(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】金型の製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 33/38 20060101AFI20240110BHJP
B29C 39/26 20060101ALI20240110BHJP
B29C 45/26 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
B29C33/38
B29C39/26
B29C45/26
(21)【出願番号】P 2021158130
(22)【出願日】2021-09-28
【審査請求日】2022-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】弁理士法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中西 秀作
(72)【発明者】
【氏名】加藤 保夫
【審査官】北澤 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開平11-245234(JP,A)
【文献】特開2010-076385(JP,A)
【文献】韓国登録特許第10-0855660(KR,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/00-33/76
H01L 21/56
H01L 33/00
H01L 33/48-33/64
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部材から金型を製造する金型の製造方法であって、
第一面と、前記第一面の反対側に位置する第二面と、を備える金属部材を準備する工程と、
前記金型の外側に位置する部分となる前記第一面の一部が露出するように前記第一面
の一部よりも内側に第一レジスト層を配置する工程と、
前記第一レジスト層から露出した前記第一面の一部に第一エッチング液を吹き付けて前記第一面から前記第二面まで延びる側面及び前記第一面と前記側面とを接続する縁部を形成する工程
であって、断面視にて前記縁部が前記側面のうちの最も内側に位置する部分よりも外側に位置するように前記側面を形成する工程と、
前記第一レジスト層を前記第一面から剥離する工程と、
前記縁部を含む前記第一面の一部が露出するように前記第一面上に第二レジスト層を配置する工程と、
第二エッチング液を用いて
前記第二レジスト層よりも外側の部分を除去する工程と、
を順に備え、
前記第二レジスト層よりも外側の部分を除去する工程は、
前記第二エッチング液を用いて前記第二レジスト層よりも外側の部分を除去することによって、当該除去後の側面を、当該側面と前記第一面とを接続する縁から前記第二面に向かうに従って外側に位置するように形成する、
金型の製造方法。
【請求項2】
前記第二レジスト層を配置する工程において、断面視にて前記第一面と平行な第一方向における前記縁部から前記第二レジスト層までの第一長さ寸法が、前記第一方向における前記縁部から前記縁部よりも内側に位置する前記側面の一部までの最大長さである第二長さ寸法よりも長い、
請求項1に記載の金型の製造方法。
【請求項3】
前記第一長さ寸法が前記第二長さ寸法の1.3倍以上3.3倍以下である、
請求項2に記載の金型の製造方法。
【請求項4】
前記第一長さ寸法が前記第二長さ寸法の2倍以下である、
請求項3に記載の金型の製造方法。
【請求項5】
前記
第二レジスト層よりも外側の部分を除去する工程において、前記金属部材を前記第二エッチング液に浸漬させて前記縁部を除去する、
請求項1~4のいずれか一項に記載の金型の製造方法。
【請求項6】
前記第二レジスト層よりも外側の部分を除去する工程において、前記第二エッチング液の温度差が4℃以内である、
請求項5に記載の金型の製造方法。
【請求項7】
前記第二レジスト層よりも外側の部分を除去する工程において、前記第二エッチング液が静止浴である、
請求項5又は6に記載の金型の製造方法。
【請求項8】
前記第二レジスト層よりも外側の部分を除去する工程において、前記第二エッチング液は、比重35度ボーメ以上55度ボーメ以下の塩化第二鉄溶液を含む、
請求項5~7のいずれか一項に記載の金型の製造方法。
【請求項9】
前記第二レジスト層よりも外側の部分を除去する工程において、前記第二エッチング液は、塩化第二銅溶液の濃度が1mol/L以上4mol/L以下である、
