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  • 特許-酸化鉱石の製錬方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-01-09
(45)【発行日】2024-01-17
(54)【発明の名称】酸化鉱石の製錬方法
(51)【国際特許分類】
   C22B 23/02 20060101AFI20240110BHJP
   C22B 5/10 20060101ALI20240110BHJP
   C22C 33/04 20060101ALI20240110BHJP
【FI】
C22B23/02
C22B5/10
C22C33/04 H
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019150687
(22)【出願日】2019-08-20
(65)【公開番号】P2021031705
(43)【公開日】2021-03-01
【審査請求日】2022-06-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】小林 純一
(72)【発明者】
【氏名】丹 敏郎
(72)【発明者】
【氏名】井関 隆士
【審査官】池田 安希子
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-074945(JP,A)
【文献】特開2017-197814(JP,A)
【文献】特開平08-337827(JP,A)
【文献】特開2002-241820(JP,A)
【文献】特開平10-102116(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22B 1/00 - 61/00
C22C 33/00
C22B 33/04 - 33/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化ニッケルと、酸化鉄とを含有するニッケル酸化鉱石を還元してフェロニッケルメタルを製造するニッケル酸化鉱石の製錬方法であって、
前記ニッケル酸化鉱石と第1の還元剤である炭素質還元剤とを含む混合物を得る混合工程と、
得られた混合物を還元炉内に装入して還元処理を施して還元物を得る還元工程と、
得られた還元物からメタル中ニッケル含有率が16.1%以上のフェロニッケルメタルを回収する回収工程と、
を有し、
前記還元工程では、前記混合物の加熱を開始して所定期間経過後に前記還元炉の装入口から第2の還元剤を投入することで、第2の還元剤を前記混合物に添加する
ニッケル酸化鉱石の製錬方法。
【請求項2】
前記第2の還元剤は炭素質還元剤であり、
前記還元工程では、下記式で定義される投炭率が0.1以上0.3以下となるように前記第2の還元剤を添加する
請求項1に記載のニッケル酸化鉱石の製錬方法。
投炭率=第2の還元剤に含まれる炭素質量(g)/混合物に含まれる酸化鉱石の質量(g)
【請求項3】
前記還元工程では、前記第2の還元剤を前記混合物に2回以上添加する
請求項2に記載のニッケル酸化鉱石の製錬方法。
【請求項4】
前記還元工程では、前記混合物に1回目の前記第2の還元剤の添加を行って還元処理を施し、該還元処理の途中で2回目以降の前記第2の還元剤の添加を行う
請求項3に記載のニッケル酸化鉱石の製錬方法。
【請求項5】
2回目以降の第2の還元剤の添加において、前記投炭率が0.03以上0.1以下となるように添加する
請求項3又は4に記載のニッケル酸化鉱石の製錬方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化鉱石の製錬方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化鉱石の一種であるリモナイトあるいはサプロライトと呼ばれるニッケル酸化鉱石の製錬方法として、熔錬炉を使用してニッケルマットを製造する乾式製錬方法、ロータリーキルンあるいは移動炉床炉を使用して鉄とニッケルの合金(以下、鉄とニッケルの合金を「フェロニッケル」ともいう)を製造する乾式製錬方法、オートクレーブを使用して高温高圧で酸浸出し、ニッケルやコバルトが混在した混合硫化物(ミックスサルファイド)を製造する湿式製錬方法等が知られている。
