(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】穀物風粒状物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 7/109 20160101AFI20240109BHJP
【FI】
A23L7/109 B
(21)【出願番号】P 2020053553
(22)【出願日】2020-03-25
【審査請求日】2022-07-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000226976
【氏名又は名称】日清食品ホールディングス株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小松 雅史
(72)【発明者】
【氏名】片岡 弘
(72)【発明者】
【氏名】野口 夏希
【審査官】澤田 浩平
(56)【参考文献】
【文献】実公昭30-014397(JP,Y1)
【文献】特公昭18-002829(JP,B1)
【文献】特開昭63-091134(JP,A)
【文献】登録実用新案第3004290(JP,U)
【文献】米国特許第04325976(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L,A23P,B01J
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
穀物風粒状物の製造方法であって、
麺帯を第一切り刃で切出す第一切出し工程と、
前記第一切出し工程で切出した麺線を
直線状に伸ばし、90°水平回転させた後に第二切り刃で切出す第二切出し工程と、
からなる穀物風粒状物の製造方法。
【請求項2】
前記第一切り刃及び/又は第二切り刃が包丁刃である、請求項1記載の穀物風粒状物の製造方法。
【請求項3】
前記第二切り刃のピッチが、前記切出した麺線の厚みよりも狭い、請求項1又は2に記載の穀物風粒状物の製造方法。
【請求項4】
請求項1乃至
3のいずれかに記載の製造方法で製造された穀物風粒状物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、穀物風粒状物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ライフスタイルの多様化により、完全食と呼ばれる一日に必要な栄養素を簡便に摂取できると謳われるドリンクやグミ、麺類など商品が上市されている。これらの商品は、厚生労働省より設定された栄養素等表示基準値や同じく厚生労働省により策定された日本人の食事摂取基準に記載されている必須栄養素の1日に必要とされる量の3分の1量以上含まれるものである。これとは別に、数種類の栄養素のみ足らないもののほぼ完全食である準完全食や特定の栄養素のみを補うようなサプリメントなどの商品もあり、日々の食生活で不足している必要な栄養素を簡単に補えるような食品が多数上市されている(特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特表2009-528837号公報
【文献】特開2007-181447号公報
【0004】
ところで、上記食品は、元の原料の成分に対して新たな成分を添加したものであり、成分組成が自由に設定できる食材と言える。そして、成分組成の変更方法も比較的簡単である。例えば、ドリンクであれば溶媒となる液体に新たな成分を添加して混合すればよい。また、グミや麺類等は、原材料に新たな成分を添加した後、通常の製造工程を経て成形すればよい。このように、その多くは配合への必要成分の添加/不要成分の除去を比較的容易に行う事が可能という側面を持つ。
【0005】
これに対して、米等の食材は成分組成を自由に変更できる食材ではない。これは、米などは複数の原材料を混ぜ合わせて成形される食材ではないためである。そのため、成分組成を変更しようとすること自体が困難である。なお、米の炊飯時に水を用いるため、水の中に新たな成分を溶かす方法も考えられる。しかし、新たな成分によっては水への溶解性が悪かったり、意図した量の成分が米に吸収されなかったりするといった問題もある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本願発明は、成分組成を自由に設定でき、しかも見た目が本物に近い穀物風粒状物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
