が車両の進行方向の路面を含む対象物を車両の進行方向に交差する方向にレーザ光を走査して得られた、対象物の車両からの距離および方向を示す複数の測定情報を取得する取得部と、取得部により取得された複数の測定情報にもとづいて路面の横断勾配を示す線分を導出する導出部と、導出部により導出された横断勾配を示す線分をもとに変化点を算出し、算出された複数の変化点のうち任意の2点を複数抽出してその2点から生成した複数の仮候補直線を評価して車両の走路の境界ラインを決定する決定部と、を備える。決定部によって生成される仮候補直線は、前記任意の2点から生成されたものであって走路の左側または右側の境界ラインの一方に対応する第1仮候補直線と、第1仮候補直線に平行であって走路の左側および右側の境界ラインの中間のラインに対応する第2仮候補直線と、第1仮候補直線に平行であって走路の左側または右側の境界ラインの他方に対応する第3仮候補直線と、を含む。決定部は、第1仮候補直線、第2仮候補直線および第3仮候補直線を複数生成し、第1仮候補直線、第2仮候補直線および第3仮候補直線をそれぞれ評価して、走路の左側および右側の境界ラインと中間のラインとを決定する。
【0007】
本発明の別の態様は、各ステップをコンピュータによって実行する走路境界決定方法である。この方法は、取得部は、車両に設けられた光測距装置が車両の進行方向の路面を含む対象物を車両の進行方向に交差する方向に走査することで得られた、対象物の車両からの距離および方向を示す複数の測定情報を取得するステップと、導出部は、取得された複数の測定情報にもとづいて路面の横断勾配を示す線分を導出するステップと、決定部は、導出された横断勾配を示す線分をもとに変化点を算出し、算出された複数の変化点のうち任意の2点を複数抽出してその2点から生成した複数の仮候補直線を評価して車両の走路の境界ラインを決定するステップと、を含む。決定部によって生成される仮候補直線は、前記任意の2点から生成されたものであって走路の左側または右側の境界ラインの一方に対応する第1仮候補直線と、第1仮候補直線に平行であって走路の左側および右側の境界ラインの中間のラインに対応する第2仮候補直線と、第1仮候補直線に平行であって走路の左側または右側の境界ラインの他方に対応する第3仮候補直線と、を含む。境界ラインを決定するステップにおいて、決定部は、第1仮候補直線、第2仮候補直線および第3仮候補直線を複数生成し、第1仮候補直線、第2仮候補直線および第3仮候補直線をそれぞれ評価して、走路の左側および右側の境界ラインと中間のラインとを決定する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、白線などの路面標識がない道路で走路境界を決定できる技術を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施例の走路境界決定システムの概要について説明するための図である。
【
図3】
図2に示す走路の線分での断面を示す図である。
【
図4】実施例の走路境界決定システムの機能ブロックを示す。
【
図5】光測距装置の測定情報について説明するための図である。
【
図6】直線状の導出線分を導出するフローチャートである。
【
図7】走路境界ラインおよび中間ラインを決定する処理について説明するための図である。
【
図8】走路境界ラインおよび中間ラインを決定する処理について説明するための図であり、
図7(c)からの続きを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
図1は、実施例の走路境界決定システム1の概要について説明するための図である。走路境界決定システム1は、車両2に搭載され、自動運転制御に用いられる走路境界ラインを決定する。走路境界決定システム1は、走路境界決定装置10、光測距装置12および車載センサ14を備え、自動運転制御装置16に走路境界ラインに関する情報を送出する。
【0011】
