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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-05
(45)【発行日】2024-01-16
(54)【発明の名称】注射デバイス
(51)【国際特許分類】
   A61M 5/315 20060101AFI20240109BHJP
   A61M 5/31 20060101ALI20240109BHJP
【FI】
A61M5/315 550P
A61M5/31 520
A61M5/315 550C
A61M5/315 550N
A61M5/315 550X
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020551861
(86)(22)【出願日】2019-03-25
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-08-10
(86)【国際出願番号】 EP2019057392
(87)【国際公開番号】W WO2019185517
(87)【国際公開日】2019-10-03
【審査請求日】2022-03-14
(31)【優先権主張番号】18305345.3
(32)【優先日】2018-03-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】504456798
【氏名又は名称】サノフイ
【氏名又は名称原語表記】SANOFI
(74)【代理人】
【識別番号】100127926
【弁理士】
【氏名又は名称】結田 純次
(74)【代理人】
【識別番号】100140132
【弁理士】
【氏名又は名称】竹林 則幸
(72)【発明者】
【氏名】シュテファン・ブランケ
【審査官】田中 玲子
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第03067081(EP,A1)
【文献】特表2012-507314(JP,A)
【文献】特表2017-534356(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 5/315
A61M 5/31
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
注射デバイスであって、
製品用のレセプタクル(2)を備えたハウジング(5)と、
投与予定の製品投与量を設定するための、および設定された製品投与量を表示するための用量機構であって、製品投与量を設定するためにハウジング(5)に対して第1の方向に回転可能である、かつ製品投与量を修正または投薬するためにハウジング(5)に対して第2の反対の方向に回転可能である用量スリーブ(50)を含む用量機構と、
製品を投薬するための投薬機構とを含み、該投薬機構は、
設定された製品投与量をその設定された製品投与量に対応する投薬ストローク内で排出するためにハウジング(5)に対して投薬方向に可動であるピストンロッド(8)と、
設定された製品投与量を排出するためにハウジング(5)に対して用量スリーブ(50)と共に第2の方向に回転可能である、少なくとも1つのスリーブ(7;40)と、
用量スリーブ(50)と少なくとも1つのスリーブ(7;40)の間に入れられ、用量スリーブ(50)および/または少なくとも1つのスリーブ(7;40)と共に回転可能であるクラッチ(60)とを含み、
デバイスはさらに、用量スリーブ(50)および/またはハウジング(5)および/または少なくとも1つのスリーブ(7;40)に対するクラッチ(60)の動きを検出するための第1の検出器(21)と、第1の検出器(21)から受けた信号を読み出す、記憶する、処理する、伝達する、および/または表示するための、第1の検出器(21)に接続されたデータ処理ユニット(20)とを少なくとも含み、
クラッチ(60)は、
クラッチ(60)に対する用量スリーブ(50)の相対的な増分回転が第1の方向に許容され、反対方向には妨げられるように、用量スリーブ(50)の対応する第1の歯(51)と係合するための第1のラチェット歯(61)と、
少なくとも1つのスリーブ(7;40)に対するクラッチ(60)の相対的な増分回転が第2の方向に許容され、反対方向には妨げられるように、少なくとも1つのスリーブ(7;40)の対応する第2の歯(41)と係合するための第2のラチェット歯(62)と
を含み、
第1の検出器(21)およびデータ処理ユニット(20)は、クラッチ(60)の回
転運動、クラッチ(60)の回転運動の回転角度、およびクラッチ(60)の回転運動の方向のうちの少なくとも1つを検出するように適用され、
デバイスは、クラッチ(60)と用量スリーブ(50)の相対的な軸方向位置を検出するための第2の検出器(22)をさらに含み、データ処理ユニット(20)は、第2の検出器(22)から受けた信号を読み出す、記憶する、処理する、伝達する、および/または表示するための第2の検出器(22)に接続され、
データ処理ユニット(20)は、用量設定モード、用量修正モード、または用量投薬モードにあるデバイスについての情報を、第1の検出器(21)および第2の検出器(22)から受けたデータに基づいて提供するように適用される、ことを特徴とする、前記注射デバイス。
【請求項2】
データ処理ユニット(20)は、用量サイズ、および/または投薬機構によってデバイスから排出される製品の量についての、および/または第1の検出器(21)から受けた回転プロトコル包含データに基づいて用量機構によって設定された最大用量についての情報を提供するように適用される、請求項1に記載の注射デバイス。
【請求項3】
第1の検出器(21)および/または別の検出器は、クラッチ(60)と用量スリーブ(50)および/またはハウジング(5)および/または少なくとも1つのスリーブ(7;40)との間の、第1の方向および/または第2の方向の相対的な増分回転を検出するように適用される、請求項1または2に記載の注射デバイス。
【請求項4】
クラッチ(60)と用量スリーブ(50)および/または少なくとも1つのスリーブ(7;40)との間の相対的な増分回転は、音響フィードバックを生成する、ならびに/または第1のラチェット歯(61)および第2のラチェット歯(62)は、それぞれ反対の軸方向で向き合うクラッチ(60)に設置される、請求項1~3のいずれか1項に記載の注射デバイス。
【請求項5】
第1のラチェット歯(61)および/または第2のラチェット歯(62)は、導電材料でコーティングされ、第1の歯(51)のうちの少なくとも1つおよび/または第2の歯(41)のうちの少なくとも1つは、回転増分ごとに導電材料と係合するように配置された弾性電気接点を備え、第1の検出器(21)は弾性電気接点および導電性材料を含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の注射デバイス。
【請求項6】
第1の検出器(21)は、第1のラチェット歯(61)と第1の歯(51)の間および/または第2のラチェット歯(62)と第2の歯(41)の間に設けられる、かつ回転増分ごとに歯(51、61;41、62)の係合を検出するように配置される、少なくとも1つの機械スイッチを含む、請求項1~4のいずれか1項に記載の注射デバイス。
