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  • 特許-カドミウム溶液の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】カドミウム溶液の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 17/00 20060101AFI20240110BHJP
   C22B 3/06 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
C22B17/00 101
C22B3/06
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020055484
(22)【出願日】2020-03-26
(65)【公開番号】P2021001392
(43)【公開日】2021-01-07
【審査請求日】2022-12-02
(31)【優先権主張番号】P 2019115329
(32)【優先日】2019-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123869
【弁理士】
【氏名又は名称】押田 良隆
(72)【発明者】
【氏名】大原 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】仙波 祐輔
(72)【発明者】
【氏名】原 博之
(72)【発明者】
【氏名】中西 次郎
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-077374(JP,A)
【文献】特開2003-027153(JP,A)
【文献】特開2011-026687(JP,A)
【文献】特開平10-053821(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00-61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
出発物質となるカドミウムを含有する水酸化物を酸により浸出する際に、浸出液のpHが、2.0以上、6.0以下の範囲となるように前記水酸化物に前記酸を添加し、前記水酸化物中のカドミウムを浸出処理し、カドミウムを含む浸出液を得ることを特徴とするカドミウム溶液の製造方法。
【請求項2】
出発物質となるカドミウムを含有する水酸化物を酸により浸出する際に、浸出液のpHが、5.5以上、6.5以下の範囲となるように前記水酸化物に前記酸を添加し、前記水酸化物中のカドミウムを浸出処理し、カドミウムを含む浸出液を得ることを特徴とするカドミウム溶液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カドミウムの採取に適したカドミウム溶液の製造方法に関するもので、セメンテーション法の始液や電解採取法の始液にも適するカドミウム溶液に関する。
【背景技術】
【0002】
亜鉛製錬所における亜鉛地金の原料として、粗酸化亜鉛等から不純物を分離回収して得た酸化亜鉛鉱が広く用いられている。この粗酸化亜鉛は、例えば、鉄鋼業における高炉や電気炉等の製鋼炉から発生する鉄鋼ダストから還元焙焼処理を経て得ることができ、資源リサイクルの促進の観点からは、鉄鋼ダストの亜鉛原料としての再利用は望ましいものである。
【0003】
ところが、このような鉄鋼ダスト由来の粗酸化亜鉛には、その主成分である酸化亜鉛以外に、塩素やフッ素等のハロゲン成分及びカドミウム等の不純物が高い割合で含有されている。これらの不純物のうち、特にカドミウムについては有害金属としての性質を持っており、酸化亜鉛の製造プラントにおいては、カドミウムを分離回収する処理が必須となっている。そして一方、カドミウムはニッケルカドミウム電池の負極材として使用されるなど、電子エレクトロニクス材料として重要な有用金属のひとつとなっている。
【0004】
ところで、カドミウムを分離回収する方法としては、例えば、湿式処理で不純物を粗分離後、乾式処理によって精分離する方法が一般的に行われている。しかしながら、乾式処理は化石燃料や、電力の使用において環境やエネルギー負荷が高いという問題があった。よって、不純物の分離を一層高度に行い、湿式工程に続く乾式工程での化石燃料や電力の使用を抑制する、湿式処理技術の開発が望まれている。
【0005】
セメンテーション法や電解採取法で目的金属を析出させる湿式工程を含む湿式処理技術においては、前記の析出過程において、目的金属以外の不純物の混入を予め抑制しておくことが重要である。そのため、析出母液となる溶液から目的金属以外の不純物を予め粗分離することが行われている。
【0006】
不純物の分離を湿式処理において行う既存の技術としては、具体的に、特許文献1の技術を挙げることができる。特許文献1に開示される技術は、通常乾式処理で分離される不純物をセメンテーション法や電解採取法に使用される析出母液から予め分離を行う湿式処理技術であるが、硝酸を使用してダストから目的金属を含む鉄分以外の重金属を全て浸出させているため、その後の工程において、目的金属以外の不純物の分離と回収とに多くのコストを要することや、排水処理に脱窒素の工程が必要となり、さらに、活性炭を使用した処理であるため、使用済み活性炭の処分や交換作業に多くの労力が掛かるという課題があった。
【0007】
