(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】TFT用ガラス基板
(51)【国際特許分類】
C03C 15/00 20060101AFI20240110BHJP
C03C 3/091 20060101ALI20240110BHJP
C03C 3/093 20060101ALI20240110BHJP
C03B 18/02 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
C03C15/00 A
C03C3/091
C03C3/093
C03B18/02
(21)【出願番号】P 2022073325
(22)【出願日】2022-04-27
(62)【分割の表示】P 2018138799の分割
【原出願日】2018-07-24
【審査請求日】2022-04-27
(31)【優先権主張番号】P 2017155468
(32)【優先日】2017-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000000044
【氏名又は名称】AGC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】小野 良貴
(72)【発明者】
【氏名】井川 信彰
(72)【発明者】
【氏名】伊賀 元一
(72)【発明者】
【氏名】欅田 昌也
【審査官】玉井 一輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-133246(JP,A)
【文献】国際公開第2014/148604(WO,A1)
【文献】特開2011-016705(JP,A)
【文献】国際公開第2013/136949(WO,A1)
【文献】特表2020-508958(JP,A)
【文献】特開2011-246345(JP,A)
【文献】特開2009-013049(JP,A)
【文献】特開2019-034878(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03C 15/00-15/02
C03C 1/00-14/00
C03B 18/02-18/22
C03B 17/06
C03C 27/00-29/00
G02F 1/1333
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1主面と、前記第1主面と対向する第2主面とを備えた矩形のガラス板より構成され、
前記ガラス板の板厚方向からの視野において、互いに隣り合う第1辺と第2辺とを有し、
前記第1辺と前記第2辺との長さが、少なくとも1200mm以上であり、
前記ガラス板の板厚方向の断面のうち、前記第1辺と平行な直線に沿った第1断面において、当該ガラス板の板厚の最大値と板厚の最小値の差である板厚公差が6.26μm未満であり、
前記ガラス板の板厚方向のあらゆる断面において、前記板厚公差が7.12μm未満である、TFT用ガラス基板。
【請求項2】
前記第1断面において、前記板厚の一次微分値の絶対値の平均値が1.72E-02未満である、請求項1に記載のTFT用ガラス基板。
【請求項3】
前記第1断面において、前記板厚の一次微分値の絶対値の標準偏差が1.5E-03以下である、請求項1に記載のTFT用ガラス基板。
【請求項4】
前記第1断面において、前記板厚の二次微分値の絶対値の最大値が6.0E-03以下である、請求項1から3のいずれか1項に記載のTFT用ガラス基板。
【請求項5】
前記第1断面において、前記板厚の二次微分値の絶対値の標準偏差が1.5E-04以下である、請求項1から4のいずれか1項に記載のTFT用ガラス基板。
【請求項6】
前記ガラス板のガラス組成が、無アルカリガラスである請求項1から5のいずれか1項に記載のTFT用ガラス基板。
【請求項7】
前記ガラス板は、前記第1主面及び前記第2主面のうち、少なくとも一方において、研磨傷を有さない請求項1から6のいずれか1項に記載のTFT用ガラス基板。
【請求項8】
前記ガラス板の厚さは1.0mm以下である請求項1から7のいずれか1項に記載のTFT用ガラス基板。
【請求項9】
前記ガラス板は、前記第1主面及び前記第2主面のうち、少なくとも一方において、バルクの水分量に対し、80%以下の水分量である層を、10μm以上有する請求項1から8のいずれか1項に記載のTFT用ガラス基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、TFT用ガラス基板に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、液晶ディスプレイ等のフラットディスプレイパネルは、表面に微細な電極や隔壁等の素子或いは構造体を形成した二枚のガラス基板を対向させて製作される。フラットディスプレイパネル用のガラス基板に対しては、その表面に各種の膜を均一に塗布した後に、フォトプロセスの手法を用いて露光、現像することにより、素子や構造体を当該ガラス基板上に形成していく薄膜トランジスタ(TFT;Thin Film Transistor)の製造プロセスを適用するのが通例とされている。そのためのガラス基板として、例えば、特許文献1には、300mm×300mm以上のガラス板で、基準点と、基準点を中心にX及び/又はY方向にそれぞれ20mm離れた位置との板厚の差の絶対値が3μm以下のガラス基板が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
現在、素子や構造体をより高精度に、及び/又は素早くガラス基板上に形成することが求められているが、未だ十分な領域には達していない。
【0005】
本発明は、素子や構造体をより高精度に、及び/又は素早く形成出来得るTFT用ガラス基板を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のTFT用ガラス基板は、第1主面と、前記第1主面と対向する第2主面とを備えた矩形のガラス板より構成され、前記ガラス板の板厚方向からの視野において、互いに隣り合う第1辺と第2辺とを有し、前記第1辺と前記第2辺との長さが、少なくとも1200mm以上であり、前記ガラス板の板厚方向の断面のうち、前記第1辺と平行な直線に沿った第1断面において、当該ガラス板の板厚の最大値と板厚の最小値の差である板厚公差が6.26μm未満である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、例えばTFT製造ラインにおける露光工程で焦点を合わせ易く、TFT製造に適した、板厚公差が小さくかつ大型なガラス板を有するTFT用ガラス基板を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は本発明に係るTFT用ガラス基板の第1実施形態の一例を示し、