請求項5~7のいずれか一項に記載の金型の製造方法。
【請求項10】
前記第二レジスト層よりも外側の部分を除去する工程において、前記第二エッチング液の温度は、20℃以上40℃以下である、
請求項5~9のいずれか一項に記載の金型の製造方法。
【請求項11】
前記第二レジスト層よりも外側の部分を除去する工程の後、前記第二レジスト層を剥離する工程と、前記金属部材の表面にめっき層を形成する工程と、を更に備える、
請求項1~10のいずれか一項に記載の金型の製造方法。
【請求項12】
前記めっき層は、金めっき層、金合金めっき層、ニッケルめっき層、ニッケル合金めっき層及びクロムめっき層のいずれかを含む、
請求項11に記載の金型の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明に係る実施形態は、金型の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従前より、金属部材から金型を製造することが行われており、例えば、基板の主面上に樹脂を設ける際に、当該主面上の樹脂を設けない箇所に金型を配置した上で、樹脂を充填し、硬化させることが行われている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1では、基板上の所定の位置に金型を押し付けた状態で、基板と金型との間の空間に、熱硬化性樹脂を充填する。金型は、樹脂が硬化した後に、基板上から上方向に向かって抜き取られる。このため、金型における樹脂と対向する側面は、下方向に進むに従って樹脂から離れる側に進むように鉛直面に対して傾斜した、いわゆる抜き勾配を有するように形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明に係る実施形態は、硬化した樹脂から抜き取りやすい金型を、切削加工以外で製造することができる金型の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る一態様の金型の製造方法は、一面と、前記第一面の反対側に位置する第二面と、を備える金属部材を準備する工程と、前記第一面の一部が露出するように前記第一面上に第一レジスト層を配置する工程と、前記第一レジスト層から露出した前記第一面の一部に第一エッチング液を吹き付けて前記第一面から前記第二面まで延びる側面及び前記第一面と前記側面とを接続する縁部を形成する工程と、前記第一レジスト層を前記第一面から剥離する工程と、前記縁部を含む前記第一面の一部が露出するように前記第一面上に第二レジスト層を配置する工程と、第二エッチング液を用いて前記縁部を除去する工程と、を順に備える。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一実施形態によれば、使用の際に、硬化した樹脂から抜き取りやすい金型を、切削加工以外で製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1(A)~(C)は、本発明の一実施形態に係る金型の使用方法の一例を示す斜視図である。
【
図2】
図2(A)は、本発明の一実施形態に係る金型の模式斜視図である。
図2(B)は、本発明の一実施形態に係る金型の模式側面図である。
【
図3】
図3は、発明の一実施形態に係る複数の金型が繋がった状態を説明する模式平面図である。
【
図4】
図4は、発明の一実施形態に係る金型の製造方法の第一レジスト配置工程を説明する模式断面図である。
【
図5】
図5は、発明の一実施形態に係る金型の製造方法の第一エッチング工程を説明する模式断面図である。
【
図6】
図6は、発明の一実施形態に係る金型の製造方法の第一レジスト剥離工程を説明する模式断面図である。
【
図7】
図7は、発明の一実施形態に係る金型の製造方法の第二レジスト配置工程を説明する模式断面図である。
【
図8】
図8は、発明の一実施形態に係る金型の製造方法の第二エッチング工程を説明する模式断面図である。
【
図9】
図9は、発明の一実施形態に係る金型の製造方法の第二レジスト剥離工程を説明する模式断面図である。
【
図10】
図10(A)は、変形例1に係る金型の製造方法の第一レジスト配置工程を説明する模式断面図である。
図10(B)は、変形例1に係る金型の製造方法の第一エッチング工程を説明する模式断面図である。
【
図12】
図12(A)~(F)は、試験の結果を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<実施形態>
