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特許7414686解重合されたセルロースエーテルの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】解重合されたセルロースエーテルの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08B 11/00 20060101AFI20240109BHJP
   C08B 11/02 20060101ALI20240109BHJP
   C08B 11/08 20060101ALI20240109BHJP
【FI】
C08B11/00
C08B11/02
C08B11/08
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020177485
(22)【出願日】2020-10-22
(65)【公開番号】P2022068677
(43)【公開日】2022-05-10
【審査請求日】2022-12-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100085545
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 光夫
(74)【代理人】
【識別番号】100118599
【弁理士】
【氏名又は名称】村上 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100160738
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 由加里
(74)【代理人】
【識別番号】100114591
【弁理士】
【氏名又は名称】河村 英文
(72)【発明者】
【氏名】稲田 慎之介
(72)【発明者】
【氏名】北口 太志
(72)【発明者】
【氏名】北村 彰
(72)【発明者】
【氏名】成田 光男
【審査官】岩田 行剛
(56)【参考文献】
【文献】特表2009-540098(JP,A)
【文献】特表2013-543735(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B 11/
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数が2~6である多価アルコールの存在下、セルロースエーテルを酸水溶液により解重合させたセルロースエーテルを得る解重合工程を少なくとも含む解重合セルロースエーテルの製造方法であって、
前記解重合工程において存在する解重合反応系の液体の質量が、該解重合反応系の全質量に対して0.5~20.0質量%である解重合セルロースエーテルの製造方法
【請求項2】
前記解重合工程において存在する解重合反応系の液体の質量が、前記多価アルコールと、前記酸水溶液と接触されるセルロースエーテルに含まれる水と、前記酸水溶液に含まれる水との合計質量である請求項に記載の解重合セルロースエーテルの製造方法。
【請求項3】
前記解重合工程が、前記解重合されるセルロースエーテルに、前記多価アルコール及び前記酸水溶液をこの順で又は逆順で又は同時に、又は混合物として添加することを含む請求項1又は請求項2に記載の解重合セルロースエーテルの製造方法。
【請求項4】
前記多価アルコールが、アルキレン系多価アルコール及びオキシアルキレン系多価アルコールからなる群から選ばれる請求項1~のいずれか1項に記載の解重合セルロースエーテルの製造方法。
【請求項5】
前記セルロースエーテルが、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース及びヒドロキシアルキルアルキルセルロースからなる群から選ばれる請求項1~のいずれか1項に記載の解重合セルロースエーテルの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、解重合されたセルロースエーテルの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、低重合度セルロースエーテルは、高重合度セルロースエーテルを解重合することにより得られる。広く用いられている解重合方法としては、粉末状の高重合度セルロースに対し酸を添加し、後に加熱をする解重合方法が挙げられる。