図1の(a)は正面斜視図、(b)は(a)のA-A断面図、(c)は(b)のB部拡大模式図を示す。
【
図2】
図2は本発明に係るTFT用ガラス基板のフロートガラス製造装置の一例を示す模式図である。
【
図3】
図3は本発明に係るTFT用ガラス基板の製造中に発生する凸部を示す模式図である。
【
図4】
図4は
図3の凸部を具体的に示し、
図4の(a)はガラス板の正面斜視図、(b)は凸部のエッチング状態を示す説明図である。
【
図5】
図5は本発明に係るTFT用ガラス基板のフロートガラス製造装置内に設置されたインジェクタを示す模式図である。
【
図6】
図6はガラス板の幅方向に長いインジェクタであるビームの模式図であり、
図6の(a)はビームの全体構成図、(b)~(d)の各々は、三つのガス系統におけるHFガスの流れを示す模式図である。
【
図7】
図7は本発明に係るTFT用ガラス基板と比較例との第1断面における板厚公差を実測してプロットしたグラフである。
【
図8】
図8は本発明に係るTFT用ガラス基板と比較例とのあらゆる断面における板厚公差を実測してプロットしたグラフである。
【
図9】
図9は本発明に係るTFT用ガラス基板と比較例との第1断面の板厚の一次微分値の絶対値の平均値を比較したグラフである。
【
図10】
図10は本発明に係るTFT用ガラス基板の第2実施形態の一例を示す正面斜視図である。
【
図11】
図11は本発明に係るTFT用ガラス基板において、各処理温度における粗さの比を示した表である。
【
図12】
図12は本発明に係るTFT用ガラス基板の第3実施形態の一例を示す正面斜視図である。
【
図13】
図13は本発明に係るTFT用ガラス基板において、各処理温度による第1領域と第2領域とのフッ素の含有量を測定してプロットしたグラフである。
【
図15】
図15は本発明に係るTFT用ガラス基板の第1主面及び第2主面のβ-OH量を測定してプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を用いて、本発明に係るTFT用ガラス基板の具体的な実施の形態の一例について詳述する。
【0010】
図1に示すように、本実施形態のTFT用ガラス基板1は、第1主面11と、第1主面11と対向する第2主面12とを備えた矩形のガラス板10より構成され、さらに第1主面11と第2主面12とを繋ぐ第1辺13と、第1辺13と隣り合う第2辺14とを、備える。ガラス板10の板厚方向からの視野において、第1辺13と第2辺14とは互いに隣り合っている。本実施形態のTFT用ガラス基板1は、第1辺13と第2辺14との長さが、少なくとも1200mm以上の大型なガラス板10で構成されている。ガラス板10の板厚方向からの視野とは、平面視を指す。本明細書において矩形とは厳密な長方形のみを意図しているわけではなく、任意の隣り合う2辺が10~170°の範囲で交差する形状や、4角が曲線状又は多角状に面取りされた形状であってもよい。矩形が厳密な長方形である場合、第1辺13と第2辺14は互いに垂直に交差する。
【0011】
近年、高効率化の観点から、このような大型なガラス板10を、将来的に小分けに分割して、複数枚のガラス基板を得ることが行われている。その過程において、大型のガラス板10の状態で、将来的な分割予定線を想定しながら、ガラス基板1枚1枚に必要なTFTを形成していく。しかしながら、大型のガラス板10においては、ガラス表面がほんの僅かに傾いていたとしても、一端面側と、対応する他端面側とでは、板厚に大きな差が生じてしまう。また、ガラス板10が大きければ大きいほど、製造過程における様々な要因からのガラス板のうねり等を多く含んでしまい、その板厚はガラス板10の各所でばらついてしまう。また、これらの板厚の差やばらつきは、ガラス表面を研磨したとしても、解消するのが極めて難しい。
【0012】
一方で、TFT形成過程においては、露光機でガラス表面等に焦点を合わせる必要があるが、上記のような問題を抱えている大型のガラス板10の場合、以下のような問題があった。すなわち、ガラス板10の表面の凹凸に対して、露光機が頻繁に、かつ細かな焦点の調整を行わなければならず高スピードで処理できなかった。また凹凸の変化が急峻すぎる場合は、露光機側で焦点を十分に調整しきれずTFT形成の精度が低下した。
【0013】
なお、特許文献1では、20mm以下の範囲の中で3μm以上の凹凸がある可能性があり、その場合は上記のようなスピードの低下や精度の低下の問題があった。また、ガラス板の主面の全面に渡って露光するTFT形成プロセスに対して、基準点と基準点から20mm離れた位置とだけの板厚の局所的な規定だけでは不十分な虞がある。
【0014】
本実施形態では、ガラス板10の第2主面12が、TFT用ガラス基板1における半導体素子形成面であり、第1主面11が半導体素子形成面の反対側のガラス表面であり、半導体素子形成時には、吸着ステージ上に真空吸着によって固定される。
【0015】
また、ガラス板10は、第1辺13と平行な直線に沿い、ガラス板10の板厚Wの方向に対して第1断面15を有する(
図1の(b)参照)。第1断面15の第1主面11を模式的に拡大すると、第1主面11は凹凸の連続面であり、ガラス板10の板厚Wの最大値Wmaxと板厚Wの最小値Wminとを有している(
図1の(c)参照)。板厚Wはレーザー変位計(KEYENCE製,SI-F80)で測定した。測定ピッチは短径、長径共に20mmとした。ガラス板10の板厚Wは、例えば1.0mm以下であり、TFT用ガラス基板1は、大型でかつ薄型のガラス板10を有している。また板厚Wは、例えば0.01mm以上である。尚、第1断面15は、特定された断面ではなく、第1辺13と平行な直線に沿って任意に選択できる。また、
図1の(c)では、便宜上、第2主面12側を平滑としているが、第1主面11と同様凹凸を有していてよい。第1主面11及び第2主面12が凹凸を有している場合、変位計の分析径である20μmの範囲の平均高さを板厚とした。
【0016】