本実施形態に係る金型1の製造方法は、エッチングを利用して金型1を製造する方法である。本実施形態に係る製造方法で製造される金型1は、例えば、半導体発光装置8を製造する際に用いられる。
【0010】
ここで、金型1の使用方法の一例として、半導体発光装置8の製造方法を挙げる。半導体発光装置8は、例えば、
図1(A)~(C)に示す工程を経て製造される。
図1(A)に示すように、まずは、基材としてのリードフレーム81に、複数の発光素子82を実装する。ここでは、図示を省略しているが、実際には、リードフレーム81と発光素子82とが、ワイヤを介して接続されている。
【0011】
次に、
図1(B)に示すように、本実施形態の製造方法で得た金型1を、複数の発光素子82を覆うようにしてリードフレーム81上に配置する。以下では、基材における金型1で覆う箇所を、「被覆対象領域」という。
【0012】
次に、リードフレーム81及び金型1を覆うように硬化前のモールド樹脂83を配置する。その次に、モールド樹脂83を硬化させる。この後、
図1(C)に示すように、硬化したモールド樹脂83から金型1を抜き取る。
【0013】
このように、本実施形態に係る金型1は、基材の主面に樹脂を設ける際に、主面の一部を覆うようにして使用される。金型1は、
図2に示すように、天板部2と、複数の側板部3と、複数の連結部4と、を備え、これらが一体に形成されている。
【0014】
天板部2は、基材上に金型1が配置された場合、基材の主面に直交する方向に沿って当該基材を見たときに(以下、これを「平面視」という)、基材の被覆対象領域に重なる部分である。天板部2は、平面視において多角形状である。本実施形態においては、平面視における天板部2の形状は八角形状である。天板部2の上面を「天面21」という場合がある。天面21は、基材上に金型1が配置された場合に基材と対向する天板部2の一面と反対側に位置する面である。
【0015】
複数の側板部3は、天板部2の外縁部から、天板部2に直交して基材側に向かう方向に延びている。複数の側板部3に囲まれた部分は凹部11を形成しており、側板部3の先端面は、開口面を形成する。複数の側板部3の先端面は、基材上に配置されると、基材の主面と対向する。
【0016】
外側に位置する側板部3の一面を外側面31という場合がある。
図2(B)に示すように、外側面31は、側板部3の先端面に近付くほど、金型1の中央に近付くように鉛直面に対して傾斜している。すなわち、複数の側板部3は、いわゆる抜き勾配を有している。これにより、被覆対象領域の周囲の樹脂が硬化した後、金型1を抜き取り易くすることができる。本明細書において「外側」とは、一の金型1に着目した場合の外側を意味し、平面視における金型1の中央から側板部3へ向かう方を意味する。また、本明細書において「内側」とは、外側と反対側の方向を意味し、平面視における側板部3から金型1の中央へ向かう方を意味する。
【0017】
側板部3には、貫通穴32が形成されている。貫通穴32は、基材と発光素子82とを電気的に繋ぐワイヤを通すために形成される。貫通穴32は、側板部3の外側面31と内側面とを貫通し、かつ先端面に開口している。貫通穴32は、複数の側板部3に対して必要に応じて形成される。
【0018】
複数の連結部4は、隣り合う他の金型1の連結部4に対して連結される。連結部4の一面は、本実施形態では、天板部2の天面21と面一である。
図2(A)(B)では、一の金型1を図示しているが、実際には、
図3に示すように、平面視で縦方向と横方向とに、連結部4を介して、複数の金型1が繋がっている。本実施形態に係る金型1の製造方法では、
図3中のA-A線断面図で示す部分を中心に
図5~
図11を参照して説明する。
【0019】
金型1の製造方法は、準備工程と、第一レジスト配置工程と、第一エッチング工程と、第一レジスト剥離工程と、第二レジスト配置工程と、第二エッチング工程と、第二レジスト剥離工程と、表面処理工程と、を備える。これらの工程は、この順に実行される。
【0020】
(1)準備工程
準備工程は、金型1の母材となる金属部材5を準備する工程である。金属部材5の素材としては、例えば、銅、鉄、ニッケル、モリブデン、チタン、アルミニウム、タングステン等の純金属、又はこれらの複合材料、あるいは、これらに添加物を添加した合金等が挙げられる。金属部材5は、板状に形成されている。金属部材5の厚さ寸法は、金型1の厚さ寸法と略同じ大きさであり、例えば、0.1mm以上1.0mm以下が挙げられる。
【0021】