【請求項7】
第1の検出器(21)は、磁気センサおよび誘導センサのうちの少なくとも1つを含む、請求項1~6のいずれか1項に記載の注射デバイス。
【請求項8】
第2の検出器(22)は、磁気センサおよび誘導センサのうちの少なくとも1つを含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の注射デバイス。
【請求項9】
クラッチ(60)および/または用量スリーブ(50)は金属材料を含む、請求項1~8のいずれか1項に記載の注射デバイス。
【請求項10】
データ処理ユニット(20)は、ハウジング(5)から取り外し可能に設けられた別個の構成要素部材である、またはデータ処理ユニット(20)はハウジング(5)に設置される、請求項1~のいずれか1項に記載の注射デバイス。
【請求項11】
薬剤を含むカートリッジをさらに含む、請求項1~10のいずれか1項に記載の注射デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は一般に、注射デバイス、すなわち薬剤のいくつかの使用者可変用量を選択および投薬するための薬物送達デバイスを対象とする。
【背景技術】
【0002】
ペン型薬物送達デバイスには、正式な医療訓練を受けていない人によって定期的な注射が行われる適用例がある。こうした適用例は、糖尿病の患者の間でますます一般的になっており、自己療法では、このような患者が自分の糖尿病の効果的な管理を行うことが可能になる。実際に、このような薬物送達デバイスは、使用者が薬剤のいくつかの使用者可変用量を個別に選択し投薬することを可能にする。本発明は、単に所定の用量を投薬できるようにするだけで設定用量を増加または減少させる可能性のない、いわゆる固定用量デバイスは対象としない。
【0003】
基本的に2つのタイプの薬物送達デバイス:再設定可能デバイス(すなわち、再使用可能)および再設定不能デバイス(すなわち、使い捨て)がある。たとえば、使い捨てペン型送達デバイスは自己充足型デバイスとして供給される。このような自己充足型デバイスには、着脱可能充填済みカートリッジがない。というより、充填済みカートリッジは、デバイス自体を壊さなければこれらのデバイスから取り出し、取り替えることができない。それゆえに、このような使い捨てデバイスには、再設定可能用量設定機構がなくてもよい。本発明は、両方のタイプのデバイス、すなわち使い捨てデバイスならびに再使用可能デバイスに適用することができる。
【0004】
これらのタイプのペン送達デバイスは(拡大された万年筆に似ていることが多いのでこのように名づけられた)、一般に3つの主な要素:多くの場合ハウジングまたはホルダの中に含まれるカートリッジを含むカートリッジセクション;カートリッジセクションの一端に連結されたニードルアセンブリ;およびカートリッジセクションの他端に連結された用量セクションを含む。カートリッジ(アンプルと呼ばれることが多い)は通常、医薬品(たとえば、インスリン)が充填されている貯蔵器と、カートリッジ貯蔵器の一端に設置された可動ゴム型の栓またはストッパと、多くはくびれている他端に設置された穿孔可能ゴム封止を有する上部とを含む。圧着環状金属帯が通常、ゴム封止を適所に保持するために使用される。カートリッジハウジングは通常、プラスチックで作られるが、カートリッジ貯蔵器は歴史的にガラスで作られてきた。
【0005】
ニードルアセンブリは通常、交換可能両頭針アセンブリである。注射の前に、交換可能両頭針アセンブリがカートリッジアセンブリの一端に取り付けられ、用量が設定され、次いで設定用量が投与される。このような着脱可能ニードルアセンブリは、カートリッジアセンブリの穿孔可能封止端に装着または押し付けられる(すなわち、カチッと留められる)。
【0006】
用量セクションまたは用量設定機構は通常、ペンデバイスの、用量を設定(選択)するために使用される部分である。注射の間、用量設定機構の中に含まれるスピンドルまたはピストンロッドが、カートリッジの栓またはストッパを押す。この力により、カートリッジの中に含まれる医薬品が、取り付けられたニードルアセンブリを通して注射される。注射の後、ほとんどの薬物送達デバイスおよび/またはニードルアセンブリの製造業者および納入業者によって一般に推奨されるように、ニードルアセンブリは取り外され廃棄される。
【0007】
薬物送達デバイスタイプの別の区分は駆動機構に当てはまる:たとえば使用者が注射ボタンに力を加えることによって手で駆動されるデバイス、ばねなどによって駆動されるデバイス、およびこれら2つの構成概念を合わせたデバイス、すなわち使用者が注射力をかけることがやはり必要とされるばね補助式デバイスがある。ばね型デバイスは、予負荷がかけられているばねと、用量選択中に使用者によって負荷がかけられるばねとを含む。いくつかの蓄積エネルギーデバイスでは、ばね予負荷と、たとえば用量設定中に使用者によって提供される追加エネルギーとの組合せを使用する。
【0008】
製品用のレセプタクル付きハウジングと、投与予定の製品投与量を設定するための、および設定された製品投与量を表示するための用量機構と、製品を投薬するための投薬機構とを含む注射デバイスが、たとえば、手で駆動されるデバイスを開示する特許文献1により、あるいはばね駆動デバイスを開示する特許文献2、特許文献3、特許文献4により知られている。
【0009】
これらの知られているデバイスは、実際に設定された用量サイズに関して使用者に視覚フィードバックを提供する表示装置を備える。このようなデバイスの表示装置は通常、実際に設定された用量だけがハウジングの開口部または窓から見えるように数字スリーブの外面に設けられている、用量サイズに対応する一連の数字が付いた数字スリーブを含む。特に視覚障害のある使用者には、このような情報が異なる方法で、たとえば別個の表示装置ユニットで、および/または情報が記憶されるように、得られることが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】EP2814547B1
【文献】WO2014/117944A1
【文献】WO2016/016184A1
【文献】WO2017/134131A1
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、上記の解決策の改善された代替形態を提供することである。特に、本発明の目的は、設定された用量サイズに関して使用者に付加的な情報をもたらす注射デバイスまたは薬物送達デバイスを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
この目的は、請求項1に記載の注射デバイスによって解決される。
【0013】