光測距装置12は、車両2の進行方向にある路面や障害物などの対象物をレーザ光で走査し、対象物の車両に対する位置を検出する。光測距装置12は、例えばLIDAR(light detection and ranging)である。光測距装置12は、測定範囲にある対象物に対して照射光を照射し、照射光の照射に応じた対象物からの反射光を受光し、受光状態に応じた信号をもとに対象物までの距離を測定する。対象物までの距離は、照射光を照射した時刻と反射光を受光した時刻により算出される。対象物の方向は、照射光を照射した方向によって定まる。このように、光測距装置12は、車両2の進行方向の路面を含む対象物に対して照射することで、車両からの対象物の距離および方向を測定する。
【0012】
光測距装置12は、車両2前方の例えば180度の範囲を走査して対象物の距離および方向を測定する。つまり、光測距装置12は、車両2の進行方向の路面を含む対象物を車両2の進行方向に交差する方向に走査して、180度の範囲にある対象物の距離および方向を測定し、複数の測定情報を得る。
【0013】
光測距装置12は、車両前端側の下部に設けられ、例えば車両のフロントグリルから前方に露出するように設けられる。このように光測距装置12は路面を測定しやすい位置に設けられる。光測距装置12は、車両2から5メートルから10メートルほど離れた位置にある路面を走査する。
【0014】
なお、実施例では光測距装置12の照射光源が単層である態様を示すが、この態様に限られず複数層であってよい。上下に複数層の照射光源を有する光測距装置12では、車両から近い路面と遠い路面を走査できる。
【0015】
車載センサ14は、慣性計測装置、GNSS(Global Navigation Satellite System)装置、車載カメラ、車速センサ、舵角センサなどを含み、車両2の走行状態および走行環境を検出する。慣性計測装置は、3次元の角速度および加速度を検出する。GNSS装置は、車両2の位置情報を検出する。
【0016】
車載カメラは、車両周辺を撮像し、車外の撮像画像を取得する。車速センサは、車速を検出し、車速情報を取得する。舵角センサは、車両の転舵角度を検出し、舵角情報を取得する。車載センサ14の検出結果は、走路境界決定装置10や自動運転制御装置16に送出される。
【0017】
走路境界決定装置10は、光測距装置12および車載センサ14の検出結果をもとに一対の走路境界ラインを決定し、自動運転制御装置16に送出する。自動運転制御装置16は、走路境界決定装置10から受け取った一対の走路境界ラインからはみ出ないように車両2の自動運転制御を実行する。
【0018】
図2は、車両2が走行する実空間の例を示す。
図2では、車載カメラにより進行方向を撮像した画像が示され、撮像画像には車線を有しない走路36が含まれている。白線などの車線を有しない走路36は、住宅街などの生活道路に多く存在する。走路36の両側縁が左走路境界ライン32aおよび右走路境界ライン32b(これらを区別しない場合「走路境界ライン32」)である。
【0019】
走路境界ライン32は、車線がない走路36で、車載カメラの撮像画像を用いた画像処理によって抽出し難い。また、左走路境界ライン32aの左側には障害物のない駐車場38が広がっており、右走路境界ライン32bには住宅の境界壁42が設けられている。左走路境界ライン32aは、壁や縁石などの障害物がないため、ミリ波レーダや超音波センサなどによって抽出し難い。
【0020】
図3は、
図2に示す走路36の線分34での断面を示す。なお、
図3では走路36および駐車場38の横断勾配を
図2より急にして示す。舗装された走路36は、水はけのため、中間ライン40を頂点として走路境界ライン32に向かって傾斜し、その横断勾配は水平に対して1.5度から2度程度に設定されている。走路36の左走路36aは、中間ライン40から左走路境界ライン32aに向かって下るように傾斜し、右走路36bは、中間ライン40から右走路境界ライン32bに向かって下るように傾斜する。また、駐車場38も、水はけのため左走路境界ライン32aに向かって下るように傾斜する。
【0021】
実施例の走路境界決定システム1では、走路36の横断勾配を光測距装置12により測定し、走路境界決定装置10により解析して、走路36の横断勾配をもとに走路境界ライン32を決定する。これにより、車線が描かれておらず、境界となる壁や縁石がない走路36の走路境界ライン32を精度良く抽出することができる。