しかし、酸により解重合した場合、高重合度セルロースエーテルの重合度が低下するにつれて、得られる低重合度セルロースエーテルの黄色度が増加することが知られている。透明な医薬カプセルやフィルムコーティング剤として低重合度セルロースエーテルを用いる場合、外観上黄色度が高い低重合度セルロースエーテルは好ましくない。
【0003】
低重合度セルロースエーテルの黄色度を抑える方法として、エタノール、イソプロパノール、n-プロパノール、n-ブタノール、sec-ブタノール、t-ブタノール、n-ペンタノール及びその異性体、n-ヘキサノール及びその異性体等の脂肪族非環式アルコール、メチルシクロヘキサノール等の環式アルコールに例示される少なくとも1個のヒドロキシ基と少なくとも2個の炭素原子とを有する有機ヒドロキシル化合物を少なくとも50質量%含む希釈剤中において、セルロースエーテルを酸に接触させて部分的に解重合して、低重合度セルロースエーテルを得る方法が報告されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2009-540098号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記有機ヒドロキシル化合物を少なくとも50質量%含む希釈剤を用いる方法では、高重合度セルロースエーテルに対し多量の希釈剤を用いているため、希釈剤と低重合度セルロースエーテルの分離工程や乾燥工程が必要となり、生産効率や原子効率上好ましくない。また、上記有機ヒドロキシル化合物は、少なくとも1個のヒドロキシ基と少なくとも2個の炭素原子とを有するアルコール化合物、すなわちメタノール以外の全てのアルコールを含むが、モノヒドロキシ化合物が好ましく、最も好ましい有機ヒドロキシル化合物としてエタノール及びイソプロパノールと報告し、両アルコールの各使用結果をヘキサン、1,1,1-トリクロロエタン、メタノール及びジメトキシエタンの各使用結果と比較している(特許文献1)。
本発明は、上記事情に鑑みなされたものであり、黄色度が低減された、解重合されたセルロースエーテルの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、炭素数が2~10である多価アルコールの存在下、セルロースエーテルと酸水溶液との解重合反応により、黄色度が低減された解重合(解重合された:depolymerized)セルロースエーテルを製造できることを見出し、本発明を為すに至った。
本発明の一つの態様によれば、炭素数が2~6である多価アルコールの存在下、セルロースエーテルを酸水溶液により解重合させたセルロースエーテルを得る解重合工程を少なくとも含む解重合セルロースエーテルの製造方法であって、前記解重合工程において存在する解重合反応系の液体の質量が、該解重合反応系の全質量に対して0.5~20.0質量%である解重合セルロースエーテルの製造方法が提供される。
なお、解重合セルロースエーテルは、解重合前のセルロースエーテルよりも重合度が低くなり、透明な医薬カプセルやフィルムコーティング剤として用いられる低重合度セルロースエーテルも含まれる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、黄色度の低い解重合されたセルロースエーテルを製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
解重合セルロースエーテルは、炭素数が2~6である多価アルコールの存在下、セルロースエーテルと酸水溶液との解重合反応により得られる。
セルロースエーテルとしては、アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース及びヒドロキシアルキルアルキルセルロース等の水溶性セルロースエーテル等が挙げられる。
【0009】
アルキルセルロースとしては、メトキシ基が好ましくは18.0~36.0質量%であるメチルセルロース(以下、「MC」とも記載する。)、エトキシ基が好ましくは40.0~50.0質量%であるエチルセルロース等が挙げられる。
【0010】
ヒドロキシアルキルセルロースとしては、ヒドロキシプロポキシ基が好ましくは2.0~70.0質量%であるヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエトキシ基が好ましくは2.0~70.0質量%であるヒドロキシエチルセルロース、等が挙げられる。