【0003】
上述した様々な方法の中で、特に乾式製錬法を用いてニッケル酸化鉱石を還元して製錬する場合、反応を進めるために原料のニッケル酸化鉱石を適度な大きさに破砕する等して塊状物化する処理が前処理として行われる。
【0004】
具体的に、ニッケル酸化鉱石を塊状物化する、すなわち粉状や微粒状の鉱石を塊状にする際には、そのニッケル酸化鉱石と、それ以外の成分、例えばバインダーやコークス等の還元剤とを混合して混合物とし、さらに水分調整等を行った後に塊状物製造機に装入して、例えば一辺あるいは直径が10mm以上30mm以下程度の成形物(ペレット、ブリケット等を指す。以下、単に「ペレット」ということもある)とするのが一般的である。
【0005】
塊状物化して得られるペレットには、含有する水分を「飛ばす」ために、ある程度の通気性が必要となる。さらに、その後の還元処理においてペレット内で均一に還元が進まないと、得られる還元物の組成が不均一になり、メタルが分散したり偏在したりする等の不都合が生じる。そのため、ペレットを作製する際には混合物を均一に混合したり、得られたペレットを還元する際には可能な限り均一な温度を維持することが重要となる。
【0006】
加えて、還元処理により生成するメタル(フェロニッケル)を粗大化させることも非常に重要な技術である。生成したフェロニッケルが、例えば数10μm以上数100μm以下の細かな大きさであった場合、同時に生成するスラグと分離することが困難となり、フェロニッケルとしての回収率(収率)が大きく低下してしまう。そのため、還元後のフェロニッケルを粗大化する処理が必要となる。
【0007】
例えば、特許文献1には、ペレットを移動炉床炉に載置して、その移動炉床炉を使用して、ペレットに対する還元加熱処理と、再加熱処理と、を連続的に施すことを特徴とする酸化鉱石の製錬方法が開示されている。特許文献1によれば、この酸化鉱石の製錬方法は、製錬反応(還元反応)を効果的に進行させて、高いニッケル品位を有する鉄-ニッケル合金を効率的に得ることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2017-52994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、ニッケル酸化鉱石等の酸化鉱石を含む混合物を還元することでメタルを製造する製錬方法において、得られるメタルの品位を高めることができ、高品質のメタルを効率的に製造することができる酸化鉱石の製錬方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、還元処理する際に第2の還元剤を混合物に添加して還元処理を施すことによって上記課題を解決することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
(1)本発明の第1は、酸化鉱石と第1の還元剤である炭素質還元剤とを含む混合物を得る混合工程と、得られた混合物を還元炉内に装入して還元処理を施す還元工程と、を有し、前記還元工程では、還元処理する際に第2の還元剤を前記混合物に添加する酸化鉱石の製錬方法である。
【0012】
(2)本発明の第2は、第1の発明において、前記第2の還元剤は炭素質還元剤であり、前記還元工程では、下記式で定義される投炭率が0.1以上0.3以下となるように前記第2の還元剤を添加する酸化鉱石の製錬方法である。
投炭率=第2の還元剤に含まれる炭素質量(g)/混合物に含まれる酸化鉱石の質量(g)
【0013】
(3)本発明の第3は、第2の発明において、前記還元工程では、前記第2の還元剤を前記混合物に2回以上添加する酸化鉱石の製錬方法である。
【0014】
(4)本発明の第4は、第3の発明において、前記還元工程では、前記混合物に1回目の前記第2の還元剤の添加を行って還元処理を施し、該還元処理の途中で2回目以降の前記第2の還元剤の添加を行う酸化鉱石の製錬方法である。
【0015】