【0022】
図4は、実施例の走路境界決定システム1の機能ブロックを示す。走路境界決定システム1の各機能は、ハードウェア的には、回路ブロック、メモリ、その他のLSIで構成することができ、ソフトウェア的には、メモリにロードされたシステムソフトウェアやアプリケーションプログラムなどによって実現される。したがって走路境界決定システム1の各機能はハードウェアのみ、ソフトウェアのみ、またはそれらの組合せによっていろいろな形で実現できることは当業者には理解されるところであり、いずれかに限定されるものではない。
【0023】
走路境界決定装置10は、取得部20、座標変換部22、導出部24、記憶部26、走行状態算出部28および決定部30を備える。
【0024】
取得部20は、光測距装置12から対象物の位置を示す測定情報を取得し、車載センサ14から走行状態および走行環境に関する情報を取得する。取得部20は、車両2に設けられた光測距装置12から測定情報を周期的に取得する。例えば、光測距装置12が180度の範囲を走査するごとに、取得部20は、走査範囲での測定情報を取得する。
【0025】
図5は、光測距装置12の測定情報について説明するための図である。
図5(a)は、測定対象物の断面を示し、
図5(b)は、
図5(a)に示す測定対象物を走査したことで得られた複数の測定情報をプロットした図を示す。
【0026】
図5(a)に示す測定対象物は、
図2に示す線分34の断面に対応する。
図5(a)の縦軸は高さhを示す。
図5(b)では、左から順に、バンク39、左走路36a、右走路36bおよび境界壁42を走査した結果が示されており、点群が形成されている。車両2が左走路36aを走行しているため、右走路36bとの距離は遠くなる。
【0027】
走路36の路面は隆起する頂点40aに向かって車両2に近くなるため、走路36全ての測定結果は1つの直線に沿うようにはならず、頂点40aで窪んだ形状になる。境界壁42の測定結果は、車両前後方向に沿った直線状になる。バンク39の測定結果は、バンク39の勾配によって傾斜した直線状になる。このように、進行方向に交差する方向に走査した測定結果は、略M字形状を示す。
【0028】
実施例の走路境界決定装置10は、複数の測定情報から走路36の路面の横断勾配を示す左走路線分44aおよび右走路線分44bを導出し、走路境界ライン32を決定することが可能である。また、走路境界決定装置10は、走路36の外側にある左外側線分46および右外側線分48を導出し、これらの導出線分の変化点をもとに走路境界ライン32を決定することが可能である。
【0029】
導出部24は、複数の測定情報にもとづいて路面の横断勾配を示す線分44a,44bと、走路36の外側の線分46,48を導出する。つまり、
図5(b)に示す複数の測定情報である点群から直線状の導出線分を抽出する。導出部24は、線分導出のためにRANSAC(Random Sample Consensus)の手法を改良して用いる。RANSACは外れ値の影響をできる限り除去してパラメータを推定するロバスト推定法の一種である。なお、点群から線分を導出する手法は、改良したRANSACの手法に限定されず、例えばハフ変換の手法を用いてもよい。
【0030】
図6は、直線状の導出線分を導出するフローチャートである。導出部24は、複数の測定情報の中からいずれか2点を無作為に抽出し(S10)、抽出した2点を通る仮直線(y=ax+b)を求める(S12)。
【0031】
導出部24は、仮直線との距離が所定の閾値以下に位置する近傍点を求める(S14)。所定の閾値は、例えば0.8メートルに設定される。これにより、直線から所定の閾値以上に外れた点(測定情報)を除くことができる。なお、導出部24は、近傍点の数が所定の個数以上の仮直線を求めてよく、近傍点の数が少ない仮直線は破棄して、新たな仮直線を求めてよい。
【0032】