【0011】
ヒドロキシアルキルアルキルセルロースとしては、ヒドロキシプロポキシ基が好ましくは4.0~13.0質量%、メトキシ基が好ましくは19.0~32.0質量%であるヒドロキシプロピルメチルセルロース(以下、「HPMC」とも記載する。)、ヒドロキシエトキシ基が好ましくは4.0~15.0質量%、メトキシ基が好ましくは20.0~26.0質量%であるヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシエトキシ基が好ましくは8.0~20.0質量%、エトキシ基が好ましくは20.0~38.0質量%であるヒドロキシエチルエチルセルロース等が挙げられる。
【0012】
アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース及びヒドロキシアルキルアルキルセルロースにおけるアルコキシ基及びヒドロキシアルコキシ基の含有率は、第17改正日本薬局方のヒプロメロースに関する分析方法に準じて測定できる。
【0013】
解重合されるセルロースエーテルの20℃における2質量%水溶液の粘度は、解重合されるセルロースエーテルの洗浄性の観点から、好ましくは400~200,000mPa・s、より好ましくは400~150,000mPa・s、更に好ましくは、400~100,000mPa・sである。
セルロースエーテルの20℃における2質量%水溶液の粘度が600mPa・s以上の場合においては、第17改正日本薬局方に記載の一般試験法の粘度測定法の回転粘度計に従い、単一円筒型回転粘度計を用いて測定することができる。一方、粘度が600mPa・s未満の場合においては、第17改正日本薬局方に記載の一般試験法の粘度測定法の毛細管粘度計法に従い、ウベローデ型粘度計を用いて測定することができる。
【0014】
解重合されるセルロースエーテルは、公知の方法で製造することができる。例えば、パルプにアルカリ金属水酸化物溶液を接触させてアルカリセルロースを得る工程と、前記アルカリセルロースとエーテル化剤を反応させて粗セルロースエーテルを得る工程と、前記粗セルロースエーテルを洗浄及び乾燥する工程と、必要に応じて洗浄及び乾燥されたセルロースを粉砕する粉砕工程とを少なくとも含む製造方法により得られる。
アルカリ金属水酸化物溶液としては、特に制限されないが、経済的な観点から、アルカリ金属水酸化物水溶液が好ましい。アルカリ金属水酸化物水溶液としては、特に制限されないが、経済的な観点から、水酸化ナトリウム水溶液が好ましい。
エーテル化剤としては、特に制限されないが、塩化メチル、塩化エチル等のハロゲン化アルキル、酸化エチレン、酸化プロピレン等の酸化アルキレン等が挙げられる。
【0015】
解重合されるセルロースエーテルの含水率は、同セルロースエーテルの凝集を防ぐ観点から、好ましくは0を超えて2.00質量%以下、より好ましくは0.10~1.00質量%である。
含水率は、{(セルロースエーテルの全質量-セルロースエーテルの絶乾質量)/(セルロースエーテルの全質量)}×100%で定義される。
ここで、「セルロースエーテルの全質量」とは、第17改正日本薬局方の「乾燥減量試験法」に従って乾燥前のセルロースエーテルを精密に量った場合の質量をいう。また、「セルロースエーテルの絶乾質量」とは、第17改正日本薬局方の「乾燥減量試験法」に従って高重合度セルロースエーテルを乾燥させた後の質量をいう。
【0016】
多価アルコールの存在下、解重合反応を行うことにより、黄色度の低い解重合されたセルロースエーテルを製造することができる。
多価アルコールは、一価アルコールと比較して揮発性が低く、かつ、沸点の高いものが多い。そのため、高温を必要とするセルロースエーテルの解重合反応において、多価アルコールを用いる場合は、アルコールの気化による熱損失や溶媒の損失が無く、製造上有利である。多価アルコールにおける炭素数は、解重合により効果的にセルロースエーテルの粘度を低下させる観点から、2~6、好ましくは2~4である。多価アルコールの価数は、黄色度の低い解重合されたセルロースエーテルを得る観点から、好ましくは2~6価、より好ましくは2~3価である。
【0017】