(5)本発明の第5は、第3又は第4の発明において、2回目以降の第2の還元剤の添加において、前記投炭率が0.03以上0.1以下となるように添加する酸化鉱石の製錬方法である。
【0016】
(6)本発明の第6は、第1乃至5のいずれかの発明において、前記酸化鉱石は、ニッケル酸化鉱石であり、該ニッケル酸化鉱石を還元してフェロニッケルを製造する酸化鉱石の製錬方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る酸化鉱石の製錬方法によれば、高品質なメタルを効率的に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】ニッケル酸化鉱石の製錬方法の流れの一例を示す工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の具体的な実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。また、本明細書において、「X~Y」(X、Yは任意の数値)との表記は、「X以上Y以下」の意味である。
【0020】
≪1.酸化鉱石の製錬方法の概要≫
本実施の形態に係る酸化鉱石の製錬方法は、原料鉱石である酸化鉱石(酸化物)を第1の還元剤と混合し、その混合物(ペレット)に対して製錬炉(還元炉)内で還元処理を施すことによって、メタルとスラグとを生成させるものである。
【0021】
例えば、酸化鉱石として、酸化ニッケルや酸化鉄等を含有するニッケル酸化鉱石を原料とし、そのニッケル酸化鉱石と第1の還元剤とを混合して混合物を得て、混合物に含まれるニッケルを優先的に還元し、また鉄を部分的に還元することで、鉄とニッケルの合金であるフェロニッケルを製造する方法が挙げられる。
【0022】
そして、本実施の形態に係る酸化鉱石の製錬方法においては、酸化鉱石と第1の還元剤としての炭素質還元剤との混合物に対して還元処理を施すにあたり、その混合物に対して第2の還元剤として別途還元剤を添加して処理することを特徴としている。
【0023】
このような方法によれば、例えば還元炉内に残存する酸素等により酸化されたメタルを再還元することができ、得られるメタルの品位を高めることができる。これにより、高品質なメタルを効率的に製造することができる。
【0024】
≪2.ニッケル酸化鉱石を用いてフェロニッケルの製造する製錬方法≫
以下では、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石に含まれるニッケル(酸化ニッケル)と鉄(酸化鉄)を還元することで、鉄-ニッケル合金のメタルを生成させ、さらに、そのメタルを分離することによってフェロニッケルを製造する製錬方法を例に挙げて説明する。
【0025】
具体的に、本実施の形態に係るニッケル酸化鉱石の製錬方法は、図1に示すように、ニッケル酸化鉱石と炭素質還元剤とを混合して混合物を得る混合工程S1と、得られた混合物に還元処理を施す還元工程S2と、得られた還元物からメタルを回収する回収工程S3と、を含む。
【0026】
<2-1.混合工程>
混合工程S1は、ニッケル酸化鉱石と、第1の還元剤である炭素質還元剤とを混合して混合物を得る工程である。ここで、混合工程S1にてニッケル酸化鉱石と混合して混合物を構成する炭素質還元剤を「第1の還元剤」として、後述する還元工程S2にて別途用いる還元剤(第2の還元剤)とは区別する。
【0027】
具体的に、混合工程S1では、まず、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石に、第1の還元剤である炭素質還元剤を添加して混合し、また任意成分の添加剤として、鉄鉱石、フラックス成分、バインダー等の、例えば粒径が0.2mm以上0.8mm以下程度の粉末を添加して混合し、混合物を得る。なお、混合処理は、混合機等を用いて行うことができる。
【0028】
原料鉱石であるニッケル酸化鉱石としては、特に限定されないが、リモナイト鉱、サプロライト鉱等を用いることができる。なお、ニッケル酸化鉱石は、酸化ニッケル(NiO)と、酸化鉄(Fe)とを少なくとも含有する。