導出部24は、「他のある近傍点とのユークリッド距離が所定距離以内である」という条件を満たす近傍点をひとつのグループとしてクラスタリングを行う(S16)。所定距離は、例えば1メートルに設定され、歩行者や電柱などを除くことができる。つまり、測定情報がグループに属するためには、仮直線により形成される直線状の領域内に位置し、かつグループ内のいずれかの測定情報と所定距離内にあるという条件を満たすことになる。仮直線により形成される直線状の領域は、所定の閾値の2倍の幅である。グループに含まれた近傍点は、同じグループのいずれかの近傍点に対して所定距離以内にある。これにより、複数の測定情報をクラスタリングし、所定距離内に連なっている集合に分類できる。
【0033】
導出部24は、クラスタリングによって分けられた近傍点のグループのうち、近傍点の数が多いグループを1つまたは複数抽出する(S18)。導出部24は、抽出したグループの近傍点と仮直線とにもとづいて、導出線分の候補となる候補線分を決定する(S20)。具体的には、グループの両端に位置する近傍点から仮直線に垂線をそれぞれ伸ばし、垂線と仮線分との交点を結ぶ線分を候補線分として決定する。つまり、導出部24はクラスタリングしたグループの長さおよび位置に応じた線分を仮直線から抽出する。
【0034】
導出部24は、所定数以上の候補線分を決定したか判定する(S22)。なお、導出部24は、S22において、S10からS20までの処理を所定回数以上実行したか判定してもよい。所定数以上の候補線分が決定されていない場合(S22のN)、導出部24は、S10からS20までの処理を繰り返す。所定数以上の候補線分が決定された場合(S22のY)、導出部24は、複数の候補線分のうち、近傍点の数が最も多いグループの候補線分を求め(S24)、その候補線分の近傍点の数が所定値以上であるか判定する(S26)。所定値は、例えば5であるが、その数には限定されないが、数を多くすると、横幅が短い対象物が除かれる。そのため、所定値は、電柱や歩行者を線分として導出しないような数値に設定される。導出部24はS24において近傍点の数が多い順に複数の候補線分を求めてもよい。
【0035】
候補線分の近傍点の数が所定値以上である場合(S26のY)、導出部24は、候補線分が導出線分であると決定する(S28)。導出部24は、導出線分に対応する近傍点を今回の処理から削除し(S30)、S10の処理に戻って別の導出線分を見付け出す処理を繰り返す。候補線分の近傍点の数が所定値以上でない場合(S26のN)、残っている測定情報から導出線分を導出できないため本処理を終える。
【0036】
以上のように、導出部24は、仮直線を基準とした直線状の領域内に位置する測定情報をクラスタリングしてグループに分類する。導出部24は、そのグループに含まれる測定情報の数が所定値以上に多ければ、そのグループを形成する直線状の領域の中心線分を導出線分とする。これにより、導出部24は、左走路線分44aや右走路線分44bなどを区別し、測定情報の点群のばらつきや外れ値の影響を抑えた導出線分を導出できる。
【0037】
図4に戻る。記憶部26は、過去の測定情報等を保持する履歴保持部26aと、地図情報を保持する地図情報保持部26bとを有する。履歴保持部26aは、過去の演算処理で得られた走路境界ライン32の座標情報と、中間ライン40の座標情報とを保持する。地図情報には、走路36の幅、走路36の屈曲度合いを示す情報を含んでよい。
【0038】
走行状態算出部28は、車載センサ14の検出結果をもとに走行状態情報を算出する。走行状態情報は、車両2の位置情報を含む。走行状態算出部28は、慣性航法による自己位置推定方法をもちいて車両2の移動量を算出する。走行状態算出部28は、慣性計測装置および車速センサなどの検出結果をもとに、前回算出時からの車両移動量およびヨー方向の車両回転量を算出し、車速センサおよび舵角センサの検出結果をもとに横滑り角を算出し、車両移動量、車両回転量および横滑り角と、前回算出時の位置情報とをもとに実空間に対応する座標上での車両2の移動量を算出する。
【0039】
座標変換部22は、走行状態算出部28により算出された車両2の移動量をもとに、履歴保持部26aに保持される過去の測定情報を実空間に対応する座標上の数値に変換する。これにより、過去の測定情報と今回の測定情報との整合性を図り、過去の測定情報を今回の測定情報に重ねることができる。
【0040】