図4に示すように、金属部材5は、第一面51と、第一面と反対側に位置する第二面52と、を備える。本明細書において、断面視にて第一面の少なくとも一部と平行である方向を「第一方向」と定義する。また、断面視において、第一方向と直交する方向を「第二方向」と定義する。第二方向において第一面51側から第二面52側に向かう方向を「第二+方向」と定義する。第二方向において第二面52側から第一面51側に向かう方向を「第二-方向」と定義する。
図4において、第一方向とは横方向のことであり、第二方向とは上下方向のことであり、第二+方向とは上方向のことであり、第二-方向とは下方向のことである。
【0022】
第二方向において、第二面52は、第一面51と反対側に位置する。断面視において、第二面52の少なとも一部は、第一方向と平行である。第一面51は、金型1における側板部3の先端面を含んでいる。第二面52は、金型1の天面21及び天面21と面一である連結部4の一面を含んでいる。
【0023】
(2)第一レジスト配置工程
第一レジスト配置工程は、
図4に示すように、第一面51の一部が露出するように、第一面51上に第一レジスト層6を配置する工程である。本実施形態に係る製造方法では、第一面51に加えて、第二面52にも第一レジスト層6を配置する。
【0024】
本実施形態に係る製造方法では、
図4に示すように、第一面51において、第一レジスト層6で覆う部分は、側板部3の先端面に対応する部分である。ここでいう「先端面に対応する部分」は、第一面51において、先端面となる部分と当該先端面となる部分よりも外側にある一定の領域とを合わせた部分を指す。
図4では、二点鎖線で製造後の金型1の側板部3を示しているが、第一レジスト層6は、先端面となる部分と、当該先端面よりも外側にある一定の領域とを合わせた部分を覆うように配置される。断面視において、第一レジスト層6の外側の縁と、先端面の外側の縁の仮想線との間の寸法M1は、一例を挙げると、50μm以上600μm以下である。
【0025】
第一レジスト層6は、第一エッチング工程で実行するエッチング(ウェットエッチング)に対して耐性を有する保護膜である。第一レジスト層6の材質としては、第一エッチング工程で用いられるエッチング液に応じて適宜選択され、例えば、有機物、無機物、金属等が挙げられる。第一レジスト層6を設ける方法としては、特に制限はなく、例えば、フォトレジスト法、スクリーン印刷法、スクリーンオフセット印刷法等が挙げられる。本実施形態に係る第一レジスト配置工程では、第一レジスト層6として、フォトレジスト法によるドライフィルムレジストが用いられる。
【0026】
本実施形態に係る第一レジスト配置工程では、第二面52に対して、全面に亘って第一レジスト層6を配置する。ただし、本発明に係る一実施形態では、後述の第一エッチング工程によって第二面52に対してもエッチング液を吹き付けてもよい。この場合には、第二面52においても、一部が露出するように、第二面52上に第一レジスト層6が配置されてもよい。
【0027】
(3)第一エッチング工程
第一エッチング工程は、
図5に示すように、第一レジスト層6から露出した第一面51の一部に対して、第一エッチング液を吹き付けて、第一面51から第二面52まで延びる側面53、及び第一面51と側面53とを接続する縁部54を形成する工程である。また、本実施形態では、第一エッチング工程によって、金型1の側板部3に囲まれる凹部11も形成される。
【0028】
第一面51と側面53とを接続する縁部54を「第一縁部54」とし、第二面52と側面53とを接続する縁部を「第二縁部55」として定義する。単に「縁部54」という場合は、第一縁部54を意味している。
【0029】
第一エッチング工程は、少なくとも第一面51に対して、スプレーエッチングを行う。スプレーエッチングには、例えば、スプレーエッチング装置を用いることができる。スプレーエッチングに用いられる第一エッチング液は、例えば、塩化第二鉄溶液、塩化第二銅溶液、過酸化水素-硫酸系エッチャント、アルカリエッチャント等が用いられる。
【0030】
第一エッチング液として塩化第二鉄溶液を用いる場合には、第一エッチング液の濃度としては、例えば、2.7mol/L以上4.3mol/L以下であることが好ましく、より好ましくは、3.0mol/L以上4.0mol/L以下である。また、第一エッチング液は、比重35度ボーメ以上50度ボーメ以下であることが好ましく、より好ましくは、比重38度ボーメ以上48度ボーメ以下である。
【0031】