【0029】
第1の還元剤である炭素質還元剤としては、特に限定されないが、例えば、石炭粉、コークス粉等が挙げられる。なお、この炭素質還元剤は、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石の粒度や粒度分布と同等の大きさのものであると、均一に混合しやすく、還元反応も均一に進みやすくなるため好ましい。
【0030】
炭素質還元剤の含有量(混合物中に含まれる炭素質還元剤の含有量)としては、ニッケル酸化鉱石を構成する酸化ニッケルの全量をニッケルメタル還元するのに必要な化学当量と、酸化鉄(酸化第二鉄)を金属鉄に還元するのに必要な化学当量との両者合計値(便宜的に「化学当量の合計値」ともいう)を100質量%としたときに、50質量%以下の割合とすることが好ましく、40質量%以下の割合とすることがより好ましい。鉄の還元量を抑えて、ニッケル品位を高めることができ、高品質のフェロニッケルを製造することができる。また、炭素質還元剤の混合量は、化学当量の合計値を100質量%としたときに、10質量%以上の割合とすることが好ましく、15質量%以上の割合とすることがより好ましい。ニッケルの還元を効率的に進行させることができ生産性が向上する。
【0031】
任意成分の添加剤である鉄鉱石としては、例えば、鉄品位が50質量%程度以上の鉄鉱石、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬により得られるヘマタイト等を用いることができる。また、フラックス成分としては、例えば、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、二酸化珪素等を挙げることができる。また、バインダーとしては、例えば、ベントナイト、多糖類、樹脂、水ガラス、脱水ケーキ等を挙げることができる。
【0032】
混合工程S1では、ニッケル酸化鉱石を含む原料粉末を均一に混合することによって混合物を得る。下記表1に、混合工程S1にて混合する、一部の原料粉末の組成(質量%)の一例を示すが、原料粉末の組成としてはこれに限定されない。
【0033】
【表1】
【0034】
混合に際しては、混合性を高めるために混練を同時に行ってもよく、混合後に混練を行ってもよい。混練は、ブラベンダー等のバッチ式ニーダー、バンバリーミキサー、ヘンシェルミキサー、ヘリカルローター、ロール、一軸混練機、二軸混練機等を用いて行うことができる。混合物を混練することによって、その混合物にせん断力を加え、炭素質還元剤や原料粉末等の凝集を解いて均一に混合できるとともに、各々の粒子の密着性を向上させ、また空隙を減少させることができる。これにより、その混合物において還元反応が起りやすくなるとともに均一に反応させることができ、還元反応の反応時間を短縮することができる。また、品質のばらつきを抑えることができる。
【0035】
また、混合を行った後、あるいは混合及び混練を行った後、押出機を用いて押出してもよい。これにより、混合物に対して圧力(せん断力)が加えられ、炭素質還元剤や原料粉末等の凝集を解いてその混合物をより均一に混合させた状態とすることができる。さらに、混合物内の空隙を減少させることができる。これらのことから、後述する還元工程S2において混合物の還元反応が均一に起りやすくなり、得られるメタルの品位を高めることができ、高品質なメタルを製造することができる。
【0036】
押出機は、高圧、高せん断力で混合物を混練して成形できるものであることが好ましく、一軸押出機、二軸押出機等を挙げることができる。特に、二軸押出機を備えたものであることが好ましい。高圧、高せん断で混合物を混練することにより、原料粉の混合物の凝集を解くことができ、また効果的に混練することができるうえ、混合物の強度を高めることができる。また、二軸押出機を備えたものを用いることにより、連続的に高い生産性を保ちながら混合物を得ることができる。
【0037】
また、混合物を所定形状の成形物(ペレット)に成形してもよい。成形物の形状としては、例えば、球状、直方体状、立方体状、円柱状等とすることができる。このような形状は、簡易な形状であって複雑なものではないため、成形コストを抑制しつつ不良品の発生を抑制することができ、得られる成形物の品質も均一となり、歩留り低下を抑制することができる。