多価アルコールとしては、グリセリン(炭素数:3、価数:3価)、エチレングリコール(炭素数:2、価数:2価)、プロピレングリコール(炭素数:3、価数:2価)、1, 3-ブチレングリコール(炭素数:4、価数:2価)、ペンチレングリコール(炭素数:5、価数:2価)等のアルキレン系多価アルコール;ジエチレングリコール(炭素数:4、価数:2価)、トリエチレングリコール(炭素数:6、価数:2価)等のオキシアルキレン系多価アルコールが挙げられる。
【0018】
多価アルコールの使用量は、黄色度の低い解重合後のセルロースエーテルを得る観点から、解重合前のセルロースエーテル1molに対して、好ましくは0.010~0.15mol、より好ましくは0.030~0.10molである。
ここで、セルロースエーテルのモル数は、以下の式により定義される。
{セルロースエーテルの質量(g)-セルロースエーテルの含水量(g)}÷セルロースエーテルのセルロース鎖の繰り返し単位当たりの分子量(g/mol)
【0019】
セルロースエーテルのセルロース鎖の繰り返し単位当たりの分子量は、無水グルコース単位(AGU、C10)=162を基準とし、以下の式においてそれぞれ算出することができる。
アルキルセルロースの場合におけるセルロースエーテルのセルロース鎖の繰り返し単位当たりの分子量は、M=(アルコキシ基の分子量)、M=(アルコキシ基の置換による分子量の増加量)として、[162÷{100-(M/M)×アルコキシ基の含有率(質量%)}]×100で定義される。
例えば、MCの場合においては、M=31(OCH)、M=14(CH)であるため、[162÷{100-(14/31)×メトキシ基の含有率(質量%)}]×100となる。
【0020】
ヒドロキシアルキルセルロースの場合におけるセルロースエーテルのセルロース鎖の繰り返し単位当たりの分子量は、M=(ヒドロキシアルコキシ基の分子量)、M=(ヒドロキシアルコキシ基の置換による分子量の増加量)として、[162÷{100-(M/M)×ヒドロキシアルコキシ基の含有率(質量%)}]×100で定義される。
【0021】
ヒドロキシアルキルアルキルセルロースの場合における高重合度セルロースエーテルのセルロース鎖の繰り返し単位当たりの分子量は、M=(ヒドロキシアルコキシ基の分子量)、M=(ヒドロキシアルコキシ基の置換による分子量の増加量)、M=(アルコキシ基の分子量)、M=(アルコキシ基の置換による分子量の増加量)として、[162÷{100-(M/M)×ヒドロキシアルコキシ基の含有率(質量%)-(M/M)×アルコキシ基の含有率(質量%)}]×100で定義される。
例えば、HPMCの場合においては、M=75(OCH2CH2CH2OH)、M=58(CO)、M=31(OCH)、M=14(CH)であるため、[162÷{100-(58/75)×ヒドロキシプロポキシ基の含有率(質量%)}-(14/31)×メトキシ基の含有率(質量%)}]×100となる。
【0022】
解重合に用いる酸水溶液としては、塩化水素水溶液、臭化水素水溶液、ヨウ化水素水溶液等のハロゲン化水素水溶液等が挙げられるが、解重合後の酸を容易に除去する観点から、塩化水素水溶液(以下、「塩酸」とも記載する。)が好ましい。
【0023】
酸水溶液の使用量は、酸水溶液中の酸の濃度及び酸の使用量に基づいて算出される。
酸水溶液中の酸の濃度は、解重合されたセルロースエーテルの粘度を制御する観点から、好ましくは0質量%を超えて35質量%以下、より好ましくは8~15質量%である。
酸の使用量は、解重合されたセルロースエーテルの粘度を制御する観点から、解重合前セルロースエーテル1molに対して、好ましくは0.005~0.200mol、より好ましくは0.007~0.100molである。
【0024】
解重合されるセルロースエーテル、炭素数が2~6である多価アルコール、酸水溶液の混合は、より効率的に混合する観点から、解重合されるセルロースエーテルに炭素数が2~6である多価アルコール及び酸水溶液をこの順で又は逆順で又は同時に、又は混合物として添加することが好ましい。
解重合されるセルロースエーテルに炭素数が2~6である多価アルコール及び酸水溶液を添加する方法としては、解重合されるセルロースエーテルを撹拌しながら炭素数が2~6である多価アルコール及び酸水溶液を噴霧、シャワー、滴下等により添加する方法が好ましい。また、同方法以外にも、解重合されるセルロースエーテルを撹拌しながら多価アルコールを添加し終えた後、酸水溶液を添加する方法;解重合されるセルロースエーテルを撹拌しながら酸水溶液を添加し終えた後、炭素数が2~6である多価アルコールを添加する方法;解重合されるセルロースエーテルを撹拌しながら多価アルコール及び酸水溶液を同時に添加する方法、例えば、解重合されるセルロースエーテルを撹拌しながら多価アルコールを添加している間に、酸水溶液を添加する方法;解重合されるセルロースエーテルを撹拌しながら酸水溶液と多価アルコールの混合物を添加する方法等が挙げられる。