本発明による注射デバイスは、製品用のレセプタクルを備えたハウジングと、投与予定の製品投与量を設定するための、および設定された製品投与量を表示するための用量機構と、製品を投薬するための投薬機構とを含む。用量機構は、用量スリーブ、たとえば数字または記号をその外面に備えた数字スリーブを含むことができ、この用量スリーブは、製品投与量を設定するためにハウジングに対して第1の方向に回転可能であり、製品投与量を修正または投薬するためにハウジングに対して第2の反対の方向に回転可能である。デバイスの投薬機構は、設定された製品投与量をその設定された製品投与量に対応する投薬ストローク内で排出するためにハウジングに対して投薬方向に可動であるピストンロッドと、設定された製品投与量を排出するためにハウジングに対して第2の方向に用量スリーブと共に回転可能である、少なくとも1つのスリーブと、用量スリーブと少なくとも1つのスリーブとの間に入れられ、用量スリーブおよび/または少なくとも1つのスリーブと共に回転可能であるクラッチとを含み得る。本発明は、注射デバイスの1つまたはそれ以上の構成要素部材の動きを検出することが、たとえば実際に設定された用量サイズおよび/またはデバイスの実際の動作モードを特定するために用いられる、というアイデアに基づく。クラッチとデバイスの別の構成要素部材との間の相対回転が、たとえば用量単位に応じて徐々に生じる場合、この相対回転は、実際に設定された用量サイズを特定するために用いられる。たとえば、デバイスはさらに、用量スリーブおよび/またはハウジングおよび/または少なくとも1つのスリーブに対するクラッチの動きを検出するための少なくとも第1の検出器と、第1の検出器から受けた信号を読み出す、記憶する、処理する、伝達する、および/または表示するために第1の検出器に接続されたデータ処理ユニットとを含み得る。
【0014】
1つの例示的な実施形態では、クラッチは、クラッチに対する用量スリーブの相対的な増分回転が1つの方向に、好ましくは第1の方向に許容され、反対方向には妨げられるように、用量スリーブの対応する第1の歯と係合するための第1のラチェット歯と、少なくとも1つのスリーブに対するクラッチの相対的な増分回転が1つの方向に、好ましくは第2の方向に許容され、反対方向には妨げられるように、少なくとも1つのスリーブの対応する第2の歯と係合するための第2のラチェット歯とを含み得る。たとえば、歯は鋸歯の形を有することができる。クラッチは、特許文献1の用量スリーブと連結スリーブの間に設けられ挿入された歯付きリングのような、歯付きリングの形を有し得る。好ましくは、第1のラチェット歯および第2のラチェット歯は、それぞれ反対の軸方向で向き合うクラッチに設置される。増分的または段階的回転により、一対の歯が再係合するたびにクリック音が生じ、それによって音響および/または触覚フィードバックが使用者にもたらされ得る。通常、クリックの数をカウントすることにより使用者が設定用量サイズを特定できるように、1つのクリックが1用量単位に対応する。
【0015】
本発明は、用量設定を可能にする、かつ設定された用量を投薬するデバイス、および用量設定、用量修正を可能にする、かつ設定された用量を投薬するデバイスに適している。この点で、用量修正とは、設定された用量のサイズを、設定された用量を投薬することなく減らすことと定義される。言い換えると、用量設定という用語は、設定用量を増加させることを示して使用され、用量修正という用語は、設定用量を減少させることを示して使用される。用量設定および用量修正には、第1および/または第2のラチェット歯の相対運動が含まれ得る。したがって、用量設定中および用量修正中に生成されたクリックを検出することが、結果として得られた用量サイズを特定するために用いられる。
【0016】
第1の検出器およびデータ処理ユニットは、好ましくは、クラッチの回転運動、止めホイールの回転運動の回転角度、および止めホイールの回転運動の方向のうちの少なくとも1つを検出するように適用される。回転運動の開始および停止を検出することが、デバイスが使用されている、または使用されていないことを示す。さらに回転角が、薬物送達デバイスによって選択および/または投薬される用量のサイズを示す。回転運動の方向は、デバイスの動作モードを示し、たとえばクラッチが、用量設定中に第1の方向に回転し、用量修正および/または用量投薬中に第2の、反対の方向に回転するかどうかを示す。要約すると、クラッチの動きを検出すると、デバイスの動作モードに関して使用者にフィードバックを与えるために必要な情報がもたらされる。さらに、データ処理ユニットは、用量サイズ、および/または投薬機構によってデバイスから排出される製品の量、および/または第1の検出器から受けた回転プロトコル包含データに基づいて用量機構によって設定された最大用量についての情報を提供するように適用される。第1の検出器および/または別の検出器が、クラッチと、デバイスのいずれか別の構成要素部材との間、たとえば、用量スリーブおよび/またはハウジングおよび/または少なくとも1つのスリーブとの間の第1の方向および/または第2の方向の相対的な増分回転を検出するように適用される。
【0017】
上記のように、クラッチと用量スリーブおよび/または少なくとも1つのスリーブとの間の相対的な増分回転により、使用者への音響フィードバックを生成することができる。場合により、第1の検出器は、クラッチと用量スリーブおよび/または少なくとも1つのスリーブとの間の相対的な増分回転によって生成されるこの音響フィードバックを検出するための、少なくとも1つのセンサを含む。用量設定中に生成される音は、センサが用量設定と用量修正を区別できるように、用量修正中に生成される音とは異なり得る。用量が設定されているのか修正されているのかを、たとえばクラッチおよび/または他の構成要素部材の回転方向を検出して特定するために、他の機能が組み合わされて、または別法として使用される。
【0018】
音響フィードバックを検出することの代替実施形態として、またはそれに加えて、第1のラチェット歯および/または第2のラチェット歯は導電材料でコーティングされ、第1の歯のうちの少なくとも1つ、および/または第2の歯のうちの少なくとも1つは、回転増分ごとに導電材料と係合するように配置された弾性電気接点を備える。言い換えると、第1の検出器は、弾性電気接点および導電材料を含み、各増分回転運動が、データ処理ユニットによってカウントされる電気信号をもたらす。結果として得られる用量はたとえば、ダイヤル設定端部(たとえば用量スリーブとクラッチの間のインターフェース)の信号をカウントし、修正端部(たとえばクラッチと少なくとも1つのスリーブの間のインターフェース)のカウントされた信号を差し引くことで計算される。
【0019】
別の実施形態によれば、第1の検出器は、第1のラチェット歯と第1の歯の間および/または第2のラチェット歯と第2の歯の間に設けられる、かつ回転増分ごとに歯の係合を検出するように配置される、少なくとも1つの機械スイッチを含む。各スイッチは、増分回転ごとにそれぞれのラチェット歯と係合し、そうして電気信号を生成する。用量計算は、上記のデータ処理ユニットによって同様に行われる。
【0020】
別の実施形態では、第1の検出器は、たとえば用量スリーブおよび/またはクラッチの回転位置を検出するのに適している、磁気センサおよび誘導センサのうちの少なくとも1つを含む。このようなセンサから受けたデータは、たとえばボタンまたは用量スリーブに取り付けられたアドオンデバイスによって分析される。この方法は、可能性のある用量修正を考慮に入れて設定用量サイズを計算するために用いられる。言い換えると、用量スリーブおよびクラッチの回転位置を分析することによって、選択された用量を検出することが可能である。
【0021】