本実施形態のTFT用ガラス基板1は、無アルカリガラスであることが好ましい。無アルカリガラスは、下記酸化物基準の質量百分率表示で、SiO2を50~73%、Al2O3を10.5~24%、B2O3を0.1~12%、MgOを0~8%、CaOを0~14.5%、SrOを0~24%、BaOを0~13.5%、ZrO2を0~5%含有し、かつ、MgO、CaO、SrOおよびBaOの合量(MgO+CaO+SrO+BaO)が8~29.5%であることが好ましい。
【0017】
また、無アルカリガラスは、下記酸化物基準の質量百分率表示で、SiO2を58~66%、Al2O3を15~22%、B2O3を5~12%、MgOを0~8%、CaOを0~9%、SrOを3~12.5%、BaOを0~2%含有し、かつ、MgO、CaO、SrOおよびBaOの合量(MgO+CaO+SrO+BaO)が9~18%であることが好ましい。
【0018】
そして、無アルカリガラスは、下記酸化物基準の質量百分率表示で、SiO2を54~73%、Al2O3を10.5~22.5%、B2O3を0.1~5.5%、MgOを0~8%、CaOを0~9%、SrOを0~16%、BaOを0~2.5%含有し、かつ、MgO、CaO、SrOおよびBaOの合量(MgO+CaO+SrO+BaO)が8~26%であることが好ましい。
無アルカリガラスであることにより、ガラス板10に含まれるアルカリ成分が継時変化によって溶出してガラス表面に形成したTFT等に悪影響を及ぼすことが無くなる。なお、本明細書について、「無アルカリ」とはアルカリ成分を厳密な意味で完全に含まないのではなく、不純物として含む程度は許容する概念を指す。具体的には、例えば0.01質量%程度は許容する。
【0019】
図2は、本実施形態に係るTFT用ガラス基板1の製造方法の一例を示す模式図である。本実施形態に係るTFT用ガラス基板1は、ガラスを構成する種々の原料を適量調合し、加熱溶融した後、脱泡または攪拌などにより均質化し、周知のフロート法、ダウンドロー法(例えば、フュージョン法など)またはプレス法などによって板状に成形し、徐冷後所望のサイズに切断して、製品化する。本実施形態では、フロート法を一例にTFT用ガラス基板1の製造方法を説明する。
【0020】
図2に示すフロートガラス製造装置100は、ガラス原料2を溶解し溶融ガラス3とする溶解装置110と、溶解装置110から供給される溶融ガラス3を帯状に成形してガラスリボン4とする成形装置120と、成形装置120で成形されたガラスリボン4を徐冷する徐冷装置130とを備える。
【0021】
溶解装置110は、溶融ガラス3を収容する溶解槽111と、溶解槽111内に収容される溶融ガラス3の上方に火炎を形成するバーナ112とを備える。溶解槽111内に投入されたガラス原料2は、バーナ112が形成する火炎からの輻射熱によって溶融ガラス3に徐々に溶け込む。溶融ガラス3は、溶解槽111から成形装置120に連続的に供給される。
【0022】
成形装置120は、溶融スズ121を収容する浴槽122を備える。成形装置120は、溶融スズ121上に連続的に供給される溶融ガラス3を溶融スズ121上で所定方向に流動させることにより帯状のガラスリボン4を成形する。成形装置120内の雰囲気温度は、成形装置120の入口から出口に向かうほど低温となっている。成形装置120内の雰囲気温度は、成形装置120内に設けられる図示しないヒータ等で調整される。ガラスリボン4は、所定方向に流動しながら冷却され、浴槽122の下流域で溶融スズ121から引き上げられる。溶融スズ121から引き上げられたガラスリボン4は、リフトアウトロール140によって徐冷装置130に搬送される。
【0023】
徐冷装置130は、成形装置120で成形されたガラスリボン4を徐冷する。徐冷装置130は、例えば、断熱構造の徐冷炉(レア)131と、徐冷炉131内に配設され、ガラスリボン4を所定方向に搬送する複数の搬送ロール132とを含む。徐冷炉131内の雰囲気温度は、徐冷炉131の入口から出口に向かうほど低温となっている。徐冷炉131内の雰囲気温度は、徐冷炉131内に設けられる複数のヒータ133等で調整される。また、徐冷装置130内には後述するエッチングガスをガラスリボン4上に吹き付けるインジェクタ200が設けられている。
【0024】
徐冷炉131の出口から搬出されたガラスリボン4は、切断機で所定のサイズに切断され、ガラス板10より構成されるTFT用ガラス基板1として出荷される。出荷される前に、必要に応じて、TFTガラス基板1の両表面の少なくとも一方を研磨し、洗浄してもよい。
【0025】
一例に挙げた上述のフロートガラス製造装置100を含むガラス板10の製造工程において、製造装置固有のくせなどにより、ガラス板10の表面に凹凸が生じる場合がある。特に、
図3に示すように、成形装置120から徐冷装置130にかけて、ガラス板10の幅方向における一及至複数の箇所で、ライン上の凸部16が発生する現象が見受けられる場合がある。また、
図4に示されるように、凸部16は、ガラス板10の第1辺13と平行な方向にライン上に形成されることが多い。尚、
図3及び
図4では、凸部16は、第1辺13と平行に例示してあるが、これに限定されない。すなわちライン状とは、第1辺13に平行でなくてよく、また途中に分断又は一部欠けた箇所があってよく、また途中に連続又は不連続にズレた箇所があってもよい。
【0026】
表面の凹凸や凸部16をエッチングして平滑とするために(
図4の(b)参照)、フロートガラス製造装置100の徐冷装置130においてエッチングガスをガラスリボン4上に形成された凹凸部や凸部16等に吹き付けるインジェクタ200を備えている。
【0027】
尚、
図4では、第1主面11側のみに凸部16が形成されている例を示したが、これに限定されない。すなわち、第2主面12側のみに凸部が形成されている場合もあり、第1主面11と第2主面12の両方に形成されている場合もある。凸部がどのように形成されても対応できるように、第1主面11側に凸部16がある場合には第1主面11側に、第2主面12側に凸部16がある場合には第2主面12側にインジェクタ200を備えることが好ましい。
【0028】
尚、第1主面11に凸部16が形成されていると、TFT形成工程において第1主面11を吸着固定した際に、凸部16由来の新たな凸部が第2主面12側に形成され得る。そのため、半導体素子形成面が否かに関わらず、ガラス板の表面に存在する凹凸は極めて少ないことが好ましく、第1主面11側の凸部16を除去した場合にも、第2主面12側に素子や構造体をより高精度に、及び/又は素早く形成出来得る。
【0029】
インジェクタ200を