スプレーエッチングによって第一エッチング液を吹き付けるスプレー圧としては、一例を挙げると、0.3kg/cm2以上5.0kg/cm2に設定され得る。スプレー圧が、0.3kg/cm2以上であることにより、第一エッチング工程における処理時間が短くなり、生産効率が向上する。スプレー圧が、5.0kg/cm2以下であることにより、第一エッチング液によって除去される金属部材5の制御が容易になる。
【0032】
金属部材5に対して、第一面51側から第一エッチング液を吹き付けると、第一レジスト層6から露出した部分から腐食が進行する。このとき、側面53は、第一縁部54から第二+方向へ進むに従って内側に傾斜する部分を有している。すなわち、側面53は、断面視にて、第一面51上の縁部54が、側面53の一部よりも外側に位置するように形成されている。また、側面53は、第二縁部55から第二-方向へ進むに従って内側に傾斜する部分を有している。すなわち、側面53は、断面視にて、第二縁部55が、側面53の一部よりも外側に位置するように形成されている。
【0033】
本実施形態では、第一方向において、第二縁部55は、第一縁部54よりも外側に位置している。本発明に係る一実施形態では、第二縁部55は、第一縁部54よりも中央側に位置していてもよい。
【0034】
(4)第一レジスト剥離工程
第一レジスト剥離工程は、
図6に示すように、第一レジスト層6を第一面51から剥離する工程である。第一レジスト剥離工程では、例えば、ウェットステーション、アッシング装置等を用いて、第一レジスト層6を第一面51及び第二面52から溶解させて剥離する。
【0035】
本実施形態では、第一レジスト配置工程において、第一面51及び第二面52に対して、第一レジスト層6を配置したため、第一面51だけでなく第二面52からも、第一レジスト層6を剥離する。
【0036】
(5)第二レジスト配置工程
第二レジスト配置工程は、
図7に示すように、第一面51の一部が露出するように、第一面51上に第二レジスト層7を配置する工程である。本実施形態に係る製造方法では、第一面51に加えて、第二面52にも第二レジスト層7を配置する。
【0037】
第二レジスト配置工程では、
図7に示すように、第一面51において、第二レジスト層7から露出する部分は、少なくとも第一縁部54を含む。本実施形態において、第二レジスト層7から露出する部分は、次に説明する第一面51における縁部54を含む部位と、第一エッチング工程で形成された側面53と、が含まれる。
【0038】
ここで、断面視において、第一方向における第二レジスト層7から第一縁部54までの長さを「第一長さ寸法L1」とし、第一縁部54から第一縁部54よりも内側に位置する側面53の一部までの最大長さを「第二長さ寸法L2」と定義する。また、第二長さ寸法L2を採るときの側面53上の点を、「頂点P」とする。
【0039】
第一長さ寸法L1は、第二長さ寸法L2よりも長くなるように、第二レジスト層7が配置されることが好ましい。より好ましくは、第一長さ寸法L1は、第二長さ寸法L2の1.3倍以上に設定される。このようにすることで、第一縁部54を含む凸部を除去しやすくなる。ただし、第一長さ寸法L1が、第二長さ寸法L2以下であっても、後述の第二エッチング工程の後、第一縁部54を含む凸部の少なくとも一部が除去されるため、所望の抜き勾配を有する金型1を得ることができる。
【0040】
一方、第一長さ寸法L1の上限は、第二長さ寸法L2の3.3倍以下であることが好ましい。このようにすることで、エッチングによって除去される金属部材5の制御が容易になる。第一長さ寸法L1の上限は、第二長さ寸法L2の2倍以下であることが更に好ましい。このようにすることで、更にエッチングによって除去される金属部材5の制御が容易になる。
【0041】
第二レジスト層7は、第二エッチング工程で実行するエッチング(ウェットエッチング)に対して耐性を有する保護膜である。第二レジスト層7の材質としては、第二エッチング工程で用いられるエッチング液に応じて適宜選択され、例えば、有機物、無機物、金属等が挙げられる。第二レジスト層7は、第一レジスト層6と同じ材質であってもよいし、異なる材質であってもよい。
【0042】
第二レジスト層7を設ける方法としては、第一レジスト層6と同様、特に制限はなく、例えば、フォトレジスト法、スクリーン印刷法、スクリーンオフセット印刷法等が挙げられる。本実施形態に係る第二レジスト配置工程では、第二レジスト層7として、フォトレジスト法による電着レジストが用いられている。
【0043】