これらの方法のうち、黄色度が低い低重合度セルロースエーテルを得る観点から、高重合度セルロースエーテルを撹拌しながら多価アルコールを添加し終えた後、酸水溶液を添加する方法;高重合度セルロースエーテルを撹拌しながら多価アルコールを添加している間に、酸水溶液を添加する方法が好ましい。
セルロースエーテルを撹拌する方法としては、解重合されるセルロースエーテルと酸水溶液、及び炭素数が2~6である多価アルコールの均一な混合が達成されるのであれば特に制限されないが、例えば後述するセルロースエーテルの解重合に用いられる反応機等を用いる事ができる。
セルロースエーテルを撹拌する速度としては、解重合されるセルロースエーテルと酸水溶液、及び炭素数が2~6である多価アルコールを均一に混合する観点から、1~1000rpmが好ましい。
【0025】
多価アルコール及び/又は酸水溶液が添加される直前のセルロースエーテルの温度(品温)は、特に制限されないが、解重合されるセルロースエーテルの凝集を抑える観点から、好ましくは5~60℃、より好ましくは15~30℃である。
多価アルコールの温度(品温)は、特に制限されないが、解重合されたセルロースエーテルの粘度を制御する観点から、好ましくは5~60℃、より好ましくは15~30℃である。
酸水溶液の温度(品温)は、特に制限されないが、低重合度セルロースエーテルの粘度を制御する観点から、好ましくは5~60℃、より好ましくは5~30℃である。
【0026】
多価アルコールの添加時間は、黄色度が低い解重合セルロースエーテルを得る観点から、好ましくは3~20分間、より好ましくは3~10分間である。
酸水溶液の添加時間は、黄色度が低い解重合セルロースエーテルを得る観点から、好ましくは20分間以下である。
【0027】
解重合工程において存在する解重合反応系の水の質量が、該解重合反応系の全質量に対する水分量比は、効率的にセルロースエーテルを解重合する観点から、好ましくは0.5~5.0質量%、より好ましくは1.0~2.0質量%である。ここで、解重合工程において存在する解重合反応系の水分量比は、解重合反応開始時に解重合反応系にセルロースエーテルと炭素数が2~6である多価アルコールと酸水溶液のみが存在する場合には、酸水溶液と接触するセルロースエーテル、炭素数が2~6である多価アルコール及び酸水溶液の総質量に対する、解重合反応中の水の質量の比であり、以下の式で表される。
[{解重合前セルロースエーテルの含水量(g)+酸水溶液中の水の質量(g)}/{解重合前セルロースエーテルの質量(g)+多価アルコールの質量(g)+酸水溶液の質量(g)}]×100
また、解重合反応開始時に解重合反応系にセルロースエーテルと炭素数が2~6である多価アルコールの水溶液と酸水溶液のみが存在する場合には、酸水溶液と接触するセルロースエーテル、炭素数が2~6である多価アルコールの水溶液及び酸水溶液の総質量に対する、解重合反応中の水の質量の比であり、以下の式で表される。
[{解重合前セルロースエーテルの含水量(g)+多価アルコール水溶液中の水の質量(g)+酸水溶液中の水の質量(g)}/{解重合前セルロースエーテルの質量(g)+多価アルコール水溶液の質量(g)+酸水溶液の質量(g)}]×100
セルロースエーテルの含水量は、第17改正日本薬局方の一般試験法の乾燥減量試験法に従って求めることができる。解重合反応開始時に解重合反応系にセルロースエーテルと多価アルコールと酸水溶液以外の成分が存在する場合には、当該成分の含水量と、当該成分を含めた総質量を考慮して解重合工程において存在する解重合反応系の水分量比を算出すればよい。
【0028】
解重合工程における反応温度は、解重合されたセルロースエーテルの粘度を制御する観点から、好ましくは40~120℃、より好ましくは60~100℃である。
【0029】
解重合工程における解重合時間は、解重合されたセルロースエーテルが所望の粘度になれば特に制限されないが、黄色度が低い低重合度セルロースエーテルを得る観点から、好ましくは0.1~4.0時間、より好ましくは0.1~2.0時間である。