決定部30は、導出部24により導出された横断勾配を示す線分44a,44bをもとに走路境界ライン32を決定する。この決定部30による走路境界ライン決定処理について具体的に説明する。
【0041】
決定部30は、中間ライン40に対する車両2の位置を推定し、中間ライン40と車両2の前後方向との関係を算出し、走路36の左領域および右領域を算出する。次に、決定部30は、導出された導出線分のうち、中間ライン40に沿う線分を抽出する。これにより、
図5(b)に示す右外側線分48が抽出される。中間ライン40に沿う線分は、走路境界ライン32に沿う線分であるともいえる。
【0042】
決定部30は、左走路線分44aおよび左外側線分46の交点、左走路線分44aおよび右走路線分44bの交点、右走路線分44bおよび右外側線分48の交点を境界候補点であると決定する。この交点が、横断勾配を示す線分44a,44bにもとづいて導出された変化点であり、
図5(b)に示す一連の測定結果をつなげた線分が屈曲する箇所である。なお、境界候補点を決定する際に、導出線分同士の交差角度が所定角度以上であることを条件にしてもよい。
【0043】
左走路線分44aおよび左外側線分46の交点は、両方の線分の端部から略1メートル延長した線分が交差した部分であってよい。右走路線分44bおよび右外側線分48の交点も同様である。略1メートルの延長線を変化点に含めることで、線分同士の交点が歩行者や電柱によって測定できない場合を回避できる。
【0044】
決定部30は、導出線分同士が車両2から離れる方向に突出するように交差することを判定して、走路境界ライン32の境界候補点を見付け出す。
図5(b)に示す左走路線分44aおよび左外側線分46、もしくは右走路線分44bおよび右外側線分48は、車両2から離れる方向に突出するように交差しているため、走路境界ライン32の境界候補点となる。決定部30は、横断勾配を示す線分44a,44bにもとづいて導出された変化点を見付け出し、変化点にもとづいて走路境界ライン32を決定することができる。
【0045】
決定部30は、左走路線分44aおよび右走路線分44bの交点を中間ライン40の境界候補点とする。また、決定部30は、横断勾配を示す線分44a,44bの交点であり、車両2に向かって突出するように交差している点を中間ライン40の境界候補点としてよい。中間ライン40を求めることで、駐車車両や対向車両によって一方の走路境界ライン32が測定できていなくても、走路境界ライン32を精度良く推定することができる。
【0046】
決定部30は、走路境界ライン32および中間ライン40の境界点候補を前回の走路境界ライン32を決定する処理で用いた候補点に重ねて、新たな走路境界ライン32および新たな中間ライン40を決定する。決定部30は、横断勾配を示す線分44a,44bから導出された変化点にもとづいて一対の走路境界ライン32の間の中間ライン40を決定することができる。
【0047】
図7は、走路境界ライン32および中間ライン40を決定する処理について説明するための図である。
図7(a)は走路境界ライン32の決定に最終的に用いた複数の測定情報をプロットした図である。つまり、蓄積された境界候補点を示す。中間ライン40の境界候補点は、左右の境界候補点よりばらつきが大きくなる。蓄積された境界候補点は、左走路境界ライン32a、右走路境界ライン32b、中間ライン40のそれぞれの候補点であることが区別されている。
【0048】
図7(b)は過去の車両2の位置から車両2が進行した状態を示す。車両2は、走路36の中間ライン40から斜め左前方へ移動する。
図7(c)は車両2が進行位置にて光測距装置12により走路36を走査し、新たな境界候補点50および境界候補点52を重ねた状態を示す。
【0049】
図8は、走路境界ライン32および中間ライン40を決定する処理について説明するための図であり、
図7(c)からの続きを示す。
図8(a)において、決定部30は、車両2後部が所定距離54以上の位置に削除ライン55を設定し、削除ライン55より後方の境界候補点を削除する。これにより、古い測定情報を削除できる。
【0050】
決定部30は、これらの境界候補点をもとに、RANSACの手法を改良した手法で走路境界ライン32および中間ライン40を決定する。なお、決定部30は、車両2が左折または右折をしてから所定距離以上走行したことを開始条件とする。