また、本実施形態に係る第二レジスト配置工程では、第二レジスト層7を、金型1の凹部11に対応する位置にも配置し、さらに、第二面52に対しても、全面に亘って第二レジスト層7を配置する。
【0044】
(6)第二エッチング工程
第二エッチング工程は、第二エッチング液を用いて、第二レジスト層7から露出した縁部54を除去する工程である。
図8に示すように、第二エッチング工程では、縁部54を除去することで、金型1の外側面31を、所望の抜き勾配を有する面に形成することができる。
【0045】
すなわち、
図8に示すように、第二エッチング工程によって形成された側面(金型1の外側面31)は、第一面51から第二面52に向かうに従って、第一方向の外側に位置するように、鉛直面に対して傾斜している。ここでは、外側面31は、平面ではなく曲面で構成されているが、一部平面が含まれていてもよい。
【0046】
第二エッチング工程は、第二エッチング液によって縁部54を除去できれば、第一エッチング工程と同様、スプレーエッチングであってもよいが、本実施形態では、第二レジスト層7を配置した金属部材5を、第二エッチング液に浸漬させて縁部54を除去する。第二エッチング工程を浸漬エッチングによって実行することで、スプレーエッチングよりもエッチング速度を遅く調整しやすくなる。これにより、エッチングによって除去される金属部材5の制御が容易になる。
【0047】
浸漬エッチングに用いる浴は、静止浴であることが好ましい。ここでいう「静止浴」とは、第二エッチング液を攪拌したり、循環を行ったりしない、浸漬エッチングに用いられるエッチング液を意味する。静止浴を採用することで、エッチング速度を一定に近付けることができるので、エッチングによって除去される金属部材5の制御が容易になる。
【0048】
エッチング速度を一定に近付けるためには、第二エッチング液をできる限り一定の温度に保つことが好ましい。具体的には、浴温度の温度差が、4℃以内であることが好ましく、より好ましくは、3℃以内である。
【0049】
浸漬エッチングの浴温度は、特に限定されない。浸漬エッチングの浴温度は、例えば、20℃以上40℃以下であることが好ましい。浸漬エッチングの浴温度が、20℃以上であることにより、エッチング速度が速くなるので生産効率が向上する。浸漬エッチングの浴温度が、40℃以下であることにより、エッチング速度が遅くなるのでエッチングによって除去される金属部材5の制御が容易になる。浸漬エッチングの浴温度は、25℃以上35℃以下であることが好ましい。このようにすることで、更に生産効率を向上させながらエッチングによって除去される金属部材5の形状の制御が容易になる。
【0050】
第二エッチング液としては、例えば、塩化第二鉄溶液、塩化第二銅溶液、過酸化水素-硫酸系エッチャント、硫酸塩素系エッチャント等が含まれる。このなかでも、第二エッチング液として、塩化第二鉄溶液を含む場合、比重35度ボーメ以上50度ボーメ以下であることが好ましく、より好ましくは、比重38度ボーメ以上48度ボーメ以下である。この場合、塩化第二鉄溶液の濃度としては、例えば、2.7mol/L以上4.3mol/L以下であることが好ましく、より好ましくは、3.0mol/L以上4.0mol/L以下である。
【0051】
一方、第二エッチング液として、塩化第二銅溶液を含む場合、比重1.09以上1.42以下であることが好ましく、より好ましくは、比重1.19以上1.33以下である。また、この場合、塩化第二銅溶液の濃度としては、例えば、0.5mol/L以上3.5mol/L以下であることが好ましく、より好ましくは、1.5mol/L以上2.5mol/L以下である。
【0052】
(7)第二レジスト剥離工程
第二レジスト剥離工程は、
図9に示すように、第二レジスト層7を、金属部材5から剥離する工程である。第二レジスト剥離工程では、第一レジスト剥離工程と同様、例えば、ウェットステーション、アッシング装置等を用いて、第二レジスト層7を第一面51及び第二面52から溶解させて剥離する。
【0053】
(8)表面処理工程
表面処理工程は、金属部材5の表面にめっき層を形成する工程である。これによって、金型1の外側面31と硬化した樹脂とが界面で離れやすくなる。このため、金型1の使用時に、硬化した樹脂から金型1を抜き取る際に、金型1を抜き取り易くすることができる。
【0054】