ここで、解重合工程における解重合時間とは、酸水溶液、あるいは酸水溶液と炭素数が2~6である多価アルコールとの混合溶液を高重合度セルロースエーテルに対して添加させ始めた時点から、後述の脱気操作を開始する時点までの時間、もしくは、脱気操作を行わない場合、解重合により得られた低重合度セルロースエーテルにアルカリを添加して中和するまでの時間をいう。
【0030】
上記解重合反応は、解重合の程度にもよるが酸水溶液の量が少なく、炭素数2~6の多価アルコールの量も多くはないため、実質的に粉体状態である乾式にて行われる。乾式反応とは、炭素数が2~6である多価アルコール及び酸水溶液が添加された解重合前セルロースエーテルを十分粉体として取り扱い可能な状態で行う反応をいう。解重合工程において、該解重合反応系の全質量に対する液体成分量比は、効率的にセルロースエーテルを解重合(低粘度化)する観点から、0.5~20.0質量%、好ましくは1.0~10.0質量%、より好ましくは1.0~6.5質量%である。
【0031】
解重合工程における解重合反応系の液体成分量比は、解重合反応開始時に解重合反応系にセルロースエーテルと、解重合開始温度に於ける状態が液体である炭素数が2~6である多価アルコールと、解重合開始温度に於ける状態が液体では無い酸を溶解した酸水溶液とのみが存在する場合には、解重合開始から解重合終了まで水分及び多価アルコールが液体状態を維持できるように解重合温度を調整することを条件に、酸水溶液と接触するセルロースエーテルと、炭素数が2~6である多価アルコールと、酸水溶液の総質量に対する、解重合反応中の水及び炭素数が2~6の多価アルコールの質量の比であり、以下の式で表される。
[{高重合度セルロースエーテルの含水量(g)+酸水溶液中の水の質量(g)+炭素数が2~6である多価アルコールの質量(g)}/{高重合度セルロースエーテルと、炭素数が2~6である多価アルコールと、酸水溶液の質量(g)}]×100
ここで、炭素数が2~6である多価アルコールの解重合開始温度に於ける状態が液体ではない場合には、上記式分母より炭素数が2~6である多価アルコールの質量を除けば良い。また、用いる酸の解重合開始温度に於ける状態が液体である場合には、解重合開始から解重合終了まで水分及び多価アルコールが液体状態を維持できるように解重合温度を調整することを条件に、上記式分母の酸水溶液中の水の質量を酸水溶液の質量に置き換えれば良い。なお、解重合開始温度に於ける状態では、気圧は通常1atmである。
【0032】
解重合工程において、加熱された水分が揮発することにより、該解重合反応系の全質量に対する液体成分量比が経時的に変化する可能性がある。その場合は、例えば、任意の反応時間における含水率を測定する方法や、任意の反応時間における反応機内の圧力、反応温度、及び反応機の空間容積より気相中の水分量を算出する方法等を用いて上記式を補正することによって液体成分量比を求めることができる。揮発した酸成分については、任意の反応時間における気相中の酸成分濃度を、例えば、市販の濃度測定装置を用いる等の公知の方法により測定し、上記方法と併せれば良い。
【0033】
セルロースエーテルの含水量は、第17改正日本薬局方の一般試験法の乾燥減量試験法に従って求めることができる。解重合反応開始時に解重合反応系にセルロースエーテルと多価アルコールと酸水溶液以外の成分が存在する場合には、当該成分が液体であればその質量、当該成分が固体であれば含水量と、当該成分を含めた総質量を考慮して解重合工程において存在する解重合反応系の液体成分量比を算出すればよい。
【0034】
解重合工程は、例えば、反応機を用いて行うことができる。
解重合に用いられる反応機は、特に制限されないが、黄色度の低い低重合度セルロースエーテルを得る観点から、セルロースエーテル粒子が反応装置内で均一に撹拌されていることが好ましく、例えば、二重円錐型自転式反応機、斜円筒型自転式反応機、内部撹拌式反応機、流動層反応機等が挙げられる。また、解重合時の反応温度を制御する観点から、解重合に用いられる装置はジャケット付きであることが好ましい。
【0035】
解重合終了後、解重合されたセルロースエーテル中の塩酸量や水分量を制御する観点から、必要に応じて系内を脱気操作して酸を除去することができる。例えば、酸水溶液が塩化水素水溶液である場合は、解重合工程後、減圧下にて、塩化水素を除去する工程を更に含んでもよい。脱気時の内圧は、酸を効率的に除去する観点から、好ましくは-60~-98kPaG、より好ましくは-75~-98kPaGである。