注射デバイスはさらに、クラッチと用量スリーブの相対的な軸方向位置を検出するための第2の検出器を含み得る。データ処理ユニットは、第2の検出器から受けた信号を読み出す、記憶する、処理する、伝達する、および/または表示するために第2の検出器に接続される。追加の検出器は、クラッチに対する用量スリーブの相対的な軸方向位置を決定することによって用量設定、用量修正および/または用量投薬を区別することが必要とされる。たとえば、第2の検出器は、磁気センサおよび誘導センサのうちの少なくとも1つを含む。
【0022】
磁気センサまたは誘導センサを使用するには、クラッチおよび/または用量スリーブが金属材料を含むことが必要になり得る。たとえば、用量スリーブおよび/またはクラッチは、金属化されるかコーティングされるか印刷され、または添加物が、通常は主としてプラスチック材料を含む構成要素部材に加えられる。
【0023】
データ処理ユニットは、その用量設定モード、その用量修正モード、またはその用量投薬モードにあるデバイスについての情報を、第1の検出器および第2の検出器から受けたデータに基づいて提供するように適用される。データ処理ユニットは、注射デバイスのハウジングの中に設けられる。たとえば、データ処理ユニットならびに第1および第2の検出器は、注射デバイスのハウジングの中に恒久的に設けられる。これには、データ処理ユニットが第1および第2の検出器のうちの少なくとも1つに線で接続される実施形態が含まれる。一代替実施形態として、データ処理ユニットは、ハウジングから取り外し可能とすることができ、かつ/または第1および第2の検出器のうちの少なくとも1つに無線接続手段によって接続される。言い換えると、データ処理ユニットは、ハウジングに取り付けられハウジングから取り外される、アドオンデバイスとすることができる。データ処理ユニットと少なくとも1つの検出器の間の無線通信の例としては、近距離無線通信(NFC)による、またはブルートゥース(BT)による通信が挙げられる。
【0024】
さらに、データ処理ユニットは、別個のデータ処理デバイスおよび/または表示デバイス、たとえば携帯型手持ち電子デバイスとの間で、近距離無線通信(NFC)によって、またはブルートゥース(BT)によってデータを送出する、および/または受けるように適用される。データは、それぞれの使用(注射)の後に照会され、読み出され、またはアドオンデバイスが、そのデータを読み出し、処理し、収納し、さらなる処理のために回転プロトコルを別のデバイスへ送出することもできる。アドオンデバイスは別法として、未処理データを送信することもできる。
【0025】
少なくとも1つのスリーブは、ピストンロッドと直接係合している構成要素部材とすることができる。たとえば、少なくとも1つのスリーブは、ピストンロッドとスプライン連結している、またはピストンロッドとねじ係合している駆動スリーブとすることができる。しかし、一代替実施形態として、少なくとも1つのスリーブは、ピストンロッドに間接的に、たとえば少なくとも1つのスリーブとピストンロッドの間に入れられたクラッチまたは伝達要素によって連結される、構成要素部材とすることができる。少なくとも1つのスリーブは、ピストンロッドに恒久的に連結され、または注射デバイスの特定のモードにおいてのみ、たとえば用量投薬中に、ピストンロッドと選択的に連結される。注射デバイスは2つのスリーブを含むことができ、これらは、設定された製品投与量を排出するためにハウジングに対して回転可能であり、また、互いに回転不能に拘束されるが、投薬方向には互いに変位可能である。第2の検出器は、これらのスリーブのうちの一方または両方のスリーブの起動、すなわち回転を検出することができる。
【0026】
注射デバイスは通常、薬剤を含むカートリッジを含む。「薬剤」という用語は、本明細書で用いられる場合、少なくとも1つの薬学的に活性な化合物を含む医薬製剤を意味し、
ここで、一実施形態では、薬学的に活性な化合物は、最大1500Daまでの分子量を有し、かつ/あるいはペプチド、タンパク質、多糖、ワクチン、DNA、RNA、酵素、抗体もしくはそのフラグメント、ホルモン、もしくはオリゴヌクレオチド、または上述した薬学的に活性な化合物の混合物であり、
ここで、さらなる実施形態では、薬学的に活性な化合物は、糖尿病もしくは糖尿病に伴う合併症、たとえば、糖尿病性網膜症、血栓塞栓障害、たとえば、深部静脈血栓塞栓症もしくは肺血栓塞栓症、急性冠症候群(ACS)、アンギナ、心筋梗塞、癌、黄斑変性、炎症、枯草熱、アテローム硬化症および/または関節リウマチの治療および/または予防に有用であり、
ここで、さらなる実施形態では、薬学的に活性な化合物は、糖尿病または糖尿病に伴う合併症、たとえば、糖尿病性網膜症の治療および/または予防のための少なくとも1つのペプチドを含み、
ここで、さらなる実施形態では、薬学的に活性な化合物は、少なくとも1つのヒトインスリンもしくはヒトインスリンアナログもしくは誘導体、グルカゴン様ペプチド(GLP-1)もしくはそのアナログもしくは誘導体、もしくはエキセンジン-3もしくはエキセンジン-4またはエキセンジン-3もしくはエキセンジン-4のアナログもしくは誘導体を含む。
【0027】
インスリンアナログは、たとえば、Gly(A21)、Arg(B31)、Arg(B32)ヒトインスリン;Lys(B3)、Glu(B29)ヒトインスリン;Lys(B28)、Pro(B29)ヒトインスリン;Asp(B28)ヒトインスリン;位置B28のプロリンがAsp、Lys、Leu、ValまたはAlaに置き換えられたうえに位置B29のLysがProに置き換えられていてもよいヒトインスリン;Ala(B26)ヒトインスリン;Des(B28-B30)ヒトインスリン;Des(B27)ヒトインスリンおよびDes(B30)ヒトインスリンである。
【0028】
インスリン誘導体は、たとえば、B29-N-ミリストイル-des(B30)ヒトインスリン;B29-N-パルミトイル-des(B30)ヒトインスリン;B29-N-ミリストイルヒトインスリン;B29-N-パルミトイルヒトインスリン;B28-N-ミリストイルLysB28ProB29ヒトインスリン;B28-N-パルミトイル-LysB28ProB29ヒトインスリン;B30-N-ミリストイル-ThrB29LysB30ヒトインスリン;B30-N-パルミトイル-ThrB29LysB30ヒトインスリン;B29-N-(N-パルミトイル-γ-グルタミル)-des(B30)ヒトインスリン;B29-N-(N-リトコリル-γ-グルタミル)-des(B30)ヒトインスリン;B29-N-(ω-カルボキシヘプタデカノイル)-des(B30)ヒトインスリンおよびB29-N-(ω-カルボキシヘプタデカノイル)ヒトインスリンである。
【0029】
エキセンジン-4は、たとえば、H-His-Gly-Glu-Gly-Thr-Phe-Thr-Ser-Asp-Leu-Ser-Lys-Gln-Met-Glu-Glu-Glu-Ala-Val-Arg-Leu-Phe-Ile-Glu-Trp-Leu-Lys-Asn-Gly-Gly-Pro-Ser-Ser-Gly-Ala-Pro-Pro-Pro-Ser-NH2の配列のペプチドであるエキセンジン-4(1-39)を意味する。
【0030】
エキセンジン-4誘導体は、たとえば、以下のリストの化合物:
H-(Lys)4-desPro36,desPro37エキセンジン-4(1-39)-NH2、
H-(Lys)5-desPro36,desPro37エキセンジン-4(1-39)-NH2、
desPro36エキセンジン-4(1-39)、
desPro36[Asp28]エキセンジン-4(1-39)、
desPro36[IsoAsp28]エキセンジン-4(1-39)、
desPro36[Met(O)14,Asp28]エキセンジン-4(1-39)、
desPro36[Met(O)14,IsoAsp28]エキセンジン-4(1-39)、
desPro36[Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン-4(1-39)、
desPro36[Trp(O2)25,IsoAsp28]エキセンジン-4(1-39)、
desPro36[Met(O)14 Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン-4(1-39)、
desPro36[Met(O)14 Trp(O2)25,IsoAsp28]エキセンジン-4(1-39);もしくは
desPro36[Asp28]エキセンジン-4(1-39)、
desPro36[IsoAsp28]エキセンジン-4(1-39)、
desPro36[Met(O)14,Asp28]エキセンジン-4(1-39)、
desPro36[Met(O)14,IsoAsp28]エキセンジン-4(1-39)、
desPro36[Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン-4(1-39)、
desPro36[Trp(O2)25,IsoAsp28]エキセンジン-4(1-39)、
desPro36[Met(O)14 Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン-4(1-39)、
desPro36[Met(O)14 Trp(O2)25,IsoAsp28]エキセンジン-4(1-39)、
(ここで、基-Lys6-NH2が、エキセンジン-4誘導体のC-末端に結合していてもよい);
【0031】
もしくは、以下の配列のエキセンジン-4誘導体:
desPro36エキセンジン-4(1-39)-Lys6-NH2(AVE0010)、
H-(Lys)6-desPro36[Asp28]エキセンジン-4(1-39)-Lys6-NH2、
desAsp28Pro36,Pro37,Pro38エキセンジン-4(1-39)-NH2、
H-(Lys)6-desPro36,Pro38[Asp28]エキセンジン-4(1-39)-NH2、
H-Asn-(Glu)5desPro36,Pro37,Pro38[Asp28]エキセンジン-4(1-39)-NH2、
desPro36,Pro37,Pro38[Asp28]エキセンジン-4(1-39)-(Lys)6-NH2、
H-(Lys)6-desPro36,Pro37,Pro38[Asp28]エキセンジン-4(1-39)-(Lys)6-NH2、
H-Asn-(Glu)5-desPro36,Pro37,Pro38[Asp28]エキセンジン-4(1-39)-(Lys)6-NH2、
H-(Lys)6-desPro36[Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン-4(1-39)-Lys6-NH2、
H-desAsp28Pro36,Pro37,Pro38[Trp(O2)25]エキセンジン-4(1-39)-NH2、
H-(Lys)6-desPro36,Pro37,Pro38[Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン-4(1-39)-NH2、
H-Asn-(Glu)5-desPro36,Pro37,Pro38[Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン-4(1-39)-NH2、
desPro36,Pro37,Pro38[Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン-4(1-39)-(Lys)6-NH2、
H-(Lys)6-desPro36,Pro37,Pro38[Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン-4(1-39)-(Lys)6-NH2、
H-Asn-(Glu)5-desPro36,Pro37,Pro38[Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン-4(1-39)-(Lys)6-NH2、
H-(Lys)6-desPro36[Met(O)14,Asp28]エキセンジン-4(1-39)-Lys6-NH2、
desMet(O)14 Asp28 Pro36,Pro37,Pro38 エキセンジン-4(1-39)-NH2、
H-(Lys)6-desPro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Asp28]エキセンジン-4(1-39)-NH2、
H-Asn-(Glu)5-desPro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Asp28]エキセンジン-4(1-39)-NH2、
desPro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Asp28]エキセンジン-4(1-39)-(Lys)6-NH2、
H-(Lys)6-desPro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Asp28]エキセンジン-4(1-39)-(Lys)6-NH2、
H-Asn-(Glu)5 desPro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Asp28]エキセンジン-4(1-39)-(Lys)6-NH2、
H-Lys6-desPro36[Met(O)14,Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン-4(1-39)-Lys6-NH2、
H-desAsp28Pro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Trp(O2)25]エキセンジン-4(1-39)-NH2、
H-(Lys)6-desPro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Asp28]エキセンジン-4(1-39)-NH2、
H-Asn-(Glu)5-desPro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン-4(1-39)-NH2、
desPro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン-4(1-39)-(Lys)6-NH2、
H-(Lys)6-desPro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン-4(S1-39)-(Lys)6-NH2、