表面処理工程では、金属部材5に対して、下地めっき層を形成し、その後、下地めっき層の上から表面めっき層を形成することが好ましい。下地めっき層としては、例えば、ニッケルめっき層、ニッケル合金めっき層、又はこれらの複合層等が挙げられる。表面めっき層としては、例えば、金めっき層、金合金めっき層、クロムめっき層、ニッケルめっき層、ニッケル合金めっき層又はこれらの複合層等が挙げられる。なお、下地めっき層は、金属部材5の硬さによっては、設けなくてもよい。また、表面めっき層が下地めっき層を兼ねてもよい。
【0055】
表面処理工程で行うめっきの方法は、特に制限はなく、乾式めっき法又は湿式めっき法のいずれであってもよい。乾式めっき法としては、例えば、溶融めっき法、真空めっき法等が挙げられる。湿式めっき法としては、例えば、電解めっき法、無電解めっき法等が挙げられる。
【0056】
以上説明した本実施形態に係る金型1の製造方法によれば、第一面51と側面53とを接続する縁部54を除去することができる。これにより、所望の抜き勾配を有する金型1を形成することができる。この結果、硬化した樹脂から抜き取りやすい金型1を製造することができる。また、エッチングによって同時に複数の金型1を製造することができるため、金型1の生産効率を向上させることができる。
【0057】
<変形例>
上記実施形態は、本発明の様々な実施形態の一つに過ぎない。本発明に係る一実施形態は、種々の変更が可能である。以下、本発明の変形例を説明する。以下に説明する変形例は、適宜組み合わせて適用可能である。
【0058】
上記実施形態に係る金型1の製造方法では、第一エッチング工程において、第一面51に対してのみ、第一エッチング液を吹き付けたが、例えば、第一面51に加えて、第二面52に対してもエッチング液を吹き付けてもよい。
【0059】
本変形例では、第一レジスト配置工程において、
図10(A)に示すように、第二面52に対しても、一部が露出するように、第一レジスト層6が配置される。
【0060】
本変形例に係る第一エッチング工程では、
図10(B)に示すように、第一面51と第二面52とに対して、第一エッチング液を吹き付ける。ただし、この場合も、第一エッチング工程後の側面53の形状は、頂点Pから第二面52に向かうに従って外側に位置するような形状をしている。第一エッチング工程によって、側面53の形状を、目的とする形状にするためには、例えば、次のような方法が挙げられる。
【0061】
第二面52に対して第一エッチング液を吹き付ける時間を、第一面51に対して第一エッチング液を吹き付ける時間よりも短くする。例えば、第二面52に対する第一エッチング液を吹き付ける時間を、第一面51に対する第一エッチング液を吹き付ける時間に対し、20%以上30%以下、より具体的には、25%とすることが挙げられる。
【0062】
また、他の例としては、第一面51に対して吹き付ける第一エッチング液と、第二面52に対して吹き付ける第一エッチング液とで、濃度を異ならせてもよいし、スプレー圧を異ならせてもよい。具体的には、第二面52に対して吹き付ける第一エッチング液を、第一面51に対して吹き付けるものに比べて、濃度を薄くする、又は/及びスプレー圧を小さくすることが例示できる。なお、この場合においても、第二面52に対する第一エッチング液を吹き付ける時間を、第一面51に対する第一エッチング液を吹き付ける時間よりも短くしてもよい。
【0063】
これらの方法によって、第一エッチング工程において、第一面51と第二面52との両方に第一エッチング液を吹き付けて、目的とする形状を得ることができる。
【0064】
以下、実施形態のその他の変形例を列挙する。
【0065】
上記実施形態では、基材として、リードフレーム81を挙げて説明したが、基材は、例えば、リードフレーム81のほか、電子基板、金属板等であってもよい。また、発光素子82としては、例えば、LED発光素子、半導体レーザ素子、VCSEL素子等が挙げられる。被覆対象領域としては、発光素子82が設けられた領域に限らず、他の電子部品が設けられた領域であってもよいし、部品等の対象物のない基材上の一領域としてもよい。
【0066】
上記実施形態に係る金型1は、凹部11を有していたが、使用時に樹脂に接触する外側面31を有していれば凹部11はなくてもよい。また、天板部2は、平面視において略矩形状であったが、これに限らず、例えば、円形状、略三角形状等であってもよい。
【0067】
上記実施形態に係る金型1の製造方法では、複数の金型1を同時に製造したが、一の金型1のみを製造してもよい。
【0068】
上記実施形態に係る金型1の製造方法は、表面処理工程を備えたが、本発明に係る一実施形態の金型の製造方法では、表面処理工程はなくてもよい。
【0069】