【0051】
図8(b)において、決定部30は、走路境界ライン32の境界候補点のうち、無作為に抽出した2点である第1抽出点56および第2抽出点58を定め、第1抽出点56および第2抽出点58を通る第1仮候補直線60aを求める。決定部30は、右走路境界ライン32bより境界候補点の数が多い左走路境界ライン32aから決定処理を開始する。
【0052】
次に、決定部30は、走路36の道幅情報を用いて第1仮候補直線60aに平行な第2仮候補直線60bおよび第3仮候補直線60cを設定する。走路36の道幅情報は、記憶部26の地図情報保持部26bから取得してよく、他の車載センサ14の検出結果から取得してよい。第2仮候補直線60bは中間ライン40に対応し、第3仮候補直線60cは右走路境界ライン32bに対応する。
【0053】
次に、決定部30は、評価関数である下記式(1)を用いて第1仮候補直線60a、第2仮候補直線60bおよび第3仮候補直線60cを評価する。評価関数は、下記式(1)に示すように評価値Eを、走路境界ライン32および中間ライン40毎に算出する。
【数1】
式(1)に示すω
iは各候補点の重みであり、最新の候補点の重みωは1であり、重みωは測定周期が古くなるごとに所定の減少率で減少する。式(1)に示すd
iは仮候補直線と各候補点との距離であり、Wは定数であり、0.5メートルから1メートルの間のいずれかの値に設定される。
【0054】
式(1)の評価関数は、各候補点の重みω
iと仮候補直線との距離d
iから求められる各候補点の評価値の和を算出する。
図8(c)に示すように、決定部30は、評価関数による評価値Eが所定値以上に高くなる、または最も高くなる左走路境界ライン32a、右走路境界ライン32bおよび中間ライン40を決定する。決定された各ラインの候補点は、ライン毎に区別されて記憶部26の履歴保持部26aに記憶される。
【0055】
このように、決定部30は、左走路境界ライン32aまたは右走路境界ライン32bの一方に仮候補直線を生成し、平行な仮候補直線を他のラインにも生成し、仮候補直線をそれぞれ評価して、評価値が最も高くなる仮候補直線を走路境界ライン32および中間ライン40に決定する。
【0056】
一対の走路境界ライン32と中間ライン40を同じ仮候補直線から決定することで、候補点が少ないラインも精度良く決定できる。また、候補点の数が多い一対の走路境界ライン32を基準に仮候補直線を定めることで、測定できない箇所を補うことができる。また、ばらつきが多い中間ライン40の境界候補点を仮直線候補の基準に用いないことでラインを精度良く決定できる。
【0057】
以上、本発明を実施形態および複数の実施例をもとに説明した。本発明は、上述の実施形態および実施例に限定されるものではなく、当業者の知識に基づいて各種の設計変更等の変形を加えることも可能である。
【0058】
実施例では、走路境界決定装置10が直線状の走路境界ライン32を決定する態様を示したが、この態様に限られず、湾曲した走路境界ライン32を導出してよい。例えば、走路境界決定装置10は、車載センサ14のGNSS装置をもとに取得した車両2の位置情報と、地図情報保持部26bに記憶される走路の湾曲度合いとをもとに湾曲した走路境界ライン32を決定してよい。
【0059】
また、実施例では、走路境界決定装置10は、一対の走路境界ライン32および中間ライン40を決定する態様を示したが、この態様に限られず、中間ライン40は決定しなくてもよい。つまり、走路境界決定装置10は一対の走路境界ライン32のみ決定してよい。
【符号の説明】
【0060】
1 走路境界決定システム、 2 車両、 10 走路境界決定装置、 12 光測距装置、 14 車載センサ、 16 自動運転制御装置、 20 取得部、 22 座標変換部、 24 導出部、 26 記憶部、 28 走行状態算出部、 30 決定部、 32a 左走路境界ライン、 32b 右走路境界ライン、 36 走路、 36a 左走路、 36b 右走路、 40 中間ライン、 42 境界壁、 44a 左走路線分、 44b 右走路線分、 46 左外側線分、 48 右外側線分。