【0036】
必要に応じて、得られた解重合セルロースエーテルと、アルカリを混合することにより、中和された解重合セルロースエーテルを得る工程を行ってもよい。アルカリとしては、重炭酸ソーダ、炭酸ソーダ等の弱アルカリが挙げられる。アルカリの添加量は、酸が中和されれば、特に制限されない。
中和された解重合セルロースエーテルは、必要に応じて、粉砕及び任意のメッシュサイズの篩にて篩過して、所望の平均粒子径にすることができる。
【0037】
解重合反応における解重合による粘度低下率は、好ましくは40.0~99.9%、より好ましくは50.0~99.9%、更に好ましくは60.0~99.9%である。粘度低下率が40.0%未満である場合、黄色度が低い低重合度セルロースエーテルを得られない場合がある。
ここで、解重合による粘度低下率とは、解重合前セルロースエーテルの20℃における2質量%水溶液の粘度(解重合前の粘度)に対する解重合前の粘度と解重合後セルロースエーテルの20℃における2質量%水溶液の粘度(解重合後の粘度)との差の比であり、以下の式により定義される。
{(解重合前の粘度-解重合後の粘度)/解重合前の粘度}×100
解重合後セルロースエーテルの20℃における2質量%水溶液の粘度は、フィルムコーティングする際の溶液粘度を低く保つ観点から、好ましくは1.0~20.0mPa・s、より好ましくは2.0~20.0mPa・s、更に好ましくは3.0~15.0mPa・sである。
【実施例
【0038】
以下、実施例及び比較例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
黄色度の測定は、以下に示す方法にて行った。
<黄色度の測定>
20℃における低重合度セルロースエーテルの2質量%水溶液を用意し、試料をSMカラーコンピュータSM-4(スガ試験機社製)により分析することにより、黄色度を測定した。
【0039】
実施例1
2Lのナスフラスコ内において、品温が20℃であるHPMC(解重合前HPMC、メトキシ基29.0質量%、ヒドロキシプロポキシ基9.2質量%)400gに対し、20℃の14質量%塩酸6.97g(塩化水素として解重合前HPMC1molに対して0.0136mol)及び20℃のグリセリン5.75g(解重合前HPMC1molに対して0.0318mol)を含む混合溶液を5分間かけて添加した。
添加後、フラスコを84℃の水浴中で加熱しながら回転させて60分間解重合反応を行い、重炭酸ソーダ1.8gを加えて中和することにより、解重合されたHPMC400gを得た。解重合前のHPMCの物性、解重合条件及び得られた解重合後のHPMCの物性を表1に示す。
【0040】
実施例2
グリセリンの添加量を11.5g(解重合前HPMC1molに対して0.0636mol)に変えた以外は、実施例1と同様に解重合反応を行い、中和することにより解重合されたHPMC400gを得た。解重合前のHPMCの物性、解重合条件、解重合されたHPMCの物性を表1に示す。
【0041】
実施例3
グリセリンの添加量を17.3g(解重合前HPMC1molに対して0.0954mol)に変えた以外は、実施例1と同様に解重合反応を行い、中和することにより解重合されたHPMC400gを得た。解重合前HPMCの物性、解重合条件、解重合されたHPMCの物性を表1に示す。
【0042】
実施例4
グリセリンの添加量を17.3g(解重合前HPMC1molに対して0.0954mol)に変えた以外は、実施例1と同様に解重合前HPMCに対して塩酸及びグリセリンを添加した。
添加後、フラスコを84℃の水浴中で加熱しながら回転させて60分間反応を行い、84℃水浴中、内圧-93kPaGにて60分間脱気して塩酸を除去した。その後、重炭酸ソーダ1.8gを加えて中和することにより解重合されたHPMC400gを得た。解重合前HPMCの物性、解重合条件、解重合されたHPMCの物性を表1に示す。
【0043】
実施例5
2Lのナスフラスコ内において、実施例1で用いた20℃の解重合前HPMC400gに対し、20℃のグリセリン17.3g(解重合前HPMC1molに対して0.0956mol)を2.5分間かけて添加した後、20℃の14質量%塩酸6.97g(塩化水素として解重合前HPMC1molに対して0.0136mol)を2.5分間かけて添加した。