H-Asn-(Glu)5-desPro36,Pro37,Pro38[Met(O)14,Trp(O2)25,Asp28]エキセンジン-4(1-39)-(Lys)6-NH2;
または前述のいずれか1つのエキセンジン-4誘導体の薬学的に許容可能な塩もしくは溶媒和物
から選択される。
【0032】
ホルモンは、たとえば、Rote Liste、2008年版、50章に列挙されている脳下垂体ホルモンまたは視床下部ホルモンまたはレギュラトリー活性ペプチドおよびそれらのアンタゴニスト、たとえば、ゴナドトロピン(フォリトロピン、ルトロピン、コリオンゴナドトロピン、メノトロピン)、ソマトロピン(Somatropine)(ソマトロピン(Somatropin))、デスモプレシン、テルリプレシン、ゴナドレリン、トリプトレリン、リュープロレリン、ブセレリン、ナファレリン、ゴセレリンである。
【0033】
多糖は、たとえば、グルコサミノグリカン、ヒアルロン酸、ヘパリン、低分子量ヘパリンもしくは超低分子量ヘパリンもしくはそれらの誘導体、もしくは硫酸化形たとえばポリ硫酸化形の上述した多糖、および/またはそれらの薬学的に許容可能な塩である。ポリ硫酸化低分子量ヘパリンの薬学的に許容可能な塩の例は、エノキサパリンナトリウムである。
【0034】
抗体は、基本構造を共有するイムノグロブリンとしても公知の球状血漿タンパク質(約150kDa)である。これらは、アミノ酸残基に付加された糖鎖を有するので、糖タンパク質である。各抗体の基本的な機能単位はイムノグロブリン(Ig)単量体(Ig単位のみを含む)であり、分泌型抗体は、IgAなどの2つのIg単位を有する二量体、硬骨魚のIgMのような4つのIg単位を有する四量体、または哺乳動物のIgMのように5つのIg単位を有する五量体でもあり得る。
【0035】
Ig単量体は、4本のポリペプチド鎖;システイン残基間のジスルフィド結合によって結合した2本の同一の重鎖および2本の同一の軽鎖からなる「Y」字型の分子である。各重鎖は約440アミノ酸長であり、各軽鎖は約220アミノ酸長である。重鎖および軽鎖はそれぞれ、これらの折り畳み構造を安定化する鎖内ジスルフィド結合を含む。各鎖は、Igドメインと呼ばれる構造ドメインで構成される。これらのドメインは、70~110個のアミノ酸を含み、そのサイズおよび機能に従って異なるカテゴリー(たとえば、可変すなわちV、および定常すなわちC)に分類される。これらは、2つのβシートが、保存されたシステインと他の荷電アミノ酸との間の相互作用によって一緒に保持される「サンドイッチ」形状を作り出す特徴的なイムノグロブリン折り畳み構造を有する。
【0036】
α、δ、ε、γ、およびμで表される5タイプの哺乳動物Ig重鎖が存在する。存在する重鎖のタイプにより抗体のアイソタイプが定義され、これらの鎖はそれぞれ、IgA、IgD、IgE、IgG、およびIgM抗体中に見出される。
【0037】
異なる重鎖はサイズおよび組成が異なり、αおよびγは約450個のアミノ酸を含み、δは約500個のアミノ酸を含み、μおよびεは約550個のアミノ酸を有する。各重鎖は、2つの領域、すなわち定常領域(C)と可変領域(V)とを有する。1つの種において、定常領域は、同じアイソタイプのすべての抗体で本質的に同一であるが、異なるアイソタイプの抗体では異なる。重鎖γ、αおよびδは、3つのタンデム型のIgドメインと、可撓性を加えるためのヒンジ領域とから構成される定常領域を有し、重鎖μおよびεは、4つのイムノグロブリンドメインから構成される定常領域を有する。重鎖の可変領域は、異なるB細胞によって産生された抗体では異なるが、単一B細胞またはB細胞クローンによって産生された抗体すべてについては同じである。各重鎖の可変領域は、約110アミノ酸長であり、単一のIgドメインから構成される。
【0038】
哺乳動物では、λおよびκで表される2タイプのイムノグロブリン軽鎖が存在する。軽鎖は、2つの連続するドメイン、すなわち1つの定常ドメイン(CL)および1つの可変ドメイン(VL)を有する。軽鎖のおおよその長さは、211~217個のアミノ酸である。各抗体は、常に同一である2本の軽鎖を含み、哺乳動物の各抗体につき、軽鎖κまたはλの1つのタイプのみが存在する。
【0039】
すべての抗体の一般的な構造は非常に類似しているが、所与の抗体の固有の特性は、上記で詳述したように、可変(V)領域によって決定される。より具体的には、各軽鎖(VL)について3つおよび重鎖(VH)について3つの可変ループが、抗原との結合、すなわちその抗原特異性に関与する。これらのループは、相補性決定領域(CDR)と呼ばれる。VHドメインおよびVLドメインの両方からのCDRが抗原結合部位に寄与するので、最終的な抗原特異性を決定するのは重鎖と軽鎖の組合せであり、どちらか単独ではない。
【0040】
「抗体フラグメント」は、上記で定義した少なくとも1つの抗原結合フラグメントを含み、そのフラグメントが由来する完全抗体と本質的に同じ機能および特異性を示す。パパインによる限定的なタンパク質消化により、Igプロトタイプが3つのフラグメントに切断される。1つの完全なL鎖と約半分のH鎖とをそれぞれが含む2つの同一のアミノ末端フラグメントが、抗原結合フラグメント(Fab)である。サイズは同等であるが鎖間ジスルフィド結合を有する両方の重鎖の半分の位置でカルボキシル末端を含む第3のフラグメントは、結晶化可能なフラグメント(Fc)である。Fcは、炭水化物、相補結合部位、およびFcR部位を含む。限定的なペプシン消化により、Fab片とH-H鎖間ジスルフィド結合を含むヒンジ領域の両方を含む単一のF(ab’)2フラグメントが得られる。F(ab’)2は、抗原結合に対して二価である。F(ab’)2のジスルフィド結合を、Fab’を得るために切断することができる。さらに、重鎖および軽鎖の可変領域を融合して、単鎖可変フラグメント(scFv)を形成することができる。
【0041】
薬学的に許容可能な塩は、たとえば、酸付加塩および塩基性塩である。酸付加塩は、たとえば、HClまたはHBr塩である。塩基性塩は、たとえば、アルカリもしくはアルカリ土類、たとえば、Na+、もしくはK+、もしくはCa2+から選択されるカチオン、またはアンモニウムイオンN+(R1)(R2)(R3)(R4)、(式中、R1~R4は互いに独立に:水素、場合により置換されたC1~C6アルキル基、場合により置換されたC2~C6アルケニル基、場合により置換されたC6~C10アリール基、または場合により置換されたC6~C10ヘテロアリール基を意味する)を有する塩である。薬学的に許容可能な塩のさらなる例は、「Remington’s Pharmaceutical Sciences」17版、Alfonso R.Gennaro(編)、Mark Publishing Company、Easton、Pa.、U.S.A.、1985およびEncyclopedia of Pharmaceutical Technologyに記載されている。
【0042】
薬学的に許容可能な溶媒和物は、たとえば、水和物である。
【0043】
次に、非限定的、例示的な実施形態について、添付の図面を参照して説明する。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】本発明による注射デバイスの一実施形態の個々の部材の分解組立図である。