このような背景から、固形物から目的金属であるカドミウムを優先的に浸出させ、一方で、カドミウム以外の不純物の浸出を効果的に抑制することにより、電解採取法やセメンテーション法の析出母液に供することのできるカドミウム溶液を製造する、湿式処理技術の開発が期待されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2003-13275号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、電解採取法やセメンテーション法の析出母液に供することのできるカドミウム溶液の製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上述の目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、出発物質となるカドミウムを含有する固形物として、カドミウムを主成分とする水酸化物を採用し、その水酸化物からカドミウムを優先的に浸出させることによって、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
本発明の第1の発明は、出発物質となるカドミウムを含有する水酸化物を酸により浸出する際に、浸出液のpHが、2.0以上、6.0以下の範囲となるように前記水酸化物に前記酸を添加し、前記水酸化物中のカドミウムを浸出処理し、カドミウムを含む浸出液を得ることを特徴とするカドミウム溶液の製造方法である。
【0012】
本発明の第2の発明は、出発物質となるカドミウムを含有する水酸化物を酸により浸出する際に、浸出液のpHが、5.5以上、6.5以下の範囲となるように前記水酸化物に前記酸を添加し、前記水酸化物中のカドミウムを浸出処理し、カドミウムを含む浸出液を得ることを特徴とするカドミウム溶液の製造方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、電解採取法やセメンテーション法の析出母液に供することのできるカドミウム溶液を効率的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】金属成分を含む溶液のpHが、前記溶液に含まれる各金属成分の浸出率に及ぼす影響を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の具体的な実施形態について図面を参照しながら詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲から逸脱しない内容において、種々の変更が可能である。
【0016】
本実施の形態に係る溶液の製造方法は、出発物質であるカドミウムを含有する水酸化物(以下、粗カドミウム水酸化物とも称す。)、又は、その水酸化物に水を添加して作製した水溶液或いはスラリーに対して酸を添加してカドミウムを優先的に浸出させ、カドミウム以外の他の成分は不純物として、水酸化物や硫酸塩の固体形態に分配させた浸出液を形成後、濾過して固液分離するカドミウム溶液の製造方法である。
【0017】
浸出液のpHを所定の範囲に調整することによって、後述するが、電解採取法の始液として供することのできる品位のカドミウム溶液や、セメンテーション法の始液として供することのできる品位のカドミウム溶液を得ることができる。
【0018】
この場合、粗カドミウム水酸化物に使用する酸は特に限定されない。例えば、硫酸を使用してもよい。そして、出発物質の水酸化物の組成は、カドミウムを10~50質量%、亜鉛を15質量%以下、鉛を1.0質量%以下、ニッケルを0.01質量%以下、マンガンを5.0質量%以下、ケイ素を0.2質量%以下、の範囲内であることが好ましい。この組成を満たす水酸化物を出発物質とすることで、純度だけでなく、濃度についても効率的に高めたカドミウム溶液を製造することができる。ここで、この組成を満たすことのできる水酸化物としては、例えば、鉄鋼ダストに酸を付してカドミウムを浸出させた浸出液の中和澱物や、製錬の過程で生じるカドミウムを含む排水の中和澱物を挙げることができる。
【0019】
粗カドミウム水酸化物からのカドミウムの浸出は、浸出液のpHを6.5以下の範囲に調整することによって行うことができる。好ましくは、pHを2.0以上、6.0以下の範囲に調整することである。これにより、カドミウムの浸出率を向上させることが可能である。
【0020】
なお、図1の浸出液のpHと各金属元素の浸出率の関係からわかるように、特に低pHの領域において、亜鉛、ニッケル、ケイ素の浸出率がカドミウムの浸出率に接近して、カドミウムとの分離が十分に行えなくなるが、こうした浸出液であっても、亜鉛、ニッケル、ケイ素のカドミウムとの分離に優れる、電解採取法の始液として供することが可能である。電解採取法の始液として用いることが可能な、カドミウム溶液の組成は次のとおりである。
<電解採取法の始液として用いることが可能な、カドミウム溶液の組成>
カドミウムの含有量が5g/L以上、亜鉛の含有量が50g/L以下、鉛の含有量が0.01g/L以下、ニッケルの含有量が0.2g/L以下、マンガンの含有量が5g/L以下、ケイ素の含有量が1g/L以下が好ましい成分組成である。
【0021】
さらに、浸出液のpHが5.5以上、6.5以下の範囲となるように調整すれば、亜鉛、ニッケル、ケイ素、マンガンの各元素をカドミウムから分離させることが可能である。
【0022】
このようにして得た浸出液は、亜鉛、鉛、ニッケル、ケイ素、マンガンの含有量が相対的にカドミウムに対して低減されているため、電解採取法の始液として供することが出来るだけでなく、特にケイ素との分離が優れるのでセメンテーション法の始液としても供することが可能である。セメンテーション法の始液として用いることが可能な、カドミウム溶液の組成は次のとおりである。