【0038】
成形物の形状は、特に球状であることが好ましい。球状の成形物であることにより還元処理が均一に施され、ばらつきが少なく、かつ生産性の高い製錬を行うことができる。成形物の形状を球状とする場合には、直径が10mm以上30mm以下程度となるように成形することができる。また、直方体状、立方体状、円柱状等とする場合には、概ね、縦、横の内寸が500mm以下程度となるように成形することができる。
【0039】
成形物の大きさとしては、特に限定されないが、成形物の体積が8000mm以上であることが好ましい。成形物の体積が8000mm以上であることにより、成形コストが抑制され、さらに、成形物全体に占める表面積の割合が低くなるため、還元処理が均一に施され、ばらつきが少なく、かつ生産性の高い製錬を行うことができる。
【0040】
また、得られた混合物を所定の還元用の容器に充填してもよい。容器に充填された混合物が容器に充填された状態のまま還元処理が施されることにより、後述する分離工程S4において還元されたメタルが磁選等の処理によりメタルを分離回収しやすくなり、ロスを抑制することができる。
【0041】
混合工程S1では、得られた混合物に乾燥処理を施してもよい。混合物は、混練や成形物の成形等において上記混合物を多量の水と共に混合する。本実施の形態におい乾燥処理を施すことは必須の態様ではないが、多量の水を含む混合物に乾燥処理を施すことにより、後述する還元処理において水分の気化に伴う混合物の膨張を防ぐことができる。
【0042】
さらに、混合物に乾燥処理を施すことで、還元炉内における混合物に起因する水分混入を抑制することができる。これにより、還元炉内の雰囲気気体に含まれる水分量をより効果的に減らすことができ、還元物に含まれるメタルの酸化をより効果的に抑制することができる。
【0043】
混合物を乾燥する方法は、特に限定されず、混合物を所定の乾燥温度(例えば、150℃以上400℃以下)に保持する方法や所定の乾燥温度の熱風を混合物に対して吹き付けて乾燥させる方法等、従来公知の手段を用いることができる。このような乾燥処理により、例えば、混合物の固形分が70質量%程度で、水分が30質量%程度となるようにする。なお、この乾燥処理時における混合物自身の温度としては、100℃未満とすることが好ましく、これにより水分の突沸等による混合物の破裂を抑制することができる。
【0044】
また、乾燥処理は連続して一度に行ってもよいし複数回に分けて行ってもよい。乾燥処理を複数回に分けて行うことにより混合物の破裂をより効果的に抑制することができる。なお、乾燥処理を複数回に分けて行った場合において、2回目以降の乾燥温度としては、150℃以上400℃以下が好ましい。この範囲で乾燥することにより、還元反応が進むことなく乾燥することが可能となる。
【0045】
下記表2に、乾燥処理後の混合物における固形分中組成(質量部)の一例を示す。なお、成形物の組成としては、これに限定されるものではない。
【0046】
【表2】
【0047】
<2-2.還元工程>
還元工程S2は、得られた混合物に還元処理を施す工程である。具体的には、混合物を還元炉に装入して、その混合物に加熱還元処理を施す。還元処理では、混合物中の第1の還元剤に基づいて製錬反応(還元反応)が進行して、混合物中では、フェロニッケルメタル(以下、単に「メタル」という)と、フェロニッケルスラグ(以下、単に「スラグ」という)とが分かれて生成する。
【0048】
還元処理では、例えば1分程度のわずかな時間で、先ず還元反応の進みやすい混合物の表面近傍において混合物中のニッケル酸化鉱石及び鉄酸化物が還元されメタル化してフェロニッケルとなり、殻(シェル)を形成する。一方で、殻の中では、その殻の形成に伴ってスラグ成分が徐々に熔融して液相のスラグが生成する。これにより、混合物中では、メタルと、スラグとが分かれて生成する。処理時間が10分程度経過すると、還元反応に関与しない余剰の炭素質還元剤がメタルに取り込まれて融点を低下させて、メタルも液相となる。