図5に基づいて詳述する。
図5はインジェクタ200の実施例である。
【0030】
インジェクタ200は、フッ化水素(HF)ガス等のエッチングガスをガラスリボン4上に吹き付ける供給口201とエッチングガスを排気させる排気口202とを備えている。実施例は、一つの供給口201に対して両側にそれぞれ排気口202を有する。
【0031】
インジェクタ200の供給口201からガラスリボン4の表面に吹き付けられたガス(エッチングガス)は、ガラスリボン4の移動方向(矢印A参照)に対して順方向(矢印A方向)又は逆方向のガスの流れを示す流路203を移動し、排気口202へ流出し、排気される。即ち、両流しタイプでは、供給口201から排気口202への流路203がガラスリボン4の移動方向に対して、順方向と逆方向に均等に分かれる。
【0032】
インジェクタ200の供給口201の底面とガラスリボン4との距離Dは50mm以下であることが好ましい。50mm以下とすることにより、ガスが大気中に拡散するのを抑制し、所望するガス量に対して、ガラスリボン4の表面に十分量のガスを到達させることができる。逆に供給口201の底面とガラスリボン4との距離が短すぎると、例えばフロート法で生産されるガラスリボン4にオンラインで処理をする際に、ガラスリボン4の位置の変動により、ガラスリボン4とインジェクタ200が接触する虞がある。
【0033】
インジェクタ200は、両流しまたは片流しなど、いずれの態様で用いてもよく、ガラスの流れ方向に直列に2個以上並べて、ガラスリボン4の表面を処理してもよい。
【0034】
フロートガラス製造装置100内を搬送されているガラスリボン4に対しフッ化水素(HF)ガス等のエッチングガスを供給して表面処理をするにあたっては、例えば、
図2の如くガラスリボン4が搬送ロール132の上を流れている場合は、搬送ロール132に触れていない側から供給してもよいし、搬送ロール132に触れている側において、隣り合う搬送ロール132の間から供給してもよい。
【0035】
また2つ以上のコンベヤーを直列に並べて、隣り合うコンベヤーの間にインジェクタ200を設置することにより、コンベヤーに触れている側から当該ガスを供給してガラスリボン4表面を処理してもよい。また、ガラスリボン4がコンベヤーの上を流れている場合は、コンベヤーに触れていない側から供給してもよい。また、コンベヤーベルトにメッシュベルトなどのガラスリボン4の一部が覆われていないメッシュ素材を用いることにより、コンベヤーに触れている側から供給してもよい。
【0036】
インジェクタ200の供給口201とガラスリボン4との距離Dは、好ましくは5~50mmである。距離Dは、より好ましくは8mm以上である。また、距離Dは、より好ましくは30mm以下、さらに好ましくは20mm以下である。距離Dを5mm以上とすることにより、例えば地震等によってガラスリボン4が振動しても、ガラスリボン4の表面とインジェクタ200との接触を回避できる。一方、距離Dを50mm以下とすることにより、ガスが装置内部で拡散するのを抑制し、所望するガス量に対して、ガラスリボン4の上面に充分な量のガスを到達させることができる。
【0037】
また、ガスの流速(線速度)は、好ましくは20~300cm/sである。流速(線速度)を20cm/s以上とすることにより、特に、HFを含有するガスの気流が安定し、ガラス表面を一様に処理することができる。流速(線速度)は、より好ましくは50cm/s以上、さらに好ましくは80cm/s以上である。
【0038】
そして、
図2に示すように、本実施形態のTFT用ガラス基板1の製造方法をオンライン処理として実施する場合、流速(線速度)を300cm/s以下とすることにより、ガスが徐冷装置の内部で拡散するのを抑制した状態で、ガラスリボン4の上面に充分な量のガスを到達させることができる。流速(線速度)は、より好ましくは250cm/s以下、さらに好ましくは200cm/s以下である。
【0039】
インジェクタ200は、所定の被処理面(例えば凹凸部や凸部16等)に対して配置されていることが望ましく、例えば、
図3に示されるように、凸部16が3カ所に生じている場合は、凸部16上にそれぞれインジェクタ200(計3カ所)が配置されていることが望ましい。
【0040】
また、長いインジェクタをガラス板の幅方向に設けて、吹き付ける箇所を凸部16に合わせて適宜調整してよい。例えば、HFガスの量をガラスリボン4の幅方向Xにおいて、I、II、IIIで示す各領域に3分割して調整するビーム302の断面図を
図6の(a)に示す。ビーム302はガラス板の幅方向に長いインジェクタであって、
図5におけるインジェクタ200を紙面に垂直な方向に引き延ばして構成される。ガス系統311~313は、隔壁314、315によって分割されており、それぞれガス吹き穴(供給口)316からHFガスを流出させて、ガラスに吹き付ける。
図6の(a)における矢印はHFガスの流れを示す。
図6の(b)における矢印は、ガス系統311におけるHFガスの流れを示す。
図6の(c)における矢印は、ガス系統312におけるHFガスの流れを示す。
図6の(d)における矢印は、ガス系統313におけるHFガスの流れを示す。
【0041】
尚、インジェクタの構成は、
図6の(a)~(d)に示した実施形態に限定されない。例えば、隔壁を複数設けて、3分割以上に区切れる構成としてよい。複数に分割すればするほど、局所的なガスの噴霧が可能となり、凸部16へのピンポイントな吹付が可能となる。
【0042】
またその際、凸部16の位置を検出する凸部検出センサと、隔壁移動装置とを備えてよい。これらを備えることで、凸部検出センサからの凸部の位置情報に基づいて、凸部16の直上のみからHFガスを吹き付けるように、隔壁を幅方向に調整できる。ここで、ガス系統は隔壁によって分割されて設けられる空間の数だけ設ければよい。
【0043】
また、別の実施形態として、一つのガス吹付空間内で、凸部16以外の箇所にHFガスが吹き付けられることを防止するために、不要なガス吹き孔316(凸部以外の箇所の直上に位置するガス吹き孔)を塞ぐ、ガス吹き孔塞ぎ装置を備えてもよい。この場合も凸部検出センサからの凸部16の位置情報に基づいて、どのガス吹き孔316が不要か判別し、ガス吹き孔塞ぎ装置を制御してよい。尚、この場合は複数のガス系統及び隔壁を設けなくともよい。
【0044】