本明細書にて、「略平行」、又は「略直交」のように「略」を伴った表現が、用いられる場合がある。例えば、「略平行」とは、実質的に「平行」であることを意味し、厳密に2つの直線、辺、面等が延長しても交わらない状態である「平行」だけでなく、数度程度の誤差を含む意味である。他の「略」を伴った表現についても同様である。
【0070】
また、本明細書において「端部」及び「端」などのように、「…部」の有無で区別した表現が用いられている。例えば、「端」は物体の末の部分を意味するが、「端部」は「端」を含む一定の範囲を持つ域を意味する。端を含む一定の範囲内にある点であれば、いずれも、「端部」であるとする。他の「…部」を伴った表現についても同様である。
【0071】
以下、実施例を用いた試験により本発明を更に詳細に説明する。ただし、本発明に係る金型1の製造方法は、以下の実施例に限定されない。
【0072】
第一エッチング工程によって得た金属部材5(以下、これを試験片という)を用いて試験を行った。試験片は、
図11に示すように、第一面51と、第二面52と、第一面51と第二面52とを繋ぐ側面53とを有する。側面53は、第一面51と側面53とを接続する縁部54から第二面52に向かって、第一方向の内側に向かって凹み、頂点Pから第二面52に近付くほど第一方向の外側に位置するように鉛直面に対して傾斜している。頂点Pと縁部54との間の第一方向における長さ寸法は、L2=30μmであった。
【0073】
この試験片に対し、第一面51に第二レジスト層7を配置した。このときの第二レジスト層7と縁部54との間の第一方向における長さ寸法L1を、L1=0μm、L1=20μm、L1=40μm、L1=60μm、L1=80μm、L1=100μmと変化させ、それぞれについて、以下の条件で第二エッチング工程を実行した。なお、L1=0μmは比較例であり、L1=20μm、L1=40μm、L1=60μm、L1=80μm、L1=100μmは実施例である。
【0074】
第二エッチング工程の条件は、次の通りである。エッチング方式:浸漬エッチング、第二エッチング液:塩化第二鉄溶液、比重:40度ボーメ、液温:30℃、処理時間:8分、静止浴。
【0075】
第二エッチング工程の後の試験片の断面形状の観察を行い、縁部を54含む凸部の状態を評価した。その結果を、
図12(A)~(F)に示す。
図12(A)には、L1=0μmの場合の試験片の断面形状を示す。
図12(B)には、L1=20μmの場合の試験片の断面形状を示す。
図12(C)には、L1=40μmの場合の断面形状を示す。
図12(D)には、L1=60μmの場合の断面形状を示す。
図12(E)には、L1=80μmの場合の断面形状を示す。
図12(F)には、L1=100μmの場合の断面形状を示す。
【0076】
図12(A)からもわかるように、第二レジスト層7と縁部54との間の長さ寸法L1が、L1=0μmの場合、すなわち、第一面51の全面に第二レジスト層7を配置した場合には、凸部が大きく残った。この場合、凸部が金型の外側面から大きく突き出ているため、抜き取り難い。
【0077】
図12(B)からもわかるように、第二レジスト層7と縁部54との間の長さ寸法L1が、L1=20μmの場合、すなわち凸部の寸法L2に対して、0.7倍程度の場合には、縁部54を含む凸部の大部分を除去することができた。これにより、被覆対象領域の周囲の樹脂が硬化した後、金型1を抜き取り易くすることができた。
【0078】
図12(C)~(F)からもわかるように、第二レジスト層7と縁部54との間の長さ寸法L1が、L1=40μm以上の場合、すなわち凸部の寸法L2に対して、1.3倍以上の場合には、凸部を全て除去することができた。一方、
図12(F)からもわかるように、第二レジスト層7と縁部54との間の長さ寸法L1が、L1=100μmの場合には、凸部を全て除去できるものの、腐食が進み過ぎて側面53に少し凹みが生じた。寸法L1が、L1=100μm以下の場合、すなわち凸部の寸法L2に対して、3.3倍以下の場合には、エッチングによって除去される金属部材5の制御が容易になる。
【0079】
図12(C)(D)からもわかるように、第二レジスト層7と縁部54との間の長さ寸法L1が、L1=40μm、L1=60μmの場合、すなわち凸部の寸法L2に対して、1.3倍以上2倍以下の場合には、側面53に凹みができることなく、凸部を全て除去することができた。
【符号の説明】
【0080】
1 金型
5 金属部材
51 第一面
52 第二面
6 第一レジスト層
7 第二レジスト層
53 側面
54 第一縁部(縁部)