【0049】
ここで、生成されたメタルの一部が還元炉内に残存した酸素により酸化されることがあり、得られるメタルの品位が低下する問題がある。特に、加熱還元処理を施す際にバーナーを有する還元炉を用いる場合、燃焼ガスが還元炉内に混入することにより、還元炉内に酸素がより多く残存するようになるため、メタルの一部がより酸化されやすくなる問題が相対的に大きくなる。
【0050】
そこで、本実施の形態に係るニッケル酸化鉱石の製錬方法では、ニッケル酸化鉱石と第1の還元剤である炭素質還元剤との混合物に対して還元処理を施すにあたり、その混合物に対して第2の還元剤として別途還元剤を添加(投炭)して処理することを特徴としている。このような方法によれば、処理空間内に残存する酸素によって、還元により生成したメタルの酸化を抑制することができ、また、酸化された一部のメタルを再還元することができる。これにより、高品質なメタルを製造することができる。
【0051】
また、第2の還元剤を添加して還元処理を施すことにより、長時間に亘って高温を維持して混合物に対する還元処理を施すことが可能となることで、得られるメタルの凝集が促進されてメタルを粗大化させることができる。ここれにより、後述する回収工程S3において得られる還元物を細かく砕く必要がなくなり、粉砕にかかるコストを大幅に削減することができる。さらに、メタルが粗大化されることにより、後述する回収工程S3において例えば磁選等によりメタルを回収する等の場合に、メタルを確実に磁着させることができ、磁着のハンドリング性やメタル回収率を向上させることが可能となる。
【0052】
第2の還元剤としては、混合物に還元処理を施すことができるものであれば特に制限はされず、例えば、石炭粉、コークス粉等のような炭素質還元剤の粉末や粒子を挙げることができる。
【0053】
第2の還元剤を混合物に添加(投炭)する方法は、例えば、還元炉に載置した混合物と炭素質還元剤とが接触するように、還元炉の所定の装入口から炭素質還元剤の粉末や粒子を添加投入する方法が挙げられる。
【0054】
また、混合物の添加(投炭)は、例えば、設定した還元温度に到達したタイミング、還元温度に到達後ある程度還元反応が進んだタイミング、または還元反応が終了したタイミングに行えばよい。
【0055】
第2の還元剤の添加量に関しては、下記式で定義される投炭率が0.1以上0.3以下となるように添加することが好ましい。
投炭率=第2の還元剤に含まれる炭素の質量(g)/混合物に含まれる酸化鉱石の質量(g)
【0056】
投炭率が0.1以上となるように第2の還元剤を添加することにより、処理空間内に残存する酸素によるメタルの酸化をより効果的に抑制することができる。また、投炭率が0.3以下となるように第2の還元剤を添加することにより、鉄の還元量を抑えて、ニッケル品位をより高めることができる。なお、後述するように第2の還元剤を2回以上に亘って添加する場合には、1回目での第2の還元剤の添加を、投炭率が0.1以上0.3以下となるように添加する。
【0057】
ここで、第2の還元剤の添加は、還元処理する際に1回添加してもよいが、2回以上に亘って添加してもよい。具体的に、例えば2回以上に亘って第2の還元剤を添加する場合には、1回目の第2の還元剤を添加して還元処理を施し、還元処理の途中で2回目以降の第2の還元剤を添加する。なお、「還元処理の途中」とは、例えば、還元処理する際に1回目の第2の還元剤を混合物に添加して還元処理を施し、その還元反応がおおむね終了するタイミング(例えば設定した還元温度に到達してから15~30分後程度のタイミング)を目途に2回目の第2の還元剤の添加を行うことをいう。還元反応がおおむね終了しているとは、還元反応が平衡状態に達している状態をいう。
【0058】
このように2回以上に亘って第2の還元剤を添加することにより、還元炉内に残存する酸素等によるメタルの酸化をより効果的に抑制することができ、また酸化されたメタルを再還元することも促進することができる。また、ニッケル酸化鉱石に含まれるニッケルの還元不足を補うことも可能となり、メタルの品位を高めるさらに高めることもできる。