また、別の実施形態として、一つのガス吹付空間内で、凸部16以外の箇所にHFガスが吹き付けられることを防止するために、不要なガス吹き孔316(凸部以外の箇所の直上に位置するガス吹き孔)から噴出したHFガスを吸引する吸引装置を備えてもよい。この場合も凸部検出センサからの凸部16の位置情報に基づいて、どのガス吹き孔316が不要かを判別し、吸引装置を制御してよい。尚、この場合は複数のガス系統及び隔壁を設けなくともよい。
【0045】
本実施形態のTFT用ガラス基板1の製造方法は、オンライン処理として実施してもよく、オフライン処理として実施してもよい。本明細書における「オンライン処理」とは、フロート法やダウンドロー法などで成形されたガラスリボン4を徐冷する徐冷過程において、本実施形態の方法を適用する場合を指す。一方、「オフライン処理」とは、成形され所望の大きさに切断されたガラス板10に対して、本実施形態の方法を適用する場合を指す。したがって、本明細書におけるガラス板10は、成形され所望の大きさにカットされたガラス板10に加えて、フロート法やダウンドロー法などで成形されたガラスリボン4を含む。
【0046】
本実施形態のTFT用ガラス基板1の製造方法は、オンライン処理として実施することが以下の理由から好ましい。オフライン処理だと、工程を増やす必要があるのに対し、オンライン処理だと、工程を増やす必要がないので、低コストで処理が可能となる。また、オフライン処理だと、HFを含有するガスが、ガラス板10の第2主面12である半導体素子形成面に回り込むのに対し、ガラスリボン4のオンライン処理だと、HFを含有するガスの回り込みを抑制することができる。
【0047】
図2に示すフロートガラス製造装置100は、本実施形態のTFT用ガラス基板1の製造方法をオンライン処理として実施するため、徐冷装置130内のガラスリボン4の上方にインジェクタ200が設置されており、このインジェクタ200を用いて、ガラスリボン4のトップ面に、フッ化水素(HF)を含有するガスを供給する。また、
図2では、インジェクタ200は、徐冷装置130内に設置されているが、HFを含有するガスを供給するガラス表面温度が500~900℃であれば、インジェクタ200を成形装置120内に設置してもよい。
【0048】
本実施形態のTFT用ガラス基板1の製造方法では、ガラスリボン4の少なくとも一面に対して、フッ化水素(HF)を含有するガス(気体)を吹き付けて表面処理する。フッ化水素ガスの代わりに、その構造中にフッ素原子が存在する分子を含有するガス(気体)または液体を用いてもよい。
【0049】
エッチングガスとして、フッ化水素(HF)、フロン(例えば、クロロフルオロカーボン(CFC)、フルオロカーボン(FC)、ハイドロクロロフルオロカーボン(HCFC)、ハイドロフルオロカーボン(HFC))、ハロン、フッ化水素(HF)、フッ素単体(F2)トリフルオロ酢酸(CF3COOH)、四フッ化炭素(CF4)、四フッ化ケイ素(SiF4)、五フッ化リン(PF5)、三フッ化リン(PF3)、三フッ化ホウ素(BF3)、三フッ化窒素(NF3)、三フッ化塩素(ClF3)などを用いることができるが、これらのガスや液体に限定されない。また、これらの中でも、フッ化水素(HF)ガスがコスト面、取り扱い方法が周知等の理由から好ましい。
【0050】
図7は、本実施形態のTFT用ガラス基板1を実施例として、比較例(A~C)とにおいて、第1断面15の板厚公差(μm)を実測したグラフである。実施例は幅3500mmのガラスリボンから、凸部の位置情報を得て、その凸部の位置にHFガスを吹き付けて、凸部を除去したものである。ここで、ガスの流速は0.5m/SEC,ガラス温度は625~575℃,ガス濃度は20%HF,80%N2,処理時間は約10secとした。除去量はガス中のHF濃度と処理時間に対して線形の関係であるため、左記2パラメータを調整することで除去量も調整できる。その後、ガラスリボンを切断して、1200mm×1200mmのガラス板を得て、これを実施例とした。比較例A~Cはいずれも1200mm×1200mm以上の大型のTFT用ガラス板であり、一般の流通ルートで入手できるものである。
【0051】
図7において、各プロットは、第1断面15において、板厚を20mmピッチで測定し、それらのデータを元に求めた公差を示す。尚、同じサンプルにおける複数のプロットの数はN数(測定の回数)を示し、それぞれ別の第1断面15から得られた値である。
【0052】
このグラフから、本実施形態のTFT用ガラス基板1は、第1辺13と平行な直線に沿った第1断面15において、ガラス板10の板厚Wの最大値Wmaxと板厚Wの最小値Wminの差である板厚公差が6.26μm未満であることが理解できる。また、好ましくは、6.0μm、5.8μm、5.5μm、5.3μm、5.0μm以下である。下限は限定されないが、例えば1.0μm以上である。
【0053】
先述の通り、TFT製造ラインのおける露光工程では、露光機の焦点を合わせやすいように、板厚公差の小さいガラス板10が求められており、本実施形態のTFT用ガラス基板1は、ガラス板10の第1辺13と第2辺14との長さが、少なくとも1200mm以上あり、この様に大きなサイズのガラス板10で、板厚公差が6.26μm未満のものは存在せず、本実施形態のTFT用ガラス基板1により、素子や構造体をより高精度に、及び/又は素早く形成出来得る。
【0054】
また、第1断面15においての板厚公差が極めて少ないことは、ガラス板製造装置固有のくせなどにより発生する凸部16等がエッチングガスで平滑化された効果であり、板厚Wの変化が小さいことを意味する。
【0055】
図8は、本実施形態のTFT用ガラス基板1を実施例として、比較例(A~C)とにおいて、ガラス板10の面全体に対してあらゆる断面の板厚公差(μm)を実測してプロットしたグラフである。
【0056】
図8において、各プロットは、任意に抽出されたガラス板の板厚方向の断面において、板厚を20mmピッチで複数点測定し、それらのデータを元に求めた公差を示す。尚、同じサンプルにおける複数のプロットの数はN数を示し、それぞれ不作為に選出した別の断面から得られた値である。
【0057】
このグラフから、本実施形態のTFT用ガラス基板1は、ガラス板の板厚方向のあらゆる断面において、板厚公差が7.12μm未満であることが理解できる。そして、あらゆる断面において、板厚公差が小さくなる効果が見られる。そのため本実施形態では、あらゆる断面において板厚公差が小さくかつ大型のガラス板10を有し、TFT製造時に素子や構造体をより高精度に、及び/又は素早く形成出来得るTFT用ガラス基板1を提供できる。
【0058】