図2図1の実施形態の一細部の断面図である。
図3】a~cは、図1の注射デバイスの構成要素部材を示す図である。
図4】データ処理ユニットをセンサと共に概略的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0045】
図1は、本発明による注射デバイスの一実施形態の個々の部材の分解組立図を示す。この実施形態は、いわゆる使い捨てペンとして設計されている。すなわち、注射デバイスは、完全に組み立てられて、すなわち使用者に投与予定の製品と一緒に、使用者に支給される。
【0046】
注射処置の典型的な過程は次の通りとすることができる:使用者は、保護キャップ1を注射デバイスから取り外し、注射針(図示せず)をレセプタクル2のニードルホルダ2aに取り付ける。次に、投与量が回転つまみ11aによって調整される。この目的のために、回転つまみ11aが回され、それにより、用量機構を形成する、または用量機構の一部である用量スリーブ50が注射デバイスから回し出される。用量スリーブ50は、所望の投与量がねじ付きスリーブ9の窓に表示されるまで注射デバイスから回し出される。過度に高い投与量が間違って設定された場合には、投与量は、回転つまみを反対方向に回すことによって修正され、用量スリーブ50はハウジングに回し戻される。用量スリーブは、最大調整可能投与量を所定の値に制限する。この値を通り越してハウジングの外へ用量スリーブを回して出そうとすることがあれば、用量スリーブ50の径方向制限止め具とねじ付きスリーブ9の対向制限止め具とが、相互作用によってさらなる回転を防止する。用量設定および修正運動の間、用量スリーブ50は、連結スリーブ40に対して回転する。連結スリーブ40は、フォームフィットまたは摩擦フィットの形でハウジング5に対して逆転ロックによって、たとえば、ねじ付きナット7に対して回転不能の歯付きリング7aによって回転不能に保持され、また、ハウジング5の内面のラチェット歯の対応する組に向けて、ばね7bによって軸方向に付勢される。ハウジング5とねじ付きナット7の間のこのラチェットは、投薬中にリング7aの歯がハウジング5の対応する歯の上で滑るときに、可聴および/または触覚のフィードバックを生成するクリッカを形成することができる。
【0047】
連結スリーブ40は、用量スリーブ50によって軸方向に運ばれる連結スリーブ40と固定ねじ付きナット7との間の相対軸方向運動を可能にするスプラインによって、軸方向固定ねじ付きナット7に恒久的に回転不能にロックされる。ねじ付きナット7は、ばね7bによる付勢に抗してねじ付きナット7を保持する挿入物6によって、ハウジング5内に保持される。クラッチ60が図1に歯付きリングとして示されており、このリングは、回転つまみ11aと連結スリーブ40のフランジとの間に、用量スリーブ50と連結スリーブ40の相対回転が用量設定中に可能になるように入れられている。図2および図3a、図3b、図3cは、クラッチが、用量スリーブ50の対応する第1の歯51の方に向いている端部に第1のラチェット歯61を備え、連結スリーブ40の対応する第2の歯41の方に向いている反対側の端部には第2のラチェット歯62を備えることを詳細に示す。
【0048】
用量スリーブ50とクラッチ60の間のラチェット歯インターフェース61、51は、たとえば用量設定中に用量スリーブ50の第1の方向の回転が固定クラッチ60に対して許容され、歯51、61が互いに滑り、各回転増分で再係合するように設計される。歯51、61が鋸歯状に設計されているので、用量スリーブ50とクラッチ60の反対方向の相対回転が防止される。連結スリーブ40とクラッチ60の間のラチェット歯インターフェース62、41は、たとえば用量修正中にクラッチ60の第2の方向の回転が固定連結スリーブ40に対して許容され、歯41、62が互いに滑り、各回転増分で再係合するように設計される。歯41、62が鋸歯状に設計されているので、連結スリーブ40とクラッチ60の反対方向の相対回転が防止される。ばね13は、ラチェットインターフェース51、61および41、62を接触した状態で保持するが、ばね13の付勢に抗してクラッチ60および/または連結スリーブ40の軸方向変位は可能にして、上述のようにインターフェースの滑りを可能にする。
【0049】
図に描かれた実施形態では、複数の歯61、62、51および41が示されている。しかし、注射デバイスの機能は、クラッチ60に複数の第1のラチェット歯61がある状態で、少なくとも1つの歯51が用量スリーブ50に設けられるとしても同じであり、逆も同様である。同じように、複数の第2のラチェット歯62が少なくとも1つの歯41と相互作用することができ、逆も同様である。複数の係合歯を有するインターフェースによって伝達されるトルクは、単一の対だけの歯係合と比較して増大するが、歯を1つだけ、または2つ3つだけ構成要素部材のうちの1つに設けるのは、構成要素部材にセンサを設ける場合には有利である。
【0050】
所望の投与量が設定されたならば、注射針が使用者の体の意図された位置に挿入される。次に使用者は、ボタン14と連結スリーブ40の間に入れられているばね13による付勢に抗して、排出ボタン14を遠位軸方向に押す。この軸方向運動は、連結スリーブ40と用量スリーブ50の間の相対回転をクラッチ60の歯付きリングによって阻止する。すなわち、連結スリーブ40と用量スリーブ50は、クラッチ60によって回転不能に拘束される。遠位軸方向にさらに押した場合には、用量スリーブは螺合運動の形でハウジングの中に戻り始める。用量スリーブ50と連結スリーブ40の間に回転ロックが確立されているので、連結スリーブ40は用量スリーブ50と同じ運動を行う。連結スリーブ40が軸方向固定ねじ付きナット7に恒久的に回転不能にロックされているので、用量スリーブ50の回転運動はねじ付きナット7に伝達される。連結スリーブ40がねじ付きナット7に軸方向に可動に取り付けられているので、軸方向の力はねじ付きナット7に伝達されない。したがって、回転するねじ付きナット7は、ねじ付きピストンロッド8の軸方向運動を遠位方向に生じさせ、後者は、軸方向に案内され、スプライン8aによってハウジング5内で回転不能にロックされ、外部ねじ山8gによってねじ付きナット7とねじ係合している。フランジ4は、カートリッジ3の栓に作用し、ねじ付きピストンロッド8の遠位方向の変位にも対応して栓を押し、以前に設定された投与量が排出すなわち投与される。用量スリーブがハウジングの中に完全に回し戻されたときの投与の終了時に、用量スリーブ50の径方向止め具およびねじ付きスリーブ9が、さらなる排出および用量スリーブの過回転を防止する。
【0051】
図1の実施形態は、最後に設定された投与量が完全に排出または注射されることを確実にする、任意選択の制限デバイスを示す。この目的のために、用量スリーブ50には、同軸に付けられた内側歯部があり、連結スリーブ40には、止めホイール30が挿入される横方向切り欠きがある。制限デバイスの機能は、より詳細に特許文献1に記載されている。
【0052】