【0059】
第2の還元剤を2回以上の回数で添加する場合、その2回目以降の第2の還元剤の添加量としては、上記式で定義される投炭率が0.03以上0.1以下となるように添加することが好ましい。
【0060】
2回目以降の第2の還元剤の投炭率が0.03以上であることにより、メタルの酸化をより効果的に抑制することができる。また、2回目以降の第2の還元剤の投炭率が0.1以下であることにより、鉄の還元量を抑えて、ニッケル品位をより高めることができる。
【0061】
還元工程S2における還元処理は、還元炉を用いて行われる。還元炉の加熱手段は、バーナーであっても電気であってもよいが、短時間で混合物に有効に加熱還元処理を施すことができることからバーナーであることが好ましい。バーナーを有する還元炉を用いる場合、燃料としては、例えばLPGガス、LNGガス、石炭、コークス、微粉炭等が用いられる。これらの燃料のコストは非常に安価であり、設備費やメンテナンス費に関しても電気炉等と比較して格段に安価に抑えることができる。一方、バーナーを有する還元炉は還元炉内に混入する燃焼ガスにより、得られたメタルの一部が相対的に酸化されやすくなるものの、本実施の形態に係るニッケル酸化鉱石の製錬方法であれば、混合物に対して第2の還元剤として別途還元剤を添加(投炭)して処理していることから、得られたメタルの一部が酸化されることを効果的に抑制することが可能であり、電気炉を用いた場合と同様に高品質なメタルを製造することができる。
【0062】
バーナーを有する還元炉を用いる場合、ニッケル酸化鉱石を含む混合物を、例えば石炭、重油、炭化水素ガスといった化石燃料を燃料としたバーナーを使用し、還元温度が1300℃以上、好ましくは1300℃以上1450℃以下の温度に加熱した還元炉に装入することによって還元処理を施す。
【0063】
還元処理における時間(処理時間)としては、還元炉の温度に応じて設定されるが、10分以上であることが好ましく、15分以上であることがより好ましい。
【0064】
なお、還元温度(℃)と還元時間(分)の数値を乗じた値を還元に要した熱量は、20000(℃×分)以上40000(℃×分)以下の範囲であることが好ましい。高品質なメタルを効率的に製造することができる。
【0065】
還元炉としては、特に限定されないが、単一の炉を用いても、移動炉床炉等の炉床が回転移動等して連続的に処理可能となる炉を用いてもよい。移動炉床炉を使用して一つの設備内の異なる処理空間で各工程での処理を行うことで、ヒートロスが低減されるとともに炉内雰囲気も的確に制御できるため、反応をより効果的に進行させることができる。
【0066】
移動炉床炉としては、特に限定されず、例えば、円形状であって複数の処理領域に区分けされた回転炉床炉を用いることができる。回転炉床炉では、所定の方向に回転しながら、各領域においてそれぞれの処理を行う。この回転炉床炉では、各領域を通過する際の時間(移動時間、回転時間)を制御することで、それぞれの領域での処理温度を調整することができ、回転炉床炉が1回転する毎に混合物が製錬処理される。また、移動炉床炉としては、ローラーハースキルン等であってもよい。
【0067】
<2-3.回収工程>
回収工程S3は、還元工程S2より得られた還元物からメタルを回収する工程である。具体的には、容器に充填させた状態の混合物に対する還元加熱処理によって得られた、メタル相とスラグ相とを含む混在物(混合物)からメタル相を分離して回収する。
【0068】
固体として得られたメタル相とスラグ相との混在物からメタル相とスラグ相とを分離する方法としては、例えば、篩い分けによる不要物の除去に加えて、比重による分離や、磁力による分離等の方法を利用することができる。
【0069】
本実施の形態に係るニッケル酸化鉱石の製錬方法では、得られるメタルの凝集が促進されてメタルが粗大化されていることから、得られる還元物を細かく砕く必要がなく、所定の落差を設けて落下させたり、所定の振動を与える等の衝撃を与えることにより分離も容易である。
【0070】
さらに、メタルが粗大化されることにより、メタルを確実に磁着することができ、磁着のハンドリング性やメタル回収率を向上させることが可能となる。