また、板厚公差は、好ましくは7.0μm以下、より好ましくは6.5μm以下、さらに好ましくは6.0μm以下である。下限は限定されないが、例えば1.0μm以上である。
【0059】
図9は、本実施形態のTFT用ガラス基板1を実施例として、比較例(A~C)とにおいて、ガラス板10の第1断面15の板厚Wの一次微分値の絶対値の平均値を比較したグラフである。
【0060】
図9において、各プロットは、第1断面15において、板厚を20mmピッチで複数点測定し、それらのデータを元に求めたものである。すなわち、一次微分値は各ピッチ間における板厚の変化の傾きを示す。尚、同じサンプルにおける複数のプロットの数はN数を示し、それぞれ別の第1断面15から得られた値である。
【0061】
このグラフから、本実施形態のTFT用ガラス基板1は、第1断面15において、板厚Wの一次微分値の絶対値の平均値が1.72E-02未満であることが理解できる。板厚Wの一次微分値の絶対値は、第1断面15に沿った板厚Wの変化(傾き)の度合いを示し、当該第1断面15に亘る絶対値の平均値が小さいほど変化が小さく(傾きが小さく)、すなわち、ガラス表面に存在する凹凸が少なく滑らかである。板厚Wの一次微分値の絶対値の平均値が1.72E-02以上だと、ガラス板表面の凹凸の変化が急峻すぎるため、露光機の焦点を合わせるのに多くの時間を要し、また十分に焦点を調整しきれないためTFT形成の精度が低下しやすい。よって、本実施形態によれば、TFT製造時に素子や構造体をより高精度に、及び/又は素早く形成出来得るTFT用ガラス基板1を提供できる。
【0062】
また、板厚Wの一次微分値の絶対値の平均値は、好ましくは1.7E-02以下、より好ましくは1.65E-02以下、さらに好ましくは1.6E-02以下である。下限は限定されないが、例えば5.0E-03以上である。
【0063】
本実施形態のTFT用ガラス基板1は、第1断面15において、板厚Wの一次微分値の絶対値の標準偏差が1.5E-03以下である。板厚Wの一次微分値の絶対値の標準偏差は、第1断面15に沿った板厚Wの変化(傾き)の度合いを示す。当該第1断面15に亘る絶対値の標準偏差が小さいほど変化が小さく(傾きが小さく)、凹凸が少なく滑らかである。
【0064】
また、板厚Wの一次微分値の絶対値の標準偏差は、好ましくは1.4E-03以下、より好ましくは1.3E-03以下である。下限は特に限定されないが、例えば1.0E-04以上である。
【0065】
そして、本実施形態のTFT用ガラス基板1は、第1断面15において、板厚Wの二次微分値の絶対値の最大値が6.0E-03以下である。好ましくは5.8E-03以下、より好ましくは5.5E-03以下である。下限は特に限定されないが、例えば1.0E-03以上である。板厚Wの二次微分値の絶対値の最大値が小さいということは、板厚の変曲点が鈍化していることを表す。すなわち、エッチングガスの吹き付け効果により平滑化された面が形成されていることを意味する。そのため、特に複数の分割した露光機で焦点を合わせることが容易になる。よって、本実施形態によれば、TFT製造時に素子や構造体をより高精度に、及び/又は素早く形成出来得るTFT用ガラス基板1を提供できる。
【0066】
さらに、本実施形態のTFT用ガラス基板1は、第1断面15において、板厚Wの二次微分値の絶対値の標準偏差が1.5E-04以下である。好ましくは1.4E-04以下、より好ましくは1.3E-04以下、さらに好ましくは1.2E-04以下である。下限は特に限定されないが、例えば5.0E-06以上である。板厚Wの二次微分値の絶対値の標準偏差が、極めて小さいことは、特に大きな突出もなく、ガラス板10の板厚Wの変化が少なく、エッチングガスの吹き付け効果により平滑化された面が形成されていることを意味する。
【0067】
第1断面15において、板厚Wの一次微分値の絶対値の標準偏差、二次微分値の絶対値の最大値、二次微分値の絶対値の標準偏差が極めて小さいことは、ガラス板10の面全体が平滑化されていることを意味する。ガラス板10の面全体が平滑化されることにより例えばTFT製造ラインにおける露光工程で焦点を合わせ易くなり、生産性、品質性に優れた大型のTFT用ガラス基板1を提供できる。
【0068】
図10は、本実施形態のTFT用ガラス基板1の第2実施形態を示す正面斜視図である。
図10に基づいて、第2実施形態を説明する。
【0069】
第2実施形態のTFT用ガラス基板1において、ガラス板10の第1主面11に、粗面化領域20と非粗面化領域21とが所定の幅を有して形成されている。粗面化領域20は、第2辺14と平行な幅Lを有するエッチングガスを吹き付けた領域であり、例えば凸部16を平滑化した領域でもよい。また、非粗面化領域21は、エッチングガスを吹き付けていない領域である。尚、粗面化領域20は、必ずしも凸部16の除去を伴っていなくともよい。例えば、吹き付けるエッチングガスの量やガラス温度を調整することで、板厚の減少をほとんど伴わずに、ガラス板の表面を粗面化することができる。ガラス板10は必ずしも平滑化されていなくともよい。
【0070】
TFT製造の際、ガラス板10の第1主面11を吸着固定するが、第1主面11に静電気が溜まりやすいため、吸着固定を解除時にガラス板10の張り付きが起こり、ガラス板10が割れる問題がある。また、ガラス板10に溜まった静電気により、形成したTFT素子が不具合を起こす問題もある。これらの問題に対して、第1主面11に粗面化領域20を形成させて、部分的に表面粗さが粗い領域を形成し、静電気を溜まりづらくして、帯電を防止することができる。
【0071】
また、エッチングガスを吹き付けた粗面化領域20では、例えば、凸部16等をエッチングにより平滑化する場合、板厚W方向の板厚公差を極めて少なくしつつ、かつ所定の粗さRaを付与することができる。これにより、TFT製造において素子や構造体をより高精度に、及び/又は素早く形成でき、かつ帯電も防止できる、大型のガラス板10を有するTFT用ガラス基板1を提供できる。粗さRaはAtomic Force Microscope(Bruker社製、Dimension Icon)を用いて、Scan
Asystモード,scan size:5μm×5μm、scan rate:0.977Hzの条件で測定した。その後、2次の傾き補正をした上で上記範囲内の算術平均粗さ(Ra)を算出した。
【0072】