添加後、実施例1と同様に解重合反応を行い、中和することにより解重合されたHPMC400gを得た。解重合前HPMCの物性、解重合条件、解重合されたHPMCの物性を表1に示す。
【0044】
実施例6
グリセリンをエチレングリコール11.6g(解重合前HPMC1molに対して0.0955mol)に変えた以外は、実施例1と同様に解重合反応を行い、中和することにより解重合されたHPMC400gを得た。解重合前HPMCの物性、解重合条件、解重合されたHPMCの物性を表1に示す。
【0045】
実施例7
グリセリンをプロピレングリコール14.3g(解重合前HPMC1molに対して0.0955mol)に変えた以外は、実施例1と同様に解重合反応を行い、中和することにより解重合されたHPMC400gを得た。解重合前HPMCの物性、解重合条件、解重合されたHPMCの物性を表1に示す。
【0046】
実施例8
グリセリンを1,3-ブチレングリコール16.9g(解重合前HPMC1molに対して0.0954mol)に変えた以外は、実施例1と同様に解重合反応を行い、中和することにより解重合されたHPMC400gを得た。解重合前HPMCの物性、解重合条件、解重合されたHPMCの物性を表1に示す。
【0047】
実施例9
グリセリンをトリエチレングリコール28.1g(解重合前HPMC1molに対して0.0956mol)に変えた以外は、実施例1と同様に解重合反応を行い、中和することにより解重合されたHPMC400gを得た。解重合前HPMCの物性、解重合条件、解重合されたHPMCの物性を表1に示す。
【0048】
実施例10
2Lのナスフラスコ内において、20℃のMC(メトキシ基29.5質量%)400gに対し、20℃の14質量%塩酸6.97g(塩化水素として高重合度MC1molに対して0.0125mol)と20℃のグリセリン17.3g(高重合度MC1molに対して0.0879mol)の混合溶液を5分間かけて添加した。
添加後、実施例1と同様に解重合反応を行い、中和することにより解重合されたMC400gを得た。解重合前MCの物性、解重合条件、解重合されたMCの物性を表1に示す。
【0049】
比較例1
2Lのナスフラスコ内において、20℃の解重合前HPMC400gに対し、20℃の14質量%塩酸6.97g(塩化水素として解重合前HPMC1molに対して0.0136mol)を5分間かけて添加した。
添加後、実施例1と同様に解重合反応を行い、中和することにより解重合されたHPMC400gを得た。解重合前HPMCの物性、解重合条件、解重合されたHPMCの物性を表1に示す。
【0050】
比較例2
グリセリンをメタノール6.00g(解重合前HPMC1molに対して0.0956mol)に変えた以外は、実施例1と同様に解重合反応を行い、中和することにより解重合されHPMC400gを得た。解重合前HPMCの物性、解重合条件、解重合された低重合度HPMCの物性を表1に示す。
【0051】
比較例3
グリセリンをテトラエチレングリコール36.4g(解重合前HPMC1molに対して0.0956mol)に変えた以外は、実施例1と同様に解重合反応を行い、中和することにより解重合されたHPMC400gを得た。解重合前HPMCの物性、解重合条件、解重合されたHPMCの物性を表1に示す。
【0052】
比較例4
2Lのナスフラスコ内において、20℃の解重合前MC400gに対し、20℃の14質量%塩酸6.97g(塩化水素として解重合前MC1molに対して0.0125mol)を5分間かけて添加した。
添加後、実施例1と同様に解重合反応を行い、中和することにより解重合されたMC400gを得た。解重合前MCの物性、解重合条件、解重合されたMCの物性を表1に示す。
【0053】
【表1】
【0054】
実施例1及び比較例1の結果並びに実施例9及び比較例3の結果により、多価アルコールの存在下、酸水溶液を接触させて解重合を行うことにより、解重合されたセルロースエーテルの黄色度を改善することができた。
また、実施例1~3の結果により、多価アルコールの添加量が多くなるにつれて、黄色度の改善効果が大きくなることが確認された。
更に、実施例3及び比較例2の結果により、一価のアルコールでは、黄色度の改善効果が不十分であることが確認された。
加えて、実施例9及び比較例3の結果により、多価アルコールの炭素数が6を超える場合、黄色度の改善効果が小さくなる事が確認された。