発明者等は上記問題点に鑑み、成分組成を自由に設定でき、しかも見た目が本物に近い穀物風粒状物の製造方法について検討を行った。さらに、形状のみならず、生産適正についても優れた穀物風粒状物の製造方法について検討を行った。そして、成分組成については新たな成分を追加して麺帯にした混練物とすること、混練物を2回切り刃で切出すことによって、形状のバラつきが極力なく、しかも一度に大量生産できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
上記課題解決のため、本発明は、穀物風粒状物の製造方法であって、麺帯を第一切り刃で切出す第一切出し工程と、第一切出し工程で切出した麺線を第二切り刃で切出す第二切出し工程と、からなることを特徴とする。
【0009】
かかる構成によれば、麺帯を二度切出すことで穀物風粒状物を簡便かつ大量に生産することができる。
【0010】
上記構成において、第一切り刃及び/又は第二切り刃が包丁刃であることが好ましい。また、第二切り刃のピッチが、切出した麺線の厚みよりも狭いことが好ましい。さらに、第一切出し工程で切出した麺線を直線状に伸ばし、90°水平回転させた後に第二切り出し工程を行うことが好ましい。ここで、包丁刃とは、刃先を鋭角に面取りした切り刃のことを意味し、包丁刃以外にも薄刃や面取り刃と呼ばれることもある。
【0011】
かかる構成によれば、より穀物の形状に近づけることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、従来存在しなかった成分組成を自由に設定した穀物風粒状物を提供することができる。また、包丁刃を用いることにより、見た目をより本物に近づけた穀物風粒状物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】縦軸を麺帯厚、横軸を第二切り刃のピッチとした場合における、各切出し条件における穀物風粒状物の形状を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0015】
本実施形態における原料の調製は、即席麺等の製造で行われる生麺線作製方法を援用することができる。具体的には、主原料と副原料とを混合し、水を加えて混練する。ここで、主原料たる原料粉としては小麦粉、米粉、澱粉等を用いることができる。副原料としては、食塩、増粘剤、グルテン、卵白、色素、その他の栄養素等を必要に応じて用いることができる。なお、必要な栄養素としては、ビタミン、カルシウム等が挙げられる。また、水に副原料を溶解させて用いてもよい。
【0016】
次に、混練物を混合してドウを形成し、当該ドウを複合等により麺帯とする。続いて、当該麺帯を圧延工程により薄く延ばす。そして、圧延後の麺帯を切出しロールで切出すことで、生麺線を得ることができる。なお、圧延後の厚みや切出麺線の番手は、成形予定の形状により適宜設定すればよく、特に制限されるものではない。また、切出しロールとしては、丸刃、角刃、包丁刃などがあるが、このうち包丁刃が好ましい。さらに、麺線はストレート状に切出されてもよいし、繰り返し輪を描くように切出されてもよい。一方、後述する工程のため、ウェーブ麺でないことが好ましい。
【0017】
初めからストレート状に切出された麺線は所定の長さに、繰り返し輪を描くように切り出された麺線は一旦ストレート状に伸ばしてから所定の長さに、それぞれ切断して麺線束を作成する。なお、麺線をストレート状に伸ばす方法としては、速度の速いベルトコンベアに乗り移らせる方法が挙げられる。この時、複数回乗り移らせることが好ましい。
【0018】
次に、所定の長さに切断された麺線束を水平方向に90度回転させ、再度切り刃ロールに通過させる。ここで、所定の長さとは、第二切り刃ロールの幅に起因する。第二切り刃ロールは包丁刃であることが好ましい。また、第二切り刃ロールのピッチは、目的とする穀物形状によって異なる。例えば、第二切り刃ロール:麺帯厚の比率が1:1.8~2.1であれば、短粒種米のような穀物風造粒物が得られる。第二切り刃ロール:麺帯厚の比率が1:2.4~2.8であれば、長粒種米のような穀物風造粒物が得られる。
【0019】
また、麺線をストレート状に伸ばして所定の長さに切り揃える方法として、特許第6242165号に開示された技術を用いてもよい。当該技術によれば、シュート部材を用いることで、切出された麺線をシュート部材の幅方向振るようにすることができる。シュート部材の幅方向に振れさせた麺線の折り返し部を切断することで、長さの揃った麺線束を得ることができる。
【0020】
続いて、第二切り刃ロールを通過した切断物を、湿熱処理する。ここで、本願で言う「湿熱処理」とは、澱粉をα化できる湿熱処理であれば本概念に含まれる。例えば、茹で槽を用いた茹で処理や、飽和水蒸気および/または過熱水蒸気を用いた蒸し処理、水分を麺線に付与した後に高温熱風で処理する場合も本概念に含まれる。なお、本願では過熱蒸気を用いることが好ましい。
【0021】