第2実施形態において、粗面化領域20は、ガラス板10の第1辺13と平行な方向に所定の幅Lを有してライン状に形成される。また、粗面化領域20は、任意に増やすことが可能であり、第1辺13と平行な方向にライン状に複数形成されていても良い。
【0073】
図11は、各処理温度(℃)における粗面化領域20の粗さRa
1と、非粗面化領域21の粗さRa
2と、粗さRaの比(Ra
1とRa
2の比)を示した表である。処理温度(℃)は、製造工程でエッチングガスを吹き付ける際のガラス周囲の雰囲気温度のことである。粗さRa
1及びRa
2は、粗面化領域及び非粗面化領域を各々10点測定して求めた、その平均値である。
【0074】
この表から、本実施形態のTFT用ガラス基板1において、粗面化領域20と非粗面化領域21との粗さRaの比は、1よりも大きいことが理解できる。好ましくは3以上、より好ましくは10以上、さらに好ましくは20以上である。上限は特に限定されないが、例えば100以下である。粗さRaの比を上述の範囲にすると、粗面化領域、ひいてはガラス板全体に静電気を溜まりづらくして、帯電を防止することができる。
【0075】
また、本実施形態のTFT用ガラス基板1の粗面化領域20の算術平均粗さRa1は、Ra1>0.5nmであり、非粗面化領域21の算術平均粗さRa2は、Ra2≦0.5nmであることが理解できる。Ra1は、好ましくは1.0nm以上、より好ましくは3.0nm以上、さらに好ましくは5.0nm以上である。上限は特に限定されないが、例えば50nm以下、好ましくは30nm以下、より好ましく20nm以下である。また、Ra2の下限は特に限定されないが、例えば0.2nm以上である。粗面化領域20の算術平均粗さRa1及び非粗面化領域21の算術平均粗さRa2を上述の範囲にすると、粗面化領域、ひいてはガラス板全体に静電気を溜まりづらくして、帯電を防止でき、TFT製造において素子や構造体をより高精度に、及び/又は素早く形成できる。
【0076】
また、本実施形態のTFT用ガラス基板1において、粗面化領域20の面積は、非粗面化領域21の面積よりも小さく、粗面化領域20の面積と、非粗面化領域21の面積との比は、3以上300以下である。必要な部分のみにエッチングガスを吹き付けることで、効率の良いガラス板10の表面処理が可能となり、帯電を防止でき、TFT製造において素子や構造体をより高精度に、及び/又は素早く形成できる。
【0077】
例えば、第1辺13が1200mmのガラス板10に400mm幅でガスを吹きつける場合、粗面化領域20の面積と、非粗面化領域21の面積との比は、好ましくは5、10以上、より好ましくは20以上である。また、例えば第1辺13が3000mmのガラス板10に10mm幅でガスを吹きつける場合、当該比は、好ましくは280以下、より好ましくは250以下、さらに好ましくは230以下である。必要な箇所にのみ処理を施すことで、効率の良いガラス板10の表面処理が可能となる。また凸部16の除去を伴う場合はガラス板を平滑化できる。
【0078】
そして、粗面化領域20は、第2辺14と平行な方向の幅Lが、10mm以上1000mm以下である。幅Lは、好ましくは20mm以上、より好ましくは30mm以上、さらに好ましくは50mm以上であり、また、好ましくは900mm以下、より好ましくは800mm以下、さらに好ましくは700mm以下である。必要な箇所にのみ処理を施すことで、効率の良いガラス板10の表面処理が可能となる。また凸部16の除去を伴う場合はガラス板を平滑化できる。尚、粗面化領域20が複数存在する場合は、幅Lは全部の合計ではなく、一つの粗面化領域20の幅を指している。
【0079】
図12は、本実施形態のTFT用ガラス基板1の第3実施形態を示す正面斜視図である。
図12に基づいて、第3実施形態を説明する。
【0080】
第3実施形態のTFT用ガラス基板1において、ガラス板10の第1主面11に、第1領域30と第2領域31とが所定の幅を有して形成されている。第1領域30は、第2辺14と平行な幅Lを有するエッチングガスであるフッ素を含むガス(HFなど)を吹き付けた領域であり、例えば凸部16を平滑化し、板厚公差を小さくして所定の粗さRaがある領域でもある。また、第2領域31は、フッ素を含むガスを吹き付けていない領域である。尚、第1領域30は、必ずしも凸部16の除去を伴っていなくともよい。例えば、吹き付けるHFガスの量やガラス温度を調整することで、板厚の減少をほとんど伴わずに、ガラス板の表面にフッ素を付与することができる。ガラス板10は必ずしも平滑化されていなくともよい。
【0081】
第3実施形態において、フッ素含むガスを吹き付けた第1領域30は、ガラス板10の第1辺13と平行な方向にライン状に形成される。また、第1領域30は、任意に増やすことが可能であり、第1辺13と平行な方向にライン状に複数形成されていても良い。
【0082】
図13は、各処理温度(℃)による第1領域30と第2領域31とのフッ素の含有量(wt%)を測定してプロットしたグラフである。横軸はサンプル番号を示し、No.1とNo.12が第2領域31、その他(No.2~11)が第1領域30である。各サンプルの間隔は25mmである。処理温度(℃)は、製造工程でフッ素を含むガスを吹き付ける際のガラス周囲の雰囲気温度のことである。フッ素の含有量はX―ray Fluorescence(リガク社製、ZSX PrimusII)を用いて測定した。分析径はφ20mmとし、ガラス表面のF-Kα線の強度を測定した。その後、F濃度が既知の同組成のガラスで取った検量線を基にサンプルのF濃度を算出した。
【0083】
図14は、
図13の測定値を基に算出した値を示した表である。第1領域30および第2領域31のフッ素含有量F(wt%)は、各処理温度における各サンプルの平均値であり、F濃度比は第1領域30のF値を第2領域31のF値で割った値であり、F傾き(wt%/mm)はサンプルNo.1とNo.2との傾き(No.2の値/No.1の値)を算出した値である。
【0084】
図13のグラフと
図14の表から、第1領域30と第2領域31とのフッ素の含有量(wt%)の比が1より大きいことが理解できる。また、比は、好ましくは3以上、より好ましくは5以上、さらに好ましくは8以上である。上限は特に限定されないが、例えば40以下であり、好ましくは35以下、より好ましくは30以下、さらに好ましくは25以下である。尚、元々ガラス組成でフッ素がない場合、第2領域31のフッ素含有量は0であり、比の値は無限大になる。
【0085】