【実施例
【0071】
以下、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0072】
<実施例、比較例>
原料鉱石としてのニッケル酸化鉱石と、鉄鉱石と、フラックス成分である珪砂及び石灰石、バインダー、及び炭素質還元剤(石炭粉、炭素含有量:83質量%、平均粒径:約75μm)を、適量の水を添加しながら混合機を用いて混合して混合物を得た。炭素質還元剤(石炭粉)は、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石に含まれる酸化ニッケルと酸化鉄(Fe)とを過不足なく還元するのに必要な量を100質量%としたときに29質量%の割合となる量で含有させた。
【0073】
次に、パン型造粒機により、得られた混合物に適宜水分を添加して球状に成形された直径15.0±0.5mmの混合物(試料)を12(実施例1~8、比較例1~4)得た。次に、各試料を固形分が70重量%程度、水分が30重量%程度となるように、200℃~250℃の熱風を吹き付ける乾燥処理を施した。下記表3に、乾燥処理後の試料の固形分組成(炭素を除く)を示す。
【0074】
【表3】
【0075】
次に、実施例1~8、比較例1~4の混合物(試料)を回転炉床炉に装入して、それぞれ表4に示す条件で還元を行った。
【0076】
この還元処理においては、第2の還元剤としての炭素質還元剤(石炭粉、炭素含有量:83質量%、平均粒径:約75μm)を、還元炉に載置した混合物に接触するように添加投入した。
【0077】
ここで、第2の還元剤の添加に関して、実施例1~4では、設定した還元温度に到達してから10分後のタイミングで投炭率(還元処理する際に添加する第2の還元剤に含まれる炭素質量(g)/混合物に含まれる酸化鉱石の質量(g))が0.20となるように添加(投炭)した(表4中、「第2の還元剤」について「有(1回)」と表記。)。
【0078】
実施例5~8では、設定した還元温度に到達してから10分後のタイミングで実施例1~4と同様に第2の還元剤を添加(投炭)し、設定した還元温度に到達してから30分後のタイミングで投炭率が0.07となるように第2の還元剤をさらに添加(投炭)した(表4中、「第2の還元剤」について「有「2回)」と表記。)。
【0079】
一方、比較例1~4の試料については、還元処理する際に第2の還元剤を混合物に添加しなかった(表4中、「第2の還元剤」について「無」と表記。)。
【0080】
なお、還元処理においては、還元炉の炉床に予め炉床保護剤(主成分はSiOであり、その他の成分としてAl、MgO等の酸化物を少量含有する)を敷き詰め、その上に試料を載置して還元処理を施した。
【0081】
このような還元処理の後、得られた還元物冷却後の実施例1~8、比較例1~4の試料を粉砕し、その後磁力選別によってメタルを回収した。
【0082】
還元加熱処理後の各試料について、ニッケルメタル化率、メタル中ニッケル含有率、メタル回収率を、ICP発光分光分析器(SHIMAZU S-8100型)により分析して算出した。
【0083】
ニッケルメタル化率、メタル中のニッケル含有率、ニッケルメタル回収率は、以下の式(1)、(2)、(3)により算出した。
ニッケルメタル化率=メタル中のニッケルの質量/(還元物中の全てのニッケルの質量)×100(%) ・・・(1)式
メタル中ニッケル含有率=メタル中のニッケルの質量/(メタル中のニッケルと鉄の合計質量)×100(%) ・・・(2)式
ニッケルメタル回収率=回収されたニッケルの量/(投入した鉱石の量×鉱石中のニッケル含有割合)×100 ・・・(3)式
【0084】
下記表4に、加熱還元処理時の還元温度後の還元時間、それぞれの試料における、ニッケルメタル化率、メタル中のニッケル含有率、ニッケルメタル回収率を示す。
【0085】
【表4】
【0086】
表4の結果からわかるように、還元処理する際に第2の還元剤を混合物に添加して還元処理を施した実施例1~8では、比較例1~4と比較してニッケルメタル化率、メタル中ニッケル含有率及びニッケル回収率がいずれも高くなった。
図1