本発明に用いる湿熱水蒸気の温度としては、100℃~220℃の範囲が好ましく、100℃~190℃の範囲がより好ましく、130℃~190℃の範囲がさらにより好ましい。また、本発明にかかる湿熱処理時間として、飽和水蒸気で行う場合には、15~45秒間で行うことが好ましい。一方、130℃~220℃の高温流体で行う場合には、過乾燥を避けるため、5~40秒間で行うことが好ましく、5~30秒で行うことがより好ましい。
【0022】
過熱水蒸気を用いる場合には、過熱水蒸気を直接または間接的に麺線に吹き付けるか、過熱水蒸気で満たされた庫内を通過させることで行われる。
【0023】
本発明において、湿熱処理工程は複数回行っても良い。2回目以降の湿熱処理工程は特に制限されず、既存技術を用いることができる。また、各湿熱処理工程との間に、水分を付与する工程を設けてもよい。水分付与の方法としては、霧吹き、シャワー、浸漬、低温物質が高温環境下におかれたときに発生する結露現象が挙げられる。
【0024】
(乾燥工程)
本発明では、必要に応じて湿熱処理工程が完了した切断物を、乾燥工程に付してもよい。ここで、乾燥工程の種類は特に限定されず、即席麺の製造において一般的に使用されている乾燥処理を適用することができる。具体的には、フライ(油揚げ)乾燥処理のほか、熱風乾燥処理、真空凍結乾燥処理、マイクロ波乾燥、低温での送風乾燥といったノンフライ乾燥処理があげられる。このうち、熱風乾燥処理であることが好ましい。乾燥工程を経ることで、長期保存性を向上させることができる
【0025】
以上の方法により製造された穀物風造粒物は、喫食時に穀物風の見た目及び風味を呈するものであった。
【実施例】
【0026】
以下、実施例に基づき本発明をさらに詳細に説明する。ここでは、穀物風造粒物として、短粒種米を例に説明する。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。
【0027】
先ず、小麦粉700g、澱粉300gを混ぜた混合粉に対して、食塩20gを加えた水420mlを加えて混練し、ドウを作成した。続いて、ドウを複合し、厚みが2.8~2.9mmとなるように圧延し麺帯を得た。
【0028】
(切り刃の検討)
まず、穀物風造粒物の形状に切出すための最適な切り刃について検討を行った。角刃、丸刃、包丁刃を組み合わせて用いて検討を行った。各切り刃の番手は9番とした。なお、評価は次の基準に従って判断した。結果を表〇に示す。
◎:短粒種米と非常によく似ている
〇:短粒種米に似ている
×:短粒種米に似ていない
【0029】
【0030】
表1から明らかなように、包丁刃同士を組み合わせた場合に切出された形状が、最も短粒種米の形状に近い結果が得られた。一方、1回目もしくは2回目に角刃を用いた場合、切り出された形状は短粒種米とは似ていない形状となった。そのため、本発明においては、角刃は不向きであるものと考えられる。
【0031】
続いて、より短粒種米の形状に近づけるための方策として、麺帯厚と第二切り刃ロールのピッチに着目して検討を行った。なお、上記結果を踏まえ、切り刃は包丁刃を用いた。
試作条件としては表2の通りとした。
【0032】
【0033】
表2の条件に従って試作した結果を、
図1に示す。
図1は、縦軸を麺帯厚(mm)、横軸を第二切り刃のピッチ(mm)とし、実際に試作した穀物風粒状物の写真をプロットしたものである。
図1から明らかなように、試作番号1,3,7,11,13は短粒種米の形状に近い結果が得られた。また、試作番号5,6,10,12は長粒種米の形状に近い結果が得られた。これに対して、試作番号2,4,8,9は短粒種米にも長粒種米のどちらにも似ていない、長方形の形状をしていた。このことから、第二切り刃ロール:麺帯厚の比率が1:1.8~2.1であれば、短粒種米のような穀物風造粒物が、第二切り刃ロール:麺帯厚の比率が1:2.4~2.8であれば、長粒種米のような穀物風造粒物が得られることがわかった。
【0034】
ここで、試作番号2,4,7,10,12に着目すると、第二切り刃のピッチを一定にした場合、麺厚が厚くなるにつれて穀物風粒状物の形は長方形の形状から短粒種米の形状、そして長粒種米の形状に変化していることがわかる。一方、試作番号5、6、7、8、9に着目すると、麺帯の厚みを一定にした場合、ピッチの幅が広くなるにつれて、長粒種米の形状から短粒種米の形状、そして長方形の形状に変化していっていることがわかる。
【0035】
以上説明したように、本発明によれば麺帯切り刃で二回切出すことで、穀物風造粒物を得ることができる。また、麺帯厚と第二切り刃のピッチを調整することで、短粒種米のみならず、長粒種米についても製造できることが示された。これにより、成分組成を自由に設定でき、しかも見た目が本物に近い穀物風粒状物を提供することができる。