第1領域30にフッ素含むガスを吹き付けることで、第1領域30の表面に撥水撥油性を付与できる。すなわち、TFT用の素子が剥離しやすい領域とすることができる。例えば、TFT形成面である第2主面12上に、第1領域30をライン状に形成して将来の分割予定線と一致させた場合、分割予定線の領域内に誤って素子が形成されたとしても、容易に剥離させることができる。
【0086】
フッ素を含むエッチングガスで、例えば、凸部16等を平滑化する場合、板厚W方向の板厚公差を極めて少なくしつつ、かつ第1領域にフッ素を付与でき、TFT製造において素子や構造体をより高精度に、及び/又は素早く形成でき、かつ第1領域に撥水撥油性を付与できる、大型のガラス板10を有するTFT用ガラス基板1を提供できる。またさらに、フッ素により粗面化された領域を形成できるため、TFT製造時における、静電気を溜まりづらくして、帯電を防止するTFT用ガラス基板1を提供できる。
【0087】
また、
図13のグラフおよび
図14の表から、第1領域30のフッ素の含有量F1は、0.5wt%≦F1≦5wt%であり、第2領域のフッ素の含有量F2は、0≦F2≦0.15wt%であることが理解できる。また、F1の下限は、好ましくは0.8wt%以上、より好ましくは1.0wt%以上であり、F1の上限は、好ましくは4.0wt%以下、より好ましくは3.0wt%以下である。
【0088】
第1領域30及び第2領域31のフッ素の含有量Fを上述の範囲に設定することで、撥水撥油性を調整することが可能である。また、例えば凸部16等の平滑化や粗面化を伴う場合、TFT製造ラインにおける露光工程での焦点を合わせ易いように板厚公差の小さいガラス板10を提供でき、静電気を溜まりづらくして、帯電を防止するTFT用ガラス基板1を提供できる。
【0089】
そして、本実施形態のTFT用ガラス基板1において、第1領域30の面積は、第2領域31の面積よりも小さく、第1領域30の面積と、第2領域31の面積との比は、3以上300以下である。必要な部分のみにフッ素を含むガスを吹き付けることで、効率の良いガラス板10の表面処理が可能となる。また凸部16の除去を伴う場合はガラス板10を平滑化できる。
【0090】
また、
図14の表から、本実施形態のTFT用ガラス基板1の第1領域30において、第2辺14と平行な方向のフッ素の含有量Fの傾きが、0.001wt%/mm以上で0.15wt%/mm以下であることが理解できる。そして、好ましくは0.13wt%/mm以下、より好ましくは0.12wt%/mm以下、さらに好ましくは0.10wt%/mm以下である。必要な部分のみにフッ素を含むガスを吹き付けられることで、効率の良いガラス板10の表面処理が可能となる。また凸部16の除去を伴う場合はガラス板を平滑化できる。
【0091】
本実施形態のTFT用ガラス基板1のガラス板10は、第1主面11及び第2主面12のうち、少なくとも一方において、研磨傷を有さないことが望ましい。より好ましくは、いずれにも研磨傷を有さないことが望ましい。研磨傷の有無はAFM(Atomic Force Microscope:原子間力顕微鏡)による表面観察によって判別することができる。本明細書においては、100μm×5μm領域内に長さ5μm以上のスクラッチが1本以上存在する場合に、表面に「研磨傷を有する」状態といい、その逆を「研磨傷を有さない」状態という。第1主面11及び第2主面12に研磨傷を有さないことで、TFT製造において素子や構造体をより高精度に、及び/又は素早く形成できる。また、ガラス板10の面強度を高めることができる。
【0092】
図15は、本実施形態における第1主面11及び第2主面12のβ-OH量を測定したグラフである。
【0093】
図15のグラフから、本実施形態のTFT用ガラス基板1のガラス板10は、溶融スズの接触していない第1主面11及び溶融スズに接触した第2主面12のいずれにも、バルク(板厚W方向の中央位置)の水分量に対し、80%以下の水分量である層を、10μm以上有していることが理解できる。
【0094】
第1主面11及び第2主面12のうち、少なくとも一方において、いずれにも、バルクの水分量に対し、80%以下の水分量である層を、10μm以上有すれば、そのガラス板はフロート法で製造したガラス板10であることが理解できる。フロート法は、より大面積のガラス板を得るのに優れた方法であり、1200mm×1200mm以上のガラス板を得やすい。ガラス板の大きさは、好ましくは1500mm×1500mm以上、より好ましくは2000mm×2000mm以上、さらに好ましくは2500mm×2500mm以上である。少なくとも1辺の長さは、1200mm~7000mmである。1枚のガラス板から、より複数のTFTが形成されたガラス基板が取り出せる。尚、水分量であるβ-OH値は、赤外分光光度計による透過率や、二次イオン質量分析(SIMS)で測定される。
【0095】
尚、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数値、形態、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【0096】
また、高平坦なガラス基板は、TFT用ガラス基板に限定されず、様々な分野で求められる。例えば、ガラスの表面にインプリントで樹脂のパターンを形成する場合、ガラスのうねりの凹んだ領域にあたる部分は、モールドが適切に押圧されずに、所望のパターンが得られない場合がある。この場合、より高平坦なガラスであれば、モールドの押圧力が均一にガラス表面に伝わるため、望ましい。例えば、インプリントで活用するガラスの大きさは、矩形状の場合、少なくとも1辺の長さが、50mm~7000mmである。
【0097】
本発明を詳細に、また特定の実施態様を参照して説明したが、本発明の精神と範囲を逸脱することなく、様々な修正や変更を加えることができることは、当業者にとって明らかである。本出願は、2017年8月10日出願の日本国特許出願2017-155468号に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明のTFT用ガラス基板は、TFT製造ラインにおける生産性の向上、帯電防止などを図り、大型で板厚公差の小さいガラス板を要求する分野に好適に用いられる。
【符号の説明】
【0099】
1 TFT用ガラス基板
10 ガラス板
11 第1主面
12 第2主面
13 第1辺
14 第2辺
15 第1断面
16 凸部
20 粗面化領域
21 非粗面化領域
30 第1領域
31 第2領域
100 フロートガラス製造装置
200 インジェクタ