<セメンテーション法の始液として用いることが可能な、カドミウム溶液の組成>
カドミウムの含有量が5g/L以上、亜鉛の含有量が50g/L以下、鉛の含有量が0.01g/L以下、ニッケルの含有量が0.05g/L以下、マンガンの含有量が5g/L以下、ケイ素の含有量が0.1g/L以下が好ましい成分組成である。
【0023】
一方、pHが6.5を超える範囲となるように調整すると、亜鉛と鉛とニッケルとマンガンとケイ素の何れも浸出率が低下するが、カドミウムの浸出率も低下してしまうため、非効率であり好ましくない。
【実施例
【0024】
以下、本発明の実施例を示してさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に何
ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0025】
カドミウムを13質量%、亜鉛を1.1質量%、鉛を0.10質量%、ニッケルを0.006質量%、マンガンを1.9質量%、ケイ素を0.07質量%含有する粗カドミウム水酸化物を40gずつ200mlビーカーに分取した。
【0026】
その粗カドミウム水酸化物に、純水65mlを添加、25℃の常温で撹拌しながら、pHが5.5になるよう64質量%硫酸を添加した。pHが安定してから、60分間撹拌し、メンブレン濾紙で濾過した後、得られた固形物と濾液とをそれぞれ分析して各金属元素の浸出率を求めて表1に示す。
さらに、得られた濾液の組成分析を表2に示す。
【実施例2】
【0027】
64質量%硫酸を添加してpHを2.0に維持した以外は実施例1と同じ条件で浸出処理を行い、実施例2に係る固形物と濾液を得て、それぞれを分析した。
各金属元素の浸出率を表1に示す。
さらに、得られた濾液の組成分析を表3に示す。
【実施例3】
【0028】
64質量%硫酸を添加してpHを2.5に維持した以外は実施例1と同じ条件で浸出処理を行い、実施例3に係る固形物と濾液を得て、それぞれを分析した。
各金属元素の浸出率を表1に示す。
【実施例4】
【0029】
64質量%硫酸を添加してpHを3.5に維持した以外は実施例1と同じ条件で浸出処理を行い、実施例4に係る固形物と濾液を得て、それぞれを分析した。
各金属元素の浸出率を表1に示す。
【実施例5】
【0030】
64質量%硫酸を添加してpHを4.0に維持した以外は実施例1と同じ条件で浸出処理を行い、実施例5に係る固形物と濾液を得て、それぞれを分析した。
各金属元素の浸出率を表1に示す。
【実施例6】
【0031】
64質量%硫酸を添加してpHを4.5に維持した以外は実施例1と同じ条件で浸出処理を行い、実施例6に係る固形物と濾液を得て、それぞれを分析して各金属元素の浸出率を表1に示す。
【実施例7】
【0032】
64質量%硫酸を添加してpHを5.0に維持した以外は実施例1と同じ条件で浸出処理を行い、実施例7に係る固形物と濾液を得て、それぞれを分析して各金属元素の浸出率を表1に示す。
【実施例8】
【0033】
64質量%硫酸を添加してpHを6.0に維持した以外は実施例1と同じ条件で浸出処理を行い、実施例8に係る固形物と濾液を得て、それぞれを分析して各金属元素の浸出率を表1に示す。
【実施例9】
【0034】
64質量%硫酸を添加してpHを6.5に維持した以外は実施例1と同じ条件で浸出処理を行い、実施例9に係る固形物と濾液を得て、それぞれを分析して各金属元素の浸出率を表1に示す。
【0035】
(比較例1)
64質量%硫酸を添加してpHを7.0に維持した以外は実施例1と同じ条件で浸出処理を行い、比較例1に係る固形物と濾液を得て、それぞれを分析して各金属元素の浸出率を表1に示す。
【0036】
(比較例2)
64質量%硫酸を添加してpHを7.5に維持した以外は実施例1と同じ条件で浸出処理を行い、比較例2に係る固形物と濾液を得て、それぞれを分析して各金属元素の浸出率を表1に示す。
【0037】
上記実施例、及び比較例で得られた濾液のpHと各金属元素の浸出率との関係を表1、図1に示す。なお、ここでの浸出率は、浸出により、液側に分配した比率と定義する。
【0038】
【表1】
【0039】
【表2】
【0040】
【表3】
【0041】
実施例1~9のpH2.0以上、6.5以下の範囲においては、カドミウムの浸出率が71%以上のカドミウム溶液となった。
【0042】
さらに、表2に示すようにpHを5.5に調整した場合(実施例1)には、セメンテーション法の始液として用いることが可能なカドミウムの含有量が5g/L以上、亜鉛の含有量が50g/L以下、鉛の含有量が0.01g/L以下、ニッケルの含有量が0.05g/L以下、マンガンの含有量が5g/L以下、ケイ素の含有量が0.1g/L以下の範囲を満たすカドミウム溶液を得ることができた。
【0043】
また、表3に示すようにpHを2.0に調整した場合(実施例2)には、電解採取法の始液として用いることのできる、カドミウムの含有量が5g/L以上、亜鉛の含有量が50g/L以下、鉛の含有量が0.01g/L以下、ニッケルの含有量が0.2g/L以下、マンガンの含有量が5g/L以下、ケイ素の含有量が1g/L以下の範囲を満たすカドミウム溶液を得ることができた。
【0044】
一方で、比較例1、2の浸出液のpHが7.0以上、7.5以下の範囲においては、ケイ素、亜鉛、ニッケル、マンガンの浸出率が15%以下となるものの、カドミウムの浸出率も20%以下となり非効率となった。
図1