図1の実施形態はさらに、第1および第2の検出器21、22から受けた信号に応答するデータを読み出すための、第1の検出器21および第2の検出器22に接続されたデータ処理ユニット20を示す。データ処理ユニット20は、ハウジング5の外面に配置されている構成要素部材として描かれている。このデータ処理ユニットは、ハウジング5に恒久的に取り付けられてよく、またはハウジングの一体化している部材とする、もしくは別個の取り外し可能ユニットとすることができる。データ処理ユニット20は、電源と、データ処理、データ収納および/または情報の表示に適しているPCBとを含み得る。
【0053】
第1の検出器21はクラッチ60に配置される。より詳細には、第1の検出器21は、クラッチのラチェット歯61、62にコーティングを含み得る。たとえば、ラチェット歯61、62は、導電材料でコーティングされ、たとえば弾性変形可能な電気接点が、導電材料と係合するために第1の歯51および/または第2の歯41に配置される。したがって、歯51、61または62、41が再係合するたびに、電気信号が生成または伝達される。
【0054】
クラッチ60に少なくとも部分的に設けられる第1の検出器21の代わりに、第1の検出器21が用量スリーブ50に設けられる。たとえば、第1の検出器21は、磁気回転エンコーダ(直交)、振動構造微小電子機械システム(MEMS)ジャイロスコープ、またはMEMSジャイロスコープと加速度計の組合せとすることができる。これらの小型デバイスは、用量スリーブ50の中に容易に組み込むことができる。必要であれば、キャビティ30aは拡張される。一般に、ジャイロスコープは回転運動を測定する。MEMS(微小電子機械システム)ジャイロスコープは、角速度を測定する小型で安価なセンサである。角速度の単位は、度毎秒(°/s)または回毎秒(RPS)で測定される。それゆえに、測定の継続期間を決定するときに、用量サイズについての情報をもたらす回転角度が決定される。
【0055】
任意選択の第2の検出器22がハウジング5に、クラッチ60の軸方向運動を検出するのに適している位置で配置される。クラッチ60は、用量スリーブ50がハウジング5に対して軸方向に動くときに軸方向に運ばれるので、第2の検出器22は用量スリーブ50に配置される。第1の検出器21が用量スリーブ50に設けられる場合には、第1と第2の検出器21、22が単一の検出器ユニットに一体化される。
【0056】
図4は第1の検出器21を示し、2つのセンサ21aおよび21bが、クラッチ60のそれぞれの側面に設置され、データ処理ユニット20に接続されている。データ処理ユニット20のセンサからの信号の処理について、図4に概略的に示されている。
【0057】
設定用量のサイズをカウントするために第1の検出器21、および場合により第2の検出器22の信号を使用するデータ処理ユニット20の機能は、用量設定中にだけ特定の軸方向運動および/または回転運動を行い、用量修正中には別の動きをする、スリーブ、ホイールまたはリングのような構成要素部材を有する他の薬物送達デバイスに適用されてもよい。第1の検出器21および第2の検出器22を備えたデータ処理ユニット20が実装されるデバイスの例は、特許文献2、特許文献3、特許文献4、またはWO2016/001304A1に開示されている。
【0058】
本発明の一実施形態による注射デバイスは以下のように定義される。すなわち:
製品用のレセプタクル(2)を備えたハウジング(5)と、投与予定の製品投与量を設定するための、および設定された製品投与量を表示するための用量機構であって、製品投与量を設定するためにハウジング(5)に対して第1の方向に回転可能である、かつ製品投与量を修正または投薬するためにハウジング(5)に対して第2の反対の方向に回転可能である用量スリーブ(50)を含む用量機構と、製品を投薬するための投薬機構とを含む注射デバイスであって、この投薬機構は、設定された製品投与量をその設定された製品投与量に対応する投薬ストローク内で排出するためにハウジング(5)に対して投薬方向に可動であるピストンロッド(8)と、設定された製品投与量を排出するためにハウジング(5)に対して用量スリーブ(50)と共に第2の方向に回転可能である、少なくとも1つのスリーブ(7;40)と、用量スリーブ(50)と少なくとも1つのスリーブ(7;40)の間に入れられ、用量スリーブ(50)および/または少なくとも1つのスリーブ(7;40)と共に回転可能であるクラッチ(60)とを含み、デバイスはさらに、用量スリーブ(50)および/またはハウジング(5)および/または少なくとも1つのスリーブ(7;40)に対するクラッチ(60)の動きを検出するための第1の検出器(21)と、第1の検出器(21)から受けた信号を読み出す、記憶する、処理する、伝達する、および/または表示するための、第1の検出器(21)に接続されたデータ処理ユニット(20)とを少なくとも含む。好ましくは、クラッチ(60)は、クラッチ(60)に対する用量スリーブ(50)の相対的な増分回転が1つの方向に、好ましくは第1の方向に許容され、反対方向には妨げられるように、用量スリーブ(50)の対応する第1の歯(51)と係合するための第1のラチェット歯(61)と、少なくとも1つのスリーブ(7;40)に対するクラッチ(60)の相対的な増分回転が1つの方向に、好ましくは第2の方向に許容され、反対方向には妨げられるように、少なくとも1つのスリーブ(7;40)の対応する第2の歯(41)と係合するための第2のラチェット歯(62)とを含む。一例では、第1の検出器(21)および/または別の検出器は、クラッチ(60)と用量スリーブ(50)および/またはハウジング(5)および/または少なくとも1つのスリーブ(7;40)との間の第1の方向の相対的な増分回転を検出するように、ならびに/またはクラッチ(60)と用量スリーブ(50)および/またはハウジング(5)および/または少なくとも1つのスリーブ(7;40)との間の第2の方向の相対的な増分回転を検出するように、適用される。
【0059】
たとえば、この実施形態による注射デバイスでは、第1のラチェット歯(61)および/または第2のラチェット歯(62)は、導電材料でコーティングされ、第1の歯(51)のうちの少なくとも1つ、および/または第2の歯(41)のうちの少なくとも1つは、回転増分ごとに導電材料と係合するように配置された弾性電気接点を備え、第1の検出器(21)は弾性電気接点および導電性材料を含む。一代替例によれば、この実施形態による注射デバイスでは、第1の検出器(21)は、第1のラチェット歯(61)と第1の歯(51)の間および/または第2のラチェット歯(62)と第2の歯(41)の間に設けられる、かつ回転増分ごとに歯(51、61;41、62)の係合を検出するように配置される、少なくとも1つの機械スイッチを含む。
【符号の説明】
【0060】
1 キャップ
2 レセプタクル
2a ニードルホルダ
3 カートリッジ
4 フランジ
5 ハウジング
6 挿入物
7 ねじ付きナット
7a 歯付きリング
7b ばね
8 ピストンロッド
8a スプライン
8b ねじ山
9 ねじ付きスリーブ
11a 回転つまみ
13 ばね
14 ボタン
20 データ処理ユニット
21 第1の検出器
21a センサ
21b センサ
22 第2の検出器
30 止めホイール
40 連結スリーブ
41 第2の歯
51 第1の歯
50 用量スリーブ
51 第1の歯
60 クラッチ
61 第1のラチェット歯
62 第2のラチェット歯
図1
図2
図3
図4